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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-17
(54)【発明の名称】がんの処置のための併用療法
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/06 20060101AFI20220209BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20220209BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220209BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220209BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220209BHJP
   A61K 31/517 20060101ALI20220209BHJP
   A61K 31/4709 20060101ALI20220209BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220209BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20220209BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20220209BHJP
【FI】
A61K45/06 ZNA
A61K47/68
A61K39/395 N
A61K39/395 T
A61P43/00 121
A61P35/00
A61K31/517
A61K31/4709
A61P29/00
C12Q1/686 Z
C12Q1/6869 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021535545
(86)(22)【出願日】2019-12-20
(85)【翻訳文提出日】2021-07-28
(86)【国際出願番号】 US2019068153
(87)【国際公開番号】W WO2020132633
(87)【国際公開日】2020-06-25
(31)【優先権主張番号】62/784,084
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】500039463
【氏名又は名称】ボード オブ リージェンツ,ザ ユニバーシティ オブ テキサス システム
【氏名又は名称原語表記】BOARD OF REGENTS,THE UNIVERSITY OF TEXAS SYSTEM
【住所又は居所原語表記】210 West 7th Street Austin,Texas 78701 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ヘイマッハ ジョン ブイ.
(72)【発明者】
【氏名】ロビショー ジャクリーン
(72)【発明者】
【氏名】ニルソン モニーク
【テーマコード(参考)】
4B063
4C076
4C084
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
4C076AA95
4C076EE41
4C076EE59
4C084AA20
4C084MA02
4C084MA05
4C084NA05
4C084NA13
4C084ZA081
4C084ZB261
4C084ZC751
4C085AA14
4C085AA15
4C085AA26
4C085EE03
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC28
4C086BC45
4C086GA02
4C086GA07
4C086GA08
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA05
4C086NA05
4C086NA13
4C086ZA08
4C086ZB26
4C086ZC75
(57)【要約】
本開示は、挿入変異などのHER2変異を有すると判定された患者のがんを、ポジオチニブなどの第3世代チロシンキナーゼ阻害剤をHER2抗体-薬物コンジュゲートと組み合わせて投与することにより処置する方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効量のチロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) およびHER抗体-薬物コンジュゲートを対象に投与する段階を含む、対象のがんを処置する方法。
【請求項2】
HER2抗体がトラスツズマブである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
HER2抗体-薬物コンジュゲートがトラスツズマブエムタンシン (T-DM1) である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
TKIがキナゾリンアミンベースのTKIである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
キナゾリンアミンベースのTKIが、ポジオチニブ、アファチニブ、ネラチニブ、ダコミチニブ、またはタルロキソチニブである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
キナゾリンアミンベースのTKIがポジオチニブである、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
ポジオチニブが16 mg未満の用量で投与される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
対象がポジオチニブおよびT-DM1を投与される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
対象が単一用量のT-DM1を投与される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
TKIがHER2抗体-薬物コンジュゲートの前に投与される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
TKIがHER2抗体-薬物コンジュゲートの後に投与される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
TKIがHER2抗体-薬物コンジュゲートと同時に投与される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
がんがHER2変異がんである、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
HER2変異がんが、エクソン19~21にまたがるチロシンキナーゼドメイン内のHER2の活性化変異を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
HER2変異がんが、V754M、L755S、L755P、D769H、D769N、D769Y、V773M、V777L、Y772dupYVMA、G776delinsVC、G776delinsVV、G776delinsLC、V777insCG、G778insLPS、P780insGSP、L786V、V842I、およびL869Rからなる群より選択される1つまたは複数の変異を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
HER2変異がんが、エクソン19変異、エクソン20変異、および/またはエクソン21変異を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
HER2変異がんがエクソン20変異を有する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
エクソン20変異が、HER2のアミノ酸E770~R786の間の1~18ヌクレオチドの、1つまたは複数の点変異、挿入、および/または欠失を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
エクソン20変異が、残基Y772、V773、A775、G776、V777、G778、S779、および/またはP780に存在する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
エクソン20変異がエクソン20挿入変異である、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
エクソン20挿入変異が、Y772dupYVMA、G778dupGSP、および/またはG776delinsVCである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
エクソン19変異が残基L755またはD769に存在する、請求項16に記載の方法。
【請求項23】
エクソン19変異がL755Pである、請求項16に記載の方法。
【請求項24】
エクソン20変異が点変異である、請求項16に記載の方法。
【請求項25】
エクソン20点変異が残基C805に存在する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
エクソン20点変異がC805Sである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
エクソン21変異が点変異である、請求項16に記載の方法。
【請求項28】
点変異が残基V842またはL869に存在する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
点変異がV842IまたはL869Rである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
がんが肺がんである、請求項1~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
肺がんが非小細胞肺がん (NSCLC) である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
ポジオチニブが経口投与される、請求項6に記載の方法。
【請求項33】
ポジオチニブが5~25 mgの用量で投与される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
ポジオチニブが、8 mg、12 mg、または16 mgの用量で投与される、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
ポジオチニブがポジオチニブ塩酸塩としてさらに定義される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
ポジオチニブ塩酸塩が錠剤として製剤化される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
ポジオチニブおよび/またはT-DM1が、静脈内に、皮下に、骨内に、経口的に、経皮的に、持続放出で、制御放出で、遅延放出で、坐剤として、または舌下に投与される、請求項6~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
付加的な抗がん治療を施行する段階をさらに含む、請求項1~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
付加的な抗がん治療が、化学療法、放射線療法、遺伝子治療、手術、ホルモン療法、抗血管新生療法、または免疫療法である、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
対象がヒトである、請求項1~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
TKIおよびHER抗体-薬物コンジュゲートを含む、薬学的組成物。
【請求項42】
TKIがポジオチニブであり、HER抗体-薬物コンジュゲートがT-DM1である、請求項41に記載の組成物。
【請求項43】
がんを有する対象における、HER2抗体-薬物コンジュゲートと組み合わせたTKIに対する応答を予測する方法であって、該患者から採取されたゲノム試料においてHER2変異を検出する段階を含み、該試料がHER2変異の存在について陽性である場合に、該患者はHER2抗体-薬物コンジュゲートと組み合わせたポジオチニブの抗がん治療に対して好ましい応答を得ると予測される、前記方法。
【請求項44】
HER2変異が、エクソン19変異、エクソン20変異、および/またはエクソン21変異である、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
エクソン20変異が、HER2のアミノ酸E770~R786の間の1~18ヌクレオチドの、1つまたは複数の点変異、挿入、および/または欠失を含む、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
エクソン20変異が、残基Y772、V773、A775、G776、V777、G778、S779、および/またはP780に存在する、請求項44に記載の方法。
【請求項47】
エクソン20挿入変異が、Y772dupYVMA、G778dupGSP、および/またはG776delinsVCである、請求項45に記載の方法。
【請求項48】
エクソン19変異が残基L755またはD769に存在する、請求項44に記載の方法。
【請求項49】
エクソン20変異が残基C805に存在する、請求項44に記載の方法。
【請求項50】
ゲノム試料が、唾液、血液、尿、正常組織、または腫瘍組織から単離される、請求項43~49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
HER2変異の存在が、核酸配列決定またはPCR解析により判定される、請求項43~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
HER抗体-薬物コンジュゲートと組み合わせたTKIに対する好ましい応答が、腫瘍サイズもしくは腫瘍量の減少、腫瘍増殖の阻止、腫瘍に伴う疼痛の軽減、がんに伴う病態の軽減、がんに伴う症状の軽減、がんの非進行、無病期間の延長、進行までの期間の延長、寛解の誘導、転移の減少、または患者の生存期間の延長を含む、請求項43~51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
TKIがポジオチニブであり、HER抗体-薬物コンジュゲートがT-DM1である、請求項43~53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
好ましい応答を得ると予測される対象に、HER2抗体-薬物コンジュゲートと組み合わせたTKIを投与する段階をさらに含む、請求項43~53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
好ましい応答を得ると予測される対象に、T-DM1と組み合わせたポジオチニブを投与する段階をさらに含む、請求項43~54のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2018年12月21日に出願された米国仮特許出願第62/784,084号の恩典を主張するものであり、その全体は参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
1. 分野
本発明は、一般に、分子生物学および医学の分野に関する。より具体的には、本発明は、がん患者を併用療法で処置する方法に関係する。
【背景技術】
【0003】
2. 関連技術の説明
ヒト上皮増殖因子受容体2 (HER2) の増幅が多くのがん型で起こり、トラスツズマブ、ペルツズマブ、トラスツズマブエムタンシン (T-DM1)、ラパチニブ、およびネラチニブなどの標的指向型薬剤が、単独の化学療法と比較して臨床転帰を改善することが示されている。これまでに、いくつかのHER2ターゲティング剤が、乳がんおよび胃がんにおけるHER2増幅疾患の処置についてFDAに認可されている。HER2の活性化変異が、多くのがん型で報告されている;しかしながら、現在、HER2変異を有するがんに対する、FDAによって認可された標的指向型療法は存在しない。
【0004】
HER2変異がんに対する標的指向型薬剤の最近の臨床研究は、アファチニブ、ネラチニブ、およびダコミチニブなどの、共有結合型の第2世代チロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) に焦点を合わせている。SUMMIT汎がん研究により、ネラチニブを投与された患者の客観的奏効率 (ORR) が全HER2変異の15%未満であったことが報告された (Hyman et al., 2018)。しかしながら、複数の研究を通じて、患者をがん型で層別化した場合、乳がん患者はネラチニブに対してORRが12.5%~32%であり;一方、肺がん患者は単剤としてのネラチニブに対して奏効率が0%~4%であり (Mazieres et al., 2015)、このことから、HER2阻害の有効性におけるがん特異的な違いが実証された。興味深いことに、1つのがん型の中でも、HER2標的指向型薬剤は変種特異的な相違を引き起こすようである。SUMMIT試験において、HER2キナーゼドメインの点変異を有する患者は、ネラチニブに対してORRが21.4%であったのに対して、エクソン20の挿入を有する患者は、ORRが7.1%であった。さらに、ダコミチニブは、HER2変異NSCLCに対してORRが11.5%であったが、HER2エクソン20挿入変異であるY772dupYVMAを有する患者では、奏効しなかった (Kris et al., 2015);また、アファチニブの2つの別の研究において、エクソン20挿入変異を有するNSCLC患者は、アファチニブに対する奏効率が18.2%および18.8%であった。
【0005】
HER2モノクローナル抗体および薬物-抗体コンジュゲートの研究でも、同様の結果が明らかになった。汎がん研究MyPathwayでは、抗HER2モノクローナル抗体トラスツズマブとペルツズマブの組み合わせの有効性を35種類の異なる腫瘍型で試験し、すべてのHER2変異およびがん型について11%のORRであったことを報告した (Hainsworth et al., 2018)。この研究では、含めた35種類の腫瘍型のうち、NSCLC患者の21%および胆道がん患者1名のみが奏効した。加えて、T-DM1の有効性を試験する汎HER2変異NSCLC研究において、エクソン20挿入変異を有する患者は、ORRが54.5%であったが、エクソン19変異を有する患者では部分奏効が得られなかった (Li et al., 2018)。患者の転帰におけるこのようながん特異的および変種特異な相違により、がん型にわたるHER2変異の状況の詳細かつ体系的な理解、ならびに同定された様々なHER2変異に対する効果的な治療法の同定に対する、満たされていない必要性が示される。
【0006】
HER2活性化変異の前臨床研究により、様々なTKIに対する差次的な感受性もまた報告されている。HER2の細胞外ドメイン内変異の研究により、これらの変異が、ラパチニブなどの非共有結合型阻害剤に対する抵抗性、さらにネラチニブ、アファチニブ、およびオシメルチニブを含む共有結合型TKIに対する強い感受性と関連していることが示される一方で (Greulich et al., 2012)、エクソン19内の変異は、ラパチニブおよび共有結合型阻害剤に対して様々な感受性を示す。さらに、研究により、HER2エクソン20の変異が、オシメルチニブ、ナザルチニブ、ロシレチニブ、およびオルムチニブなどの非共有結合型および共有結合型TKIに対して広範な抵抗性を示すことが実証されている (Bose et al., 2013)。
【0007】
興味深いことに、共有結合型のキナゾリンアミンベースのTKIであるネラチニブ、アファチニブ、およびダコミチニブは、個々のHER2エクソン20変異に対して差次的な応答を誘導する (Kosaka et al., 2017);しかしながら、稀なHER2変異のみが、臨床的に適切な濃度のこれらのTKIに対して感受性を示した。さらに最近では、ポジオチニブが、患者で到達可能な濃度でHER2エクソン20挿入変異を効果的に阻害し;ポジオチニブ処置が、HER2エクソン20変異を有する1名の患者において放射線学的奏効を誘導したことが報告された (Robichaux et al., 2018)。それにもかかわらず、HER2変異がんの最も一般的な変種を標的とする単一のHER2 TKIは同定されていない。
【発明の概要】
【0008】
概要
本開示の態様は、チロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) とHER2抗体の組み合わせを含む、患者のがんを処置するための方法および組成物を提供する。1つの態様において、本開示は、有効量のチロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) およびHER抗体-薬物コンジュゲートを対象に投与する段階を含む、がんを処置する方法を提供する。いくつかの局面において、がんは肺がんである。例えば、肺がんは非小細胞肺がん (NSCLC) である。いくつかの態様において、対象はヒトである。
【0009】
いくつかの局面において、HER2抗体はトラスツズマブである。特定の局面において、HER2抗体-薬物コンジュゲートはトラスツズマブエムタンシン (T-DM1) である。
【0010】
ある特定の局面において、TKIは、ポジオチニブ、アファチニブ、ネラチニブ、ダコミチニブ、またはタルロキソチニブなどのキナゾリンアミンベースのTKIである。特定の局面において、キナゾリンアミンベースのTKIは、ポジオチニブである。具体的な局面において、ポジオチニブは、1~16 mg、例えば16 mg未満、特に10 mg未満、例えば2、3、4、5、6、7、8、または9 mgなどの低用量で投与される。
【0011】
特定の局面において、対象はポジオチニブおよびT-DM1を投与される。具体的な局面において、対象は単一用量のT-DM1を投与される。
【0012】
いくつかの局面において、がんはHER2変異がんである。例えば、HER2変異体は、エクソン19~21にまたがるチロシンキナーゼドメイン内のHER2の活性化変異を含む。ある特定の局面において、HER2変異がんは、L755S、L755P、D769H、D769Y、V773M、V777L、Y772dupYVMA、G776delinsVC、G776delinsVV、G776delinsLC、G778insLPS、P780insGSP、L786V、V842I、およびL869Rからなる群より選択される1つまたは複数の変異を含む。ある特定の局面において、HER2変異がんは、エクソン19変異、エクソン20変異、および/またはエクソン21変異を有する。いくつかの局面において、HER2変異がんは、エクソン20変異、例えば、HER2のアミノ酸E770~R786の間の1~18ヌクレオチドの、1つまたは複数の点変異、挿入、および/または欠失を有する。特定の局面において、エクソン20変異は、残基V773、A775、G776、V777、G778、S779、および/またはP780に存在する。特定の局面において、エクソン20変異は、Y772dupYVMA、G778dupGSP、および/またはG776delinsVCなどのエクソン20挿入変異である。いくつかの局面において、エクソン19変異は、L755Pのように残基L755またはD769に存在する。特定の局面において、エクソン20変異は、C805Sなどの残基C805に存在するような点変異である。ある特定の局面において、エクソン21変異は点変異である。いくつかの局面において、点変異は、V842IまたはL869Rのように残基V842またはL869に存在する。
【0013】
いくつかの局面において、ポジオチニブは経口投与される。ある特定の局面において、ポジオチニブは、5~25 mg、例えば、8 mg、12 mg、または16 mgなどの用量で投与される。ある特定の局面において、ポジオチニブは、ポジオチニブ塩酸塩としてさらに定義される。ポジオチニブ塩酸塩は、錠剤として製剤化され得る。
【0014】
いくつかの局面において、TKIは、例えば、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、2週間、3週間、1ヶ月、またはそれ以上間隔をあけて、HER2抗体-薬物コンジュゲートの前または後に投与される。TKIはHER2抗体-薬物コンジュゲートと同時に投与される。
【0015】
ある特定の局面において、ポジオチニブおよび/またはT-DM1は、静脈内に、皮下に、骨内に、経口的に、経皮的に、持続放出で、制御放出で、遅延放出で、坐剤として、または舌下に投与される。
【0016】
付加的な局面において、前記方法は、付加的な抗がん治療を施行する段階をさらに含む。いくつかの局面において、付加的な抗がん治療は、化学療法、放射線療法、遺伝子治療、手術、ホルモン療法、抗血管新生療法、または免疫療法である。
【0017】
TKIおよびHER抗体-薬物コンジュゲートを含む薬学的組成物。特定の局面において、TKIはポジオチニブであり、HER抗体-薬物コンジュゲートはT-DM1である。
【0018】
がんを有する対象における、HER2抗体-薬物コンジュゲートと組み合わせたTKIに対する応答を予測する方法であって、該患者から採取されたゲノム試料においてHER2変異を検出する段階を含み、該試料がHER2変異の存在について陽性である場合に、該患者はHER2抗体-薬物コンジュゲートと組み合わせたポジオチニブの抗がん治療に対して好ましい応答を得ると予測される、前記方法。
【0019】
HER2変異は、エクソン19~21にまたがるチロシンキナーゼドメイン内のHER2の活性化変異を含み得る。ある特定の局面において、HER2変異がんは、L755S、L755P、D769H、D769Y、V773M、V777L、Y772dupYVMA、G776delinsVC、G776delinsVV、G776delinsLC、G778insLPS、P780insGSP、L786V、V842I、およびL869Rからなる群より選択される1つまたは複数の変異を含む。ある特定の局面において、HER2変異がんは、エクソン19変異、エクソン20変異、および/またはエクソン21変異を有する。いくつかの局面において、HER2変異がんは、エクソン20変異、例えば、HER2のアミノ酸E770~R786の間の1~18ヌクレオチドの、1つまたは複数の点変異、挿入、および/または欠失を有する。特定の局面において、エクソン20変異は、残基V773、A775、G776、V777、G778、S779、および/またはP780に存在する。特定の局面において、エクソン20変異は、Y772dupYVMA、G778dupGSP、および/またはG776delinsVCなどのエクソン20挿入変異である。いくつかの局面において、エクソン19変異は、L755Pのように残基L755またはD769に存在する。特定の局面において、エクソン20変異は、C805Sなどの残基C805に存在するような点変異である。ある特定の局面において、エクソン21変異は点変異である。いくつかの局面において、点変異は、V842IまたはL869Rのように残基V842またはL869に存在する。
【0020】
ある特定の局面において、ゲノム試料は、唾液、血液、尿、正常組織、または腫瘍組織から単離される。いくつかの局面において、HER2変異の存在は、核酸配列決定またはPCR解析により判定される。いくつかの局面において、HER抗体-薬物コンジュゲートと組み合わせたTKIに対する好ましい応答は、腫瘍サイズもしくは腫瘍量の減少、腫瘍増殖の阻止、腫瘍に伴う疼痛の軽減、がんに伴う病態の軽減、がんに伴う症状の軽減、がんの非進行、無病期間の延長、進行までの期間の延長、寛解の誘導、転移の減少、または患者の生存期間の延長を含む。
【0021】
いくつかの局面において、TKIはポジオチニブであり、HER抗体-薬物コンジュゲートはT-DM1である。いくつかの局面において、前記方法は、好ましい応答を得ると予測される対象に、T-DM1と組み合わせたポジオチニブを投与する段階をさらに含む。
【0022】
本発明の他の目的、特徴、および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、本発明の精神および範囲の範囲内の様々な変更および修正が、この詳細な説明から当業者に明らかになると考えられるため、詳細な説明および具体例は、本発明の好ましい態様を示しながら、例示として与えられているにすぎないことが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、本発明のある特定の局面をさらに実証するために含めるものである。本発明は、本明細書に提示された具体的な態様の詳細な説明と組み合わせて、これらの図面のうちの1つまたは複数を参照することにより、よりよく理解され得る。
図1】HER2変異は種々のがん型において発生し、受容体全体にわたって変異ホットスポットが発生している。cBioportalおよびMD Andersonのデータベースにおいて報告されているHER2変異位置の頻度の円グラフ (N=2338)。
図2図2A~2D: HER2変異のホットスポットは、がん型によって異なる。(A) cBioPortalおよびMD Andersonにおいて報告されている、すべてのがんにわたる最も一般的な11種のHER2変異のロリポッププロット(N=2338個のHER2変異)。バーの長さは、変異の頻度と相対的である。(B~D)cBioPortalおよびMD Andersonのデータベースにおける、NSCLC(B、N=177)、乳がん(C、N=143)、および結腸直腸がん(D、N=219)にわたる最も一般的な (>3%) HER2変異のロリポッププロット;バーの長さは、報告された変異の頻度と相対的である。
図3図3A~3C: チロシンキナーゼドメインにおける最も一般的なHER2変種は、活性化変異である。IL-3非存在の条件下で14日間増殖させた、HER2エクソン19 (A)、HER2エクソン20 (B)、およびHER2エクソン21 (C) の変異を発現する安定したBa/F3細胞株の細胞生存率。細胞生存率は、Cell Titer Gloアッセイにより3日ごとに決定した。各細胞株について、平均値±SEMをプロットしてある(n=3回の生物学的に独立した実験)。
図4図4A~4F: ポジオチニブは、Ba/F3細胞におけるHER2変異に対して、試験した中で最も強力な阻害剤であった。(A) 表示の変異を安定的に発現するBa/F3細胞および薬物について、薬物処理の72時間後にGraphPadで算出されたlog IC50値のヒートマップ。細胞生存率は、Cell Titer Gloアッセイにより決定した (N≧3)。ネラチニブ、タルロキソチニブ-TKI、およびポジオチニブで72時間薬物処理した後の、HER2変異を発現するすべてのBa/F3細胞株 (B)、HER2エクソン19変異細胞株 (C)、HER2エクソン20変異細胞株 (D)、またはHER2エクソン21変異細胞株 (E) の平均IC50値。バーは平均値±SEMを表す (N≧3)。(C~E)ダンの多重比較検定と共に一元配置ANOVAを用いて、群間の統計的有意性を決定した。(F) L755SまたはL755Pを発現するBa/F3細胞の、表示の阻害剤による平均IC50値。ドットは、平均値±SEMを表す (N≧3)。統計的有意性は、対応のあるt検定により決定した。
図5図5A~5D: HER2変異体の分子動力学シミュレーションにより、Y772dupYVMAおよびL755P変異に対する薬物感受性の低下の考えられ得る機構が明らかになる。(A) 150 ns加速分子動力学シミュレーションにおける、HER2のV777LおよびY772dupYVMAエクソン20変異体のα-Cヘリックスの位置。(B) α-Cヘリックスの「イン」対「アウト」高次構造における、HER2エクソン20変異体の分子動力学スナップショットの部分分布。(C) V777L(白色の骨格、薄緑色のPループ)およびY772dupYVMA(灰色の骨格、濃緑色のPループ)変異体の分子動力学スナップショット。Pループおよびキナーゼヒンジの高次構造にはわずかな相違があるが、α-Cヘリックスの位置には大きな変化がある(青色のV777Lの「アウト」の位置、紫色のY772dupYVMAの「イン」の位置)。(D) L755P(白色の骨格、薄緑色のPループ、黄色のヒンジ、青色のα-Cヘリックス)およびL755S(灰色の骨格、濃緑色のPループ、オレンジ色のヒンジ、紫色のα-Cヘリックス)HER2変異体の分子動力学スナップショット。L755P変異体は、V790との骨格水素結合を欠いており、キナーゼヒンジの不安定化およびPループの結合部位側への収縮が生じる。
図6図6A~6F: HER2変異を発現するヒト細胞株はまた、ポジオチニブに対して最も感受性が高い。表示の阻害剤で72時間処理した、エクソン20挿入変異、HER2 G776delinsVC (A)、HER2 Y772dupYVMA (B)、HER2 G778dupGSP (C) を発現するMCF10A細胞の用量反応曲線。(D) MCF10AのHER2選択指数の棒グラフ。表示の各薬物について、変異細胞株のIC50値をHER2 WT発現細胞株の平均IC50値で割った。点は各細胞株の平均値±SEMを表し、バーは3つの細胞株すべての平均値±最小/最大を表す(各細胞株についてN≧3)。(E) 表示の阻害剤で72時間処理した、HER2エクソン19変異L755Sを有するCW-2大腸細胞の用量反応曲線。(A~C、E)曲線は平均値±SEMを表す、N=3。(F) 21日目のCW-2腫瘍体積の棒グラフ。マウスを媒体対照 (N=5)、30mg/kgネラチニブ (N=5)、20mg/kgアファチニブ (N=5)、または5mg/kgポジオチニブ (N=5)で週に5日処置し、点線で示される350mm3の時点で腫瘍を無作為に割り付けた。点は個々の腫瘍を表し、バーは平均値±SEMを表す。統計的有意性は、一元配置ANOVAにより決定した。
図7図7A~7D: HER2変異を有するNSCLC患者は、ポジオチニブに対して42%の確定奏効率を有する。(A) 臨床試験NCT03066206における最初の12名のHER2エクソン20患者の奏効のウォーターフォールプロット。患者7、8、10、11、および12(5名)について客観的部分奏効が示され、患者9(1名)について未確定奏効が示され、患者3~6(5名)について安定疾患が示され、ならびに患者1(1名)について進行疾患が示される。(B) 最初の12名のHER2エクソン20患者の無増悪生存期間のカプラン・マイヤープロットにより、2018年11月時点でmPFSが5.6ヶ月であったことが実証される。(C) HER2 Y772dupYVMA変異を有する患者の、ポジオチニブ処置の1日前および治療の8週間後のCTスキャン。(D) HER2 L755P変異NSCLC患者の、ポジオチニブ処置の1日前および4週間後のPETスキャン。この患者は、トラスツズマブ、ニボルマブ、および抗TDM1と併用した白金ベースの化学療法でこれまでに処置され、進行していたが、ポジオチニブ処置により標的病変が-12%縮小した。患者は、>7ヶ月にわたり安定疾患のままである。
図8図8A~8G: ポジオチニブ処理は細胞表面上のHER2の蓄積を誘導し、ポジオチニブとT-DM1の併用処置により抗腫瘍活性が増強される。(A) 24時間の10nMポジオチニブ処理後の、HER2 Y772dupYVMA、HER2 G778dupGSP、およびHER2 G776delinsVCを発現するMC10A細胞株における、HER2受容体発現のFACS解析。バーは平均値±SEMを表し、DMSO処理群とポジオチニブ処理群との間の有意差は、スチューデントのt検定により決定した。(B) ポジオチニブ、T-DM1、またはポジオチニブおよび表示用量のT-DM1で処理した、HER2 Y772dupYVMA、HER2 G778dupGSP、およびHER2 G776delinsVCを発現するMCF10A細胞株のIC50値の棒グラフ。バーは平均値±SEMを表し(n=3回の独立した実験)、有意差は一元配置ANOVAおよびダンの事後多重比較により決定した。(C) 表示の阻害剤で処置したHER2 Y772dupYVMA NSCLC PDXの腫瘍増殖曲線。ポジオチニブ処置は週に5日施行し、T-DM1は処置の開始時に1回投与した。(D) 無増悪生存期間 (PFS) のカプランマイヤー曲線であり、PFSは最良効果からの腫瘍の倍加と定義される。マンテル・コックスログランク検定を用いて、群間の有意差を決定した。マウスは、安楽死の時点で打ち切りとした。(E) 14日目における、表示の阻害剤で処置したマウスの腫瘍体積の変化パーセントのドットプロット。(F) 14日目および30日目における、各群内の腫瘍保有マウスの数のチャート。(G) 表示の阻害剤で処置したHER2 Y772dupYVMAマウスの腫瘍体積のスパイダープロット。
図9】エクソン20挿入変異の多様性はがん型によって異なる。すべてのがん (A)、肺がん (B)、乳がん (C)、およびその他のがん (D) におけるHER2エクソン20挿入変異頻度の円グラフ。
図10図10A~10B: 一般的なHER2変異は恒常的にリン酸化されており、p-HER2発現は薬物感受性とは相関しない。(A) 相対的p-HER2発現は、ELISAにより決定された総HER2に対するp-HER2の比率を求めることにより決定した。バーは平均値±SEMを表し、n=3である。ND=検出限界未満。(B) Ba/F3 HER2変異細胞株について、相対的HER2との相関をポジオチニブIC50値に対してプロットした。ピアソン相関およびp値は、GraphPad Prismにより決定した (n=3)。
図11図11A~11B: 分子モデリングにより、HER2変異体は結合ポケットサイズが異なることが明らかにされる。(A) それぞれ青色、ピンク色、およびオレンジ色で着色された、HER2キナーゼドメインのエクソン19、20、および21のタンパク質骨格。鋳型のX線構造 (PDB 3PP0) 由来のリガンドを緑色の棒で表し、変異した残基/挿入の位置について表示を提供する。(B) 加速分子動力学シミュレーションから得られたHER2変異体の結合ポケット容積プロファイル。結合が最も高いのは、HER2 V777LおよびHER2 L869Rである。
図12】ポジオチニブは、HER2変異細胞株においてp-HER2を阻害する。表示の薬物および用量で2時間処理した後の、G776delinsVCを発現するMCF10A細胞のウェスタンブロット。
図13】ポジオチニブは、エクソン19変異結腸直腸がんの異種移植片における腫瘍増殖を阻害する。HER2 L755S変異を有するCW-2細胞を、6週齢のnu/nu雌ヌードマウスの側腹部に注入した。腫瘍が350mm3に達した時点で、マウスを4群:20mg/kgアファチニブ、5mg/kgポジオチニブ、30mg/kgネラチニブ、または媒体対照に無作為に割り付けた。腫瘍体積を週に3回測定し、マウスには月曜日から金曜日に(週に5日)薬物を投与した。記号は各時点の平均値±SEMを表す。テューキーの多重比較検定と共に二元配置ANOVAを用いて、統計的有意性を決定した。アスタリスクは、媒体とポジオチニブ(赤色)またはネラチニブ(灰色)との間の有意差を示す。各比較のP値を、有意差が最初に検出された10日目から開始して以下に示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
例示的態様の説明
本研究において、様々な悪性腫瘍にわたるHER2変異の最も一般的なゲノム変種の頻度を決定した。体系的に、最も頻度の高い16種のHER2変異の活性化の可能性を示し、一般的に使用されている11種類のEGFRおよびHER2 TKIにわたって、それらの薬物感受性を評価した。エクソン20の挿入変異およびエクソン19におけるL755P(しかしL755Sではない)変異は、試験したTKIの多くに対して抵抗性であることが見出された。薬物耐性HER2変種であるL755Pおよびエクソン20挿入の分子動力学モデリングにより、これらの変異が受容体の高次構造状態に影響を及ぼし、薬物結合ポケットの全体的なサイズを縮小させることが実証された。さらに、ポジオチニブが、評価したすべてのHER2変異の強力な阻害剤として同定された;また、ポジオチニブは、最も耐性の高いHER2変種であるエクソン20挿入およびL755Pを有するNSCLC患者において、臨床活性を有した。最後に、ポジオチニブによって媒介される細胞表面受容体の蓄積は、インビボで抗腫瘍活性を高めるために利用され得るT-DM1活性を高め、HER2変異NSCLCのPDXモデルにおいて完全な腫瘍退縮をもたらすことが示された。
【0025】
したがって、ある特定の態様において、本開示は、NSCLCを含むHER2変異がんなどのがんの処置のための、ポジオチニブおよびT-DM1などのTKIおよびHER2抗体コンジュゲートを含む併用療法を提供する。
【0026】
I.定義
本明細書で用いられる場合、「1つの (a)」または「1つの (an)」は、1つまたは複数を意味し得る。特許請求の範囲において本明細書で用いられる場合、「含む」という語と共に用いられるのであれば、「1つの (a)」または「1つの (an)」という語は、1つまたは2つ以上を意味し得る。
【0027】
特許請求の範囲における「または」という用語の使用は、選択肢のみを指すように明記されている場合、または選択肢が相互に排他的である場合を除いて、「および/または」を意味するために用いられるが、本開示は選択肢のみならびに「および/または」を指す定義を支持する。本明細書で用いられる場合、「別の」は、少なくとも第2またはそれ以上のものを意味し得る。
【0028】
「約」という用語は、一般に、指定された値プラスまたはマイナス5%を意味する。
【0029】
「処置」または「処置すること」は、(1) 疾患の病態もしくは総体症状を経験するもしくは呈する対象もしくは患者において、疾患を抑制すること(例えば、病態および/もしくは総体症状のさらなる発症を抑止すること)、(2) 疾患の病態もしくは総体症状を経験するもしくは呈する対象もしくは患者において、疾患を改善すること(例えば、病態および/もしくは総体症状を回復させること)、ならびに/または (3) 疾患の病態もしくは総体症状を経験するもしくは呈する対象もしくは患者において、疾患の任意の測定可能な減少をもたらすことを含む。例えば、処置は、有効量のポジオチニブの投与を含み得る。
【0030】
「予防的に処置すること」は、(1) 疾患のリスクを有する、および/もしくは疾患に罹りやすい可能性があるが、疾患の病態もしくは総体症状のいずれかもしくはすべてをまだ経験していないもしくは呈していない対象もしくは患者において、疾患を発症するリスクを減少させるかもしくは緩和すること、ならびに/または (2) 疾患のリスクを有する、および/もしくは疾患に罹りやすい可能性があるが、疾患の病態もしくは総体症状のいずれかもしくはすべてをまだ経験していないもしくは呈していない対象もしくは患者において、疾患の病態もしくは総体症状の発現を遅らせることを含む。
【0031】
本明細書で用いられる場合、「患者」または「対象」という用語は、生存している哺乳類生物、例えば、ヒト、サル、ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、モルモット、またはそれらのトランスジェニック種などを指す。ある特定の態様において、患者または対象は霊長類である。ヒト患者の非限定的な例は、成人、若年者、幼児、および胎児である。
【0032】
「有効な」という用語は、本用語が本明細書および/または特許請求の範囲で用いられる場合、所望の、予測された、または意図された結果を達成するために十分であることを意味する。化合物を用いて患者または対象を処置する状況において用いられる場合の、「有効量」、「治療有効量」、または「薬学的有効量」は、疾患を処置または予防するために対象または患者に投与された場合の化合物の量が、疾患のそのような処置または予防をもたらすのに十分な量であることを意味する。
【0033】
本明細書で用いられる場合、「IC50」という用語は、得られた最大応答の50%である阻害用量を指す。この定量的尺度は、所与の生物学的、生化学的、または化学的過程(または過程の構成要素、すなわち、酵素、細胞、細胞受容体、もしくは微生物)を半分阻害するのに、どの程度の特定の薬物または他の物質(阻害剤)が必要であるのかを示す。
【0034】
「抗がん」剤は、例えば、がん細胞の殺傷を促進する、がん細胞においてアポトーシスを誘導する、がん細胞の増殖速度を低下させる、転移の発生率もしくは数を減少させる、腫瘍サイズを減少させる、腫瘍増殖を阻害する、腫瘍もしくはがん細胞への血液供給を減少させる、がん細胞もしくは腫瘍に対する免疫応答を促進する、がんの進行を防ぐもしくは阻害する、またはがんを有する対象の生存期間を延長することにより、対象におけるがん細胞/腫瘍に悪影響を及ぼし得る。
【0035】
「挿入」または「挿入変異」という用語は、1つまたは複数のヌクレオチド塩基対のDNA配列中への付加を指す。一例において、HER2エクソン20挿入変異は、アミノ酸770~785の間の、3~18ヌクレオチドの1つまたは複数の挿入を含む。
【0036】
本明細書で一般的に用いられる場合、「薬学的に許容される」は、健全な医学的判断の範囲内で、妥当な利益/リスク比に釣り合って、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題もしくは合併症を引き起こすことなく、ヒトおよび動物の組織、器官、および/または体液に接触して用いるのに適している化合物、材料、組成物、および/または剤形を指す。
【0037】
「薬学的に許容される塩」は、上記で定義されたように薬学的に許容され、かつ所望の薬理活性を有する、本発明の化合物の塩を意味する。そのような塩の非限定的な例には、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、およびリン酸などの無機酸;または1,2-エタンジスルホン酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、3-フェニルプロピオン酸、4,4'-メチレンビス(3-ヒドロキシ-2-エン-1-カルボン酸)、4-メチルビシクロ[2.2.2]オクタ-2-エン-1-カルボン酸、酢酸、脂肪族モノおよびジカルボン酸、脂肪族硫酸、芳香族硫酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、カンファースルホン酸、炭酸、桂皮酸、クエン酸、シクロペンタンプロピオン酸、エタンスルホン酸、フマル酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリコール酸、ヘプタン酸、ヘキサン酸、ヒドロキシナフトエ酸、乳酸、ラウリル硫酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ムコン酸、o-(4-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸、シュウ酸、p-クロロベンゼンスルホン酸、フェニル置換アルカン酸、プロピオン酸、p-トルエンスルホン酸、ピルビン酸、サリチル酸、ステアリン酸、コハク酸、酒石酸、第3級ブチル酢酸、およびトリメチル酢酸などの有機酸と共に形成された酸付加塩が含まれる。薬学的に許容される塩には、存在する酸性プロトンが無機塩基または有機塩基と反応可能である場合に形成され得る塩基付加塩もまた含まれる。許容される無機塩基には、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アルミニウム、および水酸化カルシウムが含まれる。許容される有機塩基の非限定的な例には、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、およびN-メチルグルカミンが含まれる。本発明の任意の塩の一部を形成する特定の陰イオンまたは陽イオンは、その塩が全体として薬理学的に許容される限り重要ではないことが認識されるべきである。薬学的に許容される塩ならびにそれらの調製方法および使用方法のさらなる例は、Handbook of Pharmaceutical Salts: Properties, and Use (P. H. Stahl & C. G. Wermuth eds., Verlag Helvetica Chimica Acta, 2002) に提示されている。
【0038】
II. HER2変異
本開示のある特定の態様は、対象が1つまたは複数のHER2変異、例えば、HER2のエクソン19、エクソン20、またはエクソン21変異、例えば、挿入、欠失、または点変異を有するかどうかを判定することに関係する。対象は、2個、3個、4個、またはそれ以上のHER2変異を有し得る。変異の検出方法は当技術分野で公知であり、これにはPCR解析および核酸配列決定、ならびにFISHおよびCGHが含まれる。特定の局面において、HER2変異は、腫瘍または血漿由来の循環遊離DNAなどからのDNA配列決定により検出される。
【0039】
例示的なHER2エクソン19変異には、L755Pなどの、L755またはD769における変異が含まれる。例示的なHER2エクソン21変異には、V842IまたはL869Rなどの、V842またはL869における変異が含まれる。
【0040】
HER2エクソン20変異は、アミノ酸770~786の間の1~18ヌクレオチド、例えば3~18ヌクレオチドなどの、1つまたは複数の点変異、挿入、および/または欠失を含み得る。1つまたは複数のHER2エクソン20変異は、Y772、V773、A775、G776、V777、G778、S779、および/またはP780に存在し得る。1つまたは複数のHER2エクソン20変異は、A775insV G776C、A775insYVMA、G776V、G776C V777insV、G776C V777insC、G776del insVV、G776del insVC、P780insGSP、V777L、G778insLPS、および/またはV773Mであってよい。特に、HERエクソン20挿入変異は、Y772dupYVMA、G778dupGSP、および/またはG776delinsVCであってよい。
【0041】
患者試料は、対象の肺がん由来の核酸を含む任意の体組織または体液であってよい。ある特定の態様において、試料は、循環腫瘍細胞または無細胞DNAを含む血液試料である。他の態様において、試料は、肺組織などの組織であってよい。肺組織は、腫瘍組織に由来してよく、新鮮凍結またはホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) され得る。ある特定の態様では、肺腫瘍FFPE試料が得られる。
【0042】
本明細書に記載される方法において使用するのに適した試料は、遺伝子材料、例えばゲノムDNA (gDNA) を含有する。ゲノムDNAは典型的には、血液または口腔粘膜の粘膜擦過物などの生体試料から抽出されるが、尿、腫瘍、または喀痰を含む他の生体試料から抽出することもできる。試料はそれ自体、典型的には、有核細胞(例えば、血液もしくは頬側細胞)、または正常もしくは腫瘍組織を含む、対象から採取された組織を含む。試料を採取し、処理し、および解析するための方法および試薬は、当技術分野で公知である。いくつかの態様において、試料は、例えば採血するために、医療提供者の助けを借りて採取される。いくつかの態様において、試料は医療提供者の助けを借りずに採取され、例えばこの場合、試料は、頬側スワブもしくはブラシを用いて採取される頬側細胞を含む試料または洗口試料のように、非侵襲的に採取される。
【0043】
場合によっては、DNAを単離するために生体試料を処理することができる。例えば、細胞または組織試料中のDNAを、試料の他の構成成分から分離することができる。細胞は、当技術分野で公知の標準的な技法を用いて、生体試料から回収することができる。例えば、細胞は、細胞試料を遠心分離し、ペレット化された細胞を再懸濁することにより、回収することができる。細胞を、リン酸緩衝生理食塩水 (PBS) などの緩衝液中に再懸濁することができる。細胞懸濁液を遠心分離して細胞ペレットを得た後、細胞を溶解して、DNA、例えばgDNAを抽出することができる。例えば、Ausubel et al. (2003) を参照されたい。試料を濃縮および/または精製して、DNAを単離することができる。任意の種類のさらなる処理に供されたものを含む、対象から採取された試料はすべて、対象から採取されたと見なされる。例えばフェノール抽出を含む日常的な方法を用いて、生体試料からゲノムDNAを抽出することができる。あるいは、ゲノムDNAは、QIAamp(登録商標)組織キット(Qiagen、Chatsworth、Calif.)およびWizard(登録商標)ゲノムDNA精製キット (Promega) などのキットを用いて抽出することができる。試料の供給源の非限定的な例には、尿、血液、および組織が含まれる。
【0044】
本明細書に記載されるHER2変異の有無は、当技術分野で公知の方法を用いて判定することができる。例えば、ゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動、サイズ排除クロマトグラフィー、配列決定、および/またはアレイを用いて、挿入変異の有無を検出することができる。望ましい場合には、核酸の増幅は、当技術分野で公知の方法、例えばPCRを用いて達成することができる。一例においては、試料(例えば、ゲノムDNAを含む試料)を対象から採取する。次いで、試料中のDNAを調べて、本明細書に記載される挿入変異の同一性を決定する。挿入変異は、本明細書に記載される任意の方法により、例えば、配列決定により、またはゲノムDNA、RNA、もしくはcDNA中の遺伝子の核酸プローブ、例えば、DNAプローブ(cDNAおよびオリゴヌクレオチドプローブを含む)もしくはRNAプローブに対するハイブリダイゼーションにより、検出することができる。核酸プローブは、特定の変種と特異的または優先的にハイブリダイズするように設計することができる。
【0045】
プローブのセットは、典型的には、本開示の実施可能な処置勧告において用いられる標的遺伝的変化(例えば、HER2変異)を検出するために用いられるプライマーのセット、通常はプライマー対、および/または検出可能に標識されたプローブのセットを指す。プライマー対は、上記遺伝子のそれぞれの標的遺伝的変化の領域にまたがるアンプリコンを定義するために、増幅反応において用いられる。アンプリコンのセットは、一致するプローブのセットによって検出される。例示的な態様において、本方法は、HER2変異などの標的遺伝的変化のセットを検出するために用いられるTaqMan(商標)(Roche Molecular Systems、Pleasanton, Calif.)アッセイを使用することができる。1つの態様において、プローブのセットは、次世代シーケンシング反応などの核酸配列決定反応によって検出されるアンプリコンを生成するために用いられるプライマーのセットである。これらの態様において、例えば、AmpliSEQ(商標)(Life Technologies/Ion Torrent、Carlsbad, Calif.)またはTruSEQ(商標)(Illumina、San Diego, Calif.)技術を利用することができる。
【0046】
核酸マーカーの解析は、非限定的に配列解析および電気泳動解析を含む、当技術分野で公知の技法を用いて実施することができる。配列解析の非限定的な例には、マクサム・ギルバート配列決定、サンガー配列決定、キャピラリーアレイDNA配列決定、熱サイクル配列決定 (Sears et al., 1992)、固相配列決定 (Zimmerman et al., 1992)、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析 (MALDI-TOF/MS) などの質量分析を伴う配列決定 (Fu et al., 1998)、およびハイブリダイゼーションによる配列決定(Chee et al., 1996;Drmanac et al., 1993;Drmanac et al., 1998) が含まれる。電気泳動解析の非限定的な例には、スラブゲル電気泳動、例えばアガロースまたはポリアクリルアミドゲル電気泳動など、キャピラリー電気泳動、および変性剤濃度勾配ゲル電気泳動が含まれる。加えて、Life Technologies/Ion Torrent PGMまたはProton、Illumina HiSEQまたはMiSEQ、およびRoche/454次世代シーケンシングシステムなどの、企業から市販されているキットおよび装置を用いて、次世代シーケンシング法を実施することができる。
【0047】
核酸解析のその他の方法には、直接手動配列決定(Church and Gilbert, 1988;Sanger et al., 1977;米国特許第5,288,644号);自動蛍光配列決定;一本鎖高次構造多型アッセイ (SSCP) (Schafer et al., 1995);定濃度変性ゲル電気泳動 (CDGE);二次元ゲル電気泳動(2DGEもしくはTDGE);高次構造高感度ゲル電気泳動 (CSGE);変性剤濃度勾配ゲル電気泳動 (DGGE) (Sheffield et al., 1989);変性高速液体クロマトグラフィー (DHPLC、Underhill et al., 1997);赤外線マトリックス支援レーザー脱離/イオン化 (IR-MALDI) 質量分析 (WO 99/57318);移動度シフト解析 (Orita et al., 1989);制限酵素解析(Flavell et al., 1978;Geever et al., 1981);定量的リアルタイムPCR (Raca et al., 2004);ヘテロ二本鎖解析;化学的ミスマッチ切断 (CMC) (Cotton et al., 1985);RNase保護アッセイ (Myers et al., 1985);ヌクレオチドミスマッチを認識するポリペプチド、例えば大腸菌 (E. coli) mutSタンパク質の使用;アレル特異的PCR、およびそのような方法の組み合わせが含まれ得る。例えば、その全体が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許出願公開第2004/0014095号を参照されたい。
【0048】
一例において、試料中のHER2変異を同定する方法は、該試料からの核酸を、変異したHER2タンパク質をコードする核酸または変異を含むその断片に特異的にハイブリダイズし得る核酸プローブと接触させる段階、および該ハイブリダイゼーションを検出する段階を含む。特定の態様において、前記プローブは、放射性同位体(3H、32P、もしくは33P)、蛍光剤(ローダミンもしくはフルオレセイン)、または発色剤で検出可能に標識される。特定の態様において、プローブは、アンチセンスオリゴマー、例えば、PNA、モルホリノ-ホスホロアミダート、LNA、または2'-アルコキシアルコキシである。プローブは、約8ヌクレオチド~約100ヌクレオチド、または約10~約75、または約15~約50、または約20~約30ヌクレオチドであってよい。別の局面において、本開示の前記プローブは、試料中のHER2変異を同定するためのキット中に提供され、該キットは、HER2遺伝子の変異部位にまたはそれに隣接して特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを含む。キットは、キットを使用したハイブリダイゼーション試験の結果に基づき、HER2挿入変異を含む腫瘍を有する患者をポジオチニブで処置するための説明書をさらに含み得る。
【0049】
別の局面において、試料中のエクソン20変異を検出するための方法は、該試料から、該HER遺伝子のエクソン20に対応する核酸、または変異を含むと考えられるその断片を増幅する段階、および増幅された核酸の電気泳動移動度を、対応する野生型HER2遺伝子またはその断片の電気泳動移動度と比較する段階を含む。移動度の差は、増幅された核酸配列における変異の存在を示す。電気泳動移動度は、ポリアクリルアミドゲル上で決定することができる。
【0050】
あるいは、核酸は、酵素変異検出 (EMD) を用いて、変異の検出のために解析することができる (Del Tito et al., 1998)。EMDは、点変異、挿入、および欠失に起因する塩基対ミスマッチによって引き起こされる構造的歪みを検出し切断するまで、二本鎖DNAに沿ってスキャンするバクテリオファージリゾルバーゼT4エンドヌクレアーゼVIIを使用する。リゾルバーゼ切断によって形成された2つの短い断片を、例えばゲル電気泳動で検出することにより、変異の存在が示される。EMD法の利点は、PCR反応物から直接アッセイされた点変異、欠失、および挿入を同定するための単一プロトコールであり、試料精製の必要性がなく、ハイブリダイゼーションの時間が短縮され、かつシグナル対ノイズ比が向上することである。20倍まで過剰な正常DNAおよび4 kbまでのサイズの断片を含む混合試料をアッセイすることができる。しかしながら、EMDスキャニングは、変異陽性試料中に生じる特定の塩基変化を同定するのではなく、必要に応じて、変異を同定するための付加的な配列決定手順が必要となる。米国特許第5,869,245号において実証されるように、CEL I酵素をリゾルバーゼT4エンドヌクレアーゼVIIと同様に使用することができる。
【0051】
III. 処置の方法
個体におけるがんを処置するかまたはその進行を遅延させるための方法であって、有効量のポジオチニブまたは構造的に類似した阻害剤およびT-DM1を、その個体、HER2変異がんなどのがんを有する対象に投与する段階を含む方法が、本明細書においてさらに提供される。対象は、HER2変異、例えば、エクソン19、20、または21変異、例えばエクソン20挿入またはL755P変異を有すると判定され得る。対象は、2つ以上のHER変異を有し得る。
【0052】
処置のために企図されるがんの例には、肺がん、頭頸部がん、乳がん、膵臓がん、前立腺がん、腎臓がん、骨がん、精巣がん、子宮頸がん、胃腸がん、リンパ腫、肺の前腫瘍病変、結腸がん、黒色腫、および膀胱がんが含まれる。特定の局面において、がんは非小細胞肺がんである。
【0053】
いくつかの態様において、対象は、哺乳動物、例えば霊長類、好ましくは高等霊長類、例えばヒト(例えば、本明細書に記載される障害を有するか、または有するリスクのある患者)である。1つの態様において、対象は免疫応答を高める必要がある。ある特定の態様において、対象は免疫不全であるかまたはそのリスクがある。例えば、対象は、化学療法的処置および/または放射線療法を受けているか、または受けたことがある。あるいは、または組み合わせて、対象は、感染の結果として、免疫不全であるかまたはそのリスクがある。
【0054】
ある特定の態様は、ポジオチニブ(HM781-36B、HM781-36、および1-[4-[4-(3,4-ジクロロ-2-フルオロアニリノ)-7-メトキシキナゾリン-6-イル]オキシピぺリジン-1-イル]プロパ-2-エン-1-オンとしても公知である)の投与に関係する。ポジオチニブは、HER1、HER2、およびHER4を含むHERファミリーのチロシンキナーゼ受容体を介するシグナル伝達を不可逆的に遮断する、キナゾリンベースの汎HER阻害剤である。ポジオチニブまたは構造的に類似した化合物(例えば、米国特許第8,188,102号および米国特許出願公開第20130071452号;参照により本明細書に組み入れられる)を、本方法において使用することができる。
【0055】
ポジオチニブ塩酸塩などのポジオチニブは、錠剤などで経口投与することができる。ポジオチニブは、4~25 mgの用量、例えば、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、または24 mgの用量で投与することができる。投薬は、毎日、1日おき、3日ごと、または週に1度であってよい。投薬は、28日周期などの連続したスケジュールで行ってもよい。
【0056】
アド-トラスツズマブエムタンシンとしても公知であり、Kadcylaの商品名で販売されているトラスツズマブエムタンシンは、細胞傷害剤エムタンシン (DM1) に共有結合させたヒト化モノクローナル抗体トラスツズマブ(Herceptin)からなる抗体-薬物コンジュゲートである。トラスツズマブは単独で、HER2受容体に結合することによりがん細胞の増殖を停止させるが、トラスツズマブエムタンシンは、受容体を介して細胞内に取り込まれ、リソソームで異化され、そこでDM1を含む異化産物が放出され、その後チューブリンに結合して有糸分裂停止および細胞死を引き起こす。トラスツズマブがHER2に結合すると、受容体のホモ二量体化またはヘテロ二量体化(HER2/HER3)が妨げられ、最終的にMAPKおよびPI3K/AKT細胞内シグナル伝達経路の活性化が阻害される。モノクローナル抗体はHER2を標的とし、HER2はがん細胞でのみ過剰発現しているため、このコンジュゲートは細胞傷害剤DM1を腫瘍細胞に特異的に送達する。このコンジュゲートはT-DM1と略される。T-DM1は、2~3 mg/kg、例えば3.6 mg/kgなどの用量で投与することができる。T-DM1は静脈内注入によって投与することができる。
【0057】
A. 薬学的組成物
HER2エクソン20変異、例えばエクソン20挿入などを有すると判定された対象などのための、ポジオチニブおよびT-DM1ならびに薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物および製剤もまた、本明細書において提供される。
【0058】
本明細書に記載される薬学的組成物および製剤は、所望の純度を有する有効成分(抗体またはポリペプチドなど)を1つまたは複数の任意の薬学的に許容される担体 (Remington's Pharmaceutical Sciences 22nd edition, 2012) と混合することにより、凍結乾燥製剤または水溶液の形態で調製することができる。薬学的に許容される担体は、一般的に、用いられる投与量および濃度で受容者に対して非毒性であり、これには以下のものが含まれるがそれらに限定されない:緩衝液、例えば、リン酸、クエン酸、および他の有機酸など;抗酸化剤、例えばアスコルビン酸およびメチオニンを含む;保存剤(オクタデシルジメチルベンジル塩化アンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチル、もしくはベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えばメチルもしくはプロピルパラベンなど;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾールなど);低分子(約10残基未満)ポリペプチド;タンパク質、例えば、血清アルブミン、ゼラチン、もしくは免疫グロブリンなど;親水性ポリマー、例えばポリビニルピロリドンなど;アミノ酸、例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、もしくはリジンなど;単糖、二糖、および他の炭水化物、例えば、グルコース、マンノース、もしくはデキストリンを含む;キレート剤、例えばEDTAなど;糖、例えば、スクロース、マンニトール、トレハロース、もしくはソルビトールなど;塩形成対イオン、例えばナトリウムなど;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);ならびに/または非イオン性界面活性剤、例えばポリエチレングリコール (PEG) など。本明細書の例示的な薬学的に許容される担体は、可溶性中性活性型ヒアルロニダーゼ糖タンパク質 (sHASEGP)、例えば、rHuPH20 (HYLENEX(登録商標)、Baxter International, Inc.) などのヒト可溶性PH-20ヒアルロニダーゼ糖タンパク質などの間質性薬物分散剤をさらに含む。rHuPH20を含む、ある特定の例示的なsHASEGPおよびその使用方法は、米国特許出願公開第2005/0260186号および第2006/0104968号に記載されている。1つの局面において、sHASEGPは、コンドロイチナーゼなどの1つまたは複数の付加的なグリコサミノグリカナーゼと組み合わせられる。
【0059】
B. 併用療法
ある特定の態様において、本態様の組成物および方法は、少なくとも1つの付加的な治療と組み合わせたポジオチニブおよびT-DM1を伴う。付加的な治療は、放射線療法、手術(例えば、乳腺腫瘍摘出術および乳房切除術)、化学療法、遺伝子治療、DNA治療、ウイルス療法、RNA治療、免疫療法、骨髄移植、ナノセラピー、モノクローナル抗体療法、または上記の組み合わせであってよい。付加的な治療は、アジュバントまたはネオアジュバント療法の形態であってよい。
【0060】
いくつかの態様において、付加的な治療は、小分子酵素阻害剤または抗転移剤の投与である。いくつかの態様において、付加的な治療は、副作用制限剤(例えば、処置の副作用の発生および/または重症度を軽減することを目的とした薬剤、例えば制吐剤等)の投与である。いくつかの態様において、付加的な治療は放射線療法である。いくつかの態様において、付加的な治療は手術である。いくつかの態様において、付加的な治療は、放射線療法と手術との組み合わせである。いくつかの態様において、付加的な治療はガンマ線照射である。いくつかの態様において、付加的な治療は、PBK/AKT/mTOR経路を標的とする治療、HSP90阻害剤、チューブリン阻害剤、アポトーシス阻害剤、および/または化学予防剤である。付加的な治療は、当技術分野で公知の化学療法剤のうちの1つまたは複数であってよい。
【0061】
ポジオチニブおよびT-DM1は、免疫チェックポイント療法などの付加的ながん治療の前、間、後、またはそれらに対して様々な組み合わせで投与することができる。投与は、同時から数分~数日~数週間の範囲の間隔であってよい。ポジオチニブおよびT-DM1が付加的な治療剤とは別々に患者に提供される態様では、2つの化合物が患者に対してなお有利な併用効果を発揮することができるように、一般的には、各送達時間の間に有意な期間が経過しないことを確実にする。そのような場合には、互いに約12~24または72時間以内に、およびより具体的には互いに約6~12時間以内に、患者に抗体療法および抗がん治療を提供できることが企図される。状況によっては、処置の期間を有意に延長して、それぞれの投与の間に数日間(2、3、4、5、6、または7日)から数週間(1、2、3、4、5、6、7、または8週間)が経過することが望ましい場合もある。
【0062】
様々な組み合わせが用いられ得る。以下の例では、ポジオチニブおよびT-DM1が「A」であり、抗がん治療が「B」である。
【0063】
患者に対する本態様の任意の化合物または治療の施行は、存在する場合には薬剤の毒性を考慮に入れて、そのような化合物の投与に関する一般的なプロトコールに従う。したがって、いくつかの態様では、併用療法に起因する毒性をモニターする段階が存在する。
【0064】
1. 化学療法
本態様に従って、多種多様な化学療法剤を使用することができる。「化学療法」という用語は、がんを処置するための薬物の使用を指す。「化学療法剤」は、がんの処置において投与される化合物または組成物を示すために用いられる。これらの薬剤または薬物は、細胞内でのそれらの活性様式、例えば、それらが細胞周期に影響を及ぼすかどうか、およびそれらが細胞周期のどの段階に影響を及ぼすかによって分類される。あるいは、薬剤は、DNAを直接架橋するその能力、DNA中にインターカレートするその能力、または核酸合成に影響を及ぼすことによって染色体および有糸分裂の異常を誘導するその能力に基づき特徴づけられ得る。
【0065】
化学療法剤の例には、以下のものが含まれる:アルキル化剤、例えば、チオテパおよびシクロスホスファミド (cyclosphosphamide) など;スルホン酸アルキル、例えば、ブスルファン、インプロスルファン、およびピポスルファンなど;
アジリジン、例えば、ベンゾドパ (benzodopa)、カルボコン、メツレドパ (meturedopa)、およびウレドパ (uredopa) など;エチレンイミンおよびメチラメラミン (methylamelamine)、例えば、アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド (trietylenephosphoramide)、トリエチレンチオホスホラミド (triethiylenethiophosphoramide)、およびトリメチローロメラミン (trimethylolomelamine) を含む;アセトゲニン(特に、ブラタシンおよびブラタシノン);カンプトテシン(合成類似体トポテカンを含む);ブリオスタチン;カリスタチン;CC-1065(そのアドゼレシン、カルゼレシン、およびビゼレシン合成類似体を含む);クリプトフィシン(特に、クリプトフィシン1およびクリプトフィシン8);ドラスタチン;デュオカルマイシン(合成類似体、KW-2189およびCB1-TM1を含む); エリュテロビン;パンクラチスタチン;サルコジクチイン;スポンギスタチン;ナイトロジェンマスタード、例えば、クロラムブシル、クロルナファジン、コロホスファミド (cholophosphamide)、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、塩酸メクロレタミンオキシド、メルファラン、ノブエンビキン、フェネステリン、プレドニムスチン、トロホスファミド、およびウラシルマスタードなど;ニトロソ尿素 (nitrosurea)、例えば、カルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、およびラニムヌスチン (ranimnustine) など;抗生物質、例えば、エンジイン抗生物質(例えば、カリケアマイシン、特にカリケアマイシンγ1IおよびカリケアマイシンωI1);ダイネミシン、例えばダイネミシンAを含む;ビスホスホネート、例えばクロドロン酸など;エスペラミシン;ならびにネオカルジノスタチン発色団および関連色素タンパク質エンジイン抗生物質 (antiobiotic) 発色団、アクラシノマイシン (aclacinomysin)、アクチノマイシン、オースラルナイシン (authrarnycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カラビシン (carabicin)、カルミノマイシン、カルジノフィリン、クロモマイシニス (chromomycinis)、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン(モルホリノ-ドキソルビシン、シアノモルホリノ-ドキソルビシン、2-ピロリノ-ドキソルビシン、およびデオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン、マイトマイシン、例えばマイトマイシンCなど、ミコフェノール酸、ノガラルナイシン (nogalarnycin)、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン、ピューロマイシン、クエラマイシン、ロドルビシン、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、およびゾルビシンなど;;代謝拮抗剤、例えばメトトレキサートおよび5-フルオロウラシル (5-FU) など;葉酸類似体、例えば、デノプテリン、プテロプテリン、およびトリメトレキサートなど;プリン類似体、例えば、フルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン、およびチオグアニンなど;ピリミジン類似体、例えば、アンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、およびフロクスウリジンなど;アンドロゲン、例えば、カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、およびテストラクトンなど;抗副腎物質、例えばミトタンおよびトリロスタンなど;葉酸補充剤、例えばフォリン酸など;アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;エニルウラシル;アムサクリン;ベストラブシル;ビサントレン;エダトラキサート (edatraxate);デフォファミン;デメコルシン;ジアジクオン;エルフォルミチン (elformithine);酢酸エリプチニウム;エポチロン;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダイニン (lonidainine);マイタンシノイド、例えばマイタンシンおよびアンサマイトシンなど;ミトグアゾン;ミトキサトロン;モピダンモール (mopidanmol);ニトラエリン (nitraerine);ペントスタチン;フェナメット;ピラルビシン;ロソキサントロン;ポドフィリン酸 (podophyllinic acid);2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK多糖複合体;ラゾキサン;リゾキシン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジクオン;2,2',2''-トリクロロトリエチルアミン;トリコテセン(特に、T-2毒素、ベラクリン(verracurin) A、ロリジンA、およびアングイジン);ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン (gacytosine);アラビノシド(「Ara-C」);シクロホスファミド;タキソイド、例えばパクリタキセルおよびドセタキセルなど ゲムシタビン;6-チオグアニン;メルカプトプリン;プラチナ配位錯体、例えば、シスプラチン、オキサリプラチン、およびカルボプラチンなど;ビンブラスチン;白金;エトポシド (VP-16);イホスファミド、ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ノバントロン;テニポシド;エダトレキサート;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼローダ;イバンドロン酸;イリノテカン(例えば、CPT-11);トポイソメラーゼ阻害剤RFS 2000;ジフルオロメチルオルニチン (DMFO); レチノイド、例えばレチノイン酸など;カペシタビン;カルボプラチン、プロカルバジン、プリコマイシン (plicomycin)、ゲムシタビエン (gemcitabien)、ナベルビン、ファネシル-タンパク質トランスフェラーゼ阻害剤、トランス白金 (transplatinum)、ならびに上記のいずれかの薬学的に許容される塩、酸、または誘導体。
【0066】
2. 放射線療法
DNA損傷を引き起こし、広範に使用されている他の因子には、γ線、X線として一般的に公知のもの、および/または腫瘍細胞への放射性同位体の指向性送達が含まれる。マイクロ波、陽子線照射(米国特許第5,760,395号および第4,870,287号)、ならびにUV照射などの、その他の形態のDNA損傷因子またも企図される。これらの因子はすべて、DNA、DNAの前駆体、DNAの複製および修復、ならびに染色体の組み立ておよび維持に対して広範囲の損傷をもたらす可能性が最も高い。X線の線量範囲は、長期間(3~4週間)にわたる50~200レントゲンの1日線量から、2000~6000レントゲンの単一線量に及ぶ。放射性同位体の線量範囲は、広く変動し、同位体の半減期、放射される放射線の強度および型、ならびに新生物細胞による取り込みに依存する。
【0067】
3. 免疫療法
当業者は、付加的な免疫療法を本態様の方法と組み合わせてまたは併せて使用できることを理解するであろう。がん処置の状況おいて、免疫療法は、一般に、がん細胞を標的にして破壊するために免疫エフェクター細胞および免疫エフェクター分子の使用に依存する。リツキシマブ(RITUXAN(登録商標))は、そのような例である。免疫エフェクターは、例えば、腫瘍細胞の表面上にあるいくつかのマーカーに特異的な抗体であってよい。抗体は単独で治療のエフェクターとして機能し得るか、または他の細胞を動員して実際に細胞死滅をもたらし得る。抗体はまた、薬物または毒素(化学療法剤、放射性核種、リシンA鎖、コレラ毒素、百日咳毒素等)とコンジュゲートされて、ターゲティング剤として機能し得る。あるいは、エフェクターは、腫瘍細胞標的と直接的または間接的に相互作用する表面分子を保有するリンパ球であってよい。様々なエフェクター細胞には、細胞傷害性T細胞およびNK細胞が含まれる。
【0068】
抗体-薬物コンジュゲートは、がん治療の開発への画期的なアプローチとして登場した。がんは、世界中で主たる死亡原因の一つである。抗体-薬物コンジュゲート (ADC) は、細胞殺傷薬に共有結合されたモノクローナル抗体 (MAb) を含む。このアプローチは、MAbのそれらの抗原標的に対する高い特異性と、非常に強力な細胞傷害薬を組み合わせ、抗原のレベルが豊富な腫瘍細胞にペイロード(薬物)を送達する「武装」したMAbをもたらす。薬物の標的指向型送達はまた、正常組織へのその曝露を最小限に抑え、毒性の低下および治療指数の改善をもたらす。2011年にADCETRIS(登録商標)(ブレンツキシマブベドチン)および2013年にKADCYLA(登録商標)(トラスツズマブエムタンシンまたはT-DM1)の2種類のADC薬がFDAによって認可されたことで、このアプローチが確証された。現在、30種を超えるADC薬候補が、がん処置の臨床試験の様々な段階にある (Leal et al., 2014)。抗体工学およびリンカー-ペイロードの最適化がますます成熟しつつあり、新たなADCの発見および開発は、このアプローチに適した新たな標的の同定および検証、ならびにターゲティングMAbの作製への依存が高まっている。ADC標的の2つの基準は、腫瘍細胞における上方制御された/高い発現レベル、および強固な内部移行である。
【0069】
免疫療法の1つの局面において、腫瘍細胞は、ターゲティングに適している、すなわち大部分の他の細胞には存在しない、いくつかのマーカーを有する必要がある。多くの腫瘍マーカーが存在し、これらのいずれもが、本態様との関連においてターゲティングに適切であり得る。一般的な腫瘍マーカーには、CD20、がん胎児性抗原、チロシナーゼ (p97)、gp68、TAG-72、HMFG、シアリルルイス抗原、MucA、MucB、PLAP、ラミニン受容体、erb B、およびp155が含まれる。免疫療法の別の局面は、抗がん効果と免疫刺激効果を組み合わせることである。免疫刺激分子もまた存在し、これには、サイトカイン、例えば、IL-2、IL-4、IL-12、GM-CSF、γ-IFNなど、ケモカイン、例えば、MIP-1、MCP-1、IL-8など、ならびに増殖因子、例えばFLT3リガンドなどが含まれる。
【0070】
免疫療法の例には、免疫アジュバント、例えば、マイコバクテリウム・ボビス (Mycobacterium bovis)、熱帯熱マラリア原虫 (Plasmodium falciparum)、ジニトロクロロベンゼン、および芳香族化合物(米国特許第5,801,005号および第5,739,169号;Hui and Hashimoto, 1998;Christodoulides et al., 1998);サイトカイン療法、例えば、インターフェロンα、β、およびγ、IL-1、GM-CSF、およびTNF(Bukowski et al., 1998; Davidson et al., 1998; Hellstrand et al., 1998);遺伝子治療、例えば、TNF、IL-1、IL-2、およびp53(Qin et al., 1998;Austin-Ward and Villaseca, 1998;米国特許第5,830,880号および第5,846,945号);ならびにモノクローナル抗体、例えば、抗CD20、抗ガングリオシドGM2、および抗p185(Hollander, 2012;Hanibuchi et al., 1998;米国特許第5,824,311号)が含まれる。1つまたは複数の抗がん治療を、本明細書に記載される抗体療法と共に使用できることが企図される。
【0071】
いくつかの態様において、免疫療法は免疫チェックポイント阻害剤であってよい。免疫チェックポイントは、シグナル(例えば、共刺激分子)を強くするか、またはシグナルを弱くするかのいずれかである。免疫チェックポイント遮断の標的となり得る抑制性免疫チェックポイントには、アデノシンA2A受容体 (A2AR)、B7-H3(CD276としても公知である)、BおよびTリンパ球アテニュエーター (BTLA)、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA-4、CD152としても公知である)、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ (IDO)、キラー細胞免疫グロブリン (KIR)、リンパ球活性化遺伝子-3 (LAG3)、プログラム細胞死1 (PD-1)、T細胞免疫グロブリンドメイン・ムチンドメイン3 (TIM-3)、ならびにT細胞活性化のVドメインIgサプレッサー (VISTA) が含まれる。特に、免疫チェックポイント阻害剤は、PD-1軸および/またはCTLA-4を標的とする。
【0072】
免疫チェックポイント阻害剤は、小分子などの薬物、組換え型のリガンドもしくは受容体であってよく、または特にヒト抗体などの抗体である(例えば、国際特許公報WO2015016718;Pardoll, Nat Rev Cancer, 12(4): 252-64, 2012;いずれも参照により本明細書に組み入れられる)。免疫チェックポイントタンパク質またはその類似体の公知の阻害剤を使用することができ、特にキメラ化、ヒト化、またはヒト型抗体を使用することができる。当業者が承知しているように、本開示において言及される特定の抗体については、代替名および/または同等名が使用される場合がある。そのような代替名および/または同等名は、本発明との関連において互換的である。例えば、ランブロリズマブがMK-3475およびペンブロリズマブの代替名および同等名でも知られていることは公知である。
【0073】
いくつかの態様において、PD-1結合アンタゴニストは、PD-1のそのリガンド結合パートナーへの結合を阻害する分子である。特定の局面において、PD-1リガンド結合パートナーはPDL1および/またはPDL2である。別の態様において、PDL1結合アンタゴニストは、PDL1のその結合パートナーへの結合を阻害する分子である。特定の局面において、PDL1結合パートナーはPD-1および/またはB7-1である。別の態様において、PDL2結合アンタゴニストは、PDL2のその結合パートナーへの結合を阻害する分子である。特定の局面において、PDL2結合パートナーはPD-1である。アンタゴニストは、抗体、その抗原結合断片、イムノアドヘシン、融合タンパク質、またはオリゴペプチドであってよい。例示的な抗体は、米国特許第8,735,553号、第8,354,509号、および第8,008,449号に記載されており、これらのすべてが参照により本明細書に組み入れられる。本明細書に提供される方法において使用するための他のPD-1軸アンタゴニストは、当技術分野で公知であり、例えば、米国特許出願公開第US20140294898号、第US2014022021号、および第US20110008369号に記載されており、これらのすべてが参照により本明細書に組み入れられる。
【0074】
いくつかの態様において、PD-1結合アンタゴニストは抗PD-1抗体(例えば、ヒト抗体、ヒト化抗体、またはキメラ抗体)である。いくつかの態様において、抗PD-1抗体は、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、およびCT-011からなる群より選択される。いくつかの態様において、PD-1結合アンタゴニストはイムノアドヘシン(例えば、定常領域(例えば、免疫グロブリン配列のFc領域)に融合されたPDL1またはPDL2の細胞外またはPD-1結合部分を含むイムノアドヘシン)である。いくつかの態様において、PD-1結合アンタゴニストはAMP-224である。ニボルマブは、MDX-1106-04、MDX-1106、ONO-4538、BMS-936558、およびOPDIVO(登録商標)としても公知であり、WO2006/121168に記載されている抗PD-1抗体である。ペンブロリズマブは、MK-3475、Merck 3475、ランブロリズマブ、KEYTRUDA(登録商標)、およびSCH-900475としても公知であり、WO2009/114335に記載されている抗PD-1抗体である。CT-011は、hBATまたはhBAT-1としても公知であり、WO2009/101611に記載されている抗PD-1抗体である。AMP-224は、B7-DCIgとしても公知であり、WO2010/027827およびWO2011/066342に記載されているPDL2-Fc融合可溶性受容体である。
【0075】
本明細書に提供される方法において標的とされ得る別の免疫チェックポイントは、CD152としても公知である、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4 (CTLA-4) である。ヒトCTLA-4の完全なcDNA配列は、Genbankアクセッション番号L15006を有する。CTLA-4はT細胞の表面上で見出され、抗原提示細胞の表面上のCD80またはCD86に結合した場合に「オフ」スイッチとして機能する。CTLA4は、ヘルパーT細胞の表面上で発現され、抑制性シグナルをT細胞に伝達する免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーである。CTLA4は、T細胞共刺激タンパク質、CD28に類似しており、両分子は、抗原提示細胞上のそれぞれB7-1およびB7-2とも称されるCD80およびCD86に結合する。CTLA4は抑制性シグナルをT細胞に伝達し、一方CD28は刺激性シグナルを伝達する。細胞内CTLA4はまた制御性T細胞においても見出され、それらの機能にとって重要であり得る。T細胞受容体およびCD28を介するT細胞活性化は、B7分子の抑制性受容体であるCTLA-4の発現増加をもたらす。
【0076】
いくつかの態様において、免疫チェックポイント阻害剤は、抗CTLA-4抗体(例えば、ヒト抗体、ヒト化抗体、もしくはキメラ抗体)、その抗原結合断片、イムノアドヘシン、融合タンパク質、またはオリゴペプチドである。
【0077】
本方法において使用するのに適した抗ヒトCTLA-4抗体(またはそれに由来するVHおよび/またはVLドメイン)は、当技術分野で周知の方法を用いて作製することができる。あるいは、当技術分野で認識されている抗CTLA-4抗体を使用することができる。例えば、米国特許第8,119,129号;国際特許公報第WO 01/14424号、第WO 98/42752号、および第WO 00/37504号(CP675,206、トレメリムマブとしても公知である;旧称チシリムマブ);米国特許第6,207,156号;Hurwitz et al.,1998;Camacho et al., 2004;ならびにMokyr et al., 1998に開示されている抗CTLA-4抗体を、本明細書において開示される方法において使用することができる。前記刊行物の各々の教示内容は、参照により本明細書に組み入れられる。当技術分野で認識されているこれらの抗体のいずれかとCTLA-4への結合について競合する抗体もまた使用することができる。例えば、ヒト化CTLA-4抗体は、国際特許出願第WO2001014424号および第WO2000037504号、ならびに米国特許第8,017,114号に記載されている;これらのすべてが参照により本明細書に組み入れられる。
【0078】
例示的な抗CTLA-4抗体は、イピリムマブ(10D1、MDX-010、MDX-101、およびYervoy(登録商標)としても公知である)またはその抗原結合断片および変種である(例えば、WO 01/14424を参照されたい)。他の態様において、抗体は、イピリムマブの重鎖および軽鎖のCDRまたはVRを含む。したがって、1つの態様において、抗体は、イピリムマブのVH領域のCDR1、CDR2、およびCDR3ドメイン、ならびにイピリムマブのVL領域のCDR1、CDR2、およびCDR3ドメインを含む。別の態様において、抗体は、上記抗体と結合について競合する、および/または上記抗体と同じCTLA-4上のエピトープに結合する。別の態様において、抗体は、上記抗体と少なくとも約90%の可変領域アミノ酸配列同一性(例えば、イピリムマブと少なくとも約90%、95%、または99%の可変領域同一性)を有する。
【0079】
CTLA-4を調節するための他の分子には、すべてが参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,844,905号、第5,885,796号、ならびに国際特許出願第WO1995001994号および第WO1998042752号に記載されているようなCTLA-4リガンドおよび受容体、ならびに参照により本明細書に組み入れられる米国特許第8,329,867号に記載されているようなイムノアドヘシンが含まれる。
【0080】
4. 手術
がんを有する人のおよそ60%は、予防的な、診断または病期分類の、根治的な、および対症療法的な手術を含む、ある種の手術を受ける。根治的な手術は、がん性組織のすべてまたは一部を物理的に除去、切除、および/または破壊する切除術を含み、本態様の処置、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、遺伝子治療、免疫療法、および/または代替療法などの他の治療と併せて使用することができる。腫瘍切除術は、腫瘍の少なくとも一部の物理的除去を指す。腫瘍切除術に加えて、手術による処置には、レーザー手術、凍結手術、電気手術、および顕微鏡下手術(モース術)が含まれる。
【0081】
がん性細胞、組織、または腫瘍の一部またはすべてを切除すると、体内に空洞が形成され得る。処置は、付加的な抗がん治療を用いるその部位の灌流、直接注入、または局所適用によって達成され得る。そのような処置は、例えば、1、2、3、4、5、6、もしくは7日ごとに、または1、2、3、4、および5週ごとに、または1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、もしくは12ヶ月ごとに繰り返すことができる。このような処置は、同様に様々な投与量のものであってよい。
【0082】
5. 他の薬剤
処置の治療効果を改善するために、他の薬剤を本態様のある特定の局面と組み合わせて使用できることが企図される。このような付加的な薬剤には、細胞表面受容体およびギャップ結合の上方制御をもたらす薬剤、細胞分裂阻害剤および分化剤、細胞接着の阻害剤、アポトーシス誘導剤に対する過剰増殖細胞の感受性を高める薬剤、またはその他の生物学的薬剤が含まれる。ギャップ結合の数を増やすことによる細胞間シグナル伝達の増加は、近傍の過剰増殖細胞集団に対する抗過剰増殖効果を高めることになる。他の態様では、細胞分裂阻害剤または分化剤を本態様のある特定の局面と組み合わせて使用して、処置の抗過剰増殖効果を改善することができる。細胞接着の阻害剤は、本態様の有効性を改善することが企図される。細胞接着阻害剤の例は、接着斑キナーゼ (FAK) 阻害剤およびロバスタチンである。抗体c225などの、アポトーシスに対する過剰増殖細胞の感受性を高める他の薬剤を、本態様のある特定の局面と組み合わせて使用して、処置効果を改善できることがさらに企図される。
【0083】
IV. キット
本明細書において開示されているようなEGFRおよび/またはHER2のエクソン20変異を検出するためのキットもまた、本開示の範囲内である。そのようなキットの一例は、エクソン20変異に特異的なプライマーのセットを含み得る。キットは、本明細書に記載される特定のEGFRおよび/またはHER2のエクソン20変異の有無を検出するためのプライマーの使用に関する説明書をさらに含み得る。キットは、がん患者由来の試料における本明細書に記載されるEGFRおよび/またはHER2のエクソン20変異の陽性同定によって、チロシンキナーゼ阻害剤ポジオチニブまたは構造的に類似した阻害剤およびT-DM1に対する感受性が示唆されることを示す、診断目的のための説明書をさらに含み得る。キットは、がん患者由来の試料における本明細書に記載されるEGFRおよび/またはエクソン20変異の陽性同定によって、患者をポジオチニブまたは構造的に類似した阻害剤およびT-DM1で処置すべきであることが示唆されることを示す、説明書をさらに含み得る。
【実施例
【0084】
V. 実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい態様を実証するために含めるものである。以下の実施例において開示される技法は、本発明の実施において良好に機能することが本発明者によって発見された技法を表し、したがってその実施のための好ましい様式を構成すると見なされ得ることが、当業者によって認識されるべきである。しかしながら、当業者は、本開示を考慮して、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、開示される特定の態様において多くの変更を行い、なお同様のまたは類似の結果を得ることができることを認識すべきである。
【0085】
実施例1‐HER2がんの処置
HER2変異は、膀胱、胃、および胆管のがんで最も頻繁に発生する:
がん型にわたるHER2変異の多様性を理解するために、cBioPortal (N=44,037) およびMD Anderson Cancer Center (N=19,926) 内のいくつかのデータベースに問い合わせを行った。
【0086】
HER2変異は、HER2のチロシンキナーゼドメイン内で最も頻繁に発生する:
次に、cBioPortalおよびMD Andersonにおいて報告されているHER2受容体の様々な領域における変異の頻度を解析した。すべてのがん型にわたって、HER2変異は、エクソン20 (20%)、エクソン19 (11%)、およびエクソン21 (9%) における変異を含め、チロシンキナーゼドメイン内で (46%) 最も頻繁に発生した(図1);加えて、細胞外ドメインの変異がHER2変異の37%を占めた。
【0087】
HER2変異のホットスポットは、悪性腫瘍の種類によって異なる:
問い合わせを行ったすべてのがんにわたって、最も一般的なHER2変異は以下の通りであった:S310F/Y (11.0%)、Y772_A775dupYVMA (5.7%)、L755P/S (4.6%)、V842I (4.4%)、およびV777L/M (4.0%)(図2A)。肺がんでは、HER2変異の大部分がエクソン20内で発生し(47%)、Y772_A775dupYVMAがHER2変異の34%を占めていた(図2B)。乳がんでは、HER2変異の大部分がエクソン19内で発生し (37%)、L755変異が最も多く見られ、HER2変異の22%であった。しかしながら、1つの変種が優位である肺がんとは異なり、乳がんでは、エクソン19変異の中でより多くの変異多様性があった(図2C)。結腸直腸がんでは、HER2変異はエクソン21で最も頻繁に発生し (22%)、V842I変種が最も多く見られた (19%)(図2D)。
【0088】
高頻度で検出されるHER2変化は活性化変異である:
一般的なHER2変異の機能的影響を評価するために、エクソン19、20、および21にわたって最も頻繁に検出された16種のHER2変異を、Ba/F3細胞に安定的に発現させた。試験した16種のHER2変異はすべて、Ba/F3細胞のIL-3非依存的な生存を誘導することが判明し(図3A~C)、およびリン酸化HER2を発現し、このことから、これらの変異が受容体活性化をもたらすことが示唆された。
【0089】
ポジオチニブは、試験した中で最も優れたTKIであり、最も一般的なHER2変異をインビトロで阻害した:
最近の報告は、HER2変異疾患の前臨床モデルにおける共有結合型のキナゾリンアミンベースのTKI(すなわち、アファチニブ、ダコミチニブ、ポジオチニブ、ネラチニブ)の有効性に焦点を当てているが (Nagano et al., 2018)、アファチニブ、ダコミチニブ、およびネラチニブの臨床研究では、ORRが低く、がんに特異的であり、患者の転帰には変種特異的な差があった。最も一般的に検出されるHER2変種にわたる薬物感受性を体系的に評価するために、HER2変異Ba/F3細胞のパネルを、11種類の共有結合型および非共有結合型のEGFRおよびHER2 TKIに対してスクリーニングした。HER2変異体は、非共有結合型阻害剤であるラパチニブおよびサパチニブに対して強固な耐性を示した(図4A)。共有結合型TKIであるオシメルチニブ、イブルチニブ、およびナザルチニブは、エクソン20変異を発現している細胞において細胞生存率を阻害する効果はなかった;しかしながら、これらのTKIは、D769エクソン19変種およびエクソン21変種を発現している細胞に対して活性を示した(図4A)。それに反して、共有結合型のキナゾリンアミンベースのTKIであるアファチニブ、ネラチニブ、ダコミチニブ、タルロキソチニブ-TKI、およびポジオチニブは、3つのエクソンすべてにわたるHER2変異体に対する阻害活性を有した(図4A)。試験したすべてのHER2変異変種およびTKIにわたって、ポジオチニブは平均IC50が最も低く、ネラチニブおよびタルロキソチニブ-TKIよりも細胞生存率の低下に有意に効果的であった(それぞれp<0.001およびp=0.018、図4B)。加えて、ポジオチニブは、HER2のエクソン19および20変異に対しては、ネラチニブまたはタルロキソチニブ-TKIよりも有効であったが、エクソン21変異体の平均IC50には有意差がなく(図4C~E)、このことから、変異の位置が薬物の結合に影響を及ぼすことが示唆された。さらに、エクソン19内のL755S変種とL755P変種は、試験したすべてのTKIにわたって薬物感受性に有意差があり(図4F)、このことから、この部位における特定のアミノ酸の変化が薬物結合親和性に影響を及ぼすことが示された。
【0090】
HER2変異の位置およびアミノ酸変化は、薬物結合親和性結合親和性に作用する:
変異の位置およびアミノ酸変化が薬物結合親和性および阻害効果にどのように影響を及ぼすのかをさらに理解するために、分子動力学シミュレーションを用いて、これらの変異がHER2キナーゼドメインの構造および動力学にどのように影響を及ぼすのかを調べた。L755S、L755P、Y772dupYVMA、V777L、およびL869R HER2変異体の分子モデルを、公的に利用可能なX線構造(PDB 3PP0)を鋳型として用いて構築し、タンパク質の高次構造サンプリングを増やすために加速分子動力学法に供した。サンプリングされたタンパク質高次構造の範囲は、特にPループおよびα-Cヘリックスの位置に関して、これらのHER2変異体によって異なっていた。特にα-Cヘリックス領域では、エクソン20変異の間でさえも違いが明らかに明白であり、α-Cヘリックスの高次構造の持続時間が、「イン」(より小さな結合ポケットを備えた活性高次構造)と「アウト」(より大きな結合ポケットを備えた不活性高次構造)との間で変動した。V777L変異体では「アウト」の高次構造が高度にサンプリングされたのに対して、Y772dupYVMA変異体では「イン」および「アウト」の両方の高次構造がサンプリングされた(図5A)。全体として、高次構造状態のこれらの違いにより、Y772dupYVMA変異体はV777L変異体よりも10倍高い頻度で「イン」高次構造で存在し(図5B)、Y772dupYVMAの結合ポケットサイズはV777Lと比較して平均的に小さくなっていた(図5C)。加えて、Y772dupYVMAの結合ポケットがより小さいことは、ネラチニブがα-Cヘリックス側に配向したピリジル環を含むため、V777Lと比較してY772dupYVMAに対するネラチニブの効力が弱いことの原因であると考えられる。
【0091】
HER2変異体の結合ポケット容積をさらに解析したところ(図10B)、同じ残基における変異がタンパク質の高次構造に劇的に異なる影響を及ぼし得ることが実証された。特に、L755P変異のプロリン残基は水素結合ドナーを欠き、そのためそれぞれL755とV790の間のβ3ストランドとβ5ストランドの間の骨格水素結合が切断されている。これら2つのβストランド間の安定化が欠如していることで、βシートが不安定化し、キナーゼヒンジ領域の構造再編成が生じた(図5D)。特に、L755PのL800残基は活性部位に突出し、ポケットサイズを大幅に縮小させた。β3ストランド高次構造の変化によってまたPループが内側に倒れ、ポケット容積がさらに小さくなり、この変異体は大部分のTKIに対して感受性が低くなった。さらに、ヒンジの可動性の変化もまた、キナーゼ活性化において役割を果たしている可能性がある。L755P変異体の高次構造におけるこれらの明確な変化は、野生型HER2により類似している高次構造およびポケット容積プロファイルを有するL755S変異体の挙動とは対照的であった。
【0092】
HER2変異ヒトがん細胞株は、ポジオチニブに対する感受性の増強を示した:
HER2阻害剤を試験する臨床研究により、薬物感受性におけるがん型特異的な違いが明らかになっている (Hyman et al., 2018)。共有結合型のキナゾリンアミンベースのTKIがHER2変異疾患のモデルにおいて顕著な活性を有するかどうかを判断するために、EGFR/HER2 TKIのパネルをヒトがん細胞株で試験した。前腫瘍性のMCF10A乳腺上皮細胞にHER2エクソン20変異をトランスフェクトし、12種類のEGFR/HER2 TKIに対するインビトロ感受性を評価した。G776del insVC、Y772dupYVMA、またはG778dupGSP HER2変異を発現するMCF10A細胞は、ポジオチニブに対して最も感受性が高く、IC50値はそれぞれ12nM、8.3nM、4.5nMであった(図6A~C)。これに対して、タルロキソチニブ-TKIおよびネラチニブの平均IC50値はそれぞれ21nMおよび150nMであり(図6A~C)、このことから、ポジオチニブはタルロキソチニブTKIおよびネラチニブよりもそれぞれ2.6倍および19倍強力であることが示された (p<0.001)。さらに、ポジオチニブおよびネラチニブで処理したMCF10A HER2 G776delinsVC細胞のウェスタンブロッティングにより、ポジオチニブは10nMでp-HER2を完全に阻害したが、ネラチニブは完全には阻害しないことが示された(図12A)。野生型 (WT) HER2は、Ba/F3細胞をIL-3非依存的に増殖するように形質転換しないため、MCF10A細胞を用いて、WT HER2と比較した変異HER2に対するTKIの選択性を決定した。この目的のために、各阻害剤について選択指数(SI、変異体IC50値/WT IC50値)を算出したところ、MCF10A細胞株で試験した中で、ポジオチニブが最も変異体選択性の高いTKIであり (SI=0.028)、次いでピロチニブ (SI=0.063) およびタルロキソチニブ-TKI (SI=0.111) であることが判明した(図6D)。Ba/F3細胞を用いて得られたデータ(図3C)と一致して、HER2エクソン19変異結腸直腸がん (CW-2) のモデルでは、ポジオチニブ、タルロキソチニブ-TKI、およびネラチニブの間の感度の違いは、有意ではあるもののそれほど劇的ではなく(p=0.02およびp=0.0004)、平均IC50値はそれぞれ3.19nM、4.24nM、および68.8nMであった(図6E)。さらに、CW-2結腸直腸細胞の異種移植マウスモデルにおいて、21日目に、ポジオチニブ(5mg/kg)で処置した動物は、媒体で処置した群と比較して腫瘍体積の58%の減少を示した (p=0.011)。これに対して、ネラチニブ (30mg/kg) で処置した動物は、媒体対照と比較して腫瘍体積の増加 (28%) を示し (p=0.023)、アファチニブ (20mg/kg) 処置は、媒体対照と比較して腫瘍増殖に有意に影響しなかった(図6F図13)。
【0093】
ポジオチニブは、HER2変異を有するNSCLC患者において抗腫瘍活性を有する:
これらの前臨床データおよびエクソン20変異に関する以前に発表された研究(Robichaux et al., 2018)に基づき、EGFRおよびHER2エクソン20変異NSCLCにおけるポジオチニブの医師主導型第II相臨床試験を開始した (NCT03066206)。患者を、進行、死亡、または離脱するまで、ポジオチニブ16 mgで毎日経口的に処置した。RECIST v1.1に基づいて、8週間ごとに客観的奏効を評価した。HER2エクソン20挿入変異を有する最初の12名の評価可能な患者のうち、6/12 (50%) の患者が部分奏効 (PR) の最良効果を有した;この効果は、5/12(確定客観的奏効率、42%)において、2ヶ月後の再スキャンによって確認された(図7A)。これらの患者のうち、2名の患者が最初の効果評価時に進行性疾患 (PD) を有し、その結果、疾患制御率 (DCR) は83%となった。2018年11月現在、12名の患者のうち7名が進行しており、最初の12名の患者のPFS中央値は5.7ヶ月であった(図7B)。これまでの試験に組み入れられた患者は全員、最も一般的な2つのエクソン20挿入であるY772dupYVMAおよびG778dupGSPのうちの1つを有していた(図7A)。Y772dupYVMA変異を有するNSCLC患者1名の処置前および処置後(8週間)の代表的な画像により、右肺の確固たる腫瘍縮小が示された(図7C)。以前の処置ラインの数を含む患者の特徴は、表3において見出すことができる。加えて、HER2エクソン19点変異、L755Pを有する、重度の前処置歴のあるNSCLC患者1名を、コンパッショネートケア使用プロトコール (C-IND18-0014) で処置した。患者を16mgのポジオチニブで毎日処置したところ、4週時に腫瘍縮小が見られた(図7D、白枠)。患者は、RECIST v1.1により安定疾患 (SD) を有していた(標的病変の-12%縮小)。この患者は、画像診断によって疾患進行が明らかになり、ポジオチニブが中止されるまで、7ヶ月超にわたって疾患管理された状態でポジオチニブを継続した。患者は、ポジオチニブ処置の終了時に臨床的に良好であり、続いてさらなる全身療法を受けた。
【0094】
ポジオチニブとT-DM1の併用処置により抗腫瘍活性が増強される:
HER陽性乳がんモデルにおけるHER2 TKIラパチニブおよびEGFR変異NSCLCモデルにおけるEGFR阻害剤の以前の研究により、TKI処置によって細胞表面上の受容体蓄積が増加すること、および細胞表面のHER2/EGFRが増加することで抗体依存性細胞傷害 (ADCC) に対する感受性が高まることが示された。ポジオチニブ処理により、細胞表面上の総HER2受容体発現が増加するかどうかを判断するために、ポジオチニブ処理の24時間後に、FACSによって細胞表面HER2発現を解析した。平均して、ポジオチニブ処理により細胞表面HER2発現が2倍増加することが判明した(図8A、p<0.0001)。次に、ポジオチニブとT-DM1の併用により、インビトロで細胞生存率が低下するかどうかを試験したところ、T-DM1単独ではMCF10A HER2変異細胞株の細胞生存を阻害しなかったのに対し、T-DM1とポジオチニブを併用すると、どちらかの薬剤単独よりも低いIC50値が得られることが判明した(図8B)。これらの知見をインビボで検証するために、HER2変異NSCLC PDXモデル (HER2 Y772dupYVMA) において、低用量のポジオチニブと単一用量のT-DM1の併用を試験した。14日目に、低用量ポジオチニブ (2.5mg/kg) と単一用量のT-DM1 (10mg/kg) の併用により、T-DM1を単独で投与した場合の2/9匹のマウスまたは低用量ポジオチニブを投与した場合の0/9匹のマウスと比較して、8/8匹のマウスで腫瘍が完全に退縮したことが判明した(図8C~D、p<0.0001)。4週間後までに、T-DM1を単独で投与したマウスでは、腫瘍増殖が再開した;しかしながら、併用処置を受けたすべてのマウスにおいて、腫瘍再発の証拠はなかった(図8E)。
【0095】
本研究により、悪性腫瘍によって特定の変異ホットスポットは異なるものの、様々な腫瘍型においてHER2変異が生じることが示された。さらに、HER2 TKIに対する感受性は、変異の位置にわたって不均一であり、HER2エクソン20挿入およびL755P変異は、おそらくは薬物結合ポケットの容積が減少するために、大多数のHER2 TKIに対して抵抗性であった。さらに、ポジオチニブは、HER2エクソン20挿入およびL755P変異を有するNSCLC患者において臨床効果を有する、強力な汎HER2変異選択的阻害剤として同定された。最後に、ポジオチニブ処理により細胞表面上のHER2の蓄積が誘導されること、ならびにポジオチニブとT-DM1の併用処置により、インビトロおよびインビボで抗腫瘍活性が向上することが確証された。
【0096】
(表1)安定した細胞株を作製するために使用されたベクター
【0097】
(表2)患者の特徴および以前の治療ラインの数
【0098】
実施例2‐材料および方法
HER2変異有病率および変種頻度の解析:
MD Anderson Cancer CenterおよびcBioPortalのデータベースにおいて報告されている各HER2変異の頻度を決定するために、各データベースに個々に問い合わせを行い、次いで頻度を各データベース内の患者の総数によって重みづけし、加重平均として報告した。cBioPortalにおけるがん型にわたるHER2変異の頻度を決定するために、重複していない研究をすべて選択し、エクスポートした。重複する研究については、最も大きなデータセットのみを使用した。MD Anderson CancerにおけるHER2変異頻度を決定するために、Institute for Personalized Cancer Therapyデータベースに、がん型に依存しないすべてのHER2変異について問い合わせを行った。
【0099】
Ba/F3細胞株の作製およびIL-3枯渇:
Ba/F3細胞株は、以前に記載された通りに樹立した (Robichaux et al., 2018)。簡潔に説明すると、安定したBa/F3細胞株は、Ba/F3細胞株の12時間のレトロウイルス形質導入によって作製した。レトロウイルスは、表1に要約されたpBabe-Puroベースのベクター(AddgeneおよびBioinnovatise)を、Lipofectamine 2000 (Invitrogen) を用いてPhoenix 293T-ampho細胞 (Orbigen) にトランスフェクトすることにより生成した。形質導入の3日後、2μg/mlのピューロマイシン (Invitrogen) をRPMI培地に添加した。5日間の選択の後、細胞をFITC-HER2 (Biolegend) で染色し、FACSによって選別した。次いで、細胞株をIL-3の非存在下で2週間増殖させ、Cell Titer Glo assay (Progema) を用いて3日ごとに細胞生存率を評価した。得られた安定した細胞株は、IL-3なしの、10% FBSを含むRPMI-1640培地中で維持した。
【0100】
細胞生存率アッセイおよびIC50の推定:
細胞生存率は、以前に記載されたようにCell Titer Gloアッセイ (Promega) を用いて決定した (Rovichaux et al., 2018)。簡潔に説明すると、1ウェル当たり2000~3000個の細胞を、384ウェルプレート (Greiner Bio-One) に技術的3つ組でプレーティングした。細胞を、7つの異なる濃度のチロシンキナーゼ阻害剤または媒体単独で、ウェル当たり40μLの最終容量で処理した。3日後、11μLのCell Titer Gloを各ウェルに添加した。プレートを15分間振盪させた後、FLUOstar OPTIMAマルチモードマイクロプレートリーダー (BMG LABTECH) を用いて生物発光を決定した。生物発光値をDMSO処理細胞に対して正規化し、正規化された値を、GraphPad Prismにおいて、正規化データに非線形回帰フィットを用いて可変の傾きでプロットした。IC50値は、50%阻害時にGraphPad Prismによって算出した。
【0101】
リン-HER2および総-HER2のELISAならびにIC50値との相関関係:
親Ba/F3細胞株および上記のようにHER2変異を発現する各Ba/F3細胞株から、タンパク質を収集した。5μg/mlのタンパク質を各ELISAプレートに添加し、リン酸化HER2(Cell signaling、#7968)および総HER2(Cell Signaling、#7310)の製造説明書によって記載されている通りにELISAを実施した。ELISAにより決定された総HER2に対するp-HER2の比率を求めることにより、相対的p-HER2発現を決定した。相対的p-HER2比を、上記のように算出されたポジオチニブIC50値に対してプロットした。ピアソン相関およびp値は、GraphPad Prismにより決定した。
【0102】
チロシンキナーゼ阻害剤およびT-DM1:
MedChem Expressから購入したEGF816およびピロチニブを除いて、阻害剤はすべてSelleck Chemicalから購入した。阻害剤はすべて、10mMの濃度でDMSOに溶解し、-80℃で保存した。阻害剤は2回の凍結融解/サイクルに限定し、その後廃棄した。T-DM1は、M.D. Anderson Cancer Centerの施設内薬局から購入して再構成した。
【0103】
分子動力学シミュレーション:
HER2変異体のタンパク質構造モデルは、MOEコンピュータプログラム (Chemical Computing Group) を用いて、PDB 3PP0 X線構造に変異をインシリコで導入することにより構築した (Aertgeerts et al., 2011)。古典的および加速分子動力学シミュレーションは、NAMDシミュレーションパッケージを用いて行った (Phillips et al., 2005)。
【0104】
ヒト細胞株:
MCF10A細胞はATCCから購入し、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、5%ウマ血清 (sigma)、20ng/ml EGF、0.5mg/mlヒドロコルチゾン、および10μg/mlインスリンを補充したDMEM/F12培地で培養した。安定した細胞株は、レトロウイルス形質導入によって作製し、レトロウイルスは、表1に要約されたpBabe-Puroベースのベクター(AddgeneおよびBioinnovatise)を、Lipofectamine 2000 (Invitrogen) を用いてPhoenix 293T-ampho細胞 (Orbigen) にトランスフェクトすることにより生成した。形質導入の2日後、0.5μg/mlのピューロマイシン (Invitrogen) をRPMI培地に添加した。14日間の選択の後、細胞を上記のように細胞生存率アッセイで試験した。CW-2細胞は、MTAの下でRiken細胞株データベースにより提供され、10%FBSおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むRPMI中で維持した。
【0105】
インビボ異種移植研究:
CW-2細胞株の異種移植片は、6週齢の雌nu/nuヌードマウスに50%マトリゲル中の1×106個細胞を注入することによって作製した。腫瘍が350mm3に達した時点で、マウスを4群:20mg/kgアファチニブ、5mg/kgポジオチニブ、30mg/kgネラチニブ、または媒体対照(dH2O中の0.5%メチルセルロース、2% Tween-80)に無作為に割り付けた。腫瘍体積を週に3回測定した。マウスには月曜日から金曜日に(週に5日)薬物を投与したが、水曜日に投薬を開始したため、最初の3日間の投薬後に2日間の休薬が可能となった。
【0106】
Y772dupYVMA PDXマウスは、Jax Labsから購入した(モデル# TM01446)。HER2 Y772dupYVMAを発現する腫瘍由来の断片を、5~6週齢の雌NSGマウス (Jax Labs #005557) に接種した。マウスを週に3回測定し、腫瘍が200~300mm3の体積に達した時点で、マウスを4つの処置群:媒体対照(dH2O中の0.5%メチルセルロース、0.05% Tween-80)、2.5mg/kgポジオチニブ、10mg/kg T-DM1、または2.5mg/kgポジオチニブと10mg/kg T-DM1の組み合わせに無作為に割り付けた。腫瘍体積および体重を週に3回測定した。2.5mg/kgポジオチニブで処置したマウスには、月曜日から金曜日に(週5日)薬物を経口投与した。10mg/kg T-DM1で処置したマウスには、無作為化当日にT-DM1の静脈内 (IV) 用量を1回投与した。ポジオチニブとT-DM1の併用によって処置したマウスには、T-DM1のIV用量を1回投与し、T-DM1の投与の3日後に、週に5日の2.5mg/kgポジオチニブを開始した。マウスの体重が10%を超えて減少した場合、または体重が20グラム未満に減少した場合には、マウスへの投薬を休止した。実験は、Good Animal Practicesに準拠し、MD Anderson Cancer Centerの施設内動物管理使用委員会 (Houston, TX) の承認を得て完了した。
【0107】
FACS:
HER2変異を過剰発現しているMCF10A細胞を6ウェルプレートにプレーティングして一晩置き、次いで10nMポジオチニブで処理した。24時間後、細胞をPBSで2回洗浄し、トリプシン処理した。次いで、細胞をPBS中の0.5% FBSに再懸濁し、Biolegendからの抗HER2-FITC抗体 (#324404) を用いて氷上で45分間染色した。細胞をPBS中の0.5% FBSで2回洗浄し、フローサイトメトリーによって解析した。IgG対照および未染色対照をゲーティングに使用した。
【0108】
ウェスタンブロッティング:
ウェスタンブロッティングのために、細胞をPBSで洗浄し、RIPPA溶解緩衝液 (ThermoFisher) およびプロテアーゼ阻害剤カクテル錠剤 (Roche) 中で溶解した。BioRadから購入したゲルにタンパク質(30~40μg)を負荷した。BioRadセミドライ転写を使用し、次いで、pHER2、HER2、pPI3K、PI3K、p-AKT、AKT、p-ERK1/2、およびERK1/2に対する抗体(1:1000;Cell Signaling)でプロービングした。負荷対照としてのビンキュリンまたはβ-アクチン (Sigma-Aldrich) に対する抗体でブロットをプロービングし、ECLウェスタンブロッティング基質 (Promega) を用いて露光した。
【0109】
HER2発現レベルおよびBa/F3変異体のIC50との相関関係:
Ba/F細胞株からタンパク質を収集し、総HER2(Cell Signaling、#7310)の製造説明書によって記載されている通りにELISAを実施した。ELISAによって決定された相対的発現を、上記のように算出されたIC50値に対してプロットした。ピアソン相関およびp値は、GraphPad Prismにより決定した。
【0110】
臨床試験およびCIND識別子:
患者は、コンパッショネート使用プロトコール (MD Anderson Cancer Center CIND-18-0014)または臨床試験NCT03066206のいずれかにおけるポジオチニブによる処置に関して、書面によるインフォームドコンセントを提供した。これらのプロトコールは、MD Anderson Cancer Centerの施設内審査委員会および食品医薬品局の両方によって承認されている。
【0111】
本明細書において開示および特許請求する方法はすべて、本開示に照らして、必要以上の実験を行うことなく作製および実行することができる。本発明の組成物および方法を好ましい態様に関して説明してきたが、本発明の概念、精神、および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載される方法に対して、およびそのような方法の段階において、または段階の順序において、変更が加えられ得ることは、当業者に明白であろう。より具体的には、化学的にも生理学的にも関連しているある特定の薬剤が、本明細書に記載される薬剤の代わりに用いられても、同一または類似の結果が達成され得ることが明白であろう。当業者にとって明白なそのような同様の代替物および変更物はすべて、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の精神、範囲、および概念の範囲内にあると見なされる。
【0112】
参考文献
以下の参考文献は、それらが、本明細書において記載されるものを補足する例示的な手順の詳細またはその他の詳細を提供する限りにおいて、参照により本明細書に具体的に組み入れられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【手続補正書】
【提出日】2021-08-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
2022515128000001.app
【国際調査報告】