(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-18
(54)【発明の名称】低純度供給源からの高純度リチウムの電解製造
(51)【国際特許分類】
C25C 3/02 20060101AFI20220210BHJP
C25C 3/08 20060101ALI20220210BHJP
C25C 7/00 20060101ALI20220210BHJP
C22B 26/12 20060101ALI20220210BHJP
H01M 4/40 20060101ALN20220210BHJP
【FI】
C25C3/02 A
C25C3/08
C25C7/00 302A
C22B26/12
H01M4/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021537132
(86)(22)【出願日】2019-12-13
(85)【翻訳文提出日】2021-08-05
(86)【国際出願番号】 CN2019125337
(87)【国際公開番号】W WO2020135112
(87)【国際公開日】2020-07-02
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2018/124602
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521276375
【氏名又は名称】キュイ、イ
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】キュイ、イ
(72)【発明者】
【氏名】ジン、ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ウ、フイ
(72)【発明者】
【氏名】リウ、カイ
(72)【発明者】
【氏名】ラン、ジアリアン
【テーマコード(参考)】
4K001
4K058
5H050
【Fターム(参考)】
4K001AA34
4K001BA04
4K001DA05
4K001KA08
4K058BA02
4K058BB06
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4K058EB13
4K058EC04
5H050AA19
5H050BA16
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5H050GA02
5H050GA29
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA08
(57)【要約】
リチウム塩の濃度が低いものを含め、リチウム塩からリチウムを精製するデバイス及び方法が提供される。リチウム塩を含む溶融組成物は、溶融組成物と接触するアノードと、リチウムイオンを伝導できる固体電解質によって溶融組成物から分離されたカソードとで電気分解される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気分解方法であって、リチウム塩を含む溶融組成物を、前記溶融組成物に接触するアノードと、リチウムイオンを伝導できる固体電解質によって前記溶融組成物から分離されたカソードとを用いて、電気分解する段階を備え、前記固体電解質は、リチウムイオンを通過させるが、他の原子は通過させない、方法。
【請求項2】
リチウムイオンを伝導する前記固体電解質は、ガーネット型酸化物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ガーネット型酸化物は、タンタルドープLi
7La
3Zr
2O
12を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ガーネット型酸化物はLi
7‐xLa
3Ta
xZr
2‐xO
12を含み、xは0.1から1.0である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ガーネット型酸化物はLi
7‐xLa
3Ta
xZr
2‐xO
12を含み、xは0.4から0.6である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記ガーネット型酸化物は、Li
6.4La
3Ta
0.6Zr
1.4O
12、Li
6.5La
3Ta
0.5Zr
1.5O
12、又はLi
6.6La
3Ta
0.4Zr
1.6O
12を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記固体電解質は、シリンダ又はプレートの形である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記固体電解質は、断面厚さが0.05cmから0.6cmである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記固体電解質は、断面厚さが0.15cmから0.4cmである、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記固体電解質は、97%より高い相対密度を有する、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記リチウム塩はLiClを含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記溶融組成物は、99.7%より低い前記リチウム塩を含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記溶融組成物は、97%より低い前記リチウム塩を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記溶融組成物は、50%より低い前記リチウム塩を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記溶融組成物は、1%より低い前記リチウム塩を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記溶融組成物はさらに、アルミニウム塩を含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記アルミニウム塩はAlCl
3である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
リチウム対アルミニウムのモル比は、20:1から1:1である、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
前記カソードは溶融リチウムを含む、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記アノードは金属アルミニウムを含む、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
リチウムを精製する装置であって、
溶融電解質を保存するための電解質区画と、
含まれる場合に、前記溶融電解質と接触するように位置付けられた金属アルミニウムを含むアノードと、
溶融リチウムを保存するためのカソード区画と、
含まれる場合に、前記溶融リチウムと接触するように位置付けられた固体電極と、
前記電解質区画と前記カソード区画との間に位置付けられた固体電解質と
を備え、
前記固体電解質は、リチウムイオンは通過させるが、他の原子は通過させない、装置。
【請求項22】
前記固体電解質は、シリンダの形である、請求項21に記載の装置。
【請求項23】
前記カソード区画は前記シリンダの内部にあり、前記電解質区画は前記シリンダの外部にある、請求項22に記載の装置。
【請求項24】
前記溶融リチウムと接触するように位置付けられ、前記カソード区画から前記溶融リチウムを引き出すように電力供給されるチャネルをさらに備える、請求項21に記載の装置。
【請求項25】
前記溶融電解質及び/又は前記溶融リチウムに熱を提供するための加熱素子をさらに備える、請求項21に記載の装置。
【請求項26】
前記固体電解質はガーネット型酸化物を含む、請求項21から25のいずれか一項に記載の装置。
【請求項27】
前記ガーネット型酸化物は、タンタルドープLi
7La
3Zr
2O
12を含む、請求項26に記載の装置。
【請求項28】
前記ガーネット型酸化物はLi
7‐xLa
3Ta
xZr
2‐xO
12を含み、xは0.1から1.0である、請求項26に記載の装置。
【請求項29】
前記ガーネット型酸化物は、Li
6.4La
3Ta
0.6Zr
1.4O
12、Li
6.5La
3Ta
0.5Zr
1.5O
12、又はLi
6.6La
3Ta
0.4Zr
1.6O
12を含む、請求項26に記載の装置。
【請求項30】
前記固体電解質は、97%より高い相対密度を有する、請求項26に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
リチウムは、金属の中で標準的な条件において最も低い密度を有し、この特性は、それを軽合金において魅力的にする。Liはまた、有機リチウム化合物の生成のための化学試薬として広く使用されている。過去数十年間、ポータブル電子機器、電気自動車及び大規模のエネルギーシステムのためのLiイオンバッテリー(LIB)は爆発的な成長を遂げ、Li消費の著しい増大をもたらした。金属Liは現在の市販LIBにおいて電極材料として直接使用されないが、Li金属アノードは、全固体リチウム金属バッテリー及びLi-Sバッテリーバッテリーなどの、エネルギー密度の高い次世代の再充電可能バッテリーに必須である。金属Liに対する需要は、次の数十年間、著しく増大すると予想されている。Li源の持続可能性は、学究的研究コミュニティ及び産業分野からますます多くの注目を引き付けている。低品位塩湖及び海水からのLi回収は、Li源の持続可能な開発に実用的な解決手段を提供し得る。
【0002】
天然資源、特に低純度リチウムを含む天然資源からリチウムを精製する改善された方法が望ましい。
【発明の概要】
【0003】
本開示は、いくつかの実施形態において、リチウム塩の濃度が低いものを含め、リチウム塩からリチウムを精製するデバイス及び方法を提供する。そのような方法は、天然資源からリチウム塩を先に精製することを要求しない。さらに、動作温度は著しく低くなる。従って、従来の方法と比較して、本技術は、リチウム精製にかかるコスト及び時間を著しく削減する。
【0004】
従って、本開示の1つの実施形態によると、リチウム塩を含む溶融組成物を、当該溶融組成物に接触するアノードと、リチウムイオンを伝導できる固体電解質によって溶融組成物から分離されたカソードとを用いて、電気分解する段階を備え、ここで、固体電解質は、リチウムイオンを通過させるが、他の原子は通過させない、電気分解方法を提供する。
【0005】
いくつかの実施形態において、リチウムイオンを伝導する固体電解質は、タンタルドープLi7La3Zr2O12などのガーネット型酸化物を含む。ガーネット型酸化物の例は、Li7‐xLa3TaxZr2‐xO12を含み、ここで、xは0.1から1.0であるか、又は、0.4から0.6であることが好ましい。具体例は、限定されることなく、Li6.4La3Ta0.6Zr1.4O12、Li6.5La3Ta0.5Zr1.5O12、及びLi6.6La3Ta0.4Zr1.6O12を含む。
【0006】
固体電解質は、それがカソードから溶融組成物を分離する限り、シリンダ又はプレートの形態などの任意の物理的形態で存在し得る。いくつかの実施形態において、固体電解質は、断面厚さが0.05cmから0.6cm、0.15cmから0.4cmであることが好ましい。いくつかの実施形態において、固体電解質は97%より高い相対密度を有する。
【0007】
溶融組成物中のリチウム塩は、いくつかの実施形態において、LiClを含む。いくつかの実施形態において、溶融組成物は、リチウム塩(例えば、LiCl)の濃度が、99.7%より低い、97%より低い、50%より低い、1%より低い、又はさらに低い。溶融組成物は、いくつかの実施形態において、AlCl3などのアルミニウム塩をさらに含む。リチウム対アルミニウムのモル比は、20:1から1:1であることが好ましい。
【0008】
いくつかの実施形態において、溶融電解質を保存するための電解質区画と、含まれる場合に、電解質と接触するように位置付けられた金属アルミニウムを含むアノードと、溶融リチウムを保存するためのカソード区画と、含まれる場合に、溶融リチウムと接触するように位置付けられた固体電極と、電解質区画とカソード区画との間に位置付けられた固体電解質とを備え、ここで、固体電解質は、リチウムイオンは通過させるが、他の原子は通過させない、リチウムを精製する装置がさらに提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本明細書で説明される図面は、図示のみを目的とする。図面は、本開示の範囲を限定することを意図するものではない。
【0010】
【
図1】リチウムを精製するのに有用な電解デバイスを例示する。
【0011】
【
図2a】従来の電解デバイス(a)とリチウムを精製するのに有用な新たな電解デバイス(b)とを比較する。
【
図2b】従来の電解デバイス(a)とリチウムを精製するのに有用な新たな電解デバイス(b)とを比較する。 aは、従来の電解デバイスの概略図である。bは、LLZTO固体電解質を使用する新たな電解デバイスの概略図である。
【0012】
【
図3a】本開示の電解デバイスと、その物理的/電気的特性とを例示する。
【
図3b】本開示の電解デバイスと、その物理的/電気的特性とを例示する。
【
図3c】本開示の電解デバイスと、その物理的/電気的特性とを例示する。
【
図3d】本開示の電解デバイスと、その物理的/電気的特性とを例示する。 aは、電解デバイスの概略図である。ステンレススティールのシェルがアノード集電体として使用され、ステンレススティールのロッドがカソード集電体として使用される。bは、電解デバイスのデジタル写真である。cは、LLZTO固体電解質チューブのデジタル写真である。dは、40℃から280℃におけるLLZTO固体電解質のイオン伝導性である。
【0013】
【
図4d】電解Liの生成を示す。 aは、電解処理の電圧プロファイルである。電解質は、LiCl(1.09g)、NaCl(0.25g)、KCl(0.32g)、MgCl
2(0.41g)、及びAlCl
3(1.14g)で構成される。Liイオンの質量分率は5.5%であった。bは、aにおける電解処理の効率である。cは、電解処理の電圧プロファイルである。電解質は、LiCl(1.27g)、LiBr(0.087g)、LiI(0.134g)、Na
2SO
4(0.142g)、及びAlCl
3(1.33g)で構成される。dは、cにおける電解処理の効率である。両方の電解処理の電流密度は、5mA cm
-2であった。動作温度は、240℃であった。
【0014】
【
図5a】低いLiイオン濃度を有する溶融塩からのLi抽出を示す。
【
図5b】低いLiイオン濃度を有する溶融塩からのLi抽出を示す。 aは、電解処理の電圧プロファイルである。電解質は、LiCl(0.01g)、NaCl(1.75g)、KCl(0.30g)、MgCl
2(0.57g)、及びAlCl
3(4.00g)で構成される。電流密度は、1mA cm
-2であった。動作温度は、240℃であった。bは、電解処理の前後の電解質中のLiイオンの質量変化である。
【0015】
【
図6b】低コストでの電解Liの生成を示す。 aは、電解処理の電圧プロファイルである。電解質は、工業用グレードのLiCl(1.41g)及びAlCl
3(0.57g)で構成される。bは、aにおける電解処理の効率である。電解処理の電流密度は、5mA cm
-2であった。動作温度は、240℃であった。
【0016】
【
図7】LLZTO固体電解質の走査型電子顕微鏡画像を示す。
【0017】
【
図8】LLZTO固体電解質のX線回折パターンを示す。
【0018】
ここで、本開示の特定の実施形態に対して詳細な参照が成される。本開示の特定の実施形態が説明されているが、それは本開示の実施形態を開示された実施形態に限定することを意図するものではないことを理解されよう。それとは逆に、本開示の実施形態を参照することは、添付の特許請求の範囲によって定義される本開示の実施形態の趣旨及び範囲内に含まれ得る、代替形態、修正例、及び同等物を包含することを意図する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下の説明の目的のために、本開示によって提供される実施形態は、明確に逆に指定されている場合を除き、様々な代替的な変形例及び段階の順番を想定し得ることが理解される。さらに、例以外の場合又は別様に示される場合、例えば、明細書及び特許請求の範囲において使用される成分の量を表す全ての数字は、全ての例において「約(about)」という用語によって修正されたものと理解される。従って、逆の指示がない限り、以下の明細書及び添付の特許請求の範囲に記載されている数値パラメータは、取得されるべき所望の特性に応じて異なり得る近似値である。少なくとも、均等論の適用を特許請求の範囲に限定しようとするものではなく、それぞれの数値パラメータは、述べられた有効数字の数に照らして、また通例の丸め技法を適用することによって、少なくとも解釈されるべきである。
【0020】
本発明の広範な範囲を示す数値の範囲及びパラメータが近似値であるにもかかわらず、具体例に記載されている数値は、可能な限り正確に述べられる。しかしながら、任意の数値は本質的にそれらのそれぞれのテスト測定において確認された基準変動から必ずもたらされる特定の誤差を含む。
【0021】
また、本明細書に記載される任意の数値範囲は、それに包含される全ての部分的範囲を含むことを意図していることを理解すべきである。例えば、「1から10」の範囲は、記載された最小値である約1と記載された最大値である約10との間(1と10を含む)の全ての部分的範囲を含むこと、すなわち、約1に等しい又はそれより大きい最小値と、約10に等しい又はそれより小さい最大値とを有することを意図する。また、本願において、「又は(or)」の使用は、「及び/又は(and/or)」が特定の例において明示的に使用され得るとしても、別様に具体的な記載がない限り、「及び/又は(and/or)」を意味する。
【0022】
Li金属の工業的生産は、高純度LiClの電気分解に依存する。高純度LiClを取得することに関連付けられる高い複雑性及びコストは、従って、リチウムの持続可能な生成を著しく限定する。本開示は、いくつかの実施形態において、従来のプロセスに必要な、高純度LiClを準備する必要なく、低純度LiClから高純度リチウムを低コストで準備することを可能とする新たなデバイス及び方法を提供する。
【0023】
新たな方法は、いくつかの実施形態において、固体電解質を有する電解システムを利用する。固体電解質は、いくつかの実施形態において、リチウムイオンを伝導し得、リチウムイオンを通過させる。しかしながら、固体電解質は、他の原子、特にカチオンと、他の金属原子とを通過させない。
【0024】
例えば、1つの実施形態は、リチウム塩を含む溶融組成物を、溶融組成物と接触しているアノードと、固体電解質によって溶融組成物から分離されているカソードとを用いて、電気分解する段階を備える電気分解方法を提供する。カソードは溶融リチウムを含み得、その量は電気分解中に増大する。
【0025】
固体電解質の高いLiイオン選択性を利用して、そのような方法は、高純度又は低純度のリチウムを含むリチウム供給源から高純度リチウムを直接抽出することを可能とする。実験例によって示されるように、高純度リチウムは、超低濃度のLi(例えば、0.06wt.%)を含む混合塩から取得され、塩水からの天然塩であっても高純粋電解Liを生成するための持続可能な供給源として使用され得ることを示す。
【0026】
本明細書に説明される新たな技術は、少なくとも2つの大きな利点を有する。まず、それは高純度Liが低コストで取得され得ることを示す。本明細書に説明されるような電解Liの取得コストは、従来の金属Li方法の20%に過ぎないと推定される。次に、現在の技術において、従来の電解処理より低い電解温度が使用され得る。さらに興味深いことに、AlCl3が溶融組成物に添加されると、電解処理の動作温度は400℃から240℃に低下し得る。
【0027】
回復可能なLi源の90%近くが塩水に堆積することを考慮すると、塩水からのLi回収は、Li金属を取得する最も重要な方法のうちの1つである。金属Liの工業的生産は、天然資源(
図2a)から抽出及び精製された溶融LiCl‐KCl塩の電気分解を伴い得る。このプロセスにおいて、溶融LiClは、電解リチウム材料供給源及びイオン伝導電解質の両方に使用され、従って、高純度LiCl及びKClが、Li金属製品の純度を確保するために必要である。そうでなければ、Na
+、Mg
2+及びAl
3+などの不純物カチオンがLi金属と共にカソードに堆積される(
図2a)。このプロセスにおいて、LiClの純度は、高純度Li金属を生成するために、99.3%より高くなければならない。
【0028】
LiClの精製は、非常に複雑でありコストがかかる。特に、いくつかの塩湖かん水は、高いMg/Li比を有し、これはLi回収を困難にする。そのほかに、LiCl‐KCl混合塩は、350℃を上回る高い溶融点を有する。従って、動作温度は400℃より高い。加えて、アノードにおいて塩素ガスが生成され、装備を腐食させ得る。しかしながら、本技術は、そのような欠点を有しない。
【0029】
本開示はまた、いくつかの実施形態において、現在開示されている方法における使用に好適な装置を提供する。1つの実施形態において、溶融電解質を保存するための電解質区画と、含まれる場合に、電解質と接触するように位置付けられた金属アルミニウムを含む(又はそれに少なくとも部分的に覆われる)アノードと、溶融リチウムを保存するためのカソード区画と、含まれる場合に、溶融リチウムと接触するように位置付けられた固体電極と、電解質区画とカソード区画との間に位置付けられた固体電解質とを備えるリチウムを精製する装置がさらに提供される。いくつかの実施形態において、固体電解質はリチウムイオンを通過させるが、任意の他の原子は通過させない。
【0030】
開示された方法に好適である電気化学装置の例についての概略図は、
図1に提供され、溶融電解質/組成物及び溶融リチウムが充填されている。装置は、リチウム金属又はリチウム金属合金を含むカソード102と、リチウム塩104を含む溶融組成物であるアノード、又は、溶融組成物に電気的に接続されたシリンダ101とを備える。チューブ103の形の固体電解質は、カソード102と溶融組成物104とを分離する。加えて、装置は、カソード102と接触されたカソード集電体105を含み得、正極106と電気的に接続される。溶融組成物104は、アノード集電体としても機能するシリンダ101に接触する。
【0031】
固体電解質は、開放端シリンダ、又は端部のうちの1つが閉じられたシリンダの形であり得る。シリンダの1つ又は2つの開放端部は、600℃より低い温度、0℃から600℃の温度サイクル中、及び、溶融リチウム、溶融リチウム合金及び溶融リチウム塩に露出された場合などの動作条件下で封止の完全性を維持できる材料で封止され得る。
【0032】
図1に例示された構成以外の電気化学装置の構成も可能である。例えば、
図2bにおいて、アノード、固体電解質、及び/又はカソードは、カソードからアノードを分離する平行プレートの形であり得る。
【0033】
固体電解質は、リチウムイオンを伝導できる材料を含み得る。固体電解質は、他の原子又はイオン、特に、精製されたリチウムを汚染させ得る他の金属原子又はイオンを通過させないことが好ましい。固体電解質は、使用中にアノードとカソードとの間の分離を維持する。例えば、固体電解質は、リチウムイオン伝導性酸化物、リチウムイオン伝導性リン酸塩、リチウムイオン伝導性硫化物、又は前述のいずれかの組み合わせを含み得る。
【0034】
好適なリチウムイオン伝導性酸化物の例は、ガーネット型酸化物、リチウム超イオン伝導体(LISICON)型酸化物、ペロブスカイト型酸化物、及び前述のいずれかの組み合わせを含む。
【0035】
リチウムイオン伝導性酸化物は、タンタルドープLi7La3Zr2O12などのガーネット型酸化物を含み得る。ガーネット型酸化物は、Li7-xLa3Zr2-xTaxO12を含み得、ここでxは、例えば、0.1から1.0、0.2から0.9、0.3から0.8、又は0.4から0.6であり得る。
【0036】
ガーネット型酸化物は、Li6.5La3Zr1.5Ta0.5O12を含み得る。ガーネット型酸化物は、Li6.4La3Zr1.4Ta0.6O12-(本明細書では「LLZTO」とも称される)を含み得る。ガーネット型酸化物は、Li6.6La3Zr1.6Ta0.4O12を含み得る。ガーネット型酸化物は、Li6.5La3Zr1.5Ta0.5O12を含み得る。
【0037】
好適なリチウム超イオン伝導体(LISICON)型酸化物は、例えば、Li14ZnGe4O16を含む。好適なペロブスカイト型酸化物は、例えば、Li3xLa2/3-xTiO3及びLa(1/3)-xLi3xNbO3を含み、ここで、xは、例えば、0.1から1.0、0.2から0.9、0.3から0.8、又は0.4から0.7であり得る。
【0038】
好適なリチウムイオン伝導性リン酸塩の例は、Li1.4Al0.4Ti1.6(PO4)3、LiZr2(PO4)3、LiSn2(PO4)3、及びLi1+xAlxGe2-x(PO4)を含み、ここで、xは、例えば、0.1から1.0、0.2から0.9、0.3から0.8、又は0.4から0.7であり得る。
【0039】
好適なリチウムイオン伝導性硫化物の例は、Li2S-SiS2、Li2S-GeS2-P2S5、及びそれらの組み合わせを含む。
【0040】
本開示によって提供されるLLZTO固体電解質は、96%より高い、97%より高い、98%より高い、又は99%より高い密度を有し得る。例えば、LLZTO固体電解質は、96%から99.9%、97%から99.9%、98%から99.9%、又は98%から99%の密度を有し得る。
【0041】
本開示によって提供されたLLZTO固体電解質は、高圧冷間等方圧加圧及び噴霧造粒を使用して準備され得る。
【0042】
本開示によって提供されるLLZTO固体電解質は、例えば、0.1cmから0.6cm、0.15cmから0.5cm、又は0.2cmから4cmの断面厚さを有し得る。
【0043】
カソードは、いくつかの実施形態において、溶融リチウムを含む。アノードにおける溶融リチウム塩は、人工的資源又は天然資源から利用可能な任意の1つ又はそれより多くのリチウム塩を含み得る。いくつかの実施形態において、リチウム塩はLiClを含む。
【0044】
LiClの純度は、上述のように、従来の技術において要求されるように非常に高い必要はない。いくつかの実施形態において、溶融組成物は、99.7%より低いリチウム塩を含む。いくつかの実施形態において、溶融組成物は、99.5%、99%、98%、97%、95%、90%、80%、75%、60%、50%、40%、30%、20%、10%、5%、1%、0.5%、0.1%、又は0.01%より低いリチウム塩を含む。いくつかの実施形態において、溶融組成物は、99.7%、99.5%、99%、98%、97%、95%、90%、80%、75%、60%、50%、40%、30%、20%、10%、5%、1%、0.5%、0.1%、又は0.01%より低いLiClを含む。
【0045】
いくつかの実施形態において、溶融組成物は、AlCl3などのアルミニウム塩をさらに含む。アルミニウム塩は、リチウム塩中に自然に存在し得、又は代替的に、電気分解の前に又は電気分解中に添加され得る。いくつかの実施形態では、溶融組成物において、リチウム対アルミニウムのモル比は20:1から1:1である。いくつかの実施形態において、溶融組成物におけるリチウム対アルミニウムのモル比は、20:1から2:1,20:1から3:1,20:1から4:1,20:1から5:1,20:1から6:1,20:1から7:1,20:1から8:1,19:1から2:1,19:1から3:1,19:1から4:1,19:1から5:1,19:1から6:1,19:1から7:1,19:1から8:1,18:1から2:1,18:1から3:1,18:1から4:1,18:1から5:1,18:1から6:1,18:1から7:1,18:1から8:1,17:1から2:1,17:1から3:1,17:1から4:1,17:1から5:1,17:1から6:1,17:1から7:1,17:1から8:1,16:1から2:1,16:1から3:1,16:1から4:1,16:1から5:1,16:1から6:1,16:1から7:1,16:1から8:1,15:1から2:1,15:1から3:1,15:1から4:1,15:1から5:1,15:1から6:1,15:1から7:1,15:1から8:1,14:1から2:1,14:1から3:1,14:1から4:1,14:1から5:1,14:1から6:1,14:1から7:1,14:1から8:1,13:1から2:1,13:1から3:1,13:1から4:1,13:1から5:1,13:1から6:1,13:1から7:1,13:1から8:1,12:1から2:1,12:1から3:1,12:1から4:1,12:1から5:1,12:1から6:1,12:1から7:1,12:1から8:1,11:1から2:1,11:1から3:1,11:1から4:1,11:1から5:1,11:1から6:1,11:1から7:1,11:1から8:1,10:1から2:1,10:1から3:1,10:1から4:1,10:1から5:1,10:1から6:1,10:1から7:1,10:1から8:1,9:1から2:1,9:1から3:1,9:1から4:1,9:1から5:1,9:1から6:1,9:1から7:1,9:1から8:1,8:1から2:1,8:1から3:1,8:1から4:1,8:1から5:1,8:1から6:1,又は8:1から7:1である。
【0046】
カソード集電体は、例えば、ステンレス鋼、銅、銅合金、炭素、グラファイト、又は前述のいずれかの組み合わせなどの、任意の好適な材料を含み得る。カソード集電体は、溶融リチウム及び/又は溶融リチウム合金に露出される際に不活性であり得る。
【0047】
アノード集電体は、例えば、ステンレス鋼、銅、銅合金、炭素、グラファイト、又は前述のいずれかの組み合わせなどの、任意の好適な材料を含み得る。いくつかの実施形態において、アノード集電体は、リチウム塩を含む溶融組成物と直接接触する表面に存在し得る金属アルミニウムを備える。
【0048】
動作条件下で、これらの方法において使用される電気化学装置は、溶融温度を上回る温度に加熱され、その結果、動作中にリチウム又はリチウム塩が溶融し得る。例えば、動作条件下で、電池の温度は600℃より低くても、500℃より低くても、400℃より低くても、300℃より低くても、又は250℃より低くてもよく、リチウム及び/又はリチウム塩の融点を上回る。
【0049】
封止材は、使用中にアノード/カソードの材料を保持するのに使用され得る。封止材は、ペースト又はガスケットの形であり得る。電気化学電池の使用条件下で、ガスケットの材料は、劣化することがなく、存続可能な封止を維持することが望ましい。好適なガスケット材料は、200℃から600℃又は200℃から300℃の範囲内の温度にアノード及びカソード材料を長期間露出した後でも著しく劣化することはない。好適なガスケット材料は、シリコン、パーフルオロエーテル、ポリテトラフルオロエチレン、及びポリエポキシドなどのエラストマーを含む。
【0050】
いくつかの実施形態において、電気化学装置はさらに、装置に熱を提供するための加熱素子に接続される又はそれを備える。
[例]
[例1]
固体電解質を使用した低純度供給源からの高純度リチウムの1段階電解製造
【0051】
この例は、固体電解質(例えば、ガーネット型Li6.4La3Ta0.6Zr1.4O12(LLZTO))を2つの溶融電極間の分離層として使用して、低コスト且つ低純度のLiClから高純度電解Liを生成する新たな方法を説明する。固体電解質の高いLiイオン選択性を利用して、この例では、低純度LiCl(~95wt.%)の電気分解によって高純度金属Li(Li含有量>99.7wt.%)を直接取得した。この例ではさらに、低濃度のLi(0.06wt.%)を有する混合塩からのLi抽出を示しており、塩水からの天然塩が、電解Liを生成するための持続可能な供給源として使用され得ることを示している。
【0052】
本明細書に示されたようなLiClからLi金属を抽出する新たな方法は、少なくとも2つの大きな利点を提供する。まず、それは高純度Liが低コストで取得され得ることを示す。電解Liのコストは、既存の金属Li方法の20%に過ぎないと推定される。次に、新たな方法において、従来のプロセスより低い電解温度が使用され得る。さらに興味深いことに、AlCl3が添加されると、電解処理の動作温度は400℃から240℃に低下し得る。
[方法]
【0053】
[ガーネット型のLLZTO電解質のプロセス]
Li2CO3(Sinopharm Chemical Reagent Co.,Ltd,99.99%)、La2O3(Sinopharm Chemical Reagent Co.,Ltd,99.99%)、ZrO2(Aladdin,99.99%)及びTa2O5(Ourchem,99.99%)は、Li6.5La3Zr0.5Ta1.5O12(20%の超過Li2CO3が添加された)のモル比で完全に混合され、次に900℃で6時間の間加熱された。結果として得られる粉末は、12時間の間完全にボールミルされ、次に220MPaの冷間等方圧加圧下で90秒間U字状チューブ内に押圧された。その後、同じ母粉末で覆われたチューブは、空気中で16時間の間1140℃でアニーリングされた。全ての熱処理は、アルミナ蓋で覆われたアルミナルツボ(>99% Al2O3)で行われた。
【0054】
[電解デバイスの構造]
Li金属(0.1g)は、まずLLZTOチューブに置かれ、次に、箱形炉(MTI)に移動され、300℃を下回る温度で1時間の間溶融された。次に、混合塩がステンレス鋼Alシェルに置かれ、箱形炉(MTI)に移動され、150℃を下回る温度で60分間溶融され液体状態になった。次に、内部に液体リチウムを有するLLZTOチューブの上部から、240℃を下回る温度の溶融塩が入った。1mmの直径を有するステンレス鋼ロッドが、カソード集電体として液体リチウムに挿入された。全体の組み立てプロセスは、アルゴン雰囲気のグローブボックスにおいて行われた。
【0055】
[電気化学的測定]電解処理の電気化学的測定は、240℃の温度で、箱形炉(MTI)において行われた。全てのデバイスは、電解テスト(LAND 2001 CTバッテリーテスタ)にロードされ、1mA/cm2から10mA/cm2の電流密度で充電された。
【0056】
[特性評価]
LLZTOチューブの相対密度は、アルキメデス法によって測定された。全てのサンプルの微細構造は、MERLIN Compact Zeiss走査型電子顕微鏡を有する走査電子顕微鏡によって調査された。製作材料のX線回折(XRD)パターンは、CuKα放射源を備えるD/max‐2500ディフラクトメータ(Rigaku,日本)を使用して評価された。インピーダンス分光測定は、広帯域誘電体分光計(NOVOCOOL)(周波数範囲:10MHzから40Hz、交流電圧:10mV、温度:40℃から280℃)を用いて行われた。電解Li及び市販Liの純度は、ICP-MS測定(ELAN DRC-e)によって測定された。
[結果及び分析]
【0057】
この例では、Liイオン固体電解質に基づいて電解Liを生成する新たな方法が示された。Li
6.4La
3Ta
0.6Zr
1.4O
12(LLZTO)セラミックを固体電解質及びセパレータとして使用して、低純度LiCl‐AlCl
3溶融塩を電解素材として使用して、高純度の電解Li金属が取得された(
図2b)。
【0058】
結果は、工業用グレードのLiCl(~95wt.%)が、高純度電解Li(>99.7wt.%)を生成する素材として使用され得ることを示した。工業用グレードのLiClには、高純度LiClよりはるかに低いコストがかかる。従って、現在の方法によって生成された金属Liのコストは、国際金属Li価格の~20%に過ぎないと推定される。低濃度のLiCl(<0.4wt.%)を有する混合塩からのLi抽出も示された。この濃度のLiイオン(0.06wt.%)は、塩水から取得された天然塩と同じ大きさを有する。この超低濃度において、Liイオンの80%以上は金属Liに還元され、これは、我々の方法が塩水における天然塩からLiを直接抽出し得ることを示す。
【0059】
電解デバイスの概略図が
図3aに示されており、そのデジタル写真が
図3bに示されている。電解デバイスの重要な部分として、LLZTOセラミックチューブ(
図3c、
図7および
図8)は、室温(
図3d)より約100倍高い240℃において38mS cm
-2という高い伝導性を示した。固体電解質のイオン伝導性は、電解システムにおいて問題にされなかった。また、LLZTOセラミックチューブは、~99%という高い相対密度を有することで、液体電極の漏れを防止する。カソード(溶融Li)と電解質(溶融塩)との両方は液体であるので、固体電解質とカソード又は電解質との間の界面は、液体‐固体界面である。従って、当該界面は電解処理中に良好な接触を維持する。上記の事実は、LLZTOチューブは、電解デバイスの電解質及びセパレータとしてよく機能し得ることを示す。
[LLZTO固体電解質の高い選択性]
【0060】
LLZTOセラミックチューブの高い選択性を証明すべく、LiCl、NaCl、KCl、MgCl2、及びAlCl3で構成された混合塩が電解質として使用された。Naイオン及びKイオンは、LiCl素材における一般的な不純物である。従来の方法において、LiClを抽出するための素材として塩水を使用する場合、LiイオンからMgイオンを分離することが困難である。現在の方法において、混合塩の融点を下げるべく、AlCl3が添加された。また、金属Alがアノードとして使用され、電解反応式は以下のように表され得る。
Al+3Li++4Cl-→3Li+[AlCl4]- (1)
【0061】
Liイオンだけが固体電解質を貫通可能で(
図2b)、他のカチオンは電解反応に参加できない。LLZTOセラミックチューブと集電体とを接続すべく、少量の市販Liが使用された。電解処理の電圧プロファイルは
図4aに示される。電解槽電圧は最初の段階において~1.85Vであって、容量が500mAhに達するまで安定した状態を維持した。カットオフ電圧は2Vであって、最終容量は583.5mAhであった。溶融塩によって発生するステンレス鋼シェルの腐食を防止すべく、カットオフ電圧は2Vに設定された。この583.5mAhの容量のうち100%がLi金属の堆積によるものである場合、これは、0.151gのLi金属に変換されるであろう。実際には、0.145gの金属Liが取得され、Li金属クーロン効率が96.0%に達した(
図4b)。当該差は、重み付け誤差と、少量の副反応とによって発生し得る。最終段階における電解槽電圧の上昇は、電解質におけるLiイオン濃度の減少によって発生した。混合塩(1.09g)におけるLiClの最初の質量に従って、この例は~82%のLiを抽出した。
【0062】
取得された電解Liの純度をテストすべく、誘導結合プラズマ質量分析(ICP‐MS)測定が行われた。99.7%の純度を有する市販の金属Liも、比較として同じ方法によって測定された。表1に示されるように、本明細書において取得された市販Li及び電解Liの純度はほぼ同じである。電解Liの不純物(Na、K、Mg、Al)の濃度は非常に低く、市販Liのそれともほぼ同じである。La、Ta、及びZr元素の濃度は非常に低かった(<0.01ppm)。これは溶融Liに対するLLZTO固体電解質の高い化学的安定性を示す。取得された電解Liの純度は約99.7%であるように計算されることが注目される。溶融塩におけるLiイオンの最初の質量分率(5.5%)を考慮すると、Li元素の濃度は、電解処理の後17倍以上改善された。高純度の取得された電解Liは、LLZTO固体電解質の高い選択性と高い品質とを確認した。
[表1]
電解Li、市販Li及び超純水のICP-MS測定結果
【表1】
【0063】
Br
-、I
-及びSO
4
2-を含む他のアニオンも電解質に添加され、電解処理に対するアニオンの影響についてテストされた。電解処理の電圧プロファイルは
図4cに示される。電解槽電圧は1.75%で安定した。電解処理は、容量が430mAhに達した場合に停止された。この容量のうち100%がLi金属堆積によるものである場合、混合塩におけるLiイオンの50%近くが減少し、0.112gのLiが取得されるであろう。実際には、0.107gの金属Liが取得され、これは、Li金属堆積のクーロン効率を95.5%にした(
図4d)。ICP-MS測定の結果(表2)によると、アニオンは、取得されたLiの純度に対して無視出来る程度の影響を示した。Cl元素は主に、ICP-MS測定に使用される超純水から由来した。
[表2]
電解Li、市販Li及び超純水のICP-MS測定結果
【表2】
[低濃度のLiイオンを有する素材からのLi抽出]
【0064】
低濃度のLiイオンを有する塩水からのLi抽出は困難である。固体電解質の抽出能力をテストすべく、この例では、塩湖からの塩水のカチオン比に従って混合塩を準備した。Liイオンの最初の濃度は0.06wt%に過ぎず、これは中国のいくつかの塩湖の平均レベルであった。
図5aに示されるように、最終容量は7.77mAhであり、これは理論値(6.28mAh)よりわずかに高い。その差は主に、副反応によって発生する。電気分解の後に、ICP-MS測定のために、残留塩は100mLの超高純度の水に溶解された。2.58ppmのLi元素が溶液中に残存した。これは、金属Liを形成するために84.2%のLiイオンが抽出されたことを示す(
図5b)。取得されたLi金属の純度は、市販の高純度Li金属のそれと同じ程度で高い(表3)。Li元素の濃度は、電解処理の後、1500倍以上増加した。この結果は、塩水から取得された天然塩からLiを直接抽出する固体電解質のアプローチの可能性を示している。
[表3]
低いLiイオン濃度を有する混合塩から取得された電解LiのICP-MS測定結果
【表3】
[低コストでの電解Liの生成]
【0065】
Liベースの固体電解質をLiイオン選択性のための層として使用することによって、十分なNaイオン、Mgイオン、Kイオン、及びAlイオンを有する低純度LiClは、高純度の金属Liを生成するための素材として使用され得る。低純度のLiClが比較的に低い価格であるので、それを素材として使用することは、電解Liの生成コストを著しく削減する可能性を有する。このアプローチの可能性を例示すべく、工業用グレードのLiCl(~95wt.%)及びAlCl
3(モル比8:1)が、電解Liを生成するための電解質として使用された。電解槽電圧プロファイルは
図6aに示される。電解槽電圧は~1.7Vで安定した。Al
2Cl
6ガスの生成を回避すべく、電解処理は、電解質中のLiCl及びAlCl
3のモル比が1:1まで減少した場合に停止された。原則として、Liイオンの65.6%が金属Liに還元され、0.156gの金属Liが取得された。実際には、0.148gの金属Liが取得された。これは理論値の94.8である(
図6b)。金属Liの生成における一般的な不純物の濃度が測定され、その結果が表4に示された。電解Liと市販のLiとの不純物濃度間には、明らかな差はなかった。最も面白い結果は、電解Li金属においてMgの不純物が非常に低かったことである。MgはLi金属とイオン半径が同様であるため、従来のプロセスからはLi金属から分離することが困難だと知られている。しかしながら、この場合には、Mg
2+イオンは、その2価の電荷によって、Li固体電解質中に非常にゆっくり拡散した。超純水からの不純物を考慮した後、取得された電解Liの純度は約99.7%であった。
[表4]
電解Li、市販Li及び超純水のICP-MS測定結果
【表4】
【0066】
この例では、固体電解質を使用することによって電解Liを生成する新たな方法がテストされた。固体電解質の選択性が高いおかげで、大量の他の金属カチオンを有する低純度LiClが、高純度金属Liを生成するための素材として使用され得る。従来の電気分解技術によって高純度Liを生成するのに使用される高純度LiClと比較して、低純度の工業用グレードのLiClは価格がはるかに低い。電解Liのコストはこの方法において著しく削減される。さらに、電解質にAlCl3を添加することは、電解デバイスの動作温度を効果的に低下させ、腐食性Cl2の生成を回避する。最も注目すべきことは、Liイオン固体電解質の選択性が高いことは、Mgイオンなどの分離困難な不純物に対して顕著な分離効果を有する。従って、高いMg/Li比を有する塩湖かん水は、低コストのLi回収源として使用され得、これはさらに、電解Liのコストを削減し得る。この例は、超低濃度のLiイオンを有する混合塩からのLi抽出を実現し、天然塩からのLi回収を実現することを可能にした。
【0067】
最終的に、本明細書に開示された実施形態を実装する代替的な方法が存在することに留意されたい。従って、本実施形態は、例示的なものとみなされ、限定的なものとはみなされない。さらに、特許請求の範囲は、本明細書に与えられている詳細に限定されるものではなく、それらの完全な範囲及びそれと同等の権利を有する。
【国際調査報告】