(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-18
(54)【発明の名称】ミルクおよび乳製品のベータカゼイン分析
(51)【国際特許分類】
G01N 33/04 20060101AFI20220210BHJP
C12Q 1/37 20060101ALI20220210BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20220210BHJP
G01N 30/72 20060101ALI20220210BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20220210BHJP
【FI】
G01N33/04
C12Q1/37
G01N30/88 J
G01N30/72 C
G01N27/62 X
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021548500
(86)(22)【出願日】2019-10-29
(85)【翻訳文提出日】2021-06-18
(86)【国際出願番号】 NZ2019050143
(87)【国際公開番号】W WO2020091608
(87)【国際公開日】2020-05-07
(32)【優先日】2018-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515332160
【氏名又は名称】ズィ・エイツー・ミルク・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100188374
【氏名又は名称】一宮 維幸
(72)【発明者】
【氏名】クーニー,テレンス・パトリック
(72)【発明者】
【氏名】ジェイン,ジェイコブ・エバン
【テーマコード(参考)】
2G041
4B063
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041EA04
2G041FA12
2G041GA03
2G041LA08
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ79
4B063QR16
(57)【要約】
ミルクおよびミルク由来の乳製品中の、A1型ベータカゼインバリアントまたはA2型ベータカゼインの存在および定量化を試験するための方法であって、キモトリプシン消化とそれに続くLC-MS分析を使用してベータカゼイン消化ペプチドの濃度を決定し、および存在するA1型ベータカゼインバリアントまたはA2型ベータカゼインバリアントの量を計算するためにその濃度を使用する、方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物中のA1型ベータカゼインバリアントまたはA2型ベータカゼインバリアントの量を、80%を超える精度で決定するための方法であって、ここで、A1型ベータカゼインバリアントは、ベータカゼインアミノ酸配列の67位にヒスチジンを有するベータカゼインバリアントであり、A2型ベータカゼインバリアントは、ベータカゼインアミノ酸配列の67位にプロリンを有するベータカゼインバリアントであり、組成物は、ミルクまたはミルクから調製された製品であり、
(i)キモトリプシンによる組成物中のベータカゼインの消化を可能にする条件下で、組成物をキモトリプシンと接触させるステップ、
(ii)ベータカゼイン消化ペプチドの水溶液を取得するステップ、
(iii)以下
a)溶液中に存在する2つ以上のベータカゼイン消化ペプチドであって、各ペプチドは8~20アミノ酸残基を含み、ベータカゼインアミノ酸配列の67位に対応する位置にヒスチジンを有する、ベータカゼイン消化ペプチド、および
b)溶液中に存在する2つ以上のベータカゼイン消化ペプチドであって、各ペプチドは8~20アミノ酸残基を含み、ベータカゼインアミノ酸配列の67位に対応する位置にプロリンを有する、ベータカゼイン消化ペプチド
の濃度を、液体クロマトグラフィー-質量分析を使用して混合物を分析することによって決定するステップ、および
(iv)ステップ(iii)で決定されたベータカゼイン消化ペプチドの濃度を使用して、組成物中のA1型ベータカゼインバリアントの濃度または組成物中のA2型ベータカゼインバリアントの濃度を計算するステップ
を含む、方法。
【請求項2】
A1型ベータカゼインバリアントが、A1ベータカゼイン、Bベータカゼイン、Cベータカゼイン、FベータカゼインおよびGベータカゼインのうちのいずれか1つまたは複数を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
A1型ベータカゼインバリアントがA1ベータカゼインのみを含む、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
A2型ベータカゼインバリアントが、A2ベータカゼイン、A3ベータカゼイン、Dベータカゼイン、Eベータカゼイン、H1ベータカゼイン、H2ベータカゼインおよびIベータカゼインのうちのいずれか1つまたは複数を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
A2型ベータカゼインバリアントが、A2ベータカゼインのみを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
A1型ベータカゼインバリアントが、A1ベータカゼインのみを含み、A2型ベータカゼインバリアントがA2ベータカゼインのみを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ベータカゼインアミノ酸配列の67位に対応する位置にヒスチジンを有する3つまたは4つのベータカゼイン消化ペプチドの濃度が決定される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ミルクが牛乳であり、ベータカゼイン消化ペプチドが、
(i) VYPFPGPIHN、
(ii) SLVYPFPGPIHN、
(iii) VYPFPGPIHNSLPQ、および
(iv) SLVYPFPGPIHNSLPQ
を含む群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ベータカゼインアミノ酸配列の67位に対応する位置にプロリンを有する3つまたは4つのベータカゼイン消化ペプチドの濃度が決定される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ミルクが牛乳であり、ベータカゼイン消化ペプチドが、
(i) VYPFPGPIPN、
(ii) SLVYPFPGPIPN、
(iii) VYPFPGPIPNSLPQ、および
(iv) SLVYPFPGPIPNSLPQ
を含む群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
液体クロマトグラフィー-質量分析を使用して分析される混合物が、ステップ(iii)のa)およびb)からのペプチドの各々に対応する同位体標識ペプチドを含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
同位体標識ペプチドが以下:
【表1】
のように消化ペプチドに対応する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
同位体標識ペプチドが以下:
【表2】
のように消化ペプチドに対応する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
ミルクが牛乳であり、以下のペプチド
(i) VYPFPGPIHN、
(ii) SLVYPFPGPIHN、
(iii) VYPFPGPIHNSLPQ、
(iv) SLVYPFPGPIHNSLPQ、
(v) VYPFPGPIPN、
(vi) SLVYPFPGPIPN、
(vii) VYPFPGPIPNSLPQ、および
(viii) SLVYPFPGPIPNSLPQ
の濃度がステップ(iii)で決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
組成物中のA1型ベータカゼインバリアントおよびA2型ベータカゼインバリアントの量が、90%を超える精度で決定される、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
組成物中のA1型ベータカゼインバリアントおよびA2型ベータカゼインバリアントの量が、95%を超える精度で決定される、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
組成物中のA1型ベータカゼインバリアントおよびA2型ベータカゼインバリアントの量が、99%を超える精度で決定される、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
組成物が、牛乳または牛乳から調製された乳製品である、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
ミルクが、原乳、生乳、粉ミルク、粉末から再構成された液体ミルク、スキムミルク、ホモジナイズドミルク、コンデンスミルク、エバミルク、フレーバーミルク、UHTミルク、低温殺菌ミルク、または非低温殺菌ミルクである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
乳製品が、乳児用調製粉乳、クリーム、ヨーグルト、クワルク、チーズ、バター、またはアイスクリームである、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物性ミルクおよび動物性ミルクから調製された乳製品に存在するベータカゼインタンパク質の分析に関する。特に、本発明は、ミルクおよびミルク由来の乳製品中のA1型ベータカゼインおよびA2型ベータカゼインならびに関連するベータカゼインバリアントの存在および定量化についての試験に関する。
【背景技術】
【0002】
世界中の人々に消費されているミルク、主に牛乳は、人間の食生活における主要なタンパク質源である。牛乳は通常、1リットルあたり約30~40グラムのタンパク質で構成される。カゼインはそのタンパク質の最大成分(80%)を構成し、ベータカゼインはカゼインの約37%を構成する。過去20年間で、カゼインタンパク質、特にベータカゼインが多くの生理学的または生物学的作用(一部は健康障害に関連する)に関与していることを示す一連の証拠が増えてきている。
【0003】
ベータカゼインは、A1型ベータカゼインおよびA2型ベータカゼインに分類することができる。A1ベータカゼインおよびA2ベータカゼインは、ほとんどの人間の集団で消費される牛乳の主要なベータカゼインである。いくつかのベータカゼインバリアントは、ベータカゼインの209のアミノ酸配列の67位のアミノ酸残基に基づいてA1型またはA2型に分類することができる。A1ベータカゼインはA2ベータカゼインと単一のアミノ酸が異なる。67位にヒスチジンアミノ酸が位置する一方で、A2ベータカゼインの同じ位置にはプロリンが位置する。しかしながら、この単一アミノ酸の差異は、腸内のベータカゼインの酵素消化にとって非常に重要である。67位にヒスチジンが存在することで、酵素消化において、ベータカソモルフィン-7(BCM-7)として知られる7つのアミノ酸を含むタンパク質フラグメントが産生される。したがって、BCM-7はA1ベータカゼインの消化産物である。A2ベータカゼインの場合、67位は、その位置でアミノ酸結合の切断を妨げるプロリンにより占められている。したがって、BCM-7はA2ベータカゼインの消化産物ではない。
【0004】
B、C、F、GおよびH1バリアントなどの他のベータカゼインバリアントも67位にヒスチジンを有する一方で、A3、D、E、H2およびIバリアントは、A2バリアントのように67位にプロリンを有する。しかし、これらのバリアントは、ヨーロッパ起源の乳牛のミルクには非常に低いレベルでしか見られないか、まったく見られない。したがって、本発明の文脈において、A1ベータカゼインという用語は、67位にヒスチジンを有する任意のベータカゼインを指す場合があり、A2ベータカゼインという用語は、67位にプロリンを有する任意のベータカゼインを指す場合がある。
【0005】
BCM-7はオピオイドペプチドであり、全身のオピオイド受容体に結合して活性化することができ、細胞機能および遺伝子発現の変化をもたらすグルタチオン/抗酸化物質の産生を制限することが実証されている1。BCM-7は胃腸壁を越えて血行路に入る能力を有し、オピオイド受容体を介して全身および細胞の活動に影響を与えることができる。申請者および他の者は、以前、ミルクまたは乳製品に見出されるA1ベータカゼインの消費とI型糖尿病2、冠状動脈性心臓病3、神経障害4、腸の炎症5、乳糖不耐症の症状6、血中グルコースレベルの調節7、認知機能8、および腸内細菌叢9との間の有害な関連性を決定した。
【0006】
これらの報告された知見は全て、BCM-7、または消化時にBCM-7を産生するベータカゼインバリアントの、臨床診断された疾患または状態を受ける個人の行動特性に対する影響に関連する。この知見は健康な個人に関連しない。さらに、組織曝露、したがって生物学的応答に影響を与えるBCM-7の産生、輸送、および代謝に関連する変数が多いため、細胞培養実験に基づく研究の結果がインビボまたは臨床の効果に確実に外挿することができないことは周知である。例えば、オピオイド濃度およびオピオイド受容体に対するそれらの親和性は、細胞応答に重要であることが知られている。
【発明の概要】
【0007】
ベータカゼインバリアントをミルクおよび乳製品の消費による悪影響に関連付ける科学的証拠が増えているため、ベータカゼインバリアント、特にA1ベータカゼインおよびアミノ酸配列の67位にヒスチジンを有するその関連バリアントの存在について、ミルクおよび乳製品を確実かつ正確に分析することができることが重要になっている。
【0008】
牛乳中のベータカゼインの総レベルの決定は比較的簡単である。最も一般的なアプローチは、液体クロマトグラフィー(LC)によるインタクトなタンパク質の分離と、それに続く紫外線検出器(UV)または質量分析(MS)のいずれかを使用した検出を含む。このアプローチは最近、オーストラリアのミルクを調査するためにVincentら10によって、英国のミルクを調査するためにGivensら11によって適用された。いずれの場合も、主要なベータカゼインバリアントを別々に検出できたものの、ベータカゼインの精製されたバリアントは分析標準として市販されていないために、個別に定量することはできなかった。さらに、いずれの方法でも高分解能質量分析計の使用が必要であり、いずれも、過剰なA2ベータカゼインバリアントの存在下で微量レベルのA1ベータカゼインバリアントを区別するための十分な感度がなかった。
【0009】
代替のアプローチには、乳タンパク質を消化し、得られたペプチドを定量化することが含まれる。このアプローチは、Lutterら12によって採用されたものであり、トリプシンを使用してさまざまな食品を消化し、主要な乳タンパク質の濃度を決定した。サンプルは、内部キャリブレーションを使用してLC-MS/MSで分析した。この方法は、インタクトタンパク質法よりも感度が高く、より特異的であるが、ベータカゼインバリアントを区別するための重要な能力がない。
【0010】
上記の公開された方法は原乳の分析に適している可能性があるが、現代の単一バリアント乳製品に必要な全ての分析要件を満たす方法はない。これは処理中にタンパク質の顕著な修飾が起こり得るUHTミルクや乳児用調製粉乳などの製品に特に当てはまる。分析中、これらのマトリックス中のカゼインは、原乳からの「野生型」カゼインと同じように振舞わない可能性があるため、分析手順をマトリックスに応じて調整する必要がある。例えば、LC-UVを使用した生乳サンプルからのインタクトなベータカゼインの分析では、ベータカゼインバリアントごとに個別のピークが生成されるが、これらは、簡単に識別および統合することができるので、定性分析および定量分析の両方に適している。逆に、同じ手順を乳児用調製粉乳に適用すると、互いに分離していない、定性分析または定量分析に適さない幅広いピークが生成される。
【0011】
タンパク質分解酵素を用いた消化を使用する分析方法も、ベータカゼインの分析への応用を妨げる問題の対象になり得る。最も広く適用されているプロテアーゼはトリプシンであり、ベータカゼインと接触すると、48残基を含む長いペプチドを産生する。このペプチドの相当な長さは、それが複数の修飾を受けやすいことを意味するが、それは質量変化をもたらし、結果として質量分析を使用する検出が実質的に複雑になる。さらに、この長さにより、このペプチドを分析標準として使用するために合成することが困難となり、その結果、トリプシンベースの消化法が特定の乳製品中のベータカゼインの定量分析に適さないことを意味する。したがって、ベータカゼイン分析には代替酵素の使用が必要である。
【0012】
出願人は現在、ミルクおよび乳製品中のA1ベータカゼインおよびA2ベータカゼインバリアントを商業的に意味のあるレベルで絶対的に決定する方法を開発した。
したがって、本発明の目的は、動物乳および動物乳に由来する製品中のベータカゼインバリアントを分析するための方法を提供すること、または少なくとも既存の方法の有用な代替法を提供することである。
【0013】
発明の概要
本発明の第1の態様では、組成物中のA1型ベータカゼインバリアントまたはA2型ベータカゼインバリアントの量を、80%を超える精度で決定するための方法が提供され、ここで、A1型ベータカゼインは、ベータカゼインアミノ酸配列の67位にヒスチジンを有するベータカゼインバリアントであり、A2型ベータカゼインバリアントは、ベータカゼインアミノ酸配列の67位にプロリンを有するベータカゼインバリアントであり、組成物は、ミルクまたはミルクから調製された製品であり、以下のステップを含む:
(i)キモトリプシンによる組成物中のベータカゼインの消化を可能にする条件下で、組成物をキモトリプシンと接触させるステップ、
(ii)ベータカゼイン消化ペプチドの水溶液を取得するステップ、
(iii)以下の濃度を液体クロマトグラフィー-質量分析を使用して混合物を分析することによって決定するステップ、
a)溶液中に存在する2つ以上のベータカゼイン消化ペプチドであって、各ペプチドは8~20アミノ酸残基を含み、ベータカゼインアミノ酸配列の67位に対応する位置にヒスチジンを有する、ベータカゼイン消化ペプチド、および
b)溶液中に存在する2つ以上のベータカゼイン消化ペプチドであって、各ペプチドは8~20アミノ酸残基を含み、ベータカゼインアミノ酸配列の67位に対応する位置にプロリンを有する、ベータカゼイン消化ペプチド、ならびに
(iv)ステップ(iii)で決定されたベータカゼイン消化ペプチドの濃度を使用して、組成物中のA1型ベータカゼインバリアントの濃度または組成物中のA2型ベータカゼインバリアントの濃度を計算するステップ。
【0014】
本発明の特定の実施形態では、A1型ベータカゼインバリアントは、A1ベータカゼイン、Bベータカゼイン、Cベータカゼイン、Fベータカゼイン、GベータカゼインおよびH1ベータカゼインのうちのいずれか1つまたは複数を含む。例えば、A1型ベータカゼインバリアントは、A1ベータカゼインのみを含む場合がある。
【0015】
本発明の特定の実施形態では、A2型ベータカゼインバリアントは、A2ベータカゼイン、A3ベータカゼイン、Dベータカゼイン、Eベータカゼイン、H2ベータカゼインおよびIベータカゼインのうちのいずれか1つまたは複数を含む。例えば、A2型ベータカゼインバリアントは、A2ベータカゼインのみを含む場合がある。
【0016】
いくつかの実施形態では、A1型ベータカゼインバリアントは、A1ベータカゼインのみを含み、A2型ベータカゼインバリアントは、A2ベータカゼインのみを含む。
本発明のいくつかの実施形態では、ベータカゼインアミノ酸配列の67位に対応する位置にヒスチジンを有する3つまたは4つのベータカゼイン消化ペプチドの濃度が決定される。ミルクが牛乳であるいくつかの実施形態では、ベータカゼイン消化ペプチドは、VYPFPGPIHN、SLVYPFPGPIHN、VYPFPGPIHNSLPQ、およびSLVYPFPGPIHNSLPQを含む群から選択される。
【0017】
本発明のいくつかの実施形態では、ベータカゼインアミノ酸配列の67位に対応する位置にプロリンを有する3つまたは4つのベータカゼイン消化ペプチドの濃度が決定される。ミルクが牛乳であるいくつかの実施形態では、ベータカゼイン消化ペプチドは、VYPFPGPIPN、SLVYPFPGPIPN、VYPFPGPIPNSLPQ、およびSLVYPFPGPIPNSLPQを含む群から選択される。
【0018】
本発明の特定の実施形態では、液体クロマトグラフィー-質量分析を使用して分析される混合物は、a)およびb)からのペプチドの各々に対応する同位体標識ペプチドを含む。同位体標識ペプチドは、ステップ(i)でキモトリプシンを用いて処理する前、またはステップ(i)でキモトリプシンを用いて処理した後に、組成物に添加することができる。
【0019】
ミルクが牛乳である本発明のいくつかの実施形態では、同位体標識ペプチドは、以下のような消化ペプチドに対応し得る:
【0020】
【0021】
ミルクが牛乳である本発明のいくつかの実施形態では、同位体標識ペプチドは、以下のように消化ペプチドに対応し得る:
【0022】
【0023】
ミルクが牛乳である本発明のいくつかの実施形態では、以下のペプチドの濃度は、ステップ(iii)において決定される:VYPFPGPIHN、SLVYPFPGPIHN、VYPFPGPIHNSLPQ、SLVYPFPGPIHNSLPQ、VYPFPGPIPN、SLVYPFPGPIPN、VYPFPGPIPNSLPQ、およびSLVYPFPGPIPNSLPQ。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態では、組成物中のA1型ベータカゼインバリアントおよびA2型ベータカゼインバリアントの量は、90%を超える精度、95%を超える精度、または99%を超える精度で決定される。
【0025】
本発明のいくつかの実施形態では、組成物は、牛乳または牛乳から調製された乳製品である。
本発明のいくつかの実施形態では、ミルクは、原乳、生乳、粉ミルク、粉末から再構成された液体ミルク、スキムミルク、ホモジナイズドミルク、コンデンスミルク、エバミルク、フレーバーミルク、UHTミルク、低温殺菌ミルク、または非低温殺菌ミルクである。本発明のいくつかの実施形態では、乳製品は、乳児用調製粉乳、クリーム、ヨーグルト、クワルク、チーズ、バター、またはアイスクリームである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の方法、およびインタクトHPLC分析を使用して分析された一連の相対的ミルク標準中のA1型ベータカゼインの割合を示す図である。
【
図2】サンプルのタンパク質含有量から決定された理論的なベータカゼインレベルと比較した、本発明の方法によって測定された一連のミルクサンプルおよび乳製品中のベータカゼイン量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
定義
「ベータカソモルフィン-7」または「BCM-7」という用語は、アミノ酸配列の67位にプロリンではなくヒスチジンを有する、ウシベータカゼインバリアントの酵素消化で産生されるヘプタペプチド、タンパク質フラグメントTyr-Pro-Phe-Pro-Gly-Pro-Ileを指す。
【0028】
「A1型ベータカゼインバリアント」という用語は、そのアミノ酸配列の67位にヒスチジン残基を有する任意のベータカゼインバリアントを意味し、A1ベータカゼイン、Bベータカゼイン、Cベータカゼイン、FベータカゼインおよびGベータカゼインのうちのいずれか1つまたは複数を含む。
【0029】
「A2型ベータカゼインバリアント」という用語は、そのアミノ酸配列の67位にプロリン残基を有する任意のベータカゼインバリアントを意味し、A2ベータカゼイン、A3ベータカゼイン、Dベータカゼイン、Eベータ-カゼイン、H1ベータカゼイン、H2ベータカゼインおよびIベータカゼインを含む。
【0030】
ベータカゼインアミノ酸配列の「67位」という用語は、(シグナルペプチドの除去後の)ベータカゼインのN末端から配列のアミノ酸残基を数えて67番目の位置を意味する。
【0031】
「AQ」という用語は、ときに「AQUA」と呼ばれることもあるが、「絶対定量」を意味しており、他の方法が、絶対濃度を測定せず、サンプル内の別の成分と比較したベータカゼインの割合、またはベータカゼインの1つのバリアントを他のバリアントと比較した割合を測定することとは対照的に、本発明の方法が、サンプルの画分(例えば、質量画分)としてベータカゼインの絶対濃度を測定することに使用できることを示す。
【0032】
本明細書全体を通して、特に別段の記載がない限り、または文脈から別段の要求がない限り、単一のステップ、物質の組成、ステップのグループ、または物質の組成のグループへの言及は、それらのステップ、物質の組成、ステップのグループ、または物質の組成のグループの1つおよび複数(すなわち1つまたは複数)を包含するとみなされるものとする。
【0033】
本明細書に記載されている数字の範囲(例えば、1から10)への言及は、その範囲内の全ての関連する数字(例えば、1、1.1、2、3、3.9、4、5、6、6.5、7、8、9、および10)および、その範囲内の任意の有理数の範囲(例えば、2~8、1.5~5.5、および3.1~4.7)への言及も組み込むことが意図されており、したがって、本明細書に記載されている全ての範囲の全てのサブ範囲が明示的に開示されている。これらは特に意図されたものの単なる例に過ぎず、列挙された最小値と最大値の間の全ての可能な数値の組み合わせは、同様に本明細書に明示的に記載されているとみなされるものとする。
【0034】
本明細書全体を通して、「含む(comprise)」という単語、または「含み」または「含まれる」などの変形は、記載された要素、整数もしくはステップ、または要素、整数もしくはステップのグループの含有を意味するものの、他の要素、整数もしくはステップ、または要素、整数もしくはステップのグループの除外を意味することはないものと理解される。
【0035】
当業者は、本明細書に記載されている発明が、具体的に記載されているもの以外の変形および修正を受け入れる余地があることを理解するであろう。本発明は、そのような全ての変形および修正を含むことが理解されるべきである。本発明はまた、本明細書で言及または示される全てのステップまたは特徴を、個別にまたは集合的に含み、および前記ステップまたは特徴の任意の全ての組み合わせまたは任意の2つ以上を含む。
【0036】
本発明は、例示のみを目的とした本明細書に記載された特定の実施例によって、範囲が限定されるべきではない。機能的に同等の製品、組成物および方法は、明らかに本発明の範囲内にある。
【0037】
本明細書における先行技術文献へのいかなる言及も、そのような先行技術が広く知られていること、またはその分野における共通した一般知識の一部を形成することを認めるものとみなされるものではない。
【0038】
試験方法
本発明は、組成物中のA1型ベータカゼインバリアントおよびA2型ベータカゼインバリアントの量を決定するための方法を提供する。重要なことに、本方法は、2つの型のベータカゼインバリアントの量を、80%を超える精度、さらには最大100%の精度での決定を可能とする。過去10年間で、A1ベータカゼイン(および関連するバリアント)を含まないミルクおよび乳製品の需要が劇的に増加したため、精度の程度が重要になっている。消費者ならびに製造業者および供給業者は、製品にA1型ベータカゼインバリアントが実質的に含まれているかいないかを知る必要がある。
【0039】
本方法は、セリンプロテアーゼ酵素キモトリプシンを用いた組成物中のベータカゼインタンパク質の消化を含む。出願人は、消化プロセスが特定の識別可能なペプチドを産生することを確定した。組成物から産生する各ペプチドの存在および量を決定することができ、その後、その量を使用して、組成物中のA1型ベータカゼインバリアントおよびA2型ベータカゼインバリアントのパーセンテージ量を計算する。分析されるペプチドの数(2、3、4以上など)が精度の程度を決定する。例えば、2つのペプチドのみの分析は、組成物中の2つの型のベータカゼインバリアントのパーセンテージ量のわずか80%の精度レベルでの最終決定をもたらす可能性がある。3つのペプチド分析は約90%の精度レベルをもたらし、4つのペプチド分析は約95%の精度レベルをもたらし得る。
【0040】
分析される組成物は、任意の動物からのミルクまたは動物のミルクから調製された製品であり得る。組成物はまた、ミルクから得られたベータカゼインを含む非乳製品であってもよい。
【0041】
ミルクは、原乳、生乳、粉ミルク、粉末から再構成された液体ミルク、スキムミルク、ホモジナイズドミルク、コンデンスミルク、エバミルク、フレーバーミルク、UHTミルク、低温殺菌ミルク、もしくは非低温殺菌ミルクの形または任意の他のミルクの形であってもよい。
【0042】
本発明の方法は、牛乳および牛乳製品の分析に最も適しているが、ヒト、羊、山羊、馬、豚、水牛、鹿、およびミルクにカゼインを産生する任意の他の哺乳類動物を含む多種多様な動物からのミルクおよび乳製品に容易に適合させることができる。
【0043】
組成物はまた、乳児用調製粉乳、クリーム、ヨーグルト、クワルク、チーズ、バター、またはアイスクリームなどの任意のミルク由来製品であってもよい。
分析する組成物がミルクである場合、最小限のサンプル準備が必要とされる。例えば、塩酸グアニジンまたは尿素などの変性剤を用いて処置することによって、乳サンプル中に含まれるタンパク質を変性させることが好ましい。
【0044】
固体または半固体の乳製品の場合、サンプル準備には、均質化された量の製品を別の容器に秤量し、カゼインタンパク質を既知の量の溶液に抽出することが、典型的に含まれる。
【0045】
キモトリプシンを使用したサンプル中のベータカゼインの消化は、効果的な消化を可能にするのに適した条件下で行うことができる。サンプルは典型的には、およそ37℃で数時間インキュベートした後、ギ酸などの試薬でクエンチし、キモトリプシンを失活させる。
【0046】
サンプルがキモトリプシン消化、および消化後のサンプル調製が行われると、LC-MS(液体クロマトグラフィー-質量スペクトル)分析の前に、特定の同位体標識ペプチドがサンプルに加えられる。同位体標識ペプチドは、キモトリプシンがA1型ベータカゼインバリアントを分解して消化ペプチドを産生し:
VYPFPGPIHN、SLVYPFPGPIHN、VYPFPGPIHNSLPQ、およびSLVYPFPGPIHNSLPQ
A2型ベータカゼインバリアントを分解して消化ペプチドを産生する:
VYPFPGPIPN、SLVYPFPGPIPN、VYPFPGPIPNSLPQ、およびSLVYPFPGPIPNSLPQ
という、出願人の事前の決定に基づいて選択される。
【0047】
同位体標識ペプチドは、以下の群:(*V)YPFPGPIHN、SL(*V)YPFPGPIHN、VYPFPGPIHNS(*L)PQ、SL(*V)YPFPGPIHNSLPQ、(*V)YPFPGPIPN、SL(*V)YPFPGPIPN、VYPFPGPIPNS(*L)PQ、およびSL(*V)YPFPGPIPNSLPQからのものであってもよく、ここで*Vは同位体標識されたバリン残基を表し、*Lは同位体標識されたロイシン残基を表す。ペプチドの任意の、または複数のアミノ酸残基が同位体標識され得ることを理解されたい。しかしながら、同位体標識されたバリンまたはロイシンが一般的に好ましい。
【0048】
本発明のいくつかの実施形態では、使用される同位体標識ペプチドは、表1による消化ペプチドに対応する。
【0049】
【0050】
本発明の方法では、上記の同位体標識ペプチドのうちの少なくとも2つを、サンプルに加えることが必要である。しかしながら、より高い精度のために、3つ、4つ、または場合によってはそれ以上の同位体標識ペプチドがサンプルに加えられる。
【0051】
LC-MS/MSにより、ペプチドの保持時間およびMS/MSモードで分析したときに生成されるフラグメントのイオン比に基づいて、任意の消化ペプチドの存在が容易に特定できる。これは、複数反応モニタリング(MRM)モード、または選択反応モニタリング(SRM)モードとも呼ばれる。各ペプチドの応答を、混合物中に存在する同位体標識された内部標準ペプチドおよび同時に実行された標準曲線と比較することで、各ペプチドの濃度を決定することができ、そこから組成物中のA1型ベータカゼインバリアントおよび組成物中のA2型ベータカゼインバリアントの濃度を計算することができる。
【0052】
実施例の考察
実験ステップの実施例が以下に提供される。実施例1は、分析のためにどのようにサンプルを調製するかについて示す。これには一般に、ベータカゼインの水性状態への抽出が含まれ、尿素などのカオトロピック変性剤の作用によって展開できるため、サンプルに対するキモトリプシンの後の作用がより効率的になる。全乳またはUHTミルクなどの液体サンプルの場合、これには単純に、サンプルのアリコートを容器に移し、変性剤を添加することが包含される。固体または半固体サンプルの場合、これには、抽出緩衝液、典型的には水性緩衝液、に溶解した固体の正確に定義された溶液の調製が包含される。続いて、サンプルは液体サンプルの場合と同じように処置される。
【0053】
実施例2は、キモトリプシン消化ステップについて記載する。変性したサンプルは、注意深く制御された条件下でキモトリプシンの溶液にさらされる。タンパク質分解酵素は狭いpH範囲内でのみ活性であるため、これらの条件には典型的に、溶液のpHを制御するための緩衝液が含まれる。条件は典型的に、物質移動の制限を低減または排除するための消化物の機械的攪拌、および反応を加速するための熱もまた含まれる。これにより、マトリックス内のベータカゼインおよびその他のタンパク質の切断が制御され、特定のタンパク質から由来しているユニークに識別できるペプチドのセットが生成される。所定の期間の後、有機溶媒中への濃厚な酸溶液の添加により反応を停止(「クエンチ」)させ、消化を直ちに停止させる。次に、サンプルは、同位体標識された内部標準ペプチドの添加によって補充され、これは後にベータカゼインの濃度を計算するために使用される。
【0054】
実施例3は、トリプル四重極質量分析検出を備えた液体クロマトグラフィーを使用したサンプルの分析について記載している。この結果、ペプチドは互いに空間的および時間的に分離され、複数反応モニタリングモードで動作する質量分析計への溶離液の通過、または高分解能選択イオンモニタリングなどの同等に特異的な検出手順によって個別に定量化できる。標的ペプチドのピーク面積は、積分、および同位体標識された内部標準によって決定される。次に、ピーク面積比を使用して、標準曲線との比較により標的ペプチドの濃度を決定する。ペプチドが正しく識別されていることを確認するために、リテンションタイムマッチングやイオン比マッチングなどの品質管理基準が手順で採用されている。
【0055】
実施例4では、ペプチドの濃度を使用して、親ベータカゼインの濃度を計算する。一般には、親タンパク質の質量に対するペプチドの質量の比率に基づいて換算係数が導出され、ペプチドの濃度からタンパク質の濃度への換算に使用される。標的ペプチドは重複する配列を有するため、濃度を合計して、全A1型ベータカゼイン含有量、全A2型ベータカゼイン含有量を求めることができ、ならびにこれらの値から導き出される数値、例えば、全ベータカゼインと比較したサンプル中のA1型ベータカゼインの割合などを求めることができる。
【0056】
実施例5は、本方法のさまざまな乳製品の分析への応用を示す。結果は、ミルクまたは乳製品のサンプル中のA1型ベータカゼインのパーセンテージを決定する既存の方法による結果と比較および対比される。さまざまなマトリックス型について、サンプル中のベータカゼインの濃度が標識タンパク質含有量に基づく期待値と一致しているため、サンプル中のA1型ベータカゼインの割合が正しいことが示される。さらに、A1型ベータカゼインの割合は、ミルクや粉ミルクのような単純なマトリックスについて以前の方法と一致しているものの、乳児用調製粉乳など、大幅に改変された製品のより正確な推定値を提供する。結果を表6に示す。
【0057】
表6の列1は、分析された製品のアイデンティティを示している。列2は、ケルダール窒素分析によって決定された各サンプルの全タンパク質含有量を示している。これは、製品のラベルで特定されるタンパク質含有量を示す列3と比較できる。一般に、これら2つの測定値の間には良好な一致があり、標識タンパク質含有量が正確であることを示している。列4は、各サンプルの理論上のベータカゼイン含有量を示しているが、これは、ラベル付けされたタンパク質値に0.32、全タンパク質含有量に対する乳製品中のベータカゼインの質量画分を表す一般的に受け入れられている変換係数、を掛けることによって決定される。
【0058】
列9は、本発明の方法によって決定された、A1型ベータカゼインおよびA2型ベータカゼインの合計として、g/100gで表される全ベータカゼイン含有量を示す。これらは、列4の値と概ね良好な一致を示し、この方法が正確で目的に適合していることを示している。
【0059】
列10は、A1型ベータカゼインおよびA2型ベータカゼインの合計として計算された、全ベータカゼイン含有量に占めるA1型ベータカゼインのパーセンテージを示している。これらの結果は、紫外線検出を備えた高速液体クロマトグラフィーを使用したインタクトタンパク質分析によって決定された%A1を表す列5の結果と比較することができる。大幅に改変されていないミルクおよび乳製品については、これら2つの数値の間で良好な一致がある。しかしながら、乳児用調製粉乳サンプルの場合、重大な不一致があるが、それはその製造の性質上、インタクト分析には不適切であり、誤った結果を生成している。同様の傾向は、列10を、サンプルのトリプシン消化を利用したプリミティブ酵素法を使用し、その後、容量的に希釈された相対的ミルク標準に対する較正を行って決定したA1型ベータカゼインのパーセンテージを示す列6と比較した場合に見られる。
【0060】
図1は、本発明の方法、およびインタクトHPLC分析を使用して分析された一連の相対的なミルク標準中のA1型ベータカゼインの割合を示す。サンプルは、2匹の個別の動物からのミルクの容量希釈によって作成され、1つはA1/A1遺伝子型であることが確認され、したがって純粋なA1型ベータカゼインを含むミルクを産生し、もう1つはA2/A2遺伝子型であることが確認され、したがって純粋なA2型ベータカゼインを含むミルクを産生する。相関係数(R
2=0.9996)で示されるように、最適化直線の周りのデータポイントの密なクラスタリングは、本方法が精密であることを示す。直線の傾き(0.9861)は、本方法が正確でもあることを示すと解釈される。
【0061】
図2は、サンプルのタンパク質含有量から決定された理論的なベータカゼインレベルと比較した、本発明の方法によって測定された一連のミルクサンプルおよび乳製品中のベータカゼイン量を示す。最適化直線付近のデータポイントの良好なクラスタリングは、本方法が精密であることを示しており、相関係数(R
2=0.9075)によってもまた示されている。直線の傾き(0.9075)も、本方法が正確であることを示している。
【0062】
本発明は、以下の実施例を参照してさらに説明される。特許請求される本発明は、実施例によっていかなる方法でも限定されることを意図されることはないことが理解されよう。
【実施例】
【0063】
実施例1:サンプル調製
液体サンプル - 例えばミルクのような非粘性液体サンプルの場合、液体(40μL)を2mLの遠心チューブに移した。尿素溶液(120μL、500g/L)を加えてタンパク質を変性させ、混合物を2000RPMで5分間混合した。
【0064】
固体サンプル - 固体サンプルまたは粘性液体サンプルの場合、サンプル(5.00±0.01g)をファルコンチューブ(50ml)内に秤量した。重炭酸アンモニウム溶液(46.6ml、4g/L)を加え、混合物を振とうして全ての粉末を湿らせた。50℃で15分間インキュベートした後、混合物を均一になるまで振とうした。乳児用調製粉乳の場合は、サンプル(100μL)を2mLの遠心チューブに移し、カゼイン沈殿剤(150g/L酢酸アンモニウムpH4.2、1000μL)を加え、混合物を2000RPMで5分間混合し、その後、5000RCFで5分間遠心分離した。上澄みをデカントした後、カゼイン沈殿剤(1000μL)を固体ペレットに加え、混合物を2000RPMで5分間混合し、その後、5000RCFで5分間遠心分離してから上澄みをデカントした。水(1000μL)を固体ペレットに加え、混合および遠心分離のステップを繰り返し、上澄みをデカントした。尿素溶液(120μL、500g/L)を加えてタンパク質を変性させ、混合物を2000で5分間混合した。
【0065】
実施例2:キモトリプシン消化
キモトリプシン溶液(1000μL)を実施例1に従って調製したサンプルに加えた。混合物を200RPMで振とうしながら37℃で8時間インキュベートした。クエンチ溶液(120μL、500g/Lギ酸溶液)を加え、混合物を2000RPMで5分間混合し、10000RCFで10分間遠心分離した。サンプル(980μL)をLCバイアルに移し、同位体標識ペプチド標準の溶液(20μL)を加え、混合物を10秒間ボルテックスした。標識ペプチド標準(Biomatik、カスタムオーダー、≧95.0%)の溶液は、表1の各々のペプチド(2.00±0.10mg)を2mLのポリエチレン遠心チューブ内に秤量して調製した。0.1%ギ酸を含む20%アセトニトリルを加えることにより、ペプチドを溶解した。1000.0mg/Lの濃度になるように容量を調整した。例えば、1.90mgだけを秤量した場合は、1.90mLの溶液を加えた。表2の標識ペプチド標準は、表3の標的ペプチドに対応している。
【0066】
【0067】
【0068】
実施例3:LC-MS/MS分析
サンプル(1μL)を、Thermo Vanquish LCシステムを用い、Phenomenex KrudCatcherを取り付けたWaters Xselect HSS T3 C18カラム(2.5um×2.1mm×50mm)に注入した。分離パラメータを表4にまとめる。簡単に説明すると、20%アセトニトリルから40%アセトニトリルまでグラジエントを実行して標的ペプチドを分離し、その間に、検出のため溶離液を質量分析計に通した。その後、次の注入を開始する前に、カラムを高流量で洗浄した。この洗浄期間中は、サンプルの不要な成分を廃棄(waste)に切り替え(divert)、アクイジション(acquisition)をオフにした。
【0069】
【0070】
質量スペクトルのアクイジションは、位置イオンMRMモードで動作するThermo TSQ Altis質量分析計を使用して実行した。各々のペプチドには、クオンティファイア(quantifier)およびクオリファイア(qualifier)の両方のトランジション(transition)があり、合計で32のMRMが生成される。これらは全て、スケジューリングを使用せずに、アクイジション期間にわたって継続的にモニターされた。滞留時間は10ms、Q1およびQ3の分解能は2Da、CIDガスは2mTorrに設定された。トランジションおよび関連パラメータのリストを表5に示す。
【0071】
【0072】
実施例4:A1型ベータカゼインバリアントおよびA2型ベータカゼインバリアントの濃度決定
計算は、手動で行うこともできるが、事前に設計されたデジタルスプレッドシートを使用して自動的に実行された。A1-ベータカゼインバリアントの濃度は、各ペプチドの濃度と親タンパク質の質量およびペプチドの質量の商との積を合計し、次に調製係数を掛けることによって計算された。
【0073】
【0074】
A2-ベータカゼインバリアントの濃度の計算については、質量をそれに応じて調整して、同じ計算を使用した;
【0075】
【0076】
調製係数Pは以下のように計算された:
【0077】
【0078】
ここで、v1は抽出後の製品の最終容量であり、m1は秤量された製品の質量であり、v2はクエンチ後の消化チューブ内の容量であり、V3は消化チューブに加えられた抽出物の容量であり、V4はLCバイアル内の最終容量であり、V5はLCバイアルに移された消化物の容量である。
【0079】
全ベータカゼイン濃度は、2つの多形の濃度を合計することによって計算された:
CTotalβCN=CA1βCN+CA2βCN
製品中のA1-ベータカゼインバリアントのパーセンテージは、A1-ベータカゼインバリアント濃度をA1-およびA2-ベータカゼインバリアント濃度の合計で割ることによって計算された。
【0080】
【0081】
実施例5:ミルクおよび乳製品の分析
さまざまな原乳、粉ミルク、乳児用調製粉乳、およびUHTミルクのサンプルを、実施例1~4に概説した方法に従って試験した。一連のミルク標準も調製し、試験した。結果は表4に示されており、ここでは、本発明の方法に従って決定された結果を、ベータカゼイン含有量を決定するための他の方法と比較している。
【0082】
【0083】
参考文献
【0084】
【国際調査報告】