(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-16
(54)【発明の名称】高塑性表層と高強度内層を有する勾配鉄鋼材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20220208BHJP
C22C 38/04 20060101ALI20220208BHJP
C21D 1/78 20060101ALI20220208BHJP
C21D 1/84 20060101ALI20220208BHJP
C21D 6/00 20060101ALI20220208BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C22C38/04
C21D1/78
C21D1/84
C21D6/00 U
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021536047
(86)(22)【出願日】2019-12-27
(85)【翻訳文提出日】2021-06-21
(86)【国際出願番号】 CN2019129094
(87)【国際公開番号】W WO2020135690
(87)【国際公開日】2020-07-02
(31)【優先権主張番号】201811623001.6
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514216801
【氏名又は名称】バオシャン アイアン アンド スティール カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】チャン、スォチュアン
(72)【発明者】
【氏名】ジャオ、スハイ
(72)【発明者】
【氏名】ディン、ジェンファ
(72)【発明者】
【氏名】ウー、コウゲン
(57)【要約】
高塑性の表層と高強度の内層を有する勾配鉄鋼材料及びその製造方法であって、その成分の重量パーセントは、C≦0.15%、Si≦1%、Mn≦1.5%であり、残部がFe及び不可避な不純物であり、また前記鉄鋼材料は表層がフェライト組織であり、内層がフェライト+ベイナイト組織である。その製造方法は、精錬、鋳造、圧延、及び熱処理工程を含み、そのうち、熱処理工程において、鉄鋼材料をオーステナイト温度Ac3以上に加熱し、3min以上に保温してから、0.5℃/s未満の冷却速度で2相域内のAr3とAr1との間の温度範囲まで冷却させ、さらに5℃/s以上の冷却速度で室温までに冷却させる。本発明の鉄鋼材料は、異なる材料の複合によって製造される必要がなく、単一の材質を加工するだけで得られるとともに、鉄鋼材料の成分が簡単で、内外の組織に差異があるものの、該差異はグラデーションの過程であり、両者の間の冶金結合強度が良好である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
勾配鉄鋼材料において、その成分の重量パーセントは、0<C≦0.15%、0<Si≦1%、0<Mn≦1.5%であり、残部はFe及び不可避な不純物であり、且つ前記鉄鋼材料は表層がフェライト組織であり、内層がフェライト+ベイナイト組織であることを特徴とする高塑性の表層と高強度の内層を有する勾配鉄鋼材料。
【請求項2】
前記鉄鋼材料の表層はフェライト組織で、炭素含有量が0.02wt%以下であり、且つ前記鉄鋼材料表層の炭素含有量は前記鉄鋼材料内層の炭素含有量より低いことを特徴とする請求項1に記載の高塑性の表層と高強度の内層を有する勾配鉄鋼材料。
【請求項3】
精錬、鋳造、圧延、及び熱処理工程を含み、そのうち、前記熱処理工程において、鉄鋼材料をオーステナイト温度Ac3以上に加熱し、3min以上に保温して、材料が完全にオーステナイト化したことを保証してから、0.5℃/s未満の冷却速度で2相域内のAr3とAr1との間の温度範囲内に冷却させ、さらに5℃/sより大きい冷却速度で室温までに急冷却させることを特徴とする請求項1又は2に記載の高塑性の表層と高強度の内層を有する勾配鉄鋼材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉄鋼材料に関し、特に高塑性表層と高強度内層を有する勾配鉄鋼材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼材料の強度と塑性は往々にして比較的に矛盾する2つの性能指標であり、強度を追求すると同時に比較的満足な塑性を得るのが常に困難である。幾らかのねじりや折り曲げに用いられる材料にとって、その主な変形は材料表層に発生し、コア部方向に向かって表面から離れるにつれて、変形がますます小さくなり、塑性に対する要求がますます低くなるため、表層の塑性が比較的に良好であるが強度がやや低く、内層の塑性がやや劣っているが強度が比較的に高い材料を開発できれば、この難題の解決にとっては非常に有利であり、表層材料が表層の大きな変形を満たすと同時に、内層材料が比較的に高い強度を提供する。このような背景の下で、表層組織と内層組織が異なる勾配鉄鋼材料を開発することは非常に意義のあることである。
【0003】
従来の解決方法は、主に圧延複合、爆発複合、接着複合等の方法によって異なる材料の複合を実現するものであり、この方面に関する特許は1000個を超えるほど多い。例えば、宝山鋼鉄をはじめとして生産された圧延クラッド板は、ステンレス鋼、ニッケル基合金、チタン鋼等の機能性材料及び炭素鋼等の構造材料を、スラブ組立の後に圧延する方法によって複合化することによって、表層ステンレス鋼、ニッケル基合金、チタン鋼の耐食性等の性能を持つだけでなく、基材の比較的高い強度も有するクラッド板製品を得て、材料機能の更なるアップグレードを実現した。中国特許CN201110045798.8、CN201310211969.9、CN201410707715.0、CN201310212003.7、CN201310213371.3、CN201510173144.1、CN201611223874.9、CN201510621011.6、CN201510173145.6等はいずれもこのようなクラッド圧延の関連技術を紹介するものである。また、爆発複合も応用された。この技術は表層金属に爆薬を均一に分布して爆発させることで、表層金属と基層金属を複合させるものであり、中国特許CN201520878950.4、CN201510738639.4、CN201620972383.3等はこのような関連技術を紹介するものである。また、接着方法により金属又は非金属を互いに接着して、機能要求を満たすクラッド板を取得する特許も多くあり、例えば、中国特許CN201720527381.8、CN201810506236.0、CN201711015280.3等である。上記の文献に開示された方法を総合すると、現在、主に異なる複合方法により、異なる材料を冶金又は機械的方法を介して、2枚又は複数枚の材料を互いに結合させることで、異なる組織及び特殊な機能を持たせる。
【0004】
大きな温度差に耐えられる新型の耐熱材料を開発するために、日本学者である新野正之らは勾配材料の概念を最初に提出した。勾配材料は新型のクラッド材料であり、従来のクラッド材料に比べて、勾配材料は組織、力学的性能等が連続的に変化するという特徴を有し、明らかな界面が存在しないので、界面での熱応力破壊による材料の失効を効果的に緩和及び解消することができる。東北大学は冷却を制御することによって鋼板を一方向に冷却することで、鋼材組織に勾配変化を生じさせ、マルテンサイト及びベイナイト組織等の高強度、高硬度と高耐摩耗性を有する組織を表面に分布させ、また、フェライト及びパーライト組織等の高靭性を有し塑性が比較的に良好な組織を材料の内部に分布させる。このような組織が勾配分布を呈し、両側の組織が性能にそれぞれの優勢を持つ材料は、高強度、高硬度を有する一方の側が強度と耐摩耗性に対する需要を満たすことができ、高靭性を有し塑性が良好な他方の側は、靭性と加工変形に対する需要を満たすことができる。
【0005】
大変形技術は、組織を効果的に微細化することができ、材料組織又は性能の勾配変化を実現することもできるものである。等断面角度付押出(ECAP)、超音波ショットピーニング(USP)、表面機械的研磨(SMAT)、高圧ねじり(HPT)等は現在よく使用される大変形技術である。上記の研究はいずれも大変形技術による組織の微細化作用によって、材料表面に力学的性能と組織の勾配変化を実現させるものである。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、高塑性の表層と高強度の内層を有する勾配鉄鋼材料及びその製造方法を提供することを目的とし、当該鉄鋼材料は、異なる材料の複合によって製造される必要がなく、単一の材質を加工するたけで製造され、また当該鉄鋼材料の成分が簡単である。本発明の鉄鋼材料は有機的な統一体であり、内外の組織に差異があるものの、該差異はグラデーションの過程であり、両者間の冶金結合強度が良好である。また材料全体の炭素含有量が比較的に低く、良好な溶接性能が保証される。
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の技術手段は次のとおりである。
【0008】
高塑性の表層と高強度の内層を有する勾配鉄鋼材料であって、その成分の重量パーセントは、0<C≦0.15%、0<Si≦1%、0<Mn≦1.5%であり、残部はFe及び不可避な不純物であり、且つ前記鉄鋼材料は、表層がフェライト組織であり、内層がフェライト+ベイナイト組織である。そのうち、前記表層は厚さが鋼板の厚さによって異なるが、通常1mm以内である。
【0009】
好ましくは、前記鉄鋼材料の表層はフェライト組織で、炭素含有量が比較的に低く、0.02wt%以下であり、そのうち、0.02wt%は小数点以下2桁目で四捨五入した結果であり、すなわち0.015wt%~0.024wt%の数値範囲をカバーしており、好ましくは、表層の炭素含有量が0.022wt%以下であり、好ましくは、内層の炭素含有量が比較的に高く、勾配鉄鋼材料全体の平均炭素含有量よりも高く、すなわち鉄鋼材料表層の炭素含有量は鉄鋼材料内層の炭素含有量より低い。
【0010】
本発明の前記高塑性の表層と高強度の内層を有する勾配鉄鋼材料の製造方法は、精錬、鋳造、圧延、及び熱処理工程を含み、そのうち、前記熱処理工程において、鉄鋼材料をオーステナイト化の温度Ac3以上に加熱し、3min以上に保温して、材料が完全にオーステナイト化したことを保証してから、0.5℃/s未満の冷却速度で2相域内のAr3とAr1との間の温度範囲内に冷却させ、さらに5℃/sより大きい冷却速度で室温までに急速に冷却させる。
【0011】
本発明の製造方法において、熱処理の際に、鉄鋼材料全体を加熱し完全にオーステナイト化させてから、ゆっくりと冷却することにより、材料表層が優先的にフェライト組織を得て、フェライト組織における炭素の固溶度が比較的に低いため、新生したフェライト組織が内部オーステナイトに炭素を排出することにより、内部オーステナイト組織をより安定化させる。フェライト組織のさらなる核形成・成長に伴い、表層フェライト層がますます厚くなり、中間オーステナイト組織における炭素含有量がますます高くなり、組織がますます安定化する。その後の急速冷却過程では、内部のオーステナイト組織がベイナイトとフェライトの混合組織のような高強度の急冷組織に変化する。
【0012】
圧延複合、爆発複合及び接着複合によるクラッド板に対して、本発明は、2つの材料に対してスラブ組立等の処理を行う必要がなく、1つの材料を圧延及び熱処理するだけで済むとともに、最終的に得られた製品では、鉄鋼材料が有機的な統一体であり、内外の組織に差異があるものの、該差異はグラデーションの過程であり、両者間の冶金結合強度が良好である。
【0013】
従来技術では、冷却を制御することによって鋼板を一方向に冷却することで、鋼材組織に勾配変化を生じさせ、マルテンサイト及びベイナイト組織等のような高強度、高硬度と高耐摩耗性を有する組織を表面に分布させ、また、フェライト及びパーライト組織等のような高靭性を有し塑性が比較的に良好な組織を材料の内部に分布させる。これは冷却過程において、材料表面の冷却が速くて、内層の冷却が遅いためである。しかし、本発明が所望する組織構造は、まったく逆であって、高靭性を有し塑性が比較的に良好な組織を材料の表面に分布させ、高強度、高硬度と高耐摩耗性を有する組織を材料の内部に分布させて得られるものである。そのため、本発明では、異なる温度範囲内に異なる冷却速度を採用することにより、内層を一時的に相変化させずに、材料の表層を最初に相変化させ、最終的には、表層が塑性の比較的良好なフェライト組織で、内層が強度の比較的高いベイナイト及びフェライト組織であるものを得て、該組織は折り曲げやねじり等の表層変形が比較的大きい加工方式に有利である。また、本発明では、表層組織における炭素が超長距離拡散により内層組織に移行するため、内部の炭素が増加して強度が向上するが、材料全体の炭素含有量が高くなく、良好な溶接性能を保持している。
【0014】
また、本発明は、大変形技術によって組織を微細化することで、材料表面に力学的性能と組織の勾配変化を実現させる必要がなく、製造方法が簡単である。
【0015】
本発明の方法によって得られた材料は
図1のとおりである。材料の外層組織は、
図1における破線円の外側の部分に示すようにフェライトであり、内層組織は、
図1における破線円の内側の部分に示すようにフェライトとベイナイトの混合組織である。
【0016】
本発明の有益な効果は次のとおりである。
【0017】
本発明における高塑性の表層と高強度の内層を有する勾配鉄鋼材料は、表層に塑性が比較的良好なフェライト層を、内層に強度が比較的高いフェライトとベイナイトの混合組織を得ることができ、従来技術に比べて次の利点がある。
(1)本発明は2つの材料を複合する必要がなく、単一の材質、単一の材料に対し加工して製造されるだけである。
(2)本発明の方法はフローが短く、工程が簡単で、コストが低い。
(3)本発明の鋼板は有機的な統一体であり、両側の組織の差異はグラデーションの過程であり、両層間の冶金結合強度が良好である。
(4)本発明では、表層組織における炭素が超長距離拡散により、内層組織に移行するため、内部の炭素が増加して強度が向上するが、材料全体の炭素含有量が高くなく、良好な溶接性能を保持している。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は本発明の前記勾配鉄鋼材料の組織を示す図であり、Bはベイナイトを表し、Fはフェライトを表す。
【
図2】
図2は本発明の製造方法の実施例における熱処理工程を示す図である。
【
図3】
図3は本発明の実施例1の試料端部の組織図である。
【
図4】
図4は本発明の実施例4の試料端部の組織図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施例及び図面を合わせて本発明についてさらに説明する。
【0020】
本発明の実施例及び比較例の成分は表1に示すように、残部はいずれもFe及び不可避な不純物である。その製造方法は、転炉又は電気炉による精錬、加熱、及び圧延によって得られた鋼材に対して、さらに熱処理を行い、最終的に表層がフェライトで、内層がフェライト+ベイナイト組織である勾配鉄鋼材料が得られた。
【0021】
本願の比較例は、C、Si、Mnの含有量が0<C≦0.15%、0<Si≦1%、0<Mn≦1.5%という本願で限定された範囲内にない場合、又は冷却速度が本願の限定を満たさない場合、いずれも表層が純フェライトで、内層がフェライトとベイナイトとの混合である勾配鉄鋼材料の組織を得ることができないことを説明することを意図とする。
【0022】
表2は本発明の製造方法の実施例および比較例における熱処理工程を示すものである。
【0023】
図1は表層が純フェライト組織で、内層がフェライトとベイナイトの混合組織である本発明の前記勾配鉄鋼材料の組織を示すものである。
【0024】
図2は本発明の製造方法の実施例における熱処理工程を示すものである。
【0025】
図3から分かるように、実施例1で得られた勾配鉄鋼材料の組織は、表層の約256μmの範囲が純フェライト組織で、内層がフェライトとベイナイトの混合組織である。
【0026】
図4は表層の約171μmの範囲が純フェライト組織で、内層がフェライトとベイナイトの混合組織である本発明の実施例4で得られた勾配鉄鋼材料の組織を示すものである。
【0027】
【0028】
【国際調査報告】