(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-14
(54)【発明の名称】転移の予防又は治療において使用するためのNa+/K+ATPアーゼ阻害剤
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20220204BHJP
A61K 31/585 20060101ALI20220204BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20220204BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20220204BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20220204BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20220204BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220204BHJP
C12N 9/14 20060101ALI20220204BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20220204BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K31/585
A61K31/704
A61K31/7088
A61K31/7105
A61P35/04
A61K48/00
C12N9/14 ZNA
C12N15/113 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021535057
(86)(22)【出願日】2019-12-20
(85)【翻訳文提出日】2021-08-03
(86)【国際出願番号】 EP2019086633
(87)【国際公開番号】W WO2020127943
(87)【国際公開日】2020-06-25
(32)【優先日】2018-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515160921
【氏名又は名称】ウニヴェルズィテート バーゼル
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【氏名又は名称】森本 敏明
(72)【発明者】
【氏名】アセト,二コラ
(72)【発明者】
【氏名】グカウンテラ,ソフィア
【テーマコード(参考)】
4B050
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4B050DD11
4B050LL01
4C084AA13
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZB26
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA13
4C086EA16
4C086EA19
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB26
(57)【要約】
本発明は、血流中のCTCクラスターの存在によって定義されるがん患者における転移の予防又は治療に使用するためのNa+/K+ATPアーゼ阻害剤に関する。特定の実施形態では、Na+/K+ATPアーゼは強心配糖体であり、ジギトキシン、ウアバイン、コンバラトキシン、プロシラリジン、ラナトシドC、ギトホルメート、ペルボシド、ストロファンチジン、メチルジゴキシン、デスラノシド、ブファリン、ジゴキシン及びジゴキシゲニンから選択される。本発明はさらに、CTCクラスターの形成及び維持に関する遺伝子の発現を阻害する核酸剤の使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんの転移の予防又は治療に使用するための、特に血流中のCTCクラスターの存在を特徴とするがんに使用するためのNa
+/K
+ATPアーゼ阻害剤。
【請求項2】
前記阻害剤は、強心配糖体である、請求項1に記載の転移の予防又は治療に使用するためのNa
+/K
+ATPアーゼ阻害剤。
【請求項3】
強心配糖体は、カルデノリド及びブファジエノリドから選択される、請求項2に記載の転移の予防又は治療に使用するためのNa
+/K
+ATPアーゼ阻害剤。
【請求項4】
強心配糖体は、ジギトキシン、ウアバイン、コンバラトキシン、プロシラリジン、ラナトシドC、ギトホルメート、ペルボシド、ストロファンチジン、メチルジゴキシン、デスラノシド、ブファリン、ジゴキシン及びジゴキシゲニンから選択される、請求項2に記載の転移の予防又は治療に使用するためのNa
+/K
+ATPアーゼ阻害剤。
【請求項5】
強心配糖体は、ジゴキシン、ジギトキシン及びウアバインから選択され、特に強心配糖体は、ジゴキシンである、請求項2~4のいずれか一項に記載の転移の予防又は治療に使用するためのNa
+/K
+ATPアーゼ阻害剤。
【請求項6】
強心配糖体は、ジゴキシンであり、ジゴキシンの1日用量は、0.125mg~0.25mgである、請求項5に記載の転移の予防又は治療に使用するためのNa
+/K
+ATPアーゼ阻害剤。
【請求項7】
強心配糖体は、ジゴキシンであり、ジゴキシン血清レベルは、0.70ng/ml~1.0ng/mlの間に調整される、請求項5に記載の転移の予防又は治療に使用するためのNa
+/K
+ATPアーゼ阻害剤。
【請求項8】
Na
+/K
+ATPアーゼ阻害剤は、CTCクラスターの破壊に有効である、請求項1~7のいずれか一項に記載の転移の予防又は治療に使用するためのNa
+/K
+ATPアーゼ阻害剤。
【請求項9】
がんに関連する静脈血栓塞栓症の予防及び治療に使用するための、請求項1~8のいずれか一項に記載のNa
+/K
+ATPアーゼ阻害剤。
【請求項10】
前記がんは、乳がん又は前立腺がんである、請求項1~9のいずれか一項に記載の、がんの転移の予防又は治療、又はがんに関連する静脈血栓塞栓症の予防又は治療に使用するためのNa
+/K
+ATPアーゼ阻害剤。
【請求項11】
がん患者における転移性がんの治療又は予防に使用するため、又は静脈血栓塞栓症の予防及び治療に使用するための、
- CLDN3
- CLDN4、及び
- Na
+/K
+ATPアーゼ、又はその構成サブユニットのアイソフォームのいずれか
から選択されるタンパク質をコードする標的核酸配列の発現をダウンレギュレート又は阻害することができる阻害剤の核酸配列を含むか、又はそれからなる核酸分子。
【請求項12】
前記阻害剤の核酸配列は、
- 前記標的核酸配列に含まれるエキソン、
- 前記標的核酸配列に含まれるイントロン、
- 前記標的核酸配列の発現を調節するプロモーター領域、及び/又は
- 前記標的核酸配列の発現を制御する補助配列、
の配列又は部分配列と特異的にハイブリダイズすることができる、請求項11に記載の転移性がんの治療又は予防に使用するための核酸分子。
【請求項13】
前記阻害剤の核酸配列は、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA、sgRNA又はmiRNAである、請求項11又は12に記載の転移性がんの治療又は予防に使用するための核酸分子。
【請求項14】
前記阻害剤の核酸配列は、ヌクレオシド類似体を含むか、又はそれからなる、請求項11~13のいずれか一項に記載の転移性がんの治療又は予防に使用するための核酸分子。
【請求項15】
前記がんは、乳がん又は前立腺がんである、請求項11~14のいずれか一項に記載の、がん患者における転移性がんの治療又は予防に使用するための、又は静脈血栓塞栓症の予防及び治療に使用するための核酸分子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転移の予防又は治療において使用するためのNa+/K+ATPアーゼ阻害剤に関するものである。
【0002】
本出願は、2018年12月20日に出願された欧州特許出願第18214978.1号の優先権の利益を主張するものであり、その内容は全体として本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
通常、骨、肺、肝臓、及び脳へのがんの転移拡散は、がん関連の死亡の大部分を占めている。上皮がんの転移は、一連の連続した工程:血流への血管内侵入をもたらす原発腫瘍内の個々の細胞の上皮間葉移行(EMT)、血流内のそのような循環腫瘍細胞(CTC)の生存、そして最後に、遠隔部位でのそれらの血管外遊出を含み、間葉上皮移行(MET)が上皮転移性の沈着として増殖に至ると考えられている。
【0004】
循環腫瘍細胞は、がん性腫瘍から出発して、播種転移に向かう途中で血流に入る細胞である(Alix-Panabieresetら、Clin Chem 59、110-118、2013)。CTCの分析は、転移プロセスの基本的な特徴を解明し、標的となるがんの脆弱性を特定することを可能にすると期待されている。血流に入ると、CTCは生き残るために、原発腫瘍からの接着シグナルの喪失、並びに循環器系の適切な高せん断力を克服する必要がある。乳がんでは、クラスターを形成するCTCの能力は、単独のCTCと比較した場合、転移傾向の増加につながっている(Acetoら;Cell 158、1110-1122,2014)。
【0005】
CTCは、単独のCTC及びCTCクラスターとしてがん患者の血液中に見られ(Fidler European Journal of Cancer 9、223-227 1973;Liottaら、Cancer Research 36、889-894 1976)、後者のクラスターはより高い転移を播種する能力を特徴とする(Acetoら、Cell 158、1110-1122,2014)。しかし、何が転移の可能性を高めるのか、及び何がクラスター化CTCの脆弱性であるかは未知である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Alix-Panabieresetら、Clin Chem 59、110-118、2013
【非特許文献2】Acetoら;Cell 158、1110-1122,2014
【非特許文献3】Fidler European Journal of Cancer 9、223-227 1973
【非特許文献4】Liottaら、Cancer Research 36、889-894 1976
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の最新技術に基づいて、本発明の目的は、がん患者における転移を予防及び治療するための手段及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、本明細書の特許請求の範囲によって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1-1】
図1は、ヒトの単独CTC及びCTCクラスターのDNAメチル化解析を示す図である。A)EpCAM、HER2、及びEGFRの細胞表面発現について、生CTCを染色し(Alexa488又はFITC結合)、汚染白血球を識別するためにCD45に対する抗体で対比染色を行った。B)主成分分析であり、主に、単独CTC(三角)と比較してより不均一であるCTCクラスター(丸)を用いて、元の患者に基づくCTCを分離した。
【
図1-2】
図1は、ヒトの単独CTC及びCTCクラスターのDNAメチル化解析を示す図である。C)NESスコアであり、i-cisTargetを用いて同定されたCTCクラスターの低メチル化領域(n=1305)及び単独のCTCの低メチル化領域(n=2042)における転写因子結合部位(TFBS:transcription factor binding site)の濃縮(enrichment)を表す。D)CTCクラスターの低メチル化領域に位置する166個の遺伝子について、遺伝子オントロジー(GO)のエンリッチメント解析を行った(p=<0.05)。
【
図2】
図2は、マウス異種移植片側の単独CTC及びCTCクラスターのDNAメチル化解析結果を示す図である。A)NESスコアであり、i-cisTargetを用いて同定した、CTCクラスターの低メチル化領域(n=909)及び単独CTCの低メチル化領域(n=521)における転写因子結合部位(TFBS)の濃縮を表す。B)TFBSの非常に小さなサブセットしか、単独CTC(n=13)又はCTCクラスター(n=9)のいずれかで優先的に低メチル化されない。
【
図3-1】
図3は、乳がん患者から単離された単独CTC及びCTCクラスターのRNAシーケンス解析結果を示す図である。A)CTCクラスター関連モジュールで同定された転写産物のネットワーク解析、B)遺伝子制御ネットワーク解析であり、低メチル化結合部位も示すTFのSIN3A、OCT4、及びCBFBに転写因子が依存していることを示している。
【
図3-2】
図3は、乳がん患者から単離された単独CTC及びCTCクラスターのRNAシーケンス解析結果を示す図である。C)異種移植片由来のCTCクラスターのRNAシーケンス分析であり、SIN3A、NANOG、SOX2、RORA、FOXO1、BHLHE40などの有意に低メチル化された結合部位を持つ患者のCTCクラスターのTFに濃縮されることがわかった遺伝子に加えて示される。D)CTCクラスターの低メチル化領域に位置する遺伝子の遺伝子オントロジー(GO)エンリッチメント分析。
【
図3-3】
図3は、乳がん患者から単離された単独CTC及びCTCクラスターのRNAシーケンス解析結果を示す図である。E)単独CTCの転写因子標的遺伝子分析であり、c-MYC及びE2F4の活性がさらに確認された。
【
図4-1】
図4は、CTCクラスターを解離するFDA承認の化合物のスクリーニングを示す。A)左のパネル:Hoechst及びTMRMで染色された安定状態の「ろ過未処理」及び40μMでろ過処理されたBR16細胞の代表的な画像。画像はハイコンテントスクリーニング顕微鏡で撮影された。右のパネル:Colombus画像データ分析システムを使用して決定されたとおり、核の近接性(それぞれの左のパネル画像から導出)に基づく単独及びクラスター化されたCTCの輪郭の代表的な画像。棒グラフは、ろ過未処理のBR16細胞とろ過処理のBR16細胞の平均クラスターサイズ(μm
2単位の面積)と生存率(%)を示す(n=3;NS:有意ではない;
***p<0.001)。
【
図4-2】
図4は、CTCクラスターを解離するFDA承認の化合物のスクリーニングを示す。B)上部パネル:プロットは、4つの異なる濃度:5μM、1μM、0.5μM、0.1μMの39個のクラスター標的化合物のそれぞれで処理されたBR16細胞の平均クラスターサイズを示す。クラスター標的化合物には、Na
+/K
+ATPアーゼ(n=6)、HDAC(n=2)、ヌクレオチド生合成(n=5)、キナーゼ(n=4)、GPCR(n=2)、コレステロール生合成(n=1)及び核外輸送(n=1)、並びにチューブリン(n=9)及びDNA結合(n=8)化合物及び抗生物質(n=1)を含む。未処理又は未処理及び40μMろ過処理のBR16細胞は、比較のための対照として示されている。2回の独立した測定値の平均値が示される。下のパネル:示される濃度のクラスター標的化合物で治療されたBR16細胞の核数、平均TMRM強度、及び生存率%を示すヒートマップ。
【
図5】
図5は、BR16及びBRx50細胞株を50nM、20nM、10nM、5nM、及び1nMの濃度のジギトキシン、ウアバイン八水和物、及びリゴサチブで17日間インビトロ治療した場合の、未処理又は未処理及び更なる40μMのろ過処理の細胞と比較したクラスターサイズ、核数、TMRM強度及び生存率%の減少に対する効果を示す。
【
図6】
図6は、CTC由来細胞株のジギトキシン及びウアバインでの治療の効果を示す。(A)CLDN3及びCLDN4のダブルノックアウト(KO)を伴うBR16細胞上のCLDN3、CLDN4及びGAPDHのウエスタンブロット。KO=ノックアウト(B)対照BR16細胞と比較した、CLDN3/4ダブルKOのBR16細胞の平均クラスターサイズ(μm
2単位の面積)の減少を示すプロット。スチューデントのt検定による
*P<0.05;
**P<0.01。エラーバーは標準誤差(S.E.M.)を表す。
【
図7】
図7は、Na
+/K
+ATPアーゼ阻害剤による治療は自然転移の形成を抑制することを示す;(A)実験の概略図;(B)プロットは、20nMのジギトキシン又はウアバインで前治療したBR16細胞の尾静脈注射時の0日(左)及び1日(右)の総生物発光光束(Flux)を示す。n=5;スチューデントのt検定による
*P<0.05。NS=有意でない。エラーバーは標準誤差(S.E.M.)を表す。(C)20nMのジギトキシン又はウアバインで前治療したBR16細胞の尾静脈注射時の72日間にわたる転移増殖曲線。n=5;スチューデントのt検定による
*P<0.05;
**P<0.01;NS=有意でないエラーバーは標準誤差(S.E.M.)を表す。(D)実験の概略図。(E)プロットは、ウアバインで治療したBR16異種移植片の血液中に検出された自然発生的な単独CTC及びCTCクラスターの割合(%)を示す。n=11(対照)、n=5(ウアバイン)、スチューデントのt検定による
***P<0.001、エラーバーはS.E.M.を表す。(F)プロットは、ウアバインで治療したBR16異種移植片の転移指数を示す。n=11(対照)、n=5(ウアバイン);スチューデントのt検定による
**P<0.01、NS=有意でない。エラーバーは標準誤差(S.E.M.)を表す。(G)対照及びウアバイン治療のNSGマウスの脳及び肝臓で測定された生物発光シグナルの代表的な画像。
【
図8】
図8は、ジギトキシン及びウアバインによる治療は転移形成を減少させることを示す。(A)プロットは、ジギトキシン又はウアバインを用いてインビトロで治療された、BR16のCTC由来細胞を用いた注射における0日(左)又は1日(右)でのNSGマウスの肺で検出されたKi67陽性のがん細胞の割合を示す。がん細胞は、パンサイトケラチン染色によって同定される;各条件についてn=4匹のマウス。エラーバーはS.E.M.を表す。NS=有意でない。(B)プロットは、ジギトキシン又はウアバインを用いてインビトロで治療された、BR16のCTC由来細胞を注射した0日(左)又は1日(右)にNSGマウスの肺で検出されたカスパーゼ3陽性のがん細胞の割合を示す。がん細胞は、パンサイトケラチン染色によって同定される;各条件についてn=4匹のマウス。スチューデントのt検定による
*P<0.05。エラーバーはS.E.M.を表す。NS=有意でない。(C)プロットは、ビヒクル(対照)又はウアバインで治療されたBR16異種移植片の原発腫瘍から放出された総生物発光光束を示す。エラーバーはS.E.M.を表す。NS=有意でない。(D)プロットは、ビヒクル(対照)又はウアバインで治療されたBR16異種移植片の血液1mLあたりに検出された単独CTCとCTCクラスターとの両方を含むCTCの総数を示す。対照についてはn=5、ウアバインについてはn=5。エラーバーはS.E.M.を表す。NS=有意でない。(E)プロットは、ビヒクル(対照)又はウアバインで治療されたLM2異種移植片の血液で検出された自然生成した単独CTC及びCTCクラスターのパーセント(%)を示す。対照についてはn=11、ウアバインについてはn=8。
**P<0.01。(F)プロットは、ビヒクル(対照)又はウアバインで治療されたLM2異種移植片の原発腫瘍から放出された総生物発光光束を示す。エラーバーはS.E.M.を表す。NS=有意でない。(G)プロットは、ビヒクル(対照)又はウアバインで治療されたLM2異種移植片の血液1mLあたりに検出された単独CTCとCTCクラスターとの両方を含むCTCの総数を示す。対照についてはn=11、ウアバインについてはn=8。エラーバーはS.E.M.を表す。NS=有意でない。(H)プロットは、ビヒクル(対照)又はウアバインで治療されたLM2異種移植片の転移指数を示す。対照についてはn=19、ウアバインについてはn=8。スチューデントのt検定による
**P<0.01。エラーバーはS.E.M.を表す。
【
図9】
図9は、
図4bのデータと同じ方法で得られたデータである。
【
図10】プロットは、ビヒクル(対照)又はジゴキシン(2mg/kg)で治療したBR16異種移植片の経時的な腫瘍成長率を示す。有意な差は観察されない(いずれもP>0.05)。
【
図11】プロットは、ビヒクル(対照)又はジゴキシン(2mg/kg)で治療したBR16異種移植片における単独CTC、CTCクラスター及びCTC-好中球クラスター(単独CTC-WBC及びCTCクラスター-WBCとして表される)の数を示す。ジゴキシンの治療により、CTCクラスター及びCTC-好中球クラスターの数が明らかに減少する。
【
図12】プロットは、ビヒクル(対照)又はジゴキシン(2mg/kg)で治療されたBR16異種移植片の転移指数を示す。ジゴキシンを用いた治療により、転移が抑制される。
【
図13】プロットは、ビヒクル(対照)又はジゴキシン(2mg/kg)で治療したLM2異種移植片の経時的な腫瘍成長率を示す。有意な差は観察されない(いずれもP>0.05)。
【
図14】
図14は、ビヒクル(対照)又はジゴキシン(2mg/kg)で治療されたLM2異種移植片の全生存を示すカプラン・マイヤー曲線を示す。ジゴキシン治療は全生存期間を延長する。
【
図15】プロットは、ビヒクル(対照)又はジゴキシン(2mg/kg)で治療されたLM2異種移植片のCTC倍率変化を示す。ジゴキシンによる治療は、CTCクラスター及びCTC好中球クラスターの形成を減少させる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
発明の概要
本発明者らは、ゲノム全域規模での単独CTC及びCTCクラスターのDNAメチル化の状況をプロファイルし、これは個々のがん患者及びヒトCTC由来の異種移植片内で一致した。彼らは驚くべきことに、幹細胞性関連転写因子が、CTCクラスターでのみ活性なOCT4中心のネットワークを調整し、同時にCTCクラスターがSIN3A依存性の細胞周期進行プログラムの活性化を示すことを発見した。この発見は、クラスターを形成するCTCの能力が、それらのDNAメチル化パターンに直接影響を及ぼし、転移の播種に有利な幹細胞性及び細胞周期進行のシグナルの増強をもたらすことを示している。
【0011】
本発明者らは、それらの細胞生存能力を変えることなく、CTCクラスターを特異的に破壊する薬物を同定した。単独細胞へのクラスターの破壊により、重要な部位でDNAメチル化が回復し、クラスター関連幹細胞性及び細胞周期のプログラムが停止され、転移性播種能力の大幅な低下をもたらす。
【0012】
本発明の第1の態様は、がん患者の転移の予防又は治療において使用するためのNa+/K+ATPアーゼ阻害剤に関する。
【0013】
本発明の第2の態様は、以下から選択されるタンパク質:
- CLDN3
- CLDN4、及び
- Na+/K+ATPアーゼ、又はその構成サブユニットアイソフォームのいずれか
をコードする標的核酸配列の核酸媒介性の治療的ダウンレギュレーション又は阻害の発現に関する。
【0014】
本発明の第3の態様は、がん患者の静脈血栓塞栓症の予防及び治療における本発明に従うNa+/K+ATPアーゼ阻害剤又は核酸分子の使用に関する。
【0015】
用語と定義
本明細書を解釈する目的で、以下の定義が適用され、適切な場合は常に、単数形で使用される用語には複数形も含まれ、その逆も同様である。以下に記載されている定義が、参照により本明細書に組み込まれている文書と矛盾する場合は、記載されている定義が優先するものとする。
【0016】
本明細書で使用されるとおり、「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含有する(containing)」、「含む(including)」、及び他の類似の形態、及びそれらの文法的な同等なものは、意味において同等であり、かつオープンエンドであり、これらの単語のいずれか一つに続く項目は、そのような項目の完全な一覧であることを意味するものではなく、一覧の項目のみに限定されることを意味するものでないことを意図している。例えば、構成要素A、B、及びCを「含む(comprising)」ものは、構成要素A、B、及びCからなる(consist of)(すなわち、それらのみを含有する)ことができるか、又は構成要素A、B、及びCだけでなく、1つ又は複数の他の構成要素も含むことができる。したがって、「含む」及びその類似の形態、並びにそれらの文法的な同等なものは、「本質的にからなる(consist essentially of)」又は「からなる(consist of)」の実施形態の開示を含むことが意図され、理解される。
【0017】
値の範囲が提供される場合、文脈が明確に別段の指示をしない限り、下限の単位の10分の1までの、その範囲の上限と下限と、言及された範囲内の他のいずれの言及の又は中間の値との間の各中間値は、本開示に包含され、言及の範囲においていずれの特定の限界は除外される。言及の範囲が一方又は両方の限界を含む場合、含まれた限界のいずれか又は両方を除外する範囲もまた本開示に含まれる。
【0018】
「約(about)」に関して、本明細書における値又はパラメータは、その値又はパラメータ自体に向けられた変動を含む(及び記載する)。例えば、「約X」を示す記述には、「X」の記述を含む。
【0019】
添付の特許請求の範囲を含み本明細書で使用されるとおり、単数形「a」、「又は(or)」、及び「the」は、文脈が明確に別段の指示をしない限り、複数の指示対象を含む。
【0020】
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術的及び科学的用語は、当業者(例えば、細胞培養、分子遺伝学、核酸化学、ハイブリダイゼーション技術及び生化学)によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。標準的な技術は、分子的、遺伝的及び生化学的な方法(一般的に、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第4版(2012)Cold Spring Harbour Laboratory Press、Cold Spring Harbour、N.Y.及びAusubelら、Short Protocols in Molecular Biology(2002)第5版、John Wiley&Sons、Inc.)及び化学的方法に使用される。
【0021】
本明細書の文脈において「ハイブリッド又はハイブリダイズする配列を形成することができる」という用語は、哺乳動物細胞のサイトゾル内に存在する条件下で、それらの標的配列に選択的に結合することができる配列に関する。そのようなハイブリダイズする配列は、標的配列に対して連続的に逆相補的であることが可能であるか、又はギャップ、ミスマッチ(mismatch)又は更なる不一致(non-match)ヌクレオチドを含むことができる。ハイブリッドを形成できる配列の最小の長さは、その組成に依存し、C又はGのヌクレオチドは、A又はT/Uのヌクレオチドよりも結合エネルギーに大きく寄与し、かつ骨格化学に依存する。
【0022】
本明細書の文脈における「ヌクレオチド」という用語は、核酸又は核酸類似体のビルディングブロック、塩基対形成に基づいて、RNA又はDNAオリゴマーと選択的ハイブリッドを形成することができるオリゴマーに関する。この文脈における「ヌクレオチド」という用語は、古典的なリボヌクレオチド構成ブロックであるアデノシン、グアノシン、ウリジン(及びリボシルチミン)、シチジン、古典的なデオキシリボヌクレオチドであるデオキシアデノシン、デオキシグアノシン、チミジン、デオキシウリジン及びデオキシシチジンを含む。それはさらに、ホスホチオエート、2’O-メチルホスホチオエート、ペプチド核酸(PNA;ペプチド結合によって連結されたN-(2-アミノエチル)-グリシンユニット、グリシンのアルファ-炭素に結合した核酸塩基を有する)などの核酸の類似体、又はロック核酸(LNA;2’O,4’Cメチレン架橋RNAビルディングブロック)を含む。本明細書で「ハイブリダイズする配列」に言及する場合はいつでも、そのようなハイブリダイズする配列は、上記のヌクレオチドのいずれか、又はそれらの混合物から構成され得る。
【0023】
「遺伝子」という用語は、転写及び翻訳された後に特定のポリペプチド又はタンパク質をコードすることができる少なくとも1つのオープンリーディングフレーム(ORF)を含有するポリヌクレオチドを指す。ポリヌクレオチド配列を使用して、それらが結合する遺伝子のより大きな断片又は完全長のコーディング配列を同定することができる。より大きな断片の配列を単離する方法は、当業者に知られている。
【0024】
「遺伝子発現」又は代替的に「遺伝子産物」という用語は、遺伝子が転写及び翻訳される場合に生成される核酸(RNA)又はアミノ酸(例えば、ペプチド又はポリペプチド)のプロセス及びその産物を指す。
【0025】
本明細書で使用されるとおり、「発現」は、DNAがmRNAに転写されるプロセス、及び/又は転写されたmRNAがその後にペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質に翻訳されるプロセスを指す。ポリヌクレオチドがゲノムDNAから誘導される場合、発現には真核細胞でのmRNAのスプライシングを含むことができる。
【0026】
本明細書の文脈における「アンチセンスオリゴヌクレオチド」という用語は、RNAに本質的に相補的であり、かつそれにハイブリダイズすることができる配列を有するオリゴヌクレオチドに関する。このようなRNAに対するアンチセンス作用は、RNAの生物学的作用の調節、特定の阻害又は抑制をもたらす。RNAがmRNAの場合、得られる遺伝子産物の発現は阻害又は抑制される。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、DNA、RNA、ヌクレオチド類似体及び/又はそれらの混合物からなることができる。当業者は、所与の標的に対する理論的に最適なアンチセンス配列を計算するための様々な商業的及び非商業的な供給元を知っている。最適化は、核酸塩基の配列の観点及び骨格(リボ、デオキシリボ、類似体)の組成の観点の両方で行うことができる。一般に固相合成によって合成される実際の物理的オリゴヌクレオチドの配送のための多くの供給元が存在する。
【0027】
本明細書の文脈における「siRNA」(低分子/短鎖干渉RNA)という用語は、RNA干渉と呼ばれるプロセスにおけるsiRNAの配列に相補的、又はそれにハイブリダイズする核酸配列を含む遺伝子の発現を干渉する(言い換えれば、発現を阻害又は防止する)ことができるRNA分子に関する。siRNAという用語は、一本鎖siRNAと二本鎖siRNAの両方を包含することを意味する。siRNAは通常17~24個のヌクレオチドの長さを特徴としている。二本鎖siRNAは、より長い二本鎖RNA分子(dsRNA)から誘導することができる。一般的な理論によれば、より長いdsRNAはエンドリボヌクレアーゼ(ダイサーと呼ばれる)によって切断され、二本鎖siRNAを形成する。核タンパク質複合体(RISCと呼ばれる)では、二本鎖siRNAが巻き戻されて一本鎖siRNAが形成される。RNA干渉は、相補的な配列を持つmRNA分子へのsiRNA分子の結合を介して機能することが多く、mRNAの分解をもたらす。RNA干渉は、細胞核内のプレmRNA(未成熟でスプライシングされていないmRNA)のイントロン配列にsiRNA分子が結合し、プレmRNAの分解を引き起こすことによっても可能である。
【0028】
本明細書の文脈における「shRNA」(小ヘアピンRNA:small hairpin RNA)という用語は、RNA干渉(RNAi)を介して標的遺伝子の発現をサイレンシングするために使用できるタイトなヘアピンターンを備えた人工RNA分子に関する。
【0029】
本明細書の文脈における「sgRNA」(シングルガイドRNA)という用語は、CRISPR(クラスター化された規則的に間隔を空けた短いパリンドロームリピート:clustered regularly interspaced short palindromic repeats)メカニズムを介して遺伝子発現の配列特異的抑制が可能なRNA分子に関する。
【0030】
本明細書の文脈における「miRNA」(マイクロRNA)という用語は、RNAサイレンシング及び遺伝子発現の転写後調節において機能する小さなノンコーディングRNA分子(約22個のヌクレオチドを含む)に関する。
【0031】
本明細書の文脈における「阻害剤」という用語は、標的分子の生理学的機能、活性又は合成を有意に減少又は完全に無効にすることができる化合物に関する。抽象レベルでは、阻害には、標的物の生合成の干渉、酵素-基質結合の防止(標的は基質又は酵素である)、リガンド-受容体相互作用の防止などを包含する。
【0032】
本明細書で使用されるとおり、任意の疾患又は障害(例えば、がん)を「治療する」又はその「治療」という用語は、一実施形態では、疾患又は障害を改善すること(例えば、疾患又はその臨床症状の少なくとも1つを遅らせるか、阻止するか、又は減らすこと)を指す。別の実施形態では、「治療する」又は「治療」は、患者が認識できない可能性があるものを含む、少なくとも1つの物理的パラメータを軽減又は改善することを指す。さらに別の実施形態では、「治療する」又は「治療」は、物理的(例えば、認識可能な症状の安定化)、生理学的(例えば、物理的パラメータの安定化)のいずれか、又はその両方で、疾患又は障害を調節することを指す。疾患の治療及び/又は予防を評価するための方法は、特に以下に記載されていない限り、当技術分野で一般に知られている。
【0033】
本明細書の文脈において、「転移の予防又は治療」という用語は、治療前には存在しなかった新しい転移の形成を阻害するプロセスに関する。これには、循環中のがん細胞の生存率の低下、血流からのがん細胞の血管外遊出の阻害、及び血管外漏出部位での播種プロセスの阻害が含まれるが、これらに限定されない。
【0034】
発明の詳細な説明
本発明の第1の態様は、がん患者の転移の予防又は治療において使用するためのNa+/K+ATPアーゼ阻害剤に関する。いずれのがん患者、特に転移のリスクが高い病期にあるがん患者は、CTCの存在によって媒介されるか、又はそれを伴う転移性疾患を発症するリスクがあると見なされ得る。
【0035】
特定の実施形態では、Na+/K+ATPアーゼ阻害剤は、血流中のCTCクラスターの存在を特徴とするがんの治療のために提供される。そのような実施形態では、CTCの存在は、本発明に従う治療の一基準となる。
【0036】
Na+/K+ATPアーゼは、細胞内のイオン及び浸透圧のバランスを維持する重要なエネルギー消費ポンプとして機能する、全ての高等真核生物に見られる膜貫通型タンパク質複合体である。これは、ナトリウムを細胞の外へポンプし、カリウムを細胞内にポンプする酵素(EC 3.6.3.9)である。両方のイオンは、電気化学的勾配に逆らって動的にポンプされ、ATPの形でエネルギーを消費する。
【0037】
Na+/K+ATPアーゼはサブユニットで構成されており、それはアンチセンス又は他の核酸を介した介入(CRISPRなど)によって標的化され得る。サブユニットはアルファアイソフォーム:ATP1A1(α1)、ATP1A2(α2)、ATP1A3(α3)、及びATP1A4(α4)、及びベータアイソフォーム:ATP1B1(β1)、ATP1B2(β2)、ATP1B3(β3)、及びATP1B4(β4)である。介入は、任意のサブユニットを特異的に標的とすることも、共通の配列内容に基づいてサブユニットの組み合わせを標的とすることも、同一のmRNA配列トラクトに基づいてアルファ及び/又はベータのサブユニットの全てのアイソフォームを標的とすることもできる。
【0038】
本発明の特定の文脈では、Na+/K+ATPアーゼの阻害剤は、標的の酵素機能、すなわちナトリウムイオン及びカリウムイオンのポンピングを有意に減少又は無効にする。
【0039】
Na+/K+ATPアーゼの阻害剤の例として、科学的化合物の様々な群が知られている。ある群には、天然に存在する阻害剤及び合成阻害剤を含む、十分に研究された強心配糖体を含む。Na+/K+ATPアーゼ阻害剤の他の例は、アンドロステン及びアンドロステンのアザヘテロシクリル誘導体、特にイスタロキシム(CAS 203737-93-3)などのステロイド性Na+/K+ATPアーゼ阻害剤である。
【0040】
特定の実施形態では、本発明に従う阻害剤は、新しい転移の形成を減少又は防止する。特定の実施形態では、本発明に従う阻害剤は、すでに存在する転移の治療において有用である。特定の実施形態では、本発明に従う阻害剤は、転移の予防及び治療の両方において活性である。
【0041】
理論に拘束されることを望まないが、本発明者らは、本発明に従う転移の予防又は治療に使用するためのNa+/K+ATPアーゼ阻害剤がCTCクラスターを破壊し、CTCクラスターと比較して、転移の形成の可能性を有意に減少する単独のCTCをもたらす。血流中にCTCクラスターを有する及び/又はCTCクラスターのリスクが高いがん患者は、本発明の阻害剤から最も利益を受けることが期待される。転移はCTCクラスターの存在に関連し、かつこれは全ての状況では関連しないため、CTCクラスターの検出が可能であり、本明細書に開示される治療は、原発腫瘍から遠隔転移を発症するリスクがあると疑われるがん患者にとって有益である。
【0042】
特定の実施形態では、該阻害剤(又は以下にさらに記載されるような核酸剤)は、乳がん又は前立腺がんで使用するために提供される。
【0043】
通常、乳がん及び前立腺がんの患者は、CTCクラスターの発生率が最も高い。しかしながら、全てのがんの種類において、CTCクラスターが検出されており、したがって、本発明のNa+/K+ATPアーゼ阻害剤は、全般にがん患者に有益であると期待される。
【0044】
血流中の「CTCクラスターの存在」という用語は、血流中のどこかにCTCクラスターを有するがん患者に関する。特に、大きなCTCクラスターは、CTCクラスターが血管の毛細血管床に直ちに留まるため、末梢血試料で検出するのが難しい場合がある。したがって、末梢血試料に検出可能なCTCクラスターがないことは、血流の全ての場所にCTCクラスターがないことを必ずしも示すものではない。したがって、当業者は、CTCクラスターを検出するための採血の位置は、CTCクラスターを放出している原発腫瘍又は転移の位置に応じて選択されなければならないことを認識している。
【0045】
血液試料中のCTCクラスターを検出及び/又は単離するための知られている方法には、細胞密度、サイズ、誘電特性、又は機械的可塑性の違いを利用する物理的特性に基づく方法が含まれる。例えば、サイズ選択に基づく方法では、他の血液細胞に比べてCTC(及びCTCクラスター)のサイズが大きいことを利用している。サイズに基づく検出/単離の方法の非限定的な例には、Parsortixデバイスの使用がある(Xuら、PLoS One 10,e0138032,2015)。別の方法には、Shimらによって公開された方法がある(Biomicrofluidics 2013、7(1):11807 doi:10.1063/1.4774304)。特定の実施形態では、CTCを検出するためのデバイスは、国際特許出願第2015/077603号/米国特許出願第2016/279637(A1)号、又は国際特許出願第2018/005647(A1)号/米国特許出願第2019/160464(A1)号に開示されるとおりマイクロ流体デバイスである。特定の実施形態では、デバイスは、米国特許出願第2014/271990(A1)号に開示されるとおりのマイクロ流体デバイスである。本明細書に引用されている特許文書はいずれも、参照により完全に組み込まれている。
【0046】
がん患者におけるCTCクラスターの検出/単離のための他の既知の方法は、抗体に基づく方法である。使用される抗体は、主に血液又は間質細胞には存在しない上皮細胞表面マーカーに特異的である。Balasubramanianら(PLoS 1 4月12日, 2017年;https://doi.org/10.1371/journal.pone.0175414)も参照。
【0047】
本明細書の文脈において、循環腫瘍細胞(CTC:circulating tumor cell)という用語は、がん性腫瘍から出発し、血流に入り、播種転移に向かう細胞に関する。CTCは、原発腫瘍及び確立された転移に由来することが可能である。したがって、本発明の阻害剤は、がん患者がすでに確立した転移を有するかどうかに関係なく、がん患者の治療に有用である。
【0048】
本明細書の文脈において、「CTCクラスター」という用語は、一般的には2~50個のCTCを含む循環腫瘍細胞の凝集体に関する(Acetoら、Cell 2014 同上)。
【0049】
本明細書で使用されるとおり「がん」という用語は、肺がん、膀胱がん、乳がん、結腸がん、腎がん、直腸がん、肝臓がん、脳がん、食道がん、子宮がん、胆嚢がん、卵巣がん、膵臓がん、胃がん、子宮頸がん、甲状腺がん、前立腺がん、皮膚がん、及び造血腫瘍を含む癌;線維肉腫及び横紋筋肉腫を含む間葉起源の腫瘍;星状細胞腫、神経芽細胞腫、神経膠腫及び神経鞘腫を含む中枢及び末梢神経系の腫瘍;及びメラノーマ、セミノーマ、奇形癌、骨肉腫、色素性異種皮膚癌、角膜癌、甲状腺濾胞癌及びカポシ肉腫を含む他の腫瘍、特に前立腺がん、肺がん、乳がん、肝臓がん、胃がん、腎がん又は子宮がんであり得る。
【0050】
特定の実施形態では、転移の予防又は治療に使用するためのNa+/K+ATPアーゼ阻害剤は、乳がん又は前立腺がんを有するがん患者のためのものである。
【0051】
特定の実施形態では、がんは固形がんである。固形がんは、嚢胞又は液体領域を含有しない腫瘍を特徴とする。
【0052】
特定の実施形態では、転移の予防又は治療に使用するためのNa+/K+ATPアーゼ阻害剤は強心配糖体である。
【0053】
本明細書の文脈において、「強心配糖体」という用語は、ステロイド部分、該ステロイドのC-17に共有結合しているラクトン部分、及び該ステロイドのC-3にグリコシド結合を介して共有結合している配糖体(グリコシド)部分を含む有機化合物に関する。ステロイド部分及びラクトン部分は強心配糖体のアグリコンステロイド核を形成する。一部の強心配糖体は、配糖体部分のないアグリコンである。強心配糖体の2つのクラスが知られ、これらはアグリコンのラクトン部分によって識別されている。カルデノリドはラクトン部分として不飽和ブチロラクトン環を有し、ブファジエノリドはラクトン部分としてα-ピロン環を有する。
【0054】
強心配糖体は、Na+/K+ATPアーゼ阻害剤であり、カリウムに結合して細胞内にそれを移動するリン酸化Na+/K+ATPアーゼの細胞外部分に結合する。Na+/K+ATPアーゼのアルファサブユニットの脱リン酸化を誘導する細胞外カリウムは、強心配糖体の作用を低減させる。Na+/K+ATPアーゼを阻害すると、Na+が細胞内で増加する。Na+/Ca2+交換体は、カルシウムを細胞の外にポンプし、ナトリウムを細胞内にポンプして、濃度勾配を下げる。細胞内へのナトリウムの濃度勾配が減少すると、Na+/Ca2+交換体が機能する能力が低減され、細胞内カルシウムレベルが上昇する結果となる。心臓では、これにより心筋の収縮性が高まり、心臓の迷走神経緊張が増加する。強心配糖体は、心臓に対して特徴的な陽性変力作用を発揮する(心筋収縮の強さを増加させる)。
【0055】
特定の実施形態では、強心配糖体は、カルデノリド及びブファジエノリドから選択される。
【0056】
特定の実施形態では、強心配糖体は、ジギトキシン、ウアバイン、コンバラトキシン、プロシラリジン、ラナトシドC、ギトホルメート、ペルボシド、ストロファンチジン、メチルジゴキシン、デスラノシド、ブファリン、ジゴキシン及びジゴキシゲニンから選択される。
【0057】
ジギトキシン(CAS 71-63-6)は、キツネノテブクロの植物の葉に自然に存在する強心配糖体である(ジギタリス仕様)。ジギトキシンは、うっ血性心不全の治療に一般的に使用されている。
【化1】
【0058】
ウアバイン(g-ストロファンチン、(CAS 630-60-4))は、Na
+/K
+-ATPアーゼを阻害することによって作用する強心配糖体であり、主に低血圧及び心不整脈の治療に使用される。
【化2】
【0059】
コンバラトキシン(CAS 508-75-8)は、カルデノリドの群の強心配糖体であり、スズラン(Convallaria majalis)に自然に存在している。コンバラトキシンはジギトキシンの約5倍の効力があり、主に心不整脈の治療に使用される。
【0060】
プロシラリジン(CAS 466-06-8)は、ブファノリドのクラスの強心配糖体であり、主にうっ血性心不全及び心不整脈の治療に使用される。
【0061】
ラナトシド(CAS 17575-22-3)Cは、カルデノリドのクラスの強心配糖体であり、主にうっ血性心不全及び心不整脈の治療に使用される。
【0062】
ギトホルマート(CAS 10176-39-3)は、ブファノリドのクラスの強心配糖体であり、主にうっ血性心不全及び心不整脈の治療に使用される。ギトホルメートは、天然に存在する強心配糖体であるギトキシンの誘導体である。
【0063】
ペルボシド(CAS No. 1182-87-2)は、ブファノリドのクラスの強心配糖体であり、主にうっ血性心不全及び心不整脈の治療に使用される。
【0064】
ストロファンチジンは、カルデノリドのクラスの強心配糖体であり、主にうっ血性心不全及び心不整脈の治療に使用される。ストロファンチジンは、ウアバインの類似体であるk-ストロファンチンのアグリコンである。
【化3】
【0065】
ジゴキシンは、カルデノリドのクラスの天然に存在する強心配糖体であり、主にうっ血性心不全及び心不整脈の治療に使用される。
【化4】
【0066】
ジゴキシゲニン(CAS 1672-46-4)は、カルデノリドのクラスの強心配糖体である。ジゴキシゲニンはジゴキシンのアグリコンである。
【0067】
メチルジゴキシン(Metildigoxin)(CAS 30685-43-9)(メチルジゴキシン(methyldigoxin)とも呼ばれる)は、カルデノリドのクラスの強心配糖体であり、主にうっ血性心不全及び心不整脈の治療に使用される。
【0068】
デスラノシド(CAS 17598-65-1)は、カルデノリドのクラスの天然に存在する強心配糖体であり、主にうっ血性心不全及び心不整脈の治療に使用される。
【0069】
ブファリン(CAS 465-21-4)は、ブファジエノリドのクラスの天然に存在する強心配糖体である。
【0070】
特定の実施形態では、強心配糖体は、ジゴキシン、ジギトキシン、及びウアバインから選択される。
【0071】
特定の実施形態では、強心配糖体はジゴキシンである。
【0072】
特定の実施形態では、心筋配糖体はジギトキシンである。
【0073】
特定の実施形態では、強心配糖体はウアバインである。
【0074】
特定の実施形態では、転移の予防又は治療に使用するためのNa+/K+ATPアーゼ阻害剤は、CTCクラスターの破壊に使用するためのものである。
【0075】
本発明の第2の態様は、転移性がんの治療又は予防に使用するための、以下:
- CLDN3
- CLDN4、及び
- Na+/K+ATPアーゼ、又はその構成サブユニットアイソフォームのいずれか
から選択されるタンパク質をコードする標的核酸配列の発現をダウンレギュレートすることができる、又は阻害することができる阻害剤の核酸配列を含むか、又はそれからなる核酸分子に関する。
【0076】
実施例で提供されているデータは、これらのタンパク質の機能発現のいずれかの抑制がCTC形成の有意な抑制につながり、それが次いでがん患者の臨床転帰の改善に関連していることを示している。
【0077】
クローディン3(CLDN3;Entrezコード1365)及びクローディン4(CLDN4;Entrezコード1364)は密着結合の構成要素であり、細胞間相互作用を促進する。
【0078】
一般に、CTCクラスターの形成及び転移の促進に関係する遺伝子標的のアンチセンス標的化と、CRISPR又は類似のアプローチとの両方が考えられる。
【0079】
特定の実施形態では、阻害剤の核酸配列は、
- 前記標的核酸配列に含まれるエキソン、
- 前記標的核酸配列に含まれるイントロン、
- 前記標的核酸配列の発現を調節するプロモーター領域、及び/又は
- 前記標的核酸配列の発現を制御する補助配列、
の配列又は部分配列と特異的にハイブリダイズすることができる。
【0080】
特定の実施形態では、阻害剤の核酸配列は、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA、sgRNA又はmiRNAである。
【0081】
特定の実施形態では、阻害剤の核酸配列は、ヌクレオシド類似体を含むか、又はそれからなる。
【0082】
上記のとおり阻害剤の核酸配列と標的核酸配列のエキソン、イントロン、プロモーター又は補助配列とのハイブリダイゼーションは、標的核酸配列の転写又は翻訳の減少又は阻害をもたらす。採用されるメカニズムは、例えばRNA干渉、CRISPR/Casシステム、翻訳の阻害、又はプロモーター又はエンハンサー領域の遮断による、mRNAの分解であり得る。
【0083】
特定の実施形態では、補助配列はエンハンサー配列である。エンハンサー配列は、DNAの短い(50~1500bp)領域であり、それは活性化因子による結合によって、標的核酸配列の転写が起こる可能性を高めることができる。阻害剤の核酸配列は、エンハンサー配列の活性を低下させるであろう。
【0084】
特定の実施形態では、補助配列は、長鎖ノンコーディングRNA配列である。長鎖ノンコーディングRNAは、200個のヌクレオチドより長い転写物であり、これはタンパク質に翻訳されないが、標的核酸配列の転写又は翻訳を制御する。
【0085】
特定の実施形態では、前記阻害剤の核酸配列は、アンチセンスオリゴヌクレオチドである。特定の実施形態では、前記阻害剤の核酸配列は、siRNAである。特定の実施形態では、前記阻害剤の核酸配列は、shRNAである。特定の実施形態では、前記阻害剤の核酸配列は、sgRNAである。特定の実施形態では、前記阻害剤の核酸配列は、miRNAである。
【0086】
特定の実施形態では、阻害剤の核酸配列は、ヌクレオシド類似体を含むか、又はそれからなる。
【0087】
当業者は、標的配列に関する公開データベースに含まれる遺伝情報に基づいて適切なアンチセンス配列を選択することができる。
【0088】
CTCクラスターは、単独の循環腫瘍細胞と比較して、転移性播種の可能性が高い。したがって、CTCクラスターを単独CTCになるように破壊するための、本発明のNa+/K+ATPアーゼ阻害剤及び該阻害剤の核酸配列は、がん患者の予防及び治療に有利である。
【0089】
本発明の第3の態様は、本発明の第1の態様に従うNa+/K+ATPアーゼ阻害剤、又はがん患者の静脈血栓塞栓症の予防及び治療に使用するための本発明の第2の態様に従う核酸分子に関する。
【0090】
がん患者におけるCTCの存在は、静脈血栓塞栓症のリスク増加と関連している。理論に拘束されることを望まないが、これはおそらく、血液循環中の凝固因子又は組織因子及び/又は血小板及び内皮細胞などの他の細胞型とのCTCクラスター相互作用を介した凝固の活性化によるものである(Bystrickyら、以下の重要な書評:Oncology/Hematology 114:33-42、2017)。
【0091】
本発明のNa+/K+ATPアーゼ阻害剤及び該阻害剤の核酸配列は、CTCクラスターサイズを有意に減少させ、したがって、がん患者における静脈血栓塞栓症の発生率を減少させることもできる。
【0092】
本発明の第1の態様のNa+/K+ATPアーゼ阻害剤に関する全ての実施形態はまた、本発明の第3の態様にも関連する。
【0093】
本発明の別の態様は、上記で概説したがん治療用の薬剤の製造における上記で特徴付けられたNa+/K+ATPアーゼ阻害剤の使用に関する。あるいは、本発明は、がん治療のための方法に関する。そのような方法において、本明細書に記載の化合物の有効量(記載されたとおりの剤形又は配合を含む)は、それを必要とする対象に投与され、それによってがんを治療するか、又は転移の拡散若しくは再発を予防する。
【0094】
医薬組成物及び投与
本発明の別の態様は、本発明の化合物、又はその薬学的に許容される塩、及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物に関する。
【0095】
特定の実施形態では、本発明及び任意のその態様及び実施形態に従うNa+/K+ATPアーゼ阻害剤は、経鼻、口腔内、直腸、経皮又は経口の投与など、経腸投与のための剤形として、又は吸入形態又は坐剤として製剤化される。あるいは、皮下、静脈内、肝内又は筋肉内注射の形態などの非経口投与を使用することができる。任意に、薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤が存在してもよい。
【0096】
本発明の特定の実施形態では、本発明の化合物は、一般的には、薬剤の投与量を容易に制御可能にし、かつ患者に的確かつ容易に扱える製品を与える医薬品の投与の形態に製剤化される。
【0097】
本発明の化合物の局所使用に関する本発明の実施形態では、医薬組成物は、水溶液、懸濁液、軟膏、クリーム、ゲル、又は噴霧可能な製剤(例えば、エアロゾルなどによる送達のための製剤)などの局所投与に適した方法で製剤化され、これは、当業者に知られている可溶化剤、安定剤、強壮剤、緩衝剤、及び保存剤の1つ又は複数とともに活性成分を含む。
【0098】
該医薬組成物は、経口投与、非経口投与、又は直腸投与のために製剤化することができる。さらに、本発明の医薬組成物は、固体形態(カプセル、錠剤、丸薬、顆粒、粉末又は坐薬を含むがこれらに限定されない)、又は液体形態(溶液、懸濁液又は乳濁液を含むがこれらに限定されない)に構成することができる。
【0099】
本発明の化合物の投与計画は、特定の薬剤の薬力学的特性とその投与方法及び投与経路、投与対象者の種族、年齢、性別、健康状態、病状、及び体重;症状の性質と程度、同時治療の種類、治療の頻度、投与経路、患者の腎機能及び肝機能、及び所望の効果などの既知の要因によって異なるだろう。特定の実施形態では、本発明の化合物を1日1回投与してもよいし、又は1日の総投与量を1日2回、3回、又は4回に分けて投与してもよい。
【0100】
本発明の医薬組成物は、滅菌などの従来の医薬操作を行うことができ、及び/又は従来の不活性な希釈剤、潤滑剤、又は緩衝剤、並びにアジュバント、例えば、防腐剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、及び緩衝剤などを含有することができる。これらは、標準的なプロセス、例えば、従来の混合、造粒、溶解、又は凍結乾燥のプロセスによって製造することができる。医薬組成物を調製するための多くのそのような手順及び方法は、当技術分野で知られており、例えば、L. Lachman etら、 The Theory and Practice of Industrial Pharmacy,第4版,2013(ISBN 8123922892)を参照。
【0101】
本発明は、以下の実施例及び図面によってさらに説明され、そこから更なる実施形態及び利点を引き出すことができる。これらの実施例は、本発明を説明するためのものであり、その範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0102】
ゲノム全域の低メチル化と高メチル化との両方を含む異常なDNAメチル化パターンは、数種類のヒトのがんに関連している(Klutsteinら、Cancer research 76、3446-3450、2016;Ehrlich Epigenomics 1、239-259、2009;Ehrlich,M、Oncogene 21、5400-5413、2002;Feinbergら、Nat Rev Genet 7、21-33、2006)。一般に、これらのがん関連エピジェネティック修飾は、別個のゲノム領域に影響を与え、CpGアイランドでは高メチル化がより頻繁であるのに対し、低メチル化は制御要素及び反復要素に有利であるようである(Ehrlich、M、Oncogene 21、5400-5413,2002)。それでもなお、両方の修飾は、隣接する遺伝子の発現を変化させ、がんの表現型に寄与する能力を有する(Klutsteinら、Cancer research 76、3446-3450、2016;Ehrlich Epigenomics 1、239-259,2009)。制御要素に関して、転写因子結合部位(TFBS)におけるDNAメチル化の損失により、活性である転写因子(TF)ネットワーク、又は後の段階、例えば、分化した細胞からの人工多能性幹細胞の誘導中(Leeら、Nat Commun 5、5619、2014)又はがんの進行中での活性化のために準備されるネットワークを示すことができる。しかし、乳がん患者のDNAメチロームを形成する力について、及び別個のDNAメチル化パターンがCTCの転移能を決定するかどうかについては未知である。
【0103】
乳がん患者の循環腫瘍細胞(CTC)及びCTCクラスターのDNAメチル化パターン
本発明者らは、単独及びクラスター化したヒト乳房CTCの利用可能なTFBSによって活性な転写因子ネットワークを同定しようとし、ゲノム全域の単独細胞分解DNAメチル化分析(重亜硫酸塩シーケンシング)を通じて、個々の液体生検内でマッチさせた。この目的のために、進行性転移性乳がんの4人の患者から血液試料を採取し(表1)、操作されていない血液試料からのCTCのサイズに基づく、抗原非依存的な濃縮を可能にするマイクロ流体デバイスであるParsortix(Xuら、PLoS One 10、e0138032、2015)で処理した。捕捉時に、生CTCをEpCAM、HER2、及びEGFR(Alexa488又はFITC結合)の細胞表面発現について染色し、CD45に対する抗体で対比染色して汚染白血球を同定した(
図1a)。染色の検証時に、次いで、合計18個のマーカー陽性単独CTCと24個のマーカー陽性CTCクラスター(患者あたり5±2.58個の単独CTCと6±4.24個のCTCクラスターの平均)を、単独細胞全ゲノム重亜硫酸塩シーケンシングのために、個別にマイクロマニピュレーションし(CellCelector)、溶解緩衝液に堆積させた(Farlikら、Cell Rep 10、1386-1397、2015;Farlikら、Cell Stem Cell 19、808-822、2016)。
【0104】
【0105】
主成分分析(PCA)は、主に単独CTCと比較してより不均一であるCTCクラスターと、元の患者のCTCを分離した(
図1b)。単独CTCとCTCクラスターとの間のメチル化差異領域(DMR)を同定するために、各群の少なくとも2つの異なる試料間で共通する5kbウィンドウでのメチル化を評価し、単独CTCとCTCクラスターとの間で≧80%メチル化の差異を有する3347個のDMRを同定した。これらのうち、1305個のDMRは、CTCクラスターで低メチル化され、2042個は単独CTCで低メチル化されていた。DMRは、共調節配列のシス制御特性を予測する統合ゲノミクス法であるi-cisTargetを使用して分析した(Herrmannら、Nucleic Acids Res 40、e114,2012)。CTCクラスターの低メチル化DMR内で、OCT4及びSTAT3などの幹細胞性関連TFを含むいくつかのTFBSの有意な濃縮(enrichment)が見られた(
図1c)。対照的に、単独CTCの低メチル化DMRは、MEF2C及びSOX18などのTFのTFBSにおいて濃縮されていた(
図1c)。CTCクラスターの低メチル化領域に関連する特定の遺伝子を同定するために、GREAT(genomic regions enrichment of annotations tool)(McLeanら、Nat Biotechnol 28, 495-501,2010)を使用した。基底プラス50kbの最大伸長の関連規則を使用して、この分析により、接着接合、NMDA受容体活性、脂質輸送などの細胞間結合及び膜受容体活性、並びに及びNK細胞の活性化と白血球アポトーシスを含む免疫応答を含むプロセスに関する遺伝子オントロジー(GO)カテゴリーに関連する166個の遺伝子を明らかにした(
図1d及び表2)。並行アプローチとして、グローバルなDNAメチル化の差異がTFBSで評価され(Farlikら、Cell Stem Cell 19、808-822、2016)、OCT4結合部位がCTCクラスターで一貫して低メチル化されることがわかった(表3)。また、SOX2及びESRRBなどの多能性に関連する他のTFの結合部位も低メチル化されており、並びにSIN3Aなどの細胞周期進行に関連するTFの結合部位も低メチル化されていた(表3)。一方、単独CTCでは、この方法では、c-MYC及びE2F4を含むいくつかのTFのTFBSでの低メチル化が観察された(表3)。まとめると、これらの結果から、CTCクラスターが利用可能な幹細胞関連のOCT4中心のTFネットワークと細胞周期進行関連のSIN3A中心のTFネットワークを示し、胚性幹細胞(ESC)の生物学と並行して、これより、これらのネットワークが同時に自己再生及び増殖を制御することを示唆している(Niwa、Development 134、635-646、2007;Kimら、Cell 132、1049-1061、2008;van den Bergら、Cell Stem Cell 6、369-381、2010)。これとは異なって、単独CTCは、c-MYC中心のネットワークを特徴とするように見え、これは、様々ながんで一般的に濃縮されるが、しかしコアの多能性ネットワークからはほとんど独立しており、代謝に関連する遺伝子の制御により多く関与している(Kimら、 Cell 132、1049-1061、2008;Kimら、Cell143、313-324、2010)。
【0106】
【0107】
【0108】
確立されたマウスモデルからの循環腫瘍細胞(CTC)及びCTCクラスターのDNAメチル化パターン
2種のヒト乳房CTC由来細胞株(BR16及びBRx50)並びに乳がん細胞株MDA-MB231(肺転移性変異体、LM2と呼ばれる)を含む3種の独立したマウス異種移植モデルから自発的に生成したGFP標識された単独CTC及びCTCクラスターを、所見の堅牢性を試験するために単離した(Yuら、Science 345、216-220、2014;Minnら、Nature 436、518-524、2005)。この設定では、71個の単独CTCと47個のCTCクラスター(表4)を個別にマイクロマニピュレーションし、単独細胞全ゲノム重亜硫酸塩シーケンシングのプロセスを行った(Farlikら、Cell Rep 10、1386-1397、2015;Farlikら、Cell Stem Cell 19、808-822、2016)。患者のCTCと同様に、異種移植CTCのPCA分析では、主に起源の細胞株に基づいて分離したが、なお患者のCTCと比較して試料の全体的な均質性が高いことを示した。単独CTCとCTCクラスターとの間のメチル化の差異が70%を超えるDMRを評価したところ、合計1430個のDMRが見つかり、そのうち、909個はCTCクラスターで低メチル化され、521個は単独のCTCで低メチル化されていた。i-cisTarget分析を使用して、CTCクラスターで低メチル化された40個のTFBSと、単独CTCで低メチル化された74個のTFBSを同定した(
図2a)。興味深いことに、患者のデータと一致して、SOX2、NANOG、STAT3、REX1に属するものなどのOCT4中心のTFネットワークの結合部位と、SIN3Aの結合部位の両方が異種移植CTCクラスターで低メチル化されていた。一方、患者のCTCとは対照的に、幹細胞関連のTFネットワークの利用可能性は、CTCのグローバルなDNAメチル化プロファイルに影響を与えるよりむしろ、DMRでの局所的なDNAメチル化リモデリングによって制御されているようであった。これは、単独CTC(n=13)又はCTCクラスター(n=9)のいずれかで、ほんの一握りのTFBSしか優先的に低メチル化されないという発見によって裏付けられた(
図2b)。したがって、患者と異種移植片のCTCの個別のDNAメチル化プロファイルは、それらのクラスター化の状況を反映しているようである。また、乳がんでは、メチル化ダイナミクスとCTCの表現型の特性との間の相互作用が発生し、CTCのクラスタリングが、幹細胞関連のプロセス及び細胞周期の進行を受けるエピジェネティックな素因に関連していることも示している。
【0109】
【0110】
幹細胞様関連転写因子ネットワーク
利用可能な幹細胞関連TFネットワークもまた転写活性があるかどうかを特定するために、本発明者らは、個々の液体生検内でマッチされ、進行性転移疾患を有する6人の乳がん患者から単離された48個の単独CTC及び24個のCTCクラスター、及び3つの異種移植マウスモデルから単離された49個の単独CTC及び54個のCTCクラスターの単一細胞分解RNAシーケンス分析を行った(表4)。マウス及びヒトの胚性幹細胞及び胚性癌細胞において、分化した対応物とは対照的に一貫してアップレギュレーションされることが以前に示されている335個の遺伝子のセットをさらに調査した(Wongら、Cell Stem Cell 2、333-344,2008)。これらの335個の遺伝子のうち301個のサブセットがCTC試料で発現していることがわかった。これらの遺伝子を使用して、加重遺伝子共発現ネットワーク分析(WGCNA:weighted gene co-expression network analysis)を実行し、ヒト乳がん試料の4つの発現モジュール(青、灰色、ターコイズ、茶色)と異種移植CTCクラスターの4つの発現モジュール(緑、黄色、オレンジ、紫)を同定し、CTCにおけるモジュールと特性の関係(module-trait relationship)を明らかにした。特に、患者のCTCクラスターに濃縮された85個の転写産物と異種移植片のCTCクラスターに濃縮された153の転写産物が同定され(表5及び6)、患者と異種移植片のCTCクラスター濃縮幹細胞関連転写産物との間に90%の重複を有した。興味深いことに、患者のCTCクラスターに濃縮した転写物、及び患者と異種移植片の間で重複する転写物は、ネットワーク分析によって判断されるとおり、主に細胞周期の進行に関与するが(
図3a)、TF標的遺伝子分析では、とりわけ、有意に低メチル化された結合部位を有するTFであるSIN3A、OCT4及びCBFBの活性が確認された(
図3b)。同様に、異種移植片由来のCTCクラスターでは、患者のCTCクラスターに濃縮され検出された遺伝子に加えて、TF標的遺伝子解析により、SIN3A、NANOG、SOX2、RORA、FOXO1及びBHLHE40などの有意に低メチル化された結合部位を持つTFを含むOCT4の活性が強調された(
図3c)。単独CTCのTF標的遺伝子分析により、とりわけ、c-MYC、並びにp53及びE2F4などの活性がさらに確認された(
図3e)。まとめると、遺伝子発現データは、DNAメチル化分析で提案されたモデルをサポートし、CTCクラスターがOCT4中心の幹細胞関連TFネットワークのために準備され、SIN3A依存性細胞周期進行プログラムの活性化を示すことを実証する。これらのプログラムの活性化は、CTCクラスターの転移増殖能力を決定する役割を果たしている。
【0111】
CTCクラスターのDNAメチル化パターンは、利用可能で活性な転写因子ネットワークを形成し、これは乳がん患者の単独CTCよりもCTCクラスターの増殖に利点をもたらす。DNAメチロームを成形する力は、TFBSでのグローバルな差異と、環境の手がかり及び表現型の特性への応答を媒介する局所的な事象の両方に関与する。環境刺激への応答でのDNAメチロームを動的に成形する能力を利用することで、FDA承認の化合物を転用することによる治療的な活用が可能である。
【0112】
【0113】
【0114】
CTCクラスターの解離
CTCクラスターの作用可能な脆弱性を特定し、クラスター化されたCTCのエピジェネティック及び転写の機能が、クラスターの単独細胞への解離時に可逆的であるかどうかを試験するために、次の手順を実行した。第1に、正常な乳房(TGCA REF)、乳がん(TCGA REF)、単独CTC、及びCTCクラスターから得られた患者試料における全ての既知の細胞間結合(CCJ:cell-cell junction)成分の発現を評価した(Acetoら、Cell 2014)。乳がん細胞は、正常な乳房細胞と比較してCCJレパートリーを部分的にしか減少させない傾向があるが、CTCは、おそらく運動性の増加の結果として、CCJ成分のごく一部しか発現しない。しかしなお、CTCクラスターは、単独CTCに比べて、より多くのCCJを保持している。この分析により治療の機会に注目し、CTCクラスターが多細胞接着のために限られた数のCCJ成分に依存し、それらを解離することを目的としたアプローチにより、より多くの様々なCCJを発現する正常組織を救うことができることを示している。この目的のために、2486個のFDA承認の化合物を、ヒト乳房CTC由来細胞のクラスターを解離する能力について評価した。クラスターの解離は、ハイコンテントスクリーニング顕微鏡を使用して評価し、個々の化合物で治療した細胞を、それぞれ陰性及び陽性対照である安定状態のクラスター化BR16細胞及び40μmろ過したBR16の単独細胞懸濁液と比較した(
図4a)。興味深いことに、ろ過時の平均クラスターサイズの大幅な減少は、生存率に影響を与えなかったが、テトラメチルローダミンメチルエステル過塩素酸塩(TMRM)強度で測定されるとおり、ミトコンドリア膜電位が低下した(
図4a)。2486個のFDA承認化合物の大部分では、低酸素状態で5μM濃度を2日間使用した場合、BR16のCTC由来細胞での検出可能な細胞生存率の減少も検出できず(>70%生存率)、また検出可能な平均クラスターサイズ(>450μm
2)の減少も観察されなかった。しかし、生存率を損なうことなく平均クラスターサイズを大幅に縮小した39個の化合物を同定した。これらの化合物には、Na
+/K
+ATPアーゼ(n=6)、HDAC(n=2)、ヌクレオチド生合成(n=5)、キナーゼ(n=4)、GPCR(n=2)、コレステロール生合成(n=1)、核外輸送(n=1)、チューブリン(n=9)、及びDNA結合化合物(n=8)と抗生物質(n=1)の阻害剤が含まれた。化合物濃度を1μM、0.5μM、及び0.1μMに減らすと、BR16及びBRx50のヒトCTC由来細胞の平均クラスターサイズが同時に増加する結果となった(
図4b)。クラスターサイズへの作用に伴い、化合物濃度の低下を有し、検出された核の数、ミトコンドリア膜電位、及び両方の細胞株の全体的な生存率の増加が観察され、これはクラスターサイズがCTCの全体的な適合性及び増殖能力と相関していることを示している(
図4b)。これらの条件下で、6つの化合物、すなわち、Na
+/K
+ATPアーゼ阻害剤のジギトキシン及びウアバイン八水和物、チューブリン結合薬剤ポドフィロックス(ポドフィロトキシンとしても知られる)、コルヒチン及び硫酸ビンクリスチン、及びチューブリン結合剤及びデュアルキナーゼ阻害剤のリゴサチブは、試験された最低濃度(0.1μM)でさえ、BR16及びBrx50のCTC細胞株の平均クラスターサイズの有意な減少を一貫してもたらした(
図4b)。
【0115】
DNAメチル化に対するCTCクラスター解離の作用
DNAメチル化パターン及び増殖シグネチャーに対するクラスタリングの作用を直接評価するために、BR16及びBRx50の細胞株を17日間培養して、少なくとも4回の分裂が起こることを確認した。これにより、DNAメチル化のリモデリングが行われるのに適切な時間を与える。ATPアーゼ及びキナーゼの阻害剤の20nMの存在下での長期培養は、細胞増殖及び平均クラスターサイズの減少に最適であることがわかった(
図5a)。そして三重の平均してn=20個の細胞において、WGBS及びRNAシーケンシングのためにさらに処理した。
【0116】
これらの条件下では、両方のCTC由来細胞株について、患者及び異種移植片からのクラスター関連低メチル化DMRのサブセットが20%以上のメチル化を回復する。興味深いことに、このメチル化の獲得は、幹細胞関連TFの結合部位を含むDMRで発生し、BR16細胞株のウアバイン治療はOCT4、SOX2、及びNANOGの結合部位に同時に影響を及ぼす。これは、患者由来のCTC株におけるCTCクラスターの解離が、幹細胞関連TFの結合部位への利用可能性を低下させるDNAリモデリングにつながることを示している。
【0117】
【0118】
CLDN3/CLDN4ノックアウト
本発明者らは、CTC由来細胞における細胞間結合の破壊が、クラスター解離並びにCTCクラスター関連DMRでのDNAメチル化リモデリングをもたらすかどうかを評価した。この目的のために、本発明者らは、CRISPR技術を使用して、CTCクラスターにおいて最も発現が高い強い結合タンパク質のうちの2つであるBR16 CTC由来細胞のクローディン3(CLDN3)及びクローディン4(CLDN4)の両方を同時にノックアウトした。各遺伝子に2つの独立したsgRNAを使用して、発明者らは、二重CLDN3/4ノックアウトを備えた3つのBR16株を生成し、これらはまた、平均CTCクラスターサイズの大幅な減少も示した(
図16F、G)。
【0119】
CLDN3/4ダブルノックアウト細胞の全ゲノム重亜硫酸塩シーケンシングは、単独細胞への解離時に、かつNa
+/K
+ATPアーゼ阻害時に発生した事象と同様に、多くのCTCクラスター関連の低メチル化領域がメチル化を獲得したことを示した(
図9E)。興味深いことに、より高いレベルのメチル化を獲得した領域のi-cis Target分析により、OCT4、SOX2、NANOG、及びSIN3Aの結合部位の濃縮が明らかになり(
図9F)、CTCクラスタリングが幹細胞及び増殖関連のTFの結合部位でのDNAメチル化ダイナミクスに直接影響することをさらに示している。
【0120】
これらの結果から、Na+/K+ATPアーゼ阻害が、細胞内Ca++濃度の増加と、その結果としての細胞間結合形成の阻害を通じてCTCクラスターの解離を引き起こし、重要な幹細胞関連及び増殖関連の結合部位でのDNAメチル化リモデリングをもたらすことを示している。
【0121】
Na
+/K
+ATPアーゼ阻害剤による治療は、自然転移の形成を抑制する
ウアバイン及びジギトキシンがまたインビボでのCTCクラスターの破壊も可能にするかどうかを試験するために、本発明者らは二重のアプローチを採用した。第1に、本発明者らは、ウアバイン及びジギトキシンによる17日間のインビトロ治療が、治療された細胞の能力の低下につながり、未治療のマウスにおいて効率的に転移を播種するかどうかを試験した(
図7A)。この目的のために、治療時に、GFP-ルシフェラーゼを安定して発現するBR16細胞をNSGマウスの尾静脈に注射し、転移性病変を播種して増殖させる能力について、発光イメージングによって非侵襲的にモニターした。本発明者らは、ジギトキシン又はウアバインによる治療は、注射直後に肺組織に留まるBR16細胞の能力に影響を及ぼさなかったが(「0日」;
図7Bを参照)、到達の初日の間に生存する能力の低下をもたらすことを、対照細胞と比較して切断型カスパーゼ3の発現の有意な増加によって確認されるとおり発見した(「1日」を参照;
図7B及び8A、B)。全体として、転移性播種の非常に初期の段階で生存の能力のこの差異は、注射後72日の間に測定されたとおり、インビボでの更なる治療がないにもかかわらず、転移性増殖の遅延をもたらした(
図7C)。
【0122】
第2に、臨床設定をより厳密に模倣して、CTCクラスターの自発的形成及び原発腫瘍からの転移に対するCTCクラスター解離戦略の作用を評価するために、本発明者らは、NSGマウスの乳腺脂肪パッドにBR16細胞を注射した。原発腫瘍形成の14週間後、本発明者らは3週間毎日ウアバインを投与し、CTC組成及び自発的転移病変の発生を評価した(
図7D)。重要なことに、本発明者らは、ウアバイン治療が、原発腫瘍のサイズも、又は全体的なCTC数(
図8C、D)も変えることなく、単独CTCの頻度を増加させながら(
図7E)、自発的に生成されるCTCクラスターの頻度を減少させることを観察した。CTCクラスターの頻度の減少に加えて、ウアバイン治療はまた、総転移負荷の顕著な抑制(80.7倍)をもたらした(
図7F、G)。同様に、自発的に転移するLM2腫瘍を有するNSGマウスにウアバイン治療を施す場合、本発明者らはまた、原発腫瘍のサイズも、また全体的なCTCの数も変えることなく(
図8F、G)、単独CTCの割合の増加及びCTCクラスターの減少を観察し(
図8E)、対照と比較して転移負荷の減少をもたらす(
図8H)。
【0123】
ジゴキシン治療
BR16の異種移植マウスでのジゴキシン治療では、腫瘍サイズに有意差は観察されなかった(
図10)。しかし、ジゴキシン治療により、CTCクラスター及びCTC-好中球クラスターの数が明らかに減少し(
図11)、転移が抑制される結果となった(
図12)。
【0124】
同様に、LM2の異種移植マウスでの治療では、腫瘍サイズに有意差は観察されなかった(
図13)。しかし、ジゴキシン治療は全生存期間を延長し(
図14)、CTCクラスター及びCTC好中球クラスターの形成を減少させた(
図15)。
【0125】
総合してこれらの結果から、インビボでのNa+/K+ATPアーゼ阻害が、CTCクラスターを自発的に放出する癌性病変の能力を抑制し、転移性播種能力の顕著な低下をもたらすことを示している。
【0126】
臨床試験
患者に毎日維持量のジゴキシンを投与する。ジゴキシンの1日量を、腎機能及び目標血清ジゴキシン濃度に応じて計算し、0.125mg及び0.25mgの錠剤の有効性に基づいて調整した治療計画において朝(午前10時前)に適用した。平均CTCクラスターサイズの分析用の血液試料は、スクリーニング時、0日(最初の経口摂取の2時間後)、3日及び7日に採取した。7日又は14日のジゴキシン血清レベルが0.70ng/ml未満の場合、ジゴキシン血清レベルに応じて、ジゴキシンによる維持療法が最大3週間継続される。維持療法の3週目は、必要に応じて個々の用量調整が行われる。
【0127】
材料と方法
細胞培養
CTC由来細胞を、超低付着(ULA)6ウェルプレート(Corning、カタログ番号3471-COR)上で低酸素(5%酸素)下にて維持した。20ng/mlの組換えヒト上皮増殖因子(Gibco、カタログ番号PHG0313)、20ng/mlの組換えヒト線維芽細胞増殖因子(Gibco、カタログ番号100-18B)、1×B27サプリメント(Invitrogen、カタログ番号17504-044)及びの1×抗生物質-抗真菌薬(Invitrogen、カタログ番号15240062)をRPMI 1640培地(Invitrogen、カタログ番号52400-025)中に含有するCTC成長培地を3日ごとに添加した。継代のために、Heraeus Multifuge X3R遠心分離機(Invitrogen、カタログ番号75004515)を使用して、細胞を800gで5分間遠沈した。続いて上清を吸引し、細胞を2ml/ウェルのCTC培地に再懸濁し、6ウェルのULAプレートに播種した。BR16のCTC由来細胞を、本発明者の研究室で生成した。Brx50のCTC由来細胞を、Haber及びMaheswaranの研究室(MGH Cancer Center、ハーバードメディカルスクール、マサチューセッツ州ボストン)から入手した。MDA-MB-231(LM2)細胞は、Joan Massagueの研究室(MSKCC、ニューヨーク、ニューヨーク、米国)から寄贈され、10%FBS(Invitrogen、カタログ番号10500064)及び1×抗生物質-抗真菌薬(Invitrogen、カタログ番号15240062)で補充したDMEM/F-12培地(Invitrogen、Cat#11330057)で継代した。継代のために、LM2細胞をD-PBS(Invitrogen、カタログ番号14190169)で1回洗浄し、0.25%トリプシン(Invitrogen、カタログ番号25200056)を使用して解離させた。
【0128】
CTCの捕捉及び同定
CTC分析用の血液検体は、スイス当局(EKNZ、スイス北西部/中央部の倫理委員会)から倫理的承認を受けたプロトコルEKNZ BASEC2016-00067及びEK321/10に従って患者の同意を得た後、バーゼル大学病院から入手した。EDTAバキュテナーにて、患者1人あたり平均7.5mlの血液を採取した。採血から1時間以内に、Parsortix GEN3D6.5細胞分離カセット(Angle Europe)で血液を処理した。マウスの研究では、心臓穿刺によって血液を回収し、Parsortixデバイスを介して1mlの血液を同様に処理した。捕捉したCTCは、EpCAM-AF488結合抗体(CellSignaling、カタログ番号CST5198)、HER2-AF488結合抗体(カタログ番号324410、BioLegend)、EGFR-FITC結合抗体(GeneTex、カタログ番号GTX11400)、及びCD45-BV605結合抗体(Biolegend、 カタログ番号304042(抗ヒト);カタログ番号103140(抗マウス))を用いてParsortixカセットでさらに染色した。GFP-ルシフェラーゼレポーターを安定して発現するがん細胞を有する他の全てのモデル(異種移植片)では、抗CD45染色のみを実行し、一方、CTCをGFP発現に基づいて同定した。単独CTC、CTCクラスター及びCTC-WBCクラスターを含む捕捉したCTCの数は、細胞がまだカセット内にある間に決定した。次に、CTCを、DPBS(番号14190169、Gibco)のカセットから、超低付着プレート(番号3471-COR、Corning)上に放出した。代表的な画像は、Leica LASを使用するLeica DMI4000蛍光顕微鏡で40倍の倍率で撮影し、ImageJで分析した。
【0129】
CTC-WBCクラスターでの白血球染色の差異
Parsortixマイクロ流体カセット内に捕捉した生CTCは、抗ビオチン-CD45(カタログ番号103104、BioLegend)で染色し、ストレプトアビジン-BV421(カタログ番号405226、BioLegend)、抗マウスLy-6G-AF594(カタログ番号127636、BioLegend)及び抗CD11b-AF647(クローンM1/70、バーゼル大学のRoxane Tussiwand博士からの贈与)又は抗F4/80-AF594(カタログ番号123140、BioLegend)及びCD11b-AF647で検出した。さらに、MMTV-PyMT由来のCTCは、EpCAM-AF488(カタログ番号118210、BioLegend)でマークした。次に、細胞をマイクロ流体システムから超低付着プレートに穏やかに放出し、すぐに画像化した(Leica DMI400)。好中球(Ly-6G+CD11bmed)、単球(Ly-6G-CD11bmed/high)及びマクロファージ(F4/80+CD11b+)を有するCTC-WBCクラスターの数を評価した。画像化の直後に、細胞をスライドガラス上で遠心分離(500rpm、3分)し、メタノールで1分間固定化した。短時間風乾した後、Wright-Giemsa染色キット(番号9990710、ThermoFisher)を使用してスライドを染色し、製造元の指示に従って、捕捉した細胞の核形態を視覚化した。
【0130】
腫瘍形成アッセイ
全てのマウス実験は、機関のガイドラインに従って実施した。
【0131】
尾静脈実験では、NOD SCID Gamma(NSG)マウス(Jacksonの研究室)に100μlのD-PBSに再懸濁した1×106個のBR16-mCherry細胞を注射し、IVIS Lumina II(Perkin Elmer)でモニターした。CTC異種移植マウスモデルの単離では、1×106個のLM2-GFP、1×106個のBRx50-GFP、又は1×106個のBR16-GFPの細胞を、D-PBS中の100μlの50%Cultrex PathClear低増殖因子基底膜抽出物(R&D Biosystems、カタログ番号3533-010-02)に再懸濁し、NSGマウスに同所的に注射した。採血は、LM2細胞では腫瘍発症後4~5週間、BR16では腫瘍発症後5~6か月、BRx50細胞では腫瘍発症後6~7か月で実施した。
【0132】
単独細胞のマイクロマニピュレーション
濃縮したCTCは、6ウェルの超低付着プレート(Corning、カタログ番号3471-COR)内の1mlのD-PBS溶液(Invitrogen、カタログ番号14190169)中にParsortixカセットから収集され、CKX41オリンパス倒立蛍光顕微鏡(AVISO CellCelector Micromanipulator-ALSの一部)を使用して視覚化した。単独CTC及びCTCクラスターは、無傷の細胞形態、AF488/FITC陽性染色、及びBV605欠損の染色に基づいて同定した。標的細胞は、AVISO CellCelectorマイクロマニピュレーター(ALS)で30μMのガラスキャピラリーを使用して個別にマイクロマニピュレーションし、WGBS用に10μlの2×消化緩衝液(EZ DNA Methylation Direct Kit- Zymo、カタログ番号D5020)又はRNAシーケンス用に1U/μlのSUPERase In RNAse阻害剤(Invitrogen、カタログ番号AM2694)を補充した2μlのRLT溶解緩衝液(Qiagen、カタログ番号79216)を含有する個々のPCRチューブ(Axygen、カタログ番号321-032-501)に堆積させ、液体窒素で直ちにフラッシュ凍結した。
【0133】
単独細胞全ゲノムの重亜硫酸塩シーケンシング
プロテイナーゼK消化と重亜硫酸塩処理は、EZ DNAメチル化ダイレクトキット(Zymo、カタログ番号D5020)の製造元の指示に従って実行した。重亜硫酸塩処理したDNAは、9μlの溶出緩衝液を使用して溶出し、製造元の指示に従ってTruSeq DNAメチル化キット(Illumina、カタログ番号EGMK91396)を使用してライブラリーを生成するために使用した。増幅のために、フェイルセーフ酵素(Illumina、カタログ番号FSE51100)を使用して18サイクルを実行し、インデックスプライマーズキット(Illumina、カタログ番号EGIDX81312)を使用してインデックスを導入した。ライブラリーの精製は、製造元の指示に従ってAgencourt AMPure XPビーズを1:1の比率で使用して実施した。ピペッティング工程時のDNA損失を回避するために、Corning DeckWork低結合バリアピペットチップを使用した(Sigma、カタログ番号CLS4135-4X960EA)。ライブラリー濃度は、Qubit DS DNA HSアッセイキットを製造元の指示に従って使用して推定した(Invitrogen、カタログ番号Q32854)。
【0134】
RNA配列ライブラリーの作成
Macaulayら(Nat Protoc 11、 2081-2103、2016)に従って、オリゴdTプライマーと結合したビーズ上にRNAを捕捉した(Nat Protoc 11、2081-2103、2016)。cDNAは、PicelliらのSmart-Seq2プロトコル(Nat Protoc 9、171-181、2014)に従って生成した。Nextera XT DNAライブラリー調製キット(Illumina、カタログ番号FC-131-2001)を製造元の指示に従って使用して、試料あたり0.25ngのcDNAから配列ライブラリーを生成し、インデックスを作成した。
【0135】
FDA承認の化合物スクリーニング
2486個のFDA承認化合物を含むライブラリーは、Nexus Platform-ETH Zurichから購入した。各化合物を15μM濃度のCTC培地を使用して再懸濁し、20μlを合計64個の平底透明超低付着96ウェルプレート(Corning、カタログ番号3474)に二重にアリコートした。
【0136】
CTC由来の細胞株のクラスターサイズを小さくするために、40μmのセルストレーナーを使用した(Corning、カタログ番号431750)。5000個のCTC由来細胞を含む40μlを、15μMの濃度で事前に分注したFDA承認化合物20μlを含む96ウェル超低付着プレートにウェルごとに播種し、最終的な化合物濃度を5μMにした。プレートを低酸素(5%酸素)で2日間インキュベートした後、20μlを40μlのD-PBS(Invitrogen、カタログ番号14190169)を含む96ウェルの黒色/透明組織培養処理プレート(BD Falcon、カタログ番号353219)に移し、最終濃度4μMのHoechst 34580(Invitrogen、カタログ番号H21486)、2μMのTMRM(Invitrogen、カタログ番号T668)、及び4μMのTOTO-3(Invitrogen、カタログ番号T3604)で37°Cで1時間染色した。各プレートには、2つの陽性対照(未処理細胞)と2つの陰性対照(未処理及び40μMろ過細胞)を含んだ。Zファクターは、次の式を使用して個々のプレートごとに計算した。Z’=1-3(σs+σc)/|μs-μc|3(σ:標準偏差、μ:平均、s:陽性対照、c:陰性対照)(Martinら、PLoS One9,e88338,2014)で、範囲は、0.62~0.937の間であった。プレートはOperetta ハイコンテントイメージングシステム(Perkin Elmer社)を用いてスキャンし、Harmony ハイコンテントイメージングシステム及び解析ソフトウェア(Perkin Elmer社)を用いてクラスター分析を行った。
【0137】
エンリッチメントスコア
エンリッチメントスコア(ES)は、多くの対象物を含む試料内の特定の対象物の過剰出現又は過小出現を示す。正のESは、分析された機能のセット内の他の特性と比較して、特定の特性が過剰出現されていることを示す(=エンリッチメント(濃縮))。負のエンリッチメントスコアは、反対のことを示し、つまり、試料内の他の特性の値が予想されるよりも特性の存在が少ないことを示す。言い換えれば、ある転写因子結合部位(TFBS)の正のESは、TFBSが他のTFBSよりも高い程度で試料に出現していることを示す(=エンリッチメント化)。エンリッチメントスコアは、特定のESをデータセットの全ての対象物のエンリッチメントスコアの平均で割ることによって正規化して、正規化エンリッチメントスコア(NES)を得るができる。エンリッチメントスコアの正規化は、遺伝子セットのサイズの差異、及び遺伝子セットと発現データセット間の相関の差異を説明し、したがって、正規化エンリッチメントスコア(NES)は、遺伝子セット全体で分析結果を比較するために使用することができる。該分析では、NESスコアが3.0以上のTFBSのみが有意であると見なされる。
【0138】
BR16でのCRISPR-CAS9 CLDN3/4ダブルノックアウト
本発明者らは、pLenti-Cas9-EGFPベクター(Addgene)のレンチウイルス送達を使用して、GFPとともにCas9タンパク質を安定して発現するBR16のCTC由来細胞株を生成した。次いで、BR16-Cas9-GFP株において、本発明者らは、CLDN3又はCLDN4のいずれかを標的とするsgRNA配列を導入した。詳細には、sgRNA配列はGPPのWebポータル(https://portals.broadinstitute.org/gpp/public/analysis-tools/sgrna-design)を使用して設計した。CLDN3を標的とする2つのsgRNA((センス)5’-CACGTCGCAGAACATCTGGG-3’(配列番号01)及び(センス)5’-ACGTCGCAGAACATCTGGGA-3’;(配列番号02))をベクターであるpLentiGuide-Puro(Addgene)でクローニングし、CLDN4を標的とする2つのsgRNA((センス)5’-CAAGGCCAAGACCATGATCG-3’(配列番号03)及び(センス)5’-ATGGGTGCCTCGCTCTACGT-3’;(配列番号04))をベクターであるpLentiGuide-Blastでクローニングした。ベクターpLentiGuide-Blastは、プラスミドpLentiGuide-Puroのピューロマイシン耐性遺伝子を、MluI及びBsiWI制限酵素部位を用いてブラスチジン耐性遺伝子に置き換えることにより作成した。二重陽性クローンは、2週間のピューロマイシン(1μg/mL)とブラストサイジン(10μg/mL)の抗生物質選択に基づいて選択され、CLDN3/CLDN4ノックアウトはウエスタンブロットで検証された。
【0139】
生存率分析
生存率分析はsurvival R package(v2.41-3)を用いて行った。カプラン・マイヤー曲線を作成し、ログランク検定を用いて群間の生存率の差の有意性を推定した。患者については、無増悪生存期間を、原発性腫瘍の診断から最初の再発までの期間と定義した。マウスモデルの解析では、死亡を解析のエンドポイントとして選択し、発明者らのマウスプロトコルガイドラインに従い、所与の動物を安楽死させなければならない時と定義した。
【配列表】
【国際調査報告】