(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-15
(54)【発明の名称】無方向性電磁鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20220207BHJP
C21D 8/12 20060101ALI20220207BHJP
C22C 38/16 20060101ALI20220207BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20220207BHJP
C22C 38/60 20060101ALN20220207BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C21D8/12 A
C22C38/16
H01F1/147 175
C22C38/60
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021536311
(86)(22)【出願日】2019-12-18
(85)【翻訳文提出日】2021-06-21
(86)【国際出願番号】 KR2019018032
(87)【国際公開番号】W WO2020130644
(87)【国際公開日】2020-06-25
(31)【優先権主張番号】10-2018-0165655
(32)【優先日】2018-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パク,ジュン ス
(72)【発明者】
【氏名】ソン,デ‐ヒョン
【テーマコード(参考)】
4K033
5E041
【Fターム(参考)】
4K033AA01
4K033CA00
4K033CA01
4K033CA02
4K033CA03
4K033CA04
4K033CA05
4K033CA07
4K033CA08
4K033CA09
4K033CA10
4K033DA02
4K033FA01
4K033FA03
4K033FA05
4K033FA10
4K033HA01
4K033HA03
4K033HA06
4K033KA03
5E041AA02
5E041BD09
5E041CA04
5E041NN01
5E041NN06
(57)【要約】
【課題】熱延板焼鈍を省略し、同時に磁性を改善した無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の無方向性電磁鋼板は、重量%で、C:0.005%以下(0%を除外する)、Si:0.5~2.4%、Mn:0.4~1.0%、S:0.005%以下(0%を除外する)、Al:0.01%以下(0%を除外する)、N:0.005%以下(%を除外する)、Ti:0.005%以下(0%を除外する)、Cu:0.001~0.02%含み、残部はFeおよび不可避的な不純物からなり、下記式1を満足し、鋼板中の{111}面が圧延面となす角度が15°以下である結晶粒の体積分率が27%以上であることを特徴とする。
[式1] 0.19≦[Mn]/([Si]+150×[Al])≦0.35
(式1中、[Mn]、[Si]および[Al]はそれぞれMn、SiおよびAlの含量(重量%)を示す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.005%以下(0%を除外する)、Si:0.5~2.4%、Mn:0.4~1.0%、S:0.005%以下(0%を除外する)、Al:0.01%以下(0%を除外する)、N:0.005%以下(0%を除外する)、Ti:0.005%以下(0%を除外する)、Cu:0.001~0.02%含み、残部はFeおよび不可避的な不純物からなり、
下記式1を満足し、
鋼板中の{111}面が圧延面となす角度が15°以下である結晶粒の体積分率が27%以上であることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
[式1]
0.19≦[Mn]/([Si]+150×[Al])≦0.35
(式1中、[Mn]、[Si]および[Al]はそれぞれ、Mn、SiおよびAlの含量(重量%)を示す。
【請求項2】
鋼板中の{111}面が圧延面となす角度が15°以下である結晶粒の体積分率が27%~35%であることを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項3】
Si酸化物を含む濃化層が表面から0.15μm以下の深さ範囲に存在することを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項4】
前記濃化層はSi:3%以上、O:5%以上、Al:0.5%以下含むことを特徴とする請求項3に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項5】
硫化物を含み、直径0.5μm以下の硫化物のうちの直径0.05μm以上の硫化物の個数率(F
count)および直径0.5μm以下の硫化物のうちの直径0.05μm以上の硫化物の面積率(F
area)の積(F
count×F
area)が0.15以上であることを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項6】
硫化物を含み、直径0.5μm以下の硫化物のうちの直径0.05μm以上の硫化物の個数率(F
count)が0.2以上であることを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項7】
直径0.5μm以下の硫化物のうちの直径0.05μm以上の硫化物の面積率(F
area)が0.5以上であることを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項8】
0.9≦(V
cube+V
goss+V
r-cube)/Intensity
max≦2.5を満足することを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
(但し、V
cube、V
goss、V
r-cubeはそれぞれcube、goss、rotated cube集合組織の体積%であり、Intensity
maxはODF image(Φ2=45度section)上に現れる最大強度値を示す。)
【請求項9】
YP/TS≧0.7を満足することを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
(但し、YPは降伏強度、TSは引張強度を示す。)
【請求項10】
平均結晶粒粒径の0.3倍以下である微小結晶粒の面積比が0.4%以下であり、平均結晶粒粒径の2倍以上である粗大結晶粒の面積比が40%以下であることを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項11】
平均結晶粒粒径は50~100μmであることを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項12】
重量%で、C:0.005%以下(0%を除外する)、Si:0.5~2.4%、Mn:0.4~1.0%、S:0.005%以下(0%を除外する)、Al:0.01%以下(0%を除外する)、N:0.005%以下(0%を除外する)、Ti:0.005%以下(0%を除外する)、Cu:0.001~0.02%含み、下記式1を満足するスラブを加熱する段階、
スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、
前記熱延板を熱延板焼鈍なく、冷間圧延して冷延板を製造する段階、および
前記冷延板を最終焼鈍する段階を含み、
製造された鋼板の{111}面が圧延面となす角度が15°以下である結晶粒の体積分率が27%以上であることを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
[式1]
0.19≦[Mn]/([Si]+150×[Al])≦0.35
(式1中、[Mn]、[Si]および[Al]はそれぞれ、Mn、SiおよびAlの含量(重量%)を示す。)
【請求項13】
最終焼鈍時、Si、Al成分と焼鈍炉内水素雰囲気(H
2)が10×([Si]+1000×[Al])-[H
2]≦90を満足することを特徴とする請求項12に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
(但し、[Si]、[Al]はそれぞれSiおよびAlの含量(重量%)を示し、[H2]は焼鈍炉内水素の体積分率(体積%)を示す。)
【請求項14】
スラブを加熱する段階でMnSの平衡析出量(MnS
SRT)およびMnSの最大析出量(MnS
Max)が下記式を満足することを特徴とする請求項12に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
MnS
SRT/MnS
Max≧0.6
【請求項15】
スラブを加熱する段階で、オーステナイトがフェライトに100%変態する平衡温度をA1(℃)という時、スラブ加熱温度SRT(℃)とA1温度(℃)が下記関係を満足することを特徴とする請求項12に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
SRT≧A1+150℃
【請求項16】
スラブを加熱する段階で、オーステナイト単相領域で1時間以上維持することを特徴とする請求項12に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項17】
前記熱間圧延する段階は粗圧延および仕上圧延段階を含み、仕上圧延開始温度(FET)が下記関係を満足することを特徴とする請求項12に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
Ae1≦FET≦(2×Ae3+Ae1)/3
(但し、Ae1はオーステナイトがフェライトに完全に変態する温度(℃)、Ae3はオーステナイトがフェライトに変態し始める温度(℃)、FETは仕上圧延開始温度(℃)を示す。)
【請求項18】
前記熱間圧延する段階は粗圧延および仕上圧延段階を含み、
仕上圧延の圧下率が85%以上であることを特徴とする請求項12に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項19】
前記熱間圧延する段階は粗圧延および仕上圧延段階を含み、
仕上圧延前段での圧下率が70%以上であることを特徴とする請求項12に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項20】
前記熱間圧延する段階は粗圧延および仕上圧延段階を含み、
熱延板全体長さで仕上圧延終了温度(FDT)の偏差が30℃以下であることを特徴とする請求項12に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項21】
前記熱間圧延する段階は粗圧延、仕上圧延および巻取段階を含み、
巻取段階での温度(CT)が下記関係を満足することを特徴とする請求項12に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
0.55≦CT×[Si]/1000≦1.75
(但し、CTは巻取段階での温度(℃)を示し、[Si]はSiの含量(重量%)を示す。)
【請求項22】
熱延板の微細組織が下記関係を満足することを特徴とする請求項12に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
GS
center/GS
surface≧1.15
(但し、GS
centerは厚さ方向に1/4~3/4t部分の結晶粒平均粒径を示し、GS
surfaceは表面~1/4t部分の結晶粒平均粒径を示す。)
【請求項23】
熱延板の微細組織が下記関係を満足することを特徴とする請求項12に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
(GS
center×再結晶率)/10≧2
(但し、GS
centerは厚さ方向に1/4~3/4t部分の結晶粒平均粒径を示し、再結晶率は熱間圧延後再結晶された結晶粒の面積分率を示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無方向性電磁鋼板およびその製造方法に係り、より詳しくは、熱延板焼鈍を省略し、同時に磁性を改善した無方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータや発電機は電気的エネルギーを機械的エネルギーに、または機械的エネルギーを電気的エネルギーに変換させるエネルギー変換機器であって、最近、環境保存およびエネルギー節約に対する規制が強化されることによりモータや発電機の効率向上に対する要求が増大しており、それによってこのようなモータ、発電機および小型変圧器などの鉄芯用材料として使用される無方向性電磁鋼板でもより優れた特性を有する素材に対する開発要求が増大している。
モータや発電機においてエネルギー効率とは、入力されたエネルギーと出力されたエネルギーの比率であり、効率向上のためには、結局、エネルギー変換過程で損失される鉄損、銅損、機械損などのエネルギー損失をどのくらい減らすことができるかが重要であり、そのうち、鉄損と銅損は無方向性電磁鋼板の特性に大きく影響を受けるためである。無方向性電磁鋼板の代表的な磁気的特性は鉄損と磁束密度であり、無方向性電磁鋼板の鉄損が低いほど鉄芯が磁化される過程で損失される鉄損が減少して効率が向上し、磁束密度が高いほど同じエネルギーでさらに大きな磁場を誘導することができ、同じ磁束密度を得るためには少ない電流を印加してもよいため銅損を減少させてエネルギー効率を向上させることができる。したがって、エネルギー効率向上のためには、低鉄損でありながら高磁束密度である磁性に優れた無方向性電磁鋼板開発技術が必須的といえる。
【0003】
方向性電磁鋼板の鉄損を低減させる方法として、磁区微細化方法が知られている。即ち、磁区をスクラッチやエネルギー的衝撃を与えて方向性電磁鋼板が有している大きな磁区を微細化させる方法である。この場合、磁区が磁化されその方向が変わる時、エネルギー的消耗量を磁区の大きさが大きかった時より減らすことができるようになる。磁区微細化方法としては、熱処理後にも改善効果が維持される永久磁区微細化と、改善効果が維持されない一時磁区微細化とがある。
回復(Recovery)が現れる熱処理温度以上の応力緩和熱処理後にも鉄損改善効果を示す永久磁区微細化方法は、エッチング法、ロール法、およびレーザ法に区分することができる。エッチング法は、溶液内選択的な電気化学反応で鋼板表面に溝(グルーブ、groove)を形成させるため溝形状を制御しにくく、最終製品の鉄損特性を幅方向に均一に確保するのが難しい。これと共に、溶媒として使用する酸容液によって環境親和的でない短所を有している。
【0004】
無方向性電磁鋼板の鉄損を低めるための効率的な方法としては、比抵抗の大きい元素であるSi、Al、Mnの添加量を増加させる方法がある。しかし、Si、Al、Mn添加量増加は鋼の比抵抗を増加させて無方向性電磁鋼板の鉄損のうちの渦流損を減少させることによって鉄損を低減する効果があるが、添加量が増加するほど鉄損が添加量に比例して無条件的に減少するのではなく、また、逆に合金元素添加量の増加は磁束密度を劣位となるようにするので、鉄損を低めながらも優れた磁束密度を確保することは成分系と製造工程を最適化しても容易ではない状況である。しかし、集合組織向上は、鉄損と磁束密度のうちのいずれか一方を犠牲にせず同時に向上させることができる方法である。このために磁性に優れた無方向性電磁鋼板では集合組織を改善するための目的でスラブを熱間圧延後、熱延板を冷間圧延する前段階で、熱延板焼鈍工程を行うことによって集合組織を改善する技術が広く使用されている。しかし、この方法も、熱延板焼鈍工程という工程追加による製造原価上昇を招き、熱延板焼鈍を行うことによって結晶粒が粗大化される場合、冷間圧延性が劣位になるなどの問題を有している。したがって、熱延板焼鈍工程を実施せずに優れた磁性を有する無方向性電磁鋼板を製造することができれば、製造原価も低減することができ、熱延板焼鈍工程による生産性の問題も解決することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的とするところは、無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することにある。具体的には、熱延板焼鈍を省略し、同時に磁性を改善した無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の無方向性電磁鋼板は、重量%で、C:0.005%以下(0%を除外する)、Si:0.5~2.4%、Mn:0.4~1.0%、S:0.005%以下(0%を除外する)、Al:0.01%以下(0%を除外する)、N:0.005%以下(0%を除外する)、Ti:0.005%以下(0%を除外する)、Cu:0.001~0.02%含み、残部はFeおよび不可避的な不純物からなり、下記式1を満足し、鋼板中の{111}面が圧延面となす角度が15°以下である結晶粒の体積分率が27%以上であることを特徴とする。
[式1]
0.19≦[Mn]/([Si]+150×[Al])≦0.35
(式1中、[Mn]、[Si]および[Al]はそれぞれ、Mn、SiおよびAlの含量(重量%)を示す。)
【0007】
鋼板中の{111}面が圧延面となす角度が15°以下である結晶粒の体積分率が27%~35%であることがよい。
Si酸化物を含む濃化層が表面から0.15μm以下の深さ範囲に存在することができる。
濃化層はSi:3重量%以上、O:5重量%以上、Al:0.5重量%以下を含むことができる。
硫化物を含み、直径0.5μm以下の硫化物のうちの直径0.05μm以上の硫化物の個数率(Fcount)および直径0.5μm以下の硫化物のうちの直径0.05μm以上の硫化物の面積率(Farea)の積(Fcount×Farea)が0.15以上であることが好ましい。
【0008】
硫化物を含み、直径0.5μm以下の硫化物のうちの直径0.05μm以上の硫化物の個数率(Fcount)が0.2以上であってもよい。
直径0.5μm以下の硫化物のうちの直径0.05μm以上の硫化物の面積率(Farea)が0.5以上であってもよい。
0.9≦(Vcube+Vgoss+Vr-cube)/Intensitymax≦2.5を満足することができる。
(但し、Vcube、Vgoss、Vr-cubeはそれぞれcube、goss、rotated cube集合組織の体積%であり、IntensitymaxはODF image(Φ2=45度section)上に示される最大強度値を示す。)
【0009】
YP/TS≧0.7を満足することができる。
(但し、YPは降伏強度、TSは引張強度を示す。)
平均結晶粒粒径の0.3倍以下である微小結晶粒の面積比が0.4%以下であり、
平均結晶粒粒径の2倍以上である粗大結晶粒の面積比が40%以下であることがよい。
平均結晶粒粒径は50~100μmであることができる。
【0010】
本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法は、重量%で、C:0.005%以下(0%を除外する)、Si:0.5~2.4%、Mn:0.4~1.0%、S:0.005%以下(0%を除外する)、Al:0.01%以下(0%を除外する)、N:0.005%以下(0%を除外する)、Ti:0.005%以下(0%を除外する)、Cu:0.001~0.02%含み、下記式1を満足するスラブを加熱する段階、スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、熱延板を熱延板焼鈍なく、冷間圧延して冷延板を製造する段階、および冷延板を最終焼鈍する段階を含むことを特徴とする。
[式1]
0.19≦[Mn]/([Si]+150×[Al])≦0.35
(式1中、[Mn]、[Si]および[Al]はそれぞれ、Mn、SiおよびAlの含量(重量%)を示す。)
【0011】
最終焼鈍時、Si、Al成分と焼鈍炉内水素雰囲気(H2)が10×([Si]+1000×[Al])-[H2]≦90を満足することができる。
(但し、[Si]、[Al]はそれぞれSiおよびAlの含量(重量%)を示し、[H2]は焼鈍炉内水素の体積分率(体積%)を示す。)
スラブを加熱する段階でMnSの平衡析出量(MnSSRT)およびMnSの最大析出量(MnSMax)が下記式を満足することができる。
MnSSRT/MnSMax≧0.6
スラブを加熱する段階で、オーステナイトがフェライトに100%変態する平衡温度をA1(℃)という時、スラブ加熱温度SRT(℃)とA1温度(℃)が下記関係を満足することができる。
SRT≧A1+150℃
スラブを加熱する段階で、オーステナイト単相領域で1時間以上維持することがよい。
【0012】
熱間圧延する段階は粗圧延および仕上圧延段階を含み、仕上圧延開始温度(FET)が下記関係を満足することができる。
平衡析出Ae1≦FET≦(2×Ae3+Ae1)/3
(但し、Ae1はオーステナイトがフェライトに完全に変態する温度(℃)、Ae3はオーステナイトがフェライトに変態し始める温度(℃)、FETは仕上圧延開始温度(℃)を示す。)
熱間圧延する段階は粗圧延および仕上圧延段階を含み、仕上圧延の圧下率が85%以上であることがよい。
熱間圧延する段階は粗圧延および仕上圧延段階を含み、仕上圧延前段での圧下率が70%以上であることが好ましい。
【0013】
熱間圧延する段階は粗圧延および仕上圧延段階を含み、熱延板全体長さで仕上圧延終了温度(FDT)の偏差が30℃以下であることがよい。
熱間圧延する段階は粗圧延、仕上圧延および巻取段階を含み、巻取段階での温度(CT)が下記関係を満足することができる。
0.55≦CT×[Si]/1000≦1.75
(但し、CTは巻取段階での温度(℃)を示し、[Si]はSiの含量(重量%)を示す。)
【0014】
熱延板の微細組織が下記関係を満足することができる。
GScenter/GSsurface≧1.15
(但し、GScenterは厚さ方向に1/4~3/4t部分の結晶粒平均粒径を示し、GSsurfaceは表面~1/4t部分の結晶粒平均粒径を示す。)
熱延板の微細組織が下記関係を満足することができる。
GScenter×再結晶率/10≧2
(GScenterは厚さ方向に1/4~3/4t部分の結晶粒平均粒径を示し、再結晶率は熱間圧延後再結晶された結晶粒の面積分率を示す。)
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、本発明の無方向性電磁鋼板は、無方向性電磁鋼板を加工しても、磁性が劣化せず、加工前および後にも優れた磁性が得られる。
したがって、加工後に、磁性改善のための応力除去焼鈍(SRA)工程が必要でなくなる効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
第1、第2および第3などの用語は多様な部分、成分、領域、層および/またはセクションを説明するために使用されるが、これらに限定されない。これら用語はある部分、成分、領域、層またはセクションを他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するためにのみ使用される。したがって、以下で叙述する第1部分、成分、領域、層またはセクションは本発明の範囲を逸脱しない範囲内で第2部分、成分、領域、層またはセクションと言及できる。
ここで使用される専門用語は単に特定実施形態を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。ここで使用される単数形態は文句がこれと明確に反対の意味を示さない限り複数形態も含む。明細書で使用される「含む」の意味は特定特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分の存在や付加を除外させるのではない。
【0017】
ある部分が他の部分「の上に」または「上に」あると言及する場合、これは直ぐ他の部分の上にまたは上にあり得るか、その間に他の部分が伴われることがある。対照的に、ある部分が他の部分「の真上に」あると言及する場合、その間に他の部分が介されない。
また、特に言及しない限り、%は重量%を意味し、1ppmは0.0001重量%である。
本発明の一実施形態で追加元素をさらに含むことの意味は、追加元素の追加量だけ残部の鉄(Fe)を代替して含むことを意味する。
異なる定義しない限り、ここに使用される技術用語および科学用語を含むすべての用語は本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が一般に理解する意味と同一の意味を有する。通常使用される辞典に定義された用語は関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有すると追加解釈され、定義されない限り理想的であるか非常に公式的な意味に解釈されない。
【0018】
以下、本発明の実施形態について本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施することができるように詳しく説明する。しかし、本発明は様々な異なる形態に実現でき、ここで説明する実施形態に限定されない。
本発明の一実施形態による無方向性電磁鋼板は重量%で、C:0.005%以下(0%を除外する)、Si:0.5~2.4%、Mn:0.4~1.0%、S:0.005%以下(0%を除外する)、Al:0.01%以下(0%を除外する)、N:0.005%以下(0%を除外する)、Ti:0.005%以下(0%を除外する)、Cu:0.001~0.02%含み、残部はFeおよび不可避的な不純物からなる。
以下、無方向性電磁鋼板の成分限定の理由から説明する。
【0019】
C:0.005重量%以下
炭素(C)は、Ti、Nbなどと結合して炭化物を形成して磁性を劣位となるようにし、最終製品で電気製品として加工後に使用時、磁気時効によって鉄損が高まって電気機器の効率を減少させるため、0.005重量%以下とする。さらに具体的に、Cを0.0001~0.0045重量%で含むことがよい。
【0020】
Si:0.5~2.4重量%
シリコン(Si)は、鋼の比抵抗を増加させて鉄損中の渦流損失を低下させるために添加される主要元素である。Siが過度に少なく添加されれば、鉄損が劣化する問題が発生する。逆に、Siが過度に多く添加されれば、オーステナイト領域を減少させるので、熱延板焼鈍工程を省略した場合、相変態現象を活用するためには2.4重量%に上限を制限することがよい。さらに具体的に、Siは0.6~2.37重量%含むことが好ましい。
【0021】
Mn:0.4~1.0重量%
マンガン(Mn)は、Si、Alなどと共に比抵抗を増加させて鉄損を低下させる元素でありながら集合組織を向上させる元素でもある。添加量が少ない場合、比抵抗を増加させる効果も少ないだけでなく、Si、Alと異なりオーステナイト安定化元素としてSi、Al添加量によって適正量の添加が必要である。Mnが過度な場合、磁束密度が著しく減少する虞がある。さらに具体的に、Mnは0.4~0.95重量%含むこと好ましい。
【0022】
S:0.005重量%以下
硫黄(S)は、磁気的特性に有害なMnS、CuSおよび(Cu、Mn)Sなどの硫化物を形成する元素であるので、できるだけ低濃度で含油されることが好ましい。硫黄が過度に多く添加された場合、微細な硫化物の増加によって磁性が劣位になる虞がある。さらに具体的に、Sは0.0001~0.0045重量%含むことがよい。
【0023】
Al:0.01重量%以下
アルミニウム(Al)は、Siと共に比抵抗を増加させて鉄損を減少させる重要な役割を果たすが、Siよりフェライトをさらに安定化させる元素でありながら添加量が増加することによって磁束密度を著しく減少させる。本発明の一実施形態では相変態現象を活用して熱延板焼鈍を省略するようになるので、Alの含量を制限する。具体的に、Alを0.0001~0.0095重量%含むことがよい。
【0024】
N:0.005重量%以下
窒素(N)は、Al、Ti、Nbなどと強く結合することによって窒化物を形成して結晶粒成長を抑制するなど磁性に有害な元素であるので、少なく含むことがよい。具体的に、Nを0.0001~0.0045重量%含むことが好ましい。
【0025】
Ti:0.005重量%以下
チタン(Ti)は、C、Nと結合することによって微細な炭化物、窒化物を形成して結晶粒成長を抑制し多く添加されるほど増加された炭化物と窒化物によって集合組織も劣位になって磁性が悪くなるので、少なく含むことがよい。さらに具体的に、Tiを0.0001~0.0045重量%含むことが好ましい。
【0026】
Cu:0.001~0.02重量%
銅(Cu)は、Mnと共に(Mn、Cu)S硫化物を形成する元素であって、添加量が多い場合、微細な硫化物を形成させて磁性を劣位となるようにするので、その添加量を0.001~0.02重量%に制限する。具体的に、Cuは0.0015~0.019重量%含むことが好ましい。
【0027】
前記元素以外に集合組織を改善する元素と知られたP、Sn、Sbは追加的な磁性改善のために添加されても構わない。しかし、添加量が過度に多い場合、結晶粒成長性を抑制させ生産性を低下させる問題があって、その添加量がそれぞれ0.1重量%以下に添加されるように制御することがよい。
製鋼工程で不可避的に添加される元素であるNi、Crの場合、不純物元素と反応して微細な硫化物、炭化物および窒化物を形成して磁性に有害な影響を及ぼすので、これら含有量をそれぞれ0.05重量%以下に制限することが好ましい。
また、Zr、Mo、Vなども強力な炭窒化物形成元素であるため、できる限り添加されないのが好ましく、それぞれ0.01重量%以下に含有されるように制限することができる。
【0028】
残部は、Feおよび不可避的な不純物からなる。不可避的な不純物については、製鋼段階および方向性電磁鋼板の製造工程過程で混入される不純物であり、これは該当分野で広く知られているので、具体的な説明は省略する。本発明の一実施形態で前述の合金成分以外に元素の追加を排除するのではなく、本発明の技術思想を害しない範囲内で多様に含むことができる。追加元素をさらに含む場合、残部のFeを代替して含む。
【0029】
本発明の一実施形態で無方向性電磁鋼板は式1を満足することができる。
[式1]
0.19≦[Mn]/([Si]+150×[Al])≦0.35
(式1中、[Mn]、[Si]および[Al]はそれぞれ、Mn、SiおよびAlの含量(重量%)を示す。)
Alの場合、フェライトを安定化させる効果が非常に大きいため微量添加する必要があり、Mnは硫化物粗大化のために適正水準以上添加が必要である。式1を満足する場合、高温で十分なオーステナイト単相領域を有し、熱間圧延時、相変態を通じた熱間圧延後再結晶組織確保も可能であり、熱延再結晶温度制御を通じて粗大な硫化物形成が可能である。また、式1を満足する時、最終焼鈍時焼鈍炉内雰囲気制御を通じて酸化層形成を抑制することが可能である。
【0030】
本発明の一実施形態で、鋼板中の{111}面が圧延面となす角度が15°以下である結晶粒の体積分率が27%以上であり得る。本発明の一実施形態では熱延板焼鈍を省略することによって、鋼板中の{111}面が圧延面となす角度が15°以下である結晶粒の体積分率が高まるようになる。但し、合金組成および後述の工程条件を制御することによって、磁性を向上させることができる。さらに具体的に、鋼板中の{111}面が圧延面となす角度が15°以下である結晶粒の体積分率が27~35%であってもよい。
【0031】
本発明の一実施形態で、Si酸化物を含む濃化層が表面から0.15μm以下の深さ範囲に存在することができる。Si酸化物を含む濃化層は磁性を劣位となるようにするので、形成厚さをできる限り薄く制御する必要がある。本発明の一実施形態で、濃化層の厚さは0.15μm以下であることができる。さらに具体的に、濃化層の厚さは0.01~0.13μmであってもよい。
濃化層は、Si:3重量%以上、O:5重量%以上、Al:0.5重量%以下含むことができる。濃化層は、Siを3重量%以上含み、Oを5重量%以上含む点から鋼板基材とは区分される。Alが表面に濃化する場合、磁性が劣位となる原因になり得るが、前述のように、本発明の一実施形態でAlの含量を制限したので、濃化層内でもAlを0.5重量%以下に含んで、磁性が劣位となるのを防止することができる。濃化層の制御方法については後述の無方向性電磁鋼板の製造方法で具体的に説明する。
【0032】
また、本発明の一実施形態では、特定直径を有する硫化物の個数率および面積率を制御することによって、磁性を向上させることができる。具体的に、硫化物が微細なほど結晶粒成長が抑制され磁壁の移動を妨害することによって磁性を劣位となるようにする。従って、本発明の一実施形態では、特定大きさの硫化物を粗大化させて直径0.05μm以上の個数を増加させ面積率を増加させることによって、磁性を向上させることができる。
具体的に、硫化物を含み、直径0.5μm以下の硫化物のうちの直径0.05μm以上の硫化物の個数率(Fcount)および直径0.5μm以下の硫化物のうちの直径0.05μm以上の硫化物の面積率(Farea)の積(Fcount×Farea)が0.15以上であることができる。さらに具体的に、0.15~0.3であることが好ましい。
【0033】
硫化物を含み、直径0.5μm以下の硫化物のうちの直径0.05μm以上の硫化物の個数率(Fcount)が0.2以上であることができる。さらに具体的に、0.2~0.5であることが好ましい。
直径0.5μm以下の硫化物のうちの直径0.05μm以上の硫化物の面積率(Farea)が0.5以上であることができる。さらに具体的に、0.5~0.8であることが好ましい。硫化物は、MnS、CuSまたはMnSおよびCuSの複合物を含むことができる。
硫化物の個数率および面積率を制御する方法は後述の無方向性電磁鋼板の製造方法で具体的に説明する。
【0034】
また、本発明の一実施形態では、集合組織を制御することによって、磁性を向上させることができる。
0.9≦(Vcube+Vgoss+Vr-cube)/Intensitymax≦2.5を満足することができる。
(但し、Vcube、Vgoss、Vr-cubeはそれぞれ、cube、goss、rotated cube集合組織の体積%であり、IntensitymaxはODF image(Φ2=45度section)上に現れる最大強度値を示す。)
Vcube、Vgoss、Vr-cubeはそれぞれ、(100)[001]、(110)[001]、(100)[011]から15°以内の集合組織の体積%である。
本発明の一実施形態で、集合組織のうちの磁性に有利な集合組織であるcube、gossおよびrotated cubeがよりよく発達して前述の関係式を満足し、結果的に磁性が向上する。
【0035】
集合組織を制御する方法は、後述の無方向性電磁鋼板の製造方法で具体的に説明する。
また、一般に、熱延板焼鈍工程を省略時、熱延板焼鈍工程を行った時より磁性に不利な集合組織の強化によって最大Intensityが大きく増加する。
反面、本発明の一実施形態では、Intensityの増加幅が大きくなく、Intensity(max、HB)/Intensity(max、HBA)≦1.5の関係式を満足する。
(但し、Intensity(max、HB)およびIntensity(max、HBA)はそれぞれ、熱延板焼鈍を実施しない場合と実施した場合の集合組織の最大強度を示す。)
即ち、熱延板焼鈍を省略しても磁性に優れる。
【0036】
本発明の一実施形態では、熱延板焼鈍を省略するためYP/TSの比が高い。具体的にYP/TS≧0.7を満足することができる。但し、YPは降伏強度、TSは引張強度を示す。YP/TSが高いことによって加工性が向上し、モータなど無方向性電磁鋼板を用いた製品を製作して駆動時、変形による磁性劣位現象が抑制できる。
また、本発明の一実施形態では、結晶粒粒径の分布を制御することによって、磁性を向上させることができる。鉄損は結晶粒粒径に敏感に反応し、結晶粒粒径が過度に大きいとか、過度に小さい場合、鉄損が増加するようになる。具体的に、平均結晶粒粒径の0.3倍以下である微小結晶粒の面積比が0.4%以下であり、平均結晶粒粒径の2倍以上である粗大結晶粒の面積比が40%以下であることができる。
また、平均結晶粒粒径は50~100μmであることがよい。本発明の一実施形態で、結晶粒粒径の測定基準は圧延面(ND面)と平行な面であることができる。結晶粒粒径とは、同一面積を有する仮想の球を仮定してその球の直径を意味する。
【0037】
結晶粒粒径の分布を制御する方法は、後述の無方向性電磁鋼板の製造方法で具体的に説明する。
前述の合金成分および特性によって本発明の一実施形態による無方向性電磁鋼板は鉄損および磁束密度が優れる。
具体的に、50Hz周波数で1.5Teslaの磁束密度が誘起された時の鉄損(W15/50)は3.5W/Kg以下であることができる。さらに具体的に、2.5~3.5W/Kgであることがよい。
5000A/mの磁場を付加した時、誘導される磁束密度(B50)は1.7Tesla以上であり得る。さらに具体的に、1.7~1.8Teslaであってもよい。磁性の測定基準厚さは0.50mmであることができる。
【0038】
本発明の一実施形態による無方向性電磁鋼板は下記関係を満足することができる。
(W15/50C-W15/50L)/(W15/50C+W15/50L)×100≧7
W15/50L、W15/50Cはそれぞれ、圧延方向および圧延垂直方向の鉄損(W15/50)を意味する。
B50L-B50C≧0.006
B50L、B50Cは、圧延方向および圧延垂直方向の磁束密度(B50)を意味する。
前述の関係を満足することによって、圧延方向の磁束密度がより向上して平均磁束密度が向上できる。
【0039】
本発明の一実施形態による無方向性電磁鋼板の製造方法は、スラブを加熱する段階;スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階;熱延板を熱延板焼鈍なく、冷間圧延して冷延板を製造する段階および冷延板を最終焼鈍する段階を含む。
まず、スラブを加熱する。
スラブの合金成分については上記の無方向性電磁鋼板の合金成分で説明したので、重複する説明は省略する。無方向性電磁鋼板の製造過程で合金成分が実質的に変動しないので、無方向性電磁鋼板とスラブの合金成分は実質的に同一である。
【0040】
具体的に、スラブは重量%で、C:0.005%以下(0%を除外する)、Si:0.5~2.4%、Mn:0.4~1.0%、S:0.005%以下(0%を除外する)、Al:0.01%以下(0%を除外する)、N:0.005%以下(0%を除外する)、Ti:0.005%以下(0%を除外する)、Cu:0.001~0.02%含み、下記式1を満足することができる。
[式1]
0.19≦[Mn]/([Si]+150×[Al])≦0.35
(式1中、[Mn]、[Si]および[Al]はそれぞれ、Mn、SiおよびAlの含量(重量%)を示す。)
その他の追加元素については無方向性電磁鋼板の合金成分で説明したので、重複する説明は省略する。
【0041】
スラブを加熱する段階で、オーステナイトがフェライトに100%変態する平衡温度をA1(℃)という時、スラブ加熱温度SRT(℃)とA1温度(℃)が下記関係を満足することができる。
SRT≧A1+150℃
スラブ加熱温度が前述の範囲を満足するように十分に高い場合、熱間圧延後再結晶組織を十分に確保することができ、熱延板焼鈍を行わなくても、磁性を向上させることができる。
A1温度(℃)は、スラブの合金成分によって決定される。これについては当該技術分野で広く知られているので、具体的な説明は省略する。例えば、Thermo-Calc.、Factsageなど商用熱力学プログラムで計算が可能である。
【0042】
スラブを加熱する段階で、MnSの平衡析出量(MnSSRT)およびMnSの最大析出量(MnSMax)が下記式を満足することができる。
MnSSRT/MnSMax≧0.6
スラブ再加熱温度は過度に高い場合、MnSが再溶解されて熱間圧延および焼鈍工程で微細に析出され、過度に低い場合はMnS粗大化には有利であるが、熱間圧延性が低下し、また、十分な相変態区間の未確保によって熱間圧延後に再結晶組織確保が難しい。
この時、MnSの平衡析出量(MnSSRT)はスラブ加熱温度(SRT)でMnSの熱力学的な平衡析出できる量、MnSの最大析出量(MnSMax)はスラブ内に存在するMn、S合金元素から熱力学的に析出できる理論的な最大量を意味する。
【0043】
スラブを加熱する段階で、オーステナイト単相領域で1時間以上維持することができる。これは硫化物の粗大化のために必要な時間であり、また、熱間圧延前オーステナイトの結晶粒大きさを粗大にすることによって熱間圧延後に再結晶 組織を粗大にするためにも必要である。
その次に、スラブを熱間圧延して熱延板を製造する。熱間圧延して熱延板を製造する段階は具体的に、粗圧延段階、仕上圧延段階、および巻取段階を含むことができる。
本発明の一実施形態では、粗圧延段階、仕上圧延段階、および巻取段階の圧下率および温度を適切に制御することによって、熱延板焼鈍を行わなくても磁性を向上させることができる。
【0044】
まず、粗圧延段階は、スラブを粗圧延してバー(Bar)として製造する段階である。
仕上圧延段階は、バーを圧延して熱延板を製造する段階である。
巻取段階は、熱延板を巻き取る段階である。
相変態が終わる場合、仕上圧延での圧延は変形組織でそのまま残存するようになって無方向性電磁鋼板の微細組織を微細化させ、集合組織も劣位となるようにして磁性を大きく低下させる。逆に、仕上圧延で相変態が過度に多く発生する場合も熱延再結晶組織の結晶粒が微細化されれば、変形エネルギーによる集合組織の改善効果が減少して最終的に磁性を著しく劣位となる。
【0045】
仕上圧延開始温度(FET)が下記関係を満足する時、最終焼鈍後に集合組織のうちの磁性に有利な集合組織であるcube、goss、およびrotated cubeがよりよく発達して磁性が向上できる。
Ae1≦FET≦(2×Ae3+Ae1)/3
但し、Ae1はオーステナイトがフェライトに完全に変態する温度(℃)、Ae3はオーステナイトがフェライトに変態し始める温度(℃)、FETは仕上圧延開始温度(℃)を示す。
【0046】
具体的に、仕上圧延開始温度(FET)を制御することによって、0.9≦(Vcube+Vgoss+Vr-cube)/Intensitymax≦2.5を満足することができる。
Ae1温度(℃)およびAe3温度(℃)はスラブの合金成分によって決定される。これについては当該技術分野で広く知られているので、具体的な説明は省略する。
また、仕上圧延での圧下率も前述の集合組織発達に寄与し得る。具体的に、仕上圧延の圧下率が85%以上であることができる。仕上圧延が複数回のパスから構成された場合、仕上圧延の圧下率は複数回のパスの累積圧下率になることができる。さらに具体的に、仕上圧延の圧下率が85~90%であることがよい。
仕上圧延前段での圧下率が70%以上であることができる。仕上圧延の前段とは2回以上の偶数回のパスで仕上圧延を実施する場合、(全体パス回数)/2までを意味する。2回以上の奇数回のパスで仕上圧延を実施する場合、(全体パス回数+1)/2までを意味する。さらに具体的に、仕上圧延前段での圧下率が70~87%であってもよい。
【0047】
熱延板全体長さで仕上圧延終了温度(FDT)の偏差が30℃以下であることができる。即ち、仕上圧延終了温度のうちの最大温度および仕上圧延終了温度最小温度の差が30℃以下である。このように仕上圧延終了温度(FDT)の偏差を小さく制御することによって、最終焼鈍以後の微小結晶粒および粗大結晶粒の面積分率を制御することができる。窮極的に熱延板焼鈍を行わなくても磁性に優れる。さらに具体的に、熱延板全体長さで仕上圧延終了温度(FDT)の偏差が15~30℃であることがよい。
また、巻取段階の温度を適切に制御することによって、最終焼鈍以後の微小結晶粒および粗大結晶粒の面積分率の制御に寄与することができる。具体的に、巻取段階での温度(CT)が下記関係を満足することができる。
0.55≦CT×[Si]/1000≦1.75
但し、CTは巻取段階での温度(℃)を示し、[Si]はSiの含量(重量%)を示す。
【0048】
上記の仕上圧延終了温度および巻取温度制御によって熱延板の微細組織が改善される。本発明の一実施形態では、熱延板焼鈍工程を行わないため、熱延板の微細組織が最終製造される無方向性電磁鋼板の微細組織に大きい影響を与える。
具体的に、熱延板の微細組織が下記関係を満足することができる。
GScenter/GSsurface≧1.15
但し、GScenterは厚さ方向に1/4~3/4t部分の結晶粒平均粒径を示し、GSsurfaceは表面~1/4t部分の結晶粒平均粒径を示す。
前記のように、熱延板中心での結晶粒粒径を大きくすることによって、最終焼鈍以後の微小結晶粒および粗大結晶粒の面積分率の制御に寄与し得る。
1/4~3/4t部分は、熱延板全体厚さ(t)に対して1/4~3/4tの厚さ部分を意味する。
また、熱延板の微細組織が下記関係を満足することができる。
(GScenter×再結晶率)/10≧2
但し、GScenterは厚さ方向に1/4~3/4t部分の結晶粒平均粒径を示し、再結晶率は熱間圧延後再結晶された結晶粒の面積分率を示す。
【0049】
本発明の一実施形態で、成分系は相変態が起こるように設計し、熱延温度条件を制御して相変態を通じた再結晶が起こって熱間圧延後に再結晶組織が確保できる。この時、再結晶率が高いほど、最終製造される無方向性電磁鋼板の組織特性を改善して磁性を向上させる。本発明の一実施形態では熱延板焼鈍工程を行わないので、熱間圧延での再結晶率が重要である。
再結晶された結晶粒とそうでない結晶粒は変形組織を含むか否かで区分することができ、光学顕微鏡を通じて微細組織を観察して、変形組織の有/無を区分することができる。
【0050】
その次に、熱延板を熱延板焼鈍なく、冷間圧延して冷延板を製造する。前述のように、本発明の一実施形態で、合金組成および多様な工程制御を通じて熱延板焼鈍を行わなくても磁性に優れた無方向性電磁鋼板を製造することができる。
冷間圧延は、0.10mm~0.70mmの厚さで最終圧延する。必要時、1次冷間圧延と中間焼鈍後に2次冷間圧延することができ、最終圧下率は50~95%の範囲とすることができる。
その次に、冷延板を最終焼鈍する。冷延板を焼鈍する工程で、焼鈍温度は通常無方向性電磁鋼板に適用される温度であれば大きく制限はない。無方向性電磁鋼板の鉄損は結晶粒大きさと密接に関連するので900~1100℃であれば適当である。温度が過度に低い場合、結晶粒が過度に微細で履歴損失が増加し、温度が過度に高い場合は結晶粒が過度に粗大で渦流損が増加して鉄損が劣位となることがある。
【0051】
本発明の一実施形態で、最終焼鈍時、Si、Al成分と焼鈍炉内水素雰囲気(H2)が10×([Si]+1000×[Al])-[H2]≦90を満足することができる。前述の水素雰囲気で焼鈍することによって、Si酸化物を含む濃化層が適切な深さで生成され、濃化層内にAlが含まれないようにすることができる。このような濃化層は磁性向上に寄与し得る。
最終焼鈍後、絶縁被膜を形成することができる。前記絶縁被膜は有機質、無機質および有機-無機複合被膜で処理でき、その他の絶縁の可能な被膜剤で処理することも可能である。
以下では実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。しかし、このような実施例は単に本発明を例示するためのものであり、本発明がここに限定されるのではない。
【実施例1】
【0052】
下記表1に整理された合金成分および残部Feおよび不可避的な不純物からなるスラブを製造した。スラブを1150℃で加熱し、2.5mmの厚さで熱間圧延した後に巻き取った。巻取られた熱延鋼板を熱延板焼鈍なく酸洗した後、0.50mm厚さで冷間圧延し、最終的に冷延板焼鈍を実施した。この時、冷延板焼鈍時雰囲気は10×([Si]+1000×[Al])-[H2]≦90の関係式を満足するように制御し、焼鈍温度は900~950℃間で実施した。
それぞれの試片に対して最終焼鈍後に介在物分布を測定し、鉄損(W15/50)と磁束密度(B50)も測定してその結果を下記表2に示した。
鉄損(W15/50)は、50Hz周波数で1.5Teslaの磁束密度が誘起された時の圧延方向と圧延方向垂直方向の平均損失(W/kg)である。
磁束密度(B50)は、5000A/mの磁場を付加した時に誘導される磁束密度の大きさ(Tesla)である。
MnSSRT/MnSMaxの測定方法として、MnSSRT1時間以上を再加熱温度(SRT)で維持する条件で到達できる分率に測定し、商用熱力学プログラムを用いて計算した。
【0053】
【0054】
表1および表2に示したとおり、本発明の一実施形態で提案する合金成分および製造工程を全て満足するA1、A2、A3、A6、A7、A10、A12は(Mn、Cu)S硫化物が適切に析出されて、磁性に優れるのを確認することができる。
反面、A4は式1値を満足せず、磁性が劣位であるのを確認することができる。
A5はMn含量および式1値を満足せず、スラブ加熱時、MnSSRT/MnSMax≧0.6以上を満足しなかった。その結果、硫化物が適切に析出されず、磁性が劣位であるのを確認することができる。
A8はAlが成分添加量を満足せず、その結果、磁性が劣位であるのを確認することができる。
A9は式1値を満足せず、スラブ加熱時、MnSSRT/MnSMax≧0.6以上を満足しなかった。その結果、硫化物が適切に析出されず、磁性が劣位であるのを確認することができる。
A11はMn含量および式1を満足しなかった。その結果、硫化物が適切に析出されず、磁性が劣位であるのを確認することができる。
A13はAl含量および式1を満足しなかった。その結果、磁性が劣位であるのを確認することができる。
【実施例2】
【0055】
下記表3で整理された合金成分および残部Feおよび不可避的な不純物からなるスラブを製造した。スラブを1100~1250℃で加熱し、2.7mmの厚さで熱間圧延した後に巻き取った。スラブ加熱時、オーステナイト単相での維持時間を下記表4のように変更しながら維持時間の影響も見ようとした。巻取られた熱延鋼板は熱延板焼鈍なく酸洗した後、0.50mm厚さで冷間圧延し、最終的に冷延板焼鈍を実施した。この時、10×([Si]+1000×[Al])-[H2]≦90の関係式を満足する雰囲気で焼鈍し、温度は900~950℃の間で実施した。
それぞれの試片に対して最終焼鈍後、介在物個数および分布を測定し、鉄損(W15/50)と磁束密度(B50)も測定して、その結果を下記表5に示した。
【0056】
【0057】
表3~表5に示したとおり、本発明の一実施形態で提案する合金成分および製造工程を全て満足するB1、B3、B4、B7、B8、B12、B13は(Mn、Cu)S硫化物が適切に析出されて、磁性が優れるのを確認することができる。
反面、B2はスラブ加熱中、MnSSRT/MnSMax≧0.6を満足しなかった。その結果、硫化物が適切に析出されず、磁性が劣位であるのを確認することができる。
B5は式1およびMnSSRT/MnSMax≧0.6を満足しなかった。その結果、硫化物が適切に析出されず、磁性が劣位であるのを確認することができる。
【0058】
B6はスラブ加熱中、MnSSRT/MnSMax≧0.6およびオーステナイト単相維持時間を満足しなかった。その結果、硫化物が適切に析出されず、磁性が劣位であるのを確認することができる。
B9はスラブ加熱中、オーステナイト単相維持時間を満足しなかった。その結果、硫化物が適切に析出されず、磁性が劣位であるのを確認することができる。
B10はスラブ加熱温度が低かった。その結果、硫化物が適切に析出されず、磁性が劣位であるのを確認することができる。
B11はスラブ加熱温度が低く、オーステナイト単相維持時間を満足しなかった。その結果、硫化物が適切に析出されず、磁性が劣位であるのを確認することができる。
B14はスラブ加熱時オーステナイト単相(γ)領域でないオーステナイト(γ)/フェライト(α)以上領域で熱処理されることによって磁性が劣位なように示された。
【実施例3】
【0059】
重量%で、C:0.0023%、Si:2%、Mn:0.7%、P:0.02%、S:0.0017%、Al:0.009%、N:0.002%、Ti:0.001%、Sn:0.01%、Cu:0.01%と残部はFeおよびその他の不純物からなるスラブを製造した。スラブを1180℃で加熱し、2.6mmの厚さで熱間圧延した後、巻き取った。酸洗および冷間圧延を経て巻取られた熱延鋼板は熱延板焼鈍なく酸洗した後、0.50mm厚さで冷間圧延し、最終的に冷延板焼鈍を実施した。冷延板焼鈍温度は900~950℃の間で実施し、この時、焼鈍炉内の水素雰囲気を変えて10×([Si]+1000×[Al])-[H2]≦90の関係式が表面酸化層形成および磁性に及ぼす影響を見ようとした。
Al酸化層の厚さは表面からAlおよびOが主成分である領域の厚さを、Si濃化層は表面からSiが3重量%以上である領域の厚さを示す。
【0060】
【表6】
表6に示したとおり、最終焼鈍の水素雰囲気を適切に制御した発明例は表面にAlが濃化されず、またSi濃化層が適切な厚さで形成され磁性に優れるのを確認することができる。反面、最終焼鈍の水素雰囲気を適切に制御しなかった比較例は表面にSiでないAlが濃化されて、磁性が劣化するのを確認することができる。
【実施例4】
【0061】
重量%で、C:0.0023%、Si:2%、Mn:0.7%、P:0.02%、S:0.0017%、N:0.002%、Ti:0.001%、Sn:0.01%、Cu:0.01%と下記表5のAl含量と残部Feおよびその他の不純物からなるスラブを製造した。スラブを1180℃で再加熱した後、2.6mmの厚さで熱間圧延した後、巻き取った。酸洗および冷間圧延を経て巻取られた熱延鋼板は熱延板焼鈍なく酸洗した後、0.50mm厚さで冷間圧延し、最終的に冷延板焼鈍を実施した。冷延板焼鈍温度は900~950℃の間で実施し、この時、焼鈍炉内の水素雰囲気を変えてAl添加量の変化による10×([Si]+1000×[Al])-[H2]≦90の関係式が表面酸化層形成および磁性に及ぼす影響を見ようとした。
それぞれの試片に対して、SEMおよびTEMを用いて酸化層およびその厚さを測定し、鉄損(W15/50)と磁束密度(B50)も測定して、その結果を下記表7に示した。
【0062】
【表7】
表7に示したとおり、本発明の一実施形態で提案する合金成分および最終焼鈍雰囲気を全て満足する発明例は表面にAlが濃化されず、またSi濃化層が適切な厚さで形成され磁性に優れるのを確認することができる。
反面、合金組成を満足しないか、最終焼鈍雰囲気が制御されていない比較例は表面にSiでないAlが濃化されるかSi濃化層の厚さが厚くなって、磁性が劣化するのを確認することができる。
【実施例5】
【0063】
下記表8で整理された合金成分および残部Feおよび不可避的な不純物からなるスラブを製造した。スラブを1150℃で加熱し、2.6mmの厚さで熱間圧延した後、巻き取った。仕上圧延入側温度FETを表9のように変化させてFETの影響を見ようとし、仕上圧延の圧下率は87%、仕上圧延中前段圧下率は73%にして熱間圧延を行った。熱間圧延後に巻取られた熱延鋼板は熱延板焼鈍なく酸洗した後、0.50mm厚さで冷間圧延し、最終的に冷延板焼鈍を実施した。この時、冷延板焼鈍温度は900~950℃の間で実施した。
Intensity(max、HBA)を求めるために同一合金組成および工程中熱延板焼鈍工程を追加してIntensity(max、HBA)を測定した。
最終焼鈍後、EBSDを活用して集合組織を測定し、鉄損(W15/50)と磁束密度(B50)も測定して、その結果を下記表10に示した。
【0064】
【0065】
表8~表10に示したとおり、本発明の一実施形態で提案する合金成分および仕上圧延開始温度を全て満足するC2、C4、C5、C8、C9、C11、C13は最終焼鈍後に集合組織が適切に形成され、Intensity(max、HB)/Intensity(max、HBA)も小さく形成されるのを確認することができる。
反面、C1は式1を満足せず、仕上圧延開始温度も適切に制御しなかった。したがって、集合組織が適切に形成されず、Intensity(max、HB)/Intensity(max、HBA)も大きな値を示した。結果的に、磁性が劣化した。
C3はMn含量および式1を満足しなかった。したがって、集合組織が適切に形成されず、Intensity(max、HB)/Intensity(max、HBA)も大きな値を示した。結果的に、磁性が劣化した。
C6はS含量および仕上圧延開始温度も適切に制御しなかった。したがって、集合組織が適切に形成されず、Intensity(max、HB)/Intensity(max、HBA)も大きな値を示した。結果的に、磁性が劣化した。
C7はAl含量を満足しなかった。したがって、Intensity(max、HB)/Intensity(max、HBA)が大きな値を示した。結果的に、磁性が劣化した。
【0066】
C10は式1を満足しなく、仕上圧延開始温度も適切に制御しなかった。したがって、集合組織が適切に形成されず、Intensity(max、HB)/Intensity(max、HBA)も大きな値を示した。結果的に、磁性が劣化した。
C12はMn含量および式1を満足しなく、仕上圧延開始温度も適切に制御しなかった。したがって、集合組織が適切に形成されず、Intensity(max、HB)/Intensity(max、HBA)も大きな値を示した。結果的に、磁性が劣化した。
C14は仕上圧延開始温度も適切に制御しなかった。したがって、集合組織が適切に形成されず、Intensity(max、HB)/Intensity(max、HBA)も大きな値を示した。結果的に、磁性が劣化した。
【実施例6】
【0067】
下記表11で整理された合金成分および残部Feおよび不可避的な不純物からなるスラブを製造した。スラブは1100~1250℃で加熱し、2.7mmの厚さで熱間圧延した後、巻き取った。鋼種別に仕上圧延開始温度FETを下記表12のように変化させ、仕上圧延の圧下率および仕上圧延中前段圧下率も下記表12のように変化させて熱間圧延を行った。熱間圧延後に巻取られた熱延鋼板は熱延板焼鈍なく酸洗した後、0.50mm厚さで冷間圧延し、最終的に冷延板焼鈍を実施した。この時、冷延板焼鈍温度は900~950℃の間で実施した。
Intensity(max、HBA)を求めるために同一合金組成および工程中熱延板焼鈍工程を追加してIntensity(max、HBA)を測定した。
最終焼鈍後、EBSDを活用して集合組織を測定し、鉄損(W15/50)と磁束密度(B50)も測定して、その結果を下記表13に示した。
【0068】
【0069】
表11~表13に示したとおり、本発明の一実施形態で提案する合金成分および仕上圧延圧下率、前段圧下率および開始温度を全て満足するD1、D2、D5、D7、D9、D11、D13は最終焼鈍後に集合組織が適切に形成され、Intensity(max、HB)/Intensity(max、HBA)も小さく形成されるのを確認することができる。
反面、D3は仕上圧延圧下率、前段圧下率および開始温度を満足しなかった。したがって、集合組織が適切に形成されず、Intensity(max、HB)/Intensity(max、HBA)も大きな値を示した。結果的に、磁性が劣化した。
D4は前段圧下率を満足しなかった。したがって、集合組織が適切に形成されず、Intensity(max、HB)/Intensity(max、HBA)も大きな値を示した。結果的に、磁性が劣化した。
【0070】
D6は仕上圧延圧下率および開始温度を満足しなかった。したがって、集合組織が適切に形成されず、Intensity(max、HB)/Intensity(max、HBA)も大きな値を示した。結果的に、磁性が劣化した。
D8は式1、仕上圧延圧下率および開始温度を満足しなかった。したがって、集合組織が適切に形成されず、Intensity(max、HB)/Intensity(max、HBA)も大きな値を示した。結果的に、磁性が劣化した。
D10は仕上圧延圧下率、前段圧下率を満足しなかった。したがって、集合組織が適切に形成されず、Intensity(max、HB)/Intensity(max、HBA)も大きな値を示した。結果的に、磁性が劣化した。
D12は仕上圧延開始温度および仕上圧延前段圧下率を満足しなかった。したがって、集合組織が適切に形成されず、Intensity(max、HB)/Intensity(max、HBA)も大きな値を示した。結果的に、磁性が劣化した。
D14は仕上圧延開始温度および仕上圧延圧下率を満足しなかった。したがって、集合組織が適切に形成されず、Intensity(max、HB)/Intensity(max、HBA)も大きな値を示した。結果的に、磁性が劣化した。
【実施例7】
【0071】
下記表14で整理された合金成分および残部はFeおよび不可避的な不純物からなるスラブを製造した。スラブを1200℃で加熱し、2.7mmの厚さで熱間圧延した後、巻き取った。仕上圧延終了温度の偏差および巻取温度を下記表15のように調節した。熱間圧延後に巻取られた熱延鋼板は熱延板焼鈍なく酸洗した後、0.50mm厚さで冷間圧延し、最終的に冷延板焼鈍を実施した。この時、冷延板焼鈍温度は900~950℃の間で実施した。
それぞれの試片に対して最終焼鈍後、微細組織を分析して平均結晶粒粒径と結晶粒粒径による面積分布を測定し、鉄損(W15/50)と磁束密度(B50)も測定して、その結果を下記表16に示した。
【0072】
【0073】
表14~表16に示したとおり、本発明の一実施形態で提案する合金成分および仕上圧延終了温度偏差、巻取温度を全て満足するE1、E2、E4、E6、E9、E12、E13は、最終焼鈍後、結晶粒粒径および分布が適切に形成されるのを確認することができる。
反面、E3はMn含量および式1を満足せず、仕上圧延終了温度偏差を満足しなかった。したがって、結晶粒粒径および分布が適切に形成されなかった。結果的に、磁性が劣位であるのを確認することができる。
E5は式1および巻取温度を満足しなかった。したがって、結晶粒粒径および分布が適切に形成されなかった。結果的に、磁性が劣位であるのを確認することができる。
【0074】
E7はAl含量を満足しなかった。したがって、結晶粒粒径および分布が適切に形成されなかった。結果的に、磁性が劣位であるのを確認することができる。
E8は式1および仕上圧延終了温度偏差を満足しなかった。したがって、結晶粒粒径および分布が適切に形成されなかった。結果的に、磁性が劣位であるのを確認することができる。
E10はMn含量、式1を満足せず、仕上圧延終了温度偏差を満足しなかった。したがって、結晶粒粒径および分布が適切に形成されなかった。結果的に、磁性が劣位であるのを確認することができる。
E11はS含量を満足しなかった。したがって、結晶粒粒径および分布が適切に形成されなかった。結果的に、磁性が劣位であるのを確認することができる。
E14は仕上圧延終了温度偏差を満足しなかった。したがって、結晶粒粒径および分布が適切に形成されなかった。結果的に、磁性が劣位であるのを確認することができる。
【0075】
実施例8
下記表17で整理された合金成分および残部Feおよび不可避的な不純物からなるスラブを製造した。スラブを1100~1200℃で加熱し、2.8mmの厚さで熱間圧延した後、巻き取った。仕上圧延終了温度の偏差および巻取温度を下記表18のように調節した。熱間圧延後に巻取られた熱延鋼板は熱延板焼鈍なく酸洗した後、0.50mm厚さで冷間圧延し、最終的に冷延板焼鈍を実施した。この時、冷延板焼鈍温度は900~950℃の間で実施した。
それぞれの試片に対して熱間圧延後、微細組織を分析してcenter部位とsurface部位の結晶粒大きさを測定し、再結晶された分率も測定して、下記表18に整理した。また、最終焼鈍後、微細組織を分析して平均結晶粒大きさと、結晶粒大きさによる面積分布を測定し、鉄損(W15/50)と磁束密度(B50)も測定して、その結果を下記表19に示した。
【0076】
【0077】
表17~表19に示したとおり、本発明の一実施形態で提案する合金成分および仕上圧延終了温度偏差、巻取温度を全て満足するF2、F3、F6、F7、F8、F11、F12は熱延板の微細組織が適切に形成され、また、最終焼鈍後に結晶粒粒径および分布が適切に形成されるのを確認することができる。
反面、F1は仕上圧延終了温度偏差を満足しなかった。したがって、熱延板微細組織および結晶粒粒径および分布が適切に形成されなかった。結果的に、磁性が劣位であるのを確認することができる。
F4は仕上圧延終了温度偏差を満足しなかった。したがって、熱延板微細組織および結晶粒粒径および分布が適切に形成されなかった。結果的に、磁性が劣位であるのを確認することができる。
F5は巻取温度を満足しなかった。したがって、熱延板微細組織および結晶粒粒径および分布が適切に形成されなかった。結果的に、磁性が劣位であるのを確認することができる。
【0078】
F9は式1、仕上圧延終了温度偏差および巻取温度を満足しなかった。したがって、熱延板微細組織および結晶粒粒径および分布が適切に形成されなかった。結果的に、磁性が劣位であるのを確認することができる。
F10は仕上圧延終了温度偏差を満足しなかった。したがって、熱延板微細組織および結晶粒粒径および分布が適切に形成されなかった。結果的に、磁性が劣位であるのを確認することができる。
F13は仕上圧延終了温度偏差および巻取温度を満足しなかった。したがって、熱延板微細組織および結晶粒粒径および分布が適切に形成されなかった。結果的に、磁性が劣位であるのを確認することができる。
【0079】
本発明は実施例に限定されるわけではなく、互いに異なる多様な形態に製造でき、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は本発明の技術的思想や必須の特徴を変更することなく他の具体的な形態に実施できるということが理解できるはずである。したがって、以上で記述した実施例はすべての面で例示的なものであり限定的ではないと理解しなければならない。
【手続補正書】
【提出日】2021-06-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.005%以下(0%を除外する)、Si:0.5~2.4%、Mn:0.4~1.0%、S:0.005%以下(0%を除外する)、Al:0.01%以下(0%を除外する)、N:0.005%以下(0%を除外する)、Ti:0.005%以下(0%を除外する)、Cu:0.001~0.02%含み、残部はFeおよび不可避的な不純物からなり、
鋼板中の{111}面が圧延面となす角度が15°以下である結晶粒の体積分率が27%以上であることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
【請求項2】
下記式1を満足することを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板
[式1]
0.19≦[Mn]/([Si]+150×[Al])≦0.35
(式1中、[Mn]、[Si]および[Al]はそれぞれ、Mn、SiおよびAlの含量(重量%)を示す。
【請求項3】
鋼板中の{111}面が圧延面となす角度が15°以下である結晶粒の体積分率が27%~35%であることを特徴とする請求項1
又は2に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項4】
Si酸化物を含む濃化層が表面から0.15μm以下の深さ範囲に存在することを特徴とする請求項1
又は2に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項5】
前記濃化層は
重量%で、Si:3%以上、O:5%以上、Al:0.5%以下含むことを特徴とする請求項
4に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項6】
硫化物を含み、直径0.5μm以下の硫化物のうちの直径0.05μm以上の硫化物の個数率(F
count)および直径0.5μm以下の硫化物のうちの直径0.05μm以上の硫化物の面積率(F
area)の積(F
count×F
area)が0.15以上であることを特徴とする請求項1
乃至5のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項7】
硫化物を含み、直径0.5μm以下の硫化物のうちの直径0.05μm以上の硫化物の個数率(F
count)が0.2以上であることを特徴とする請求項1
乃至6のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項8】
直径0.5μm以下の硫化物のうちの直径0.05μm以上の硫化物の面積率(F
area)が0.5以上であることを特徴とする請求項1
乃至7のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項9】
0.9≦(V
cube+V
goss+V
r-cube)/Intensity
max≦2.5を満足することを特徴とする請求項1
乃至7のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
(但し、V
cube、V
goss、V
r-cubeはそれぞれcube、goss、rotated cube集合組織の体積%であり、Intensity
maxはODF image(Φ2=45度section)上に現れる最大強度値を示す。)
【請求項10】
YP/TS≧0.7を満足することを特徴とする請求項1
乃至9のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
(但し、YPは降伏強度、TSは引張強度を示す。)
【請求項11】
平均結晶粒粒径の0.3倍以下である微小結晶粒の面積比が0.4%以下であり、平均結晶粒粒径の2倍以上である粗大結晶粒の面積比が40%以下であることを特徴とする請求項1
乃至10のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項12】
平均結晶粒粒径は50~100μmであることを特徴とする請求項1
乃至11のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項13】
重量%で、C:0.005%以下(0%を除外する)、Si:0.5~2.4%、Mn:0.4~1.0%、S:0.005%以下(0%を除外する)、Al:0.01%以下(0%を除外する)、N:0.005%以下(0%を除外する)、Ti:0.005%以下(0%を除外する)、Cu:0.001~0.02%含み、
残部はFeおよび不可避的な不純物からなるスラブを加熱する段階、
スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、
前記熱延板を熱延板焼鈍なく、冷間圧延して冷延板を製造する段階、および
前記冷延板を最終焼鈍する段階を含み、
製造された鋼板の{111}面が圧延面となす角度が15°以下である結晶粒の体積分率が27%以上であることを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項14】
最終焼鈍時、Si、Al成分と焼鈍炉内水素雰囲気(H
2)が10×([Si]+1000×[Al])-[H
2]≦90を満足することを特徴とする請求項
13に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
(但し、[Si]、[Al]はそれぞれSiおよびAlの含量(重量%)を示し、[H2]は焼鈍炉内水素の体積分率(体積%)を示す。)
【請求項15】
スラブを加熱する段階でMnSの平衡析出量(MnS
SRT)およびMnSの最大析出量(MnS
Max)が下記式を満足することを特徴とする請求項
13又は14に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
MnS
SRT/MnS
Max≧0.6
【請求項16】
スラブを加熱する段階で、オーステナイトがフェライトに100%変態する平衡温度をA1(℃)という時、スラブ加熱温度SRT(℃)とA1温度(℃)が下記関係を満足することを特徴とする請求項
13乃至15のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
SRT≧A1+150℃
【請求項17】
スラブを加熱する段階で、オーステナイト単相領域で1時間以上維持することを特徴とする請求項
13乃至16のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項18】
前記熱間圧延する段階は粗圧延および仕上圧延段階を含み、仕上圧延開始温度(FET)が下記関係を満足することを特徴とする請求項
13乃至17のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
Ae1≦FET≦(2×Ae3+Ae1)/3
(但し、Ae1はオーステナイトがフェライトに完全に変態する温度(℃)、Ae3はオーステナイトがフェライトに変態し始める温度(℃)、FETは仕上圧延開始温度(℃)を示す。)
【請求項19】
前記熱間圧延する段階は粗圧延および仕上圧延段階を含み、
仕上圧延の圧下率が85%以上であることを特徴とする請求項
13乃至18のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項20】
前記熱間圧延する段階は粗圧延および仕上圧延段階を含み、
仕上圧延前段での圧下率が70%以上であることを特徴とする請求項
13乃至19のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項21】
前記熱間圧延する段階は粗圧延および仕上圧延段階を含み、
熱延板全体長さで仕上圧延終了温度(FDT)の偏差が30℃以下であることを特徴とする請求項
13乃至20のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項22】
前記熱間圧延する段階は粗圧延、仕上圧延および巻取段階を含み、
巻取段階での温度(CT)が下記関係を満足することを特徴とする請求項
13乃至21のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
0.55≦CT×[Si]/1000≦1.75
(但し、CTは巻取段階での温度(℃)を示し、[Si]はSiの含量(重量%)を示す。)
【請求項23】
熱延板の微細組織が下記関係を満足することを特徴とする請求項
13乃至22のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
GS
center/GS
surface≧1.15
(但し、GS
centerは厚さ方向に1/4~3/4t部分の結晶粒平均粒径を示し、GS
surfaceは表面~1/4t部分の結晶粒平均粒径を示す。)
【請求項24】
熱延板の微細組織が下記関係を満足することを特徴とする請求項
13乃至23のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
(GS
center×再結晶率)/10≧2
(但し、GS
centerは厚さ方向に1/4~3/4t部分の結晶粒平均粒径を示し、再結晶率は熱間圧延後再結晶された結晶粒の面積分率を示す。)
【国際調査報告】