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特表2022-514594農薬または内分泌撹乱物質の存在および/またはレベルを決定するための生分解性生化学センサー:方法および組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-14
(54)【発明の名称】農薬または内分泌撹乱物質の存在および/またはレベルを決定するための生分解性生化学センサー:方法および組成物
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/26 20060101AFI20220204BHJP
   C12Q 1/48 20060101ALI20220204BHJP
   C12Q 1/28 20060101ALI20220204BHJP
   C12Q 1/527 20060101ALI20220204BHJP
   C12M 1/40 20060101ALI20220204BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20220204BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20220204BHJP
   C12N 15/53 20060101ALN20220204BHJP
【FI】
C12Q1/26
C12Q1/48 ZNA
C12Q1/28
C12Q1/527
C12M1/40 B
C12M1/34 E
G01N33/15 C
C12N15/53
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021535269
(86)(22)【出願日】2019-12-20
(85)【翻訳文提出日】2021-07-14
(86)【国際出願番号】 EP2019086838
(87)【国際公開番号】W WO2020128069
(87)【国際公開日】2020-06-25
(31)【優先権主張番号】18214973.2
(32)【優先日】2018-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521265069
【氏名又は名称】スキルセル
(71)【出願人】
【識別番号】508106611
【氏名又は名称】サントル ナシオナル ド ラ ルシェルシュ シアンティフィック (セーエヌエールエス)
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】特許業務法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エスピート,ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】モリーナ,フランク
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB16
4B029FA13
4B029FA15
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ91
4B063QR02
4B063QR03
4B063QR06
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】
本発明は、農薬および/または内分泌撹乱物質の試料多重検出および/または定量化を実行し、ユーザに論理的に統合された応答を提供するための生分解性生化学的センサー方法に関する。この生化学的センサーは、当該標的分析物の存在下で特定の測定可能な信号を生成、阻害、または活性化することができる酵素を使用して生化学的ネットワークをカプセル化する小胞である。生化学的ネットワークは、統合された論理的な最終応答をユーザに提供することができる。本発明はまた、当該生化学的センサー小胞を含む組成物またはキットに関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的分析物を含有するかまたは含有する可能性のある試料から、前記試料中の少なくとも1つの前記標的分析物の存在もしくは不在を検出、および/またはその量を定量化するための方法であって、
a)前記試料を、生化学的ネットワークを形成する生化学的要素を含む組成物と接触させるステップであって、前記生化学的ネットワークが、検出および/または定量化されることが望まれる前記標的分析物を基質として、または阻害剤として、または活性化剤として有する少なくとも1つの酵素を生化学的要素として含み、
-生化学的ネットワークを形成する前記生化学的要素のうちの少なくとも1つが、前記標的分析物に対して透過性であるかもしくは透過性でない1つのマイクロ小胞もしくはナノ小胞(小胞と呼ばれる)にカプセル化されるか、または
-生化学的ネットワークを形成する前記生化学的要素のうちの少なくとも2つが、前記標的分析物に対して透過性であるかもしくは透過性でない2つの別個の小胞にカプセル化され、
i)前記試料中の検出または定量化されることが望まれる前記少なくとも1つの標的分析物がグリホサートであり、
ii)前記生化学的ネットワークが、
-前記標的分析物が前記生化学的ネットワークの前記酵素の基質である場合、前記標的分析物の存在下でのみ、少なくとも1つの特定の読み取り可能/測定可能な出力信号を生成すること、または
-前記標的分析物が前記生化学的ネットワークの前記酵素の阻害剤である場合、前記標的分析物の存在下でのみ、前記生化学的ネットワークによって生成された前記特定の読み取り可能/測定可能な出力信号を阻害することができる、ステップと、
b)前記生化学的ネットワークによって生成された前記特定の読み取り可能/測定可能な出力信号の速度および/またはレベルを決定するステップであって、得られた前記速度および/またはレベルが、前記試料中の前記標的分析物の存在もしくは不在および/またはその量と相関している、ステップと、を含む、方法。
【請求項2】
前記標的分析物を含有する可能性のある前記試料が、流体または固体材料試料、好ましくは環境材料試料、植物材料、水、飲料、食品、土壌抽出物、工業材料、食品製造、植物抽出物、生体由来の生理液または組織からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記標的分析物の存在および/または不在および/または量が、可視比色測定、蛍光、発光、分光法(すなわち、赤外線、ラマン)、化合物または粒子(電子)の生成からなる群から選択される信号の測定によって検出および/または定量化される、請求項1および2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
試料中の少なくとも第2の標的分析物の存在もしくは不在を検出、および/またはその量を定量化するための方法であって、前記第2の分析物が、同一の少なくとも1つの生化学的ネットワーク酵素の基質、阻害剤または活性化剤のいずれかであり、生化学的ネットワークを形成する前記生化学的要素のうちの少なくとも1つが、前記小胞にカプセル化される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
試料中の少なくとも第2の標的分析物の存在もしくは不在を検出、および/またはその量を定量化するための方法であって、
-前記第2の分析物が、第2の別個の生化学的ネットワーク酵素の基質、阻害剤または活性化剤であり、前記第2の生化学的ネットワークを形成する前記生化学的要素のうちの1つが、同一もしくは別の別個の小胞、またはセットの小胞にカプセル化され、
-前記2つの別個の生化学的ネットワーク(相互接続されているかどうかに関係なく)が、異なる読み取り可能/測定可能な出力信号を生成する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
検出および/または定量化することが望まれる前記第2の標的分析物が、
a)酵素活性の特定の基質である農薬および/または内分泌撹乱物質分子であって、活性が、1つ以上のステップで特定の読み取り可能/測定可能な出力信号を生成することができる、農薬および/または内分泌撹乱物質分子、
b)酵素活性の特定の阻害剤である農薬および/または内分泌撹乱物質分子であって、活性が、1つ以上のステップで特定の読み取り可能/測定可能な出力信号を生成することができる、農薬および/または内分泌撹乱物質分子、ならびに
c)酵素活性の特定の活性化剤である農薬または内分泌撹乱物質分子であって、活性が、1つ以上のステップで特定の読み取り可能/測定可能な出力信号を生成することができる、農薬および/または内分泌撹乱物質分子からなる群から選択される農薬または内分泌撹乱物質である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
検出および/または定量化することが望まれる前記第2の標的分析物が、
クロルデコン、ネオニコチノイド、有機塩化物、コハク酸デヒドロゲナーゼ阻害剤(SDHI)、カルバメート、ダイオキシン(PCDD)、ポリクロロビフェニル(PCB)、17-βエストラジオール、17-αエチレンエストラジオール、ビスフェノール(PBDE)、フタレートおよび重金属からなる群から選択される農薬または内分泌撹乱物質である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記小胞にカプセル化されるか、またはカプセル化されない、ステップa)の前記組成物に含まれる前記少なくとも1つの生化学的ネットワーク酵素が、
-グリシン/グリホサートオキシダーゼ(EC1.4.3.19)、好ましくは、組換えタンパク質として得ることができるBacillus subtilis由来の天然(野生型/WT)グリシン/グリホサートオキシダーゼ、またはWTタンパク質配列と少なくとも70%の同一性を有し、グリシン/グリホサートオキシダーゼ活性を示すそのホモログ配列、および
-5-エノールピルビニルシキミ酸-3-リン酸(EPSP)シンターゼ(EC2.5.1.19)からなる群から選択される、請求項1~7に記載の方法。
【請求項9】
前記小胞にカプセル化されるか、またはカプセル化されない、ステップa)の前記組成物に含まれる前記少なくとも1つの生化学的ネットワーク酵素が、クローン化された海洋細菌Bacillus licheniformis由来のグリシンオキシダーゼ(GO)((BliGO)であって、Bacillus subtilis由来の標準GOと少なくとも62%の類似性を示す、BliGOであるか、またはBliGO WTタンパク質配列番号2と少なくとも70%の同一性を有し、GO活性を示す、そのホモログBliGO配列である、請求項1~7に記載の方法。
【請求項10】
前記小胞にカプセル化されるか、またはカプセル化されない、ステップa)の前記組成物に含まれる前記少なくとも1つの生化学的ネットワーク酵素が、遺伝子操作された海洋細菌Bacillus licheniformis由来の変異グリシンオキシダーゼ(GO)であり、BliGO-SCF-4と名付けられた野生型バージョンのBliGO-WTまたはアミノ酸配列番号4を有するBliGO-Mutと比較して6つの単一アミノ酸変異を含有する、請求項1~7に記載の方法。
【請求項11】
前記グリシン/グリホサートオキシダーゼが、前記グリシン/グリホサートオキシダーゼ酵素に融合されるタグ、好ましくは、マルトース結合タンパク質(MBP)、キチン結合タンパク質(CBP)、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、チオレドキシン(TRX)、NUS A、ユビキチン(Ub)、およびSUMO(低分子ユビキチン様修飾因子)タグ、好ましくはSUMOおよびGSTタグからなる群から選択されるタグを含む、請求項8~10に記載の方法。
【請求項12】
前記がSUMOまたはGSTタグである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
タグを含む前記グリシン/グリホサートオキシダーゼが、
-DNA配列番号5またはアミノ酸配列番号6を有するGST-BliGO(天然/WT)、
-DNA配列番号9またはアミノ酸配列番号10を有するSUMO-BliGO(天然/WT)、
-DNA配列番号7またはアミノ酸配列番号8を有するGST-BliGO-Mut、およびDNA配列番号11またはアミノ酸配列番号12を有するSUMO-BliGO-Mut、ならびに
-上記に定義されるようなそれらのホモログタグ付きBliGO配列であって、前記BliGO配列が少なくとも70%を示す、BliGO配列からなる群から選択される、請求項8~12に記載の方法。
【請求項14】
検出および/または定量化することが望まれる前記標的分析物が、前記グリホサートまたはグリホサートと同一の生化学的ネットワーク酵素で検出または定量化することができるその誘導体であり、小胞にカプセル化されているかまたはカプセル化されていない前記少なくとも1つの生化学的ネットワーク酵素が、5-エノールピルビニルシキミ酸-3-リン酸(EPSP)シンターゼ(EPSPS)酵素(EC2.5.1.19)であり、前記組成物が、3-ホスホ-シキミ酸およびホスホエノールピルビン酸(PEP)をさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
前記小胞が、単層または多層小胞からなる群から選択され、好ましくは脂質小胞、リポソームもしくは自己組織化リン脂質であるか、または合成ポリマーもしくはコポリマーから形成される小胞であり、前記小胞が、好ましくは0.05μm~500μm、より好ましくは0.1μm~100μmの平均直径を有する、請求項1~14に記載の方法。
【請求項16】
前記小胞が、好ましくは多孔質ポリマーゲルからなる群から選択され、好ましくはアルギン酸塩、キトサン、PVP(ポリビニルピロリドン)、PVA(ポリビニル-アルコール)、アガロース、セファデックス、セファロース、セファクリルゲル、およびそれらの混合物からなる群から選択される、多孔質ポリマーゲルに捕捉される、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
試料中の少なくとも1つの標的分析物の存在もしくは不在を検出、および/またはその量を定量化するための組成物であって、前記組成物が、前記標的分析物に対して透過性であるかまたは透過性でない、1つまたはセットの小胞にカプセル化されているかまたはカプセル化されていない生化学的ネットワークを形成する生化学的要素を含み、前記生化学的ネットワークが、
-グリシン/グリホサートオキシダーゼ(EC1.4.3.19)、好ましくは、組換えタンパク質として得ることができる前記天然(野生型/WT)グリシン/グリホサートオキシダーゼ、またはWTタンパク質配列と少なくとも70%の同一性を有し、グリシン/グリホサートオキシダーゼ活性を示すそのホモログ配列、
-5-エノールピルビニルシキミ酸-3-リン酸(EPSP)シンターゼ(EC2.5.1.19)、
-クローン化された海洋細菌Bacillus licheniformis由来のグリシンオキシダーゼ(GO)((BliGO)であって、Bacillus subtilis由来の標準GOと少なくとも62%の類似性を示す、BliGO、またはBliGO WTタンパク質配列と少なくとも70%の同一性を有し、GO活性を示す、そのホモログBliGO配列、
-遺伝子操作された海洋細菌Bacillus licheniformis由来の変異グリシンオキシダーゼ(GO)((BliGO)_SCF4であって、前記野生型バージョンのBliGO-WTまたは前記BliGO-Mutと比較して6つの単一アミノ酸変異を含有する、変異グリシンオキシダーゼ、
-タグ付きグリホサートオキシダーゼ酵素であって、好ましくは、マルトース結合タンパク質(MBP)、キチン結合タンパク質(CBP)、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、チオレドキシン(TRX)、NUS A、ユビキチン(Ub)、およびSUMO(低分子ユビキチン様修飾因子)タグ、好ましくはSUMOおよびGSTタグからなる群から選択されるタグを有する、タグ付きグリホサートオキシダーゼ酵素、ならびに
-DNA配列番号5またはアミノ酸配列番号6を有するGST-BliGO(天然/WT)、
-DNA配列番号9またはアミノ酸配列番号10を有するSUMO-BliGO(天然/WT)、
-DNA配列番号7またはアミノ酸配列番号8を有するGST-BliGO-Mut、およびDNA配列番号11またはアミノ酸配列番号12を有するSUMO-BliGO-Mut、ならびに
-上記に定義されるようなそれらのホモログタグ付きBliGO配列であって、BliGO配列が少なくとも70%を示す、BliGO配列からなる群から選択される、少なくとも1つの酵素を生化学的要素として含む、組成物。
【請求項18】
前記標的分析物、前記生化学的要素、前記生化学的ネットワークおよび前記小胞が、請求項1~16のいずれか一項に定義されるような特徴を有する、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
試料中の少なくとも1つの標的分析物の存在もしくは不在を検出、および/またはその量を定量化するためのキットまたは装置であって、前記キットが、好ましくはアルギン酸塩、キトサン、PVP、PVA、アガロース、セファデックス、セファロース、セファクリルゲルおよびそれらの混合物からなる群から選択される多孔質ポリマーゲルに捕捉される、請求項17に記載の、または請求項1~16のいずれか一項に定義されるような組成物を含有する容器を含む、キットまたは装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、当該標的分析物の存在下で特定の測定可能な信号を生成または阻害することができる1つ以上の酵素を含有する小胞カプセル化生化学試薬を使用して、試料中の農薬または内分泌撹乱物質を検出および/または定量化するための方法に関する。本発明はまた、当該小胞を含む組成物またはキットに関する。
【0002】
農薬は、植物または動物の害虫および病気を防除および/または排除するために使用される。農薬は、その目的に応じて除草剤、殺虫剤、殺真菌剤、または他の種類に分類され、種々の化合物が含まれる。
【0003】
農薬は、生物学的標的、化学構造、または安全性プロファイルによって分類できる。農薬の高い毒性のため、環境機関は飲料水および地表水の汚染レベルの最大値を設定している。農薬はそれらの水溶性に応じて、土壌に残留するか、または地表水および地下水に侵入する。
【0004】
特に野菜および果実の残留農薬の従来の残留農薬の分析方法としては、分光測光法、核磁気共鳴分光法、薄層クロマトグラフィー、原子吸光分光法、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、質量分析法、蛍光光度法などが挙げられ、これらのうち、質量分析法と組み合わせたガスクロマトグラフィーおよび液体クロマトグラフィーは、好ましい再現性、感度、ならびに農薬の種類および濃度を決定できるという利点があるため、より一般的に用いられる。そのような方法は、標準的な検出ステップに従うだけでなく、試料の前処理を実施し、機器操作を介して分析を実行する専門知識を備えた検査技師によって実行されなければならない。それらは再現性の高い強力な微量分析を提供するが、これらの手法には大量の水の抽出が含まれ、大規模な精製を必要とし、有資格者および高価な装置が必要である。
【0005】
近年、特に固定化酵素技術を使用して、生化学反応および電気化学的手法によって酵素阻害農薬を検出するためのいくつかの方法が開発されてきた(米国特許第6,406,876号(Gordonら、中国特許第CN101082599号(Linら)を参照)。農薬によって引き起こされる酵素阻害の程度を介して水溶液中の農薬濃度を決定するために、電極上に酵素を固定化する方法も開示されている(台湾特許第1301541号(Wuら)を参照)。しかしながら、酵素を固定化する方法は複雑であり、固定化酵素の欠点には、高コスト、複雑な製造プロセスおよび厳格な保存条件が含まれる(概要については米国特許第US2015/0300976(A1)号(Wangら)を参照)。
【0006】
近年、センサーおよびバイオセンサーの開発へのナノ材料の適用において大きな進歩が見られた。小さなサイズのナノ材料によってもたらされる特性のために、それらの大きな表面対体積比、それらの物理化学的特性、組成、および形状、ならびにそれらの異常な標的結合特性により、これらのセンサーは分析物検出の感度および特異性を著しく改善することができる。当該特性は、ナノ材料の全体的な構造的堅牢性とともに、これらの材料を、多様な変換モードに基づく様々な検出スキームでの使用に非常に適したものにする(Nanomaterials for Sensing and Destroying Pesticides.Gemma Aragayら,Chemical Reviews,2012,112,5317-5338)。
【0007】
金ナノ粒子の凝集を誘発することによって有機リン系農薬残留物を検出することができるセンサーシステムを開示する特許文献米国出願第US2015/0355154(A1)号(Tae Jung Parkら)を引用することができる。
【0008】
蛍光および磁性の両方を有する多機能性化合物スタンプナノスフェアの調製方法、ならびにテンプレートの農薬分子への選択的吸着の前後の多機能性化合物スタンプナノスフェアの蛍光強度の改変による残留農薬の検出へのそれらの適用を開示する特許文献CN102553497Aも引用することができる。
【0009】
最後に、試料中の試験することが望まれる標的化合物と反応することができるカプセル化酵素を実行する、疾患診断法で使用するための生合成装置を開示する国際特許出願文献WO2017/178896(A2)(Molinaら)も引用することができる。
【0010】
内分泌撹乱物質は、様々な曝露経路を通じて人体に有害な影響を与えることも知られている。これらの化学物質は、主に内分泌系またはホルモン系に干渉するようである。重要なこととして、多くの研究は、内分泌撹乱物質の蓄積が肥満および癌を含む致死性疾患を引き起こす可能性があることを示している。(Yang O.ら,J Cancer Prev.2015 Mar,20(1):12-24)。
【0011】
内分泌撹乱物質は、内分泌系のあらゆるレベルに影響を与える可能性がある。第1に、それらはステロイド産生に関与する酵素の作用を妨害する可能性がある。これらの酵素は、エストロゲンの代謝に関与する酵素と同様に阻害され得る。例えば、一部のポリ塩化ビフェニル(PCB)代謝産物はスルホトランスフェラーゼを阻害し、血中エストラジオールの増加をもたらす(Kester MHら,Endocrinology.2000,141:1897-1900)。他の内分泌撹乱物質は脂肪生成を促進することが知られている。これらには、ビフェニルA(BPA)、有機リン系農薬、グルタミン酸ナトリウム、およびポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDE)が含まれる。
【0012】
本発明は、試料中、溶液中または固体生成物の表面に存在する、特に環境または食品中に存在する、農薬および内分泌撹乱物質残渣からなる群から選択される標的分析物の存在を検出および/または定量化するための方法であって、試験されることが望まれる当該農薬または内分泌撹乱物質標的は、特定の酵素活性の基質または阻害剤であることが知られている、方法を提供する。
【0013】
好ましい実施形態では、本発明は、農学食品、環境または健康診断の分野で使用するためのそのような方法に関し、農学食品および環境の分野がより好ましい。
【0014】
例えば、グリホサートは、芳香族アミノ酸の合成に関与するシキミ酸経路の重要な酵素である5-エノールピルビニルシキミ酸-3-リン酸(EPSP)シンターゼを阻害する除草剤である。EPSP阻害は、タンパク質合成に必要な芳香族アミノ酸であるトリプトファン、チロシン、およびフェニルアラニンの枯渇をもたらす。代替EPSP酵素を有するグリホサート耐性作物が開発され、薬害なくこれらの作物にグリホサートを使用できるようになった(http://herbicidesymptoms.ipm.ucanr.edu/MOA/EPSP_synthase_inhibitors/)。
【0015】
第1の態様では、本発明は、試料中の少なくとも1つの標的分析物の存在を検出、または関連する量、もしくは不在を検出、および/またはその量を定量化するための方法に関し、この方法は、
a)試料を組成物と接触させるステップであって、
-当該組成物は、標的分析物に対して透過性であるかまたは透過性でない、1つまたはセットのマイクロ小胞またはナノ小胞(以下、小胞と呼ばれる)にカプセル化された生化学的ネットワークを形成する生化学的要素を含み、当該生化学的ネットワークは、検出および/または定量化することが望まれる標的分析物を基質として、または阻害剤として、または活性化剤として有する少なくとも1つの酵素を生化学的要素として含み、
i)対象化合物は、農薬および/または内分泌撹乱物質からなる群から選択され、
ii)生化学的ネットワークは、
-当該標的分析物が当該生化学的ネットワークの酵素の基質である場合、標的分析物の存在下、好ましくは所与の選択された閾値でのみ、少なくとも1つの特定の読み取り可能/測定可能な出力信号を生成すること、または
-当該標的分析物が当該生化学的ネットワークの酵素の阻害剤である場合、標的分析物の存在下でのみ、当該生化学的ネットワークによって生成された特定の読み取り可能/測定可能な出力信号を阻害することができる、ステップと、
b)生化学的ネットワークによって生成された特定の読み取り可能/測定可能な出力信号の速度および/またはレベルを決定するステップであって、得られた速度および/またはレベルは、試料中の標的分析物の存在もしくは不在および/またはその量と相関している、ステップとを含む。
【0016】
本発明の記載において、特許請求の範囲および/または明細書において「含む」という用語とともに使用される場合の「a」または「an」という単語の使用は、「1つ」を意味し得るが、それはまた、「1つ以上」、「少なくとも1つ」、および「1つまたは複数」の意味とも一致する。
【0017】
また、「comprise(含む)」、「contain(含有する)」、および「include(含む)」、またはこれらのルートワードの変形、例えば、これらに限定されないが「comprises」、「contained」、および「including」の使用は、限定することを意図するものではない。「および/または」という用語は、前後の用語をまとめて、または別個に使用できることを意味する。説明の目的で、ただし限定としてではなく、「Xおよび/またはY」は、「X」もしくは「Y」または「XおよびY」を意味することができる。
【0018】
特許請求の範囲を含む明細書全体を通して、「comprise」という単語、および「comprising」および「comprises」、ならびに「have」、「having」、「includes」、および「including」などの単語の変形、およびそれらの変形は、それが参照する指定されたステップ、要素、または材料が不可欠であるが、他のステップ、要素、または材料が追加されてもよく、特許請求の範囲または開示の範囲内で構成を依然として形成することを意味する。本発明の説明および特許請求の範囲に記載されている場合、それは、本発明および請求の範囲は、後に続くものおよび潜在的にそれ以上であるものと見なされることを意味する。これらの用語は、特に特許請求の範囲に適用される場合、包括的または非限定的であり、追加の、引用されていない要素または方法ステップを除外するものではない。
【0019】
酵素阻害剤という用語は、何らかの方法で酵素に干渉することによって酵素触媒反応の反応率(rate)を低下させる化合物を指すことを意図している。酵素阻害剤、例えば、酵素に結合してその活性を低下させる分子。阻害剤の結合は、基質が酵素の活性部位に入るのを阻止し、および/または酵素がその反応を触媒するのを妨げることができる。
【0020】
酵素活性化剤という用語は、酵素の反応率、活性または速度を増加させる化合物を指すことを意図している。一般的に、それらは酵素に結合する分子である。それらの作用は酵素の効果と逆方向である
【0021】
酵素基質という用語は、酵素と反応して生成物を生成する化合物を指すことを意図している。酵素が作用する物質である。
【0022】
生体分子要素は、タンパク質、炭水化物、脂質、および核酸などの大型の巨大分子、ならびに一次代謝産物、二次代謝産物、および天然産物などの小分子を含む、生体内に存在する分子を指すことを意図している。
【0023】
小胞、またはマイクロ小胞もしくはナノ小胞は、5nm~500μm、好ましくは10nm~200μm、より好ましくは25nm~50μmのサイズ(直径)を有する小胞を指すことを意図している。また、脂質膜(リポソーム)または合成ポリマーもしくはコポリマーを有する単層または多層小胞を指すことも意図している。
【0024】
小胞にカプセル化される、または内在化される、または含まれる、または含有される生化学的要素は、小胞の内部区画にカプセル化され得るが、膜(二層または多層膜)にカプセル化され得る、または小胞膜(外膜または内膜)に付着し得る生化学的要素も指すことを意図している。
【0025】
本発明の方法の好ましい実施形態では、当該生体分子要素は、合成、半合成生体分子要素から選択されるか、または天然に存在する生物学的システムから単離される。
【0026】
より好ましい実施形態では、当該少なくとも1つの生体分子要素は、タンパク質、核酸、好ましくは非コード核酸、および代謝産物からなる群から選択される。酵素および代謝産物は、特により好ましい生体分子要素である。
【0027】
これらのタンパク質、特に酵素は、これらの粒子系にカプセル化された場合、室温であっても非常に良好な安定性、および反応速度の向上を示し、この場合、その活性を室温で長期間維持することができる。
【0028】
標的分析物という用語は、試料中の検出または定量化することが望まれる農薬または内分泌撹乱物質の部類またはグループを指すことも意図している(当該部類またはグループのすべてのメンバーが、小胞またはセットの小胞にカプセル化される当該酵素の基質のように、阻害剤のようにまたは活性剤のように作用している場合)。
【0029】
「標的分析物」という用語は、本明細書において一般に、本明細書に記載の方法およびキットで検出可能な農薬または内分泌撹乱物質の任意の分子を指す。本明細書に記載の方法およびキットで検出可能な農薬または内分泌撹乱物質標的の非限定的な例には、化学的または生化学的化合物が含まれるが、これらに限定されない。
【0030】
非限定的な例として、農薬は、殺虫剤、除草剤、殺真菌剤からなる群から選択される。好ましいのは、基質としてまたは酵素活性の阻害剤として作用することができる農薬である。
【0031】
非限定的な例として、内分泌撹乱物質(endocrin disruptors)(ED)は、
A)エストロゲン受容体に結合するED、アゴニストまたはアンタゴニスト作用
i)アゴニスト(エストロゲン作用)
ビスフェノール-A、フタレート
イソフラボンおよびゲニステインを含むポリフェノール
一部のUVスクリーン(ベンゾフェノン2、ケイ皮酸、樟脳誘導体)
ii)アンタゴニスト(抗アンドロゲン作用)
農薬、殺真菌剤、除草剤(リニュロン、プロシミドン、ビンクロコリン)ダイオキシン
B)酵素に影響を及ぼすED
殺真菌剤(アゾール):合成阻害剤:阻害の影響を受ける合成段階(ステロールデメチラーゼおよびクロマターゼ)
イソフラボン:甲状腺ペルオキシダーゼの阻害
ポリフェノール(イソフラボン、ゲニステイン):スルファターゼは減少したスルホ-トランスフェラーゼを増加させた(W.Wuttkeら,Hormones 2010,9(1):9-15より)からなる群から選択される。
【0032】
好ましい実施形態では、本発明は、標的分析物を含有するかまたは含有する可能性のある試料から、試料中の少なくとも1つの標的分析物の存在もしくは不在を検出、および/またはその量を定量化するための方法に関し、この方法は、

a)試料を、生化学的ネットワークを形成する生化学的要素を含む組成物と接触させるステップであって、当該生化学的ネットワークは、検出および/または定量化されることが望まれる当該標的分析物を基質として、または阻害剤として、または活性化剤として有する少なくとも1つの酵素を生化学的要素として含み、
-生化学的ネットワークを形成する当該生化学的要素のうちの少なくとも1つは、標的分析物に対して透過性であるかもしくは透過性でない1つのマイクロ小胞もしくはナノ小胞(小胞と呼ばれる)にカプセル化されるか、または
-生化学的ネットワークを形成する当該生化学的要素のうちの少なくとも2つは、標的分析物に対して透過性であるかもしくは透過性でない2つの別個の小胞にカプセル化され、
i)試料中の検出および/または定量化されることが望まれる少なくとも1つの標的分析物は、農薬または内分泌撹乱物質からなる群から選択され、より好ましくは農薬からなる群から選択され、好ましいのは、基質としてまたは酵素活性の阻害剤として作用することができる農薬であり、殺虫剤、除草剤、殺真菌剤からなるグループが最も好ましく、
ii)生化学的ネットワークは、
-当該標的分析物が当該生化学的ネットワークの酵素の基質である場合、標的分析物の存在下でのみ、少なくとも1つの特定の読み取り可能/測定可能な出力信号を生成すること、または
-当該標的分析物が当該生化学的ネットワークの酵素の阻害剤である場合、標的分析物の存在下でのみ、当該生化学的ネットワークによって生成された特定の読み取り可能/測定可能な出力信号を阻害することができる、ステップと、
b)生化学的ネットワークによって生成された特定の読み取り可能/測定可能な出力信号の速度および/またはレベルを決定するステップであって、得られた速度および/またはレベルは、試料中の標的分析物の存在もしくは不在および/またはその量と相関している、ステップとを含む。
【0033】
好ましい実施形態では、酵素を小胞にカプセル化すること、または酵素の小胞への侵入を促進することが望まれる場合、界面活性剤、溶血素またはポリンを使用することができる。
-グリホサートは脂質膜を容易に通過しないため、界面活性剤を使用して、グリホサートが小胞膜を通過するのを促進することができる。POE水素化タローアミド、POE(3)N-タロートリメチレンジアミン、POE(15)タローアミン、POE(5)タローアミン、POE(2)タローアミンのようなポリオキシエチレンアミンを使用することができる。
-溶血素またはポリンタンパク質を膜に挿入して、小胞膜を介して(グリホセートのように)検出する酵素、基質または分子の移動を促進することもできる(Deshpandeら,2015,NATURE COMMUNICATIONS|DOI:10.1038/ncomms10447、Vamvakakiら,2007,Biosens Bioelectron.2007 Jun 15;22(12):2848-53.Epub 2007 Jan 16、Karamdadら,2015,Lab Chip,2015,15,557)。
【0034】
好ましい実施形態では、標的分析物、農薬および/または内分泌撹乱物質は、当該小胞にカプセル化された少なくとも1つの酵素の基質であるか、または組成物に含有されるが当該小胞にカプセル化されていない少なくとも1つの酵素の基質である。
【0035】
また好ましい実施形態では、標的分析物、農薬および/または内分泌撹乱物質は、当該小胞にカプセル化されているかまたはカプセル化されていない少なくとも1つの当該酵素の活性の阻害剤である。
【0036】
好ましい実施形態では、標的分析物を含有する可能性のある試料は、流体または固体材料試料、好ましくは環境材料試料、植物材料、水(飲料水、飲料、廃水、河川水または海水など)、食品、土壌抽出物、工業材料、食品製造、植物抽出物、生体(哺乳類、植物、家禽など)由来の生理液(尿、血液、汗、植物樹液など)または組織からなる群から選択される。
【0037】
生体組織の非限定的な例には、軟組織、硬組織、皮膚、表面組織、外側組織、内部組織、膜、胎児組織および内皮組織が含まれる。
【0038】
試料が食品源からのものである場合、食品源の非限定的な例は、植物(好ましくは食用植物)の穀粒/種子、飲料、乳および乳製品、魚、甲殻類、卵、動物またはヒトの消費用の市販の加工食品および/または生鮮食品であり得る。
【0039】
前述のように、試料は、土壌、水路、スラッジ、商業排水などのような外部環境にある可能性がある。
【0040】
試料によって、それは、対象の分析物を含有することが疑われる材料の試料を特に指定することを意図し、その材料は、流体であり得るか、または本発明の方法で実施される組成物の小胞を通って流れるかまたは接触するのに十分な流動性を有し得る。流体試料は、供給源から直接取得したものとして、またはその特性を改質するための前処理の後に使用することができる。そのような試料には、上記にリストされているがこれらに限定されない、ヒト、動物、植物または人工の試料が含まれ得る。試料は、評価に干渉しない任意の便利な培地で調製することができる。通常、試料は水溶液もしくは生体液、または固体材料の表面である。
【0041】
したがって、当該試料はまた、対象の分析物を含有することが疑われる固体材料の表面を指定することもでき、その固体材料は、多孔質または非多孔質であり得、人工材料、食品、植物、種子、果実などから選択することができる。この場合、本発明の方法で実施され、小胞を含む組成物は、この固体材料の表面に、例えば、組成物の小胞が保持された多孔質ポリマービーズ(例えば、アガロース、アルギン酸塩、ポリビニルアルコール、デキストラン、アクリルアミドポリマー誘導体ビーズ)のような多孔質ゲルの形態で本発明の組成物により直接適用することができる。
【0042】
好ましい実施形態では、本発明の方法は、標的分析物の存在または関連する量および/または量が、比色剤、電子移動剤、酵素、蛍光剤、標的分析物の存在および/または量と相関する当該検出可能または定量化可能な信号を提供する薬剤からなる群から選択される薬剤に関連する信号によって検出されることを特徴とする。
【0043】
本発明はまた、試料中の少なくとも2つの異なる標的分析物の存在もしくは不在を検出、および/またはその量を定量化するための方法に関し、当該異なる分析物は、小胞にカプセル化されているかまたはカプセル化されていない、同一の少なくとも1つの生化学的ネットワーク酵素の基質または阻害剤または活性化剤のいずれかである。
【0044】
実際、同一の小胞にカプセル化された酵素もしくはカプセル化されていない酵素、または同一の生化学的ネットワーク酵素(基質または阻害剤として)に作用する2つの別個の分析物の存在は、放出された信号を増幅させる可能性がある。
【0045】
例えば、(例6、図6、7および12を参照)、第1の標的分析物(すなわちグリホサート)および第2の標的(すなわちグリシント)の検出は、本発明の方法で使用されるのと同一の生化学的ネットワークによって別々に検出または定量化することができる。さらに、本発明による同一の生化学的ネットワークを使用して、2つの標的分析物を同時に検出および/または定量化することができる(図12を参照)。
【0046】
本発明の方法の利点の1つは、通常存在し、異なる生化学的要素または生化学的ネットワークが化合物の検出または定量化の方法で使用される場合に困難を引き起こすバックグラウンドノイズを低減または除去することである。
【0047】
同一の装置または組成で使用することにより、溶液中、小胞にカプセル化された、またはゲルマトリックスもしくは固体表面に補足された生化学的要素により、これらのバックグラウンドノイズを大幅に低減できる。
【0048】
必要な場合、例えば、特定の信号を視覚的に直接読み取りできない場合、信号は、比色測定、蛍光、分光法(すなわち、赤外線、ラマン)、化合物または粒子(電子)の生成によって検出または定量化することができる。
【0049】
本発明の方法の好ましい実施形態では、当該生化学的ネットワークによって生成することができる当該出力信号は、生物学的、化学的、電子的または光子的信号、好ましくは読み取り可能であり、任意選択的に測定可能な物理化学的出力信号から選択される。
【0050】
出力信号として使用できる信号の中で、特に、例えば、比色、蛍光、発光または電気化学的信号を挙げることができる。これらの例は、本発明で使用可能な出力信号を制限することを意図するものではない。それらの選択は、感度または技術リソースの観点から、評価の仕様に主に依存する。重要なことに、比色出力はヒトが読み取り可能であり、低コストで使い易いポイントオブケア装置への統合に関する興味深い特性であり、一方で例えば発光信号は超高感度および広いダイナミックレンジの検出を提供する。しかしながら、従来式のエンドポイント信号を測定するのではなく、他のバイオセンシングの枠組が存在し、生物学的システムに固有の性質のおかげで達成することができる。したがって、線形、周波数、もしくは閾値などの種々の読み出しモード、または複数値の検出モードを定義することが可能である。
【0051】
別の態様では、本発明の方法は、同一試料中の2つの異なる標的分析物の存在を検出および/または定量化するために使用することができ、この方法で実施される組成物は、標的分析物の両方に対して透過性であるかまたは透過性でない、同一もしくは少なくとも2つの別個の小胞またはセットの小胞にカプセル化された2つの別個の生化学的ネットワークを形成する2つの異なる生化学的要素のセットを含み、当該生化学的要素のそれぞれは、検出および/または定量化することが望まれる標的分析物のうちの1つのみを基質として、または阻害剤として、または活性化剤として有する少なくとも1つの異なる酵素を含む。この場合、本発明の方法で実施される組成物は、少なくとも2つの異なる生化学的要素のセットを含有し、それらのそれぞれは、異なる読み取り可能/測定可能な出力信号を生成する異なる生化学的ネットワークを形成し、当該2つの異なる生化学的要素のセットは、同一の小胞または異なるセットの小胞にカプセル化され、または生化学的ネットワークを形成する生化学的要素の少なくとも1つ、および2つの別個の生化学的ネットワークのそれぞれについては、同一の小胞または異なるセットの小胞にカプセル化される。
【0052】
したがって、本発明はまた、試料中の少なくとも2つの異なる標的分析物の存在もしくは不在を検出、および/またはその量を定量化するための方法に関し、
-当該異なる分析物は、2つの別個の生化学的ネットワーク酵素の基質または阻害剤であり、
-少なくとも、および当該2つの別個の生化学的ネットワークのそれぞれについて、当該生化学的ネットワークを形成する生化学的要素のうちの1つは、標的分析物に対して透過性であるかもしくは透過性でない小胞にカプセル化され、または
-生化学的ネットワークを形成する当該生化学的要素のうちの少なくとも2つは、標的分析物に対して透過性であるかもしくは透過性でない2つの別個の小胞にカプセル化され、
-当該異なる生化学的ネットワーク(相互接続されているかどうかに関係なく)は、異なる読み取り可能/測定可能な出力信号を生成する。
【0053】
「相互接続された生化学的ネットワーク」は、2つの異なる生化学的ネットワークが、共通の生化学的要素またはネットワークの同一の共通のステップもしくは一部を有する可能性があることを本明細書で指すことを意図している。
【0054】
好ましい実施形態では、本発明の方法は、検出および/または定量化することが望まれる農薬または内分泌撹乱物質が、1つ以上のステップで特定の読み取り可能/測定可能な出力信号を生成することができる、生化学的ネットワークの生化学的要素であり、当該生化学的要素は、好ましくは、巨大分子、ペプチド、タンパク質、代謝産物、酵素、核酸、金属イオンからなる群から選択されるものであることを特徴とする。
【0055】
より好ましくは、検出および/または定量化することが望まれる農薬または内分泌撹乱物質は、
a)酵素活性の特定の基質である農薬もしくは内分泌撹乱物質分子であって、活性が、1つ以上のステップで特定の読み取り可能/測定可能な出力信号を生成することができる、農薬または内分泌撹乱物質分子、または
b)酵素活性の特定の阻害剤である農薬もしくは内分泌撹乱物質分子であって、活性が、1つ以上のステップで特定の読み取り可能/測定可能な出力信号を生成することができる、農薬もしくは内分泌撹乱物質分子、または
c)酵素活性の特定の活性化剤である農薬もしくは内分泌撹乱物質分子であって、活性が、1つ以上のステップで特定の読み取り可能/測定可能な出力信号を生成することができる、農薬もしくは内分泌撹乱物質分子からなる群から選択される。
【0056】
より好ましい実施形態では、試料中のこの標的分析物の存在および/または量に関連する、酵素活性の特定の基質である農薬もしくは内分泌撹乱物質分子であって、活性が、1つ以上のステップで特定の読み取り可能/測定可能な出力信号を生成することができる、農薬または内分泌撹乱物質分子は、グリホサート(グリシン/グリホサートオキシダーゼ酵素の基質)、およびクロルデコン(クロルデコンレダクターゼ基質)からなる群から選択される。
【0057】
さらにより好ましい実施形態では、試料中のこの標的分析物の存在および/または量に関連する、酵素活性の特定の阻害剤である農薬もしくは内分泌撹乱物質分子であって、活性が、1つ以上のステップで特定の読み取り可能/測定可能な出力信号を生成することができる、農薬または内分泌撹乱物質分子は、グリホサート(EPSPS阻害剤)、クロルデコン(エストロゲン受容体阻害剤)、カルバメート(アセチルコリンエステラーゼ阻害剤)、コハク酸デヒドロゲナーゼ阻害剤殺真菌剤(SDHI殺真菌剤)からなる群から選択される。オキサチイン-カルボキサミド、フェニル-ベンズアミド、チアゾール-カルボキシアミド、フラン-カルボキサミド、ピリジン-カルボキサミド、ピラゾール-カルボキサミドおよびピリジニル-エチル-ベンズアミドからなる群から選択されるSDHI殺真菌剤が好ましい。ネオニコチノイド(アセチルコリン受容体活性の阻害剤)は、好ましくは、クロロピリジニル、トリフルオロピリジニル、クロロチアゾリル、テトラヒドロフラニル、フェニルピラゾールからなる群から選択される。
【0058】
アニリノピリミジン(AP)殺真菌剤、カルボン酸アミド(CAA)殺真菌剤およびステロール生合成阻害剤(SBI)などの、酵素活性の特異的阻害剤でもある他の殺真菌剤を挙げることができる(これらの化合物に関する完全な情報についてはウェブサイトhttp://www.frac.info/working-group/を参照)。
【0059】
ネオニコチノイド、有機塩化物、ダイオキシン(PCDD)、ポリクロロビフェニル(PCB)、17-βエストラジオール、17-αエチレンエストラジオール、ビスフェノール(PBDE)、フタレート、重金属(Cr、Mn、Pb、Li、Hgなど)からなる群から選択される農薬または内分泌撹乱物質分子も好ましい。
【0060】
さらにより好ましい実施形態では、生化学的ネットワークを形成する要素は、少なくとも小胞にカプセル化されたグリシン/グリホサートオキシダーゼ(EC1.4.3.19)、アセチルコリンエステラーゼ(EC3.1.1.7)、5-エノールピルビニルシキミ酸-3-リン酸(EPSP)シンターゼ(EC2.5.1.19)およびコハク酸デヒドロゲナーゼ(EC1.3.5.1)からなる群から選択される少なくとも1つの酵素を含む。
【0061】
別のより好ましい実施形態では、試料中の検出および/または定量化することが望まれる少なくとも農薬または内分泌撹乱物質標的分析物は、グリホサートである。
【0062】
より好ましい実施形態では、本発明は、グリホサートを含有するかまたは含有する可能性のある試料から、試料中の標的分析物として少なくともグリホサートの存在もしくは不在を検出、および/またはその量を定量化するための、本発明による方法に関し、当該方法は、
a)試料を、生化学的ネットワークを形成する生化学的要素を含む組成物と接触させるステップであって、当該生化学的ネットワークは、検出および/または定量化されることが望まれる当該標的分析物を基質として、または阻害剤として、または活性化剤として有する少なくとも1つの酵素を生化学的要素として含み、
-生化学的ネットワークを形成する当該生化学的要素のうちの少なくとも1つは、標的分析物に対して透過性であるかもしくは透過性でない1つの小胞にカプセル化されるか、または
-生化学的ネットワークを形成する当該生化学的要素のうちの少なくとも2つは、標的分析物に対して透過性であるかもしくは透過性でない2つの別個の小胞にカプセル化され、
i)生化学的ネットワークは、
-当該標的分析物が当該生化学的ネットワークの酵素の基質である場合、標的分析物の存在下でのみ、少なくとも1つの特定の読み取り可能/測定可能な出力信号を生成すること、または
-当該標的分析物が当該生化学的ネットワークの酵素の阻害剤である場合、標的分析物の存在下でのみ、当該生化学的ネットワークによって生成された特定の読み取り可能/測定可能な出力信号を阻害することができる、ステップと、
b)生化学的ネットワークによって生成された特定の読み取り可能/測定可能な出力信号の速度および/またはレベルを決定するステップであって、得られた速度および/またはレベルは、試料中のグリホサートの存在もしくは不在および/またはその量と相関している、ステップとを含む。
【0063】
好ましい実施形態では、生化学的ネットワークを形成する生化学的要素は、少なくとも小胞にカプセル化されているかまたはカプセル化されていないグリシン/グリホサートオキシダーゼ酵素(EC1.4.3.19)を含む。
【0064】
好ましい実施形態では、当該グリシン/グリホサートオキシダーゼ酵素は、組換えタンパク質として得ることができる天然(または野生型/WT)グリシン/グリホサートオキシダーゼである。
【0065】
より好ましい実施形態では、当該グリシン/グリホサートオキシダーゼ酵素は、特に組換え発現および天然配列と比較してその溶解性を高めるために、グリシン/グリホサートオキシダーゼ酵素に融合されるタグを含む(Jeffrey G.Marblestoneら(Protein Sci.2006 Jan;15(1):182-189))。
【0066】
使用できるがこれらに限定されないタグの中で、マルトース結合タンパク質(MBP)、キチン結合タンパク質(CBP)、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、チオレドキシン(TRX)、NUS A、ユビキチン(Ub)、およびSUMO(低分子ユビキチン様修飾因子)タグを挙げることができる。
【0067】
SUMOおよびGSTを含むタグは、特に好ましいタグである。
【0068】
さらにより好ましい実施形態では、当該グリシン/グリホサートオキシダーゼ酵素は、クローン化された海洋細菌Bacillus licheniformis由来のグリシンオキシダーゼ(GO)((BliGO)であり、Bacillus subtilis由来の標準GOと62%の類似性を示す(Characterization and directed evolution of BliGO,a novel glycine oxidase from Bacillus licheniformis.Zhang Kら(Enzyme Microb Technol.2016 Apr;85:12-8.を参照)。BliGO WTタンパク質配列と少なくとも60%、70%、好ましくは75%、80%、85%、90%または95%の同一性(例えば、配列用の標準的なBLAST-PまたはBLAST-Nソフトウェアを使用)を有し、好ましくは少なくともGO活性、好ましくは少なくとも50%のBliGO WT GO活性を同一の活性試験条件で示すホモログ配列も好ましい。
【0069】
DNA配列番号5もしくはアミノ酸配列番号6を有するGST-BliGO(天然/WT)(図16を参照)およびDNA配列番号9もしくはアミノ酸配列番号10を有するSUMO-BliGO(天然/WT)(図18を参照)、またはBliGO配列がWT BliGOと少なくとも70%、好ましくは75%、80%、85%、90%、または95%の同一性を示す上記で定義されるようなそのホモログタグ付きBliGO配列が好ましい。
【0070】
より好ましい実施形態では、当該グリシン/グリホサートオキシダーゼ酵素は、遺伝子操作された海洋細菌Bacillus licheniformis由来の変異グリシンオキシダーゼ(GO)((BliGO)-SCF4であり、クローン化された野生型バージョンのBliGO-WTと比較して6つの単一アミノ酸変異を含有し、Bacillus subtilis由来の標準GOと62%の類似性を示す(Characterization and directed evolution of BliGO,a novel glycine oxidase from Bacillus licheniformis.Zhang Kら(Enzyme Microb Technol.2016 Apr;85:12-8.を参照)。
【0071】
DNA配列番号7またはアミノ酸配列番号8を有するGST-BliGO_Mut(図17を参照)およびDNA配列番号11またはアミノ酸配列番号12を有するSUMO-BliGO_Mut(図19を参照)も好ましい。
【0072】
好ましい実施形態では、生化学的ネットワークを形成する生化学的要素は、グリシン/グリホサートオキシダーゼ(EC1.4.3.19)に加えて、少なくとも同一の粒子または別の小胞にカプセル化されたペルオキシダーゼ、好ましくは西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)酵素(EC.1.11.17)、および酸化され得るペルオキシダーゼの基質、好ましくはO-ジアニシジン、ピロガロール、またはアンプレックスレッド、2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン)酸(ABTS)、o-フェニレンジアミン(OPD)、3,3’-ジアミノベンジジン(DAB)、3-アミノ-9-エチルカルバゾール(AEC)、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)、ホモバニリン酸、チラミンまたはルミノールをさらに含む。
【0073】
別のより好ましい実施形態では、試料中の検出および/または定量化することが望まれる農薬または内分泌撹乱物質標的分析物はグリホサートであり、生化学的ネットワークを形成する生化学的要素は、少なくとも小胞にカプセル化された5-エノールピルビニルシキミ酸-3-リン酸(EPSP)シンターゼ(EPSPS)酵素(EC2.5.1.19)、3-ホスホ-シキミ酸およびホスホエノールピルビン酸(PEP)を含む。
【0074】
好ましい実施形態では、生化学的ネットワークを形成する生化学的要素は、5-エノールピルビニルシキミ酸-3-リン酸(EPSP)シンターゼ(EPSPS)酵素(EC2.5.1.19)に加えて、3-ホスホ-シキミ酸およびホスホエノールピルビン酸(PEP)、少なくとも同一の粒子または別の1つ以上の粒子にカプセル化されたコリスミ酸シンターゼ酵素(EC.4.2.3.5)、コリスミ酸リアーゼ酵素(EC.4.1.3.40)、乳酸デヒドロゲナーゼ酵素(EC1.1.1.27)およびそのNADH基質をさらに含む。
【0075】
別のより好ましい実施形態では、試料中の検出および/または定量化することが望まれる農薬または内分泌撹乱物質標的分析物はグリホサートであり、生化学的ネットワークを形成する生化学的要素は、少なくとも小胞にカプセル化された5-エノールピルビニルシキミ酸-3-リン酸(EPSP)シンターゼ(EPSPS)酵素(EC2.5.1.19)、3-ホスホ-シキミ酸およびホスホエノールピルビン酸(PEP)、ならびに同一の粒子または別の1つ以上の粒子にカプセル化されたプリン-ヌクレオシドホスホリラーゼ酵素(EC.2.4.2.1.)およびそのイノシン基質、キサンチンオキシダーゼ酵素(EC.1.17.3.2)、ペルオキシダーゼ、好ましくは西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)酵素(EC.1.11.17)、および酸化され得るペルオキシダーゼの基質、好ましくはO-ジアニシジン、ピロガロール、またはアンプレックスレッド、2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン)酸(ABTS)、o-フェニレンジアミン(OPD)、3,3’-ジアミノベンジジン(DAB)、3-アミノ-9-エチルカルバゾール(AEC)、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)、ホモバニリン酸、チラミンまたはルミノールを含む。
【0076】
好ましい実施形態では、小胞は単層または多層小胞からなる群から選択され、好ましくは脂質小胞、リポソームもしくは自己組織化リン脂質であるか、または合成ポリマーもしくはコポリマーから形成される小胞であり、当該小胞は好ましくは0.01μm~500μm、好ましくは0.01μm~100μm、より好ましくは0.05μm~50μmまたは0.05μm~10μmの平均直径を有する。
【0077】
例えば、限定されないが、本発明の方法で実施される組成物の生化学的要素は、区画、例えば小胞系、または多孔質ゲル、多孔質ポリマービーズ、リポソームなどの集合リン脂質、合成コポリマーなどのこれらに限定されない、小胞の性質を有するかまたはそうでない任意の他の種類の区画に、区画化/閉じ込められるか、またはカプセル化され得る。
【0078】
本明細書では、「カプセル化された」を意味する「閉じ込められた」または「区画化された」という表現も使用され、これらは同一の意味を有する。
【0079】
好ましい実施形態では、本発明の方法で実施される組成物の小胞は、好ましくはアルギン酸塩、キトサン、PVP(ポリビニルピロリドン)、PVA(ポリビニル-アルコール)、アガロース、セファデックス、セファロース、セファクリルおよびそれらの混合物からなる多孔質ポリマーゲルからなる群から選択される、多孔質ポリマーゲルに捕捉される。
【0080】
例えば、本発明による、試料中の少なくとも1つ標的分析物の存在もしくは不在を検出、および/またはその量を定量化するための方法は、
a)本発明の方法で実施される組成物を、当該標的分析物化合物を含有する可能性のある試料と接触させて、混合物を生成するステップと、
b)少なくとも1つの生化学反応の実行に適合した条件で当該混合物をインキュベートして、少なくとも当該出力信号、好ましくは読み取り可能/測定可能な物理化学的出力信号を生成するステップであって、当該出力信号は、当該試料の分析することが望まれる化合物の存在、もしくは関連するその量、および/またはレベルを示す、ステップと、
c)ステップb)で生成された出力信号を検出または測定するステップと、
d)ステップc)で生成/測定された信号から、当該化合物の存在および/またはレベルを形成し、判定するステップとを含む。
【0081】
本発明の方法の特定の実施形態では、この方法は、所望の持続時間にわたって標的分析物を検出することができることも理解されるべきである。持続時間は、計算される第1の所定の時間間隔および少なくとも第2の所定の時間間隔であり得る。特定の実施形態では、分析物相関値は、試験時間間隔中に計算される。
【0082】
第2の態様では、本発明は、試料中の少なくとも1つの標的分析物の存在もしくは不在を検出、および/またはその量を定量化するための組成物に関し、当該組成物は、標的分析物に対して透過性であるかまたは透過性でない、1つまたはセットの小胞にカプセル化された生化学的ネットワークを形成する生化学的要素を含み、当該生化学的ネットワークは、検出および/または定量化することが望まれる標的分析物を基質として、または阻害剤として有する少なくとも1つの酵素を生化学的要素として含み、
i)対象化合物は、農薬および/または内分泌撹乱物質からなる群から選択され、
ii)生化学的ネットワークは、
a)当該標的分析物が当該生化学的ネットワークの酵素の基質である場合、標的分析物の存在下でのみ、少なくとも1つの特定の読み取り可能/測定可能な出力信号を生成すること、または
b)当該標的分析物が当該生化学的ネットワークの酵素の阻害剤である場合、標的分析物の存在下でのみ、当該生化学的ネットワークによって生成された特定の読み取り可能/測定可能な出力信号を阻害することのいずれかが可能である。
【0083】
好ましい実施形態では、小胞は標的分析物に対して透過性である。
【0084】
好ましい実施形態では、本発明による組成物は、本発明の方法のために実施される組成物において上記で定義されるような特徴を有する小胞またはセットの小胞を含む。
【0085】
より好ましい実施形態では、本発明の当該組成物は、標的分析物に対して透過性であるかまたは透過性でない、1つまたはセットの小胞にカプセル化された生化学的ネットワークを形成する生化学的要素を含み、当該生化学的ネットワークは、
A)生化学的要素として、
-グリシン/グリホサートオキシダーゼ(EC1.4.3.19)、アセチルコリンエステラーゼ(EC3.1.1.7)、5-エノールピルビニルシキミ酸-3-リン酸(EPSP)シンターゼ(EC2.5.1.19)およびコハク酸デヒドロゲナーゼ(EC1.3.5.1)、および任意選択的に、
-i)グリシン/グリホサートオキシダーゼ(EC1.4.3.19)に加えて、少なくともペルオキシダーゼ、好ましくは西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)酵素(EC.1.11.17)、および任意選択的に、酸化され得るペルオキシダーゼの基質、好ましくはO-ジアニシジン、ピロガロール、またはアンプレックスレッド、2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン)酸(ABTS)、o-フェニレンジアミン(OPD)、3,3’-ジアミノベンジジン(DAB)、3-アミノ-9-エチルカルバゾール(AEC)、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)、ホモバニリン酸、チラミンまたはルミノール、および任意選択的に、
-ii)5-エノールピルビニルシキミ酸-3-リン酸(EPSP)シンターゼ(EPSPS)酵素(EC2.5.1.19)に加えて、少なくとも3-ホスホ-シキミ酸およびホスホエノールピルビン酸(PEP)、および任意選択的に加えて、
ii)a)コリスミ酸シンターゼ酵素(EC.4.2.3.5)、コリスミ酸リアーゼ酵素(EC.4.1.3.40)、乳酸デヒドロゲナーゼ酵素(EC1.1.1.27)およびそのNADH基質、または
ii)b)プリン-ヌクレオシドホスホリラーゼ酵素(EC.2.4.2.1.)およびそのイノシン基質、キサンチンオキシダーゼ酵素(EC.1.17.3.2)、ペルオキシダーゼ、好ましくは西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)酵素(EC.1.11.17)、および酸化され得るペルオキシダーゼの基質、好ましくはO-ジアニシジン、ピロガロール、またはアンプレックスレッド、2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン)酸(ABTS)、o-フェニレンジアミン(OPD)、3,3’-ジアミノベンジジン(DAB)、3-アミノ-9-エチルカルバゾール(AEC)、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)、ホモバニリン酸、チラミンまたはルミノールからなる群から選択される生化学的要素のうちの1つ、
ならびに
B)小胞として、
-単層または多層小胞、好ましくは脂質小胞、リポソームもしくは自己組織化リン脂質であるか、または合成ポリマーもしくはコポリマーから形成される小胞であり、当該小胞は好ましくは0.01μm~500μm、好ましくは0.01μm~100μm、より好ましくは0.05μm~50μmまたは0.05μm~10μmの平均直径を有する、および/または
-多孔質ゲル、多孔質ポリマービーズ、リポソームなどの集合リン脂質、合成コポリマーなどのこれらに限定されない、小胞の性質を有するかまたはそうでない小胞からなる群から選択される小胞、を含む。
【0086】
より好ましい実施形態では、本発明の組成物の小胞は、好ましくはアルギン酸塩、キトサン、PVP(ポリビニルピロリドン)、PVA(ポリビニル-アルコール)、アガロース、セファデックス、セファロース、セファクリルおよびそれらの混合物からなる多孔質ポリマーゲルからなる群から選択される、多孔質ポリマーゲルに捕捉される。
【0087】
より好ましい実施形態では、本発明の組成物は、標的分析物に対して透過性であるかまたは透過性でない、1つまたはセットの小胞にカプセル化されているかまたはカプセル化されていない生化学的ネットワークを形成する生化学的要素を含む組成物に関し、当該生化学的ネットワークは、
-グリシン/グリホサートオキシダーゼ(EC1.4.3.19)、好ましくは、組換えタンパク質として得ることができる天然(野生型/WT)グリシン/グリホサートオキシダーゼ、またはWTタンパク質配列と少なくとも70%の同一性を有し、グリシン/グリホサートオキシダーゼ活性を示すそのホモログ配列、
-5-エノールピルビニルシキミ酸-3-リン酸(EPSP)シンターゼ(EC2.5.1.19)、
-クローン化された海洋細菌Bacillus licheniformis由来のグリシンオキシダーゼ(GO)((BliGO)であって、Bacillus subtilis由来の標準GOと少なくとも62%の類似性を示す、BliGO、またはBliGO WTタンパク質配列と少なくとも70%の同一性を有し、GO活性を示す、そのホモログBliGO配列、
-遺伝子操作された海洋細菌Bacillus licheniformis由来の変異グリシンオキシダーゼ(GO)((BliGO)_SCF4(BliGO-Mutとも呼ばれる)であり、野生型バージョンのBliGO-WTと比較して6つの単一アミノ酸変異を含有する、変異グリシンオキシダーゼ、
-タグ付きグリホサートオキシダーゼ酵素であって、好ましくは、マルトース結合タンパク質(MBP)、キチン結合タンパク質(CBP)、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、チオレドキシン(TRX)、NUS A、ユビキチン(Ub)、およびSUMO(低分子ユビキチン様修飾因子)タグ、好ましくはSUMOおよびGSTタグからなる群から選択されるタグを有する、タグ付きグリホサートオキシダーゼ酵素、および
-DNA配列番号5またはアミノ酸配列番号6を有するGST-BliGO(天然/WT)、
-DNA配列番号9またはアミノ酸配列番号10を有するSUMO-BliGO(天然/WT)、
-DNA配列番号7またはアミノ酸配列番号8を有するGST-BliGO-MutおよびDNA配列番号11またはアミノ酸配列番号12を有するSUMO-BliGO-Mutおよび
-BliGO配列が少なくとも70%を示す、上記で定義されるようなそのホモログタグ付きBliGO配列、ならびに任意選択的に、上記で定義されるような1つの小胞であって、生化学的ネットワークを形成する少なくとも1つの生化学的要素が小胞にカプセル化され、およびまたはゲルマトリックスに捕捉される、小胞からなる群から選択される少なくとも1つの酵素を生化学的要素として含む。
【0088】
第3の態様では、本発明は、試料中の少なくとも1つの標的分析物の存在、もしくは関連する量の存在、もしくは不在を検出、および/またはその量を定量化するためのキットまたは装置に関し、当該キットまたは装置は、本発明による組成物、または本発明の方法のために実施される組成物において上記で定義されるような組成物を含有する容器を含み、当該組成物の小胞は、好ましくは多孔質ポリマーゲルからなる群から選択され、好ましくはアルギン酸塩、キトサン、PVP(ポリビニルピロリドン)、PVA(ポリビニル-アルコール)、アガロース、セファデックス、セファロース、セファクリル、およびそれらの混合物からなる群から選択される、多孔質ポリマーゲルに捕捉される。
【0089】
前述の一般的な説明および以下の詳細な説明の両方は、例示的かつ説明的なものにすぎず、本教示の範囲を制限することを意図するものではないことを理解されたい。本出願において、特に別段の記載がない限り、単数形の使用には複数形が含まれる。
【0090】
当業者は、以下の実施形態の詳細な説明は例示にすぎず、決して限定することを意図するものではないことを理解するであろう。他の実施形態は、本開示の利益を有するそのような当業者にそれら自体を容易に示唆するであろう。本明細書における「実施形態」、「態様」、または「例」への言及は、そのように記載された本発明の実施形態が特定の特性、構造、または特徴を含み得るが、すべての実施形態が必ずしもこの特定の特性、構造、または特徴を含むとは限らないことを示す。さらに、「一実施形態では」という語句の繰り返しの使用は、それが可能であっても、必ずしも同一の実施形態を指すとは限らない。
【0091】
以下の例、図面、および凡例は、本発明を実施および使用することができるようにするために、当業者に完全な説明を提供するために選択された。これらの例は、発明者が検討する本発明の範囲を限定することを意図するものではなく、また以下の実験のみが実施されたことを示すことを意図するものではない。
【0092】
本発明の他の特徴および利点は、以下に説明する例および図面の記載の残りの部分で明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0093】
図1】グリシン/グリホサート生化学的ネットワーク#1の概略図。ネットワークは、GST-BliGO Mut#1酵素、HRP酵素、および比色または蛍光読み出しのためのアンプレックスレッドまたはジアニシジンを含む。
図2a】グリホサート検出のためのEPSPシンターゼ生化学的ネットワーク#2Aおよび#2Bの概略図。ネットワーク#2A(図2A)は、EPSPシンターゼ酵素、コリスミ酸シンターゼ酵素、コリスミ酸(Chorimsate)リアーゼ酵素、乳酸デヒドロゲナーゼ酵素、および吸光度または蛍光検出のためのNADHを含む。ネットワーク#2Bは、EPSPシンターゼ酵素、プリン-ヌクレオシドホスホリラーゼ酵素、キサンチンオキシダーゼ酵素、HRP酵素、および比色または蛍光読み出しのためのアンプレックスレッドまたはO-ジアニシジンを含む。
図2b】同上。
図3】小胞形成のためのマイクロ流体プロセス(Courbetら,Mol.Sys.Biol.2018,14(4):e7845.図4A)より)
図4a図4A:グリシン/グリホサートオキシダーゼネットワーク#1による吸光度グリホサート検出。0~10mMの範囲のグリホサートの検出。図4B:グリシン/グリホサートオキシダーゼ酵素の触媒活性分析。
図4b】同上。
図5a図5A:グリシン/グリホサートオキシダーゼネットワーク#2Bによる蛍光ホスホエノールピルビン酸(PEP)検出。0~100μMの範囲のPEPの検出。図5B:EPSPシンターゼ酵素の触媒活性分析。
図5b】同上。
図6】グリシン検出のためのグリシン生化学的ネットワーク#3の概略図。ネットワークは、Bacillus subtilisグリシンオキシダーゼH244K酵素、HRP酵素、および比色または蛍光読み出しのためのアンプレックスレッドまたはO-ジアニシジンを含む。
図7】グリホサートおよびグリシン検出のためのグリホサートまたはグリシン生化学的ネットワーク#4の概略図。ネットワークは、GST-BliGO Mut#1酵素、Bacillus subtilisグリシンオキシダーゼH244K酵素、HRP酵素、および比色または蛍光読み出しのためのアンプレックスレッドまたはO-ジアニシジンを含む。
図8a-8b】グリシン/グリホサートオキシダーゼネットワーク#1による蛍光(上部分)および比色(下部分)グリホサート検出。(A-左)トリスバッファー50mM pH7.5中の0~2mMの範囲のグリホサートの検出。(B-右)トリスバッファー50mM pH7.5で抽出されたオオムギ種子中の0~2mMの範囲のグリホサートの検出。
図9a-9b】小胞に統合されたグリシン/グリホサートオキシダーゼネットワーク#1による蛍光(上部分)および比色(下部分)グリホサート検出。(A-左)トリスバッファー50mM pH7.5中の0~2mMの範囲のグリホサートの検出。(B-右)トリスバッファー50mM pH7.5で抽出されたオオムギ種子中の0~2mMの範囲のグリホサートの検出。
図10】アルギン酸塩ビーズに統合されたグリシン/グリホサートオキシダーゼネットワーク#1による比色グリホサート検出。(上部分)トリスバッファー50mM pH7.5中の0~4mMの範囲のグリホサートの検出。(下部分)トリスバッファー50mM pH7.5で抽出されたオオムギ種子中の0~4mMの範囲のグリホサートの検出。
図11】グリシン/グリホサートオキシダーゼネットワーク#3による蛍光(上部分)および比色(下部分)グリシン検出。(左)トリスバッファー50mM pH7.5中の0~1mMの範囲のグリシンの検出。100μΜでグリホサートが検出されないことに注意。
図12】グリシン/グリホサートオキシダーゼネットワーク#4による蛍光グリホサートおよびグリシン検出。(上部分)ネットワークによるグリホサートおよび/またはグリシン分解の速度論。グリホサートおよびグリシンは1mMの濃度で存在した。(下部分)グリシンおよび/またはグリホサートの存在に対するグリシン/グリホサートオキシダーゼネットワーク#4論理ゲート(または)応答。
図13】EPSPシンターゼネットワーク#2Bによる蛍光グリホサート検出。ネットワークによるグリホサート分解の速度論。0~1mMの範囲のグリホサートの検出。
図14】BliGO_WT(天然)タンパク質:DNA(配列番号1)およびアミノ酸(配列番号2)の配列
図15】BliGO_Mutタンパク質:DNA(配列番号3)およびアミノ酸(配列番号4)の配列
図16】GST-BliGO_WT(天然)タンパク質:DNA(配列番号5)およびアミノ酸(配列番号6)の配列
図17】GST-BliGO_Mutタンパク質:DNA(配列番号7)およびアミノ酸(配列番号8)の配列
図18】SUMO-BliGO_WTタンパク質:DNA(配列番号9)およびアミノ酸(配列番号10)の配列
図19】SUMO-BliGO_Mutタンパク質:DNA(配列番号11)およびアミノ酸(配列番号12)の配列。
【0094】
例1:研究設計-生化学的ネットワークのセットアップ
種々の生化学的ネットワークが、種々の農薬および/または内分泌撹乱物質の存在を検出するために設計されている。本発明の1つの独創性は、異なる生化学的ネットワークを一緒に接続して、異なる分析物の検出を可能にし、必要に応じて単一の出力信号の送達をもたらすことができるという事実にある。
【0095】
グリホサート農薬を特異的に検出するために、出力信号の特異性を向上させるために互いに組み合わせることができる2つの検出システムを設計した。
1.第1のネットワークは、酵素グリシン/グリホサートオキシダーゼの能力を使用してグリホサートを代謝する(図1)。
第1の例では、この第1のネットワークは、
a)酵素グリシン/グリホサートオキシダーゼ、酵素西洋ワサビペルオキシダーゼおよびO-ジアニシジン二塩酸塩を含む。グリホサートの存在下では、2-アミノホスホネートおよびHがグリシン/グリホサートオキシダーゼによって生成される。その後、Hは、西洋ワサビペルオキシダーゼによってO-ジアニシジンと共処理され、450nmの可視波長での吸光度の変化を伴う反応の比色読み出しが得られる。
【0096】
まず、ネットワークを、小胞およびゲルを含まない液体バッファーで試験した。100μlの反応系は、30mMのピロリン酸二ナトリウム(pH8.5)、0.46μΜ(0.0024単位)のBacillus subtilis由来のグリシン/グリホサートオキシダーゼH244K(Biovision#7845)、0.5mMのO-ジアニシジン二塩酸塩、0.25単位の西洋ワサビペルオキシダーゼおよび0~600mMの範囲の濃度のグリホサートを含んでいた。分光光度計で450nmの吸光度を記録することにより、反応を25℃で1時間追跡した。
【0097】
第2の例では、この第1のネットワークは、
b)酵素GST-Bacillus licheniformis Mut#1またはSCF-4グリシン/グリホサートオキシダーゼ、酵素西洋ワサビペルオキシダーゼおよびアンプレックスレッドを含むことができる。グリホサートの存在下では、2-アミノホスホネートおよびHがグリシン/グリホサートオキシダーゼによって生成される。その後、Hは、西洋ワサビペルオキシダーゼによってアンプレックスレッドと共処理され、反応に対する比色(赤色)および蛍光読み出しが得られる。
【0098】
まず、ネットワークを、小胞およびゲルを含まない液体バッファーで試験した(図8A~8B)。100μlの反応系は、50mMのトリス(pH7.5)、遺伝子操作されたBacillus Licheniformis由来で、野生型バージョンと比較して6つの単一アミノ酸変異を含有するBliGO-SCF-4に由来する、0.46μM(0.0024単位)のグリシン/グリホサートオキシダーゼGST-BliGO Mut#1、.2mMのアンプレックスレッド、0.25単位の西洋ワサビペルオキシダーゼ、および0~2mMの範囲の濃度のグリホサートを含んでいた。ネットワークを、オオムギ抽出物の存在下でも試験した(図8B)。分光光度計で蛍光(530nmでの励起/590nmでの発光)を記録することにより、反応を25℃で1時間追跡した。
【0099】
ネットワークを小胞でも試験した(図9A~9B)。小胞は、50mMのトリス(pH7.5)、0.2mMのアンプレックスレッドおよび0.25単位の西洋ワサビペルオキシダーゼを含んでいた。Bacillus licheniformis由来の0.46μΜ(0.0024単位)のグリシン/グリホサートオキシダーゼGST-BliGO Mut#1および0~2mMの範囲の濃度のグリホサートを小胞の外側の反応に添加した。分光光度計で蛍光(530nmでの励起/590nmでの発光)を記録することにより、反応を25℃で1時間追跡した。
【0100】
ネットワークをアルギン酸塩ビーズでも試験した(図10)。アルギン酸塩ビーズは、50mMのトリス(pH7.5)、0.2mMのアンプレックスレッド、0.25単位の西洋ワサビペルオキシダーゼを含んでいた。Bacillus licheniformis由来のグリシン/グリホサートオキシダーゼGST-BliGOについては0.46μΜ(0.0024単位)。ビーズを、50mMのトリスバッファーpH7.5または0~4mMの範囲の濃度のグリホサートを含有するオオムギ抽出物に浸漬した。反応(ビーズの比色分析)を25℃で1時間追跡した。
【0101】
2.第2のネットワークは、第1の酵素が5-エノールピルビニルシキミ酸-3-リン酸(EPSPシンターゼ)である4つの酵素の活性を組み合わせる(図2A~2B)。
【0102】
このネットワークは、グリホサートの能力を利用してEPSPシンターゼの活性を阻害する。このネットワークでは、阻害のレベルはグリホサートの濃度に依存する。ネットワークのエントリは、ホスホエノールピルビン酸(PEP)および3-ホスホシキミ酸を使用して5-O-(1-カロキシビニル)-3-ホスホシキミ酸および無機リン酸塩を生成するEPSPシンターゼで構成される。
【0103】
次に、2つの異なるネットワークを試験した。
-無機リン酸塩(Pi)を変換するもの:Piは、プリンヌクレオシドホスホリラーゼの存在下でイノシンと結合して、ヒポキサンチンを生成する。ヒポキサンチンはキサンチンオキシダーゼの存在下で、キサンチンおよびHをもたらす。西洋ワサビペルオキシダーゼは、Hを使用して、O-ジアニシジンまたはアンプレックスレッドを変換し、検出可能な比色または蛍光信号を生成する。
【0104】
まず、ネットワークを、小胞およびゲルを含まない液体バッファーで試験した。100μlの反応系は、50mMのHepes(pH7)、50mMのKCl、0.5mMのシキミ酸-3-リン酸、0.1単位のキサンチンオキシダーゼ、0.12μgのE.coli EPSPシンターゼ、0.2単位のプリンヌクレオシドホスホリラーゼ、2.25mMのイノシン、0.5mMのO-ジアニシジン二塩酸塩、0.25単位の西洋ワサビペルオキシダーゼ、0~600μMのホスホエノールピルビン酸および0~2mMの範囲の濃度のグリホサートを含んでいた。分光光度計で450nmの吸光度を記録することにより、反応を25℃で1時間追跡した。
-EPSPシンターゼによって生成された5-O-(1-カロキシビニル)-3-ホスホシキミ酸を変換するもの:5-O-(1-カロキシビニル)-3-ホスホシキミ酸はコリスミ酸シンターゼによって代謝されてコリスミ酸を生成する。次に、このコリスミ酸は、コリスミ酸リアーゼによってピルビン酸に変換される。最後に、ピルビン酸は、NADHの存在下で乳酸デヒドロゲナーゼによって使用され、乳酸およびNAD+を生成する。NADHの消費に続いて、分光光度計で445nmでの蛍光発光の変化(340nmでの励起)、または340nmでの吸光度の変化が続いた。
【0105】
3.第3のネットワーク(#3)は、Bacillus subtilis H244K(Creative enzyme)酵素であるグリシン/グリホサートオキシダーゼの能力を使用して、グリシンを代謝する(図6)。
【0106】
ネットワークは、酵素Bacillus subtilis H244Kグリシン/グリホサートオキシダーゼ、酵素西洋ワサビペルオキシダーゼおよびアンプレックスレッドを含む。グリホサートではなくグリシンの存在下では、グリオキシル酸およびHがグリシン/グリホサートオキシダーゼによって生成される。その後、Hは、西洋ワサビペルオキシダーゼによってアンプレックスレッドと共処理され、反応に対する比色(赤色)および蛍光読み出しが得られる。
【0107】
まず、ネットワークを、小胞およびゲルを含まない液体バッファーで試験した(図11)。100μlの反応系は、50mMのトリス(pH7.5)、野生型バージョンと比較して1つの単一アミノ酸変異H244K(アクセッション番号031616 Biovisionを参照)を含有する、遺伝子操作されたBacillus subtilis由来の0.46μM(0.0024単位)のH244Kグリシン/グリホサートオキシダーゼ(Creative enzyme NATE-1674)、0.2mMのアンプレックスレッド、0.25単位の西洋ワサビペルオキシダーゼ、および0~1mMの範囲の濃度のグリシンを含んでいた。分光光度計で蛍光(530nmでの励起/590nmでの発光)を記録することにより、反応を25℃で1時間追跡した。
【0108】
4.第4のネットワーク(#4)は、グリシンおよびグリホサートを検出するために、第1および第3のネットワークを組み合わせたものである(図7)。
【0109】
ネットワークは、酵素GST-Bacillus licheniformis Mut#1グリシン/グリホサートオキシダーゼ、Bacillus subtilis H244Kグリシン/グリホサートオキシダーゼ、酵素西洋ワサビペルオキシダーゼおよびアンプレックスレッドを含む。グリシンまたはグリホサートの存在下では、2-アミノホスホネート、グリオキシル酸およびHがグリシン/グリホサートオキシダーゼネットワーク#4によって生成される。その後、Hは、西洋ワサビペルオキシダーゼによってアンプレックスレッドと共処理され、反応に対する比色(赤色)および蛍光読み出しが得られる。
【0110】
ネットワークを小胞で試験した(図12)。小胞は、50mMのトリス(pH7.5)、0.2mMのアンプレックスレッドおよび0.25単位の西洋ワサビペルオキシダーゼを含んでいた。Bacillus Licheniformis由来の0.46μM(0.0024単位)のグリシン/グリホサートオキシダーゼGST-BliGO Mut#1、野生型バージョンと比較して1つの単一アミノ酸変異H244Kを含有する、遺伝子操作されたBacillus subtilis由来の0.46μM(0.0024単位)のH244Kグリシン/グリホサートオキシダーゼ(Creative enzyme NATE-1674)および0~2mMの範囲の濃度のグリホサートを、小胞の外側の反応に添加した。分光光度計で蛍光(530nmでの励起/590nmでの発光)を記録することにより、反応を25℃で1時間追跡した。
【0111】
例2:生化学的ネットワークをカプセル化するための小胞のセットアップ(Courbetら,Mol.Sys.Biol.2018を参照)
本発明者らは、インビトロバイオセンシング/バイオコンピューティングプロセスのモジュラー実装をサポートできる普遍的で堅牢な巨大分子構造を特定した。この構造は、(i)生体分子組成に関係のない任意の生化学的回路を安定にカプセル化および保護し、(ii)合成回路を含有する隔離された内部、および(例えば臨床試料で)動作する媒体からなる外部を定義することにより空間を離散化し、(iii)分子信号(すなわちバイオマーカー入力)の選択的物質伝達によるシグナル伝達を可能にし、ならびに(iv)熱力学的に有利な自己組織化メカニズムによる正確な構築をサポートすることができる。この研究で提案した小胞構造は、リン脂質二重膜でできている。
【0112】
本発明者らは、(i)膜の単層性、(ii)カプセル化効率および化学量論、(iii)単分散性、および(iv)浸透圧ストレスに対する安定性/耐性の向上を同時にサポートする方法の開発に依存した。この目的のために、本発明者らは、カスタムマイクロ流体プラットフォームを開発し、PDMSベースのマイクロ流体チップを設計して、合成リン脂質(DPPC)を、低コピー数の生化学種をカプセル化するキャリブレーション済みのカスタムサイズの膜二重層に直接自己組織化することを実現した。要約すると、この戦略は、水中油中水型ダブルエマルジョンテンプレートを生成するフローフォーカシング液滴生成チャネルの形状に依存した(W-O-W:低濃度メタノールを含むオレイン酸-水性貯蔵バッファー中のPBS-DPPCの生化学的回路)。ダブルエマルジョンテンプレートの形成後、DPPCリン脂質膜は、バッファー中に存在するメタノールによる油相の制御された溶媒抽出プロセス中に自己組織化するように正確に誘導される(図3)。このマイクロ流体設計はまた、スタッガードヘリンボーンミキサー(SHM)(Williamsら,2008)として知られる装置も統合して、ストークスフローレジーム下で複数の上流チャネルの効率的な受動的およびカオス的混合を可能にする。本発明者らは、層流濃度勾配が、生化学的部分の臨界混合、正確な化学量論、および効率的なカプセル化を防げ得ると推論した。本発明者らは、組織化前に直ちに均質化された合成生化学的回路は、カプセル化メカニズムを標準化し、隔離材料の性質への依存を低減できると仮定した。さらに、この設計により、入力流量の制御による化学量論の微調整が可能になり、プロトセンサーの直接的プロトタイピングのための異なるパラメータを試験することが実用的であることを証明した。
【0113】
超高速カメラを使用して、リアルタイムモニタリングを実現し、製造プロセスを視覚的に検査することより、これらの流速での小胞生成の平均周波数を約1,500Hzと推定することができた。小胞生成収量の流速に対する強い依存性が見られ、これを1/0.4/0.4μl/分(それぞれ、貯蔵バッファー/油中のDPPC/PBS中の生化学的回路)に保ち、最高の組織化効率を達成した。次に、光透過、共焦点、および環境制御型走査電子顕微鏡を使用して、小胞のサイズ分散を分析した。平均サイズパラメータが10μmであり、見かけの逆ガウス分布を有する単分散小胞を観察した。興味深いことに、生化学的回路の隔離は、小胞のサイズ分布に影響を与えるようには見えず、これは、生化学的内容物の複雑さから隔離プロセスの分離を支持する。さらに、サイズの変化は3か月後に記録されず、小胞間の融合事象がないことを示した。生化学的情報処理の合理的設計を達成するための前提条件である、漏出なしにタンパク質種をカプセル化する小胞の能力を評価するために、共焦点顕微鏡を使用してカプセル化の安定性を評価した。この目的のために、蛍光標識を有する無関係なタンパク質を小胞内にカプセル化し、内部蛍光の変化を3か月にわたってモニターした。内部蛍光は安定したままであることがわかり、本発明の保存条件では、小胞膜を介した測定可能なタンパク質の漏出がないことを示した。さらに、リン脂質二重層の特異的染料であるDiIC18を使用すると、二重層に特異的に取り込まれた場合に蛍光量子収率が大幅に増加し(Gullapalliら,2008,Phys Chem Chem Phys;10(24):3548-3560)、ダブルエマルジョンからのオレイン酸の完全な抽出および二重層の良好に構造化された配置を視覚化することができた。次に、小胞内の生物学的酵素部分のカプセル化を評価することを試みた。小胞内部の酵素の分子の特徴を読み出すことができることがわかった。まとめると、これらの知見は、このセットアップが、安定したモジュラー小胞を高効率で生成でき、ユーザ定義の微調整可能な内容物を生成できることを証明したことを示す。
【0114】
例3:ゲルマトリックスへの対象の生化学的ネットワークを含有する小胞の取り込み。
対象の生化学的ネットワークを含有する小胞の準備ができると、それらはゲルマトリックスベースのビーズのセットである最終的なフォーマットに取り込まれる。ゲルビーズのサイズは、エンドユーザのニーズ(つまり、直径5mm)に応じて調整することができる。ゲルは、10%のポリビニルアルコール(PVA)および1%のアルギン酸ナトリウムで構成される。小胞内の生化学的ネットワークのすべての成分を含有する混合物は、10%のポリビニルアルコール(PVA)、1%のアルギン酸ナトリウムの液体溶液に取り込まれる。次に、生化学的ネットワーク/PVA/アルギン酸混合物を、0.8Mのホウ酸/0.2MのCaCl溶液中に撹拌棒での撹拌下で滴下する。30分後、ビーズを水で2回すすぎ、0.5Mの硫酸ナトリウムバッファーに90分間滴下する。ビーズを冷PBSで2回すすぎ、4℃でPBS中に保存する。
【0115】
例4:グリホサートの検出/定量化の結果。
1.グリシン/グリホサートオキシダーゼネットワークによるグリホサートの検出
1.1 O-ジアニシジン二塩酸塩を使用することにより、グリホサート濃度に依存するグリシン/グリホサートオキシダーゼによるグリホサート酸化を追跡した(図1、4A、4B)。ビーズの色の変化に続いて、分光光度計で450nmでの吸光度が変化した。それにより、2.5mMであり、Vmaxは6x10-9mol/L/秒であるグリホサートのグリシン/グリホサートオキシダーゼの親和性(Km)を決定することができた。
【0116】
1.2 液体、小胞またはゲル中のグリシン/グリホサートオキシダーゼネットワーク(#1)によるトリスバッファーおよびオオムギ抽出物中のグリホサートの検出)
1.2.1 後続のグリホサート検出のためのオオムギ抽出物の調製
まず、オオムギ粒を粉砕し、ふるいにかけた。粉末をトリス100mM pH7.5で再懸濁し、室温でホイール上で30分間インキュベートした。抽出物を4000gで10分間遠心分離した。上清を0.2マイクロメートルのカットオフシリンジフィルターで濾過し、分析前に4℃で保存した。
【0117】
1.2.2 アンプレックスレッドを使用することにより、グリホサート濃度に依存するグリシン/グリホサートオキシダーゼによるグリホサート酸化を追跡した(図8A~8B)。反応に続いて、蛍光光度計で蛍光が変化した(530nmでの励起/590nmでの発光)。並行して、グリホサート濃度に依存する反応の色の変化を追跡した。それにより、単純な緩衝培地(図8A)だけでなく、複雑なオオムギ抽出物(図8B)でもグリホサートを検出することができた。
【0118】
1.2.3 小胞中のグリシン/グリホサートオキシダーゼネットワーク(#1)によるグリホサートの検出
ネットワークの一部を、小胞(HRP、アンプレックスレッド、トリス50mMバッファーpH7.5)および小胞の外側(グリシン/グリホサートオキシダーゼ)に取り込んだ後、グリホサート濃度に依存するグリホサート酸化を追跡した(図9A~9B))。反応に続いて、蛍光光度計で蛍光が変化した(530nmでの励起/590nmでの発光)。並行して、グリホサート濃度に依存する反応の色の変化を追跡した。それにより、単純な緩衝培地(図9A)だけでなく、複雑なオオムギ抽出物(図9B)でもグリホサートを検出することができた
【0119】
1.2.4 ゲルビーズ中のグリシン/グリホサートオキシダーゼネットワーク(#1)によるグリホサートの検出
完全なグリシン/グリホサートオキシダーゼネットワークを、アルギン酸ゲルビーズに取り込んだ。グリホサート濃度に依存するグリホサート酸化を追跡した(図10)。反応に続いて、ビーズの色(赤色)が変化した。前と同じように、それにより、単純な緩衝培地(図10(1行目))だけでなく、複雑なオオムギ抽出物(図10(2行目))でもグリホサートを検出することができた。
【0120】
2.リン酸検出に接続されたEPSPシンターゼネットワークによるグリホサートの検出
O-ジアニシジン二塩酸塩またはアンプレックスレッドを使用することにより、グリホサート濃度に依存するEPSPシンターゼのグリホサート阻害を追跡した(図2B、5A、5B、7)。反応に続いて、蛍光光度計で蛍光の変化(530nmでの励起/590nmでの発光)、または分光光度計で450nmでの吸光度の変化が続いた。それにより、ホスホエノールピルビン酸(PEP)に対するEPSPシンターゼの活性を測定することができた。PEPに対するEPSP親和性は14μMであり、Vmaxは10.26x10-9mol/L/秒である。さらに、EPSPシンターゼへの阻害効果によってグリホサートを検出することができた(図7)。
【0121】
3.5-O-(1-カロキシビニル)-3-ホスホシキミ酸検出に接続されたEPSPシンターゼネットワークによるグリホサートの検出
NADHの消費をモニタリングすることにより、グリホサート濃度に依存するEPSPシンターゼのグリホサート阻害を追跡した(図2A)。NADHの消費は、分光光度計で445nmでの蛍光発光の変化(340nmでの励起)、または340nmでの吸光度の変化によって得られた。
【0122】
例5:グリシンの検出/定量化の結果。
1.液体中のグリシン/グリホサートオキシダーゼネットワーク(#3)によるトリスバッファー中のグリシンの検出(小胞なし/ゲルなし)
アンプレックスレッドを使用することにより、グリシン濃度に依存するグリシン/グリホサートオキシダーゼ(野生型バージョンと比較して1つの単一アミノ酸変異H244Kを含有する、遺伝子操作されたBacillus subtilis由来のグリシン/グリホサートオキシダーゼH244Kグリシン/グリホサートオキシダーゼ)(Creative enzyme NATE-1674))によるグリシン酸化を追跡した(図11)。反応に続いて、蛍光光度計で蛍光が変化した(530nmでの励起/590nmでの発光)。それにより、グリシンを検出することができた。
【0123】
例6:グリホサートおよびグリシンの検出/定量化の結果。
1.小胞中のグリシン/グリホサートオキシダーゼネットワーク(#4)によるトリスバッファー中のグリホサートおよびグリシンの検出
この例では、グリシンと比較したグリホサートに対するGST-BliGO Mut#1の特異性、およびグリホサートと比較したグリシンに対するBacillus subtilis由来のグリシン/グリホサートオキシダーゼH244Kの特異性を利用した。実際、GST-BliGO Mut#1は、Zhangら(2016)によって開発されたBliGO SCF4変異体に由来する。この変異体は、グリホサートに対する親和性が8倍(1.58mM)増加し、グリシンに対するその活性がWTと比較して113倍減少した。この変異体は、グリホサートに対する植物の耐性を高めるために開発され、グリホサートのバイオセンシングの基礎として使用した。
【0124】
ネットワークの一部を、小胞(HRP、アンプレックスレッド、トリス50mMバッファーpH7.5)および小胞の外側(野生型バージョンと比較して1つの単一アミノ酸変異H244Kを含有する、遺伝子操作されたBacillus subtilis由来のグリシン/グリホサートオキシダーゼH244Kグリシン/グリホサートオキシダーゼ(Creative enzyme NATE-1674)、および遺伝子操作されたBliGO -SCF-4に由来するBacillus Licheniformisに由来し、野生型バージョンと比較して6つの単一アミノ酸変異を含有するGST-BliGO Mut#1に取り込んだ後、グリホサートおよびグリシン濃度に依存するグリホサートおよび/またはグリシン酸化を追跡した(図12))。反応に続いて、蛍光光度計で蛍光が変化した(530nmでの励起/590nmでの発光)。これにより、グリホサート単独、グリシン単独、ならびにグリホサートおよびグリシンの組み合わせを検出することができた。(図12)。
【0125】
結論および考察
本研究は、本発明による方法および組成物が、潜在的に多重化された農薬または内分泌撹乱物質の検出および定量化を実行するための非常に有望なツールであることを実証した。本発明は、この技術が実際の環境問題を解決するために首尾よく適用できることを示し、本発明の方法および組成物が、この分野における従来の診断ツールが直面するいくつかの障害を克服できることを実証した。
図1
図2a
図2b
図3
図4a
図4b
図5a
図5b
図6
図7
図8a-8b】
図9a-9b】
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
【国際調査報告】