(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-14
(54)【発明の名称】検査方法および検査システム
(51)【国際特許分類】
G01N 25/72 20060101AFI20220204BHJP
G01J 5/48 20220101ALI20220204BHJP
G01J 5/00 20220101ALI20220204BHJP
B22D 18/04 20060101ALI20220204BHJP
【FI】
G01N25/72 Z
G01J5/48 C
G01J5/00 101D
B22D18/04 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021535224
(86)(22)【出願日】2019-12-17
(85)【翻訳文提出日】2021-08-16
(86)【国際出願番号】 EP2019085753
(87)【国際公開番号】W WO2020127347
(87)【国際公開日】2020-06-25
(31)【優先権主張番号】102018000020014
(32)【優先日】2018-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(31)【優先権主張番号】102018000020017
(32)【優先日】2018-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500200708
【氏名又は名称】マーポス、ソチエタ、ペル、アツィオーニ
【氏名又は名称原語表記】MARPOSS S.P.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(72)【発明者】
【氏名】ステファノ、ベルッコ
(72)【発明者】
【氏名】ダニエーレ、ランツォーニ
【テーマコード(参考)】
2G040
2G066
【Fターム(参考)】
2G040AA05
2G040AB19
2G040BA14
2G040BA25
2G040CA01
2G040DA06
2G040DA12
2G040DA15
2G040EA02
2G040EA03
2G040EA08
2G040HA05
2G040ZA08
2G066AC01
2G066AC11
2G066CA02
2G066CA04
(57)【要約】
検査方法は、溶融金属を型(3)に供給するステップと、前記型から所定の冷却時間後に凝固した前記溶融金属により成形された前記機械部品(2)を取り出すステップと、前記型(3)の内部表面(7)の少なくとも1つのリアルサーモグラフィ画像(A、X)を取得するステップと、を含む。製造された機械部品の品質を検査するために、前記リアルサーモグラフィ画像(A、X)の少なくとも一部および/または関連パラメータが、所定の許容範囲に属する画像および/または関連パラメータと比較される。前記リアルサーモグラフィ画像(A、X)および/または関連パラメータが、前記所定の許容範囲に属する前記画像および/または関連パラメータに対応しない場合、前記機械部品(2)に異常が存在する可能性があることが検出される。差分サーモグラフィ画像(C、Z)であって、前記差分サーモグラフィ画像(C、Z)のポイントは、前記リアルサーモグラフィ画像(A、X)のポイントの値と参照サーモグラフィ画像(A、X、B、Y)の対応するポイントの値との差に等しい値を有する差分サーモグラフィ画像(C、Z)が決定され、製造プロセスの少なくとも一部を検査するように使用される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造工場において型(3)を用いて作製された機械部品(2)を検査するための検査方法であって、
溶融金属を前記型(3)に供給するステップと、
前記型(3)から、所定の冷却時間後に、凝固した前記溶融金属により形成された前記機械部品(2)を取り出すステップと、
前記型(3)の内部表面(7)の少なくとも1つのリアルサーモグラフィ画像(A、X)を取得するステップと、
を任意の順序で含む検査方法において、前記検査方法は、
前記リアルサーモグラフィ画像(A、X)の少なくとも一部および/または関連パラメータと、所定の許容範囲に属する画像および/または関連パラメータとを比較するさらなるステップと、
前記リアルサーモグラフィ画像(A、X)および/または関連パラメータが、前記所定の許容範囲に属する前記画像および/または関連パラメータに対応しない場合、前記機械部品(2)に異常が存在する可能性があると判定するさらなるステップと、
を備えることを特徴とする検査方法。
【請求項2】
前記リアルサーモグラフィ画像(A、X)および/または関連パラメータおよび/または前記異常の可能性を、前記機械部品(2)の生産レポートに保存するさらなるステップを備える、請求項1に記載の検査方法。
【請求項3】
前記型(3)は、相互に結合可能であるとともに離間可能である少なくとも2つのパーツ(5)を備え、
前記方法は、
前記型(3)を閉じることにより、前記溶融金属が前記型(3)に注入される閉じた構成を、前記型(3)に取らせるさらなるステップと、
前記型(3)を開くことにより、前記機械部品(2)が前記型(3)から取り出される開いた構成を、前記型(3)に取らせるさらなるステップと、
を備える、請求項1または2に記載の検査方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つのリアルサーモグラフィ画像(A、X)は、前記型(3)を閉じる直前に取得される、請求項3に記載の検査方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つのリアルサーモグラフィ画像(A、X)は、前記型(3)を開いた直後に取得される、請求項3または4に記載の検査方法。
【請求項6】
前記リアルサーモグラフィ画像(A、X)および/または関連パラメータと、前記許容範囲に属する画像および/または関連パラメータとの差が、少なくとも1つの閾値より大きい場合に前記機械部品(2)を破棄する、さらなるステップを備える、請求項1~5のいずれか一項に記載の検査方法。
【請求項7】
前記リアルサーモグラフィ画像(A、X)および/または関連パラメータが、前記許容範囲に属する画像および/または関連パラメータに対応しない場合に前記機械部品(2)のさらなる品質管理を要求する、さらなるステップを備える、請求項1~6のいずれか一項に記載の検査方法。
【請求項8】
前記リアルサーモグラフィ画像(A、X)および/または関連パラメータと、前記許容範囲に属する画像および/または関連パラメータとを比較するために、少なくとも1つの関心領域(R1-R3)においてポイント毎に比較することにより、前記リアルサーモグラフィ画像(A、X)は、対応する参照サーモグラフィ画像(B、Y)と比較される、請求項1~7のいずれか一項に記載の検査方法。
【請求項9】
前記許容範囲は、前記リアルサーモグラフィ画像(A、X)と前記参照サーモグラフィ画像(B、Y)との最大許容差を規定する、請求項8に記載の検査方法。
【請求項10】
差分サーモグラフィ画像(C、Z)を決定することにより、前記リアルサーモグラフィ画像(A、X)は、前記参照サーモグラフィ画像(B、Y)と比較され、前記差分サーモグラフィ画像(C、Z)のポイントは、前記リアルサーモグラフィ画像(A、X)のポイントの値と、前記参照サーモグラフィ画像(B、Y)の対応するポイントの値との差に等しい値を有する、請求項8または9に記載の検査方法。
【請求項11】
前記参照サーモグラフィ画像(B、Y)は、機械部品の製造プロセスのシミュレーションにより得られる、請求項8~10のいずれか一項に記載の検査方法。
【請求項12】
前記参照サーモグラフィ画像(B、Y)は、実質的に欠陥のない機械部品(2)を製造可能であることが証明された製造プロセスのリアルサーモグラフィ画像を取得することにより得られる、請求項8~10のいずれか一項に記載の検査方法。
【請求項13】
前記機械部品(2)を成形するために前記型(3)に前記溶融金属を供給する直前に、第1リアルサーモグラフィ画像(A)を取得するステップと、
前記機械部品(2)を前記型(3)から取り出した直後に、第2リアルサーモグラフィ画像(X)を取得するステップと、
前記第1リアルサーモグラフィ画像(A)の少なくとも一部および/または関連パラメータが、第1許容範囲に属する画像および/または関連パラメータに対応するか否か、および/または、前記第2リアルサーモグラフィ画像(X)の少なくとも一部および/または関連パラメータが、第2許容範囲に属する画像および/または関連パラメータに対応するか否かを確認するステップと、
先行する前記ステップによる確認の結果に基づいて、前記機械部品(2)に存在する異常の可能性を判定するステップと、
を備える、請求項1~12のいずれか一項に記載の検査方法。
【請求項14】
前記第2サーモグラフィ画像(X)の取得後に、前記型(3)の前記内部表面(7)の冷却または加熱温度処理を実施するさらなるステップを備える、請求項13に記載の検査方法。
【請求項15】
鋳造工場において型(3)を用いて作製された機械部品(2)を検査するための検査システム(8)であって、
前記型(3)は、相互に結合可能であるとともに離間可能である少なくとも2つのパーツ(5)を備えるとともに、内部表面(7)を有し、
前記型が閉じた構成にあるときに、溶融金属を前記型(3)に供給するための供給装置(4)が設けられ、
前記検査システム(8)は、前記型(3)が開いた構成にあるときに、前記型(3)の前記内部表面(7)の少なくとも1つのリアルサーモグラフィ画像(A、X)を取得するように適合された少なくとも1つの温度カメラ(10)を備え、
前記検査システム(8)は、
前記リアルサーモグラフィ画像(A、X)の少なくとも一部および/または関連パラメータと、所定の許容範囲に属する画像および/または関連パラメータとを比較し、
前記リアルサーモグラフィ画像(A、X)および/または関連パラメータが、前記許容範囲に属する前記画像および/または関連パラメータに対応しない場合、前記機械部品(2)に異常が存在する可能性があると判定する、
ように適合された処理ユニット(9)を備えることを特徴とする検査システム(8)。
【請求項16】
鋳造工場において型(3)を使用する製造プロセスを検査するための検査方法であって、
溶融金属を前記型(3)に供給するステップと、
前記型(3)から、冷却時間の終了後に、凝固した前記溶融金属により成形された機械部品(2)を取り出すステップと、
前記型(3)の内部表面(7)の少なくとも1つのリアルサーモグラフィ画像(A、X)を取得するステップと、
を備える検査方法において、前記検査方法は、
差分サーモグラフィ画像(C、Z)を決定するステップであって、前記差分サーモグラフィ画像(C、Z)のポイントは、前記リアルサーモグラフィ画像(A、X)のポイントの値と、参照サーモグラフィ画像(A、X、B、Y)の対応するポイントの値との差に等しい値を有するさらなるステップと、
前記差分サーモグラフィ画像(C、Z)を使用して前記製造プロセスの少なくとも一部を検査するさらなるステップと、
を備えることを特徴とする検査方法。
【請求項17】
前記型(3)は、相互に結合可能であるとともに離間可能である少なくとも2つのパーツ(5)を備え、
前記方法は、
前記型(3)を閉じることにより、前記溶融金属が前記型(3)に供給される閉じた構成を前記型に取らせるさらなるステップと、
前記型(3)を開くことにより、前記機械部品(2)が前記型(3)から取り出される開いた構成を前記型に取らせるさらなるステップと、
を備える、請求項16に記載の検査方法。
【請求項18】
前記少なくとも1つのリアルサーモグラフィ画像(A、X)は、前記型(3)を閉じる直前に取得される、請求項17に記載の検査方法。
【請求項19】
前記少なくとも1つのリアルサーモグラフィ画像(A、X)は、前記型(3)を開いた直後に取得される、請求項17または18に記載の検査方法。
【請求項20】
前記差分サーモグラフィ画像(C、Z)をスクリーンに表示するさらなるステップを備える、請求項16~19のいずれか一項に記載の検査方法。
【請求項21】
前記差分サーモグラフィ画像(C、Z)を使用して前記型(3)の壁の温度調節を実行するさらなるステップを備える、請求項16~20のいずれか一項に記載の検査方法。
【請求項22】
前記差分サーモグラフィ画像(C、Z)を使用して前記型(3)に作用するプロセスの調整を実施するさらなるステップを備える、請求項16~21のいずれか一項に記載の検査方法。
【請求項23】
分析プロセスを前記差分サーモグラフィ画像(C、Z)に適用してサマリーパラメータを得るさらなるステップを備える、請求項16~22のいずれか一項に記載の検査方法。
【請求項24】
前記サマリーパラメータは、前記型(3)の壁の温度を調節するために、および/または前記型(3)に作用する他のプロセスを調整するために使用される、請求項23に記載の検査方法。
【請求項25】
前記参照サーモグラフィ画像は、前記機械部品(2)の製造プロセスのシミュレーションにより得られる所定の参照サーモグラフィ画像(B、Y)である、請求項16~24のいずれか一項に記載の検査方法。
【請求項26】
前記参照サーモグラフィ画像は、実質的に欠陥のない機械部品(2)を製造すると証明された製造プロセスのリアルサーモグラフィ画像を取得することにより得られる所定の参照サーモグラフィ画像(B、Y)である、請求項16~24のいずれか一項に記載の検査方法。
【請求項27】
前記参照サーモグラフィ画像は、先行して取得された、前記型(3)の前記内部表面(7)の別のリアルサーモグラフィ画像(A、X)である、請求項16~24のいずれか一項に記載の検査方法。
【請求項28】
前記リアルサーモグラフィ画像(A)は、前記型(3)の前記内部表面(7)の温度処理の実行後に取得されるとともに、前記別のリアルサーモグラフィ画像(X)は、前記型(3)の前記内部表面(7)の前記温度処理が実施される前に取得される、請求項27に記載の検査方法。
【請求項29】
前記別のリアルサーモグラフィ画像(X)は、先行する温度処理の実行前に取得される、請求項27に記載の検査方法。
【請求項30】
鋳造工場において型(3)を使用する製造プロセスを検査するための検査システム(8)であって、
前記型(3)は、相互に結合可能であるとともに離間可能である少なくとも2つのパーツ(5)を備えるとともに、内部表面(7)を有し、
前記型(3)が閉じた構成にあるときに溶融金属を前記型(3)に供給するための供給装置(4)が設けられ、
前記検査システム(8)は、前記型(3)が開いた構成にあるときに前記型(3)の内部表面(7)の少なくとも1つのリアルサーモグラフィ画像(A、X)を取得するように適合された少なくとも1つの温度カメラ(10)を備え、
前記検査システム(8)は、
差分サーモグラフィ画像(C、Z)であって、前記差分サーモグラフィ画像(C、Z)のポイントは、前記リアルサーモグラフィ画像(A、X)のポイントの値と、参照サーモグラフィ画像(A、X、B、Y)の対応するポイントの値との差に等しい値を有する差分サーモグラフィ画像(C、Z)を決定し、
前記差分サーモグラフィ画像(C、Z)を使用して前記製造プロセスの少なくとも一部を検査する、
ように適合された処理ユニット(9)を備えることを特徴とする検査システム(8)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造工場において型を用いて作製された機械部品を検査するための検査方法および検査システムに関する。さらに、本発明は、鋳造工場において型を使用する製造プロセスを検査するための検査方法および検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
鋳造工場において部品を製造するためのステーション、すなわちダイカスト機は、所定量の溶融金属が重力または注入により供給される少なくとも1つの開閉可能な型(金型、鋳型、モールド)を有している。溶融金属は、型の内部で凝固し、ダイカスト、すなわち機械部品を成形する。凝固する溶融金属と、型の内部表面との熱交換は、型の内部で成形される機械部品の最終的な品質に最も大きな影響を及ぼす要因である。通常、温度制御器が型に内蔵されており、温度制御器は、温度センサ(典型的には熱電対)によって測定された温度に応じて制御され、型の壁の温度を最適な所望値に保つようになっている。しかしながら、温度制御器の作動は比較的遅く(すなわち、表面温度を大きく変動させるのに数十秒かかる)、不測の事態(例えば、高圧ダイカストの場合、注入の遅れや注入速度の低下)、または冷却プロセスおよび潤滑プロセスにおけるエラー(例えば、潤滑剤の噴霧時間が長すぎて型の内部表面が過度に冷える場合、または潤滑剤の噴霧が不均一で型の内部表面が均一に冷えない場合)に際して、表面温度における変化を効果的に補償することができない。
【0003】
上記の不具合に対処するために、赤外線温度カメラが使用される。赤外線温度カメラは、型が開いているときに、型の内部表面のサーモグラフィ画像を取得する。通常、成形されたばかりの機械部品を取り出した直後の型の内部表面のサーモグラフィ画像、および型を閉じる直前(すなわち、潤滑剤の噴霧後)の型の内部表面のサーモグラフィ画像が取得される。型の内部表面のサーモグラフィ画像により、各ダイカストプロセスにおける型の最も重要なエリアの温度を監視することができるため、これらの温度が所望の温度におおよそ近いかどうかを判定することができる。このようにして、オペレータは、ダイカストプロセスが比較的安定しているかどうか、または型の内部表面の最適な温度条件を得られなくする事象が発生したかどうかを、合理的な確信をもって把握することができる。
【0004】
現行の解決策では、最も重要な型エリアのリアルタイムの温度値、および温度カメラによって撮影(フレーミング)されたエリア全体のサーモグラフィ画像が提供される。単数または複数の監視エリアの温度が所定レベルを超えるか下回った場合、検査システムがオペレータに、異常事態が発生したこと、そして異常を分析し、これに応じて温度制御器を調節するために介入する必要があることを警告する。
【0005】
換言すれば、型の内部表面の温度マップを決定するサーモグラフィ処理システムが市販されている。このような温度マップは、型の温度調節や潤滑プロセスの制御に使用できる。しかしながら、サーモグラフィ画像の分析および処理のほとんどは、プロセスに関連する機械の設定を変更するために、または型や機械部材の予防保全スケジュールを決定するために、温度データを処理するシステムの後に実施される。
【0006】
既知のサーモグラフィ処理システムは、型の内部表面のサーモグラフィ画像を分析して、サマリーパラメータや数値(例えば、「関心領域」と呼ばれる型の内部表面の限定された部分の最高温度/最低温度/平均温度)を取得する。これらは、その後、型の壁の温度を調節するため、および/または型に影響を及ぼす他のプロセス(例えば、新たなダイカストプロセス開始前に型の内部表面に潤滑剤を噴霧するプロセス)を調整するために利用される。
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、鋳造工場で型を用いて製造された機械部品を検査するための検査方法および検査システムを提供することである。このような方法およびシステムは、ダイカストプロセスにより製造される機械部品の平均的な品質を向上させ得ると同時に、容易かつ安価に実施することができる。
【0008】
本発明のさらなる目的は、鋳造工場で型(3)を使用する製造プロセスを検査するための検査方法および検査システムを提供することである。このような方法およびシステムは、ダイカストによる機械部品2の製造プロセスをより効果的かつ効率的な態様で検査することを可能とすると同時に、容易かつ安価に実施することができる。
【0009】
本発明は、添付の請求項に記載されるように、鋳造工場において型および製造プロセスを使用して製造された機械部品を検査するための検査方法およびシステムを提供する。
【0010】
特許請求の範囲は、本発明の実施形態を記載しており、本明細書の一体の部分を成形している。
【0011】
以下に本発明を、例示的かつ非限定的なものとして理解されるべき好適な実施形態を示す添付図面を参照しつつ説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、型が閉じた構成にある、鋳造工場で機械部品を製造するためのステーション、すなわちダイカスト機の概略図。
【
図2】
図2は、型が開いた構成にある、
図2のステーションの概略図。
【
図3】
図3は、
図2の型の内部表面のサーモグラフィ画像の概略図。
【
図4】
図4は、
図2の型の内部表面のサーモグラフィ画像の概略図。
【
図5】
図5は、
図2の型の内部表面のサーモグラフィ画像の概略図。
【
図6】
図6は、
図2の型の内部表面のサーモグラフィ画像の概略図。
【
図7】
図7は、
図2の型の内部表面のサーモグラフィ画像の概略図。
【
図8】
図8は、
図2の型の内部表面のサーモグラフィ画像の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
鋳造工場で機械部品2を製造するためのステーション、すなわちダイカスト機が
図1に極めて概略的に示され、全体として参照番号1が付されている。例えばHPDC(高圧鋳造(High Pressure Die Casting))機であるダイカスト機1は、内燃機関用のシリンダヘッドやシリンダーブロック等の、アルミニウムまたは他の軽合金製の機械部品2の製造を可能とする。
【0014】
ダイカスト機1は、開閉可能(すなわち、
図1に示す閉じた構成と
図2に示す開いた構成との間で移動可能)な型(金型、鋳型、モールド(以降において、「金型」と呼ぶ))3と、供給装置4と、を有している。供給装置4は、簡潔性を期して図示しない適切な開口を介して、本質的に公知の態様で、金型3の内部で凝固して機械部品2を成形する所定量の溶融金属を金型3内に供給するように適合されている。
【0015】
添付図面に示す実施形態において、金型3は2つのパーツ5を有しており、少なくとも一方は金型3の開閉のために移動可能である(図示しない他の実施形態によれば、金型3は2つより多いパーツを備える)。特に、2つのパーツ5のうちの少なくとも1つは、このパーツ5を移動させるように適合されたアクチュエータ(既知のタイプのもの、一般的には油圧アクチュエータ)に接続されている。換言すれば、金型3は、互いに結合可能(すなわち、
図1に示すように、金型3を閉じるように互いに接合可能)であるとともに、離間可能(すなわち、
図2に示すように、金型3を開くように互いから離れるように移動可能)である、少なくとも2つのパーツ5からなる。
【0016】
図2に示すものによれば、中空部6が、金型3の各パーツ5に成形されている。金型3が閉じた構成にあるとき、金型3のパーツ5の中空部6は、機械部品2のネガ形状を有するキャビティを規定する。供給装置4は、溶融金属を空洞部6に供給する。各空洞部6は、供給装置4により供給される、溶融金属と使用時に接触する内部表面7により区切られている。
【0017】
金型3の内部、より具体的には金型3の各パーツ5の内部には、(例えばガスバーナーを使用する)ヒーターおよび(例えば適切な回路内の冷却剤を使用する)クーラーが設けられている。これらのヒーターおよびクーラーは、金型3の壁を所望の温度に近づけ、そして維持するように調整可能である。
【0018】
使用において、金型3は初期状態では開いた構成(
図2に示す)にあり、潤滑サイクルの影響下にある。潤滑サイクルの最中に、図示しないノズルが、各空洞部6の内部および対応する内部表面7に対して、水と離型剤との混合物を噴霧する。水は内部表面7を冷却する役割を果たし、離型剤は、機械部部品2の内部表面7に対する付着を弱めて機械部品2の内部表面7からの脱離を容易にする。金型3の準備が完了すると、すなわち、潤滑サイクルが完了すると、金型3は閉じられる。すなわち、金型3は、開いた構成(
図2に示す)から閉じた構成(
図1に示す)をとるように移動する。金型3を閉じる前に、(もしあれば、一般に使い捨てで押し固められた砂から構成される)中子が金型3に挿入される。所定量の溶融金属が、閉じた金型3内に、すなわち、
図1に示す閉じた構成にある金型3に供給される。換言すれば、溶融金属が金型3内に注入されて、ダイカストとも呼ばれる機械部品2が成形される。
【0019】
金型3内へ供給された後、溶融金属は、所定の冷却時間(例えば20~50秒)に亘って冷却される。これにより、溶融金属から成形された機械部品2は金型3から損傷なく取り出すことができるほど、十分に凝固できる。冷却時間が終了すると、金型3が開けられる。すなわち、金型3は、閉じた構成(
図1に示す)から開いた構成(
図2に示す)をとるように移動し、そして新たに成形された機械部品2が金型3から取り出される。こうして、次の機械部品2を製造するようにサイクルが再び開始され、新たな潤滑サイクルが実施される。
【0020】
図1および2に示すように、ダイカスト機1は、処理ユニット9を含む検査システム8を有している。処理ユニット9は、ダイカスト機1全体の動作を管理するとともに、金型3の壁に埋設された(挿入された)複数の温度センサ(例えば熱電対)に接続されていることが好適である(が必ずしも必要ではない)。温度センサは、金型3の壁の内部、より具体的には、溶融金属に直接接触する内部表面7付近の温度をリアルタイムで測定する。温度センサにより提供された測定値は、(例えばガスバーナーを使用する)ヒーターまたは(冷却剤を使用する)クーラーを制御するために、検査システム8により使用され、これにより、金型3の壁の温度が所定範囲内に維持される。
【0021】
検査システム8は、一対の温度カメラ10(すなわちサーモグラフィカメラ)を有している。温度カメラ10は、赤外線放射に感度があることで、サーモグラフィ画像またはショットを取得可能な特定のカメラである。温度カメラカム10は、固定焦点カメラ(通常、金型3の寸法があまり可変的でない場合に使用される)、またはオートフォーカスカメラ(通常、非常に異なるサイズの金型3がダイカスト機1に設置される場合に使用される)であり得る。温度カメラ10は、(
図2に示すような)金型3の開いた状態において、金型3の2つのパーツ5の(むしろ空洞部6の)内部表面7に向けて置かれる。より具体的には、各温度カメラ10は、(
図2に示すような)金型3の開いた状態において、金型3のパーツ5の内部表面7を撮影する。このようにして、各温度カメラ10は、対応する内部表面7のサーモグラフィ画像、すなわち、各ピクセルが内部表面7の対応するエリアの温度の測定値を表す画像を取得することができる。図示しない代替実施形態によれば、検査システム8は、異なる個数の温度カメラ10を有している。すなわち、最低で1つの温度カメラ10から複数(3、4、5、6、…)の温度カメラ10を有しており、各温度カメラが金型3の特定のパーツ5、またはそれぞれの空洞部6の内部表面7のエリアを撮影する。
【0022】
金型3の内部表面7の温度状態は、ダイカストプロセスにより製造される機械部品2の品質にとって重要な要素である。機械部品2の品質に関する情報は、金型3の内部表面7のサーモグラフィ画像の分析に基づいて得られる。
【0023】
以下に、金型3を使用した単一の機械部品2の製造プロセスについて説明する。本製造プロセスでは、2つの温度カメラ10により取得された、金型3の内部表面7のサーモグラフィ画像を使用して機械部品2の品質を判定する)。
【0024】
初期状態において、金型3は、(
図2に示すように)開いているとともに空であり、機械部品2を成形する準備ができている。金型3を閉じる直前に、すなわち、金型3を閉じる瞬間に対して可能な限り直前に、処理ユニット9は、2つの温度カメラ10を介して、開いた構成にある金型3の少なくとも一方の内部表面7の少なくとも第1リアルサーモグラフィ画像(
図3に概略的に示す)を取得する。通常、2つの温度カメラ10の各々が、金型3の対応する内部表面7のリアルサーモグラフィ画像を取得する。
【0025】
処理ユニット9が2つの温度カメラ10を介して金型3の少なくとも一方の内部表面7の少なくとも1つのリアルサーモグラフィ画像Aを取得した後、2つのパーツ5を相互に結合することにより金型3が(
図1に示すように)閉じられる。次いで、供給装置4が、溶融金属を、閉じた構成にある金型3に供給する。所定の冷却時間後、金型3は(
図2に示すように)開かれて、凝固した溶融金属により成形された機械部品2が金型3から取り出される。機械部品2を金型3から取り外した直後に(すなわち、機械部品2を金型3から取り出す瞬間に対して可能な限り最小の遅延により)、処理ユニット9は、2つの温度カメラ10を介して、開いた構成にある金型3の少なくとも一方の内部表面7の少なくとも1つの第2リアルサーモグラフィ画像X(
図6に概略的に示す)を取得する。通常、2つの温度カメラ10の各々が、金型3の対応する内部表面7のリアルサーモグラフィ画像Xを取得する。
【0026】
処理ユニット9は、リアルサーモグラフィ画像Aの少なくとも一部および/または関連パラメータ(例えば、後述のサマリーパラメータ)、およびリアルサーモグラフィ画像Xの少なくとも一部および/または関連パラメータ(例えば、後述のサマリーパラメータ)と、所定の許容範囲に属するそれぞれの画像および/または関連パラメータとを比較する。このような範囲は、理論的または実験的に決められている。具体的には、好適な実施形態によれば、リアルサーモグラフィ画像Aおよび/または関連パラメータと、許容範囲に属する画像および/または関連パラメータとを比較するために、少なくとも1つの関心領域(R1-R3)においてポイント毎に比較することにより、リアルサーモグラフィ画像Aは、対応する参照サーモグラフィ画像Bと比較される。同様に、リアルサーモグラフィ画像Xおよび/または関連パラメータと、許容範囲に属する画像および/または関連パラメータとを比較するために、少なくとも1つの関心領域(R1-R3)においてポイント毎に比較することにより、リアルサーモグラフィ画像Xは、対応する参照サーモグラフィ画像Yと比較される。本例において、許容範囲は、リアルサーモグラフィ画像A(またはX)と参照サーモグラフィ画像B(またはY)との最大許容差を規定し得る。
【0027】
リアルサーモグラフィ画像Aが対応する許容範囲から逸脱(相違)している(つまり、許容範囲に収まらない)場合、すなわちリアルサーモグラフィ画像Aおよび/または関連パラメータが対応する許容範囲に属する画像および/または関連パラメータに対応していない場合、および/または、リアルサーモグラフィ画像Xが対応する許容範囲から逸脱している(つまり、許容範囲に収まらない)場合、すなわちリアルサーモグラフィ画像Xおよび/または関連パラメータが対応する許容範囲に属する画像および/または関連パラメータに対応していない場合、処理ユニット9は、機械部品2に異常が存在する可能性があると判定する。別の実施形態によれば、処理ユニット9は、リアルサーモグラフィ画像Aおよび/または関連パラメータと、対応する許容範囲に属する画像および/または関連パラメータとを比較するのみである、または、リアルサーモグラフィ画像Xおよび/または関連パラメータと、対応する許容範囲に属する画像および/または関連パラメータとを比較するのみである。
【0028】
図3および6に示すように、リアルサーモグラフィ画像AおよびXにおいて、上述の関心領域(“ROI-Region Of Interest”)が特定されている。関心領域R1-R3は、金型3の内部表面7の最も重要なエリア、すなわち、機械部品2の製造に大抵影響を及ぼす、金型3の内部表面7のエリアを表す。リアルサーモグラフィ画像AおよびXの分析では、関心領域R1-R3に着目する。より具体的には、関心領域R1-R3の内側に存在するものは、関心領域R1-R3の外側に存在するものより大きな重みを有する。あるいは、関心領域R1-R3の外側にあるものは、完全に無視さえしてもよい。関心領域の個数、形状および配置は、事例毎に全く異なり得る。
【0029】
可能な実施形態によれば、処理ユニット9は、各リアルサーモグラフィ画像AまたはXの少なくともいくつかのエリア(例えば関心領域R1-R3)におけるサマリーパラメータまたは値(例えば、リアルサーモグラフィ画像AまたはBの関心領域R1-R3の最低温度/最高温度/平均温度)を決定し、リアルサーモグラフィ画像AまたはXから得たこれらのサマリー値と、許容範囲に属する対応するサマリーパラメータまたは値とを比較して、サーモグラフィ画像AまたはXが許容範囲に一致するか否かを判定する。換言すれば、処理ユニット9は、リアルサーモグラフィ画像AまたはXを使用してサマリーパラメータまたは値を計算し、これらのサマリーパラメータまたは値と、許容範囲の対応するパラメータまたは値とを比較する。例えば、関心領域R1の平均温度は220℃~230℃でなくてはならず、関心領域R2の最高温度は315℃~324℃でなくてはならず、関心領域R3の最低温度は180℃~196℃でなければならない。
【0030】
別の実施形態によれば、処理ユニット9は、リアルサーモグラフィ画像Aおよびリアルサーモグラフィ画像Xと、参照サーモグラフィ画像B(
図4に概略的に示す)および参照サーモグラフィ画像Y(
図7に概略的に示す)とをそれぞれ比較し、差分サーモグラフィ画像Cおよび差分サーモグラフィ画像Z(
図5および
図8に概略的に示す)を決定する。差分サーモグラフィ画像CおよびZのポイントは、リアルサーモグラフィ画像AまたはXのポイントの値と参照サーモグラフィ画像BまたはYの対応するポイントの値との差に等しい値を有する。換言すれば、リアルサーモグラフィ画像AまたはXの各ポイントの値が参照サーモグラフィ画像BまたはYの対応するポイントの値から減算されることにより、差分サーモグラフィ画像CまたはZの対応するポイントの値が決定される。この点に関して、サーモグラフィ画像A、B、X、Yのポイントの値は、当該ポイントに対応する温度を示し、差分サーモグラフィ画像CおよびZのポイントの値は、当該ポイントに対応する温度の差を示すことに留意することが重要である。
【0031】
換言すれば、処理ユニット9は、リアルサーモグラフィ画像AまたはXと、対応する参照サーモグラフィ画像BまたはYとを、ポイント毎に比較することにより、すなわち、リアルサーモグラフィ画像AまたはXの単一のポイント各々と、参照サーモグラフィ画像BまたはYの対応するポイントとを比較することによって、比較することができる。現在市販されている高精細温度カメラ10は、例えば640×512ピクセルの解像度を有する。すなわち、327,680ピクセルからなる。リアルサーモグラフィ画像AまたはXと、対応する参照サーモグラフィ画像BまたはYとの比較は、リアルサーモグラフィ画像AまたはXの327,680ピクセルの各々の値と、参照サーモグラフィ画像BまたはYの対応するピクセルの値との比較を伴う。
【0032】
続いて、処理ユニット9は、各差分サーモグラフィ画像CまたはZの少なくともいくつかのエリア(例えば関心領域R1-R3)におけるサマリーパラメータまたは値(例えば、差分サーモグラフィ画像CまたはZの関心領域R1-R3の最低温度/最高温度/平均温度)を決定し、差分サーモグラフィ画像CまたはZから導出されたこのようなサマリーパラメータまたは値と、変動範囲の対応するサマリーパラメータまたは値の合成とを比較して、サーモグラフィ画像AまたはXが許容範囲に一致するか否かを判定する。
【0033】
変動範囲は、ゼロ値から許容可能な量だけ外れている値のセットを実質的に表す。ゼロ値は、リアルサーモグラフィ画像AまたはXのポイントの値と、参照サーモグラフィ画像BまたはYの対応するポイントの値とが同一であることを示す。差分サーモグラフィ画像CまたはZが全領域において(特に関心領域R1-R3において)ゼロに十分に近い場合、リアルサーモグラフィ画像AまたはXは、参照サーモグラフィ画像BまたはYに対応(相当、一致)している(すなわち、十分に類似している)。
【0034】
処理ユニット9は、差分サーモグラフィ画像CまたはZを決定し、サーモグラフィ画像CまたはZの値が十分にゼロに近い、すなわち変動範囲内にあるということを確認することにより、リアルサーモグラフィ画像AまたはXが参照サーモグラフィ画像BまたはYに対応している(すなわち、十分に類似している)ということを確認する。例えば、関心領域R1の平均差分温度はマイナス10℃~プラス8℃でなければならず、関心領域R2の最大差分温度はマイナス19℃~プラス21℃でなければならず、関心領域R3の最小差分温度はマイナス1℃~プラス1℃でなければならない。
【0035】
可能な実施形態によれば、検査結果の妥当性をチェックするように、処理ユニット9は、上述した方法の両方を使用して、サーモグラフィ画像AまたはXの対応する許容範囲への一致を確認してもよい。
【0036】
好適な実施形態によれば、処理ユニット9は、リアルサーモグラフィ画像A、および/またはリアルサーモグラフィ画像X、および/または関連パラメータ、および/または検出された場合には異常を、機械部品2の(典型的にはデジタル形式の)生産レポート、すなわち機械部品2の製造履歴を含む(デジタル)形式に保存する。
【0037】
機械部品2に欠陥が生じることが将来あった場合、この欠陥を、機械部品2の製造プロセス中に発生した望ましくない温度偏差に関連付けることができる。
【0038】
リアルサーモグラフィ画像Aが対応する許容範囲から著しく逸脱(相違)している(すなわち、リアルサーモグラフィ画像Aが著しくこのような範囲から外れている)場合、および/またはリアルサーモグラフィ画像Xが対応する許容範囲から著しく逸脱している(すなわち、リアルサーモグラフィ画像Xが著しくこのような範囲から外れている)場合、処理ユニット9は、その後の追加的な(例えば、機械部品2に機械的欠陥が実質的に存在しないことを確認することを目的とした)品質管理のために機械部品2を隔離することを決定することができる、さらにまたは、機械部品2をそのまま廃棄することさえ決定することができる。通常、リアルサーモグラフィ画像Aと対応する許容範囲との逸脱(相違度)が少なくとも1つの第1閾値より大きい場合、および/またはリアルサーモグラフィ画像Xと対応する許容範囲との逸脱が少なくとも1つの第2閾値より大きい場合、処理ユニット9は、機械部品2をそのまま廃棄する。換言すれば、リアルサーモグラフィ画像Aが対応する許容範囲から著しく逸脱している(が逸脱し過ぎていない)場合、および/またはリアルサーモグラフィ画像Xが対応する許容範囲から著しく逸脱している(が逸脱し過ぎていない)場合、処理ユニット9は、通常、機械部品2のさらなる品質管理を要求することを決定する。これに代えて、リアルサーモグラフィ画像Aが対応する許容範囲から非常に逸脱している(例えば第1閾値を超えるほど逸脱し過ぎている)場合、および/またはリアルサーモグラフィ画像Xが対応する許容範囲から非常に逸脱している(例えば第2閾値を超えるほど逸脱し過ぎている)場合、処理ユニット9は、通常、機械部品2を廃棄することを決定する。
【0039】
第1リアルサーモグラフィ画像Aおよび/または関連パラメータの少なくとも一部が、対応する第1許容範囲に属する画像および/または関連パラメータに対応(相当、一致)していること、および、第2リアルサーモグラフィ画像Xおよび/または関連パラメータの少なくとも一部が、対応する第2許容範囲に属する画像および/または関連パラメータに対応(相当、一致)していることを確認することを目的とした検査の結果を互いに相関させて、および/またはリアルサーモグラフィ画像AまたはXの他の逸脱検査(相違度検査)と組み合わせて、機械部品に異常が存在する可能性を判定してもよい。例えば、第2リアルサーモグラフィ画像Xに関する第2閾値は、第1リアルサーモグラフィ画像Aの対応する変動範囲に対する逸脱を検出すべく実施された逸脱検査の結果を受けて定義され得る、または自動的に変更され得る。あるいは、通常、処理ユニット9は、機械部品2に存在し得る異常を判定することを目的として、第1リアルサーモグラフィ画像Aおよび第2リアルサーモグラフィ画像Xと、関連する許容範囲との間で検出され得るすべての逸脱を、状況に応じた方法により分析することができる。換言すれば、機械部品2に存在し得る異常の判定、およびこれに起因して当該機械部品2を廃棄するという決定は、第1サーモグラフィ画像Aおよび第2リアルサーモグラフィ画像Xの各々と、対応する許容範囲との単純な比較に基づいて行われるのではなく、状況に応じた方法による分析に基づいて行われるのである。
【0040】
可能な実施形態によれば、少なくとも1つの領域において、対応する差分サーモグラフィ画像CまたはZのポイントの値の平均が第3閾値より大きければ、リアルサーモグラフィ画像AまたはXは、参照サーモグラフィ画像BまたはYから逸脱している(すなわち異なっている)とみなされる。
【0041】
可能な実施形態によれば、参照サーモグラフィ画像BおよびYは、機械部品2の製造プロセスまたは成形プロセスのシミュレーションにより得られた所定の参照サーモグラフィ画像である。すなわち、これらは、機械部品の製造または成形プロセスの数学的モデルを用いて作成されたものである。代替実施形態によれば、参照サーモグラフィ画像BおよびYは、やはり所定の参照サーモグラフィ画像であるが、最適な製造プロセス、すなわち、理想的な条件で実施され実質的に欠陥のない機械部品2が生産されると証明された製造プロセスのリアルサーモグラフィ画像を取得することにより得られたものである。一般に、複数のリアルサーモグラフィ画像が取得され、参照サーモグラフィ画像BおよびYを得るための平均を計算するベースとして供される。参照サーモグラフィ画像BおよびYを最適なダイカストプロセスのリアルサーモグラフィ画像から取得し、次いで参照サーモグラフィ画像BおよびYをダイカストプロセスのシミュレーションに基づいて補正する(改善する)ことで、上述した2つの方法を組み合わせることも可能である。代替的に、参照サーモグラフィ画像BおよびYをダイカストプロセスのシミュレーションにより取得し、その後最適なダイカストプロセスのリアルサーモグラフィ画像に基づいて補正する(改善)する。
【0042】
本発明による方法は、決定された差分サーモグラフィ画像(C、Z)を使用して製造プロセスの少なくとも一部が検査されることを提供する。
【0043】
好適には、差分サーモグラフィ画像CまたはZは、ダイカスト機1のオペレータが見ることができるスクリーンに表示される。
【0044】
さらに、好適な実施形態によれば、差分サーモグラフィ画像CまたはZは、処理ユニット9により、金型3の壁の温度調節、および/または金型3に作用する他のプロセスの調整(例えば、新たなダイカストプロセスを開始する前の金型3の内部表面7の潤滑等)に使用され得る。具体的には、処理ユニット9は、差分サーモグラフィ画像CまたはZに分析プロセスを適用してサマリーパラメータ(例えば、内部表面7の限定された部分、すなわち関心領域R1-R3の最低温度/最高温度/平均温度の差)を取得することができる。次いで、サマリーパラメータは、金型3の壁の温度を調節する、および/または金型3に作用する他のプロセス(例えば、新たなダイカストプロセスを開始する前の金型3の内部表面7の潤滑等)を調整するように使用される。
【0045】
上述の方法により、金型3の内部表面7が最適でない温度条件によって製造された機械部品2を隔離するように、ダイカストプロセスにより製造される機械部品2の品質を間接的に検査することができる。機械部品2の品質を検査するこの新規な方法は、サンプリングや包括的調査により実施される機械部品2の最終検査であって、生産されたバッチの目視、X線、寸法、シール検査等の古典的な検査方法を採用する最終検査を排除するものではない。機械部品2の品質を検査する新規な方法により、最適でない条件によって、具体的には金型3の表面温度に異常があるときに製造された機械部品2を直ちに隔離すること可能になる。
【0046】
換言すれば、リアルサーモグラフィ画像Aが対応する許容範囲に一致する場合、処理ユニット9は、先行する潤滑操作および金型3の壁の温度調節により、金型3の内部表面7の適切な冷却がなされ得たことを(合理的な信頼をもって)想定する。換言すれば、処理ユニット9は、機械部品2の製造プロセスが制御下にあり、かつ異常または警戒条件がないことを(合理的な信頼をもって)確認する。同様に、リアルサーモグラフィ画像Xが対応する許容範囲に一致する場合、処理ユニット9は、機械部品2の製造が最適な条件で実施されたことを(合理的な確信をもって)想定する。換言すれば、処理ユニット9は、異常または警戒条件がない状態で、機械部品2の製造プロセスが制御下で実施されたことを(合理的な確信をもって)確認する。
【0047】
2つの検査段階(金型3を閉じる直前、および金型3から機械部品2を脱離した直後)のうちの一方において金型3の表面温度(すなわち金型3の内部表面7の温度)に異常条件が存在する場合、成形されて取り出された機械部品2は、さらなる調査のために隔離しなければならない。また、ダイカスト機の温度調節パラメータの検査が実施されなければならない。検出された警戒状態は、金型3を閉じる前の金型3の内部表面7の温度が所定のパラメータの範囲内であっても、後続の少なくとも1つのサイクルについて有効なままにすることができる。この警戒状態により、必要であれば、不安定な状態を脱した直後のプロセスにより製造された、単数または複数の機械部品2に印を付けることができる。
【0048】
機械部品2の品質を検査してレポートを提供する上述の方法は、高圧および低圧のダイカスト機において使用できる。なぜならば、本方法は、機械部品2の品質と、最も適切なプロセス段階における金型3の内部表面7またはその一部の温度マップの許容値との対応(相当、一致)を検査することに基づいているからである。また、ダイカスト機械部品2の品質を検査してレポートを提供する上述の方法は、重力ダイカストプロセスにより製造される機械部品の生産にも使用できる。この場合、金型3の内部表面7の温度マップは、金型3の加熱の終了後であって、金属が金型3に注入される前に、および/または機械部品2が金型3から取り出された後に自動的に検出され得る。
【0049】
噴霧潤滑は、一般的に高圧ダイカストにおいてのみ利用されることを強調することが、重要である。噴霧潤滑は、金型3を閉じる前に金型の内部表面7が炎によって加熱され得る低圧ダイカストおよび重力ダイカストでは、一般的に利用されない。
【0050】
高圧ダイカストに関する上述の説明を要約する。金型3を閉じる直前の第1リアルサーモグラフィ画像A、および機械部品2が金型3から取り出された直後の第2リアルサーモグラフィ画像Xの両方が取得される。次いで、金型3の内面7の冷却および潤滑温度処理が、第2リアルサーモグラフィ画像Xの取得後に実施される。本例では、処理ユニット9は、少なくとも関心領域R1-R3において、第1リアルサーモグラフィ画像Aの値が、(差分サーモグラフィ画像Cを用いて、または用いないで)対応する許容範囲に一致すること、および、少なくとも関心領域R1-R3において、第2リアルサーモグラフィ画像Xの値が、(差分サーモグラフィ画像Zを用いて、または用いないで)対応する許容範囲に一致することを検査する。
【0051】
低圧ダイカストでは、一般的にそうであるように、金型3の内部表面7の冷却または加熱温度処理が実施されない場合、金型3を閉じる直前のリアルサーモグラフィ画像Aのみ、または機械部品2が金型3から取り出された直後のリアルサーモグラフィ画像Xのみが取得され得る。本例では、処理ユニット9は、少なくとも関心領域R1-R3において、リアルサーモグラフィ画像AまたはXの値が、(差分サーモグラフィ画像CまたはZを用いて、または用いないで)対応する許容範囲に一致することを検査する。
【0052】
重力ダイカストでは、金型3を閉じる直前のリアルサーモグラフィ画像A、および機械部品2が金型3から取り出された直後のリアルサーモグラフィ画像Xの両方が取得され得る。次いで、金型3の内部表面7の(裸火による)加熱温度処理が、リアルサーモグラフィ画像Xの取得後に実施される。本例では、処理ユニット9は、少なくとも関心領域R1-R3において、リアルサーモグラフィ画像Aの値が、(差分サーモグラフィ画像Cを用いて、または用いないで)対応する許容範囲に一致すること、および、少なくとも関心領域R1-R3において、リアルサーモグラフィ画像Xの値が、(差分サーモグラフィ画像Zを用いて、または用いないで)対応する許容範囲に一致することを確認する。
【0053】
差分サーモグラフィ画像は、処理ユニット9により自動的に、またはオペレータにより手動で使用され得る。処理ユニット9は、例えば、差分サーモグラフィ画像から、制御パラメータの値を導出する。オペレータは、表示された画像に基づいて、対応策を取るか否か、そしてどのような対応策を取るかを決定して生産プロセスを制御することができる。
【0054】
上述のように、リアルサーモグラフィ画像AまたはXと、参照サーモグラフィ画像BまたはYとを(差分サーモグラフィ画像を用いて、または用いないで)比較すること、より具体的には、リアルサーモグラフィ画像AまたはXおよび/または関連パラメータと、対応する許容範囲に属する画像および/または関連パラメータとを比較することに加えて、本発明による方法は、リアルサーモグラフィ画像Aと、直前のリアルサーモグラフィ画像Xとを比較して、金型3の内部表面7の加熱または冷却温度処理の有効性を評価することを提供し得る。換言すれば、本例において、参照サーモグラフィ画像は、先行して取得された、金型3の内部表面7の別のリアルサーモグラフィ画像AまたはXである。
【0055】
例えば差分サーモグラフィ画像を得るための、本発明による方法の段階を表す他の可能な比較は、リアルサーモグラフィ画像AまたはXと、(時間的に多少離れた)先行するサイクルの別のリアルサーモグラフィ画像AまたはXとの比較である。先行するサイクルの別のリアルサーモグラフィ画像AまたはXは、例えば、経時的な熱ドリフトの存在する可能性を検査するように(すなわち、金型3の内部表面7がゆっくり加熱または冷却されているかを検査するように)、先行する温度処理の実行後に取得されたものである。
【0056】
本明細書で説明した実施形態は、本発明の保護範囲から外れることなく、互いに組み合わせることができる。
【0057】
上述の検査方法は、いくつかの利点を提供する。
【0058】
第1に、上述の検査方法により、ダイカストプロセスにより製造される機械部品2の平均的な品質を向上させることができる。剥離、孔、収縮、沈着物等の、ダイカストにおける欠陥の大部分は、金型3の内部表面7における不完全な温度分布によって引き起こされる、またはこれに関連している可能性がある。上述の検査方法により、各機械部品2の製造中に、(鋳造前、すなわち金型3を閉じる直前の、および鋳造後、すなわち機械部品2が金型3から取り出された直後の)金型3の内部表面7における温度分布が十分に最適なものに類似していることが保証される。
【0059】
差分サーモグラフィ画像CおよびZの使用により、対応するサーモグラフィ画像間の(すぐにはわからなくても)どのような差異も、より強調され得る。したがって、ダイカストによる機械部品2の製造プロセスをより効果的かつ効率的な方法によって検査することができる。
【0060】
さらに、リアルサーモグラフィ画像AおよびXの取得は、一瞬で完全に自動的に実施されるため、上述の検査方法がサイクルタイムを長くすることはない。
【0061】
最後に、多くの場合、上述の検査方法の実施によりコストが増加することはない。なぜならば、例えば潤滑プロセスの検査を目的として温度カメラ10はダイカスト機1に既に標準装備されているため、さらなるハードウェアを追加する必要がないからである。
【国際調査報告】