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特表2022-514813動脈の脈波伝播速度を測定するシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-16
(54)【発明の名称】動脈の脈波伝播速度を測定するシステム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/0215 20060101AFI20220208BHJP
   A61B 5/02 20060101ALI20220208BHJP
   A61B 5/352 20210101ALI20220208BHJP
   A61B 5/33 20210101ALI20220208BHJP
【FI】
A61B5/0215 B
A61B5/02 310V
A61B5/352
A61B5/33 200
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021525328
(86)(22)【出願日】2019-10-31
(85)【翻訳文提出日】2021-07-02
(86)【国際出願番号】 EP2019079914
(87)【国際公開番号】W WO2020094509
(87)【国際公開日】2020-05-14
(31)【優先権主張番号】18205481.7
(32)【優先日】2018-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511171866
【氏名又は名称】オスピス シヴィル ドゥ リヨン
(71)【出願人】
【識別番号】596096180
【氏名又は名称】ユニベルシテ・クロード・ベルナール・リヨン・プルミエ
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】500025477
【氏名又は名称】アンスティテュ、ナショナル、ド、ラ、サント、エ、ド、ラ、ルシェルシュ、メディカル(アンセルム)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE LA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICAL (INSERM)
(71)【出願人】
【識別番号】517217597
【氏名又は名称】ユニベルシテ ジャン モネ サン テティエンヌ
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】ランテルメ ピエール
(72)【発明者】
【氏名】シヴィドゥジャン アンドレイ
(72)【発明者】
【氏名】ハルバウィ ブラヒム
【テーマコード(参考)】
4C017
4C127
【Fターム(参考)】
4C017AA08
4C017AA09
4C017AA19
4C017AB10
4C017AC16
4C017BC11
4C017BD04
4C017EE01
4C017FF05
4C127AA02
4C127BB05
4C127GG02
(57)【要約】
本発明は、脈波伝播速度を測定するためのシステムであって、以下の構成を有するものに関する:-動脈(12、13、14、15)の近位血圧信号を受信し、さらにその遠位血圧信号を受信するためのインターフェース(41);-以下のように構成された処理装置(42);-前記近位信号の拡張期血圧と収縮期血圧の間の近位立ち上がり点を決定し;-前記近位立ち上がり点の前に近位圧力ピークを決定し;-遠位信号の拡張期血圧と収縮期血圧の間の遠位立ち上がり点を決定し;-前記遠位立ち上がり点の前に遠位圧力ピークを決定し;前記遠位圧力ピークが前記近位圧力ピークよりも位相が進んでいることを決定し;-後退する脈波の伝播速度を遠位圧力ピークの先行する先行する位相の関数として決定する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脈波伝播速度判定システム(4)であって、以下を備え:
-動脈(12、13、14、15)の近位血圧信号を受信し、さらにその動脈の遠位血圧信号を受信するための受信インターフェース(41);
-以下のように構成された処理装置(42);
-前記近位血圧信号の拡張期血圧と収縮期血圧の間の近位立ち上がり点を決定し;
-前記近位立ち上がり点の前に近位圧力ピークを決定し;
-前記遠位血圧信号の拡張期血圧と収縮期血圧の間の遠位立ち上がり点を決定する;
処理装置(42)がさらに以下の通り構成されている:
-前記遠位立ち上がり点の前に遠位圧力ピークを決定し、前記遠位圧力ピークが前記近位圧力ピークよりも位相が進んでいることを決定し;
-近位圧力ピークに対する遠位圧力ピークの先行する位相(l'avance de phase)の関数として、後退脈波の伝播速度を決定する、
システム。
【請求項2】
前記受信インターフェース(41)が、近位血圧信号及び遠位血圧信号の時間基準を受信するように構成されており、前記処理装置(42)が、遠位圧力ピークと近位圧力ピークとの間の時間差の関数として後退脈波の伝播速度を決定するように構成されている、
請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記受信インターフェース(41)が、前記動脈に接続された心臓の等容性心収縮及び大動脈弁開度から選択されるタイミングイベントの時間的指標を受信するように構成されている、
請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項4】
前記受信インターフェース(41)が、前記動脈に接続された心臓からの心電図信号、音声信号、又は画像信号を受信するように構成されていることを特徴とする、
請求項1~3のいずれかに記載のシステム。
【請求項5】
前記受信インターフェース(41)は、圧力センサー(31,32)の位置を受信するようにさらに構成されており、処理装置(42)は、後退波が消滅する圧力センサーの基準位置を決定するように構成されていることを特徴とする、
請求項1~4のいずれかに記載のシステム。
【請求項6】
前記処理装置(42)が、遠位圧力ピークの大きさを決定するようにさらに構成されている、
請求項1~5のいずれかに記載のシステム。
【請求項7】
処理装置(42)は、遠位圧力スパイクの振幅が所定の閾値を超えたときに、遠位圧力スパイクの存在を判定することを特徴とする、
請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記処理装置が、遠位圧力ピークの振幅と遠位立ち上がり点との比を計算するようにさらに構成されている、請求項6又は7に記載のシステム。
【請求項9】
前記処理装置(42)が以下のように構成されている:
-近位血圧信号と遠位血圧信号のそれぞれの拡張期圧力低下フェーズを特定し;
-識別された拡張期圧力低下フェーズと、遠位及び近位圧力立ち上がり点のそれぞれの接線との間の交点を決定することにより、遠位及び近位圧力立ち上がり点の開始を識別する、
請求項1~8のいずれかに記載のシステム。
【請求項10】
前記処理装置(42)が以下のように構成されている:
-近位血圧信号と遠位血圧信号のそれぞれの拡張期圧力低下フェーズを特定すること。
-識別された拡張期圧力降下相と、遠位及び近位圧力ピークのそれぞれの接線との間の交点を決定することにより、遠位及び近位圧力ピークの開始を識別すること
請求項1~9のいずれかに記載のシステム。
【請求項11】
前記受信インターフェース(41)が、近位血圧測定位置と遠位血圧測定位置との間の距離の値を取得するように構成されており、前記処理装置(42)が、取得された距離の値に基づいて前記後退脈波の伝播速度を決定するように構成されていることを特徴とする、
請求項1~10のいずれかに記載のシステム。
【請求項12】
細長いFFRガイドワイヤ(3)をさらに備え、ガイドワイヤ(3)の長さに沿って所定の距離だけオフセットされた2つの圧力センサー(31,32)を有し、前記2つの圧力センサーは、前記受信インターフェース(41)に接続され、前記受信インターフェースは、前記圧力センサーのそれぞれの信号をサンプリングするための回路を備える、
請求項1~11のいずれかに記載のシステム。
【請求項13】
前記受信インターフェース(41)は、動脈内の前記圧力センサーの位置情報を受信するように構成され、前記処理装置(42)は、前記決定された基準位置から遠い前記センサーの複数の位置に対する後退脈波伝播速度を記憶するように構成され、前記処理装置(42)は、前記決定された基準位置から最も遠い前記センサーの位置に対する後退脈波伝播速度を選択するように構成されている、
請求項5及び12の組み合わせに係るシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動脈の病理を研究するための支援システム、例えば、冠状動脈内のアテローム性プラークの破裂のリスクを予測するためのシステムに関するものであり、冠状動脈造影検査中の患者の管理戦略を改善し、あるいは大動脈、腎動脈、肝動脈など、より一般的には、アテローム性プラークの破裂及び/又は血栓症のリスクがある動脈の病理を調べるためのものである。
【背景技術】
【0002】
動脈の石灰化は、動脈の硬化の原因であることが知られている。動脈硬化を推定するための様々な技術が知られている:脈圧の測定、動脈石灰化の推定、脈波伝播速度、この最後の技術が最も使用されている。例えば、さまざまな手法で測定された大動脈硬化は、心血管疾患の予測を向上させる指標であることが研究により確認されている。プラークの破裂が原因と思われる急性冠症候群の患者では、冠状動脈内の脈波伝播速度がそれ以外の患者に比べて低いことが医学的研究で明らかになった。
【0003】
大動脈の脈波伝播速度を測定するシステムがあり、それによって対応する研究を行うことができるが、冠状動脈の脈波伝播速度を正確に測定することはまだ困難である。そのため、医師は冠状動脈の脈波伝播速度を測定することが難しく、その結果、冠状動脈の硬さが冠状動脈病変の経過に与える影響(急性血栓症のリスクなど)を判断することができない。一方、大動脈の脈波伝播速度を測定するだけでは、冠状動脈の病態を正確に把握することはできない。特に、大動脈脈波伝播速度の測定は、冠状動脈内プラークの破裂のリスクを予測するものではない。
【0004】
2007年8月23日~26日にフランスのシテ・アンテルナショナル・ド・リヨンで開催された会議に関する「Proceedings of the 29th Annual International Conference of the IEEE EMBS」の975~977ページに掲載されたMessrs Taewoo Namらの論文「A Coronary Pulse Wave Velocity Measurement System」には、手計算のみで冠状動脈脈波速度を算出する方法の一例が実験的に記載されている。
【0005】
論文「Development of Coronary Pulse Wave Velocity: Brahim HARBAOUIらがJournal of American heart association, volume 6 No.2, February 2, 2017の1-11ページに掲載された「New Pathophysiological Insight Into Coronary Artery Disease」には、冠状動脈の近位血圧信号とその冠状動脈の遠位血圧信号の、拡張期と収縮期の間のそれぞれの立ち上がり点(front montant)を分離する持続時間に基づいて、冠状動脈脈波速度を決定する方法が記載されている。本書では、立ち上がり点の識別精度を向上させる方法を提案している。特に、遠位の立ち上がり点は、遠位の立ち下がり点からのオフセットによって識別される。
【0006】
欧州特許出願公開第3251591号明細書には、冠状動脈の近位血圧信号とその冠状動脈の遠位血圧信号のそれぞれの拡張期及び収縮期の圧力立ち上がり点の間の時間に基づいて、冠状動脈脈波速度を決定する方法が記載されている。本書では、立ち上がり点の識別精度を向上させる方法を提案している。特に、遠位の立ち上がり点は、遠位の立ち下がり点からのオフセットによって識別される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
実際には、血圧信号の立ち上がり点を識別することは困難である。実際、血圧のピークが、上昇する圧力の立ち上がり点より前に現れることがあるためである。このような圧力ピークが現れると、立ち上がり点の識別や動脈の脈波伝播速度の算出に支障をきたす。さらに、動脈硬化は圧縮段階と減圧段階の間で変化する可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、これらの欠点の1つ以上を解決することを目的としている。したがって、本発明は、請求項1に記載の脈波伝播速度を測定するシステムに関するものである。
【0009】
本発明は、従属請求項の変形例にも関するものである。当業者であれば、従属請求項の変形の各特徴は、中間的な一般化を構成することなく、独立した請求項の特徴と独立して組み合わせることができることを理解できるであろう。
【発明の効果】
【0010】
本発明のさらなる特徴及び利点は、限定ではなく例示として、添付の図面を参照しながら、以下の説明から明らかになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】心臓とその冠状動脈の概略図である。
【0012】
図2】狭窄を有する冠状動脈に挿入された本発明の一態様によるガイドワイヤーの断面図である。
【0013】
図3】本発明の一態様によるFFR(Fractional Flow Reserveの略であり冠状動脈予備能の測定を意味する)ガイドワイヤー装置の概略断面図である。
【0014】
図4】本発明の一態様による冠状動脈狭窄部の脈波伝播速度と虚血を判定するための信号処理システムの概略図である。
【0015】
図5】近位冠状動脈の圧力サイクルの一例を示す図である。
【0016】
図6】遠位冠状動脈の圧力サイクルの一例を示す図である。
【0017】
図7】近位冠状動脈圧と遠位冠状動脈圧の立ち上がり点の時間パラメータを示す。
【0018】
図8】近位冠状動脈圧と遠位冠状動脈圧の立ち上がり点の時間的パラメータを決定する例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者らは、拡張期圧力と収縮期圧力との間の立ち上がり点の前に測定された近位及び遠位の両方の冠状動脈内圧力信号において、圧力ピークが発生し得ることを発見した。本発明者らの解釈では、このような初期の圧力ピークは、血流の方向とは逆の方向(すなわち、遠位冠状動脈端から近位冠状動脈端に向かう方向)の後退波によるものである。このような血圧のスパイクは、体の他の部分や外部の物体など、動脈の外側からの圧力によるものである。後退波は、例えば、心臓の収縮時に心筋によって冠状動脈の遠位端が圧迫されることによって生じることがある。驚くべきことに、本発明者らは、このような初期の圧力スパイクの分析を利用して、冠状動脈の脈波伝播速度を決定できることを発見した。
【0020】
本発明は、識別された後退波の分析に基づいて、脈波伝播速度を数値的に算出するシステムを提供するものである。特に、本発明は、外側からの圧力によって圧力立ち上がり点を正確に検出できない可能性がある動脈脈波速度、特に冠状動脈脈波速度の計算に適用される。
【0021】
本発明により、正確かつ再現性のある脈波伝播速度の決定が可能となり、これにより、脈波の後退により血圧信号の立ち上がり点の分析能力が悪化した場合に、患者管理を決定するための施術者の判断が容易になる。さらに、冠状動脈の場合には、すでに臨床的に検証されているFFR指標のガイドワイヤー挿入手順と合わせて、本発明を実施することができる。
【0022】
図1は、人間の心臓1を模式的に表したものである。心臓につながっている大動脈11と、冠状動脈12~15を区別している。冠状動脈は、心臓の筋肉に酸素を含んだ血液を供給することを目的としている。特に、図1では、右冠状動脈12、後下行冠状動脈13、左回旋冠状動脈14、左前下行冠状動脈15が図示されている。ここでは、本発明を冠状動脈に適用した場合について説明するが、他の種類の動脈にも適用できる可能性がある。
【0023】
図2は、患者の冠状動脈脈波伝播速度を算出するための信号検索方法の一例を示す図である。FFRガイドワイヤー3は、その自由端が冠状動脈10内に位置するように挿入される。ここで、ガイドワイヤー3は、その自由端に2つの圧力センサー31、32を有している。遠位と近位という用語は、心臓からの血流に対する注目点の相対的な近さを意味する。圧力センサー31は、動脈10と毛細血管組織との接合部付近の血圧を測定するために、遠位の位置にある。圧力センサー32は近位にあり、動脈10と大動脈との接合部の近位で血圧を測定する。圧力センサー32は、ガイドワイヤー3の長さに沿って所定の距離Dmdだけ圧力センサー31からオフセットされている。ここに示す冠状動脈10は狭窄部20を有しており、圧力センサー31及び32は狭窄部20の両側に配置されている。
【0024】
図3は、本発明の実施に使用するのに適したガイドワイヤー3の2つの端部の概略断面図である。ガイドワイヤー3は、外側の収納シース(gaine)30内を公知の方法で摺動するワイヤー39で構成されている。ワイヤー39は、その構造を詳細に説明するために模式的にのみ図示されており、ワイヤー39は縮尺通りに描かれていない。ワイヤー39は可撓性であり、挿入される冠状動脈の形態に適応する。ワイヤー39は、中空の金属シース(fourreau metallique creux)33を含む。金属製のシース33は、合成素材のシース(gaine)34で覆われている。ワイヤー39は、その自由端にチップ35を有していることが好ましい。先端部35は、柔軟性があり、放射線不透過性であることが好ましい。ここでチップ35が金属製のシース33に取り付けられている。
【0025】
圧力センサー31は、ここではシース33の外周に取り付けられ、チップ35とシース34の間に配置されている。圧力センサー31は、遠位の血圧を測定するためのものである。圧力センサー31(それ自体は既知の構造)は、圧力信号伝送ケーブル又は光ファイバ311に接続されている。ケーブル311は、シース33に設けられたセンサー31との接続用の穴を通過する。ケーブル又は光ファイバ311は、シース33の内部ボア330を通って延びている。
【0026】
圧力センサー32は、ここでは、スリーブ33の周縁部に取り付けられ、シース34の2つの部分の間に配置されている。圧力センサー32は、近位部の血圧を測定するためのものである。圧力センサー32は、圧力信号送信ケーブル又は光ファイバ321に接続されている。ケーブル321は、センサー32に接続するためにシース33に設けられた穴を通過する。ケーブル又は光ファイバ321は、シース33の内部ボア330を通って延びている。
【0027】
ワイヤー39は、ここでは柔軟性があるが、実質的に非圧縮性又は非伸張性である。したがって、ここでのワイヤー39は、センサー31と32の間の距離Dmdを一定に保つ。センサー31と32の間の距離は、実際には、ワイヤー39に沿ったこれらのセンサー間の曲線的な距離に対応する。これらのセンサー31と32との間の距離は、少なくとも50mmであることが好ましく、これらのセンサー31と32との間の距離を十分に大きく(elevee)することで、脈波伝播速度の計算の精度が良好になる。さらにセンサー31と32の間の距離は200mm以下であることが好ましく、これによりガイドワイヤー3は標準的な長さのほとんどの冠状動脈で使用可能である。さらに、センサー31と32を所定の距離に維持したガイドワイヤー3を使用することで、冠状動脈内の2つの圧力測定箇所の間の距離(la distance entre deux mesures de pression)に関連する不正確さを排除することができる。
【0028】
その自由端の反対側で、ワイヤー39は、把持ハンドル36に取り付けられている。ここでは、シース33とシース34は、把持用ハンドル36に埋め込まれている。そのため、ハンドル36は、ワイヤー39を移動させることができる。この例では、ガイドワイヤー3は、測定された圧力信号を、無線インターフェースを介して処理システムに提供するように構成されている。ただし、ガイドワイヤー3が有線のインターフェースを介して処理システムと通信することも想定される。ここでは、デジタル化及び駆動用の回路38がハンドル36内に収容されている。ワイヤー39のケーブル又は光ファイバ311、321は、回路38に接続されている。回路38は、送信アンテナ37に接続されている。回路38は、センサー31及び32によって測定され、ケーブル又は光ファイバ311及び321によって提供される信号をデジタル化するように構成されている。また、回路38は、デジタル化された信号を、適切な通信プロトコルを用いて、アンテナ37を介して遠隔位置に送信するように構成されている。回路38への電力供給は、それ自体既知の方法であり、ここでは説明しない。
【0029】
シース34は、ワイヤー39の自由端では疎水性材料で作られていてもよく、自由端とハンドル36との間ではPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などの他の材料で作られていてもよい。
【0030】
保健当局によって使用が検証され、臨床ルーチンの一部となっているFFRガイドワイヤー3を使用することで、本発明によるシステム4を実質的に軽い臨床検証プロセスで使用することができる。
【0031】
ガイドワイヤー3は、信号処理システム4と通信している。ここでは、システム4は、ガイドワイヤー3との無線受信又は通信インターフェース41を構成している。しかしながら、ガイドワイヤー3が有線インターフェースを介して処理システム42と通信することも企図され得る。したがって、システム4は、アンテナ37によって通信される情報を受信するように構成された、受信インターフェース41を形成する受信アンテナを含む。受信アンテナ41は、例えばコンピュータなどの処理回路42に接続されている。システム4は、有線の通信インターフェース43を含む。インターフェース43は、例えば、処理回路42が算出した結果を表示画面5に表示するために用いられる。また、例えば処理回路42かガイドワイヤー3のいずれかにアンチエイリアシングフィルタ(anti-repliement)及びアナログ/デジタル変換器が組み込まれていてもよく、これにより処理回路42がデジタルの近位及び遠位冠状動脈血圧信号に対して処理を行える。
【0032】
図5は、近位冠状動脈血圧サイクルの一例を説明する図であり、図6は、遠位冠状動脈血圧サイクルの一例を説明する図である。破線の窓で示される圧縮段階では、動脈圧は拡張期の圧力値から収縮期の圧力値へと変化する。圧縮段階では、近位圧力は、圧力ピーク62に先行して立ち上がり点61を有する。圧力ピーク62は、立ち上がり点61の振幅よりも小さい振幅を有する(後者の振幅は、近位収縮期圧力から近位拡張期圧力を差し引いたものに等しい)。破線で示した減圧期には、近位動脈の圧力が収縮期の圧力値から低圧の圧力値へと変化し、ジクロット波の発生時期である大動脈弁の閉鎖時に極少値(nadir)となる。冠状動脈の遠位側では、圧縮段階において、遠位圧力は、圧力ピーク72に先行する立ち上がり点71を有する。圧力ピーク72は、上昇前面71の振幅よりも小さい振幅を有する(後者の振幅は、遠位収縮期圧力から遠位拡張期圧力を差し引いたものに等しい)。破線で示した減圧段階では、遠位動脈の圧力は収縮期の圧力値から低圧の圧力値へと変化し、ジクロット波が現れる大動脈弁の閉鎖時には極少値となる。
【0033】
図7は、近位冠状動脈血圧及び遠位冠状動脈血圧の立ち上がり点における時間的パラメータを示す。近位部(上の曲線)と遠位部(下の曲線)で測定した血圧信号に、時間的なパラメータが反映される。圧力ピーク72は時刻t1に開始し、圧力ピーク62は時刻t2に開始し、立ち上がり点61は時刻t3に開始し、立ち上がり点71は時刻t4に開始していることがわかる。時刻t1は時刻t2に値Δtbkだけ先行していることがわかる。時刻t3は時刻t4に値Δtfwだけ先行していることがわかる。
【0034】
図8は、血圧信号から、処理装置42によって実行され得る、時刻t1~t4への圧力曲線の外挿の例を示す。時刻t2は、例えば、拡張期の圧力低下を表す線(又は指数曲線、若しくは別の法則に従った曲線)(線63)と、ピーク62の圧力上昇に対応する線64との交点に対応する時刻として決定される。瞬間t3は、例えば、直線63と立ち上がり点61に対応する直線との交点に対応する瞬間として決定される。瞬間t1は、例えば、拡張期の圧力低下を表す直線(又は指数曲線、若しくは別の法則に従った曲線)(直線73)と、ピーク72の圧力上昇に対応する直線74との交点に対応する瞬間として決定される。瞬間t4は、例えば、直線73と立ち上がり点71に対応する直線との交点に対応する瞬間として決定される。遠位ピーク72は近位ピーク62よりも位相が進んでいるので、後退性冠状動脈脈波が実際に存在し、その速度はDmd/Δtbkに等しい。近位点(le front proximal)61と遠位点(le front distal)71との間の距離によって決定される進行性脈波の速度は、Dmd/Δtfwに等しい。本発明によれば、脈波伝播速度は、後退脈波に基づいている。
【0035】
健康な動物としてモルモット(麻酔をかけたもの)で行った研究では、ベースライン状態(自発的な血圧と心拍数)では、前進性脈波伝播速度と後退性脈波伝播速度が強い相関関係にあることがわかった(r2=0.83、n=10)。冠状動脈狭窄がある場合(血管内超音波法、IVUS法、IVUSはintravascular ultrasoundの頭字語である、で測定した動脈の断面積の約半分に相当する断面積を持つ血管形成用バルーンを近位と遠位の間で膨らませる)、後退脈波に基づく脈波伝播速度の算出は、前進脈波に基づく脈波伝播速度の算出よりも信頼性が高いことがわかった。また、前進脈波に対する後退脈波の振幅の比は、狭窄度が高いほど大きくなることがわかった。狭窄度が高いほど、前進波での脈拍数計算は歪み、後退波での脈拍数計算は正確になる。このように、本発明による脈波伝播速度計算システムの精度のレベルは、病態が深刻であるほどより正確であることが証明された。
【0036】
次に、脈波伝播速度判定システム4の動作について詳述する。受信インターフェース41は、後処理された、又はセンサー31及び32からの、動脈の近位血圧信号及び遠位血圧信号を受信するように構成されている。
【0037】
処理装置42は、それ自体既知の方法で、近位血圧信号の拡張期圧力と収縮期圧力との間の近位立ち上がり点を決定するように構成される。近位立ち上がり点は、近位拡張期血圧と近位収縮期血圧の間の近位圧力上昇に対応する。このように、処理装置42は、先に詳述した時間t3を決定するように構成されている。また、処理装置42は、それ自体既知の方法で、遠位血圧信号の拡張期血圧と収縮期血圧との間の遠位立ち上がり点を決定するように構成される。遠位立ち上がり点は、遠位拡張期血圧と遠位収縮期血圧の間の遠位圧力上昇に対応する。処理装置42は、このように、先に詳述した時間t4を決定するように構成されている。
【0038】
例えば、遠位圧及び/又は近位圧が、500Hzから5kHzの間の周波数でサンプリングされることが考えられる。サンプリング周波数が不足する場合は、サンプリング値を3次元スプラインなどで補い、その補った信号を最初のサンプリング周波数よりも高い周波数でリサンプリング(オーバーサンプリング)してもよい。例えば、サンプリング周波数が500Hzの場合、補間信号を2kHz以上の周波数でオーバーサンプリングすることが考えられる。
【0039】
また、処理装置42は、近位立ち上がり点61の前に、近位拡張期圧力低下段階の間に、近位圧力ピーク62を決定するように構成される。処理装置42は、このように、先に詳述した時間t2を決定するように構成されている。処理装置42は、遠位立ち上がり点71の前に、遠位拡張期圧力低下段階の間に、遠位圧力ピーク72を決定するようにさらに構成される。このように、処理装置42は、先に詳述した時間t1を決定するように構成されている。処理装置42は、対応する立ち上がり点の前に50msから100msの間の時間ウィンドウ内で圧力ピークを探すように構成されてもよい。
【0040】
また、処理装置42は、圧力ピークの大きさを決定するように構成されている。この時間窓内に複数の圧力ピークが特定された場合、処理装置42は、最も高い振幅を有する圧力ピークを選択する。圧力ピークの識別は、一定の閾値よりも大きな振幅を持つピーク、又は脈圧(収縮期血圧と拡張期血圧の差)の所定の割合よりも大きな振幅を持つピークを条件とすることができる。
【0041】
次に、処理装置42は、決定された近位圧力ピークに対する遠位圧力ピークの位相前進に基づいて、後退脈波の伝搬速度を決定する。特に、後退脈波の伝搬速度VOPrは、以下の関係を用いて求めてもよい。VOPr=(t2-t1)/Dmd。この関係は、近位血圧信号と遠位血圧信号のそれぞれについて、受信インターフェース41で受信した時間基準の操作(l'exploitation)に基づいている。
【0042】
距離Dmdは、センサー31,32間の所定の距離に対応する固定値(例えば、ガイドワイヤー3やシステム4に記憶されている値)であっても、圧力測定が順次実行される単一センサーの変位値であってもよく、距離Dmdだけ隔てた値であってもよい。あるいは、1つの圧力センサーを備えたFFRガイドワイヤーを使用し、施術者が対象となる動脈の遠位部と近位部の間であらかじめ定義された距離を移動させることも想定される。近位と遠位の圧力信号を解析する際には、この距離Dmdを考慮して脈波伝播速度を算出する。
【0043】
また、受信インターフェース41は、解析対象の動脈に接続された心臓について、等容性心収縮及び大動脈弁開度から選択されるタイミングイベントのタイミング指標を受信するように構成されてもよい。また、受信インターフェース41は、解析対象の動脈に接続された心臓の心電図信号、音声信号、又は画像信号を受信するように構成されていてもよい。このように、近位及び遠位の圧力信号が同時でない場合には、共通の基準信号又は患者の心臓の共通のタイミングイベントにタイミングを合わせることができる。
【0044】
処理装置42は、それぞれの立ち上がり点の前に圧力ピークを識別しない場合、例えば欧州特許出願公開第3251591号明細書に詳述されているように、前進性脈波に基づいて脈波速度計算を実施する。
【0045】
処理装置42は、動脈内の圧力測定位置の位置情報を受信するように構成されていることが好ましい。そして、処理装置42は、圧力センサーの基準位置を決定するように構成されてもよく、そこから後退波が現れたり消えたりする。なお、装置42は、基準位置から複数の位置の後退波速度を算出するように構成されていてもよい。なお、装置42は、基準位置から最も離れた位置について算出された後退波速度値を選択又は保持してもよい。
【0046】
処理装置42は、上述した方法以外の方法で、時間t3及びt4を決定してもよい。特に、処理装置42は、近位及び/又は遠位の圧力の1次導関数又は2次導関数を計算し、次に、その1次導関数又は2次導関数がそれぞれ正の閾値及び負の閾値を横切る時間を決定して、対応する点(le front correspondant)を識別してもよい。なお、処理装置42は、上述した方法以外の方法で時間t1、t2を決定してもよい。特に、処理装置42は、近位及び/又は遠位の圧力の1次又は2次導関数を計算し、次に、この1次又は2次導関数がそれぞれ正の閾値及び負の閾値を横切る瞬間を決定して、対応する圧力ピークを識別してもよい。
【0047】
有利には、回路42は、圧力ピークの存在及びその発生時間を決定する前に、心拍間の圧力の急激な変動を排除するために、ローパスフィルタリング(例えば、10~20Hzの間のカットオフ周波数を有する)を実施してもよい。
【0048】
算出された後退脈波速度は、同様の動脈及び患者の基準閾値と比較してもよい。計算された後退脈波伝播速度がそのような基準閾値(場合によっては低い閾値又は高い閾値)を越えると、処理回路42は、施術者の注意を引くために適切な警告信号を生成してもよい。特に、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、冠状動脈心血管系疾患の遺伝、冠状動脈心血管系疾患の既往、あるいは医用画像診断法から推定されるアテローム性プラークの組成など、さまざまな危険因子の関数として、異なる閾値を使用することができる。
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【国際調査報告】