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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-14
(54)【発明の名称】基材上への流体の堆積制御システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/10 20060101AFI20220204BHJP
   G01Q 60/36 20100101ALI20220204BHJP
   G01Q 70/12 20100101ALI20220204BHJP
【FI】
G01N35/10 C
G01Q60/36
G01Q70/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021535266
(86)(22)【出願日】2019-12-17
(85)【翻訳文提出日】2021-07-02
(86)【国際出願番号】 FR2019053129
(87)【国際公開番号】W WO2020128310
(87)【国際公開日】2020-06-25
(31)【優先権主張番号】1873249
(32)【優先日】2018-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519094396
【氏名又は名称】パリ シアンス エ レトル
【氏名又は名称原語表記】PARIS SCIENCES ET LETTRES
(71)【出願人】
【識別番号】517024892
【氏名又は名称】センター ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ サイエンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(71)【出願人】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(71)【出願人】
【識別番号】511236062
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ デ パリ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE PARIS
(74)【代理人】
【識別番号】100196449
【弁理士】
【氏名又は名称】湯澤 亮
(72)【発明者】
【氏名】シリア, アレサンドロ
(72)【発明者】
【氏名】ニゲス, アントワーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ジュビン, ラエティティア
(72)【発明者】
【氏名】ボッケ, リーデリック
【テーマコード(参考)】
2G058
【Fターム(参考)】
2G058CD12
2G058ED02
2G058ED14
(57)【要約】
【解決手段】 本発明は、基材(20)上への流体の制御された堆積を行うシステム(10)、及びそのシステム(10)を採用する方法に関する。システムは:
- ナノインジェクタ(100)と、
- 前記ナノインジェクタ(100)に固定され、前記ナノインジェクタ(100)と前記基材(20)との間の接触を検出するように適合された機械共振器(120)と、
- 機械共振器(120)の制御手段(148)であって:
■ 機械共振器(120)を振動周波数(fi)で振動させるように適合された励振手段(142)と、
■ 機械共振器(120)の振動を検出するように適合された検出器手段(144)と、
■ 機械共振器(120)の振動を制御することによって、ナノインジェクタ(100)と基材(20)との間の接触を調整するように適合された調整器手段(146)と、
を具備する制御手段と、
を具備する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
- ナノインジェクタ(100)であって:
■ 前記流体の貯蔵用リザーバ(102)と、
■ 前記リザーバ(102)から前記流体を取り出す射出オリフィス(108)を有する非変形性の突起部(104)と、を具備するナノインジェクタ(100)と、
- 前記ナノインジェクタ(100)に固定され、前記突起部(104)と前記基材(20)との間の接触を検出するように適合された機械共振器(120)と、
- 前記機械共振器(120)の制御手段(148)であって:
- 前記機械共振器(120)を振動周波数(fi)で振動させて、前記突起部(104)が前記基材(20)と接触している低位置と、前記突起部(104)と前記基材(20)が接触していない高位置との間で前記突起部(104)が振動するように適合された前記機械共振器(120)の励振手段(142)、
- 前記機械共振器(120)の前記振動を検出するように適合された検出器手段(144)、及び
- 前記機械共振器(120)の前記振動を制御することによって、前記突起部(104)と前記基材(20)との間の前記接触を調整するように適合された調整器手段(146)であって、少なくとも、前記ナノインジェクタ(100)の前記基材(20)を、軸zに沿って一方を他方に向かって、又は一方を他方から遠ざけて移動させるように適合された調整用の第1の変位手段(160)に接続される調整器手段(146)、
に接続されている制御手段(148)と、
を具備する、基材(20)上への流体の堆積制御システム(10)。
【請求項2】
前記突起部(104)が機能化されている、請求項1に記載の堆積制御システム。
【請求項3】
前記射出オリフィス(108)が、5nm以上300nm以下の内径を有する、請求項1又は2に記載の堆積制御システム。
【請求項4】
前記第1の変位手段(160)が、前記軸zに直交する軸x、yに沿って前記基材(20)を変位させてパターンを製造するように適合された第2の変位手段に接続され、前記3本の直交軸x、y、zが直接三面体(direct trihedron)を形成する、請求項1から3のいずれか一項に記載の堆積制御システム。
【請求項5】
前記第1の変位手段(160)及び前記第2の変位手段が、単一の変位システムに含まれてもよい、請求項4に記載の堆積制御システム。
【請求項6】
前記第1の変位手段(160)、及び/又は前記第2の変位手段が圧電モータを具備する、請求項1から5のいずれか一項に記載の堆積制御システム。
【請求項7】
前記リザーバ(102)が外付けリザーバに接続されている、請求項1から6のいずれか一項に記載の堆積制御システム。
【請求項8】
以下の:
a)請求項1から7のいずれか一項に記載のシステム(10)を整えるステップと、
b)振動周波数(fi)で前記機械共振器(120)の振動を開始させる前記励振手段(142)によって前記機械共振器(120)を励振することにより、前記突起部(104)の制御された振動を開始させるステップであって、前記機械共振器(120)の前記振動が前記突起部(104)に伝達されるステップと、
c)前記第1の変位手段(160)を使用して前記基材(20)を前記突起部(104)に近づけて、前記基材(20)と前記突起部(104)との間に動的接触を生じさせるステップであって、前記突起部(104)が前記基材(20)と接触している低位置と、前記突起部(104)と前記基材(20)とが接触していない高位置との間で、前記突起部(104)が振動するステップと、
d)前記機械共振器(120)の前記振動を前記検出器手段(144)により検出して、前記突起部(104)と前記基材(20)との間の接触時の振動の変動を観測するステップと、
e)前記調整器手段(146)を使用し、そして前記振動の変動に応じて、前記突起部(104)と前記基材(20)との間の動的接触を調整して、前記突起部(104)と前記基材(20)との間に流体メニスカスを形成するようにするステップと、
f)前記突起部(104)と前記基材(20)との間の接触中に、前記射出オリフィス(108)を介して前記基材(20)上に流体を堆積させるステップと、
を含む、基材上への流体堆積方法。
【請求項9】
実時間で修正可能な軌跡に沿って、前記基材(20)上で前記ナノインジェクタ(100)を掃引して第1の層を製造するステップg)をさらに含む、請求項8に記載の流体堆積方法。
【請求項10】
前記掃引ステップg)が、前記突起部(104)と前記基材(20)との間での前記一定かつ所定の接触を維持した状態で実行される、請求項9に記載の流体堆積方法。
【請求項11】
前記第1の層を固化させるステップをさらに含む、請求項9又は10に記載の流体堆積方法。
【請求項12】
前記ナノインジェクタ(100)を掃引するステップg)が、40μm/s未満の速度で実行される、請求項9から11のいずれか一項に記載の流体堆積方法。
【請求項13】
h)前記機械共振器(120)の前記制御手段(148)によって、少なくとも、前記突起部(104)と前記第1の層との間の前記接触、及び前記振動周波数(fi)を制御するステップと、
i)前記第1の層の上に第2の層を堆積させるステップと、
j)所望の厚さが得られるまで、先のステップh)及びi)を反復するステップと、
をさらに含む、請求項9から12のいずれか一項に記載の堆積方法。
【請求項14】
前記低位置と前記高位置の間の距離が、1nm以上1μm以下である、請求項8から13のいずれか一項に記載の流体堆積方法。
【請求項15】
請求項1から7のいずれか一項に記載の堆積制御システムの、付加製造への使用。
【請求項16】
1μm以上の長さを有する、均一で安定した1つ又は複数の層を含む、請求項8から14のいずれか一項に記載の流体堆積方法により得られる製造物。
【請求項17】
複数の重ね合わされた層を含む、請求項16に記載の製造物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノメートルの層を得るようにして流体を堆積させるシステムに関する。
【0002】
より正確には本発明は、基材上への流体の堆積制御システム、基材上への流体堆積方法、付加製造を行うシステムの使用、及びその方法によって得られる製造物に関する。
【背景技術】
【0003】
付加製造とは、層ごとの堆積に基づく多様な技術を包含する一般的な用語である。付加製造の2つの主要な系列は、直接印刷技術と、いわゆる間接印刷技術とに区別される。前者は、所望の材料を基材上に直接堆積させるものである。間接技術は、エネルギー源、例えばレーザやUVランプを使用して、所望の材料の槽に作用させるものである。
【0004】
付加製造は、急成長しており、産業界がその製造工程をどのように設計するかに関して、大幅な変更を生じさせている。現在、複数の付加製造技術が存在し、1ミリメートルから1メートルの範囲のサイズの物体を得ることが可能になっている。1ミリメートル未満を達成する検討もなされている。
【0005】
流体を堆積させる間接印刷の技術として当業者に公知なものは、光重合性樹脂にレーザを用いて物体を印刷することを可能にする二光子重合である。化学反応を可能にして重合を発生させるために、その樹脂は、レーザの波長を透過させるものでなければならない。この技術の解像度は、レーザの半波長、すなわち約100ナノメートルである。この技術には、複雑な物体を非常に精密に作ることができるという利点があり、これは特に、レーザの移動が正確であるという理由による。しかし、この技術は、装置が複雑であるのみならず、使用される材料が光重合性でなければならないという、材料に課される制約の理由から、制約を受けている。
【0006】
他の間接印刷技術としては、所望の材料を基材上に堆積させるためにその材料の前駆体ガスに電子を衝突させる、電子ビームアシスト成長技術(FEBID)がある。これは、例えば走査型電子顕微鏡に搭載可能な技術である。FEBIDは、非常に小さな(1nm未満)のサイズのスポットに電子ビームを集束させることにより、1ナノメートル程度の分解能を得ることが可能になる。この技術は、見込まれる分解能が非一様であることと、複雑な物体をその場で特性評価しながら製造できることを特徴としているにしても、現時点では高精度の堆積に関しては完全には実現されていない。実際、電子ビームと揮発性前駆体との間の相互作用を制御することは難しく、焦点の精度よりも大きなサイズの堆積物が生成されることが多い。また、堆積を実施できる装置の使用条件に適した前駆体を見つけることが必須であり、その結果、製造材料の可能性が大幅に減少する。
【0007】
さらに最近では、局所的なプローブ先端部(AFMまたはSTM)を使用する技術により、例えば国際公開公報第WO2017/106199号および米国特許第US2017/0259498号に示されているとおり、100ナノメートルに近い分解能を達成することが可能になっている。
【0008】
これら後者の技術はすべて、直接印刷技術であり、局所的なプローブ技術の移動の精度と空間分解能を使用して、液体材料を様々な基材上に堆積させる。これらの技術により、様々な溶媒を用いた非常に多様な材料、例えば、下記の材料の堆積が可能になる:
- さまざまな種類のポリマー;
- 生物学的分子(ペプチド、ADN、酵素等);
- 様々なコロイド。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一実施形態では、AFM先端部は、羽ペンのようにして使用される。それは、各堆積の前に、堆積される材料の液滴に浸漬される。別の実施形態では、先端部には、堆積前に、必要な少量の液体材料が装填される。しかし、分解能が非常に高くとも、これら2つの手法には大きな欠点があり、すなわち、充分な体積を有するリザーバがない場合には、連続的な印刷を行い得ないということである。また、先端部からの材料の流れ、又は先端部の中を通る材料の流れを制御できるパラメータがないため、得られる堆積物の精度も不充分である。
【0010】
したがって、100nm未満の厚さによって定義される層、多種多様な材料を堆積することができ、堆積の制御を可能にする調整可能なパラメータを備え、1つ又は複数の物体を中断なく製造する充分大きなリザーバを特徴とする、付加製造の必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述の課題を解決するために、本発明によれば、基材上への流体の制御された堆積を行うシステムは:
- ナノインジェクタであって:
■ 当該流体の貯蔵用リザーバと、
■ 当該リザーバから当該流体を取り出す射出オリフィスを有する非変形性の突起部と、
を具備するナノインジェクタと、
- 当該ナノインジェクタに固定され、当該突起部と当該基材との間の接触を検出するように適合された機械共振器と、
- 当該機械共振器の制御手段であって:
- 当該機械共振器を振動周波数(fi)で振動させて、当該突起部が当該基材と接触している低位置と、当該突起部と当該基材が接触していない高位置との間で、当該突起部が振動するように適合された当該機械共振器の励振手段、
- 当該機械共振器の当該振動を検出するように適合された検出器手段、及び
- 当該機械共振器の当該振動を制御することによって、当該突起部と当該基材との間の当該接触を調整するように適合された調整器手段であって、少なくとも、当該ナノインジェクタの当該基材を、軸zに沿って一方を他方に向かって、又は一方を他方から遠ざけて移動させるように適合された、調整用の第1の変位手段に接続される調整器手段、
に接続されている制御手段と、
を具備する。
【0012】
本発明の文脈においては、流体とは、液体又はゲルであって、その閾値応力よりも大きい応力値の下で流れることができるものを意味しており、その流体は、懸濁物中に化学種を含むことも、又は含まないこともできる。例えば、流体としては、水、生理食塩水溶液、植物油、シリコーン油、光リソグラフィー用樹脂(SU8等)、イオン性液体、DNA-RNA鎖、金や銀などの貴金属のナノ粒子(コロイドその他)、多様な生体材料、例えば、コラーゲン、多糖類、タンパク質、セラミック材料、例えば、ジルコニア、アルミナ、水酸化アルミニウム、二酸化チタンを使用してもよいが、ただし、粒子のサイズは、ナノインジェクタの射出オリフィスを流体が通過できるサイズであることが前提である。例えば、射出オリフィスは、堆積させる流体に含まれる粒子の直径の7から10倍であってもよい。
【0013】
例えば、懸濁物中の化学種は、コロイド状化学種、溶液中のポリマー化学種等であってもよい。
【0014】
本発明の文脈においては、基材とは、平面であっても、構造化されていても、又は曲率半径を有してもよい支持体を意味する。
【0015】
例えば、構造化された支持体としては、正方形の形状、半球の形状、湾曲した形状、鋸歯状の形状、尖った形状等を有する支持体があってもよい。
【0016】
本発明の文脈においては、ナノインジェクタとは、1μm未満の直径を有する射出オリフィスを具備するインジェクタを意味する。
【0017】
本発明の文脈においては、射出オリフィスとは、ナノインジェクタからの流体を通して射出させ、その後、基材上に堆積させるオリフィスであって、そのオリフィスの内径及び外径は、得ることが望まれる堆積物に適合しているものを意味する。
【0018】
射出オリフィスの内径に加えて、外径も堆積に影響を与えることに留意されたい。実際、射出オリフィスの外径は、突起部を基材に接触させたときに突起部と基材との間に形成される流体メニスカスに影響を与える。射出オリフィスの内径と外径の比は好ましくは、0.8以上1以下の範囲である。突起部、特に、射出オリフィスの内径と外径との間に位置する壁と、基材との接触によりメニスカスが形成される場合には、基材への流体の堆積が確保される。さらに、射出オリフィスの内径と外径の比が、0.8以上1以下であれば、メニスカスは、突起部の低位置と高位置の間での堆積を確実なものとして、さらに安定する。射出オリフィスの内径と外径の比が1に近い場合には、すなわち、射出オリフィスの内径と外径の間に位置する壁が、可能な限り小さい厚さを有する場合には、堆積と安定性が支持される。
【0019】
この設計は、可変サイズの射出オリフィスを対象としていることに留意されたい。また、射出オリフィスは、例えば、正方形、長方形、楕円形、円形等、いかなる形状の断面を有してもよい。例えば、突起部とナノインジェクタは、1つの部分品になって、突起部はナノインジェクタと一体型部品を形成してもよく、したがって、リザーバと一つの部分品になって、例えば円錐形であってもよい。この場合、端部を円錐形の形状にしたナノ毛細管があってもよく、この端部を介して、射出オリフィスを介した流体を堆積させることが望まれる。形状は円錐形である必要はなく、例えば、設計に関するパラメータに応じて調整可能な所望の射出オリフィス径を有する、所定の形状の射出オリフィスを特徴としてもよいことに留意されたい。
【0020】
リザーバは、長手方向の形状、例えば円筒形であって、その両端に開口部、すなわち突起部に直接的又は間接的に接続された第1の開口部と、リザーバに供給することが可能な第2の開口部とを有する形状を有してもよいことに留意されたい。
【0021】
さらに、ナノインジェクタのリザーバと突起部は必ずしも1つの部分品ではなく、ナノインジェクタの突起部又はリザーバを交換できるように分離又は取り外してもよいことに留意されたい。また、機械共振器、制御手段、励振手段、検出器手段、調整器手段は、それぞれ個別に交換可能であることに留意されたい。
【0022】
さらに、突起部は、好ましくは、機能化されていてもよい。
【0023】
本発明の文脈においては、機能化された突起部とは、射出オリフィスを有する突起部であって、突起部の幾何学的形状に依存する射出オリフィスの初期の幾何学的形状が、突起部内への構成要素の追加によって修正されるものを意味する。したがって、所望の用途に応じて射出オリフィスの幾何学的形状を修正できるようにして、突起部内に構成要素を追加することによって、突起部の射出オリフィスの内径及び/又は外径を調整することが可能であり、機能化はシステムの動作が始まる前に行われる。例えば、射出オリフィスを構成するようにしてナノチューブを突起部に挿入し、ナノチューブの一端を突起部の表面で突出させることにより、異なる機能化された突起部を得てもよく、ナノチューブは、例えば接着剤を用いて突起部に固定される。ナノチューブは、異なる直径を有してもよく、そして炭素、窒化ホウ素、二硫化モリブデン、シリコンから作られてもよい。例えば、ナノチューブは、1μm以上2μm以下の間の長さ、60nm以上200nm以下の間の外径、5nm以上50nm以下の間の内径を有してもよい。機能化された突起部の別の例は、例えば、UV線から流体を保護する金などの貴材料で覆われた突起部であってもよい。
【0024】
射出オリフィスは好ましくは、5nmから300nmの間の内径を有してもよい。
【0025】
本発明の文脈においては、非変形性の突起部とは、堆積中のシステムの使用条件の下で安定した寸法を有する突起部を意味する。
【0026】
本発明の文脈においては、前記ナノインジェクタに固定された機械共振器とは、ナノインジェクタと接触して、機械共振器の振動がナノインジェクタに伝達されるようにした機械共振器を意味する。
【0027】
本発明の文脈においては、制御手段とは、一方では、機械共振器の振動と、励振手段によって機械共振器に伝達される設定点の振動との間の振動差を測定するように、そして他方では、突起部と基材との間の接触によって生じる振動変動を測定するように適合された手段を意味する。
【0028】
例えば、制御手段として、サーボ制御機能を向上させるようにして機械共振器を設定点振動にしたがって振動させるように、比例補正器(一般にP補正器と称されるもの)、積分比例補正器(一般にPI補正器と称されるもの)、比例積分微分補正器(一般にPID補正器と称されるもの)を具備した、又は具備しないオシロスコープがあってもよい。
【0029】
例えば、励振手段として、スピーカのような圧電式、磁気式、又はさらに音響式の励振器があってもよい。
【0030】
例えば、検出器手段として、加速度計のような電気機械マイクロシステム、光ファイバ、又はさらにレーザを具備する装置があってもよい。
【0031】
検出器手段は好ましくは、10N/m未満の剛性を有してもよく、この検出器手段は、ナノインジェクタを構成する材料の機能である。
【0032】
ナノインジェクタを構成する材料は、堆積される流体に対して耐性がなければならない。例えば、塩酸、硫酸、フッ化水素酸、硝酸、リン酸などの強酸を含む流体を、ガリウムヒ素、二酸化ケイ素、アルミナ、ジルコニア、窒化ホウ素を含む基材上に堆積することが望まれる場合、ナノインジェクタは、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、又はさらにポリエーテルケトンなどのプラスチック材料から構成されてもよい。
【0033】
本発明の文脈においては、突起部と基材との間の接触を制御するように適合された調整器手段とは、突起部と基材の間に接触がある場合に、突起部に対する基材の相互作用の力を制御するように適合された手段を意味する。
【0034】
例えば、調整器手段として、比例補正器(一般にP補正器と称されるもの)、積分比例補正器(一般にPI補正器と称されるもの)、又は比例積分微分補正器(一般にPID補正器と称されるもの)を具備する手段があってもよい。
【0035】
本発明の文脈においては、少なくとも基材をナノインジェクタに近づける又は遠ざけるように適合された第1の変位手段とは、軸zに沿って、基材をナノインジェクタに近づけて又は遠ざけて、基材と突起部との間の接触を制御するようにして、基材を移動させるように適合する手段を意味する。
【0036】
第1の変位手段は、軸zに直交する軸x、yに沿って基材を移動させてパターンを製造するように適合された第2の変位手段に接続されてもよく、3本の直交軸x、y、zは、直接三面体(direct trihedron)を形成している。よって、第1の変位手段により、突起部と基材との間の接触を調整することが可能になり、第2の変位手段により、所定のパターンを製造することが可能になる。
【0037】
第1の変位手段及び第2の変位手段は好ましくは、単一の変位システム内に収容される。
【0038】
第1の変位手段及び/又は第2の変位手段は好ましくは、サブナノメートルの分解能を有する圧電モータを具備する。
【0039】
リザーバは好ましくは、外付けリザーバに接続されてもよい。よって、堆積される流体の体積を調整することができる。
【0040】
本発明の別の目的は、基材上に流体を堆積させる方法であって、以下の:
a)先に定められたとおりのシステムを調達するステップと、
b)振動周波数で当該機械共振器の振動を開始させる当該励振手段によって当該機械共振器を励振することにより、当該突起部の制御された振動を開始させるステップであって、当該機械共振器の当該振動が当該突起部に伝達されるステップと、
c)当該第1の変位手段を使用して当該基材を当該突起部に近づけて、当該基材と当該突起部との間に動的接触を生じさせるステップであって、当該突起部が当該基材と接触している低位置と、当該突起部が当該基材と接触していない高位置との間で、当該突起部が振動するステップと、
d)当該機械共振器の当該振動を当該検出器手段により検出して、当該突起部と当該基材との接触時の振動の変動を観測するステップと、
e)当該調整器手段を使用し、そして振動変動に応じて、当該突起部と当該基材との間の動的接触を調整して、当該突起部と当該基材との間に流体メニスカスを形成するようにするステップと、
f)当該突起部と当該基材との接触中に、当該射出オリフィスを介して当該基材上に流体を堆積させるステップと、
を含む。
【0041】
本システムは、ナノインジェクタが垂直に位置決めされる構成に準拠して、すなわち、流体を堆積させることが望まれる表面と、ナノインジェクタが配置される方向との間の傾斜角が90°に近い場合に、機能してもよいことに留意されたい。
【0042】
本発明の方法によれば、ステップb)、d)、e)、及びf)のうち少なくとも2つのステップを同時に実行することが可能であることに留意されたい。
【0043】
堆積は、連続であっても不連続であってもよいこと、後者は、再現性があってもなくてもよい所定のパターンに準拠してもしなくてもよいことに留意されたい。
【0044】
本発明の文脈においては、動的接触とは、機械共振器の振動の周波数での不連続な、又は間欠的な接触を意味する。
【0045】
1μm未満の射出オリフィスを具備するナノインジェクタを使用して、射出オリフィスの直径の1%以上150%以下の範囲の厚さを有する堆積物を得ることが可能であることに留意されたい。
【0046】
本発明の文脈においては、機械共振器の制御手段による制御とは、少なくとも振動周波数の、そしてまた、ことによると振動に関連する追加のパラメータ、例えば周波数、振幅位相、又はさらに振動の励振の分析からなる制御を意味する。
【0047】
当該低位置と当該高位置との間の距離は好ましくは、1nm以上1μm以下の間であってもよい。
【0048】
システムは好ましくは、実時間で修正可能な軌跡に準拠して基材上全体にナノインジェクタを掃引して第1の層を製造するステップg)を、さらに含んでもよい。
【0049】
軌跡は、所望のパターンを製造するように、又はいずれの方向にも追従するように予め定められてもよいことに留意されたい。
【0050】
また、第1の層は、連続であっても不連続であってもよいことに留意されたい。
【0051】
掃引ステップg)は好ましくは、突起部と基材との間の一定で所定の接触の状態で実行されてもよい。
【0052】
本システムは好ましくは、第1の層を固化させるステップをさらに含んでもよい。この固化ステップは、第1の層上に第2の層を製造している間、溶解電位及び/又は分解電位を与えることを可能にする。この固化ステップは、引き続くステップであってもよいし、堆積中に実時間で実行されてもよい。ナノインジェクタから堆積物を取り出す際に本質的に硬い流体の堆積が、単に実行され得るだけなので、このステップは随意であることに留意されたい。
【0053】
固化ステップの実行は、堆積させる流体の特性に応じて異なることに留意されたい。
【0054】
ナノインジェクタを掃引するステップg)は好ましくは、40μm/s未満の速度で実行されてもよい。
【0055】
堆積の調節性に有利になるようにするために、例えば、掃引速度を低下させること、及び/又は、振動の振幅を低下させることが可能であることに留意されたい。さらには、小さい、すなわち振動の振幅の10倍未満、及び所望の堆積物の厚さの10倍未満の粒子サイズ範囲を有する溶液中の化学種を含む流体を、等しく使用してもよい。
【0056】
本システムは好ましくは、ナノインジェクタを掃引するステップg)を実行した後に、以下の:
h)当該機械共振器の当該制御手段によって、少なくとも、当該突起部と当該第1の層との間の当該接触、及び当該振動周波数を制御するステップと、
i)当該第1の層の上に第2の層を堆積させるステップと、
j)所望の厚さが得られるまで、先のステップh)及びi)を反復するステップと、
をさらに含んでもよい。
【0057】
制御ステップh)は、第1の層の劣化を防止するために、突起部とその第1の層との間の自己接触を可能にする。
【0058】
本発明の別の目的は、付加製造するための上に定められたシステムの使用に関する。
【0059】
本発明の別の目的は、上に定められた方法によって得られる製造物に関するものであり、その製造物は、1μm以上の長さによって画定される形状を有する1つ又は複数の均一で安定な層を含む。
【0060】
しかしながら、特に、ナノインジェクタのリザーバに接続された外付けリザーバを使用する場合、1μmよりもはるかに大きい、例えば数キロメートルの長さを有する堆積層が存在し得る。
【0061】
堆積させた層の最小幅は、突起部の外径であり、したがって、例えば、0.5nm以上100μm以下の間、好ましくは5nm以上300nm以下の間であってもよいことに留意されたい。さらに、堆積させた層の高さは、流体の粘度が低下すると減少し、ナノインジェクタの掃引速度が低下すると減少し、振動の振幅が増加すれば増加し、突起部の内径が増加すれば増加することに留意されたい。
【0062】
例えば、第1の層の厚さと幅の間の最大比は、0.4にほぼ等しくてもよい。
【0063】
得られた製造物は好ましくは、複数の重ね合わされた層を含んでもよい。
【0064】
高位置と低位置との間のメニスカスの安定性には、例えば、流体の粘度を低下させること、突起部の透過性を増加させること、すなわち、リザーバとメニスカスとの間の所与の強制力の場合に突起部の中を通って流れる流体の容量を増加させること、突起部の内部断面を増加させること、基材の材料との、そして突起部の外部材料との流体の親和性を増加させること、突起部の振動周波数を減少させるために、そして振動の振幅を検出可能にしつつ減少させるために、低共振周波数の共振器を使用することが有利である場合のあることに留意されたい。
【0065】
本発明の文脈においては、所与の強制力とは、リザーバ内の流体に制御された圧力を印加することを意味する。例えば、この強制的な強制力は、圧縮空気を用いて、ピストン/シリンダーシステムを用いて機械的に、又はさらに基材とナノインジェクタとの間に電圧を印加することによって電気的に、実行してもよい。
【0066】
よって、局所的なやり方で印刷する本発明を使用して、ナノメートル又はマイクロメートルの回路の接続を生成することが可能である。
【0067】
本発明は、以下の添付の図を参照しつつ、例示として与えられた以下の説明を読めば、さらによく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0068】
図1図1は、本発明の好ましい実施形態に準拠するシステムを表す。
図2図2は、本発明の好ましい実施形態によるシステムが機能するよう実行することのできるステップを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0069】
図1]は、基材20上への流体の制御された堆積を行うシステム10を示す。
【0070】
例えば、流体として、SU8 2002溶液、SU8 2010溶液、イオン性液体、ゲル、又はさらにペーストなど、いかなるタイプの流体があってもよい。
【0071】
ここで使用される基材は、1ナノメートル未満の粗さを有する平坦な基材である。
【0072】
図1]のシステムは、流体の貯蔵用リザーバ102と、リザーバ102から流体を取り出す射出オリフィス108を有する非変形性の突起部104とを具備するナノインジェクタ100を具備する。
【0073】
例えば、リザーバ102及びナノメートルサイズのナノインジェクタ100は、サッター・インスツルメンツ社(Sutter Instruments)のP-2000レーザ・プラー(laser puller)を用いて、2cmにほぼ等しい長さと2mmの長さの円錐形のスレッド(thread)を有する円筒形のガラス毛細管を、レーザ・プリング(laser pulling)を行うことによって製造してもよい。レーザ照射後の毛細管の内径は、0.5mmから頂点では数十ナノメートルまで変化している。この構成では、ナノインジェクタ100は、流体の貯蔵用チューブが特徴である。このチューブは、円錐形の端部を有し、その中に、突起部104を機能させる射出オリフィス108を特徴とするナノチューブが挿入される。そしてチューブはガラスから作られてもよく、そして20nmにほぼ等しい内径を有してもよい。ナノチューブは、約1μmの長さ、20nmにほぼ等しい外径、1nmにほぼ等しい内径を有するカーボンナノチューブであってもよい。
【0074】
堆積されることになる流体の利用可能な体積を増加させるには、リザーバ102は、外付けリザーバ([図1]には図示せず)に接続されてもよいことに留意されたい。
【0075】
システム10は、ナノインジェクタ100に固定された機械共振器120をさらに具備する。
【0076】
機械共振器120は、音叉の形態をとってもよく、その音叉の本体は、その基部でのところでマイクロメートルのねじのシステムによって、空間の3軸に沿って移動可能なブロックにねじ止めされている。この構成では、ナノインジェクタ100は、例えば接着剤を用いて音叉の柄の部分に取り付けられて、圧電スキャナ上に位置決めされた基材20に向かって射出オリフィス108が下向きになるようにしてある。リザーバ102として使用されるナノインジェクタ100の本体は、マイクロメートルのシリンジを使用して、堆積されることになる流体で満たされ、流体は毛細管現象によってスレッドも満たす。例えば、音叉は分岐部を具備してもよく、この分岐部は、アルミニウム製であってもよく、そして1cmにほぼ等しい直径と10cmにほぼ等しい長さを有してもよい。そして、ナノインジェクタ100は、音叉の自由端に固定されてもよい。音叉は、AFMで一般的に使用されている水晶音叉を構成する様々な構成要素[の]同じ幾何学的形状、同じ寸法比を再現できるように設計される。
【0077】
機械共振器120は、所望の周波数シフトで、接触の調整が可能となるのに充分高い品質係数を有することが好ましいことに留意されたい。例えば、10000の程度の品質係数を有する機械共振器120を使用して、0.1以上20以下の間の共振周波数と品質係数の比を有するようにしてもよい。
【0078】
システム10は、機械共振器120の制御手段148をさらに具備する。この制御手段148は、基材20上への流体の堆積の制御を可能にする。
【0079】
本実施形態において第1のPID補正器1を具備する発振器である制御手段148は特に、励振手段142に接続され、励振手段は、機械共振器120を励振して、機械共振器120を振動周波数fiで振動させて、突起部104が基材20と接触している低位置と、突起部104と基材20とが接触していない高位置との間で突起部104が振動するようにする。励振手段142として、本実施形態においては圧電励振器がある。この圧電励振器は、機械共振器120に取り付けられる。
【0080】
低位置と高位置との間の距離は、システムのすべての特性、例えば、突起部の性質、堆積されることになる流体、振動周波数、基材20の性質、又はさらに基材20の移動の速度に依存する。
【0081】
制御手段148はさらに、検出器手段144に接続され、検出器手段は、機械共振器120の振動を検出して、励振手段142による励振に対する機械共振器120の応答を読み取るように適合されている。本実施形態では、検出器手段144は、機械共振器120にも取り付けられている加速度計である。
【0082】
制御手段148はさらに、調整器手段146に接続され、調整器手段は、機械共振器120の振動を制御することによって、突起部104と基材20との間の接触を調整するように適合されている。
【0083】
調整器手段146は、第2のPID補正器2であり、その補正器が接続されて基材20とナノインジェクタ100とを軸zに沿って近づける又は遠ざけるように適合された第1の変位手段160を使用して、接触の調整を可能にする。さらに、第1の変位手段160は、軸x及びyに沿って基材20を移動させるように適合された第2の変位手段に接続されており、3つの軸x、y、及びzは直交し、直接三面体を形成しており、基材の表面にいかなる原子も生成できるようになっている。高精度を確保するために、第1の変位手段160及び/又は第2の変位手段は、サブナノメートルの分解能を有する圧電モータを具備する。特に、第1の変位手段160及び第2の変位手段は、単一の変位システムの一部であってもよい。単一の変位システムは、例えば、基材20を上に載せた圧電スキャナであってもよい。後者は、50μmにほぼ等しい最大移動量を有する。
【0084】
さらに、射出オリフィス108に焦点を合わせたビデオカメラをさらに使用して、ナノインジェクタ100と基材20とが移動して互いに近づくのを観察してもよい。
【0085】
本実施形態では、圧電スキャナの移動平面と基材平面との間の基材の傾斜角度が5°未満であることに留意されたい。
【0086】
基材20上に流体を堆積させる[図1]に示されたシステムを使用する方法を、以下に[図2]を参照しつつ示す。
【0087】
予備的なそして随意のステップである[図2]のステップ1では、機械共振器120である音叉のマイクロメートルのねじを用いて射出オリフィス108上に焦点を合わせたビデオカメラを用いて、突起部104を、圧電スキャナの最大移動量に相当する50μm未満の距離まで基材20に近づけ、圧電スキャナにより、これら2つの構成要素を互いに引き続き近づけることが可能になっている。
【0088】
次のステップである[図2]のステップ2では、突起部104は、圧電励振器による音叉の励振によって、制御された振動を開始し、音叉を振動周波数fiで振動させる。このようにして、音叉の振動が突起部104に伝達される。
【0089】
従って、別のステップである[図2]のステップ3’では、音叉の共振の周波数とその品質係数を決定するようにして、音叉、圧電励振器、及び加速度計からなるシステムの共振を測定することが可能である。音叉は、周波数f0の固有振動におけるその共振のところで、圧電励振器によって機械的に励起される。この振動は、最高0.5nmの振幅の共振感度を有する加速度計によって検出され、この振幅は、この場合には、システムが機能している場合の振動の最小振幅に対応する、すなわち高位置と低位置の間の最小距離に対応する。
【0090】
例えば、圧電励振器には、その機械的な励振周波数に対応する周波数の電気信号が供給されてもよい。この電気信号の周波数は、第1のPID補正器1によって調整されて音叉の振動を制御することで、加速度計によって検出された音叉の応答が圧電励振器からの信号と同位相になるようにし、圧電励振器の振動にしたがって音叉が振動するようにする。したがって、このフィードバックループの設定点は、圧電励振器の振動と音叉の振動の位相差がゼロであることである。この時、音叉は圧電励振器と同位相である。したがって、音叉は共振周波数で励起され、この周波数は、その機械的特性だけでなく環境との相互作用にも依存する。
【0091】
ステップ3’と同時に実行されてもよい別のステップである[図2]のステップ3では、第2のPID補正器2の設定点振動の位相シフトを予め定めることが可能であり、その位相シフトは、突起部と基材20との間の所定の接触によって誘起される位相シフトに相当する。例えば、この位相シフトは、10mHzであってもよい。
【0092】
その後、別のステップである[図2]のステップ4では、圧電スキャナを使用して、基材20を突起部104に近づけて、基材20と突起部104との間に動的接触を生じさせるようにする。したがって、突起部104は、突起部が基材20と接触している低位置と、基材20と接触していない高位置との間で振動する。
【0093】
その間、音叉の振動は、突起部104と基材20との接触時の振動変動を観察するために、加速度計によって検出されることに留意されたい。
【0094】
したがって、突起部104と基材20との接触時には、音叉とナノインジェクタ100とからなる組立体に印加される力が修正される。この修正により、共振周波数が修正され、したがって、音叉の共振周波数に維持されている圧電励振器の励振周波数が修正される。例えば、音叉とナノインジェクタ100からなる組立体の共振周波数が、ステップ3で選択したとおり、圧電励振器の励振周波数に対して10mHzだけ修正される場合に、動的接触が達成されたと判断される。したがって、引き続くステップに進む前に、システムが共振周波数の時間的なドリフトを受けていないことを確認することができる。
【0095】
その後、[図2]のステップ5では、振動変動に応じて第2のPID補正器2を使用して、突起部104と基材20との間に流体のメニスカスを形成するようにして、突起部104と基材20との間の動的接触を調整する。基材20は、ナノインジェクタ100の下で、移動の分解能がサブナノメートルである3軸圧電スキャナ(例えば、使用されるピエゾスキャナは、トリトル101(Tritor101)、ピエゾシステム・イエナ社(Piezosystemjena)であってもよい)の上に置かれる。第2のPID補正器2は、先に選択した10mHzの共振周波数の設定点位相シフトに向けて、突起部104と基材20との間の接触が達成されるまで、圧電スキャナ上に置かれた基材20とナノインジェクタ100との間の微細な接近を、フィードバックループにより制御する。音叉の剛性により、制御された接近が可能になり、また、突起部104と基材20との間のメニスカスに起因する、基材20と接触している突起部104の急激な飛躍的効果から守ることが可能になる。
【0096】
別のステップでは、流体は、突起部104と基材20との間の接触中に、射出オリフィス108を介して基材20上に堆積される。
【0097】
その後、引き続くステップである[図2]のステップ6では、ナノインジェクタ100に対して相対的に基材20を移動させることにより、ナノインジェクタ100が、実時間で修正可能な軌跡に沿って基材20上で掃引されて、第1の層を製造する。
【0098】
堆積の設計は、第2のPID補正器2のおかげでナノインジェクタとの相互作用を一定に保ちつつ基材20を移動させることによって生成され、[図2]のステップ5’では、突起部104と基材20との間の接触を調節し制御する。ナノインジェクタ100と基材20の表面との間の相互作用を実時間で検出することにより、基材20及びナノインジェクタ100への制御不能な損傷を防止することが可能になる。
【0099】
例えば10mHzのオーダーの設定点が、第2のPID補正器2について維持されてもよいが、ただし、突起部104が基材20との間欠的な接触というこの種の力に耐性のある場合には、数Hzに増加させてもよい。突起部104の軌跡は、第2のPID補正器2に接続された圧電スキャナの電子制御によって、基材20に対して相対的に定められる。また、この軌跡上を移動する速度も定められる。よって、突起部104と基材20との間の一定で所定の接触を維持した状態で、掃引が実行される。次いで、圧電スキャナは、第2のPID補正器2と圧電スキャナを使用して、40μm/s未満の設定点速度で、そして10mHzの周波数シフトを維持しつつ、設定された軌跡に追従する。超過しないようにすべき限界速度の条件は、低位置と高位置の間で振動している間のメニスカスの安定性である。
【0100】
別のステップである[図2]のステップ7’又は8では、第1の層を固化させることが可能である。例えば、重合性のインクを堆積させる場合には、得られた第1の層を、その上に第2の層を堆積させることに進む前にUV光に曝すという選択がなされてもよい。この固化ステップは、堆積と同時に行ってもよいし、その後に行ってもよい。
【0101】
堆積が終了すると、別のステップである[図2]のステップ7において、圧電スキャナを使用して、両者の接触を中断するようにして、基材20をナノインジェクタ100から引き出しても、又は遠ざけるように移動させてもよい。
【0102】
その後、[図2]のステップ9では、音叉のマイクロメートルのねじを用いて、突起部104を基材20から遠ざけるように粗く移動させ、その後、第1の層を堆積させた基材20を引き出してもよい。
【0103】
この種のシステムにより、そしてこの種の方法を用いて:
- 体積10mmのリザーバ(断面が約0.5mmに等しく、長さが2cmにほぼ等しい円筒形のリザーバ)を具備し、流体としてSU8 2002溶液を含むナノインジェクタであって、内径が50nmにほぼ等しく、外径が180nmにほぼ等しい射出オリフィスを有するカーボンナノチューブの挿入によって機能化される突起部を有するナノインジェクタと、
- 品質係数が約1.4.10であり、1.5kHzにほぼ等しい周波数で振動し、突起部を高位置と低位置の間で振動させる音叉であって、それぞれの位置が10nm未満の距離だけ離間している音叉と、
- シリコン基材と、
- 0.125μm/sにほぼ等しい基材の移動速度と、
を採用して、数マイクロメートルの長さにわたって厚さが30nmにほぼ等しく、幅が150nmにほぼ等しい規則的で安定した層が得られる。
【0104】
前と同一条件で、基材の移動速度を0.5μm/sにほぼ等しくすると、厚さが5nmにほぼ等しく、幅が150nmにほぼ等しい規則的で安定したインク層が得られる。
【0105】
上記と同一条件で、内径が1nmにほぼ等しく、外径が20nmにほぼ等しい射出オリフィスを有するカーボンナノチューブを挿入することにより機能化する突起部を有するナノインジェクタを用いると、数マイクロメートルの長さにわたって厚さが700pmにほぼ等しく、幅が20nmにほぼ等しい規則的で安定したインク層が得られる。
【0106】
別の例では:
- SU8 2010溶液を含む体積3mmのリザーバを具備し、機能化された突起部は有さないが、内径が200nmにほぼ等しい射出オリフィスを有する、ナノインジェクタしてのナノ毛細管と、
- 品質係数が1.4.10にほぼ等しく、約1.5kHzの周波数で振動し、突起部を高位置と低位置の間で振動させる音叉であって、それぞれの位置が約1nmの距離だけ離間している音叉と、
- シリコン基材と、
- 40μm/s未満である基材の移動速度と、
を使用して、数マイクロメートル、ほぼ100μmの長さにわたって、厚さが35nmにほぼ等しく、幅が200nmにほぼ等しい規則的で安定したインク層が得られる。
【0107】
さらなる例では:
- 流体としてイオン性溶液(例えばBmim PF6として知られているもの)を含む10mmの体積のリザーバを具備するナノインジェクタであって、内径が60nmにほぼ等しく、外径が5nmにほぼ等しい射出オリフィスを有するカーボンナノチューブの挿入によって機能化される突起部を有するナノインジェクタと、
- 品質係数が1.4.10ほぼ等しく、約1.5kHzの周波数で振動し、突起部を高位置と低位置の間で振動させる音叉であって、それぞれ位置が50nm未満の距離だけ離間している音叉と、
- シリコン基材と、
- 1μm/s以上4μm/s以下の間である基材の移動速度と、
を使用して、厚さが0.5nmにほぼ等しく、幅が20nmにほぼ等しい規則的で安定したインク層が得られる。
【0108】
この種の、そして所定の軌跡を用いて、正弦波形や螺旋、円などの複雑な形状を製造することができる。
【0109】
付加製造は、注文に応じて三次元の物体を製造するのに使用してもよい。実際、層は一方の上に他方を積層することもでき、第2の層を堆積させた直後の第1の層は、いずれかの固化工程を使用することによって、事前に固化済みである可能性がある。例えば、100nmにほぼ等しい厚さをそれぞれ有する層を10層程度、順次積層して、全厚が1.5μmの高さに等しく、直径が8μmに等しい円形の積層体を製造するようにしてもよい。
【0110】
また、2つの層を、十字を形成するようにして交差させてもよく、その交点は、150nmの2倍と同等である300nmの厚さを有し、これは、各層が100nmにほぼ等しい厚さを有する、単層の厚さである場合もある。
【0111】
本発明を、上記の説明及び図面において詳細に示し記載してきた。上記は、例示であり、例として与えられたものであって、この一つの記載だけに本発明を限定するものではないと見なすのが望ましい。数多くの実施形態の変形が可能である。
図1
図2
【国際調査報告】