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特表2022-515560組み換えヘモグロビン、その製造方法およびその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-18
(54)【発明の名称】組み換えヘモグロビン、その製造方法およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/805 20060101AFI20220210BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220210BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20220210BHJP
   C12M 1/32 20060101ALI20220210BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220210BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220210BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20220210BHJP
   A61K 38/42 20060101ALI20220210BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20220210BHJP
   C12P 21/02 20060101ALN20220210BHJP
   C12N 1/15 20060101ALN20220210BHJP
   C12N 1/19 20060101ALN20220210BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20220210BHJP
   C12N 15/60 20060101ALN20220210BHJP
   C12N 15/63 20060101ALN20220210BHJP
   C07K 1/18 20060101ALN20220210BHJP
   C07K 1/22 20060101ALN20220210BHJP
【FI】
C07K14/805 ZNA
C12N1/21
C12M1/00 C
C12M1/32
A61P35/00
A61P9/00
A61P25/16
A61K38/42
C12N15/12
C12P21/02 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N5/10
C12N15/60
C12N15/63 Z
C07K1/18
C07K1/22
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021544764
(86)(22)【出願日】2020-02-03
(85)【翻訳文提出日】2021-09-22
(86)【国際出願番号】 CN2020074173
(87)【国際公開番号】W WO2020156556
(87)【国際公開日】2020-08-06
(31)【優先権主張番号】62/799,829
(32)【優先日】2019-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521338662
【氏名又は名称】チアー グローバル リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CHEER GLOBAL LIMITED
【住所又は居所原語表記】18/F., Chevalier Commercial Centre, 8 Wang Hoi Road, Kowloon Bay, Hong Kong, CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クウォク スイ イー
(72)【発明者】
【氏名】ワイ ノーマン ファン マン
(72)【発明者】
【氏名】ユ シャン
(72)【発明者】
【氏名】ワイ テレンス シャウ イン
【テーマコード(参考)】
4B029
4B064
4B065
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4B029AA01
4B029AA09
4B029BB02
4B029BB04
4B029BB06
4B029BB07
4B029BB11
4B029DG08
4B029DG10
4B064AG01
4B064CA02
4B064CA05
4B064CA06
4B064CA08
4B064CA10
4B064CA19
4B064CE11
4B064CE12
4B064DA01
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA57X
4B065AA57Y
4B065AA72X
4B065AA72Y
4B065AA83X
4B065AA83Y
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA06
4C084AA07
4C084BA44
4C084CA26
4C084NA05
4C084ZA02
4C084ZB26
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA40
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、酸素運搬能の改善された組み換えヘモグロビンおよびその製造方法に関する。本開示は、卒中、出血性ショック、末梢動脈疾患(PAD)、急性高山病(AMS)、癌およびパーキンソン氏病(PD)等の酸素欠乏関連疾患または病態の治療に有用な、当該組み換えヘモグロビンを含む医薬組成物にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアルファ鎖と2つのベータ鎖とを含む組み換えヘモグロビンであって、前記ジアルファ鎖が配列番号1に対して少なくとも98.93%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含み、配列番号1の1位および143位に対応するアミノ酸が必ずメチオニンであり、配列番号1の29位および171位に対応するアミノ酸が必ずフェニルアラニンであり、配列番号1の58位および200位に対応するアミノ酸が必ずグルタミンである、組み換えヘモグロビン。
【請求項2】
前記ジアルファ鎖が配列番号1に対して少なくとも99.29%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含む、請求項1に記載の組み換えヘモグロビン。
【請求項3】
前記ジアルファ鎖が配列番号1に対して少なくとも99.64%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含む、請求項2に記載の組み換えヘモグロビン。
【請求項4】
前記ジアルファ鎖が配列番号1の配列を有するポリペプチド配列である、請求項3に記載の組み換えヘモグロビン。
【請求項5】
前記2つのベータ鎖がそれぞれ配列番号2に対して少なくとも97.94%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含み、1位に対応するアミノ酸が必ずメチオニンである、請求項1に記載の組み換えヘモグロビン。
【請求項6】
前記2つのベータ鎖がそれぞれ配列番号2の配列を有するポリペプチド配列である、請求項5に記載の組み換えヘモグロビン。
【請求項7】
前記2つのベータ鎖がそれぞれ配列番号3に対して少なくとも97.94%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含み、1位に対応するアミノ酸が必ずメチオニンであり、82位に対応するアミノ酸が必ずアスパラギン酸であり、108位に対応するアミノ酸が必ずリシンである、請求項1に記載の組み換えヘモグロビン。
【請求項8】
前記2つのベータ鎖がそれぞれ配列番号3に対して少なくとも98.63%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含む、請求項7に記載の組み換えヘモグロビン。
【請求項9】
前記2つのベータ鎖がそれぞれ配列番号3に対して少なくとも99.31%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含む、請求項8に記載の組み換えヘモグロビン。
【請求項10】
前記2つのベータ鎖がそれぞれ配列番号3のポリペプチド配列を含む、請求項9に記載の組み換えヘモグロビン。
【請求項11】
請求項1に記載の組み換えヘモグロビンと、少なくとも1種の薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
【請求項12】
治療有効量の請求項11に記載の医薬組成物を対象に投与することを含む、治療を必要とする対象の酸素欠乏関連疾患を治療するための方法。
【請求項13】
前記酸素欠乏関連疾患が、癌、卒中、出血性ショック、急性高山病(AMS)、末梢動脈疾患(PAD)またはパーキンソン氏病(PD)を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1に記載の組み換えヘモグロビンの製造方法であって、
(a)ジアルファ鎖をコードするポリヌクレオチドおよびベータ鎖をコードするポリヌクレオチドを含む宿主細胞を提供する工程と、
(b)組み換えヘモグロビンを発現するように、ジアルファ鎖をコードするポリヌクレオチドおよびベータ鎖をコードするポリヌクレオチドを含有する前記宿主細胞を誘導し、請求項1に記載の組み換えヘモグロビンを製造する工程と
を含む、方法。
【請求項15】
前記ジアルファ鎖をコードするポリヌクレオチドおよび前記ベータ鎖をコードするポリヌクレオチドが、それぞれ配列番号4のポリヌクレオチドおよび配列番号5のポリヌクレオチドを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ジアルファ鎖をコードするポリヌクレオチドおよび前記ベータ鎖をコードするポリヌクレオチドが、それぞれ配列番号4のポリヌクレオチドおよび配列番号6のポリヌクレオチドを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記宿主細胞が、ラムダDE3を有するJM109大腸菌株、ラムダDE3を有していないBL21-AI大腸菌株、およびラムダDE3を有していないSHuffle大腸菌株からなる群より選ばれる、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記宿主細胞が、HemHをコードするポリヌクレオチドをさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記宿主細胞が、ヘムトランスポーターをコードするポリヌクレオチドをさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
(a)組み換えヘモグロビンを発現するように前記宿主細胞を誘導する工程の後に、前記宿主細胞を破砕して、組み換えヘモグロビンを含む溶液を得る工程、と
(b)前記組み換えヘモグロビンを精製して、精製組み換えヘモグロビンを得る工程と
をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
請求項1に記載の組み換えヘモグロビンを製造するためのシステムであって、大腸菌または非大腸菌の宿主細胞を含み、
前記宿主細胞が、HemHをコードするポリヌクレオチド、ヘムトランスポーターをコードするポリヌクレオチド、ジアルファ鎖をコードするポリヌクレオチド、およびベータ鎖をコードするポリヌクレオチドを含み、前記ジアルファ鎖は、配列番号1に対して少なくとも98.93%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含み、配列番号1の1位および143位に対応するアミノ酸は必ずメチオニンであり、配列番号1の29位および171位に対応するアミノ酸は必ずフェニルアラニンであり、且つ配列番号1の58位および200位に対応するアミノ酸は必ずグルタミンであり、前記ベータ鎖は、配列番号2に対して少なくとも99.31%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含み、その1位に対応するアミノ酸は必ずメチオニンである、あるいは配列番号3に対して少なくとも97.94%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含み、その1位に対応するアミノ酸は必ずメチオニンであり、82位に対応するアミノ酸は必ずアスパラギン酸であり、108位に対応するアミノ酸は必ずリシンである、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対する相互参照
本願は、2019年2月1日に出願した米国特許仮出願第62/799,829号の優先権を主張し、その内容が完全に、全ての目的において、本参照をもって本願に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本開示は、全般的に組み換えヘモグロビンおよびその製造、精製、および使用に関する。本開示はさらに組み換えヘモグロビンを含む医薬組成物および酸素欠乏関連疾患、例えば卒中、出血性ショック、末梢動脈疾患(PAD)および急性高山病(AMS)、並びに他の疾患または病態、例えば癌およびパーキンソン氏病(PD)の治療のための組み換えヘモグロビンに基づく医薬組成物を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ヘモグロビン(Hb)とは、赤血球(赤血球細胞)に豊富に存在する酸素運搬タンパク質であって、循環器系にわたり、血流を介して体組織に酸素を送達するものである。この酸素運搬タンパク質は4つの関連ポリペプチド鎖(2つのアルファ鎖と2つのベータ鎖)を含み、鉄原子が肺内の酸素に一時的に結合し、体内全体で離脱させる、ヘムとして知られる基を有する。ヘモグロビンは一酸化炭素(CO)にも結合して、体に酸素を送達することができるHbの総量を減らし得る(一酸化炭素)ヘモグロビン(HbCO)形成することもできる。
【0004】
低酸素症は癌に広く見られ、薬剤の細胞毒性活性に必須な酸素を腫瘍細胞から奪うことで、電離放射線および化学療法に対して耐性をもたらすことができる。低酸素症は、さらにプロテオームおよびゲノムの変化を含む1以上の間接的な機構を通じて放射線療法および化学療法の腫瘍感受性を低下させ得る。
【0005】
低酸素組織への酸素配分のための血液の代替として赤血球から抽出したヘモグロビンが使用されてきた。しかし、赤血球から精製した未修飾、無細胞Hbの使用は、いくつかの制限、例えば、コンタミネーション、供給不足、補因子2,3-ジホスホグリセリン酸(2,3-DPG)の消失による酸素親和性の増加、およびHb四量体の、腎臓ろ過によって取り除かれ、長期にわたる腎臓損傷を生じ得るα,β二量体への解離に直面する。
【0006】
改善された組み換えヘモグロビンの開発は、上記問題の一部または全てを解決することができる。しかし、現存する組み換えヘモグロビンは、低酸素運搬能という問題を抱えることがあり、さらに現存の組み換えヘモグロビンの製造方法は煩雑で、ヘモグロビンの低い溶解収率と不純物の高含有量に苦しむことがある。例えば、従来の組み換えヘモグロビン製造において一般的な副産物であるプロトポルフィリン-IX(PPIX)は、組み換えヘモグロビンの総酸素運搬機能を減じ得る。
【0007】
組み換えヘモグロビンを製造するための現存する方法は、通常、PPIX等の不純物を除去するための熱処理工程を含む。しかし、製造方法への熱処理工程の導入は、費用を増加させ、タンパク質製品の収率を低下させ得る。さらに、熱処理およびその下流の工程における組み換えヘモグロビンの安定性を維持するためには、組み換えヘモグロビンにはCOが必要である。しかし、最終製品においてCOは望ましくないため、現存の製造方法にはCO除去工程が通常は必要であり、これも現存の方法を費用と手間の掛かるものにしている。
【0008】
よって、高い酸素運搬能を有する、改善された組み換えヘモグロビンに対する需要と共に、高収率と高純度を達成するより簡便な組み換えヘモグロビンの製造方法に対する需要も存在する。
【発明の概要】
【0009】
本開示は、全般的に組み換えヘモグロビン、ならびにその使用方法と製造方法に関する。本明細書に記載の組み換えヘモグロビンは、改善された酸素運搬能を有し得る。開示した組み換えヘモグロビンは、癌、卒中、出血性ショック、急性高山病(AMS)、末梢動脈疾患(PAD)およびパーキンソン氏病(PD)等の疾患の治療に有用である。
【0010】
本開示は、全般的に本願に記載した組み換えヘモグロビンの製造方法にも関する。本明細書に記載の方法で製造した組み換えヘモグロビンは、低下した量のPPIXを有し、HbCOが少量またはなしであり、至適なヘム/タンパク質比と四量体/二量体分布とを有することができる。
【0011】
本開示の第1の態様において、ジアルファ鎖と2つのベータ鎖とを含む組み換えヘモグロビンであって、前記ジアルファ鎖は配列番号1に対して少なくとも98.93%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含み、配列番号1の1位および143位に対応するアミノ酸は必ずメチオニンであり、配列番号1の29位および171位に対応するアミノ酸は必ずフェニルアラニンであり、そして配列番号1の58位および200位に対応するアミノ酸は必ずグルタミンである、組み換えヘモグロビンを提供する。
【0012】
本開示の第1の態様の第1の実施形態においては、ジアルファ鎖は配列番号1に対して少なくとも99.29%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含む。
【0013】
本開示の第1の態様の第2の実施形態においては、ジアルファ鎖は配列番号1に対して少なくとも99.64%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含む。
【0014】
本開示の第1の態様の第3の実施形態においては、ジアルファ鎖は配列番号1の配列を有するポリペプチド配列である。
【0015】
本開示の第1の態様の第4の実施形態においては、2つのベータ鎖はそれぞれ配列番号2に対して少なくとも97.94%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含み、1位に対応するアミノ酸は必ずメチオニンである。
【0016】
本開示の第1の態様の第5の実施形態においては、2つのベータ鎖はそれぞれ配列番号2の配列を有するポリペプチド配列である。
【0017】
本開示の第1の態様の第6の実施形態においては、2つのベータ鎖はそれぞれ配列番号3に対して少なくとも97.94%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含み、1位に対応するアミノ酸は必ずメチオニンであり、82位に対応するアミノ酸は必ずアスパラギン酸であり、そして108位に対応するアミノ酸は必ずリシンである。
【0018】
本開示の第1の態様の第7の実施形態いおいては、2つのベータ鎖はそれぞれ配列番号3に対して少なくとも98.63%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含む。
【0019】
本開示の第1の態様の第8の実施形態においては、2つのベータ鎖はそれぞれ配列番号3に対して少なくとも99.31%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含む。
【0020】
本開示の第1の態様の第9の実施形態においては、2つのベータ鎖はそれぞれ配列番号3のポリペプチド配列を有する。
【0021】
本開示の第2の態様において、上記の組み換えヘモグロビンと、少なくとも1種の薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物を提供する。
【0022】
本開示の第3の態様において、治療有効量の医薬組成物を対象に投与する工程を含む、治療を必要とする対象の酸素欠乏関連疾患治療するための方法を提供する。
【0023】
本開示の第3の態様の第1の実施形態においては、酸素欠乏関連疾患は癌、卒中、出血性ショック、急性高山病(AMS)、末梢動脈疾患(PAD)またはパーキンソン氏病(PD)を含む。
【0024】
本開示の第4の態様において、下記工程を含む組み換えヘモグロビンの製造方法を提供する。
(a)ジアルファ鎖をコードするポリヌクレオチドおよびベータ鎖をコードするポリヌクレオチドを含む宿主細胞を提供する工程と、
(b)組み換えヘモグロビンを発現するように、ジアルファ鎖をコードするポリヌクレオチドおよびベータ鎖をコードするポリヌクレオチドを含有する宿主細胞を誘導し、組み換えヘモグロビンを製造する工程。
【0025】
本開示の第4の態様の第1の実施形態においては、ジアルファ鎖をコードするポリヌクレオチドおよびベータ鎖をコードするポリヌクレオチドは、それぞれ配列番号4のポリヌクレオチドおよび配列番号5のポリヌクレオチドを含む。
【0026】
本開示の第4の態様の第2の実施形態においては、ジアルファ鎖をコードするポリヌクレオチドおよびベータ鎖をコードするポリヌクレオチドは、それぞれ配列番号4のポリヌクレオチドおよび配列番号6のポリヌクレオチドを含む。
【0027】
本開示の第4の態様の第3の実施形態においては、宿主細胞は、ラムダDE3を有するJM109大腸菌株、ラムダDE3を有していないBL21-AI大腸菌株、およびラムダDE3を有していないSHuffle大腸菌株からなる群より選ばれる。
【0028】
本開示の第4の態様の第4の実施形態においては、宿主細胞はHemHをコードするポリヌクレオチドをさらに含む。
【0029】
本開示の第4の態様の第5の実施形態においては、宿主細胞はヘムトランスポーターをコードするポリヌクレオチドをさらに含む。
【0030】
本開示の第4の態様の第6の実施形態においては、方法は下記工程をさらに含む。
(a)組み換えヘモグロビンを発現するように前記宿主細胞を誘導する工程の後に、前記宿主細胞を破砕して、組み換えヘモグロビンを含む溶液を得る工程、と
(b)前記組み換えヘモグロビンを精製して、精製組み換えヘモグロビンを得る工程。
【0031】
本開示の第5の態様において、本開示の第1の態様の組み換えヘモグロビンを製造するためのシステムであって、大腸菌または非大腸菌の宿主細胞を含み、宿主細胞は、HemHをコードするポリヌクレオチド、ヘムトランスポーターをコードするポリヌクレオチド、ジアルファ鎖をコードするポリヌクレオチド、およびベータ鎖をコードするポリヌクレオチドを含み、前記ジアルファ鎖は、配列番号1に対して少なくとも98.93%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含み、配列番号1の1位および143位に対応するアミノ酸は必ずメチオニンであり、配列番号1の29位および171位に対応するアミノ酸は必ずフェニルアラニンであり、且つ配列番号1の58位および200位に対応するアミノ酸は必ずグルタミンであり、前記ベータ鎖は、配列番号2に対して少なくとも99.31%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含み、その1位に対応するアミノ酸は必ずメチオニンである、あるいは配列番号3に対して少なくとも97.94%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含み、その1位に対応するアミノ酸は必ずメチオニンであり、82位に対応するアミノ酸は必ずアスパラギン酸であり、108位に対応するアミノ酸は必ずリシンである、システムを提供する。
【0032】
当業者は、本明細書の開示内容は、本明細書に具体的に記載した以外の様々な変化や修飾を受けることが可能であることを認識することができる。
【0033】
本開示の他の態様およびその利点は、以下の記載の検討により当業者に明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本明細書に記載の一定の態様における、ジアルファ鎖の配列番号1および配列番号11並びにベータ鎖の配列番号2、配列番号3および配列番号12のポリペプチド配列を示す。
図2A】プラスミドマップを示し、pACYCDuet-CTはChuA遺伝子とTonBを発現させるための遺伝子とを有するベクターであり、pET-HemHm1-TBはHemH変異体およびTBを発現するための配列を有する一般的なプラスミドであって、TBはTBN、TBM1またはTBM9を発現するための配列であり得る。
図2B図2Aのプラスミドによる種々の細胞株におけるTBN、TBM1およびTBM9発現のSDS-PAGE解析を示し、ここで#83はラムダDE3を有していないSHuffle大腸菌株で発現されたTBM1の結果であり、#84はラムダDE3を有していないSHuffle大腸菌株で発現されたTBM9の結果であり、#85はラムダDE3を有していないJM109 T7CT CRISPR/Cas9大腸菌株で発現されたTBM1の結果であり、#86はラムダDE3を有していないJM109 T7CT CRISPR/Cas9大腸菌株で発現されたTBM9の結果であり、#43はラムダDE3を有するJM109大腸菌株で発現されたTBNの結果である。
図2C図2Aのプラスミドによる種々の細胞株におけるTBN、TBM1およびTBM9発現のSDS-PAGE解析を示し、ここで#83はラムダDE3を有していないSHuffle大腸菌株で発現されたTBM1の結果であり、#84はラムダDE3を有していないSHuffle大腸菌株で発現されたTBM9の結果であり、#85はラムダDE3を有していないJM109 T7CT CRISPR/Cas9大腸菌株で発現されたTBM1の結果であり、#86はラムダDE3を有していないJM109 T7CT CRISPR/Cas9大腸菌株で発現されたTBM9の結果であり、#43はラムダDE3を有するJM109大腸菌株で発現されたTBNの結果である。
図3A】マウスモデルにおける肝臓酸素レベル測定の模式図を示す。
図3B】TBN、TBM1、TBM9、YQ(ウシのフマリル架橋Hb)および対照としてのRA-バッファーの投与後180分にわたるマウスモデルの肝臓酸素レベルの変化を示す。
図4A】TBNのヌクレオチド配列を含む以前のプラスミドを用いて発現された精製タンパク質のヘムレベルおよびPPIXレベルを示す超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)のクロマトグラムを示す(図4A)。
図4B】HemH変異体、ヘムトランスポーター系(ChuAとTonB)およびTBNのヌクレオチド配列を含む新規な改善されたプラスミドを用いて発現された精製タンパク質のヘムレベルおよびPPIXレベルを示すUPLCのクロマトグラムを示す(図4B)。
図5A】本明細書に記載の一定の態様に従った、種々の組み換えヒトヘモグロビン(TBN、TBM1およびTBM9)の酸素平衡曲線を示す。
図5B】本明細書に記載の一定の態様に従った、種々の組み換えヒトヘモグロビン(TBN、TBM1およびTBM9)の2,3-DPG存在下および不存在下におけるp50値の表を示す。
図5C】本明細書に記載の一定の態様に従った、DPG存在下および不存在下におけるTBM1の酸素平衡曲線を示す。
図6】本明細書に記載の一定の態様に従った、精製のフローチャートを示す。
図7】本明細書に記載の一定の態様に従った、HemH変異体ポリヌクレオチドである配列番号8(上部)、およびHemH変異体タンパク質である配列番号13(下部)を示す。
図8】本明細書に記載の一定の態様に従った、ChuAポリヌクレオチドである配列番号9(上部)、およびChuAタンパク質である配列番号14(下部)を示す。
図9】本明細書に記載の一定の態様に従った、TonBポリヌクレオチドである配列番号10(上部)、およびTonBタンパク質である配列番号15(下部)を示す。
図10】TBN、TBM1およびTBM9のアジ化物誘導酸化速度(kaz)値のグラフ(上部)および表(下部)を示す。
図11】In vitroで4T1乳癌細胞増殖を阻害する組み換えヒトヘモグロビンTBM1およびTBM9のMTTアッセイの結果を示す。
図12A】In vivoで4T1乳癌細胞の成長を抑制する組み換えヒトヘモグロビン(TBM1)を示す。
図12B】In vivoの4T1乳癌細胞の成長を抑制する組み換えヒトヘモグロビン(TBM1)を表す棒グラフを示す。
図13】生理食塩水および組み換えヒトヘモグロビン(TBM1)を用いた、マウスPADモデル結果の結果を示す。
図14】Balb/cマウスおよびICRマウスを組み換えヒトヘモグロビン(TBM1)で処理した後の体重の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本開示は、高い酸素運搬能を有する組み換えヘモグロビンに関する。本明細書に記載の組み換えヘモグロビンはジアルファ鎖と2つのベータ鎖を有する。
【0036】
用語の定義
本願で使用する用語の定義は、バイオテクノロジーの分野においてそれぞれの用語について認識されている最新の定義を導入することを意図するものである。適切な場合には、例示が提供される。個別にまたは大きな群の一部として特定の場合に限定されない限り、本明細書を通じて使用される用語に定義は適応される。
【0037】
本明細書で使用する「組み換えヘモグロビン」という用語は、分子サイズが少なくとも約65kDaであり、動物またはヒトの原料から単離または精製されるのではなく、任意の標準的な分子生物学的技術によって合成されたヘモグロビン分子および/またはそのバリアントを表す。
【0038】
本明細書で使用する「タンパク質」または「ポリペプチド」という用語は、2以上のアミノ酸モノマーおよび/またはその類似体で構成された有機ポリマーを表す。「ポリペプチド」という用語には、全長タンパク質およびペプチドのみならず、その類似体および断片も含む、任意の長さのアミノ酸ポリマーが含まれる。3以上のアミノ酸のポリペプチドはオリゴペプチドとも呼ばれる。本明細書で使用するように、「アミノ酸」、「アミノ酸モノマー」または「アミノ酸残基」という用語は、20種の天然アミノ酸の内のいずれかを意味し、非天然の側鎖を有する合成アミノ酸を含み、D型およびL型の両方の光学異性体を含む。代替的に使用される「アミノ酸類似体」および「類似体」という用語は、1以上の個別の原子が、異なる原子、アイソトープまたは異なる官能基で置換されているが、その点以外はその天然のアミノ酸類似体と同一であり、その天然のアミノ酸類似体と同様の化学的および/または物理的性質を有するアミノ酸を意味する。
【0039】
本明細書で使用するように、「バリアント」という用語は、参照ポリペプチド配列またはポリヌクレオチド配列とは異なるポリペプチド配列またはポリヌクレオチド配列であるが、その必須の性質を保持するものを意味する。通常、バリアントは、全体的に非常に類似しており、多くの領域において、参照ポリペプチド配列またはポリヌクレオチド配列と同一である。
【0040】
バリアントは、例えば、少なくとも1つの保存性アミノ酸置換と共に、親ポリペプチド配列のアミノ酸配列を含むことができる。代わりにまたは付加的に、バリアントは、少なくとも1つの非保存性アミノ酸置換と共に、親ポリペプチド配列のアミノ酸配列を含むことができる。この場合、非保存性アミノ酸置換が機能性バリアントの生物学的活性を干渉または阻害しないことが好ましい。非保存性アミノ酸置換は、バリアントの生物学的活性が親ポリペプチドと比べて増加されるように、バリアントの生物学的活性を増強し得る。
【0041】
本明細書で使用する「アミノ酸修飾」という用語は、アミノ酸の挿入、置換または欠損等を表す。本明細書に記載のポリペプチドのアミノ酸置換は、保存性アミノ酸置換であり得る。保存性アミノ酸置換は当業界で知られ、ある物理的および/または化学的性質を有する1つのアミノ酸を、同一または類似の化学的または物理的性質を有する他のアミノ酸と交換するアミノ酸置換を含む。例えば、保存性アミノ酸置換は、酸性/負電荷極性アミノ酸の他の酸性/負電荷極性アミノ酸(例:AspまたはGlu)への置換、非極性側鎖アミノ酸の他の非極性側鎖アミノ酸(例:Ala、Gly、Val、Ile、Leu、Met、Phe、Pro、Trp、Cys、Val等)への置換、塩基性/正電荷極性アミノ酸の他の塩基性/正電荷極性アミノ酸(例:Lys、His、Arg等)への置換、極性側鎖を有する非電荷アミノ酸の他の極性側鎖を有する非電荷アミノ酸(例:Asn、Gln、Ser、Thr、Tyr等)への置換、ベータ分岐側鎖アミノ酸の他のベータ分岐側鎖アミノ酸(例:Ile、ThrとVal)への置換、芳香族側鎖アミノ酸の他の芳香族側鎖アミノ酸(例:His、Phe、TrpとTyr)への置換等となり得る。
【0042】
本明細書で使用する「ヌクレオチド修飾」という用語は、ヌクレオチドの挿入、置換、欠失等を意味する。
【0043】
「パーセント配列相同性」という用語は、ポリペプチドまたはポリヌクレオチド配列に参照して使用された場合、ポリヌクレオチド間およびポリペプチド間の比較を意味し、比較ウインドウにわたり最適にアライメントされた2つの配列の比較によって決定され、2つの配列の最適なアライメントのためには、ポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列の比較ウインドウ内の部分は、(挿入や欠失を含んでいない)参照配列と比べて挿入または欠失(即ち、ギャップ)を含んでもよい。パーセンテージは、両方の配列において同じ核酸塩基またはアミノ酸残基が出現する位置の数を決定して一致する位置の数を得、一致する位置の数を、比較のためのウインドウ内のより長い配列の位置の総数で除し、そして配列相同性のパーセンテージを得るために結果を100で乗じることで計算する。相同性は、当業界で知られる種々の配列比較アルゴリズムおよびプログラムの内の任意のものを用いて評価する。このようなアルゴリズムおよびプログラムにはTBLASTN、BLASTP、FASTA、TFASTA、およびCLUSTALW(Pearson and Lipman, 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85(8):2444-2448、Altschul et al., 1990, J. Mol. Biol. 215(3):403-410、Thompson et al., 1994, Nucleic Acids Res. 22(2):4673-4680、Higgins et al. 1996, Methods Enzymol. 266:383-402、Altschul et al., 1990, J. Mol. Biol. 215(3):403-410、Altschul et al., 1993, Nature Genetics 3:266-272)が含まれるが、これらに限定されるものではない。いくつかの態様において、タンパク質および核酸の配列相同性は、当業界でよく知られるBasic Local Alignment Search Tool(「BLAST」)を用いて評価する(例:Karlin and Altschul, 1990, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2267-2268、Altschul et al., 1990, J. Mol. Biol. 215:403-410、Altschul et al., 1993, Nature Genetics 3:266-272、Altschul et al., 1997, Nuc. Acids Res. 25:3389-3402を参照)。
【0044】
本明細書で使用するように、「治療する(treat)」、「治療する(treating)」、「治療(treatment)」等の用語は、障害および/または関連症状を減少または改善することを意味する。障害または病態の治療からは、障害、病態または関連疾患の完全な除去が排除されるものではないが、これを必要とはしないことを理解されたい。いくつかの態様において、治療には障害または病態および/または関連症状の予防が含まれる。
【0045】
本明細書で使用する「卒中」という用語は、細胞死を招く、脳への血流が乏しい健康状態を表す。虚血性脳卒中および出血性脳卒中が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
本明細書で使用するように、「出血性ショック」という用語は、細胞機能に必要な酸素および栄養の不適切な送達をもたらす、組織灌流の減少した状態を意味する。
【0047】
本明細書で使用する「急性高山病」という用語は、酸素が低レベルであり、空気圧が低下した標高の高い場所に暴露されたときに発生する状態を意味する。
【0048】
本明細書で使用する「虚血性疾患」または「虚血」という用語は、体の任意の組織における酸素化の減少によって特徴づけられる疾患および/または状態を意味し、例えば、虚血性心疾患、一過性脳虚血発作、心虚血、卒中、再灌流傷害、腸管虚血、腸虚血、末梢動脈疾患、重症肢虚血、腸間膜虚血、脳虚血、脚虚血、心筋梗塞、末梢血管疾患、冠動脈疾患、狭心症、創傷治癒、腎動脈疾患、糖尿病性潰瘍治癒、うっ血性心不全および肝虚血が挙げられるが、これらに限定されるものではない。虚血は、貧血症、卒中およびアテローム性動脈硬化症といった種々の病態によって生じ得るものであるが、これらに限定されるものではない。虚血の結果として多数の疾患、例えば、脳血管虚血、腎虚血、肺虚血、下肢虚血、心筋虚血および虚血性心筋症が発症する。
【0049】
本明細書で使用する「末梢動脈疾患」または「PAD」という用語は、例えば、脚部、腹部、腕部および/または頭部で働く末梢動脈の狭窄という病態を意味する。PADは、動脈の構造および機能を変化させるアテローム硬化性、血栓塞栓性および炎症性の工程によって発症する広範囲にわたる血管障害を含む。PADの最も一般的な原因はアテローム性動脈硬化症である。
【0050】
本明細書で使用する「p50値」という用語は、ヘモグロビンが50%飽和のときの酸素分圧を示す。p50の値は基質親和性と負の相関を示し、低い値は高い親和性に対応し、その逆もまた同様である。
【0051】
本明細書で使用する「酸素運搬能」という用語は、組成物が酸素を運搬する性能を示す。酸素運搬の性能には2つの様相が含まれるが、これに限定されるものではない。低酸素親和性の組み換えヘモグロビンを含有する組成物は、広範囲の出血によって生じる組織低酸素症(例:出血性ショック)においては、急速な酸素化が望ましい場合に使用される。低酸素親和性とは、より高い酸素親和性の材料と比べてより容易に標的に対して酸素を「オフロード」可能であることを意味する。より酸素親和性の高い組成物は、よりゆっくりとした酸素の送達速度が望まれる、癌治療における酸素化補助療法として有用である。「改善された酸素運搬能」は、急速な酸素化または酸素の低送達にかかわらず、組成物の運搬する酸素のレベルが増加することを意味する。
【0052】
「同時形質転換」、「同時形質転換する」、「同時形質転換した」等という用語は、外因性DNAを保有する1を超えるプラスミドまたはベクターを宿主細胞に同時に移動させる方法を意味する。宿主細胞には、通常、細菌、酵母、昆虫、哺乳類および植物の細胞が含まれるが、これらに限定されるものではない。外因性DNAを保有するプラスミドまたはベクターを受け入れる任意の他の適当な宿主細胞も本開示の想定内である。DNAコンストラクトの宿主細胞への形質転換の方法には、化学形質転換、エレクトロポーレーションンまたは粒子砲撃法が含まれるが、これらに限定されるものではない。DNAコンストラクトを宿主細胞に形質転換するための任意の他の適当な方法も本開示の想定内である。本明細書で使用するように、「プラスミド」、「発現プラスミド」、「ベクター」、「DNAコンストラクト」等の用語はここで代替的に使用され、目的の1以上の外因性DNA配列のみならず、他の機能性DNAセグメントおよび/または部位、例えば、プロモーターセグメント、制限部位、5’プライマー部位、3’プライマー部位、複製開始セグメント、抗生物質耐性遺伝子セグメント、選択マーカーセグメント等を保持する遺伝構造を意味する。遺伝構造は典型的には、但し常時ではないが、染色体DNAとは物理的に分離され、独立に複製可能な環状DNA分子である。本明細書で使用する「外因性DNA」、「目的の外因性DNA配列」等の用語は、宿主細胞の外に起源を有するデオキシリボ核酸であって、目的とする特定のタンパク質またはそのサブユニットをコードする遺伝子が挙げられるが、これに限定されないものを意味する。本明細書で使用する「組み換えヘモグロビン発現プラスミド」という用語は、1つのジアルファ鎖をコードするポリヌクレオチド配列を保持するプラスミド、1つまたは2つのベータ鎖をコードするポリヌクレオチド配列を保持するプラスミド、またはジアルファ鎖とベータ鎖をコードするポリヌクレオチド配列を保持するプラスミドを意味し得る。
【0053】
本明細書で使用する「HemH」という用語は、フェロケラターゼ等の、ヘムの産生を触媒する任意の酵素を意味する。本明細書で使用する「ヘムトランスポーター」という用語は、ヘムおよび/または鉄の取り込みを容易にするタンパク質を意味し、このようなタンパク質にはChuA、TonB、ヘム運搬タンパク質1(HCP1)、二価金属トランスポーター1(DMT1)、ムコリピン-1(TRPML1としても知られる)、HRG1およびヘモペキシンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0054】
本明細書で使用する「HemHプラスミド」という用語は、フェロケラターゼ等の、ヘムの産生を触媒する任意の酵素をコードするポリヌクレオチド配列を保持するプラスミドを意味し、ポリヌクレオチドは、1以上のヌクレオチド修飾を含んでいてもよい。本明細書で使用する「ヘムトランスポータープラスミド」という用語は、ChuA、TonB、ヘム運搬タンパク質1(HCP1)、二価金属トランスポーター1(DMT1)、ムコリピン-1(TRPML1としても知られる)、HRG1およびヘモペキシン等の、ヘムおよび/または鉄の取り込みを容易にする1以上のタンパク質をコードする1以上のポリヌクレオチド配列を保持する1以上のプラスミドを意味する。
【0055】
ジアルファ鎖は、配列番号1と少なくとも98.93%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含み得る。配列番号1と少なくとも98.93%の配列相同性を有するポリペプチドは、最大3のアミノ酸修飾、即ち、配列番号1に対して0、1、2または3のアミノ酸修飾、を有するポリペプチドとなり得る。いくつかの態様において、ジアルファ鎖は、配列番号1と少なくとも99.29%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含む。少なくとも99.29%の配列相同性を有するポリペプチドは、最大2のアミノ酸修飾、即ち、配列番号1に対して0、1または2のアミノ酸修飾を有し得る。いくつかの態様において、ジアルファ鎖配列番号1と少なくとも99.64%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含む。少なくとも99.64%の配列相同性を有するポリペプチドは、最大1のアミノ酸修飾、即ち、配列番号1に対して0または1のアミノ酸修飾を有し得る。いくつかの態様において、ジアルファ鎖は配列番号1のポリペプチド配列を含む。いくつかの態様において、ジアルファ鎖は配列番号1のポリペプチド配列からなる。1、2または3のアミノ酸修飾は、配列番号1の1位、29位、58位、143位、171位、および200位以外の、配列番号1内に存在する任意のアミノ酸で起こり得るものであり、配列番号1の1位と143位に対応するアミノ酸は必ずメチオニンであり、配列番号1の29位および171位に対応するアミノ酸は必ずフェニルアラニンであり、配列番号1の58位および200位に対応するアミノ酸は必ずグルタミンである。
【0056】
ジアルファ鎖のポリペプチド配列は、第1のアルファサブユニットのN末端を第2のアルファサブユニットのC末端に結合するリンカーを含むか、あるいは第1のアルファサブユニットのN末端は第2のアルファサブユニットのC末端に直接連結されている。ジアルファ鎖にリンカーが存在する場合、リンカーはグリシンおよびセリンからなる群より選ばれる1以上のアミノ酸残基であり得る。いくつかの態様において、リンカーは、(Gly-Ser)、(Gly-Gly-Gly-Ser)、(Gly-Gly-Ser-Gly)、(Gly-Gly-Gly-Gly-Ser)、(Gly-Gly-Ser)、(Gly-Ser)またはGlyであって、nは1~10である。いくつかの態様において、リンカーはGlyリンカーであり、nは1~4である。いくつかの態様において、リンカーはGlyである。
【0057】
2つのベータ鎖はそれぞれ配列番号2と少なくとも97.94%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含みうる。少なくとも97.94%の配列相同性を有するポリペプチドは最大3のアミノ酸修飾、即ち、配列番号2に対して0、1、2または3のアミノ酸修飾を有し得る。いくつかの態様において、2つのベータ鎖はそれぞれ配列番号2と少なくとも98.63%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含む。少なくとも98.63%の配列相同性を有するポリペプチドは最大2のアミノ酸修飾、即ち、配列番号2に対して0、1または2のアミノ酸修飾を有し得る。いくつかの態様において、2つのベータ鎖はそれぞれ配列番号2と少なくとも99.31%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含む。少なくとも99.31%の配列相同性を有するポリペプチドは、最大1のアミノ酸修飾、即ち、配列番号2に対して0または1のアミノ酸修飾を有し得る。いくつかの態様において、2つのベータ鎖はそれぞれ配列番号2のポリペプチド配列を含む。いくつかの態様において、1、2または3のアミノ酸修飾は、必ずメチオニンである配列番号2の1位以外の、配列番号2内に存在する任意のアミノ酸で起こり得るものである。
【0058】
いくつかの態様において、2つのベータ鎖はそれぞれ配列番号3に対して少なくとも97.94%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含みうる。少なくとも97.94%の配列相同性を有するポリペプチドは、最大3のアミノ酸修飾、即ち、配列番号3に対して0、1、2または3のアミノ酸修飾を有するポリペプチドを意味し得る。いくつかの態様において、2つのベータ鎖はそれぞれ、配列番号3と少なくとも98.63%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含む。少なくとも98.63%の配列相同性を有するポリペプチドは、最大2のアミノ酸修飾、即ち、配列番号3に対して0、1または2のアミノ酸修飾を含み得る。いくつかの態様において、2つのベータ鎖はそれぞれ配列番号3と少なくとも99.31%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含む。少なくとも99.31%の配列相同性を有するポリペプチドは最大1のアミノ酸修飾、即ち、配列番号3に対して0または1のアミノ酸修飾を含みうる。いくつかの態様において、2つのベータ鎖はそれぞれ配列番号3のポリペプチド配列を含む。1、2または3のアミノ酸修飾は、配列番号3の1位、82位、および108位以外の、配列番号3内に存在する任意のアミノ酸で起こり得るものであり、配列番号3の1位に対応するアミノ酸は必ずメチオニンであり、配列番号3の82位に対応するアミノ酸は必ずアスパラギン酸であり、配列番号3の108位に対応するアミノ酸は必ずリシンである。
【0059】
配列番号11のポリペプチド配列を有するジアルファ鎖および配列番号12のポリペプチド配列を有する2つのベータ鎖が組み換えヘモグロビンTBNを形成する。配列番号1のポリペプチド配列を有するジアルファ鎖および配列番号2のポリペプチド配列を有する2つのベータ鎖が組み換えヘモグロビンTBM1を形成する。配列番号1のポリペプチド配列を有するジアルファ鎖および配列番号3のポリペプチド配列を有する2つのベータ鎖が組み換えヘモグロビンTBM9を形成する。
【0060】
同じ条件で調製したTBN、TBM1およびTBM9のPPIX濃度を表1に列挙した。p50レベル、四量体純度、met-ヘモグロビン(Met-Hb)%およびヘム/タンパク質比は表2に示した。本明細書に記載の組み換えヘモグロビンの製造方法は単純化されており、経済効率が高い。論理に縛られるものではないが、ジアルファ鎖およびベータ鎖の変異は組み換えヘモグロビンの構造変化をもたらし、当該変化はヘムおよびPPIXの取り込みの動力学に影響を与え、そして最終的には精製組み換えヘモグロビン中のPPIXのパーセンテージを変化させると信じられている。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
本開示は、本明細書に記載する組み換えヘモグロビンの発現、大量培養(fermentation)および精製のための方法にも関する。いくつかの態様において、方法は、本明細書に記載の組み換えヘモグロビンをコードするプラスミド、フェロケラターゼ(HemH)プラスミドおよびヘムトランスポータープラスミドを、宿主細胞内で同時発現させることを含む。表3に列挙した種々の宿主細胞を試験し、それら宿主細胞の中では、JM109(DE3)(ラムダDE3あり)(即ち、ラムダDE3を有するJM109大腸菌株)、BL21-T7 or AI大腸菌株(ラムダDE3なし)およびSHuffle(登録商標)T7コンピテント大腸菌(ラムダDE3なし)(即ち、ラムダDE3を有していないSHuffle大腸菌株)が最も高い収率と品質を示した。これら4種の宿主細胞は大規模化が容易で、その中に形質転換されたプラスミドを迅速に発現可能であり、非常に安価であり、単純な培養条件しか必要とせず、確立された制御経路の記録を有する。HemHプラスミドは野生型でも変異を含有するものでもよい。ヘムトランスポータープラスミドは、大腸菌のヘム資化遺伝子(ChuA)をベクターに挿入することで構築することができる。ChuA遺伝子は、大腸菌によるヘムの取り込みを容易にする、69kDaの外膜タンパク質をコードする。ChuAによるヘムの取り込みは、TonBと命名された内膜タンパク質に依存する。よって、本明細書に記載の方法は、組み換えヘモグロビンプラスミド、HemHプラスミド、ChuAプラスミドおよびTonBプラスミドを選択した宿主細胞、即ち、ラムダDE3を有するJM109大腸菌株、ラムダDE3なしのBL21-T7 or AI大腸菌株、およびラムダDE3を有していないSHuffle大腸菌株に同時形質転換する工程を含むことが好ましい。代わりに、この方法は、選択した宿主細胞にChuAプラスミドのみを組み換えヘモグロビンプラスミドとHemHプラスミドと共に同時形質転換してもよい。
【0064】
フェロケラターゼ(HemH)およびヘムトランスポーターを内因的に発現させるために、フェロケラターゼ(HemH)およびヘムトランスポーターをコードする遺伝子をCRISPR/Cas9ゲノム編集方法によって大腸菌株のゲノムに挿入することもできる。この方法によって、BL21-T7大腸菌株およびJm109-T7大腸菌株は、組み換えヘモグロビンタンパク質を発現するようにBL21-T7-CT(CRISPR/Cas9)細菌株およびJm109-T7-CT(CRISPR/Cas9)細菌株に修飾された。
【0065】
【表3】
【0066】
方法は、加熱工程を含まず、一酸化炭素を使用しないないという利点のある精製工程をさらに含む。精製のための工程を図6に示した。本明細書に記載の方法によって製造した組み換えヘモグロビンは、表1に示したように、プロトポルフィリン-IX(PPIX)の量が減少する(例:1%(重量)未満)。いくつかの態様において、本明細書に記載の方法によって製造した組み換えヘモグロビンは、0.08%~1%、0.11%~1%、0.08%~0.20%、0.08%~0.15%、または0.08%~0.11%(重量)のPPIXを含む。よって、本明細書に記載の方法は、現存する組み換えヘモグロビンの製造のための方法よりも簡単であり、不純物がより低レベルの可溶性組み換えヘモグロビンをより高収率でもたらすことができる。
【0067】
本開示はさらに本明細書に記載の組み換えヘモグロビンと、少なくとも1種の薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物に関する。いくつかの態様において、医薬組成物はアミノ酸や糖などの他の賦形剤を含む。
【0068】
本開示はさらに本明細書に記載のジアルファ鎖をコードするポリヌクレオチド配列に関する。いくつかの態様において、ポリヌクレオチド配列は、配列番号1に対して少なくとも98.93%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含むジアルファ鎖をコードするが、但し、配列番号1の1位および143位に対応するアミノ酸は必ずメチオニンであり、配列番号1の29位および171位に対応するアミノ酸は必ずフェニルアラニンであり、配列番号1の58位および200位に対応するアミノ酸は必ずグルタミンである。いくつかの態様において、ポリヌクレオチド配列は、配列番号1に対して少なくとも99.29%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含むジアルファ鎖をコードするが、但し、配列番号1の1位および143位に対応するアミノ酸は必ずメチオニンであり、配列番号1の29位および171位に対応するアミノ酸は必ずフェニルアラニンであり、配列番号1の58位および200位に対応するアミノ酸は必ずグルタミンである。いくつかの態様において、ポリヌクレオチド配列は、配列番号1に対して少なくとも99.64%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含むジアルファ鎖をコードするが、但し、配列番号1の1位および143位に対応するアミノ酸は必ずメチオニンであり、配列番号1の29位および171位に対応するアミノ酸は必ずフェニルアラニンであり、配列番号1の58位および200位に対応するアミノ酸は必ずグルタミンである。いくつかの態様において、ポリヌクレオチド配列は、配列番号1のポリペプチド配列を含むジアルファ鎖をコードする。いくつかの態様において、ポリヌクレオチド配列は、配列番号1のポリペプチド配列からなるジアルファ鎖をコードする。
【0069】
本開示はさらに本明細書に記載のベータ鎖をコードするポリヌクレオチド配列に関する。いくつかの態様において、ポリヌクレオチド配列は、配列番号2に対して少なくとも97.94%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含むベータ鎖をコードする。いくつかの態様において、ポリヌクレオチド配列は、配列番号2に対して少なくとも98.63%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含むベータ鎖をコードする。いくつかの態様において、ポリヌクレオチド配列は、配列番号2に対して少なくとも99.31%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含むベータ鎖をコードする。いくつかの態様において、ポリヌクレオチド配列は、配列番号2のポリペプチド配列を含むベータ鎖をコードする。いくつかの態様において、ポリヌクレオチド配列は、配列番号2のポリペプチド配列からなるポリペプチド配列を含むベータ鎖をコードする。
【0070】
いくつかの態様において、ポリヌクレオチド配列は、配列番号3に対して少なくとも97.94%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含むベータ鎖をコードする。いくつかの態様において、ポリヌクレオチド配列は、配列番号3に対して少なくとも98.63%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含むベータ鎖をコードする。いくつかの態様において、ポリヌクレオチド配列は、配列番号3に対して少なくとも99.31%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含むベータ鎖をコードする。いくつかの態様において、ポリヌクレオチド配列は、配列番号3のポリペプチド配列を含むポリペプチド配列を含むベータ鎖をコードする。いくつかの態様において、配列番号3に存在する任意のアミノ酸が酸修飾されてもよいが、配列番号3の1位、82位および108位は例外であり、配列番号3の1位は必ずメチオニンであり、配列番号3の82位は必ず アスパラギン酸であり、配列番号3の108位は必ずリシンである。
【0071】
いくつかの態様において、ポリヌクレオチド配列は、本明細書に記載のジアルファ鎖と本明細書に記載のベータ鎖とをコードする。いくつかの態様において、ジアルファ鎖は配列番号1に対して少なくとも98.93%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含むが、但し、配列番号1の1位および143位に対応するアミノ酸は必ずメチオニンであり、配列番号1の29位および171位に対応するアミノ酸は必ずフェニルアラニンであり、配列番号1の58位および200位に対応するアミノ酸は必ずグルタミンであり、そして2つのベータ鎖は、配列番号2に対して少なくとも99.31%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含むが、但し、1位に対応するアミノ酸は必ずメチオニンであるか、あるいは配列番号3に対して少なくとも97.94%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含むが、但し、1位に対応するアミノ酸は必ずメチオニンであり、82位に対応するアミノ酸は必ずアスパラギン酸であり、108位に対応するアミノ酸は必ずリシンである。
【0072】
本明細書に記載のポリヌクレオチド配列は、1以上のベクターを用いて所望の細胞に導入することもできる。ベクターは、典型的には、追加の配列を含み、追加の配列としては、細胞内でのベクターの増殖または細胞ゲノムへのベクターの一部の挿入を誘導する配列、および個人によるベクターの存在のスクリーニングを可能にする遺伝子が挙げられる。一般的なベクターの例には、細胞ゲノムに挿入されるように設計されたプラスミド、人工染色体、ウイルス、および直鎖状ポリヌクレオチド断片が含まれる。当業者にとってベクターは広く知られた道具であり、当業者は、文献や生物バンク(ATCC等)から特定の生物に適したベクターを容易に見つけることができる。いくつかの態様において、本明細書に記載のジアルファ鎖および本明細書に記載のベータ鎖の少なくとも1種をコードするポリヌクレオチド配列を含むベクターを提供する。いくつかの態様において、ベクターは、細胞ゲノムに挿入されるように設計されたプラスミド、人工染色体、ウイルス、または直鎖状ポリヌクレオチド断片である。
【0073】
本開示は本明細書に記載の組み換えヘモグロビンを製造するためのシステムに関し、システムは大腸菌または非大腸菌の宿主細胞を含み、宿主細胞は、HemHをコードするポリヌクレオチド、ヘムトランスポーターをコードするポリヌクレオチド、ジアルファ鎖をコードするポリヌクレオチド、およびベータ鎖をコードするポリヌクレオチドを含み、ジアルファ鎖は配列番号1に対して少なくとも98.93%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含むが、但し、配列番号1の1位および143位に対応するアミノ酸は必ずメチオニンであり、配列番号1の29位および171位に対応するアミノ酸は必ずフェニルアラニンであり、配列番号1の58位および200位に対応するアミノ酸は必ずグルタミンであり、そしてベータ鎖は、配列番号2に対して少なくとも99.31%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含むが、但し、1位に対応するアミノ酸は必ずメチオニンである、あるいはベータ鎖は、配列番号3に対して少なくとも97.94%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含むが、但し、1位に対応するアミノ酸は必ずメチオニンであり、82位に対応するアミノ酸は必ずアスパラギン酸であり、108位に対応するアミノ酸は必ずリシンである。いくつかの態様において、HemHをコードするポリヌクレオチド、ヘムトランスポーターをコードするポリヌクレオチド、ジアルファ鎖をコードするポリヌクレオチド、およびベータ鎖をコードするポリヌクレオチドが、細胞ゲノムに挿入されるように設計されたプラスミド、人工染色体、ウイルス、および直鎖状ポリヌクレオチド断片から選ばれる1以上のベクター内に存在する。いくつかの態様において、HemHをコードするポリヌクレオチド、ヘムトランスポーターをコードするポリヌクレオチド、ジアルファ鎖をコードするポリヌクレオチド、およびベータ鎖をコードするポリヌクレオチドが宿主細胞のゲノムにCRISPR/CAS 9を用いて挿入される。いくつかの態様において、HemHをコードするポリヌクレオチド、ヘムトランスポーターをコードするポリヌクレオチド、ジアルファ鎖をコードするポリヌクレオチドおよびベータ鎖をコードするポリヌクレオチドは、宿主細胞内の1以上のプラスミド内に存在する。
【0074】
いくつかの態様において、本明細書に記載の組み換えヘモグロビンを製造するためのシステムは大腸菌または非大腸菌の宿主細胞を含み、宿主細胞はHemH、ジアルファ鎖、および2つのベータ鎖をコードするポリヌクレオチドを含む第1のプラスミドと、ヘムトランスポーターをコードするポリヌクレオチドを含む第2のプラスミドとを含み、ジアルファ鎖は配列番号1に対して少なくとも98.93%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含むが、但し、配列番号1の1位および143位に対応するアミノ酸は必ずメチオニンであり、配列番号1の29位および171位に対応するアミノ酸は必ずフェニルアラニンであり、配列番号1の58位および200位に対応するアミノ酸は必ずグルタミンであり、且つ2つのベータ鎖は、配列番号2に対して少なくとも99.31%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含むが、但し、その1位に対応するアミノ酸は必ずメチオニンである、あるいは2つのベータ鎖は、配列番号3に対して少なくとも97.94%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含むが、但し、その1位に対応するアミノ酸は必ずメチオニンであり、82位に対応するアミノ酸は必ずアスパラギン酸であり、108位に対応するアミノ酸は必ずリシンである。
【0075】
本明細書に記載のベクターは、プロモーター、オペレーター、および選択マーカーをコードする1以上のポリヌクレオチドをさらに含んでもよい。
【0076】
本明細書に記載するベクターにおいては、任意のプロモーターを使用することができる。適切なプロモーターの選択は、当業界の通常の技術を有する者の技術範囲内である。例示的なプロモーターとしては、lac、trp、tac、trc、ara、araB、T5、T7、およびT7lacが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0077】
オペレーターとしては、lacオペレーター、λオペレーター、trpオペレーター、galオペレーター、araオペレーター、およびArgオペレーターが挙げられる。所望により、対応するプロモーターをそのオペレーターと機能的に関連付けることができる。
【0078】
選択マーカーは、それを含有する分子または細胞を、多くの場合は特定の条件下で、選択するまたは排除することを可能せしめるポリヌクレオチド配列である。これらマーカーは、例えば、以下のような活性をコードすることができるが、これらに限定されるものではない:RNA、ペプチドまたはタンパク質の産生、あるいはRNA、ペプチド、タンパク質、無機または有機化合物または組成物などの結合部位の提供。当業界の任意の選択マーカーを、本明細書に記載する発現系及び方法と関連して使用可能である。例示的な選択マーカーとしては以下が挙げられるが、これらに限定されるものではない:抗生物質等の通常は毒性の化合物に対して抵抗性を付与する産物をコードするポリヌクレオチド配列、通常は受容細胞に不足している産物(tRNA遺伝子、栄養要求性マーカー等)をコードするポリヌクレオチド配列、遺伝子産物の活性を抑制する産物をコードするポリヌクレオチド配列、同定容易な産物(例:β-ガラクトシダーゼ、緑蛍光タンパク質(GFP)、および細胞表面タンパク質等の表現型マーカー)をコードするポリヌクレオチド配列等。
【0079】
いくつかの態様において、選択マーカーは抗微生物薬、例えば、アンピシリン、カナマイシン、エリスロマイシン、クロランフェニコール、ゲンタマイシン、カスガマイシン、リファンピシン、スペクチノマイシン、D-シクロセリン、ナリジクス酸、ストレプトマイシン、テトラサイクリン等に対する耐性を付与するポリヌクレオチド配列である。
【0080】
更に本開示は、以下の工程を含む、本明細書に記載の組み換えヘモグロビンの製造方法に関する。(a)ジアルファ鎖をコードするポリヌクレオチドおよび2つのベータ鎖をコードするポリヌクレオチドを含有する宿主細胞を提供する工程と、(b)組み換えヘモグロビンを発現するように、ジアルファ鎖をコードするポリヌクレオチドおよび2つのベータ鎖をコードするポリヌクレオチドを含有する宿主細胞を誘導し、組み換えヘモグロビンを製造する工程。いくつかの態様において、HemHをコードするポリヌクレオチド、ヘムトランスポーターをコードするポリヌクレオチド、ジアルファ鎖をコードするポリヌクレオチド、および2つのベータ鎖をコードするポリヌクレオチドは、細胞のゲノムに挿入されるように設計された、プラスミド、人工染色体、ウイルス、および直鎖状ポリヌクレオチド断片からなる群より選ばれる1以上のベクター内に存在する。いくつかの態様において、HemHをコードするポリヌクレオチド、ヘムトランスポーターをコードするポリヌクレオチド、ジアルファ鎖をコードするポリヌクレオチド、および2つのベータ鎖をコードするポリヌクレオチドは、CRISPR/CAS 9を用いて宿主細胞のゲノムに挿入される。いくつかの態様において、HemHをコードするポリヌクレオチド、ヘムトランスポーターをコードするポリヌクレオチド、ジアルファ鎖をコードするポリヌクレオチド、および2つのベータ鎖をコードするポリヌクレオチドは、宿主細胞内の1以上のプラスミドに存在する。
【0081】
いくつかの態様において、本明細書に記載の組み換えヘモグロビンの製造方法は以下の工程を含む。(a)ジアルファ鎖および2つのベータ鎖をコードする1以上の組み換えヘモグロビン発現プラスミドを含有する宿主細胞を提供する工程と、(b)組み換えヘモグロビンを発現するように、ジアルファ鎖および2つのベータ鎖をコードする1以上の組み換えヘモグロビン発現プラスミドを含有する宿主細胞を誘導し、組み換えヘモグロビンを製造する工程。
【0082】
いくつかの態様において、ジアルファ鎖および2つのベータ鎖をコードする1以上の組み換えヘモグロビン発現プラスミドは、配列番号4のポリヌクレオチド配列および配列番号5のポリヌクレオチド配列を含む。
【0083】
いくつかの態様において、ジアルファ鎖および2つのベータ鎖をコードする1以上の組み換えヘモグロビン発現プラスミドは、配列番号4のポリヌクレオチド配列および配列番号6のポリヌクレオチド配列を含む。
【0084】
いくつかの態様において、宿主細胞は、ラムダDE3を有するJM109大腸菌株、ラムダDE3を有していないBL21-AI大腸菌株、およびラムダDE3を有していないSHuffle大腸菌株からなる群より選択される。
【0085】
いくつかの態様において、宿主細胞は、HemHをコードするプラスミドをさらに含む。
【0086】
いくつかの態様において、宿主細胞は、ヘムトランスポーターをコードする1つまたは2つのプラスミドをさらに含む。
【0087】
本明細書に記載のジアルファ鎖および本明細書に記載の2つのベータ鎖から選ばれる少なくとも1種のポリペプチドをコードする、本明細書に記載の少なくとも1種のベクターを含む宿主細胞も提供する。いくつかの態様において、少なくとも1種のベクターはプラスミドである。いくつかの態様において、宿主細胞は1以上のプラスミドを含む。
【0088】
組み換えヘモグロビンは、1つのジアルファ鎖および2つのベータ鎖を、ヘムの存在下、宿主細胞内で発現させることによって形成することができる。種々の宿主細胞が試験されており、表3に示されている。いくつかの実施形態においては、宿主細胞は、最も収率の高いラムダDE3を有するJM109大腸菌株、ラムダDE3を有していないBL21-T7 or AI大腸菌株、またはラムダDE3を有していないSHuffle大腸菌株であるか、あるいは最も質が高く、取り扱い容易なBL21-T7-CT(CRISPR/Cas9)およびJm109-T7-CT(CRISPR/Cas9)である。ジアルファ鎖およびベータ鎖の発現は、1つのジアルファポリペプチド鎖をコードするポリヌクレオチド配列を保有するプラスミドと、2つのベータポリペプチド鎖をコードするポリヌクレオチド配列を保有するプラスミドとを、ジアルファポリペプチド鎖のプラスミドと2つのベータポリペプチド鎖のプラスミドとの比が約1:1となるように、宿主細胞を同時形質転換することによって実現することができる。ジアルファ鎖およびベータ鎖の発現は、1つのジアルファポリペプチド鎖をコードするポリヌクレオチド配列を保有するプラスミドと、1つのベータポリペプチド鎖をコードするポリヌクレオチド配列を保有するプラスミドとを、ジアルファポリペプチド鎖のプラスミドと1つのベータポリペプチド鎖のプラスミドとの比が約1:2となるように、宿主細胞を同時形質転換することによっても実現することができる。
【0089】
ジアルファ鎖およびベータ鎖の発現は、1つのジアルファポリペプチド鎖をコードするポリヌクレオチド配列および2つのベータ鎖をコードするポリヌクレオチド配列の両方を保有するプラスミドで宿主細胞を形質転換することによっても、実現することができる。
【0090】
いくつかの態様において、本明細書に記載の組み換えヘモグロビンを発現するプラスミドは、配列番号1に対して少なくとも98.93%の配列相同性を有するポリペプチド配列(但し、配列番号1の1位および143位に対応するアミノ酸は必ずメチオニンであり、配列番号1の29位および171位に対応するアミノ酸は必ずフェニルアラニンであり、配列番号1の58位および200位に対応するアミノ酸は必ずグルタミンである)およびそれぞれが配列番号2に対して少なくとも97.94%の配列相同性を有するポリペプチド配列(但し、配列番号2の1位に対応するアミノ酸は必ずメチオニンである)を含む2つのベータ鎖をコードするポリヌクレオチドを含む。いくつかの態様においては、組み換えヘモグロビンを発現するためのプラスミドは、配列番号4のポリヌクレオチド配列(TBM1とTBM9のジアルファ鎖)および配列番号5のポリヌクレオチド配列(TBM1のベータ鎖)を含む。プラスミドマップは図2Aに示した。いくつかの態様において、宿主細胞はK12株(SHuffle(登録商標)T7コンピテント大腸菌)である。いくつかの態様において、組み換えヘモグロビンを発現するためのプラスミドは配列番号4のポリヌクレオチド配列(TBM1およびTBM9のジアルファ鎖)および配列番号5のポリヌクレオチド配列(TBM1のベータ鎖)を含み、宿主細胞はK12株(NEB#C3026)である。
【0091】
いくつかの態様において、本明細書に記載の組み換えヘモグロビンを発現するためのプラスミドは、配列番号1に対して少なくとも98.93%の配列相同性を有するポリペプチド配列(但し、配列番号1の1位および143位に対応するアミノ酸は必ずメチオニンであり、配列番号1の29位および171位に対応するアミノ酸は必ずフェニルアラニンであり、配列番号1の58位および200位に対応するアミノ酸は必ずグルタミンである)およびそれぞれが配列番号3に対して少なくとも97.94%の配列相同性を有するポリペプチド配列(但し、配列番号3の1位に対応するアミノ酸は必ずメチオニンであり、配列番号3の82位に対応するアミノ酸は必ずアスパラギン酸であり、配列番号3の108位に対応するアミノ酸は必ずリシンである)を含む2つのベータ鎖を含む。いくつかの態様において、組み換えヘモグロビンを発現するためのプラスミドは、配列番号4のポリヌクレオチド配列(TBM1およびTBM9のジアルファ鎖)および配列番号6のポリヌクレオチド配列(TBM9のベータ鎖)を含み(プラスミドマップは図2Aに示した)、宿主細胞はK12株(SHuffle(登録商標)T7コンピテント大腸菌)である。
【0092】
いくつかの態様において、ジアルファ鎖、ベータ鎖および/またはそれらの組み合わせを発現するためのプラスミドを、フェロケラターゼまたはヘムの産生を触媒する他の酵素を発現するプラスミドと共に同時形質転換する。いくつかの態様において、フェロケラターゼまたはヘムの産生を触媒する他の酵素を発現するプラスミドはHemHプラスミドであり、HemHプラスミドは任意のHemHヌクレオチドを含有することができる。例示的なHemH変異体ポリヌクレオチドを図7に列挙した。いくつかの態様において、HemHプラスミドは、配列番号7(野生型)または配列番号8(変異体)のポリヌクレオチド配列を有する。
【0093】
いくつかの態様において、ジアルファ鎖、ベータ鎖および/またはそれらの組み合わせを発現するプラスミドによって形質転換された宿主細胞を含有する溶液にヘミンを添加する。
【0094】
いくつかの態様において、ヘムトランスポーターを発現するためのプラスミドも、組み換えヘモグロビンを発現するためのプラスミドおよび/またはヘム産生酵素を発現するためのプラスミドと共に共形質転換させる。ヘムトランスポーターはヘムの取り込みを容易にするいかなる任意のタンパク質でもよく、ChuA遺伝子によってコードされる69kDaの外膜タンパク質、ChuAによるヘムの取り込みが依存するTonBと命名された内膜タンパク質が挙げられるが、これらに限定されるものではない。任意の他のヘムおよび/または鉄トランスポーター、例えば、ヘム運搬タンパク質1(HCP1)、二価金属トランスポーター1(DMT1)、ムコリピン-1(TRPML1としても知られる)、HRG1、ヘモペキシン等も本開示の想定内である。
【0095】
いくつかの態様において、ヘムトランスポータープラスミドは、配列番号9に対して98%の配列相同性を有するポリヌクレオチド配列を含む。ChuAのDNA配列を図8に示した。いくつかの態様において、ヘムトランスポータープラスミドは、配列番号9に対して99%の配列相同性を有するポリヌクレオチド配列を含む。いくつかの態様において、ヘムトランスポータープラスミドは配列番号9のポリヌクレオチド配列を含む。
【0096】
いくつかの態様において、ヘムトランスポータープラスミドは、配列番号10に対して98%の配列相同性を有するポリヌクレオチド配列を含む。TonBをコードするDNA配列を図9に示した。いくつかの態様において、ヘムトランスポータープラスミドは、配列番号10に対して99%の配列相同性を有するポリヌクレオチド配列を含む。いくつかの態様において、ヘムトランスポータープラスミドは配列番号10のポリヌクレオチド配列を含む。
【0097】
いくつかの態様において、ChuAを保有するヘムトランスポータープラスミドのみをジアルファ鎖、ベータ鎖および/またはそれらの組み合わせを発現するためのプラスミドと同時形質転換させる。いくつかの態様において、ChuAを保有するヘムトランスポータープラスミドのみをジアルファ鎖、ベータ鎖および/またはそれらの組み合わせを発現するためのプラスミドと、ヘム産生酵素を発現するためのプラスミドと同時形質転換させる。いくつかの態様において、ChuA遺伝子を保有するプラスミドとTonBを発現するためのプラスミドの両方を、ジアルファ鎖、ベータ鎖および/またはそれらの組み合わせを発現するためのプラスミドと共に同時形質転換させる。いくつかの態様において、ChuA遺伝子を保有するプラスミドとTonBを発現するためのプラスミドの両方を、ジアルファ鎖、ベータ鎖および/またはそれらの組み合わせを発現するためのプラスミドと、ヘム産生酵素を発現するためのプラスミドと同時形質転換させる。
【0098】
いくつかの態様において、種々のタンパク質発現系が試験され(表4に示した)、12番および19番のクローンのタンパク質発現系が、最も高い収率と品質の組み換えヘモグロビンを示した。pETDuet-1ベクターは2つのT7プロモーターを有する。第1のT7プロモーターはT1であり、第2のT7プロモーターはT2である。pETDuet-1ベクターのT1またはT2のいずれかの制御下でタンパク質を発現させることができる。同様に、pRSFDuet-1ベクターは2つのT7プロモーターを有し、第1のT7プロモーターがR1であり、第2のT7プロモーターがR2である。pRSFDuet-1ベクターのT1またはT2のいずれかの制御下でタンパク質を発現させることができる。
【0099】
【表4】
【0100】
発現系の成分として以下が含まれる。(1)T7プロモーター/lacオペレーターおよび(2)開始コドンおよび停止コドンを含む、タンパク質発現のための配列。各Duetプラスミドは2つのT7プロモーター/lacオペレーター(T1およびT2)を有する。我々はタンパク質発現レベルを試験するために、第1のまたは第2のT7プロモーター/lacオペレーターの制御下に種々の遺伝子を挿入した。プラスミドの抗生物質耐性およびレプリコンを表4に示した。12番および19番のクローンは、組み換えヘモグロビンの収率および品質が最大であった。クローン12は、2つのプラスミド、即ち、第1のプラスミドとしてT1制御下のジアルファとベータ鎖およびT2制御下のHemHを発現するpETDuet-1(アンピシリン)、第2のプラスミドとしてR2制御下のChuAおよびTonBを発現するpRSFDuet-1(カナマイシン)を含有した。クローン19は、2つのプラスミド、即ち、第1のプラスミドとしてT1制御下のジアルファとベータ鎖およびT2制御下のHemHを発現するpETDuet-1-Kana(カナマイシン)、第2のプラスミドとしてA2制御下のChuAおよびTonBを発現するpACYCDuet-1(クロランフェニコール)を含有した。
【0101】
1以上の上述したプラスミドを含有する宿主細胞を、当業者に公知の方法を用いてインキュベートおよび培養することができる。細菌細胞によって産生される組み換えヘモグロビンは、その後、熱工程を必要とせず、一酸化炭素の使用も必要としない、簡便化された方法によって精製することができる(図6)。組み換えヘモグロビンは、本明細書に記載する精製方法で精製することができ、HbCOを含まないまたは少量しか含まず、PPIX含有量が低い(例:1%未満の)精製ヘモグロビンを得ることができる。UPLCの結果は、ヘム:タンパク質比がTBM1およびTBM9では高く、TBM9で最も高いことを示した(表2)。高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)の結果は、TBN、TBM1とTBM9の八量体:四量体:二量体分布を下記表5のように示した。
【0102】
【表5】
【0103】
本明細書に記載の組み換えヘモグロビンの精製は、図4および表1と2に示したように、熱処理の工程なしでタンパク質産物を高純度で得ることができる。このような予想外の技術的効果は、組み換えヘモグロビンの製造のための現在の方法の1以上の課題を解決する。例えば、本明細書に記載の組み換えヘモグロビンの精製中の安定性は影響を受けることがないため、熱処理の際の組み換えヘモグロビンの安定性を維持するためにCOは必要ではなくなる。よって、望ましくないCOを除去するための追加の工程は必要ない。それゆえに、本明細書に記載の組み換えヘモグロビンの精製プロセスは熱処理とCO除去を必要とせず、プロセスをより簡便、低コストおよびより産業上利用可能とする。
【0104】
肝臓酸素レベルを180分間測定するために、本明細書に記載の方法で調製した組み換えヘモグロビンをマウスモデルに注射した(図3)。結果は、ジアルファ鎖が配列番号1を有し、2つのベータ鎖が配列番号2を有する組み換えヘモグロビンTBM1が、バッファーを投与し、YQ(ウシ架橋ヘモグロビン、バッチ番号ER007)を投与した対照群と比べて、投与の30分後に肝臓酸素圧を有意に増加させたことを示した(図3B)。180分にわたる肝臓酸素圧の測定は、TBM9の投与後20~30分で肝臓酸素圧がプラトーに達し、TBM1の投与後約70分で肝臓酸素圧がプラトーに達し、どちらの場合も、YQ、バッファーまたは(ジアルファ鎖が配列番号11を有し、2つのベータ鎖が配列番号12を有し、図1に示した)TBNの投与によって達するプラトーよりも高かいことを示した。TBN、TBM1およびTBM9のp50値を表6にまとめた。
【0105】
【表6】
【0106】
本明細書に記載の組み換えヘモグロビンは、少なくとも1種の薬学的に許容される担体を含む医薬組成物に調製することができる。薬学的に許容される担体には、活性化合物と共に投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、ベヒクル、またはこれらの組み合わせが含まれる。このようなベヒクルとしては液体が挙げられ、水や、鉱物(petroleum)、動物、植物または合成由来のものを含む油類(ピーナッツ油、大豆油、鉱物油、ゴマ油等)が含まれる。例えば、0.4%の生理食塩水および0.3%のグリシンを使用することができる。いくつかの態様において、このようなベヒクルはショ糖またはトレハロースである。これら溶液は無菌で、通常、粒状物質を含まない。従来の、広く知られた滅菌技術(例:濾過)によって滅菌してもよい。組成物は、生理学的条件を最適化するために、必要に応じて薬学的に許容される補助物質、例えば、pH調整剤や緩衝剤、安定化剤、増粘剤、潤滑剤及び着色剤などを含んでもよい。薬学的処方におけるタンパク質濃度は大きく変動することが可能であり、例えば、約0.5重量%未満、通常は約1重量%または少なくとも1重量%から、最大15または20重量%であり、主として必要な用量、液量、粘度等に基づき、選択した投与方法の特定の様式に応じて選択される。適切なベヒクルおよび処方はショ糖、トレハロース、アミノ酸、リン酸バッファーを含む。
【0107】
本明細書に記載の組み換えヘモグロビンは、in vivoまたはex vivoの組織を酸素化するための薬剤として使用することができる。このような薬剤は、酸素欠乏が原因である疾患および/または病態、あるいは酸素欠乏が疾患および/または病態の治療効率に関連する任意の疾患または病態の治療に有用である。これら疾患および/または病態としては、癌、卒中、出血性ショック、AMS、PAD、PDおよび慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気腫、気管支炎、肺炎、肺水腫、貧血症、喘息、心疾患、糖尿病、嚢胞性繊維症、てんかんおよび発作、炎症性腸疾患(IBD)、およびレイノー氏病が挙げられるが、これらに限定されるものではない。TBM1およびTBM9の必要な用量は、本明細書に記載の動物実験によって示されたように、有意に減少させることができる。
【0108】
本開示は、例えば、本明細書に記載の組み換えヘモグロビンの純度を改善する発現クローンも提供する。図4および表7に示したように、HemHとTBN、TBM1またはTBM9のヌクレオチド配列を保有する以前の発現クローンを用いて発現された精製タンパク質は、UPLC-PDA解析においてPPIXのピークを有するが、HemH変異体、ヘムトランスポーター系(ChuAとTonB)、およびTBN、TBM1またはTBM9のヌクレオチド配列を保有する新規な改善された発現クローンを用いて発現された精製タンパク質からはこのようなピークは消失した。これは、本明細書に記載の発現クローンは産生したヘモグロビンによるヘム取り込み量のパーセンテージを有意に増加させ、組み換えヘモグロビンの酸素運搬機能を改善し、産生された組み換えヘモグロビンの酸素運搬機能を害し得る副産物であり、主たる不純物であるPPIXを有意に減少させることを示す。
【0109】
【表7】
【0110】
In vivoの条件を模倣するために、2,3-DPGを組み換えヘモグロビン溶液に加えた。2,3-DPGの存在下におけるヒト組み換えヘモグロビンのp50値は、2,3-DPGの無いヒト組み換え体と比べて増加した(図5B)。
【0111】
実施例1:TBN、TBM1、TBM9、HemH、ChuA、およびTonB発現プラスミドの構築
従来のクローニング法を用いてプラスミドを構築し、各プラスミドに使用したベクターおよび制限酵素切断部位を下記表8に示した。
【0112】
【表8】
【0113】
実施例2: タンパク質発現
小規模タンパク質発現:スクリーニング用
所望のプラスミドを所望の株に形質転換した。新鮮な培養プレートからコロニーを採取し、2mlのLB培地と適切な抗生物質(50μg/mlのカナマイシン、34μg/mlのクロランフェニコール)の入った15mlのチューブに加え、32℃で一晩、250rpmで増殖させた。得られた培養物を50mlのファルコンチューブにおいて、適切な抗生物質を含む10mlのTB培地で1:100に希釈した。OD600が0.6に達したら、25℃において0.4mMのIPTGで標的タンパク質を誘導した。20時間の誘導後、4000×gで15分の遠心分離によって細菌を回収した。
【0114】
大量培養
所望のプラスミドで形質転換された大腸菌クローンを200mlのシード培養培地(6%の酵母エキスと1%のNaCl)に接種し、250rpmの振盪下、32℃で一晩培養した。大量培養は10Lのバイオリアクター(Sartorius C plus)で実施した。フラスコのシード培養物を最終OD600が0.05となるように10Lのバイオリアクター内の6.5Lの培地(1%の酵母エキス、1.6%のトリプトン、15mMのKHPO、37mMのKHPO、15mMのNaCl、15mMの(NHSO、2mMのL-プロリン、2%のグリセロール)に接種し、32℃およびpH7.0で、6L/分の気流下および初期撹拌速度400rpmとして溶存酸素を20%超に維持して培養した。
【0115】
10Lのバイオリアクターにおける組み換えタンパク質製造の流加培養工程は2相に分けられた。第1の相は32℃で7時間の好気バッチ培養であった。第2の相は、組み換えタンパク質発現を誘導するための、終濃度0.4mMのイソプロピルβ-d-チオガラクトシダーゼ(IPTG)をOD600が4.0の細菌と共に使用した25℃で18時間の誘導工程であった。25℃で18時間の流加培養増殖では、細菌の必要な特定の成長速度を維持するために80g/Lのグリセロールと100mg/LのHemiを連続的に供給し、8L/分の気流下および撹拌速度600~800rpmで、溶存酸素を約4%とした。最終OD600が30~40の細菌を遠心分離で回収し、将来の使用のために-80℃で保存した。
【0116】
実施例3:タンパク質の精製
ニッケルビーズによる小規模タンパク質精製:スクリーニング用
10mlのTB培地から得た細胞ペレットをリン酸バッファー(pH7.4)に懸濁し、0.1mmのガラスビーズで破砕した。4℃、15000×gで15分の遠心分離によって可溶化タンパク質を回収した。ニッケル帯電ビーズに標的タンパク質を結合させ、0.4Mのイミダゾールで溶出させた。
【0117】
タンパク質精製
細胞溶解および粗タンパク質試料の清澄化
大量培養で得た細胞ペレットを、可溶化バッファー(20mMのTris-HCl、150mMのNaCl、pH8.5)に対して、1gの細胞について7mlのバッファー比で再懸濁した。懸濁液を800バールの高圧ホモジェナイザーで処理した(2サイクル)。細胞溶解物は中空糸システムで清澄化した。
【0118】
クロマトグラフィーによる精製
不純物を除去するために、可溶化画分を一連のクロマトグラフィーカラムに通し、TBN、TBM1またはTBM9タンパク質を単離した。
【0119】
第一に、上清を亜鉛親和性カラムにロードした。バッファー(20mMのTris、30mMのNaCl、pH8.5)による十分なカラム洗浄の後、標的タンパク質を溶出バッファー(20mMのTris、100mMのイミダゾール、pH8.3)で溶出した。
【0120】
第二に、回収した画分をDEAEアニオン交換カラムにロードした。標的タンパク質を溶出バッファー(20mMのNaPi、pH6.0)で溶出した。
【0121】
最後に、精製したTBN/TBM1/TBM9試料を50mg/mlまで濃縮した。タンパク質試料は適切な賦形剤と共にガラスバイアル中で凍結乾燥させた。
【0122】
実施例4:発現されたタンパク質の特徴付け
(a)UPLC
試料のタンパク質濃度は、ブラドフォードタンパク質アッセイで測定した。試料を約10mg/mlのタンパク質濃度に希釈した。50μlの精製タンパク質を400μlの酸性アセトンと混合した。激しい撹拌後に、混合物を遠心分離で分離させた。アセトニトリル(ACN、400μl、試料対有機溶媒は1:8)を溶液に加え、続いて14,000rpmで5分間遠心分離した。次に試料をUPLC解析(米国、マサチューセッツ州、ミルフォード、Waters社のAcquity H-class UPLCシステム)にかけた。
【0123】
下記でPPIXを分離した:Waters Acquity UPLC(登録商標) BEH C18 1.7μm、2.1×50mmのカラム、25℃、0.40ml/分で15分(溶出液は、AがHO、BがACN[0.1%のTFA])、勾配:6分で30%のBから50%のB、12分で50%のBから80%のB、13分で80%のBから30%のB、30%のBで15分)(検出波長は400nm)。購入したPPIX(米国、ミズーリ州、セントルイス、Sigma-Aldrich社)を標準として用いた。PPIXのピークを同定し、校正標準および試料のピーク面積を記録した。校正標準のピーク面積を作業標準のPPIX濃度に対してプロットした。よって、PPIXの相対量を校正曲線と関連式を用いて得た。
【0124】
(b)高速液体クロマトグラフィー(HPLC)
タンパク質濃度が約1mg/mlとなるように試料を希釈した。10μlの精製タンパク質を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)解析(米国、マサチューセッツ州、ミルフォード、Waters社のWaters Breeze2 HPLCシステム)に付した。
【0125】
タンパク質をYarra 3μm、SEC-2000、7.8×300mmカラム、25℃、0.50ml/分で20分(移動相:0.75Mの塩化マグネシウム、0.2MのTris、116μMのEDTA)(検出波長は410nm)で分離した。
【0126】
実施例5:組み換えヘモグロビンの酸素運搬能の測定
(a)オキシヘモグロビンの解離曲線(ODC)およびp50値
p50値はHEMOXアナライザーで決定した。1.5mgの精製タンパク質を2,3-DPG(4mM)を含むか含まない3.5mlのバッファー(HEPESが100mM、KClが100mM、pH7.3)希釈した。試料バッファーをキュベットに導入し、混合物の温度を平衡にして37℃とし、空気で試料を酸素化して100%と。pO値の調整後、試料を窒素で脱酸素化した。脱酸素化工程においては、曲線を記録した。p50値をx軸のO飽和が50%の位置に外挿した。
【0127】
(b)ラットモデルにおける肝臓酸素レベルの測定(180分)
バッファローラットの虚血および血流再開のときの肝臓組織の酸素化(肝臓pO)をOxyLab(登録商標)のin vivoモニタリングシステム(英国、Oxford Optronix社)によって直接モニタリングした。簡単に説明すると、広域表面(LAS)酸素センサー(英国、Oxford Optronix社)を、ラットの肝臓の右肝葉および三角肝葉(triangle lobe)の間に設置した。肝動脈の支脈と、右肝葉および三角肝葉に続く門脈をクランプした。YQ(ウシのフマリル架橋ヘモグロビン、正の対照群)(0.2g/kg)、TBM1/TBM9(0.2g/kg)、またはリンガーの酢酸バッファー(対照群)を静脈から注射した。肝臓虚血血流再開障害の間、肝臓酸素分圧を連続的に測定した:(1)基線、(2)YQ、TBM1/TBM9またはリンガーの酢酸バッファーの注入後。
【0128】
実施例6:アジ化物誘導性酸化の測定
組み換えヘモグロビンを、室温で1mMのEDTAを含む0.1Mのリン酸ナトリウムで1mg/mlに希釈した。試料溶液に対して、Hemoxアナライザー(TCS scientific社)により、圧縮空気で室温、20分間の酸素化を行った。55.6μlの2Mのアジ化ナトリウムを1mlの酸素化試料溶液に添加することで、アジ化物誘導性酸化を開始した。次に試料溶液を遅延なくキュベットに移し、蒸発を防ぐためにパラフィルムで密閉した。400nm~800nmの光学スペクトルを、AuDROPプレートを備えたMultiskan GO(thermos scientific社)により、室温の高速モードで0、1、2、3、4、5、6、24および48時間に記録した。578nm、630nmおよび700nmの記録値を、下記式によるoxy-Hb濃度の計算に用いた。
[oxy-Hb]=16.2×(A578-A700)-68×(A630-A700
初期酸化速度は、初めの6時間のデータの指数関数当てはめにより計算した。
【0129】
実施例7:4T1乳癌細胞増殖研究
(a)4T1のin vitro研究
In vitroの癌細胞増殖阻害を決定するために、4T1乳癌細胞(2000細胞/ウェル)を96穴プレートに播種し、37℃で24時間インキュベートした。細胞の安定化後、培養培地をTBM1またはTBM9を含む100μlの培養培地に交換し、細胞生存率を48時間後にMTTアッセイで評価した。TBM1またはTBM9処理後の細胞増殖のMTTアッセイの結果を図11に示した。TBM1およびTBM9は0.1~10μMの濃度で癌細胞増殖を有意に阻害することができた。
【0130】
(b)4T1のin vivo研究-マウス
6週齢の雌のBALB/cヌードマウスに4T1癌細胞(マウス当たり5000細胞)を皮下注射した。腫瘍体積(mm)は次の標準式に基づき計算した:(長径)×0.5×(短径)。腫瘍体積が100mmに達したら、TBM1タンパク質(100mg/kg、n=8)を尾静脈から週1回の注射を2週間行った。対照群(n=8)にはPBSを注射した。腫瘍体積は週2回モニタリングした。図12Aに示したように、腫瘍は、処置後14日間で、PBSで処置したマウス(対照群)において急速成長した。対照群と比べて、TBM1群において腫瘍成長は有意に減速した(p<0.05)。図12BにTBM1処理から14日後の腫瘍体積を示した。対照群では、腫瘍の体積は800mmに達し、これはTBM1処置群(377mm)よりも実質的に高かった。
【0131】
実施例8:末梢動脈疾患(PAD)モデル
重度四肢虚血に対するTBM1の潜在的な治療効果を評価するためにマウスモデルを使用した。簡単に説明すると、マウスにキシラジン(20mg/kg)およびケタミン(100mg/kg)を腹腔内注射して麻酔した。左大腿動脈を切断し、その近位源から外腸骨動脈の支脈として、それが伏在動脈と膝下動脈に分岐する末端点に接合した。大腿動脈接合の成功から24時間後に、尾静脈から通常の生理食塩水(n=2)およびTBM1(800mg/kg、n=2)の単回静脈注射を受けるマウスを乱数的に振り分けた。
【0132】
基線、大腿動脈接合の直後、および振り分けた治療の7日後に、レーザードップラー画像化システム(英国、デボン州、Moor instruments社)を用いて、下肢からの組織灌流を連続的に評価した。測定工程中のマウスには麻酔した。デジタルカラーコード化画像を捕捉し、膝関節からつま先までの領域の血流量を求めるために解析した。
【0133】
図13に示したように、「右大腿動脈接合の直後」の時点で、我々の結果は、平均相対血液灌流が非虚血性の対照四肢に対して実質的に88.8%からたった5.2%に減少し、急性下肢虚血の誘導の成功を確認した。興味深いことに、TBM1処置を受けているマウスの7日目には虚血性四肢の組織血液灌流に大きな改善が見られた。具体的には、正常生理食塩水群の7日目の非虚血性の対照四肢に対して平均相対組織血液灌流は11.7%であり、800mg/kgのTBM1を投与されていた対応する群(30.1%)よりも実質的に低かった。
【0134】
まとめると、800mg/kgの単回静脈TBM1注射は、重症四肢虚血のマウスモデルにおいて、組織灌流の改善をもたらした。
【0135】
実施例9:マウスおよびラットにおけるTBM1の頻回投与と単回投与
(a)マウスにおけるTBM1の頻回投与:
マウス(Balb/CマウスとICRマウスの両方)は乱数的に3群(n=6)に分けられ、尾静脈から連続した週1回の投与(100および200mg/kgのTBM1または対照のPBS)を受けた。終点ではマウスを麻酔し、血液試料を回収し、血液学的に分析した。主要組織(肝臓、脾臓、腎臓、肺)を回収し、ホルマリンで固定し、組織学的評価(H&E染色)のために処理した。
【0136】
図14に示したように、TBM1処置群と対照群との間で、重量の有意差は見られなかった(Balb/CマウスとICRマウスの両方)。マウスにおける他の一般的な薬剤毒性の指標、例えば、毛のがさつき、食欲不振、悪液質、(脱水による)皮膚のテンティング、皮膚の潰瘍化、中毒死は、使用した用量では見られなかった。
【0137】
(b)(心筋症を調べるための)ラットにおけるTBM1の単回投与:
SDラット(n=6)が単回投与を受けた(400および800mg/kgのTBM1、静脈内点滴による)。簡単に説明すると、投与日の少なくとも4日前に、頚静脈カテーテルをラットの右頚静脈に外科的に移植した。投与日には動物の体重を測定し、1群6匹で雌雄が半々となるように分けた。TBM1をシリンジに導入し、注入用の0.22μmのフィルター付きの延長チューブに連結した。点滴は電動シリンジポンプにより一定速度で行った。72時間後にラットを殺傷し、心臓を回収し、ホルマリンで固定し、組織学的評価(H&E染色)のために処理した。薬剤誘導性心筋症の証拠は合計6匹のラットに見られなかった。
【0138】
いくつかの実施形態に関して本発明を説明したが、当業者に明らかである他の実施形態も本発明の範囲内である。よって本発明の範囲は後述する特許請求の範囲のみによって定義されることを意図する。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本開示は、癌、卒中,出血性ショック、急性高山病(AMS)、末梢動脈疾患(PAD)およびパーキンソン氏病(PD)等の酸素欠乏関連疾患または病態の治療に有用な組み換えヘモグロビンを提供する。本明細書に記載の組み換えヘモグロビンは、増加した酸素運搬能を有する。本明細書に記載の組み換えヘモグロビンを含む医薬組成物の治療目的の使用は、必要な臨床用量を減少させることで、それを必要とする対象における当該治療目的の使用の安全性を高める。高収率および高純度の組み換えヘモグロビンの調製、入手、大量培養および/または精製のための、単純化された方法させおよび/またはプロセスをさらに提供する。当該方法は、工業規模での使用が可能であり、現存する従来法と比べてより経済的且つ低不純物傾向にある。
【配列表フリーテキスト】
【0140】
配列番号1: ジ-アルファ鎖、実験室で合成
配列番号2: ベータ鎖、実験室で合成
配列番号3: ベータ鎖、実験室で合成
配列番号4: ジ-アルファ鎖、実験室で合成
配列番号5: ベータ鎖、実験室で合成
配列番号6: ベータ鎖、実験室で合成
配列番号7: HemH野生型、実験室で合成
配列番号8: HemH変異体、実験室で合成
配列番号9: ChuA、実験室で合成
配列番号10: TonB、実験室で合成
配列番号11: ジ-アルファ鎖、実験室で合成
配列番号12: ベータ鎖、実験室で合成
配列番号13: HemH変異体、実験室で合成
配列番号14: ChuA、実験室で合成
配列番号15: TonB、実験室で合成
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図13
図14
【配列表】
2022515560000001.app
【手続補正書】
【提出日】2021-09-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアルファ鎖と2つのベータ鎖とを含む組み換えヒトヘモグロビンであって、前記ジアルファ鎖が配列番号1に対して少なくとも98.93%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含み、配列番号1の1位および143位に対応するアミノ酸が必ずメチオニンであり、配列番号1の29位および171位に対応するアミノ酸が必ずフェニルアラニンであり、配列番号1の58位および200位に対応するアミノ酸が必ずグルタミンであり、
組み換えヒトヘモグロビンが未修飾のヒトヘモグロビンと比べてより高い安定性および/または増加した酸素運搬能を有する、組み換えヘモグロビン。
【請求項2】
前記ジアルファ鎖が配列番号1に対して少なくとも99.29%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含む、請求項1に記載の組み換えヘモグロビン。
【請求項3】
前記ジアルファ鎖が配列番号1に対して少なくとも99.64%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含む、請求項2に記載の組み換えヘモグロビン。
【請求項4】
前記ジアルファ鎖が配列番号1の配列を有するポリペプチド配列である、請求項3に記載の組み換えヘモグロビン。
【請求項5】
前記2つのベータ鎖がそれぞれ配列番号2に対して少なくとも97.94%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含み、1位に対応するアミノ酸が必ずメチオニンである、請求項1に記載の組み換えヘモグロビン。
【請求項6】
前記2つのベータ鎖がそれぞれ配列番号2の配列を有するポリペプチド配列である、請求項5に記載の組み換えヘモグロビン。
【請求項7】
前記2つのベータ鎖がそれぞれ配列番号3に対して少なくとも97.94%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含み、1位に対応するアミノ酸が必ずメチオニンであり、82位に対応するアミノ酸が必ずアスパラギン酸であり、108位に対応するアミノ酸が必ずリシンである、請求項1に記載の組み換えヘモグロビン。
【請求項8】
前記2つのベータ鎖がそれぞれ配列番号3に対して少なくとも98.63%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含む、請求項7に記載の組み換えヘモグロビン。
【請求項9】
前記2つのベータ鎖がそれぞれ配列番号3に対して少なくとも99.31%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含む、請求項8に記載の組み換えヘモグロビン。
【請求項10】
前記2つのベータ鎖がそれぞれ配列番号3のポリペプチド配列を含む、請求項9に記載の組み換えヘモグロビン。
【請求項11】
請求項1に記載の組み換えヘモグロビンと、少なくとも1種の薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
【請求項12】
治療有効量の請求項11に記載の医薬組成物を対象に投与することを含む、治療を必要とする対象の酸素欠乏関連疾患を治療するための方法。
【請求項13】
前記酸素欠乏関連疾患が、癌、卒中、出血性ショック、急性高山病(AMS)、末梢動脈疾患(PAD)またはパーキンソン氏病(PD)を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1に記載の組み換えヘモグロビンの製造方法であって、
(a)ジアルファ鎖をコードするポリヌクレオチドおよび請求項1に記載のベータ鎖をコードするポリヌクレオチドを含む宿主細胞を提供する工程と、
(b)組み換えヘモグロビンを発現するように、ジアルファ鎖をコードするポリヌクレオチドおよびベータ鎖をコードするポリヌクレオチドを含有する前記宿主細胞を誘導し、請求項1に記載の組み換えヘモグロビンを製造する工程と
を含む、方法。
【請求項15】
前記ジアルファ鎖をコードするポリヌクレオチドおよび前記ベータ鎖をコードするポリヌクレオチドが、それぞれ配列番号4のポリヌクレオチドおよび配列番号5のポリヌクレオチドを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ジアルファ鎖をコードするポリヌクレオチドおよび前記ベータ鎖をコードするポリヌクレオチドが、それぞれ配列番号4のポリヌクレオチドおよび配列番号6のポリヌクレオチドを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記宿主細胞が、ラムダDE3ベクターを有するJM109大腸菌株、ラムダDE3ベクターを有していないBL21-AI大腸菌株、およびラムダDE3ベクターを有していないSHuffle大腸菌株からなる群より選ばれる、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記宿主細胞が、細菌フェロケラターゼであるHemHをコードするポリヌクレオチドをさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記宿主細胞が、ヘムトランスポーターをコードするポリヌクレオチドをさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
(a)組み換えヘモグロビンを発現するように前記宿主細胞を誘導する工程の後に、前記宿主細胞を破砕して、組み換えヘモグロビンを含む溶液を得る工程、と
(b)前記組み換えヘモグロビンを精製して、精製組み換えヘモグロビンを得る工程と
をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
請求項1に記載の組み換えヒトヘモグロビンを製造するためのシステムであって、大腸菌または非大腸菌の宿主細胞を含み、
前記宿主細胞が、細菌HemHをコードするポリヌクレオチド、細菌ヘムトランスポーターをコードするポリヌクレオチド、ジアルファ鎖をコードするポリヌクレオチド、およびベータ鎖をコードするポリヌクレオチドを含み、前記ジアルファ鎖は、配列番号1に対して少なくとも98.93%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含み、配列番号1の1位および143位に対応するアミノ酸は必ずメチオニンであり、配列番号1の29位および171位に対応するアミノ酸は必ずフェニルアラニンであり、且つ配列番号1の58位および200位に対応するアミノ酸は必ずグルタミンであり、前記ベータ鎖は、配列番号2に対して少なくとも99.31%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含み、その1位に対応するアミノ酸は必ずメチオニンである、あるいは配列番号3に対して少なくとも97.94%の配列相同性を有するポリペプチド配列を含み、その1位に対応するアミノ酸は必ずメチオニンであり、82位に対応するアミノ酸は必ずアスパラギン酸であり、108位に対応するアミノ酸は必ずリシンである、システム。
【国際調査報告】