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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-15
(54)【発明の名称】機能的酵母タンパク質濃縮物
(51)【国際特許分類】
   A23J 1/18 20060101AFI20220207BHJP
   A23J 3/20 20060101ALI20220207BHJP
   A23L 13/00 20160101ALI20220207BHJP
   A23K 10/16 20160101ALI20220207BHJP
【FI】
A23J1/18
A23J3/20
A23L13/00 Z
A23L13/00 A
A23K10/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021536083
(86)(22)【出願日】2019-12-20
(85)【翻訳文提出日】2021-08-10
(86)【国際出願番号】 EP2019086646
(87)【国際公開番号】W WO2020127951
(87)【国際公開日】2020-06-25
(31)【優先権主張番号】18215732.1
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508038998
【氏名又は名称】オーリー ゲー・エム・ベー・ハー
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】スピッカーマン ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】シ―ブリッツ ロヴェナ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン レーネン マチルド
(72)【発明者】
【氏名】トゥ ジア ロイ
(72)【発明者】
【氏名】クライスト カタリナ
(72)【発明者】
【氏名】レイマーズ コルネリア
【テーマコード(参考)】
2B150
4B042
【Fターム(参考)】
2B150AB20
2B150AC24
2B150AC25
2B150AC26
2B150AC27
2B150AC28
2B150BA01
2B150BC03
2B150BD06
2B150BD10
2B150BE01
4B042AC04
4B042AD36
4B042AK16
4B042AP17
4B042AP22
4B042AP30
(57)【要約】
本発明は、酵母タンパク質濃縮物を調製する方法であって、溶解前に特定のpHに調整した懸濁液中で酵母細胞を溶解し、その後、溶解から得られた可溶性画分を濾過に供して30kDa未満の分子の含有量を減少させ、場合により濾過から得られた溶液を乾燥させることを含む方法に関する。本発明はさらに、本発明の方法によって得ることができる酵母タンパク質濃縮物に関する。酵母タンパク質濃縮物は、まだ折りたたまれているため、加熱すると凝集して固体タンパク質マトリックスを形成することができる多量のタンパク質を含む。さらに、本発明の酵母タンパク質濃縮物は、控えめな味であり、したがって、肉代替製品などの食品の調製における使用に特に適している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非変性酵母タンパク質分子を含む酵母タンパク質濃縮物を調製する方法であって、
(a)酵母細胞を含む懸濁液を用意するステップと;
(b)前記懸濁液のpHを6.5~8.5の間の値に調整するステップと;
(c)前記酵母細胞を機械的手段によって溶解するステップと;
(d)溶解物の可溶性画分を濾過に供して、30kDa未満の分子の含有量を減少させるステップと;
(e)場合により、ステップ(d)の濾過で得られた溶液を乾燥させてタンパク質濃縮物粉末を得るステップと
を含む方法。
【請求項2】
方法ステップ(a)~(d)を40℃未満の温度で実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(a)の前記懸濁液が、約5~20%の乾物含有量を有する、請求項1から2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(a)の前記懸濁液を、細胞溶解の前に塩基性洗浄緩衝液で洗浄する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
10kDa未満の分子の含有量がステップ(d)で減少する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(c)における前記酵母細胞の溶解をビーズミルで実施する、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記溶解物のpHを、ステップ(c)の後に6.5~8.5に再調整する、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
濾過後に得られた前記タンパク質溶液を滅菌する、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
濾過後に得られた前記タンパク質溶液をフリーズドライまたは噴霧乾燥して粉末を得る、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる、酵母タンパク質濃縮物粉末などの酵母タンパク質濃縮物。
【請求項11】
酵母タンパク質濃縮物粉末などのタンパク質の混合物を含む酵母タンパク質濃縮物であって、タンパク質濃縮物に含まれる折りたたまれたタンパク質が45℃~83℃の温度範囲でアンフォールディングする、酵母タンパク質濃縮物。
【請求項12】
遊離アミノ酸、ジペプチドおよびトリペプチドの総量が20%未満、より好ましくは18%未満である、請求項10または11に記載の酵母タンパク質濃縮物。
【請求項13】
前記濃縮物粉末に含有されるタンパク質の少なくとも40%が5kDa超の見かけのサイズを有する、請求項10から12のいずれか一項に記載の酵母タンパク質濃縮物。
【請求項14】
乾物当たり少なくとも55%(w/w)の総粗タンパク質を含み、濃縮物中のタンパク質の少なくとも40%が60kDa超の見かけのサイズを有する酵母タンパク質濃縮物。
【請求項15】
乾物当たり少なくとも60%(w/w)、少なくとも65%(w/w)、または少なくとも70%(w/w)の総粗タンパク質を含む、請求項14に記載の酵母タンパク質濃縮物。
【請求項16】
乾物当たり30%(w/w)以下、好ましくは25%(w/w)以下、より好ましくは20%(w/w)以下のβ-グルカンを含む、請求項14または15に記載の酵母タンパク質濃縮物。
【請求項17】
乾物当たり少なくとも40%(w/w)、少なくとも45%(w/w)、または少なくとも50%(w/w)の可溶性粗タンパク質を含む、請求項14から16のいずれか一項に記載の酵母タンパク質濃縮物。
【請求項18】
濃縮物中の可溶性粗タンパク質の少なくとも20%(w/w)を、濃縮物を90℃で10分間加熱することによって沈殿させることができる、請求項14から17のいずれか一項に記載の酵母タンパク質濃縮物。
【請求項19】
少なくとも1%、少なくとも1.5%、少なくとも2%、少なくとも2.5%、少なくとも3%、少なくとも3.5%、少なくとも4%、少なくとも4.5%、または少なくとも5%の乾物含有量を有する液体である、請求項10から18のいずれか一項に記載の酵母タンパク質濃縮物。
【請求項20】
少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも94%、または少なくとも96%の乾物含有量を有する粉末である、請求項10から18のいずれか一項に記載の酵母タンパク質濃縮物。
【請求項21】
タンパク質ゲルを調製する方法であって、
(a)請求項10から20のいずれか一項に記載の酵母タンパク質濃縮物粉末を用意するステップと;
(b)前記酵母タンパク質濃縮物粉末を水性担体流体と混合するステップと;
(c)前記混合物を少なくとも55℃の温度に加熱して、前記タンパク質ゲルを得るステップと
を含む方法。
【請求項22】
食品、好ましくは肉代替製品またはタンパク質に富む食品/飼料製品の調製における、請求項10から20のいずれか一項に記載の酵母タンパク質濃縮物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵母タンパク質濃縮物を調製する方法であって、溶解前に特定のpHに調整した懸濁液中で酵母細胞を溶解し、その後、溶解から得られた可溶性画分を濾過に供して30kDa未満の分子の含有量を減少させ、場合により濾過で得られた溶液を乾燥させることを含む方法に関する。本発明はさらに、本発明の方法によって得ることができる酵母タンパク質濃縮物に関する。酵母タンパク質濃縮物は、まだ折りたたまれているため、加熱すると凝集して固体タンパク質マトリックスを形成することができる多量のタンパク質を含む。さらに、本発明の酵母タンパク質濃縮物は、控えめな味であり、したがって、肉代替製品などの食品の調製における使用に特に適している。
【背景技術】
【0002】
世界保健機関(WHO)は、2050年に世界人口が1/3増加すると仮定しており、それによって食品および農業産業に大きな問題を提起している。人口増加の結果として、世界の肉生産は現在のレベルの2倍になり、環境に深刻な影響を及ぼすと予測されている。今日では既に、家畜用飼料の生産が、世界の総土地面積の約1/3を消費している。農業地域の需要の増加は、熱帯雨林のさらなる破壊および温室効果ガスの大量放出につながる。
【0003】
したがって、資源および気候に優しい方法で生産することができる食品が非常に必要とされている。具体的には、肉の生産は資源のかなりの浪費を伴うため、肉代替製品の開発が、世界人口の増加に対処するための重要な因子となる。植物タンパク質に基づくいくつかの異なる肉代替製品が開発されている。しかしながら、ダイズなどの植物からのタンパク質の生産は、植物を農耕地で栽培する必要があるため、一般に面倒で時間がかかる。したがって、肉代替製品などの食品の製造に使用できるタンパク質の代替供給源が依然として必要とされている。
【0004】
本発明は、酵母から得られるタンパク質濃縮物が、特定のテクスチャーおよび高い稠度を有する並外れた固体タンパク質ゲルを形成することができるという知見に基づく。酵母細胞は、複雑な栄養素も増殖条件も必要としないので、食品、特に肉代替製品を調製するためにさらに使用することができるタンパク質富化組成物を製造するための特に有利な出発材料となる。本発明のタンパク質濃縮物は、非GMO、グルテンフリーであり、ベジタリアンおよびビーガンの食事に適しており、それによって広範囲の消費者の要求を満たすことができる。
【発明の概要】
【0005】
一態様では、本発明は、酵母タンパク質濃縮物を加熱することによって製造されるゲルの硬さが、タンパク質濃縮物の製造中に適用される条件を調整することによって調節され得るという洞察に基づく。特に、濃縮物の製造中の適切なpHの選択が、最終タンパク質濃縮物のゲル化挙動に強く影響することが分かった。
【0006】
本発明の方法によって製造されるタンパク質濃縮物は、固い卵白に似た好ましい稠度を有する安定なタンパク質ゲルを形成することができる。本発明はまた、安定なタンパク質ゲルを調製するために使用することができる新規なタンパク質濃縮物を提供する。タンパク質濃縮物は、その構造的完全性(structural integrity)を本質的に維持している多量のタンパク質を含有する。これは、タンパク質のアンフォールディングを回避する条件下で濃縮物を調製することによって達成される。例えば、本方法は、好ましくは、タンパク質のアンフォールディングを回避し、同時に、溶解された酵母細胞懸濁液内のプロテアーゼ活性を低下させるのに十分低い温度で行われる。
【0007】
本発明の濃縮物は、液体または乾燥粉末であり得る。濃縮物が乾燥粉末の形態で提供される場合、ゲルを調製するために水で再構成しなければならない。水を粉末に添加すると、タンパク質が可溶化し、50℃以上に加熱するとゲル状タンパク質マトリックスを形成する。酵母タンパク質濃縮物の味は控えめであるので、異なる芳香と混合して、異なる味の食品を製造することができる。
【0008】
したがって、第1の態様では、本発明は、折りたたまれた酵母タンパク質分子(folded yeast protein molecules)を含む酵母タンパク質濃縮物を調製する方法であって、
(a)酵母細胞を含む懸濁液を用意するステップと;
(b)懸濁液のpHを6.5~8.5の値に調整するステップと;
(c)酵母細胞を機械的手段によって、好ましくは40℃未満の温度で溶解するステップと;
(d)溶解物の可溶性画分を濾過に供して、30kDa未満の分子の含有量を減少させるステップと;
(e)場合により、ステップ(d)の濾過で得られた溶液を乾燥させてタンパク質濃縮物粉末を得るステップと
を含む方法に関する。
【0009】
上記方法の第1のステップでは、酵母細胞を含む懸濁液を用意する。単純な実施形態では、酵母細胞の懸濁液が、酵母細胞の培養に使用された細胞含有培地の画分であり得る。この細胞含有培地は、上記方法のステップ(a)の意味における懸濁液として直接使用することができる。酵母を増殖させるための培養培地および方法は、当技術分野で周知である。適切な培地は、例えば、Sigma Aldrich(タウフカーシェン、ドイツ)のYPD培地を含む。
【0010】
別の実施形態では、ステップ(a)で使用される懸濁液が、酵母細胞の水中懸濁液である。この目的のために、酵母細胞を一定の密度まで増殖させた後に培養培地から細胞を分離することによって、酵母細胞を回収する。例えば、細胞含有培地を、細胞を沈降させるために遠心分離または分離に供する。場合により、細胞を水または適切な緩衝液で洗浄して培地成分を除去することができる。その後、細胞ペレットを水または適切な緩衝液に再懸濁する。その場合、水または緩衝液に再懸濁した酵母細胞が、上記方法のステップ(a)における酵母細胞含有懸濁液となる。
【0011】
好ましくは、上記方法のステップ(a)で用意される細胞懸濁液が、少なくとも100、少なくとも200、少なくとも300、少なくとも400、少なくとも500、少なくとも600、少なくとも700、少なくとも800、少なくとも900、少なくとも1000、少なくとも5000、または少なくとも10000リットルの体積を有する。好ましくは、懸濁液が水性懸濁液である。
【0012】
ステップ(a)で用意される酵母細胞懸濁液が、約4~20%、好ましくは約5~16%、さらにより好ましくは約6~14%、例えば12%の乾物含有量を有するように調整されていることが好ましい。本明細書で引用される乾物百分率は、懸濁液の総重量に基づく重量%を指す。懸濁液の乾物含有量は、市販の装置、例えばMoisture Analyzer(Mettler-Toledo GmbH、ギーセン、ドイツ)を使用して標準的な手順に従って決定することができる。出発懸濁液の乾物含有量を決定したら、懸濁液を希釈または濃縮することによって、この懸濁液を所定の値に調整することができる。
【0013】
本発明のタンパク質濃縮物を調製するために使用される酵母の種類は特に限定されない。本発明の方法に使用することができる酵母細胞は、例えば、サッカロミセス属(Saccharomyces)に属する酵母、例えばS.セレビシエ(S.cerevisiae)、S.チェバリエリ(S.chevalieri)、S.ブラウディ(S.boulardii)、S.バヤヌス(S.bayanus)、S.イタリカス(S.italicus)、S.デルブルッキ(S.delbrueckii)、S.ロゼイ(S.rosei)、S.マイクロエリプソデス(S.microellipsodes)、S.カールスベルゲンシス(S.carlsbergensis)、S.ビスポラス(S.bisporus)、S.フェルメンタチ(S.fermentati)、S.ルキシー(S.rouxii)、またはS.ウバルム(S.uvarum);シゾサッカロミセス属(Schizosaccharomyces)に属する酵母、例えばS.ジャポニカス(S.japonicus)、S.カムブチャ(S.kambucha)、S.オクトスポルス(S.octosporus)、またはS.ポンベ(S.pombe);ハンゼヌラ属(Hansenula)に属する酵母、例えばH.ウインゲ(H.wingei)、H.アルニ(H.arni)、H.ヘンリシイ(H.henricii)、H.アメリカーナ(H.americana)、H.カナディエンシス(H.canadiensis)、H.カプスラタ(H.capsulata)、またはH.ポリモルファ(H.polymorpha);カンジダ属(Candida)に属する酵母、例えばC.アルビカンス(C.albicans)、C.ユティリス(C.utilis)、C.ボイディニー(C.boidinii)、C.ステラトイデア(C.stellatoidea)、C.ファマタ(C.famata)、C.トロピカリス(C.tropicalis)、C.グラブラータ(C.glabrata)、またはC.パラプシローシス(C.parapsilosis);ピキア属(Pichia)に属する酵母、例えばP.パストリス(P.pastoris)、P.クルイベリ(P.kluyveri)、P.ポリモルファ(P.polymorpha)、P.バーケリ(P.barkeri)、P.カクトフィラ(P.cactophila)、P.ローダネンシス(P.rhodanensis)、P.セセンベンシス(P.cecembensis)、P.セファロセレナ(P.cephalocereana)、P.エレモフィラ(P.eremophilia)、P.フェルメンタンス(P.fermentans)、またはP.クドリアブゼビイ(P.kudriavzevii);クリベロミセス属(Kluyveromyces)に属する酵母、例えばK.マルシアヌス(K.marxianus);およびトルロプシス属(Torulopsis)に属する酵母、例えばT.ボビナ(T.bovina)、またはT.グラブラータ(T.glabrata)を含み得る。
【0014】
特に好ましい実施形態では、本発明の方法が、サッカロミセス属由来、より好ましくはS.セレビシエ由来の酵母細胞を含む懸濁液を使用する。
【0015】
本発明の別の特に好ましい実施形態では、細胞を水酸化ナトリウム緩衝液などのアルカリ性緩衝液で洗浄する。このような洗浄ステップは、酵母懸濁液の強い味を低減するのに有用であり、したがって、控えめな味を有する最終タンパク質濃縮物を達成するのに役立つ。本発明の方法がアルカリ性緩衝液による洗浄ステップを含む場合、少なくとも1つのその後の水による洗浄ステップを本方法に含めて、残留アルカリ性緩衝液を確実に除去する。例えば、酵母懸濁液を一定体積のアルカリ性緩衝液で洗浄する場合、その後、溶解前に2倍体積の水で洗浄する。
【0016】
細胞を溶解する前に、上記方法のステップ(b)において、懸濁液のpHを6.5~8.5の値に調整する。pHを調整するために、HClおよびNaOHなどの標準的な塩基性試薬および酸性試薬を使用することができる。6.5~8.5の範囲のpHが、最終タンパク質濃縮物のゲル化挙動を改善するのに驚くほど有用であることが分かった。好ましい実施形態では、酵母細胞懸濁液のpHが、約6.5、約6.6、約6.7、約6.8、約6.9、約7.0、約7.1、約7.2、約7.3、約7.4、約7.5、約7.6、約7.7、約7.8、約7.9、約8.0、約8.1、約8.2、約8.3、約8.4、または約8.5である。7.0~8.0または7.2~7.8、例えば7.5のpHが特に好ましい。
【0017】
本発明の別の好ましい実施形態では、リボヌクレアーゼ(RNase)酵素を、細胞溶解の直前に懸濁液に添加する。RNase酵素の添加が、溶解後の不溶性物質からの可溶性物質の分離を有意に改善することが分かった。RNase酵素は、様々な製造業者から入手することができる。適切な酵素には、Thermo Fisher Scientific(ブレーメン、ドイツ)製のPureLink RNase AまたはSigma Aldrich(タウフカーシェン、ドイツ)製のRNase Aが含まれ得る。当業者は、酵母細胞懸濁液に添加されるRNase酵素の最適量を決定することに問題はないであろう。RNase酵素の適切な量は、通常、乾物当たり約0.1%~1%の範囲である。
【0018】
細胞懸濁液のpHを調整した後、上記方法のステップ(c)で酵母細胞を溶解して、酵母タンパク質を放出させる。出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)などの酵母種は、その形状を決定し、その内部を保護する厚い細胞壁を有する。酵母の細胞壁は、共有結合したマトリックス中のβ-グルカン、マンノプロテインおよびキチンから主になり、全酵母乾物の約1/3を構成する。酵母細胞は、細胞壁の下に、脂質二重層を有する。細胞内部からタンパク質を放出するためには、これらの保護バリアの両方を破壊する必要がある。
【0019】
本発明の方法によると、酵母細胞溶解に一般的に使用されるプロテアーゼまたはグルカナーゼなどの他の酵素の使用は高温を必要とするので、細胞溶解を機械的に実施する。その結果、タンパク質の迅速な分解がもたらされる。このステップでは、温度を制御することが特に重要である。高温はタンパク質の変性を誘発し、これは、タンパク質が、加熱しても安定なネットワークをもはや形成することができないことを意味するので、温度が40℃を超えないことを保証しなければならない。さらに、酵母細胞は、タンパク質をアミノ酸に加水分解することができる多種多様なプロテアーゼを含有する。酵母細胞が破壊されると、プロテアーゼが放出され、酵母細胞によって放出される他のタンパク質分子を分解し得る。本発明の方法によって調製されるタンパク質濃縮物は、ヒト食品での使用を意図しているので、EDTAまたはPMSFなどのプロテアーゼブロッカー(protease blockers)の使用は、これらの化学物質がヒト消費での使用に安全ではないので回避するべきである。したがって、本発明によると、プロテアーゼの活性を低下させるために、細胞溶解を低温で実施することが好ましい。
【0020】
本発明の方法のステップ(a)~(d)を、40℃未満、より好ましくは30℃未満、さらにより好ましくは20℃未満の温度で実施することが好ましい。酵母細胞から放出されるプロテアーゼによるタンパク質の望ましくない分解を回避するために、20℃未満、例えば15℃または10℃の温度が特に好ましい。
【0021】
好ましい実施形態によると、酵母細胞溶解をビーズミルの使用によって達成する。一方で、これは、細胞破裂時にタンパク質が無傷のままであることを確実にする。他方で、ビーズミルの使用は、得られるタンパク質濃縮物の食品等級品質を損なう可能性のある添加剤を必要としない。ビーズミルは、通常、インペラフィンのセットによって移動するビーズで満たされたチャンバを備える。細胞含有懸濁液がチャンバを通過すると、細胞がビーズとの衝突時に破壊される。細胞破裂の効率は、通常の手段によって、例えば、酵母懸濁液がビーズミルのチャンバをどれくらい速く通過するかを決定する流速を変更することによって調整することができる。通常、低い流速は、細胞が粉砕ビーズと衝突する時間がより長いため、高い溶解効率をもたらす。ビーズミルのチャンバの体積に応じて、少なくとも10kg/時間、例えば少なくとも20kg/時間、少なくとも50kg/時間、または少なくとも100kg/時間などの流量を選択することができる。操作中、ビーズミルを20℃未満の温度、例えば18℃、16℃、14℃、12℃または10℃に冷却することが特に好ましい。ビーズミルは、様々な製造業者によって提供される、例えば、Willy A.Bachofen AG(ムッテンツ、スイス)製のDyno(登録商標)-Mill Multi Lab Wabである。
【0022】
溶解の効率に直接影響を及ぼす別の因子は、ビーズ材料およびサイズである。ビーズは、様々な材料、例えばガラス、セラミックまたはプラスチック製であることができる。イットリア安定化酸化ジルコニウムビーズなどの酸化ジルコニウムビーズで特に良好な結果が達成された。さらに、これらのビーズは、ガラスビーズと比較して有意に耐久性がある。酵母細胞を破壊するために使用されるビーズ、例えば酸化ジルコニウムビーズは、通常0.2~2.0mmの範囲の様々なサイズを有し得る。酵母細胞を破壊するために、0.25~0.35mmのビーズサイズが特に良好な結果をもたらすことが分かった。したがって、0.25~0.35mmのビーズサイズが特に好ましい。30~80%、例えば、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、または約75%のビーズ充填量を使用することができる。本発明によると、50~60%のビーズ充填量が特に好ましい。
【0023】
細胞破裂の効率に影響を及ぼす別の方法は、インペラ構造を適合させることである。インペラには、通常、ビーズを移動させるためのプラスチックフィンが取り付けられている。改善された細胞破裂のために、例えば、ロータ上にアクセレーターを設けることが可能である。アクセレーターは、ビーズをより頻繁に衝突させるように設計される。インペラ回転速度は、細胞破裂を改善するために調整され得る別のパラメータである。1~20m/秒、例えば、約1m/秒、約2m/秒、約3m/秒、約4m/秒、約5m/秒、約6m/秒、約7m/秒、約8m/秒、約9m/秒、約10m/秒、約11m/秒、約12m/秒、約13m/秒、約14m/秒、または約15m/秒のロータ速度を使用することができる。当業者は、通常の実験によってビーズミルで酵母懸濁液を破壊するための最適なパラメータを見出すことが容易に可能であろう。
【0024】
酵母細胞を機械的に溶解するさらに別の方法は、高圧ホモジナイゼーション(HPH)を使用する。高圧ホモジナイゼーションは、エマルジョンなどを安定化するために医薬、化学および食品産業で一般的に使用される方法である。しかしながら、細胞から細胞内産物を抽出するために、これを使用して細菌および酵母を破壊することもできる。HPHの間、破壊される細胞が、高圧下で狭いスリットを通過する。酵母細胞がこの狭いスリットを通過するにつれて、流速が急激に増加し、圧力が急に低下する。結果として生じる剪断力が細胞破壊を引き起こす。
【0025】
本発明の方法で使用するためのHPH装置は、様々な製造業者から入手することができる。例えば、Avestin Europe GmbH(マンハイム、ドイツ)のEmulsiFlex-C3またはSPX Flow Technology Germany GmbH(メールス、ドイツ)の1000/2000ホモジナイザーを使用することができる。酵母懸濁液を、HPH装置に1回または数回通過させることができる。懸濁液を装置に数回通過させると、細胞破裂の効率が高まる。装置の圧力は、少なくとも1000バールの圧力に設定することができる。好ましくは、圧力は、少なくとも1100バール、少なくとも1200バール、少なくとも1300バール、少なくとも1400バール、少なくとも1500バール、少なくとも1600バール、少なくとも1700バール、少なくとも1800バール、少なくとも1900バール、または少なくとも2000バールまたはそれ以上である。
【0026】
上記のように細胞を破壊した後、溶解物のpHは6.0以下の値に近づき得る。溶解物のpHを、6.5~8.5の値に再調整することが好ましい。例えば、溶解物のpHを、約6.5、約6.6、約6.7、約6.8、約6.9、約7.0、約7.1、約7.2、約7.3、約7.4、約7.5、約7.6、約7.7、約7.8、約7.9、約8.0、約8.1、約8.2、約8.3、約8.4、または約8.5に再調整する。7.0~8.0または7.2~7.8、例えば7.5のpHが特に好ましい。
【0027】
酵母細胞を破壊した後、数ある他の成分の中でも、折りたたまれた酵母タンパク質(folded yeast proteins)を含有する可溶性画分を、好ましくは不溶性画分から分離する。不溶性画分は、主に細胞壁成分、細胞小器官および未溶解細胞を含有する。不溶性画分からの可溶性画分の分離は、遠心分離、濾過、および他の方法を含む様々な方法によって実施することができる。単純な実施形態では、希釈されたまたは希釈されていない破壊された細胞を含有する溶解物を、例えば2000~25000gでの遠心分離に供して不溶性物質を沈降させる。折りたたまれたタンパク質を含む、細胞内部から放出された可溶性細胞成分を含有する上清を得て、好ましくはさらなる使用まで20℃未満に冷却する。
【0028】
あるいは、可溶性画分と不溶性画分の分離を、不溶性物質を保持する濾過材料を使用する標準的な濾過技術によって行う。例えば、0.2~15μmの孔径を有するフィルタを使用したデッドエンド濾過を行うことができる。フィルタの早期の閉塞を回避するためにクロスフロー濾過またはタンジェンシャルフロー濾過も可能である。全てのタンパク質を通過させるために、分子量カットオフ(MWCO)は300kDa超であるべきである。
【0029】
上記方法のステップ(d)において、溶解物の可溶性画分を、30kDa未満の分子の含有量を選択的に減少させる濾過ステップに供する。好ましくは、30kDa未満の分子の含有量を、上記方法のステップ(c)で得られた溶解物の可溶性画分中のこれらの分子の含有量と比較して少なくとも25%、より好ましくは少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%減少させる。
【0030】
濾過ステップによって除去される分子は、好ましくは20kDa未満、より好ましくは10kDa未満、さらに好ましくは5kDa未満である。
【0031】
30kDa未満の分子を除去するのに適した濾過方法は公知であり、例えば、活性炭濾過、限外濾過、またはナノ濾過が挙げられる。活性炭濾過は、炭素粒子の表面への分子の吸着、ならびに活性炭の凹みおよび細孔への小分子の捕捉に基づく分離方法である。例えば、流体を活性炭分子の濾過床に通過させることができ、有機小分子が濾過床内の炭素粒子によって結合される。あるいは、活性炭を流体に直接与え、混合しながらまたは混合しないで一定時間インキュベートし、その後、炭素から除去することができる。
【0032】
あるいはまたはさらに、限外濾過および/またはナノ濾過を使用して、30kDa未満、好ましくは20kDa未満、より好ましくは10kDa未満、さらに好ましくは5kDa未満の分子を除去することができる。これらの濾過技術は、特定の寸法の細孔を有する物理的障壁として作用する膜を使用する。両濾過技術は、デッドエンド濾過またはタンジェンシャルフロー濾過として適用され得る。膜は、孔径よりも小さい径を有する粒子のみを通過させるように設計される。濾過中、初期溶液は、膜を通過した画分(透過液)と膜によって保持された画分(保持液)の2つの異なる画分に分離される。限外濾過中に使用されるフィルタは、通常、典型的には0.1~1000kDaの範囲の分子量カットオフ(MWCO)によって定義される。一実施形態では、限外濾過を、30kDa以下、好ましくは20kDa以下、10kDa以下、最も好ましくは5kDa以下の分子量カットオフ(MWCO)を有する膜を使用して、上記方法のステップ(d)で行う。
【0033】
場合により、濾過後に得られたタンパク質溶液を滅菌または低温殺菌する。タンパク質溶液を、製品を加熱することなく、例えばUV滅菌などによって滅菌または低温殺菌することが好ましい。あるいは、タンパク質溶液を非常に短い超高温処理に供することによって、滅菌または低温殺菌を行うことができる。例えば、タンパク質溶液を120~150℃の温度で3~5秒間加熱することができる。
【0034】
濾過ステップ(d)の後に得られる溶液は、本発明の意味における液体タンパク質濃縮物である。液体濃縮物を、ゲルを調製するために使用することができる。この目的のために、濃縮物のアリコートを50℃以上の温度に加熱する。高温は、濃縮物中のタンパク質をアンフォールディングさせ、互いに会合させ、それによってゲルを形成する。
【0035】
濾過ステップ(d)の後に得られた溶液を乾燥させ、それによって、タンパク質濃縮物粉末を得ることもできる。粉末中のタンパク質はもはや内因性または外因性プロテアーゼによる分解を受けにくいため、粉末は有意に改善された貯蔵寿命を有する。酵母タンパク質の分解は、タンパク質濃縮物のゲル化特性の低下をもたらすだろう。さらなる利点は、粉末が、食品安全性に影響を及ぼし得る微生物汚染物質の増殖から保護されることである。本発明によると、濾過から得られた溶液の乾燥を、フリーズドライまたは噴霧乾燥によって行うことが好ましい。
【0036】
噴霧乾燥の原理は、高温空気の流れに導入される微細な液滴への溶液の分散に基づく。溶媒が基板液滴から蒸発し、結果として乾燥生成物クラスタが残る。この場合、タンパク質の変性をもたらさない温度条件を選択することが重要である。噴霧乾燥を、通常、タンパク質の融解温度よりも高い温度で実施するが、これは、噴霧乾燥中にタンパク質が完全にアンフォールディングすることを意味しない。タンパク質変性は、瞬間的な事象ではなく、多くの移行段階を有するプロセスである。したがって、噴霧乾燥中の高温の期間を制限することによって、酵母タンパク質の変性を回避することができる。Buchi Labortechnik GmbH(エッセン、ドイツ)製のMini Spray Dryer B-290またはGEA(ベルリン、ドイツ)製のMobile Minor(商標)Spray Dryerなどの標準的な噴霧乾燥装置を使用することができる。
【0037】
フリーズドライまたは凍結乾燥は、貯蔵寿命を延ばすために製品から水を除去する方法である。フリーズドライは、製品を凍結し、圧力を低下させ、熱を加えて材料中の凍結水を昇華させることを包含する。製品を凍結するために、様々な方法を適用することができる。例えば、凍結は、標準的な冷凍庫または冷却浴を使用することによって達成することができる。製品をその三重点未満に冷却することにより、加熱時に昇華が起こることが保証される。乾燥される製品の構造を損傷し得る大きな結晶の形成を防止するために、凍結を急速に行う。凍結した水が昇華すると、製品中の水の約95%が除去される。ほとんどの材料を、1~5%の残留水分まで乾燥させることができる。GEA(ベルリン、ドイツ)製のLyovac(商標)装置、Christ(オステローデ・アム・ハルツ、ドイツ)製のGamma 2-20フリーズドライヤーLCM-1、またはFisher Scientific GmbH(シュヴェルテ、ドイツ)製のChrist Martin(商標)Alpha 1-2 Lyophilisatorなどの標準的なフリーズドライ装置を使用することができる。
【0038】
別の態様では、本発明は、上記の方法によって得ることができる酵母タンパク質濃縮物を提供する。
【0039】
さらに別の態様では、本発明は、折りたたまれていないタンパク質と折りたたまれたタンパク質の混合物を含む、液体または粉末の形態の酵母タンパク質濃縮物であって、タンパク質濃縮物に含有される折りたたまれたタンパク質が、45℃~83℃の温度範囲でアンフォールディングする、酵母タンパク質濃縮物を提供する。折りたたまれたタンパク質の存在およびそれらの各アンフォールディング温度は、タンパク質の安定性および機能性を測定するための標準的な装置、例えばTycho NT.6(NanoTemper Technologies GmbH、ミュンヘン)によって分析することができる。Tycho NT.6は、330nmおよび350nmでの吸光度の分光測定によって、上昇する温度でのタンパク質アンフォールディングを定量する。この比の変化が、タンパク質のアンフォールディングに対応する。試料が様々なタンパク質の複雑な混合物を含有する場合、明確な融解温度はないが、融解範囲はある。
【0040】
本発明の好ましい実施形態によると、前記濃縮物に含有されるタンパク質の少なくとも40%が、5kDa超の見かけのサイズを有する。好ましくは、タンパク質濃縮物に含有されるタンパク質の少なくとも50%、少なくとも60%または少なくとも70%が、5kDa超の見かけのサイズを有する。
【0041】
本発明の別の好ましい実施形態によると、酵母タンパク質濃縮物に含有されるタンパク質の少なくとも40%が、10kDa超の見かけのサイズを有する。好ましくは、タンパク質濃縮物に含有されるタンパク質の少なくとも50%、少なくとも60%または少なくとも70%が、10kDa超の見かけのサイズを有する。
【0042】
本発明の別の好ましい実施形態によると、酵母タンパク質濃縮物に含有されるタンパク質の少なくとも40%が、20kDa超の見かけのサイズを有する。好ましくは、タンパク質濃縮物に含有されるタンパク質の少なくとも50%、または少なくとも60%が、20kDa超の見かけのサイズを有する。
【0043】
本発明の別の好ましい実施形態によると、酵母タンパク質濃縮物に含有されるタンパク質の少なくとも40%が、30kDa超の見かけのサイズを有する。好ましくは、タンパク質濃縮物に含有されるタンパク質の少なくとも50%、または少なくとも60%が、30kDa超の見かけのサイズを有する。
【0044】
本発明の別の好ましい実施形態によると、酵母タンパク質濃縮物に含有されるタンパク質の少なくとも30%が、60kDa超の見かけのサイズを有する。好ましくは、タンパク質濃縮物に含有されるタンパク質の少なくとも40%が、60kDa超の見かけのサイズを有する。
【0045】
本発明の別の好ましい実施形態によると、酵母タンパク質濃縮物に含有されるタンパク質の少なくとも20%が、150kDa超の見かけのサイズを有する。好ましくは、タンパク質濃縮物に含有されるタンパク質の少なくとも25%が、150kDa超の見かけのサイズを有する。
【0046】
本発明によると、本発明の酵母タンパク質濃縮物が、45%未満のタンパク質ではない化合物を含有することがさらに好ましい。より好ましくは、タンパク質濃縮物中の非タンパク質化合物の含有量が、40%未満、35%未満、または30%未満である。
【0047】
さらに、本発明のタンパク質濃縮物は、特に少量の遊離アミノ酸およびジペプチドまたはトリペプチドを有する。好ましくは、遊離アミノ酸、ジペプチドおよびトリペプチドの総量が、20%未満、より好ましくは18%未満である。
【0048】
本発明のタンパク質濃縮物は、好ましくは15%(w/w)未満、より好ましくは14%未満、13%未満、12%未満、または11%未満のRNA含有量を有する。遊離ヌクレオチドの量は、好ましくは5%(w/w)未満、より好ましくは4%未満、3%未満、または2%未満である。
【0049】
さらに別の態様では、本発明は、液体または粉末の形態の酵母濃縮物であって、乾物(dry matter)当たり少なくとも55%(w/w)、好ましくは少なくとも60%(w/w)、少なくとも65%(w/w)、または少なくとも70%(w/w)の総粗タンパク質を含み、濃縮物中のタンパク質の少なくとも40%が60kDa超のサイズを有する、酵母濃縮物を提供する。
【0050】
ここで、総粗タンパク質含有量は、好ましくは、一般的に使用されるケルダール法によって試料の窒素含有量を測定し、その結果に換算係数6.25を掛けることによって決定される。換言すれば、総粗タンパク質含有量は、以下の式によって決定される:タンパク質=ケルダール窒素含有量×6.25。これに関連して、「総粗タンパク質」という用語は、試料中のタンパク質以外の窒素含有化合物、例えば尿素または遊離アミノ酸がある程度この値に寄与し得ることを示す。ケルダール法は、試料中の総粗タンパク質含有量を決定するための最も一般的な手順として先行技術において広く知られている。ケルダール法によって粗タンパク質含有量を決定するための完全自動化装置が、いくつかの製造業者によって販売されており、例えばKjeltec(商標)8400装置(Foss GmbH、ハンブルグ、ドイツ)がある。
【0051】
ここで、本発明の濃縮物は、乾物当たり少なくとも55%(w/w)の総粗タンパク質を含み、これは、1.0gの濃縮物が乾物ベースで少なくとも0.55gの総粗タンパク質を含むことを意味する。乾物は、完全に乾燥した化合物の重量を指す。好ましくは、総粗タンパク質は、Kjeltec(商標)8400装置を用いて測定される。
【0052】
乾物当たり少なくとも55%(w/w)の量の総粗タンパク質を含む濃縮物では、タンパク質の少なくとも40%が60kDa超の見かけのサイズを有する。換言すれば、本発明の濃縮物は、多量のより大きなタンパク質を含む。濃縮物中のタンパク質の見かけのサイズは、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)などの通常の方法によって測定することができる。
【0053】
本発明による酵母タンパク質濃縮物が、乾物当たり30%(w/w)以下、好ましくは25%(w/w)以下、より好ましくは20%(w/w)以下のβ-グルカンを含むことが好ましい。換言すれば、1.0gの濃縮物が、乾物ベースで、せいぜい0.3gのβ-グルカンを含み、好ましくはそれ未満である。
【0054】
乾物当たり少なくとも55%(w/w)の総粗タンパク質含むタンパク質濃縮物では、好ましくは総乾物の少なくとも40%(w/w)、より好ましくは少なくとも45%(w/w)または少なくとも50%(w/w)が可溶性粗タンパク質である。所与の試料中の可溶性粗タンパク質の量は、試料を遠心分離して不溶性タンパク質成分を除去し、その後、上清の粗タンパク質含有量を測定することによって決定することができる。可溶性粗タンパク質の量は、好ましくは以下の手順による。
【0055】
脱イオン水中1%(wt/wt)のタンパク質濃縮物溶液を20℃で調製し、30分間穏やかに撹拌する。泡の形成を厳密に回避しなければならない。その後、1.5mlの前記溶液を2mlの反応管に移し、溶液を25000×gで、4℃で20分間遠心分離する。1mlの上清を取り出し、乾物当たりの粗タンパク質含有量をケルダール法によって前記上清で測定する。測定を3回行い、この測定から得られた平均結果が、試料の乾物当たりの可溶性粗タンパク質含有量を反映している。
【0056】
本発明のタンパク質濃縮物は、ケルダール法によって測定される、乾物当たり少なくとも40%(w/w)の可溶性粗タンパク質含有量を有し得る。
【0057】
上に示される乾物当たり少なくとも40%(w/w)の可溶性粗タンパク質含有量を含む本発明による酵母タンパク質濃縮物は、濃縮物を加熱することによって沈殿させることができる可溶性粗タンパク質を高い割合で含むことが特に好ましい。好ましくは、濃縮物中の可溶性粗タンパク質の少なくとも20%(w/w)、より好ましくは少なくとも25%(w/w)、少なくとも30%(w/w)、少なくとも35%(w/w)、少なくとも40%(w/w)、少なくとも45%(w/w)または少なくとも50%(w/w)を、濃縮物を10分間90℃に加熱することによって沈殿させることができる。好ましくは、沈殿法を、以下のように実施する。
【0058】
脱イオン水中1%(wt/wt)のタンパク質濃縮物溶液を20℃で調製し、30分間穏やかに撹拌する。泡の形成を厳密に回避しなければならない。その後、1.5mlの前記溶液を2mlの反応管に移す。管を水浴中90℃で10分間インキュベートし、次いで、氷上に10分間置く。その後、管を25000×gで、4℃で20分間遠心分離する。1mlの上清を取り出し、乾物当たりの粗タンパク質含有量をケルダール法によって前記上清で測定する。
【0059】
測定を3回行い、この測定から得られた平均結果が、熱処理後の試料の可溶性粗タンパク質含有量を反映している。この値および試料の総可溶性タンパク質含有量に基づいて、以下の式によって90℃での熱処理によって沈殿させることができる可溶性粗タンパク質の割合を決定することができる:
【数1】
【0060】
当業者は、上記の熱処理によって沈殿させられる粗可溶性タンパク質の割合を決定することに問題はないであろう。
【0061】
乾物当たり少なくとも55%(w/w)の総粗タンパク質、好ましくは少なくとも40%(w/w)の可溶性粗タンパク質を含むタンパク質濃縮物では、含まれる折りたたまれたタンパク質が、好ましくは45℃~83℃の間の温度範囲でアンフォールディングする。さらに、乾物当たり少なくとも55%(w/w)の総粗タンパク質、好ましくは少なくとも40%(w/w)の可溶性粗タンパク質を含むタンパク質濃縮物は、含まれる遊離アミノ酸、ジペプチドおよびトリペプチドの総量が好ましくは20%未満、より好ましくは18%未満である。さらに、乾物当たり少なくとも55%(w/w)の総粗タンパク質、好ましくは少なくとも40%(w/w)の可溶性粗タンパク質を含むタンパク質濃縮物では、好ましくはタンパク質の少なくとも40%が5kDa超の見かけのサイズを有する。
【0062】
好ましい態様では、本明細書に記載される酵母タンパク質濃縮物は、少なくとも1%、少なくとも1.5%、少なくとも2%、少なくとも2.5%、少なくとも3%、少なくとも3.5%、少なくとも4%、少なくとも4.5%、または少なくとも5%の乾物含有量を有する液体である。別の好ましい態様では、本明細書に記載される酵母タンパク質濃縮物が、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも94%、または少なくとも96%の乾物含有量を有する粉末である。
【0063】
別の態様では、本発明は、タンパク質ゲルを調製する方法であって、
(a)上記の液体酵母タンパク質濃縮物を用意するステップと;
(b)濃縮物を少なくとも55℃の温度に加熱して、タンパク質ゲルを得るステップと
を含む方法を提供する。
【0064】
本方法は、液体酵母タンパク質濃縮物の用意を含む。ゲルを調製するために、液体濃縮物またはそのアリコートを、少なくとも55℃、少なくとも60℃、少なくとも65℃、少なくとも70℃、少なくとも75℃、または少なくとも80℃の温度に加熱する。この温度で、液体中の折りたたまれたタンパク質が変性し、絡み合ってゲルを形成する。
【0065】
さらに別の態様では、本発明は、タンパク質ゲルを調製する方法であって、
(a)上記の酵母タンパク質濃縮物粉末を用意するステップと;
(b)酵母タンパク質濃縮物粉末を水性担体流体と混合するステップと;
(c)混合物を少なくとも55℃の温度に加熱して、タンパク質ゲルを得るステップと
を含む方法を提供する。
【0066】
乾燥濃縮物から出発する方法は、濃縮物粉末を水性担体流体と混合するステップを含む。水性担体流体は、水道水などの水、または緩衝液などの別の適切な水性担体であり得る。粉末の再構成は、好ましくは、少なくとも2%(w/w)、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、または少なくとも25%の溶液が得られるように行われる。酵母タンパク質濃縮物粉末と水性担体流体の混合は、撹拌下で、例えば撹拌することによって実施することができる。
【0067】
次いで、得られた混合物を、少なくとも55℃、好ましくは少なくとも60℃、少なくとも65℃、少なくとも70℃、少なくとも75℃、または少なくとも80℃の温度に加熱する。この温度で、混合物中の折りたたまれたタンパク質が変性し、絡み合ってゲルを形成する。
【0068】
最後の態様では、本発明は、タンパク質に富む食品または飼料製品を調製するための、本明細書に記載される酵母タンパク質濃縮物の使用に関する。タンパク質に富む食品は、デザートまたはプリンであり得る。さらに、タンパク質に富む食品は、肉代替製品であり得る。
【0069】
肉代替製品は、このような製品の製造に通常使用される追加の化合物、例えば、米、小麦、トウモロコシ、ジャガイモ、サツマイモ、大麦またはモロコシ由来のデンプン、およびダイズ、オリーブ、ナタネ、パーム、落花生、トウモロコシ、亜麻、ヒマワリ、ベニバナまたは綿実油などの植物油を含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
図1】本発明による酵母タンパク質濃縮物粉末を調製するための好ましい実施形態の概略図である。
図2】本明細書で以下に記載される実施例1に従って調製された乾燥タンパク質濃縮物粉末の試料中のタンパク質の見かけの分子量分布を示す図である。
図3】サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって決定される、本明細書で以下に記載される実施例2からの限外濾過透過液の見かけの分子量分布を示す図である。
図4】タンパク質濃縮物の折りたたまれたタンパク質の融解曲線を示す図である。乾燥タンパク質濃縮物を20%(w/w)で水に溶解し、Tycho NT.6(NanoTemper Technologies GmbH、ミュンヘン)を使用して融解曲線を分析した。
【実施例
【0071】
以下の実施例は、本発明を説明するために提供される。しかしながら、本発明の範囲が実施例によって限定されないことを理解すべきである。当業者は、本発明の範囲から逸脱することなくいくつかの修正を行うことができることを理解するであろう。
【0072】
実施例1:炭素濾過を使用した調製方法
サッカロミセス・セレビシエA2W5酵母細胞を酵母細胞培養物から回収し、水に懸濁した。乾物含有量を14%に調整した。懸濁液は体積1Lを有していた。NaOHを使用して懸濁液のpHをpH 7.5に調整した。
【0073】
0.25~0.35mmのサイズのイットリア安定化酸化ジルコニウムビーズを使用して、Willy A.Bachofen AG(ムッテンツ、スイス)製のDyno(登録商標)-Mill Multi Lab Wabで細胞破裂を実施した。流速を7kg/時間に設定し、ロータ速度を8m/秒に設定した。ビーズ充填量を65%に設定した。
【0074】
細胞破裂の効率を、Kjeldahl,J.Fresenius,Zeitschrift f.anal.Chemie(1883)22:366の方法を使用してタンパク質抽出収率を測定することによって確認した。
【0075】
ビーズミルから得られた溶解物のpHを、NaOHを使用して7.6に調整した。その後、溶解物を、Heraeus Multifuge X3Rにおいて25000×gで120分間遠心分離に供した。上清を沈降物から分離し、蒸気活性化Norit(登録商標)SX Plusを充填した活性炭濾過カートリッジ(高さ:5cm、直径:6cm)を使用して活性炭濾過に供した。
【0076】
活性炭濾過で得られた溶液を130℃の温度で3秒間滅菌し、その後、Buchi Labortechnik GmbH(エッセン、ドイツ)製Mini Spray Dryer B-290を使用して、133~136℃の一定の入力温度および93±2℃の出力温度で噴霧乾燥させた。
【0077】
このようにして得られた粉末を化学的に、遊離アミノ酸含有量について分析した:
【表1】
【表2】
【0078】
実施例2:限外濾過を使用した調製方法
活性炭濾過の代わりに限外濾過を使用したことを除いて、実施例1に記載される実験を繰り返した。限外濾過は、10kDaのMWCOを有するポリエーテルスルホン(PES)UF GR 81PP膜を用いて行った。合計14個のフィルタが使用されるように、7つの支持プレートにストップディスクを装備した。フィルタ装置を製造者の説明書に従って洗浄した。当初、保持液流速は2.3L/分とし、透過液流速は0.064L/分とした。20分後、保持液を2.2L/分で流し、透過液を0.054L/分で流出した。透過液を、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を使用して分析した。結果を図3に示す。膜のカットオフ未満の粒子のみが通過することができたことが分かる。これは、酵母タンパク質が保持液中に残り、有意なタンパク質損失がなかったことを示す。限外濾過から得られた溶液を滅菌し、上記実施例1に記載されるように噴霧乾燥した。
【0079】
実施例3:タンパク質ゲルの調製
実施例1および2で得られた粉末を、水中で再構成した場合のゲル化特性について試験した。この目的のために、タンパク質粉末を水道水に溶解して20%(w/w)溶液を得た。
【0080】
次に、Tycho NT.6(NanoTemper Technologies GmbH、ミュンヘン)を使用して、タンパク質濃縮物中のタンパク質の融解温度範囲を室温~95℃の間で測定した。図4は、本発明の製品の内部のタンパク質が主に45℃~83℃の間で溶融することを示している。タンパク質ゲルを、ゲル硬さおよび風味プロファイルについて少なくとも7人の感覚パネルによって評価した。サンプルの主な知覚に関してパネル内で一般的な合意があった。味を塩味、甘味および焙煎として記載した。パネルによって強い酵母風味が指摘されることはなかった。同時に、ゲルは硬く、稠度の点で調理済み卵白に似ていることが分かった。
【0081】
実施例4:総粗タンパク質含有量の決定
実施例1において活性炭濾過後に得られた液体酵母タンパク質濃縮物の試料を、乾物当たりの総粗タンパク質の含有量について分析した。該液体濃縮物は、乾物濃度5.3%(w/w)を有していた。消化ステップのために、Kjeltec-Sampler 8420を備えたFOSS Kjeltec-Analyser 8400、Tecator-Scrubberを備えたTecator-Digestor Autoを使用して、ケルダール法によって500mgのアリコート試料を分析した。総粗タンパク質含有量を計算するために、換算係数6.25を使用した。その結果、液体酵母タンパク質濃縮物について、乾物当たりの総粗タンパク質含有量が70.5%(w/w)であることが、測定された。
【0082】
実施例5:可溶性粗タンパク質含有量の決定
実施例1において活性炭濾過後に得られた液体酵母タンパク質濃縮物の試料を、脱イオン水を使用して乾物濃度1%(w/w)に希釈した。この溶液を20℃で30分間撹拌した。2ml-エッペンドルフチューブに1.5mlの希釈タンパク質溶液を充填した。チューブを25000×gで、4℃で20分間遠心分離した。遠心分離後、1mlの上清をチューブから取り出し、実施例4に記載されるケルダールタンパク質測定に供した。その結果、乾物当たりの可溶性粗タンパク質含有量が61.3%(w/w)であることが、測定された。
【0083】
実施例6:熱反応性タンパク質割合の決定
1%(w/w)の乾物濃度を有する実施例5で使用した試料の別のアリコートを、上記のように20℃で30分間撹拌することによって使用した。2ml-エッペンドルフチューブに1.5mlの希釈タンパク質溶液を充填した。次いで、チューブを90℃の水浴に10分間入れることによって熱処理した。その後、チューブを氷上に10分間置いた。その後、チューブを25000×gで、4℃で20分間遠心分離した。遠心分離後、1mlの上清をチューブから取り出し、実施例4に記載されるケルダールタンパク質測定に供した。その結果、乾物当たりの熱処理後の可溶性粗タンパク質含有量が32.8%(w/w)であることが決定された。熱によって沈殿させることができる可溶性粗タンパク質の割合は、以下の式によって決定される。
【数2】
【0084】
実施例5で測定した可溶性粗タンパク質含有量および実施例6で測定した熱インキュベーション後の可溶性粗タンパク質を上記式で使用すると、以下が得られる:
【数3】
【0085】
したがって、上記の計算は、可溶性粗タンパク質の46.5%を上記の加熱によって沈殿させることができることを示している。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】