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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-17
(54)【発明の名称】合成マイクロRNAミミック
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20220209BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220209BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220209BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220209BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220209BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220209BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20220209BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20220209BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220209BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12Q1/6851 Z
A61P7/00
A61K48/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021536098
(86)(22)【出願日】2019-12-19
(85)【翻訳文提出日】2021-08-16
(86)【国際出願番号】 FI2019050906
(87)【国際公開番号】W WO2020128163
(87)【国際公開日】2020-06-25
(31)【優先権主張番号】20186118
(32)【優先日】2018-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】521268107
【氏名又は名称】アールネイティブズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】RNatives Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】トゥルネン,ミッコ ペトリ
(72)【発明者】
【氏名】トゥルネン,ティーア アンニカ
(72)【発明者】
【氏名】ユラ-ヘルットゥアラ,セッポ
(72)【発明者】
【氏名】ライティネン,ピア
(72)【発明者】
【氏名】ヴァーナネン,マリ-アンナ
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C084
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS36
4B065AA91X
4B065AA93
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA00
4B065CA23
4B065CA44
4C084AA13
4C084AA24
4C084MA02
4C084MA52
4C084NA14
4C084ZA36
(57)【要約】
本発明は心臓血管疾患の処置に関する。特に、本発明は、処置および診断適用における使用を包含する、さまざまな適用における、血管内皮増殖因子A(VEGFA)、血管内皮増殖因子D(VEGFD)および/または低酸素誘導因子1α(HIF1A)の遺伝子発現調節における使用のためのマイクロRNA(miRNA)分子に関する。VEGFAは、成長期の個体および成熟個体の両方において広範な機能を有する。VEGFAは、よく知られる血管新生の重要な調節因子であり、癌の発症および転移にも関与する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号5、配列番号6、配列番号3、配列番号4、配列番号15もしくは配列番号16またはその相補配列との配列同一性が少なくとも80%である合成miRNA分子。
【請求項2】
シード配列がGAUGUGU、UACAUAC、またはUGUAUGUGを含む、請求項1に記載の合成miRNA分子。
【請求項3】
前記核酸分子が14~30ヌクレオチドの長さである、請求項1または2に記載の合成miRNA分子。
【請求項4】
前記核酸分子が、標的遺伝子のプロモーター領域または3’UTRに結合する、請求項1~3のいずれかに記載の合成miRNA分子。
【請求項5】
標的遺伝子が、VEGFA、VEGFDまたはHIF1Aである、請求項4に記載の合成miRNA分子。
【請求項6】
標的遺伝子がVEGFAである、請求項5に記載の合成miRNA分子。
【請求項7】
心臓血管疾患の処置に使用するためのものである、請求項1~6のいずれかに記載の合成miRNA分子。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載される合成miRNA分子の少なくとも1つ、および担体または賦形剤を含む、医薬組成物。
【請求項9】
担体または賦形剤が、医療処置適用に適当な薬学的に許容しうる担体または賦形剤である、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
心臓血管疾患の処置に使用するためのものである、請求項8または9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
請求項1~7のいずれかに記載される合成miRNA分子の少なくとも1つを含む組換え発現ベクター。
【請求項12】
請求項11に記載される組換え発現ベクターを含む細胞。
【請求項13】
請求項1~7のいずれかに記載される合成miRNA分子を投与することを含む、ヒトにおいて標的遺伝子の発現を調節する方法。
【請求項14】
標的遺伝子の発現を増加させる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
方法が、配列番号5、配列番号6、配列番号3、配列番号4、配列番号15または配列番号16との配列同一性が少なくとも80%である合成miRNAの少なくとも1つを有効量で対象に投与することを含む、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
対象が心臓血管疾患のリスクを有するまたは心臓血管疾患を患っているかを決定するための、以下のステップを含む方法:
(A)心臓血管疾患が疑われる個体のサンプルを提供し;
(B)場合により、前記サンプルからRNAを抽出し;
(C)hsa-miR-297またはhsa-547-3pの発現レベルをqRT-PCRによって測定する;ここで、対照サンプルと比較して低いhsa-miR-297またはhsa-547-3pの発現レベルは、心臓血管疾患が存在することまたは心臓血管疾患の素因があることを示す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は心臓血管疾患の処置に関する。特に、本発明は、処置および診断適用における使用を包含する、さまざまな適用における、血管内皮増殖因子A(VEGFA)、血管内皮増殖因子D(VEGFD)および/または低酸素誘導因子1α(HIF1A)の遺伝子発現調節における使用のためのマイクロRNA(miRNA)分子に関する。VEGFAは、成長期の個体および成熟個体の両方において広範な機能を有する。VEGFAは、よく知られる血管新生の重要な調節因子であり、癌の発症および転移にも関与する。
【背景技術】
【0002】
心臓血管疾患(CVD)は世界的に上位の死因の1つであり、死亡数は、人口の高齢化および平均余命の延長により、将来増加すると予測される(Top 10 causes of death, WHO, 2017)。CVDは、心臓および血管が関与する広範な疾患群を包含し、したがって、基礎となる病因のメカニズムは、疾患によってさまざまである。しかしながら、多くの心臓血管疾患が、徐々に進行するかまたは急性の血管閉塞という、共通の基礎的特徴を示す。血管が閉塞すると、組織への酸素供給が障害され、組織は生存のため間に合うように低酸素条件に適応せざるを得なくなる。しかしながら、この適応のプロセスは、血管新生による新たな側副血管の成長を伴い、それには長い生理学的時間を要する。
【0003】
血管新生は高度に調節されたプロセスであり、盛んに研究されているものの、その調節メカニズムは未だ完全には理解されていない。すべての生きた細胞は、低酸素のような新たな環境条件に、生存を確保しうる適切な遺伝子のセットを転写することによって適応する。遺伝子発現は高度に制御されたイベントであり、転写および転写後レベルで調節メカニズムがはたらく。酸素供給が不足する場合に、細胞においてアップレギュレートされる最も重要な遺伝子の1つは、VEGFAである。この遺伝子は高度に複雑な調節を有することが報告されている。低酸素条件下の組織においてVEGFAがアップレギュレートされると、それは血管新生、脈管形成および内皮細胞増殖を促進する。VEGFAタンパク質が細胞外に分泌され、その作用を仲介する2つの異なる受容体VEGFR1およびVEGFR2に作用するパラクリンおよびオートクリン作用を示すことが知られている。VEGFA遺伝子発現調節の不均衡は、虚血性または悪性疾患の原因となり、また、生理学的および病理学的血管新生の両方に関わる。例えば、癌において、VEGFAアップレギュレーションは予後不良に関連付けられている。血管新生の局所的調節を可能にしうる新たな治療法を開発するために、VEGFAの転写調節メカニズムの解明が必要とされている。
【0004】
VEGFAは、転写および転写後の多くの異なるレベルで調節されることが知られている。第一に、異なる転写物バリアントの異なるスプライシングによって、多様なアイソフォームが生じる。第二に、転写後レベルにおいて、VEGFAメッセンジャーRNA(mRNA)の安定性は、低酸素といったエフェクターによって、安定化および脱安定化タンパク質の結合を介して調節される。第三に、VEGFA mRNA 3’非翻訳領域(3’UTR)は、古典的な代謝産物相互作用性のリボスイッチではなく、その安定性を調節するタンパク質と結合後にコンフォメーション変化を受けるタンパク質依存性リボスイッチとしてはたらくことが最近発見された。第四に、VEGFA mRNAの翻訳は、塩基対形成メカニズムによって3’UTRを標的とし遺伝子サイレンシングを誘導するmiRNAによって高度に制御される。これらの異なるレベルの調節は、VEGFAバリアントの発現の微細な調整において協働する。
【0005】
VEGFDは、構造的に関連するタンパク質のVEGF/PDGFファミリーのもう1つのメンバーで、強力な血管新生性サイトカインである。これは内皮細胞増殖を促進し、リンパ管新生を促進し、血管透過性にも影響しうる。
【0006】
HIF-1αとしても知られるHIF1Aは、HIF1A遺伝子によってコードされる、ヘテロ二量体転写因子の低酸素誘導因子1(HIF-1)のサブユニットである。これは、低酸素に対する細胞および発生反応のマスター転写調節因子であると考えられる。低酸素または遺伝子変異によるHIF1Aの調節不全および過剰発現は、癌生物学および他の多くの病理生理学に、特に脈管化および血管新生、エネルギー代謝、細胞生存ならびに腫瘍浸潤の領域のものに、大きく関係付けられている。
【0007】
マイクロRNA(miRNA、miR)は、それが標的とする遺伝子のタンパク質発現に、転写物切断または翻訳阻害により影響する、内因性の、典型的にはヌクレオチド数が19~22である、ノンコーディングRNAである。miRNAは、ゲノムにコードされる短鎖RNA群で、多くはタンパク質コーディング遺伝子(ホスト遺伝子)のイントロンまたはエクソン領域内にコードされる。ホスト遺伝子がアップレギュレートまたはダウンレギュレートされるとき、それにコードされるmiRNAが同じ傾向にしたがうという、miRNAとそのホスト遺伝子の間の機能的関連性を示す証拠が増えつつある。さらに、miRNAは複雑な生合成を有する:これはまず、RNAポリメラーゼII(pol II)によって転写されて一次転写物(pri-miRNA)を生じる。次いで、高度に保存されたDroshaタンパク質がDGCR8と複合して、核内のpri-miRNAをプロセシングして、pre-miRNAヘアピンを生じる。pre-miRNAは、RanGTP・exportin・cargo複合体によって核の孔複合体を通って細胞質に運び出される。細胞質への運び出しにより、1つは核内でDroshaによるものであり、2つ目は細胞質内でDicer酵素によってなされるという、2つのmiRNAプロセシングステップの区分けが確立される。核からの運び出しの後、細胞質RNAse IIIであるDicerが第2のプロセシングステップ(‘dicing’)に参与して、約22ヌクレオチドの長さのmiRNA二本鎖を生じる。Dicerは高度に保存されたタンパク質であり、ほとんどすべての真核細胞生物に見られる。Dicerによる切断産物のmiRNA二本鎖構造は、miRNA-5p鎖と-3p鎖によって構成され、細胞において長くは持続しない。5p鎖はフォワード(5’-3’)位に、3p鎖(5p鎖に対しほぼ相補的である)はリバース位に存在する。通常、miRNAd二本鎖は、RISC複合体(Dicer、TRBPおよびAgo2タンパク質によって形成される)に組み込まれる。RISC複合体はmiRNAを認識し、それを巻き戻し、パッセンジャー鎖を分解しながらガイドmiRNA鎖(ガイド鎖)を選択する。
【0008】
この「鎖バイアス」選択理論は、pre-miRNAおよび成熟miRNAの熱力学的安定性プロファイルの分析の後に提唱された。しかしながら、最近のデータは、miRNAの鎖選択は組織依存的であるかもしれないことを示唆している。さらに、かなりの割合のmiRNA姉妹鎖対が同等のレベルで発現されることが報告されており、これは、鎖選択バイアスが確定的でないことを示している。同じヘアピン前駆体からの2つの成熟miRNAは、異なる標的遺伝子セットを有するようであり、細胞活動の調節に対し異なる寄与を示しうる。
【0009】
成熟miRNAは主に、細胞質中のmRNAの3’UTR領域を配列相補性によって標的とする、転写後ネガティブ調節因子であると考えられる。miRNA転写後遺伝子調節機能の標準的な見方は、標的mRNAへのmiRNA結合が、mRNAのタンパク質への翻訳を阻害する、というものである。標的mRNAに対する相補性の高いmiRNAの領域は、5’末端の2~8ヌクレオチドからなり、「シード」領域として知られる。
【0010】
しかしながら、miRNAが転写後遺伝子サイレンシングを誘導するというこの標準的な見方は不完全であることの証拠が増えつつあり、miRNAはさらなる作用を有するかもしれない。1つの理由は、細胞の成熟miRNAの大部分が核と細胞質の両方に存在し、いくつかのmiRNAはmiR-21またはmiR-29bのように明確な核濃縮を示しさえするという事実にある。
【0011】
哺乳動物細胞の核におけるmiRNAの遺伝子調節機能を示す証拠が増えつつある。ショートヘアピンRNA(shRNA)および短鎖干渉RNA(siRNA)といった短鎖RNA(sRNA)が、特定の遺伝子プロモーターにおいて転写を抑制するかまたは活性化するというエピジェネティックな変化を実際に誘導しうることが示されている。sRNAによって調節される遺伝子発現がsRNAとプロモーター配列の間の配列相補性によって仲介されることを示す証拠が存在する。さらに、sRNAは、転写と共役した選択的スプライシングイベントを調節することが報告されている。
【0012】
利用可能なデータは、sRNAによりガイドされる転写制御のタンパク質エフェクターの詳細を示すが、miRNAといったsRNAがその核標的を特定する配列認識メカニズムは未だ解明されていない。sRNAゲノム配列認識の1つの考えられる説明は、ヒトゲノムにおいて2方向の転写が見られることにありうる。ヒトゲノムは、センスおよびアンチセンスの両方向に転写されて、多くのゲノムのプロモーター領域に位置するノンコーディングセンスおよびアンチセンス転写物を生じる。miRNAは転写レベルで3つのメカニズムで作用しうると考えられる:i)前記プロモーター関連のノンコーディング転写物と相互作用する;ii)一本鎖DNAと相互作用してDNA-RNAハイブリッドを形成する;iii)二本鎖DNAと相互作用して、RNADNA:DNA三本鎖を形成する
【0013】
文献KR20150095349には、マイクロRNAの制御を介して神経系疾患を予防または治療するための医薬組成物が開示されている。神経系疾患の診断または予後として使用可能なマーカーおよびその使用も開示されている。文献WO2016170348A2には、標的遺伝子の発現をアップレギュレートするのに有用なオリゴヌクレオチド、例えば短い活性化RNA(saRNA)、およびそのようなオリゴヌクレオチドを含む処置用組成物が開示されている。オリゴヌクレオチドおよび処置用組成物を使用する方法も提供されている。文献WO2015023975A1は、標的化された様式で遺伝子発現を増加する方法に関する。いくつかの態様において、標的化された様式でタンパク質および/またはRNAレベルを転写後変更するのに有用な方法および組成物が提供される。文献はまた、RNAを分解(例えばエキソヌクレアーゼ仲介分解)から保護するのに有用な方法および組成物を提供する。
【0014】
組織低酸素およびそれに続く血管新生は、心臓血管疾患および癌において2つの相対する視点から理解することができる。ある状況において、新たな血管の増殖は組織の生存を保証することができる。しかしながら、それは腫瘍において悪性細胞の増殖および移動を促進することができる。血管新生を調節すること、およびその局部的な促進または阻害が可能であることは、例えば血液酸素供給の低下に関連する心臓血管疾患の治療法として使用できる。心筋梗塞または末梢虚血といった多くの疾患が、VEGFAのような血管新生因子の量の調節によって治療されうる。VEGFAのダウンレギュレーションのための方法はいくつかあるが(例えば、抗体、siRNA)、VEGFAアップレギュレーションのための現在唯一の方法は、さまざまなベクター(改変ウイルス、非ウイルスベクター等)を用いる伝統的な遺伝子送達である。伝統的な遺伝子送達には、いくつかの欠点がある:送達効率が通常低く、ベクターおよび導入遺伝子が免疫学的反応を引き起こし得、典型的には遺伝子の1つのアイソフォームだけが送達されて異なるアイソフォームの天然のバランスが崩され、ベクターはその導入遺伝子をクロマチンにおいてランダムな部位に一体化し得、腫瘍形成を引き起こす可能性がある。しかしながら、VEGFA療法の開発に多大な努力が払われているにも関わらず、一律に効果的なVEGFA処置は開発されていない。
【発明の概要】
【0015】
したがって、miRNAはmRNAの3’UTRを標的として転写後レベルでカノニカルに作用することが知られているが、新規な調節メカニズムは、miRNAがそれと配列類似性のある遺伝子プロモーターと相互作用しうることを示している。本発明者は、低酸素においてアップレギュレートされる、VEGFAプロモーター内に推定結合部位を有するマウスmiRNA(mmu-miR-466cまたはmmu-miR-466c-1)の機能を調べた。miRNA-466cはmiRNAファミリーMIPF0000208に属し、このファミリーは以下のmiRNAをも含む:mmu-miR-466a、mmu-miR-466b-1、mmu-miR-466b-2、mmu-miR-466b-3、mmu-miR-466e、mmu-miR-466f-4、mmu-miR-466k、mmu-miR-466c-2、mmu-miR-466b-4、mmu-miR-466b-5、mmu-miR-466b-6、mmu-miR-466b-7、mmu-miR-466p、mmu-miR-466b-8およびmmu-miR-466c-3。
【0016】
miR-466cのヘアピンミミック(miR-466c 3p mim)、一本鎖3pミミック(ssRNA-466c-3p)、および3p鎖および5p鎖がアニーリングされたものを含む該miRNAの二本鎖構造のトランスフェクションによる本研究において得られた結果は、ヒト内皮細胞において鎖バイアス選択が存在しうることを示す。さらに、本発明者は、トランスフェクションに異なる種類のミミックを使用したときに、VEGFA調節における明らかな差を見ることができた。本発明者は、ヘアピンミミックのmiR-466c-3pおよびmiR-466c-5p mimがVEGFAを強力にアップレギュレートでき、それ以外のミミックはVEGFA mRNAレベルのわずかな変化しか誘導しないか変化を全く誘導しないことを、これまでで初めて示すものである。
【0017】
したがって、本発明は、mmu-miR-466cの合成ミミックがヒトVEGFAのmRNAレベルを、過去にマウスVegfa mRNAで観察されたのとは異なる様式で調節できることを示す。miR-466cにより標的とされるプロモーターを特定するために行われたバイオインフォマティック分析に基づくと、miR-466cによる同様の調節メカニズムは、VEGFDおよびHIFA mRNAにも示される。本発明者は、2つのマイクロRNA、すなわちhsa-miR-297およびhsa-miR-574-3pが、mmu-miR-466cとの特に高い配列類似性を示すことを見出した。該マウスmiRNAとヒトmiRNAの高い類似性によって、ヒトmiRNAカウンターパートが同様の標的を持つこと、およびヒト細胞にトランスフェクトされたマウスmiRNAはヒトVEGFA、VEGFDおよびHIF1A mRNAレベルを調節できることが合理的に推測される。
【0018】
本発明の利点は、大量のmiRNAをレンチウイルスによって生産できるということである。RNAは、物理的または化学的方法によって標的細胞に送達される合成品であることもできる(例えば、改変されていないまたは化学的に改変されているRNAオリゴ)。さらに、RNAは、短いRNAを運ぶ天然に存在するナノ粒子である細胞外ベシクルによって標的細胞および組織に送達することができる。プロデューサー細胞におけるRNA発現および超音波処理またはエレクトロポレーションによるRNA導入を包含するさまざまな方法で、エキソソームにRNAを搭載することができる。
【0019】
本発明の課題は、配列番号5、配列番号6、配列番号3、配列番号4、配列番号15もしくは配列番号16またはその相補配列との配列同一性が少なくとも80%である合成miRNA分子を提供することである。本発明のもう1つの課題は、配列番号5、配列番号6、配列番号3、配列番号4、配列番号15もしくは配列番号16またはその相補配列との配列同一性が少なくとも80%である合成miRNA分子、および担体または賦形剤を含む医薬組成物を提供することである。本発明の少なくとも1つの合成miRNA分子を含む組換え発現ベクターも、本発明の一側面である。前記組換え発現ベクターを含む細胞も、本発明の一側面である。
【0020】
配列番号5、配列番号6、配列番号3、配列番号4、配列番号15もしくは配列番号16またはその相補配列との配列同一性が少なくとも80%である合成miRNA分子を投与することを含む、ヒトにおいて標的タンパク質の発現を調節する方法も、本発明の一側面である。
【0021】
本発明の他の一側面は、対象が心臓血管疾患のリスクを有するまたは心臓血管疾患を患っているかを決定するための、以下のステップを含む方法である:
(A)心臓血管疾患が疑われる個体のサンプルを提供し;
(B)場合により、前記サンプルからRNAを抽出し;
(C)hsa-miR-297またはhsa-547-3pの発現レベルをqRT-PCRによって測定する;ここで、対照サンプルと比較して低いhsa-miR-297またはhsa-547-3pの発現レベルは、心臓血管疾患が存在することまたは心臓血管疾患の素因があることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、Sfmbt2遺伝子のイントロン10領域中にコードされるmmu-miR-466cのゲノム位置を示す図である。
図2図2は、マウスVegfaプロモーター上のshRNAおよびmmu-miR-466c標的部位を示す。図は、マウスVegfaプロモーター上で、以前に転写型遺伝子活性化のために用いられたshRNA-451の標的部位と、mmu-miR-466cの予測標的部位との間の距離が近いことを示している。
図3図3は、mmu-miR-466c-5p配列とhsa-miR-574-3pおよびhsa-miR-297配列とのアラインメントを示す。
図4図4は、mmu-miR-466cの除去は、低酸素に応答するVegfa誘導を消失させることを示す。A.低酸素は、マウス内皮細胞(C166)においてmmu-miR-466c発現を誘導する。このアップレギュレーションは、細胞ゲノムからCRISPRによってmmu-miR-466cを除去した後には見られなかった。B.mmu-miR-466c除去は、Sfmbt mRNA発現を低下させる。C.mmu-miR-466cをゲノムから除去すると、Vegfaは低酸素時にアップレギュレートされなかった。D.mmu-miR-466cのレンチウイルストランスダクション(LV-466)により、Vegfa発現は増加するが、低酸素時のVegfa誘導は回復されない。qRT-PCRの結果は、酸素が正常な状態に対して計算され、Actb発現に対して正規化される。n=3、平均+SD。
図5】マウスmiR-466cヘアピンミミックのmiR-466c-3p mimのトランスフェクションは、ヒト細胞株Ea.hy926においてVEGFA mRNAレベルを有意に低下したが、miR-466c-5pミミックのトランスフェクションは、陰性対照トランスフェクションと比較して有意な効果を示さなかった。qRT-PCRの結果は、陰性対照サンプルに対して、log2のfold changeで計算した。結果は、n=3、平均±SDで表す。結果は、ACTB発現に対して正規化。P値<0.05。
図6図6は、マウス一本鎖miR-466c-3pミミック(miR-466 3p)および二本鎖ミミック(466C duplex)のトランスフェクションが、ヒト細胞株ARPE-19においてVEGFA mRNAレベルを、陰性対照トランスフェクションと比較して有意に低下したことを示す。qRT-PCRの結果は、陰性対照サンプルに対して、log2のfold changeで計算した。結果は、n=3、平均±SDで表す。結果は、ACTB発現に対して正規化。P値<0.05。
図7図7は、ARPE-19細胞においてLV-mmu-miR-466のトランスダクションの5日後にVEGFA発現が増加することを示す。結果は、n=3、平均±SDで表す。結果は、ACTB発現に対して正規化。P値<0.05。
図8図8は、マウスmiR-466cヘアピンミミックのmiR-466c-3p mimおよびmiR-466c-5pミミックのトランスフェクションは、ヒト細胞株ARPE-19においてVEGFA mRNAレベルを有意に上昇することを示す。qPCRの結果は、陰性対照サンプルに対して、log2のfold changeで計算した。結果は、n=3、平均±SDで表す。結果は、ACTB発現に対して正規化。P値<0.05。
図9図9は、miR-466c-5pのシード配列とスクランブルヌクレオチド(5p fusion)またはジヌクレオチド反復(5p repeat)のいずれかとを含む合成5p fusionおよび5p repeat RNAは、いずれも、ARPE-19細胞においてVEGFA発現を2倍増加することを示す。結果は、n=6、平均±SDで表す。結果は、ACTB発現に対して正規化。
図10図10は、マウス一本鎖miR-466c-3p(ssRNA-466 3p)および二本鎖ミミック(466c duplex)のトランスフェクションは、ヒトARPE-19細胞においてVEGFA mRNAレベルを変化しないが、一本鎖miR-466c-5pのトランスフェクションは、陰性対照トランスフェクションとの比較でVEGFAのアップレギュレーションを誘導したことを示す。qPCRの結果は、陰性対照サンプルに対して、log2のfold changeで計算した。結果は、n=3、平均±SDで表す。結果は、ACTB発現に対して正規化。P値<0.05。
図11図11は、mmu-miR-466がVegfa転写を制御する経路の仮説を示す。mmu-miR-466cは、Stmbt2遺伝子のイントロン10内にコードされる。miRNAが転写され、DroshaおよびDicer酵素複合体によるmiRNA成熟化のカノニカル経路においてプロセシングされる。成熟型のmiRNAは、Vegfa転写を、そのプロモーター領域と相互作用することによって調節しうる。この相互作用は、転写型遺伝子サイレンシング(TGS)または活性化(TGA)をもたらすエピジェネティックな変化を誘導しうる。成熟型のmiRNAは、Vegfa mRNAの3’UTR領域を標的として細胞質レベルで作用して、転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)を誘導することも可能である。
図12図12は、2A-EGFPを伴うS. pyogenes由来Cas9、およびsgRNAのためのクローニングバックボーンのプラスミドマップを示す[p5p-Cas9(BB)-2A-GFP (PX458) (#48138, Addgene)]。
図13図13は、miRNA投与後の細胞生存性を示す。
図14図14は、細胞外ベシクルへのmiRNAパッケージングを示す図である。
図15図15は、融合タンパク質発現の結果を示す:a)RNA結合ドメイン(Ago2);b)EV特異的膜貫通タンパク質ドメイン(CD9);c)DAPI;およびd)RNA結合ドメイン(Ago2)とEV特異的膜貫通タンパク質ドメイン(CD9)のシグナルのマージ。
図16図16は、レシピエント細胞中のEV搭載されたmiRNAの存在を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
配列表
配列番号1:マウスVEGFAプロモーターヌクレオチド配列
配列番号2:ヒトVEGFAプロモーターヌクレオチド配列
配列番号3:mmu-miR-466c-5p(MIMAT0004877)
配列番号4:mmu-miR-466c-3p(MIMAT0004878)
配列番号5:配列全体にカスタムGU反復を含む合成RNA(Repeat-miR-466c-5p)
配列番号6:RNA標的の存在しないスクランブル配列をシードに組み合わせたものを含む、GU反復を有する合成RNA(カスタム融合:fusion-miR466c-5p)
配列番号7:mmu-miR-466cのレンチウイルスベクター過剰発現用クローニングオリゴ:フォワードクローニングプライマー
配列番号8:mmu-miR-466cのレンチウイルスベクター過剰発現用クローニングオリゴ:リバースクローニングプライマー
配列番号9:CRISPR mmu-miR-466c欠失のガイドオリゴ:M-miR-466 1a miR-466 1 gRNA T
配列番号10:CRISPR mmu-miR-466c欠失のガイドオリゴ:M-miR-466 1b miR-466 1 gRNA B
配列番号11:CRISPR mmu-miR-466c欠失のガイドオリゴ:M-miR-466 2a miR-466 2 gRNA T
配列番号12:CRISPR mmu-miR-466c欠失のガイドオリゴ:M-miR-466 2b miR-466 2 gRNA B
配列番号13:CRISPR欠失検出PCRプライマー:466delフォワードプライマー
配列番号14:CRISPR欠失検出PCRプライマー:466delリバースプライマー
配列番号15:hsa-miR-297配列(MIMAT0004450)
配列番号16:hsa-miR-574-3p配列(MIMAT0003239)
配列番号17:配列全体にGU反復のみを含む合成RNA(Repeat only miR-466c)
配列番号18:カスタムGU反復シードおよびmiR-466c-5p配列を含む合成RNA(Seed repeat miR-466c-5p)
配列番号19:RNA標的が存在しないカスタムスクランブル配列シードおよびmiR-466c-5p配列を含む合成RNA(Seed fusion miR-466c-5p)
配列番号20:ヒトLV.CD9.hAgo2のクローニングに関するhCD9フォワードプライマー(コザックあり、終止コドンなし)
配列番号21:ヒトLV.CD9.hAgo2のクローニングに関するhCD9リバースプライマー(コザックあり、終止コドンなし)
配列番号22:ヒトLV.CD9.hAgo2のクローニングに関するhCD9フォワードプライマー(LVベクターと15bp相同)
配列番号23:ヒトLV.CD9.hAgo2のクローニングに関するhCD9リバースプライマー(LVベクターと15bp相同)
配列番号24:ヒトLV.CD9.hAgo2のクローニングに関するHA.FLAG.hAgo2のフォワードプライマー
配列番号25:ヒトLV.CD9.hAgo2のクローニングに関するHA.FLAG.hAgo2のリバースプライマー
配列番号26:hTSG101.hAgo2のクローニングに関するhTSG101フォワードプライマー(コザックあり、終止コドンなし)
配列番号27:hTSG101.hAgo2のクローニングに関するhTSG101リバースプライマー(コザックあり、終止コドンなし)
配列番号28:hTSG101.hAgo2のクローニングに関するhTSG101フォワードプライマー(LVベクターと20bp相同)
配列番号29:hTSG101.hAgo2のクローニングに関するhTSG101リバースプライマー(LVベクターと20bp相同)
配列番号30:hTSG101.hAgo2のクローニングに関するHA.FLAG.hAgo2のフォワードプライマー
配列番号31:hTSG101.hAgo2のクローニングに関するHA.FLAG.hAgo2のリバースプライマー
配列番号32:クローン化されたLV.CD9.Ago2 cDNA
配列番号33:クローン化されたhTSG101.Ago2 cDNA
【0024】
本開示の詳細な説明
用語「miRNA」は、その通常の意味および現在理解される意味にしたがって使用され、RNAに基づく遺伝子調節に関与する真核生物に見られるマイクロRNA分子をいう。用語「miRNA」は、別の意味が示されない限り、その前駆体から切り出された後のプロセシングされたRNAをいう。用語「miRNA」は一般に一本鎖分子をさすが、いくつかの特定の態様においては、本発明において提供される分子は、同じ一本鎖分子の別の領域または別の核酸に対して、部分的に相補的(鎖の長さにわたって10~50%の相補性)、実質的に相補的(鎖の長さにわたって50%超で100%未満の相補性)または完全に相補的な、領域または追加の鎖をも含みうる。したがって、核酸は、分子を構成する特定の配列の相補もしくは自己相補鎖または「相補体」を1つ以上含む分子を包含しうる。例えば、前駆体miRNAは、相補性が100%までの自己相補的領域を有しうる。本発明のmiRNAは、mmu-miR-466cファミリーMIPF0000208のメンバー、すなわちmmu-miR-466a、mmu-miR-466b-1、mmu-miR-466b-2、mmu-miR-466b-3、mmu-miR-466c-1、mmu-miR-466e、mmu-miR-466f-4、mmu-miR-466k、mmu-miR-466c-2、mmu-miR-466b-4、mmu-miR-466b-5、mmu-miR-466b-6、mmu-miR-466b-7、mmu-miR-466p、mmu-miR-466b-8およびmmu-miR-466c-3を包含する。さらに、本発明のmiRNAは、hsa-miR-297およびhsa-miR574-3pを包含する。
【0025】
文脈における「5’に相補的」なる表現は、標的アンチセンスRNA転写物とストリンジェントな条件下にハイブリダイズすることが可能であることを意味する。本発明の文脈において標的アンチセンスRNA転写物の記載に用いられる場合の用語「アンチセンス」とは、配列が、遺伝子のコーティング鎖の配列に相補的であることを意味する。DNA中のチミジンはRNAにおいてウリジンに置き換えられること、この違いは用語「アンチセンス」または「相補性」の理解を変更するものではないことを理解すべきである。
【0026】
miRNAは、mRNAとの結合によって遺伝子発現を調節する。文脈における「シード配列」または「シード領域」とは、多くはmiRNA5’末端から2~8番目の位置に位置する、miRNAがmRNAに結合するために必須の保存されたヘプタメトリカル配列である。miRNAとその標的のmRNAの塩基対形成が、完全にはマッチしないとしても、「シード配列」は完全に相補的でなければならない。本発明のシード配列は、例えば、mmu-miR-466c-5pシード配列のGAUGUGU、またはmiR-466c-3pシード配列のUACAUAC、またはhsa-miR-574-3pシード配列のUGUAUGUGでありうる。
【0027】
遺伝子の「コード鎖」は、TがmRNAではUに置き換えられることを除いては、生成されるmRNAと同じ塩基配列を有する。したがって、遺伝子の「鋳型鎖」は、生成されるmRNAと相補的であり、それに対しアンチパラレルである。
【0028】
本書において用いられる用語「転写開始部位」(TSS)とは、転写開始の位置に対応するまたは該位置をマークする、遺伝子の鋳型鎖上のヌクレオチドを意味する。TSSは、遺伝子の鋳型鎖のプロモーター領域内に位置しうる。
【0029】
本書において用いられる用語「転写終止部位」は、限定されないが以下のような特徴の少なくとも1つを有する、遺伝子の鋳型鎖上の1つ以上のヌクレオチドでありうる領域を意味する:標的転写物の少なくとも1つの終止コドンをコードする領域、標的転写物の3’UTRに先行する配列をコードする領域、RNAポリメラーゼが遺伝子を解離する領域、スプライス部位またはスプライス部位の前の部分をコードする領域、および標的転写物の転写が終結する鋳型鎖上の領域。
【0030】
本書において用いられる用語「転写因子」とは、DNAのRNAへの転写を、例えば転写の活性化または抑制によって調節する、DNA結合タンパク質をさす。いくつかの転写因子は、単独で転写調節作用を示し、他のいくつかの転写因子は他のタンパク質と協力して作用する。いくつかの転写因子は、ある特定の条件下に転写の活性化および抑制の両方を行うことができる。一般に転写因子は、標的遺伝子の調節領域中の特定のコンセンサス配列との類似性の高い1つまたは複数の特定の標的配列に結合する。転写因子は、単独で、または他の分子と複合して、標的遺伝子の転写を調節しうる。本発明において、miRNAは、転写因子を標的遺伝子プロモーターに動員することによって作用することができる。動員される転写因子の例は、クロマチン調節転写因子および他の転写因子、例えばCREB2/ATF4、p300、YY1、GATA4、CRTC、SUZ12、POU2F7、EZH2およびSp1である。
【0031】
用語「タンパク質発現」とは、検出可能レベルのアミノ酸配列またはタンパク質が発現されるように核酸配列が翻訳を受けるプロセスをいう。
【0032】
本書において用いられる用語「低下」、「抑制」、「サイレンシング」および「阻害」は互換的に用いられ、標的配列の産物の発現レベルの、野生型生物における正常発現レベルと比較したダウンレギュレーションをいう。「RNAレベルの低下」または「タンパク質量の低下」とは、野生型発現レベルと比較して統計学的に有意な量の発現低下、例えば少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%の低下を意図する。
【0033】
本書において用いられる用語「増加する」および「アップレギュレートする」は互換的に用いられ、標的配列の産物の発現レベルの、野生型生物における正常発現レベルと比較したアップレギュレーションをいう。「RNAレベルを増加する」または「タンパク質量を増加する」とは、野生型発現レベルと比較して統計学的に有意な量の発現増加、例えば少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%の増加を意図する。
【0034】
用語「組換え体」とは一般に、インビトロで操作された分子、またはそのような分子の複製もしくは発現産物をいう。
【0035】
RNA分子は、ベクターに含まれる核酸分子によってコードされうる。一般に、「作動可能に連結される」とは、連結されるDNA配列が連続しているが必ずしもその必要はなく、かつ、遺伝子と1つ以上の調節配列(例えばプロモーター)が、適当な分子(例えば転写活性化タンパク質である「転写因子」、または転写アクチベータードメインを含むタンパク質)が調節配列に結合したときに遺伝子発現を可能にするように連結されることを意味する。
【0036】
本書において用いられる用語「ベクター」とは、1つ以上の細胞種のトランスダクション/トランスフェクションのためにデザインされた核酸コンストラクトをいう。ベクターは例えば、挿入したヌクレオチドの単離、増幅および複製のためにデザインされた「クローニングベクター」、宿主細胞におけるヌクレオチド配列発現のためにデザインされた「発現ベクター」、組換えウイルスまたはウイルス様粒子の作製をもたらすようにデザインされた「ウイルスベクター」、または属するベクターの種類が1つよりも多い「シャトルベクター」でありうる。用語「複製」とは、ベクターの複製を意味する。
【0037】
用語「発現ベクター」は、本書において用語「プラスミド」および「ベクター」と互換的に用いられ、所望のコーディング配列、および作動可能に連結されるコーディング配列(例えば、ある産物をコードする挿入配列)が特定の宿主細胞において発現するのに必要な適当な核酸配列を含む組換えDNA分子をいう。用語「プラスミド」は、所定の細胞において自律複製が可能な染色体外環状DNAをいう。いくつかの特定の態様において、プラスミドは細菌中での増幅および発現用にデザインされる。
【0038】
したがって、いくつかの態様は、本書に記載されるmiRNAまたはその断片をコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列および適当なプロモーター領域を含む、プラスミド、ベクター、転写および発現カセットの形態の核酸コンストラクトを提供する。適当な調節配列、例えばプロモーター配列、ターミネーター配列、ポリアデニル化配列、エンハンサー配列、マーカー遺伝子および他の所望の配列を含む適当なベクターが、選択または構成されうる。ベクターは、プラスミド、細胞外ベシクル(天然または改変)、ファージ(例えばファージまたはファージミド)もしくはウイルス(例えばレンチウイルス、アデノウィルス、AAV)、または他の適当なベクターでありうる。ベクターの例は、プラスミド、ウイルスベクター(例えばレンチウイルス、アデノウィルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レトロウイルス等に由来するもの)、バクテリオファージ、コスミド、および人工染色体を含むが、それに限定されない。いくつかの態様において、ベクターは、標的細胞におけるポリヌクレオチドの発現を駆動するための発現(または発現コンストラクト)でありうる。ベクターおよびそれを標的細胞に導入する方法は、当分野で知られている[例えばSambrook et al., 1989参照]。
【0039】
シードが対応するプロモーターの例は、VEGFAプロモーター、VEGFDプロモーターおよびHIF1Aプロモーターを含むが、それに限定されない。
【0040】
一態様において、DNA分子は組換え発現ベクターに作動可能に連結される。さらなる態様において、ベクターはレンチウイルスベクターである。一態様において、本発明により開示されるコンストラクトは、レンチウイルスバックボーン、すなわちレンチウイルスベクター中にあるので、活性レンチウイルス粒子の生成が可能であり、したがってトランスフェクション効率の低い細胞においても効果的な発現が可能である。他のいくつかの態様においては、本発明により開示される合成mmu-miR-466cは、レンチウイルスベースのベクター等のような、細胞中での発現を可能にする他のベクター中にクローン化される。
【0041】
本書において用いられる用語「誘導体」は、天然の分子の化学的に修飾または改変された形態をいい、用語「ミミック」または「アナログ」は、天然の分子または基と構造的に類似してもしなくてもよいが同様の機能を有する分子をいう。本書において用いられる用語「基」は通常、より大きい化学構造または分子構造のより小さい化学成分または分子成分をいう。本発明の最も好ましい側面は、mmu-miR-466c-5pのシード配列GAUGUGUおよびmmu-miR-466c-3pのシード配列UACAUACを含むmiRNAミミックである。さらなる側面において、miRNAは、mmu-miR-466c-5p、またはその成熟配列を含むmiRNAミミックである。
【0042】
用語「短い」とは、150ヌクレオチド以下である単一のヌクレオチドの長さをいう。核酸分子は合成物である。用語「合成物」とは、核酸分子が単離されており、配列(全長配列)および/または化学構造において、例えば内因性前駆体miRNA分子のような天然の核酸分子と同一ではないことを意味する。いくつかの態様において、本発明の核酸は、天然の核酸の配列と同一である全長配列を持つものではないが、そのような分子は天然の配列の全部または一部を含みうる。しかしながら、細胞に投与される合成核酸は、その構造または配列が、成熟miRNA配列のような非合成または天然の核酸と同じになるように、細胞中で後から修飾または改変されうることが企図される。例えば、合成核酸は、前駆体miRNAの配列とは異なる配列を有しうるが、その配列は細胞に導入されると内因性のプロセシングされたmiRNAと同じになるように改変されうる。本発明の「合成核酸」は、核酸が天然核酸の化学構造または配列を持つものではないことを意味すると理解される。したがって、用語「合成miRNA」は、細胞中または生理学的条件下で天然のmiRNAのように機能する「合成核酸」をさすと理解されうる。
【0043】
特定のいくつかの態様において、本発明の方法および/または組成物における核酸は、特に合成miRNAであり、非合成のmiRNAではない(すなわち、「合成」とみなされるmiRNAではない)。しかしながら、他のいくつかの態様においては、本発明は特に、合成miRNAではなく非合成miRNAを伴う。
【0044】
合成miRNAの使用に関して記載する任意の態様は、非合成のmiRNAに関しても当てはめることができ、その逆も可能である。
【0045】
本発明の合成ポリヌクレオチドは、非翻訳領域を含む。遺伝子の非翻訳領域(UTR)は、転写されるが翻訳されない。5’UTRは転写開始部位に始まり開始コドンまで続くが、開始コドンを含むものではない。一方、3’UTRは終止コドン直後に始まり、転写終結シグナルまで続く。核酸分子の安定性および翻訳に関してUTRが果たす調節作用についての証拠は増えつつある。
【0046】
用語「単離」とは、本発明の核酸分子が、(配列または構造に関して)異なる不要の核酸分子から、単離された核酸の集団の相同性が少なくとも約90%となるように、および、他のポリヌクレオチド分子に関して相同性が少なくとも約95、96、97、98、99または100%となりうるように、最初に分離されることを意味する。本発明の多くの態様において、核酸は、それが細胞中の内因性核酸とは隔てられてインビトロで合成されていることによって、単離される。しかしながら、単離された核酸は、後から混ぜ合わされまたは一緒にプールされうることが理解されうる。
【0047】
本書において用いられる用語「相同性」とは、ポリマー分子間、例えば核酸分子(例えばDNA分子および/またはRNA分子)間および/またはポリペプチド分子間の全体的な関連性をいう。いくつかの態様において、複数のポリマー分子の配列が少なくとも25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%同じまたは同様であるならば、ポリマー分子は、互いに「相同」であり、互いにある程度の配列同一性を有するとみなされる。用語「相同」とは、必ず少なくとも2つの配列(ポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列)の間の比較をいう。本発明において、2つのポリヌクレオチド配列は、それがコードするポリペプチドが、少なくとも約20アミノ酸の少なくとも1つのストレッチにおいて少なくとも約50%、60%、70%、80%、90%、95%または99%であるならば、相同であるとみなされる。いくつかの態様において、相同ポリヌクレオチド配列は、少なくとも4~5個の一意的に特定されるアミノ酸のストレッチをコードする能力によって特徴付けられる。60ヌクレオチド未満の長さのポリヌクレオチド配列について、相同性は、少なくとも4~5個の一意的に特定されるアミノ酸のストレッチをコードする能力によって決定される。本発明において、2つのタンパク質配列は、少なくとも約20アミノ酸の少なくとも1つのストレッチについて、タンパク質の同一性が少なくとも約50%、60%、70%、80%または90%であるならば、相同であるとみなされる。
【0048】
「~を調節するようにmiRNAを標的化する」なる表現は、本発明の核酸が、選択されたmiRNAを調節するように使用されうることを意味する。いくつかの態様において、調節は、細胞または生物に標的miRNAを効果的に提供する、標的miRNAに対応する合成または非合成のmiRNAによって達成される(正の調節)。他のいくつかの態様においては、調節は、細胞または生物において標的miRNAを効果的に阻害するmiRNA阻害剤によって達成される(負の調節)。
【0049】
いくつかの態様において、合成miRNAは、その相補的領域の5’末端に、リン酸および/またはヒドロキシル基が別の化学基で置き換えられているヌクレオチドを有する(「置換デザイン」と称される)。いくつかの場合、リン酸基が置換され、他のいくつかの場合、ヒドロキシル基が置換されている。いくつかの特定の態様において、置換基はビオチン、アミン基、低級アルキルアミン基、アセチル基、2O-Me(2酸素-メチル)、DMTO(酸素を伴う4,4’-ジメトキシトリチル)、フルオレセイン、チオール、またはアクリジンであり、他の置換基も当業者に知られており、同様に用いられうる。このデザイン要素はmiRNA阻害剤でも用いられうる。
【0050】
他のいくつかの態様は、相補的領域の最初または最後の1~6残基において1つ以上の糖修飾を有する合成miRNAに関する(「糖置換デザイン」と称される)。いくつかの場合、相補的領域の最初の1、2、3、4、5、6個もしくより多くの残基またはその中に誘導可能な任意の範囲に、1つ以上の糖修飾がある。他のいくつかの場合、相補的領域の最後の1、2、3、4、5、6個もしくはより多くの残基またはその中に誘導可能な任意の範囲に、1つ以上の糖修飾がある。用語「最初」および「最後」は、領域の5’末端から3’末端への残基の並びに関するものであると理解されうる。特定のいくつかの態様において、糖修飾は2’O-Me修飾である。他のいくつかの態様において、相補的領域の最初または最後の2~4残基、または相補的領域の最初または最後の4~6残基に、1つ以上の糖修飾がある。このデザイン要素は、miRNA阻害剤にも用いられうる。したがって、miRNA阻害剤は、このデザイン要素、および/または前記の5’末端におけるヌクレオチド上の置換基を有しうる。
【0051】
本発明の他のいくつかの態様において、相補的領域の3’末端の最後の1~5残基の1つ以上のヌクレオチドが、miRNA領域の対応するヌクレオチドに対して相補的でない(「非相補性」)合成miRNAが存在する(「非相補性デザイン」と称される)。非相補性は、相補的miRNAの最後の1、2、3、4および/または5残基に存在しうる。いくつかの態様において、相補的領域の少なくとも2ヌクレオチドに対して非相補性が存在しうる。本発明のmiRNAは1つ以上の置換、糖修飾、または非相補性デザインを有することが意図される。いくつかの場合、合成RNA分子はその2つを有し、他のいくつかの場合、分子は3デザインのすべてを有する。miRNA領域および相補的領域は、同じまたは別個のポリヌクレオチド上に存在しうる。同じポリヌクレオチドにそれが含まれる場合、miRNA分子は単一のポリヌクレオチドであるとみなされうる。異なる領域が別個のポリヌクレオチドに存在する態様では、合成miRNAは2つのポリヌクレオチドからなるとみなされうる。RNA分子が単一のポリヌクレオチドであるとき、miRNA領域と相補的領域の間にリンカー領域が存在する。いくつかの態様において、miRNA領域と相補的領域の結合の結果として、単一のポリヌクレオチドはヘアピンループ構造を形成することが可能である。リンカーはヘアピンループを構成する。いくつかの態様において、リンカー領域は、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39もしくは40残基またはその中に誘導可能な任意の範囲の長さである、少なくとも該長さである、または最長で該長さであることが意図される。いくつかの態様において、リンカーは3~30残基の間(この上限および下限を含む)の長さである。
【0052】
用語「天然の」とは、人間の介入なしに生体に見られるものをいうと理解されうる。これは、天然に生じる野生型または変異型の分子をさしうる。いくつかの態様において、合成miRNA分子は、天然miRNA分子の配列を有するものではない。他のいくつかの態様において、合成miRNAは、天然miRNA分子の配列を有しうるが、とりわけ当該配列に特に関係しない部分における、分子の化学構造(非配列化学構造)は、該配列を有する天然miRNA分子の化学構造とは異なる。いくつかの場合、合成miRNAは、天然miRNAに見られない配列および非配列の両方の化学構造を有する。さらに、合成分子の配列は、どのmiRNAが効果的に提供または抑制されるかを特定し得、内因性miRNAは「対応するmiRNA」と称されうる。本発明において使用することのできる対応するmiRNA配列は、配列番号3、配列番号4、配列番号15および配列番号16を包含するが、それに限定されない。
【0053】
いくつかの態様において、17~130残基の長さの合成miRNAが存在する。より好ましくは、長さは14~30残基である。本発明は、少なくとも、または最長で、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129もしくは130残基の長さまたはその中で誘導可能な任意の範囲の、合成miRNA分子に関する。
【0054】
いくつかの態様において、合成miRNAは、a)5’から3’の配列が成熟miRNA配列と同じである「miRNA領域」、およびb)5’から3’の配列がmiRNA配列に対し60%~100%相補的である「相補的領域」を有する。いくつかの態様において、合成miRNAもまた、前記に定義したように単離される。用語「miRNA領域」とは、天然の成熟miRNA配列の配列全体に対する同一性が少なくとも90%である合成miRNAの領域をいう。いくつかの態様において、miRNA領域は、天然miRNAの配列に対する同一性が下記の値であるか、少なくとも下記の値である:90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、99.1、99.2、99.3、99.4、99.5、99.6、99.7、99.8、99.9または100%。用語「相補的領域」とは、miRNA領域が同一である天然の成熟miRNA配列に対して、60%相補的である、または少なくとも60%相補的である合成miRNAの領域をいう。相補的領域は、相補性が下記の値のものである、または少なくとも下記の値のものである:60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、99.1、99.2、99.3、99.4、99.5、99.6、99.7、99.8、99.9もしくは100%またはその中で誘導可能な任意の範囲。単一のポリヌクレオチド配列において、miRNA領域と相補的領域の間の化学的結合の結果としてヘアピンループ構造が存在する。他のいくつかの態様においては、相補的領域は、miRNA領域とは異なる核酸分子に存在し、その場合、相補的領域は相補鎖に、miRNA領域はアクティブ鎖にある。
【0055】
本発明のいくつかの態様において、合成miRNAは1つ以上のデザイン要素を含む。デザイン要素は、下記のものを包含するが、それに限定されない:i)相補的領域の5’末端のヌクレオチドのリン酸またはヒドロキシルへの置換基;ii)相補的領域の最初または最後の1~6残基における1つ以上の糖修飾;またはiii)相補的領域の3’末端の最後の1~5残基における1つ以上のヌクレオチドとmiRNA領域の対応するヌクレオチドの間の非相補性。
【0056】
薬剤を「提供する」という表現は、薬剤を患者に「投与する」ことを包含して用いられると理解されうる。
【0057】
本書において用いられる用語「有効量」とは、本発明の分子の、それが投与される細胞または組織において所望の生理学的変化をもたらすのに必要な量として定義される。本書において用いられる用語「処置有効量」とは、疾患または状態に関して所望の効果を達成する本発明の分子の量として定義される。当業者は、多くの場合に分子は治癒を提供しないことがあっても、少なくとも1つの症状の軽減または改善といった部分的利益を提供しうることを容易に認識する。いくつかの態様において、何らかの利益を有する生理学的変化も、処置に有効とみなされる。したがって、いくつかの態様において、生理学的変化を提供する分子の量は、「有効量」または「処置有効量」であるとみなされる。
【0058】
本書において用いられる用語「薬学的に許容しうる溶媒和物」とは、適当な溶媒の分子が結晶格子に組み込まれている本発明の化合物を意味する。適当な溶媒は、投与される用量で生理学的に忍容されうるものである。例えば、溶媒和物は、有機溶媒、水またはその混合物を含む溶液からの、結晶化、再結晶化または沈殿によって調製されうる。適当な溶媒の例は、エタノール、水(例えば、一、二および三水和物)、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N’-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N’-ジメチルアセトアミド(DMAC)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMEU)、1,3-ジメチル-3,4,5,6-テトラヒドロ-2-(1H)-ピリミジノン(DMPU)、アセトニトリル(ACN)、プロピレングリコール、酢酸エチル、ベンジルアルコール、2-ピロリドン、安息香酸ベンジル等である。溶媒が水である場合、溶媒和物は「水和物」と呼ばれる。
【0059】
本書において用いられる用語「薬学的に許容しうる担体」は、医薬、例えばヒトへの投与に適当な医薬の調製における使用のために許容されうる1つ以上の溶媒、緩衝剤、溶液、分散媒体、コーティング、抗細菌および抗真菌剤、等張化および吸収遅延化剤等を包含しうる。医薬活性物質のためのそのような媒体および薬剤の使用は、当分野においてよく知られている。補足的な活性成分も、組成物中に組み合わせることができる。
【0060】
miRNAの核機能について、Turunenら(Circ Res 105(6):604-609)は、生物学的miRNAの合成カウンターパートである短鎖ヘアピンRNA(shRNA)は、マウスVegfa遺伝子プロモーターを標的化するとき、Vegfa発現を活性化または抑制することができることを見出した。誘導される転写遺伝子活性化(TGA)および転写遺伝子サイレンシング(TGS)は、標的化される配列に依存した。Vegfaプロモーターを標的とするshRNAは、転写因子の誘因をもたらし、インビトロおよびインビボの両方でエピジェネティックな変化を誘導した。
【0061】
本発明者はまた、VegfaプロモーターのshRNA仲介転写活性化が、後肢虚血および心筋梗塞のマウスモデルにおいて治療的改善を提供することを示した。この知見は、shRNAが、構造の類似する内因性miRNAを模倣することによって機能しうることを示した。
【0062】
鋳型鎖上の標的配列の位置は、標的配列の5’末端の位置によって特定される。標的配列の5’末端は、転写開始部位(TSS)コアの任意の位置であってよく、標的配列は、TSSコアの位置1~位置5001から選択される任意の位置で始まりうる。本書における参照のために、標的配列の5’最末端がTSSコアの位置1~位置2000までであるとき、標的配列はTSSの上流とみなされ、標的配列の5’最末端がTSSコアの位置2002~5000であるとき、標的配列はTSSの下流とみなされる。標的配列の5’最末端がヌクレオチド2001にあるとき、標的配列はTSSの中心配列とみなされ、TSSの上流でも下流でもない。さらなる参照のために、例えば、標的配列の5’末端がTSSコアの位置1600にあるとき、すなわちTSSコアの1600番目のヌクレオチドであるとき、標的配列はTSSコアの位置1600に始まり、TSSの上流であるとみなされる。
【0063】
いくつかの態様において、標的配列は、鋳型鎖のTSSコア内に位置する。本書において用いられる用語「TSSコア」または「TSSコア配列」は、TSS(転写開始部位)の2000ヌクレオチド上流と2000ヌクレオチド下流の間の領域をいう。したがって、TSSコアは4001ヌクレオチドを含み、TSSはTSSコア配列の5’末端から2001番目の位置に位置する。
【0064】
いくつかの態様において、標的配列は、TSSの3000ヌクレオチド上流と3000ヌクレオチド下流の間に位置する。
【0065】
いくつかの態様において、標的配列は、TSSの2000ヌクレオチド上流と2000ヌクレオチド下流の間に位置する。
【0066】
いくつかの態様において、標的配列は、TSSの1000ヌクレオチド上流と1000ヌクレオチド下流の間に位置する。
【0067】
いくつかの態様において、標的配列は、TSSの500ヌクレオチド上流と500ヌクレオチド下流の間に位置する。
【0068】
いくつかの態様において、標的配列は、TSSの250ヌクレオチド上流と250ヌクレオチド下流の間に位置する。
【0069】
いくつかの態様において、標的配列は、TSSの100ヌクレオチド上流と100ヌクレオチド下流の間に位置する。
【0070】
いくつかの態様において、標的配列は、TSSの10ヌクレオチド上流と10ヌクレオチド下流の間に位置する。
【0071】
いくつかの態様において、標的配列は、TSSの5ヌクレオチド上流と5ヌクレオチド下流の間に位置する。
【0072】
いくつかの態様において、標的配列は、TSSの1ヌクレオチド上流と1ヌクレオチド下流の間に位置する。
【0073】
いくつかの態様において、標的配列は、TSSコア中、TSSの上流に位置する。標的配列は、TSSの上流2000ヌクレオチド未満、1000ヌクレオチド未満、500ヌクレオチド未満、250ヌクレオチド未満、100ヌクレオチド未満、10ヌクレオチド未満または5ヌクレオチド未満に位置しうる。
【0074】
いくつかの態様において、標的配列は、TSSコア中、TSSの下流に位置する。標的配列は、TSSの下流2000ヌクレオチド未満、1000ヌクレオチド未満、500ヌクレオチド未満、250ヌクレオチド未満、100ヌクレオチド未満、10ヌクレオチド未満または5ヌクレオチド未満に位置しうる。
【0075】
いくつかの態様において、標的配列は、TSSコアのTSSを挟む±50ヌクレオチドに位置する。いくつかの態様において、標的配列は実質的に、TSSコアのTSSとオーバーラップする。いくつかの態様において、標的配列は、TSSコアのTSSで始まりまたは終わってオーバーラップする。いくつかの態様において、標的配列は、TSSコアのTSSと、上流または下流方向1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18または19ヌクレオチドでオーバーラップする。
【0076】
鋳型鎖上の標的配列の位置は、標的配列の5’末端の位置によって特定される。標的配列の5’末端は、TSSコアの任意の位置であってよく、標的配列は、TSSコアの位置1~40010から選択される任意の位置で始まりうる。本書における参照のために、標的配列の5’最末端がTSSコアの位置1~位置2000までであるとき、標的配列はTSSの上流とみなされ、標的配列の5’最末端がTSSコアの位置2002~4001にあるとき、標的配列はTSSの下流とみなされる。標的配列の5’最末端がヌクレオチド2001にあるとき、標的配列はTSSの中心配列とみなされ、TSSの上流でも下流でもない。さらなる参照のために、例えば、標的配列の5’末端がTSSコアの位置1600にあるとき、すなわちTSSコアの1600番目のヌクレオチドであるとき、標的配列はTSSコアの位置1600に始まり、TSSの上流であるとみなされる。
【0077】
本発明者の知見にしたがって、内因性miRNAは、Vegfa調節において、合成shRNAと同様の機能を発揮しうるとの仮説が立てられた。それを調べるために、低酸素マウス内皮細胞の核および細胞質分画に由来するmiRNAの次世代シーケンシングを行った。結果は、多くのmiRNAが実際に、低酸素に応答して核に局在することを示した。本発明者は次いで、バイオインフォマティック分析を用いて、核に濃縮されたmmu-miR-466cはマウスVegfaプロモーター内に推定結合部位を有することを確認することができた(図2)。mmu-miR-466cは、Scm-like with four mbt domains 2(Sfmbt2)遺伝子のイントロン領域、特にイントロン10中の、齧歯類特異的miRNAクラスター中にコードされる(図1)。
【0078】
Sfmbt2遺伝子は、関心のmiRNAと同様に、低酸素に応答し、低酸素処理の24時間後に有意にアップレギュレートされることが観察された(図4)。得られたデータは、mmu-miR-466cは、低酸素時のVegfa発現の微細な調整において、そのプロモーターを標的とすることによって協働しうることを示唆する。
【0079】
バイオインフォマティック分析において、mmu-miR466cの推定標的部位は、先にVegfa遺伝子活性化のために用いられたshRNAの結合部位に驚くほど近いことが観察された(図2に例)。miRNAとプロモーター配列の間の相互作用の可能なメカニズムを調べるために、標的化RNAのシーケンシングを行った。結果は、C166内皮細胞においてマウスVegfaプロモーター上にアンチセンスRNA転写物を確認した。このプロモーター関連のノンコーディング転写物は、VegfaプロモーターにおけるmiRNAおよびshRNAの標的であると考えられる。
【0080】
miRNAが広範な生物において確認されることは、miRNA調節メカニズムが進化的に保存されることを示唆し、多く特定のmiRNAが、例えば齧歯類とヒトの間で保存されていることが示されている。また、mmu-miR-466cの相同miRNAが、ヒトゲノム中に存在するかも知れない。本発明者は、同様のカウンターパートの探索においてヒトゲノムをスキャンしたとき、mmu-miR-466cとの配列類似性が特に高い2つのマイクロRNA(hsa-miR-297およびhsa-miR-574-3p)を見出した(図3)。マウスmiRNAとヒトmiRNAの間の高い類似性のために、ヒトmiRNAカウンターパートは同様の標的を有すること、およびヒト細胞にトランスフェクトされたマウスmiRNAはヒトVEGFA、VEGFDおよびHIF1A mRNAレベルを調節できること、を合理的に推測することができる。
【0081】
得られたデータは、マイクロRNAは、Vegfaのプロモーター関連のノンコーディング転写物および3’UTR領域を標的として、転写および転写後の両方のレベルで作用している可能性を示唆する。このことは、miRNAが、低酸素条件における厳密に制御されたVegfa発現の微細な調整において作用するという仮説を支持しうる。
【0082】
本プロジェクトにおいて、mmu-miR-466cの作用メカニズムをさらに調べるために、本発明者は、異なる2つの実験を行った:I)本発明者は、合成mmu-miR-466cミミックをヒト内皮細胞株Ea.hy926およびヒト上皮細胞株ARPE-19にトランスフェクトし、VEGFA mRNAレベルに対する効果を観察した。II)次に、mmu-miR-466cの機能を調べるために、本発明者は、CRISPR/Cas9ゲノム編集ツールを用いて、安定なmmu-miR-466c欠失マウス細胞株を作製した。
【0083】
本プロジェクトで試験したmiRNA(mmu-miR-466c)は、低酸素に応答するマウスVegfa発現を厳密に制御することを本発明者が予め観察したものである。miRNA調節メカニズムが生物間で高度に進化的保存されていること、およびmmu-miR-466cに類似するヒトのmiRNAカウンターパートが存在することから、本発明者は、合成mmu-miR-466cミミックがヒト細胞株においてVEGFA mRNAレベルをどのように調節するかを調べた。
【0084】
本発明者は、ヒト内皮細胞株Ea.hy926をmiR-466cのヘアピンミミック(miR-466c 3p mim)でトランスフェクトした後、(詳細は実施例を参照されたいが)VEGFA mRNAレベルが有意にダウンレギュレートされることを見出した。同様のダウンレギュレーション効果は、一本鎖3pミミック(ssRNA-466c-3p)、および3p鎖と5p鎖がアニーリングされたものを含むこのmiRNAの二本鎖構造をトランスフェクトしたときにも観察された。この結果は、ヒト内皮細胞株において鎖バイアス選択が存在し得、mmu-miR-466cの3p鎖がVEGFAダウンレギュレーションに機能的でありうることを示唆する。
【0085】
さらに、本発明者は、mmu-miR-466cの合成ミミックをヒト上皮細胞株において試験することによって、異なる種類のミミックの間に、VEGFA調節性能の明らかな差を見ることができた。ヘアピンミミック(miR-466c-3p/5p mim)はVEGFAを強くアップレギュレートすることができたが、それ以外のミミックはVEGFA mRNAレベルにおいてわずかな変化しか誘導しなかったか、または変化を全く誘導しなかった。この観察されたミミック性能の大差は、ヘアピンミミック構造によって説明することができた。ヘアピン構造は天然の内因性mmu-miR-466cに、より類似し得、細胞内でのプロセシングおよびmiRNAプロセシング複合体の活性化を必要とするが、それ以外のミミックの一本鎖または二本鎖形態は、すでにより成熟した形態であり、したがって、必ずしも適正なプロセシング経路に入らない可能性がある。
【0086】
マウスmiR-466cミミックを用いての結果により、miR-466cはヒトVEGFA mRNAレベルを調節できること、およびさらに、ヒト細胞は非成熟形態のマウスmiRNAを機能的な成熟鎖を生じるようにプロセシングできる可能性があることが示された。さらに、miR-466cは、試験した異なる上皮および内皮のヒト細胞株において、相対する調節効果を示すようである。これは、shRNAを異なる細胞株において試験したところVegfaレベルに対する効果が異なっていたという、本発明者が先に得ていた結果と一致する。本発明者は先に、mmu-miR-466cは、マウス内皮細胞において低酸素下のVegfa発現誘導のために必要であるが、ヒト内皮細胞においてはダウンレギュレーション効果を有するらしいことを見出していた。したがって、VEGFAレベルに対するmiR-466c合成ミミックの効果は、試験する細胞の種類に依存するようである。試験したヒト内皮細胞株において見られた強いVEGFAダウンレギュレーション効果は、将来、抗血管新生治療法として研究されうる。
【0087】
したがって、前記データは、哺乳動物細胞において遺伝子発現を調節するためのmiRNAの能力を確証する。この結果は有望であり、miRNAの核機能および遺伝子調節作用を示す証拠は増えつつある。RNA分子は、DNAおよびタンパク質に先立つ、地球上で最初期の生命形態であったことが提唱されている。本願において提供されるmiRNAおよび短鎖ノンコーディングRNAは反復ジヌクレオチド配列を多く含むことを認識することは有意義である。最初期形態のRNAは、わずか2つの異なるヌクレオチドを含んで、その配列のバリエーションは最小限であったろう。DNAはまだ存在しなかったので、可変のDNAコーディング配列は必要がなかった。したがって、本発明者は、本書において提供される反復配列を含む単鎖RNAは、太古の生物学からの調節分子でありうることを提案する。
【0088】
本発明が目的とするものの一つは、対象において少なくとも1つの細胞による不十分な量のVEGFAポリペプチドによって引き起こされる障害を処置する方法であって、前記細胞に対するVEGFAポリペプチドの少なくとも1つの活性を増加させるために、配列番号5、配列番号6、配列番号3、配列番号4、配列番号15または配列番号16の少なくとも1つの配列に対して少なくとも80%の同一性を有するmiRNAを含むmiRNA組成物を有効量で前記対象に投与することを含む方法である。
【0089】
本発明の他の一側面は、対象において少なくとも1つの細胞によるVEGFAポリペプチドの産生を増加することによって創傷治癒を向上する方法であって、前記細胞に対するVEGFAポリペプチドの少なくとも1つの活性を増加させ、それによって、持続的または頓挫のVEGFA仲介創傷治癒の発生を増加するために、配列番号5、配列番号6、配列番号3、配列番号4、配列番号15または配列番号16の少なくとも1つの配列に対して少なくとも80%の同一性を有するmiRNAを含むmiRNA組成物を有効量で前記対象に投与することを含む方法である。
【0090】
本発明の他の一側面は、組織において血管新生を増加する方法であって、前記組織に対するVEGFAポリペプチドの少なくとも1つの活性を増加させるために、配列番号5、配列番号6、配列番号3、配列番号4、配列番号15または配列番号16の少なくとも1つの配列に対して少なくとも80%の同一性を有するmiRNAを含むmiRNA組成物を有効量で前記組織に投与することを含む方法である。
【0091】
本書において「血管新生」とは、血管構造の増殖またはリモデリングとして定義される。血管新生は、MRI、血管造影および組織化学を包含するインビボおよびインビトロの方法によって診断または決定することができる。
【0092】
本発明の好ましい一側面は、VEGFAポリペプチドの産生不足によって引き起こされる、血管新生に関連する障害を処置する方法である。より好ましい側面において、血管新生は血管発生である。より一層好ましい側面において、前記障害は、注射線維症、心内膜心筋線維症、縦隔線維症、骨髄線維症、後腹膜線維症、進行性塊状線維症、腎性全身性線維症、間質性肺疾患(ILD)、特発性肺線維症(IPF)、強皮症、放射線誘発肺線維症、ブレオマイシン肺、サルコイドーシス、珪肺症、肺線維症、家族性肺線維症、非特異性間質性肺炎、自己免疫疾患、腎臓移植線維症、心臓移植線維症、肝臓移植線維症、瘢痕化、糸球体腎炎、肝硬変、全身性硬化症、または増殖性硝子体網膜症からなる群から選択される線維性障害である。
【0093】
本発明のより好ましい一側面は、VEGFAポリペプチドの量が少なすぎることによって引き起こされる、心臓血管疾患である障害を処置する方法である。前記心臓血管疾患は、心臓疾患、心筋虚血、心不全および末梢血管疾患からなる群から選択することができる。
【0094】
「心臓疾患」は、急性および/または慢性の心機能不全をいう。心臓疾患は、心臓収縮機能の低下にしばしば関連し、心筋への血流の観察可能な低下(例えば冠動脈疾患の結果としてのもの)に関連しうる。心臓疾患の現れには心筋虚血が包含され、これは、狭心症、心臓発作および/またはうっ血性心不全をもたらしうる。
【0095】
「心筋虚血」は、典型的には(例えば冠動脈疾患の結果として)心筋への血液供給が不十分であるために、心臓の筋肉が十分なレベルの酸素および栄養物を受け取ることのできない状態である。
【0096】
「心不全」とは、心臓が身体に、代謝要求に見合う十分な血流を提供しない状態として臨床的に定義される。症状には、息切れ、疲労、衰弱、下肢の腫脹、および運動耐容能低下が含まれる。心不全患者は身体検査において、高い心拍数および呼吸数、ラッセル音(肺に液体が存在することを示す)、浮腫、頸静脈拡張、そして多くの場合に心臓肥大を示す傾向がある。重篤な心不全の患者は死亡率が高く、典型的には50%の患者が、その状態の発症から2年以内に死亡する。いくつかの場合、心不全は、本書および従来技術に記載されるように、心筋梗塞および進行性慢性心不全か急性低拍出状態のいずれかを典型的にはもたらす重篤な冠動脈疾患(「CAD」)に関連する。他のいくつかの場合、心不全は、重篤な冠動脈疾患に関連しない拡張型心筋症に関連する。
【0097】
「末梢血管疾患」とは、末梢の(すなわち心臓でない)血管系および/またはそれにより供給を受ける組織の、急性または慢性機能不全をいう。心臓疾患と同様、末梢血管疾患も典型的には、該血管系により供給を受ける組織への血流が不十分である結果として起こり、この血液不足は、例えば虚血、または重篤な場合には組織細胞死をもたらしうる。末梢血管疾患の側面は、末梢閉塞性動脈疾患(PAOD)および末梢筋虚血を包含するが、それに限定されない。末梢血管疾患の症状はしばしば、患者の四肢、特に脚に現れる。
【0098】
本発明の他の一側面は、組織における出血を減少する方法であって、配列番号5、配列番号6、配列番号3、配列番号4、配列番号15または配列番号16の少なくとも1つの配列に対する同一性が少なくとも80%であるmiRNAを含むmiRNA組成物を、前記組織に対するVEGFAポリペプチドの活性を高めるために有効量で前記組織に投与することを含む方法である。
【0099】
本発明の他の一側面は、組織における内皮細胞増殖を増加する方法であって、配列番号5、配列番号6、配列番号3、配列番号4、配列番号15または配列番号16の少なくとも1つの配列に対する同一性が少なくとも80%であるmiRNAを含むmiRNA組成物を、前記組織に対するVEGFポリペプチドの活性を高めるために有効量で前記組織に投与することを含む方法である。
【0100】
本発明の他の一側面は、組織における創傷治癒を高める方法であって、配列番号5、配列番号6、配列番号3、配列番号4、配列番号15または配列番号16の少なくとも1つの配列に対する同一性が少なくとも80%であるmiRNAを含むmiRNA組成物を、前記組織に対するVEGFポリペプチドの活性を高めるために有効量で前記組織に投与することを含む方法である。
【0101】
本発明の一側面は、配列番号5、配列番号6、配列番号3、配列番号4、配列番号15もしくは配列番号16またはその相補的配列に対する同一性が少なくとも80%である合成オリゴヌクレオチドである。特に、合成オリゴヌクレオチドは、配列番号5、配列番号6、配列番号3、配列番号4、配列番号15または配列番号16のmiRNAに対する同一性が少なくとも85%、95%、96%、97%、98%、99%または100%である。
【0102】
本発明の他の一側面は、心臓血管疾患の診断方法であって、
(a)心臓血管疾患を患うことが疑われる個体からのサンプルを提供し;
(b)該サンプルにおける配列番号15および配列番号16から選択される少なくとも1つの配列の発現レベルを測定する
ステップを含み;
ここで、配列番号15および配列番号16から選択される少なくとも1つの配列の発現レベルが、対照サンプルと比較して高いまたは低いことは、心臓疾患があること、または心臓血管疾患があるかもしくはそれに罹る傾向があることを示す、
方法である。
【0103】
本発明の好ましい一側面は、上記に開示した、一本鎖である合成核酸分子である。本発明の他の好ましい一側面は、上記に開示した、少なくとも部分的に二本鎖である合成核酸分子である。本発明の好ましい一側面は、上記に開示した、RNAまたはDNA分子から選択される合成核酸分子である。本発明の他の好ましい一側面は、上記に開示した、少なくとも1つの改変されたヌクレオチドアナログを含む合成核酸分子である。本発明のより好ましい一側面において、該改変は、核酸塩基改変、糖改変、糖間結合改変、バックボーン改変、およびその任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0104】
本発明の他の一側面は、対象において心筋梗塞または慢性心不全を処置する方法であって、
(a)の処置を必要とする対象を特定および選択すること;および
(b)選択した対象に、マイクロRNAであるmmu-miR-466cまたはhsa-miR-297またはhsa-miR-574-3pを処置有効量で投与すること;ここで、miR-466cは、配列番号5、配列番号6、配列番号3または配列番号4のヌクレオチド1~8と100%同一である領域を含んで、配列番号5、配列番号6、配列番号3または配列番号4に対する同一性少なくとも80%で少なくとも18、19または20個のヌクレオチドを含み、miR-297は、配列番号15のヌクレオチド1~8と100%同一である領域を含んで、配列番号15に対する同一性少なくとも80%で少なくとも18、19または20個のヌクレオチドを含み、miR-574-3pは、配列番号16のヌクレオチド1~8と100%同一である領域を含んで、配列番号16に対する同一性少なくとも80%で少なくとも18、19または20個のヌクレオチドを含む、
を含む方法である。
【0105】
本発明の一側面は、必要とする対象において心筋梗塞、心臓リモデリングまたは心不全を治療または予防する方法であって、対象の心臓細胞における配列番号3、4、5、6、15もしくは16のmiRNAまたはそのホモログの1つ以上の発現または活性を調節することを含む方法である。
【0106】
本発明の一側面は、配列番号5、配列番号6、配列番号3、配列番号4、配列番号15もしくは配列番号16またはその相補的配列に対する配列同一性が少なくとも80%である合成miRNA分子である。
【0107】
本発明の好ましい一側面によると、合成miRNA分子は配列番号3に対し少なくとも80%の配列同一性を有する。
【0108】
本発明の好ましい一側面によると、合成miRNA分子は配列番号4に対し少なくとも80%の配列同一性を有する。
【0109】
本発明の好ましい一側面によると、合成miRNA分子は配列番号5に対し少なくとも80%の配列同一性を有する。
【0110】
本発明の好ましい一側面によると、合成miRNA分子は配列番号15に対し少なくとも80%の配列同一性を有する。
【0111】
本発明の好ましい一側面によると、合成miRNA分子は配列番号16に対し少なくとも80%の配列同一性を有する。
【0112】
本発明の好ましい一側面によると、合成miRNA分子は配列番号6に対し少なくとも80%の配列同一性を有する。
【0113】
本発明のより好ましい一側面は、配列番号5、配列番号6、配列番号3、配列番号4、配列番号15もしくは配列番号16またはその相補的配列に対する配列同一性が少なくとも85%である合成miRNA分子である。
【0114】
本発明のより好ましい一側面は、配列番号5、配列番号6、配列番号3、配列番号4、配列番号15もしくは配列番号16またはその相補的配列に対する配列同一性が少なくとも90%である合成miRNA分子である。
【0115】
本発明のより好ましい一側面は、配列番号5、配列番号6、配列番号3、配列番号4、配列番号15もしくは配列番号16またはその相補的配列に対する配列同一性が少なくとも95%である合成miRNA分子である。
【0116】
本発明のより好ましい一側面は、配列番号5、配列番号6、配列番号3、配列番号4、配列番号15もしくは配列番号16またはその相補的配列を含む核酸配列を有する合成miRNA分子である。
【0117】
本発明の他の一側面は、前記に開示した合成miRNA分子であり、ここで、前記核酸分子は14~30ヌクレオチドの長さである。本発明の他の一側面は、前記に開示した合成miRNA分子であり、ここで、シード配列はGAUGUGUまたはUACAUACまたはUGUAUGUGを含む。最も好ましいシード配列はGAUGUGUを含む。本発明の他の一側面は、本発明の合成miRNA分子であり、ここで、前記核酸分子は標的遺伝子のプロモーター領域または3’UTRに結合する。本発明の好ましい一態様は、本発明の合成miRNA分子であり、ここで、標的遺伝子はVEGFA、VEGFDまたはHIF1Aである。最も好ましい態様において、合成miRNA分子の標的遺伝子はVEGFAである。
【0118】
より好ましい態様において、本発明の合成miRNA分子は、少なくとも1つの改変されたヌクレオチドアナログを含む。他の好ましい一態様において、合成miRNA分子は、心臓血管疾患の処置における使用のためのものである。
【0119】
本発明の一側面は、少なくとも1つの本発明の合成miRNA分子および担体または賦形剤を含む医薬組成物である。より好ましい側面において、前記医薬組成物の担体または賦形剤は、医療処置適用のために適当なものである。本発明のより好ましい態様において、医薬組成物は、少なくとも1つの薬学的に許容しうる添加剤をさらに含む。最も好ましい態様において、医薬組成物は、心臓血管疾患の処置における使用のためのものである。
【0120】
本発明の一側面は、本発明の少なくとも1つの合成miRNA分子を含む組換え発現ベクターである。本発明の他の一側面は、前記組換え発現ベクターを含む細胞である。
【0121】
本発明の一側面は、ヒトにおいて標的タンパク質の発現を調節する方法であって、それを必要とする対象に本発明の合成miRNA分子を投与することを含む方法である。本発明のより好ましい側面は、この方法であって、標的タンパク質の発現を増加する方法である。本発明のより好ましい側面によると、標的タンパク質の発現は少なくとも30%増加する。本発明の最も好ましい態様において、標的タンパク質は少なくとも50%増加する。
【0122】
他の好ましい一態様において、前記方法は、配列番号5、配列番号6、配列番号3、配列番号4、配列番号15または配列番号16に対する配列同一性が少なくとも80%である少なくとも1つの合成miRNAを有効量で対象に投与することを含む。より好ましい態様において、投与するmiRNAは、前記配列に対し少なくとも90%の配列同一性を有する。より好ましい態様において、投与するmiRNAは、前記配列に対し少なくとも95%の配列同一性を有する。より好ましい態様において、投与するmiRNAは、配列番号5、配列番号6、配列番号3、配列番号4、配列番号15または配列番号16の配列を含む。
【0123】
本発明の他の一側面は、対象に心臓血管疾患のリスクがあるまたは対象が心臓血管疾患に罹っているかを決定する方法であって、
(A)心臓血管疾患が疑われる個体のサンプルを提供し:
(B)場合により、前記サンプルからRNAを抽出し:
(C)qRT-PCRによりhsa-miR-297またはhsa-miR-574-3pの発現レベルを測定する
ステップを含み、ここで、;hsa-miR-297またはhsa-miR-574-3pの発現レベルが対照サンプルと比較して低いことは、心臓血管疾患があること、または心臓血管疾患に罹る傾向があることを示す、方法である。
【実施例
【0124】
細胞培養
マウスC166(卵黄嚢由来マウス内皮細胞株、ATCC: CRL-2581)細胞、ヒトEA.hy926(体細胞ハイブリッド内皮細胞、ATCC: CRL-2922)およびヒトARPE-19(網膜上皮細胞、ATCC: CRL-2302)細胞を、10%ウシ胎仔血清(FBS)および1%ペニシリン-ストレプトマイシン(P/S)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(Sigma-Aldrich)中に、通常の条件(37℃、5%CO)下に維持した。
【0125】
CRISPR/Cas9トランスフェクトされたC166細胞を、細胞ソーティング直後に20%FBSおよび1%P/Sを含むDMEM中に、通常の条件(37℃、5%CO)下に維持した。
【0126】
C166細胞株を用いて行ったC166細胞株低酸素実験の間、細胞を通常の培地中で、低酸素条件(1%O、5%CO)下に培養した。
【0127】
レンチウイルスmmu-miR-466c発現ベクターの作製
第三世代ヒト免疫不全ウイルス1(HIV-1)ベースのLV-PGK-GFP-U6-RNAベクターをmmu-miR-466cの過剰発現のために使用した。mmu-miR-466cを、ゲノムコンテキストにおけるヘアピン(全部で255bpのフラグメント)としてクローニングプライマー(配列番号7および8)を用いるPCRクローニングによってベクター中にクローン化した。対照として、GFPのみをコードするレンチウイルス(LV)を使用した。ベクターを標準的なリン酸カルシウムトランスフェクション法によって293T細胞中に調製した。
【0128】
miRNAミミックの作製
内因性miRNAであるmmu-miR-466c-5pおよびmmu-miR-466c-3pに対して、およびmiR-466c-5pの合成バージョンに対して、miRNAミミックを作製した(融合ミミックおよび反復ミミック)(配列番号3~6)。所望のmiRNA配列をDharmaconに提示し、Dharmaconにおいて、EP2261334A2に開示されるようなmiRIDIANマイクロRNAミミック用のプロトコルにしたがってミミックが作製された。
【0129】
レンチウイルスのトランスダクション
第三世代ヒト免疫不全ウイルス1(HIV-1)ベースのLV-PGK-GFP-U6-RNAベクターをmmu-miR-466cの過剰発現のために使用した。対照として、GFPのみをコードするレンチウイルス(LV)を使用した。ベクターを標準的なリン酸カルシウムトランスフェクション法によって293T細胞中に調製した。mmu-miR-466cを発現するレンチウイルスベクター(LV-466)をC166細胞に導入した。細胞にMOI10で導入し、導入の5日後にサンプルを採取した。
【0130】
miR-466c合成ミミックのトランスフェクション
miRNAミミックのヒト細胞株へのトランスフェクションのために、至適トランスフェクション効率を見出し、細胞死の割合を低下するために、本発明者は、ヒト網膜上皮ARPE-19細胞への異なる比のトランスフェクション試薬/蛍光siRNAを試験した。7.5μlのMirus TransIT-TKO(登録商標)試薬および30pmolの蛍光siRNA(cat# AM4620, Ambion)を用いた場合に、最高の効率(99.83%)が達成され、それを後に、ヒトEA.hy926細胞へのミミックのトランスフェクションのためにも用いた。
【0131】
miRNAミミックのトランスフェクションのために、EA.hy926細胞およびARPE-19細胞を、それぞれ7.5×10細胞/ウェルおよび1.5×10細胞/ウェルの密度で6ウェルプレートに播種した。24時間後、全量30pmol/ウェルの合成466c-マイクロRNAミミックまたは陰性対照siRNA(cat# AM4611, Ambion)で細胞をトランスフェクトした。1つのウェルにつき、miRNAミミックを、250μlの無血清DMEMで希釈した7.5μlのMirus TransIT-TKO(登録商標)試薬と組み合わせ、室温で15~30分間インキュベートした。3つの異なる種類のミミックを試験した:i)細胞プロセシング後に3pまたは5p鎖のみを生じるようにデザインされ化学的に修飾されたヘアピン構造ミミック(miR-466c-3p/5p mim;Dharmacon);ii)3pおよび5pの一本鎖ミミック(ssRNA-466c-3p/5p mim;IDT);iii)ssRNA-466c 3pおよび5p鎖がアニーリングされたものからなる二本鎖構造ミミック(duplex)。
【0132】
陰性対照トランスフェクションのために、陰性対照siRNA(cat# AM4611, Ambion)を用いた。次いで、トランスフェクションの48時間後に、TRI試薬(Molecular Research Center)を製造者の指示にしたがって使用して、全RNA抽出を行った。
【0133】
RNA抽出、cDNA合成および定量RT-PCR
遺伝子発現分析のために、全RNAをミミック処理細胞およびTSB処理細胞からTRI試薬(Molecular Research Center)を製造者の指示にしたがって使用して抽出し、DNAse I, RNAse-freeキット(cat. #EN0523, Thermofisher Scientific)で処理した。得られたmRNAを、RevertAid RT逆転写キット(cat. #K1691, ThermoFisher Scientific)を製造者のプロトコルにしたがって使用して逆転写した。EA.hy926およびARPE19サンプルにおける発現の分析のために、TaqMan遺伝子発現アッセイを用いて、VEGFAおよびACTB定量を行った(mmu-miR-466c-3p ID:464896_mat;mmu-miR-466c-5p ID:463771_mat;VEGFA ID:Hs00173626_m1;ACTB ID:Hs01060665_g1;Life Technologies)。C166サンプルにおける発現の分析のために、TaqMan遺伝子発現アッセイを用いて、VegfaおよびActb定量を行った(Vegfa ID:Mm00437306_m1;Actb ID:Mm_00607939_s1;Life Technologies)。miRNAコピーの絶対数を決定するために、成熟miRNA配列に対応する一本鎖合成RNA分子の標準曲線を作製した。Vegfa、Sfmbt2、Yy1およびHif1αの発現分析のために、Transcriptor First Strand cDNA合成キット(Roche)を用いてcDNAを合成し、TaqMan遺伝子発現アッセイを用いて定量を行った(Vegfa ID:Mm00437306_m1;Sfmbt2 ID:Mm00616783_m1;Yy1 ID:Mm00456392_m1;Hif1α ID:Mm01198376_m1;内因性対照Actb ID:Mm00607939_s1;Life Technologies)。
【0134】
データ分析
すべての分析を、Prism 5(GraphPad Software)を用いて行った。データを、対応のない両側スチューデントt検定を用いて比較した。有意性レベルをP<0.05に設定した。データを、平均±SDとして示した。生物学的に独立した実験の数およびP値を、本文または図面の説明文において示す。
【実施例1】
【0135】
mmu-miR-466c除去は、低酸素内皮細胞におけるVegfa発現を消失させる
低酸素反応におけるVegfa調節におけるmmu-miR-466の役割を分析するために、CRISPR仲介遺伝子編集を用いて、mmu-miR-466ヘアピンを含むSfmbt2イントロン10から97bp領域を除去した。Vegfa発現は低酸素時にアップレギュレートされることが知られている。mmu-miR-466の除去後、低酸素において通常観察されるmmu-miR-466発現の誘導は見られなかった(図4A)。親遺伝子Sfmbt2の発現も、もはや低酸素刺激に応答して誘導されなかった(図4B)。重要なことに、miRNAを除去すると、低酸素に応答するVegfa発現のアップレギュレーションも消失した(図4C)。レンチウイルスのトランスダクションによってmiR-466レベルを回復させると、Vegfaレベルは酸素が正常な条件および低酸素条件の両方で等しく上昇したが、低酸素によるVegfa発現のさらなる誘導は見られなかった(図4D)。
【実施例2】
【0136】
CRISPR/Cas9によるmmu-miR-466c欠失細胞株の作製
Sfmbt2のイントロン10からmmu-miR-466cを除去するために、2つのガイドRNAを別々の発現プラスミド中にクローン化し(pcDNA-H1-sgRNA、図9参照)、Nucleofector I(Amaxa)を用いて、GFPを同時発現するCas9プラスミド(PX458, cat. #48138, Addgene)と共にC166細胞に導入した。例えばUS8697359B1に開示されるようにして、CRISPRをガイドオリゴ(配列番号9~12)によって欠失サイドに導いた。GFP陽性に基づいて、ソーティングFACS(BD FACSARIA III Cell Sorter)を用いて単一細胞を96ウェルプレートのウェル中にソートして、クローン細胞集団を確立した。培養をPCRによってジェノタイピングして所望の欠失を有する細胞を特定し、陽性クローンをサンガーシーケンシングによってさらに確認した。
【0137】
【表1】
【表2】
【実施例3】
【0138】
mmu-miR-466cはヒト細胞株においてVEGFAを調節する
マウスmiR-466cがヒトVEGFAのmRNAレベルにおいて何らかの作用を示しうるかを試験するために、本発明者は、ヒトEa.hy926およびARPE-19細胞を合成miR-466cミミックでトランスフェクトした。
【0139】
ヘアピン形態miR-466c-3p mimで処理したEa.hy926サンプルにおいて行ったt-スチューデント検定により、陰性対照トランスフェクションと比較して(陰性対照siRNA cat# AM4611, Ambion)、VEGFA mRNAレベルが有意に低下したことが示された(図5)。miR-466c-3pミミックは、VEGFAを、およそ3倍のダウンレギュレーション(0.296 fold-change)を誘導することによってダウンレギュレートすることができた。一本鎖ssRNA-466c-3pミミックで細胞を処理した場合も、同じ効果が観察され、VEGFAを、陰性対照トランスフェクションと比較しておよそ1.42倍のダウンレギュレーション(0.697 fold-change)を誘導することによってダウンレギュレートすることができた(図6)。
【0140】
一方、ヘアピンミミック5p(miR-466c-5p mim)および一本鎖形態ミミック5p(ssRNA-466c-5p)を試験すると、いずれも、陰性対照サンプルと比較してVEGFA mRNAレベルに影響を示さなかった(図5および図6)。
【0141】
本発明者は次に、一本鎖ssRNA-466c 3pおよびssRNA-466c 5pミミックがアニーリングされたものからなる合成二本鎖形態のmmu-miR-466c(466c duplex)が、該鎖を別個に導入した場合に観察されるのと同様の機能を発揮しうるかを試験した。合成二本鎖形態をEa.hy926細胞に導入した場合は、VEGFA発現は、陰性対照トランスフェクションと比較して1.56倍(0.64 fold-change)で、有意にダウンレギュレートされた(図6)。ARPE-19細胞にmmu-miR-466を発現するレンチウイルスベクターを導入した場合は、VEGFA発現は、5日目の時点で対照と比較して増加した(図7)。ヘアピン形態ミミックmiR-466c-3pおよびmiR-466c-5pで処理したARPE-19サンプルにおいて行ったt-スチューデント検定によると、陰性対照トランスフェクションと比較して、VEGFA mRNAレベルは有意にアップレギュレートされた(図8)。合成5p-fusionおよび5p-repeatのRNAは、ARPE-19細胞においてVEGFA発現を、NT対照と比較して2倍増加させた。miR-466c-5pミミック(5p mim)はVEGFA発現を3.6倍増加させた(図9)。miR-466c-3pミミックおよびmiR-466c-5pは、陰性対照と比較して、VEGFAのmRNAレベルにおいて1.62倍および2.43倍の変化をそれぞれ誘導することができた。一本鎖ミミックに関しては、ssRNA-466c-5pのみが、陰性対照と比較して1.18倍の変化というVEGFA発現のわずかなアップレギュレーションを誘導することができた。ssRNA-466c-3pおよび二本鎖構造は、VEGFA発現において有意な変化を誘導しなかった(図10)。
【実施例4】
【0142】
miRNA投与後の細胞生存性
細胞に対するmiRNAの潜在的傷害性を調べるために、miRNAミミックのトランスフェクション後の細胞生存性を評価した。miRNAミミックが細胞の生存性または増殖における変化を誘導するかを調べるために、MTTアッセイを用いて細胞生存性を試験した。本試験に使用した配列は、配列番号17~19のもの、すなわちrepeat only miR-466c、seed repeat miR-466c-5pおよびseed-fusion miR-466c-5pであった。いずれのミミックも、ARPE-19細胞培養において細胞生存性を低下せず、したがってmiRNA投与後に傷害性は観察されなかった。Fusion-miR-466c-5pミミックおよびRepeat-miR-466c-5pは、対照(市販の陰性対照siRNA)と比較して、むしろ細胞生存性を向上した。これらの結果(図13)は、miR-466c-5pが細胞増殖を高め、再生力を示すことを示している。
【0143】
実施例の「miRNA-466c合成ミミックのトランスフェクション」に記載するようにして、ARPE-19細胞をmiRNAミミックでトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後の細胞生存性を、比色MTTアッセイ(Biotium, cat # 30006)を製造者のプロトコルにしたがって使用して調べた。MTT(3-(4,5-ジメチルチアゾル-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド)アッセイは、生存細胞の量、および薬物投与後の増殖の違いを決定するための確立されたプロトコルである(Kumar et al, Cold Spring Harb Protoc. 2018 Jun 1;2018(6). doi: 10.1101/pdb.prot095505)。結果は、市販の陰性対照siRNA(Silencer(商標) Negative Control No. 1 siRNA, Thermo Fisher Scientific, cat # AM4611)でトランスフェクトした細胞との比較で計算する。
【実施例5】
【0144】
細胞外ベシクル中のmiRNAパッケージング
細胞外ベシクル中のmiRNAパッケージングを示す図を、図14に示す。miRNAは細胞外ベシクル(EV)といった送達ベヒクル内にパッケージングされたとき、より効果的に血液中を循環し標的組織に取り込まれる。送達ベヒクルはまた、RNAを、血液中に存在するエンドリボヌクレアーゼによる分解から保護する。EVは、プロデューサー細胞株においてmiRNAおよび改変EV融合タンパク質(FP)を過剰発現することによって改変することができる。融合タンパク質は、RNA結合ドメイン(RBD)(例えばAgo2由来)およびEV特異的膜貫通タンパク質ドメイン(TMD)(例えばCD9またはTSG101タンパク質由来)が融合したものからなるので、miRNAがRNA結合ドメインに結合し、それに連結されたEV特異的膜貫通タンパク質ドメインが、miRNA-融合タンパク質複合体を、細胞内で生成されたEVへと導くことができる。治療用miRNAをEVにパッケージングするために、融合タンパク質およびmiRNAの両方をプロデューサー細胞株において過剰発現させる。これにより、各EV粒子内に搭載されるmiRNA量を増加し、より高濃度の治療用粒子を生成することができる。
【0145】
大量のmiRNA-EV薬剤を得るために、miRNAおよびEV融合タンパク質の過剰発現により改変したプロデューサー細胞株を、iCELLis Nanoバイオリアクター(Pall Corporation)中で増殖させる。(融合タンパク質作成は、Valkama et al. Gene Ther. 2018 Jan;25(1):39-46. doi: 10.1038/gt.2017.91. Epub 2017 Oct 5.に記載されるのと同様に行った。)これは、1つのバイオリアクターは4mの増殖面積および1Lの体積を有するために、細胞培養プレート上での生産よりも効率的である。miRNA-EVを含む細胞培養培地を収集し、Nordin et al.(Methods Mol Biol. 2019;1953:287-299. doi: 10.1007/978-1-4939-9145-7_18)に記載されるようにしてTFF(培地の濃縮、PBSに対する透析)およびクロマトグラフィー(より精製されたEV集団を得るためのサイズ排除カラム)によって精製した。
【実施例6】
【0146】
融合タンパク質発現
miRNAを担体EVに効率的にパッケージングするために、融合タンパク質コンストラクトを作製した。融合タンパク質は、EVへのmiRNA搭載を促進するためにRNA結合ドメイン(Ago2)とEV特異的膜貫通タンパク質ドメイン(CD9またはTSG101)が融合されたものを含んだ。トランスフェクトされた細胞におけるRBDおよびTMDの免疫蛍光染色を、細胞中の共局在化を分析するために行った。これらドメインの共局在化は、2つのドメインが細胞中で互いに融合されており、個別には発現されていないことを示す。蛍光顕微鏡画像において、Ago2およびCD9両方の染色を、細胞の細胞質中(DAPI染色された細胞核の外側)の同じ領域に観察することができる(右図のマージ、図15d)。これは、融合タンパク質が正しく産生されることを示す。
【0147】
融合タンパク質のクローニング
SnapGeneソフトウェア(TM1.1.3)によってデザインした融合組換えタンパク質(ヒトLV.CD9.hAgo2およびhTSG101.hAgo2)を、pLenti-hPGKバックボーン中に組み込んだ。融合タンパク質のクローニング用のプライマーは、それぞれ配列番号20~31のものであった。ヒトAgo2フラグメントを、Dr. Markus Hafner(Laboratory of Muscle Stem Cells and Gene Regulation)から提供されたmCLOVER-NLS-AGO2プラスミドから増幅した。High-Capacity cDNA逆転写キット(Applied Biosystems(商標),4368814)を用いて、CD9フラグメントをHEK-293cDNAから増幅し、TSG101をARPE細胞株のcDNAから増幅した。PCR反応にCloneAmp HiFi PCR Premix(Takara Bio USA, 639298)を使用し、フラグメントの融合およびクローニングにIn-Fusion(登録商標)HDクローニングキット(Takara Bio USA, 638909)を製造者のプロトコルにしたがって使用した。
【0148】
免疫蛍光
融合タンパク質の同時追跡のために、二重免疫蛍光染色法を用いた。HEK-293細胞を6ウェルプレートにおいてカバースリップ上に培養し、TransIT(登録商標)トランスダクション試薬Mirusによって、作製したベクターで一過性にトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後、70~80%のコンフルエンシーにて、細胞をPBSで洗って死細胞およびデブリを除去し、パラホルムアルデヒド(PBS中4%)によって室温(RT)で15分間固定した。細胞をPBSで3回洗った。0.25%Triton X-100によってRTで15分間透過処理し、細胞をPBS-0.05%Tween-20(PBST)で5分間、3回洗った。非特異的結合部位をPBST中の10%正常ヤギ血清(NGS)(S-26-LITER, Merck Millipore)で、RTで穏やかに震盪しながら30分間ブロックした。一次および二次抗体を染色バッファー中に希釈した。融合タンパク質の同時の二重染色のために、2つの一次抗体(例えば一次抗CD9と一次抗Ago2)および2つの二次抗体(Alexa Fluor-555とAlexa Fluor-488)を同じチューブ内で希釈し、混合した。細胞を一次抗体とRTで2時間、穏やかに反転させながらインキュベートし、次いでPBSによりRTで5分間、3回洗った。二次染色のために、Alexa Fluor-555(抗ウサギ, 4413S, Cell signalling)およびAlexa Fluor-488(ヤギ抗マウス, 4408S, Cell signalling)を使用した。細胞を二次抗体とRTで1.5時間、穏やかに反転させながらインキュベートし、次いでPBSで3回洗い、カバースリップをDAPIを含むマウンティング培地(Vector Lab, H-1200)50μlと共に顕微鏡スライドに移し、ネイルポリッシュでシールした。LSM700共焦点レーザー走査型顕微鏡(LSM 700; Carl Zeiss Microscopy GmbH)を用いて共焦点レーザー走査顕微鏡検査を行った。顕微鏡の構成は以下のとおりであった:対物レンズ:Plan-Apochromat 63X/1.40 oil M27。スタックモードでシーケンシャルスキャン(Z方向0.5μm、およびスタックサイズ20.50μm)。励起:405nm(青:DAPI)、488nm(緑:Alexa Fluor-488)および555nm(赤:Alexa Fluor-555)。結果を図15に示す。
【実施例7】
【0149】
融合タンパク質のRNA搭載能
融合タンパク質によるEVへのmiRNA搭載効率を、融合タンパク質およびmiR-466c発現プラスミドでトランスフェクトしたプロデューサー細胞株から収集したEVからRNAを単離し、miR-466c-5pレベルをqPCRにより定量することによって評価した。実験の対照群は、融合タンパク質プラスミドの代わりにGFPプラスミドでトランスフェクトし、それによってEV中のmiR-466cのベースレベルを決定した。RNAを、各処理群について、ナノ粒子追跡分析(NanoSight NS300)によって評価される同数のEV粒子から単離した。miR-466c-5pのTaqmanマイクロRNAアッセイによるqPCRにより、Ago2およびCD9からなる融合タンパク質は、Ago2およびTSG101からなる融合タンパク質よりも効率的であることが示された(qPCR Ctがそれぞれ22.4および23.8;ここで、より低いCtはより早期のmiRNA増殖を示し、したがって、サンプルが、より高いCt値のサンプルよりも多くのmiRNAを含むことを示す)。いずれの融合タンパク質のトランスフェクションも、対照群(Ct33.3)と比較してEV中のmiR-466c-5pレベルを増加させることが示され、融合タンパク質発現がEVへのmiRNA搭載を有意に増加させることが示された。Ago2およびCD9の融合タンパク質のトランスフェクションによるmiR-466c-5pレベルは、対照群よりも11Ct早く検出されたので、EV中のmiRNAパッケージングが2000倍増加したことが示された(DNA量が各PCRサイクルにおいて2倍になるとした場合の理論計算)。したがって、融合タンパク質を用いてのmiRNA搭載は、より濃縮された治療レベルをもたらす(すなわち、同数のEV粒子が、活性治療剤であるmiRNAをより多く含む)。
【0150】
融合タンパク質およびmiRNAプラスミドのトランスフェクトおよびEVの単離
HEK293細胞の馴化培地からのEVの単離のために、細胞を2%FBSを含む完全培地中で培養した。EV単離のために、15cmプレート中で細胞を培養した(播種密度4~4.5×10)。15μgの融合タンパク質プラスミドと15μgのshRNA発現プラスミドを、45μgのPEI試薬(Alfa Aesar, cat # 43896)を用いて同時トランスフェクトした。Longo et al(Methods Enzymol. 2013;529:227-40. doi: 10.1016/B978-0-12-418687-3.00018-5)のPEIトランスフェクションプロトコルを適合させ改変した。各miRNA群に対する陰性対照として、15μgのLV-GFP発現プラスミドと15μgのshRNA発現プラスミドを、45μgのPEIを用いて同時トランスフェクトした。PEIトランスフェクションの4時間後に、培地を新鮮な完全培地と交換した。トランスフェクションの48時間後に、馴化培地(プレートにつき17ml)を収集し、死細胞およびデブリを除去するために300gおよび2000gで2回遠心分離した。上清を0.2μmフィルターで濾過し、濾過した馴化培地を、Amicon(登録商標)Ultra-15遠心分離フィルターデバイス(カットオフ10KDa)によって500μlに濃縮した。qEVカラム(Izon Science)を製造者のプロトコルにしたがって使用して、EVを精製した。フラクション7~10をプールし(2ml)、さらなる実験のために-20℃で保存した。この操作された粒子を、ナノ粒子追跡分析装置(NanoSight NS300)によって特徴付けた。
【0151】
EVからのRNA単離
精製したエキソソームから全RNAを、TRIzol(TRIzol(登録商標)試薬; Invitrogen)およびイソプロパノール沈殿法によって単離した。簡潔に述べると、750μのTRIzol試薬を最大200μlのEVサンプルに加えた。この溶解サンプルに、RNA沈殿効率を高めるために1μlのGlycoBlue(AM9515, Invitrogen(商標))を加え、80℃で5分間インキュベートした。フェノールステップおよび3相分離の後、RNA沈殿のために、水相を500μlのイソプロパノールと混合し、-20℃で一晩インキュベートした。RNAペレットを5μlのRNase不含有水で希釈し、5μlの沈殿RNAをmiRNA特異的cDNA合成に使用した。候補miRNAの逆転写反応およびqPCRのために、TaqManプローブ短鎖RNAアッセイキットを使用した。キット(Thermo Fisher Scientific Inc)の製造者のプロトコルにしたがって、候補miRNAの特定の一本鎖cDNAを合成した。反応のcycle threshold(Ct)値をfold changeに対してプロットした。Ct値は、対照では33.30551であり、FP1(Ago2/CD9)では22.48958であり、FP2(Ago2/TSG101)では28.36981であった。
【実施例8】
【0152】
レシピエント細胞における、EVに搭載されたmiRNA
融合タンパク質によってEVにパッケージングされたmiRNAがレシピエント細胞に取り込まれるかを観察するために、レシピエント細胞におけるmiRNAレベルを、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)によって可視化した(図16)。mmu-miR-466が搭載されたEVを、ヒトレシピエント細胞株に投与した。これにより、miR-466cはヒトにおいて見られない(齧歯類に特異的である)ことから、バックグラウンドを無くすことができる。共焦点顕微鏡画像においてmiR-466c-5pが、図中に矢印で示されるように、染色されドットとして観察される。重要なことに、miR-466c-5pはレシピエント細胞の核内に観察される。本書に記載するmiR-466c-5pの作用は、核のノンコーディング転写物を標的とするmiR-466c-5pの核での働きに基づき、したがって、細胞への投与後の核における局在化は、miRNAが細胞に取り込まれ、標的転写物と結合するために細胞質から核へと輸送されることを示す。
【0153】
miRNA FISH
Ago2およびTSG101が融合した融合タンパク質およびmiR-466cを発現するプロデューサー細胞から単離されたEVを、ARPE-19細胞に投与した。miRNA FISHのために、Thermo Fisher Scientific ViewRNA(商標)miRNA ISH細胞アッセイキット(cat # QVCM0001)を、Thermo Fisher Scientific ViewRNA Cell Plusプローブセット(catalog # VM-06 (S-koko))と共に、製造者のプロトコルにしたがって使用した(アッセイID: VM1-28918-VCP)。
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【配列表】
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【国際調査報告】