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特表2022-515456耐腐食船用クラッド鋼板及びその製造方法
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  • 特表-耐腐食船用クラッド鋼板及びその製造方法 図1
  • 特表-耐腐食船用クラッド鋼板及びその製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-18
(54)【発明の名称】耐腐食船用クラッド鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20220210BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20220210BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20220210BHJP
   B23K 20/04 20060101ALI20220210BHJP
【FI】
C22C38/00 302H
C22C38/00 301A
C22C38/58
C21D8/02 B
C21D8/02 D
B23K20/04 B
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021537173
(86)(22)【出願日】2019-11-14
(85)【翻訳文提出日】2021-06-24
(86)【国際出願番号】 CN2019118515
(87)【国際公開番号】W WO2020134675
(87)【国際公開日】2020-07-02
(31)【優先権主張番号】201811602617.5
(32)【優先日】2018-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514216801
【氏名又は名称】バオシャン アイアン アンド スティール カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】リャン、シャオジュン
(72)【発明者】
【氏名】ジャオ、スハイ
(72)【発明者】
【氏名】ディン、ジェンファ
(72)【発明者】
【氏名】ユアン、シャンチェン
(72)【発明者】
【氏名】シ、チン
(72)【発明者】
【氏名】ライ、ワンシャオ
(72)【発明者】
【氏名】チャン、スオチュアン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ジユ
(72)【発明者】
【氏名】ハオ、インミン
(72)【発明者】
【氏名】タオ、シャオヨン
【テーマコード(参考)】
4E167
4K032
【Fターム(参考)】
4E167AA02
4E167AA03
4E167BC05
4E167BC12
4E167CA01
4E167CB01
4E167CC01
4K032AA01
4K032AA04
4K032AA05
4K032AA11
4K032AA13
4K032AA14
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA20
4K032AA21
4K032AA22
4K032AA23
4K032AA24
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA35
4K032BA01
4K032CA02
4K032CC04
4K032CD02
4K032CD03
4K032CD06
4K032CF01
(57)【要約】
本発明は耐腐食船用クラッド鋼板及びその製造方法に関する。当該耐腐食船用クラッド鋼板は、一層が二相ステンレスであり、もう一層が炭素鋼である2層構造であり、二相ステンレスの成分の重量百分率は、C≦0.03%、Mn≦2.00%、Si≦1.00%、Cr:21.0~23.0%、Ni:4.5~6.5%、Mo:2.5~3.5%、N:0.08~0.20%、残部がFe及び不可避的不純物であり、炭素鋼の成分の重量百分率は、0.03≦C≦0.13%、Si≦0.50%、Mn:0.90~1.60%、P≦0.020%、S≦0.025%、Cu≦0.035%、Cr≦0.20%、Ni≦0.40%、Nb:0.02~0.05%、Ti≦0.02%、Mo≦0.08%、Al≧0.015%、残部がFe及び不可避的不純物である。本発明は、二重真空障壁スラブ組立法を用いて圧延クラッド鋼板の製造を行い、良好な構造強度及び優れた耐食性能を得ると共に、構造軽量化を実現することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐腐食船用クラッド鋼板において、一層が二相ステンレスであり、もう一層が船舶用炭素鋼である2層構造であり、
前記二相ステンレスの成分の重量百分率は、C≦0.03%、Mn≦2.00%、Si≦1.00%、Cr:21.0~23.0%、Ni:4.5~6.5%、Mo:2.5~3.5%、N:0.08~0.20%、P≦0.02%、S≦0.025%、残部がFe及び不可避的不純物であり、
前記船舶用炭素鋼の成分の重量百分率は、0.03≦C≦0.13%、Si≦0.50%、Mn:0.90~1.60%、P≦0.020%、S≦0.025%、Cu≦0.035%、Cr≦0.20%、Ni≦0.40%、Nb:0.02~0.05%、Ti≦0.02%、Mo≦0.08%、Al≧0.015%、残部がFe及び不可避的不純物であることを特徴とする耐腐食船用クラッド鋼板。
【請求項2】
前記クラッド鋼板の二相ステンレスと船舶用炭素鋼との間の界面のせん断強さが300MPa以上に達し、接着強度が320MPa以上に達し、クラッド鋼板の降伏強度が450MPa以上であり、引張強度が600MPaよりも高いであることを特徴とする請求項1に記載の耐腐食船用クラッド鋼板。
【請求項3】
前記クラッド鋼板中の船舶用炭素鋼は-40℃以下の温度で衝撃靭性が120J以上に達することができることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐腐食船用クラッド鋼板。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の耐腐食船用クラッド鋼板の製造方法において、
ステップ1)、クラッド鋼板の被覆層とベース層の厚さ比率の要求に基づいて組立スラブ素材の二相ステンレスと炭素鋼の厚さの選択を行い、炭素鋼には連鋳スラブが用いられ、要求される寸法まで加熱分塊され、前記二相ステンレスと複合する必要のある炭素鋼の表面を、金属表面が完全に露出するまでクリーニングし、二相ステンレス表面の酸化皮膜と汚染物を綺麗にクリーニングするステップと、
ステップ2)、クリーニングした後の炭素鋼面とクリーニングした後の二相ステンレス面を直接重ね合わせ、その後、真空封止溶接を行い、真空度を0.001Pa以下に制御し、第一の真空制御として、上下2つの独立した炭素鋼と二相ステンレスで形成された真空スラブを形成し、第一の真空障壁を形成し、その後、二相ステンレス面と二相ステンレス面を対向に積んで、厚さ方向で対称に積んで、二相ステンレスと二相ステンレス面との間に隔離するための分離剤を塗り、重ね合わせた後、四周を封止溶接してから、真空引き処理を行い、真空度を0.01Pa以下に制御し、第二の真空障壁を形成して、四層構造のクラッドスラブを形成するステップと、
ステップ3)、クラッドスラブを加熱し、加熱温度を1050~1190℃に制御するステップと、
ステップ4)、クラッドスラブを圧延し、圧延開始温度:1040~1170℃、圧延終了温度:850~1020℃であるステップと、
ステップ5)、圧延後に圧縮空気又は水冷方式で重ね合わせたクラッド鋼板を直接冷却し、冷却開始温度を830~1000℃、冷却速度を5℃/s~40℃/s、冷却終了温度を250~750℃に制御するステップと、
ステップ6)、プラズマを用いて圧延後の重ね合わせたクラッド鋼板の首尾とエッジ部を切断し、重ね合わせたクラッド鋼板を上下対称の2セットの完成品のクラッド鋼板に分離させるステップと、を含むことを特徴とする。
【請求項5】
焼戻し熱処理を用い、焼戻し温度が500~600℃で、焼戻した後、空冷処理を行うステップをさらに含むことを特徴とする請求項4に記載の耐腐食船用クラッド鋼板の製造方法。
【請求項6】
ステップ4)では、1パス当たりの圧下率を10~25%に制御することを特徴とする請求項4に記載の耐腐食船用クラッド鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐腐食クラッド鋼板生産技術分野に関し、特に、耐腐食船用クラッド鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
媒体環境が過酷な条件、例えば、塩素イオン含有量の高い海水、媒体成分が複雑な煙道ガスパイプ、温度・圧力を持つ石油天然ガスパイプライン、及び化学品輸送用容器などの下で、耐腐食に優れたステンレスを選んで用いる必要がある。二相ステンレスは、クロム、モリブデン、窒素の含有量が高く、その耐孔食係数が高く、且つ降伏強度が普通のオーステナイトステンレスの2~3倍であるため、構造強度及び耐食性が要求される材料に適用する。しかし、二相ステンレスは、Ni、Moなど合金の含有量が高く、その生産プロセスの難しさが大きいので、使用コストが高い。
【0003】
クラッド鋼板の設計構想によって、材料を設計することで、ベース層炭素鋼をメインとして構造強度及び靭性を保証し、異なる強度及び靭性のニーズの実現を可能とし、ステンレス被覆層で材料の耐食性能を実現することができる。したがって、クラッド鋼板は2種材料のメリットを同時に実現できる。かつ、クラッド鋼板の設計により、より大きいサイズのクラッド鋼板を提供することができ、鋼板をつなぎ合わせる溶接継目を減少し、継ぎ目溶接のプロセスにおいて一部の失効によるリスクが低減する。また、クラッド鋼板の設計を用いたため、もともと炭素鋼とステンレスとをつなぎ合わせる継ぎ目の溶接が炭素鋼とクラッド鋼板炭素鋼との継ぎ目の溶接に変わり、又は炭素鋼とクラッド鋼板との全体溶接になり、溶接対象は主に炭素鋼材料であり、コストを低減できるだけでなく、溶接品質の制御もさらに容易になる。生産効率は引き上げられる。
【0004】
中国特許CN107379671Aには2205二相ステンレスクラッド鋼板の爆発圧接後の再圧延の製造方法が開示されている。中国特許CN105772507Aには炭素鋼及び二相ステンレスクラッド鋼板の生産方法が開示されており、真空圧延方法が採用され、且つエッジがシールされた後、内部に単一のシール系を形成することが採用されている。中国特許CN108246825AにはTMCP船用二相ステンレスクラッド鋼板の製造方法が開示されている。そのうち、中国特許CN105772507Aに近い真空スラブ組立プロセスが採用されており、相違点は真空電子ビーム溶接スラブ組立プロセスが採用されることである。両者はともに単一の真空系を形成し、個別箇所の溶接継目に失効が発生すれば、クラッドスラブ全体の結合強度の低減を引き起こし、又は結合の失効を引き起こしてしまう。
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、耐腐食船用クラッド鋼板及びその製造方法を提供し、良好な構造強度及び優れた耐食性能を得ると共に、構造軽量化を実現することができ、しかも、該クラッド鋼板が圧延クラッド鋼板であり、原子間の冶金結合を実現できることによって、被覆層とベース層との間に良好な結合力を有する。
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明の技術案は次の通りである。
【0007】
本発明は、二重障壁真空スラブ組立法による圧延クラッド鋼板の製造を提出し、該方法は、特に、材料コストが高く、複合品質の要求が高いクラッド鋼板の製造に適用する。
【0008】
具体的には、本発明が提供した耐腐食船用クラッド鋼板であって、一層が二相ステンレスであり、もう一層が船用炭素鋼である2層構造であり、
【0009】
本発明の前記二相ステンレスの成分の重量百分率は、C≦0.03%、Mn≦2.00%、Si≦1.00%、Cr:21.0~23.0%、Ni:4.5~6.5%、Mo:2.5~3.5%、N:0.08~0.20%、P≦0.02%、S≦0.025%、残部がFe及び不可避的不純物であり、
【0010】
本発明の前記船舶用炭素鋼の成分の重量百分率は、0.03%≦C≦0.13%、Si≦0.50%、Mn:0.90~1.60%、P≦0.020%、S≦0.025%、Cu≦0.035%、Cr≦0.20%、Ni≦0.40%、Nb:0.02~0.05%、Ti≦0.02%、Mo≦0.08%、Al≧0.015%、残部がFe及び不可避的不純物である。
【0011】
本発明の前記クラッド鋼板の二相ステンレスと船舶用炭素鋼との間の界面のせん断強さが300MPa以上に達し、接着強度が320MPa以上に達し、クラッド鋼板の降伏強度が450MPa以上であり、引張強度が600MPaよりも高い。
【0012】
本発明の前記クラッド鋼板における船舶用炭素鋼は-40℃以下の温度で衝撃靭性が120J以上に達することができる。
【0013】
本発明の前記耐腐食船用クラッド鋼板の製造方法において、
【0014】
ステップ1)、クラッド鋼板の被覆層とベース層の厚さ比率の要求に基づいて組立スラブ素材の二相ステンレスと炭素鋼の厚さの選択を行い、炭素鋼には連鋳スラブが用いられ、要求される寸法まで加熱分塊され、二相ステンレスと複合する必要のある炭素鋼の表面を金属表面が完全に露出するまでクリーニングし、二相ステンレス表面の酸化皮膜と汚染物を綺麗にクリーニングするステップと、
【0015】
ステップ2)、クリーニングした後の炭素鋼面とクリーニングした後の二相ステンレス面を直接重ね合わせて、その後、真空封止溶接を行い、真空度を0.001Pa以下に制御し、第一の真空制御として、上下2つの独立した炭素鋼と二相ステンレスで形成された真空スラブを形成し、第一の真空障壁を形成し、その後、二相ステンレス面と二相ステンレス面を対向に積んで、厚さ方向で対称に積んで、二相ステンレスと二相ステンレス面との間に隔離するための分離剤を塗り、重ね合わせた後、四周を封止溶接してから、真空引き処理を行い、真空度を0.01Pa以下に制御し、第二の真空障壁を形成して、四層構造のクラッドスラブを形成するステップと、
【0016】
ステップ3)、クラッドスラブを加熱し、加熱温度を1050~1190℃に制御するステップと、
【0017】
ステップ4)、クラッドスラブを圧延し、圧延開始温度が1040~1170℃、圧延終了温度が850~1020℃であるステップと、
【0018】
ステップ5)、圧延後に圧縮空気又は水冷方式で重ね合わせたクラッド鋼板を直接冷却し、冷却開始温度を830~1000℃、冷却速度を5℃/s~40℃/s、冷却終了温度を250~750℃に制御するステップと、
【0019】
ステップ6)、プラズマを用いて圧延後の重ね合わせたクラッド鋼板の首尾とエッジ部を切断し、重ね合わせたクラッド鋼板を上下対称の2セットの完成品のクラッド鋼板に分離させるステップと、を含む。
【0020】
さらには、製造方法は、焼戻し熱処理を用い、焼戻し温度が500~600℃で、焼戻した後、空冷処理を行うステップをさらに含む。
【0021】
好ましくは、ステップ4)では、1パス当たりの圧下率を10~25%に制御する。
【0022】
本発明の前記耐腐食船用クラッド鋼板は4層対称スラブ組立圧延を用いる。上下の2層は船舶用炭素鋼であり、中間の2層は二相ステンレスである。
【0023】
前記耐腐食船用クラッド鋼板は強度が高く、耐食性に優れ、低温衝撃靭性が良いなどの多種のメリットを兼ね備えており、特に造船に適用するほか、その他の耐食性能の要求が高い環境にも適用できる。
【0024】
本発明が提出した耐腐食船用クラッド鋼板は1層の二相ステンレスと1層の炭素鋼を有し、前記二相ステンレスと炭素鋼との間が圧延複合により原子結合を実現する。
【0025】
本発明の前記クラッド鋼板の前記船舶用炭素鋼において、不可避的不純物は主にSとP元素であり、そのうち、P≦0.02%、S≦0.025%に制御することができる。
【0026】
本発明の前記耐腐食船用クラッド鋼板の炭素鋼における各化学元素の設計原理は次の通りである。
【0027】
C:Cはオーステナイト安定化元素であり、鋼において固溶強化の役割を果たし、鋼の強度を著しく向上させることができるが、C含有量が高すぎると、溶接性能及び靭性に不利であり、パーライト組織及び島状マルテンサイトなどの硬相組織も増加し易くて、鋼の耐食性能に不利な影響を与える。したがって、鋼板の強靭性のマッチング及び炭素鋼材料への溶接可能性の要求を考慮し、前記炭素鋼層中のC含有量を0.01~0.18%に制御した。
【0028】
Si:Siは脱酸元素であり、また、Siはフェライトに溶けることができ、固溶強化の役割を果たし、それは炭素、窒素、リンのみに次いで、その他の合金元素を超えており、したがって、Siは鋼の強度と硬度を著しく向上することができる。前記炭素鋼層におけるSi含有量を0.10~0.5%に制御した。
【0029】
Mn:Mnはパーライトの転換を遅らせ、臨界冷却速度を低減し、鋼の焼入れ性を高めることができるとともに、鋼に対して固溶強化の作用を有し、鋼での主な固溶強化の元素である。しかし、Mn含有量が高すぎると、偏析帯及びマルテンサイト組織が現れ易くて、鋼の靭性に悪影響を与えると共に、偏析帯の現れが鋼の耐食性能も低減させることになる。前記炭素鋼層におけるMn含有量を0.90~1.60%に制御した。
【0030】
Nb:Nbはマイクロアロイ鋼での重要な添加元素である。Nbと窒素、炭素が窒化ニオブ、炭窒化ニオブ及び炭化ニオブ等の析出物を形成し易い。鋼スラブを加熱する過程の中で、Nbは鋼でオーステナイト結晶粒子を微細化する役割を果たすことができる。Nbは非再結晶領域の温度を大幅に高めることができ、圧延の制御、結晶粒子の微細化、及び強度靭性の制御にとって明らかな作用を有する。又、Nbはナノオーダーの析出物を形成することができ、強度の向上に役立つ。しかし、Nbの添加は混晶を引き起こし易くなり、Nbが多すぎると、靭性に悪影響を与える。したがって、本発明ではNbの添加量を0.02~0.05%に制御した。
【0031】
Ti:Tiと鋼でのC、Nが炭化チタン、窒化チタン又は炭窒化チタンを形成し、鋼スラブを加熱圧延する段階で、オーステナイト結晶粒子を微細化する役割を果たすことによって、鋼の強度と靭性を高める。しかし、Tiが多すぎると、太い窒化チタンを多く形成することになり、鋼の強度と靭性に悪い。したがって、炭素鋼層におけるTi含有量の上限を0.02%に制御した。
【0032】
Ni:Niは鋼において基体相のフェライトとオーステナイトのみに溶け、炭化物を形成せず、オーステナイトの安定化作用が非常に強い。また、Ni元素は鋼の低温靭性を高めることもできるので、本発明では、炭素鋼層におけるNiの添加量を0.4%内に制御した。
【0033】
Cu:Cuは鋼で主に固溶状態及び単体相沈殿析出の状態で存在し、固溶したCuは固溶強化の役割を果たす。Cuのフェライトにおける固溶度は温度の低下につれて急速に小さくなるため、比較的低い温度で、過飽和固溶したCuが単体の形式で沈殿析出されて、析出強化の役割を果たす。また、炭素鋼層で少量のCuを加えると、クラッド鋼板の耐大気腐食の能力をさらに著しく高めることができる。
【0034】
Cr:Crはオーステナイト相領域を縮小する元素であり、中等強炭化物元素でもあり、フェライトに溶けることもできる。Crはオーステナイトの安定性を高めることができ、C曲線がを右方にシフトさせることになる。したがって、臨界冷却速度を下げ、鋼の焼入れ性を高めることができる。Crはオーステナイトの転換温度も下げ、形成された(Fe,Cr)C、(Fe,Cr)や(Fe,Cr)23などの多種の炭化物が比較的低い温度で析出されることになり、組織と炭化物を微細化させ、鋼の強度と硬度を著しく高めることができるが、Crは鋼の靭性に悪影響を与える。上記の要素をまとめて、本発明では、炭素鋼層におけるCr含有量を0.20%内に制御した。
【0035】
Mo:Moはオーステナイト相領域を縮小する元素である。鋼の焼入れ性と熱間強度を高めることができる。C元素と炭化物を形成可能である元素である。良い焼戻しの安定性を有する。Moはフェライトに固溶強化の作用を有するとともに、炭化物の安定性を高めることもできるので、鋼の強度を高めることができる。Moは良好な耐食性能をさらに有する。ステンレスにおいて、Mo元素の増加はステンレスの耐塩素イオン孔食能力を明らかに高めることができる。
【0036】
Al:Al元素は脱酸元素である。溶鋼中の酸素含有量を下げることができる。しかも、Alは鋼での窒素と結合した後、オーステナイト結晶粒子が成長することを阻止する役割を果たすことができる。
【0037】
さらには、本発明の前記二相ステンレスクラッド鋼板において、被覆層材料はASTM A240に記載のS31803成分範囲を用いる。
【0038】
本発明が提供した耐腐食船用クラッド鋼板は、以下の性能を有する。
【0039】
クラッド鋼板のステンレスと炭素鋼との間に良好な冶金結合を形成している。界面のせん断強さが300MPa以上に達し、接着強度が320MPa以上に達し、クラッド鋼板の降伏強度が450MPa以上であり、引張強度が600MPaよりも高い。
【0040】
炭素鋼成分の設計により、クラッド鋼板でのベース層炭素鋼の衝撃靭性は-40℃以下の温度でも依然として120J以上に保持することができる。
【0041】
本発明が提供した耐腐食船用クラッド鋼板の製造方法は、次の通りである。
【0042】
真空クラッドスラブの加熱温度を1050~1190℃に制御する。本発明の技術案では、加熱温度の選択は二相ステンレスと炭素鋼の物理特性を総合的に考慮しており、一方では、炭素鋼と二相ステンレスの存在し得る偏析合金元素がよりよい均一な分布を有することを保証する必要があり、他方では、二相ステンレスの高温段階の相の分布及び相の割合のバランス制御も保証する必要がある。
【0043】
クラッドスラブの圧延:圧延開始温度は1040~1170℃、圧延終了温度は850~1020℃とする。圧延工程において、材料の塑性変形を保証するように、クラッド材料界面の金属原子は十分な圧縮圧力を受け、原子が拡散によって相互浸透を形成することで、界面に原子間の結合及び十分な変形を達成させることができ、界面に数回再結晶させる。好ましくは、再結晶又は相変を行うための十分な変形エネルギー貯蔵を提供するように、1パス当たりの圧下率を10~25%に制御する。
【0044】
圧延後に圧縮空気又は水冷方式で重ね合わせたクラッド鋼板を直接冷却し、冷却開始温度を830~1000℃、冷却速度を5℃/s~40℃/s、冷却終了温度を250~750℃に制御する。
【0045】
プラズマを用いて圧延後の重ね合わせたクラッド鋼板の首尾とエッジ部を切断することで、重ね合わせたクラッド鋼板を上下対称の2セットの完成品クラッド鋼板に分離させる。
【0046】
その中、重ね合わせたクラッド鋼板の首尾とはクラッド鋼板の長さ方向の両端を指し、エッジ部とは重ね合わせたクラッド鋼板の幅方向の両辺部分を指す。
【0047】
強度ランクへの要求が高いクラッド鋼板について、ユーザーの納品状態への要求に応じて、低い冷却終了温度(≦300℃)のクラッドスラブを用いて、焼戻し熱処理を適切に合わせて用いることもでき、焼戻し温度は500~600℃を選んで用いることができ、ベース層材料の急速な冷却で生じた応力を釈放させ、より良い塑性と靭性を得るとともに、該温度での短時間の処理により、被覆層のステンレスの耐食性に影響をほとんど及ぼさないことを保証できる。焼戻し後、空冷処理を行う。
【0048】
本発明の前記耐腐食船用クラッド鋼板中の炭素鋼の級別はEH40であり、相応に、より低いDH、AHなどの級別及びEH36、EH32などの級別のクラッド鋼板性能も要求を満足することができる。本発明の技術案により圧延されたクラッド鋼板は良好な結合能力を有し、せん断強さが300MPa以上、接着強度が320MPa以上に達することができる。
【0049】
クラッド鋼板におけるステンレス被覆層の降伏強度は500MPa以上に達することができ、引張強度は700MPaよりも高い。相応な炭素鋼ベース層は、その降伏強度420MPa以上に達することができ、引張強度は530MPaよりも高い。クラッド鋼板の延び率は22%よりも高く、そのベース層衝撃は-40℃以下の温度でも依然として120J以上に保持することができる
【0050】
本発明の製造方法で提供されたクラッド鋼板中の二相ステンレス被覆層の相の割合を40~60%の間に制御することができる。図2に示すように、カールツァイス光学顕微鏡Axio Imager.M2mを用いて20倍の対物レンズで撮影した。図における界面がきれいに連続しており、二相ステンレス組織の相の割合が均衡であり、σ相が存在せず、良好な二相ステンレス被覆層と炭素鋼ベース層の割合が形成されていると共に、該クラッド鋼板中の二相ステンレス被覆層材料は優れた耐食性能を有する。ASTM A923C法によって測定されたステンレス被覆層の腐食率は0.00mddであり、ASTM A262E法によって行った粒界腐食試験の結果から腐食を発見しなかった。
【0051】
従来技術に比べて、本発明の有益な効果は次の通りである。
【0052】
従来の単一の真空系の方式に比べて、本発明の真空系は二重真空系を用い、即ち、炭素鋼と二相ステンレスを封止溶接し、第一の真空系を形成し、真空度を0.001Pa以下に制御し、上下2つの独立した炭素鋼と二相ステンレスで形成された真空スラブを形成し、第一の真空障壁を形成し、二相ステンレス面と二相ステンレス面を対向に積んで、厚さ方向で対称に積んで、二相ステンレスと二相ステンレス面との間に隔離するための分離剤を塗り、重ね合わせた後、四周を封止溶接してから、真空引き処理を行い、真空度を0.01Pa以下に制御し、四層構造のクラッドスラブ全体が第二の真空障壁を形成する。従来の技術に比べて、本発明は、以下の優れた点を有する。
【0053】
1.2つの真空障壁による圧延方法を用いることで、より高い真空度を効果的に向上させて維持することができ、保存中の真空破壊のリスクを効果的に低減することができる。試験の結果から見れば、二重真空系の方式で生産したクラッド鋼板は、その結合強度がより高くより安定しており、そのせん断強さの平均値が50MPaを高めることができる。
【0054】
2.従来の単一の真空系によるスラブ組立方法では、一旦スラブ組立又は圧延の工程において真空破壊が発生すると、クラッドスラブ全体が失効してしまう。本発明では2つの真空障壁による圧延方法を用いることで、たとえスラブ組立工程又は圧延工程において、その中のいずれかの真空障壁には真空破壊が発生したとしても、もう1つの真空障壁は相変わらず良好な真空系を保持可能であり、クラッドスラブを圧延する歩留まりを効果的に引き上げることができる。クラッドスラブを圧延する高い成功率は、合金含有量が高く、高価な耐腐食合金クラッド鋼板の生産にとって、生産性能の安定性を確保して、良好な経済的利益と利益を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1図1は本発明の実施例の耐腐食船用クラッド鋼板のクラッドスラブの構造断面図である。
図2図2は本発明の実施例の耐腐食船用クラッド鋼板の炭素鋼層と二相ステンレス層の結合箇所における金属組織の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下、図面と具体的な実施例を合わせて本発明の前記船用二相ステンレスクラッド鋼板及びその製造方法についてさらに解釈と説明をする。しかしながら、該解釈と説明は本発明の技術案に対して適切でない限定を構成しない。
図1を参照し、本発明の耐食船用クラッド鋼板のクラッドスラブは、四層構造であり、その中、中間の二層(被覆層)1、2が二相ステンレスであり、上下二層(ベース層)3、4が炭素鋼であり、5が分離剤であり、6が封止溶接の継ぎ目である。
【実施例
【0057】
実施例1
ベース層炭素鋼は、EH40を用い、その化学成分(wt%)が、C:0.09、Si:0.25、Mn:1.30、P:0.011、S:0.002、Cr:0.13、Ni:0.20、Nb:0.025、Ti:0.01であり、二相ステンレスの成分(wt%)が、C:0.02、Si:0.25、Mn:1.25、Cr:22.53、Ni:5.45、Mo:3.08、N:0.16である。
【0058】
図1に示されるような四層対称分離法によってスラブを組み立てると、上から下へと順に炭素鋼スラブ、二相ステンレス鋼スラブ、二相ステンレス鋼スラブ及び炭素鋼スラブが設けられ、その中、上層炭素鋼スラブとそれに対応する二相ステンレス鋼スラブを真空シールし、下層炭素鋼とそれに対応する二相ステンレス鋼スラブを真空シールすることで、2セットの互いに独立した第一の真空系を形成する。第二の真空系は図1に示すような1層目と6層目(即ち本実施例の炭素鋼スラブ及び炭素鋼スラブ)との間に真空シールを行う。共同で二重真空系のクラッドスラブを構成する。2セットの真空スラブの二相ステンレスと二相ステンレス面との間に分離剤が充填され、その後、真空引きしたクラッドスラブを加熱圧延することで、完成品のクラッド鋼板に切断する。
【0059】
クラッド圧延:加熱温度は1190℃、圧延開始温度は1170℃、圧延終了温度は850℃である。圧延後に水冷方式でクラッドスラブを直接冷却し、冷却開始温度が830℃、冷却速度が40℃/s、冷却終了温度が420℃であり、その後、空気下で自然に室温まで冷却した。圧延後、圧延分離切断した後のクラッド鋼板の厚さは(4+20)mmであり、即ち被覆層の二相ステンレスの厚さは4mm、ベース層の炭素鋼の厚さは20mmである。
【0060】
クラッド鋼板の力学性能は表1に示される。表1におけるRp0.2は全厚のクラッド鋼板の降伏強度、Rmはクラッド鋼板の引張強度値、Aはクラッド鋼板を引っ張る延び率であり、クラッド鋼板の被覆層とベース層材料の総合的な力学性能を反映している。炭素鋼には明らかな低温感受性が存在するため、一般的には、ベース層炭素鋼に対して低温衝撃試験を行う。表1に示すように、該クラッド鋼板の衝撃性能が良好である。せん断強さは被覆層とベース層材料との結合レベルを評価する力学指標である。3組のデータのせん断強さ値はいずれも300MPaよりも高い。3組のデータの接着強度値が320MPaよりも高い。
【0061】
【表1】
【0062】
クラッド鋼板の被覆層の耐食性能はASTM A923C法によって、被覆層材料を長さ50mm×幅25mmの試料に加工し、表面をクリーニングしてから、寸法を測定し、重さを計測した後、25℃の6%のFeCl溶液に入れて24時間浸して腐食試験を行い、取り出して洗浄して乾かした後に重さを計測し、その腐食による重量損失は腐食率が10mdd未満の腐食要求を満たす必要がある。そして、ASTM A262E法によって粒界腐食試験を行い、被覆層材料を取って2つの長さ80mm×幅20mmの試料に加工し、表面をサンドペーパーで磨き上げた後に675℃で1時間増感処理を行い、煮沸した硫酸-硫酸銅溶液に15時間浸し、取り出した後180度の曲げ試験を行った。その測定結果は表2に示される。
【0063】
【表2】
【0064】
実施例2
ベース層炭素鋼はEH36を用い、その化学成分(wt%)は、C:0.038、Si:0.24、Mn:0.91、P:0.014、S:0.002、Nb:0.025、Ti:0.01であり、二相ステンレスの成分(wt%)が、C:0.015、Si:0.25、Mn:1.25、Cr:21.03、Ni:4.52、Mo:2.55、N:0.08である。
【0065】
本実施例は上記成分系に基づいて実施例1と同一の四層対称分離方法にってスラブを組み立てる。
【0066】
クラッド圧延:加熱温度は1050℃、圧延開始温度は1040℃、圧延終了温度は850℃である。圧延後に水冷方式でクラッドスラブを直接冷却し、冷却開始温度が830℃、冷却速度が20℃/s、冷却終了温度が480℃であり、その後、空気下で自然に室温まで冷却した。圧延後、圧延分離切断した後のクラッド鋼板の厚さは(3+10)mmであり、即ち被覆層の二相ステンレスの厚さは3mm、ベース層の炭素鋼の厚さは10mmである。
【0067】
クラッド鋼板の力学性能は表3に示される。表3におけるRp0.2は全厚のクラッド鋼板の降伏強度、Rmはクラッド鋼板の引張強度値、Aはクラッド鋼板を引っ張る延び率であり、クラッド鋼板の被覆層とベース層材料の総合的な力学性能を反映している。炭素鋼には明らかな低温感受性が存在するため、一般的には、ベース層炭素鋼に対して低温衝撃試験を行う。表3に示すように、該クラッド鋼板の衝撃性能が良好である。せん断強さは被覆層とベース層材料との結合レベルを評価する力学指標である。3組のデータのせん断強さ値はいずれも300MPaよりも高い。3組のデータの接着強度値はいずれも320MPaよりも高い。
【0068】
【表3】
【0069】
クラッド鋼板の被覆層の耐食性能はASTM A923C法によって、被覆層材料を長さ50mm×幅25mmの試料に加工し、表面をクリーニングしてから、寸法を測定し、重さを計測した後、25℃の6%のFeCl溶液に入れて24時間浸して腐食試験を行い、取り出して洗浄して乾かした後に重さを計測し、その腐食による重量損失は腐食率が10mdd未満の腐食要求を満たす必要がある。そして、ASTM A262E法によって粒界腐食試験を行い、被覆層材料を取って2つの長さ80mm×幅20mmの試料に加工し、表面をサンドペーパーで磨き上げた後に675℃で1時間増感処理を行い、煮沸した硫酸-硫酸銅溶液に15時間浸し、取り出した後180度の曲げ試験を行った。その測定結果は表4に示される。
【0070】
【表4】
【0071】
実施例3
ベース層炭素鋼はEH36を用い、その化学成分(wt%)がC:0.13、Si:0.26、Mn:1.59、P:0.015、S:0.002、Nb:0.02、Ti:0.01であり、二相ステンレスの成分(wt%)が、C:0.03、Si:0.25、Mn:1.75、Cr:22.95、Ni:6.47、Mo:3.50、N:0.20である。
【0072】
本実施例は上記成分系に基づいて実施例1と同一の四層対称分離方法によってスラブを組み立てる。
【0073】
クラッド圧延:加熱温度は1160℃、圧延開始温度は1130℃、圧延終了温度は1000℃である。圧延後に水冷方式でクラッドスラブを直接冷却し、冷却開始温度は980℃、冷却速度は5℃/s、冷却終了温度は750℃であり、その後、空気下で自然に室温まで冷却した。圧延分離切断した後のクラッド鋼板の厚さは(2+8)mmであり、即ち被覆層の二相ステンレスの厚さは2mm、ベース層の炭素鋼の厚さは8mmである。
【0074】
クラッド鋼板の力学性能は表5に示される。表5におけるRp0.2は全厚のクラッド鋼板の降伏強度、Rmはクラッド鋼板の引張強度値であり、Aはクラッド鋼板試料の延び率であり、クラッド鋼板の被覆層とベース層材料の総合的な力学性能を反映している。炭素鋼には明らかな低温感受性が存在するため、一般的には、ベース層炭素鋼に対して低温衝撃試験を行う。表5に示すように、該クラッド鋼板の衝撃性能が良好である。せん断強さは被覆層とベース層材料との結合レベルを評価する力学指標である。3組のデータのせん断強さ値はいずれも300MPaよりも高い。3組のデータの接着強度値が320MPaよりも高い。
【0075】
【表5】
【0076】
クラッド鋼板の被覆層の耐食性能はASTM A923C法によって、被覆層材料を長さ50mm×幅25mmの試料に加工し、表面をクリーニングしてから、寸法を測定し、重さを計測した後、25℃の6%のFeCl溶液に入れて24時間浸して腐食試験を行い、取り出して洗浄して乾かした後に重さを計測し、その腐食による重量損失は腐食率が10mdd未満の腐食要求を満たす必要がある。そして、ASTM A262E法によって粒界腐食試験を行い、被覆層材料を取って2つの長さ80mm×幅20mmの試料に加工し、表面をサンドペーパーで磨き上げた後に675℃で1時間増感処理を行い、煮沸した硫酸-硫酸銅溶液に15時間浸し、取り出した後180度の曲げ試験を行った。その測定結果は表6に示される。
【0077】
【表6】
【0078】
実施例4
ベース層炭素鋼はEH40を用い、その化学成分(wt%)は、C:0.07、Si:0.25、Mn:1.50、P:0.013、S:0.002、Cr:0.10、Ni:0.10、Nb:0.03、Ti:0.01であり、二相ステンレスの成分(wt%)、C:0.02、Si:0.25、Mn:1.20、Cr:22.72、Ni:5.41、Mo:3.13、N:0.16である。
【0079】
本実施例は上記成分系に基づいて実施例1と同一の四層対称分離方法によってスラブを組み立てる。
【0080】
クラッド圧延:加熱温度は1180℃、圧延開始温度は1150℃、圧延終了温度は1020℃である。圧延後に水冷方式でクラッドスラブを直接冷却し、冷却開始温度は1000℃、冷却速度は40℃/s、冷却終了温度は250℃であり、その後、空気下で自然に室温まで冷却してから、焼戻し処理を行った。焼戻し温度が550℃、焼戻し時間が1時間で、その後、出炉して室温まで空冷した。圧延分離切断した後のクラッド鋼板の厚さは(3+12)mmであり、即ち被覆層の二相ステンレスの厚さは3mm、ベース層の炭素鋼の厚さは12mmである。
【0081】
クラッド鋼板の力学性能は表7に示される。表7におけるRp0.2は全厚のクラッド鋼板の降伏強度、Rmはクラッド鋼板の引張強度値、Aはクラッド鋼板試料の延び率であり、クラッド鋼板の被覆層とベース層材料の総合的な力学性能を反映している。炭素鋼には明らかな低温感受性が存在するため、一般的には、ベース層炭素鋼に対して低温衝撃試験を行う。表7に示されるように、該クラッド鋼板の衝撃性能が良好である。せん断強さは被覆層とベース層材料との結合レベルを評価する力学指標である。3組のデータのせん断強さ値はいずれも300MPaよりも高い。3組のデータの接着強度値はいずれも320MPaよりも高い。
【0082】
【表7】
【0083】
クラッド鋼板の被覆層の耐食性能はASTM A923C法によって、被覆層材料を長さ50mm×幅25mmの試料に加工し、表面をクリーニングした後、寸法を測定し、重さを計測した後、25℃の6%のFeCl溶液に入れて24時間浸して腐食試験を行い、取り出して洗浄して乾かした後に重さを計測し、その腐食による重量損失は腐食率が10mdd未満の腐食要求を満たす必要がある。そして、ASTM A262E法によって粒界腐食試験を行い、被覆層材料を取って2つの長さ80mm×幅20mmの試料に加工し、表面をサンドペーパーで磨き上げた後に675℃で1時間増感処理を行い、煮沸した硫酸-硫酸銅溶液に15時間浸し、取り出した後180度の曲げ試験を行った。その測定結果は表8に示される。
【0084】
【表8】
【比較例】
【0085】
実施例2と同一の炭素鋼とステンレス材料を用いて比較試験を行った。
【0086】
ベース層炭素鋼はEH36を用い、その化学成分(wt%)が、C:0.038、Si:0.24、Mn:0.91、P:0.014、S:0.002、Nb:0.025、Ti:0.01であり、二相ステンレスの成分(wt%)が、C:0.015、Si:0.25、Mn:1.25、Cr:21.03、Ni:4.52、Mo:2.55、N:0.08である。
【0087】
本比較例は上記成分系に基づいて普通の四層対称分離方法によってスラブを組み立て、即ち、単一の真空系を用いる。上から下へと順に炭素鋼スラブ、二相ステンレス鋼スラブ、二相ステンレス鋼スラブ及び炭素鋼スラブが設けられ、二相ステンレスと二相ステンレス面との間に分離剤が塗布されている。その後、四層のスラブを一度に1つの単独の真空系に封止溶接する。該方法のスラブ組立効率がより高いが、溶接の継ぎ目により1つの真空系しか保証できない。
【0088】
比較を行うために、本比較例の圧延工程と実施例2との一致を保持する。クラッド圧延:加熱温度は1050℃、圧延開始温度は1040℃、圧延終了温度は850℃である。圧延後に水冷方式でクラッドスラブを直接冷却し、冷却開始温度は830℃、冷却速度は20℃/s、冷却終了温度は480℃であり、その後、空気下で自然に室温まで冷却した。圧延して切断された後のクラッド鋼板の厚さは(3+10)mm、即ち被覆層二相ステンレスの厚さは3mm、ベース層炭素鋼の厚さは10mmである。
【0089】
クラッド鋼板の力学性能は表9に示される。表9におけるRp0.2は全厚のクラッド鋼板の降伏強度、Rmはクラッド鋼板の引張強度値、Aはクラッド鋼板試料の延び率であり、クラッド鋼板の被覆層とベース層材料の総合的な力学性能を反映している。炭素鋼には明らかな低温感受性が存在するため、一般的には、ベース層炭素鋼に対して低温衝撃試験を行う。表9に示すように、比較例のクラッド鋼板の衝撃性能が良好であり、実施例2に近い。比較すると、比較例のクラッド鋼板の結合性能を表すせん断強さと接着強度が実施例2よりも低く、且つせん断強さのばらつきが比較的大きい。実施例2と同一のプロセスを用いたため、比較例のステンレスが表10に示されるように、同様に良好な耐食性を有する。
【0090】
【表9】
【0091】
【表10】
【0092】
【表11】
【0093】
表11は通常のクラッドスラブ組立プロセスと本願のクラッドスラブ組立プロセスによる組立圧延状況の比較を示しており、二相ステンレス等の比較的高価な耐腐食合金クラッド鋼板に対して2つの真空障壁による圧延方法を用い、試験組立スラブ数は9セット、圧延成功数は9セット、その圧延成功率が100%に達した。組立圧延成功率から見ると、本発明が提供したクラッドスラブ組立プロセスを用いた場合は、通常のクラッド圧延スラブ組立プロセスの場合よりも、圧延成功率が著しく向上されたことが分かる。その中、通常のクラッドスラブ組立プロセスは単一真空系を1度に全体的に封止溶接するスラブ組立方式であり、該スラブ組立プロセスは真空制御プロセスに対する要求が高く、圧延失敗の状況が現れ易く、歩留まりが低い。本発明のスラブ組立方式は四層対称分離方法によるスラブ組立、即ち二重真空系であり、圧延の信頼性が大幅に向上される。表11中の本発明の実施例と比較例のスラブ組立圧延の状況を比較することで、本発明のスラブ組立方式で提供されたクラッド鋼板の結合性能がより高く、より安定している。
図1
図2
【国際調査報告】