(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-17
(54)【発明の名称】ガスハイドレートを形成するための装置および方法
(51)【国際特許分類】
C10L 3/06 20060101AFI20220209BHJP
B01J 2/00 20060101ALI20220209BHJP
【FI】
C10L3/06
B01J2/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021531761
(86)(22)【出願日】2019-12-04
(85)【翻訳文提出日】2021-08-02
(86)【国際出願番号】 SG2019050596
(87)【国際公開番号】W WO2020117129
(87)【国際公開日】2020-06-11
(31)【優先権主張番号】10201810882W
(32)【優先日】2018-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507335687
【氏名又は名称】ナショナル ユニヴァーシティー オブ シンガポール
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】リンガ,プラビーン
(72)【発明者】
【氏名】ベルスワミー,ハリ プラカシュ
(72)【発明者】
【氏名】クマール,アシーシュ
(72)【発明者】
【氏名】クラナ,マニンデル
【テーマコード(参考)】
4G004
【Fターム(参考)】
4G004AA03
4G004LA00
(57)【要約】
本発明ではガスハイドレートを形成する装置が供される。かかる装置は、高圧バルブによって互いに分けられるハイドレート形成ゾーンおよびハイドレート・ペレット化ゾーンを有して成るチャンバー、ハイドレート形成ゾーンと流体連通状態にあるガス入口、ハイドレート形成ゾーンと流体連通状態にある液体入口、ハイドレート形成ゾーンおよびハイドレート・ペレット化ゾーンで動くことができ、ガスハイドレート・ペレットの形成のため、ハイドレート形成ゾーンで形成されたガスハイドレートをハイドレート・ペレット化ゾーンへと移送させるように構成されるピストンまたはエクストルーダー、ならびに、形成されたガスハイドレートを回収するためのハイドレート出口であって、ハイドレート・ペレット化ゾーンと接続されているハイドレート出口を有して成る。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスハイドレートを形成する装置であって、
- 高圧バルブによって分けられるハイドレート形成ゾーンおよびハイドレート・ペレット化ゾーンを有して成るチャンバー、
- ハイドレート形成ゾーンと流体連通状態にあるガス入口、
- ハイドレート形成ゾーンと流体連通状態にある液体入口、
- ハイドレート形成ゾーンおよびハイドレート・ペレット化ゾーンで動くことができ、ガスハイドレート・ペレットの形成のため、ハイドレート形成ゾーンで形成されたガスハイドレートをハイドレート・ペレット化ゾーンへと移送させるように構成されるピストンまたはエクストルーダー、ならびに
- 形成されたガスハイドレートを集めるためのハイドレート出口であって、ハイドレート・ペレット化ゾーンに接続されているハイドレート出口
を有して成る、装置。
【請求項2】
ハイドレート形成ゾーンおよびハイドレート・ペレット化ゾーンの各々が冷却システムを有して成り、
前記冷却システムは、該冷却システムを通って冷却液が循環するように構成されており、それによって、ハイドレート形成ゾーンおよびハイドレート・ペレット化ゾーンが、それぞれ第1所定温度および第2所定温度に維持される、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
チャンバーは、該チャンバーの圧力が制御される圧力解放バルブを更に有して成る、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記装置は、残存液の排出のため、ハイドレート・ペレット化ゾーンと流体連通状態の液体出口を更に有して成る、請求項1~3のいずれかに記載の装置。
【請求項5】
ハイドレート・ペレット化ゾーンは、ガスハイドレート・ペレットを形成するペレット・ダイを有して成る、請求項1~4のいずれかに記載の装置。
【請求項6】
ピストンまたはエクストルーダーは、ハイドレート形成ゾーンで形成されたガスハイドレートを、ガスハイドレート・ペレットが形成されるようにハイドレート・ペレット化ゾーンのペレット・ダイへと移送するように構成されている、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
高圧バルブは、ゲート・バルブ、ボール・バルブ、またはそれらの組合せを有して成る、請求項1~6のいずれかに記載の装置。
【請求項8】
ガスハイドレートを形成する方法であって、
- ハイドレート形成液を、ハイドレート形成ゾーンと流体連通状態にある液体入口に供給すること、
- ハイドレート形成ゾーンと流体連通状態のガス入口にガスを注入すること、
- ガスハイドレートの形成が可能となるように、ハイドレート形成ゾーンを所定温度にまで冷却すること、および
- ハイドレート・ペレット化ゾーンでガスハイドレートをペレット化すること、
を含んで成る、方法。
【請求項9】
ハイドレート形成液が水を含んで成る、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ハイドレート形成液が、熱力学的促進剤、動力学的促進剤、またはそれらの組合せを更に含んで成る、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
熱力学的促進剤が、sI形成化合物、sII形成化合物、sH形成化合物、またはセミクラスレート形成化合物から成る群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
熱力学的促進剤が、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、またはそれらの組合せである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
動力学的促進剤が、界面活性剤またはアミノ酸である、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
動力学的促進剤が、ドデシル硫酸ナトリウム、トリプトファン、またはそれらの組合せである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ガスの注入には、ハイドレート形成ゾーンを30~95バールの圧力にまで加圧することが含まれる、請求項8~14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
ガスの注入が、天然ガス、バイオメタン、メタン、エタン、プロパン、二酸化炭素、水素、またはそれらの混合物を注入することを含んで成る、請求項8~15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
所定温度が1~25℃である、請求項8~16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
ペレット化に先立って、ハイドレート形成ゾーンで形成されたガスハイドレートをハイドレート・ペレット化ゾーンへと移動させることを前記方法が更に含んで成る、請求項8~17のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスハイドレートを形成する装置、および、ガスハイドレートを形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
天然ガス(NG)は、最もクリーンに燃焼する化石燃料であって、石炭や石油を使用する場合に比べて使用時の二酸化炭素排出を削減できるので、エネルギー源として世界的に使用されている。しかしながら、通常はガスパイプラインを経由することになるNG輸送には問題がある。したがって、NGは、通常、圧縮天然ガス(CNG)として圧縮ガス形態で、あるいは、液化天然ガス(LNG)として液体形態で貯留および輸送される。
【0003】
LNG輸送およびLNG貯留に使用されるLNGキャリアーは、一般に極低温の船およびタンクであり、約-160℃と非常に低い温度でLNGを貯留する必要がある。その結果、エネルギー消費が多く、コストが高くなる。CNGでは、約200バール以上の非常に高い圧力が必要とされる。これにより、高圧で大容量の貯留タンクの設計に伴って高コストとなり、CNGが非実用的なものとなる。さらに、CNGは本質的には爆発性であって可燃性を有する。
【0004】
NGを貯留する別のオプションとして、NGがクラスレート・ハイドレートの形態で貯留される固体化天然ガス(SNG)の形態にするものがある。SNGは、NGの輸送と貯留の双方を実行可能とする代替手段であって、非常に穏やかな条件でより高いエネルギーの貯留密度を可能とし、LNGやCNGと比較してより環境に優しい。しかしながら、大規模にハイドレートを形成するには困難を伴う。これは、ハイドレートの形成速度が遅く、水からハイドレートへの変換が少ないためである。さらに、約-20℃の温度でのハイドレート貯留も、かかる技術の大規模商業化には大きな障害となっている。
【0005】
それゆえ、ガスハイドレートを形成するための改良された装置および方法にはニーズがある。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、これらの問題に対処すること、および/または、ガスハイドレート形成のための改善された装置および方法を提供することを目的としている。
【0007】
第1要旨によれば、本発明は、ガスハイドレートを形成する装置であって、
- 高圧バルブ(high pressure valve)によって互いに分けられる(または分離される)ハイドレート形成ゾーン(又はハイドレート形成領域、hydrate formation zone)およびハイドレート・ペレット化ゾーン(又はハイドレート・ペレット化領域、hydrate pelletization zone)を有して成るチャンバー、
- ハイドレート形成ゾーンと流体連通状態(fluid communication)にあるガス入口、
- ハイドレート形成ゾーンと流体連通状態にある液体入口、
- ハイドレート形成ゾーンおよびハイドレート・ペレット化ゾーンで動く(またはこれらゾーンを通るように動く)ことができ、ガスハイドレート・ペレットの形成のため、ハイドレート形成ゾーンで形成されたガスハイドレートをハイドレート・ペレット化ゾーンへと移送するように構成されるピストン(piston)またはエクストルーダー(extruder)、ならびに
- 形成されたガスハイドレートを集める(又は回収する、collect)ためのハイドレート出口であって、ハイドレート・ペレット化ゾーンに接続されているハイドレート出口
を有して成る、装置を提供する。
【0008】
ある特定の要旨において、ハイドレート形成ゾーンおよびハイドレート・ペレット化ゾーンの各々は冷却システムを有して成っていてよい。冷却システムは、その冷却システムを通るように冷却液が循環するように構成されており、それによって、ハイドレート形成ゾーンおよびハイドレート・ペレット化ゾーンが、それぞれ第1所定温度(または予め定められた第1温度、first pre-determined temperature)および第2所定温度(または予め定められた第2温度、second pre-determined temperature)に維持される。
【0009】
チャンバーは、そのチャンバーの圧力を制御する圧力解放バルブ(または圧抜きバルブもしくは圧力開放バルブ、pressure release valve)を更に有して成っていてよい。圧力解放バルブは、本発明の目的のための任意の適当なバルブであてよい。別のある特定の要旨では、高圧バルブは、任意の適当な高圧バルブであってよい。特に、高圧バルブは、限定するものではないが、ゲート・バルブ、ボール・バルブ、またはそれらの組合せであってよい。
【0010】
ピストンまたはエクストルーダーは、ハイドレート形成ゾーンで形成されたガスハイドレートを、ガスハイドレート・ペレット形成のため、ハイドレート・ペレット化ゾーンのペレット・ダイにまで移送するように構成されている。ある特定の要旨では、ハイドレート・ペレット化ゾーンは、ガスハイドレート・ペレットを形成するように構成されているペレット・ダイ(またはペレット型もしくはペレット押型、pellet die)を有して成っていてよい。
【0011】
上述の装置は、残存液の排出のため、ハイドレート・ペレット化ゾーンと流体連通状態にある液体出口を更に有して成っていてよい。
【0012】
第2要旨によれば、本発明は、ガスハイドレートを形成する方法であって、
- ハイドレート形成液を、ハイドレート形成ゾーンと流体連通状態にある液体入口に供給すること、
- ハイドレート形成ゾーンと流体連通状態のガス入口にガスを注入すること、
- ガスハイドレート形成が可能となるように、ハイドレート形成ゾーンを所定温度(または予め定められた温度、pre-determined temperature)にまで冷却すること、および
- ハイドレート・ペレット化ゾーンでガスハイドレートをペレット化すること、
を含んで成る、方法を提供する。
【0013】
ハイドレート形成液は、任意の適当な液体であってよい。ある特定の要旨において、ハイドレート形成液が水を含んで成っていてよい。別のある特定の要旨において、ハイドレート形成液は、限定するわけでないが、熱力学的促進剤(若しくはサーモダイナミック・プロモーター、thermodynamic promoter)、動力学的促進剤(若しくはキネティック・プロモーター、kinetic promoter)、またはそれらの組合せを更に含んで成っていてよい。
【0014】
熱力学的促進剤は、任意の適当な熱力学促進剤であってよい。例えば、熱力学的促進剤は、限定するわけではないが、sI形成化合物(またはsI型形成のための化合物もしくは構造Iを形成する化合物、sI-forming compound)、sII形成化合物(またはsII型形成のための化合物もしくは構造IIを形成する化合物、sII-forming compound)、sH形成化合物(またはsH型形成のための化合物もしくは構造Hを形成する化合物、sH-forming compound)、またはセミクラスレート形成化合物(またはセミクラスレート形成のための化合物、semiclathrate-forming compound)であってよい。特に、熱力学的促進剤は、限定するわけではないが、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、またはそれらの組合せであってよい。
【0015】
動力学的促進剤は、任意の適当な動力学促進剤であってよい。例えば、動力学的促進剤は、限定するわけではないが、界面活性剤またはアミノ酸であってよい。特に、動力学的促進剤は、限定するわけではないものの、ドデシル硫酸ナトリウム、トリプトファン(tryptophan)、またはそれらの組合せであってよい。
【0016】
ガスの注入には、ハイドレート形成ゾーンを適当な圧力にまで加圧することが含まれてよい。特に、ガスの注入には、ハイドレート形成ゾーンを30~95バールの圧力にまで加圧することが含まれてよい。
【0017】
ガスの注入は、任意の適当なガスの注入を含んで成っていてよい。例えば、注入は、限定するわけではないが、天然ガス、バイオメタン、メタン、エタン、プロパン、二酸化炭素、水素、またはそれらの混合物から選択されるガスを注入することを含んで成るものでよい。
【0018】
所定温度は、任意の適当な温度であってよい。例えば、所定温度が1~25℃であってよい。
【0019】
上述の方法は、ハイドレート形成ゾーンで形成されたガスハイドレートを、ペレット化するに先立って、ハイドレート・ペレット化ゾーンへと移動させる(又は移す、transfer)ことを更に含んで成っていてよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
発明の完全な理解により容易な実用化に資するため、非限定的な例としてのみ説明を行うが、そのような説明は添付の例示的な図面を参照する。
【0021】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態による、一体化された(または統合された、integrated)ハイドレート・リアクター装置に関するプロセス概略図を示す。
【
図2】
図2は、ピストンを備えた一体化されたリアクターの模式図を示す。
【
図3】
図3は、エクストルーダーを備えた一体化されたリアクターの模式図を示す。
【
図4A】
図4(A)は、メタン取込みに関する温度の効果を示す。
【
図4C】
図4(C)は、ハイドレート形成期間においてハイドレート形成の90%完了を達成するのに要する時間(t
90)を示す。
【
図5A】
図5(A)は、メタン取込みに関する圧力の効果を示す。
【
図5C】
図5(C)は、ハイドレート形成期間におけるt
90を示している。
【
図6】
図6は、ハイドレート形成中のメタン取り込み、誘導時間、および正規化されたメタン取込み速度(NR
15)に関する体積スケールアップの効果を示す。
【
図7】
図7は、純水、塩水および海水から形成された混合ハイドレートのガス取込みの比較を示す。
【
図8】
図8は、283.2Kでの混合ハイドレート形成においてメタン/エタン/プロパンの3成分ガス混合物が使用されるガス取込みに関する圧力の効果を示す。
【
図9】
図9は、7.2MPaおよび283.2Kでの混合メタンハイドレート形成においてジオキソランおよびテトラヒドロフランが使用されるガス取込みの比較を示す。
【
図10】
図10は、1気圧および-2℃でのSNG混合ハイドレート・ペレットの1年の期間にわたる安定性試験のデータを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
詳細な説明
上記で説明したように、ガスハイドレート形成のための改良された装置および方法に対してニーズがある。一般的に、本発明は、ハイドレート形成、過剰水分の除去およびペレット化などの典型的なステップを単一のシステムとして統合可能となったSNG形成システムを提供する。本発明はまた、従来の方法と比較して、マイルドな操作圧力およびより高い温度のみを要しつつも、依然高いハイドレート変換を達成しつつも、システムおよび方法のコストをより低下させ、大規模な天然ガスハイドレートの生産および貯留により適した方法を提供する。
【0023】
第1要旨によれば、本発明は、ガスハイドレートを形成する装置であって、
- 高圧バルブによって互いに分けられたハイドレート形成ゾーンとハイドレート・ペレット化ゾーンとを有して成るチャンバー、
- ハイドレート形成ゾーンと流体連通状態にあるガス入口(gas inlet)、
- ハイドレート形成ゾーンと流体連通状態にある液体入口(liquid inlet)、
- ハイドレート形成ゾーンおよびハイドレート・ペレット化ゾーンを通るように動くことができ、ガスハイドレート・ペレットの形成のため、ハイドレート形成ゾーンで形成されたガスハイドレートをハイドレート・ペレット化ゾーンへと移送させるように構成されたピストンまたはエクストルーダー、ならびに
- 形成されたガスハイドレートを集めるためのハイドレート出口であって、ハイドレート・ペレット化ゾーンと接続されたハイドレート出口(hydrate outlet)
を有して成る、装置を提供する。
【0024】
本発明の装置の概略図を
図1に示す。
図1に示されるように、装置100は、チャンバー(図示せず)を有して成っていてよく、かかるチャンバーがハイドレート形成ゾーン102およびハイドレート・ペレット化ゾーン104を有して成っていてよい。
【0025】
また、装置100は、ハイドレート形成ゾーン102内にガスを供給するためのガス入口106と、ハイドレート形成液をハイドレート形成ゾーン102内に供給するための液体入口108とを有して成っていてよい。
【0026】
また、装置100は、ハイドレート形成ゾーン102内に供給される過剰ガスを排出するためのガス出口110を備える。ガス出口110は、ガス入口106と流体連通状態となっていてよく、ハイドレート形成ゾーン102から排出された過剰ガスが、適切な時期にガス入口106を介してハイドレート形成ゾーン102に戻されてよい。
【0027】
ハイドレート形成ゾーン102およびハイドレート・ペレット化ゾーン104内の圧力を調整および維持するように構成された高圧バルブ112が設けられてよい。高圧バルブ112は、任意の適当なバルブであってよい。例えば、高圧バルブ112は、ゲート・バルブ、ボール・バルブ、またはそれらの組合せであってよいものの、これらに限定されない。特に、高圧バルブ112がボール・バルブであってよい。
【0028】
装置100は、ハイドレート形成ゾーン102およびハイドレート・ペレット化ゾーン104内の圧力を制御するように構成された圧力解放バルブ(図示せず)をさらに備えていてよい。圧力解放バルブは、本発明の目的のための任意の適当なバルブであってよい。
【0029】
ハイドレート形成ゾーン102およびハイドレート・ペレット化ゾーン104の温度は、冷却システム114によって維持されてよい。ある特定の態様において、ハイドレート形成ゾーン102およびハイドレート・ペレット化ゾーン104の各々は、冷却システム114を含んでいてよい。かかる冷却システム114は、それを通って冷却液を循環させるように構成されており、それにより、ハイドレート形成ゾーン102およびハイドレート・ペレット化ゾーン104を、それぞれ、第1所定温度および第2所定温度に維持する。
【0030】
第1所定温度および第2所定温度は、任意の適当な温度であってよい。第1所定温度および第2所定温度は、互いに同じであってよい。あるいは、第1所定温度および第2所定温度は互いに異なっていてもよい。ある特定の態様において、第1所定温度は、1℃~25℃、5℃~20℃、7℃~18℃、または、10℃~15℃であってよい。さらに特にいえば、第1所定温度が1℃~10℃であってよい。
【0031】
別のある特定の態様では、第2所定温度は、-25℃~5℃、-20℃~3℃、-18℃~2℃、-15℃~1℃、-10℃~0℃、-8℃~-1℃、または、-5℃~-2℃であってよい。さらに特にいえば、第2所定温度が-2℃であってよい。
【0032】
冷却液は、任意の適当な冷却液であってよい。例えば、冷却液は、限定するわけではないが、R717、R404A、R22、またはそれらの組合せなどの外部循環浴(external circulating bath)から得られる冷却された冷却流体(refrigerated cooling fluid)であってよい。
【0033】
装置は、温度コントローラ(図示せず)をさらに有していてもよい。温度コントローラは、冷却システム114を通って循環する冷却液の量を調整し、ハイドレート形成ゾーン102およびハイドレート・ペレット化ゾーン104をそれぞれ第1所定温度および第2所定温度に維持するように構成されていてよい。特に、温度コントローラは、ハイドレート形成ゾーン102およびハイドレート・ペレット化ゾーン104の各々で温度を測定するための少なくとも1つの熱電対ポートを有して成っていてよい。
【0034】
また、装置100は、ピストンまたはエクストルーダー120を有して成っていてよい。かかるピストンまたはエクストルーダー120は、ハイドレート形成ゾーン102で形成されたハイドレートをハイドレート・ペレット化ゾーン104に移動させるように構成されており、最終的にはハイドレート出口116を介して装置からハイドレートを出せるようになっている。ある特定の態様では、ハイドレート・ペレット化ゾーン104が、ガスハイドレート・ペレットを形成するように構成されたペレット・ダイを有して成っていてよい。形成されるガスハイドレート・ペレットは、所望により、いずれの適当な形状およびサイズをも有し得る。
【0035】
ピストンまたはエクストルーダー120は、任意の適当な手段によって移動するように構成されていてよい。例えば、ピストンまたはエクストルーダー120は、適当な駆動システム(drive system)によって操作されるものであってよい。特に、駆動システムは、自動駆動であってよい。さらに、ピストンまたはエクストルーダー120は、ハイドレート形成圧力に耐えることができ得る高圧シール(high pressure seal)を有して成るものでよい。
【0036】
ピストンまたはエクストルーダー120は、ハイドレート形成ゾーン102で形成されたすべてのガスハイドレートをハイドレート・ペレット化ゾーン104へと移送するように構成されていてよい。ある特定の態様において、ピストンまたはエクストルーダー120は、ハイドレート形成ゾーン102およびハイドレート・ペレット化ゾーン104を有して成るチャンバーの内径に対して精密公差(close tolerance)となり得る直径を有していてよく、それによって、最大のハイドレート移動が達成されてよい。
【0037】
ハイドレート・ペレット化ゾーン104からガスハイドレート・ペレットを排出するためのハイドレート出口116も設けられていてよい。ハイドレート出口116は、形成されたガスハイドレート・ペレットを集める(又は回収する)ため、ハイドレート・ペレット化ゾーン104に接続されていてよい。
【0038】
装置は、残留ハイドレート形成液(residual hydrate forming liquid)の排出のため、ハイドレート・ペレット化ゾーン104と流体連通する液体出口118をさらに備えていてよい。残留ハイドレート形成液は、形成されたガス・ハイドレートをハイドレート・ペレット化ゾーン104でペレット化する間において排出されてよい。残留ハイドレート形成液は、その後の使用のため装置100に戻されてよい。したがって、液体出口118は、液体入口108と流体連通状態となっていてよい。
【0039】
ある特定の態様において、チャンバーは、その傾きを変えることができるようにチャンバーを固定するスタンドを備えていてよい。
【0040】
装置100は、単一のユニットとして供されてよい。あるいは、装置100は、複数のユニットとして供されてもよい。特に、装置100が複数の複製ユニット(replicating unit)として供される場合、装置100は、連続的なガスハイドレート・ペレット形成のために使用されてよい。これにより、所定の割合(または所定の速度、pre-determined rate)で連続的にガスが消費される結果となり得る。例えば、複数のユニットが共通のガス供給システムに接続されてよく、それによって一定のガス消費がもたらされる。
【0041】
装置100が複数のユニットとして提供される場合、装置100における2またはそれより多いユニットの各々は、並列構成(または並列形成、parallel formation)で配置されていてよく、その結果、装置100の一方のユニットがガスハイドレート・ペレット化サイクルにある際、装置100の他方のユニットではガスハイドレート形成サイクルを行うことができるようになっていてよい。
【0042】
本発明の装置の実施形態は
図2に示される。
図2は、ガスハイドレートを形成するための装置を示しているところ、かかる装置は、水平チャンバー内にハイドレート形成ゾーンおよびハイドレート・ペレット化ゾーンを有して成り、ハイドレート形成ゾーンおよびハイドレート・ペレット化ゾーンがボール・バルブにより分離されている。ハイドレート形成ゾーンは、ガスハイドレートを形成するためのより高い圧力用に設計(designed for higher pressure rating)されていてよく、ハイドレート・ペレット化ゾーンは大気圧で運転されてよい。ハイドレート形成ゾーンおよびハイドレート・ペレット化ゾーンは、それぞれ、ハイドレート形成温度およびハイドレート貯留温度にまで独立に冷却されてよい。特に、2つの別々の冷却循環浴が供されている。ハイドレート形成温度は約10℃であってよく、ハイドレート貯留温度が約-2℃であってよい。
【0043】
使用に際して、ボール・バルブ(高圧用のボール・バルブ)は、ハイドレート形成サイクルでは最初“閉”にされていてよい。ハイドレート形成が完了すると、圧力を大気圧にまで下げてよい。ボール・バルブは“開”にされてよく、その後、電動油圧ポンプによって作動するピストンが、形成されたガスハイドレートをハイドレート・ペレット化ゾーンへと移送するようになっていてよい。ピストンは、ハイドレート形成圧力に耐えるような高圧シールを備えていてよく、ハイドレート形成ゾーンおよびハイドレート・ペレット化ゾーンを含むチャンバー全体に沿った横断に適したものでよい。ピストンは、ハイドレート形成ゾーンから形成された全てのガスハイドレートを回収できるが、ハイドレート・ペレット化ゾーンにてダイへとガスハイドレートをパウンドすることによって(またはダイで若しくはダイに接するようにパウンド、押圧、押し付ける、打ち付ける若しくは叩くような作用を与えることで、pounding)、ガスハイドレートをガスハイドレート・ペレットへと圧縮(または圧密、compress)するものであってよい。
【0044】
連続するハイドレート形成サイクルのため、再利用され得る未変換のハイドレート形成液を収集するためのドレイン・ポートもまた供される。ペレット・ダイ/ピストンは、単一のペレットまたは複数のペレットを製造するために構成されていてよい。
【0045】
本発明の装置の別の実施形態は、
図3に示されるような装置である。
図3に示されるように、ホッパーを介して接続されたハイドレート形成ゾーンおよびハイドレート・ペレット化ゾーンが供される。
図2に示す装置と同様、
図3の装置もまた、ハイドレート形成ゾーンでガスを受けるためのガス入口ポートと、ハイドレート形成液をハイドレート形成ゾーンへと供給するための溶液入口ポートとを有して成る。ハイドレート・ペレット化ゾーンは、未変換のハイドレート形成液を収集し、オプション的に連続的なハイドレート形成サイクルのため溶液入口ポートへと戻すことができる溶液出口ポートを有して成っていてよい。ハイドレート形成ゾーンおよびハイドレート・ペレット化ゾーンをそれぞれ適当なハイドレート形成温度およびハイドレート貯留温度にまで冷却する冷却システムも供されている。
【0046】
また、かかる装置は、ハイドレート形成ゾーンを有して成る水平円筒形リアクター内にてスクリューコンベヤーを有して成る。ハイドレートの形成中において高圧ナイフゲートバルブ(high pressure knife gate valve)は閉じたままであってよく、スクリューコンベヤーにはガスハイドレート形成に耐えるのに適した高圧シールが装備されていてよい。ガスハイドレート形成の完了後、ハイドレート形成ゾーンのガスは排出されてよく、その後、ナイフゲートバルブが“開”にされてよい。スクリューコンベヤーは、リアクター内で形成されたガスハイドレートをホッパーへと押し出すために最適速度で運転されてよい。ホッパーは、形成されたガスハイドレートをハイドレート・ペレット化ゾーンに集めることができ、ハイドレート・ペレット化ゾーンが約-2℃の貯留温度にまで冷却されてよい。適当な駆動アレンジメントを備えたピストンを操作し、それによって、形成されたガスハイドレートを大気圧でガスハイドレート・ペレットになるように圧縮(または圧密もしくは押固めて)してよい。ガスハイドレート・ペレットは、収集されて、貯留タンクに貯留されてよい。
【0047】
このように、本発明の装置は、ガスハイドレートを形成するための単一の装置ユニットに一体化(または一体化)されたハイドレート形成ゾーンおよびハイドレート・ペレット化ゾーンを備えるものであることが分かるであろう。このような装置では、当技術分野で知られている他のハイドレート形成装置と比較して、最小限のエネルギー要件および削減された投資コスト(または初期コスト)/ランニング・コストをもたらす。
【0048】
第2要旨によれば、本発明は、ガスハイドレートを形成する方法であって、
- ハイドレート形成液を、ハイドレート形成ゾーンと流体連通状態にある液体入口に供給すること、
- ハイドレート形成ゾーンと流体連通状態にあるガス入口にガスを注入すること、
- ガスハイドレートの形成が可能となるように、ハイドレート形成ゾーンを所定温度にまで冷却すること、および
- ハイドレート・ペレット化ゾーンでガスハイドレートをペレット化すること、
を含んで成る、方法を提供する。
【0049】
かかる方法は、上述の装置100の使用に関連して以下で説明する。
【0050】
本発明の方法は、ハイドレート形成液を液体入口108に供給することを含んでいてよい。ハイドレート形成液は、ハイドレート形成ゾーン102に供給される。ハイドレート形成液は、任意の適当な液体であってよい。ある特定の態様において、ハイドレート形成液は水を含んで成っていてよい。別のある特定の態様において、ハイドレート形成液は、限定するわけではないものの、熱力学的促進剤、動力学的促進剤、またはそれらの組合せを更に含んで成っていてよい。
【0051】
熱力学的促進剤は、任意の適当な熱力学促進剤であってよい。例えば、熱力学的促進剤は、限定するわけではないが、sI形成化合物、sII形成化合物、sH形成化合物、またはセミクラスレート形成化合物から選択されてよい。特に、熱力学的促進剤は、限定するわけではないものの、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキソラン(dioxolane)、またはそれらの組合せであってよい。さらにより特にいえば、熱力学的促進剤がTHFであってよい。
【0052】
動力学的促進剤は、任意の適当な動力学促進剤であってよい。例えば、動力学的促進剤は、限定するわけではないが、界面活性剤(またはサーファクタント、surfactant)またはアミノ酸(amino acid)であってよい。特に、動力学的促進剤は、限定するわけではないが、ドデシル硫酸ナトリウム(sodium dodecyl sulphate)、トリプトファン(TRP)、またはそれらの組合せであってよい。さらにより特にいえば、動力学的促進剤がTRPであってよい。
【0053】
ハイドレート形成液をハイドレート形成ゾーン102に加えた後、ハイドレート形成ゾーン102の圧力を所定圧力にまで上昇させてよい。この所定圧力は、任意の適当な圧力であってよい。例えば、所定圧力が30~95バールであってよい。
【0054】
所定圧力は、ガス入口106を介してハイドレート形成ゾーン102にガスを注入することによって達成してよい。注入に際して、高圧バルブ112は“閉”にしてよい。
【0055】
注入は、任意の適当なガスを注入することを含んでいてよい。例えば、注入は、限定するわけではないが、天然ガス、バイオメタン、メタン、エタン、プロパン、二酸化炭素、水素、またはそれらの混合物から選択されるガスを注入することを含んでいてよい。ある特定の態様において、かかるガスは、限定するわけではないが、天然ガス、バイオメタン、メタンとエタンとプロパンとの混合物、メタンと二酸化炭素との混合物、または、水素と二酸化炭素との混合物であってよい。
【0056】
注入の後、ガス入口106および液体入口108を“閉”にしてよい。次いで、かかる方法では、ハイドレート形成ゾーン102を所定温度にまで冷却して、ガスハイドレート形成を可能にすることが含まれてよい。特に、冷却は、ハイドレート形成ゾーン102の温度を一定の所定温度に維持することを含んでいてよい。
【0057】
所定温度は、任意の適当な温度であってよい。例えば、温度は、1~25℃、5~20℃、7~18℃、10~15℃であってよい。さらに特にいえば、温度が1~10℃であってよい。
【0058】
ある特定の態様において、冷却は、任意の適当な手段によるものであってよい。例えば、冷却を、冷却システム114を使用することで行ってよい。特に、冷却システム114は、ハイドレート形成ゾーン102の周りの冷却ジャケットを通るように冷却液を循環させることを含んで成るものでよい。
【0059】
本発明の方法は、ハイドレート形成ゾーン102内でのガスハイドレート形成に際して、ハイドレート形成ゾーン102内の圧力を解放することをさらに含んでいてよい。かかる解放としては、ガスハイドレート形成が生じる圧力よりも低い圧力となり得る所定圧力にまでハイドレート形成ゾーン102内の圧力を解放することを含んでいてよい。例えば、かかる所定圧力については、略大気圧であってよい。
【0060】
圧力解放は、任意の適当な方法によるものであってよい。例えば、圧力解放には、ハイドレート形成ゾーン102に設けられた圧力解放バルブを開くことが含まれてよい。特に、圧力解放は、ハイドレート形成ゾーン102内の未使用ガスを開放・放出することを含んでいてよい。本発明の方法は、高圧バルブ112を“開”とすることを更に含んでいてよい。
【0061】
本発明の方法は、ハイドレート形成ゾーンで形成されたガスハイドレートを、ペレット化するに先立って、ハイドレート・ペレット化ゾーンに移送することをさらに含んでいてよい。このような移送は、ピストンまたはエクストルーダー120の移動により、形成されたガスハイドレートをハイドレート形成ゾーン102からハイドレート・ペレット化ゾーン104へと移送することを含んでいてよい。移送は、所定速度であってよい。特に、ピストンまたはエクストルーダー120の移動は、ガスハイドレートの移送に際して、形成されたガスハイドレートの稠密度(またはコンパクト性、compactness)を増すようなものであってよい。
【0062】
形成されたガスハイドレートがハイドレート・ペレット化ゾーン104へと移されると、そのガスハイドレートは、ハイドレート・ペレット化ゾーン104にてペレット化に付される。ペレット化は、任意の適当な方法によるものであってよい。ある特定の態様において、ペレット化は、ピストンまたはエクストルーダー120を使用してペレット・ダイに抗するようにガスハイドレートをハイドレート・ペレット化ゾーン104内で圧縮してよい。特に、ピストンまたはエクストルーダー120の速度(rate)および圧縮圧力は、ハイドレート・ガスペレットに望まれるコンパクト性の所望レベルに応じて選択されてよい。
【0063】
ペレット化は、任意の適当な圧力および温度で行ってよい。例えば、ペレット化を大気圧下で行ってよい。
【0064】
本発明の方法は、ハイドレート・ペレット化ゾーン104を所定温度にまで冷却して、ガスハイドレートの貯留を可能にすることをさらに含んでいてよい。例えば、冷却は任意の適切な手段によって行ってよい。特に、冷却は、ハイドレート・ペレット化ゾーン104の温度を一定の所定温度に維持することを含んでいてよい。
【0065】
所定温度は、任意の適当な温度であってよい。例えば、かかる所定温度は、-25℃~5℃、-20℃~3℃、-18℃~2℃、-15℃~1℃、-10℃~0℃、-8℃~-1℃、または、-5℃~-2℃であってよい。さらにより特にいえば、所定温度が-2℃であってよい。
【0066】
ある特定の態様において、冷却は、任意の適当な手段によるものであってよい。例えば、冷却は、冷却システム114を使用して行ってよい。特に、冷却システム114は、ハイドレート・ペレット化ゾーン104の周りの冷却ジャケットを通るように冷却液を循環させることを含んでいてよい。
【0067】
本発明の方法は、ハイドレート・ペレット化ゾーン104と流体連通状態の液体出口118から排出された残留ハイドレート形成液を回収する(又は集める)ことをさらに含んでいてよい。残留ハイドレート形成液は、ガスハイドレート形成の次のサイクルのため、液体入口108へと戻されてよい。
【0068】
本発明の方法には、形成されたガスハイドレート・ペレットをハイドレート出口116から回収する(又は集める)ことが含まれてよい。かかる回収は、ハイドレート・ペレット化ゾーン104のフランジ開口部を介して、形成されたガスハイドレート・ペレットを除去するものであってよい。
【0069】
上述した説明は例示的な実施形態を説明しているものの、当該技術の当業者は、本発明から逸脱することなく多くの変形・変更が可能であることを理解できるであろう。
【実施例】
【0070】
方法
実施されたハイドレート形成実験は、バッチタイプであり、撹拌されないリアクター構成を用いた。5.6モル%のテトラヒドロフラン(THF)(促進剤)溶液を含んで成るハイドレート形成液を調製した。ハイドレート形成溶液は、外部冷却サーキュレーターによって10~20℃の温度に冷却されたリアクターへと移した。必要な実験温度に達した後、リアクター内に存在する空気をパージし、リアクターをメタンガスを用いて3~7.2MPaの圧力にまで加圧した。
【0071】
ガスハイドレートは、「誘導時間」(induction time)と呼ばれる特定の時間(または期間、time interval)の後にリアクター内で生じ始めた。ハイドレート形成が開始した後、ハイドレート・ケージ内へのガス分子の封入に起因してリアクター圧力の低下が進行すること(または漸進的な低下、progressive decrease)が観察された。観察された圧力低下は、ガスハイドレート形成の間で消費されたガスのモル数に関連するものであった。時間依存の圧力および温度から、ガスハイドレート形成のためのガス取込みおよびメタン取込みの正規化された速度(normalized rate)の推定が可能であった。
【0072】
結果および分析
(i)メタン/THFハイドレートの形成速度(または形成動力学、formation kinetics)に及ぼす温度の影響
実験圧力は7.2MPaで一定に保った。実験は283.2K、288.2K、および298.2Kの3つの温度(つまり、10℃、15℃および20℃)で行った。
図4(A)は、これら3つの各条件でのガス取込みプロファイルのプロットを示し、
図4(B)は、誘導(核形成)時間の変化を示し、
図4(C)は、これら3つの温度で実施された実験的試行に対して90%の完了に達するまでに要した時間を示す。
【0073】
図4(B)から、核形成に要する時間は、より低温(即ち、283.2Kおよび288.2K)では短くなるものの、293.2Kではかなり長くなる。293.2Kでの推進力(または駆動力、driving force)がより低い場合では、核形成時間が長くなる。予想の通り、推進力がより高いほど、ハイドレート形成の完了がより早くなる。
図4(C)に示されるように、平均して、283.2K、288.2K、および293.2Kでハイドレート形成が90%完了するまでに、それぞれ約46.2分、約112.4分、および約402.0分要した。また、288.2Kおよび293.2Kでの実験に対してハイドレート形成が複数の段階で生じることが分かった(288.2Kでは、2段階で形成が生じて後段階がより高いハイドレート形成速度を示し、293.2Kでは3段階で形成が生じて第3段階が最も高いハイドレート形成速度を示す)。
【0074】
293.2Kにおけるハイドレート形成の速度(または速度定数もしくは動力学、kinetics)を上げるために、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)界面活性剤(すなわち、動力学的促進剤(kinetic promoter))をTHF溶液に加えた。SDS濃度は5~2500ppmの間で変化させ、実験は293.2Kおよび7.2MPaで行った。
【0075】
100ppmのSDSを加えると、ハイドレートの形成の速度(rate)が劇的に向上し、293.2Kにおいて僅か55.6分でハイドレートの形成が90%完了した。これは、動力学的促進剤を使用しなかった283.2Kで観察された結果と同様である。双方とも7.2MPaの同じ実験圧力であった。
図4(A)を参照のこと。ただし、
図4(B)に示すように、SDSを使用したTHF溶液の誘導時間は、SDSを使用しなかった実験の場合よりも長く、平均223.9分であった。このような結果から、低濃度の動力学的促進剤の存在が、より高い温度におけるメタンハイドレート形成の速度(kinetics)を劇的に改善したことが分かる。これは重要な知見(finding)である。かかる知見によると、sI型の純粋なメタンハイドレート形成に典型的に用いられる274.2K以下の温度と比較し、293.2Kでのハイドレート形成は冷却コストが大幅に削減される。
【0076】
(ii)メタン/THFハイドレートの形成速度(formation kinetics)に及ぼす圧力の影響
混合メタン/THFハイドレートの形成速度に対する実験圧力の影響を調べるため、283.2Kの一定温度において3.0、5.0および7.2MPaの異なる開始圧力で実験を行った。これらの各開始圧力のおける推進力(圧力の観点からの推進力)は、それぞれ6.7MPa、4.5MPaおよび2.5MPaであった。
【0077】
図5(A)はガス取込みのプロットを示し、
図5(B)は誘導(核形成)時間の変化を示し、
図5(C)は3つの圧力で行われた実験的試行の90%完了に達するのに要した時間を示す。ガスの取込みは、推進力が7.2MPaから3.0MPaにまで低下するにつれ徐々に低下することが分った。しかしながら、実験圧力が60%低下(7.2MPaから3.0MPaへの低下)にもかかわらず、総メタン取込みは約20%低下しか観察されなかった(
図5(A)参照)。これは、実験圧力を下げてもかなりのメタンの取込みがあることを示していた。
図5(B)からは、圧力の推進力(pressure driving force)の対応する減少に起因して、圧力の減少とともに誘導時間が増加したと結論付けることができる。5MPaおよび7.2MPaで観察された単一段階の成長に起因して、これら2つの実験圧力でハイドレート形成が90%完了するまでの時間は、40~42分で同様であったが、3.0MPaのより低い実験では、推進力がより低いためハイドレート形成90%完了するまでの時間は平均約80分要した(
図5(C))。3.0MPaのより低い圧力でもかなりのメタンガス取込みが観察されたので、SNG技術の商業展開のためスケーリング(又はスケールアップ)するに際してはガス圧縮コストが相当に削減される結果となる。
【0078】
(iii)急速なメタンハイドレート形成のマルチスケール検証
図6は、2mL(小スケール)、53mL(中スケール)および220mL(大スケール)と3つの異なるハイドレート形成溶液体積(体積スケールアップ係数は、それぞれ1、26.5および110と表される)を用いて行われた実験に対する、ハイドレート形成の60分(1時間)の終わりに達成されたメタン取込み、正規化されたメタン取込み速度(NR15)、および、誘導時間を示す。すべての実験は283.2Kおよび7.2MPaで行った。
【0079】
図6の各ポイントは、3回以上の実験の平均である。小スケール実験におけるメタン取込み速度(またはメタン取込み割合、methane uptake rate)は、中スケール実験(0.065±0.01kmol/m
3/分)および大スケール実験(0.075±0.01kmol/m
3/分)と比較して0.22±0.02kmol/m
3/分と相当速かったことが分かる。
【0080】
また、
図6からは、中スケールおよび大スケールでメタンの取込み容量(または取込み能、methane uptake capacity)がわずかに低いことが分かる。これは、未変換のハイドレート形成液がわずかにより多く存在していることを示す。かかる速度とメタン容量の低下は、スケール・ファクターに起因し得、中スケールおよび大スケールの場合、値は同じ範囲(速度と容量の両方)にあることが分かる。対照的に、ハイドレートの核形成は、中スケールおよび大スケールのリアクターではるかに速く、核形成に約120分を要した小スケールのリアクターと比較してより短い誘導時間(約2~3分)となる。
【0081】
(iv)メタン/THFハイドレートの形成速度(formation kinetics)に及ぼす塩の影響
3.0重量%NaClの存在下の混合メタン/THFハイドレートの形成速度を調べ、クラスレート・ハイドレートによるメタン貯留に海水が使用されることの可能性を評価した。クラスレート・ハイドレートを介したメタン貯留のための塩水(すなわち、約3.0重量%NaCl)の使用は、単純な静止リアクター構成で行った。塩水を使用した場合、ハイドレートにて約90v/vのメタン貯留容量が観察され、反応速度(または反応動力学、reaction kinetics)は非常に速く、t90が13±1分であった。
【0082】
さらに、2.72重量%の塩分濃度を持つシンガポール海水を用いた混合メタンハイドレート形成に関していくつかの予備試験を7.2MPaおよび283.2Kで行った。海水実験のメタン取込みデータは、14.8±0.2分となってt90の塩水(3重量%NaCl)実験と非常に似ていた。したがって、混合ハイドレートの形成速度にとって、海水中に存在する他の塩は重大な影響(impact)を及ぼさない。
【0083】
5.6モル%のTHFの存在下で純水、塩水、および海水を使用して計算したハイドレートの単位体積あたりで貯留されるガスの量を
図7に示す。塩水または海水の存在下のハイドレートのガス含有量はフレッシュな水(またはそのような塩を含んでいない水)を使用したケースよりも僅かに少ないものの、形成速度(formation kinetics)はすべての実験間で同等である。海水を使用すると、自然界において希少で生産コストが高い純水を用いる必要がないので、SNG形成プロセスを経済的に実現できる可能性が向上する。
【0084】
(v)混合ハイドレートの形成速度(formation kinetics)に及ぼすより高級な炭化水素の影響
天然ガスを代表する三元C1(93%)-C2(5%)-C3(2%){C1-メタン、C2-エタンおよびC3-プロパン}のガス混合物を使用して混合ハイドレート形成の速度(または動力学、kinetics)を調べた。主な目的は、熱力学的促進剤であるテトラヒドロフラン(THF)が付加的に存在することにより、混合ハイドレートの形成速度に影響を与えるより高級な炭化水素(エタンおよびプロパン)の影響を調べることである。天然ガス混合物の使用の利点としては、ハイドレート形成の平衡条件が、純粋なメタンガスに想定される条件よりも穏やかになり得ることであり、したがって、ハイドレート形成にとってより穏やかな温度および圧力の条件がもたらされる可能性がある。
【0085】
3MPa、4MPaおよび5MPaの3つの実験圧力を選択し、283.2Kにおいて混合C1/C2/C3/THFハイドレート形成に対する圧力推進力の変化の影響を決定した。3つの実験圧力の全てのガス取込みプロファイルを
図8にプロットした。なお、比較のため、5MPaおよび283.2Kの純粋なメタンを使用した混合ガスハイドレート形成について記録されたガス取込みプロファイルも
図8に示す。3MPaでは、誘導時間後の約160分間、ガス取込み速度(rate)が遅くなり、その後増加して、最終的なガスの取込みが3.44kmol/m
3水に達し、90%の完了までには224.67分要した。ガス取込みの可能性は有望であったものの、3.0MPaの開始圧力での混合C1/C2/C3/THFハイドレート形成の速度(rate)は遅すぎるものであった。これは、sII型混合ハイドレート結晶の急速形成の促進には不十分となり得る利用可能なより低い圧力推進力に起因するものであった。その後の4MPaおよび5MPaのより高い実験圧力では、それぞれ約4.2および4.0kmol/m
3水のより高いガス取込みが観察された。さらに、双方の実験圧力における混合C1/C2/C3/THFハイドレートのガス取込み速度(rate)は、90分~110分の間の変動するより高いガス取込み速度を除き、非常に類似するものであった。
【0086】
混合天然ガスハイドレート形成の速度がより速いため、90%完了に要した時間は、4MPaおよび5MPaの実験でそれぞれ約120分および約110分であった。これらの実験では、3MPaの実験で約20分の誘導時間であったのに対し、3分未満の誘導時間が観察された。天然ガス(エタンおよびプロパンの存在下)の混合ハイドレート形成の速度(kinetics)は、純粋なメタンが匹敵するガス取込みを呈したものの完了までに時間を要したので、低下した。したがって、天然ガスシステムの実験条件下で速度(または動力学、kinetics)を改善するには、界面活性剤またはアミノ酸などの適当な動力学的促進剤の添加を要したことがある例として示された。200ppmのトリプトファン(TRP)の存在下、5MPaおよび283.2Kにてハイドレート形成の速度(kinetics)は大幅に改善され、トリプトファン促進剤無しの実験の約110分と比較し、約80分で完了した。
【0087】
解離後に分析された混合ハイドレートのガス組成は、93.1±0.1モル%のメタン組成を示し、これは、考慮された供給ガス組成と比較した場合には類似するものであった。したがって、混合ハイドレート形成に際してガス組成に大きな変化はなく、天然ガス貯留のためSNG技術を採用することの利点が浮き彫りになった。
【0088】
(vi)代替的な混合ハイドレート形成のための熱力学的促進剤
ジオキソランやテトラヒドロピランなどの他の熱力学的促進剤の存在下でメタンハイドレート形成の速度(または動力学、kinetics)を調べた。ジオキソランは、テトラヒドロフランの1つのCH2基が酸素と交換される場合に得られる。テトラヒドロフランと同様、ジオキソラン(1,3ジオキソラン)も、66℃の沸点を持つTHFと比較して75℃のより高い沸点を有しており水と混和させることができる。より高い沸点は、より低い揮発性につながり、気相への促進剤の損失がより少なくなるので、混合ハイドレート形成につきマルチな(または複数の)サイクルが促進される。
【0089】
図9は、ジオキソランとテトラヒドロフランとの比較を示しており、7.2MPaおよび283.2Kでの混合ハイドレート形成におけるガス取込みの化学量論的濃度を示す。ジオキソランの存在下では、テトラヒドロフランと比較して、ハイドレートの形成速度(formation kinetics)が遅いことが観察できる。さらに、ジオキソランの存在下で達成されたガス取込みは、同じ実験条件下でテトラヒドロフランを用いた場合よりも約10%高かった。また、低濃度の適切な動力学的促進剤(300ppmトリプトファンなど)を加えると、ジオキソランで観察された速度(kinetics)は、テトラヒドロフランの速度(kinetics)よりもはるかに速く、ガスの取込みが高くなった。
【0090】
これは、代替的な熱力学的促進剤が、SNG技術における混合メタン(天然ガス)ハイドレート形成に使用できることを示すものであった。
【0091】
別の熱力学的促進剤であるテトラヒドロピラン(THP)についても調べた。テトラヒドロピランは、テトラヒドロフランから1つのCH2基を付加して得られるものである。テトラヒドロピランの沸点は88℃で、テトラヒドロフランやジオキソランよりもはるかに高いものの、水への溶解度が非常に低いため、非混和性の溶液となる(水の上にTHPの層が存在する)。達成されたガスの取込みははるかに低く、ハイドレート形成の速度は非常に遅い。したがって、水に可溶であって同様の化学構造を有する熱力学的促進剤は、水に不溶性のものと比べて、速度(kinetics)が向上して混合メタンハイドレート形成を助力すると結論付けられ得る。
【0092】
(vii)貯留されるガスハイドレート・ペレットの安定性解析
混合CH
4-THFハイドレートを、5.56モル%のテトラヒドロフランを使用して高圧リアクターにおいて7.2MPaおよび283.2Kで形成した。形成したガスハイドレートは、ガスハイドレート形成の完了後、低温(268Kおよび大気圧)でリアクターから回収した。混合メタン-THFハイドレートは、大気圧で277.7K未満の温度で安定していることが分かった。回収されたガスハイドレートは、予め冷却されたペレタイザー・ダイ(pelletizer die)に送られ、手動油圧プレスを介して約10バールの圧力になるまでプレス(または押圧、press)された。これにより製造されたガスハイドレート・ペレットは、直径約4cm、厚さ1.1cmを有していた。混合ガスハイドレート・ペレットは、圧力計と熱電対に接続されたステンレス鋼のコンテナーに約1atmおよび-2℃で貯留し、簡易な常套の実験用フリーザーで継続的にモニタリングした。
図10から分かるように、sII型混合(CH
4-THF)ハイドレートの安定性は、12か月の期間にわたって実証された。
【0093】
上記の例示的な実施形態は単なる例である。よって、かかる上記の例示的な実施形態によって本発明の範囲、適用可能性、操作または構成などはいずれの手法であれ限定されない。
【国際調査報告】