IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キュイ、イの特許一覧

特表2022-515440固体電解質を有する高エネルギー密度の溶融リチウム‐硫黄及びリチウム‐セレンバッテリー
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-18
(54)【発明の名称】固体電解質を有する高エネルギー密度の溶融リチウム‐硫黄及びリチウム‐セレンバッテリー
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/39 20060101AFI20220210BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20220210BHJP
   H01M 4/40 20060101ALI20220210BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20220210BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20220210BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20220210BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220210BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20220210BHJP
   H01M 10/615 20140101ALI20220210BHJP
   H01M 10/657 20140101ALI20220210BHJP
【FI】
H01M10/39 A
H01M4/134
H01M4/40
H01M4/38 Z
H01M4/136
H01M4/66 A
H01M10/39 C
H01M10/052
H01M10/0562
H01M10/39 B
H01M10/615
H01M10/657
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021537134
(86)(22)【出願日】2019-12-13
(85)【翻訳文提出日】2021-08-02
(86)【国際出願番号】 CN2019125336
(87)【国際公開番号】W WO2020135111
(87)【国際公開日】2020-07-02
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2018/124603
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521276375
【氏名又は名称】キュイ、イ
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】キュイ、イ
(72)【発明者】
【氏名】ジン、ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ウ、フイ
(72)【発明者】
【氏名】リウ、カイ
(72)【発明者】
【氏名】ラン、ジアリアン
【テーマコード(参考)】
5H017
5H029
5H031
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA04
5H017AS02
5H017EE04
5H029AJ02
5H029AJ03
5H029AK05
5H029AL12
5H029AM12
5H029BJ22
5H029HJ02
5H029HJ08
5H031AA09
5H031KK03
5H050AA02
5H050AA08
5H050BA16
5H050CA11
5H050CB12
5H050HA02
5H050HA08
(57)【要約】
溶融リチウム‐硫黄及びリチウム‐セレンの電気化学電池が開示されている。固体電解質は、溶融リチウム金属又は溶融リチウム金属合金を、溶融硫黄又は溶融セレンから分離する。溶融リチウム‐硫黄及びリチウム‐セレンの電池は、低い過電位を有し、副反応を有せず、樹枝状成長を有しない。これらの電池は、高いクーロン効率及びエネルギー効率を有し、従って、高エネルギー、高出力、長寿命、低コスト、及び安全なエネルギー貯蔵システムを構築するための新たな化学作用を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム金属又はリチウム合金を含むアノードと、
硫黄、セレン又はそれらの混合物を含むカソードと、
前記アノードと前記カソードとの間に位置付けられた固体電解質であって、リチウムイオンを伝導できる固体電解質と
を備える、電気化学電池。
【請求項2】
動作温度において、前記リチウム金属又は前記リチウム合金は溶融され、前記硫黄又はセレンは溶融され、前記固体電解質は固体のままである、請求項1に記載の電気化学電池。
【請求項3】
前記固体電解質は、リチウムイオン伝導性酸化物、リチウムイオン伝導性リン酸塩、リチウムイオン伝導性硫化物、又はそれらの組み合わせを有する、請求項1に記載の電気化学電池。
【請求項4】
前記固体電解質は、リチウムイオン伝導性酸化物を有する、請求項3に記載の電気化学電池。
【請求項5】
前記リチウムイオン伝導性酸化物は、ガーネット型酸化物、リチウム超イオン伝導体(LISICON)型酸化物、ペロブスカイト型酸化物、又はそれらの組み合わせを含む、請求項4に記載の電気化学電池。
【請求項6】
前記リチウムイオン伝導性酸化物は、ガーネット型酸化物を含む、請求項4に記載の電気化学電池。
【請求項7】
前記ガーネット型酸化物は、タンタルドープLiLaZr12を含む、請求項6に記載の電気化学電池。
【請求項8】
前記ガーネット型酸化物は、Li7-xLaZr2-xTa12を含み、xは0.1から1.0である、請求項6に記載の電気化学電池。
【請求項9】
前記ガーネット型酸化物は、Li7-xLaZr2-xTa12を含み、xは0.4から0.6である、請求項6に記載の電気化学電池。
【請求項10】
前記ガーネット型酸化物は、Li6.4LaTa0.6Zr1.412、Li6.5LaTa0.5Zr1.512、又はLi6.6LaTa0.4Zr1.612を含む、請求項6に記載の電気化学電池。
【請求項11】
前記カソードと電気的に接続されたカソード集電体をさらに備える、請求項1から10のいずれか一項に記載の電気化学電池。
【請求項12】
前記カソード集電体はステンレススティールを有する、請求項11に記載の電気化学電池。
【請求項13】
前記アノードと電気的に接続されたアノード集電体をさらに備える、請求項11に記載の電気化学電池。
【請求項14】
前記アノード集電体はステンレススティールを有する、請求項13に記載の電気化学電池。
【請求項15】
前記固体電解質は、チューブの形であり、前記カソードは、前記チューブ内に配置される、請求項11に記載の電気化学電池。
【請求項16】
前記固体電解質は、95%から99.9%の相対密度を有する、請求項11に記載の電気化学電池。
【請求項17】
前記カソード集電体は、前記チューブの外部にあるシリンダの形であり、前記カソードは、前記チューブと前記シリンダとの間に配置される、請求項15に記載の電気化学電池。
【請求項18】
前記電気化学電池はさらに、前記アノードと前記カソードとを保持するように構成されているシールを備える、請求項11に記載の電気化学電池。
【請求項19】
前記電気化学電池は、120℃から600℃の範囲の温度で動作するように構成されている、請求項1から18のいずれか一項に記載の電気化学電池。
【請求項20】
前記カソードはさらに、炭素伝導性添加剤を含む、請求項1から19のいずれか一項に記載の電気化学電池。
【請求項21】
前記硫黄又はセレンと炭素とが3:1から20:1のモル比(m(S又はSe):m(C))で混合される、請求項20に記載の電気化学電池。
【請求項22】
請求項1から21のいずれか一項に記載の電気化学電池のうち1又は複数を含む、電力モジュール。
【請求項23】
前記電気化学電池のうち前記1又は複数を加熱するように構成された熱源をさらに備える、請求項22に記載の電力モジュール。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
高エネルギー密度バッテリーは、消費者電子機器、航空、電気自動車、及び新たに出現する大規模の静止型ストレージにおける適用に重要である。現在の最新技術のリチウムイオンバッテリー(LIB)は、300Wh kg-1より低く、750Wh L-1より低いエネルギー密度を有する。500Wh kg-1より高く、1000Wh L-1より高いエネルギー密度を有する信頼性の高いバッテリーシステムは、長期間にわたる需要を満たすためにまだ開発されていない。Liイオンバッテリーのエネルギー密度は、市販の金属酸化物カソード(~140mAh g-1のリン酸鉄リチウムなど)と市販の炭素ベースアノード(~340mAh g-1のグラファイトなど)とのリチウム貯蔵容量によって限定され、従来の「サンドイッチ型」バッテリー構成(積層された集電体/カソード/セパレータ/アノード/集電体)によっても制限された。
【0002】
電力貯蔵のための改善されたバッテリーが望ましい。
【発明の概要】
【0003】
本開示は、いくつかの実施形態において、高エネルギー密度の溶融リチウム‐硫黄(Li-S)及びリチウム‐セレン(Li-Se)バッテリーについて説明し、これらは、例えば、溶融S又はSe(又は混合物)カソード、溶融Liアノード、及びリチウムイオンを伝導できるLi6.4LaZr1.4Ta0.612(LLZTO)で構成される固体電解質を統合することによって準備可能である。実験例に示されるように、そのような溶融Li-S及びLi-Seバッテリーは、高エネルギー密度、高い安定性を有する速い充電及び放電速度、高いクーロン効率、及び高いエネルギー効率を含む、優れた電気化学的性能を示す。
【0004】
様々な実施形態において本明細書に説明されるように、これらの固体電解質ベースの溶融Li-S及びLi-Seバッテリーは、高エネルギー、高出力、長寿命、低コスト、及び安全なエネルギー貯蔵システムを構築するために新たな化学作用を提供する。そのようなバッテリーは、2395Wh kg-1及び1015Wh kg-1のエネルギー密度に達することが理論的に可能とされる。
【0005】
本開示の1つの実施形態によると、リチウム金属又はリチウム合金を含むアノードと、硫黄、セレン、又はその混合物を含むカソードと、アノードとカソードとの間に位置付けられた固体電解質とを備える電気化学電池が提供される。いくつかの実施形態において、固体電解質はリチウムイオンを伝導することができる。
【0006】
様々な実施形態において、動作温度(例えば、240℃)で、リチウム金属又はリチウム合金が溶融され、硫黄又はセレンが溶融され、固体電解質は固体のままである。いくつかの実施形態において、電気化学電池は、120℃から600℃の範囲の温度で動作するように構成される。
【0007】
固体電解質は、リチウムイオン伝導性酸化物、リチウムイオン伝導性リン酸塩、リチウムイオン伝導性硫化物、又はそれらの組み合わせを用いて準備され得る。リチウムイオン伝導性酸化物は、ガーネット型酸化物、リチウム超イオン伝導体(LISICON)型酸化物、ペロブスカイト型酸化物、又はそれらの組み合わせであり得る。
【0008】
ガーネット型酸化物の非限定的な例は、Li7-xLaZr2-xTa12などのタンタルドープLiLaZr12であり、xは0.1から1.0である。いくつかの実施形態において、xは0.4から0.6である。タンタルドープLiLaZr12の具体例は、Li6.4LaTa0.6Zr1.412、Li6.5LaTa0.5Zr1.512、又はLi6.6LaTa0.4Zr1.612を含む。
【0009】
電気化学電池はさらに、カソードと電気的に接続されたカソード集電体と、アノードと電気的に接続されたアノード集電体とを備え得る。アノード集電体とカソード集電体との両方は、ステンレススティールで作製され得る。
【0010】
いくつかの実施形態において、カソードには、炭素伝導性添加剤が添加され得る。いくつかの実施形態において、硫黄又はセレンと炭素とが3:1から20:1のモル比(m(S又はSe):m(C))で混合される。
【0011】
様々な他の実施形態には、本開示の電気化学電池のうち1又は複数を含む電力モジュールも提供され、電力モジュールはさらに、当該モジュール内の1又は複数の電気化学電池を加熱するように構成された熱源を任意選択的に含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
本明細書で説明される図面は、図示のみを目的とする。図面は、本開示の範囲を限定することを意図するものではない。
【0013】
図1】本開示によって提供されるリチウム||固体電解質||S又はSe電気化学電池の例の断面図を示す。
【0014】
図2a】溶融Li-S及びLi-Seバッテリーの構造及びエネルギー密度を示す。
図2b】溶融Li-S及びLi-Seバッテリーの構造及びエネルギー密度を示す。
図2c】溶融Li-S及びLi-Seバッテリーの構造及びエネルギー密度を示す。
図2d】溶融Li-S及びLi-Seバッテリーの構造及びエネルギー密度を示す。 aは、溶融Li-S及びLi-Seバッテリーの概略を示す。挿入図は、バッテリーの断面である。bは、異なるバッテリーのエネルギー密度の比較を示す。c及びdは、溶融Li-S及びLi-Se電池の質量エネルギー及び体積測定エネルギーの計算を示す。ここで、エネルギー計算は、リチウムアノード、S又はSeカソード、伝導性添加剤、及びLLZTOチューブの体積及び質量に基づく。我々の計算では、LLZTOチューブの壁の厚みが1.5mmであり、LLZTOチューブ及びステンレススティールケースの密度は5g cm-3及び8g cm-3に設定された。
【0015】
図3a】240℃で動作する溶融Li-S電池の電気化学的性能を示す。
図3b】240℃で動作する溶融Li-S電池の電気化学的性能を示す。
図3c】240℃で動作する溶融Li-S電池の電気化学的性能を示す。
図3d】240℃で動作する溶融Li-S電池の電気化学的性能を示す。 aは、10mA cm-2での第1から第5のサイクルにおける充電‐放電サイクリング中の電圧プロファイルを示す。bは、クーロン効率、エネルギー効率、及び、サイクル数の関数としての具体的な容量を示す。cは、第20、第30、及び第40の充電‐放電サイクル中の代表的な電圧プロファイルを示す。dは、溶融Li-S電池のCレート性能を示す。
【0016】
図4a】240℃で動作する溶融Li-Se電池の電気化学的性能を示す。
図4b】240℃で動作する溶融Li-Se電池の電気化学的性能を示す。
図4c】240℃で動作する溶融Li-Se電池の電気化学的性能を示す。
図4d】240℃で動作する溶融Li-Se電池の電気化学的性能を示す。
図4e】240℃で動作する溶融Li-Se電池の電気化学的性能を示す。
図4f】240℃で動作する溶融Li-Se電池の電気化学的性能を示す。 aは、30mA cm-2での第1から第5のサイクリングにおける充電‐放電サイクル中の電圧プロファイルを示す。bは、クーロン効率、エネルギー効率、及び、サイクル数の関数としての具体的な容量を示す。cは、第50、第100、及び第300の充電‐放電サイクル中の代表的な電圧プロファイルを示す。dは、溶融Li-Se電池のCレート性能を示す。eは、異なるCレート(0.5C‐3C)における代表的な電圧プロファイルを示す。fは、クーロン効率、エネルギー効率、及び、3Cにおけるサイクル数の関数としての具体的な容量を示す。
【0017】
図5a】300℃で動作する溶融Li-Se電池の電気化学的性能を示す。
図5b】300℃で動作する溶融Li-Se電池の電気化学的性能を示す。
図5c】300℃で動作する溶融Li-Se電池の電気化学的性能を示す。
図5d】300℃で動作する溶融Li-Se電池の電気化学的性能を示す。
図5e】300℃で動作する溶融Li-Se電池の電気化学的性能を示す。 aは、動作温度の調節によって有効になる電気自動車の高速充電モードを示す。bは、クーロン効率、エネルギー効率、及び、動作温度が4Cにおいて240℃から300℃に増加した場合の具体的な容量の変形例である。cは、クーロン効率、エネルギー効率、及び、4Cにおけるサイクル数の関数としての具体的な容量を示す。dは、溶融Li-Se電池のCレート性能を示す。eは、クーロン効率、エネルギー効率、及び、10Cにおけるサイクル数の関数としての具体的な容量を示す。
【0018】
図6】a及びbは、Li-S(a)及びLi-Se(b)の相図を示す。
【0019】
図7】300℃で溶融リチウムを2か月間浸漬した後のLLZTO電解質チューブのXRD測定を示す。LLZTOの構造からの理論上の位置のピークがインデックス化された。(2か月間溶融リチウムに浸漬される前後の)XRDパターンは両方が、立方晶ガーネット相LiLaNb12(PDF45-0109)と知られている標準的なパターンとよくマッチングすることが分かる。
【0020】
図8】20℃から300℃におけるLLZTOペレットのイオン伝導性を示す。
【0021】
図9】aからdは、LLZTO電解質チューブの表面(a,b,c)及び断面(d)のSEM画像を示す。
【0022】
図10】a及びbは、LLZTO電解質シートの不透過性テストの概略(a)及び結果(b)を示す。×:LLZTOシートが破裂され、流量はガス流量計の範囲外にある。セラミック電解質の2つの側におけるガス圧力差(P-P)は、電解質が破裂されるまで徐々に増加する。周囲空気側におけるガス流量と、セラミック電解質が耐え得る最大圧力差が記録された。LLZTO電解質シートの厚み:200μmであり、テストチャンバの直径d=12.0mmである。
【0023】
図11】異なる温度におけるSe及びSの蒸気圧の比較を示す。蒸気圧はアントワン式に基づいて計算された。
【0024】
図12】Se及びSの揮発実験結果を示す。1gのSe及び1gのSが個別の開放式ガラス容器に置かれ、オーブンにおいて完全なアルゴン雰囲気において300℃で加熱された。それらの重量は1時間毎に測定された。
【0025】
図13】放電/充電中の240℃から20℃における溶融Li-Se電池の冷凍/解凍テストの結果を示す。溶融Li-Se電池の加熱を停止し(自然冷却で20℃まで温度を低下させた)、充電及び放電プロセス中に20℃で25分間そのままにして、次に再び240℃に戻した。
【0026】
図14】a及びbは、約10mA cm-2の電流密度で、300℃の動作温度で、溶融Li-Seバッテリーの自己放電実験を行った結果を示す。電池は2.3Vまで完全に充電され、次に、再び放電される前に、300℃で10日間(240時間)停止された。
【0027】
図15】溶融Li-S又はLi-Se電池の幾何学的モデルを示す。
【0028】
図16図15の溶融Li-S又はLi-Se電池の断面図を示す。
【0029】
ここで、本開示の特定の実施形態に対して詳細な参照が成される。本開示の特定の実施形態が説明されているが、本開示の実施形態を開示された実施形態に限定することを意図するものではないことを理解されよう。それとは逆に、本開示の実施形態を参照することは、添付の特許請求の範囲によって定義される本開示の実施形態の趣旨及び範囲内に含まれ得る、代替形態、修正例、及び同等物を包含することを意図する。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下の説明の目的のために、本開示によって提供される実施形態は、明確に逆に指定されている場合を除き、様々な代替的な変形例及び段階の順番を想定し得ることが理解される。さらに、例以外の場合又は別様に示される場合、例えば、明細書及び特許請求の範囲において使用される成分の量を表す全ての数字は、全ての例において「約(about)」という用語によって修正されたものと理解される。従って、逆の指示がない限り、以下の明細書及び添付の特許請求の範囲に記載されている数値パラメータは、取得されるべき所望の特性に応じて異なり得る近似値である。少なくとも、均等論の適用を特許請求の範囲に限定しようとするものではなく、それぞれの数値パラメータは、述べられた有効数字の数に照らして、また通例の丸め技法を適用することによって、少なくとも解釈されるべきである。
【0031】
本発明の広範な範囲を示す数値の範囲及びパラメータが近似値であるにもかかわらず、具体例に記載されている数値は、可能な限り正確に述べられる。しかしながら、任意の数値は本質的にそれらのそれぞれのテスト測定において確認された基準変動から必ずもたらされる特定の誤差を含む。
【0032】
また、本明細書に記載される任意の数値範囲は、それに包含される全ての部分的範囲を含むことを意図していることを理解すべきである。例えば、「1から10」の範囲は、記載された最小値である約1と記載された最大値である約10との間(1と10を含む)の全ての部分的範囲を含むこと、すなわち、約1に等しい又はそれより大きい最小値と、約10に等しい又はそれより小さい最大値とを有することを意図する。また、本願において、「又は(or)」の使用は、「及び/又は(and/or)」が特定の例において明示的に使用され得るとしても、別様に具体的な記載がない限り、「及び/又は(and/or)」を意味する。
【0033】
電気化学電池は、バッテリーを含む電気エネルギーを貯蔵及び生成するデバイスを指す。本開示によって提供される電気化学電池は再充電可能であり得る。
【0034】
バッテリーにおける電極としての硫黄(S)及びセレン(Se)が発見されたので、Li-S及びLi-Seバッテリーの研究は殆どが、固体状態のLi、固体状態のS又はSe(粉末又は異なるS/C若しくはSe/C複合物)、及び液体有機電解質を有するバッテリー構造に注目した。しかしながら、これらのバッテリー構造は、1)サイクリングの安定性が劣ること並びにクーロン効率が低いこと、2)液体有機電解質の燃焼性が高いことからもたらされる安全性の問題、及び3)リチウムアノードの樹枝状の成長、及び電解質におけるその副反応を含む本質的な問題に必然的に遭遇する。加えて、充電及び放電中に固体S及びSeの体積変化が大きいと、それは活性S又はSeを集電体から脱落させ、従って、サイクリングの不安定性が悪化し、Se及びSの使用率が減少する。これらの問題は、Li-S及びLi-Seバッテリーの産業化を著しく妨げた。
【0035】
これらの課題及び他の課題は、本技術において容易に克服された。本明細書で説明されるのは、高エネルギー密度の溶融リチウム‐硫黄(Li-S)及びリチウム‐セレン(Li-Se)バッテリーであって、これらは、例えば、溶融S又はSe(又は混合物)カソード、溶融Liアノード、及びリチウムイオンを伝導できる固体電解質(例えば、Li6.4LaZr1.4Ta0.612(LLZTO))を統合することによって準備可能である、バッテリーである。実験例に示されるように、そのような溶融Li-S及びLi-Seバッテリーは、(1)高エネルギー密度、(2)高い安定性を有する速い充電及び放電速度、及び(3)高いクーロン効率、及び高いエネルギー効率を含む、優れた電気化学的性能を示す。
【0036】
エネルギー密度の観点から、テストされたバッテリーは、Li-Sバッテリーの場合には880Wh kg-1又は1400Wh L-1、Li-Seバッテリーの場合には530Wh kg-1及び1250Wh L-1のエネルギー密度を供給した。当該エネルギー密度は、アノード、カソード、固体電解質、及び伝導性添加剤(ステンレススティール缶を除く)を含む全ての電池材料の重量及び体積に基づいて計算された。充電/放電のスピードについては、Li-Seバッテリーを例にとると、300℃、100mA cm-2の電流密度、及び180mW cm-2の出力密度において、組み立てられた電池は、高い速度(10C)で1000回より多く安定的にサイクリングされることが可能である(サイクル毎の容量損失は0.056%である)。また重要なことは、バッテリーは、低い過電位を有し、副反応がなく、樹枝状成長がないので、それぞれ99.99%及び85%のクーロン効率及びエネルギー効率を示した。本明細書に説明されるように、固体電解質ベースの溶融Li-S及びLi-Seバッテリーは、高エネルギー、高出力、長寿命、低コスト、及び安全なエネルギー貯蔵システムを構築するために新たな化学作用を提供する。
【0037】
本開示の1つの実施形態によると、リチウム金属又はリチウム合金を含むアノードと、硫黄、又はセレンを含むカソードと、アノードとカソードとの間に位置付けられた固体電解質であって、リチウムイオンを伝導できる固体電解質とを備える電気化学電池が提供される。
【0038】
本開示によって提供されるバッテリーなどの電気化学電池の例の概略が図1に示される。バッテリーは、リチウム金属又はリチウム金属合金を含むアノード102と、硫黄又はセレンを含むカソード104と、アノード102に隣接しておりカソード104からアノード102を分離するチューブの形の固体電解質103とを備える。加えて、バッテリーは、アノード102と接触しているアノード集電体105を含み得、負極106と電気的に接続されている。カソード104は、カソード集電体及び正極としても機能するシリンダ101に電気的に接続され、それによって囲まれている。
【0039】
固体電解質は、開放端シリンダ、又は端部のうちの1つが閉じられたシリンダの形であり得る。シリンダの1つ又は2つの開放端部は、600℃より低い温度、0℃から600℃の温度サイクリング中、及び、溶融リチウム、溶融リチウム合金、溶融硫黄又は溶融セレンに露出された場合などの動作条件下で封止の完全性を維持できる材料で封止され得る。
【0040】
アノード集電体は、例えば、ステンレススティール、銅、銅合金、炭素、グラファイト、又は前述のいずれかの組み合わせなどの、任意の好適な材料を含み得る。好ましい実施形態において、アノード集電体はステンレススティールを含む。アノード集電体は、溶融リチウム及び/又は溶融リチウム合金の露出の際に不活性であり得る。
【0041】
カソード集電体は、例えば、ステンレススティール、銅、銅合金、炭素、グラファイト、又は前述のいずれかの組み合わせなどの、任意の好適な材料を含み得る。好ましい実施形態において、カソード集電体はステンレススティールを含む。
【0042】
図1に例示された構成以外の電気化学電池の構成も可能である。例えば、アノード、固体電解質、及び/又はカソードは、カソードからアノードを分離する平行プレートの形であり得る。
【0043】
アノードは、リチウム金属又はリチウム合金を含み得る。リチウム金属は、例えば、99.99モル%より高いリチウム、99.9モル%より高いリチウム、又は、99モル%より高いリチウムを含み得、ここで、モル%は、組成物における元素の総モル数に基づく。
【0044】
好適なリチウム合金は、600℃より低い、500℃より低い、400℃より低い、又は300℃より低い溶融温度を有し得る。好適なリチウム金属合金は、例えば、120℃から600℃の範囲内、120℃から500℃の範囲内、120℃から400℃の範囲内、又は120℃から300℃の範囲内の溶融温度を有し得る。好適なリチウム金属合金の例は、例えば、Li-Al、Li-Ag、Li-Si、及びLi-Snを含む。
【0045】
動作条件下で、本開示によって提供される電気化学電池は、アノード材料の溶融温度を上回る温度に加熱され、その結果、動作中に、リチウム金属又はリチウム金属合金が溶融され得る。例えば、動作条件下で、電池の温度は、600℃より低い、500℃より低い、400℃より低い、又は300℃より低い、且つリチウム金属又はリチウム金属合金の融点を上回る、温度であり得る。
【0046】
カソードは、硫黄又はセレン、又はそれらの組み合わせを含み得る。いくつかの実施形態において、カソードは、少なくとも50%の硫黄又はセレン、又はそれらの組み合わせを含み、いくつかの実施形態において、カソードは、少なくとも60%、70%、80%、85%、90%、95%、98%、99%、99.5%、99.8%、99.9%の硫黄又はセレン、又はそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態において、カソードはさらに、リチウムを含む。
【0047】
カソードはさらに、いくつかの実施形態において、炭素フェルト伝導性添加剤を含み得る。いくつかの実施形態において、硫黄又はセレン(又は混合物)と炭素とが3:1から20:1のモル比(m(S又はSe):m(C))で混合される。いくつかの実施形態において、モル比は少なくとも3:1、4:1、5:1、6:1、7:1、又は8:1である。いくつかの実施形態において、モル比は、10:1、11:1、12:1、13:1、14:1、15:1、16:1、17:1、18:1、19:1又は20:1より高くない。
【0048】
固体電解質は、リチウムイオンを伝導できる材料を含み得る。固体電解質はまた、使用中にアノードとカソードとの間の分離を維持する。例えば、固体電解質は、リチウムイオン伝導性酸化物、リチウムイオン伝導性リン酸塩、リチウムイオン伝導性硫化物、又は前述のいずれかの組み合わせを含み得る。
【0049】
好適なリチウムイオン伝導性酸化物の例は、ガーネット型酸化物、リチウム超イオン伝導体(LISICON)型酸化物、ペロブスカイト型酸化物、及び前述のいずれかの組み合わせを含む。
【0050】
リチウムイオン伝導性酸化物は、タンタルドープLiLaZr12などのガーネット型酸化物を含み得る。ガーネット型酸化物は、Li7-xLaZr2-xTa12を含み得、ここで、xは、例えば、0.1から1.0、0.2から0.9、0.3から0.8、又は0.4から0.6であり得る。
【0051】
ガーネット型酸化物は、Li6.5LaZr1.5Ta0.512を含み得る。ガーネット型酸化物は、Li6.4LaZr1.4Ta0.612-(本明細書では「LLZTO」とも称される)を含み得る。ガーネット型酸化物は、Li6.6LaZr1.6Ta0.412を含み得る。ガーネット型酸化物は、Li6.5LaZr1.5Ta0.512を含み得る。
【0052】
好適なリチウム超イオン伝導体(LISICON)型酸化物は、例えば、Li14ZnGe16を含む。好適なペロブスカイト型酸化物は、例えば、Li3xLa2/3-xTiO及びLa(1/3)-xLi3xNbOを含み、ここで、xは、例えば、0.1から1.0、0.2から0.9、0.3から0.8、又は0.4から0.7であり得る。
【0053】
好適なリチウムイオン伝導性リン酸塩の例は、Li1.4Al0.4Ti1.6(PO、LiZr(PO、LiSn(PO、及びLi1+xAlGe2-x(PO)を含み、ここで、xは、例えば、0.1から1.0、0.2から0.9、0.3から0.8、又は0.4から0.7であり得る。
【0054】
好適なリチウムイオン伝導性硫化物の例は、LiS-SiS、LiS-GeS-P、及びそれらの組み合わせを含む。
【0055】
本開示によって提供されるLLZTO固体電解質は、96%より高い、97%より高い、98%より高い、又は99%より高い密度を有し得る。例えば、LLZTO固体電解質は、96%から99.9%、97%から99.9%、98%から99.9%、又は98%から99%の密度を有し得る。
【0056】
本開示によって提供されたLLZTO固体電解質は、高圧冷間等方圧加圧及び噴霧造粒を使用して準備され得る。
【0057】
本開示によって提供されるLLZTO固体電解質は、例えば、0.1cmから0.6cm、0.15cmから0.5cm、又は0.2cmから4cmの断面厚さを有し得る。
【0058】
封止材は、使用中にカソードの材料を保持するのに使用され得る。封止材は、ペースト又はガスケットの形であり得る。電気化学電池の使用条件下で、ガスケットの材料は、劣化することがなく、存続可能な封止を維持することが望ましい。好適なガスケット材料は、200℃から600℃又は200℃から300℃の範囲内の温度にアノード及びカソード材料を長期間露出した後でも著しく劣化することはない。好適なガスケット材料は、シリコン、パーフルオロエーテル、ポリテトラフルオロエチレン、及びポリエポキシドなどのエラストマーを含む。
【0059】
いくつかの実施形態において、本開示は、リチウム金属又はリチウム合金を含むアノードと、硫黄、又はセレンを含むカソードと、アノードとカソードとの間に位置付けられた固体電解質であって、リチウムイオンを伝導できる固体電解質とを備える電気化学電池を提供する。いくつかの実施形態において、電気化学電池は、少なくとも250Wh kg-1、300Wh kg-1、400Wh kg-1、500Wh kg-1、600Wh kg-1、700Wh kg-1、800Wh kg-1、900Wh kg-1、1000Wh kg-1、1100Wh kg-1、1200Wh kg-1、1300Wh kg-1、1400Wh kg-1、1500Wh kg-1、1600Wh kg-1、1700Wh kg-1、1800Wh kg-1、1900Wh kg-1、又は2000Wh kg-1のエネルギー密度を実現する。いくつかの実施形態において、電気化学電池は、少なくとも500Wh L-1、600Wh L-1、700Wh L-1、800Wh L-1、900Wh L-1、1000Wh L-1、1100Wh L-1、1200Wh L-1、1300Wh L-1、1400Wh L-1、1500Wh L-1、1600Wh L-1、1700Wh L-1、又は1800Wh L-1のエネルギー密度を実現する。
【0060】
本開示によって提供される電気化学電池は、電気化学電池のうちの1つより多くを含むバッテリー及び電力モジュールに使用され得る。電力システムは、1つより多くの電気化学電池及び/又は電力モジュールを備え得る。電気化学電池及び電力モジュールは、電気エネルギーを貯蔵することと、電気エネルギーを電力グリッドに放電することとに使用され得る。従って、本発明の態様は、本開示によって提供される電気化学電池を組み込んだ電力システム及び電力グリッドを含む。
[例]
[例1]
高エネルギー密度を有する固体電解質ベースの溶融リチウム‐硫黄及びリチウム‐セレンバッテリー
【0061】
この例は、セラミック固体電解質チューブを有する溶融Li-S及びLi-Seバッテリーを作製しテストした。バッテリー構成の概略図は図2aに示される。それは溶融リチウム金属アノード、溶融S(Se)カソード、及びLLZTOセラミックチューブ電解質から成る。リチウム金属アノードはLLZTOチューブの内部にあって、アノードの集電体として機能するステンレススティールロッドが挿入された。炭素フェルト伝導性添加剤(m(S又はSe):m(C)=9:1の質量比を有する)を有するS(Se)カソードは、LLZTOチューブの外部にあるステンレススティールの円筒形の容器に挿入され、当該容器は、LLZTOチューブによってリチウムアノードから物理的及び電子的に分離された。ステンレススティールシリンダは、同時に、カソードの集電体として機能した。
[方法]
ガーネット型LLZTOチューブの作製及び特性評価
【0062】
LiCO(Sinopharm Chemical Reagent Co.,Ltd,99.99%)、La(Sinopharm Chemical Reagent Co.,Ltd,99.99%)、ZrO(Aladdin,99.99%)及びTa(Ourchem,99.99%)粉末は、Li6.5LaZr0.5Ta1.512のモル比で混合され、瑪瑙乳鉢及び乳棒で粉砕し、次に、900℃で6時間の間加熱して、金属塩を分解した。結果として得られる粉末は、330MPaで120秒の間冷間等方圧加圧を行いU字状チューブに押圧される前に12時間の間ボールミルされ、次に、チューブが同じ母粉末に覆われている間、1140℃で16時間の間、空気中でアニーリングされた。全ての熱処理は、アルミナ蓋で覆われたアルミナルツボ(>99% Al)で行われた。
【0063】
アルキメデス水中置換法が、LLZTOチューブの相対密度を測定するために使用された。XRD(Da Vinciを有するBruker AXS D8 Advance)が、相形成をモニタリングするために使用された。チューブの微細構造は、電界放射型SEM(Shimadzu SSX-550)を使用して検査された。広帯域誘電体分光計(NOVOCOOL)が、インピーダンス分光測定(周波数範囲:40Hz~10MHz、交流電圧:10mV、温度範囲:25℃~300℃)を行うために使用された。
Li||LLZTO||S及びLi||LLZTO||Se電池のアセンブリ及び電気化学的測定
【0064】
S(又はSe)粉末及び炭素フェルトはまずステンレススティール電池に伝達され、箱形炉(MTI)において150℃(300℃)で3時間の間加熱されることで、炭素フェルト(m(S又はSe):m(C)=9:1の質量比を有する)中に溶融S(又はSe)を均一に分散させた。次に、リチウム金属はガーネット型LLZTOチューブに配置され、箱形炉(MTI)において240℃で20分間加熱され、リチウム金属を溶融させた。溶融リチウムを含むLLZTOチューブは次に、240℃で溶融セレンを有するステンレススティール電池に伝達された。直径1mmのステンレススティールロッドが、アノード集電体として溶融リチウムに挿入された。電池が室温に冷却された後、電池をステンレススティールキャップで封止するために、シリコンゴムが使用された。全体のアセンブリプロセスは、アルゴン雰囲気のグローブボックスにおいて行われた。
【0065】
Li||LLZTO||S及びLi||LLZTO||Se電池の電気化学的性能は、アルゴンが充填された箱形炉(MTI)において、240℃及び300℃で、バッテリーテストシステム(LAND 2001 CTバッテリーテスタ)を使用したテストされた。それぞれの電池の活性表面積は、LLZTOチューブと溶融リチウムとの間の接触面積によって決定された通り、3cmである。それぞれの電池における活性Sの質量は10Mgであり、それぞれの電池におけるSeの質量は15Mgである。
溶融Li-Se及びLi-Sバッテリーのエネルギー密度の計算
【0066】
ここでは、そのエネルギー密度を計算するための現実的な電池構成が説明される。LLZTO固体電解質の場合、L cmの高さ、1.5mmの壁の厚み、1cmから20cmの内径(D)を有するチューブ構造が使用可能である。外部容器(カソード集電体)の場合、この例は、2mmの壁の厚み、アノードとカソードとの容量マッチングを保証するためにDによって可変である内径(D)を有するステンレススティールケースを使用する。カソードは、伝導性炭素フェルトに融合された90wt%のS(又はSe)から成る。溶融S及びSeに必要な伝導性炭素は、総電極重量の10%のみを占める。Li金属は、LLZTOチューブの内部容積の90%を占める。S又はSeは、LLZTOチューブとステンレス容器との間の総空間の45%を占める(図15および図16を参照)。
【0067】
1)D=1cmであると仮定すると、LLZTOチューブの総内部容積は、V=0.785L cmと計算される。
【0068】
2)LLZTOチューブにおけるリチウム金属の総体積及び質量は、VLi=0.71L cm、MLi=0.534*VLi=0.38L gと計算される。
【0069】
3)LLZTOチューブとバッテリーケースとの間の活性Sの総体積及び質量は、V=0.37L cm,M=2.36*V=0.87L gと計算される。
【0070】
4)LLZTOチューブの総体積及び質量は、Vtube=0.54L cm、Mtube=5*Vtube=2.71L gと計算される。
【0071】
5)LLZTOチューブとバッテリーケースとの間の総体積は、V=V/0.45=0.82L cmと計算される。
【0072】
理論上の体積測定及び質量エネルギー密度は、
V1=2800*(V+VLi)/(V+Vtube+V)=1403 Wh L-1
m1=2600*(M+MLi)/(M/0.9+Mtube+MLi)=800 Wh kg-1
である。
結果及び分析
【0073】
組み立てられたLi||LLZTO||S及びLi||LLZTO||Se電池は、両方の電極材料の融点を上回る温度である240℃及び300℃でテストされた(図6)。このバッテリー設計は、Li-S(Se)バッテリーの典型的な高いエネルギー密度を実現するために実現可能であった。これは、その構造的な単純さと、不活性コンポーネントの重量の著しい減少と、従来の液体電解質電池に関連付けられる問題の解消とに起因する。また、加熱及び絶縁が体積測定及び重量測定のエネルギー密度に著しい影響を及ぼさないことが観測された。
【0074】
カソード材料とアノード材料との両方の高い容量に基づいて、且つしっかりパックされたバッテリー構成を利用して(図2b)、ここでの固体電解質電池は、従来のLIBで実現可能なエネルギー密度よりはるかに高いエネルギー密度を提供する。従来のLIBのエネルギー密度は、それらの酸化物カソードとグラファイト炭素アノードのリチウム貯蔵容量、並びに、集電体/カソード/セパレータ/アノード/集電体の複数の層が積層され又は共に圧延されて重りの大きな画分(~50%)をもたらす既存の「サンドイッチ型」バッテリーアーキテクチャによって限定されている。溶融Li||LLZTO||S and Li||LLZTO||S電池の理論上の体積測定及び質量エネルギー密度が、アノード、カソード、固体電解質、及び伝導性添加剤(方法を参照)を含む全ての電池材料に基づいて計算され、その結果は図2c及び図2dにプロットされた。
【0075】
結果が示すように、LLZTOチューブの直径が増加するにつれて、両方のバッテリーの理論上のエネルギー密度は増加し、一般に、直径が6cmより大きい場合(図2d)、Li||LLZTO||S電池の場合は~1850Wh kg-1及び1780Wh L-1で、Li||LLZTO||Se電池の場合は920Wh kg-1及び1570Wh L-1で止まる。動作温度がリチウム、硫黄、及びセレンの融点を上回るので、アノード材料とカソード材料との両方は溶融され、固体‐固体界面ではなく液体‐固体界面が形成されるにつれて、迅速なイオン搬送及び低い電極‐電解質界面インピーダンスを容易にした。ガーネット型セラミック電解質は、溶融リチウムに対するその安定性から選択され、これはエージング実験を通じて検証された(図7)。加えて、動作温度が上昇すると、ガーネット型固体電解質のイオン伝導性が、迅速なイオン伝達と競合するレベルに増加した。240℃において、LLZTO電解質のイオン伝導性は、電気化学的インピーダンス分光法(EIS)分析によって135mS cm-1であって(図8)、これは室温におけるそれ(0.7mS cm-1)よりはるかに高かった。300℃において、イオン伝導性は190mS cm-1に増加した(図9)。特に、室温における一般的な有機液体電解質のイオン伝導性は、約10mS cm-1であり、例として、30℃の1:1のエチレンカーボネート‐エチルメチルカーボネート電解質における1モルのLiPF塩をとる。上昇した温度におけるLLZTOチューブの高いイオン伝導性は、電池の高い電力能力に堅固な基礎を提供する。
【0076】
加えて、ガーネット型電解質チューブは、溶融Liと溶融S/Seとの間の絶縁層としても機能し、これは、貫通及び漏洩を完全に防止することが可能であることを意味する。我々の測定(エタノールを用いるアルキメデス法)に基づいて、LLZTOチューブの相対密度は99%と高く、ガーネット型固体電解質が高密度であることを示した。チューブの走査電子顕微鏡(SEM)によって測定された表面及び断面のモホロジーを用いて、構造の密度を確認した(図9)。窒素不透過性テストも行われ(図10)、チューブの不透過性を検証した。そのような高い相対密度及び良好な不透過性は、LLZTOチューブが液体電極(シャトル効果なし、リチウムの樹枝状形成なし)間の任意の漏洩又はクロスオーバーを防止することを可能にして、バッテリーの安全性及び信頼性を確保し、自己放電速度が無視出来る程度であることを保証した。
【0077】
電気化学的特性を検証すべく、溶融Li-S電池は240℃で組み立てられ、テストされた。電圧プロファイル(図3a及び図3c)は、放電及び充電の平坦域がそれぞれ~2.00V及び~2.10Vであることを示す。図3bは、長いサイクリング性能を示す。0.5Cの速度での50サイクルの間、Li||LLZTO||S電池の性能は安定しており、約1450mAh g-1(Sの91%使用比)の重量測定容量を示す。安定したクーロン効率は、99.99%に達し得、それは、LLZTOチューブを有する電極の副反応又はLLZTOチューブを通じたクロスオーバーが無視出来る程度であることを示す。エネルギー効率は約89%であった。図3dは、240℃における0.5Cから3CのCレートサイクリング性能を示す。3Cにおいて、重量測定容量は約750mAh g-1(Sの47%使用比)に達した。この実験において、高い容量は、溶融Li-S電池において50サイクルにわたって維持され得る。さらなる改善が、S蒸気をより良く封止することによって実現され得る。
【0078】
図2bによると、Sカソードは、より高いリチウム貯蔵容量を有し、Seカソードで実現可能なエネルギー密度より高いエネルギー密度を供給する。しかしながら、Seカソードは、はるかに高い電子伝導性及び上昇した温度での低い蒸気圧力など、Sカソードに対するいくつかの利点を有する。硫黄と比較して、セレンは、はるかに低い蒸気圧力を有し(図11)、これは、大きな漏洩のリスクが著しく減少し、従って、封止要件及びコストが実質的に減少可能であることを意味する。明確に比較するために、揮発実験が行われた。開放型ガラス容器内の同一な量(1g)のセレン及び硫黄が、300℃のアルゴン雰囲気下でオーブンに伝達され、次に、質量変化が測定された。これらの結果(図12)は、セレンの場合は質量変化がほぼ発生しなかったが、硫黄の場合は、質量が6日間でほぼゼロに急激に減少したことを示す。Seの低い蒸気圧力は、結果として、溶融Li-Seバッテリーの封止要件を実質的に低下させる。
【0079】
また、電気化学的結果は、240℃におけるLi||LLZTO||Se電池の非常に優れた電気化学的性能を検証した。図4a及び図4cにおける電圧プロファイルは、放電及び充電平坦域はそれぞれ~2.04V及び~2.12Vであることを示しており、これは、1C(30mA cm-2に等しい)の速度における過電位が8mVに過ぎないことを意味する。図4bは、長いサイクリング性能を示す。1Cの速度での300サイクルの間、Li||LLZTO||Se電池の性能は非常に安定しており、それは、約650mAh g-1(Seの理論上容量の96%)の重量測定容量を示す。テスト全体にわたって、容量の減衰は非常に小さかった(サイクル毎に~0.004%)。平均クーロン効率は99.99%と高かった(有機電解質を使用する電池のそれ(約98%)よりはるかに高い)。これは、LLZTOチューブを有する電極の副反応とLLZTOチューブを通じたクロスオーバーとが無視出来る程度であることを示す。エネルギー効率は87%で安定した。これらの結果は、このバッテリー設計の実現可能性及び信頼性を確認し、さらに、LLZTOチューブの安定性を証明した。図4dは、240℃における0.5Cから3Cの速度の関数としてのサイクリング性能を示す。3Cにおいても、重量測定容量は、560mAh g-1(Seの83%使用比)まで達することが可能である。異なる速度における電圧プロファイルが図4eに示される。0.5Cから2Cで平坦化された主な放電は、~2.04Vでほぼ同じであり、速度が3Cに増加した場合に2.00Vにわずかに減少した。図4fに示されるように、電池は3Cの速度で500回サイクリングされた。電池の性能は非常に安定しており、約500mAh g-1(Seの74%使用比)の平均重量測定容量を示した。平均クーロン効率は99.99%で、エネルギー効率は80%であった。電池は、240℃において高い電力能力を有した。これは、電解質、電極、及びそれらの界面においてリチウムイオンの拡散が速いことに原因があり得る。溶融Seカソードにおける速いリチウムイオン拡散は、Li-Se相図(図7)に基づいて説明可能である。図面で見られるように、溶融リチウムは、221℃を上回る温度の溶融セレンにおいて、小さいが無視出来る程度ではない溶解度を有する。これは、カソードのLi:Seモル比が<2である場合に、Li飽和溶融Se(~0.3mol L-1のLi濃度を有する)がカソードに存在することを意味する。溶融Se中に十分な濃度のLi原子が存在する場合、それらはキャリアとして機能し、サイクリング中のカソードにおけるリチウムイオンの拡散を改善し得る。
【0080】
いくつかの具体的な適用において、放電又は充電プロセスは、電気自動車の高速充電モードなどのように非常に短時間に完了される必要がある。これは、熱分散が問題となるので、有機電解質ベースバッテリーにおいては困難である。現在のバッテリー設計においては、より一層高い速度における安定したサイクリングは、動作温度の調節を通じて容易に実現され得る(図5a)。動作温度が300℃に増加した場合、240℃のそれと比較して、リチウムイオン伝導性及びLLZTOチューブの電荷伝達運動が著しく増加し得る(図8)。300℃におけるLi-Se電池の電気化学的性能が調査された。図5bに示されるように、動作温度が240℃から300℃に増加した場合、重量測定容量は、4Cにおいて300mAh g-1から640mAh g-1に著しく増加し、はるかに優れた速度性能を示した。図5cは、高い速度(4C)において、電池が、400サイクルを伴うサイクリングテストで安定したままであったことを示す。平均重量測定容量は約640mAh g-1(Seの95%使用比)であった。平均クーロン効率は、99.99%と高いままで、エネルギー効率は約80であった。図5dは、300℃における0.5Cから10CのCレートサイクリング性能を示す。180mW cm-2に等しい10C(100mA cm-2)の高い速度においても、400mAh g-1(Seの60%使用比)と高い重量測定容量が取得された。図5eは、10Cにおけるサイクリング安定性を示す。1000サイクルの後であっても、重量測定容量は、依然として約300mAh g-1(Seの44%使用比)であった。バッテリーシステムの高い電力能力及び安定性は、速度と長いサイクリング性能とによって確認される。
【0081】
放電/充電中に、240℃から20℃にわたって冷凍/解凍テストが行われた。結果は図13において見られ得る。冷凍及び解凍の後、充電又は放電プロセスにかかわらず、電池は、開放又は短絡なしで正常に機能し、サイクル曲線における変動も観測されなかった。これは、LLZTOチューブの機械的又は電気化学的故障が発生しなかったことを意味する。電池は、冷凍/解凍サイクルに耐性を有していた。冷凍後に回復する電池の能力は実用的な適用において非常に重要である。また、自己放電テストが行われた。300℃の動作温度に10日間、完全充電と完全放電との間に置かれた状態で、Li||LLZTO||Se電池は依然として、それぞれ99.9%及び88%という高いクーロン効率及びエネルギー効率を示した(図14を参照)。その結果、自己放電が発生しなかったことが確認され、LLZTO固体電解質チューブがカソードからアノードをよく分離できることと、漏洩もシャトル効果も存在しないこととが示された。
【0082】
要約すると、固体ガーネット型LLZTOチューブ電解質を採用することによって、この例は、240℃~300℃において高いエネルギー密度及び優れた電気化学的性能を有する溶融Li-S及びLi-Seバッテリーを準備した。組み立てられた電池は、高いクーロン効率(99.99%、シャトル効果なし)、高い電力能力(最大180mW cm-2)、及び高いエネルギー効率(>80%)を実現できる。
【0083】
コストの観点から、現在のLLZTOチューブのエネルギーコストは約$30.1kWh-1であり、より大きい直径のLLZTOチューブを使用することで、そのエネルギーコストは、$10kWh-1より低くまで著しく減少し得、これは、LIBにおける液体有機電解質及びセパレータ(~$80kWh-1)のそれよりはるかに低い。Li-S及びLi-Se電池の理論上の完全な電極コストは、それぞれ$15kWh-1及び$41kWh-1と、非常に低く推定され、LLZTOチューブの低コストと共に、溶融Li-S及び溶融Li-Seバッテリーの総価格が$100 kWh-1より低くなる可能性を非常に高くする。全体的に、これらの固体電解質ベースの溶融Li-S及びLi-Seバッテリーの低コスト、高い体積並びに質量エネルギー密度、及び安定した電気化学的性能は、それらを、集中された大規模のエネルギー貯蔵アプリケーションに対して有望な候補にする。
【0084】
最終的に、本明細書に開示された実施形態を実装する代替的な方法が存在することに留意されたい。従って、本実施形態は、例示的なものとみなされ、限定的なものとはみなされない。さらに、特許請求の範囲は、本明細書に与えられている詳細に限定されるものではなく、それらの完全な範囲及びそれと同等の権利を有する。
図1
図2a
図2b
図2c
図2d
図3a
図3b
図3c
図3d
図4a
図4b
図4c
図4d
図4e
図4f
図5a
図5b
図5c
図5d
図5e
図6
図7
図8
図9a-d】
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【国際調査報告】