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特表2022-515106関節リウマチに罹患しており、かつ、少なくとも1つの生物学的療法に対して不適切な応答を示した患者における抗TNFアルファ剤による治療の有効性の推定方法
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  • 特表-関節リウマチに罹患しており、かつ、少なくとも1つの生物学的療法に対して不適切な応答を示した患者における抗TNFアルファ剤による治療の有効性の推定方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-17
(54)【発明の名称】関節リウマチに罹患しており、かつ、少なくとも1つの生物学的療法に対して不適切な応答を示した患者における抗TNFアルファ剤による治療の有効性の推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20220209BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20220209BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220209BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20220209BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220209BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/48 Z
A61P29/00 101
A61P19/02
A61K39/395 U
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021535124
(86)(22)【出願日】2019-12-18
(85)【翻訳文提出日】2021-08-10
(86)【国際出願番号】 FR2019053166
(87)【国際公開番号】W WO2020128335
(87)【国際公開日】2020-06-25
(31)【優先権主張番号】1873333
(32)【優先日】2018-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521264512
【氏名又は名称】シノヴィアル
【氏名又は名称原語表記】SINNOVIAL
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100155631
【弁理士】
【氏名又は名称】榎 保孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100207907
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 桃子
(74)【代理人】
【識別番号】100217294
【弁理士】
【氏名又は名称】内山 尚和
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ、ゴーダン
(72)【発明者】
【氏名】アタン、バイエ
(72)【発明者】
【氏名】アナイス、クルティエ
(72)【発明者】
【氏名】チュオン、グエン
(72)【発明者】
【氏名】リザ、ジーグ
(72)【発明者】
【氏名】ジャック-エリック、グテンベルグ
【テーマコード(参考)】
2G045
4C085
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045DA77
2G045JA03
4C085AA14
4C085BB17
4C085CC23
(57)【要約】
本発明は、関節リウマチに罹患しており、かつ、少なくとも1つの以前の生物学的療法に対して不適切な応答を示した患者における抗TNFα剤による治療の有効性の推定方法であって、一組のバイオマーカーの発現について前記患者の生体サンプルを分析することからなり、その結果は、前記剤が前記患者にとって有益な応答をもたらす治療であるかどうかを決定することを可能にする、方法に関する。本発明はまた、前記患者における前記治療の有効性の推定システムであって、前記バイオマーカーの発現レベルに関するデータの測定または受信手段と、前記患者における前記治療の有効性を推定するように設定された前記データの処理手段とを含んでなる、システムに関する。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
関節リウマチを有し、かつ、少なくとも1つの以前の生物学的療法に対して不適切な応答を示した患者における抗TNFα剤による治療の有効性の推定方法であって、前記方法は、
a)前記患者からの生体サンプルにおける、アルファ1アンチトリプシン(A1AT)、ベータ-2-ミクログロブリン(B2M)、血清アミロイドA-2(SAA2)、セレノプロテインP(SeleP)、リポ多糖結合タンパク質(LBP)、補体C3(C3)、アポリポタンパク質C-III(APOC3)、血清アミロイドA-1(SAA1)、血小板第4因子(PF4)および軟骨オリゴマー基質タンパク質(COMP)からなる群から選択される少なくとも2つのバイオマーカーの発現レベルのイン・ビトロにおける測定、
b)前記群から選択されるバイオマーカーについて測定された各発現レベルの関数としての、前記患者における前記抗TNFα剤による治療の有効性の推定
を含んでなる、方法。
【請求項2】
工程b)が、
b1)関節リウマチを有し、かつ、治療の有効性が既知である前記抗TNFα剤による治療を受けている患者の複数のサンプルにおいて測定された発現レベルに対する、工程a)において測定された発現レベルの比較(前記比較は、入力データとして工程a)において測定されたバイオマーカーのうち少なくとも2つの発現レベルを使用した統計学習モデルによって行われる)、
b2)工程b1)において定義されたモデルにより決定された結果の関数としての、前記患者における前記抗TNFα剤による治療の有効性の推定
を含んでなることを特徴とする、請求項1に記載の抗TNFα剤による治療の有効性の推定方法。
【請求項3】
工程a)において測定された各バイオマーカーの発現レベルが、前記患者における治療の有効性の推定と関連したスコアを得るために使用されることを特徴とする、請求項1または2に記載の抗TNFα剤による治療の有効性の推定方法であって、前記スコアは、複数のクラスにおける予後を分類するために、少なくとも1つの所定の閾値と比較される、方法。
【請求項4】
前記複数のクラスが、1つのクラスが前記抗TNFα剤による治療に対して非応答である少なくとも2つのクラスを含んでなることを特徴とする、請求項3に記載の抗TNFα剤による治療の有効性の推定方法。
【請求項5】
前記患者における治療の有効性の推定が、それを下回ると不十分な有効性が予測され、それを上回ると良好な有効性が予測される所定の閾値との前記スコアの比較を含んでなる、請求項3または4に記載の抗TNFα剤による治療の有効性の推定方法。
【請求項6】
学習モデルが、治療に対して良好な応答を示している前記抗TNFα剤により治療された患者と、治療に対して不十分な応答を示している前記抗TNFα剤により治療された患者とを含んでなるコホートの事前分析に基づいたものである、請求項2~5のいずれか一項に記載の抗TNFα剤による治療の有効性の推定方法。
【請求項7】
前記事前分析が、変数を学習および選択する方法の適用を含んでなる、請求項6に記載の抗TNFα剤による治療の有効性の推定方法。
【請求項8】
変数を学習および選択する前記方法が、ロジスティック回帰である、請求項7に記載の抗TNFα剤による治療の有効性の推定方法。
【請求項9】
前記発現レベルが、前記スコアを導き出すために前記コホートの事前分析の関数として重み付けられる、請求項6~8のいずれか一項に記載の抗TNFα剤による治療の有効性の推定方法。
【請求項10】
前記学習方法が決定木を含んでなり、ここで、各ノードは、参照値との工程a)において測定された発現レベルの比較に相当する、請求項7~9のいずれか一項に記載の抗TNFα剤による治療の有効性の推定方法。
【請求項11】
前記剤が、特に、TNFαとその受容体との間の相互作用を直接的または間接的に防止、遮断または阻害することにより、TNFαの作用を直接的または間接的に遮断または阻害することができ、好ましくは、前記剤はアダリムマブであることを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の抗TNFα剤による治療の有効性の推定方法。
【請求項12】
前記患者が、エタネルセプト、アバタセプト、インフリキシマブ、トシリズマブ、リツキシマブ、セルトリズマブおよびゴリムマブから選択される少なくとも1つの以前の治療に対して不適切な応答を示したことを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の抗TNFα剤による治療の有効性の推定方法。
【請求項13】
生体サンプルが、生体液、好ましくは、血清のサンプルから構成されることを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載の抗TNFα剤による治療の有効性の推定方法。
【請求項14】
発現レベルが工程a)において測定される1つまたは複数のバイオマーカーが、1つまたは複数のタンパク質バイオマーカーであることを特徴とする、請求項1~13のいずれか一項に記載の抗TNFα剤による治療の有効性の推定方法。
【請求項15】
関節リウマチを有し、かつ、少なくとも1つの以前の生物学的療法に対して不適切な応答を示した患者における抗TNFα剤による治療の有効性の推定システムであって、前記システムは、
前記患者からの生体サンプルにおける、アルファ1アンチトリプシン(A1AT)、ベータ-2-ミクログロブリン(B2M)、血清アミロイドA-2(SAA2)、セレノプロテインP(SeleP)、リポ多糖結合タンパク質(LBP)、補体C3(C3)、アポリポタンパク質C-III(APOC3)、血清アミロイドA-1(SAA1)、血小板第4因子(PF4)および軟骨オリゴマー基質タンパク質(COMP)からなる群から選択される少なくとも2つのバイオマーカーの発現レベルの測定データの測定または受信手段と、
この群から選択されるバイオマーカーについて測定された各発現レベルの関数としての、前記患者における治療の有効性を推定するように設定された測定データの処理手段と
を含んでなる、システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、関節リウマチの治療に関する。より詳しくは、関節リウマチ(RA)を有し、かつ、1以上の以前の生物学的療法に対して不適切な応答を示した患者における抗TNFα剤、特にアダリムマブ(ADA)による治療の有効性の推定方法であって、一組のバイオマーカーの発現について前記患者の生体サンプルを分析することからなり、この組のバイオマーカーに関して得られた結果の相関は、特に参照値と比較することにより、抗TNFα剤が前記患者にとって有益な応答をもたらすことを可能にする有望な治療であるかどうかを決定することを可能にする、方法に関する。
【0002】
本発明はまた、前記患者における前記治療の有効性の推定システムであって、前記バイオマーカーの発現レベルのデータの測定または受信手段と、前記患者における前記治療の有効性を推定するように設定されたこれらのデータの処理手段とを含んでなる、システムに関する。
【背景技術】
【0003】
関節リウマチ(RA)は、滑膜炎、関節損傷、機能的ハンディキャップおよび死亡率の有意な増加を特徴とする慢性炎症性疾患である。
【0004】
sDMARD(合成疾患修飾性抗リウマチ薬)を使用した早期介入は、構造的関節損傷および進行性機能喪失の予防に必須であると現在認識されている。sDMARDによる治療に対して応答しない、または経時的にこれらの薬剤に対して不適切な応答を生じる患者にとって、bDMARD(生物学的DMARD)が、1つの有効なさらなる治療選択肢である(Smolen et al., 2017)。実地臨床において、生物学的療法の第一選択は通常、TNFα(腫瘍壊死因子アルファ)阻害剤である。治療に対する応答は、患者によって非常に大きく異なり得る。TNFα阻害剤による治療を開始する患者のおよそ30%~40%が、その後、これらの薬剤に対して不十分なまたは不適切な応答を生じる(Souto et al., 2016)。TNFα阻害剤に対する応答が不十分な患者において治療を継続するための選択肢は、第2の生物学的製剤の使用を含む。臨床医にとって利用可能なbDMARD治療選択肢の数およびRAの治療におけるそれらの有効性を考慮して、異なるbDMARD間で切り替えることが慣例である。これは、現時点で、開業医が、ほとんどの疾患に対して、第一選択治療を推奨した後、不十分なまたは不適切な応答が生じた場合には、第二選択治療を、というように推奨していく理由である。しかしながら、この全体的戦略内で、別のTNFα阻害剤(サイクル)または異なる作用様式を有する生物学的製剤(切り替え)の使用に関連する有効性について議論が存在する。さらに、抗TNFαをすでに受けている患者が別の生物学的治療に応答する確率は、以前の治療の失敗数の増加の関数として漸減する(Rendas-Baum et al., 2011)。このため、文献からのデータは、いずれの早期介入も、疾患の進行をさらに含む可能性があることを示している。
【0005】
実際に、治療失敗の可能性が明らかになるまでに失われる時間は、治療効果の有効性および患者の幸福を損なうものであり、これは、特定の症例において、新たな症状または全身状態の点で有害かつ不可逆的な結果に至る可能性がある。さらに、それらは実施することが厄介であり得るコストのかかる治療であり得、これは、治療失敗が認められた場合、完全に不満足なものである。
【0006】
慢性炎症性疾患を有する患者の診断、ケア、治療および経過観察に関して、近年かなりの進歩がみられている。
【0007】
慢性炎症性疾患、特に慢性炎症性リウマチの治療の点において、特に、治療効果を有するタンパク質、抗体などの生体分子からなる生物学的療法が存在する。それらのうちいくつかはすでに使用されており、いくつかは開発中である。
【0008】
慢性炎症性疾患のうち、関節リウマチは、滑膜細胞の増殖および関節内への炎症細胞の浸潤を特徴とする滑膜の自己免疫障害である。様々なサイトカインが、炎症性疾患の調節において重要な役割を果たす。
【0009】
例えば、腫瘍壊死因子(TNF)またはTリンパ球細胞の同時刺激を標的とするbDMARDは、RAの治療に関してかなりの進歩を可能にしてきた。現在、Tリンパ球細胞同時刺激調節因子アバタセプト(ABA)、抗IL-6トシリズマブ(TCZ)、抗CD20リツキシマブ(RTX)、抗インターロイキン-1(IL-1)アナキンラ(ANK)および抗TNFαアダリムマブ(ADA)、エタネルセプト(ETN)、インフリキシマブ(IFX)、ゴリムマブ(GOL)およびセルトリズマブペゴル(CTP)を含む9種類のbDMARDが、関節リウマチの治療に承認されている。しかしながら、各生物学的製剤に対する応答は、各個人によって異なる。したがって、治療の機会の範囲内で1以上のbDMARDの最適な選択をすることが、治療の有効性を得るために不可欠であるが、これは非常に費用がかかることが判明している。実際に、生物学的治療の成功の可能性は、生物学的療法による治療失敗の数の増加の関数として漸減する(Rendas-Baum et al., 2011)。
【0010】
しかしながら、開業医は、自身の治療選択において助けとなる自由に使用できる要素を欠いている。治療に対する応答または非応答の確率のスコアを臨床医に提供することができるツールが、確実に歓迎されるであろう。
【0011】
特に、現在、とりわけ、生物学的治療または従来のバックグラウンド治療に対する可能な応答または非応答に関する指針を提供することができる非常に早期のバイオマーカーが不足している。
【0012】
これらのバイオマーカーは、分子生物学および生化学を必要とする。仮説演繹法は、個別化医療を数種のバイオマーカーにまで下げており、その関心は事前に固定されており、早期診断またはセラノスティックアプローチの疑問を総て説明できてはいない。このため、慢性炎症性疾患、したがってRAにおける生物学的治療に対する応答を予測することを可能にするバイオマーカーを探索することは、幻想である。生物学的治療に対する良好な臨床応答または非応答に関連した遺伝学的または生化学的バイオマーカーの多様性が、課題を困難なものにしている。
【0013】
ゲノミクス、トランスクリプトミクス、エピジェネティクスおよびプロテオミクスが、この展望において補完的かつ非重複的な柱である。
【0014】
個別化医療型または層別化医療型の予測アプローチは、慢性炎症性リウマチの分野において非常に新しいものであり、適切な患者に適切な時期に適切な治療を処方すること、患者が応答する最大の可能性を有する治療にできる限り迅速に患者を導くことにより、ハンディキャップの進行を制限すること、および逆に、応答の低い確率と関連する治療を処方することを避けること可能にし得る。
【0015】
アダリムマブは、特異的な様式でTNFα(腫瘍壊死因子アルファ)を中和する、完全ヒトモノクローナル抗体である。この炎症性サイトカインと組み合わせることにより、アダリムマブは、その受容体とのその相互作用を防止し、そのため、依存性のTNFα炎症プロセスを調節する。
【0016】
いくつかの試験が、RAを有する患者におけるADA治療に対する応答を予測することを可能にするバイオマーカーを強調することに焦点を当てている。これらの試験は、DNAおよびRNAのバイオマーカーのキャラクタリゼーションに主に関するものであり(Krintel et al., 2012)、DNAおよびRNAは、最終的なエフェクターであるタンパク質に翻訳される前に、環境に関連した潜在的な修飾(エピジェネティック、遺伝子発現の調節、スプライシング)に供される。このため、プロテオミクスアプローチは、バイオマーカーの発現レベルと観察された臨床結果との間の潜在的な変動を最小限にすることを可能にする。しかしながら、これらの試験は、完全に生物学的療法未治療のAR患者、またはローテーションの未治療患者の区別されていない集団、すなわち、少なくとも1つの生物学的療法に対して不十分なまたは不適切な応答を示した者に焦点を当てている。多数の試験が、抗TNF(Takeuchi et al., 2007)またはその他(アバタセプト(Charles-Schoeman et al., 2018)、トシリズマブ(Gabay et al., 2016))などの生物学的療法による治療後のプロテオームの変化を実証しているため、いわゆる未治療集団と1以上の生物学的療法をすでに受けている患者との間の区別は、非常に重要である。このため、生物学的療法未治療患者における応答を予測するバイオマーカーは、修飾されることができ、1以上の生物学的療法をすでに受けている患者においてもはや関連しなくなる。よって、患者の治療状況(未治療またはローテーション)の区別は、予測バイオマーカーの選択において必須の基準である。現在までに、ローテーション状況の患者に焦点を当てたADAに関する試験は、他のbDMARDと比較した、この分子の投与後の有効性の測定に主に着目しており(Harrold et al., 2015)、ADAに対する応答に特異的である、およびそれを予測するバイオマーカーのキャラクタリゼーションには着目していない。
【0017】
このため、慢性炎症性疾患を有する特定の患者、特に、関節リウマチに罹患している患者、および特に、1以上の生物学的療法による治療に対して不適切な応答を示している状況にある患者に対する有効性という点で最も有望である治療に対して、個別化された様式で開業医を導くことを可能にする新規な方法および/またはバイオマーカーを同定する必要性が存在する。
【0018】
本発明は、1以上の以前の生物学的療法に対して十分な治療応答を示さなかった関節リウマチを有する患者に対する抗TNFα剤による治療に対する応答に関して、この技術的課題に対応したものであり;本発明者らは、一組の生物学的バイオマーカーを同定し、このような患者からの生体サンプルにおいて検出されたその発現レベルが、この患者におけるこの治療の有効性を推定することを可能にすることを同定した。
【発明の概要】
【0019】
本発明は、関節リウマチを有し、かつ1以上の以前の生物学的療法に対して適切な治療応答を示していない患者における抗TNFα剤による治療の有効性の推定方法であって、前記方法は、
a)前記患者からの生体サンプルにおける、アルファ1アンチトリプシン(A1AT)、ベータ-2-ミクログロブリン(B2M)、血清アミロイドA-2(SAA2)、セレノプロテインP(SeleP)、リポ多糖結合タンパク質(LBP)、補体C3(C3)、アポリポタンパク質C-III(APOC3)、血清アミロイドA-1(SAA1)、血小板第4因子(PF4)および軟骨オリゴマー基質タンパク質(COMP)からなる群から選択される少なくとも2つのバイオマーカーの発現レベルのイン・ビトロ(in vitro)における測定、
b)前記群から選択されるバイオマーカーについて測定された各発現レベルの関数としての、前記患者における前記抗TNFα剤による治療の有効性の推定
を含んでなる、方法に関する。
【0020】
特に、本発明に係る抗TNFα剤による治療の有効性の推定方法は、
a)前記患者からの生体サンプルにおける、アルファ1アンチトリプシン(A1AT)、ベータ-2-ミクログロブリン(B2M)、血清アミロイドA-2(SAA2)、セレノプロテインP(SeleP)、リポ多糖結合タンパク質(LBP)、補体C3(C3)、アポリポタンパク質C-III(APOC3)、血清アミロイドA-1(SAA1)、血小板第4因子(PF4)および軟骨オリゴマー基質タンパク質(COMP)からなる群から選択される少なくとも2つのバイオマーカーの発現レベルのイン・ビトロにおける測定、
b1)関節リウマチを有し、かつ、治療の有効性が既知である前記抗TNFα剤による治療を受けている患者の複数のサンプルにおいて測定された発現レベルに対する、工程a)において測定された発現レベルの比較(前記比較は、入力データとして工程a)において測定されたバイオマーカーのうち少なくとも2つの発現レベルを使用した統計学習モデルによって行われる)、
b2)工程b1)において定義されたモデルにより決定された結果の関数としての、前記患者における前記抗TNFα剤による治療の有効性の推定
を含んでなる。
【0021】
このため、本発明者らにより同定されたこの組のバイオマーカーは、関節リウマチを有する患者における抗TNFα剤による治療の有効性を推定するのに特に好適である。
【0022】
本発明はさらに、関節リウマチを有し、かつ、少なくとも1つの以前の生物学的療法に対して不適切な応答を示した患者における抗TNFα剤による治療の有効性の推定システムであって、前記システムは、
前記患者からの生体サンプルにおける、アルファ1アンチトリプシン(A1AT)、ベータ-2-ミクログロブリン(B2M)、血清アミロイドA-2(SAA2)、セレノプロテインP(SeleP)、リポ多糖結合タンパク質(LBP)、補体C3(C3)、アポリポタンパク質C-III(APOC3)、血清アミロイドA-1(SAA1)、血小板第4因子(PF4)および軟骨オリゴマー基質タンパク質(COMP)からなる群から選択される少なくとも2つのバイオマーカーの発現レベルの測定データの測定または受信手段と、
この群から選択されるバイオマーカーについて測定された各発現レベルの関数として、前記患者における治療の有効性を推定するように設定された測定データの処理手段と
を含んでなる、システムに関する。
【0023】
好ましくは、本発明に係る推定方法および推定システムは、特に、TNFアルファとその受容体との間の相互作用を直接的または間接的に防止/遮断または阻害することにより、抗TNFα剤に対する応答を推定することを可能にする。有利には、本発明に係る推定方法および推定システムは、自身をTNFアルファに結合させる剤に対する応答を推定すること、特に、アダリムマブに対する応答を推定することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、ADAに対する応答の予測のための3つのバイオマーカーA1AT、B2MおよびSelePの試験を用いて、本発明に係る方法の性能の評価中に得られたROC(受信者動作特性)曲線を表す。これは、検査の特異度の余事象:1-特異度(X軸)の関数としての検査の感度(Y軸)の例を表す。
図2図2は、さらにADAに対する寛解の予測のための3つの変数A1AT、B2MおよびSelePの試験を用いて、本発明に係る方法の性能の評価中に得られたROC(受信者動作特性)曲線を表す。これは、検査の特異度の余事象:1-特異度(X軸)の関数としての検査の感度(Y軸)の例を表す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
頑健な予測検査の開発に関して発明の分野において遭遇する課題は、第1に、一緒になって、高特異度および高感度の両方をもって関連予測を得ることを可能にするバイオマーカーを同定することからなる。
【0026】
その理由は、第1の側面によれば、本発明は、関節リウマチを有し、かつ、少なくとも1つの以前の生物学的療法に対して不適切な応答を示した患者における抗TNFα剤による治療の有効性の推定方法であって、前記方法は、
a)前記患者からの生体サンプルにおける、アルファ1アンチトリプシン(A1AT)、ベータ-2-ミクログロブリン(B2M)、血清アミロイドA-2(SAA2)、セレノプロテインP(SeleP)、リポ多糖結合タンパク質(LBP)、補体C3(C3)、アポリポタンパク質C-III(APOC3)、血清アミロイドA-1(SAA1)、血小板第4因子(PF4)および軟骨オリゴマー基質タンパク質(COMP)からなる群から選択される少なくとも2つのバイオマーカーの発現レベルのイン・ビトロにおける測定、
b)前記群から選択されるバイオマーカーについて測定された各発現レベルの関数として、前記患者における前記抗TNFα剤による治療の有効性の推定
を含んでなるか、あるいは、さらにはそれらからなる、方法に関するからである。
【0027】
本発明者らは実際に、関節リウマチを有し、かつ、少なくとも1つの以前の生物学的療法に対して不適切な応答を示した患者における抗TNFα剤による治療の有効性を推定するための関連バイオマーカーの組または組合せ、すなわち、アルファ1アンチトリプシン(A1AT)、ベータ-2-ミクログロブリン(B2M)、血清アミロイドA-2(SAA2)、セレノプロテインP(SeleP)、リポ多糖結合タンパク質(LBP)、補体C3(C3)、アポリポタンパク質C-III(APOC3)、血清アミロイドA-1(SAA1)、血小板第4因子(PF4)および軟骨オリゴマー基質タンパク質(COMP)からなる群から選択される少なくとも2つのバイオマーカーを同定した。
【0028】
特に、本発明に係る抗TNFα剤による治療の有効性の推定方法は、
a)前記患者からの生体サンプルにおける、アルファ1アンチトリプシン(A1AT)、ベータ-2-ミクログロブリン(B2M)、血清アミロイドA-2(SAA2)、セレノプロテインP(SeleP)、リポ多糖結合タンパク質(LBP)、補体C3(C3)、アポリポタンパク質C-III(APOC3)、血清アミロイドA-1(SAA1)、血小板第4因子(PF4)および軟骨オリゴマー基質タンパク質(COMP)からなる群から選択される少なくとも2つのバイオマーカーの発現レベルのイン・ビトロにおける測定、
b1)関節リウマチを有し、かつ、治療の有効性が既知である前記抗TNFα剤による治療を受けている患者の複数のサンプルにおいて測定された発現レベルに対する、工程a)において測定された発現レベルの比較(前記比較は、入力データとして工程a)において測定されたバイオマーカーのうち少なくとも2つの発現レベルを使用した統計学習モデルによって行われる)、
b2)工程b1)において定義されたモデルにより決定された結果の関数としての、前記患者における前記抗TNFα剤による治療の有効性の推定
を含んでなる。
【0029】
これらの特定のバイオマーカーの特定の組合せの発現レベルの測定および特に統計学習モデルによるそれらの分析は、関節リウマチを有する患者に対する抗TNFα剤に対する応答の予測の関連推定を得ることを可能にする。
【0030】
このため、本発明は、関節リウマチを有し、かつ、少なくとも1つの以前の生物学的療法に対して不適切な応答を示した特定の患者の抗TNFα剤、特にアダリムマブに対する応答を予測する個別化された方法に関する。これは、関節リウマチを有し、かつ、少なくとも1つの以前の生物学的療法に対して不適切な応答を示した患者において、この抗TNFα剤に対する良好な応答および非応答またはさらにこの抗TNFα剤による治療に対する寛解および非寛解の確率に基づいた有効性のレベルを決定することを可能にする。このため、本発明に係る方法は、応答者の患者、特に、問題の抗TNFα剤に対して応答しない患者を同定することを可能にする。
【0031】
本発明に係る方法の工程a)に関して、本発明者らにより同定された関連バイオマーカーを以下に定義する。
【0032】
肝臓により合成される糖タンパク質であるアルファ-1-アンチトリプシン(A1AT)(Kim et al., 2018b)は、ほとんどの生体液および糞便中に存在する。これは、セルピン(セリンプロテアーゼ阻害剤)のファミリーに属し、大方の場合、エラスターゼ、キモトリプシン、トリプシン、カテプシンなどの多数のプロテアーゼに対する血清の阻害能力を担う。アルファ-1-アンチトリプシンの合成は、いずれの炎症プロセス中でも増大する。1976年に、Coxらは、A1ATの濃度の減少は、RAの発症、特に、組織破壊に寄与することを示唆した(Cox and Huber, 1976)。A1ATの減少は、AR患者においても認められている(Cylwik et al., 2010)。マウスに関する試験は、ヒトA1ATの遺伝子療法またはタンパク質療法が、コラーゲンにより誘導された関節炎マウスモデルにおける関節炎の発症を有意に遅延させることを示している。IgAとアルファ-l-アンチトリプシンとの非免疫複合体(IgA-AT)は、健常志願者の血清中では低レベルで検出されているが、関節リウマチを有する患者の血清中では上昇したレベルで認められており、早期発症RAの症例における疾患の放射線医学の進歩と相関している。シトルリン型A1ATの特異的な存在が、RAを有する患者の血清において記載されている(Chang et al., 2013)。本発明者らの知る限りでは、bDMARDによるRAの治療におけるバイオマーカーとしてのA1ATの予測的側面は、文献において報告されていない。
【0033】
ベータ2ミクログロブリン(B2M)(Li et al., 2016)は、有核細胞の表面にHLA(軽鎖)複合体の一部を形成するが、血清、尿および滑液を含むほとんどの生体液中に遊離型で存在することもできる低分子タンパク質である。このポリペプチドは、免疫防御において重要な役割を果たし、腎機能を評価するために使用され得る。血漿、血清または尿中のB2Mの上昇が、AR患者において記載されている。オーラノフィンにより6ヵ月間治療されたAR患者において、B2Mのレベルの有意な減少(Crisp et al., 1983)が報告されている。プラセボと比較して、アレンドロネートにより骨粗鬆症に対して治療されたAR患者において、B2Mの減少が認められている(Cantatore et al., 1999)。しかしながら、本発明者らの知る限りでは、RAにおけるB2Mの役割およびbMARD治療に対する応答におけるその予測能を記載している最近の試験はない。
【0034】
血清アミロイドタンパク質A1(SAA1)およびA2(SAA2)(Xu et al., 2005)は、血清アミロイドA(SAA)と呼ばれる炎症の急性期に関連するタンパク質のファミリーに属する。それらは、基底レベルで発現し、正常値の100~1000倍のレベルで急性期において合成され、炎症性サイトカインの作用の下で肝臓により主に産生される。それらは2つのクラス:i)急性期(A-SAA:SAA1、SAA2およびSAA3)ならびにii)構成期(C-SAA:SAA4)が存在する。このため、A-SAAの肝臓での合成は、炎症性サイトカイン(IL-1、IL-6およびTNFα)に応答して強く増大するが、一方、C-SAAは、炎症の非存在下で構成的に発現する。遺伝子SAA1およびSAA2は、炎症性サイトカインにより肝細胞において調節される。SAAのレベルは、RAにおける疾患の活動性のスコアを推定するために伝統的に使用される沈降速度およびCRPよりも、炎症性関節疾患における疾患の活動性をより良く反映することが示唆されている。ある試験は、SAAの濃度は、RAの従来の指標(CRPおよび沈降速度)とは異なり、DMARDによる治療中に高いままであり、このため、疾患の活動性を決定するためのより高感度のバイオマーカーであり得ることを示している。A-SAAの基底レベルとRAの活動性との間の相関は、bDMARD(アダリムマブ、インフリキシマブ、エタネルセプトまたはアナキンラ(Connolly et al., 2012);エタネルセプト(Hwang et al., 2016);ゴリムマブ(Visvanathan et al., 2009))による治療の1年後のA-SAAのレベルの減少とともに記載されている。これらの試験は、治療の過程におけるSAAレベルの減少と関連臨床応答との間の関係を強調しているが、SAA基底レベル自体の予測値には焦点を当てていない。
【0035】
セレノプロテインP(SeleP)(Burk and Hill, 2009)は、細胞外糖タンパク質であり、その役割は、必須微量元素であるセレンを身体の異なる組織に輸送および送達することである。他の機能は、特に、寄生虫感染症、精子形成における栄養状態マーカーとして、またはその代わりに抗酸化剤として記載されている。セレノプロテインPを関節リウマチと直接関連付けている試験は非常に少ない。本発明者らの知る限りでは、RAにおけるSelePの役割およびbMARD治療に対する応答におけるその予測能を記載している試験はない。
【0036】
リポ多糖結合タンパク質(LBP)は、様々なLPS分子およびリピドAに結合する急性期タンパク質である(Schumann et al., 1990)。LBPは、肝臓における肝細胞により構成的に産生される。それは、LPS(リポ多糖)に結合し、単球細胞上に存在するCD14受容体にそれを提示する。このため、LBPの主な機能は、感染の開始時にLPSを検出する宿主の能力を向上させることである。正常血清中では、LBPは構成的に存在し、その濃度は、急性期応答において10倍増加し得る(Prucha et al., 2003)。LBPと関節リウマチとの間の関係を詳細に述べている試験はほとんどない。しかしながら、2件の試験が、LBPはAR患者における炎症マーカーであり、その発現は、健常対象と比較してAR患者において低く、RAにおける疾患の活動性の新しいマーカーとなり得ることを示唆している。LBPの発現の低下が、ADAおよびアバタセプトによる治療中に認められている(Charles-Schoeman et al., 2018)。プロテオミクスアプローチを使用して、Kimら(Kim et al., 2018a)は、LBPの発現は、リウマトイド因子(RF)レベルと相関し、RAなどの自己免疫疾患のRFを補完する診断マーカーとしての役割を果たし得ることを最近示した。本発明者らの知る限りでは、bDMARDによるRAの治療におけるバイオマーカーとしてのLBPの予測的側面は、文献において報告されていない。
【0037】
アポリポタンパク質C-III(またはアポC-III、またはアポ-C3)(Norata et al., 2015)は、トリグリセリドの代謝に関与するリポタンパク質である。アポC-IIIの生理学的機能は、リポタンパク質リパーゼおよび肝性リパーゼの阻害を含んでなる。このため、アポC-IIIは、重要な脂肪分解調節因子となる。したがって、高トリグリセリド血症を示す患者において、高レベルのアポC-IIIが検出されている。プロテオミクスアプローチを通じて、Blaschkeらは、アポCIIIは、AR患者におけるエタネルセプトに対する6ヵ月後の応答の予測因子であると思われることを示している。実際に、これは、十分な応答を示す患者において、治療の開始前に有意に低発現している(Blaschke et al., 2015)。しかしながら、この試験は、予測モデルを構築するためにバイオマーカーの組合せを使用していない。
【0038】
補体系(Ricklin and Lambris, 2013)は、感染病原体の破壊、免疫複合体の排除だけでなく、炎症反応の制御および特異的免疫応答の調節にも介入する防御機構の1つである。これは活性化カスケードであり、補体の活性化経路は総て、C3aおよびC3bへの特異的タンパク質分解系によるその切断に終わるため、画分C3は、補体の活性化において中心的役割を果たす。補体系とRAとの間の関連性が強調されている。C3の存在は、AR患者の滑液において認められている。トシリズマブによる治療の12ヵ月後、疾患の活動性スコアと相関したC3血清の低下が、RA患者において認められている(Romano et al., 2018)。別の試験は、健常対象と比較してAR患者においてC3の発現が高いこと、およびリツキシマブによる治療の12ヵ月後、応答者においてC3が特異的に低下したことを報告している(Conigliaro et al., 2016)。
【0039】
血小板第4因子(PF4、ケモカイン(C-X-Cモチーフ)リガンド4を表すCXCL4ともいう)は、活性化血小板により放出されるケモカインであり、強い親和性でヘパリンに結合する。その主要な生理学的役割は、血管の内皮表面上のヘパリン型の分子の中和であると思われ、それにより、アンチトロンビンIIIの局所活性を阻害し、凝固を支持する。好中球および線維芽細胞に対する強力な化学誘引物質として、PF4はおそらく、炎症および治癒における役割を有する。RAにおいて、いくつかの試験が、皮膚の血管増生を示す患者における滑液中のPF4の増加および血漿レベルの上昇を報告している。PF4のmRNAの増加が、RAの初期において認められている(Yeo et al., 2016)。PF4を含有する免疫複合体が、AR患者の血清中で特異的に認められており、RAに対する診断的使用が示唆される(Ohyama et al., 2011)。PF4は、生物学的療法未治療患者におけるインフリキシマブ(Trocme et al., 2009)ならびに抗TNFα(エタネルセプト、インフリキシマブおよびアダリムマブ)(Nguyen et al., 2018)による関節リウマチの治療における応答バイオマーカーとして特徴付けられている。しかしながら、本発明者らの知る限りでは、1以上の以前の生物学的療法に対して適切な治療応答を示していない患者において特異的なRAの治療におけるバイオマーカーとしてのPF4の予測的側面は、文献において報告されていない。
【0040】
トロンボスポンジン5(TSP5)という名称でも呼ばれるCOMP(軟骨オリゴマー基質タンパク質)は、細胞外トロンボスポンジンのファミリーのメンバーである糖タンパク質である。このカルシウム結合タンパク質は、関節、鼻軟骨および気管軟骨ならびにより少ない程度で、靱帯、半月板および正常腱に主に存在する。これは、関節疾患、特にRAにおける血清軟骨の分解のマーカーとして考えられている。COMPの血清レベルは、CRPなどの疾患の活動性を推定するのに一般的に使用される標準的なバイオマーカーに匹敵する特異度を有する、RAを有する患者と健常人とを区別するための潜在的なバイオマーカーとして考えられ得る。COMP、より具体的には、COMPの特異的モノクローナル抗体は、無処置マウスにおける関節炎の誘導に関与している。COMPレベルは、RAの開始時のラーセン関節損傷スコアとも相関していた。さらに、RAを有する患者における血清およびCOMP滑液のレベルは、軟骨の分解だけでなく、急性期の指標である沈降速度(SR)およびCRPも反映する。より高いレベルのCOMPは、RAにおける疾患の悪性度とも関連している。同様に、早期発症および晩期発症RAにおいて、COMPのレベルと疾患の重症度との間に有意な正の相関が認められている。インフリキシマブおよびエタネルセプトによる治療の後、Crnkicら(Crnkic et al., 2003)は、応答者および非応答者の両方で3ヵ月後にCOMPの血清中濃度が減少し、6ヵ月後も低値を維持していたことを報告した。別の試験では、エタネルセプトによる治療の6ヵ月後にCOMPの血清中濃度の減少が認められたが、これは寛解群においてのみであった(Kawashiri et al., 2010)。高い血清レベルのCOMPを有する患者は、ラーセンスコアの悪化を示す可能性が高かった(Skoumal et al., 2003)。
【0041】
好ましくは、本発明に係る治療の有効性の推定方法は、前述の10個のバイオマーカーのうち少なくとも3個、アルファ1アンチトリプシン(A1AT)、ベータ-2-ミクログロブリン(B2M)、血清アミロイドA-2(SAA2)、セレノプロテインP(SeleP)、リポ多糖結合タンパク質(LBP)、補体C3(C3)、アポリポタンパク質C-III(APOC3)、血清アミロイドA-1(SAA1)、血小板第4因子(PF4)および軟骨オリゴマー基質タンパク質(COMP)からなる群のうち少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、または10個のバイオマーカーの発現レベルのイン・ビトロ測定に基づいたものである。
【0042】
本発明に係る治療の有効性の推定方法の好ましい複数の態様は、前述の10個のバイオマーカーの列挙のうち以下のバイオマーカーの特定の組合せ:
少なくともA1ATおよびSAA1または少なくともA1ATおよびSAA2、より好ましくは、少なくともA1ATおよびB2M;
少なくともA1AT、B2MおよびLBPもしくは少なくともA1AT、SAA2およびAPOC3、またはさらにおよびより好ましくは、少なくともA1AT、B2MおよびSAA1もしくは少なくともA1AT、B2MおよびSeleP
の発現レベルのイン・ビトロにおける測定を含んでなる。
【0043】
これらの組は、治療の有効性の推定という点で最も関連性のある結果を得ることを可能にする。
【0044】
前述の2個または3個の好ましいバイオマーカーのこれらの組合せを用いて、特に、本明細書に記載の10個のバイオマーカーの列挙、すなわち、アルファ1アンチトリプシン(A1AT)、ベータ-2-ミクログロブリン(B2M)、血清アミロイドA-2(SAA2)、セレノプロテインP(SeleP)、リポ多糖結合タンパク質(LBP)、補体C3(C3)、アポリポタンパク質C-III(APOC3)、血清アミロイドA-1(SAA1)、血小板第4因子(PF4)および軟骨オリゴマー基質タンパク質(COMP)における残りの8個または7個から選択される少なくとも1個の他のバイオマーカーの発現レベルをイン・ビトロで測定することもできる。
【0045】
本発明に係る方法は、少なくとも1つの以前の生物学的療法に対して不適切な応答を示した関節リウマチを有する患者における抗TNFα剤による治療の有効性を推定することを可能にする。
【0046】
「不適切な応答を示した関節リウマチを有する患者」は、少なくとも1つの以前の生物学的療法に対して不十分な応答を示した関節リウマチを有する患者を意味するが、少なくとも1つの以前の生物学的療法に対して満足な応答を示したが、以前の治療中に治療の停止を必要とする中等度または重度の少なくとも1つの有害事象を示した関節リウマチを有する患者も意味する。
【0047】
「少なくとも1つの以前の生物学的療法に対する不十分な応答」は、bDMARD(生物学的疾患修飾性抗リウマチ薬)による1以上の以前の治療に対して正の治療応答を示していない患者を意味する。慢性炎症性疾患の治療の範囲内で、現在の治療戦略は、リウマチの活動性を低下されるために行われ、治療に対する応答は、1年目に、一般に6ヵ月後に評価される。関節リウマチに関して、治療に対する応答は、EULAR(欧州リウマチ学会)応答に従ったリウマチの活動性の段階的変化により決定される。EULAR応答は、DAS28(疾患活動性スコア28)およびその変動により評価されるリウマチの活動性を考慮に入れたものである。DASは、28個の関節のうちの有痛関節の数、VAS(視覚的アナログスケール)、および生物学的炎症パラメーター:SR(沈降速度)またはCRPに基づいて計算される複合スコアである(Prevoo et al., 1995)。時間TにおけるEULAR応答は、時間TにおけるDAS28スコア、および時間TにおけるDAS28と最初のDAS28、すなわち治療前との間の差の関数として定義される。本発明の範囲内で、「治療に対する不十分な応答」は、特に、3.2超の時間TにおけるDAS28または1.2以下の時間Tと治療前DAS28との間のDAS28の変動を有するEULAR応答を意味する。
【0048】
逆に、「治療に対する十分な応答」は、1.2超の時間Tと治療前との間のDAS28の変動に関連する3.2以下の時間TにおけるDAS28を有するEULAR応答を意味する。
【0049】
時間Tにおける「寛解」は、時間Tにおいて2.6未満のDAS28を示している患者を意味する。
【0050】
生物学的療法は、bDMARDの使用を採用している療法を意味する。DMARDは、疾患の進行を緩徐化させるための関節リウマチにおけるそれらの使用により定義される薬剤のカテゴリーである。数種類のDMARDが存在し、以下のように分類される:
従来の合成薬(csDMARD)および標的合成薬(tsDMARD)を含んでなる合成DMARD(sDMARD)。csDMARDは、メトトレキサート、スルファサラジン、レフルノミド、ヒドロキシクロロキン、金塩などの伝統的な薬剤である。tsDMARDは、特定の分子構造を標的とするように開発されている薬剤である。
オリジナル生物学的DMARD(boDMARD)およびバイオシミラーDMARD(bsDMARD)を含んでなる生物学的DMARD(bDMARD)。bsDMARDは、オリジナル生物学的治療薬(boDMARD)と同じ一次構造、二次構造および三次構造を有し、オリジナルタンパク質のものと類似した有効性および安全性を有する薬剤である。
【0051】
「有害事象」、またはAEは、患者に生じたあらゆる好ましくない医療上の出来事を意味し、この出来事が生物学的療法による治療と関連するか否かは問わない。この有害事象が手技、方法、行為または治療との妥当な因果関係を有すると医師により判定される場合、有害作用と認定される。表現「科学的に妥当な因果関係」は、好ましくないおよび有害な反応と手技、方法、行為または治療との間の因果関係を科学用語で示唆することを可能にする証拠または論拠が存在することを意味する。
【0052】
有害事象の重症度は、当分野で周知の以下の分類を使用して、医師により評価される:
グレード1軽度:一般に一過性で、日常の活動を妨げない有害事象
グレード2中等度:通常の日常の活動を妨げるのに十分不快である有害事象
グレード3重度:対象の活動の通常の過程をかなりの程度変更させる、または無効にする、または対象の生命を脅かす有害事象。
【0053】
病態の関数としての総ての既知の有害事象のグレードは、米国国立癌研究所により列挙されており、米国国立衛生研究所のウェブサイトで利用可能である(有害事象共通用語規準(CTCAE);https://safetyprofiler-ctep.nci.nih.gov/CTC/CTC.aspx)。生物学的療法による治療と関連する異なる有害事象は、特に、製品概要(SmPC)において分類されている。
【0054】
好ましくは、本発明に係る方法は、関節リウマチを有し、かつ、少なくとも1つの以前の抗TNFα生物学的療法に対して不適切な応答を示した患者におけるアダリムマブである抗TNFα剤による治療の有効性を推定することを可能にする。さらにより好ましくは、本発明に係る方法は、エタネルセプト、アバタセプト、インフリキシマブ、トシリズマブ、リツキシマブ、セルトリズマブおよびゴリムマブから選択される少なくとも1つの以前の治療、好ましくは、これらの治療のうち1つのみに対して不適切な応答を示した関節リウマチを有する患者における抗TNFα剤による治療の有効性を推定することを可能にする。
【0055】
本発明によれば、方法は、抗TNFα剤による治療の有効性を推定することを可能にする。このような剤は、特に、TNFアルファとその受容体との間の相互作用を直接的または間接的に防止、遮断または阻害することにより、TNFアルファの作用を直接的または間接的に遮断、またはさらには阻害することができる剤と定義され得る。これらの剤のうち、bDMARDアダリムマブが特に挙げられ得る。
【0056】
特に有利な様式において、本発明に係る方法は、アダリムマブである抗TNFα剤による治療の有効性を推定することを可能にする。
【0057】
前述のバイオマーカーおよびバイオマーカーの組合せの発現レベルをイン・ビトロで測定するために、本発明の範囲内で、生体液から構成される任意の生体サンプルが使用され得、そのうち、滑液、血清、血漿、唾液、尿など、好ましくは、血清が特に挙げられ得る。
【0058】
好ましい態様によれば、前述のバイオマーカーおよびバイオマーカーの組合せの発現レベルは、アダリムマブである抗TNFα剤による治療の有効性を推定しようとする患者からの血清のサンプルに対して、イン・ビトロで測定される。
【0059】
有利には、本発明に係る治療の有効性の推定方法は、工程a)において、バイオマーカーまたはタンパク質バイオマーカーの組合せの発現レベルのイン・ビトロにおける測定を含んでなる。
【0060】
本発明に係る方法の特に好ましい複数の態様は、以下であり、各々は、先に定義されたバイオマーカーの組合せ、すなわち、アルファ1アンチトリプシン(A1AT)、ベータ-2-ミクログロブリン(B2M)、血清アミロイドA-2(SAA2)、セレノプロテインP(SeleP)、リポ多糖結合タンパク質(LBP)、補体C3(C3)、アポリポタンパク質C-III(APOC3)、血清アミロイドA-1(SAA1)、血小板第4因子(PF4)および軟骨オリゴマー基質タンパク質(COMP)からなる群から選択される少なくとも2つのバイオマーカーに適用される:
関節リウマチを有する患者におけるアダリムマブによる治療の有効性の推定;
本明細書に記載の10個から選択される少なくとも2個のマーカーのタンパク質発現レベルを測定することを含んでなる、関節リウマチを有する患者におけるアダリムマブによる治療の有効性の推定;
関節リウマチを有し、かつエタネルセプト、インフリキシマブ、トシリズマブ、アバタセプト、リツキシマブ、セルトリズマブおよびゴリムマブから選択される生物学的療法による少なくとも1つの以前の治療、好ましくは、これらの治療のうち1つのみに対して不適切な応答を示した患者におけるアダリムマブによる治療の有効性の推定;
本明細書に記載の10個から選択される少なくとも2個のマーカーのタンパク質発現のレベルを測定することを含んでなる、関節リウマチを有し、かつエタネルセプト、トシリズマブ、インフリキシマブ、アバタセプト、リツキシマブ、セルトリズマブおよびゴリムマブから選択される生物学的療法による少なくとも1つの以前の治療、好ましくは、これらの治療のうち1つのみに対して不適切な応答を示した患者におけるアダリムマブによる治療の有効性の推定;
関節リウマチを有し、かつエタネルセプト、インフリキシマブ、トシリズマブ、アバタセプト、リツキシマブ、セルトリズマブおよびゴリムマブから選択される生物学的療法による少なくとも1つの以前の治療、好ましくは、これらの治療のうち1つのみに対して不十分な応答を示した患者におけるアダリムマブによる治療の有効性の推定;
本明細書に記載の10個から選択される少なくとも2個のマーカーのタンパク質発現のレベルを測定することを含んでなる、関節リウマチを有し、かつエタネルセプト、トシリズマブ、インフリキシマブ、アバタセプト、リツキシマブ、セルトリズマブおよびゴリムマブから選択される生物学的療法による少なくとも1つの以前の治療、好ましくは、これらの治療のうち1つのみに対して不十分な応答を示した患者におけるアダリムマブによる治療の有効性の推定。
【0061】
本発明に係る推定方法の工程b1)において、上記の工程a)において測定されたバイオマーカーまたはバイオマーカーの組合せの発現レベルは、関節リウマチを有し、かつ、治療の有効性が既知である抗TNFα剤による治療を受けている患者の複数のサンプルにおいて測定された発現レベルと比較される。
【0062】
この比較は、入力データとして工程a)において測定されたバイオマーカーのうち少なくとも2つの発現レベルを使用した統計学習モデルによって行われる。そうするために、任意の統計学習モデルが使用され得、特に、ロジスティック回帰法、判別分析、ニューラルネットワーク、決定木学習、サポートベクターマシン(SVM)により得られたモデル、またはモデルの集合が使用され得る。
【0063】
好ましくは、本発明に係る抗TNFα剤による治療の有効性の推定方法において、工程a)において測定された各バイオマーカーの発現レベルは、前記患者におけるこの治療の有効性の推定と関連したスコアを得るために使用され、前記スコアは、複数のクラスにおける予後を分類するために、少なくとも1つの所定の閾値と比較される。本態様において、1つのクラスが前記抗TNFα剤による治療に対して非応答である少なくとも2つのクラスを含んでなる複数のクラスを使用することが、特に可能である。2つのクラスは、例えば、治療に対して不十分な応答を示すいわゆる「非応答者」の患者および治療に対して十分な応答を示すいわゆる「応答者」の患者に由来し得る。さらに本態様において、関節リウマチを有し、少なくとも1つの以前の生物学的療法に対して不適切な応答を示した患者における治療の有効性の推定は、それを下回ると不十分な有効性が予測され、それを上回ると良好な有効性が予測される所定の閾値との前記スコアの比較を含んでなる。
【0064】
好ましくは、本発明に係る抗TNFα剤による治療の有効性の推定方法は、工程b1)において、治療に対して良好な応答を示している前記抗TNFα剤により治療された患者と、治療に対して不十分な応答を示している前記抗TNFα剤により治療された患者とを含んでなるコホートのサンプルの事前分析に基づく学習モデルを使用する。本態様において、学習モデルは、好ましくは、変数を学習および選択する方法の適用を含んでなる事前分析に基づいたものである。有利には、ロジスティック回帰が、変数を学習および選択する方法として使用される。
【0065】
さらに、変数を学習および選択する方法の適用を含んでなる事前分析に基づいた本態様において、工程a)において測定されたバイオマーカーまたはバイオマーカーの組合せの発現レベルは、治療の有効性の推定と関連したスコアを導き出すために、治療に対して良好な応答を示している前記抗TNFα剤により治療された患者と、治療に対して不十分な応答を示している前記抗TNFα剤により治療された患者とを含んでなるコホートの事前分析の関数として重み付けられる。
【0066】
さらに、変数を学習および選択する方法の適用を含んでなる事前分析に基づいた本態様において、本発明に係る治療の有効性の推定方法は、決定木により学習する方法を使用してもよい。本態様によれば、工程a)において測定されたバイオマーカーまたはバイオマーカーの組合せの発現レベルは、前記木の各ノードにおける参照値と比較される。
【0067】
参照値は、各患者の各生体サンプルと関連するバイオマーカーの発現レベルに関する一組のデータを入手可能にするために、治療前の関節リウマチを有する一組の患者の生体サンプルにおけるバイオマーカーまたはバイオマーカーの組合せの発現レベルの分析により得てもよい。
【0068】
これらの参照値は、閾値を定義する役割を果たす結果の数を完了している他の患者で得られた結果の関数として、経時的に変化し得る。
【0069】
第2の側面によれば、本発明はまた、関節リウマチを有し、かつ、少なくとも1つの以前の生物学的療法に対して不適切な応答を示した患者における抗TNFα剤による治療の有効性の推定システムであって、前記システムは、
前記患者からの生体サンプルにおける、アルファ1アンチトリプシン(A1AT)、ベータ-2-ミクログロブリン(B2M)、血清アミロイドA-2(SAA2)、セレノプロテインP(SeleP)、リポ多糖結合タンパク質(LBP)、補体C3(C3)、アポリポタンパク質C-III(APOC3)、血清アミロイドA-1(SAA1)、血小板第4因子(PF4)および軟骨オリゴマー基質タンパク質(COMP)からなる群から選択される少なくとも2つのバイオマーカーの発現レベルの測定データの測定または受信手段と、
この群から選択されるバイオマーカーについて測定された各発現レベルの関数として、前記患者における治療の有効性を推定するように設定された測定データの処理手段と
を含んでなる、システムに関する。
【0070】
選択されたバイオマーカーまたはバイオマーカーの組合せの発現レベルを測定するための手段のうち、とりわけ、ネフェロメトリー、化学発光、免疫比濁法、フローサイトメトリー、ELISAなどの方法において使用され得る酵素、基質または抗体などのバイオマーカーの各々の特異的な試薬だけでなく、例えば、質量分析法などの物理的手段も特に挙げることができる。
【0071】
本発明に係るシステムは、測定データを受信して、それにより、例えば、先に記載したような測定された生物学的バイオマーカーの発現レベルを有している開業医により供給されたデータから、前記患者に関して、抗TNFα剤による治療に対する応答の有効性を推定することを可能にする手段をさらに含んでもよい。
【0072】
受信手段は、イントラネットネットワークまたはセキュアインターネットネットワークなどのコミュニケーションネットワークを介してリモートサーバーと通信するための送信/受信手段を特に含んでなってもよい。デバイスは、キーボードなどの入力手段を含んでなってもよい。
【0073】
データ処理手段は、データベース管理、コード命令、アルゴリズムのブリック(algorithmic brick)、利用者が結果を調べることを可能にするインターフェースなどを含んでなるソフトウェアの開発を特に必要とし得る。これらの種々の要素は、ハードディスク、CD ROM、USBキーなどのストレージサポート、または当業者に公知の任意の他のストレージサポートに記録してもよい。
【0074】
それらは、固定式または移動式であり得るデバイスにより実施されてもよい。デバイスは、例えば、パーソナルコンピューター、携帯電話、電子タブレット、または当業者に公知の任意の他の種類の端末である。
【0075】
代替態様において、システムはまた、例えば、さらにイントラネットまたはインターネットを介して、関係する患者における治療の有効性の推定の結果を送信する送信手段を含んでなってもよい。
【0076】
別の有利な代替によれば、本発明に係るシステムは、選択されたバイオマーカーの発現レベルに関して得られた治療の結果を考慮して参照値を完成および強化するために、得られた有効性データの受信手段を含む。
【実施例
【0077】
材料と方法
予測モデルの開発
生物学的療法に対する応答、または寛解と、各変数との間の関連性を、一組のデータに対するロジスティック回帰モデルにより分析する。説明変数は、第1の例では、治療の1年目における良好な応答であり、第2の例では、治療の1年目における寛解である。
【0078】
第1に、多変量モデルにおいて含める変数の事前選択を行う。そうするために、各説明変数の予測能を個別に分析する。バイオマーカーを、定量的および定性的に分析する。変数を選択する方法を実施して、多変量モデルに次に導入される関連変数を一意に保存する。バイオマーカーは、以下を有する場合、事前選択する:
定量型において、p値<0.20またはAUC>0.60
定性型において、p値<0.05およびAUC>0.65
【0079】
選択される基準は、有意な変数だけでなく、多変量モデルにおいて傾向を示す変数も含めるように任意に広くする。
【0080】
事前選択されたバイオマーカーは、分析するための関連傾向を示す。これらのバイオマーカーの異なる潜在的な組合せを有する多変量モデルを構築し、AUCを計算する。AUC>0.70を有するモデルを、関連性ありとみなし、保存する。
【0081】
それにより構築されたモデルは、応答または寛解の確率を得るために特異的バイオマーカーの各々の用量結果を重み付けすることを可能にする。各モデルの係数は、各患者の用量値から、応答または寛解の関連確率を計算することを可能にする。各モデルの性能特性(AUC(曲線下面積)、感度および特異度、PPV(陽性予測値)およびNPV(陰性予測値))を計算して、その関連性を定義する。
【0082】
AUC>0.70は、許容可能な判別とみなし、AUC>0.80は、非常に良好な判別能を示す。確率閾値のレベルを固定して、特異度および感度を計算する。この最適閾値は、ヨーデン指標に基づいて決定する。この閾値において、患者を以下の表1の関数として分類することができる:
【0083】
【表1】
【0084】
TP(真陽性)は、検査陽性である応答者の数を表し、
FP(偽陽性)は、検査陽性である非応答者の数を表し、
FN(偽陰性)は、検査陰性である応答者の数を表し、
TN(真陰性)は、検査陰性である非応答者の数を表す。
【0085】
感度、すなわち患者が応答者である場合に検査が陽性である確率は、罹患者においてのみ測定される。これは、以下によって与えられる:
【数1】
【0086】
特異度は、非罹患者においてのみ測定される。特異度、すなわち非応答者において検査陰性を得る確率は、以下により与えられる:
【数2】
【0087】
検査の感度は、患者が応答者である場合に陽性の結果を与えるその能力を測定するものである。特異度は、患者が非応答者である場合に陰性の結果を与える検査の能力を測定するものである。
【0088】
陽性予測値(PPV)は、検査が陽性である場合に患者が応答者である確率である。
【数3】
【0089】
陰性予測値(NPV)は、検査が陰性である場合に患者が非応答者である確率である。
【数4】
【0090】
結果:
54例のRAを有する患者からなる学習コホートのうち、構築されたモデルは、AUC>0.75を有する2または3個のバイオマーカーの組合せを示す以下の表2において示された特性を有する。A1AT、B2M、SAA2、SeleP、LBP、C3、APOC3、SAA1、PF4、COMPの10個のバイオマーカーのうち少なくとも2個を含む総ての組合せは、関連性のある結果を示している。
【0091】
【表2】
【0092】
例えば、3つの変数A1AT、B2MおよびSelePを有するモデルを採用し、得られた特性を以下の表3に示す。
【0093】
【表3】
【0094】
対応するROC曲線を、添付の図1および2に示す。
【0095】
参考文献
図1
図2
【国際調査報告】