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特表2022-514519炭素系材料製の試料レセプタクルを含む生体試料用の試料保持装置
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  • 特表-炭素系材料製の試料レセプタクルを含む生体試料用の試料保持装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-14
(54)【発明の名称】炭素系材料製の試料レセプタクルを含む生体試料用の試料保持装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20220204BHJP
   B01L 3/14 20060101ALI20220204BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12M1/00 C
B01L3/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021533744
(86)(22)【出願日】2019-12-10
(85)【翻訳文提出日】2021-07-21
(86)【国際出願番号】 EP2019084529
(87)【国際公開番号】W WO2020120517
(87)【国際公開日】2020-06-18
(31)【優先権主張番号】102018132120.1
(32)【優先日】2018-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】594102418
【氏名又は名称】フラウンホーファー-ゲゼルシャフト ツル フェルデルング デル アンゲヴァンテン フォルシュング エー ファウ
【氏名又は名称原語表記】Fraunhofer-Gesellschaft zur Foerderung der angewandten Forschung e.V.
【住所又は居所原語表記】Hansastrasse 27c, D-80686 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100105360
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 光治
(74)【代理人】
【識別番号】100145023
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 学
(72)【発明者】
【氏名】ツィマーマン,ハイコ
(72)【発明者】
【氏名】ノイバウアー,ユリア
(72)【発明者】
【氏名】マイザー,イーナ
(72)【発明者】
【氏名】ゲップ,ミヒャエル
【テーマコード(参考)】
4B029
4G057
【Fターム(参考)】
4B029AA27
4B029BB01
4B029BB11
4B029CC02
4B029GA03
4B029GB04
4G057AB01
4G057AB02
4G057AB05
4G057AB34
4G057AB39
(57)【要約】
生体試料(1)を保持するよう適合化された試料保持装置(100,101)は、試料レセプタクル(12)の境界を定めるように配置された少なくとも1つの壁部(11)を有する基体(10)を含んでいる。少なくとも1つの壁部(11)は、少なくとも、試料レセプタクル(12)に面する表面上に、試料レセプタクル(12)内の液体に対して不浸透性である平面状の炭素系材料を含んでいる。炭素系材料は、炭素系材料が不透明でありかつ導電性であるような高い炭素含有量を有する。試料保持装置は、例えば、皿、特にペトリ皿(101)、平坦な支持体、マルチウェル・プレート、特にビーカ・ガラスの形態の、試料ビーカ、特に試験管または低温保存(凍結保存)用のチューブの形態の、試料チューブ、および/または、中空ファイバを含んでいる。試料保持装置の使用方法についても記載される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料(1)を保持するよう適合化された試料保持装置(100、101、102、103、104)であって、
- 試料レセプタクル(12)の境界を定めるように配置された少なくとも1つの壁部(11)を有する基体(10)を含み、
- 前記少なくとも1つの壁部(11)は、少なくとも前記試料レセプタクル(12)に面する表面上に、前記試料レセプタクル(12)内の液体に対して不浸透性である平面状の炭素系材料を含み、
特徴として、
- 前記炭素系材料は、前記炭素系材料が不透明でありかつ導電性であるような高い炭素含有量を有するものである、
試料保持装置。
【請求項2】
前記少なくとも1つの壁部(11)は前記炭素系材料からなるものである、請求項1に記載の試料保持装置。
【請求項3】
- 前記炭素系材料製の前記少なくとも1つの壁部(11)は150μm乃至1mmの範囲の厚さを有するものである、請求項2に記載の試料保持装置。
【請求項4】
前記基体(10)全体が前記炭素系材料からなるものである、請求項2または3に記載の試料保持装置。
【請求項5】
前記少なくとも1つの壁部(11)は、前記試料レセプタクル(12)に面する前記表面上に、前記炭素系材料からなる被覆(13)を有するものである、請求項1に記載の試料保持装置。
【請求項6】
前記炭素系材料製の前記被覆(13)は2nm乃至500μnの範囲の厚さを有するものである、請求項5に記載の試料保持装置。
【請求項7】
前記炭素系材料は、前記試料レセプタクル(12)に面する前記表面上に、生体試料と前記炭素系材料との力学的相互作用を促進する表面構造(20)を有するものである、前記請求項1乃至6のいずれかに記載の試料保持装置。
【請求項8】
前記表面構造(20)は、前記炭素系材料の所定の粗さおよび/または前記炭素系材料の複数の突起部(21)を含むものである、請求項7に記載の試料保持装置。
【請求項9】
- 前記表面構造(20)は前記炭素系材料の前記複数の突起部(21)を含み、
- 前記複数の突起部(21)は、生体細胞(2)の接触面の領域に幾つかの突起部(21)が形成されるように、寸法が決められて配置されているものである、
請求項8に記載の試料保持装置。
【請求項10】
前記炭素系材料は、純粋な炭素、炭素繊維強化プラスチック、および/または炭化ケイ素からなるものである、請求項1乃至9のいずれかに記載の試料保持装置。
【請求項11】
前記少なくとも1つの壁部(11)を電圧源および/または測定装置(40)に接続するよう配置された少なくとも1つの接触部(30)をさらに含む、請求項1乃至10のいずれかに記載の試料保持装置。
【請求項12】
- 前記基体(10)は、前記試料レセプタクル(12)の容積空間を囲む幾つかの壁部(11)を含むものであり、
- 前記幾つかの壁部(11)の前記炭素系材料は一体的に形成されたものである、
請求項1乃至11のいずれかに記載の試料保持装置。
【請求項13】
- 皿、特にペトリ皿(101)、
- 平坦な支持体、
- マルチウェル・プレート(103)、
- 試料ビーカ、特にビーカ・ガラスの形態の試料ビーカ、
- 試料チューブ(102)、特に試験管または低温保存(凍結保存)用のチューブの形態の試料チューブ、および
- 中空ファイバ(104)、特に生体細胞の付着保持用の中空ファイバ
の中の少なくとも1つの要素を含む、請求項1乃至12のいずれかに記載の試料保持装置。
【請求項14】
- 細胞試料または組織試料の処理、特に細胞培養物の培養および/または分化、
- 光学的測定、特に蛍光測定、
- 電気生理学的測定、特に電位または電流の導出、
- 生体試料の輸送および/または保存、特に凍結状態の生体試料の輸送および/または保存、
- 生体試料の低温処理、および
- ハイスループット検査、特に診断または再生医療の業務のためのハイスループット検査
を含む方法の中の少なくとも1つの方法を実施するための、請求項1乃至13のいずれかに記載の試料保持装置(100、101、102、103、104)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体(生物)試料用の試料保持装置(試料ホルダ装置)に関し、例えば、生体細胞を検査し(Untersuchung:試験し)、培養しおよび/または分化させるための、特に培養培地における細胞培養用の試料保持装置に関する。また、本発明は試料保持装置を製造しおよび使用するための方法に関する。
本発明の適用例は、特に、バイオテクノロジ、生体臨床医学(生物医学)および医療工学、特に診断および/または再生医療、におけるものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチック製またはガラス製の容器を生体細胞または組織試料の処理に使用することが、一般的に知られている。これらの容器には、例えば、皿(ディッシュ)、ビーカ・グラス、試験管またはマルチウェル・ディッシュ(皿)が含まれる。生体細胞または組織試料の処理における典型的な作業工程(ステップ)には、ペトリ皿またはマルチウェル・ディッシュにおける細胞培養物の培養が含まれ、この場合、培地または媒体の交換が頻繁に行われ、または、様々な方法(例えば、蛍光顕微鏡による細胞特異的なマーカ(zell-spezifischen Markern)の発現、電気生理学的誘導)によって規則的間隔でチェック(検査)される分化工程の実行が含まれ、または、生体(生物)物質の輸送および/または保存が含まれ、ここで、関連する温度範囲は37℃、室温、+4℃の冷却温度、または-80℃乃至-196℃での極低温(凍結保存温度)である。
【0003】
実務上知られている容器(Gefaesse)は、通常、手動で、半自動的にまたは自動的に実行される作業工程に適合化された単純で標準化された構造形態(Formate)を有する。実験室での作業の過程で生体試料を培養しおよび/または分化させるときに、例えば直接観察でまたは顕微鏡で、容器内のその試料の視覚的確認(チェック、検査)がしばしば行われ、従って、典型的には、透明な容器材料が使用される。さらに、容器は、通常、容器の汚染の結果として試料を傷つけないようにするために、使い捨て品(アイテム)として使用される。従って、これまで使用されてきた容器は、しばしば、例えばポリスチレンまたはポリプロピレンのような低コストのプラスチックで形成され、その透明性の結果として目視検査に役立つ(適している)。
【0004】
例えば診断または再生医療において、複数の生体試料の処理が並列化され小型化されたハイスループット(高生産性)の検査または調査に対する需要がますます高まっている。並列化可能化および小型化のために、容器の形状とサイズ(寸法)が並列化および小型化に適合化された。例えば、複数のマルチウェル・プレート(複数の単一容器を備えた複数の支持体(基板)プレート、例えば複数のマイクロタイター・プレート(titerplatten)またはナノタイター・プレート)は、例えば、1プレート当り6ウェル乃至1プレート当り最大1536ウェルの標準化された構造形態で、自動化されたハイスループット方法に使用される。
【0005】
マルチウェル・プレートは、例えばインビトロ(in vitro)診断(IVD)の研究における毒性試験(アッセイ)用の処理のような、比較的単純な処理(プロセス)に対して高レベルの性能(パフォーマンス)を有する。しかし、実際には、より複雑な処理の場合に、例えば細胞および組織培養の場合に、特にハイスループットの適用例の場合に、制限が生じる。数が増加する市販の試験は、試料への可視的アクセス(視認)を必要としないが、例えば蛍光測定または電気生理学的検査(試験)のような特定の測定を必要とするものであって、ハイスループットのために自動化可能なはずであるものである。その一例は、培地中のATP含有量を検出する商品名“CelltiterGlo”(セルタイターグロー)を有する発光に基づく試験(アッセイ)である。蛍光測定の場合、周囲からの破壊的な外光を遮断または遮蔽するための対策に関心が持たれている。さらに、これまで、例えば心筋細胞またはニューロンに使用されるような電気生理学的検査(試験)(細胞電流および/または電位の導出(引き出し))のために、電気生理学的検査(試験)に適合化された特別な装置内に細胞を移動させる必要があった。これには、試料に損傷を与え得る酵素によるまたは力学的(機械的)な解離工程が必要である。最後に、例えばクライオチューブのような特殊な容器への移動が、凍結保存によって機能的な細胞および組織を保存するためにも行われ、その特殊な容器は、その熱的および機械的な特性の結果として、大きい温度変化(通常は+4℃乃至-196℃)に耐え、長期間にわたって安定的であり、例えば生理食塩水(Kochsalzloesung)のような凍結保存に使用される物質に関して化学的耐性があるものである。
【0006】
試料レセプタクルを特別な業務(Aufgaben:課題、目的、仕事、タスク)に適合化させることが知られている。例えば、欧州特許出願公開第1486767号には、個々のウェルに炭素格子(Kohlenstoff-Gitter)を備えたマルチウェル・プレートが記載されている。各ウェルに追加的なモジュールとして挿入された炭素格子は、マルチウェル・プレート内の各試料の赤外線分光測定用に提供される。欧州特許出願公開第542422号には、加熱装置を備え、例えばポリスチレンのようなプラスチック製のマルチウェル・プレートが記載されている。加熱装置の作用を支援(サポート)するために、プラスチックの熱伝導率は、酸化アルミニウム、金属または炭素繊維の添加によって増大させることができる。同時に、欧州特許出願公開第542422号では、光学測定を実行するために、各ウェルにおけるプラスチックが光学的に透明でありかつ表面が滑らかであることが要求される。しかし、特定の測定業務へのそれの適合化の結果として、そのような特殊な容器の適用分野は限られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1486767号
【特許文献2】欧州特許出願公開第542422号
【発明の開示】
【0008】
本発明の目的は、生体試料を保持するための改良された試料保持装置を実現することであり、それによって通常の技術の欠点が解消(回避)されるであろう。試料保持装置は、例えば、診断、治療、生物医学的プロセス(処置)および/または検査(試験)において、特に幅広い分野の適用例を有する必要があり、単純な構造を有し、使い捨て品として適し、生体細胞を処理および/または調査(検査)するための増加する様々な方法の使用を可能にし、複雑な試験(検定、アッセイ)に適し、および/または、例えば試料を処理および/または調査した後で、試料レセプタクルを変えずに凍結(低温)保存することを可能にする必要がある。また、本発明の目的はそのような試料保持装置を使用するための改善された方法を実現することであり、それによって通常の技術の欠点が解消(回避)される。その方法によって、特に、試料レセプタクルを変えることなく、試料の様々なタイプ(種類)の処理および/または調査を実行することが可能になるであろう。
【0009】
発明の概要
これらの目的は、それぞれ、独立請求項の特徴を有する試料保持装置およびそれを使用するための方法によって達成される。本発明の有利な実施形態および適用例は従属請求項から明らかになる。
【0010】
本発明の第1の一般的な態様によれば、上述の目的は、少なくとも1つの生体試料(特に、細胞、細胞成分、細胞集合体(凝集体)、微生物および/または組織)を保持または収容するための試料保持装置(または、培養装置、容器配置構成、培養容器、培養支持体(基板))によって達成される。試料保持装置は、少なくとも1つの試料レセプタクルを有する基体を含んでいる。その少なくとも1つの試料レセプタクルは、おそらく液体媒体と共に、生体試料を収容するよう構成される。その少なくとも1つの試料レセプタクルは、少なくとも1つの壁部によって少なくとも1つの空間方向に境界(範囲)が定められる(begrenzt:区切られる)。その少なくとも1つの壁部は、試料レセプタクルに面する表面上に、液体不浸透性(不透過性)の平面状の炭素系材料を有する。その基体は、容器体(Gefaesskoerpe)であり、それ(容器体)の複数の壁部は好ましくは少なくとも1つの試料レセプタクルの断面寸法よりも小さい薄い厚さを有するものであり、および/または、少なくとも1つの試料レセプタクルが形成されたコンパクトな直方体状、特に小型の平面状または湾曲したプレートである。
【0011】
本発明によれば、炭素系材料は、炭素系材料が不透明でありかつ導電性であるような高い炭素含有量(含有率)を有する。炭素系材料には、それぞれの試料レセプタクルの境界を単純に定めること(区切ること)に加えて、実験室作業の場合の要件で元々開発されたかつガラスまたはプラスチックで形成された通常の透明な容器壁材料では実現できない他の機能を果たす、という利点がある。発明者たちは、試料レセプタクルの壁部中の炭素が、特に電気生理学的測定および/または電気生理学的刺激に対して充分に高い電気伝導性(導電率)を形成することを見出した。高価な金属電極の使用およびそれの容器への組込みが回避される。炭素は、さらに、光に対する、特に試料保持装置の周囲からの散乱光に対する、例えば可視スペクトル範囲の光に対する、シールド(遮蔽)を形成する。これには、感光性試料の保護(漂白作用として知られているものの回避)と、外光のない形態で、試料の、例えば蛍光またはリン光のような、非常に小さい発光(放出)でさえも測定するおよび背景ノイズ(雑音)を低減させる可能性を与える、という利点がある。その炭素は、化学的に不活性であって、試料と試料レセプタクルの壁部との間の望ましくない反応が回避されるようにされる、という利点がある。同時に、炭素系材料を使用することによって、低コストで試料保持装置を提供することができる。炭素系材料の他の利点が、滅菌および生体適合性の能力の結果として得られる。さらに、それは実務的に関心のある関連する細胞タイプの成長表面として機能し、また、それによって極低温ですぐに使用できる生体(生物)物質の変化のない保存が可能になる。炭素系材料は、滑らかな(段差のない)表面または構造化された表面を有するように製造することができる。炭素系材料には、さらに、例えば分化を開始させ(トリガし)および付着性(接着性)を増大させるような、生体試料にまたはその表面との相互作用に影響を与える機能性被覆(コーティング)を形成することができる。
【0012】
欧州特許出願公開第542422号とは対照的に、その試料レセプタクルのその少なくとも1つの壁部は不透明である。しかし、容器壁部を介した試料の直接的な視覚的確認(検査、チェック)または光学的マッピング(結像、撮像)の断念は、特に試料の半自動または自動処理の場合において、多くの適用例にとってなんら重大な欠点を表すものではない。半自動または自動処理の場合に、操作担当者による視覚的確認は一般的に行われず、必要に応じて、試料の検査を自動化された形態で、例えば反射光(入射光)顕微鏡によって、実行することもできる。
【0013】
炭素系材料の別の重要な利点は、それが高度の寸法安定性および熱安定性を有するという事実にある。炭素系材料は高い平面性を有するように製造することができる。機械(力学)的な力の結果としてのまたは温度変化の場合における試料保持装置の変形が回避できるという利点がある。数回の温度変化を伴う温度制御サイクルを経たときでも、温度制御装置との確実な密着(固定接触)が維持される。試料保持装置は、複数回使用するのに、または使い捨て品(1回だけ使われて捨てられる物品)としても、提供することができる。
【0014】
試料保持装置は、炭素系材料および場合により基体の他の成分(構成要素)を含む一体的な構成要素であることが、好ましい。試料保持装置は、例えば加熱プレートのような別個の能動的な温度制御装置を含まないことが、特に好ましい。
【0015】
本発明の第2の一般的態様によれば、上述の目的は、本発明の第1の一般的な態様による試料保持装置を使用する方法によって達成され、その方法は、生体試料の処理(特に、細胞の培養および/または分化)、その試料と光との相互作用の測定(特に、蛍光測定)、電気生理学的な測定(特に、電位および/または電流の導出)、生体試料の移動(輸送)および/または保存(保管)(特に冷凍状態での)、生体試料の低温処理(特に、-140℃未満の温度でのもの)、および/または、ハイスループット検査(特に、診断または再生医療の業務(課題)のためのもの)を含んでいる。
【0016】
本発明による、不透明で導電性の炭素系材料の使用の結果として、生体試料を処理するための通常の容器の制限が解消(解除)されるという利点がある。特に生体試料の低温(凍結)保存の場合に、炭素系材料によって、少ない試料容積を有する形状安定性のある試料レセプタクルを正確に製造することができかつガラス化(Vitrifikation:固化)期間中での熱伝達が非常に速いので、氷晶なしの凍結(ガラス化)が容易になる。試料レセプタクルは、炭素系材料で、薄い壁部の厚さで、特に0.2mm未満の厚さで、安定性を失うことなく製造することができて、試料レセプタクルの壁部によって小さい熱容量が導入され、迅速な熱伝達が確保されるようにされる。本発明による試料保持装置によって、特に、試料レセプタクルにおいて少なくとも20000℃/分の冷却速度が可能になる。
【0017】
本発明の有利な実施形態によれば、少なくとも1つの壁部は、炭素系材料からなるものとすることができる。炭素系材料は、その全体的な表面領域および厚さの範囲で壁部を形成する。この実施形態は、試料保持装置の、特に少なくとも1つの試料レセプタクルの、低コスト製造に関し、および温度変化の場合における安定性に関して、特定の利点を有する。炭素系材料で形成された少なくとも1つの壁部の厚さは、150μm乃至1mmの範囲で選択されることが、好ましい。この厚さの範囲には、低い熱容量および迅速な熱伝達に関して特に利点がある。代替的に、より大きい厚さ、例えば、最大で、2mm、5mmまたはそれより大きい厚さとなる範囲の厚さを選択することができる。試料保持装置の基体全体は、炭素系材料からなるものとすることができる、という利点がある。この場合、試料保持装置の製造コストに利点がある。基体は、特に、炭素系材料から一体品(均一材料で形成される一体的な構成要素)の形で製造することができる。
【0018】
本発明の別の変形によれば、少なくとも1つの壁部は多層構造を有することができ、試料レセプタクルに面する表面上に、炭素系材料で形成された被覆(コーティング)が設けられる。試料レセプタクルの内面は、炭素系材料で形成される。外側の層(Lage)は、例えばプラスチックまたはガラスで形成することができる。本発明のこの実施形態は、周囲光の遮蔽が主に望まれる適用例の場合に特定の利点を有する。炭素系の被覆は、さらに、複雑な内部形状を有する試料レセプタクルに有利であり得る。炭素系材料製のその被覆の厚さは、2nm乃至500μmの範囲で選択されることが、好ましい。炭素系材料の不透明性には、特にそれが純粋な炭素からなる場合に、nm(ナノメートル)範囲の薄い厚さの場合であっても達成することができる、という利点がある。
【0019】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、炭素系材料は、試料レセプタクルに面するその表面上に表面構造を有することができる。その表面構造は、その表面の表面領域に関連する複数の隆起部(凸部)および/または複数の凹部(窪み部)を含んでいる。その隆起部および/または凹部の形状および寸法(サイズ)は、生体試料と炭素系材料との力学的(機械的)相互作用が促進されるように選択される。その表面構造は、特に、生体細胞を付着(接着)結合させるための結合点を形成する複数の端縁部および複数の先端部を含んでいる。それは、さらに、生体試料、特に生体細胞が、表面構造の結果として表面との点接触を形成する場合に、その後の付着性結合を解放(解除)するのにも有利であり得る。
【0020】
その表面構造は、炭素系材料の所定の粗さ、および/または炭素系材料の複数の突起部を有する表面、を含んでいることが、特に好ましい。その粗さは、具体的な適用例、特に試料保持装置に保持される細胞のタイプ(種類)、に応じて選択することができる、という利点がある。炭素系材料の粗さは、100nmより小さい典型的な寸法を有するサブミクロンまたはナノ構造を形成することが、好ましい。細胞は、付着性結合(接着性結合)および/または細胞反応の結果として、粗さに対して様々な反応を示す。吸着(adsorbierten)タンパク質分子の数は、その粗さを調整することによって調整することができる。分化の工程は、粗い表面によっても引き起こされ得る。複数の突起部が、例えばカラム(円柱)またはピラミッドの形状で形成させることができ、250nm乃至500μmの範囲で好ましい厚さ寸法が選択される。炭素系材料の突起部は、生体細胞の接触面の領域に、好ましくは約20μmの長さ(大きさ)にわたって横方向に、幾つかの突起部が確保されるように寸法決定および配置されることが、特に好ましい。
【0021】
試料レセプタクルの少なくとも1つの内面、特に滑らかな非構造化(構造化されてない)表面またはその表面構造を有する表面は、さらに、機能性被覆(コーティング)を備えることができる。機能性被覆は、例えば生体細胞の付着性結合用の複数のアンカーポイント(Ankerpunkte:固定点)を形成する吸着タンパク質を含むことができる。
【0022】
炭素系材料中の炭素の体積比は、一般的に少なくとも5%、特に少なくとも25%である。炭素系材料は黒色であることが、好ましい。本発明の別の利点は、導電性がありおよび不透明な幾種かの炭素系材料が利用可能であるという事実にある。第1の変形例によれば、炭素系材料は、純粋な炭素、例えば熱分解炭素(カーボン)、を含むことができる。代替的に、炭素系材料は、炭素繊維で強化されたプラスチック(炭素繊維強化プラスチック、CFP)を含むことができる。ケイ素が添加された炭素、特に炭化ケイ素は、120W/(m・K)超の、特に250W/(m・K)超の、熱伝導率を有するものであり、さらに別の代替物として使用することができる。さらに一般的に、試料レセプタクルの内側に面する表面を、例えば少なくとも1つの層の純粋な炭素および少なくとも1つの層の炭素繊維強化プラスチックまたは相異なる炭素形態の複合材料(Zusammensetzung:混合物、組合せ、化合物)のような、幾つかの成分を含む炭素系材料で形成することができる。炭素系材料中の炭素は、アモルファス、結晶または多結晶の構造を有することができるが、ダイヤモンド材料(ダイヤモンド構造を有する炭素を含む材料)は除外される。
【0023】
炭素系材料の上述の例は、高い電子および熱の伝導率(特に、銅の電子および熱の伝導率に適合化されたもの)、高い酸化安定性(その材料は特に生体試料に対して化学的に不活性である)、生体適合性および組織適合性、良好な機械的特性(例えば、高強度(特に、破壊強度)および高い平面性)、高い耐温度変化性、低い膨張係数、および高い耐化学性を有する、という利点がある。
【0024】
本発明の別の態様によれば、試料保持装置は、次の複数の方法の中の1つの方法で製造することができる。その方法は、具体的に使用される材料に応じて選択される。第1の変形例によれば、試料保持装置は、例えば熱分解炭素または炭素繊維強化プラスチックのような、炭素を含有する固体材料から、例えば、フライス加工(引き伸ばし、圧延)、鋸引きおよび/または穿孔などの、機械的除去方法によって、製造することができる。別の変形によれば、炭素系材料は、最初に、例えばポリスチレンまたはポリプロピレンのような結合剤および炭素繊維で複合材料を形成することによって、製造することができる。次いで、試料レセプタクルの内側への複合材料製の被覆の付着によって、および/または射出成形によって、整形を実行することができる。
【0025】
本発明の別の有利な実施形態によれば、試料保持装置は、電圧源および/または測定装置に少なくとも1つの壁部を電気的に接続するよう構成された少なくとも1つの接触部(コンタクト・セクション、接点部)を設けることができる。その接触部は、例えば、基体上の、金属層のような導電性被覆、および/または、接続ワイヤのような接続線、を含んでいる。試料保持装置が複数の試料レセプタクルを含む場合に、これらは、好ましくは、互いに電気的に絶縁されて配置され、それぞれに接触部(セクション)が設けられる。従って、幾つかの電気生理学的検査(試験)(elektrophysiologische Untersuchungen)および/または刺激は、複数の試料レセプタクルにおいて互いに独立に並行して(並列に)可動化される、という利点がある。
【0026】
少なくとも1つの試料レセプタクルは、一般的に、場合によって(任意に)液体媒体を含む生体試料が少なくとも1つの壁部に局所的に配置されるように、形成される。その少なくとも1つの壁部での保持は、重力の作用下(例えば、支持体(基板)上に液滴を堆積させるとき)、分子間力(例えば、懸滴(懸下する滴)の保持における分子間力)の作用下、および/または、試料レセプタクルに封入された1つの試料に幾つかの壁部によって加えられる拘束(束縛)力の作用下で、達成される。
【0027】
別の好ましい実施形態によれば、本発明の基体が、試料レセプタクルの内部容積空間を囲む幾つかの壁部を含む場合に、それらの壁部の炭素系材料は一体的に形成される。試料レセプタクルの内部容積空間は、少なくとも1つの壁部によって片側(面)でまたは幾つか側部(側面)で境界を定める(区切る)ことができる。試料レセプタクルは、少なくとも1つの閉鎖可能なアクセス(出入り)開口部を含む全ての側部(側面)を閉じるかまたは1つ以上(または複数)の側部(側面)を開放状態にすることができる。その複数の壁部は、試料レセプタクルの境界を定め、例えば、重力の方向および水平方向の全ての側部(側面)で試料レセプタクルの境界を定め(試料レセプタクルの頂部が開放状態になっている)または全ての空間方向で試料レセプタクルの境界を定める(試料レセプタクルの全ての側部(側面)が閉じている)。
【0028】
利点として、1つ以上の試料レセプタクルを有する複数の形態の試料保持装置が利用可能である。試料保持装置は、例えば、任意にカバー付きの、皿、特にペトリ皿、基板、マルチウェル・プレート(特に、マイクロタイターまたはナノタイター・プレート)、試料ビーカ、特にビーカ・ガラスの形態の試料ビーカ、試料チューブ、特に試験管または所謂チューブまたは低温(極低温)保存(凍結保存)用のチューブの形態の試料チューブ、および/または中空ファイバ(Hohlfaser:中空繊維)を含んでいる。本発明に従って炭素系材料で作製された中空ファイバには、中空ファイバ・バイオリアクタにおける有利な適用例(複数の中空ファイバが内部に配置されかつその外面に細胞が付着し(接着し)かつ内部を通して培養媒体が流れる容器を備える培養装置)がある。また、上述の複数の形態の組合せ、および/または複数の試料保持装置を有する1つの構成配置、を実現することができる。利点として、寸法(サイズ)および形状に関して通常の容器と同等でありまたは類似しており従って既存のプロセスにすぐに統合することができる炭素系試料保持装置、特に細胞培養使い捨て品が実現される。特にマルチウェル・プレートの場合、それを、完全に(全体的に)または排他的に、複数のウェル(複数の単一容器、複数のボウル)の内側に炭素系材料で、作製することができる。
【0029】
本発明の他の利点および詳細を、次に概略的に示す図面を参照して以下で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、ペトリ皿の形態の、本発明による試料保持装置の実施形態の斜視図である。
図2図2Aおよび2Bは、クライオチューブの形態の、本発明による試料保持装置の実施形態の側面図である。
図3図3および4は、マルチウェル・プレートの形態の、本発明による試料保持装置の実施形態の斜視図である。
図4】.
図5図5は、本発明による試料保持装置の実施形態を使用する電気生理学的測定の図である。
図6図6は、本発明による試料保持装置の実施形態を使用する光学的測定の図である。
図7図7は、本発明の実施形態を示し、この場合、中空ファイバの形態の複数の試料保持装置がバイオリアクタ内に配置される。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の実施形態を、ペトリ皿、クライオ(冷凍、極低温)チューブ、およびマルチウェル・プレートの形態の、本発明による試料保持装置の各実施形態を例示的に参照して以下説明する。強調すべきこととして、本発明の実装は、これらの変形例に限定されることなく、むしろ、例えば、ビーカ、フラスコまたは中空管反応器(中空チューブ・リアクタ)、等のような他の容器形態、または平坦な支持体(Substrats:基板)の形態の試料保持装置、で対応して使用することができる。さらに、特に特別な適用例への調整のために、試料保持装置および/または個々の試料レセプタクルの寸法および/または形態の変形が可能である。生体試料の処理および/または検査(調査)の詳細は、通常の技術でそれ自体が既知であるので、ここでは説明しない。
【0032】
図1は、ペトリ皿101の形態の、本発明による試料保持装置100の実施形態を示している。ペトリ皿101の形状および寸法(サイズ)は、通常のペトリ皿で既知であるように選択することができる。それは、特に高さ1cmおよび直径3乃至12cmを有し得る。ペトリ皿101は、生体試料1用の試料レセプタクル12を形成する皿部分の形態の基体10を含んでいる。試料レセプタクル12は、例えばガラスまたはプラスチック製の、皿底部および横方向円周状の皿壁部を含む各壁部11によって境界が定められる(区切られる)。壁部11の内側には、炭素繊維強化プラスチックで形成された被覆13が形成される。例えば細胞または細胞組織の培養用の固形人工培地を皿底部に配置することができる。
【0033】
ペトリ皿101は、さらに、閉鎖カバー(覆い)部分14を備えることが好ましい。カバー部分14は、ペトリ皿101の内部を示すために透明なものとして示しているが、炭素繊維強化プラスチックで形成された内部被覆を備えたプラスチックまたはガラス製の皿部分と同様に形成されるように構成される。カバー部分14は、液体不浸透性の形態で基体10(皿部分)に結合できることが、特に好ましい。
【0034】
図2は、クライオチューブ102の形態の、本発明による試料保持装置100の実施形態の2つの変形例を示している。図2Aによれば、クライオチューブ102は、外部にプラスチックまたはガラスを含み、内部に、炭素系材料製の、例えば炭素繊維強化プラスチック製の、被覆13を含んでおり、一方、図2Bによれば、クライオチューブ102全体が炭素系材料で作製される。詳しくは、クライオチューブ102は、一側部(一端部)が閉じられた試料チューブ(管)であって下端(底部)が閉じた円筒形の壁部11を有する試料チューブの形態の基体10を含んでいる。その試料チューブの内部は試料レセプタクル12を形成する。液体不浸透性の形態で閉じるカバー部分14が、試料チューブの上端に取り付けられる。クライオチューブ102は、例えば、内径11mmおよび軸方向長さ4.1cmを有する。
【0035】
マルチウェル・プレート103の形態の、本発明による試料保持装置100の他の実施形態が、図3および4に概略的に示されている。マルチウェル・プレート103のベースプレート(台板)を形成する基体10に、複数の試料レセプタクル12(ウェル)の配列が設けられる。試料レセプタクル12の数および寸法は、通常のマイクロまたはナノタイター・プレートでそれ自体が既知であるように選択される。マルチウェル・プレート103は、さらにカバー部分14を有し、カバー部分14で、複数の試料レセプタクル12が覆われ、任意に液体不浸透性の形態で密封(封止)される。図3によれば、マルチウェル・プレート103全体は、炭素系材料で、例えば熱分解炭素または炭化ケイ素で、作製される。図4によれば、マルチウェル・プレート103の複数の試料レセプタクル12および試料レセプタクル12に面するカバー部分の側の面だけが、炭素系材料で、例えば炭素繊維強化プラスチックの層で、形成され、一方、残りのベースプレートおよび残りのカバー部分はプラスチックまたはガラスで作製される。閉じたカバー部分14を有するマルチウェル・プレート103を使用する場合でも、複数の試料レセプタクル12を互いに電気的に絶縁(分離)するために、カバー部分14には、試料レセプタクル12の開口部に限定されかつ炭素系材料で形成された構造化された被覆を形成することができる。
【0036】
図4は、さらに、保持体(Haltekoerpers)10の表面上に複数の金属導体ストリップを含む複数の接触(コンタクト)部30を示している。その導体ストリップは、それぞれ、複数の試料レセプタクル12の中の1つに互いに別々に電気的に接続される。図4は、簡明化のために第1列(行)の試料レセプタクル12についてのみ示しているが、各試料レセプタクル12は、電圧源および/または測定装置40(図5を参照)に接続するための関連付けられた接触部30を備えることができることが、好ましい。従って、個々の試料レセプタクル12における特定の電気的測定および/または刺激が、有利に可動化される。代替的に、マルチウェル・プレート103の複数の試料レセプタクル12は、幾つかまたは単一の接触部30を介して、複数の組(グループ)でまたは全て一緒にその電圧源および/または測定装置に結合することができる。
【0037】
試料保持装置100の様々な変形例の場合に個々にまたは組合せで実現できる本発明の好ましい複数の実施形態の他の特徴が、図5による試料保持装置100の概略断面図に示されている。例えば培養培地および/または分化因子を含む培地のような、液体媒体(培地)3中に少なくとも1つの生体細胞2を含む生体試料が、試料レセプタクル12に配置され、その下壁部(底部)11のみが示されている。
【0038】
壁部11の炭素系材料は、試料レセプタクル12に面するその内面に、炭素系材料製の柱(円柱)状の突起部21を有する表面構造20を有する。突起部21は、例えば、高さ2μm、断面寸法、例えば直径、5μm、および相互の中心-中心の間隔20μmを有する。図5において、全ての突起部21は、突起部21の自由端部が、例えば付着細胞2のような生体試料の付着(的)保持のために平面状の支持(キャリア)表面にまたがるように、同じ高さを有するように、寸法が決められる。代替的に、複数の突起部21は異なる高さを有してもよく、その結果、表面への細胞の付着性を増大させることができる。生体細胞2は、例えば40μmのような典型的な範囲の接触面積にわたってその表面に沿って横方向に複数の突起部21に接触し、その結果として幾つかの突起部21によって支持される。
【0039】
突起部21の自由端部またはそれらの先端部または端縁部は、幾何学的な表面特徴(結合点)を形成し、その上で生体細胞の付着結合が促進される。その付着性は、例えばフィブロネクチン、ラミニンまたは合成RGDペプチド配列で形成される付着性を増大させるように機能性被覆を突起部21に設けまたは形成することによって、さらに増大させることができる。
【0040】
図5は、さらに、複数の接続線41を介して、一方が壁部11の炭素系材料に、他方が試料レセプタクル12の内側に、例えば生体細胞2または液体媒体3に直接、接続される電気測定用の測定装置40を概略的に示している。炭素系材料との接触は、接触部を介して実現することができる(図示せず。図4を参照)。測定装置40は、例えば、細胞2から膜電位または膜電位電流を導出する(引き出す)ための電圧測定装置、を含んでいる。図5とは対照的に、1つ以上(または複数)の測定装置および1つ以上(または複数)の接続線からなる他の配置構成を設けることができる。
【0041】
図6は、本発明による試料保持装置100の別の実施形態による、試料レセプタクル12内の細胞培養物4の形態の生体試料上での光学的測定用の測定装置40を概略的に示している。測定装置40は、1つ以上(または複数)の励起光源42、例えばレーザ・ダイオード、および、1つ以上(または複数)のセンサ・デバイス43、例えばフォトダイオード、スペクトル分解検出器および/またはセンサ・カメラ、を含んでいる。励起光源42およびセンサ・デバイス43は、光ファイバを介して試料レセプタクル12の内部に光学的に結合される。壁部11およびカバー部14が不透明な炭素系材料で形成された結果として、破壊(妨害)的な外部光が試料レセプタクル12の内部で排除される。励起光源42およびセンサ・デバイス43は、さらに、励起光源42を制御しかつセンサ信号を記録および評価するよう構成された制御装置(図示せず)に接続される。例えば、試料レセプタクル内の蛍光測定は、光学測定用の測定装置40を用いて実行することができる。
【0042】
図7における概略的な部分図によれば、本発明の別の実施形態は、バイオリアクタ200内に配置された複数の中空ファイバ104を含んでいる。中空ファイバ104は、少なくともそれらの表面上に、例えば炭素繊維で強化されおよび/または炭素で被覆されたプラスチックで作製され、それらの中空ファイバは、例えば0.1mm乃至5mmの範囲の内径を有する。バイオリアクタ200は、それ自体が既知の形態で、例えば中空の円筒(円柱)の形態の、容器壁部の全ての側面(ここでは開放状態で示されている)が閉じられた容器を含んでいる。容器壁部には、流体接続およびセンサ接続が設けられ、任意に、複数の窓および/または他の複数のアクセス開口部が設けられる。中空ファイバ104は、バイオリアクタ200の軸方向に伸びる。例えば、10000本の中空ファイバ104が、バイオリアクタ内に配置されて、中空ファイバ104の周りを洗浄する(フラッシュする)培養媒体(Kultivierungsmedium)で満たされる。その培養媒体がバイオリアクタ200の中を通って流れるようにすることが、好ましい。
【0043】
本発明による試料保持装置の適用例が生体試料のガラス化(固化)期間中に試験された。例えば、キイロショウジョウバエ(Drosophila Melanogaster)の胚(DM胚)、ヒト幹細胞(胚、成体、誘導(人工))、分化細胞、特に電気生理学的に検査(試験)できるもの(心筋細胞、神経細胞)、タンパク質、精子細胞および組織(例えば、生検試料または生検標本)の、ガラス化により、特に、SiC(炭化ケイ素)支持体(基板)は、試料保持装置に結合された冷却装置との迅速な熱交換に起因して、有利であることが示された。
【0044】
電気生理学的測定の場合における、本発明による試料保持装置の他の適用例でも、同様に成功した。電気生理学的測定の前に、特定のチャネル(経路)または接触の形成によって特徴付けられる必要な成熟度を細胞が有するようになるまで、数週間乃至数ヶ月続く長期の培養および分化の手順(プロトコル)がしばしば行われる。試料保持装置は、現在の従来技術の場合に可能なものよりも広い表面積にわたって電気生理学的信号を導出する(引き出す)ための様々な可能性(選択肢)を提供する。例えば、パッチクランプ法による導出(引き出し)の場合、電気生理学的信号は、典型的には1つの細胞のみで測定される。本発明による技術によって、幾つかの細胞での並列測定が可能になる。さらに、試料保持装置内で付着的に増殖する細胞は、電気信号を介して操作することができ、その結果、分化工程(ステップ)が影響を受け得る。試料保持装置の不透明性の結果として、カルシウム流出の蛍光に基づく測定(値)を、背景ノイズなしで記録することができる。特にパッチクランプ法の場合、細胞が、最初に培養され、次いで同じ培養容器において、例えば直径35mmのペトリ皿において、測定される。特に、熱分解炭素製の複数の試料レセプタクルの各壁部は、電気生理学的測定に有利であることが示された。
【0045】
上述の説明、図面、および請求の範囲に開示された本発明の特徴は、個々におよび組合せでまたは部分的組合せの両方で、その様々な構成において本発明を実施するために重要であり得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】