(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-17
(54)【発明の名称】リン酸化ダイサー抗体およびその使用方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220209BHJP
C07K 16/40 20060101ALI20220209BHJP
A01K 67/027 20060101ALI20220209BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20220209BHJP
C12N 9/22 20060101ALI20220209BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220209BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220209BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20220209BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/40 ZNA
A01K67/027
C12N15/12
C12N9/22
A61K39/395 N
A61P35/00
G01N33/574 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021535590
(86)(22)【出願日】2019-12-23
(85)【翻訳文提出日】2021-08-16
(86)【国際出願番号】 US2019068373
(87)【国際公開番号】W WO2020132684
(87)【国際公開日】2020-06-25
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500039463
【氏名又は名称】ボード オブ リージェンツ,ザ ユニバーシティ オブ テキサス システム
【氏名又は名称原語表記】BOARD OF REGENTS,THE UNIVERSITY OF TEXAS SYSTEM
【住所又は居所原語表記】210 West 7th Street Austin,Texas 78701 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】アルール スワティ
【テーマコード(参考)】
4B050
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B050CC04
4B050DD11
4B050LL10
4C085AA14
4C085GG01
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA70
4H045BA71
4H045BA72
4H045CA40
4H045DA89
4H045EA20
4H045EA51
(57)【要約】
本明細書において、セリン1728および/またはセリン1852と選択的に結合するものを含む、リン酸化ダイサー1(pダイサー1)抗体が提供される。単独で、または他の治療と組み合わせて、pダイサー1抗体を投与することによって、癌を処置する方法が、本明細書においてさらに提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリン1728および/またはセリン1852においてリン酸化されたヒトダイサー1(pダイサー1)と特異的に結合する、単離されたモノクローナル抗体。
【請求項2】
セリン1852においてリン酸化されたヒトダイサー1(pダイサー1)と特異的に結合する、請求項1記載の抗体。
【請求項3】
ハイブリドーマクローン25によってコードされた抗体のV
HドメインのCDR1~3(SEQ ID NO:3、5、および7)ならびにV
LドメインのCDR1~3(SEQ ID NO:11、13、および15)を含む、請求項2記載の抗体。
【請求項4】
非リン酸化ダイサー1と結合しないか、または非リン酸化ダイサー1と本質的に結合しない、請求項1~3のいずれか一項記載の抗体。
【請求項5】
クローン25のV
Hドメイン(SEQ ID NO:1)と少なくとも約80%同一のV
Hドメインおよびクローン25のV
Lドメイン(SEQ ID NO:9)と少なくとも約80%同一のV
Lドメインを含む、請求項3記載の抗体。
【請求項6】
クローン25のV
Hドメイン(SEQ ID NO:1)と同一のV
Hドメインおよびクローン25のV
Lドメイン(SEQ ID NO:9)と同一のV
Lドメインを含む、請求項3記載の抗体。
【請求項7】
組換え体である、請求項1~6のいずれか一項記載の抗体。
【請求項8】
IgG、IgM、IgA、またはそれらの抗原結合断片である、請求項1記載の抗体。
【請求項9】
Fab'、F(ab')2、F(ab')3、1価scFv、二価scFv、またはシングルドメイン抗体である、請求項1~6のいずれか一項記載の抗体。
【請求項10】
ヒト抗体、ヒト化抗体、または脱免疫(de-immunized)抗体である、請求項1~6のいずれか一項記載の抗体。
【請求項11】
イメージング剤、化学療法剤、毒素、または放射性核種とコンジュゲートされている、請求項1~6のいずれか一項記載の抗体。
【請求項12】
薬学的に許容される担体の中に請求項1~11のいずれか一項記載の抗体を含む、組成物。
【請求項13】
請求項1~10のいずれか一項記載の抗体をコードする核酸配列を含む、単離されたポリヌクレオチド分子。
【請求項14】
クローン25のV
HドメインのCDR1~3(SEQ ID NO:3、5、および7)ならびにクローン25のV
HドメインのCDR1~3(SEQ ID NO:11、13、および15)を含む抗体V
Hドメインを含む、組換えポリペプチド。
【請求項15】
請求項14記載のポリペプチドをコードする核酸配列を含む、単離されたポリヌクレオチド分子。
【請求項16】
請求項1~10のいずれか一項記載の抗体または請求項14記載の組換えポリペプチドをコードする1つまたは複数のポリヌクレオチド分子を含む、宿主細胞。
【請求項17】
哺乳動物細胞、酵母細胞、細菌細胞、線毛細胞、または昆虫細胞である、請求項16記載の宿主細胞。
【請求項18】
請求項1~10のいずれか一項記載のpダイサー1抗体と薬学的担体とを含む、薬学的組成物。
【請求項19】
対象における癌の処置のための、有効量の請求項1~10のいずれか一項記載のpダイサー1抗体を含む組成物。
【請求項20】
対象における癌の処置のための、有効量の請求項1~10のいずれか一項記載のpダイサー1抗体を含む組成物の使用。
【請求項21】
有効量の請求項1~10のいずれか一項記載のpダイサー1抗体を対象へ投与する工程を含む、対象における癌を処置するための方法。
【請求項22】
癌が、子宮内膜癌、肺癌、膵臓癌、卵巣癌、胸膜肺芽腫、卵巣性索間質性腫瘍、嚢胞性腎腫、または甲状腺癌である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
癌が、KRAS陽性膵臓癌、BRAF陽性転移性黒色腫、またはBRAF陽性甲状腺癌である、請求項21記載の方法。
【請求項24】
癌が子宮内膜癌である、請求項21記載の方法。
【請求項25】
癌が変異KRASおよび/または変異p53を有する、請求項24記載の方法。
【請求項26】
抗体が、静脈内、皮内、腫瘍内、筋肉内、腹腔内、皮下、または局所的に投与される、請求項21記載の方法。
【請求項27】
抗体が静脈内に投与される、請求項21記載の方法。
【請求項28】
少なくとも第2の抗癌治療を対象へ投与する工程をさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項29】
第2の抗癌治療が、外科的治療、化学療法、放射線治療、寒冷療法、ホルモン治療、免疫治療、またはサイトカイン治療である、請求項28記載の方法。
【請求項30】
第2の抗癌治療がMEK阻害剤である、請求項28記載の方法。
【請求項31】
対象由来の試料において、対照と比べて上昇したリン酸化ダイサー1の存在について試験する工程を含む、対象における癌を検出するための方法であって、
該試験する工程が、該試料を請求項1~10のいずれか一項記載の抗体と接触させることを含む、前記方法。
【請求項32】
インビトロの方法としてさらに定義される、請求項43記載の方法。
【請求項33】
請求項1~10のいずれか一項記載のpダイサー1抗体と試料の結合を測定することによって、上昇したリン酸化ダイサー1のレベルを検出する工程
を含む、試料中のリン酸化ダイサー1を検出するインビトロの方法。
【請求項34】
試料が、組織生検材料、穿刺吸引液、唾液、尿、または血漿である、請求項33記載の方法。
【請求項35】
対照と比べて上昇したリン酸化ダイサー1のレベルが、試料を侵襲性癌試料として同定する、請求項33記載の方法。
【請求項36】
侵襲性癌が侵襲性子宮内膜癌である、請求項35記載の方法。
【請求項37】
対照と比べて上昇したリン酸化ダイサー1のレベルが予後不良を示す、請求項35記載の方法。
【請求項38】
上昇したリン酸化ダイサー1のレベルが、試料中の細胞の50%超がリン酸化ダイサー1陽性として検出されることとしてさらに定義される、請求項33記載の方法。
【請求項39】
上昇したリン酸化ダイサー1のレベルを有すると同定された対象へpダイサー抗体を投与する工程
をさらに含む、請求項33記載の方法。
【請求項40】
リン酸化模倣(phospho-mimetic)ダイサー1を含むゲノムを有する、マウス。
【請求項41】
リン酸化模倣ダイサー1が、アスパラギン酸に交換されたセリン1712および/またはセリン1836を有する、請求項40記載のマウス。
【請求項42】
リン酸化模倣ダイサー1が、アスパラギン酸に交換されたセリン1712およびセリン1836を有する、請求項40記載のマウス。
【請求項43】
リン酸化模倣ダイサー1が、アスパラギン酸に交換されたセリン1712を有する、請求項40記載のマウス。
【請求項44】
リン酸化模倣ダイサー1が、アスパラギン酸に交換されたセリン1836を有する、請求項40記載のマウス。
【請求項45】
ダイサー
S1712Dマウス、ダイサー
S1836Dマウス、またはダイサー
2SDマウスである、請求項40~45のいずれか一項記載のマウス。
【請求項46】
ダイサー
S183D/S183Dマウスである、請求項40記載のマウス。
【請求項47】
老化促進を有する、請求項40~46のいずれか一項記載のマウス。
【請求項48】
代謝亢進表現型および/または変更された代謝(metabolic)miRNAを有する、請求項40~47のいずれか一項記載のマウス。
【請求項49】
雌マウスである、請求項40~49のいずれか一項記載のマウス。
【請求項50】
雄マウスである、請求項40~49のいずれか一項記載のマウス。
【請求項51】
請求項40~50のいずれか一項記載のマウスから単離された、細胞。
【請求項52】
1728位に対応するセリンおよび/または1852位に対応するセリンがアスパラギン酸に交換されている、ヒトダイサー1と少なくとも90%同一の配列を含むポリペプチド。
【請求項53】
請求項52記載のポリペプチドをコードする配列を含む、ポリヌクレオチド分子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2018年12月21日に出願された米国仮出願第62/784,032号および2019年3月1日に出願された第62/812,743号に基づく優先権の恩典を主張するものであり、両出願の内容全体が参照によって本明細書中に組み入れられる。
【0002】
配列表の組み入れ
(Microsoft Windows(登録商標)において測定されたように)10KBであり、2019年12月13日に作成された、「UTFCP1431WO_ST25.txt」と命名されたファイルに含有される配列表が、電子的な提出によって本明細書と共に出願され、参照によって本明細書中に組み入れられる。
【0003】
1.領域
本発明は、免疫学および医学の領域に一般に関する。より具体的には、抗ダイサー抗体およびその使用方法に関係がある。
【背景技術】
【0004】
2.関連分野の説明
ダイサー1は、プレマイクロRNAを機能性マイクロRNAへプロセシングする必須のリボエンドヌクレアーゼである。ダイサー1は、ハプロ不全腫瘍抑制因子として作用し、ヒト癌においては、体細胞ヘテロ接合性変異が高頻度に観察されており、ヘテロ接合性は、いくつかのマウスの腫瘍モデルにおいて、腫瘍形成を促進する。ダイサー1症候群患者は、ダイサー1の生殖細胞系列ヘテロ接合性変異(ミスセンスおよび短縮)を保有し、胸膜肺芽腫、卵巣性索間質性腫瘍、嚢胞性腎腫、および甲状腺癌を含む多様な癌の増加したリスクを呈する。
【0005】
線虫(C.elegans)において、ダイサー1は、KRASシグナリング軸においてERKによってリン酸化される。これに関して、リン酸化ダイサー1は、核内に存在し、卵母細胞から胚への遷移を駆動し、このことは、発達中のこの重要な初期化イベントにおけるダイサー1の新規の役割を示している。最近、Ser1705およびSer1833における線虫DCR1の細胞外シグナル制御キナーゼ(ERK)依存性のリン酸化が、卵形成のために必須であり、脱リン酸が、胚形成の進行のために必須であることが発見された(Drake et al.,2014)。従って、ダイサー1のリン酸化および脱リン酸の振動が、卵形成および胚形成のために必須である。この発見は、発達中に、ダイサー1機能が、厳密な翻訳後調節を受けることを初めて強調した。哺乳動物において、ダイサー1は、マウス胚線維芽細胞(MEF)およびヒト胎児由来腎臓細胞株において、線維芽細胞増殖因子によって刺激された時、保存されたセリンにおいてリン酸化されることが見出された。さらに、ダイサー1は、インビボの発達中のマウス子宮腺において、Ser1712およびSer1836においてリン酸化される。これらのケースの全てにおいて、ダイサー1のリン酸化は、細胞質から核への転位と共役していた。
【0006】
Burgerらは、培養ヒト細胞において、DNA傷害応答中にATM/ATRによってリン酸化され、細胞質から核へのダイサー1の転位をもたらす付加的なセリンを同定した(Burger,et al.,2017)。これらの結果は、ダイサー1のリン酸化が、保存されたイベントであることを示唆する;しかしながら、哺乳動物におけるインビボのダイサー1のリン酸化および脱リン酸の役割は、未知のままである。
【発明の概要】
【0007】
概要
第1の態様において、本開示は、セリン1728および/またはセリン1852においてリン酸化されたヒトダイサー1(pダイサー1)と特異的に結合する単離されたモノクローナル抗体を提供する。具体的な局面において、抗体は、セリン1852においてリン酸化されたヒトダイサー1(pダイサー1)と特異的に結合する。いくつかの局面において、抗体は、(以後、「クローン25」と本明細書中で呼ばれる)抗ホスホSer1852-ダイサー1抗体ハイブリドーマクローン25によってコードされた抗体のVHドメインのCDR1~3(SEQ ID NO:3(GYSFTSYW)、5(IYPGNSAT)、および7(TRVGYRYEAWFAY))、ならびにVLドメインのCDR1~3(SEQ ID NO:11(SSVSY)、13(DTS)、および15(FQGSGYPLT))を含む。具体的な局面において、抗体は、非リン酸化ダイサー1と結合しないか、または結合を本質的に有しない。具体的な局面において、抗体は、セリンにおいてリン酸化([pS])された時にのみ、ペプチド配列VPR[pS]PVRELを認識した。
【0008】
いくつかの局面において、抗体は、クローン25のVHドメイン(SEQ ID NO:2)と少なくとも約80%(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%)同一のVHドメイン、およびクローン25のVLドメイン(SEQ ID NO:10)と少なくとも約80%(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%)同一のVLドメインを含む。いくつかの局面において、抗体は、SEQ ID NO:1によってコードされたアミノ酸配列と少なくとも約80%(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%)同一のVHドメイン、およびSEQ ID NO:9によってコードされたアミノ酸配列と少なくとも約80%(例えば、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%)同一のVLドメインを含む。ある種の局面において、抗体は、クローン25のVHドメイン(SEQ ID NO:2)と同一のVHドメイン、およびクローン25のVLドメイン(SEQ ID NO:10)と同一のVLドメインを含む。ある種の局面において、抗体は、SEQ ID NO:1によってコードされたアミノ酸配列と同一のVHドメイン、およびSEQ ID NO:9によってコードされたアミノ酸配列と同一のVLドメインを含む。
【0009】
ある種の局面において、抗体は組換え体である。いくつかの局面において、抗体は、IgG、IgM、IgA、またはそれらの抗原結合断片である。ある種の局面において、抗体は、Fab'、F(ab')2、F(ab')3、1価scFv、二価scFv、またはシングルドメイン抗体である。いくつかの局面において、抗体は、ヒト抗体、ヒト化抗体、または脱免疫(de-immunized)抗体である。さらなる局面において、抗体は、イメージング剤、化学療法剤、毒素、または放射性核種とコンジュゲートされている。
【0010】
他の態様において、薬学的に許容される担体の中に本態様の抗体(例えば、リン酸化ヒトダイサー1と結合する抗体)を含む組成物が、提供される。本態様の抗体(例えば、リン酸化ヒトダイサー1と結合する抗体)をコードする核酸配列を含む単離されたポリヌクレオチド分子が、本明細書中にさらに提供される。さらなる態様において、単離されたポリヌクレオチド分子は、SEQ ID NO:4、6、および8、またはSEQ ID NO:12、14、および16を含む。さらに他の態様において、単離されたポリヌクレオチドは、SEQ ID NO:4、6、8、12、14、および16を含む。さらに他の態様において、単離されたポリヌクレオチドは、SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:9との85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の同一性を有する配列を含む。クローン25のVHドメインのCDR1~3およびクローン25のVHドメインのCDR1~3を含む抗体VHドメインを含む組換えポリペプチドも、本明細書中に提供される。他の態様において、クローン25のVHドメインのCDR1~3およびクローン25のVHドメインのCDR1~3を含む抗体VHドメインを含むポリペプチドをコードする核酸配列を含む単離されたポリヌクレオチド分子が、提供される。SEQ ID NO:1および/またはSEQ ID NO:9を含む発現ベクターが、本明細書中にさらに提供される。いくつかの態様において、発現ベクターは、SEQ ID NO:4、6、および8、ならびに/またはSEQ ID NO:12、14、および16を含む。
【0011】
さらなる態様は、本態様の抗体(例えば、リン酸化ヒトダイサー1と結合する抗体)、またはクローン25のVHドメインのCDR1~3およびクローン25のVHドメインのCDR1~3を含む抗体VHドメインを含む組換えポリペプチドをコードする1つまたは複数のポリヌクレオチド分子を含む宿主細胞を提供する。いくつかの局面において、宿主細胞は、哺乳動物細胞、酵母細胞、細菌細胞、線毛細胞、または昆虫細胞である。
【0012】
本態様のpダイサー1抗体と薬学的担体とを含む薬学的組成物も、本明細書中に提供される。さらなる態様は、対象における癌の処置のための、有効量の本態様のpダイサー1抗体を含む組成物を提供する。対象における癌の処置のための、有効量の本態様のpダイサー1抗体を含む組成物の使用が、本明細書中にさらに提供される。ある種の局面において、癌を処置する方法において使用するためのpダイサー1抗体は、細胞透過性ペプチド(CPP)および/または核移行シグナル(NLS)をさらに含む。ある種の局面において、ScFvのような本態様のpダイサー1抗体は、CPP配列およびNLS配列の両方を含む。本態様に従って使用するためのCPPの例には、非限定的に、HIV Tat、ヘルペスウイルスVP22、ショウジョウバエ(Drosophila)アンテナペディア(Antennapedia)ホメオボックス遺伝子産物、およびプロテグリン(protegrin)Iに由来するペプチドセグメントが含まれる。
【0013】
さらなる態様は、有効量の本態様のpダイサー1抗体を対象へ投与する工程を含む、対象における癌を処置する方法を提供する。
【0014】
いくつかの局面において、癌は、子宮内膜癌、肺癌、膵臓癌、卵巣癌、胸膜肺芽腫、卵巣性索間質性腫瘍、嚢胞性腎腫、または甲状腺癌(例えば、甲状腺癌腫)である。具体的な局面において、癌は、子宮内膜癌である。いくつかの局面において、癌は、変異KRasおよび/または変異p53を有する。
【0015】
ある種の局面において、抗体は、静脈内に、皮内に、腫瘍内に、筋肉内に、腹腔内に、皮下に、または局所的に投与される。具体的な局面において、抗体は、静脈内投与される。
【0016】
さらなる局面において、方法は、少なくとも第2の抗癌治療を対象へ投与する工程をさらに含む。いくつかの局面において、第2の抗癌治療は、外科的治療、化学療法、放射線治療、寒冷療法、ホルモン治療、免疫治療、またはサイトカイン治療である。
【0017】
対象由来の試料において、対照と比べて上昇したリン酸化ダイサー1の存在について試験する工程を含む、対象における癌を検出する方法も、本明細書中に提供され、ここで、試験する工程は、試料を本態様の抗体と接触させることを含む。具体的な局面において、方法は、インビトロの方法としてさらに定義される。
【0018】
さらなる態様は、本態様のpダイサー1抗体と試料の結合を測定することによって、上昇したリン酸化ダイサー1のレベルを検出する工程を含む、試料中のリン酸化ダイサー1を検出するインビトロの方法を提供する。いくつかの局面において、試料は、組織生検材料、穿刺吸引液、唾液、尿、または血漿である。ある種の局面において、対照と比べて上昇したリン酸化ダイサー1のレベルは、試料を侵襲性癌試料として同定する。いくつかの局面において、侵襲性癌は、侵襲性子宮内膜癌である。いくつかの局面において、対照と比べて上昇したリン酸化ダイサー1のレベルは、予後不良を示す。具体的な局面において、上昇したリン酸化ダイサー1のレベルは、試料中の細胞の50%超がリン酸化ダイサー1陽性として検出されることとしてさらに定義される。さらなる局面において、方法は、上昇したリン酸化ダイサー1のレベルを有すると同定された対象へpダイサー抗体を投与する工程をさらに含む。
【0019】
さらなる態様は、リン酸化模倣(phospho-mimetic)ダイサー1を含むゲノムを有するマウスを提供する。いくつかの局面において、リン酸化模倣ダイサー1は、アスパラギン酸に交換されたセリン1712および/またはセリン1836を有する。ある種の局面において、リン酸化模倣ダイサー1は、アスパラギン酸に交換されたセリン1712およびセリン1836を有する。いくつかの局面において、リン酸化模倣ダイサー1は、アスパラギン酸に交換されたセリン1712を有する。具体的な局面において、リン酸化模倣ダイサー1は、アスパラギン酸に交換されたセリン1836を有する。いくつかの局面において、マウスは、ダイサーS1712Dマウス、ダイサーS1836Dマウス、またはダイサー2SDマウスである。具体的な局面において、マウスは、ダイサーS183D/S183Dマウスである。いくつかの局面において、マウスは、老化促進を有する。いくつかの局面において、マウスは、代謝亢進表現型および/または変更された代謝(metabolic)miRNAを有する。マウスは、雌または雄のマウスであり得る。本態様のマウスから単離された細胞が、本明細書中にさらに提供される。
【0020】
1728位に対応するセリンおよび/または1852位に対応するセリンがアスパラギン酸に交換されている、ヒトダイサー1と少なくとも90%同一の配列を含むポリペプチドも、本明細書中に提供される。本態様のポリペプチドをコードする配列を含むポリヌクレオチド分子が、本明細書中にさらに提供される。
【0021】
本発明のその他の目的、特色、および利点は、以下の詳細な説明から明白になるであろう。しかしながら、本発明の本旨および範囲に含まれる様々な変化および修飾が、この詳細な説明から当業者に明白になるため、詳細な説明および具体例は、本発明の好ましい態様を示すが、例示のために与えられているに過ぎないことが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図面は、本明細書の一部を形成し、本発明のある種の局面をさらに例証するために含まれている。本明細書中に提示された具体的な態様の詳細な説明と組み合わせて、これらの図面のうちの1つまたは複数を参照することによって、本発明は、よりよく理解され得る。
【
図1A】リン酸化ダイサーは、ヒトにおける原発性子宮内膜癌および胸膜肺芽腫と関連している。(A)核移行および上皮からの染色の欠如(青色染色、矢じり)と共に、主に間葉における陽性リン酸化ダイサー1(セリン1852、クローン25)染色(矢印)を示す胸膜肺芽腫試料。
【
図1B】リン酸化ダイサーは、ヒトにおける原発性子宮内膜癌および胸膜肺芽腫と関連している。(B)図面のラベリングのためホスホダイサーと本明細書において命名された、抗リン酸化ダイサー1(セリン1852、クローン25)モノクローナルSer1852抗体、クローン25(上パネル)、および抗リン酸化ERK抗体(下パネル)によって染色された子宮内膜癌の代表的な画像。
【
図1C】リン酸化ダイサーは、ヒトにおける原発性子宮内膜癌および胸膜肺芽腫と関連している。(C)核内リン酸化ダイサー1染色を示す子宮内膜癌試料の画像のズーム。
【
図1D】リン酸化ダイサーは、ヒトにおける原発性子宮内膜癌および胸膜肺芽腫と関連している。(D)ホスホダイサー陽性(パネルA)であった細胞の数に基づき、腫瘍を、「軽度~中程度」リン酸化ダイサー陽性または「高度」リン酸化ダイサー陽性に分割した。棒グラフは、臨床病理学的特色と共に、軽度~中程度または高度のホスホダイサー1を有する腫瘍の分布を示す。BMI、ボディ・マス・インデックス;LVSI、リンパ管空間浸潤;浸潤、子宮筋浸潤の深さ。BMIについては、p=0.002、LVSIについては、p=0.06、子宮筋浸潤の深さについては、p=0.03。
【
図2A】ホスホダイサーはKRas
+/LA1マウスにおいて腫瘍形成を促進する。(A)400日間追跡されたKRas
+/LA1マウス(n=21)およびKRas
+/LA1;ダイサー
+/2SDマウス(n=36)のカプラン・マイヤー生存曲線。p=0.03。
【
図2B】ホスホダイサーはKRas
+/LA1マウスにおいて腫瘍形成を促進する。(B)左:KRas
+/LA1マウス(n=17)およびKRas
+/LA1;ダイサー
+/2SDマウス(n=24)における、癌、多発癌、および播種性癌の発生を有するマウスの頻度。右:腫瘍型およびそれらの頻度、複数の腫瘍型を有するマウスの数、ならびに各遺伝子型における腫瘍を有するマウスの総数。
*転移性/播種性腫瘍。
【
図2C】ホスホダイサーはKRas
+/LA1マウスにおいて腫瘍形成を促進する。(C)KRas
+/LA1マウス(17匹のマウスにおけるn=16癌)およびKRas
+/LA1;ダイサー
+/2SDマウス(24匹のマウスにおけるn=37癌)の腫瘍スペクトル。
【
図2D】ホスホダイサーはKRas
+/LA1マウスにおいて腫瘍形成を促進する。(D)リン酸化ダイサーを示す63倍で捕捉された代表的な免疫蛍光画像、およびDAPI。ヘテロ接合性のKRas
+/LA1およびダイサー
+/2SDは、核内リン酸化ダイサーシグナルを示さないが、KRas
+/LA1;ダイサー
+/2SDおよびダイサー
S2D+/2SDは、増加したリン酸化核内ダイサーシグナルを示す。スケールバー:50ミクロン。ホスホダイサー検出は、ウサギポリクローナル抗ホスホダイサー抗体によって査定された。
【
図3A】ホスホダイサーはp53
+/-マウスにおいて腫瘍形成を促進する。(A)540日間追跡されたp53
+/-マウス(n=19)およびp53
+/-;ダイサー
+/2SDマウス(n=32)のカプラン・マイヤー生存曲線。p=0.07。
【
図3B】ホスホダイサーはp53
+/-マウスにおいて腫瘍形成を促進する。(B)540日間追跡されたp53
+/-マウス(n=12)およびp53
+/-;ダイサー
+/2SDマウス(n=21)の無腫瘍生存曲線。カプラン・マイヤー生存分析が実施された。p=0.03。
【
図3C】ホスホダイサーはp53
+/-マウスにおいて腫瘍形成を促進する。(C)左:p53
+/-マウス(n=12)およびp53
+/-;ダイサー
+/2SDマウス(n=21)における、癌、多発癌、および播種性癌の発生を有するマウスの頻度。右:腫瘍型およびそれらの頻度、複数の腫瘍型を有するマウスの数、ならびに各遺伝子型における腫瘍を有するマウスの総数。
*転移性/播種性腫瘍。
【
図3D】ホスホダイサーはp53
+/-マウスにおいて腫瘍形成を促進する。(D)p53
+/-マウス(n=12マウス、3匹のマウスにおける3つの癌)およびp53
+/-;ダイサー
+/2SDマウス(n=21マウス、15匹のマウスにおける20の癌)の腫瘍スペクトル。ホスホダイサー検出は、ウサギポリクローナル抗ホスホダイサー抗体によって査定された。
【
図4】KRas
+/LA1;ダイサー
+/2SDマウスにおける腫瘍および転移。(A)正常脾臓(左)および脾リンパ腫(右)の代表的な20倍H&E画像。(B)正常肝臓(左)、肝リンパ腫(中央)、および肝組織球性肉腫(右)の代表的な20倍H&E画像。(C)正常腎皮質(左)、腎皮質リンパ腫(中央)、および腎皮質への肺腺癌転移(右)の代表的な20倍H&E画像。
【
図5-1】新規ダイサー1対立遺伝子およびホモ接合性変異体の表現型。(A)ダイサー1リン酸化の部位が示される。DUF、未知の機能のドメイン;PAZ、Piwi/Argonaute/Zwille結合ドメイン;dRBD、二本鎖RNA結合ドメイン。(B)全てのダイサー1変異体のホモ接合生存度を、ヘテロ接合性変異体の近親交配によって試験した(命名法および関連する変異がリストされる)。全ての遺伝子型の観察された数および予想された数(括弧内)がリストされる。WT、野生型;Het、ヘテロ接合性変異体;ホモ、ホモ接合性変異体。カイ二乗検定が実施され、p値がリストされる。
【
図5-2】新規ダイサー1対立遺伝子およびホモ接合性変異体の表現型。(C)1週齢(上)および2週齢(下)ダイサー
2SD/2SDマウス(アステリスク)および正常同腹仔の代表的な画像。(D)1~10ヶ月齢の野生型(WT)、ダイサー
S1836D/S1836D、およびダイサー
2SD/2SDの雄(左、それぞれ、n=12、12、および10)ならびに雌(右、それぞれ、n=12、9、および11)のマウスを定期的に計量した。複数の時点(ヶ月)における平均体重が標準偏差と共に提示される。全ての遺伝子型について、少なくとも3匹のマウスが、終点において存在した(いくつかの動物は終点に到達する前に死亡した)。
【
図5-3】新規ダイサー1対立遺伝子およびホモ接合性変異体の表現型。(E)野生型マウスとの交配によって、全てのホモ接合性変異体の繁殖性を試験した。全ての変異体(雄および雌)についての出産回数および平均産仔数がリストされる。
【
図6-1】ダイサー
2SD/2SDマウスにおける老化促進表現型。(A)野生型マウスおよびダイサー
2SD/2SDマウスの骨格の代表的なマイクロCTスキャン(等値面閾値1000)。(B)野生型マウス(n=4)およびダイサー
2SD/2SDマウス(n=4)の脊柱後弯指数を定量化し、平均し、標準偏差と共に提示する。有意性を決定するため、スチューデントt検定を使用した。
*p=0.02。(C)野生型マウス(n=4)およびダイサー
2SD/2SDマウス(n=4)の脊椎における骨体積分率(BVF)を定量化し、平均し、標準偏差と共に提示する。有意性を決定するため、スチューデントt検定を使用した。
***p=0.0003。(D)野生型マウス(n=4)およびダイサー
2SD/2SDマウス(n=4)についての脊椎の骨塩量(BMD)を定量化し、平均し、標準偏差と共に提示する。有意性を決定するため、スチューデントt検定を使用した。
**p=0.008。
【
図6-2】ダイサー
2SD/2SDマウスにおける老化促進表現型。(E)6ヶ月齢の野生型マウスおよびダイサー
2SD/2SDマウスに由来する大腿骨幹の代表的なH&E縦断面図(1.25倍)。測定は皮質骨の最も薄い切片について示される。(G)560日間追跡された野生型マウス(n=57)、ダイサー
S1712D/S1712Dマウス(n=15)、ダイサー
S1836D/S1836Dマウス(n=21)、およびダイサー
2SD/2SDマウス(n=21)の生存曲線。垂直の線は、罹患なしに安楽死させられた動物を表す。
【
図6-3】ダイサー
2SD/2SDマウスにおける老化促進表現型。(F)8ヶ月齢の野生型マウスおよびダイサー
2SD/2SDマウスに由来する精巣(20倍)、卵巣(10倍)、皮膚(20倍)、ならびに大腿骨端および骨幹端(5倍)の代表的なH&E切片。精巣切片におけるライディッヒ細胞(矢印)、卵巣実質(アステリスク)、皮膚における皮下脂肪(I)、骨端軟骨板の不規則な厚さ(矢印)、および骨端軟骨の骨への置換(矢じり)、ならびに大腿骨端骨髄における脂肪細胞浸潤(星印)が示される。
【
図7】ダイサー
2SD/2SDマウスの血液学的表現型。(A)2~8ヶ月齢ダイサー
2SD/2SDマウスおよび8ヶ月齢野生型マウスに由来する大腿骨および脛骨の代表的なH&E切片。(B)2~8ヶ月齢の野生型同腹仔マウス(n=7)およびダイサー
2SD/2SD同腹仔マウス(n=8)の全血球計算。標準偏差と共に平均測定値が示される。血小板については、p=0.89、RBCについては、
**p=0.007、WBCについては、
*p=0.01。各ドットは1マウスを表す。WBC、白血球;RBC、赤血球。(C)2~8ヶ月齢の野生型同腹仔マウス(n=7)およびダイサー
2SD/2SD同腹仔マウス(n=8)の血中の血清酵素レベル。標準偏差と共に平均測定値が示される。ASTについては、p=0.11、ALTについては、p=0.16、APについては、
*p=0.01。各ドットは1マウスを表す。AST、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ;ALT、アラニントランスアミナーゼ;AP、アルカリホスファターゼ;U/L、1リットル当たり単位。
【
図8-1】リン酸化はダイサー1の移行およびmiRNAプロファイルを変更する。(A)野生型(WT)マウス、ダイサー
S1712D/S1712Dマウス、ダイサー
S1836D/S1836Dマウス、およびダイサー
2SD/2SDマウスに由来する代表的な精巣切片における抗ダイサー1抗体による免疫蛍光(20倍)。スケールバー=10μm。(B)核内ダイサー1を有する精母細胞(精子細胞および精子を除く)の百分率を、3つの野生型(WT)、ダイサー
S1712D/S1712D、ダイサー
S1836D/S1836D、およびダイサー
2SD/2SDの精巣の精細管において計算した。細胞を細胞質内または核内/両方として区分した。平均値を標準偏差と共に計算した。
【
図8-2】リン酸化はダイサー1の移行およびmiRNAプロファイルを変更する。(C)野生型マウスおよびダイサー
2SD/2SDマウスに由来する精巣(ダイサー
2SD/2SDについては、n=3、WTについては、n=2)およびMEF(ダイサー
2SD/2SDについては、n=4、WTについては、n=3)におけるmiRNAのディファレンシャルな発現。緑色、赤色、および黄色のドットは、野生型試料と比較して、ダイサー
2SD/2SD試料において、それぞれ、ダウンレギュレートされたmiRNA、アップレギュレートされたmiRNA、および影響を受けなかったmiRNAを表す。青色の線は、カットオフの2倍を表す。
【
図8-3】リン酸化はダイサー1の移行およびmiRNAプロファイルを変更する。(D)変異体の精巣およびMEFにおいてダウンレギュレートされたmiRNA(>10リード/100万、かつ2倍超の差)、ならびにオーバーラップの数。オーバーラップするmiRNAがリストされる。(E)変異体の精巣においてダウンレギュレートされたmiRNAのパスウェイ分析を、DIANATOOLSを使用して実施した。上位22のパスウェイがリストに提示される。
【
図9】ダイサー
2SD/2SDマウスおよびMEFにおける、より高い代謝。(A)10amから9amまで、野生型マウス(n=2)およびダイサー
2SD/2SDマウス(n=4)の酸素消費速度(OCR)を測定するため、CLAMS試験を使用した。全ての測定について、酸素消費(VO2)の速度(mL/kg/分)が、標準偏差と共に示される。垂直の線は、実験測定中の明期(6am~6pm)と暗期(6pm~6am)とを分離する。X軸上の1単位=6分(測定の開始から)。(B)OCR速度を平均し、明期および暗期にグループ分けした。スチューデントt検定を使用した。明期について、
*p=0.02。(C)野生型マウス(n=2)およびダイサー
2SD/2SDマウス(n=4)の回転輪活動を測定するため、CLAMS試験を使用した。測定値を合わせ、明期および暗期にグループ分けした。各ドットは1マウスを表す。(D)野生型マウス(n=7)およびダイサー
2SD/2SDマウス(n=9)の胚線維芽細胞(MEF)のOCRを測定するため、Seahorseミトストレステストアッセイを使用した。平均測定値が標準偏差と共にプロットされる。スチューデントt検定を使用した。
*p=0.02。(E)野生型(n=7)およびダイサー
2SD/2SD(n=9)のMEFの細胞外酸性化速度(ECAR)を測定するため、Seahorse解糖ストレステストアッセイを使用した。平均測定値が標準偏差と共にプロットされる。スチューデントt検定を使用した。
*p=0.04。
【
図10】組織マイクロアレイ上で試験された54の類内膜子宮内膜(endometroid endometrial)癌の腫瘍特徴。各腫瘍を、ホスホダイサー1陽性細胞が50%未満であるか、50%超であるかによって分類した。
【発明を実施するための形態】
【0023】
例示的な態様の説明
ダイサー1は、マウスモデルにおいて、腫瘍抑制因子として機能する。ヒトにおいて、体細胞変異は、成人における多くの癌に関連しており、ダイサー1生殖細胞系列変異を有するダイサー1症候群患者は、小児癌に罹りやすい。ダイサー1は、ERK-MAPキナーゼパスウェイによってリン酸化され、線虫の発生において必須の役割を有する。ERK-MAPキナーゼパスウェイは、ヒト癌において活性化されるため、本研究は、リン酸化ダイサー1が腫瘍発達に寄与するか否かを問題とした。ヒト子宮内膜癌において、リン酸化ダイサー1は、侵襲性疾患と有意に関連していることが発見された。腫瘍発達におけるダイサーリン酸化の直接の関与を試験するため、ERKによってリン酸化される2つの保存されたセリンにおいて、リン酸化模倣変更を有するマウスを生成し、ダイサー1の恒常的リン酸化が、2つの独立したマウス癌モデル(KRas+/LA1およびp53+/-)において腫瘍の発達および播種を駆動することを発見した。所見は、リン酸化ダイサー1が、腫瘍の発達および浸潤を促進することを証明した。
【0024】
リン酸化部位(マウスにおいては、セリン1712および1836、ヒトにおいては、セリン1728および1852)、ならびにホスホダイサー1の核移行は、マウスおよびヒトの細胞においてよく保存されている。ヒトダイサー1の同族残基に対するホスホ特異的抗体を使用した本研究において、培養ヒト細胞において、線維芽細胞増殖因子活性に応答して、ダイサー1がリン酸化されることが見出された。従って、腫瘍発達におけるダイサー1リン酸化の役割を、ヒト原発性類内膜子宮内膜腫瘍のアッセイ、ならびにセリン1712および1836がアスパラギン酸に交換されたリン酸化模倣ダイサー1ノックインマウスモデルの生成によって研究した。(1)リン酸化ダイサー1が、子宮内膜癌の大多数に存在し、侵襲性疾患と有意に関連していること、および(2)ダイサー1の恒常的リン酸化が、2つの独立したマウス癌モデル(KRas+/LA1およびp53+/-)において、腫瘍の発達および播種を駆動することが発見された。本所見は、リン酸化ダイサー1が、侵襲性ヒト子宮内膜癌と相関しており、腫瘍形成性KRASおよびヘテロ接合性p53の背景において、マウスにおける腫瘍の発達および浸潤を促進することを証明した。
【0025】
従って、ある種の態様において、本開示は、リン酸化ダイサー1、具体的には、ヒトダイサー1のセリン1852のリン酸化に対するモノクローナル抗体を提供する。セリン1852のリン酸化は、ダイサー1の核転位のために必要かつ十分である。リン酸化ダイサー1は、腫瘍の発達および浸潤を促進するため、本発明のリン酸化ダイサー1抗体は、侵襲性腫瘍の予後マーカーとして使用され得、リン酸化ダイサー分子の機能を阻止し、腫瘍進行を抑止するためにも使用され得る。従って、診断薬として、例えば、侵襲性腫瘍を有する患者を層別化するため、かつ/または肺癌、膵臓癌、卵巣癌、甲状腺癌、もしくは子宮内膜癌のような癌を処置するため、本発明の抗体を使用する方法が、本明細書中に提供される。
【0026】
I.定義
本明細書において使用されるように、指定された成分に関して、「本質的に含まない」とは、指定された成分が、組成物へ意図的に製剤化されておらず、かつ/または混入物質として、もしくは微量にのみ存在することを意味するため、本明細書において使用される。従って、組成物の意図されない混入に起因する指定された成分の全量は、0.05%を十分に下回り、好ましくは、0.01%未満である。最も好ましいのは、指定された成分の量が標準的な分析方法によって検出され得ない組成物である。
【0027】
本明細書において使用されるように、「1つの(a)」または「1つの(an)」とは、1つまたは複数を意味し得る。特許請求の範囲において使用されるように、「含む」という単語と共に使用された時、「1つの(a)」または「1つの(an)」という単語は、1つまたは複数を意味し得る。
【0028】
特許請求の範囲における「または」という用語の使用は、選択肢のみ、または選択肢が相互に排他的であることをさすと明示的に示されない限り、「および/または」を意味するために使用されるが、本開示は、選択肢のみ、ならびに「および/または」をさす定義を支持する。本明細書において使用されるように、「他の」とは、少なくとも第2またはそれ以上を意味し得る。「約」、「実質的に」、および「およそ」という用語は、一般に、明記された値+または-5%を意味する。
【0029】
疾患または状態を「処置する(treating)」または疾患または状態の処置(treatment)とは、疾患の兆候または症状を緩和する試みにおいて、1つまたは複数の薬物を患者へ投与することを含み得るプロトコルを実行することをさす。処置の望ましい効果には、疾患進行の速度の減少、疾患状態の回復もしくは軽減、および寛解、または予後の改善が含まれる。緩和は、疾患または状態の兆候または症状が出現する前に起こってもよいし、その出現の後に起こってもよい。従って、「処置」または「処置」には、疾患または望ましくない状態を「防止する(preventing)」または疾患または望ましくない状態の「防止(prevention)」が含まれ得る。さらに、「処置する」または「処置」は、兆候または症状の完全な緩和を必要とせず、治癒を必要とせず、具体的には、患者に対して限界効果のみを及ぼすプロトコルを含む。
【0030】
「治療的利益」または「治療的に有効な」という用語は、本願全体で使用されるように、この状態の医学的処置に関して対象の健康を促進するかまたは増強する任意のものをさす。これには、疾患の兆候または症状の頻度または重症度の低下が含まれるが、これらに限定されるわけではない。例えば、癌の処置には、例えば、腫瘍のサイズの低下、腫瘍の侵襲性の低下、癌の成長速度の低下、または転移の防止が含まれ得る。癌の処置とは、癌を有する対象の生存の延長をさすこともできる。
【0031】
「対象」および「患者」とは、ヒト、または霊長類、哺乳動物、および脊椎動物のような非ヒトのいずれかをさす。具体的な態様において、対象はヒトである。
【0032】
「薬学的にまたは薬理学的に許容される」という語句は、適宜、ヒトのような動物へ投与された時に、有害反応、アレルギー反応、またはその他の不都合な反応を生じない分子実体および組成物をさす。抗体または付加的な活性要素を含む薬学的組成物の調製は、本開示を考慮すれば、当業者に公知であろう。さらに、動物(例えば、ヒト)への投与のため、調製物は、FDA Office of Biological Standardsによって必要とされるような無菌性、発熱性、一般的安全性、および純度の基準を満たすべきであることが理解されるであろう。
【0033】
本明細書において使用されるように、「薬学的に許容される担体」には、当業者に公知であるような、全ての任意の水性溶媒(例えば、水、アルコール性/水性溶液、生理食塩水溶液、非経口媒体、例えば、塩化ナトリウム、リンゲルデキストロース等)、非水性溶媒(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、およびオレイン酸エチルのような注射可能な有機エステル)、分散媒、コーティング、界面活性剤、抗酸化剤、保存剤(例えば、抗菌剤または抗真菌剤、抗酸化剤、キレート剤、および不活性ガス)、等張剤、吸収遅延剤、塩、薬物、薬物安定剤、ゲル、結合剤、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、甘味剤、風味剤、色素、体液および栄養素の補充剤等の材料、ならびにそれらの組み合わせが含まれる。薬学的組成物中の様々な成分のpHおよび正確な濃度は、周知のパラメータによって調整される。
【0034】
II.リン酸化ダイサー抗体
ある種の態様において、リン酸化ダイサー1の少なくとも一部分と結合し、ダイサーシグナリングを阻害する抗体またはその断片が、企図される。本明細書において使用されるように、「抗体」という用語は、IgG、IgM、IgA、IgD、IgE、および遺伝学的に修飾されたIgGのような任意の免疫学的結合剤、ならびに抗原結合活性を保持する抗体CDRドメインを含むポリペプチドを広くさすものとする。抗体は、キメラ抗体、親和性成熟抗体、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、または抗原結合抗体断片、または天然もしくは合成のリガンドからなる群より選択され得る。好ましくは、pダイサー1抗体は、モノクローナル抗体またはヒト化抗体、例えば、下記の抗ホスホSer1852-ダイサー1抗体ハイブリドーマクローン25である。
【0035】
【0036】
従って、公知の手段によって、本明細書中に記載されるように、リン酸化ダイサー、そのそれぞれのエピトープのうちの1つもしくは複数、またはそれらのいずれかのコンジュゲートに特異的な、モノクローナル抗体、抗体断片、および結合ドメイン、およびCDR(それらのいずれかの改変型を含む)を、そのような抗原またはエピトープが天然起源から単離されたものであるか、または合成誘導体もしくは天然化合物のバリアントであるかに関わらず、作出することができる。
【0037】
本態様のために適当な抗体断片の例には、非限定的に、(i)VLドメイン、VHドメイン、CLドメイン、およびCH1ドメインからなるFab断片;(ii)VHドメインおよびCH1ドメインからなる「Fd」断片;(iii)単一の抗体のVLドメインおよびVHドメインからなる「Fv」断片;(iv)VHドメインからなる「dAb」断片;(v)単離されたCDR領域;(vi)2つの連結されたFab断片を含む二価断片であるF(ab')2断片;(vii)結合ドメインが形成されるよう、2つのドメインが会合することを可能にするペプチドリンカーによって、VHドメインおよびVLドメインが連結されている単鎖Fv分子(「scFv」);(viii)二重特異性単鎖Fv二量体(米国特許第5,091,513号を参照すること);ならびに(ix)遺伝子融合によって構築された多価または多重特異性の断片であるダイアボディ(diabodies)(米国特許公開第20050214860号):が含まれる。Fv、scFv、またはダイアボディ分子は、VHドメインおよびVLドメインを連結するジスルフィド架橋の組み入れによって安定化され得る。CH3ドメインに接合されたscFvを含むミニボディ(Minibodies)も作成され得る。
【0038】
抗体様結合ペプチド模倣体(peptidomimetics)も、態様において企図される。切り詰められた抗体として作用し、より長い血清半減期およびより簡便な合成方法といういくつかの利点を有するペプチドである「抗体様結合ペプチド模倣体」(ABiP)は、Liu et al.(2003)によって記載されている。
【0039】
リン酸化ダイサー1に特異的な抗体を作製するためには、リン酸化ダイサー1ペプチドのような抗原を、動物に接種することができる。しばしば、抗原は、免疫応答を増強するため、他の分子と結合させられるか、またはコンジュゲートされる。本明細書において使用されるように、コンジュゲートとは、動物における免疫応答を誘発するために使用される抗原と結合した任意のペプチド、ポリペプチド、タンパク質、または非タンパク質性物質である。抗原接種に応答して動物において産生される抗体は、多様な個々の抗体産生Bリンパ球から作成された多様な非同一の分子(ポリクローナル抗体)を含む。ポリクローナル抗体は、抗体種の混合集団であり、各抗体種は、同一抗原上の異なるエピトープを認識することができる。動物におけるポリクローナル抗体産生のための正確な条件が与えられれば、動物の血清中の抗体の大部分が、動物が免疫された抗原性化合物の集合的なエピトープを認識するであろう。関心対象の抗原またはエピトープを認識する抗体のみを選択するため、この特異性を、アフィニティ精製によってさらに増強することができる。
【0040】
モノクローナル抗体は、全ての抗体産生細胞が単一のBリンパ球株に由来するため、全ての抗体分子が同一のエピトープを認識する、単一の抗体種である。モノクローナル抗体(MAb)を生成する方法は、一般に、ポリクローナル抗体の調製と同一の手順に沿って開始する。いくつかの態様において、マウスおよびラットのようなげっ歯類が、モノクローナル抗体の生成において使用される。いくつかの態様において、ウサギ、ヒツジ、またはカエルの細胞が、モノクローナル抗体の生成において使用される。ラットの使用は、周知であり、ある種の利点を提供することができる。マウス(例えば、BALB/cマウス)は、慣例的に使用されており、一般に、安定的な融合の高い百分率を与える。
【0041】
ハイブリドーマテクノロジーは、ダイサー抗原によって事前に免疫されたマウスに由来する単一のBリンパ球の、不死化された骨髄腫細胞(一般的には、マウス骨髄腫)との融合を含む。このテクノロジーは、同一の抗原またはエピトープに対する特異性を有する構造的に同一の抗体(モノクローナル抗体)が、無限の量、産生され得るよう、無期限の世代数にわたり、単一の抗体産生細胞を増大させる方法を提供する。
【0042】
免疫されたウサギの新鮮に調製されたウサギ末梢血単核細胞から、形質B細胞(CD45+CD5-CD19+)を単離し、リン酸化ダイサー結合細胞についてさらに選択することができる。抗体産生B細胞の濃縮の後、全RNAを単離し、cDNAを合成することができる。重鎖および軽鎖の両方に由来する抗体可変領域のDNA配列を増幅し、ファージディスプレイFab発現ベクターに構築し、大腸菌(E.coli)に形質転換することができる。複数回の濃縮パニングによって、リン酸化セリン1852ダイサー特異的結合Fabを選択し、配列決定することができる。選択されたダイサー結合ヒットを、ヒト胎児由来腎臓(HEK293)細胞(Invitrogen)において、哺乳動物発現ベクター系を使用して、ウサギ型およびウサギ/ヒトキメラ型の全長IgGとして発現させ、高速タンパク質液体クロマトグラフィ(FPLC)分離ユニットによって、プロテインG樹脂を使用して精製することができる。
【0043】
一つの態様において、抗体は、キメラ抗体、例えば、異種の非ヒト配列、ヒト配列、またはヒト化配列(例えば、フレームワーク配列および/または定常ドメイン配列)に接ぎ木された、非ヒトドナーに由来する抗原結合配列を含む抗体である。モノクローナル抗体の軽鎖および重鎖の定常ドメインをヒト起源の類似ドメインに交換し、外来抗体の可変領域はそのままにしておく方法が、開発されている。あるいは、「完全ヒト」モノクローナル抗体が、ヒト免疫グロブリン遺伝子についてトランスジェニックのマウスにおいて産生される。げっ歯類、例えば、マウス、およびヒトの両方のアミノ酸配列を有する抗体可変ドメインを、組換えによって構築することによって、モノクローナル抗体の可変ドメインを、よりヒト型に変換する方法も、開発されている。「ヒト化」モノクローナル抗体においては、超可変CDRのみが、マウスモノクローナル抗体に由来し、フレームワーク領域および定常領域は、ヒトアミノ酸配列に由来する(米国特許第5,091,513号および第6,881,557号を参照すること)。げっ歯類に特徴的な抗体内のアミノ酸配列を、ヒト抗体の対応する位置に見出されるアミノ酸配列に交換することは、治療的な使用における有害免疫反応の可能性を低下させると考えられる。ハイブリドーマまたは抗体を産生するその他の細胞は、ハイブリドーマによって産生される抗体の結合特異性を変更するかもしれないし、または変更しないかもしれない、遺伝子変異またはその他の変化を受けてもよい。
【0044】
様々な動物種においてポリクローナル抗体を作製する方法も、ヒト化、キメラ、および完全ヒトを含む様々な型のモノクローナル抗体を作製する方法も、当技術分野において周知であり、高度に予測可能である。例えば、以下の米国特許および特許出願は、そのような方法を実施可能にする説明を提供する:米国特許出願第2004/0126828号および第2002/0172677号;ならびに米国特許第3,817,837号;第3,850,752号;第3,939,350号;第3,996,345号;第4,196,265号;第4,275,149号;第4,277,437号;第4,366,241号;第4,469,797号;第4,472,509号;第4,606,855号;第4,703,003号;第4,742,159号;第4,767,720号;第4,816,567号;第4,867,973号;第4,938,948号;第4,946,778号;第5,021,236号;第5,164,296号;第5,196,066号;第5,223,409号;第5,403,484号;第5,420,253号;第5,565,332号;第5,571,698号;第5,627,052号;第5,656,434号;第5,770,376号;第5,789,208号;第5,821,337号;第5,844,091号;第5,858,657号;第5,861,155号;第5,871,907号;第5,969,108号;第6,054,297号;第6,165,464号;第6,365,157号;第6,406,867号;第6,709,659号;第6,709,873号;第6,753,407号;第6,814,965号;第6,849,259号;第6,861,572号;第6,875,434号;および第6,891,024号。本明細書中およびそれらの中に引用された全ての特許、特許出願公開、およびその他の刊行物が、参照によって本願に組み入れられる。
【0045】
抗体は、トリおよび哺乳動物を含む任意の動物起源から作製され得る。好ましくは、抗体は、ヒツジ、ネズミ(例えば、マウスおよびラット)、ウサギ、ヤギ、モルモット、ラクダ、ウマ、またはニワトリである。さらに、より新しい技術は、ヒトコンビナトリアル抗体ライブラリーの開発、およびそのライブラリーからのヒト抗体についてのスクリーニングを可能にする。例えば、参照によって本明細書中に組み入れられる米国特許第6,946,546号に記載されるように、バクテリオファージ抗体発現テクノロジーは、動物免疫の非存在下で特異的抗体が作製されることを可能にする。
【0046】
リン酸化ダイサーセリン1852に対する抗体は、抗体の起源が動物種であるか、モノクローナル細胞株であるか、またはその他であるかに関わらず、ダイサーリン酸化の効果を中和するかまたはそれに対抗する能力を有することが、完全に予想される。ある種の動物種は、抗体の「Fc」部分を通した補体系の活性化によって、アレルギー応答を引き起こす可能性がより高いため、治療用抗体の生成のために、より好ましくないかもしれない。しかしながら、完全抗体は、「Fc」(補体結合)断片と、結合ドメインまたはCDRを有する抗体断片とに、酵素的に消化され得る。Fc部分の除去は、抗原抗体断片が望ましくない免疫学的応答を誘発する可能性を低下させるため、Fcを含まない抗体は、予防的または治療的な処置のために優先的であり得る。前記のように、他の種において作製されたか、または他の種に由来する配列を有する抗体の、動物への投与に起因する有害な免疫学的結果を低下させるか、または排除するため、抗体は、キメラまたは部分的にもしくは完全にヒトであるよう構築されてもよい。
【0047】
置換バリアントは、典型的には、タンパク質内の1つまたは複数の部位に、あるアミノ酸の他のアミノ酸への交換を含有し、他の機能もしくは特性の喪失を伴い、またはそれを伴うことなく、ポリペプチドの1つまたは複数の特性をモジュレートするために設計され得る。置換は、保存的であり得、即ち、あるアミノ酸が、類似した形および電荷のものに交換される。保存的置換は、当技術分野において周知であり、例えば、アラニンからセリンへ;アルギニンからリジンへ;アスパラギンからグルタミンまたはヒスチジンへ;アスパラギン酸からグルタミン酸へ;システインからセリンへ;グルタミンからアスパラギンへ;グルタミン酸からアスパラギン酸へ;グリシンからプロリンへ;ヒスチジンからアスパラギンまたはグルタミンへ;イソロイシンからロイシンまたはバリンへ;ロイシンからバリンまたはイソロイシンへ;リジンからアルギニンへ;メチオニンからロイシンまたはイソロイシンへ;フェニルアラニンからチロシン、ロイシン、またはメチオニンへ;セリンからトレオニンへ;トレオニンからセリンへ;トリプトファンからチロシンへ;チロシンからトリプトファンまたはフェニルアラニンへ;およびバリンからイソロイシンまたはロイシンへ:の変化を含む。あるいは、置換は、ポリペプチドの機能または活性が影響を受けるような非保存的なものであってもよい。非保存的変化は、典型的には、極性または荷電アミノ酸の非極性または非荷電アミノ酸への置換、およびその逆のような、化学的に相違する残基同士の置換を含む。
【0048】
タンパク質は、組換え体、またはインビトロで合成されたものであり得る。あるいは、非組換えタンパク質または組換えタンパク質が、細菌から単離されてもよい。そのようなバリアントを含有する細菌が、組成物および方法において実装され得ることも企図される。従って、タンパク質は、単離されている必要はない。
【0049】
組成物中には、1ml当たり約0.001mg~約10mgの全ポリペプチド、ペプチド、および/またはタンパク質が存在することが企図される 従って、組成物中のタンパク質の濃度は、約0.001、0.010、0.050、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10.0mg/ml、もしくはそれ以上、少なくとも約0.001、0.010、0.050、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10.0mg/ml、もしくはそれ以上、または多くとも約0.001、0.010、0.050、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10.0mg/ml、もしくはそれ以上(またはこれらの中で導出可能な任意の範囲)であり得る。このうち、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、もしくは100%、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、もしくは100%、または多くとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、もしくは100%が、リン酸化ダイサー1と結合する抗体であり得る。
【0050】
抗体、好ましくは、抗体の免疫学的部分は、他のタンパク質と化学的にコンジュゲートされるか、または他のタンパク質との融合タンパク質として発現されてもよい。本明細書および添付の特許請求の範囲の目的のため、そのような融合タンパク質は、全て、抗体または抗体の免疫学的部分の定義に含まれる。
【0051】
態様は、抗体コンジュゲートまたはペイロードを形成するため、少なくとも1つの薬剤に連結された、ダイサーに対する抗体および抗体様分子、ポリペプチド、ならびにペプチドを提供する。診断剤または治療剤としての抗体分子の効力を増加させるため、少なくとも1つの所望の分子または基を連結するか、または共有結合で結合させるか、または複合体化することは、慣習的である。そのような分子または基は、少なくとも1つのエフェクター分子またはレポーター分子であり得るが、これらに限定されるわけではない。エフェクター分子には、所望の活性、例えば、細胞傷害活性を有する分子が含まれる。抗体に付着させられるエフェクター分子の非限定的な例には、毒素、治療用酵素、抗生物質、放射標識されたヌクレオチド等が含まれる。対照的に、レポーター分子は、アッセイを使用して検出され得る任意の基として定義される。抗体とコンジュゲートされるレポーター分子の非限定的な例には、酵素、放射標識、ハプテン、蛍光標識、リン光分子、化学発光分子、発色団、発光分子、光親和性分子、有色粒子、またはビオチンのようなリガンドが含まれる。
【0052】
抗体のコンジュゲート基への付着またはコンジュゲーションのためのいくつかの方法が、当技術分野において公知である。いくつかの付着方法は、例えば、抗体に付着したジエチレントリアミン五酢酸無水物(DTPA);エチレントリアミン四酢酸;N-クロロ-p-トルエンスルホンアミド;および/またはテトラクロロ-3-6-ジフェニルグリコウリル(diphenylglycouril)-3のような有機キレート剤を利用した金属キレート錯体の使用を含む。モノクローナル抗体を、グルタルアルデヒドまたは過ヨウ素酸塩のようなカップリング剤の存在下で、酵素と反応させることもできる。フルオレセインマーカーとのコンジュゲートは、これらのカップリング剤の存在下で、またはイソチオシアネートとの反応によって調製される。
【0053】
III.処置の方法
本態様のある種の局面は、ダイサーシグナリングに関連した疾患または障害を防止するか、または処置するために使用され得る。癌細胞増殖を防止するため、任意の適当な薬物によって、ダイサーのシグナリングを低下させることができる。好ましくは、そのような物質は、リン酸化ダイサー1抗体であろう。
【0054】
本発明の処置方法が有用である腫瘍には、固形腫瘍または血液腫瘍に見出されるもののような任意の悪性細胞型が含まれる。例示的な固形腫瘍には、膵臓、結腸、盲腸、胃、脳、頭部、頸部、卵巣、腎臓、喉頭、肉腫、肺、膀胱、黒色腫、前立腺、および乳房からなる群より選択される器官の腫瘍が含まれるが、これらに限定されるわけではない。例示的な血液腫瘍には、骨髄の腫瘍、T細胞またはB細胞の悪性疾患、白血病、リンパ腫、芽細胞腫、骨髄腫等が含まれる。本明細書中に提供される方法を使用して処置され得る癌のさらなる例には、肺癌(小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺腺癌、および肺扁平上皮癌を含む)、腹膜癌、胃癌(胃腸癌および胃腸間質癌を含む)、膵臓癌、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、乳癌、結腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌または子宮癌、唾液腺癌、腎臓癌、前立腺癌、外陰癌、甲状腺癌、様々な型の頭頸部癌、ならびに黒色腫が含まれるが、これらに限定されるわけではない。具体的な態様において、癌は乳癌である。
【0055】
癌は、具体的には、以下の組織学的型のものであり得るが、これらに限定されるわけではない:悪性新生物;癌腫;未分化癌腫;巨細胞癌および紡錘細胞癌;小細胞癌;胸膜肺芽腫、乳頭癌;扁平上皮癌;リンパ上皮癌;基底細胞癌;石灰化上皮腫;移行上皮癌;乳頭移行上皮癌;腺癌;悪性ガストリン産生腫瘍;胆管癌;肝細胞癌;混合型肝癌(combined hepatocellular carcinoma and cholangiocarcinoma);索状腺癌;腺様嚢胞癌;腺腫性ポリープの腺癌;腺癌、家族性大腸ポリポーシス;固形癌;悪性カルチノイド腫瘍;細気管支肺胞腺癌;乳頭状腺癌;嫌色素性癌;好酸性癌;好酸性腺癌;好塩基性癌;明細胞腺癌;顆粒細胞癌;濾胞腺癌;乳頭状および濾胞性腺癌;非被包性硬化性癌;副腎皮質癌;類内膜癌;皮膚付属器癌;アポクリン腺癌;皮脂腺癌;耳道腺癌;粘表皮癌;嚢胞腺癌;乳頭状嚢腺癌;乳頭状漿液性嚢胞腺癌;粘液性嚢胞腺癌;粘液癌;印環細胞癌;浸潤性乳管癌;髄様癌;小葉癌;炎症性癌;乳房パジェット病;腺房細胞癌;腺扁平上皮癌;扁平上皮化生を伴う腺癌;悪性胸腺腫;悪性卵巣間質腫瘍;悪性莢膜細胞腫;悪性顆粒膜細胞腫;悪性セルトリ間質細胞腫瘍;セルトリ細胞癌;悪性ライディッヒ細胞腫;悪性脂質細胞腫瘍(lipid cell tumor);悪性傍神経節腫;悪性乳房外傍神経節腫;褐色細胞腫;グロムス血管肉腫;悪性黒色腫;無色素性黒色腫;表在拡大型黒色腫;悪性黒子由来黒色腫;末端黒子型黒色腫;結節性黒色腫;巨大色素性母斑の悪性黒色腫;類上皮細胞黒色腫;悪性青色母斑;肉腫;線維肉腫;悪性線維性組織球腫;粘液肉腫;脂肪肉腫;平滑筋肉腫;横紋筋肉腫;胎児型横紋筋肉腫;胞巣型横紋筋肉腫;間質肉腫;悪性混合腫瘍;ミュラー管混合腫瘍;腎芽腫;肝芽腫;癌肉腫;悪性間葉腫;悪性ブレンナー腫瘍;悪性葉状腫瘍;滑膜肉腫;悪性中皮腫;未分化胚細胞腫;胎生期癌;悪性奇形腫;悪性卵巣甲状腺腫;絨毛癌;悪性中腎腫;血管肉腫;悪性血管内皮腫;カポジ肉腫;悪性血管外皮腫;リンパ管肉腫;骨肉腫;傍骨性骨肉腫;軟骨肉腫;悪性軟骨芽細胞腫;間葉系軟骨肉腫;骨巨細胞腫;ユーイング肉腫;悪性歯原性腫瘍;エナメル上皮歯牙肉腫;悪性エナメル上皮腫;エナメル上皮線維肉腫;悪性松果体腫;脊索腫;悪性神経膠腫;上衣腫;星細胞腫;原形質性星状細胞腫;線維性星状細胞腫;星状芽細胞腫;膠芽腫;乏突起神経膠腫;乏突起神経膠芽細胞腫;原始神経外胚葉性;小脳肉腫;神経節芽細胞腫;神経芽細胞腫;網膜芽細胞腫;嗅覚神経原性腫瘍;悪性髄膜腫;神経線維肉腫;悪性神経鞘腫;悪性顆粒細胞腫;悪性リンパ腫;ホジキン病;ホジキン側肉芽腫;小リンパ球性悪性リンパ腫;大細胞型びまん性悪性リンパ腫;濾胞性悪性リンパ腫;菌状息肉症;非特定型非ホジキンリンパ腫;B細胞リンパ腫;低グレード/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL);小リンパ球性(SL)NHL;中グレード/濾胞性NHL;中グレードびまん性NHL;高グレード免疫芽球性NHL;高グレードリンパ芽球性NHL;高グレード小型非切れ込み核細胞性NHL;巨大腫瘤病変NHL;マントル細胞リンパ腫;エイズ関連リンパ腫;ワルデンストレーム高ガンマグロブリン血症;悪性組織球増殖症;多発性骨髄腫;肥満細胞肉腫;免疫増殖性小腸疾患;白血病;リンパ性白血病;形質細胞性白血病;赤白血病;リンパ肉腫細胞性白血病;骨髄性白血病;好塩基球性白血病;好酸球性白血病;単球性白血病;マスト細胞性白血病;巨核芽球性白血病;骨髄肉腫;ヘアリーセル白血病;慢性リンパ球性白血病(CLL);急性リンパ芽球性白血病(ALL);急性骨髄性白血病(AML);ならびに慢性骨髄芽球性白血病。
【0056】
A.薬学的組成物
リン酸化ダイサー1抗体と薬学的に許容される担体とを含む薬学的組成物および製剤も、本明細書中に提供される。
【0057】
本明細書中に記載される薬学的組成物および製剤は、凍結乾燥製剤または水性溶液の形態で、所望の純度を有する(抗体またはポリペプチドのような)活性要素を、1つまたは複数の任意選択の薬学的に許容される担体と混合することによって調製され得る(Remington's Pharmaceutical Sciences 22nd edition,2012)。薬学的に許容される担体は、一般に、利用される投薬量および濃度でレシピエントに対して無毒であり、リン酸、クエン酸、およびその他の有機酸のような緩衝液;アスコルビン酸およびメチオニンを含む抗酸化剤;(オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノールアルコール、ブチルアルコール、またはベンジルアルコール;メチルパラベンもしくはプロピルパラベンのようなアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾールのような)保存剤;低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、もしくは免疫グロブリンのようなタンパク質;ポリビニルピロリドンのような親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、もしくはリジンのようなアミノ酸;単糖、二糖、およびその他の炭水化物、例えば、グルコース、マンノース、もしくはデキストリン;EDTAのようなキレート剤;ショ糖、マンニトール、トレハロース、もしくはソルビトールのような糖;ナトリウムのような塩形成対イオン;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);ならびに/またはポリエチレングリコールのような非イオン性界面活性剤(PEG)を含むが、これらに限定されるわけではない。例示的な薬学的に許容される担体には、本明細書において、ヒト可溶性PH-20ヒアルロニダーゼ糖タンパク質(sHASEGP)のような間質薬物分散剤、例えば、rHuPH20(HYLENEX(登録商標)、Baxter International,Inc.)のような可溶性中性活性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質がさらに含まれる。1つの局面において、sHASEGPは、コンドロイチナーゼのような1つまたは複数の付加的なグリコサミノグリカナーゼと組み合わせられる。
【0058】
B.組み合わせ治療
ある種の態様において、本態様の組成物および方法は、少なくとも1つの付加的な治療と組み合わせて、pダイサー1抗体を含む。付加的な治療は、放射線治療、手術(例えば、乳腺腫瘍摘出術および乳房切除術)、化学療法、遺伝子治療、DNA治療、ウイルス治療、RNA治療、免疫治療、骨髄移植、ナノセラピー、モノクローナル抗体治療、またはそれらの組み合わせであり得る。付加的な治療は、補助治療またはネオアジュバント治療の形態であり得る。
【0059】
いくつかの態様において、付加的な治療は、低分子酵素阻害剤または抗転移剤の投与である。いくつかの態様において、付加的な治療は、副作用制限剤(例えば、抗悪心剤等のような、処置の副作用の発生および/または重症度を減らすことを目的とした薬剤)の投与である。いくつかの態様において、付加的な治療は、放射線治療である。いくつかの態様において、付加的な治療は、手術である。いくつかの態様において、付加的な治療は、放射線治療および手術の組み合わせである。いくつかの態様において、付加的な治療は、γ線照射である。いくつかの態様において、付加的な治療は、PBK/AKT/mTORパスウェイを標的とする治療、HSP90阻害剤、チューブリン阻害剤、アポトーシス阻害剤、および/または化学予防(chemopreventative)剤である。付加的な治療は、当技術分野において公知の化学療法剤のうちの1つまたは複数であり得る。
【0060】
pダイサー1抗体は、免疫チェックポイント治療のような付加的な癌治療と比べて、前、途中、後、または様々な組み合わせで投与され得る。投与は、同時から数分、数日、数週までの範囲の間隔であり得る。免疫細胞治療が付加的な治療剤とは別に患者へ提供される態様においては、一般に、2つの化合物が患者に対して有利に組み合わせられた効果を発揮することができるよう、各送達の時点の間に有意な期間が経過しないことが確実にされる。そのような事例において、相互の約12~24または72時間以内、より具体的には、相互の約6~12時間以内に、抗体治療および抗癌治療が患者に提供され得ることが企図される。いくつかの状況において、処置の期間を有意に延長し、それぞれの投与の間に数日(2、3、4、5、6、または7日)~数週(1、2、3、4、5、6、7、または8週)を置くことが望ましいかもしれない。
【0061】
様々な組み合わせが利用され得る。下記の例について、pダイサー1抗体が「A」であり、抗癌治療が「B」である:
【0062】
本態様の化合物または治療の患者への投与は、薬剤の毒性がある場合には、それを考慮に入れて、そのような化合物の投与のための一般的なプロトコルに従うであろう。従って、いくつかの態様において、組み合わせ治療に起因する毒性をモニタリングする工程が存在する。
【0063】
1.化学療法
極めて多様な化学療法剤が、本態様に従って使用され得る。化学療法剤の例には、アルキル化剤、例えば、チオテパおよびシクロホスファミド;アルキルスルホネート、例えば、ブスルファン、インプロスルファン、およびピポスルファン;アジリジン、例えば、ベンゾドパ(benzodopa)、カルボコン、メツレドパ(meturedopa)、およびウレドパ(uredopa);エチレンイミンおよびメチラメラミン(methylamelamines)、例えば、アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスホラミド、およびトリメチロロメラミン(trimethylolomelamine);アセトゲニン(具体的には、ブラタシンおよびブラタシノン(bullatacinone));カンプトテシン(例えば、合成類似体トポテカン);ブリオスタチン;カリスタチン(callystatin);CC-1065(例えば、そのアドゼレシン、カルゼレシン(carzelesin)、およびビセレシン合成類似体);クリプトフィシン(具体的には、クリプトフィシン1およびクリプトフィシン8);ドラスタチン;デュオカルマイシン(例えば、合成類似体、KW-2189およびCB1-TM1);エリュテロビン;パンクラチスタチン(pancratistatin);サルコジクチイン(sarcodictyin);スポンジスタチン(spongistatin);ナイトロジェンマスタード、例えば、クロラムブシル、クロルナファジン(chlornaphazine)、コロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシド塩酸塩、メルファラン、ノベンビシン(novembichin)、フェネステリン(phenesterine)、プレドニムスチン、トロホスファミド、およびウラシルマスタード;ニトロソウレア、例えば、カルムスチン、クロロゾトシン(chlorozotocin)、ホテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、およびラニムスチン;抗生物質、例えば、エンジイン抗生物質(例えば、カリチアマイシン、具体的には、カリチアマイシンγlIおよびカリチアマイシンωI1);ダイネミシン、例えば、ダイネミシン(dynemicin)A;ビスホスホネート、例えば、クロドロン酸;エスペラミシン;ネオカルジノスタチンクロモフォアおよび関連する色素タンパク質エンジイン抗生物質発色団、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、アウスラマイシン(authramycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン(cactinomycin)、カラビシン(carabicin)、カルミノマイシン(carminomycin)、カルジノフィリン(carzinophilin)、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン(detorubicin)、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン(例えば、モルホリノ-ドキソルビシン、シアノモルホリノ-ドキソルビシン、2-ピロリノ(pyrrolino)-ドキソルビシン、およびデオキシドキソルビシン)、エピルビシン、エソルビシン(esorubicin)、イダルビシン、マーセロマイシン(marcellomycin)、マイトマイシン、例えば、マイトマイシンC、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、ケラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、およびゾルビシン;代謝拮抗薬、例えば、メトトレキサートおよび5-フルオロウラシル(5-FU);葉酸類似体、例えば、デノプテリン(denopterin)、プテロプテリン(pteropterin)、およびトリメトレキサート(trimetrexate);プリン類似体、例えば、フルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン(thiamiprine)、およびチオグアニン;ピリミジン類似体、例えば、アンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、およびフロクスウリジン;アンドロゲン、例えば、カルステロン(calusterone)、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、およびテストラクトン;抗副腎(anti-adrenals)、例えば、ミトタンおよびトリロスタン;葉酸補充薬、例えば、フロリン(frolinic)酸;アセグラトン;アルドホスファミド配糖体;アミノレブリン酸;エニルウラシル;アムサクリン;ベストラブシル(bestrabucil);ビサントレン(bisantrene);エダトラキサート(edatraxate);デフォファミン(defofamine);デメコルチン;ジアジコン(diaziquone);エルフォルミチン(elformithine);エリプチニウム(elliptinium)酢酸塩;エポチロン;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダイニン(lonidainine);マイタンシノイド、例えば、マイタンシンおよびアンサミトシン(ansamitocins);ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダンモール(mopidanmol);ニトラエリン(nitraerine);ペントスタチン;フェナメット(phenamet);ピラルビシン;ロソキサントロン(losoxantrone);ポドフィリン(podophyllinic)酸;2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK多糖複合体;ラゾキサン;リゾキシン(rhizoxin);シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジコン;2,2',2"-トリクロロトリエチルアミン;トリコテシン(具体的には、T-2毒素、ベラキュリン(verracurin)A、ロリジン(roridin)A、およびアンギジン(anguidine));ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara-C」);シクロホスファミド;タキソイド、例えば、パクリタクセルおよびドセタキセル・ゲムシタビン;6-チオグアニン;メルカプトプリン;白金配位化合物、例えば、シスプラチン、オキサリプラチン、およびカルボプラチン;ビンブラスチン;白金;エトポシド(VP-16);イホスファミド;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ノバントロン(novantrone);テニポシド;エダトレキサート;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼローダ;イバンドロン酸;イリノテカン(例えば、CPT-11);トポイソメラーゼ阻害剤RFS 2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイド、例えば、レチノイン酸;カペシタビン;カルボプラチン、プロカルバジン、プリコマイシン(plicomycin)、ゲムシタビエン(gemcitabien)、ナベルビン、ファルネシルタンパク質トランスフェラーゼ阻害剤、トランスプラチナ(transplatinum)、ならびにこれらのうちのいずれかの薬学的に許容される塩、酸、または誘導体が含まれる。
【0064】
2.放射線治療
広範囲に使用されている、DNA傷害を引き起こすその他の因子には、一般的に、γ線、X線として公知であるもの、および/または放射性同位体の腫瘍細胞への定方向送達が含まれる。マイクロ波、陽子線照射、およびUV照射のような、DNA傷害因子のその他の型も、企図される。これらの因子は、全て、DNA、DNAの前駆体、DNAの複製および修復、ならびに染色体の組み立ておよび維持に対して広範囲の傷害を与える可能性が最も高い。X線の線量範囲は、長期間(3~4週間)の場合の50~200レントゲンの1日線量から、2000~6000レントゲンの単回線量までの範囲である。放射性同位体の線量範囲は、広く変動し、同位体の半減期、放射される放射線の強度および型、ならびに新生物細胞による取り込みに依る。
【0065】
3.免疫治療
当業者は、本態様の方法と組み合わせて、または共に、免疫治療を使用してもよいことを理解するであろう。癌処置に関して、免疫治療薬は、一般に、癌細胞を標的とし、破壊するための、免疫エフェクター細胞および分子の使用に頼る。リツキシマブ(RITUXAN(登録商標))は、そのような例である。免疫エフェクターは、例えば、腫瘍細胞の表面上のいくつかのマーカーに特異的な抗体であり得る。抗体は、単独で、治療のエフェクターとして役立つかもしれないし、または細胞死滅を実際にもたらす他の細胞をリクルートするかもしれない。抗体は、薬物または毒素(化学療法薬、放射性核種、リシンA鎖、コレラ毒素、百日咳毒素等)にコンジュゲートされ、ターゲティング剤として役立つこともできる。あるいは、エフェクターは、腫瘍細胞標的と直接または間接的に相互作用する表面分子を保持するリンパ球であり得る。様々なエフェクター細胞には、細胞傷害性T細胞およびNK細胞が含まれる。
【0066】
抗体薬物コンジュゲート(ADC)は、細胞を死滅させる薬物に共有結合で連結されたモノクローナル抗体(MAb)を含み、組み合わせ治療において使用され得る。このアプローチは、抗原標的に対するMAbの高い特異性を、高度に強力な細胞傷害性薬物と組み合わせ、濃縮された抗原レベルを有する腫瘍細胞にペイロード(薬物)を送達する「アームド(armed)」MAbをもたらす。薬物の標的特異的送達は、正常組織における曝露も最小化し、毒性の減少および治療指数の改善をもたらす。例示的なADC薬には、ADCETRIS(登録商標)(ブレンツキシマブ・ベドチン)およびKADCYLA(登録商標)(トラスツズマブ・エムタンシンまたはT-DM1)が含まれる。
【0067】
免疫治療の一つの局面において、腫瘍細胞は、標的とすることが可能な、即ち、他の細胞の大多数には存在しない何らかのマーカーを保持していなければならない。多くの腫瘍マーカーが存在し、これらのうちの任意のものが、本態様に関して、標的とするために適当であり得る。一般的な腫瘍マーカーには、CD20、癌胎児性抗原、チロシナーゼ(p97)、gp68、TAG-72、HMFG、シアリルルイス抗原、MucA、MucB、PLAP、ラミニン受容体、erb B、erb b2、およびp155が含まれる。免疫治療の別の局面は、抗癌効果を免疫刺激効果と組み合わせることである。免疫刺激分子、例えば、IL-2、IL-4、IL-12、GM-CSF、γIFNのようなサイトカイン、MIP-1、MCP-1、IL-8のようなケモカイン、およびFLT3リガンドのような増殖因子も存在する。
【0068】
免疫治療の例には、免疫アジュバント、例えば、マイコバクテリウム・ボビス(Mycobacterium bovis)、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)、ジニトロクロロベンゼン、および芳香族化合物;サイトカイン治療、例えば、IL-1、GM-CSF、およびTNF;遺伝子治療、例えば、TNF、IL-1、IL-2、およびp53;ならびにモノクローナル抗体、例えば、抗CD20、抗ガングリオシドGM2、および抗p185が含まれる。1つまたは複数の抗癌治療が、本明細書中に記載された抗体治療と共に利用され得ることが、企図される。
【0069】
いくつかの態様において、免疫治療は、免疫チェックポイント阻害剤であり得る。免疫チェックポイントは、シグナルを高くするか(例えば、共刺激分子)、またはシグナルを低くする。免疫チェックポイント阻止によって標的とされ得る阻害性免疫チェックポイントには、アデノシンA2A受容体(A2AR)、B7-H3(CD276としても公知)、BおよびTリンパ球アテニュエータ(B and T lymphocyte attenuator/BTLA)、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA-4、CD152としても公知)、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)、キラー細胞免疫グロブリン(KIR)、リンパ球活性化遺伝子3(LAG3)、プログラム細胞死1(PD-1)、T細胞免疫グロブリン・ムチンドメイン3(T-cell immunoglobulin and mucin domain 3/TIM-3)、およびT細胞活性化のVドメインIgサプレッサー(V-domain Ig suppressor of T cell activation/VISTA)が含まれる。具体的には、免疫チェックポイント阻害剤は、PD-1軸および/またはCTLA-4を標的とする。
【0070】
免疫チェックポイント阻害剤は、低分子のような薬物、組換え型のリガンドもしくは受容体であってよく、または、具体的には、ヒト抗体のような抗体である。免疫チェックポイントタンパク質の公知の阻害剤またはそれらの類似体が使用されてよく、具体的には、キメラ型、ヒト化型、またはヒト型の抗体が使用されてよい。当業者に公知であるように、本開示において言及されたある種の抗体について、別のかつ/または同義の名称が使用され得る。そのような別のかつ/または同義の名称は、本開示に関して交換可能である。例えば、ランブロリズマブは、MK-3475およびペムブロリズマブという別のかつ/または同義の名称でも公知であることが公知である。
【0071】
いくつかの態様において、PD-1結合アンタゴニストは、PD-1のリガンド結合パートナーとの結合を阻害する分子である。具体的な局面において、PD-1リガンド結合パートナーは、PDL1および/またはPDL2である。他の態様において、PDL1結合アンタゴニストは、PDL1の結合パートナーとの結合を阻害する分子である。具体的な局面において、PDL1結合パートナーは、PD-1および/またはB7-1である。他の態様において、PDL2結合アンタゴニストは、PDL2の結合パートナーとの結合を阻害する分子である。具体的な局面において、PDL2結合パートナーは、PD-1である。アンタゴニストは、抗体、その抗原結合断片、イムノアドヘシン、融合タンパク質、またはオリゴペプチドであり得る。
【0072】
いくつかの態様において、PD-1結合アンタゴニストは、抗PD-1抗体(例えば、ヒト抗体、ヒト化抗体、またはキメラ抗体)である。いくつかの態様において、抗PD-1抗体は、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、およびCT-011からなる群より選択される。いくつかの態様において、PD-1結合アンタゴニストは、イムノアドヘシン(例えば、定常領域(例えば、免疫グロブリン配列のFc領域)と融合したPDL1またはPDL2の細胞外部分またはPD-1結合部分を含むイムノアドヘシン)である。いくつかの態様において、PD-1結合アンタゴニストは、AMP-224である。MDX-1106-04、MDX-1106、ONO-4538、BMS-936558、およびOPDIVO(登録商標)としても公知のニボルマブが、使用され得る抗PD-1抗体である。MK-3475、Merck 3475、ランブロリズマブ、KEYTRUDA(登録商標)、およびSCH-900475としても公知のペムブロリズマブが、例示的な抗PD-1抗体である。hBATまたはhBAT-1としても公知のCT-011も、抗PD-1抗体である。B7-DCIgとしても公知のAMP-224は、PDL2-Fc融合可溶性受容体である。
【0073】
本明細書中に提供される方法において標的とされ得る他の免疫チェックポイントは、CD152としても公知の細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA-4)である。ヒトCTLA-4の完全なcDNA配列は、Genbankアクセッション番号L15006を有する。CTLA-4は、T細胞の表面上に見出され、抗原提示細胞の表面上のCD80またはCD86に結合した時、「オフ」スイッチとして作用する。CTLA4は、ヘルパーT細胞の表面上に発現される免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーであり、T細胞に阻害シグナルを伝達する。CTLA4は、T細胞共刺激タンパク質CD28に類似しており、両方の分子が、抗原提示細胞上の、それぞれ、B7-1およびB7-2とも呼ばれるCD80およびCD86と結合する。CTLA4はT細胞に阻害シグナルを伝達するが、CD28は刺激シグナルを伝達する。細胞内CTLA4も、制御性T細胞に見出され、それらの機能のために重要であり得る。T細胞受容体およびCD28を通したT細胞活性化は、B7分子の阻害性受容体CTLA-4の発現の増加をもたらす。
【0074】
いくつかの態様において、免疫チェックポイント阻害剤は、抗CTLA-4抗体(例えば、ヒト抗体、ヒト化抗体、もしくはキメラ抗体)、それらの抗原結合断片、イムノアドヘシン、融合タンパク質、またはオリゴペプチドである。
【0075】
本発明の方法において使用するために適当な抗ヒトCTLA-4抗体(またはそれに由来するVHドメインおよび/もしくはVLドメイン)は、当技術分野において周知の方法を使用して生成され得る。あるいは、当技術分野において認識されている抗CTLA-4抗体を使用することができる。例示的な抗CTLA-4抗体は、(10D1、MDX-010、MDX-101、およびYervoy(登録商標)としても公知の)イピリムマブまたはその抗原結合断片およびバリアントである。他の態様において、抗体は、イピリムマブの重鎖および軽鎖のCDRまたはVRを含む。従って、一つの態様において、抗体は、イピリムマブのVH領域のCDR1ドメイン、CDR2ドメイン、およびCDR3ドメイン、ならびにイピリムマブのVL領域のCDR1ドメイン、CDR2ドメイン、およびCDR3ドメインを含む。他の態様において、抗体は、前述の抗体と同一のCTLA-4上のエピトープとの結合について競合し、かつ/または結合する。他の態様において、抗体は、前述の抗体との少なくとも約90%の可変領域アミノ酸配列同一性(例えば、イピリムマブとの少なくとも約90%、95%、または99%の可変領域同一性)を有する。
【0076】
4.手術
癌を有する者のおよそ60%が、予防手術、診断または病期決定のための手術、根治手術、および緩和手術を含む、何らかの型の手術を受ける。根治手術は、癌組織の全部または一部が物理的に除去され、切り取られ、かつ/または破壊される切除を含み、本態様の処置、化学療法、放射線治療、ホルモン治療、遺伝子治療、免疫治療、および/または代替療法のような他の治療と共に使用され得る。腫瘍切除とは、腫瘍の少なくとも一部の物理的な除去をさす。腫瘍切除に加えて、手術による処置には、レーザー手術、凍結手術、電気手術、および顕微鏡下手術(モース術)が含まれる。
【0077】
癌細胞、組織、または腫瘍の一部または全部の切り取りによって、体内に腔が形成され得る。処置は、付加的な抗癌治療による区域の灌流、直接注射、または局所適用によって達成され得る。そのような処置は、例えば、1、2、3、4、5、6、もしくは7日毎、または1、2、3、4、および5週毎、または1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、もしくは12ヶ月毎に繰り返され得る。これらの処置は、変動する投薬量によってもよい。
【0078】
5.その他の薬剤
処置の治療効力を改善するため、その他の薬剤が、本態様のある種の局面と組み合わせて使用され得ることが企図される。これらの付加的な薬剤には、細胞表面受容体およびギャップ結合のアップレギュレーションに影響を与える薬剤、細胞分裂阻害剤および分化剤、細胞接着の阻害剤、過剰増殖性細胞のアポトーシス誘導因子に対する感受性を増加させる薬剤、またはその他の生物学的薬剤が含まれる。ギャップ結合の数を上昇させることによる細胞間シグナリングの増加は、近隣の過剰増殖性細胞集団に対する抗過剰増殖効果を増加させるであろう。他の態様において、処置の抗過剰増殖効力を改善するため、細胞分裂阻害剤または分化剤が、本態様のある種の局面と組み合わせて使用され得る。細胞接着の阻害剤は、本態様の効力を改善するため、企図される。細胞接着阻害剤の例は、接着斑キナーゼ(FAK)阻害剤およびロバスタチンである。
【0079】
IV.製品またはキット
pダイサー1抗体を含む製品またはキットも、本明細書中に提供される。製品またはキットは、個体における癌の進行を処置するかまたは遅延させるための抗体の使用についての説明を含むパッケージインサートをさらに含み得る。本明細書中に記載された抗体または組み合わせ治療のいずれかが、製品またはキットに含まれ得る。適当な容器には、例えば、ボトル、バイアル、バッグ、および注射器が含まれる。容器は、ガラス、(ポリ塩化ビニルもしくはポリオレフィンのような)プラスチック、または(ステンレス鋼もしくはハステロイのような)合金のような多様な材料から形成されていてよい。いくつかの態様において、容器は、製剤を保持し、容器上のまたは容器に関連したラベルは、使用法を示し得る。製品またはキットは、商業的見地および使用者見地から望ましいその他の材料、例えば、その他の緩衝液、希釈剤、フィルタ、針、注射器、および使用についての説明を含むパッケージインサートをさらに含んでいてよい。いくつかの態様において、製品は、1つまたは複数の他の薬剤(例えば、化学療法剤および抗新生物剤)をさらに含む。1つまたは複数の薬剤のための適当な容器には、例えば、ボトル、バイアル、バッグ、および注射器が含まれる。
【実施例】
【0080】
V.実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい態様を示すために含まれる。以下の実施例において開示される技術は、本発明の実施において良好に機能することが本発明者らによって発見された技術を表し、従って、その実施のための好ましいモードを構成すると見なされ得ることが、当業者によって認識されるべきである。しかしながら、本開示を考慮すれば、開示された具体的な態様に多くの変化を施しても、本発明の本旨および範囲から逸脱することなく、同様のまたは類似した結果を得ることができることを、当業者は認識するべきである。
【0081】
実施例1 - ダイサー1リン酸化の役割
虫およびマウスにおいて、セリン1705または1712およびセリン1833または1836におけるダイサー1リン酸化ならびに核転位は、KRasシグナリングパスウェイの下流のErkによって媒介される(Drake et al.,2014)。特に、マウスにおけるセリン1836におけるリン酸化は、核転位をもたらし、マウスの老化を加速するために十分である。(マウスにおけるセリン1836に対応する)セリン1852におけるヒト腫瘍におけるダイサー1リン酸化が、腫瘍進行と相関するか否かを決定するため、組織マイクロアレイにおいて、抗ホスホSer1852-ダイサー1(クローン25)およびホスホERKを使用した免疫組織化学によって、増加したKRASまたはホルモンシグナリングを有する54の類内膜子宮内膜癌において、ダイサー1リン酸化状態を調査した。ダイサー1の喪失を有する子宮内膜腫瘍が得られなかったため、ヒト腫瘍における抗ホスホSer1852-ダイサー1、クローン25抗体の特異性をさらに試験するため、ダイサー1症候群患者に由来する2つの胸膜肺芽腫(PPB)腫瘍を最初に試験した。ダイサー1は、肺上皮には存在しないが、間葉において陽性であり、生殖細胞系列ダイサー1変異を保持する患者から調べた(ここで試験された2つの腫瘍を含む)7例のうちの6例において、PPBに関連していることが見出された(Hill et al.,2009)。リン酸化されたセリン1852を認識するホスホSer1852-ダイサー1(クローン25)抗体は、PPB肺腫瘍の間葉を陽性に染色し、上皮においては陰性であり(
図1A)、このことから、ヒト腫瘍において、ホスホSer1852-ダイサー1クローン25がダイサー1タンパク質に特異的であることが証明された。さらに、以前に示されたように、セリン1852におけるリン酸化によって、ダイサー1は核内に存在するようになった。
【0082】
次いで、事前のマイクロサテライト不安定性分析(Billingsley et al.,2015)に基づき、完全なDNAミスマッチ修復(MMR)を呈した54の類内膜腫瘍をアッセイするため、この抗体が使用され、従って、MMR依存性の遺伝学的またはエピジェネティックな変化は、これらの腫瘍において、分子分析に影響を及ぼさないと予想された。さらに、完全なMMRパスウェイを有する類内膜腫瘍は、しばしばPOLE変異に関連しているダイサー1変異を呈しない(Billingsley et al.,2015)。これらの腫瘍におけるホスホダイサー1の状態を調査するため、リン酸化されたセリン1852を認識するホスホSer1852-ダイサー1(クローン25)を使用した(
図1B~C)。細胞の>10%がホスホダイサーまたはホスホERKシグナルを有する各腫瘍を、陽性と呼んだ(
図1B)。類内膜腫瘍の63%(32/51)(各腫瘍について調査された5つのコアのうち>2つが失われたため、3例は評価されなかった)が、ホスホダイサー1陽性であることが観察された(
図1B)。全体として、ホスホダイサー陽性であった腫瘍の84%(27/32)が、ホスホERKについても陽性であり、5つが、ホスホERK陰性であった(核内または細胞質内のいずれか)。ホスホダイサー陽性細胞の分布は、ホスホERKと完全にはオーバーラップせず、それは、異なるホスファターゼの存在によるホスホERK代謝回転 対 ホスホダイサー代謝回転の動力学を示しているかもしれない。ホスホダイサー1陽性であった5つの腫瘍が、ホスホERKについては陽性シグナル(細胞の>10%)を有していなかった。これは、ダイサー1が付加的なMAPKによってリン酸化されること、またはホスホダイサー1の持続時間がホスホERKより長いことを示すかもしれない。類内膜子宮内膜癌におけるホスホダイサー1レベルと臨床病理学的特色との関係を解析するため、細胞の50%未満がホスホダイサー1を有する各腫瘍を、ダイサー1リン酸化について「軽度~中程度」として分類し(n=35)、細胞の50%超がホスホダイサー1を有する腫瘍を、ダイサー1について「高度」として分類した(n=16)。高度ホスホダイサー1は、より低いボディ・マス・インデックス(p=0.002)および深い子宮筋浸潤(p=0.03)と関連していた(
図1D、表1)。さらに、リンパ管空間浸潤の存在(p=0.06)が、高度ホスホダイサー1を有する腫瘍において、より高い傾向もあった。深い子宮筋浸潤および増加したリンパ管空間浸潤は、これらの癌における転帰不良の特色である。総合すると、これらのデータは、核内リン酸化ダイサー1の存在が、子宮内膜腫瘍浸潤と相関することを示している。
【0083】
(表1)腫瘍のホスホダイサー1状態と人口統計学的変数および臨床病理学的変数との関連
*フィッシャー直接確率法
BMI(ボディ・マス・インデックス)データは3例について欠けている。LVSI(リンパ管空間浸潤)
【0084】
リン酸化ダイサー1がインビボで腫瘍進行を駆動し得るか否かを決定するため、リン酸化を模倣し、ホスファターゼによる脱リン酸を受けないタンパク質を与える、(ヒトセリン1728および1852に対応する)Ser1712およびSer1836のアスパラギン酸への交換によって、「恒常的リン酸化」のモデルであるダイサー1ノックインマウスモデルを生成した。ダイサー1のセリン1712および1836を、内在性遺伝子座においてアスパラギン酸に交換した(ダイサー2SD)。ヒト腫瘍において観察された長期的な恒常的リン酸化を模倣するため、両方のセリンをマウスモデルにおいて交換した。ダイサー1のリン酸化模倣変異のホモ接合性は、高浸透率の生後致死(78%)をもたらし、少数の生存マウスは、不妊であり、老化促進表現型を示す。しかしながら、ヘテロ接合性変異体は、表現型的に正常であった。
【0085】
ホスホダイサー1が腫瘍に存在するという観察を考慮して、ホスホダイサー1が、2つの独立した癌モデルにおいて腫瘍進行をモジュレートし得るか否かを調査した。ホモ接合性変異体によって示された発達致死とは独立に、癌表現型を査定するため、KRas+/LA1およびp53+/-変異を保持する2つの異なる癌モデルにおいて、ヘテロ接合性ダイサー2SDマウスを使用した。
【0086】
KRasLA1対立遺伝子は、野生型対立遺伝子または変異対立遺伝子のいずれかを与える、重複エクソン1(10
-3~10
-7細胞)の自然組換えを受けるKRasG12D変異を含有する重複エクソン1からなる(Johnson et al.,2001)。このモデルは、1週齢から始まる完全に浸透性の多発性肺癌およびマウスの背景によって変動する低頻度の胸腺リンパ腫を発生させる。ダイサー1のヘテロ接合性は、KRasG12D病変と協力して、マウスにおける肺癌発症を駆動するため、この腫瘍モデルを選択し;ヘテロ接合性ダイサー2SDがKRAS対立遺伝子を悪化させるか否かをアッセイした。1つのリン酸化模倣ダイサー1対立遺伝子は、恒常的にリン酸化されたダイサー1タンパク質を生成し、第2は、リン酸化によってKRASによって制御され得る(Kumar et al.,2009)。この背景において、KRas+/LA1;ダイサー+/2SDマウスは、広スペクトルの腫瘍を発症し、研究の400日終点において中央齢に達しなかったKRas+/LA1マウスと比較して、有意に低下した353日という中央生存期間を有した(p=0.03、
図2A)。KRas+/LA1マウスは肺腺腫/腺癌のみを発症した(16/17)。KRas+/LA1;ダイサー+/2SDマウスも、肺腺癌も発症した(21/24);しかしながら、マウスの58%(14/24)が、二次腫瘍を発症し、それには、21%リンパ腫(5/24、肺腺癌を有しない3匹の動物を含む)、25%組織球性肉腫(6/24)、および各1匹の肝細胞癌、中皮腫、内皮細胞腫瘍、血管肉腫、および血管腫が含まれていた(
図2Bおよび2C)。注目すべきことに、KRas+/LA1;ダイサー+/2SDマウスに由来するリンパ腫および組織球性肉腫は、全ての影響を受けたマウスにおいて、肺、肝臓、心臓、腎臓、脾臓、および胸腺を含む複数の器官に播種した(
図2C)。1匹のKRas+/LA1;ダイサー+/2SDマウスにおいては、肺腺癌が、腎臓および心臓に転移した(
図4)。
【0087】
リン酸化模倣ダイサー1タンパク質が恒常的にリン酸化されたタンパク質としての挙動を示すか否かを決定するため、ホスホダイサー1を使用した免疫蛍光を、遺伝子型の各々に由来する肺組織の各々において実施した。ヘテロ接合性のダイサーS2D対立遺伝子またはKRAS LA1対立遺伝子については、ホスホダイサーシグナルがほぼ存在しない(
図2D)。予想通り、ホモ接合性ダイサーS2D肺細胞は、抗体によって100%の陽性シグナルを示し、ホスホダイサーシグナルを有する全ての細胞が、核移行を示した。KRas+/LA1;ダイサー+/2SD肺切片は、細胞の70%超が、核内に存在し、陽性シグナルを有するホスホダイサー(マウスリン酸化ダイサー1タンパク質に対するポリクローナル抗体)を有することを明らかにし、このことから、このモデルにおいて、KRASシグナリングの増加が、ダイサーのリン酸化の増加および核転位をもたらすことが示された(
図2E)。これらの結果は、リン酸化模倣ダイサー1が、腫瘍形成性KRasG12Dと協力して、広スペクトルの腫瘍および転移をもたらすことを示した。
【0088】
TP53喪失は、多くのヒト腫瘍においてダイサー1変異およびKRASパスウェイの活性化に関連している(Kumar et al.,2009;Pugh et al.,2014;Rakheja et al.,2014)。次に、リン酸化ダイサー1がp53ヘテロ接合性の情況において腫瘍形成を促進するために十分であるか否かを試験するため、骨肉腫およびリンパ腫を主に発症するp53+/-マウスに、ダイサー2SD対立遺伝子を導入した(Jacks,et al.,1994)。KRas+/LA1;ダイサー+/2SDモデルと類似して、p53+/-;ダイサー+/2SDマウス(n=32)は、この研究において使用された540日終点において中央齢に達しなかったp53+/-マウス(n=19)と比較して、低下した497日という中央生存期間を示した(p=0.07、
図3A)。
【0089】
さらに、p53+/-;ダイサー+/2SDマウスは、広スペクトルの腫瘍を示し、p53+/-マウスと比較して、有意に低下した無腫瘍生存を有した(p=0.03、
図3B)。p53+/-マウスの25%(3/12)と比較して、p53+/-;ダイサー+/2SDマウスの71%(15/21)が、腫瘍を発症した(
図3Bおよび3C)。骨肉腫(n=2)およびリンパ腫(n=1)のみを発症したp53+/-マウスとは対照的に、p53+/-;ダイサー+/2SDマウスにおける腫瘍のスペクトルには、骨肉腫(n=6)、リンパ腫(n=6)、組織球性肉腫(n=2)、血管肉腫、肺腺癌、肝細胞癌、精巣癌、および2つの未分化腫瘍が含まれていた(
図3D)。p53+/-;ダイサー+/2SDマウスの24%(5/24)が多発癌を示し、例えば、1匹のマウスは、骨肉腫、リンパ腫、および腺癌を発症した(
図3C~D)。興味深いことに、リンパ腫、組織球性肉腫、および精巣癌は、KRas+/LA1;ダイサー+/2SDマウスにおいて以前に観察されたように、多くの器官に播種した。p53+/-マウスは、多発癌を発症しなかった。
【0090】
翻訳後修飾されたダイサー1の腫瘍形成における役割は不明であった。本研究は、ダイサー1のリン酸化が、2つの異なる腫瘍形成性病変KRas+/LA1およびp53+/-と協力して、腫瘍形成の増加、多様な腫瘍スペクトル、および転移を駆動することを、初めて証明した。さらに、マウスの高い百分率における多発癌の発症は、ホスホダイサー1が、腫瘍の発症および播種において役割を果たすのみならず、腫瘍発症のために複数の細胞型を感作することを示す。最後に、モノクローナル抗ホスホセリン1852-ダイサー1抗体を使用したホスホダイサー1との相関とカップリングされた、マウスにおけるこれらの観察は、ヒトにおけるセリン1852におけるダイサー1リン酸化が、侵襲性子宮内膜癌と特に相関することを明らかにし、そのことは、恒常的なダイサー1リン酸化が、腫瘍の浸潤および転移を促進することを示している。
【0091】
実施例2 - 材料および方法
マウスの繁殖、維持、スクリーニング、および遺伝子型決定:マウスは、>90%C57BL/6背景において維持された。全てのマウス研究が、Institutional Animal Care and Use Committeeプロトコルに従って実施された。生存マウスを3週齢で離乳させ、耳生検材料を収集した。組織を、550Cで一晩、溶解緩衝液(1×PCR緩衝液、1%トリトンX、250μg/μlプロテイナーゼK)によって消化し、プロテイナーゼKを変性させるため、950Cで15分間、加熱した。標的とされた部位の1Kb領域を増幅するため、溶解された組織抽出物2μLをPCR反応のために使用した。PCR産物をゲル精製し、標的部位における挿入欠失を同定するため、サンガー配列決定した。
【0092】
リン酸化ダイサー1 Ser1852抗体:ヒト腫瘍においてインビボのリン酸化ダイサーを検出するため、ヒトダイサー1ペプチドVPR[pS]PVRELに対するマウスモノクローナル抗体を生成した。[pS]は、ヒトダイサー1のリン酸化されたセリン1852である。抗体は、以下のペプチド配列システイン-バリン-プロリン-アルギニン-ホスホセリン-プロリン-バリン-アルギニン-グルタミン酸-ロイシンを使用して、3匹のBALBCマウスのマウス肉趾への免疫を通して、MD Anderson Mouse Antibody Facilityにおいて生成された。モノクローナル抗体のための融合物を生成するため、KLHとのコンジュゲーションを可能にするため、システインがペプチドのC末端に付加された。5回の注射の後、マウスから採血し、ペプチドに対する応答を試験するため、ELISAアッセイにおいて血清を試験した。リンパ節を免疫応答性マウスから排液させ、形質細胞のマウス骨髄腫カウンターパートとの融合を実施した。融合物(細胞)を96穴プレートに播種し、9日後に、85クローンからの上清を選択し、ホスホダイサーSer1852ペプチド、非リン酸化ダイサー1 Ser1852ペプチド(このペプチドはセリンがリン酸化されていないという点を除き、ホスホペプチドSer 1852と同一である)、および抗体が負の電荷を有するリン酸化部位を検出しただけである可能性を除外するための対照として使用された異なるホスホペプチドに対してスクリーニングした。85クローンのうちの59が、pSer1852-ダイサー1ペプチドとの高~中程度の特異的結合を生じ、非リン酸化Ser1852-ダイサー1ペプチドまたはランダムホスホペプチドとの結合は生じなかった。次いで、2つのクローン、クローン番号25および124を、ダイサーヒト胎児由来腎臓細胞(HEK)に対する特異性について、免疫蛍光およびウエスタン分析を使用して試験した。クローン番号25は、リン酸化ヒトダイサー1に対して極めて高感度かつ特異的であり、セリン25におけるリン酸化は、核内のダイサー1を検出するために十分であった(線虫DCR-1エピトープに対して生成されたポリクローナルホスホダイサー抗体によって以前に示されたのと同様であった)。次いで、クローン番号25を、1mg/mlの濃度でモノクローナル抗体施設によって精製し、1:200希釈で免疫組織化学および免疫蛍光のために使用した。次いで、上皮においてはダイサー1陰性であるが、間葉においては陽性である胸膜肺芽腫患者に由来するヒト腫瘍において、ホスホSer1852-ダイサー1モノクローナル抗体クローン番号25を、ヒト腫瘍における特異性について試験した(
図1A)。抗ホスホSer1852-ダイサー1、クローン番号25は、予想通り、PPB間葉において核内ダイサー1を陽性に検出し、上皮においては検出しないことが見出され、このことから、この抗体が、ヒト腫瘍におけるダイサー1リン酸化に特異的であることが証明された(
図1)。
【0093】
組織マイクロアレイを使用したヒト子宮内膜腫瘍の免疫組織化学: 54の原発性類内膜子宮内膜癌例の腫瘍マイクロアレイ(TMA)において、免疫組織化学を実施した。これらは、未処理の腫瘍試料である。ホルマリンで固定された腫瘍のパラフィンブロックにおいて、生存腫瘍組織の区域から、4つの別々のコアを得た。TMAに含めるための区域は、婦人科病理学者(DFC)によって決定された。次いで、以前に記載されたように(Fedor and De Marzo,2005)、腫瘍マイクロアレイを作出した。組織マイクロアレイ構築の実際的な方法は、以前に記載されている(Fedor and De Marzo,2005)。TMAブロックの5マイクロメートル切片を得て、抗ホスホSer1852-ダイサー1、クローン番号25(2ブロック)(前記のように生成された、1:200希釈)および抗ホスホERK(2ブロック)について染色した。ホスホERK染色は、抗ホスホERK(Thr 202/Tyr 204、#9101 S、ウサギ抗ヒト、Cell Signaling Technology,Inc.(Danvers,MA)、1:100希釈)によって実施された。次いで、スライドを、MACH2ユニバーサルポリマーHRP(#M2U522H、BioCare Medical,LLC.(Concord CA))と共にインキュベートした。シグナルを、3,3'-ジアミノヘンジジン(DAB)基質DAB+液体(#K3468、Dako Cytomation(Carpintera,CA))によって発色させた。スライドは、2人の独立した試験者(BJRおよびDFC)によって盲検的に読み取られた。各抗体についての染色を検査し、核染色を有する細胞の百分率、および細胞質染色を有する細胞の百分率として記録した。百分率は試験者の間で平均された。
【0094】
マウス腫瘍研究:ヘテロ接合性ダイサー2SD対立遺伝子を、100%の浸透率で特異的に肺腫瘍を発症するKRas+/LA1腫瘍モデルと交雑させた。21匹のKRas+/LA1マウスおよび36匹のKRas+/LA1;ダイサー+/2SDマウスを含有するコホートを生成した。コホートを400日間モニタリングした。瀕死の動物を安楽死させ、組織を収集した。400日目にまだ生存していた動物を屠殺し、組織を病理学のために収集した。非腫瘍関連問題(皮膚炎、直腸脱)のために安楽死させた動物は、研究に含めなかった。17匹のKRas+/LA1マウスおよび24匹のKRas+/LA1;ダイサー+/2SDマウスに由来する組織を、病理学的調査のために収集した。組織が入手可能になった時に、組織切片を調製し、全ての試料が準備できた時、共に調査した。
【0095】
同様に、変異ダイサー対立遺伝子を、p53+/-によって駆動された腫瘍モデルへ導入した。19匹のp53+/-マウスおよび32匹のp53+/-;ダイサー+/2SDマウスを含有するコホートを生成した。コホートを540日間モニタリングした。瀕死の動物を安楽死させ、組織を収集した。540日目にまだ生存していた動物を屠殺し、組織を病理学のために収集した。非腫瘍関連問題(皮膚炎、直腸脱)のために安楽死させた動物は、研究に含めなかった。12匹のp53+/-マウスおよび21匹のp53+/-;ダイサー+/2SDマウスに由来する組織を、病理学的調査のために収集した。組織が入手可能になった時に、組織切片を調製し、全ての試料が準備できた時、共に調査した。
【0096】
組織病理学:マウスから採集された組織を、10%中性緩衝ホルマリンで固定し、パラフィン包埋した。4マイクロメートルの切片を、ヘマトキシロンおよびエオシンによって染色し、光学顕微鏡法によって調査した。組織の加工、パラフィン包埋、切片化、およびH&E染色は、MD Anderson Department of Veterinary Medicine & Surgery Histology Laboratoryによって実施された。
【0097】
統計分析:スチューデントt検定、フィッシャー直接確率法、およびカプラン・マイヤー生存分析を、GraphPad Prism 7ソフトウェアを使用して実施した。P値をログランク(マンテル・コックス)検定を使用して計算し、p<0.05を統計的に有意と見なした。
【0098】
免疫蛍光染色:マウスから採集された組織を、10%中性緩衝ホルマリンで固定し、パラフィン包埋した。組織の加工、パラフィン包埋、切片化は、MD Anderson Department of Veterinary Medicine & Surgery Histology Laboratoryによって実施された。ダイサーのリン酸化状態について検出するための免疫蛍光は、ホスホダイサー特異的抗体(1:200、施設内で生成された)およびDAPI(DNAをマークするため)によって実施された。各遺伝子型について、完全なスライドにおいて63倍の50の画像を捕捉した。各画像は200~500の細胞を捕捉した。バイアスを回避するため、染色ならびに画像の捕捉および分析は、盲検的に実施された。
【0099】
実施例3 - リン酸化ダイサー1のさらなる特徴決定
マウスにおけるSer1836におけるリン酸化はダイサー1機能を損なう:哺乳動物におけるダイサー1機能のリン酸化によって媒介される制御の役割を調査するため、3つのリン酸化模倣ダイサー1ノックインマウスモデルを生成した(
図5A、5B)。Ser1712がアスパラギン酸に交換された(ダイサー
S1712D)マウスを、CRISPR/Cas9テクノロジーを使用して生成した。Ser1836がアスパラギン酸に交換された(ダイサー
S1836D)マウス、ならびにSer1712およびSer1836の両方がアスパラギン酸に交換された(ダイサー
2SD)マウスを、伝統的なES細胞テクノロジーを使用して得た。さらに、CRISPR/Cas9によって媒介されるターゲティングは、1712位から開始するフレームシフト短縮(ダイサー
-)およびコドン1712の3bpインフレーム欠失(ダイサー
Δ1712)を有するダイサー1対立遺伝子の生成ももたらした。
【0100】
ダイサー1ヌルマウスは、E7.5において胚致死である(Bernstein et al.,2003)。リン酸化模倣ダイサー1対立遺伝子が、ダイサー1活性の喪失を模倣するか否かを決定するため、生成された各対立遺伝子のホモ接合性変異マウスにおいて、致死をアッセイした。ダイサー
S1712D/S1712Dおよびダイサー
Δ1712/Δ1712マウスは、予想されたメンデル比で生まれた(
図5B)。ダイサー
-/-マウスは、予想通り、胚致死であった。ダイサー
S1836D/S1836D変異体は、生まれたが、予想された25%という頻度ではなく、子孫の11%(11/103)のみが、離乳時にホモ接合性変異体であり、このことから、部分的な致死が示された(p=0.003、
図1B)。ダイサー
2SD/2SDマウスは、子孫の7%(8/115)のみが離乳時にホモ接合性変異体であったため、ダイサー
S1836D/S1836Dマウスと同様に、部分的に致死性であった(p<0.001)。ダイサー
+/2SDヘテロ接合性交配に由来するE18.5胚の調査は、ホモ接合性変異胚が生存可能であることを明らかにした。調査された42の胚のうち、10が野生型であり、22がヘテロ接合性であり、10がホモ接合性変異体であった。E18.5胚の組織病理学的調査は、ホモ接合性変異体における欠陥を明らかにしなかった;しかしながら、ホモ接合性変異体として遺伝子型決定された仔マウスの死亡が、生後4日以内に観察され、このことから、致死が生後であることが示唆された。組み合わせると、これらのデータは、Ser1836における恒常的リン酸化が、ダイサー1機能を損ない、生後致死を引き起こすことを明らかにしている。
【0101】
次に、各変異背景においてヌル対立遺伝子を導入することによって、変異ダイサー1対立遺伝子が機能的に低形質であるか否かを調査した。ダイサーS1836D/-およびダイサー2SD/-マウスは生存不能であったが、ダイサーS1712D/-およびダイサーΔ1712/-変異体は生存可能であった。これらのデータは、Ser1712の恒常的なリン酸化模倣または欠失は、外見上、ダイサー1機能に対して影響を及ぼさないが、Ser1836におけるリン酸化模倣は、ダイサー1機能を変更し、致死をもたらすために十分であることを証明した。
【0102】
研究は、ダイサー1喪失が、p53パスウェイを活性化することを示した(Mudhasani et al.,2008)。従って、ダイサー2SD/2SD背景においてp53を同時に欠失させることによって、ダイサー2SD/2SDマウスにおける生後致死がp53依存性であるか否かを遺伝学的に試験した。ダイサー+/2SDp53+/-交雑から生まれた72の子孫のうち、ダイサー2SD/2SDp53-/-であるものは存在しなかった(p=0.01)。この結果は、p53の喪失がダイサー2SD/2SDマウスにおける生後致死を救済しないことを示し、このことは、異なるパスウェイが致死の原因であることを示唆した。
【0103】
Ser1836における恒常的なダイサー1リン酸化は発達遅滞および不妊をもたらす:生後致死を生き延びたダイサー
S1836D/S1836Dマウスおよびダイサー
2SD/2SDマウスが発達欠陥を示すか否かを決定するため、生存マウスを詳細に特徴決定したところ、複数の著しい欠陥が見出された。これらの欠陥のうち最も明確であったのは、発達遅滞であった。雄および雌の両方のダイサー
S1836D/S1836D生存マウスおよびダイサー
2SD/2SD生存マウスが、野生型同性同腹仔と比較して、サイズの35~50%の低下を示し、発達遅滞表現型は、生涯にわたり持続した(
図5Cおよび5D)。ホモ接合性変異雄と野生型雌との収容、およびその逆を介してアッセイされたように、ダイサー
S1836D/S1836Dマウスおよびダイサー
2SD/2SDマウスは、繁殖欠陥も示した。ダイサー
S1712D/S1712Dマウスおよびダイサー
Δ1712/Δ1712マウスは、繁殖性であり、出産1回当たり8~9匹の子孫を出産した(
図5E);しかしながら、ダイサー
S1836D/S1836Dマウスおよびダイサー
2SD/2SDマウス(雄および雌の両方)は、子孫を生じなかった(
図5E)。これらの結果は、Ser1836における恒常的なダイサー1リン酸化模倣が、生後初期の致死、発達遅滞を駆動し、不妊を引き起こすために十分であることを示唆する。ダイサー
2SD/2SDマウスは、ダイサー
S1836D/S1836Dマウスと比較して、より大きい規模(増加した生後致死および発達遅滞)で類似した表現型を示す。従って、これ以降は、ダイサー
2SD/2SDマウスに焦点を当てた。
【0104】
セリン1712および1836における恒常的なダイサー1リン酸化は老化促進表現型を駆動する:マウスにおける老化表現型は、発達遅滞、不妊、生存率の低下、脊柱後弯(脊椎の屈曲)、骨粗鬆症、皮膚委縮、心筋症、筋ジストロフィー、脂肪量の低下、貧血、および脱毛を含むいくつかの基準によって査定される(Gurkar and Niedernhofer,2015;Harkema et al.,2016;Koks et al.,2016;Reiling,et al.,2014;Treiber et al.2011)。ダイサー
2SD/2SDマウスは、老化促進を示唆する発達遅滞、不妊、および初期致死を示すため、老化促進のその他の表現型を、これらのマウスにおいて調査した。老化する際の変異マウスおよび野生型マウスの調査は、野生型同腹仔における正常姿勢と比較して、6ヶ月齢から始まるダイサー
2SD/2SDマウスにおける顕著な円背を明らかにした(
図6A)。7~9ヶ月齢のダイサー
2SD/2SDマウスおよび野生型マウスの定量的マイクロコンピュータ断層撮影(マイクロCT)スキャンは、野生型マウスと比べて有意な脊柱後弯を、変異マウスにおいて確認した(それぞれ、脊柱後弯指数=2.5および3.7、p=0.02、
図6Aおよび6B)。マイクロCTスキャンは、ダイサー
2SD/2SDマウスにおける重度の骨粗鬆症も明らかにし、変異マウスの脊椎においては、骨体積分率(38%対65%、p=0.0003、
図6C)および骨塩量(347mg/cc対420mg/cc、p=0.008、
図6D)が、野生型マウスと比較して有意に低下していた。大腿骨および脛骨の組織病理学的調査は、変異マウスにおいては、早くも2ヶ月齢で骨髄に脂肪細胞が浸潤し、9ヶ月までに脂肪細胞が造血細胞の大部分に取って代わったことを示した(
図6E、6F、および6A)。骨喪失も変異マウスの骨格全体に観察された(
図6Aおよび6E)。マウスにおいて、造血細胞は、骨髄に主に見出されるため、変異動物を、造血不全について調査した。全血球計算分析は、野生型と比較して、ダイサー
2SD/2SDマウスにおいて、血小板数は変化しておらず(p=0.89)、全白血球数は33%低下しており(4.18対6.22 10
3/μL、p=0.01)、赤血球数は15%低下していること(8.6対10.3 10
6/μl、p=0.007)を明らかにした(
図7B)。これらの結果は、リン酸化模倣ダイサー1が、骨格の完全性および骨髄脂肪生成に劇的に影響し、造血の低下に関連することを示唆する。
【0105】
ダイサー
2SD/2SDマウスおよび野生型マウスに由来する複数の器官を、組織変性をアッセイするため、顕微鏡によって調査した。変異マウスにおける不妊の以前の観察と一致して、2~7ヶ月齢の変異マウスに由来する精巣の切片は、成熟精子を欠き、野生型マウスと比較して低下したライディッヒ細胞の数を有した(
図6F)。同様に、ホモ接合性変異マウスに由来する卵巣は、サイズが低下しており、より少ない毛包を含有し、卵巣実質の大半が、空胞のある細胞から構成されていた(
図6F)。変異マウスの表皮は、薄く、異常な組織構成および低下した量の皮下脂肪を有していた(
図6F)。6ヶ月齢を超えた変異体は、一貫して、腹部脂肪を欠いた。若齢ダイサー
2SD/2SDマウス(1~2ヶ月齢)は、好中球性結膜炎も発症し、老化するにつれ、時に角膜の病変を発症した。さらに、変異体においては、前立腺、精嚢、および子宮を含む生殖組織のサイズが低下しており、性器は、より少ない分泌材料を含有していた。慢性心筋症、膜性増殖性糸球体腎炎、肝細胞巨大核(hepatocellular karyomegaly)、肺気管支関連リンパ組織(BALT)過形成も、いくつかの変異マウスにおいて観察された。BALT過形成および膜性増殖性糸球体腎炎は、非特異的な慢性免疫刺激を示す。ダイサー
2SD/2SDマウスの複数の器官における慢性免疫刺激を示すこれらの病変のため、変異マウスは、循環中の血清酵素の変更を有することが推測された。血液化学分析は、変異マウスにおいて、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(729対136U/L)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(703対63U/L)、およびアルカリホスファターゼ(202対100U/L)の上昇したレベルを明らかにした(
図7C)。ダイサー
2SD/2SDマウスに存在する全ての表現型が、重症度は低かったが、ダイサー
S1836D/S1836Dマウスにおいても認められた。これらの結果は、総合すると、リン酸化模倣ダイサー1が、正常組織機能を破壊して、不妊、組織委縮、ならびに老化にしばしば関連している変化、例えば、骨粗鬆症、造血の低下、および骨髄脂肪生成の増加をもたらすことを示唆する。
【0106】
老化促進の最終結果は、寿命の短縮である。全てのダイサー
+/+マウスおよびダイサー
S1712D/S1712Dマウスが、この研究の540日時点まで生存していたが、ダイサー
2SD/2SDマウスおよびダイサー
S1836D/S1836Dマウスは、それぞれ、236日および302日という中央生存期間を有していた(p=0.0001、
図6G)。ダイサー
2SD/2SDマウスがダイサー
S1836D/S1836Dマウスより大きい規模で表現型を示すという以前の観察と一致して、ダイサー
S1836D/S1836Dマウスとダイサー
2SD/2SDマウスとの間の全体生存の差も、統計的に有意であった(p=0.02)。総合すると、これらの結果は、Ser1836における恒常的なダイサー1リン酸化模倣または二重リン酸化模倣が、老化促進表現型を駆動することを明らかにし、リン酸化がダイサー1機能を変更するという仮説をさらに支持する。
【0107】
リン酸化はダイサー1移行を変更する:線虫において、リン酸化がダイサー1の核移行をもたらすため、ダイサー1移行を変異および野生型の精巣において調査した。野生型マウスおよび変異マウスに由来するマウス精巣切片におけるダイサー1抗体を使用した免疫蛍光染色は、ダイサー1染色陽性であった野生型精母細胞の3%、ダイサー
S1712D/S1712D精母細胞の10%、ダイサー
S1836D/S1836D精母細胞の30%、およびダイサー
2SD/2SD精母細胞の100%において、ダイサー1タンパク質が核内に蓄積することを明らかにした(
図8Aおよび8B)。ストリンジェントな基準を使用して、核内ダイサー1タンパク質のレベルが低い(核表面の<50%)精母細胞を核内蓄積陰性と見なし、ダイサー1抗体によって染色されない細胞を定量化から除外した。ダイサー
2SD/2SDの核内蓄積は、腎臓および肝臓の切片においても確認された。この結果は、2つの洞察を提供した。第1に、両方の部位におけるリン酸化が、ダイサー1タンパク質の効率的な核転位のために必須である。第2に、大部分の細胞において細胞質ダイサー1タンパク質を有する、Ser1836におけるリン酸化模倣変異は、マウスにおいて観察された表現型を駆動するために十分であった。これは、Ser1836におけるリン酸化模倣が、核移行の程度に関係なく、ダイサー1機能を損なうために十分であることを示唆する。
【0108】
セリン1712および1836における恒常的なダイサー1リン酸化は、代謝miRNAのサブセットを変更する:セリン1712および1836におけるダイサー1のリン酸化が、その標準的なmiRNAプロセシング機能を変更するか否かを決定するため、野生型マウスおよびダイサー2SD/2SDマウスのマウス胚線維芽細胞(MEF)および精巣において、次世代ディープシーケンシングを使用して、成熟miRNAを同定した。肉眼所見の出現前の最も初期の分子変化を決定するため、MEFをプロファイル決定した。精巣がプロファイル決定されたのは、動物が老化する際に、明らかな形態学的変化がこの組織において観察されたためである。
【0109】
miRNAのサブセットが、ダイサー
2SD/2SDマウスに由来するMEFおよび精巣試料の両方において、野生型試料と比較してダウンレギュレートされることが見出された(
図8C)。それぞれ、MEFおよび精巣において発現された359および368のmiRNAのうち、変異MEFにおいては、49のmiRNA(14%)、変異精巣においては、52のmiRNA(14%)が、2倍超(平均して8倍超)ダウンレギュレートされた。変異MEFにおいてダウンレギュレートされた49のmiRNAのうち、17のmiRNAのみが精巣において発現され、これらの17のmiRNAのうちの16(94%)が、両方の組織においてダウンレギュレートされていた(
図8D)。同様に、変異精巣においてダウンレギュレートされた52のmiRNAのうち、39がMEFにおいて発現され、これらの39のmiRNAのうちの16(41%)が、両方の組織においてダウンレギュレートされていた(
図8D)。このオーバーラップは、ダイサー1におけるリン酸化模倣変異が、miRNAのサブセットの生成をモジュレートすることを強く示唆する。変異精巣においてディファレンシャルにダウンレギュレートされたmiRNAに対するパスウェイ分析は、最も影響を受けたものとして、代謝パスウェイを強調した(
図8E)。MEFにおいてディファレンシャルにダウンレギュレートされたmiRNAに対するパスウェイ分析も、代謝パスウェイの同定をもたらし、影響を受けたmiRNAのプロセシングの制御異常の特異性をさらに強調した。老化は代謝の変更と関係しているため、これらの結果は、代謝関連miRNAのダウンレギュレーションが、変異マウスにおける老化促進表現型の駆動力であり得ることを示唆した(27、28)。このため、二重リン酸化模倣ダイサー1マウスが、変更された代謝を有するか否かを調べた。
【0110】
セリン1712および1836における恒常的なダイサー1リン酸化は代謝亢進表現型を駆動する:ダイサー
2SD/2SD変異体においてダウンレギュレートされたmiRNAの、代謝パスウェイのプレーヤーとしての同定は、これらのマウスにおいて代謝が変更される可能性を示唆した。代謝の変化がダイサー
2SD/2SD変異体の老化促進表現型の基礎であるか否かを決定するため、3~4ヶ月齢の変異マウスおよび野生型同腹仔において活動量および呼吸速度を測定するため、Comprehensive Lab Animal Monitoring System(CLAMS)試験を使用した。変異マウスは、野生型マウスと比べて、平均酸素消費速度(OCR)の有意な増加(24%)を有することが観察された(52.6対42.3ml/kg/分、p=0.04、
図9Aおよび9B)。この差は、マウスが典型的には安静にしている明期に、より顕著であった(野生型と比べた38%の増加、52.7対38.1ml/kg/分、p=0.02、
図9B)。呼吸速度の増加に類似して、変異マウスは、野生型マウスより回転輪活動の50%の増加を示し(10,555対7,057回転)、その差は、明期において2.5倍であった(4,605対1,853回転、
図9C)。総合すると、これらの結果は、ダイサー
2SD/2SDマウスが、安静期に、野生型マウスと比べて、代謝速度の増加および活動亢進を示すことを示す。
【0111】
代謝変化が表現型出現に先行するか否かを調べるため、変異マウスおよび野生型マウスに由来するマウス胚線維芽細胞(MEF)をアッセイし、Seahorse Bioanalyzerを使用して解糖速度およびミトコンドリア呼吸速度を測定した。CLAMS試験からの結果と一致して、ダイサー
2SD/2SDMEFは、野生型MEFと比較して、酸素消費速度(118.7対88.6pmoles/分、p=0.02)および細胞外酸性化速度(111.8対84.4mpH/分、p=0.04)の統計的に有意な増加を示した(
図9Dおよび9E)。これらの結果は、増加した代謝速度が、胚発生中にダイサー
2SD/2SDマウスが呈する最も初期の欠陥であり、その後に出現する欠陥に影響を及ぼす可能性が高いことを示している。総合すると、これらの結果は、リン酸化模倣ダイサー1が代謝パスウェイを制御することを証明しており、増加した代謝速度がダイサー
2SD/2SDマウスの老化促進表現型の基礎をなす機序であり得ることを示唆している。
【0112】
研究は、リン酸化模倣ダイサー1が、ダイサー1の低形質対立遺伝子について以前に記載されたより広いスペクトルの組織および表現型に影響を与えることを示した。これらの結果は、リン酸化が哺乳動物におけるダイサー1機能の重要な制御因子であること、そしてダイサー1の機能およびそれに関連する表現型のリン酸化によって媒介される変更が、ダイサー1ヌル対立遺伝子または低形質対立遺伝子とは異なることを証明する。従って、ダイサー1リン酸化の制御異常は、複数のヒト病理に関連しているかもしれず、この過程を調節する薬理学的介入は、広範な利益を有するかもしれない。
【0113】
実施例4 - 材料および方法
構築物の設計およびマウスモデルの生成:単一変異体を得る可能性を含む、二重リン酸化模倣変異体(同一の対立遺伝子におけるS1712DおよびS1836D)を生成するため、ターゲティング構築物を設計した。構築物は、5.9Kbpの5'相同アームおよび2.7Kbpの3'相同アームと共に、ダイサー1のイントロン24に挿入された、loxPが導入されたネオマイシン耐性遺伝子(neoR)を含有する。5'アームはS1712D変異(TCT→GAT)を含有するが、3'アームはS1836D変異(TCT→GAT)を含有する。5'アーム上のS1712D変異は、相同領域を、(neoRを中心と見なし)4.2Kbの外側領域および1.7Kbの内側領域に分割する。同様に、S1836D変異は、3'アームを、2.0Kbの外側領域および0.7Kbの内側領域に分割する。相同組換え(HR)が、両方の相同アームの外側領域で起こる時には、両方の変異が導入され、二重変異体が生成される。一方、HRが、1つの相同アームの(変異が導入されている)外側領域および他方の相同アームの(変異が導入されていない)内側領域で起こる場合には、単一変異体が生成される。
【0114】
構築物を完全に配列決定し、TC1マウスES細胞へ成功裡に電気穿孔した。ネオマイシン耐性クローンを、5'および3'の外部プローブを使用したサザンブロット分析によってスクリーニングした。SpeIによって消化されたゲノムDNAを、サザンブロットスクリーニングのために使用した。陽性クローンをPCRおよび標的領域の配列決定によって確認した。正確に生成されたESクローンの2つの株を、胚盤胞に注射し、次いで、キメラを生成するため、偽妊娠雌へそれを移植した。雄キメラを、変異対立遺伝子の生殖細胞系列伝達のため、C57BL/6雌と交配した。変異対立遺伝子を保持する1匹の雄子孫を、ネオマイシン耐性遺伝子を除去するため、Zp3-Creトランスジーンを保持するC57BL/6雌マウスと交配した。(neoRを含まない)変異対立遺伝子を保持する雄子孫を、さらに2世代にわたり、野生型C57BL/6雌と交配した。
【0115】
CRISPR/Cas9に基づく遺伝子ターゲティング:以前に記載されたように(Aryal et al.,2017)、標的部位を選択し、sgRNAを合成し、受精した接合子に、sgRNA、Cas9 mRNA、および変異を含有するドナーオリゴを注射した。簡単に説明すると、43塩基配列(標的とされたコドンの両側の20塩基)を、crispr.mit.eduツールを使用して、全ての可能性のある標的部位をスコアリングするため使用した。高いスコアを有し、sgRNAのシード領域に変異誘発部位を含有する部位を、標的とするために選択した。PAM配列を含む6つの可能なオフターゲット部位も、意図されない変異をスクリーニングするため、選択した。
【0116】
sgRNA合成のための鋳型は、2つの相補的なオリゴヌクレオチド(以下にリストされた配列)をアニールすることによって生成された。T7プロモーター配列には下線が引かれ、sgRNA標的部位は太字である。
【0117】
5μgの両方のオリゴをヌクレアーゼ不含水において混合し、5~10分間煮沸し、2時間~一晩、室温に冷ました。200~400ngの鋳型をMEGAshortscriptキット(Invitrogen AM1354)を使用して、sgRNAを合成するため使用し、sgRNAを酸性フェノール-クロロホルム抽出およびエタノール沈殿(Invitrogen)によって精製し、70μlのRNase不含水に再懸濁させ、製造業者のプロトコルに従って、Biospin P30クロマトグラフィカラム(#732-6223、Biorad)を使用することによってさらに精製した。10ng/μlのCas9 mRNA(PrecisionX hspCas9 SmartNuclease mRNA、System Biosciences)、7.5ng/μlのsgRNA、および20ng/μlのドナーオリゴを含有する最終注射溶液を、トリスEDTA緩衝液(5mM Tris、0.1mM EDTA)において調製した。最終溶液を200~250の接合子の前核に注射した。次いで、接合子を偽妊娠マウスへ移植した(各動物20~25)。全ての注射および移植が、MD Anderson genetically engineered mouse facilityにおいて行われた。
【0118】
オフターゲット部位の選択およびスクリーニング:全ての可能性のあるオフターゲット部位のリストを、crispr.mit.eduのサイトから得た。以前に記載された基準(Aryal et al.,2017)を、スクリーニングのための部位を選択するために使用した。選択された部位の約500塩基上流および500塩基下流においてプライマーを設計し、領域をPCR増幅し、サンガー配列決定する。
【0119】
マウスの繁殖、維持、スクリーニング、および遺伝子型決定:マウスは、>90%C57BL/6背景において維持された。全てのマウス研究が、Institutional Animal Care and Use Committeeプロトコルに従って実施された。生存マウスを3週齢で離乳させ、耳生検材料を収集した。組織を、55℃で一晩、溶解緩衝液(1×PCR緩衝液、1%トリトンX、250μg/μlプロテイナーゼK)によって消化し、プロテイナーゼKを変性させるため、95℃で15分間加熱した。標的とされた部位の1Kb領域を増幅するため、溶解された組織抽出物2μLをPCR反応のために使用した。PCR産物をゲル精製し、標的部位における挿入欠失を同定するため、サンガー配列決定した。
【0120】
ホモ接合生存試験:各変異対立遺伝子について、ヘテロ接合性マウスを近親交配し、子孫を離乳時に遺伝子型決定した。5つのダイサー+/S1712D交配対から、10回の出産による全部で85匹の子孫を、離乳時に遺伝子型決定した。4つのダイサー+/Δ1712交配対から、8回の出産による全部で68匹の子孫を、離乳時に遺伝子型決定した。3つのダイサー+/-交配対から、5回の出産による全部で28匹の子孫を、離乳時に遺伝子型決定した。7つのダイサー+/S1836D交配対から、14回の出産による全部で103匹の子孫を、離乳時に遺伝子型決定した。10のダイサー+/2SD交配対から、18回の出産による全部で115匹の子孫を、離乳時に遺伝子型決定した。
【0121】
E18.5胚解剖:ダイサー+/2SDおよびダイサー+/S1836Dのヘテロ接合性動物を近親交配し、プラグを毎朝調査した。プラグ陽性の雌(E0.5)をその日付から18日後(E1 8.5)に安楽死させた。子宮を解剖し、各脱落膜を分離し、PBS緩衝液を含む10cmのプレートに置いた。胚を回収するため、各脱落膜を解剖する。胚を、生存について調べ、計量し、安楽死させ、尾生検材料を収集し、遺伝子型決定した。
【0122】
体重測定:離乳した野生型(雄12匹および雌12匹)、ダイサーS1836D/S1836D(雄12匹および雌9匹)、ならびにダイサー2SD/2SD(雄10匹および雌11匹)を、電子スケールを使用することによって、生後4週から毎週、計量した(1グラムの10分の1まで)。変異マウスを安楽死させた時、その同腹仔野生型マウスも屠殺した。全ての遺伝子型から、少なくとも3匹のマウスが、全ての時点で存在した(雄および雌の両方)。10ヶ月という終点を選択したのは、2匹のダイサー2SD/2SDマウス(雄1匹および雌1匹)のみが、この齢を超えて生存したためである。
【0123】
繁殖性試験:全ての変異対立遺伝子の8~12週齢のホモ接合性マウス(雄および雌)を野生型マウス(8~16週齢)と交配した。交配対を毎日モニタリングし、1~2回の出産が起こるまで維持した。離乳の時点で、産仔数を計数し、記録した。子孫が存在しない場合には、6ヶ月間、2ヶ月毎に、野生型動物をより若い(8~16週齢)野生型マウスに交換した。
【0124】
マイクロCTスキャン:マイクロCTスキャンは、MD Anderson Cancer Centerのsmall animal imaging facilityにおいて実施された。簡単に説明すると、4匹のダイサー2SD/2SDマウス(雄2匹および雌2匹、6~8ヶ月齢)ならびに4匹の野生型同腹仔(雄2匹および雌2匹)を、イソフルランを使用して麻酔下に置き、固定し、げっ歯類の生存イメージングを可能にするコーンビームボリュームCT系であるExplore Locus RS前臨床インビボスキャナ(GE Medical Systems)を使用してスキャンした。X線源およびCCDベースの検出器ガントリーは、およそ1.0度のインクリメントで、対象の周りを回転する。幾何学モデルが系によって作製された。700(Th700)および1000(Th1000)の閾値で等値面を作出するため、MicroViewソフトウェアを使用した。脊椎の骨塩量(BMD)および骨体積分率(BVF)の定量化は、Th700で行われた。脊柱後弯指数は、以前に記載されたように(Laws and Hoey,2004)、計算された。
【0125】
組織病理学および免疫蛍光染色:以前に記載されたように、マウスから採集された組織を、10%中性緩衝ホルマリンで固定し、パラフィン包埋した。4マイクロメートルの切片をヘマトキシロンおよびエオシン(H&E)によって染色し、光学顕微鏡法によって調査した。組織の加工、パラフィン包埋、切片化、およびH&E染色は、MD Anderson Department of Veterinary Medicine & Surgery Histology Laboratoryによって実施された。選択された未染色の切片を、それぞれの抗体による免疫蛍光によって分析した。全ダイサー1抗体(1:30、MABN461、EMD Millipore)およびホスホダイサー特異的抗体(1:100、 [Drake,et al.,2014])が使用された。精巣切片における核内ダイサー1を有する細胞の定量化は、手動で実施された。全ダイサー1抗体およびDAPIによって染色された組織切片が使用された。各精巣切片(野生型マウス、ダイサーS1712D/S1712Dマウス、ダイサーS1836D/S1836Dマウス、およびダイサー2SD/2SDマウスに由来する3つの精巣切片)の3つの20倍画像(異なる領域)を得た。画像をImageJソフトウェアを使用して、開き、1精細管当たりの精母細胞(DAPIによる丸形核染色、精子細胞および精子を除く)の総数を計数した。核の>50%においてダイサー1染色を有する細胞を、核染色陽性と見なした。バイアスを回避するため、盲検を実施した。
【0126】
生存曲線:ダイサーS1712D/S1712D同腹仔マウス(n=15)、ダイサーS1836D/S1836D同腹仔マウス(n=21)、ダイサー2SD/2SD同腹仔マウス(n=21)、および野生型同腹仔マウス(n=57)のコホートを生成し、離乳(生後3週)後に毎日モニタリングした。瀕死の動物を安楽死させ、組織を採集した。変異マウスを安楽死させる時、同腹仔対照マウスも安楽死させた。瀕死以外の理由のために安楽死させなければならなかったマウスは、研究から除外された。
【0127】
MEF調製および細胞培養:ダイサー+/2SDヘテロ接合性動物を近親交配し、プラグを毎朝調査した。プラグ陽性の雌(E0.5)を、その日付から13日後(E13.5)に安楽死させた。子宮を解剖し、各脱落膜を分離し、PBS緩衝液を含む10cmのプレートに置いた。胚を回収するため、各脱落膜を解剖した。(遺伝子型決定のため収集された)胎児の肝臓、頭部、および四肢を各胚から除去し、残りの組織を切り刻み、37℃で5~10分間トリプシンによって処理した。10%FBSおよびペニシリン/ストレプトマイシンが補足された5mLのDMEM培地を、各試料に添加し、ピペット操作によって細胞を解離させた。細胞を遠心分離し、PBSで洗浄し、10mLの培地に再懸濁させ、10cmのプレートに移し、37℃でインキュベートした。培地を24時間毎に交換し、コンフルエンシーに到達した時、細胞を採集し、(3~4枚のプレートへ)再播種した。初期継代のMEF(P2~P3)を分析のために使用した。
【0128】
スモールRNAseqおよびパスウェイ分析:精巣およびMEFに由来するRNAを、製造業者のプロトコル(Direct-zol RNA Miniprep plus、ZYMOL)に従って抽出し、精製し、M.D.Anderson sequencing core facilityに供した。バーコード化されたライブラリーを、Illumina TruSeq small RNA seqキットを使用して調製した。ライブラリーを、NextSeq500で配列決定した。Illumina生リードの品質査定を、FASTQCによって実施した。
【0129】
マウスゲノムアセンブリGRCm38に由来する1915の成熟miRNA配列を、miRBaseから得、その後のショートリードマッピングのための参照として使用した(Kozomara and Griffiths-Jones,2014)。混入したアダプター配列を、SeqMan Ngen(登録商標)バージョン14(DNASTAR,Inc(Madison,WI))において実行されたアダプタースキャン機能を使用して除去した。phred=30未満の中央クオリティを有する配列を、分析から棄却した。参照成熟miRNAへのショートリードマッピングも、以下の指定によって、SeqMan NGen(登録商標)によって実施された:merサイズ(リードをコンティグへ組み立てる時にマッチと見なされるために必要とされる断片リードのオーバーラップ領域の最小mer長(塩基数))=15;最小マッチ百分率(コンティグにおいて2つの配列を接合するため必要とされるオーバーラップにおけるマッチの最小百分率を指定する)=95%;および最小整列化長(トリミング後のリードの少なくとも1つの整列化されたセグメントの最小長)=18。重複配列をマークし、組み合わせた。
【0130】
技術的反復および生物学的反復からのマッピングされたデータの統計分析は、ArrayStar(登録商標)(DNASTAR Inc.(Madison,WI))によって実施された。簡単に説明すると、マッピングされたデータの標準化は、RPM法を使用して行われ、野生型試料と変異試料との間のmiRNA存在量の変化倍率は、全RPMのlog2から計算された(51)。観察された差の有意性は、スチューデントt検定によって決定され、ベンジャミニ(Benjamini)-ホッホベルグ(Hochberg)補正が、多重仮説検証のために利用された;偽発見率(FDR)は0.05に設定された。階層的クラスタリングはユークリッド距離によって実施された。
【0131】
最後に、両方の群(野生型および変異)において、10リード未満/100万を有する全てのmiRNAを、フィルタリングして除去した。2倍未満の差および<95%の信頼区間を有するディファレンシャルに発現されたmiRNAを、フィルタリングして除去した。最終リストから、DIANATOOLS mirPath V.3ソフトウェアを使用して、ディファレンシャルに発現されたmiRNAにおいて、パスウェイ分析を実施した。miRNAのリストをプログラムにアップロードし、3つの異なる標的予測ツール(TarBase、Targetscan、およびmicroT-CDS)を使用して、分析を実施した。
【0132】
CLAMS試験:簡単に説明すると、4匹のダイサー2SD/2SDマウス(雄2匹および雌2匹)ならびに2匹の野生型マウス(雄1匹および雌1匹)を、個々の代謝ケージに収容し、2時間順化させ、測定を24時間毎分行った。熱量測定系によって、酸素消費速度および二酸化炭素生成速度をモニタリングした。各ケージ内のフリーランニング回転輪によって、回転数および活動が起こった時刻を記録した。CLAMS系によって、マウスが消費した飼料の量、各摂食の頻度および期間もモニタリングした。全ての動物を、実験の最初および最後に計量した。
【0133】
Seahorse代謝アッセイ:製造業者のプロトコル(Seahorse Bioscience、XFe96トレーニングマニュアル)に従って、2代目のダイサー2SD/2SDMEF(n=3)および野生型MEF(n=2)をトリプシン処理し、計数し、10%FBSおよびペニシリン/ストレプトマイシンが補足されたDMEM培地に200細胞/μlの濃度で再懸濁させた。80μlの各MEF試料(6回技術的反復)を96穴プレートに播種し、37℃で一晩インキュベートした。センサーカートリッジを、37℃で一晩、XF calibrantによって水和した。翌日、細胞を洗浄し、CO2インキュベータにおいて37℃で1時間、(マニュアルに記載された)アッセイ特異的培地と共にインキュベートした。センサーカートリッジを、プレキャリブレーションのため、機械に負荷し、準備ができた時、細胞を含むプレートを負荷する。測定(酸素消費速度および細胞外酸性化速度)を3~5回行った。新しいダイサー2SD/2SDMEF(n=6)および野生型MEF(n=5)によって、実験を繰り返した。データ分析のため、技術的反復の平均値を使用し、2回の実験を合わせた。
【0134】
統計分析:スチューデントt検定およびカプラン・マイヤー生存分析を、Prism 7ソフトウェア(GraphPad Software)を使用して実施した。P値<0.05を、統計的に有意と見なした。
【0135】
実施例5 - 侵襲性ヒト癌のバイオマーカーとしてのリン酸化ヒトモノクローナルダイサー1抗体
ヒトモノクローナル抗リン酸化ダイサー1抗体が、ヒト癌細胞のダイサー1を検出するか否かを決定するため、研究を実施した。BRAF600E変異を有する甲状腺乳頭癌細胞を、1:200で使用されたS1852に対する抗リン酸化モノクローナルダイサー1抗体によって染色した。二次抗体抗マウス488は1:500で使用された。これらの研究は、リン酸化ダイサー1が、甲状腺癌細胞の核内に存在することを確認した。
【0136】
癌においてダイサー1がリン酸化されるか否かを決定するため、KRASおよびFGFの腫瘍形成性変異を有し、POLE2またはダイサー1の変異を有しない子宮内膜癌において、モノクローナル抗体を使用した。58の腫瘍を、組織マイクロアレイによって、疾患のグレードを増加させながらアッセイした。類内膜子宮内膜癌において、腫瘍のグレードが増加するにつれ、ダイサー1がリン酸化され、核移行を有することが見出された。リン酸化ダイサー1は、グレード1類内膜子宮内膜癌において、陽性であり、核内に存在するが、グレード3~4 類内膜子宮内膜癌においては、さらに大きい程度に見出された。
【0137】
抗リン酸化ダイサー1モノクローナル抗体によって組織マイクロアレイにおいて試験された54の類内膜子宮内膜癌のうち、腫瘍の84%が、ホスホダイサー1陽性であった。腫瘍内のpダイサー1発現レベルと類内膜子宮内膜癌の臨床病理学的特色との間に関係があるか否かを決定するため、各腫瘍を、pダイサー1陽性細胞が50%未満であるか、50%超であるかによって分類した(
図10)。ホスホダイサー1を有する細胞が50%未満であるものを、ダイサー1リン酸化について「軽度~中程度」としてグループ分けし(n=35)、50%超である腫瘍を、ダイサー1について「高度」としてグループ分けした(n=16)。
【0138】
高度pダイサー1は、より低いボディ・マス・インデックス(p=0.002)および深い子宮筋浸潤(p=0.03)と関連していた(
図10、表2)。さらに、高度pダイサー1を有する腫瘍においては、リンパ管空間浸潤の存在(p=0.06)が、より高い傾向があった。深い子宮筋浸潤およびリンパ管空間浸潤の増加は、これらの癌における転帰不良の特色である。総合すると、これらのデータは、核内pダイサー1の存在が、子宮内膜腫瘍浸潤と相関することを示している。
【0139】
(表2)腫瘍核内ダイサー1状態と人口統計学的変数および臨床病理学的変数との関連
*フィッシャー直接確率法
BMI(ボディ・マス・インデックス)データは3例について欠けている。
LVSI(リンパ管空間浸潤)
【0140】
リン酸化ダイサー1は侵襲性癌をマークするため、異なるグレードの疾患を有する患者を処置のために層別化するため、それを使用することができる。従って、次の研究は、KRASではなくBRAF腫瘍形成性変異によって駆動される異なる腫瘍型をアッセイした。BRAF600E陽性転移性黒色腫癌をアッセイした。黒色腫および良性母斑の試料におけるリン酸化ダイサー1発現を、腫瘍マイクロアレイにおいて測定した。核内強度、核内百分率、細胞質内強度、および細胞質内百分率を含む4つの別々の測定が提供された。転移なしの原発腫瘍、転移ありの原発腫瘍、転移、および母斑(良性)を含む、4つの別々の型の組織が分析された。
【0141】
リン酸化ダイサー1発現と生存との関連を、コックス比例ハザード回帰モデルを使用して査定した。全体生存および無疾患生存を含む、生存の2つの測定を考慮した。分析は、4つの組織型の各々において別々に実施された。リン酸化ダイサー1発現は、t検定を使用して、組織型の間で比較された。転移ありの原発腫瘍 対 転移なしの原発腫瘍、転移ありの原発腫瘍および転移なしの原発腫瘍+転移の組み合わせ 対 良性母斑、ならびに転移ありの原発腫瘍および転移なしの原発腫瘍の組み合わせ 対 転移を含む、3つの比較が、興味深かった。潰瘍ありと潰瘍なしとの比較、VGPありとVGPなしとの比較、血管浸潤ありと血管浸潤なしとの比較のため、類似した分析を実施した。連続的なパラメータ、Clarkレベル、Breslowの厚さ、齢、および腫瘍退縮と、ダイサー発現レベルとの関連を査定するため、スピアマンの順位相関分析を使用した。試験の多重度のため、正式な補正は行われなかった。
【0142】
リン酸化ダイサー1発現と生存との関連:リン酸化ダイサー1発現と、全体生存および無再発生存の両方との関連は、コックス比例ハザード回帰分析を使用して査定された。表3は、全体生存の結果を提示する。ハザード比および対応する95%信頼区間が、関連の仮説検定についてのp値と共に提示される。OSは、転移性疾患について、pダイサー1の核内強度および百分率と相関した。しかしながら、転移ありの原発試料について、細胞質強度測定の全てが、死亡した患者について0であり、従って、生存モデルは適合し得なかった。細胞質内強度発現レベルが、死亡した患者と生存している患者とで異なるか否かを評価するため、ウィルコクソン順位和検定を実施した;その比較は統計的に有意である(p=0.017)。
【0143】
【0144】
pダイサー1発現と組織型との関連:リン酸化ダイサー1発現レベルは、t検定を使用して、群間で比較された。表4は、転移なしの原発試料と転移ありの原発試料との比較の結果を提示する。表は、試料の数およびt検定についてのp値と共に、各群についての平均値および標準偏差(SD)を提示する。2群間には、リン酸化ダイサーレベルの核内強度の差の証拠が存在する。
【0145】
【0146】
表5は、全黒色腫試料(原発+転移) 対 良性母斑の比較についての結果を提示する。2群の間には、核内の強度および百分率について、リン酸化ダイサーレベルの差の実質的な証拠が存在し、より高いレベルが黒色腫試料において見出される。細胞質内の強度および百分率については、黒色腫と母斑との間に、レベルの差の証拠は存在しない。
【0147】
(表5)全黒色腫(転移ありの原発および転移なしの原発+転移の組み合わせ) 対 良性母斑
【0148】
表6は、全ての原発黒色腫試料(転移ありおよび転移なし)と転移試料との比較についての結果を提示する。リン酸化ダイサー1レベルは、核内の強度および百分率については、転移より原発試料において有意に低いが、細胞質内の強度および百分率は、転移より原発試料において実質的に高い。
【0149】
【0150】
表7は、4つのパラメータの各々についての、潰瘍とpダイサー1発現レベルとの関連についての詳細を提供する。平均値、SD、およびNが、t検定からのp値と共に、各群(潰瘍ありおよび潰瘍なし)について提供される。核内百分率は、潰瘍ありの試料において、潰瘍なしのものより有意に高い。
【0151】
【0152】
表8は、血管浸潤とpダイサー1発現レベルとの関連を要約する。細胞質内の強度および百分率は、血管浸潤がない患者において、実質的により高い。核内の強度または百分率が血管浸潤と関連していることを示す証拠は存在しない。血管浸潤を有する患者は、8人しか存在しない。
【0153】
【0154】
表9は、VGPとダイサー発現レベルとの関連を要約する。核内強度が、VGP患者において、より高いことを示す弱い証拠が存在する。
【0155】
(表9)垂直増殖期(VGP)とダイサー発現との関連
【0156】
神経周囲カテゴリには1人の患者しか存在せず、従って、pダイサー1発現レベルと神経周囲変数との関連の分析は実施されなかった。
【0157】
リン酸化ダイサー1モノクローナル抗体は、細胞に注射された時、リン酸化を中和し、その作用を阻止するよう役立つ。トランスフェクションの前日に、6穴プレートに、3×105細胞/ウェルの密度で、HEK293細胞(5代目)を播種した。200ngのFGF2によって30分間処理した時のリン酸化ダイサー1を可視化した(Drake et al.,Developmental Cell,2014を参照すること)。リン酸化ダイサー1は、これらの細胞の核内に存在した。リン酸化ダイサー1は、HEK293細胞において、FGF処理によって核内に存在するようになる。
【0158】
FGFインキュベーション後のHEK293細胞に抗リン酸化ダイサー1抗体を注射するため、細胞の2×6穴プレートを使用した。パラメータには、FGFインキュベーションなし、抗ホスホダイサー1抗体注射なしのHEK293細胞;FGFあり、抗ホスホダイサー1抗体注射なしのHEK293細胞;およびFGFあり、抗ホスホダイサー1抗体注射ありのHEK293細胞が含まれていた。これらは多くの労力を要する実験であるため、各実験について細胞の1枚のプレートのみを注射した。
【0159】
FGF処理およびモック注射または抗ホスホダイサー1抗体注射のいずれかの後、核をマークするためのDAPI、および細胞死についてアッセイするための抗カスパーゼ3抗体染料によって、細胞を染色した。注射された細胞の数が少なかったため、統計分析は実施されなかった。GFP抗体または抗リン酸化ダイサー1抗体のいずれかによる各処理について、注射された10個の細胞のうち、抗リン酸化ダイサー1処理群においては、10個中8個の細胞が抗カスパーゼ3陽性であったが、対照群においては、10個中0個の細胞が抗カスパーゼ3陽性であった。従って、リン酸化ダイサー1抗体は、ダイサー1のリン酸化および機能を阻止するために使用され得る。
【0160】
本明細書中に開示され特許請求の範囲に記載された方法は、全て、本開示を考慮すれば、過度の実験なしに作成され、実施され得る。本発明の組成物および方法が、好ましい態様に関して記載されたが、本発明の概念、本旨、および範囲から逸脱することなく、本明細書中に記載された方法、工程、または方法の工程の順序に変動が施され得ることは、当業者に明白であろう。より具体的には、本明細書中に記載された薬剤が、化学的にも生理学的にも関連するある種の薬剤に置換されても、同一のまたは類似した結果が達成され得ることが明白であろう。当業者に明白なそのような類似した代用物および修飾は、全て、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の本旨、範囲、および概念に含まれると見なされる。
【0161】
参照
以下の参照は、本明細書中に示されたものを補足する例示的な手順またはその他の詳細を提供するという程度まで、参照によって具体的に本明細書中に組み入れられる。
【配列表】
【国際調査報告】