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特表2022-514822仕切弁、ボール弁、弁棒、及び弁座用の高温低摩擦でコバルトを含まないコーティング・システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-16
(54)【発明の名称】仕切弁、ボール弁、弁棒、及び弁座用の高温低摩擦でコバルトを含まないコーティング・システム
(51)【国際特許分類】
   C23C 28/00 20060101AFI20220208BHJP
   C23C 4/06 20160101ALI20220208BHJP
   C22C 19/00 20060101ALI20220208BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20220208BHJP
   B22F 7/04 20060101ALI20220208BHJP
   E21B 34/00 20060101ALI20220208BHJP
   C22C 29/08 20060101ALN20220208BHJP
   C22C 29/06 20060101ALN20220208BHJP
【FI】
C23C28/00 B
C23C4/06
C22C19/00 L
B22F1/00 M
B22F7/04 A
B22F7/04 G
E21B34/00
C22C29/08
C22C29/06 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021531908
(86)(22)【出願日】2019-12-18
(85)【翻訳文提出日】2021-06-04
(86)【国際出願番号】 US2019067209
(87)【国際公開番号】W WO2020132085
(87)【国際公開日】2020-06-25
(31)【優先権主張番号】62/781,960
(32)【優先日】2018-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515195347
【氏名又は名称】エリコン メテコ(ユーエス)インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアムズ、ケビン
(72)【発明者】
【氏名】ヴェキオ、ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】ブラッチ、ジョナサン
(72)【発明者】
【氏名】チェイニー、ジャスティン
(72)【発明者】
【氏名】フィアラ、ペトル
【テーマコード(参考)】
4K018
4K031
4K044
【Fターム(参考)】
4K018BB02
4K018BD09
4K018JA22
4K018KA10
4K018KA58
4K031AA08
4K031AB03
4K031CB22
4K031DA01
4K031DA03
4K031DA04
4K044AA02
4K044BA06
4K044BA18
4K044BB03
4K044BB11
4K044BC01
4K044BC06
4K044CA11
(57)【要約】
デバイスの製造方法は、コバルトを含まないがニッケル、銅、又はニッケル-銅合金を含む原料中のタングステン・カービンを溶射するステップを含み、該方法は、海水及び汽水環境における高負荷の用途での、ベース・コーティングの靭性、防食性、及び防汚特性を向上させる。さらに、コバルトを含まない材料は、材料費を低減し、コバルトの世界的な需要を低減する。シリコン・ドープしたDLCの保護膜を設けることにより、高ストレス用途での「卵殻」などの、一般的にDLCが破損する、保護膜の脆性が大幅に低下する。したがって、高硬度、低摩擦用途を、高ストレス用途に合わせて調整できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
坑井の流体を制御する装置であって、前記装置は、
弁箱を具備する仕切弁であって、前記弁箱は、空洞及び前記空洞を横切る流路を有する仕切弁と、
前記流路及び前記空洞の交差部で前記弁箱に装着された弁座リングであって、前記弁座リングは、鋼合金で形成された係合面を有する弁座リングと、
前記空洞内にあり、鋼合金で形成された係合面を有し、開位置及び閉位置の間を移動しながら前記弁座リングの前記面と摺動して係合する弁体と、
前記弁座リングの前記係合面上に形成された、硬化された外側の層であって、前記硬化された層は、コバルトを含まないマトリックス中の炭化タングステンを含む、硬化された外側の層と、
前記硬化された外側の層上の、ダイヤモンド・ライク・カーボンの耐摩擦性コーティングと
を備える、装置。
【請求項2】
前記コバルトを含まない原材料は、重量%で、
Ni:
C:0.5~2
Cr:10~30
Mo:5.81~18.2
Nb+Ti:2.38~10
を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記コバルトを含まない原材料は、重量%で、
Ni:残部
C:約0.8~約1.6
Cr:約14~約26、及び
Mo:約8~約16
を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記コバルトを含まない原材料は、重量%で、
Ni:残部
C:約0.84~約1.56
Cr:約14~約26
Mo:約8.4~約15.6、及び
Nb+Ti:約4.2~約8.5
を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記コバルトを含まない原材料は、重量%で、
Ni:残部
C:約8.4~約1.56
Cr:約14~約26
Mo:約8.4~約15.6
Nb:約4.2~約7.8、及び
Ti:約0.35~約0.65
を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記コバルトを含まない原材料は、重量%で、
Ni:残部
C:約1.08~約1.32
Cr:約13~約22
Mo:約10.8~約13.2、及び
Nb:約5.4~約6.6
を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記コバルトを含まない原材料は、重量%で、
Ni:残部
C:約1.2
Cr:約20
Mo:約12
Nb:約6、及び
Ti:約0.5
を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記コバルトを含まない原材料は粉末である、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記コバルトを含まない原材料はワイヤである、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記コバルトを含まない原材料は、ワイヤ及び粉末の組合せである、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記原材料で形成された表面硬化層をさらに有する、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記表面硬化層は、ニッケル・マトリックスを含み、前記ニッケル・マトリックスは、
1,000ビッカース硬度以上で、合計5モル%以上の硬質相と、
組み合わされた合計が20重量%以上のクロム及びモリブデンと、
全硬質相の分率のうちの合計50モル%以上の、孤立した過共晶の硬質相と、
0.33~3の比率のWC/Crと、
250mm未満の、ASTM G65Aでの摩耗損失と、
650以上のビッカース硬度と
を有する、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記表面硬化層は、750以上のビッカース硬度を有する、請求項11に記載の装置。
【請求項14】
前記表面硬化層は、2.54cm(1平方インチ)当り2つ以下の亀裂を示し、62,053kPa(9,000psi)以上の付着力を有し、2体積%以下の気孔率を有する、請求項11に記載の装置。
【請求項15】
前記表面硬化層は、0.5体積%以下の気孔率を有する、請求項11に記載の装置。
【請求項16】
前記表面硬化層は、28%のCaCl電解液、pH=9.5の環境において、0.025mm/年(1mpy)以下の腐食速度を有する、請求項11に記載の装置。
【請求項17】
前記表面硬化層は、28%のCaCl電解液、pH=9.5の環境において、0.010mm/年(0.4mpy)以下の腐食速度を有する、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
前記表面硬化層は、ASTM G59/ASTM G61にしたがって、16時間3.5%塩化ナトリウム溶液中で、0.0025mm/年(0.1mpy)未満の腐食速度を有する、請求項11に記載の装置。
【請求項19】
前記表面硬化層は、ASTM G59/ASTM G61にしたがって、16時間3.5%塩化ナトリウム溶液中で、0.0020mm/年(0.08mpy)未満の腐食速度を有する、請求項18に記載の装置。
【請求項20】
ニッケル・マトリックスは、Ni:残部、X>20重量%で定義され、XはCu、Cr、又はMoのうちの少なくとも1つを表す、耐食性合金と比較して80%以上のマトリックス近接度を有する、請求項11に記載の装置。
【請求項21】
前記耐食性合金は、モネル400を含む、請求項20に記載の装置。
【請求項22】
前記表面硬化層は、油圧シリンダ、テンション・ライザ、マッド・モータ用ロータ、又は油田構成要素の用途に使用される、請求項11に記載の装置。
【請求項23】
前記原材料は、
ニッケル
を含み、前記原材料は、熱力学的平衡条件下で、
1,000ビッカース硬度以上で、合計5モル%以上の硬質相と、
既知の耐食性ニッケル合金と比較した場合、80%以上のマトリックス近接度と
を有することを特徴とする、耐食性マトリックスを形成するよう構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項24】
前記既知の耐食性ニッケル合金は、式、Ni:残部、X>20重量%で表され、XはCu、Cr、又はMoのうちの少なくとも1つを表す、請求項23に記載の装置。
【請求項25】
前記コバルトを含まない原材料は粉末である、請求項23に記載の装置。
【請求項26】
前記粉末は、アトマイジングプロセスを通して作製される、請求項25に記載の装置。
【請求項27】
前記粉末は、凝集及び焼結プロセスを通して作製される、請求項25に記載の装置。
【請求項28】
前記耐食性マトリックスは、組み合わされた合計が20重量%以上のクロム及びモリブデンを含むニッケル・マトリックスである、請求項23に記載の装置。
【請求項29】
熱力学的平衡条件下で、前記耐食性マトリックスは、全硬質相の分率のうちの合計50モル%以上の、孤立した過共晶硬質相を有することを特徴とする、請求項23に記載の装置。
【請求項30】
前記既知の耐食性ニッケルは、モネル400を含む、請求項23に記載の装置。
【請求項31】
前記コバルトを含まない原材料は、
Ni:残部
C:0.84~1.56
Cr:14~26
Mo:8.4~15.6
Nb:4.2~7.8、及び
Ti:0.35~0.65
を含む、請求項23に記載の装置。
【請求項32】
前記コバルトを含まない原材料は、
Ni:残部
B:約2.5~約5.7、及び
Cu:約9.8~約23
をさらに含む、請求項1に記載の装置。
【請求項33】
前記コバルトを含まない原材料は、
Cr:約7~約14.5
をさらに含む、請求項32に記載の装置。
【請求項34】
熱力学的平衡条件下で、前記耐食性マトリックスは、
合計50モル%以上の硬質相と、
1550K以下の液相線温度と
を有する、請求項23に記載の装置。
【請求項35】
前記コバルトを含まない原材料は、モネルと、WC又はCrのうちの少なくとも一方との混合物を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項36】
前記コバルトを含まない原材料は、重量で、
75~85%WC+15~25%モネル、
65~75%WC+25~35%モネル、
60~75%WC+25~40%モネル、
75~85%Cr+15~25%モネル、
65~75%Cr+25~35%モネル、
60~75%Cr+25~40%モネル、
75~85%WC/Cr+15~25%モネル、
65~75%WC/Cr+25~35%モネル、及び
60~75%WC/Cr+25~40%モネル
からなる群から選択される、請求項1に記載の装置。
【請求項37】
耐食性マトリックスのWC/Crの比は、体積で0.0.2~5である、請求項1に記載の装置。
【請求項38】
溶射原材料はワイヤを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項39】
溶射原材料は、ワイヤ及び粉末の組合せを含む、請求項23に記載の装置。
【請求項40】
表面硬化層は、
250mm未満の、ASTM G65Aでの摩耗損失と、
前記表面硬化層をPTA又はレーザ肉盛り加工で形成する場合、2.54cm(1平方インチ)当り2つ以下の亀裂と
を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項41】
前記表面硬化層は、28%のCaCl電解液、pH=9.5の環境において、0.025mm/年(1mpy)以下の腐食速度を示す、不浸透性のHVOFコーティングを有する、請求項40に記載の装置。
【請求項42】
前記表面硬化層は、
650以上のビッカース硬度と、
前記表面硬化層をHVOF溶射プロセスで形成する場合、62,053kPa(9,000psi)以上の付着力と
をさらに有する、請求項41に記載の装置。
【請求項43】
前記表面硬化層は、油圧シリンダ、テンション・ライザ、マッド・モータ用ロータ、又は油田構成要素の用途に使用される、請求項40に記載の装置。
【請求項44】
前記表面硬化層は、
750以上のビッカース硬度と、
前記表面硬化層をHVOF溶射プロセスで形成する場合、2体積%以下、好ましくは0.5%以下の気孔率と
を有する、請求項40に記載の装置。
【請求項45】
デバイスを製造する方法であって、
負荷支持面に硬化層を生成するために、ニッケル原料、銅原料、及びニッケル-銅原料のうちの少なくとも1種類の中の炭化タングステンを、前記デバイスの構成要素の選択された前記負荷支持面に溶射するステップと、
前記硬化層にダイヤモンド・ライク・カーボン層の低摩擦コーティングを施すステップと、
前記ダイヤモンド・ライク・カーボン層を有する弁内の前記構成要素を、前記デバイスの係合面と摺動して係合する形で組み立てるステップと
を含み、前記負荷支持面は、前記デバイスの弁座リングの係合面を有し、前記係合面は、前記弁座リングの前記係合面をわたって直線的に移動する前記デバイスの一部の面を含む、方法。
【請求項46】
前記デバイスは弁であり、前記デバイスの前記一部は弁体である、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記ダイヤモンド・ライク層に減摩剤を付着させるステップをさらに含む、請求項45に記載の方法。
【請求項48】
請求項45に記載の弁。
【請求項49】
シリコン・ドープしたダイヤモンド・ライク・コーティングをコーティングすることにより、保護膜の脆性を低減する方法であって、前記保護膜は、硬質であり且つ低摩擦であることを示す、方法。
【請求項50】
前記溶射するステップは、コバルトを含まない原料と共に炭化タングステンを溶射するステップを含む、請求項45に記載の方法。
【請求項51】
弁を製造する方法であって、
硬化層を堆積させるために、コバルトを含まない原料中の炭化タングステンを弁構成要素の表面に溶射するステップと、
蒸着プロセスを使用して、前記弁構成要素の前記表面上の前記硬化層に、ダイヤモンド・ライク・カーボン層を付着させるステップと、
前記ダイヤモンド・ライク・カーボン層を有する前記弁内の前記弁構成要素を、前記弁の鋼合金の表面と摺動して係合する形で組み立てるステップと
を含み、前記弁構成要素は、弁座リングを含み、前記鋼合金の表面は、前記弁座リング上の前記ダイヤモンド・ライク・カーボン層をわたって直線的に移動する、弁体の係合面を含む、方法。
【請求項52】
前記溶射するステップは、ニッケル及び銅のうちの少なくとも一方を含む、原料中の炭化タングステンを溶射するステップを含む、請求項51に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示の具体例は、広く言えば、負荷支持面などの表面硬化プロセスのための効果的な原料として役立ち得る、コバルトを含まない合金に関するものである。詳細には、この開示の具体例は、仕切弁、ボール弁、弁棒、及び弁座の負荷支持面をコーティングするための効果的な原料として役立ち得る、コバルトを含まない合金に係るものである。
【背景技術】
【0002】
摩耗及び腐食性の摩滅は、媒体が表面に対してすり減ることを含む用途における、技師にとっての大きな懸念である。激しい摩滅が見られる用途では、通常、摩滅のリスクによる材料の破損に耐える、高硬度の材料を使用する。対向する表面から加えられる圧力による摩滅から構成要素を保護するために使用される材料には、摩耗に耐え、材料のバルク硬度を高める、硬い析出物である炭化物及び/又はホウ化物が含まれ得る。こうした材料は、多くの場合、表面硬化と呼ばれるコーティングとして、様々な溶接プロセスを通じて適用されるか、部品内へ直接鋳造される。たとえば、コバルト・マトリックスを含む炭化タングステンを溶射によって付着させ、続いて化学気相蒸着法(CVD:chemical vapor deposition)によりダイヤモンド・ライク・コーティング(DLC:diamond like coating)保護膜を付着させることができる。
【0003】
技師にとってのもう一つの懸念は、腐食である。深刻な腐食が見られる用途では、通常、クロム含有量の高い軟質のニッケル基又はステンレス鋼タイプの材料を使用する。こうした用途では、亀裂が、下にある母材の腐食を引き起こす場合があるので、被覆には亀裂が存在しない可能性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
現在の開示の例示的な具体例は、いくつかの具体例では、たとえば、ニッケル・マトリックス、銅マトリックス、又はニッケル-銅マトリックスなど、コバルトを含まないマトリックス中の炭化タングステン又は他の炭化物を含む。かかるマトリックスは、下地を形成するために使用されると、下地の耐食性及び防汚特性を向上させる。かかるコバルトを含まない材料は、コバルトよりも材料費が安く、世界のコバルト供給の大部分が紛争地域からのものであるという事実に少なくとも部分的に起因する、調達の懸念を軽減する。
【0005】
したがって、コバルト・マトリックスを、コバルト・マトリックスのコスト及び環境問題の欠点をもたらさない、別のマトリックスで置き換える必要がある。例示的な具体例では、ニッケル、銅、又はニッケル-銅合金は、下地の耐食性及び防汚特性を向上させる。
【0006】
一般的に、耐摩滅性材料又は耐食性材料のいずれかを使用する。というのは、両方の要件を満たす合金はほとんどないからである。ただし、既存の材料では必要な耐用年数が得られない場合があるか、又は耐摩滅性を高めるために炭化物の添加が必要な場合があり、亀裂を引き起こす可能性がある。
【0007】
ポリマー・コーティングは、一般に、ボール弁を含め、摺動負荷の支持面に使用されてきた。一部のポリマー・タイプのコーティングは、仕切弁にも同様に使用されてきたが、特に高温では、一般に負荷支持の耐久性及び延性が不十分である。熱可塑性ポリマー・コーティングは、高い接触ストレス及び高温下で、クリープ損傷するか又は恒久的に変形する傾向がある。熱硬化性タイプのポリマー・コーティングは、熱可塑性物質のように温度によって軟化することはないが、一般に延性が低く、特に高温で付着力がより高くなる傾向がある。こうした特性は、一般に、コーティングに亀裂を生じさせ、コーティングの、合わせ面の剥離をもたらす。
【0008】
シリコン・ドーパントを使用する保護膜のプラズマ支援CVD(PA-CVD:Plasma Assisted CVD)は、典型的な硬度及び低摩擦の特性を維持しながら、保護膜の内部ストレスを低減する。
【0009】
仕切弁は、流体の直線的な流れ、及び流れの最低限の制限が必要な場合に使用される。弁が大きく開いているとき、弁体は、弁の空洞の反対側の端部に引き込まれる。弁体には、弁が取り付けられているパイプと同じサイズの、弁を通る流れのための開口がある。弁は、完全に開いたときに、メインの流体供給ライン及びポンプ・ラインに最適な、障害物のない通路を設け、圧力が34,474kPa(5000psi)から206,843kPa(30,000psi)の範囲にわたる場合がある、石油及びガスの生産に使用されることが多い。仕切弁は、摩擦を減らすばかりでなく、腐食も減らし、耐摩滅性を向上させるための、弁の弁体及び弁座の外面のコーティングを特徴とする。以前のバージョンの中には、弁の弁体及び弁座の表面に、炭化タングステンなどの表面硬化層を使用していたものがある。他の以前のバージョンは、蒸着プロセス又は化学気相蒸着を利用して、弁の弁体及び弁座の外面をコーティングしていた。
【0010】
耐食性及び耐摩滅性コーティングは、原材料を基に調製することができ、原材料は、熱力学的平衡条件下で特定の物理化学的特性を有する、マトリックスを形成するよう構成される。
【0011】
例示的な具体例では、坑井の流体を制御する装置を備え、該装置は、弁箱を具備する仕切弁であって、弁箱は、空洞及び空洞を横切る流路を有する仕切弁と、流路及び空洞の交差部で弁箱に装着された弁座リングであって、鋼合金で形成された係合面を有する弁座リングと、空洞内にあり、鋼合金で形成された係合面を有し、開位置及び閉位置の間を移動しながら弁座リングの面と摺動して係合する弁体と、弁座リングの係合面に形成された、硬化された外側の層であって、コバルトを含まないマトリックス中の炭化タングステンを含む硬化された層と、硬化された外側の層上のダイヤモンド・ライク・カーボンの耐摩擦性コーティングとを備え、硬化された外側の層は、コバルトを含まない原材料で形成されている。
【0012】
例示的な具体例では、弁を製造する方法を含み、該方法は、負荷支持面上に硬化層を生成するために、コバルト・マトリックス中の炭化タングステンを弁構成要素の選択された負荷支持面に溶射するステップと、硬化層にダイヤモンド・ライク・カーボン層の低摩擦コーティングを施すステップと、ダイヤモンド・ライク・カーボン層を有する弁内の構成要素を、弁の係合面と摺動して係合する形で組み立てるステップとを含み、負荷支持面は、弁の弁座リングの係合面を含み、係合面は、弁座リングの係合面をわたって直線的に移動する弁の弁体の面を含む。
【0013】
例示的な具体例では、弁を製造する方法を含み、該方法は、硬化層を堆積させるために、コバルトを含まないマトリックス中の炭化タングステンを弁構成要素の表面に溶射するステップと、蒸着プロセスを使用して、弁構成要素の表面の硬化層にダイヤモンド・ライク・カーボン層を付着させるステップと、ダイヤモンド・ライク・カーボン層を有する弁内の弁構成要素を、弁の鋼合金の表面と摺動して係合する形で組み立てるステップとを含み、弁構成要素は、弁座リングを含み、鋼合金の表面は、弁座リング上のダイヤモンド・ライク・カーボン層をわたって直線的に移動する弁体の係合面を含む。例示的な実施例では、溶射するステップは、ニッケル及び銅のうちの少なくとも一方を含む、マトリックス中の炭化タングステンを溶射するステップを含む。
【0014】
本明細書では、重量%で、Ni及びC:0.5~2、Cr:10~30、Mo:5.81~18.2、Nb+Ti:2.38~10、Ni:残部を含む、原材料の実施例が開示される。
【0015】
例示的な具体例では、原材料は、重量%で、C:0.8~1.6、Cr:14~26、及びMo:8~16をさらに含むことができる。例示的な具体例では、原材料は、重量%で、C:0.84~1.56、Cr:14~26、Mo:8.4~15.6、及びNb+Ti:4.2~8.5をさらに含むことができる。例示的な具体例では、原材料は、重量%で、C:8.4~1.56、Cr:14~26、Mo:8.4~15.6、Nb:4.2~7.8、及びTi:0.35~0.65をさらに含むことができる。例示的な具体例では、原材料は、重量%で、C:1.08~1.32、Cr:13~22、Mo:10.8~13.2、及びNb:5.4~6.6をさらに含むことができる。他の例示的な具体例では、原材料は、重量%で、C:1.2、Cr:20、Mo:12、Nb:6、Ti:0.5、Ni:残部をさらに含むことができる。
【0016】
例示的な具体例では、原材料は粉末である。さらなる例示的な実施例では、原材料はワイヤである。他の例示的な実施例では、原材料は、ワイヤと粉末との組合せである。さらなる例示的な実施例では、原材料は、たとえば、凝集及び焼結プロセスを通して作製されるような、溶射に好適な他の形態の材料であり得るか、又は含み得る。また、本明細書で開示される原材料で形成される表面硬化層の具体例も、本明細書で開示される。
【0017】
例示的な具体例では、表面硬化層はニッケル・マトリックスを含むことができ、ニッケル・マトリックスは、1,000ビッカース硬度以上でニッケルが合計5モル%以上の硬質相と、組み合わされた合計が20重量%以上のクロム及びモリブデンと、全硬質相の分率のうちの合計50モル%以上の孤立した過共晶の硬質相と、0.33から3の比率のWC/Crと、250mm未満の、ASTM G65Aでの摩耗損失と、650以上のビッカース硬度とを有する。他の例示的な具体例では、表面硬化層は、750以上のビッカース硬度を有し得る。さらなる例示的な具体例では、表面硬化層は、2.54cm(1平方インチ)当り2つ以下の亀裂を示し、62,053kPa(9,000psi)以上の付着力を有し、2体積%以下の気孔率を有し得る。他の例示的な具体例では、表面硬化層は、0.5体積%以下の気孔率を有し得る。さらなる具体例では、表面硬化層は、約28%のCaCl電解液、pH=9.5の環境において、0.025mm/年(1mpy)以下の腐食速度を有し得る。他の例示的な具体例では、表面硬化層は、約28%のCaCl電解液、pH=9.5の環境において、0.010mm/年(0.4mpy)以下の腐食速度を有し得る。さらなる例示的な具体例では、表面硬化層は、G-59/G-61にしたがって、16時間3.5%塩化ナトリウム溶液中で、0.0025mm/年(0.1mpy)未満の腐食速度を有し得る。さらに別の例示的な具体例では、表面硬化層は、G-59/G-61にしたがって、16時間3.5%塩化ナトリウム溶液中で、0.0020mm/年(0.08mpy)未満の腐食速度を有し得る。
【0018】
例示的な具体例では、ニッケル・マトリックスは、Ni:残部、X>20重量%で定義され、ここでXはCu、Cr、又はMoのうちの少なくとも1つを表す、耐食性合金と比較して、80%以上のマトリックス近接度を有し得る。例示的な具体例では、耐食性合金は、インコネル625、インコネル622、ハステロイC276、ハステロイX、及びモネル400からなる群から選択され、モネルは、高い引張強度及び耐食性を有するニッケル-銅合金である。
【0019】
例示的な具体例では、表面硬化層は、油圧シリンダ、テンション・ライザ、マッド・モータ用ロータ、又は油田構成要素の用途に使用できる。
【0020】
本明細書ではさらに、ニッケルを含む原材料の例示的な具体例が開示され、原材料は、熱力学的平衡条件下で、1,000ビッカース硬度以上、合計5モル%以上で、且つ既知の耐食性ニッケル合金と比較した場合、80%以上のマトリックスの近接度の硬質相を含むことを特徴とする、耐食性マトリックスを形成するよう構成される。
【0021】
例示的な具体例では、既知の耐食性ニッケル合金は、式Ni:残部、X>20重量%で表すことができ、ここでXはCu、Cr、又はMoのうちの少なくとも1つを表す。
【0022】
例示的な具体例では、耐食性マトリックスは、組み合わされた合計が20重量%以上のクロム及びモリブデンを含む、ニッケル・マトリックスであり得る。例示的な具体例では、熱力学的平衡条件下で、耐食性マトリックスは、全硬質相の分率のうちの合計50モル%以上の、孤立した過共晶硬質相を有することを特徴とし得る。
【0023】
例示的な具体例では、既知の耐食性ニッケル合金は、インコネル625、インコネル622、ハステロイC276、ハステロイX、及びモネル400からなる群から選択され得る。
【0024】
例示的な具体例では、原材料は、重量%で、C:0.84~1.56、Cr:14~26、Mo:8.4~15.6、Nb:4.2~7.8、及びTi:0.35~0.65、Ni:残部を含み得る。例示的な具体例では、原材料は、B:2.5から5.7、及びCu:9.8~23をさらに含み得る。例示的な具体例では、原材料は、Cr:7~14.5をさらに含み得る。
【0025】
例示的な具体例では、熱力学的平衡条件下で、耐食性マトリックスは、合計50モル%以上で、液相線温度が1550K以下の硬質相を有することを特徴とし得る。
【0026】
例示的な具体例では、原材料は、モネルと、WC又はCrのうちの少なくとも一方との混合物を含み得る。
【0027】
例示的な具体例では、原材料は、重量で、75~85%のWC+15~25%のモネル、65~75%のWC+25~35%のモネル、60~75%のWC+25~40%のモネル、75~85%のCr+15~25%のモネル、65~75%のCr+25~35%のモネル、60~75%のCr+25~40%のモネル、75~85%のWC/Cr+15~25%のモネル、65~75%のWC/Cr+25~35%のモネル、及び60~75%のWC/Cr+25~40%のモネルからなる群から選択される。例示的な具体例では、耐食性マトリックスのWC/Crの比は、体積で0.2から5であり得る。
【0028】
例示的な具体例では、表面硬化層は、プラズマ転写アーク(PTA:plasma transferred arc)又はレーザ肉盛り加工(laser cladding process)で表面硬化層を形成する場合、ASTM G65Aでの250mm未満の摩耗損失、及び2.54cm(1平方インチ)当り2つ以下の亀裂を有し得る。例示的な具体例では、表面硬化層は、約28%のCaCl電解液、pH=9.5の環境において、0.025mm/年(1mpy)以下の腐食速度を示す、不浸透性の高速酸素燃料(HVOF:high velocity oxygen fuel)コーティングを有し得る。
【0029】
例示的な具体例では、表面硬化層は、HVOF溶射プロセスで表面硬化層を形成する場合、650以上のビッカース硬度、及び62,053kPa(9,000psi)以上の付着力をさらに有し得る。
【0030】
例示的な具体例では、表面硬化層は、HVOF溶射プロセスで表面硬化層を形成する場合、750以上のビッカース硬度、及び2体積%以下、好ましくは0.5%以下の気孔率を有し得る。
【0031】
本開示は、記載される複数の図面を参照して、本開示の例示的な具体例として、以下の詳細な記述でさらに説明され、ここで、同様の符号は、図面のいくつかの図全体にわたって、同様の要素を表す。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】例示的な具体例による、弁体と弁座との間の境界面の少なくとも1つがコーティングされた仕切弁の断面図である。
図2】例示的な具体例による、様々な温度で合金中に存在する相のモル分率を示す、合金P82-X6の相のモル分率対温度の図である。
図3】例示的な具体例による、様々な温度で合金中に存在する相のモル分率を示す、合金P76-X23の相のモル分率対温度の図である。
図4】硬質相、過共晶硬質相、及びマトリックスを有する合金P82-X6の、例示的な一具体例のSEM画像である。
図5】実施例1、パラメータの組1による、ガスアトマイジング粉末でレーザ溶接されるP82-X6の光学顕微鏡画像である。
図6】実施例2による、P76-X24合金のガスアトマイジング粉末501、及び結果的に得られたコーティング502のSEM画像である。
図7】例示的な具体例による、実施例3で、WC/Cr+Ni合金の凝集及び焼結粉末、具体的には、20重量%のモネルと混合された80重量%のWC/Cr(50/50体積%)の混合物から被着された、HVOFコーティングのSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本開示の様々な態様、具体例、及び/又は特定の特徴若しくは2次的構成要素のうちの1つ又は複数を通じて、具体的に上記及び以下に記載される1つ又は複数の利点を明らかにすることを意図している。
【0034】
本開示の具体例には、表面硬化/帯状硬化(hardbanding)材料、かかる表面硬化/帯状硬化材料を作製するために使用される合金又は粉末組成物、表面硬化/帯状硬化材料を形成する方法、及びこうした表面硬化/帯状硬化材料を組み込むか又は該材料によって保護される構成要素又は基材が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
図1は、例示的な具体例による、弁体と弁座との間の境界面の少なくとも1つがコーティングされた仕切弁の断面図である。図1では、仕切弁11は、弁箱13と、弁箱13を通って横方向に延在する流路15とを備える。弁11はまた、貫通する穴19を有する弁体17も備える。弁体17は、開位置で図1に示されている。図1に示される仕切弁11は、弁棒非上昇型の弁であるが、別法として、弁棒上昇型の弁であってもよい。また、図1には、弁の流路15と位置を重ね合わせる穴23を有する、環状の弁座21が示されている。仕切弁11は、2つの別個のスラブを備える分割弁体型として図示されているが、別法として、仕切弁11は、単一スラブ型であってもよい。
【0036】
弁体17が開位置にあるとき、弁体17の穴19は、弁11の流路15と位置を重ね合わせ、それにより、弁を通る流れを可能にする。弁体が閉じられると、穴19はもはや流路15と位置を重ね合わせない。弁体17は、弁座21と境界面で接する両側に、係合面25を有する。弁体17が閉じられると、流路15内の圧力は、弁座21の1つに接する面25の1つに相当な負荷を生み出す。流路15の1つが高圧下にある場合、弁体17が閉位置に移動するか、又は閉位置から移動すると、接触力を加えながら、面25の1つが弁座21の1つに対して摺動する。図1に示される仕切弁11は、順方向に作用する仕切弁であり、これは、弁体17が下方に移動して仕切弁11を閉じることを意味する。別法として、仕切弁11は、弁体の開口の場所を再配置することにより、逆方向に作用する仕切弁であり得る。
【0037】
仕切弁のスラブ又は弁体17は、高品質の低合金鋼、ステンレス鋼、ニッケル-銅合金鋼、及びモネル合金のうちの1つなどの、耐食性鋼合金で作製され得る。弁座21は、同じタイプの材料で形成され得る。
【0038】
面25及び/又は弁座21の表面に保護膜を付着させる方法の例示的な具体例には、一般的な硬度及び低摩擦特性を維持しながら、保護膜の内部ストレスを低減させるために、シリコン・ドーパントを使用するプラズマ支援(PA)CVDプロセスが含まれる。これにより、機械的及び熱的ストレスによる保護膜の亀裂の発生が減少する。
【0039】
例示的な具体例では、本明細書に記載のニッケル及び/又は銅基の合金は、開示をさほど限定するものではないが、PTAプロセス、高速レーザ肉盛りを含むレーザ肉盛りによる表面硬化プロセス、及び/又はHVFO溶射を含む溶射処理のための、効果的な原料として役立ち得る。例示的な具体例には、表面硬化プロセス用の、コアード・ワイヤの中へ入れるニッケル及び/又は銅基の合金の製造、並びにワイヤ給電レーザ及び短波レーザを使用する、ニッケル及び/又は銅基のワイヤ及び粉末の溶接方法が含まれる。
【0040】
合金という用語は、金属成分を形成するために使用される粉末の化学組成物、及び粉末自体を包含し得る。合金という用語はまた、鋳造構成要素を形成するために使用される溶融物の化学組成物、及び溶融物自体も包含し得る。合金という用語は、粉末の加熱、焼結、及び/又は堆積によって形成される、金属成分の組成物を包含し得る。合金という用語は、冷却後の金属成分の組成物も包含し得る。例示的な具体例では、合金という用語は、範囲内に開示された粉末を中に形成する化学組成物、及び粉末自体を包含し得る。合金という用語は、金属成分を形成するために使用される原料を包含し得る。合金という用語は、ワイヤ、粉末を含むワイヤ、ワイヤの組合せの組み合わされた組成物、粉末の加熱及び/若しくは堆積、又は他の方法論によって形成された金属成分の組成物、並びに金属成分を包含し得る。
【0041】
例示的な具体例では、溶接のために、又は別のプロセスの原料として使用するために、ソリッド・ワイヤ又はコアード・ワイヤ(粉末を収容するシース)内に製造される合金は、本明細書の特定の化学プロセスによって説明され得る。たとえば、ワイヤは、溶射に使用され得る。さらに、以下に開示される組成物は、単一のワイヤ又は複数のワイヤの組合せ(2、3、4、又は5本のワイヤなど)によるものであり得る。
【0042】
例示的な具体例では、合金は、HVOF合金などの溶射コーティングを形成する、溶射プロセスで使用され得る。他の例示的な具体例では、合金は、溶接被覆として使用され得る。さらなる例示的な具体例では、合金は、溶射として、又は溶接被覆として使用され得、たとえば、二重の使用法を有する。
【0043】
炭化タングステンのコバルト・マトリックスの、ニッケル、銅、又はニッケル-銅合金への置換は、高品質の溶射粉末を製造するため、変更された焼結プロセスを通して実行され得る。さらに、Rapid Alloy Developmentソフトウェアを使用して、特定のコーティング要件に合うようにマトリックスの式を調整できる。またさらに、DLC保護膜にシリコンをドープすると、保護膜の内部ストレスは大幅に低減する。高ストレスのほとんどの用途で、DLCの高い内部ストレスにより、保護膜が破損し、性能が低下する。
【0044】
例示的な具体例には、炭化タングステンが溶射され、0.127ミリメートル(0.005インチ)から0.635ミリメートル(0.025インチ)までの厚さ範囲で、ニッケル、銅、又は、ニッケル-銅合金マトリックス・ベースのコーティングが施される、鋼及びニッケル、銅、又はニッケル-銅合金の、弁体、ボール、弁座、及び弁箱の弁棒などの、弁の負荷支持構成要素を生産する方法が含まれる。後に続く、シリコン・ドープしたDLCの保護膜材料。DLCの非限定的な厚さは、最大30ミクロン(10-6メートル)の厚さであり、高温の一体構造でより低ストレスのコーティングを作り出し、摺動摩擦を低減し、海水及び/又は汽水環境での腐食防止及び防汚性を向上させる。
【0045】
金属合金組成物
例示的な具体例では、本明細書に開示される原料の組成物などの製品には、Ni、及び重量パーセント(重量%)で、B:0~4、C:0~9.1、Cr:0~60.9、Cu:0~31、Fe:0~4.14、Mn:0~1.08、Mo:0~10.5、Nb:0~27、Si:0~1、Ti:0~24、及びW:0~12が含まれ得る。
【0046】
例示的な具体例では、本明細書に開示される原料の組成物などの製品には、Ni、及び重量パーセント(重量%)で、C:0.5~2、Cr:10~30、Mo:5~20、及びNb+Ti:2~10が含まれ得る。
【0047】
例示的な具体例では、本明細書に開示される原料の組成物などの製品には、Ni、及び重量パーセント(重量%)で、C:0.8~1.6、Cr:14~26、Mo:8~16、及びNb+Ti:2~10が含まれ得る。
【0048】
例示的な具体例では、本明細書に開示される原料の組成物などの製品には、Ni、及び重量パーセント(重量%)で、C:0.84~1.56、Cr:14~26、Mo:8.4~15.6、及びNb+Ti:4.2~8.5が含まれ得る。
【0049】
例示的な具体例では、本明細書に開示される原料の組成物などの製品には、Ni、及び重量パーセント(重量%)で、C:0.84~1.56、Cr:14~26、Mo:8.4~15.6、Nb:4.2~7.8、及びTi:0.35~0.65が含まれ得る。
【0050】
例示的な具体例では、本明細書に開示される原料の組成物などの製品には、Ni、及び重量パーセント(重量%)で、C:1.08~1.32、Cr:18~22、Mo:10.8~13.2、及びNb:5.4~6.6が含まれ得る。
【0051】
例示的な具体例では、本明細書に開示される原料の組成物などの製品には、Ni、及び重量パーセント(重量%)で、C:0.5~2、Cr:10~30、Mo:5.81~18.2、及びNb+Ti:2.38~10が含まれ得る。
【0052】
例示的な具体例では、本明細書に開示される原料の組成物などの製品には、重量パーセント(重量%)で、
C:0.5、Cr:24.8、Mo:9.8、Ni:残部;
C:0.35~0.65、Cr:17.3~32.3、Mo:6.8~12.7、Ni:残部;
C:0.45~0.55、Cr:22.3~27.3、Mo:8.8~10.8、Ni:残部;
C:約0.8、Cr:約25、Mo:約14、Ni:残部;
C:0.56~1.04、Cr:17.5~32.5、Mo:9.8~18.2、Ni:残部;
C:0.7~0.9、Cr:22.5~27.5、Mo:12.6~15.4、Ni:残部;C:約1.2、Cr:約24、Mo:約14、Ni:残部;
C:0.84~1.56、Cr:16.8~31.2、Mo:9.8~18.2、Ni:残部;
C:1.08~1.32、Cr:21.6~26.4、Mo:12.6~15.4、Ni:残部;
C:約1.2、Cr:約20、Mo:約12、Nb:約6、Ti:約0.5、Ni:残部;
C:0.84~1.56、Cr:14~26、Mo:8.4~15.6、Nb:4.2~7.8、Ti:0.35~0.65、Ni:残部;
C:1.08~1.32、Cr:18~22、Mo:10.8~13.2、Nb:5.4~6.6、Ti:0.45~0.55、Ni:残部;
C:約1.6、Cr:約18、Mo:約14、Nb:約6、Ni:残部;
C:1.12~2.08、Cr:12.6~23.4、Mo:9.8~18.2、Nb:4.2~7.8、Ni:残部;
C:1.44~1.76、Cr:16.2~19.8、Mo:12.6~15.4、Nb:5.4~6.6、Ni:残部
のうちの1つが含まれ得る。
【0053】
例示的な具体例では、本明細書に開示される原料の組成物などの製品には、Ni、及び重量パーセント(重量%)で、
C:約1.4、Cr:約16、Fe:約1.0、Mo:約10、Nb:約5、Ti:約3.8;
B:約3.5、Cu:約14;B:2.45~4.55、Cu:9.8~18.2;B:3.15~3.85、Cu:12.6~15.4;B:約4.0、Cr:約10、Cu約16;
B:2.8~5.2、Cr:7~13、Cu:11.2~20.8;
B:3.6~4.4、Cr:9~11、Cu:14.4~17.6;又は
C:約1.2、Cr:約20、Mo:約12、Nb:約6、Ti:約0.5
が含まれ得る。
【0054】
例示的な具体例では、本明細書に開示される原料の組成物などの製品には、重量パーセント(重量%)で、75~85%のWC+15~25%のモネル、65~75%のWC+25~35%のモネル、60~75%のWC+25~40%のモネル、75~85%のCr+15~25%のモネル、65~75%のCr+25~35%のモネル、60~75%のCr+25~40%のモネル、60~85%のWC+15~40%のNi30Cu、60~85%のCr+15~40%のNi30Cu、75~85%(50/50体積%)のWC/Cr+15~25%のモネル、75~85%(50/50体積%)のWC/Cr+25~35%のモネル、75~85%のWC/Cr+15~25%のモネル、75~85%のWC/Cr+25~35%のモネル、又は60~90%の硬質相+10~40%のモネル合金の、凝集及び焼結混合物が含まれ得る。
【0055】
上記において、硬質相は、炭化タングステン(WC)及び/又は炭化クロム(Cr)の一方又は両方である。モネルは、目標とする組成が、Niが残部、Cuが30重量%のニッケル-銅合金であり、20~40重量%のCu、又はより好ましくは28~34重量%のCuの一般的な化学的耐性を有し、C、Mn、S、Si、及びFeが含まれるがこれに限定されない既知の不純物を含む。モネルはどんな炭化物も含まないため、本開示の例示的な具体例は、炭化タングステン及び/又は炭化クロムなどの炭化物を追加する。炭化タングステンは、一般的に、Wが残部、Cが4~8重量%の式で表される。例示的な具体例において、炭化タングステンは、Wが残部、Cが1.5重量%の式で表され得る。
【0056】
60~85%のWC+Ni30Cuを含む例示的な具体例では、製品は、重量パーセントで、Ni:10.5~28、Cu:4.5~12、C:3.66~5.2、W:56.34~79.82であり得る。
【0057】
60~85%のCr+Ni30Cuを含む例示的な具体例、及び製品は、重量パーセントで、Ni:10.5~28、Cu:4.5~12、C:7.92~11.2、W:52.1~73.78であり得る。
【0058】
したがって、上記の原料の説明は、単純な化学式の既知の合金である炭化タングステンが、モネルと機械的に混ぜ合わされたことを示している(定められた比率での、単純なNi30Cuの式で表されているように)。この全体的なプロセス中に、多くの粒子がくっつき、その結果、新しい「凝集された」粒子が形成される。いずれの場合も、凝集された粒子は、記載された比率に含まれる。
【0059】
以下の表1は、いくつかの実験用合金を列挙し、合金の組成は、重量パーセントで列挙されている。
【0060】
例示的な具体例では、P76合金は溶射合金であり得、P82合金は溶接被覆合金(PTA又はレーザなど)であり得る。ただし、本開示は、さほど限定されるものではない。たとえば、本明細書に開示される組成物のいずれも、プラズマ転写アーク(PTA)、などの表面硬化プロセス、高速レーザ肉盛りを含むレーザ肉盛り表面硬化プロセス、及び高速酸素燃料(HVOF)溶射などの溶射プロセスに有効であり得る。
【0061】
例示的な具体例では、開示される組成物は、ワイヤ/粉末、コーティング、若しくは他の金属構成要素、又はその両方であり得る。
【0062】
開示された合金は、上記の元素の構成成分を、合計100重量%まで組み込むことができる。例示的な具体例では、合金は、上記の名前の元素を含み得るか、上記の名前の元素に限定され得るか、又は本質的に上記の名前の元素で構成され得る。例示的な具体例では、合金は、2重量%以下、1重量%以下、0.5重量%以下、0.1重量%以下、若しくは0.01重量%以下、又はこれらのいずれかの値間の任意の範囲の不純物を含み得る。不純物は、製造プロセスへの導入を通じて原料成分に含まれることにより、合金に含まれ得る元素又は組成物と理解することができる。
【0063】
さらに、上記の段落に記載されたすべての組成物の中に識別されるNiの含有量は、組成の残部であり得るか、或いは、Niが残部として提示される場合、組成物の残部は、Ni及び他の元素を含み得る。例示的な具体例では、残部は本質的にNiで構成され得、偶発的な不純物を含み得る。
【0064】
【表1】
【0065】
熱力学的基準
例示的な具体例では、合金は、合金の平衡熱力学的基準によって特徴づけられ得る。例示的な具体例では、合金は、記載される熱力学的基準のいくつかを満たすものとして特徴づけられ得る。例示的な具体例では、合金は、記載される熱力学的基準のすべてを満たすものとして特徴づけられ得る。
【0066】
第1の熱力学的基準は、ミクロ組織の中の硬質粒子の総濃度に関する。硬質粒子のモル分率が増加すると、合金のバルク硬度が増加し得、したがって、摩滅への耐性も増加し得る。これは、表面硬化用途に有利であり得る。硬質粒子は、この開示の諸目的の場合、1000以上のビッカース硬度を示す相として定義され得る。硬質粒子の総濃度は、ビッカース硬度が約1000以上で、且つ合金中では約1500Kで熱力学的に安定している、すべての相の総モル%として定義され得る。
【0067】
例示的な具体例では、硬質粒子の分率は、3モル%以上、4モル%以上、5モル%以上、8モル%以上、10モル%以上、12モル%以上、15モル%以上、20モル%以上、30モル%以上、40モル%以上、50モル%以上、60モル%以上、又はこれらのいずれかの値間の任意の範囲である。
【0068】
例示的な具体例では、硬質粒子の分率は、合金の所期のプロセスにしたがって変化し得る。たとえば溶射合金の場合、硬質粒子の分率は、40から60モル%の間であり得る。レーザ、プラズマ転写アーク、又は他のワイヤ溶接の応用によって溶接することを目的とした合金の場合、硬質粒子の相の分率は、15から30モル%の間であり得る。
【0069】
第2の熱力学的基準は、合金中に形成される過共晶硬質相の量に関する。過共晶硬質相は、合金の共晶点よりも高温で形成され始める硬質相である。こうした合金の共晶点は、面心立方(FCC:face-centered cubic)マトリックスが形成され始める温度である。
【0070】
例示的な具体例では、過共晶硬質相は、合計で40モル%以上、45モル%以上、50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、75モル%以上、80モル%以上、又はこれらのいずれかの値間の任意の範囲の、合金中に存在する硬質相の合計である。
【0071】
第3の熱力学的基準は、合金の耐食性に関する。FCCマトリックス中に存在するクロム及び/又はモリブデンの重量パーセントがより高くなると、ニッケル基合金の耐食性が向上し得る。この第3の熱力学的基準は、FCCマトリックス中のクロム及びモリブデンの総重量%を、約1500Kで測定する。
【0072】
例示的な具体例では、マトリックス中のクロム及びモリブデンの総重量パーセント(重量%)は、15重量%以上、18重量%以上、20重量%以上、23重量%以上、25重量%以上、27重量%以上、30重量%以上、又はこれらのいずれかの値間の任意の範囲である。
【0073】
第4の熱力学的基準は、合金のマトリックスの化学的性質(matrix chemistry)に関係する。例示的な具体例では、たとえばモネル400などの、既知の合金と同様のマトリックスの化学的性質を維持することが、有益であり得る。例示的な具体例では、既知の合金と同様のマトリックスの化学的性質を維持するために、1300Kでの合金のマトリックスの化学的性質を既知の合金のものと比較した。この種の比較は、マトリックスの近接度と呼ばれる。たとえば、モネル、Cr:28~34、Ni:残部。
【0074】
例示的な具体例では、マトリックスの近接度は、上記の合金の50%以上、55以上、60%以上、70%以上、80%以上、85%以上、又は90%以上である。マトリックスの近接度は、エネルギー分散型分光法(EDS:energy dispersive spectroscopy)などの、いくつかの手法で判定できる。
【0075】
以下の式を使用して、モデル化された合金マトリックスと既知の耐食性の合金との類似性又は近接度を計算できる。100%の値は、比較された元素間の完全な一致を意味する。
【数1】

は、参照する合金中のn番目の元素の割合である。
は、モデル化された合金のマトリックス中のn番目の元素の、計算された割合である。
Σrは、比較対象の元素の合計の割合である。
mは、比較に使用された溶質元素の数である。
【0076】
第5の熱力学的基準は、合金の液相線温度に関係し、これは、ガスアトマイジング製造プロセスに対する合金の適合性を判定するのに役立ち得る。液相線温度は、合金がまだ100%液体である、最低温度である。一般に、液相線温度がより低いと、それに応じてガスアトマイジングプロセスへの適合性が増す。例示的な具体例では、合金の液相線温度は、1850K以下であり得る。例示的な具体例では、合金の液相線温度は、1600K以下であり得る。例示的な具体例では、合金の液相線温度は、1450K以下であり得る。
【0077】
図2では、合金P82-X6の熱力学的挙動が示されている。この図は、ニッケル・マトリックス103中に、1500Kで5%を超える、過共晶FCC炭化物101を析出させる材料を示している。101は、温度の関数としてのFCC炭化物の分率を示しており、これは、孤立した過共晶の相を形成する。102は、M6C炭化物に加えてFCC炭化物を含む、1300Kでの全硬質相含有量を明示している。したがって、過共晶硬質相は、合金の全硬質相の50%を超えて構成している。103は、FCC_L12ニッケル・マトリックスである、合金のマトリックスを明示している。インコネル625と比較した場合、合金103のマトリックスの近接度は、60%より高い。
【0078】
Cタイプの炭化物も、より低温で析出し、1300Kで約15モル%の総炭化物含有量(12.6%のFCC炭化物、2.4%のMC炭化物)を形成する。FCC炭化物は、合金中の孤立した炭化物を表し、合金中の全炭化物の大部分(>50%)を形成する。矢印は、FCC_L12マトリックスの組成物がマトリックスの近接度の式に入れるためにマイニングされる箇所を、具体的に指している。この実施例に示されるように、すべての硬質相の体積分率は、5モル%を超え、50%を上回る炭化物の分率が、既知の過共晶の相として形成され、孤立した形態を形成し、残部のFCC_L12マトリックス相は、インコネル625と、60%を上回る近接度を有する。
【0079】
この計算では、図2には示されていないが、マトリックスの組成は、Crが18重量%、Feが1重量%、Moが9重量%、及びTiが1重量%、残部がニッケルである。P82-X6のマトリックスの化学的性質は、P82-X6のバルクの化学的性質とは完全に異なることが理解できる。P82-X6は、インコネル625と同様の腐食性能を有するよう設計されており、インコネル625とのマトリックスの近接度は87%である。
【0080】
図3では、合金P76-X23の熱力学的挙動が示されている。この図は、ニッケル・マトリックス201中に、共晶NiB 203を析出させる材料を示している。201は、好ましい具体例によれば、1850K未満である合金の液相線温度を図解している。202は、合金中の硬質相、この場合は1200Kで5モル%を超えるホウ化ニッケル(NiB)のモル分率を示している。203は、マトリックス相の分率を示しており、この場合、マトリックスの化学的性質は1200Kでマイニングされ、モネルとのマトリックスの近接度は60%を超えている。合金の液相線温度は1400Kであるため、この材料は、ガスアトマイジングに非常に好適である。Ni3Bは、この実施例では硬質相であり、1300Kで66%のモル分率で存在する。マトリックスの化学的性質は、Cuが33重量%、残部がニッケルである。P76-X23のマトリックスの化学的性質は、P76-X23のバルクの化学的性質とは完全に異なることが理解できる。P76-X23は、モネル400と同様の腐食性能を有するよう設計されており、P76-X23のモネル400とのマトリックスの近接度は100%である。
【0081】
ミクロ組織基準
例示的な具体例では、合金は、合金のミクロ組織基準によって説明され得る。例示的な具体例では、合金は、記載されるミクロ組織基準のいくつかを満たすものとして特徴づけられ得る。例示的な具体例では、合金は、記載されるミクロ組織基準のすべてを満たすものとして特徴づけられ得る。
【0082】
第1のミクロ組織基準は、測定される、硬質粒子の体積分率の合計に関する。硬質粒子は、この開示の諸目的の場合、1000以上のビッカース硬度を示す相として定義され得る。硬質粒子の総濃度は、ビッカース硬度が1000以上で、且つ合金中では1500Kで熱力学的に安定している、すべての相の総モル%として定義され得る。例示的な具体例では、合金は、少なくとも3体積%、少なくとも4体積%、少なくとも5体積%、少なくとも8体積%、少なくとも10体積%、少なくとも12体積%、少なくとも15体積%の硬質粒子、少なくとも20体積%の硬質粒子、少なくとも30体積%の硬質粒子、少なくとも40体積%の硬質粒子、少なくとも50体積%の硬質粒子、又はこれらのいずれかの値間の任意の範囲を有する。
【0083】
例示的な具体例では、硬質粒子の分率は、合金の所期のプロセスにしたがって変化し得る。たとえば溶射合金の場合、硬質粒子の分率は、40から60体積%の間であり得る。レーザ、プラズマ転写アーク、又は他のワイヤ溶接の応用によって溶接することを目的とした合金の場合、硬質粒子の相の分率は、15から30体積%の間であり得る。
【0084】
第2のミクロ組織基準は、合金中の過共晶の孤立した硬質相の分率に関する。本明細書で使用される「孤立した」は、特定の孤立した相(球状又は部分的に球状の粒子など)が、他の硬質相に連結されない状態で保持される具体例を含む。たとえば、孤立した相は、マトリックス相によって100%囲まれ得る。これは、靭性の低い「ブリッジ」として作用し、亀裂がミクロ組織を貫くことを可能にする、長い針を形成し得る棒状の相とは対照的であり得る。
【0085】
合金の亀裂発生率を低くするために、連続的な粒界相ではなく、孤立した過共晶の相を形成することが有益であり得る。例示的な具体例では、孤立した過共晶の硬質相は、合計で、合金中に存在する全硬質相の分率の40体積%以上、45体積%以上、50体積%以上、60体積%以上、70体積%以上、75体積%以上、又は80体積%以上、又はこれらのいずれかの値間の任意の範囲となる。
【0086】
第3のミクロ組織基準は、合金の耐食性の向上に関する。ニッケル基合金の耐食性を高めるに、マトリックス中の、クロム及びモリブデンの総重量%を高くすることが有益であり得る。例示的な具体例では、EDSで測定される、マトリックス中のクロム及びモリブデンの総含有量は、15重量%以上、18重量%以上、20重量%以上、23重量%以上、25重量%以上、27重量%以上、30重量%以上、又はこれらのいずれかの値間の任意の範囲であり得る。
【0087】
第4のミクロ組織基準は、たとえばモネルなどの既知の合金のマトリックスと比較した、合金のマトリックスの近接度に関する。エネルギー分散型分光計(EDS:Energy Dispersive Spectrometer)を使用して、合金のマトリックスの化学的性質を測定した。例示的な具体例では、マトリックスの近接度は、既知の合金の50%以上、55%以上、60%以上、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、又はこれらのいずれかの値間の任意の範囲である。
【0088】
図4は、PTA溶接によって生成されたP82-X6のミクロ組織のSEM画像を示している。この場合、合金は、実験目的の粉末混合物として生成した。301は、1500Kで5%を超える体積分率を有する、孤立した炭化ニオブ析出物を強調表示し、302は、合金の全硬質相の50%を超えて構成される、過共晶硬質相を強調表示し、303は、インコネル625と比較すると、マトリックスの近接度が60%を超えている、マトリックスを強調表示している。炭化物の析出物は、孤立した形態(より大きいサイズ)と共晶の形態(より小さいサイズ)との組合せを形成し、両方とも総硬質相の含有量に寄与する。この実施例では、孤立した形態の硬質相は、全炭化物の分率の50体積%を超えて構成されている。
【0089】
性能基準
例示的な具体例では、表面硬化層は、PTA肉盛り又はレーザ肉盛りを含むがこれに限定されるものではない、溶接被覆プロセスによって生成される。
【0090】
例示的な具体例では、合金は、いくつかの有利な性能上の特質を有し得る。例示的な具体例では、合金が、1)耐摩耗性が高い、2)レーザ肉盛り加工又は他の溶接方法で溶接されたときに、亀裂が最小又はまったくない、及び3)耐食性が高い、のうちの1つ又は複数を有することは有益であり得る。表面硬化合金の耐摩耗性は、ASTM G65A乾式砂摩耗試験を使用して定量化できる。材料の耐亀裂性は、合金の染色浸透試験を使用して定量化できる。合金の耐食性は、ASTM G48、G59、及びG61試験を使用して定量化できる。列挙されたすべてのASTM試験について、その全体を本明細書に援用する。
【0091】
例示的な具体例では、表面硬化層は、250mm未満、100mm未満、30mm未満、又は20mm未満の、ASTM G65Aでの摩耗損失を有し得る。例示的な具体例では、表面硬化層は、コーティングの、2.54cm(1平方インチ)当り5つの亀裂、2.54cm(1平方インチ)当り4つの亀裂、2.54cm(1平方インチ)当り3つの亀裂、2.54cm(1平方インチ)当り2つの亀裂、2.54cm(1平方インチ)当り1つの亀裂、2.54cm(1平方インチ)当り亀裂0、又はこれらのいずれかの値間の任意の範囲を示し得る。例示的な具体例では、亀裂は、別々の部分に分かれることなく、表面がそれに沿って裂けた表面上の線である。
【0092】
例示的な具体例では、表面硬化層は、既知の合金の50%以上、55%以上、60%以上、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、98%以上、99%以上、99.5%以上、又はこれらのいずれかの値間の任意の範囲の、耐食性を有し得る。例示的な具体例では、合金は、約28%のCaCl電解液、pH=9.5の環境において、0.025mm/年(1mpy)以下の腐食速度であり得る。例示的な具体例では、合金は、約28%のCaCl電解液、pH=9.5の環境において、0.015mm/年(0.6mpy)以下の腐食速度であり得る。例示的な具体例では、合金は、約28%のCaCl電解液、pH=9.5の環境において、0.010mm/年(0.4mpy)以下の腐食速度であり得る。例示的な具体例では、合金は、G-59/G-61にしたがって、16時間3.5%塩化ナトリウム溶液中で、0.0025mm/年(0.1mpy)未満の耐食性を有し得る。例示的な具体例では、合金は、G-59/G-61にしたがって、16時間3.5%塩化ナトリウム溶液中で、0.0020mm/年(0.08mpy)未満の耐食性を有し得る。
【0093】
例示的な具体例では、表面硬化層は、高速酸素燃料(HVOF)溶射を含むがこれに限定されるものではない溶射プロセスで生成される。
【0094】
例示的な具体例では、コーティングのビッカース硬度は、650以上であり得る。例示的な具体例では、溶射プロセスのビッカース硬度は、700以上であり得る。例示的な具体例では、溶射プロセスのビッカース硬度は、900以上であり得る。例示的な具体例では、溶射コーティングの付着力は、51,711kPa(7,500psi)以上であり得る。例示的な具体例では、溶射コーティングの付着力は、58,605kPa(8,500psi)以上であり得る。例示的な具体例では、溶射コーティングの付着力は、65,500kPa(9,500psi)以上であり得る。
【0095】
「実施例1」
P82-X6のPTA溶接
合金P82-X6を、PTA及び/又はレーザ肉盛りに好適となるように、53~150μmの粒子サイズに分散した粉末の中へガスアトマイジングした。合金を、2組のパラメータを使用してレーザ肉盛りした。1)1.8kWのレーザ出力及び20L/分の流速、並びに2)2.2kWのレーザ出力及び14L/分の流速。両方の場合において、図5に示されるように、コーティングは、意図した通りに、ニッケル・マトリックス402中に微細な孤立したニオブ/炭化チタン析出物401を示した。レーザ肉盛りの300グラム力でのビッカース硬度は、パラメータの組1と2とで、それぞれ435と348であった。ASTM G65試験では、パラメータの組1と2とで、それぞれ1.58g(209mm)の損失及び1.65g(200mm)の損失であった。
【0096】
「実施例2」
P76-X23及びP76-X24のHVOF噴射
合金P76-X23及びP76-X24を、HVOF溶射処理に好適となるように、15~45μmの粒子サイズに分散した粉末の中へガスアトマイジングした。両方の粉末は、非常に微細なスケールの形態を形成し、ニッケル・マトリックス相とホウ化ニッケル相との両方が、計算モデル化によって予測された通りに存在するように見えるが、定量的に区別して測定することは非常に困難である。図6に示されるように、501はガスアトマイジング粉末であり、502は粉末の、結果として得られたコーティングであり、マトリックス相及びホウ化Ni相504(たとえば、ガスアトマイジング粉末の共晶ニッケル/ホウ化ニッケル構造)に加えて、P76-X24合金はまた、モデルによって微細な孤立した粒子と予測された、ホウ化クロム析出物503も形成する。505は、HVOF噴射コーティングでの、主にニッケル/ホウ化ニッケル共晶構造の領域を強調表示し、506は、コーティングに多くのホウ化クロム析出物を含む領域を強調表示している。両方の合金は、コーティングの厚さが200~300μmになるようにHVOF噴射し、高密度のコーティングを形成した。コーティングの300グラム力のビッカース硬度は、P76-X23とP76-X24とでそれぞれ、693と726であった。P76-X23付着力試験では、最大68,941kPa(9,999psi)で接着不良が発生し、P76-X24は、66,024kPa(9,576psi)及び68,941kPa(9,999psi)に達する2種類の試験で、75%の付着力、25%の接着不良を示した。ASTM G65A(ASTM G65B試験から変換した)試験では、P76-X24で、87mmの損失を示した。ASTM G65A試験では6,000回転を使用し、手順Bでは2,000回転を使用し、通常、溶射コーティングなどの薄いコーティングに使用される。
【0097】
P76-X24は、約28%のCaCl電解液、pH=9.5の下で試験し、その結果0.010mm/年(0.4mpy)の腐食速度が測定された。亀裂の入る硬質クロムは、比較すると、同様の環境で、0.027mm/年(1.06mpy)の速度を示した。硬質Crは、耐食性及び耐摩耗性の両方を必要とする様々な用途に関連するコーティングとして使用される。例示的な具体例では、HVOFコーティングの形での合金は、約28%のCaCl電解液、pH=9.5の環境において、0.025mm/年(1mpy)以下の腐食速度を生じさせる。例示的な具体例では、HVOFコーティングの形での合金は、約28%のCaCl電解液、pH=9.5の環境において、0.015mm/年(0.6mpy)以下の腐食速度を生じさせ得る。例示的な具体例では、HVOFコーティングの形での合金は、約28%のCaCl電解液、pH=9.5の環境において、0.010mm/年(0.4mpy)以下の腐食速度を生じさせ得る。例示的な具体例では、HVOFコーティングの形での合金は、ECP(電気化学的電位:electrochemical potential)試験で、非透過性コーティングを生成する。
【0098】
「実施例3」
WC/Cr3C2、Ni合金マトリックス混合物のHVOF噴射
20重量%のモネルと混合された、80重量%のWC/Cr3C2(50/50体積%)の混合物の混合物を、溶射処理に好適である15~45μmに凝集及び焼結した。図7に示されるように、HVOFコーティングは、300グラム力で946のビッカース硬度を有し、気孔率が0.43%と測定された、密度の高いコーティングを形成した。HVOFコーティングにより、ASTM G65Aで、約12mmの質量損失が発生した。図7は、実施例3によるWC/Cr+Ni合金の凝集及び焼結粉末、具体的には、20重量%のモネルと混合された80重量%のWC/Cr3C2(50/50体積%)の混合物の、SEM画像を示している。
【0099】
「実施例4」
インコネル625と比較した、P82-X13、14、15、18、19の溶接の検討
インコネル625と比較した、様々な炭化物含有量及び形態のいくつかの合金を評価する、溶接の検討を行った。検討するすべての合金が、インコネル625に類似したマトリックスを形成することを目的としており、これはマトリックスの近接度を使って定量化され、インコネル625のバルクの組成に正確に類似しているマトリックスに100%一致する。すべての合金を、耐亀裂性を試験するために、3つの重なり合う層の形でレーザ溶接した。同様に、各合金の2層の溶接は、亀裂及び他の特性を試験するために、プラズマ転写アーク溶接によって生成した。
【0100】
【表2】
【0101】
P82-X18は、この検討の結論に好都合な結果をもたらす、この開示の例示的な具体例を表す。P82-X18は、PTA及びレーザの、両方のプロセスにおいて、インコネル625より著しく硬質である。硬度が増したにもかかわらず、レーザ又はPTA肉盛りの試験片に亀裂は見られなかった。P82-X18は、両方のプロセスでインコネル625と比較して、耐摩耗性の向上を示している。硬度が増加する全般的な傾向は、表2で実証されたように、試験したすべての合金に当てはまる。
【0102】
ただし、硬度を上げても、すべての場合に耐摩耗性が向上するわけではない。P82-X13、P82-X14、及びP82-X15はすべて、より硬質で、且つ炭化物を含んでいるにもかかわらず、インコネル625よりも高い摩滅率を示した。この結果は、全炭化物の分率及び合金の硬度と比較して、有利な炭化物の形態が発見されたことを実証している。
【0103】
合金P82-X18は、この開示の例示的な具体例の熱力学的基準、ミクロ組織上の基準、及び性能上の基準を満たす。P82-X18は、検討した工業的に関連する溶接プロセスで、8.1モル%の孤立した炭化物を形成すると予測され、8~12%の孤立した炭化物を形成する。この合金はまた、9.9モル%の粒界硬質相を形成すると予測され、実際に10体積%以下の粒界硬質相を形成する。孤立した炭化物の含有量は、合金中の総炭化物含有量の40%を超える。孤立した炭化物の分率のこの高い比率は、総炭化物の分率だけで予想され得るものを超える、向上した摩滅への耐性を実現する。
【0104】
【表3】
【0105】
【表4】
【0106】
P82-X18のマトリックスは、EDSを使って測定し、Cr:19~20重量%、Mo:10~12重量%、Ni:残部、が得られた。したがって、マトリックスの組成は非常に類似しており、Cr:20~23、Mo:8~10、Nb+Ta:3.15~4.15、Ni:残部である典型的なインコネル625の製造範囲と、やや重複している。P82-X18は、G-48塩化第2鉄浸漬試験で24時間試験し、インコネル625と同様に、腐食は見られなかった。P82-X18は、G-59/G-61ASTM規格にしたがって3.5%塩化ナトリウム溶液中で16時間腐食試験し、0.0019~0.0020mm/年(0.075~0.078mpy(ミル/年))の腐食速度が測定された。
【0107】
例示的な具体例では、G-59/G-61にしたがって、3.5%塩化ナトリウム溶液中で16時間測定した材料の腐食速度は、0.0025mm/年(0.1mpy)未満である。例示的な具体例では、G-59/G-61にしたがって、3.5%塩化ナトリウム溶液中で16時間測定した材料の腐食速度は、0.0020mm/年(0.08mpy)未満である。
【0108】
例示的な具体例では、本明細書に開示される合金、たとえばP82-X18は、炭化物金属基複合材料(MMC:metal matrix composite)の金属成分として、ニッケル又は他の一般的な材料と取り換えて使用できる。MMCのタイプの一般的な実施例は、重量で、60重量%のWC、40重量%のNiを含む。この実施例でP82-X18を使用すると、WCが60重量%、P82-X18が40重量%のタイプのMMCが得られるであろう。様々な炭化物比及び炭化物のタイプを使用できる。
【0109】
「実施例5」
P82-X18のHVOF噴射の検討
P82-X18を、水素燃料HVOFプロセスを使用して溶射した。その結果得られたコーティングは、68,948kPa(10,000psi)の付着強度、700HV300のビッカース硬度、及びASTM G65Bでの0.856の質量損失(10.4.6g/mm体積損失)であった。
【0110】
「実施例6」
30%Ni-Cu凝集及び焼結材料のHVOF噴射の検討
以下の式にしたがって、2種類の粉末を、凝集及び焼結プロセスを通じて製造した。1)65~75%WC/Cr+25~35%Ni-Cu合金、及び2)65~75%Cr+25~35%Ni-Cu合金。最初の混合物を明確にするために、凝集及び焼結された粒子の総体積の分率の65~75%は炭化物であり、残部はNi-Cu金属合金である。粒子の炭化物含有量自体は、WCとCrとの両方の炭化物タイプの組合せで構成される。例示的な具体例では、WC/Crの比は、体積で0から100である。例示的な具体例では、WC/Crの比は、体積で0.33から3である。例示的な具体例では、WC/Crの比は、体積で0.25から5である。例示的な具体例では、WC/Crの比は、0.67から1.5である。Ni-Cu合金の組成は、Cu:20~40重量%、好ましくはCu:25~35重量%、さらに好ましくは:Cu:28~34重量%、残部のニッケル及び他の一般的な不純物は、それぞれ3重量%未満である。
【0111】
両方の粉末をHVOFプロセスで噴射し、コーティングを形成して、次いで試験した。粉末1及び粉末2によって生成したコーティングは、約28%のCaCl電解液、pH=9.5の溶液中で、それぞれ0.0038mm/年(0.15mpy)及び0.0176mm/年(0.694mpy)の腐食速度を実証した。粉末1及び粉末2によって生成したコーティングは、ECP試験で測定されたように、非透過性であった。粉末1と粉末2によって生成したコーティングは、ASTM G65Aで、それぞれ11.3mm及び16.2mmの摩耗体積損失を実証した。粉末1と粉末2によって生成したコーティングは、それぞれ816HV300及び677HV300の微小硬度値を実証した。両方の粉末によって生成したコーティングは、86,184kPa(12,500psi)を超える接合強度であった。
【0112】
用途
この開示に記載されている合金は、様々な用途及び産業で使用できる。使用用途のいくつかの非限定的な実施例には、上記で論じた仕切弁に加えて、露天掘り、海洋、電力産業、石油及びガス、並びにガラス製造用途が含まれる。
【0113】
露天掘り用途には、以下の構成要素及び以下の構成要素用コーティングが含まれる。泥漿輸送管路用の耐摩滅性スリーブ及び/又は耐摩滅性表面硬化、ポンプ筐体又は羽根車を含むマッド・ポンプ構成要素又はマッド・ポンプ構成要素用の表面硬化、シュート・ブロックを含む鉱石供給シュート構成要素又はシュート・ブロックの表面硬化、ロータリ・ブレーカ用スクリーン、バナナ・スクリーン、及び揺動スクリーンを含むがこれらに限定されない分離スクリーン、自生粉砕ミル及び半自生粉砕ミルのライナ、地面係合ツール及び地面係合ツールの表面硬化、バケット及びダンプカーのライナ用当板、採鉱ショベルのヒール・ブロック及び採鉱ショベルのヒール・ブロック用の表面硬化、地均し機の排土板及び地均し機の排土板用の表面硬化、スタッカ・リクレーマ、整粒粉石機(sizer crusher)、採鉱構成要素及び他の粉砕構成要素用の一般的な摩滅総合対策。
【0114】
前述の説明から、本発明のニッケル基、銅基、又はニッケル-銅基の表面硬化合金及び使用方法が開示されていることが理解されよう。いくつかの構成要素、技法、及び態様が、ある程度の特殊性をもって説明されてきたが、この開示の精神及び範囲から逸脱することなく、本明細書の上記の特定の設計、構造、及び方法論に、多くの変更を加えることができることは明らかである。
【0115】
以下の刊行物は、その全体を本明細書に援用する。
米国特許第8,146,889号、PCT国際出願/欧州特許出願第2018/071248号、国際公開第2013/129939号、及び米国特許出願公開第2004/0118455号。
【0116】
この開示において別々の実施態様に関連して説明されている特定の特徴は、単一の実施態様において組み合わせて実施することもできる。逆に、単一の実施態様に関連して説明されている様々な特徴は、別々に又は任意の好適な部分的組合せで、複数の実施態様で実施することもできる。さらに、特徴は、特定の組合せで作用するものとして上記で説明されている場合があるが、特許請求された組合せからの1つ又は複数の特徴は、場合によっては該組合せから切り取ることができ、該組合せは、任意の部分的組合せ又は任意の部分的組合せの変形形態として特許請求され得る。
【0117】
さらに、方法は、特定の順序で図面に描かれるか、又は明細書に記載されている場合があるが、かかる方法は、所望の結果を実現させるのに、示される特定の順序又は連続した順序で実行する必要はなく、またすべての方法を実行する必要はない。図示又は説明されていない他の方法が、例示的な方法及びプロセスに組み込まれてもよい。たとえば、1つ又は複数の追加の方法が、記載された方法のいずれかの前、後、同時、又は該方法間に実行されてもよい。さらに、該方法は、他の実施態様で再配置又は並べ替えられてもよい。また、上記の実施態様における様々なシステム構成要素の分離は、すべての実施態様においてかかる分離を必要とするものと理解されるべきではなく、説明された構成要素及びシステムは、全体的に、単一の製品に一体に統合されるか、又は複数の製品にパッケージ化されてもよいことを理解されたい。さらに、他の実施態様は、この開示の範囲内にある。
【0118】
「can」、「could」、「might」、又は「may」などの条件を表す言葉は、特に具体的に記載しない限り、又は使用される文脈内でそうでないと理解されない限り、全般的に、特定の具体例が、特定の特徴、要素、及び/又はステップを含むか又は含まないことを、伝えることを意図している。したがって、かかる条件を表す言葉は、全般的に、特徴、要素、及び/又はステップが、1つ又は複数の具体例に何らかの形で必要であることを、意味することを意図していない。
【0119】
「X、Y、及びZのうちの少なくとも1つ」という句などの接続的な言葉は、特に具体的に記載しない限り、さもなければ全般的に、項目、用語などがX、Y、又はZのいずれかであり得ることを伝えるために使用される文脈によって理解される。したがって、かかる接続的な言葉は、全般的に、特定の具体例が、Xの少なくとも1つ、Yの少なくとも1つ、及びZの少なくとも1つの存在を必要とすることを、意味することを意図していない。
【0120】
本明細書で使用される用語「approximately」、「about」、「generally」、及び「substantially」などの、本明細書で使用される程度の言葉は、依然として所望の機能を実行するか又は所望の結果を実現させる、記載された値、量、又は特質に近い値、量、又は特質を表す。たとえば、「approximately」、「about」、「generally」、及び「substantially」という用語は、記載された量の10%以下の範囲内、5%以下の範囲内、1%以下の範囲内、0.1%以下の範囲内、及び0.01%以下の範囲内にある量を指す場合がある。記載された量が0の場合(たとえばnone、having no)、上記で列挙した範囲は特定の範囲であり、値の特定%の範囲内にない可能性がある。たとえば、記載された量の10重量/体積%以下の範囲内、5重量/体積%以下の範囲内、1重量/体積%以下の範囲内、0.1重量/体積%以下の範囲内、及び0.01重量/体積%以下の範囲内。
【0121】
様々な具体例に関連する任意の特定の特徴、態様、方法、特性、特質、品質、属性、要素などの本明細書での開示は、本明細書に記載の他のすべての具体例で使用できる。さらに、本明細書に記載のどんな方法も、列挙されたステップを実行するのに好適な、任意のデバイスを使用して実施できることが認識されよう。
【0122】
いくつかの具体例及び具体例の変形例が詳細に説明されてきたが、これを使用する他の修正形態及び方法が、当業者には明らかであろう。したがって、様々な適用例、修正形態、材料、及び置換形態は、本明細書の独自の発明の開示又は特許請求の範囲から逸脱することなく、同等物で作ることができることを理解されたい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2021-06-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
坑井の流体を制御する装置であって、前記装置は、
弁箱を具備する仕切弁であって、前記弁箱は、空洞及び前記空洞を横切る流路を有する仕切弁と、
前記流路及び前記空洞の交差部で前記弁箱に装着された弁座リングであって、前記弁座リングは、鋼合金で形成された係合面を有する弁座リングと、
前記空洞内にあり、鋼合金で形成された係合面を有し、開位置及び閉位置の間を移動しながら前記弁座リングの前記面と摺動して係合する弁体と、
前記弁座リングの前記係合面上に形成された、硬化された外側の層であって、前記硬化された層は、コバルトを含まない原材料から形成され、前記硬化された層は、コバルトを含まないマトリックス中の炭化タングステンを含む、硬化された外側の層と、
前記硬化された外側の層上の、ダイヤモンド・ライク・カーボンの耐摩擦性コーティングと
を備える、装置。
【請求項2】
前記コバルトを含まない原材料は、重量%で、
Ni:残部
C:0.5~2
Cr:10~30
Mo:5.81~18.2
Nb+Ti:2.38~10
を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記コバルトを含まない原材料は、重量%で、
Ni:残部
C:約0.84~約1.56
Cr:約14~約26
Mo:約8.4~約15.6
Nb:約4.2~約7.8、及び
Ti:約0.35~約0.65
を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記コバルトを含まない原材料は、重量%で、
Ni:残部
C:約1.08~約1.32
Cr:約13~約22
Mo:約10.8~約13.2、及び
Nb:約5.4~約6.6
を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記表面硬化層のコバルトを含まないマトリックスは、ニッケル・マトリックスを含み、前記ニッケル・マトリックスは、
1,000ビッカース硬度以上で、合計5モル%以上の硬質相と、
組み合わされた合計が20重量%以上のクロム及びモリブデンと、
全硬質相の分率のうちの合計50モル%以上の、孤立した過共晶の硬質相と、
0.33~3の比率のWC/Crと、
250mm未満の、ASTM G65Aでの摩耗損失と、
650以上のビッカース硬度と
を有する、請求項に記載の装置。
【請求項6】
前記表面硬化層は、750以上のビッカース硬度を有する、請求項に記載の装置。
【請求項7】
前記表面硬化層は、2.54cm(1平方インチ)当り2つ以下の亀裂を示し、62,053kPa(9,000psi)以上の付着力を有し、2体積%以下の気孔率を有する、請求項に記載の装置。
【請求項8】
前記表面硬化層は、0.5体積%以下の気孔率を有する、請求項に記載の装置。
【請求項9】
前記表面硬化層は、28%のCaCl電解液、pH=9.5の環境において、0.025mm/年(1mpy)以下の腐食速度、好ましくは28%のCaCl 電解液、pH=9.5の環境において、0.010mm/年(0.4mpy)以下の腐食速度を有する、請求項に記載の装置。
【請求項10】
前記表面硬化層は、ASTM G59/ASTM G61にしたがって、16時間3.5%塩化ナトリウム溶液中で、0.0025mm/年(0.1mpy)未満の腐食速度、好ましくはASTM G59/ASTM G61にしたがって、16時間3.5%塩化ナトリウム溶液中で、0.0020mm/年(0.08mpy)未満の腐食速度を有する、請求項に記載の装置。
【請求項11】
ニッケル・マトリックスは、Ni:残部、X>20重量%で定義され、XはCu、Cr、又はMoのうちの少なくとも1つを表す、耐食性合金と比較して80%以上のマトリックス近接度を有する、請求項に記載の装置。
【請求項12】
前記耐食性合金は、モネル400を含む、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記表面硬化層は、油圧シリンダ、テンション・ライザ、マッド・モータ用ロータ、又は油田構成要素の用途に使用される、請求項に記載の装置。
【請求項14】
前記コバルトを含まないマトリックスは耐食性のマトリックスを形成し、熱力学的平衡条件下で、前記耐食性マトリックスは、
合計50モル%以上の硬質相と、
1550K以下の液相線温度と
を有する、請求項に記載の装置。
【請求項15】
前記コバルトを含まない原材料は、モネルと、WC又はCrのうちの少なくとも一方との混合物を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項16】
前記コバルトを含まない原材料は、重量で、
75~85%WC+15~25%モネル、
65~75%WC+25~35%モネル、
60~75%WC+25~40%モネル、
75~85%Cr+15~25%モネル、
65~75%Cr+25~35%モネル、
60~75%Cr+25~40%モネル、
75~85%WC/Cr+15~25%モネル、
65~75%WC/Cr+25~35%モネル、及び
60~75%WC/Cr+25~40%モネル
からなる群から選択される、請求項1に記載の装置。
【請求項17】
耐食性マトリックスのWC/Crの比は、体積で0.0.2~5である、請求項14に記載の装置。
【請求項18】
表面硬化層は、
250mm未満の、ASTM G65Aでの摩耗損失と、
前記表面硬化層をPTA又はレーザ肉盛り加工で形成する場合、2.54cm(1平方インチ)当り2つ以下の亀裂と
を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項19】
前記表面硬化層は、28%のCaCl電解液、pH=9.5の環境において、0.025mm/年(1mpy)以下の腐食速度を示す、不浸透性のHVOFコーティングを有する、請求項18に記載の装置。
【請求項20】
前記表面硬化層は、
650以上のビッカース硬度と、
前記表面硬化層をHVOF溶射プロセスで形成する場合、62,053kPa(9,000psi)以上の付着力と
をさらに有する、請求項20に記載の装置。
【請求項21】
前記表面硬化層は、
750以上のビッカース硬度と、
前記表面硬化層をHVOF溶射プロセスで形成する場合、2体積%以下、好ましくは0.5%以下の気孔率と
を有する、請求項18に記載の装置。
【請求項22】
デバイスを製造する方法であって、
負荷支持面に硬化層を生成するために、コバルトを含まない原材料の中の炭化タングステンを、前記デバイスの構成要素の選択された前記負荷支持面に溶射するステップと、
前記硬化層にダイヤモンド・ライク・カーボン層の低摩擦コーティングを施すステップと、
前記ダイヤモンド・ライク・カーボン層を有する弁内の前記構成要素を、前記デバイスの係合面と摺動して係合する形で組み立てるステップと
を含み、前記負荷支持面は、前記デバイスの弁座リングの係合面を有し、前記係合面は、前記弁座リングの前記係合面をわたって直線的に移動する前記デバイスの一部の面を含む、方法。
【請求項23】
前記ダイヤモンド・ライク層に減摩剤を付着させるステップをさらに含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
記コバルトを含まない原料は、ニッケル原料、銅原料、及びニッケル-銅原料のうちの少なくとも1種類である、請求項22に記載の方法。
【国際調査報告】