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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-16
(54)【発明の名称】心不全におけるセレノプロテインP
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20220208BHJP
   A61K 33/04 20060101ALI20220208BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220208BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20220208BHJP
   C07K 14/46 20060101ALN20220208BHJP
【FI】
G01N33/68 ZNA
A61K33/04
A61P9/00
G01N33/53 D
C07K14/46
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021535879
(86)(22)【出願日】2019-12-20
(85)【翻訳文提出日】2021-07-12
(86)【国際出願番号】 EP2019086844
(87)【国際公開番号】W WO2020128073
(87)【国際公開日】2020-06-25
(31)【優先権主張番号】18214780.1
(32)【優先日】2018-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514122524
【氏名又は名称】シュピーンゴテック ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100170852
【弁理士】
【氏名又は名称】白樫 依子
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ベルクマン
(72)【発明者】
【氏名】オッレ メランデル
(72)【発明者】
【氏名】マルティン マグヌソン
【テーマコード(参考)】
2G045
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA25
2G045CA26
2G045DA36
2G045FB03
2G045FB07
2G045FB12
2G045FB13
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA08
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZA36
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA71
(57)【要約】
本発明の主題は、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、特に心血管死のリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための方法であり、この方法は、a)対象のサンプル中のセレノプロテインPおよび/またはその断片のレベルおよび/または量を決定し、b)心不全を持つ対象でセレノプロテインPおよび/またはその断片について決定されたそのレベルおよび/または量を、(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、特に心血管死のリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクと相関させることを含んでいる。本発明の主題は、患者の層化と、(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、特に心血管死のリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクが大きい心不全患者の治療法を含んでいる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための方法であって、
a)前記対象のサンプル中のセレノプロテインPおよび/またはその断片のレベルおよび/または量を決定し、
b)心不全を持つ対象でセレノプロテインPおよび/またはその断片の決定された前記レベルおよび/または前記量を、(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクと相関させること
を含む、方法。
【請求項2】
心不全を持つ対象において、(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクが、前記対象のサンプル中のセレノプロテインPおよび/またはその断片の決定された前記レベルおよび/または前記量が域値未満であるときに増大している、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための請求項1に記載の方法。
【請求項3】
心不全を持つ対象において、(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクが、前記サンプル中のセレノプロテインPおよび/またはその断片の前記レベルおよび/または前記量が域値未満であるときに増大していて、その域値は、2.0~4.4 mg/L、好ましくは2.3~3.8 mg/L、より好ましくは2.6~3.4 mg/L、より好ましくは3.0~3.3 mg/Lであり、最も好ましくはその域値は3.3 mg/Lである、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
心不全を持つ対象において、(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクが、前記サンプル中のセレノプロテインPおよび/またはその断片の前記レベルおよび/または前記量が域値未満であるときに増大していて、その域値を、さまざまな域値設定で真の陽性率(感度、「疾患」集団、例えばその状態を発症した対象)を偽陽性率(1-特異度、「正常な」集団、例えばその状態を発症しなかった対象)に対してプロットして受信者操作特性曲線(ROC曲線)を計算することによって決定された、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
心不全を持つ対象において、(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクが、前記サンプル中のセレノプロテインPおよび/またはその断片の前記レベルおよび/または前記量が域値未満であるときに増大していて、その域値は、心不全集団のより低い範囲、例えば4.4 mg/L未満、より好ましくは3.8 mg/L未満、より一層好ましくは3.4 mg/L未満、最も好ましくは3.3 mg/Lまたはそれ未満である、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記心血管イベントが、心筋梗塞と、脳卒中と、冠動脈血行再建と、心不全を含む群から選択され、前記死亡が心血管死である、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記死亡が、心筋梗塞または脳卒中または急性心不全と関係する心血管死である、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
セレノプロテインPおよび/またはその断片の前記レベルおよび/または前記量を、配列番号2に結合する少なくとも1つのバインダを用いてイムノアッセイによって決定された、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つのバインダが抗体またはその断片である、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための請求項8に記載の方法。
【請求項10】
セレノプロテインPおよび/またはその断片の前記レベルおよび/または前記量を質量分析によって決定された、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
(i)心血管イベントを起こす前記リスク、および/または(ii)心不全状態が悪化する前記リスク、および/または(iii)死亡する前記リスクを1年間までの期間にわたって評価する、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
心不全が原因で入院または再入院する前記リスクを30日間までの期間にわたって評価する、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記サンプルが体液である、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記サンプルが、全血と、血漿と、血清を含む群から選択される体液である、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
心不全を持っていて、および(i)心血管イベントを起こす増大したリスクを持っていて、および/または(ii)心不全状態が悪化する増大したリスクを持っていて、および/または(iii)死亡する増大したリスクを持っていて、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院する増大したリスクを持っている対象の治療に使用するためのセレン。
【請求項16】
心不全を持っていて、および請求項1~14のいずれか1項に記載の方法に従って決定された、(i)心血管イベントを起こす増大したリスクを持っていて、および/または(ii)心不全状態が悪化する増大したリスクを持っていて、および/または(iii)死亡する増大したリスクを持っていて、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院する増大したリスクを持っている対象の治療に使用するためのセレン。
【請求項17】
心不全を持っていて、および請求項1~14のいずれか1項に記載の方法に従って決定された、(i)心血管イベントを起こす増大したリスクを持っていて、および/または(ii)心不全状態が悪化する増大したリスクを持っていて、および/または(iii)死亡する増大したリスクを持っていて、および/または(iv)心不全が原因で再入院する増大したリスクを持っている対象の治療に使用するためのセレンであって、セレノプロテインPおよび/またはその断片の決定された前記レベルおよび/または前記量が域値未満であり、その域値が2.0~4.4 mg/Lである、セレン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、特に心血管死のリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための方法であり、この方法は、
a)対象のサンプル中のセレノプロテインPおよび/またはその断片のレベルおよび/または量を決定し、
b)心不全を持つ対象でセレノプロテインPおよび/またはその断片の決定されたそのレベルおよび/または量を、(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、特に心血管死のリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクと相関させることを含んでいる。
【0002】
本発明の主題は、患者の層化と、(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、特に心血管死のリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクが大きい心不全患者の治療法を含んでいる。
【背景技術】
【0003】
セレノプロテインP(略号はSepp1、SeP、SELP、SePP)は血漿セレノプロテインであり、セレン栄養マーカーとして機能していて、その血漿レベルはセレン欠乏の程度が大きくなるほど低下する(Yang、Hill他 1989年;Renko、Werner他 2008年)。
【0004】
セレンはセレノプロテインを通じて機能するため、最適な健康状態は、この微量元素が十分に供給されてセレノプロテイン合成における制限因子になることが阻止される場合に実現すると考えられる。セレノプロテインが最適であるかどうかの決定が、セレン栄養必要量の評価に用いられる主要な技術になっている(BurkとHill 2009年)。
【0005】
これまでに、細胞酸化還元プロセスの調節にさまざまな役割を果たす25種類を超えるセレノプロテインが同定されている(Liu、Xu他 2017年)。これらは多彩な組織と細胞の中で発現し、多くの機能を示す。例えばグルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)は細胞内の過酸化水素を解毒し、したがって細胞をリポタンパク質および/またはDNA損傷から保護するのに対し、チオレドキシンレダクターゼ(TrxR)は、チオレドキシンを再生させることによって細胞の酸化還元状態を平衡させる(ReevesとHoffmann 2009年)。
【0006】
セレンは、セレノプロテインによって誘導される防御系において極めて重要な役割を果たしている。その帰結として、血中セレンのレベルが、酸化ストレス関連疾患の1つのバイオマーカーとして広く用いられてきた。さまざまな観察研究において、心血管疾患の発症に対する血清セレンのレベルの意味が調べられ、矛盾する結果が得られている。健康な老齢の対象でセレンを用いた栄養補完試験から、心血管死が有意に減少することと、心臓機能が有意に改善されることが示された(Alehagen、Johansson他 2013年)。これは、介入後の10年間にわたる追跡期間の間にも相変わらず観察された(Alehagen、Aaseth他 2015年)。さらに、低レベルのセレンは、急性冠動脈症候群の患者における将来の心血管死と関係していたが、安定な狭心症の患者ではそうでなかった(Lubos、Sinning他 2010年)。それとは対照的に、いくつかのセレン補充試験をメタ分析した報告によれば、セレン補充は、心血管死に対してと、あらゆる致死的な心血管疾患イベントおよび致死的でない心血管疾患イベントに対して統計的に有意な効果を持っていなかった(Flores-Mateo、Navas-Acien他 2006年;Rees、Hartley他 2013年)。まとめると、これまでの無作為化試験からの結果には一貫性がなく、心血管疾患の予防におけるセレン補充の役割を結論することはできない。
【0007】
研究した集団のセレンのベースライン状態の違いと、セレン補充の用量が、試験研究に一貫性が欠けていることを部分的に説明できる可能性がある。セレンの補充は、セレンのベースライン状態が低い人には利益をもたらすが、十分に高い状態の人には効果がないか、心血管系に有害な効果さえもたらす可能性がある。例えばセレンをすでに十分に摂取している人にセレンを追加して補充すると、2型糖尿病のリスクが大きくなる可能性がある(RaymanとStranges 2013年)。したがってセレンの状態と心血管疾患のリスクの間にはU字形の関係があると考えることが合理的であろう(Bleys、Navas-Acien他 2008年)。
【0008】
セレンの欠乏は心不全を誘導する可能性がある(Saliba、El Fakih他 2010年)。心不全は、より低いレベルのセレンと関係していた(Kosar、Sahin他 2006年)。血清セレンは、鬱血性心不全を持つアフリカ系アメリカ人で低下していた(Arroyo、Laguardia他 2006年)。それとは逆に、Ghaemianらは、鬱血性心不全の患者における血清セレンのレベルは対象の人と同等であることと、セレンのレベルは左心室機能不全の程度と相関していないことを示した(Ghaemian、Salehifar他 2012年)。メタ分析によれば、一般の集団と心血管疾患のリスクが大きい集団におけるセレン補充は、全死因死亡または心血管死または心血管イベントのどれも変化させなかった(Rees、Hartley他 2013年)。
【0009】
セレンを補充する研究(Xia、Hill他 2005年;Burk、Norsworthy他 2006年;Meplan、Crosley他 2007年)は、セレノプロテインPの血漿レベルが、ヒトのセレン栄養状態の最も容易にアクセスできるマーカーであることを示している。非常に有意な相関が、血清中のセレンとセレノプロテインPのレベルの間に見いだされた(Andoh、Hirashima他 2005年)。しかし栄養必要量が満たされると、セレノプロテインPの濃度レベルは摂取したセレンの追加の増加を反映しない。
【0010】
セレノプロテインPは、血漿中のセレンの大半が含まれる分泌糖タンパク質である(Read、Bellew他 1990年、Hill、Xia他 1996年)。セレノプロテインPは、その中に含まれるセレンに関し、2つのドメインに分割することができる。N末端ドメインはアミノ酸配列のほぼ2/3を占めており、U-x-x-C酸化還元モチーフの中に1個のセレノシステイン(U)を含有している。より短いC末端ドメインは、多数のセレノシステインを含有している(例えばラットとマウスとヒトでは9個)。
【0011】
完全長セレノプロテインPが血漿中に存在しているが、セレンの含量が少ない短縮形態も存在している。ラットの血漿から精製したセレノプロテインPは4通りアイソフォームとして存在する。セレノシステイン残基を10個含む完全長アイソフォームに加え、2番目と、3番目と、7番目のセレノシステインの位置で終わっているより短いアイソフォームが存在している。これらのアイソフォームは、それぞれ1個、2個、6個のセレノシステイン残基を含んでいる(Himeno、Chittum他 1996年;Ma、Hill他 2002年)。セレノプロテインPのアイソフォームがマウス(Hill、Zhou他 2007年)とヒト(Akesson、Bellew他 1994年)にそれぞれ存在している証拠がある。ヒトセレノプロテインPは、構造的には381個のアミノ酸残基を含むタンパク質(配列番号1)であり、その中の59位と300位と318位と330位と345位と352位と367位と369位と376位と378位にある10個がセレノシステイン残基であることが予測される。
【0012】
(シグナル配列を切断した後の)分泌される形態のヒトセレノプロテインPは362個のアミノ酸残基(配列番号2)からなり、翻訳後修飾(リン酸化と、多数のグリコシル化部位が含まれる可能性がある)を含有している可能性がある。さらに、いくつかの断片(その中には、セレノプロテインPのN末端部またはC末端部を含む断片が含まれる)が同定されている(Hirashima、Naruse他 2003年;Ballihaut、Kilpatrick他 2012年)。
【0013】
肝臓は血漿中のセレノプロテインPの大半を産生し、血漿中で迅速に代謝される。
【0014】
セレノプロテインPは他の組織でも発現し、恐らくはそれらの組織によって分泌される(Hill、Lloyd他 1993年;Yang、Hill他2000年)。肝臓はセレンをいくつかの供給源から獲得し、セレノプロテインの合成と、臓器からの排出に配分する。
【0015】
具体的には、肝臓は、肝臓固有のセレノプロテインを合成するほか、分泌されるセレン分子であるセレノプロテインPと排出代謝物を合成する。したがって身体全体のセレンは肝臓内で調節されて、代謝に利用できるセレンが、セレノプロテインを合成する経路とセレン排出代謝物を合成する経路の間に分配されているように見える。
【0016】
循環しているセレノプロテインPのレベルが高いことが2型糖尿病と前糖尿病の患者で報告されており、アテローム性動脈硬化症と関係していることが示された(Yang、Hwang他 2011年)。さらに、セレノプロテインPの濃度レベルは、太り過ぎの患者と肥満患者で上昇していた(Chen、Liu他 2017年)。それとは対照的に、セレノプロテインPの濃度レベルは敗血症で低下しており、それが、恐らくセレンのレベルが低下する原因(Hollenbach、Morgenthaler他 2008年)、または肝臓によるこの微量元素の放出が減少する原因(Renko、Hofmann他 2009年)であろう。代謝症候群の状態と関係していた循環セレノプロテインPのレベルの有意な低下は、確認された心血管疾患を抱える患者でも見られた(Gharipour、Sadeghi他 2017年)。
【0017】
心不全におけるセレノプロテインPに関するデータは非常に限られている。Straussらは、心血管疾患(心不全が含まれる)を持つ患者でセレノプロテインPのレベルを決定し、心不全を持つ患者では、心不全のない患者と比べてセレノプロテインPのレベルが上昇していることを見いだした(Strauss、Tomczak他 2018年)。セレノプロテインPと転帰の測定の間の関係は、これらの患者で調べられていない。
【0018】
抗体に基づくアッセイによってセレノプロテインPを定量するいくつかの方法が知られている。すなわち、ラジオイムノアッセイ(Hill、Xia他 1996年)と、酵素結合免疫吸着アッセイ(Andoh、Hirashima他 2005年)と、非常に高感度の化学発光イムノアッセイ(Hollenbach、Morgenthaler他 2008年)と、標準参照材料に対して較正されたごく最近のサンドイッチSELENOP-ELISA(Hybsier、Schulz他 2017年)である。
【0019】
主に糖尿病を抱えていて血漿セレノプロテインPの値が低下している患者で全死因死亡率が増大するリスクがあることが、WO 2015/185672に記載されている。
【0020】
さらに、セレノプロテインPの検出を利用して、健康な対象が初めて心血管イベントを起こすリスクを評価できること、または心血管死のリスクを評価できることが示された(PCT/EP2018/079030)。
【発明の概要】
【0021】
本発明の主題は、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、特に心血管死のリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための方法であり、この方法は、
a)対象のサンプル中のセレノプロテインPおよび/またはその断片のレベルおよび/または量を決定し、
b)心不全を持つ対象のサンプルでセレノプロテインPおよび/またはその断片の決定されたそのレベルおよび/または量を、(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)心不全を持つ対象が死亡するリスク(好ましくは1年以内に死亡するリスク)、特に心血管死のリスク、および/または(iv)心不全が原因で(好ましくは30日以内に)入院または再入院するリスクと相関させることを含んでいる。
【0022】
心不全を持つ対象では、(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、特に心血管死のリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクは、それぞれ、その対象のサンプル中のセレノプロテインPおよび/またはその断片のレベルおよび/または量が低下している場合に増大する。特別な一実施態様では、上記のリスクは、その対象のサンプル中のセレノプロテインPおよび/またはその断片のレベルおよび/または量がそれぞれの域値未満である場合に増大する。
【0023】
死亡のリスクは、心血管死のリスクを意味することができる。心血管死は、脳卒中または心筋梗塞または急性心不全と関係する心血管死を意味する。
【0024】
心不全の悪化は入院の結果である可能性があり、以下のように定義される(Clark、Cherif他 2018年):
(i)臨床的に悪化すること、すなわち心不全の症状と兆候(肺浮腫の発症など)が突然生じ、追加の静脈内治療または機械的治療が必要となること、および/または
(ii)治療しているにもかかわらず急性心不全が徐々に悪化すること、および/または
(iii)標準的な治療に反応しないこと。
【0025】
一実施態様では、心血管イベントは、急性非代償性心不全と、アテローム性動脈硬化症と、高血圧と、心筋症と、心筋梗塞を含む群から選択することができ、心血管死は、心筋梗塞または急性心不全と関係する心血管死から選択される。
【0026】
本発明の特別な一実施態様では、患者は慢性心不全を持ち、心血管イベントは急性非代償性心不全である。
【0027】
一実施態様では、心血管イベントは、急性非代償性心不全と、アテローム性動脈硬化症と、高血圧と、心筋症と、心筋梗塞を含む群から選択することができるが、この心血管イベントは脳卒中ではなく、心血管死は、心筋梗塞または急性心不全と関係する心血管死から選択されるが、この心血管死は脳卒中とは関係がない。
【0028】
本発明の特別な一実施態様では、心血管イベントは、心筋梗塞と、急性非代償性心不全と、脳卒中と、冠動脈血行再建(coronary re-vascularization)と、心筋梗塞または脳卒中または急性心不全と関係する心血管死を含む群から選択される急性心血管イベントである。
【0029】
本発明の特別な一実施態様では、心血管イベントは、心筋梗塞と、急性非代償性心不全と、冠動脈血行再建と、心筋梗塞または急性心不全と関係する心血管死を含む群から選択される急性心血管イベントである。
【0030】
本発明の特別な一実施態様では、心血管イベントは、心筋梗塞と、急性心不全と、冠動脈血行再建と、心筋梗塞または急性心不全に関係するが脳卒中には関係しない心血管死を含むが、脳卒中は含まないグループから選択される急性心血管イベントである。
【0031】
心血管イベントおよび/または心血管死が起こるリスクは、所定の期間内に心血管を理由としたイベントが起こるリスク、または心血管を理由として死亡するリスクを意味する。特別な一実施態様では、所定の期間は、10年以内、または8年以内、または5年以内、または2.5年以内、または1年以内、または6ヶ月以内、または3ヶ月以内、または30日以内、または28日以内である。
【0032】
心血管イベントまたは心血管死のリスクは、所定の期間内に心血管を理由としたイベントが起こるリスク、または心血管を理由として死亡するリスクを意味するが、この心血管イベントまたは心血管死は、脳卒中ではないか、脳卒中に関係していない。特別な一実施態様では、所定の期間は、10年以内、または8年以内、または5年以内、または2.5年以内、または1年以内、または6ヶ月以内、または3ヶ月以内、または30日以内、または28日以内である
【0033】
心血管イベントまたは心血管死のリスクは、所定の期間内に心血管を理由としたイベントが起こるリスク、または心血管を理由として死亡するリスクを意味するが、この心血管イベントまたは心血管死は、脳卒中ではないか、脳卒中に関係していない。特別な一実施態様では、所定の期間は、10年以内、または8年以内、または5年以内、または2.5年以内、または1年以内、または6ヶ月以内、または3ヶ月以内、または30日以内、または28日以内である
【0034】
セレノプロテインPの検出を利用すると、所定の域値(例えば中央値)を用いることによって健康な対象が初めて心血管イベントを起こすリスク、または心血管死するリスクを評価できることが示されている(PCT/EP2018/079030;Schomburg 他 2018年 JAMA Cardiology、投稿中)。健康な集団におけるセレノプロテインPの頻度分布は0.4~20 mg/Lの範囲であり、中央値は5.5 mg/Lである(図5A)。健康な対象が初めて心血管イベントを起こすリスク、または心血管死するリスクを評価するためのセレノプロテインPの域値の範囲は4.0~5.5 mg/Lである。
【0035】
健康な集団と比較すると、心不全の集団(例えばHARVEST研究)のセレノプロテインPの濃度ははるかに低い0.8~6.9 mg/Lの範囲の濃度で、中央値は3.0 mg/Lであり、大半の数値は健康な対象の域値よりもはるかに下である(例えば心不全患者の97.3%が5.5 mg/L未満であり、心不全患者の79.7%が4.0 mg/L未満である)(図5B)。心不全患者は、セレノプロテインPの濃度が、心血管イベントのリスクを持つ健康な患者と同等である。というのもこれらの患者はすでに心血管イベント(すなわち心不全)を患ったことがあるからである。驚くべきことに、本発明によれば、心不全患者における低い濃度のセレノプロテインPはさらに下位グループに分割することができて、心不全患者における分布のより下端のセレノプロテインPの濃度は、本発明によれば、例えば心不全が悪化するリスク、または心不全により再入院するリスク、または死亡するリスクがより大きい。
【0036】
本発明の主題は、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、特に心血管死のリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための方法であり、この方法は、
a)対象のサンプル中のセレノプロテインPおよび/またはその断片のレベルおよび/または量を決定し、
b)対象のサンプル中のセレノプロテインPおよび/またはその断片の決定されたそのレベルおよび/または量を、参照サンプルのセレノプロテインPおよび/またはその断片の参照レベルと比較することを含んでいる。
【0037】
「参照レベル」という用語は本分野で周知である。好ましい参照レベルは、当業者がさらに面倒な作業をすることなく決めることができる。本明細書では、「参照レベル」という用語は、各バイオマーカーについてあらかじめ決められた値を意味することが好ましい。この文脈では、「レベル」に、絶対量または相対量または濃度のほか、それと相関しているかそれに由来する可能性がある任意の値またはパラメータが含まれる。参照レベルは、対象を、例えば心血管イベントを起こすリスクのある対象のグループに割り当てること、または例えば心血管イベントを起こすリスクがない対象のグループに割り当てることを可能にするレベルであることが好ましい。したがって参照レベルは、例えば心血管イベントを起こすリスクがある対象か例えば心血管イベントを起こすリスクがない対象かの識別を可能にする。当業者であればわかるように、参照レベルはあらかじめ決められており、例えば特異度および/または感度に関する定型的な条件を満たすように設定される。これらの条件は、例えば規制機関ごとに異なる可能性がある。例えばアッセイの感度または特異度のそれぞれを所定の限界、例えば80%または90%または95%または98%にそれぞれ設定せねばならない可能性がある。これらの条件は、陽性予測値または陰性予測値に関して定義することもできる。しかし当業者は、本発明で与えられる教示に基づき、これらの条件に合致する参照レベルに到達することが常に可能であろう。一実施態様では、参照レベルは、参照サンプル、またはリスクがある1人の患者(または患者群)からのサンプルで決定される。別の一実施態様では、参照レベルは、参照サンプル、または例えば心血管イベントを起こすリスクがない1人の患者(または患者群)からのサンプルで決定される。一実施態様における参照レベルは、患者が属する疾患単位からの参照サンプルであらかじめ決められている。いくつかの実施態様では、参照レベルは、例えば調べる疾患単位での値の全体分布の25%と75%の間の任意のパーセント値に設定することができる。
【0038】
別の実施態様では、参照レベルは、例えば、調べる疾患単位からの参照サンプルでの値の全体分布から決定される中央値または三分位数または四分位数に設定することができる。一実施態様では、参照レベルは、調べる疾患単位での値の全体分布から決定される中央値に設定される。参照レベルは、さまざまな生理学的パラメータ(年齢または性別または部分集団など)のほか、本明細書で言及しているセレノプロテインPまたはその断片を測定するのに用いる手段によって変化する可能性がある。
【0039】
参照レベルは、参照集団でセレノプロテインPまたはその断片を測定することによって決めることができる。参照集団として、例えば心不全の兆候と症状がない健康な集団が可能である。本発明のさらに別の1つの側面では、参照集団として、疾患または障害を患っている対象(特に心不全患者)の集団が可能である。参照集団は、2つ以上の参照対象からなることができる。健康な参照集団の一例が、それぞれのセレノプロテインPの濃度とともにSchomburgらの論文(Schomburg他2018年 JAMA Cardiology、投稿中)に与えられている。
【0040】
本発明の主題は、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための上述の方法であり、この方法において、(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクは、対象のサンプル中のセレノプロテインPおよび/またはその断片の決定されたレベルおよび/または量が域値未満であるときに増大している。
【0041】
本発明の主題は、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための上述の方法であり、この方法において、(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクは、サンプル中のセレノプロテインPおよび/またはその断片のレベルおよび/または量が域値未満であるときに増大していて、その域値は、2.0~4.4 mg/L、好ましくは2.3~3.8 mg/L、より好ましくは2.6~3.4 mg/L、より好ましくは3.0~3.3 mg/Lであり、最も好ましくはその域値は3.3 mg/Lである。
【0042】
本発明の主題は、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための上述の方法であり、この方法において、(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクは、サンプル中のセレノプロテインPおよび/またはその断片のレベルおよび/または量が域値未満であるときに増大していて、その域値を、さまざまな域値設定で真の陽性率(感度、「疾患」集団、例えばその状態を発症した対象)を偽陽性率(1-特異度、「正常な」集団、例えばその状態を発症しなかった対象)に対してプロットして受信者操作特性曲線(ROC曲線)を計算することによって決定した。
【0043】
本発明の主題は、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための上述の方法であり、この方法において、(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクは、サンプル中のセレノプロテインPおよび/またはその断片のレベルおよび/または量が域値未満であるときに増大していて、その域値は、4.4 mg/L未満、より好ましくは3.8 mg/L未満、より一層好ましくは3.4 mg/L未満、最も好ましくは3.3 mg/Lまたはそれ未満である。
【0044】
したがって域値の範囲は、2.2~4.4 mg/Lであることが有用である。これらの域値は、実施例に言及されている較正方法と関係している。
【0045】
あらゆる域値と値は、実施例に従って利用する検査および較正と関連させて見なければならない。当業者は、域値の絶対値が利用する較正の影響を受ける可能性があることを知っているであろう。これは、本明細書に与えられているあらゆる域値と値が、利用する較正の文脈で理解されるべきことを意味する。
【0046】
域値のレベルは、ある状態(例えば心血管イベント)を実施に発症した対象からのサンプルと、その状態を実際には発症しなかった対象からのサンプルを測定することによって決めることができる。域値を決める1つの可能性は、さまざまな域値設定で真の陽性率(感度、「疾患」集団、例えばその状態を発症した対象)を偽陽性率(1-特異度、「正常な」集団、例えばその状態を発症しなかった対象)に対してプロットして受信者操作特性曲線(ROC曲線)を計算するというものである。ある状態を発症した対象、または発症しなかった対象のマーカーのレベルの分布は重複する可能性が大きい。そのような条件下では、検査によって「疾患」から「正常」が100%の精度で絶対的に識別されることはなく、重複領域は、この検査で「疾患」から正常を識別できない場所を示している。域値は、その値よりも上(または下;「疾患」でマーカーがどのように変化するかによる)だと検査で異常であるとみなされ、その値よりも下だと検査で正常であるとみなされるように選択される。ROC曲線よりも下の面積(AUC)は、知覚された測定によって状態を正しく同定できる確率の1つの指標である。ROC曲線は、検査結果が必ずしも正しい数を与えないときでさえ用いることができる。結果をランク付けできる限り、ROC曲線を作成することができる。例えば「疾患」サンプルに関する検査結果は、程度(例えば1=低い、2=正常、3=高い)に従ってランク付けすることができよう。このランキングを「正常な」集団における結果と相関させてROC曲線を作成することができる。これらの方法は本分野では周知である(Hanley他1982年 Radiology 第143巻:29~36ページ)。域値の選択は、AUCが好ましくは約0.5よりも大きくなるように、より好ましくは約0.7よりも大きくなるように、より一層好ましくは約0.8よりも大きくなるように、それ以上に好ましくは約0.85よりも大きくなるように、最も好ましくは約0.9よりも大きくなるようになされる。この文脈における「約」という用語は、与えられた測定値の±5%を意味する。ROC曲線の横軸は(1-特異度)を表わしており、偽陽性の割合とともに増加する。この曲線の縦軸は感度を表わしており、真の陽性の割合とともに増加する。したがって選択された特定のカットオフについて、(1-特異度)の値を決めることができ、そして対応する感度を得ることができる。AUCは、測定されたマーカーのレベルによって疾患または状態を正しく同定できる確率の1つの指標である。したがってAUCを用いて検査の有効性を決定することができる。オッズ比(OR)は、有効なサイズの1つの指標であり、2つの2値データ値の間の関連性または非独立性の強さ(例えば検査陽性群で発生するイベントに対する検査陰性群で発生するイベントのオッズ比)を記述する。
【0047】
域値のレベルは、例えばカプラン-マイヤー分析から得ることができ、この分析では、疾患の発症、または深刻な状態および/または死の確率は、例えば集団内のそれぞれのマーカーの四分位数と相関している。この分析によれば、本発明に従うと、マーカーのレベルが75パーセンタイルを超える対象は疾患になるリスクが有意に上昇している。この結果は、古典的リスク因子に関して調整したCox回帰分析によってさらに支持される。最高(または最低の四分位数;「疾患」でマーカーがどのように変化するかによる)の対象と他のすべての対象を比較した結果は、疾患を発症するリスク、または深刻な状態および/または死の確率の増大と非常に有意な関係がある。
【0048】
他の好ましい域値は、例えば参照集団の10パーセンタイル、または5パーセンタイル、または1パーセンタイルである。25パーセンタイルよりも上のパーセンタイルを用いることにより、同定される偽陽性の対象の数が減るが、軽度だがそれでもリスクが増大している対象を同定し損なう可能性がある。したがって、「偽陽性」も同定するという犠牲を払ってリスクのある対象の大半を同定することがより適切であると考えるかどうかに応じ、域値の値を変えることができよう。
【0049】
当業者は、このように統計的に有意なレベルを決める方法を知っている。
【0050】
本発明の一実施態様では、対象は男性である。
【0051】
本発明の主題は、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための上述の方法であり、この方法において、心血管イベントは、心筋梗塞と、脳卒中と、冠動脈血行再建と、心不全を含む群から選択され、死亡は心血管死である。
【0052】
本発明の主題は、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための上述の方法であり、この方法において、心血管死は、心筋梗塞または脳卒中または急性心不全と関係する心血管死から選択される。
【0053】
本発明の主題は、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための上述の方法であり、この方法において、セレノプロテインPおよび/またはその断片のレベルおよび/または量を、配列番号2に結合する少なくとも1つのバインダを用いてイムノアッセイによって決定した。
【0054】
本発明の主題は、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための上述の方法であり、この方法において、少なくとも1つのバインダは抗体またはその断片である。
【0055】
本発明の主題は、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための上述の方法であり、この方法において、セレノプロテインPおよび/またはその断片のレベルおよび/または量を質量分析によって決定した。
【0056】
本発明の主題は、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための上述の方法であり、この方法において、心血管イベント(死を含む)を起こすリスクを1年までの期間にわたって評価する。
【0057】
本発明の主題は、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための上述の方法であり、この方法において、対象で(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスクを1年までの期間にわたって評価する。
【0058】
本発明の主題は、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための上述の方法であり、この方法において、心不全が原因で入院または再入院するリスクを30日までの期間にわたって評価する。
【0059】
本発明の主題は、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための上述の方法であり、この方法において、サンプルは体液である。
【0060】
体液は、全血と、血清と、血漿と、尿と、脳脊髄液(CSF)と、唾液を含む群から選択することができる。
【0061】
好ましい一実施態様では、サンプルは、全血と、血漿と、血清を含む群から選択される体液である。
【0062】
本発明の主題は、心不全を持っていて、および(i)心血管イベントを起こす増大したリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化する増大したリスク、および/または(iii)死亡する増大したリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院する増大したリスクを持っている対象の治療に利用するためのセレンである。
【0063】
本発明の主題は、心不全を持っていて、および(i)心血管イベントを起こす増大したリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化する増大したリスク、および/または(iii)死亡する増大したリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院する増大したリスクを持っている対象の治療に利用するためのセレンであり、心血管イベントは脳卒中ではなく、心血管死は脳卒中とは関係がない。
【0064】
本発明の主題は、心不全を持っていて、および(i)心血管イベントを起こす増大したリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化する増大したリスク、および/または(iii)死亡する増大したリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院する増大したリスクを持っている対象の治療に利用するためのセレンであり、このように増大したリスクは、本明細書に概略を示した本発明による方法に従って決定される。
【0065】
本発明の主題は、心不全を持っていて、および(i)心血管イベントを起こす増大したリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化する増大したリスク、および/または(iii)死亡する増大したリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院する増大したリスクを持っている対象の治療に利用するためのセレンであり、このように増大したリスクは、本明細書に概略を示した本発明による方法に従って決定され、心血管イベントは脳卒中ではなく、心血管死は脳卒中とは関係がない。
【0066】
本発明の主題は、心不全を持っていて、および(i)心血管イベントを起こす増大したリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化する増大したリスク、および/または(iii)死亡する増大したリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院する増大したリスクを持っている対象の治療に利用するためのセレンであり、このように増大したリスクは、本明細書に概略を示した本発明による方法に従って決定され、この方法においてセレノプロテインPおよび/またはその断片の決定されたレベルおよび/または量は域値未満であり、その域値は、2.0~4.4 mg/L、好ましくは2.3~3.8 mg/L、より好ましくは2.6~3.4 mg/L、より好ましくは3.0~3.3 mg/L、最も好ましくは3.3 mg/Lである。
【0067】
本発明の主題は、心不全を持っていて、および(i)心血管イベントを起こす増大したリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化する増大したリスク、および/または(iii)死亡する増大したリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院する増大したリスクを持っている対象の治療に利用するためのセレンであり、このように増大したリスクは、本明細書に概略を示した本発明による方法に従って決定され、この方法においてセレノプロテインPおよび/またはその断片の決定されたレベルおよび/または量は域値未満であり、その域値は、2.0~4.4 mg/L、好ましくは2.3~3.8 mg/L、より好ましくは2.6~3.4 mg/L、より好ましくは3.0~3.3 mg/L、最も好ましくは3.3 mg/Lであり、心血管イベントは脳卒中ではなく、心血管死は脳卒中とは関係がない。
【0068】
本発明の主題は、心不全を持っていて、および(i)心血管イベントを起こす増大したリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化する増大したリスク、および/または(iii)死亡する増大したリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院する増大したリスクを持っている対象の治療に利用するためのセレンであり、このように増大したリスクは、本明細書に概略を示した本発明による方法に従って決定され、セレンは、医薬として許容可能な量で対象に投与される。
【0069】
本発明の主題は、心不全を持っていて、および(i)心血管イベントを起こす増大したリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化する増大したリスク、および/または(iii)死亡する増大したリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院する増大したリスクを持っている対象の治療に利用するためのセレンであり、このように増大したリスクは、本明細書に概略を示した本発明による方法に従って決定され、セレンは、医薬として許容可能な量で対象に投与され、心血管イベントは脳卒中ではなく、心血管死は脳卒中とは関係がない。
【0070】
本発明の主題は、心不全を持っていて、および(i)心血管イベントを起こす増大したリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化する増大したリスク、および/または(iii)死亡する増大したリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院する増大したリスクを持っている対象の治療に利用するためのセレンであり、このように増大したリスクは、本明細書に概略を示した本発明による方法に従って決定され、この方法においてセレノプロテインPおよび/またはその断片の決定されたレベルおよび/または量は域値未満であり、その域値は2.0~4.4 mg/Lであり、セレンは医薬として許容可能な量で対象に投与されて前記リスクを低減させる。
【0071】
本発明の主題は、心不全を持っていて、および(i)心血管イベントを起こす増大したリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化する増大したリスク、および/または(iii)死亡する増大したリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院する増大したリスクを持っている対象の治療に利用するためのセレンであり、このように増大したリスクは、本明細書に概略を示した本発明による方法に従って決定され、この方法においてセレノプロテインPおよび/またはその断片の決定されたレベルおよび/または量は域値未満であり、その域値は2.0~4.4 mg/Lであり、セレンは医薬として許容可能な量で対象に投与されてリスクを低減させ、心血管イベントは脳卒中ではなく、心血管死は脳卒中とは関係がない。
【0072】
本発明の主題は、上述の実施形態のいずれかによる、心不全を持っていて、および(i)心血管イベントを起こす増大したリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化する増大したリスク、および/または(iii)死亡する増大したリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院する増大したリスクを持っている対象を治療する方法であり、この方法では本発明に従ってリスクを評価する方法を少なくとも2回実施する。
【0073】
本発明の主題は、上述の実施形態のいずれかによる、心不全を持っていて、および(i)心血管イベントを起こす増大したリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化する増大したリスク、および/または(iii)死亡する増大したリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院する増大したリスクを持っている対象を治療する方法であり、この方法では本発明に従ってリスクを評価する方法を少なくとも2回実施し、心血管イベントは脳卒中ではなく、心血管死は脳卒中とは関係がない。
【0074】
本発明の主題は、上述の実施形態のいずれかによる、心不全を持っていて、および(i)心血管イベントを起こす増大したリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化する増大したリスク、および/または(iii)死亡する増大したリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院する増大したリスクを持っている対象を治療する方法であり、この方法では本発明に従ってリスクを評価する方法を、その治療のモニタリングとして実施する。
【0075】
本発明の主題は、上述の実施形態のいずれかによる、心不全を持っていて、および(i)心血管イベントを起こす増大したリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化する増大したリスク、および/または(iii)死亡する増大したリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院する増大したリスクを持っている対象を治療する方法であり、この方法では本発明に従ってリスクを評価する方法を、その治療のモニタリングとして実施し、心血管イベントは脳卒中ではなく、心血管死は脳卒中とは関係がない。
【0076】
本発明の主題は、上述の実施形態のいずれかによる、心不全を持っていて、および(i)心血管イベントを起こす増大したリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化する増大したリスク、および/または(iii)死亡する増大したリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院する増大したリスクを持っている対象を治療する方法であり、この方法では本発明に従ってリスクを評価する方法を実施して治療のガイダンスとして利用する。
【0077】
本発明の主題は、上述の実施形態のいずれかによる、心不全を持っていて、および(i)心血管イベントを起こす増大したリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化する増大したリスク、および/または(iii)死亡する増大したリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院する増大したリスクを持っている対象を治療する方法であり、この方法では本発明に従ってリスクを評価する方法を実施して治療のガイダンスとして利用し、心血管イベントは脳卒中ではなく、心血管死は脳卒中とは関係がない。
【0078】
本発明の主題は、上述の実施形態のいずれかによる、心不全を持っていて、および(i)心血管イベントを起こす増大したリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化する増大したリスク、および/または(iii)死亡する増大したリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院する増大したリスクを持っている対象を治療する方法であり、この方法では上記実施態様のいずれかに従ってリスクを評価する方法を実施してコンパニオン診断として利用する。
【0079】
本発明の主題は、上述の実施形態のいずれかによる、心不全を持っていて、および(i)心血管イベントを起こす増大したリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化する増大したリスク、および/または(iii)死亡する増大したリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院する増大したリスクを持っている対象を治療する方法であり、この方法では上記実施態様のいずれかに従ってリスクを評価する方法を実施してコンパニオン診断として利用し、心血管イベントは脳卒中ではなく、心血管死は脳卒中とは関係がない。
【0080】
本発明の主題は、上述の実施形態のいずれかによる、心不全を持っていて、および(i)心血管イベントを起こす増大したリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化する増大したリスク、および/または(iii)死亡する増大したリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院する増大したリスクを持っている対象を治療する方法であり、この方法では投与されるセレンは、亜セレン酸塩またはセレン酸塩またはセレノメチオニン(L-セレノメチオニン)を含む群から選択される。
【0081】
本発明の主題は、上述の実施形態のいずれかによる、心不全を持っていて、および(i)心血管イベントを起こす増大したリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化する増大したリスク、および/または(iii)死亡する増大したリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院する増大したリスクを持っている対象を治療する方法であり、この方法では投与されるセレンは、亜セレン酸塩またはセレン酸塩またはセレノメチオニン(L-セレノメチオニン)を含む群から選択され、心血管イベントは脳卒中ではなく、心血管死は脳卒中とは関係がない。
【0082】
本発明の主題は、上述の実施形態のいずれかによる、心不全を持っていて、および(i)心血管イベントを起こす増大したリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化する増大したリスク、および/または(iii)死亡する増大したリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院する増大したリスクを持っている対象を治療する方法であり、この方法では投与されるセレンは、亜セレン酸塩またはセレン酸塩またはセレノメチオニン(L-セレノメチオニン)を含む群から選択されて、必須補酵素としてのコエンザイムQ10と組み合わされる。
【0083】
本発明の主題は、上述の実施形態のいずれかによる、心不全を持っていて、および(i)心血管イベントを起こす増大したリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化する増大したリスク、および/または(iii)死亡する増大したリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院する増大したリスクを持っている対象を治療する方法であり、この方法では投与されるセレンは、亜セレン酸塩またはセレン酸塩またはセレノメチオニン(L-セレノメチオニン)を含む群から選択されて、必須補酵素としてのコエンザイムQ10と組み合わされ、心血管イベントは脳卒中ではなく、心血管死は脳卒中とは関係がない。
【0084】
この治療法では、上記のリスクを評価するための上記の方法が利用され、その中には上記の域値範囲が含まれる。1つの域値として、セレンのレベルが100μg/L以下が可能である。
【0085】
「対象」という用語は、本明細書では、生きているヒト、または生きている非ヒト生物を意味する。本明細書では、対象はヒト対象であることが好ましい。対象は心不全を患っている。
【0086】
「低下したレベル」という表現は、所定の域値レベルよりも下のレベルを意味する。「上昇したレベル」は、所定の域値レベルよりも上のレベルを意味する。
【0087】
「セレノプロテインPのレベルを決定する」という表現は、通常は、前に言及した分子内の領域に対する免疫反応性を決定すること意味する。これは、ある特定の断片を選択的に測定する必要はないことを意味する。セレノプロテインPおよび/またはその断片のレベルを決定するのに使用するバインダは、このバインダが結合する領域を含む任意の断片に結合する。このバインダとして、抗体または抗体断片または非IgG足場が可能である。
【0088】
特別な一実施態様では、セレノプロテインPのレベルはイムノアッセイで測定され、バインダは、セレノプロテインPおよび/またはその断片に結合する抗体または抗体断片である。
【0089】
多彩なイムノアッセイが知られており、本発明のアッセイと方法で利用することができる。イムノアッセイに含まれるのは、ラジオイムノアッセイ(「RIA」)、ホモジニアス酵素多重化イムノアッセイ(「EMIT」)、酵素結合免疫吸着アッセイ(「ELISA」)、アポ酵素再活性化イムノアッセイ(「ARIS」)、化学発光イムノアッセイ、蛍光イムノアッセイ、Luminexに基づくビーズアッセイ、タンパク質マイクロアレイアッセイ、迅速な検査形式(例えば免疫クロマトグラフィストリップ試験(「ディップスティックイムノアッセイ」)など)、免疫クロマトグラフィアッセイである。
【0090】
本発明の一実施態様では、このようなアッセイは、任意の種類の検出技術(その非限定的な例に含まれるのは、酵素標識、化学発光標識、電気化学発光標識である)を利用したサンドイッチイムノアッセイであり、完全に自動化されたアッセイであることが好ましい。本発明の一実施態様では、このようなアッセイは、酵素で標識されたサンドイッチアッセイである。自動化されたアッセイ、または完全に自動化されたアッセイの例に含まれるのは、以下のシステム、すなわちRoche Elecsys(登録商標)、Abbott Architect(登録商標)、Siemens Centauer(登録商標)、Brahms Kryptor(登録商標)、Biomerieux Vidas(登録商標)、Alere Triage(登録商標)の1つのために利用できるアッセイである。
【0091】
本発明の一実施態様では、そのアッセイとして、いわゆるPOC(ポイント・オブ・ケア)検査が可能である。これは、完全に自動化されたアッセイシステムの必要がなく、患者の近くで1時間以内に検査を実施することを可能にする検査技術である。この技術の一例は、免疫クロマトグラフィ検査技術である。
【0092】
本発明の一実施態様では、2つのバインダの少なくとも一方に標識して検出されるようにする。
【0093】
好ましい一実施態様では、標識は、化学発光標識、酵素標識、蛍光標識、放射性ヨウ素標識を含む群から選択される。
【0094】
アッセイとして、ホモジニアスアッセイまたはヘテロジニアスアッセイ、競合アッセイおよび非競合アッセイが可能である。一実施態様では、アッセイは、非競合イムノアッセイであるサンドイッチアッセイの形式であり、検出される分子および/または定量される分子が第1の抗体と第2の抗体に結合する。第1の抗体は固相(例えばビーズ、ウエルまたは他の容器の表面、チップまたはストリップ)に結合することができ、第2の抗体は、例えば染料、放射性同位体、または反応性活性部分または触媒性活性部分で標識された抗体である。その後、分析物に結合する標識された抗体の量を適切な方法で測定する。「サンドイッチアッセイ」に関係する一般的な組成物と手続きは明確にされており、当業者に知られている(『The Immunoassay Handbook』、David Wild編、Elsevier LTD社、オックスフォード;第3版(2005年5月)、ISBN-13: 978-0080445267;Hultschig C他、Curr Opin Chem Biol. 2006年2月;第10巻(1):4~10ページ、PMID: 16376134)。
【0095】
別の一実施態様では、アッセイは2個の捕獲分子(抗体であることが好ましい)を含んでおり、その両方とも液体反応混合物の中に分散液として存在する。この混合物の中では、蛍光クエンチングまたは化学発光クエンチングまたは蛍光増幅または化学発光増幅に基づく標識システムの一部である第1の標識成分が第1の捕獲分子に付着され、この標識システムの第2の標識成分が第2の捕獲分子に付着されている。そのため両方の捕獲分子が分析物に結合すると測定可能な信号が発生することで、サンプルを含む溶液の中に形成されたサンドイッチ複合体の検出が可能になる。
【0096】
別の一実施態様では、標識システムは、希土類クリプテートまたは希土類キレートを蛍光染料または化学発光染料、特にシアニンタイプの染料と組み合わせて含んでいる。
【0097】
本発明の文脈では、蛍光に基づくアッセイは染料の使用を含んでおり、染料の選択は、例えばFAM(5-カルボキシフルオレセインまたは6-カルボキシフルオレセイン)、VIC、NED、フルオレセイン、イソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)、IRD-700/800、シアニン染料(CY3、CY5、CY3.5、CY5.5、Cy7など)、キサンテン、6-カルボキシ-2’,4’,7’,4,7-ヘキサクロロフルオレセイン(HEX)、TET、6-カルボキシ-4’,5’-ジクロロ-2’,7’-ジメトジフルオレセイン(JOE)、N,N,N’,N’-テトラメチル-6-カルボキシローダミン(TAMRA)、6-カルボキシ-X-ローダミン(ROX)、5-カルボキシローダミン-6G(R6G5)、6-カルボキシローダミン-6G(RG6)、ローダミン、ローダミン・グリーン、ローダミン・レッド、ローダミン110、BODIPY染料(BODIPY TMRなど)、オレゴン・グリーン、クマリン(ウンベリフェロンなど)、ベンズイミド(Hoechst 33258など); フェナントリジン(Texas Redなど)、Yakima Yellow、Alexa Fluor、PET、臭化エチジウム、アクリジニウム染料、カルバゾール染料、フェノキサジン染料、ポルフィリン染料、ポリメチン染料などを含む群からなすことができる。
【0098】
本発明の文脈では、化学発光に基づくアッセイは、物理的な原理に基づいて染料を使用することを含んでいる。化学発光材料に関する物理的な原理ついては、Kirk-Othmer、『Encyclopedia of chemical technology』第4版、編集責任者J. I. Kroschwitz;編者M. Howe-Grant、John Wiley & Sons社、1993年、第15巻、518~562ページに記載されている(551~562ページの引用を含め、参照によって本明細書に組み込まれている)。化学発光標識として、アクリジニウムエステル標識や、イソルミノール標識が関与するステロイド標識などが可能である。好ましい化学発光染料はアクリジニウムエステルである。
【0099】
酵素標識として、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)、クレアチンキナーゼ(CPK)、アルカリホスファターゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、酸性ホスファターゼ、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼなどが可能である。
【0100】
サンプル中のセレノプロテインPおよび/またはその断片を本発明に従って決定するためのアッセイの一実施態様では、このアッセイのアッセイ感度は、0.100 mg/L 未満、好ましくは0.05 mg/L未満、より好ましくは0.01 mg/L未満である。
【0101】
本発明によれば、セレノプロテインPおよび/またはその断片への診断用バインダは、抗体(例えば典型的な完全長免疫グロブリンであるIgG)または例えば化学的にカップルした抗体(抗原結合断片)として重鎖および/または軽鎖の少なくともF可変ドメインを含有する抗体断片からなるグループから選択され、その非限定的な例に含まれるのは、Fab断片(Fabミニボディが含まれる)、一本鎖Fab抗体、エピトープタグを有する1価Fab抗体(例えばFab-V5Sx2);CH3ドメインとの2量体になった2価Fab(ミニ抗体);例えば異種ドメインの助けを借りた多量体化を通じて(例えばdHLXドメインの2量体化を通じて)形成される2価Fabまたは多価Fab(例えばFab-dHLX-FSx2);F(ab‘)2断片、scFv断片、多量体化された多価または/および多重特異性scFv断片、2価および/または二重特異性ディアボディ、BITE(登録商標)(二重特異性T細胞エンゲージャ)、3機能性抗体、多価抗体(例えばGとは異なるクラスに由来するもの);単一ドメイン抗体(例えばラクダまたは魚類の免疫グロブリンに由来するナノボディ)である。特別な一実施態様では、セレノプロテインPおよび/またはその断片のレベルは、下により詳しく説明するように、セレノプロテインPおよび/またはその断片に結合する抗体、抗体断片、アプタマー、非Ig足場を含む群から選択されるバインダを用いたアッセイで測定される。
【0102】
本明細書では、「アッセイ」または「診断アッセイ」として、診断の分野で利用される任意のタイプのものが可能である。このようなアッセイは、検出される分析物が1つ以上の捕獲プローブに所定の親和性で結合することに基づくことができる。捕獲分子と標的分子または興味ある分子の間の相互作用に関し、親和定数は107 M-1よりも大きく、好ましくは108 M-1よりも大きく、より好ましくは109 M-1よりも大きく、最も好ましくは1010 M-1よりも大きい。結合親和性は、例えばBiaffin社、カッセル、ドイツ国(http://www.biaffin.com/de/)でサービス分析として提供されているBiacore法を利用して決定することができる。
【0103】
本発明の文脈では、「バインダ分子」は、標的分子または興味ある分子、すなわちサンプルからの分析物(すなわち本発明の文脈ではセレノプロテインPとその断片)に結合させるのに使用できる分子である。したがってバインダ分子は、標的分子または興味ある分子に特異的に結合させるため、空間的形状と表面の特徴(表面電荷、疎水性、親水性、ルイスドナーおよび/またはアクセプタの存在または不在など)に関する形状の両方に関して十分でなければならない。ここでは結合は、例えばイオン性結合相互作用またはファンデルワールス結合相互作用またはπ-π結合相互作用またはσ-π結合相互作用または疎水性結合相互作用または水素結合相互作用によって実現するか、捕獲分子と標的分子または興味ある分子の間のこれら相互作用の2つ以上の組み合わせによって実現することができる。本発明の文脈では、バインダ分子は、例えば核酸分子または炭水化物分子またはPNA分子またはタンパク質または抗体またはペプチドまたは糖タンパク質を含む群から選択することができる。バインダ分子は抗体であることが好ましく、その中には、その断片で標的または興味ある分子に対する十分な親和性を持つものが含まれるとともに、組み換え抗体または組み換え抗体断片のほか、その抗体またはその抗体の長さが少なくともアミノ酸12個のバリアント鎖に由来する断片の化学的および/または生化学的に修飾された誘導体が含まれる。
【0104】
抗体に加え、他のバイオポリマー足場が標的分子との複合体になることが本分野でよく知られており、高度に標的特異的なバイオポリマーの作製に使用されてきた。その例は、アプタマーと、シュピーゲルマーと、アンチカリンと、コノトキシンである。非Ig足場としてタンパク質足場が可能であり、リガンドまたは抗原に結合できるという理由でそれを抗体模倣体として用いることができる。非Ig足場の選択は、テトラネクチンに基づく非Ig足場(例えばUS 2010/0028995に記載)と、フィブロネクチン足場(例えばEP 1266 025に記載)と;リポカリンに基づく足場(WO 2011/154420に記載)と;ユビキチン足場(例えばWO 2011/073214に記載)と、トランスフェリン足場(例えばUS 2004/0023334に記載)と、プロテインA足場(例えばEP 2231860に記載)と、アンキリン反復に基づく足場(例えばWO 2010/060748に記載)と、マイクロプロテイン(好ましくはシスチンノットを形成するマイクロプロテイン) 足場(例えばEP 2314308に記載)と、Fyn SH3ドメインに基づく足場(例えばWO 2011/023685に記載)と、EGFR-Aドメインに基づく足場(例えばWO 2005/040229に記載)と、クニッツドメインに基づく足場(例えばEP 1941867に記載)を含む群からなすことができる。
【0105】
本発明の一実施態様では、2つのバインダのうちの少なくとも1つが固相(磁性粒子、およびポリスチレンの表面など)に結合する。
【0106】
あるいは上記の任意の分析物のレベルは、他の分析法(例えば質量分析)によって決定することができる。
【0107】
本発明の方法の特別な一実施態様では、心不全を持つ対象の体液の中で少なくとも1つの別のバイオマーカーを追加して測定し、上に概略を示したような(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクと相関させる。この方法では、その追加のバイオマーカーの選択は、プロ-ニューロテンシン1~117(PNT 1~117)と、C反応性タンパク質(CRP)と、プロ-脳ナトリウム利尿ペプチド1~108(プロBNP 1~108、NT-プロBNP)と、プロBNPと、BNPと、プロ-心房性ナトリウム利尿ペプチド1~98(プロANP-N末端断片)と、プロ-ANPおよび長さが少なくともアミノ酸5個のその断片(例えばMR-プロANP)と、アドレノメデュリンと、プロ-アドレノメデュリン(プロADM)および長さが少なくともアミノ酸5個のその断片(例えばMR-プロADM)と、ST-2と、GDF15と、ガレクチン-3と、コペプチンと、ヒト成長ホルモン(hGH)と、絶食時の血中または血漿中のグルコースと、トリグリセリドと、HDLコレステロールまたはその亜分画と、LDLコレステロールまたはその亜分画と、インスリンと、シスタチンCと、セレンと、アラニン-アミノトランスフェラーゼ(ALT)と、アスパラギン酸-アミノトランスフェラーゼ(AST)と、ビリルビンと、アルカリホスファターゼ(ALP)を含む群からなされる。
【0108】
本発明の方法の特別な一実施態様では、心不全を持つ対象の体液の中で少なくとも1つの別のバイオマーカーを追加して測定し、上に概略を示したような(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクと相関させる。この方法では、その追加のバイオマーカーの選択は、プロ-ニューロテンシン1~117(PNT 1~117)と、C反応性タンパク質(CRP)と、プロ-脳ナトリウム利尿ペプチド1~108(プロBNP 1~108、NT-プロBNP)と、プロBNPと、BNPと、プロ-心房性ナトリウム利尿ペプチド1~98(プロANP-N末端断片)と、プロ-ANPおよび長さが少なくともアミノ酸5個のその断片(例えばMR-プロANP)と、アドレノメデュリンと、プロ-アドレノメデュリン(プロADM)および長さが少なくともアミノ酸5個のその断片(例えばMR-プロADM)と、ST-2と、GDF15と、ガレクチン-3と、コペプチンと、ヒト成長ホルモン(hGH)と、絶食時の血中または血漿中のグルコースと、トリグリセリドと、HDLコレステロールまたはその断片と、LDLコレステロールまたはその断片と、インスリンと、シスタチンCと、セレンと、アラニン-アミノトランスフェラーゼ(ALT)と、アスパラギン酸-アミノトランスフェラーゼ(AST)と、ビリルビンと、アルカリホスファターゼ(ALP)を含む群からなされ、心血管イベントは脳卒中ではなく、心血管死は脳卒中とは関係がない。
【0109】
本発明の主題は、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを決定する方法でもあり、この方法を実施して、対象を、下により詳しく規定するリスク群に層化する。
【0110】
本発明の主題は、心不全を持つ対象で前の段落群に規定したリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを決定する方法でもあり、この方法を実施して、対象を、下により詳しく規定するリスク群に層化し、この方法では心血管イベントは脳卒中ではなく、心血管死は脳卒中とは関係がない。
【0111】
本発明の特別な一実施態様では、本発明の方法を利用して対象をリスク群(例えば低リスクの対象または中リスクの対象または高リスクの対象)に層化する。低リスクは、セレノプロテインPおよび/またはその断片の値が、(i)心血管イベントを起こさなかった対象、および/または(ii)心不全状態が悪化しなかった対象、および/または(iii)所定の期間内に死亡しなかった対象、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院しなかった対象であらかじめ決めた値よりも実質的に小さくないことを意味する。中リスクは、セレノプロテインPおよび/またはその断片のレベルが、i)心血管イベントを起こさなかった対象、および/または(ii)心不全状態が悪化しなかった対象、および/または(iii)所定の期間内に死亡しなかった対象、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院しなかった対象であらかじめ決めた値よりも上昇しているときに存在し、高リスクは、セレノプロテインPおよび/またはその断片のレベルが、i)心血管イベントを起こさなかった対象、および/または(ii)心不全状態が悪化しなかった対象、および/または(iii)所定の期間内に死亡しなかった対象、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院しなかった対象であらかじめ決めた値よりもベースライン測定で有意に低下していて、その後の分析で低下が継続しているときに存在する。
【0112】
セレノプロテインPの断片は、配列番号3~15を含む群から選択することができる。
【0113】
予防的療法または介入は、セレンの補充である。セレンは、亜セレン酸塩またはセレン酸塩またはセレノメチオニン(L-セレノメチオニン)として適用することができる。
【0114】
セレンの補充は、ビタミン(例えばビタミンE、ビタミンC、ビタミンA)および/またはミネラル栄養素(例えばヨウ素、フッ化物、亜鉛)および/または補因子(例えばコエンザイムQ10)と組み合わせて適用することができる。
【0115】
心筋梗塞(心臓発作として一般に知られている)は、心臓の一部への血流が減少するか停止して心筋に損傷が引き起こされるときに発生する。最も一般的な症状は、胸部痛または不快感であり、それが肩または腕または背中または首または顎に伝わる可能性がある。心筋梗塞は、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)または非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)に分けることができる。
【0116】
心不全は、心臓の構造または機能に問題が生じて身体の需要を満たすのに十分な血流を提供する能力が損なわれたときに発生する心臓の状態である。心不全は多彩な症状を引き起こす可能性があり、症状として、特に安静時または運動時の息切れと、体液貯留の兆候(肺鬱血または関節のむくみ)と、安静時の心臓の構造または機能が異常であることの客観的な証拠がある。急性心不全は、心不全の兆候と症状が急に出現する結果として緊急な治療または入院を必要とすることと定義される。急性心不全は、急性デノボ心不全(以前に心臓機能障害がない患者における急性心不全の新たな出現)または慢性心不全の急性非補償型として現われる可能性がある。
【0117】
脳卒中は、脳血管疾患から生じる急性の局所神経障害である。主要な2つのタイプの脳卒中は虚血性と出血性であり、それぞれ約85%と約15%を占めている。
【0118】
上に指摘したように、いくつかの特別な実施態様では、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、特に心血管死のリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための本明細書に開示されている方法は、脳卒中が心血管イベントである方法ではなく、または心血管死が脳卒中と関係がある方法でもない。
【0119】
冠動脈血行再建には経皮的冠動脈形成術(PCI)と冠動脈バイパス移植術(CARG)が含まれる。経皮的冠動脈形成術は、冠動脈疾患に見られる心臓の冠動脈の狭小化(狭窄)を治療するのに利用される非外科的手続きである。この手続きでは、大腿動脈または橈骨動脈を通じて血流にアクセスした後、冠動脈にカテーテルを入れてX線イメージングで血管を可視化する。その後、心臓外科医がバルーンカテーテルを用い、冠動脈形成術を実施することができる(そのカテーテルの中で潰れたバルーンを前進させて閉塞した動脈の中に入れ、膨らませて狭窄部を救う;いくつかの装置(ステントなど)を広げて血管が開いた状態を維持することができる)。他のさまざまな手続きも実施することができる。冠状動脈バイパス手術(CARG手術としても知られる)と、口語表現での心臓バイパス手術またはバイパス手術は、詰まった冠状動脈に正常な血流を回復させるための外科的手続きである。冠状動脈が50%~99%閉塞しているときにこの手術がしばしば必要とされる。
【0120】
本発明の主題は、高リスクと同定された対象へのセレンの補充でもある。
【0121】
セレンの固体剤形は、例えば、錠剤、カプセル、顆粒、粉末、サシェ、再構成可能な粉末、乾燥粉末吸入器、およびチュアブル錠である。
【0122】
本発明のさらなる実施態様は以下の通りである。
【0123】
上記の文脈で、連続番号を付けた以下の実施態様が、本発明のさらなる特別な側面を提供する。
【0124】
1.心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための方法であって、
a)前記対象のサンプル中のセレノプロテインPおよび/またはその断片のレベルおよび/または量を決定し、
b)心不全を持つ対象でセレノプロテインPおよび/またはその断片の決定された前記レベルおよび/または前記量を、(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクと相関させることを含む方法。
【0125】
2.心不全を持つ対象において、(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクが、前記対象のサンプル中のセレノプロテインPおよび/またはその断片の決定された前記レベルおよび/または前記量が域値未満であるときに増大している、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための項1に記載の方法。
【0126】
3.心不全を持つ対象において、(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクが、前記サンプル中のセレノプロテインPおよび/またはその断片の前記レベルおよび/または前記量が域値未満であるときに増大していて、その域値は、2.0~4.4 mg/L、好ましくは2.3~3.8 mg/L、より好ましくは2.6~3.4 mg/L、より好ましくは3.0~3.3 mg/Lであり、最も好ましくはその域値は3.3 mg/Lである、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための項1または2に記載の方法。
【0127】
4.心不全を持つ対象において、(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクが、前記サンプル中のセレノプロテインPおよび/またはその断片の前記レベルおよび/または前記量が域値未満であるときに増大していて、その域値を、さまざまな域値設定で真の陽性率(感度、「疾患」集団、例えばその状態を発症した対象)を偽陽性率(1-特異度、「正常な」集団、例えばその状態を発症しなかった対象)に対してプロットして受信者操作特性曲線(ROC曲線)を計算することによって決定された、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【0128】
5.心不全を持つ対象において、(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクが、前記サンプル中のセレノプロテインPおよび/またはその断片の前記レベルおよび/または前記量が域値未満であるときに増大していて、その域値は、心不全集団のより低い範囲、例えば4.4 mg/L未満、より好ましくは3.8 mg/L未満、より一層好ましくは3.4 mg/L未満、最も好ましくは3.3 mg/Lまたはそれ未満である、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【0129】
6.前記心血管イベントが、心筋梗塞と、脳卒中と、冠動脈血行再建と、心不全を含む群から選択され、前記死亡が心血管死である、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【0130】
7.前記死亡が、心筋梗塞または脳卒中または急性心不全と関係する心血管死である、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【0131】
8.セレノプロテインPおよび/またはその断片の前記レベルおよび/または前記量を、配列番号2に結合する少なくとも1つのバインダを用いてイムノアッセイによって決定された、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【0132】
9.前記少なくとも1つのバインダが抗体またはその断片である、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための項8に記載の方法。
【0133】
10.セレノプロテインPおよび/またはその断片の前記レベルおよび/または前記量を質量分析によって決定された、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【0134】
11.(i)心血管イベントを起こす前記リスク、および/または(ii)心不全状態が悪化する前記リスク、および/または(iii)死亡する前記リスクをある期間にわたって評価する、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【0135】
12.心不全を持つ対象における(i)心血管イベントを起こす前記リスク、および/または(ii)心不全状態が悪化する前記リスク、および/または(iii)死亡する前記リスクを1年間までの期間にわたって評価する、心不全を持つ対象における、(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全を持つ入院対象における再入院のリスクを評価するための項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【0136】
13.心不全が原因で入院または再入院する前記リスクを30日間までの期間にわたって評価する、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【0137】
14.サンプルが体液である、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【0138】
15.前記サンプルが、全血と、血漿と、血清を含む群から選択される体液である、心不全を持つ対象におけるリスク、すなわち(i)心血管イベントを起こすリスク、および/または(ii)心不全状態が悪化するリスク、および/または(iii)死亡するリスク、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院するリスクを評価するための項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【0139】
16.心不全を持っていて、および(i)心血管イベントを起こす増大したリスクを持っていいて、および/または(ii)心不全状態が悪化する増大したリスクを持っていて、および/または(iii)死亡する増大したリスクを持っていて、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院する増大したリスクを持っている対象の治療に使用するためのセレン。
【0140】
17.心不全を持っていて、および項1~15のいずれか1項に記載の方法に従って決定された、(i)心血管イベントを起こす増大したリスクを持っていて、および/または(ii)心不全状態が悪化する増大したリスクを持っていて、および/または(iii)死亡する増大したリスクを持っていて、および/または(iv)心不全が原因で入院または再入院する増大したリスクを持っている対象の治療に使用するためのセレン。
【0141】
18.心不全を持っていて、および項1~15のいずれか1項に記載の方法に従って決定された、(i)心血管イベントを起こす増大したリスクを持っていて、および/または(ii)心不全状態が悪化する増大したリスクを持っていて、および/または(iii)死亡する増大したリスクを持っていて、および/または(iv)心不全が原因で再入院する増大したリスクを持っている対象の治療に使用するためのセレンであって、セレノプロテインPおよび/またはその断片の決定された前記レベルおよび/または前記量が域値未満であり、その域値が2.0~4.4 mg/Lであるセレン。
【0142】
19.上記の項1~18の特別な実施態様では、前記心血管イベントは脳卒中ではなく、および/または前記心血管死は脳卒中とは関係がない。
【図面の簡単な説明】
【0143】
図1】転帰に基づく各グループ内のSePP(mg/L)の分布。A)再入院なし/生存者;B)再入院あり/生存者;C)再入院なし/疾患あり;D)再入院あり/疾患あり。
【0144】
図2】SePPの各四分位数内の1年生存率。Q1=最低レベルの四分位数;Q4=最高レベルの四分位数。各四分位数内のSePPのレベル:Q1=1.8±0.4;Q2=2.6±0.2; Q3=3.4±0.2;Q4=4.7±0.8。
【0145】
図3】SePPの各四分位数内の30日再入院。Q1=最低レベルの四分位数;Q4=最高レベルの四分位数。各四分位数内のSePPのレベル:Q1=1.8±0.4;Q2=2.6±0.2; Q3=3.4±0.2;Q4=4.7±0.8。
【0146】
図4】SePPの各四分位数内の30日以内の死亡または再入院(どちらが先でもよい)からなる複合エンドポイント。Q1=最低レベルの四分位数;Q4=最高レベルの四分位数。各四分位数内のSePPのレベル:Q1=1.8±0.4;Q2=2.6±0.2; Q3=3.4±0.2;Q4=4.7±0.8。
【0147】
図5】(A)健康な参照集団(MPP研究)と(B)心不全患者(HARVEST研究)におけるセレノプロテインP分布の比較。太い実線は各集団の中央値を示しており、破線は健康な参照集団の第1四分位数を示している。
【実施例
【0148】
実施例1:アッセイの説明
【0149】
血清サンプル中のヒトセレノプロテインPを定量的に決定するため、 Selenotest ELISA(Hybsier他 2017年 Redox Biology 第11巻:403~414ページ;Hybsier他 2015年Perspectives in Science 第3巻:23~24ページ)という発色酵素結合免疫吸着アッセイを利用した。Selenotest ELISAは、96ウエルプレート形式のサンドイッチ酵素イムノアッセイであり、抗原捕獲工程と抗原検出工程のために2つの異なるセレノプロテインP特異的モノクローナル抗体を使用する。較正物と対照のセレノプロテインPのレベルは、NIST SRM 1950標準参照材料の段階希釈物に対して測定することによって決定した。モノクローナル抗体(Ab)は、精製した組み換えセレノプロテインPのエマルジョンでマウスを免疫化することによって生成させた。特異的モノクローナルAb5を捕獲Abとして固定化し、特異的mAb2を検出Abとして使用した。定量の下限は、セレノプロテインPの濃度が11.6μg/Lと決定され、定量の上限は538.4μg/Lと決定されたため、セレノプロテインPの濃度が11.6~538.4μg/Lを作業範囲と規定した。20%CVで交わる点が検出の限界を規定し、この交点には、セレノプロテインPの濃度が6.7μg/Lで、すなわち供給が十分な対象の平均血清セレノプロテインP濃度のほぼ1/500で到達した。シグナルはアッセイの作業範囲内で希釈に対して線形であり、セレノプロテインPは室温において血清中で24時間にわたって安定であった。アッセイのより詳しいことについてはHybsier他2017年 Redox Biology第11巻:403~414ページを参照されたい。
【0150】
実施例2:HARVEST- Malmoe研究
【0151】
Swedish Heart and Brain Failure Investigation研究(HARVEST-Malmoe)は、スウェーデン国マルメにおいて(新たに診断されるか、慢性心不全が悪化した)急性心不全で入院した治療継続患者で実施されている現在進行中の前向き研究である。唯一の除外基準は、同意書を提出できないことであった。ベースラインのデータを、血液サンプルの供与と臨床検査を含め、2014年3月から2018年9月に324人の対象で回収した。完全なデータは295人の患者で利用可能であった。1年死亡に関するデータ(54イベント)と、1年心血管関連死に関するデータ(44イベント)と、30日再入院に関するデータ(61イベント)を、国と地方の登記所から回収した。許可が得られたとき、セレノプロテインPを測定するとともに臨床検査を実施した。
【0152】
臨床検査
【0153】
入院時、絶食時血液サンプルを採取し、血圧を測定し、ボディマス指数(BMI)をkg/m2で計算した。対象の健康状態(症状と機能と生活の質)を、カンザス市心筋症質問票(KCCQ)を用いて評価した。KCCQは、駆出分画が低下した心不全と駆出分画が保存された心不全の両方における健康状態の有効かつ信頼性ある1つの指標であり(Joseph、Novak他2013年)、スウェーデン国で認可された手段になっている(Patel、Ekman他2008年)。糖尿病であることは、内科医によって以前に1型または2型の糖尿病と診断されたこと、または抗糖尿病薬を使用していることと定義した。心房細動(AF)は、以前にHFと診断されたことと定義した。以前の鬱血性心不全は、鬱血性心不全で以前に入院したことがあること、または本研究に参加する前に内科医によって心不全と診断されたことと定義した。
【0154】
検査アッセイ
【0155】
絶食時N末端プロ脳利尿性ペプチド(NT-プロBNP)を、電気化学発光イムノアッセイに基づくサンドイッチアッセイ(Cobas、Roche Diagnostic社、バーゼル、スイス国)を利用して、全国標準化・品質管理システムに参加しているマルメのスコーネ大学病院の臨床化学部門で分析した。セレノプロテインPの分析については、承諾を得て絶食時血液サンプルを4.5 mlのEDTA管に回収し、1950×gで10分間遠心分離した。次いで血漿を200μlのアリコートにしてバーコード付きの試験管(REMP、ブルックス、Life Sciences社、アメリカ合衆国)に入れ、分析まで-80℃で保管した。実施例1に記載されているようなモノクローナル抗体を用い、検証されたELISAイムノアッセイでセレノプロテインPを分析した。
【0156】
転帰
【0157】
KCCQを利用して、身体的制約、症状、自己効力感、社会的制約、生活の質を定量した。全体的総合スコアが50未満を、健康に関係した生活の質が低い徴候とみなしたのに対し、全体的総合スコアが50以上を健康に関係した生活の質がより優れている徴候とみなした(Soto、Jones他2004年)。全1年死亡は、研究に参加してから1年以内の全死因死亡と定義し、Swedish total population register Statistics Swedenから取得した。再入院は、研究に参加してから30日以内に心不全が悪化したことによる、あらゆる予想外の再入院の初回と定義した。研究に参加してから30日以内の死亡または再入院(どちらが先でもよい)という複合エンドポイントを作った。
【0158】
統計
【0159】
分析の前に、セレノプロテインPを規格化した(z標準化)。歪んだ分布を持つ変数はNT-プロBNPだけであったため、この変数を分析の前に対数変換した。セレノプロテインPとKCCQの間の横断的関連性を、ロジスティック回帰モデルを用いて調べた。そのとき従属変数KCCQは、粗モデルと、モデル1(年齢と性別に関して調整済み)と、モデル2(BMIと、収縮期血圧(SBP)と、喫煙と、AF有病と、糖尿病有病と、以前のHFと、対数変換したNT-プロBNPに関してさらに調整済み)において、低い生活の質の1つの指標としての全スコアが50未満とそれ以外に二分した(より大きなポイント数=健康に関係する生活の質がより優れている)。1年死亡についてと、30日再入院についてと、研究に参加してから30日以内の死亡と再入院(どちらが先でもよい)からなる複合エンドポイントについて、Cox回帰モデルを粗モデルとモデル1(年齢と性別に関して調整済み)で実施し、モデル2における関連するリスク因子(BMIと、SBPと、喫煙と、AF有病と、糖尿病有病と、以前のHFと、対数変換したNT-プロBNP)をさらに調整した。生存率のプロットは、調整なしカプラン-マイヤーモデルを用いて計算した。入院の期間は粗線形回帰モデルを用いて分析し、年齢と性別に関して調整し(モデル1)、モデル2に従ってさらに調整した。すべての分析を、IBM SPSS統計バージョン25(SPSS社、シカゴ、イリノイ州)を用いて実施したが、例外としてHarrellのC統計分析はR 3.4.3を用いて実施した。
【0160】
両側p値が0.05未満を統計的に有意であるとみなした。受信者動作曲線(ROC)分析を実施し、域値とそれぞれの感度および特異度を決定した。
【0161】
結果
【0162】
セレノプロテインPのレベルの各四分位数内の研究集団のベースラインの特徴を表1に示す。セレノプロテインPは集団内で正規分布していた(中央値は3.4 mg/L)。
【0163】
セレノプロテインPと生活の質
【0164】
KCCQ全体スコアに基づく生活の質の横断的分析から、セレノプロテインPが1 SD増加するごとに、全体スコアが50未満と定義した健康に関連した生活の質が低い集団(n=47)のリスクが低下するという関係があることが、粗モデル(OR 0.70;95%信頼区間0.50~0.99;p=0.044)と、モデル1(OR 0.70;95%信頼区間0.50~0.99;p=0.043)と、完全調整モデル2(OR 0.68;95%信頼区間0.47~0.97;p=0.035)において明らかになった。
【0165】
セレノプロテインPの最低四分位数と最高四分位数の間の性差を理由として、相互作用分析を実施した。性別に関して有意な相互作用が存在していたため、それぞれの性について別々に追加の分析を実施した。これらの分析から、セレノプロテインPのレベルと健康に関連した生活の質の低さの間の関連性は主に男性によって決まること(n=205、32イベント、粗HR 0.67;95%信頼区間0.45~0.99;p=0.048)が明らかになった一方で、女性では有意な関連性が見られなかった(n=89、15イベント、粗OR 0.82;95%信頼区間0.40~1.67;p=0.581)。
【0166】
セレノプロテインPと1年死亡
【0167】
1年死亡は、セレノプロテインPの最高四分位数内の患者(8.8%)よりもセレノプロテインPの最低四分位数内の患者(29.9%)のほうが多かった。1年死亡と関係するセレノプロテインPのレベルが図1に示されている。
【0168】
1年死亡のCox回帰分析を表2に示してあり、セレノプロテインPの濃度が1 SD増加するごとに1年死亡のリスクがより小さくなったことが、粗分析(HR 0.64;95%信頼区間0.47~0.86;p=0.003)においてと、モデル1(HR 0.60;95%信頼区間0.45~0.81;p=0.001)においてと、BMIと、SBPと、喫煙と、AF有病と、糖尿病有病と、対数変換したNT-プロBNPと、以前のHFをさらに調整したモデル2(HR 0.65;95%信頼区間0.48~0.88;p=0.005)において明らかである。セレノプロテインPのC指数を計算すると0.628であった(95%信頼区間0.553~0.703)。モデル2で変数にセレノプロテインPを加えると(ブートストラップ補正)C指数が0.736から0.751に増加する(追加した値に関するpは0.004)。
【0169】
よりわかりやすくするため、セレノプロテインPのレベルを四分位数に分割し、1年死亡と関係づけた(表3)。四分位数分析から、セレノプロテインPのレベルが最低の四分位数の対象(Q1)は、完全調整モデル2では、1年以内に死亡するリスクが、Q4の対象と比べて有意に大きいこと(四分位数の間の差のpが0.001)が明らかになった(HR 4.13;95%信頼区間1.64~10.4)。セレノプロテインPの各四分位数内の生存率を示すカプラン-マイヤー曲線を図2に示す。
【0170】
セレノプロテインPの最低四分位数と最高四分位数の間の性差を理由として、相互作用分析を実施した。性別に関して有意な相互作用が存在していたため、それぞれの性について別々に追加の分析を実施した。これらの分析から、コホート全体で観察されたセレノプロテインPのレベルと死亡率の間の関連性は主に男性によって決まること(n=208、45イベント、粗HR 0.60;95%信頼区間0.44~0.82;p=0.001)が明らかになった一方で、女性では有意な関連性が見られなかった(n=92、11イベント、粗OR 0.72;95%信頼区間0.35~1.52;p=0.391)。
【0171】
1年死亡のリスクを決定するための代表的な域値を、それぞれの感度および特異度とともに表4に示す。
【0172】
セレノプロテインPと30日再入院のリスク
【0173】
30日以内再入院率は、セレノプロテインPの最低四分位数内の患者(28.6%)でセレノプロテインPが最高レベルの患者(7.4%)よりも大きかった。30日再入院と関係するセレノプロテインPのレベルが図1に示されている。
【0174】
30日再入院(n=61)のCox回帰分析を表2に示してあり、セレノプロテインPが1 SD増加するごとに、研究に参加してから30日以内に再入院するリスクがより低くなったという関係があることが、粗分析(HR 0.66;95%信頼区間0.50~0.87;p=0.003)と、モデル1(HR 0.67;95%信頼区間0.51~0.88;p=0.004)と、さらに調整したモデル2(HR 0.67;95%信頼区間0.51~0.89;p=0.005)で明らかである。セレノプロテインPのC指数は0.617と計算された(95%信頼区間0.552~0.682)。モデル2で変数にセレノプロテインPを追加するとC指数が0.567から0.627に増加する(追加した値に関するpは0.004)。モデル2に関してブートストラップ補正したC指数は0.48である(他のどの変数も予測に寄与しないため、ペナルティは大きく、C指数は0.5未満のままなる)。セレノプロテインPを加えるとブートストラップ補正したC指数は0.547に増加する(予測能力がない9つの変数を追加するペナルティが理由で、それでも単独のセレノプロテインPより小さい)。
【0175】
それに加え、セレノプロテインPのレベルを四分位数に分割し、30日再入院と関係づけた(表3)。四分位数分析から、セレノプロテインPのレベルが最低の四分位数の対象(Q1)は、完全調整モデル2では、30日以内に再入院するリスクが、Q4(四分位数の間の差のpが0.004)の対象と比べて有意に大きいことが明らかになった(HR 4.29;95%信頼区間1.59~11.6)。セレノプロテインPの各四分位数内の再入院を示すカプラン-マイヤー曲線を図3に示す。
【0176】
セレノプロテインPの最低四分位数と最高四分位数の間の性差を理由として、相互作用分析を実施した。性別に関して有意な相互作用が存在していたため、それぞれの性について別々に追加の分析を実施した。これらの分析から、コホート全体で観察されたセレノプロテインPのレベルと30日再入院の間の関連性が主に男性によって決まること(n=205、39イベント、粗HR 0.68;95%信頼区間0.49~0.93;p=0.017)が明らかになった一方で、女性では有意な関連性が見られなかった(n=90、22イベント、粗OR 0.65;95%信頼区間0.38~1.11;p=0.116)。
【0177】
30日再入院のリスクを決定するための代表的な域値を、それぞれの感度および特異度とともに表5に示す。
【0178】
セレノプロテインPと複合エンドポイント(30日以内の再入院または死亡)
【0179】
研究に参加してから30日以内の死亡または再入院は、セレノプロテインPの最高四分位数内の患者(7.4%)よりもセレノプロテインPの最低四分位数内の患者(32.4%)のほうが高頻度であった。死亡または再入院の複合エンドポイントと関係するセレノプロテインPのレベルが図1に示されている。
【0180】
セレノプロテインPと複合エンドポイント(68イベント)の関係のCox回帰分析を表2に示してあり、セレノプロテインPの濃度が1 SD増加するごとに30日以内の死亡または再入院のリスクが低下したという関係があることが、粗分析(HR 0.64;95%信頼区間0.49~0.83;p=0.001)においてと、モデル1(HR 0.65;95%信頼区間0.50~0.85;p=0.001)においてと、BMIと、SBPと、喫煙と、AF有病と、糖尿病有病と、対数変換したNT-プロBNPと、以前のHFをさらに調整したモデル2(HR 0.66; 0.51~0.86;p=0.002)において明らかである。セレノプロテインPのC指数は0.622と計算された(95%信頼区間0.562~0.681)。モデル2で変数にセレノプロテインPを加えるとC指数が0.584から0.632に増加する(追加した値に関するpは0.002)。モデル2でブートストラップ補正したC指数は0.507である(どの変数も予測に寄与しないため)。セレノプロテインPを加えるとブートストラップ補正したC指数は0.561に増加する(それでも予測能力を持たない9つの変数にペナルティが理由で単独のセレノプロテインPよりも小さい)。
【0181】
さらに、セレノプロテインPのレベルを四分位数に分割し、30日以内の死亡または再入院と関係づけた(表3)。四分位数分析から、セレノプロテインPのレベルが最低の四分位数の対象(Q1)は、完全調整モデル2では、30日以内に死亡または再入院するリスクが、Q4の対象と比べて有意に大きいこと(四分位数の間の差のpが0.002未満)が明らかになった(HR 4.80;95%信頼区間1.80~12.8)。セレノプロテインPの各四分位数内の生存率を示すカプラン-マイヤー曲線を図4に示す。
【0182】
転帰[A)再入院なし/生存者;B)再入院あり/生存者;C)再入院なし/疾患あり;D)再入院あり/疾患あり]に基づく各グループ内のセレノプロテインPの分布が図1に示されている。
【0183】
入院期間
【0184】
セレノプロテインPと入院の長さをさらに分析したところ、セレノプロテインPの濃度が1 SD増加するごとに、入院期間がより短くなるという関連があることが、粗モデル(β -0.95、p<0.001)と、モデル1(β -1.04、p<0.001)と、モデル2(β -0.96、p<0.001)において明らかになった。
【0185】
考察
【0186】
この前向き研究は、新たに診断されるか悪化している急性心不全について、血漿中セレノプロテインPのレベルが低いことが、健康に関連した生活の質がより低いことと、1年死亡のリスクがより大きいことと、30日再入院のリスクがより大きいことと、入院期間がより長いことに関係していることを実証している。大半の心臓疾患の一般的な転帰である鬱血性心不全の有病率は世界中で着実に増加しており、おそらくその原因は、改善された鬱血性心不全生存率と、人口の老齢化である(SavareseとLund 2017年)。
【0187】
悪化している鬱血性心不全を理由とした計画されない再入院により、悪い予後(Ponikowski、Voors他 2016年)と、低い生活の質(Hobbs、Kenkre他 2002年)と、経済的負担(Writing Group、Mozaffarian他 2016年)が社会に課されるため、心不全の治療の最適化が、健康に関する最優先事項になっている。現在までのところ、(セレノプロテインPの循環レベルの低さとして測定される)セレン欠乏と転帰(心不全の集団における死亡率や再入院など)の関連性を調べる研究は発表されていない。
【0188】
25種類のセレノプロテインのうちでセレノプロテインPがセレン輸送体として機能することと、セレンの代謝と保管に不可欠であることが示唆されている(SaitoとTakahashi 2002年、Labunskyy、Lee他 2011年)。ヒトでは、セレノプロテインPのレベルは血清中セレンのレベルと相関しており(Andoh、Hirashima他 2005年)、セレン栄養状態の1つの指数として利用することができる(BurkとHill 2009年)。セレンは細胞の還元-酸化状態と免疫系の制御に関与する必須微量元素であり(McKenzie、Rafferty他 1998年;Arthur、McKenzie他 2003年;Huang、Rose他 2012年)、身体の抗酸化防御機構にとって肝要であると認識されている(Ahrens、Ellwanger他 2008年)。酸化ストレスの増大は鬱血性心不全の発症に寄与することが指摘される(GivertzとColucci 1998年;Keith、Geranmayegan他 1998年;Mallat、Philip他 1998年;Singal、Khaper他 1998年;MunzelとHarrison 1999年;de LorgerilとSalen 2006年)とともに、酸化損傷からの保護におけるセレンの関与が心血管系で実証されている(Blankenberg、Rupprecht他 2003年;Akbaraly、Arnaud他 2005年;Ray、Semba他 2006年;JosephとLoscalzo 2013年)。早くも1982年に血清中セレンのレベルの低さと心筋梗塞および心血管死の間の関係が観察された(Salonen, Alfthan 他 1982)。しかし血清中セレンはヒトの身体におけるセレンの状態の貧弱な指標である可能性が大きい一方で、セレノプロテインPはセレンの状態の有効なバイオマーカーであることが実証されている(Ashton、Hooper他 2009年)。ヒトでは、セレノプロテインPは、2型糖尿病または前糖尿病のほか、太り過ぎの対象と肥満である対象で上昇することが実証されており(Yang、Hwang他 2011年)、セレノプロテインPの発現レベルは2型糖尿病の対象で大きく上方調節されていることが示された(Misu、Takamura他 2010年)。糖尿病とインスリン抵抗性が軽度の炎症と酸化ストレスの状態であることを考慮すると、2型糖尿病と前糖尿病におけるセレノプロテインPの上昇がリスク因子または補償機構であるかどうかを結論づけることのできる研究は存在していない。われわれの分析はすべて、糖尿病に関して調整した。これは、セレノプロテインPと、生活の質の低さとの関連性、1年死亡との関連性、再入院との関連性が、糖尿病状態とは独立であることを意味する。
【0189】
心血管疾患では、ラットにおいてセレンが欠乏すると心筋虚血-再灌流の後の心筋の損傷がより大きかった(Venardos、Harrison他 2004年)。これは、他の研究における知見(Pucheu、Coudray他 1995年;Toufektsian、Boucher他 2000年;Tanguy、Toufektsian他 2003年)と一致している。さらに、セレンを多く摂取したラットは梗塞のサイズが縮小し、心臓の機能回復が改善され、心室性不整脈の発生が減少した(Tanguy、Boucher他 1998年;Tanguy、Morel他 2004年;Rakotovao、Tanguy他 2005年;Tanguy、Rakotovao他 2011年)。これらの知見は、われわれの研究における知見のもっともらしい説明となる可能性がある。というのも主に男性では、あらゆる心不全の過半(アメリカ合衆国では50%超)(GheorghiadeとBonow 1998年)が、基礎となる冠動脈疾患によって起こるという事実があるからである。われわれのコホートでは、対象の心不全の病因に関する完全なデータが欠けていたため、セレン欠乏とさまざまな病気誘発因子の間の関連性を分析することはできなかった。
【0190】
KCCQによって測定されるセレノプロテインPと1年死亡のリスクの関連性のほか、30日再入院との関連性と、生活の質との関連性の分析では、性別との相互作用が観察された。そこで感度分析をそれぞれの性について別々に実施したところ、観察された関連性は主に男性対象によって決まることが明らかになった。とはいえ、これらのデータは、女性でイベントの割合がより低いことを考慮して非常に注意して解釈する必要がある。
【0191】
研究によってヒトの身体におけるセレンに依存した機能が同定されているが、心血管疾患におけるセレン補充の役割はまだ明確になっていない(Flores-Mateo、Navas-Acien他 2006年、Rees、Hartley他 2013年)。現在までのところ、セレン補充が急性心不全の集団における転帰に及ぼす効果に関する研究は、克山病を唯一の例外として存在していない(McKeag、McKinley他 2012年)。われわれの知見は、セレン補充が心不全における転帰に及ぼす効果を調べる研究を促している。
【0192】
本研究には強みと制約の両方が存在している。われわれは、新規の心不全、または悪化しつつある心不全と認められた患者を逐次的に含めていき、唯一の除外基準が研究への同意書を提出できないことであったため、代表的な心不全集団を模倣している可能性が非常に大きかった。
【0193】
すべての分析で、臨床に関係するリスク因子を調整した。そのためデータは、鬱血性心不全の設定においてセレン欠乏が不良転帰という予後になることを証明しているとわれわれは考える。われわれのデータは単一の地域センターで回収した。そのため他の集団への適用可能性が制限される。さらに、われわれのサンプルサイズは比較的小さかったため、結果をより大きなコホートで再現する必要がある。また、HARVEST-Malmoeに含まれる対象は主にスウェーデン人であったため、導き出される結論をあらゆる人種に一般化することはできない可能性がある。
【0194】
結論
【0195】
本研究により、AHFにおける不良転帰の新規なマーカーとしてのセレノプロテインPが同定されたため、セレン補充がCAHF患者における予後を改善する可能性があるかどうかを調べるさらなる研究を促している。
【0196】
【表1】
【0197】
【表2】
【0198】
【表3】
【0199】
【表4】
【0200】
【表5】
【0201】
実施例3:MPP研究
【0202】
研究の説明
【0203】
地域住民を対象としたマルメ予防プロジェクト(MPP)は、スウェーデンの単一施設による地域住民を対象とした前向き研究である。1974年~1992年にマルメ市地区から均一な人種背景の男性と女性を合計で33,346人リクルートし、伝統的なリスク因子である全死因死亡率と心血管疾患(CVD)でスクリーニングした。ベースライン手続きの詳細な説明は、別の文献に見いだすことができる(Fedorowski 他 2010年 Eur Heart J 第31巻:85~91ページ;Berglund 他 1996年J Intern Med第239巻:489~497ページ)。2002年~2006年、原初のMPPコホートからの全生存者を再検査に招いた。彼らのうちで18,240人の患者(n=6,682人の女性)が招きに応じ、再検査がなされた。再検査には、血液サンプリングと、その直後のEDTA血漿アリコートの-80℃での保管が含まれる。2002年~2006年の再検査は、本研究におけるベースラインとなる時点であることを表わす。
【0204】
セレノプロテインPを検査した18,240人の対象のうちの5,060人がランダムなサンプルである(平均年齢69歳)。4366人の対象は以前にCVD(心筋梗塞と脳卒中と冠動脈血行再建)の経験がなかった。患者の平均追跡時間は9.3年であり、死亡(n=1111)、CVD死(n=351)、初めてのCVDイベント(n=745)があった。実施例1に記載されているようにしてモノクローナル抗体を用い、検証されたELISAイムノアッセイでセレノプロテインPを測定した。コホートのベースラインの特徴を表6に示す。
【0205】
【表6】
【0206】
中央値(四分位数内の範囲)が9.3(8.3~11)年の追跡期間中、合計で1111人が死亡した。最大の死者数は、セレノプロテインPの四分位数1で観察された(n=314;3.7 mg/L、範囲0.4~4.3 mg/L)。同様のパターンが、心血管死のエンドポイント分析(351イベント)と、初めての心血管イベントのリスクのエンドポイント分析(745イベント)でそれぞれ観察され、セレノプロテインPの四分位数1ではリスクがわずかに大きかった。
【0207】
この健康な集団におけるセレノプロテインPの頻度分布は0.4~20.0 mg/Lであり、濃度の中央値は5.5 mg/Lである(図5A)。健康な対象が初めて心血管イベントを起こすリスクまたは心血管死に至るリスクを評価するためのセレノプロテインPの域値の範囲は、4.0~5.5 mg/Lである。心不全集団(HARVEST研究)のセレノプロテインPの濃度は、MPPからの健康な集団と比べてはるかに小さい0.8~6.9 mg/Lの範囲で、中央値は3.0 mg/Lであり、数値の大半は健康な対象の域値よりもはるかに下である(例えば心不全患者の97.3%が5.5 mg/L未満であり、心不全患者の79.7%が4.0 mg/L未満である)(図5B)。心不全患者は、セレノプロテインPの濃度が、心血管イベントのリスクを持つ健康な患者と同等である。というのもこれらの患者は、すでに心血管イベント(すなわち心不全)を患ったことがあるからである。驚くべきことに、本発明によれば、心不全患者における低い濃度のセレノプロテインPはさらに複数の下位群に分割することができ、心不全患者でセレノプロテインPの濃度が分布の下端にあると、本発明によれば、例えば心不全が悪化するリスク、または心不全により再入院するリスク、または死亡のリスクがより大きい(実施例2を参照されたい)。
【0208】
配列リスト
【0209】
配列番号1:シグナル配列を含むセレノプロテインP(アミノ酸1~381)
MWRSLGLALA LCLLPSGGTE SQDQSSLCKQ PPAWSIRDQD PMLNSNGSVT
VVALLQASUY LCILQASKLE DLRVKLKKEG YSNISYIVVN HQGISSRLKY
THLKNKVSEH IPVYQQEENQ TDVWTLLNGS KDDFLIYDRC GRLVYHLGLP
FSFLTFPYVE EAIKIAYCEK KCGNCSLTTL KDEDFCKRVS LATVDKTVET
PSPHYHHEHH HNHGHQHLGS SELSENQQPG APNAPTHPAP PGLHHHHKHK
GQHRQGHPEN RDMPASEDLQ DLQKKLCRKR CINQLLCKLP TDSELAPRSU
CCHCRHLIFE KTGSAITUQC KENLPSLCSU QGLRAEENIT ESCQURLPPA
AUQISQQLIP TEASASURUK NQAKKUEUPS N
【0210】
配列番号2:分泌されたセレノプロテインP(アミノ酸20~381)
ESQDQSSLCK QPPAWSIRDQ DPMLNSNGSV TVVALLQASU YLCILQASKL
EDLRVKLKKE GYSNISYIVV NHQGISSRLK YTHLKNKVSE HIPVYQQEEN
QTDVWTLLNG SKDDFLIYDR CGRLVYHLGL PFSFLTFPYV EEAIKIAYCE
KKCGNCSLTT LKDEDFCKRV SLATVDKTVE TPSPHYHHEH HHNHGHQHLG
SSELSENQQP GAPNAPTHPA PPGLHHHHKH KGQHRQGHPE NRDMPASEDL
QDLQKKLCRK RCINQLLCKL PTDSELAPRS UCCHCRHLIF EKTGSAITUQ
CKENLPSLCS UQGLRAEENI TESCQURLPP AAUQISQQLI PTEASASURU
KNQAKKUEUP SN
【0211】
配列番号3:セレノプロテインP(アミノ酸20~346)
ESQDQSSLCK QPPAWSIRDQ DPMLNSNGSV TVVALLQASU YLCILQASKL
EDLRVKLKKE GYSNISYIVV NHQGISSRLK YTHLKNKVSE HIPVYQQEEN
QTDVWTLLNG SKDDFLIYDR CGRLVYHLGL PFSFLTFPYV EEAIKIAYCE
KKCGNCSLTT LKDEDFCKRV SLATVDKTVE TPSPHYHHEH HHNHGHQHLG
SSELSENQQP GAPNAPTHPA PPGLHHHHKH KGQHRQGHPE NRDMPASEDL
QDLQKKLCRK RCINQLLCKL PTDSELAPRS UCCHCRHLIF EKTGSAITUQ
CKENLPSLCS UQGLRAEENI TESCQUR
【0212】
配列番号4:セレノプロテインP(アミノ酸20~298)
ESQDQSSLCK QPPAWSIRDQ DPMLNSNGSV TVVALLQASU YLCILQASKL
EDLRVKLKKE GYSNISYIVV NHQGISSRLK YTHLKNKVSE HIPVYQQEEN
QTDVWTLLNG SKDDFLIYDR CGRLVYHLGL PFSFLTFPYV EEAIKIAYCE
KKCGNCSLTT LKDEDFCKRV SLATVDKTVE TPSPHYHHEH HHNHGHQHLG
SSELSENQQP GAPNAPTHPA PPGLHHHHKH KGQHRQGHPE NRDMPASEDL
QDLQKKLCRK RCINQLLCKL PTDSELAPR
【0213】
配列番号5:セレノプロテインP(アミノ酸20~299)
ESQDQSSLCK QPPAWSIRDQ DPMLNSNGSV TVVALLQASU YLCILQASKL
EDLRVKLKKE GYSNISYIVV NHQGISSRLK YTHLKNKVSE HIPVYQQEEN
QTDVWTLLNG SKDDFLIYDR CGRLVYHLGL PFSFLTFPYV EEAIKIAYCE
KKCGNCSLTT LKDEDFCKRV SLATVDKTVE TPSPHYHHEH HHNHGHQHLG
SSELSENQQP GAPNAPTHPA PPGLHHHHKH KGQHRQGHPE NRDMPASEDL
QDLQKKLCRK RCINQLLCKL PTDSELAPRS
【0214】
配列番号6:セレノプロテインP(アミノ酸20~300)
ESQDQSSLCK QPPAWSIRDQ DPMLNSNGSV TVVALLQASU YLCILQASKL
EDLRVKLKKE GYSNISYIVV NHQGISSRLK YTHLKNKVSE HIPVYQQEEN
QTDVWTLLNG SKDDFLIYDR CGRLVYHLGL PFSFLTFPYV EEAIKIAYCE
KKCGNCSLTT LKDEDFCKRV SLATVDKTVE TPSPHYHHEH HHNHGHQHLG
SSELSENQQP GAPNAPTHPA PPGLHHHHKH KGQHRQGHPE NRDMPASEDL
QDLQKKLCRK RCINQLLCKL PTDSELAPRS U
【0215】
配列番号7:セレノプロテインP(アミノ酸20~301)
ESQDQSSLCK QPPAWSIRDQ DPMLNSNGSV TVVALLQASU YLCILQASKL
EDLRVKLKKE GYSNISYIVV NHQGISSRLK YTHLKNKVSE HIPVYQQEEN
QTDVWTLLNG SKDDFLIYDR CGRLVYHLGL PFSFLTFPYV EEAIKIAYCE
KKCGNCSLTT LKDEDFCKRV SLATVDKTVE TPSPHYHHEH HHNHGHQHLG
SSELSENQQP GAPNAPTHPA PPGLHHHHKH KGQHRQGHPE NRDMPASEDL
QDLQKKLCRK RCINQLLCKL PTDSELAPRS UC
【0216】
配列番号8:セレノプロテインP(アミノ酸20~302)
ESQDQSSLCK QPPAWSIRDQ DPMLNSNGSV TVVALLQASU YLCILQASKL
EDLRVKLKKE GYSNISYIVV NHQGISSRLK YTHLKNKVSE HIPVYQQEEN
QTDVWTLLNG SKDDFLIYDR CGRLVYHLGL PFSFLTFPYV EEAIKIAYCE
KKCGNCSLTT LKDEDFCKRV SLATVDKTVE TPSPHYHHEH HHNHGHQHLG
SSELSENQQP GAPNAPTHPA PPGLHHHHKH KGQHRQGHPE NRDMPASEDL
QDLQKKLCRK RCINQLLCKL PTDSELAPRS UCC
【0217】
配列番号9:セレノプロテインP(アミノ酸20~303)
ESQDQSSLCK QPPAWSIRDQ DPMLNSNGSV TVVALLQASU YLCILQASKL
EDLRVKLKKE GYSNISYIVV NHQGISSRLK YTHLKNKVSE HIPVYQQEEN
QTDVWTLLNG SKDDFLIYDR CGRLVYHLGL PFSFLTFPYV EEAIKIAYCE
KKCGNCSLTT LKDEDFCKRV SLATVDKTVE TPSPHYHHEH HHNHGHQHLG
SSELSENQQP GAPNAPTHPA PPGLHHHHKH KGQHRQGHPE NRDMPASEDL
QDLQKKLCRK RCINQLLCKL PTDSELAPRS UCCH
【0218】
配列番号10:セレノプロテインP(アミノ酸20~304)
ESQDQSSLCK QPPAWSIRDQ DPMLNSNGSV TVVALLQASU YLCILQASKL
EDLRVKLKKE GYSNISYIVV NHQGISSRLK YTHLKNKVSE HIPVYQQEEN
QTDVWTLLNG SKDDFLIYDR CGRLVYHLGL PFSFLTFPYV EEAIKIAYCE
KKCGNCSLTT LKDEDFCKRV SLATVDKTVE TPSPHYHHEH HHNHGHQHLG
SSELSENQQP GAPNAPTHPA PPGLHHHHKH KGQHRQGHPE NRDMPASEDL
QDLQKKLCRK RCINQLLCKL PTDSELAPRS UCCHC
【0219】
配列番号11:セレノプロテインP(アミノ酸20~305)
ESQDQSSLCK QPPAWSIRDQ DPMLNSNGSV TVVALLQASU YLCILQASKL
EDLRVKLKKE GYSNISYIVV NHQGISSRLK YTHLKNKVSE HIPVYQQEEN
QTDVWTLLNG SKDDFLIYDR CGRLVYHLGL PFSFLTFPYV EEAIKIAYCE
KKCGNCSLTT LKDEDFCKRV SLATVDKTVE TPSPHYHHEH HHNHGHQHLG
SSELSENQQP GAPNAPTHPA PPGLHHHHKH KGQHRQGHPE NRDMPASEDL
QDLQKKLCRK RCINQLLCKL PTDSELAPRS UCCHCR
【0220】
配列番号12:セレノプロテインP(アミノ酸20~306)
ESQDQSSLCK QPPAWSIRDQ DPMLNSNGSV TVVALLQASU YLCILQASKL
EDLRVKLKKE GYSNISYIVV NHQGISSRLK YTHLKNKVSE HIPVYQQEEN
QTDVWTLLNG SKDDFLIYDR CGRLVYHLGL PFSFLTFPYV EEAIKIAYCE
KKCGNCSLTT LKDEDFCKRV SLATVDKTVE TPSPHYHHEH HHNHGHQHLG
SSELSENQQP GAPNAPTHPA PPGLHHHHKH KGQHRQGHPE NRDMPASEDL
QDLQKKLCRK RCINQLLCKL PTDSELAPRS UCCHCRH
【0221】
配列番号13:セレノプロテインP(アミノ酸1~235)
MWRSLGLALA LCLLPSGGTE SQDQSSLCKQ PPAWSIRDQD PMLNSNGSVT
VVALLQASUY LCILQASKLE DLRVKLKKEG YSNISYIVVN HQGISSRLKY
THLKNKVSEH IPVYQQEENQ TDVWTLLNGS KDDFLIYDRC GRLVYHLGLP
FSFLTFPYVE EAIKIAYCEK KCGNCSLTTL KDEDFCKRVS LATVDKTVET
PSPHYHHEHH HNHGHQHLGS SELSENQQPG APNAP
【0222】
配列番号14:セレノプロテインP(アミノ酸279~381)
KRCINQLLCK LPTDSELAPR SUCCHCRHLI FEKTGSAITU QCKENLPSLC SUQGLRAEEN ITESCQURLP PAAUQISQQL IPTEASASUR UKNQAKKUEU PSN
【0223】
配列番号15:セレノプロテインP(アミノ酸312~381)
TGSAITUQCK ENLPSLCSUQ GLRAEENITE SCQURLPPAA UQISQQLIPT EASASURUKN QAKKUEUPSN
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
2022514896000001.app
【国際調査報告】