(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-17
(54)【発明の名称】無段変速機用の伝動ベルトのリングセット用の金属製のリングを製造するための方法
(51)【国際特許分類】
F16G 5/16 20060101AFI20220209BHJP
B21B 5/00 20060101ALI20220209BHJP
【FI】
F16G5/16 B
B21B5/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021537051
(86)(22)【出願日】2019-12-24
(85)【翻訳文提出日】2021-07-21
(86)【国際出願番号】 EP2019025486
(87)【国際公開番号】W WO2020135928
(87)【国際公開日】2020-07-02
(32)【優先日】2018-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ベルト ペニングス
(57)【要約】
本発明は、無段変速機用の伝動ベルトのリングセット用の金属製のリング(41)を製造するための方法であって、圧延プロセスステップにおいて、金属製のリング(41)の厚さが減少している間に、リング(41)が円周方向に個別に延長される、方法に関する。圧延後、金属製のリング(41)はさらに処理され、そのように処理された多数の金属製のリング(41)が相互に入れ子にされてリングセットを形成する。本発明によれば、前記多数の金属製のリング(41)が圧延された後ではあるものの、入れ子にされてリングセットを形成する前に、新規の追加のプロセスステップ(NPS)で、金属製のリング(41)が裏表反転させられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に入れ子にされたような多数の金属製のリング(41)のセット(31)を備える伝動ベルト(3)などのための金属製のリング(41)を製造するための方法であって、前記リング(41)がその半径方向または厚さ方向に圧延(V)される、方法において、前記リング(41)がその前記圧延(V)後に、裏表反転させられる(NPS)ことを特徴とする、金属製のリング(41)を製造するための方法。
【請求項2】
前記リング(41)がその前記圧延(V)後に焼鈍(VI)および較正(VII)され、前記リング(41)の前記焼鈍(VI)後であって前記較正(VII)前に、前記リング(41)が裏表反転させられる(NPS)ことを特徴とする、請求項1記載の、金属製のリング(41)を製造するための方法。
【請求項3】
相互に入れ子にされたような多数の金属製のリング(41)から組み立てられた伝動ベルト(3)用のリングセット(31)を製造するための方法であって、前記リングセット(31)の少なくとも一番内側のリング(41)が、請求項1または2記載の、金属製のリング(41)を製造するための方法によって得られることを特徴とする、リングセット(31)を製造するための方法。
【請求項4】
前記リングセット(31)の残りの前記リング(41)の半径方向内面(42)に、少なくとも前記一番内側のリング(41)の半径方向外面(43)に対して、表面型付け部または追加の粗さが設けられることを特徴とする、請求項3記載の、リングセット(31)を製造するための方法。
【請求項5】
前記リングセット(31)の残りの前記リング(41)もまた、請求項1または2記載の、金属製のリング(41)を製造するための方法によって得られることを特徴とする、請求項3または4記載の、リングセット(31)を製造するための方法。
【請求項6】
前記リング(41)の前記圧延(V)中、前記リングセット(31)の前記一番内側のリング(41)および残りの前記リング(41)の両方のそれぞれ一方の半径方向面(42;43)に、他方の半径方向面(43;42)に対して、表面型付け部または追加の粗さが設けられることを特徴とする、請求項5記載の、リングセット(31)を製造するための方法。
【請求項7】
前記リング(41)の半径方向内面(42)に表面型付け部または余剰な粗さが設けられることを特徴とする、請求項5記載の、リングセット(31)を製造するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、無段変速機用の伝動ベルトのリングセット用の金属製のリングを製造するための方法およびそのようなリングを含む伝動ベルトに関する。伝動ベルトはそれ自体、例えば英国特許出願公告第1286777号明細書およびより最近の国際公開第2015/177372号からよく知られている。この既知の伝動ベルトは、相互に入れ子にされたエンドレスの可撓性の多数の金属製のバンドまたはリング、すなわち相互に同心的に積み重ねられたリングセットと、そのようなリングセットの円周に沿って実質的に連続した列で配置された多数の金属製の横断セグメントとにより構成されている。横断セグメントは、それぞれ中央の開口を画定している。この中央の開口は、横断セグメントのベース部分と、それぞれベース部分の各軸線方向側部から半径方向外向き方向に延びる2つのピラー部分とによって両者間に画定されている。中央の開口内には、リングセットの各円周方向セクションが収容されていて、横断セグメントが、リングセットの円周に沿って移動、すなわち、摺動することができる。中央の開口にリングセットを収容するために、中央の開口は、少なくとも1つ、場合によっては両方のピラー部分の各々の軸線方向の延長部分によって、半径方向外向き方向で部分的に閉鎖される。特に、各々のピラー部分のそのような軸線方向の延長部分は、リングセットを越えて他方の方向、すなわち横断セグメントの軸線方向で反対側のピラー部分に向かって部分的に延びており、以下では、ピラー部分のフック部分と称される。
【0002】
上記および下記の説明において、軸線方向、半径方向、および円周方向は、円形の姿勢で配置されたときの伝動ベルトに対して定義される。横断セグメントの厚さ方向および厚さ寸法は伝動ベルトの円周方向において定義され、横断セグメントの高さ方向および高さ寸法は伝動ベルトの半径方向において定義され、横断セグメントの幅方向および幅寸法は伝動ベルトの軸線方向において定義される。リングセットおよびその個々のリングの厚さ方向および厚さ寸法は、伝動ベルトの半径方向において定義され、リングセットおよびその個々のリングの幅方向および幅寸法は、伝動ベルトの軸線方向において定義され、リングセットおよびその個々のリングの長さ方向および長さ寸法は、伝動ベルトの円周方向において定義される。また、半径方向または高さ方向に対して、上下方向および上下の位置が定義される。
【0003】
無段変速機において、伝動ベルトは、可変幅のV溝をそれぞれ画定する2つのプーリに巻き掛けられて摩擦接触している。このプーリのV溝内では、伝動ベルトの各部分が可変半径で保持される。変速機のプーリでこのようなベルト半径を変化させることにより、変速機の速度比を変化させることができる。このタイプの変速機はよく知られており、乗用車やその他の原動機付き車両のドライブトレインに一般的に適用されている。
【0004】
上記の伝動ベルトは、既知の他の設計と異なっている。他の設計では、横断セグメントが、セグメントの下側部分またはボディ部分と上側のヘッド部分との間に位置して両者を接続するセグメントのネック部分または中央部分の各側方の側に1つずつ、計2つの側方の開口を画定している。このタイプの伝動ベルトは、2セットの入れ子リングを含み、それぞれ横断セグメントの側方の開口のそれぞれ1つに収容されている。例えば国際公開第2015/097293号から知られているこの後者の既知の設計では、2つのリングセットは、上記の前記伝動ベルトの単一のリングセットよりも個別にかなり幅狭である。
【0005】
このような伝動ベルトの全体的な製造プロセスの基本的なセットアップもよく知られている。特にリングセットに関して、そのような基本的なセットアップは、例えば国際公開第2018/122397号に記載されている。既知の製造プロセスは、並外れた疲労強度を有する高品質の最終製品を実現するために、非常に狭い許容誤差内で実施されるかなりの数の中間ステップを必要とする。そのような中間プロセスステップの1つは、リングの圧延である。リングの圧延では、リングの厚さは減少させられ、リングの直径、すなわち円周長さは、一対のロール間で圧縮されている間にリングをその円周方向に回転させることによって増加させられる。例えば、圧延前の中間製品のリング製品の厚さは0.4mmであり、その後、圧延時にその厚さが200~150μmに減少する。リングの圧延のそのようなプロセスステップは、国際公開第2004/050270号に詳細に記載されている。
【0006】
そのような既知の伝動ベルトおよび既知の製造プロセスに関連して、驚くべき発見がなされた。すなわち、本開示によれば、リングの疲労強度ひいては伝動ベルト全体の耐用年数は、有利には単純で実施しやすい新しいプロセスステップを導入することによって予想外に改善することができた。特に、そのような改善は、圧延後にリングを裏表反転させることによって実現され、それによって、リングの半径方向内側に向けられた表面、すなわち内側リング表面が、リングの半径方向外側に向けられた表面、すなわち外側リング表面になり、逆もまた同様である。特に裏表反転させることは、リングの一方の軸線方向側面をリングの半径方向内側を介してリングの反対側の軸線方向側に押圧し、同時にリングの他方の軸線方向側面をリングの半径方向外側を介してリングの各反対側に向かって引っ張ることを意味する。
【0007】
リングを裏表反転させることによってリングの疲労強度を向上させることは、意図も予見もされていなかったが、あとから考えると、そのような改善の考えられる説明は次のとおりである。リングを圧延している間および変速機で伝動ベルトを使用している間の両方で、リングの外面に最大の引張応力が発生する。これは、(微視的な)亀裂、へこみ、異物粒子などの表面の欠点または欠陥が、リングの圧延中にリングの内面よりも外面で発生するかつ/またはより深刻になることを意味する。同様に、リングの外面のこのような表面欠陥は、使用中のリングの内面よりも最終的な疲労強度に悪影響を及ぼす。この場合、前記圧延後にリングを裏表反転させることにより、ほとんどの表面欠陥および/または最も深刻な表面欠陥が、使用前にリングの内面に有利に移し替えられる。
【0008】
次に、本開示による伝動ベルトの製造方法を、以下の図面を参照してさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】2つの可変プーリおよび伝動ベルトを組み込んだ既知の変速機の概略図である。
【
図2】入れ子にされた可撓性の金属製のリングのセットと、そのようなリングセットにその円周に沿って摺動可能に取り付けられた複数の金属製の横断セグメントとがそれぞれ設けられた2つの既知の伝動ベルトタイプの概略的な断面図である。
【
図3】伝動ベルトの既知の全体的な製造プロセスの現在関連する部分の概略図である。
【
図4】伝動ベルトの全体的な製造プロセスの一部として金属製のリングを圧延するための圧延装置の概略図である。
【
図6】リングを裏表反転させる新規のプロセスステップを示す図である。
【
図7】リングを反転させる新規のプロセスステップを、伝動ベルトの既知の製造プロセスでどのように実施できるかを示す図である。
【0010】
図1は、エンジンと自動車の従動輪との間の自動車のドライブラインに一般的に適用される既知の無段変速機またはCVTの中央部分を示している。変速機は2つのプーリ1,2を備え、これらのプーリには各々、プーリシャフト6または7に取り付けられた一対の円錐形プーリディスク4,5が設けられ、プーリディスク4,5の間には主にV字形の円周方向のプーリ溝が画定される。プーリディスク4,5、すなわち各プーリ1,2の各対の少なくとも一方のプーリディスク4は、各々のプーリ1,2のプーリシャフト6,7に沿って軸線方向に移動可能である。伝動ベルト3は、プーリ溝に位置してプーリ1,2に巻き掛けられ、プーリシャフト6,7の間で回転運動および付随するトルクを伝達する。
【0011】
また、変速機は典型的には、各プーリ1,2の軸線方向に移動可能な前記プーリディスク4に、少なくとも動作中に当該プーリ1,2の各々の他方のプーリディスク5に向けられた軸線方向のクランプ力を付与する作動手段(図示せず)を備えており、これによって、そのような各ディスク対4,5の間に伝動ベルト3がクランプされるようになっている。これらのクランプ力は、伝動ベルト3と各々のプーリ1,2との間に最大に加えられて前記トルクを伝達することができる摩擦力を決定するだけでなく、プーリ溝内の伝動ベルト3の半径方向位置Rも決定する。これらの半径方向の位置Rは、変速機の速度比を決定する。このタイプの変速機とその動作とは、それ自体よく知られている。
【0012】
図2には、伝動ベルト3の2つの既知の例が、その円周方向に面する断面図で概略的に示されている。両方の例において、伝動ベルト3は、金属製のリング41の1つまたは2つのセット31の形態の環状支持体の円周に沿って一列に配置された横断セグメント32を備える。伝動ベルト3のいずれの例においても、リングセット31は積層されている、すなわち、相互に入れ子にされたフラットで肉薄の可撓性の多数の個々のリング41から構成される。横断セグメント32の厚さは、リングセット31の円周長さに対して相対的に薄く、特に、数百個の横断セグメント32がその前記列に含まれるようになっている。
【0013】
添付の図では、リングセット31は、入れ子にされた5つのリング41から構成されるように示されているが、実際には、ほとんどの場合、それぞれ公称厚さ185μmの6,9,10または12個のリング41が、そのようなリングセット31に適用される。
【0014】
図2の左側には、そのような2つのリングセット31を含む伝動ベルト3の実施形態が示されている。各リングセグメント31は、横断セグメント32の各々の軸線方向側、すなわち、左右の軸線方向側に向かって開いている側方に向けられた各々の凹部に収容されている。そのような側方の開口は、横方向のセグメント32のボディ部分33とヘッド部分35との間に設けられて両者を相互接続する比較的狭幅のネック部分34の両側で、ボディ部分33とヘッド部分35との間に画定される。
【0015】
図2の右側には、単一のリングセット31のみを組み込んだ伝動ベルト3の実施形態が示されている。この場合、リングセット31は、伝動ベルト3の半径方向外側に向かって開いている横断セグメント32の中央に位置する凹部に収容される。そのような中央の開口は、横断セグメント32のベース部分39と、ベース部分39の軸線方向両側部から半径方向外向き方向にそれぞれ延びる2つのピラー部分36との間に画定される。そのような半径方向外向き方向では、中央の開口は、ピラー部分36の軸線方向に延びる各々のフック部分37によって部分的に閉鎖されている。
【0016】
両方の伝動ベルト3の横断セグメント32の両側面には、プーリディスク4,5に摩擦接触するための接触面38が設けられている。各横断セグメント32の接触面38は、V字形のプーリ溝の角度に実質的に一致する角度φで相互に配向されている。横断セグメント32は、通常、同様に金属製である。
【0017】
変速機での動作中に、伝動ベルト3の個々のリング41には、前記クランプ力に対する半径方向に配向された反力によって張力がかけられることはよく知られている。しかしながら、結果として生じるリングの張力は一定ではなく、変速機によって伝達されるトルクに依存するだけでなく、変速機内の伝動ベルト3の回転にも依存して変化する。したがって、リング41の降伏強度および耐摩耗性に加えて、疲労強度もまた、その重要な特性および設計パラメータである。したがって、マルエージング鋼がリング41の基材として使用され、この鋼を析出形成(時効)により硬化して全体の強度を向上させ、さらに窒化(ガスソフト窒化)により表面硬化して耐摩耗性および疲労強度を特に向上させることができる。
【0018】
図3は、リングセット31の既知の製造方法の関連部分を示しており、これは、自動車用途の金属製の伝動ベルト3の製造のために当技術分野で典型的に適用されている。既知の製造方法の個別のプロセスステップは、ローマ数字で示されている。
【0019】
第1のプロセスIでは、約0.4mmの厚さを有するマルエージング鋼基材の肉薄のシートまたはプレート20を円筒形に曲げ、第2のプロセスIIでは、合致したプレートの端部21を溶接して、中空の円筒体または管22を形成する。プロセスの第3のステップIIIにおいて、管22は、炉室50内で焼鈍される。その後、第4のプロセスステップIVにおいて、管22は、多数のリング41に切断され、続いて、プロセスステップ5Vにおいて、その厚さが、典型的には約0.2mmに減少させられる一方で、より大きな直径に圧延される。このようにして圧延されたリング41は、後続のプロセスステップVI、すなわちリング焼鈍プロセスステップVIに供されて、炉室50内で600℃を大幅に上回る温度、例えば約800℃でリング材料を回復させて再結晶化させることにより、先の圧延プロセスステップVによる加工硬化効果が除去される。このような高温では、リング材料の微細構造は完全にオーステナイト型結晶で構成される。しかしながら、リング41の温度が再び室温に下がると、そのような微細構造は、所望通りのマルテンサイトに戻る。
【0020】
VIで焼鈍した後、リング41は、2つの回転する較正ロールの周りに取り付けられ、前記ロールを強制的に互いに離反させることによって所定の円周長さに引き伸ばされることにより、第7のプロセスステップVIIで較正される。リングの較正のこの第7のプロセスステップVIIでは、リング41は、典型的には、わずかな横方向の湾曲、すなわちクラウニングも備えており、内部残留応力がリング41に加えられる。その後、リング41は、複合的な時効、すなわちバルク析出硬化、および窒化、すなわち肌焼きの第8のプロセスステップVIIIで熱処理される。より具体的には、そのような複合的な熱処理は、リング41を、アンモニア、窒素、および水素から構成されるプロセス雰囲気を含む炉室50内に保持することを含む。炉室内で、アンモニア分子はリング41の表面で分解して水素ガスと窒素原子になり、これらはリング41の微細構造に入ることができる。これらの窒素原子は、部分的に微細構造内に格子間原子として残り、部分的にマルエージング鋼の合金元素の一部、特にモリブデンに結合して、金属間化合物の析出物(例えば、Mo2N)を形成する。これらの格子間物および析出物は、摩耗および疲労破壊に対するリング41の抵抗を著しく増加させることで知られている。特に、このような複合的な熱処理は、代替的に、(同時に窒化を行わない)時効処理、すなわちアンモニアを含まない処理ガス中での時効処理の前または後に行うことができることに留意されたい。このような個別の時効処理は、窒化処理の期間が短すぎて析出硬化プロセスを同時に完了できない場合に適用される。
【0021】
このように処理された多数のリング41は、第9のプロセスステップIXで組み立てられ、互いに隣接するリング41の各対の間の最小の半径方向の遊びまたはクリアランスを実現するために、放射状に入れ子にされる、すなわち、選択されたリング41を同心的に積み重ねることによって、リングセット31を形成する。代わりに、リングの較正の第7のプロセスステップVIIの直後、すなわち、リングの時効およびリングの窒化の第8のプロセスステップVIIIの前に、リングセット31を組み立てることも当技術分野で知られていることに留意されたい。
【0022】
リング41を圧延するプロセスステップVは、
図4にさらに詳細に示され、回転可能な2つの支承ロール8,9と、回転可能な1つの圧延ロール10と、回転可能な一対の支持ロール11と、回転可能な1つの圧力ロール12とを備える既知のリング圧延装置が示されている。圧力ロール12は、支持ロール11に作用し、支持ロール11は、2つの支承ロール8,9のうちの第1の支承ロール8に作用する。第1の支承ロール8が圧延装置の中央に配置されているのに対して、他方の第2の支承ロール9は、第1の支承ロール8から離れる(かつ第1の支承ロール8に向かって戻る)ように、圧延装置内に移動可能に収容されており、2つの支承ロール8,9にまたは2つの支承ロール8,9の周りに取り付けられているリング41に引張力Flを与えることができるようになっている。また、圧力ロール12は、支持ロール11に向かって(かつ支持ロール11から離れるように)移動させられて、支持ロール11および第1の支承ロール8を介してリング41の内側に押圧力Fsを加えることができるように、圧延装置に移動可能に収容されている。前記押圧力Fsは、第1の支承ロール8の反対側のリング41の外面に圧延ロール10によって加えられる反力Frによって釣り合わされる。リング圧延装置の他の実施形態も同様に知られている。リング41の実際の圧延中、リング41は、第1の支承ロール8と圧延ロール10との間で押圧力Fsによって圧縮されるとともに引張力Flによって引き伸ばされながら、2つの支承ロール8,9によって両者の周りで、
図4にRDで示した矢印の圧延方向に回転させられる。
【0023】
リングの圧延プロセス(ステップV)は、主に、リング41の所望の厚さおよび円周長さを達成することを目的としている。さらに、リング41の内面および外面の少なくとも一方には、リングの圧延において表面レリーフを設けるかまたは粗さを増加させることができ、第1の支承ロール8および圧延ロール10の一方または両方には、対応する(が、逆の)レリーフまたは粗さが設けられる。典型的には、表面レリーフは、
図5のハッチングによって概略的に示されるように(原寸に比例して描かれていない)、第1の支承ロール8によってリング41の内面42にのみ提供され、その外面43は、比較して平坦かつ平滑である。
【0024】
本開示によれば、リング41の製造方法全体に新たなプロセスNPSが追加され、この新たなプロセスNPSでは、最初に、すなわちリングの圧延(プロセスステップV)の際に、その内面42に表面レリーフが設けられたリング41に関連して
図6に概略的に示されているように、リング41が裏表反転させられる。
図6に破線の矢印で示されているように、このようなリングの反転(プロセスステップNPS)は、リング41の左側面をリング41の半径方向内側を介して右側に押圧し、同時にリング41の右側面をリング41の周りで左側に引っ張ることによって達成することができる。リングの反転(プロセスステップNPS)後、表面レリーフは、反転させられたリング41aの外面43に位置する。本開示によれば、このような反転させられたリング41aは、リングの圧延後に裏表反転させられていないリング41と比較して、伝動ベルト3への適用において、裏表反転させた(プロセスステップNPS)後に有利に高い疲労強度を示すことが見出された。
【0025】
図7は、リングセット31の製造プロセスにおいてリング41を裏表反転させる上記の新規のプロセスステップNPSの好ましい実施形態を示している。好ましくは、リングの反転(プロセスステップNPS)は、リングの圧延(プロセスステップV)直後ではなく、リングの焼鈍(プロセスステップVI)後に実行される。リングの焼鈍(プロセスステップVI)では、リングの圧延(プロセスステップV)におけるその塑性変形によるリング41の加工硬化が除去され、その結果、リング41を裏表反転させる(プロセスステップ(NPS))ことに伴う労力および応力レベルが低くなる。好ましくは、リングを反転させること(プロセスステップNPS)は、リングの較正(プロセスステップVII)の前に実施される。結局、リングの較正(プロセスステップVII)において、リング41,41aは、その内面および外面42,43に対して伝動ベルト3(のリングセット31)内で特に規定されるクラウニングおよび内部残留応力を有する。
【0026】
伝動ベルト3全体の疲労強度の最大の改善を実現するために、伝動ベルト3のリングセット31のすべてのリング41を裏表反転させることが好ましい。しかしながら、製造プロセス全体に対するリングの反転プロセスステップNPSの影響を最小限にするために、リングセット31の半径方向で一番内側のリング41のみを裏表反転させることを選択することもできる。結局、そのような半径方向で一番内側のリング41は、典型的には、伝動ベルト3の動作中に最も高い応力レベルおよび/または応力振幅にさらされ、その結果、その疲労強度は、伝動ベルト3全体の疲労強度にとって最も重要である。この場合、前記半径方向で一番内側のリング41には、好ましくは、(
図5に示されるように)前記表面レリーフが設けられないかまたは前記表面レリーフが、リングの圧延(プロセスステップV)でリング41の外面43に設けられる。これにより、リングセット31において、前記半径方向で一番内側のリング41の表面レリーフが、隣接するリング41の内面の表面レリーフと接触することが回避される。
【0027】
本開示は、前述の説明の全体および添付の図のすべての詳細に加えて、添付の特許請求の範囲のすべての特徴にも関係し、それらを含む。特許請求の範囲における括弧で囲まれた参照符号は、その範囲を限定するものではなく、単に各々の特徴の拘束力のない例として提供されている。特許請求された特徴は、場合によっては、所与の製品または所与のプロセスまたは方法に別々に適用することができるが、その中のそのような特徴の2つ以上の任意の組み合わせを適用することも可能である。
【0028】
本開示で表される発明は、本明細書で明示的に言及されている実施形態および/または実施例に限定されるものではなく、その修正、変更、および実用化、特に関連技術の当業者の手の届く範囲のものをも包含する。
【国際調査報告】