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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-22
(54)【発明の名称】リグニン強化されたブチルゴム
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/28 20060101AFI20220215BHJP
   C08L 97/00 20060101ALI20220215BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20220215BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20220215BHJP
【FI】
C08L23/28
C08L97/00
C08K3/04
C08K3/36
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021537193
(86)(22)【出願日】2020-01-02
(85)【翻訳文提出日】2021-06-24
(86)【国際出願番号】 CA2020050004
(87)【国際公開番号】W WO2020140155
(87)【国際公開日】2020-07-09
(31)【優先権主張番号】62/788,428
(32)【優先日】2019-01-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520507324
【氏名又は名称】スザノ カナダ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カドラ、ジョン フランク
(72)【発明者】
【氏名】ボサ、リンダ
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AH002
4J002BB181
4J002BB241
4J002DA036
4J002DE100
4J002DE237
4J002DG047
4J002DJ007
4J002DJ016
4J002DJ037
4J002DJ047
4J002FD016
4J002FD017
4J002FD140
4J002FD150
(57)【要約】
リグニンおよび共補強剤を含むハロゲン化ブチルゴムであって、共補強剤に対するリグニンの比が加硫物の有利な特性を効果的に調節するように選択される、ハロゲン化ブチルゴムが提供される。有利な特性は、参照加硫物におけるよりも高い、カーボンブラックまたはシリカなどの共補強剤に対するリグニンの比を使用する場合に達成され、実際に、従来の補強剤をリグニンに代えることによって、加硫物の補強が改善される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグニン補強された加硫物であって、
合成ハロゲン化ポリ(イソブテン-コ-イソプレン)ブチルゴム(XIIR)を含むエラストマーであって、前記XIIRは95~99.5%のイソブチレンと0.5~5%のイソプレンとのコポリマーである、エラストマーと;
参照加硫物と比較して前記加硫物の引張強度を増加させる共補強濃度の共補強剤であって、前記共補強剤はカーボンブラックまたはシリカまたはこれらの混合物であり、前記共補強剤はゴム100部当たり(phr)10~80部を占める、共補強剤と;
前記参照加硫物と比較して、
前記加硫物中の架橋を増加させる、ならびに、
前記加硫物の、引張強度、破断点伸び、引張弾性率もしくは亀裂成長抵抗の1つもしくは複数を増加させる、および/または
透気率を減少させる、
1~40phrを占めるリグニン濃度のリグニンと;
を含み、
前記補強剤に対する前記リグニンの比率は、前記参照加硫物におけるよりも前記加硫物において高く、前記加硫物中の前記共補強剤の前記共補強濃度は、前記参照加硫物中の前記共補強剤の参照濃度と等しいまたはそれより高い、リグニン補強された加硫物。
【請求項2】
前記加硫物がフェノール性成分を含み、前記リグニンが前記加硫物の前記フェノール性成分の実質的に全てを構成する、請求項1に記載のリグニン補強された加硫物。
【請求項3】
炭酸カルシウム、カオリン粘土、タルク、重晶石または珪藻土である充填剤をさらに含む、請求項1または2に記載のリグニン補強された加硫物。
【請求項4】
前記共補強剤がカーボンブラックである、請求項1~3のいずれか一項に記載のリグニン補強された加硫物。
【請求項5】
前記共補強剤がシリカである、請求項1~3のいずれか一項に記載のリグニン補強された加硫物。
【請求項6】
前記共補強剤が、カーボンブラックとシリカの混合物である、請求項1~3のいずれか一項に記載のリグニン補強された加硫物。
【請求項7】
前記シリカが沈降シリカまたは非晶質シリカである、請求項1~3、5または6のいずれか一項に記載のリグニン補強された加硫物。
【請求項8】
前記カーボンブラックが、ASTM D 1765に従ってN300~N900シリーズと指定されるグレードである、請求項1~4または6のいずれか一項に記載のリグニン補強された加硫物。
【請求項9】
前記引張弾性率が、50%引張弾性率、100%引張弾性率、200%引張弾性率または300%引張弾性率である、請求項1~8のいずれか一項に記載のリグニン補強された加硫物。
【請求項10】
前記エラストマーが、98~99%のイソブチレンと1~2%のイソプレンとを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のリグニン補強された加硫物。
【請求項11】
前記リグニンが、全体的にまたは部分的に広葉樹バイオマスに由来する、請求項1~10のいずれか一項に記載のリグニン補強された加硫物。
【請求項12】
前記リグニンが、全体的にまたは部分的に針葉樹バイオマスに由来する、請求項1~10のいずれか一項に記載のリグニン補強された加硫物。
【請求項13】
前記リグニンが、全体的にまたは部分的に一年生繊維バイオマスに由来する、請求項1~10のいずれか一項に記載のリグニン補強された加硫物。
【請求項14】
前記リグニンが、微粉砕された木材の溶媒抽出;木材の酸性ジオキサン抽出;蒸気爆発、希酸加水分解、アンモニア繊維膨張または自己加水分解を使用したバイオマス前処理;クラフトパルプ化、ソーダパルプ化、亜硫酸パルプ化、エタノール/溶媒パルプ化、アルカリ亜硫酸アントラキノンメタノールパルプ化、メタノールパルプ化に後続するメタノールNaOHおよびアントラキノンパルプ化、酢酸/塩酸もしくはギ酸パルプ化、または高沸点溶媒パルプ化によるリグノセルロースのパルプ化を含む方法によって製造される、請求項1~10のいずれか一項に記載のリグニン補強された加硫物。
【請求項15】
前記リグニンが粉末として提供される、請求項1~14のいずれか一項に記載のリグニン補強された加硫物。
【請求項16】
前記リグニンがペレット化された形態で提供される、請求項1~14のいずれか一項に記載のリグニン補強された加硫物。
【請求項17】
前記ペレット化された形態が、平均で約1~20mmの直径である、請求項16に記載のリグニン補強された加硫物。
【請求項18】
前記リグニンが0~300重量%の水分を含有する、請求項1~17のいずれか一項に記載のリグニン補強された加硫物。
【請求項19】
前記リグニンが約3重量%~約100重量%の水分を含有する、請求項1~17のいずれか一項に記載のリグニン補強された加硫物。
【請求項20】
前記リグニンが約10重量%~約50重量%の水分を含有する、請求項1~17のいずれか一項に記載のリグニン補強された加硫物。
【請求項21】
前記加硫物が、前記リグニンの前記XIIRとの共沈なしに、前記リグニンの前記XIIRとの直接混合によって配合される、請求項1~20のいずれか一項に記載のリグニン補強された加硫物。
【請求項22】
前記加硫物中の前記共補強剤の前記共補強濃度が、前記参照加硫物中の前記共補強剤の前記参照濃度に等しい、請求項1~21のいずれか一項に記載のリグニン補強された加硫物。
【請求項23】
前記加硫物中の前記共補強剤の前記共補強濃度が、前記参照加硫物中の前記共補強剤の前記参照濃度より高い、請求項1~21のいずれか一項に記載のリグニン補強された加硫物。
【請求項24】
リグニン補強された加硫物を作製する方法であって、
ハロゲン化ポリ(イソブテン-コ-イソプレン)ブチルゴム(XIIR)を含むエラストマーであって、前記XIIRは95~99.5%のイソブチレンと0.5~5%のイソプレンとのコポリマーである、エラストマーを提供することと;
前記XIIRを共補強剤およびリグニンと混合することであって、
前記共補強剤は参照加硫物と比較して前記加硫物の引張強度を増加させる共補強濃度で提供され、前記共補強剤はカーボンブラックまたはシリカまたはこれらの混合物であり、前記共補強剤はゴム100部当たり(phr)10~80部を占め、
前記リグニンは、前記参照加硫物と比較して、
前記加硫物中の架橋を増加させる、ならびに、
前記加硫物の、引張強度、破断点伸び、引張弾性率もしくは亀裂成長抵抗の1つもしくは複数を増加させる、および/または
透気率を減少させる、
1~40phrを占めるリグニン濃度で提供され、
前記補強剤に対する前記リグニンの比率は、前記参照加硫物におけるよりも前記加硫物において高く、前記加硫物中の前記共補強剤の前記共補強濃度は、前記参照加硫物中の前記共補強剤の参照濃度と等しいまたはそれより高いように、混合することと;
前記リグニン補強された加硫物を与える反応条件下で、前記混合されたXIIR、共補強剤およびリグニンに有効量の加硫化剤を添加することと;
を含む、方法。
【請求項25】
加硫物がフェノール性成分を含み、前記リグニンが前記加硫物の前記フェノール性成分の実質的に全てを構成する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
炭酸カルシウム、カオリン粘土、タルク、重晶石または珪藻土である充填剤を添加することをさらに含む、請求項24または25に記載の方法。
【請求項27】
前記共補強剤がカーボンブラックである、請求項24~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記共補強剤がシリカである、請求項24~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記共補強剤が、カーボンブラックとシリカの混合物である、請求項24~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記シリカが、沈降シリカまたは非晶質シリカである、請求項24~26、28または29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記カーボンブラックが、ASTM D 1765に従ってN300~N900シリーズと指定されるグレードである、請求項24~27または29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記引張弾性率が、50%引張弾性率、100%引張弾性率、200%引張弾性率または300%引張弾性率である、請求項24~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記エラストマーが、98~99%のイソブチレンと1~2%のイソプレンとを含む、請求項24~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記リグニンが、全体的にまたは部分的に広葉樹バイオマスに由来する、請求項24~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記リグニンが、全体的にまたは部分的に針葉樹バイオマスに由来する、請求項24~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記リグニンが、全体的にまたは部分的に一年生繊維バイオマスに由来する、請求項24~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記リグニンが、微粉砕された木材の溶媒抽出;木材の酸性ジオキサン抽出;蒸気爆発、希酸加水分解、アンモニア繊維膨張または自己加水分解を使用したバイオマス前処理;クラフトパルプ化、ソーダパルプ化、亜硫酸パルプ化、エタノール/溶媒パルプ化、アルカリ亜硫酸アントラキノンメタノールパルプ化、メタノールパルプ化に後続するメタノールNaOHおよびアントラキノンパルプ化、酢酸/塩酸もしくはギ酸パルプ化、または高沸点溶媒パルプ化によるリグノセルロースのパルプ化を含む方法によって製造される、請求項24~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記リグニンが粉末として提供される、請求項24~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記リグニンがペレット化された形態で提供される、請求項24~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記ペレット化された形態が、平均で約1~20mmの直径である、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記リグニンが0~約300重量%の水分を含有する、請求項24~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記リグニンが約3重量%~約100重量%の水分を含有する、請求項24~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記リグニンが約10重量%~約50重量%の水分を含有する、請求項24~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記加硫物が、前記リグニンの前記XIIRとの共沈なしに、前記リグニンの前記XIIRとの直接混合によって配合される、請求項24~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記加硫物中の前記共補強剤の前記共補強濃度が、前記参照加硫物中の前記共補強剤の前記参照濃度に等しい、請求項24~44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記加硫物中の前記共補強剤の前記共補強濃度が、前記参照加硫物中の前記共補強剤の前記参照濃度より高い、請求項24~44のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
リグノセルロース系原料に由来するリグニンを含む、増強された加硫物特性を有するゴム配合物が開示される。
【背景技術】
【0002】
リグニンは、不均一なクラスの複雑な架橋された有機ポリマーである。リグニンは、維管束植物の構造成分中のセルロースおよびヘミセルロースに対して、比較的疎水性の芳香族フェニルプロパノイド補完物を形成する。リグニン化は植物細胞壁発達の最終段階であり、リグニンは細胞壁を強固にする「接着剤」としての役割を果たす。そのため、天然のリグニンは、普遍的に定義される構造を有さない。天然のリグニンは、多数の異なる炭素-炭素および炭素-酸素結合を介して接続された3-一級モノリグノール(例えば、フェニルプロパン単位;p-クマリルアルコール、コニフェリルアルコールおよびシナピルアルコール)から構成される複雑な高分子である。モノリグノールおよび単位間の連結の種類は、遺伝的および環境的要因、種、細胞/生育型ならびに細胞壁内/細胞壁間での位置を含む多数の要因に応じて変化する。
【0003】
リグノセルロース系バイオマスからリグニンを抽出することによって、一般に、リグニンの分解/修飾ならびに様々な化学特性および高分子特性の多数のリグニン断片の生成がもたらされる。バイオマスからリグニンを取り除くために使用されるいくつかの過程は、リグニン構造を加水分解して、多量のフェノール性ヒドロキシル基を有するより低分子量の断片にし、それによって処理液中でのその溶解度を増加させる(例えば、硫酸リグニン)。他の過程は、リグニン高分子を分解するのみならず、新しい官能基をリグニン構造中に導入して溶解度を改善し、それらの除去を促進する(例えば亜硫酸リグニン)。生成されたリグニン断片は、一般にリグニン誘導体および/または工業リグニンと呼ばれる。分子および高分子のこのような複雑な混合物を解明し、性質を決定することは非常に困難であるため、リグニン誘導体は、通常、使用されるリグノセルロース系植物材料ならびにリグニン誘導体を製造および回収する方法に関して記載される、すなわち針葉樹種のクラフトパルプ化から単離されたリグニンは、針葉樹クラフトリグニンと呼ばれる。同様に、一年生繊維のオルガノソルブパルプ化は、一年生繊維オルガノソルブリグニンを与えるなど(例えば、米国特許第4,100,016号;同第7,465,791号;および国際公開第2012/000093号、(A.L.Macfarlane,M.Maiら、20-Bio-based chemicals from biorefining:lignin conversion and utilisation,2014参照)。
【0004】
リグニンは地球上で最も豊富な天然ポリマーの1つである(A.L.Macfarlane,M.Maiら、20-Bio-based chemicals from biorefining:lignin conversion and utilisation,2014)にもかかわらず、製紙用パルプの製造において使用される伝統的なパルプ化工程から単離される抽出されたリグニン誘導体の大規模な商業的使用は制限されてきた。これは、リグニンおよびリグニンを含有する加工液が工程の化学的/エネルギー回収において果たす重要な役割によるだけでなく、リグニンおよびリグニンを含有する加工液の化学的および物理的特性が本来的に一貫していないことにもよる。これらの一貫性の欠如は、バイオマス供給(地域/時期/気候)および使用される具体的な抽出/生成/回収条件の変化などの多くの要因に起因し得、バイオマス自体に内在する化学的/分子的構造の複雑さによってさらに複雑なものとなる。
【0005】
その複雑さにもかかわらず、リグニンは、様々な熱可塑性材料、熱硬化性材料、エラストマー材料および炭素質材料について評価され続けている。例えば、針葉樹クラフトリグニンは、多くの接着剤系(フェノール-ホルムアルデヒド、ポリウレタンおよびエポキシ樹脂)、ゴム材料、ポリオレフィンおよび炭素繊維における有効な代替成分であることが示されている(T.Q.Hu,Chemical Modification,Properties,and Usage of Lignin,2002)(A.L.Macfarlane,M.Maiら、20-Bio-based chemicals from biorefining:lignin conversion and utilisation,2014)。
【0006】
補強性充填剤は、しばしば、エラストマーの機械的強度および剛性を改善するために使用される。例えば、カーボンブラックまたはシリカが、補強性充填剤として使用される。シリカは、補強剤としてのその性能を改善するために、オルガノシラン相溶化剤などの添加剤と共にしばしば使用される。様々な特徴的なゴム配合物におけるリグニンの使用を調査する多数の研究が公表されている(Kosikovaら、2007;Kosikovaら、2005;Ikedaら、2017;Botrosら、2016;米国特許第2608537号、同第2906718号、同第3991022号、米国特許出願公開第20100204368A1号、国際公開第2014016344A1号、同第2014097108A1号、同第2015056758A1号、同第2017109672A1号、米国特許第4477612号、同第7064171号、同第8664305号;米国特許出願公開第20110073229号)。
【0007】
様々なゴムにおいて、リグニン添加剤は、カーボンブラックなどの標準的な添加剤と比較して、いくつかの機械的特性(引張強度および引張弾性率など)に有害であると記載されてきた。例えば、国際公開第2009145784号は、リグニンがカーカスグレードのカーボンブラックを部分的に置き換えた場合の100%および300%の弾性率の低下を記載している。同様に、Setuaら、2000は、ニトリルゴム化合物におけるクラフトリグニンの使用を記載し、リグニンの伸び、硬度および圧縮永久歪特性がフェノール樹脂に類似しているが、カーボンブラックよりも劣っていることを見出した。未修飾および修飾リグニンでの引張強度は、カーボンブラックに対して得られたものの約10%であり、100%伸びでの弾性率は、カーボンブラックで得られたものよりも約50%低かった。
【0008】
リグニンのゴムラテックスとの共沈、リグニン-ゴム相互作用を改善するためのリグニンの化学的修飾/官能化(例えば、シリル化またはエステル化)またはこれらの方法の組み合わせなど、ゴム配合物中のリグニンの性能を改善する様々な方法が開示されてきた。例えば、国際公開第2017109672号では、直接混合によって取り込まれた場合に、針葉樹クラフトリグニンを含有する天然ゴム化合物について、デルタトルク、引張強度、%伸びおよび300%弾性率は、共沈と比較して低かった。共沈の場合、リグニンの乾式混合と比較して、機械的特性は未充填ゴムを上回って改善されたが、リグニン補強された加硫物の弾性率、耐摩耗性および硬度は、カーボンブラックを含有する化合物と比較してまだ十分ではなかった(Kakroodi&Sain,2016)。リグニン充填ゴムの機械的特性を改善するためには、化学修飾と組み合わせた共沈が必要であることが示唆されている(米国特許第2845397号、米国特許出願公開第20100204368号)。
【0009】
低下した充填剤分散およびゴムマトリックスとの相溶性に加えて、リグニンは硬化系の有効性を低下させることも報告されている。Nandoら(1980)は、リグニン充填天然ゴムブレンドの機械的特性の減少が低下した架橋によるものであること、効率的な加硫系は従来の加硫系よりも影響を受けなかったが、リグニンの存在下での総架橋密度(溶媒膨潤によって決定される)は全ての場合でなお低いことを示した。他の研究者らも、リグニンを含有するゴム化合物、例えばNRおよびSBR化合物中のリグノスルホナートの架橋の減少を報告している(Kumaranら、1978およびKumaran&De,1978)。
【0010】
ブチルゴム(IIR)は、イソブチレン(典型的には98~99%)とイソプレン(典型的には1~2%)との合成コポリマー、ポリ(イソブテン-コ-イソプレン)であり、非常に低い不飽和含有量を特徴とし、気体不透過性および耐薬品性などの特徴的な化学的および物理的特性を有する(米国特許第2356128号、米国特許第3816371号、米国特許第3775387号を参照)。ハロゲン化ブチルゴム(XIIR)、特に塩素化(クロロブチル、CIIR)および臭素化(ブロモブチル、BIIR)された変異形は、IIRと比較してより高い硬化速度などの特定の利点を提供し得る。アリルC-BrまたはC-Cl結合を導入するイソプレン単位のハロゲン化は、アリルC-H結合の反応性に依存する他のエラストマーとは根本的に異なる加硫化学を有する高硬化反応性エラストマーの形成を促進し、例えば、ハロブチルゴムは、ZnOのみによって硬化され、硫黄の非存在下で加硫物を生成し得る。この特徴的な硬化化学は、例えば、天然ゴム(NR)およびスチレンブタジエンゴムなどの他のゴムとの共加硫を容易にし得る(米国特許第3104235号、同第3091603号、同第3780002号、同第3968076号)。
【発明の概要】
【0011】
リグニンおよび共補強剤を含むハロゲン化ブチルゴムであって、共補強剤に対するリグニンの比が加硫物の有利な特性を効果的に調節するように選択される、ハロゲン化ブチルゴムが提供される。実際には、リグニンは、補強されたXIIR加硫物の所望の特性を調整するために使用される。参照加硫物におけるよりも高いリグニン対共補強剤の比を使用すると、有利な特性が達成され、実際には従来の補強剤をリグニンに置き換えると、加硫物の補強を明らかに改善することが示される。
【0012】
選択された実施形態では、ブチルまたはハロブチルゴムなどのエラストマーと;カーボンブラック(例えば、N300~N900シリーズ)またはシリカ(例えば、沈降シリカまたは非晶質シリカ)などの共補強剤と;リグニンと;を含むリグニン補強された加硫物が提供される。エラストマーは、例えば、合成ハロゲン化ポリ(イソブテン-コ-イソプレン)ブチルゴム(XIIR)を含み得、XIIRは、例えば、イソブチレン(例えば95~99.5%)とイソプレン(例えば0.5~5%)のコポリマーであり得る。選択された実施形態において、前記加硫物は、リグニンをXIIRと共沈させることなく、リグニンをXIIRと直接混合することによって配合され得る。
【0013】
共補強剤は、当該共補強濃度において、共補強剤を欠く参照加硫物と比較して前記加硫物の引張強度を増加させる共補強濃度で提供され得る。参照加硫物は、一般にはリグニン対補強剤の比が参照加硫物におけるより前記加硫物において高くなるような量で、必要に応じてリグニンも含む。したがって、前記加硫物中のリグニンの割合の増加は、より低いリグニンの割合を有する参照加硫物と比較して、比較的有利な特性を伴う。選択された実施形態では、リグニンおよび共補強剤は、得られた加硫物が、リグニンを含まないが、概ね同等の濃度の共補強剤を含む参照加硫物と比較して改善された特性によって特徴付けられる量で存在する。共補強剤は、例えば、カーボンブラックまたはシリカまたはこれらの混合物を含み得る。共補強剤は、例えば、ゴム100部当たり(「phr」)10~80部を占め得る。
【0014】
リグニンは、加硫物中の架橋を増加させ、ならびに(例えば、参照加硫物と比較して)引張強度、破断点伸び、引張弾性率(例えば、50%引張弾性率、100%引張弾性率、200%引張弾性率または300%引張弾性率)もしくは亀裂成長抵抗の1つもしくは複数も増加させ得る、および/または加硫物の透気率も減少させ得るリグニン濃度で提供され得る。補強剤に対するリグニンの比は、例えば、参照加硫物におけるより前記加硫物において高くすることができ、参照加硫物は、上述のように、共補強剤とリグニンの効果を比較する目的で同じ材料である。実際には、参照加硫物は、常に前記加硫物と同等またはそれより低い濃度の共補強剤を有さなければならず、前記加硫物における共補強剤に対するリグニンの割合は、常に、参照加硫物における共補強剤に対するリグニンの割合より高くなければならない。したがって、共補強剤は、増加した補強を与える量で存在し、リグニンは、共補強剤に対するリグニンのより低い割合と比較して改善された特性を与える割合で存在する。一実施形態では、共補強剤の濃度が前記加硫物と参照加硫物において等しい場合、特許請求される加硫物は、したがって、リグニンの添加が引張強度を含む加硫物の重要な特性を強化するという事実によって特徴付けられる。
【0015】
リグニンは、例えば1~40phrを占め得る。前記加硫物は、フェノール性成分の存在によって特徴付けられ得、リグニンが、前記加硫物のフェノール性成分のかなりの割合または実質的に全てを構成し得る。
【0016】
加硫物は、さらに、充填剤、例えば炭酸カルシウム、カオリン粘土、タルク、重晶石または珪藻土を含み得る。
【0017】
リグニンは、例えば、微粉砕された木材の溶媒抽出;木材の酸性ジオキサン抽出;蒸気爆発、希酸加水分解、アンモニア繊維膨張または自己加水分解を使用したバイオマス前処理;クラフトパルプ化、ソーダパルプ化、亜硫酸パルプ化、エタノール/溶媒パルプ化、アルカリ亜硫酸アントラキノンメタノールパルプ化、メタノールパルプ化に後続するメタノールNaOHおよびアントラキノンパルプ化、酢酸/塩酸もしくはギ酸パルプ化、または高沸点溶媒パルプ化によるリグノセルロースのパルプ化を含む方法によって製造され得る。リグニンは、例えば、粉末としてまたはペレット化された形態で(例えば、平均して約1~20mmの直径;もしくは約2~15mm、約3~10mm;または約10mm、約15mmもしくは約20mmまでの大きな寸法と約1mm、約5mmもしくは約10mmまでの小さな寸法とを有する卵形)提供され得る。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本配合物において使用するためのハロゲン化ブチルゴム(XIIR)は、イソブチレン(例えば95~99.5重量パーセント、または98~99重量%)とイソプレン(例えば、0.5~5重量%、0.3~6重量%または1~2重量%、Kruzelak&Hudec,2018,Rubber Chem&Technology,91(1)167-183を参照のこと。)のコポリマーを含み得る。クロロブチルXIIRは、例えば、約0.1~約6重量%、または約0.8~約1.5重量%の量で塩素を含有し得る。ブロモブチルXIIRは、例えば、約0.1~約15重量%、または約1~約6重量%の量で臭素を含有し得る。ハロゲン化ブチルゴムでは、ハロゲン含有量はイソプレン含有量によって制限され、一般には二重結合の一部のみ、典型的には約60%がハロゲン化されるという特性によってさらに制限される。ブチルゴムは、典型的には、低温、例えば約-100℃または-90℃で、フリーデルクラフツ触媒の存在下でのイソブチレンのイソプレンとのカチオン性共重合によって製造される。次いで、例えばブチルゴムのヘキサン溶液を臭素元素または塩素元素と反応させることによって、ハロゲン化ブチルゴムが製造され得る(K.Matyjaszewski,Cationic Polymerizations:Mechanisms,Synthesis&Applications,1996)。
【0019】
本明細書で提供される補強されたハロゲン化ブチルゴムは、例えばASTM D3958およびASTM D3182に記載されているように、広範囲の方法によって調製され得る。XIIRは、例えば、ゴム用ロール機などの素練り装置上で、リグニンならびにカーボンブラックおよび/またはシリカなどの共補強剤と混合され得る。あるいは、シクロヘキサンなどの溶媒中にXIIRを溶解して、補強剤をこの溶液に添加し、その後に混合してもよい。
【0020】
補強されたXIIRにおいて使用するためのカーボンブラックは、例えば、ASTM D 1765に従ってN300~N900シリーズ、または具体的にはN650、N375、N347、N339、N330(あるいは、N220またはN110などの他のものを含む)として指定されるグレードのものであり得る。
【0021】
補強剤として使用され得るカーボンブラックまたはシリカの適切な量は、ゴム100部当たり(phr)約5~約70部または約30~約50部phrである。
【0022】
配合物は、硬化活性化剤または(例示として)ステアリン酸などの分散剤、および例えばナフテン油などの他の加工助剤を含み得る。加工助剤、乳化剤または分散剤は、例えば、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸またはリノール酸のアンモニウム、ナトリウムまたはカリウム塩などの、C12~24脂肪酸のアンモニウムまたはアルカリ金属塩であり得る。代替的な分散剤としては、C6~20アルキルアルコールのポリエトキシル化硫酸エステルまたはポリエトキシル化C6~14アルキルフェノキシエタノール、および酸エステル(例えば5~15および5~30phrの添加量のフタル酸、アジピン酸、リン酸)のアンモニウム塩およびアルカリ金属塩が挙げられる。乳化剤の適切な量は、例えば、約0.1~約15phr、または約0.1~約5phrであり得る。
【0023】
補強されたXIIRは、加硫反応剤、活性化剤、触媒または促進剤、例えばZnOおよび/または硫黄および/または促進剤活性化剤および/または硫黄ドナー/促進剤:例えば、チアゾール、スルフェンアミド、グアニジン、ジチオカルバマートおよびチウラムスルフィド;例えば、チオカルバムアミル(thiocarbamamyls)、ジチオカルバミル、アルコキシチオカルボニル、ジアルキルチオホスホリル、ジアミノ-2,4,6-トリアジニル、チウラムキサンタートおよび/またはアルキルフェノールを用いて配合され得る。選択されるチアゾールは2,2-ジベンゾチアジルジスルフィド(MBTS)であり、選択されるチウラムはテトラメチルチウラムモノスルフィド(TMTM)である。選択されるアルキルフェノールは、ポリ-tert-アミルフェノールジスルフィドである。使用される場合、適切な促進剤は、例えば、約0.1~約10phr、または約0.1~約5phrの量で添加され得る。
【0024】
天然リグニンの多種多様な誘導体、特にリグノセルロース系原料のパルプ化中またはパルプ化後に回収されたリグニンが代替実施形態において使用され得る。リグノセルロース系原料には、例えば、広葉樹、針葉樹、一年生繊維およびこれらの組み合わせが含まれ得る。リグニンは、例えば、微粉砕された木材の溶媒抽出;木材の酸性ジオキサン抽出;蒸気爆発、希酸加水分解、アンモニア繊維膨張または自己加水分解を使用したバイオマス前処理;クラフトパルプ化、ソーダパルプ化、亜硫酸パルプ化、エタノール/溶媒パルプ化、アルカリ亜硫酸アントラキノンメタノールパルプ化、メタノールパルプ化に後続するメタノールNaOHおよびアントラキノンパルプ化、酢酸/塩酸もしくはギ酸パルプ化、または高沸点溶媒パルプ化によるリグノセルロースのパルプ化を含む方法によって製造され得る。
【0025】
いくつかの実施形態では、配合物は、補強剤または粘着付与剤として使用される種類の樹脂などの添加されるフェノール樹脂、またはヘキサミンなどの他の架橋剤を欠きながら所望の特性を達成し得る。したがって、加硫物がフェノール性成分を含む場合には、リグニンが、加硫物のフェノール性成分の実質的に全てを構成し得る。あるいは、リグニンは、例えば、加硫物のフェノール性成分の少なくとも約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約&0%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%もしくは約99%、またはこれらの間の任意の量を構成し得る。様々な実施形態において、リグニンは、加硫物のフェノール性成分の約50%を構成し得る。他の実施形態において、リグニンは、加硫物のフェノール性成分の約75%~約99%、またはこれらの間の任意の量を構成し得る。
【0026】
様々な実施形態において、水分含有量は、リグニン含有加硫物性能に影響を及ぼし得る。例えば、加硫物中のリグニンの水分含有量を増加させることにより、引張特性を改善させ得る、例えば、化合物の剛性を改善させ得る。リグニンの水分含有量は、0重量%~約300重量%またはこれらの間の任意の含有量であり得る。様々な実施形態において、リグニンの水分含有量は、約3重量%~約100重量%またはこれらの間の任意の量であり得る。様々な実施形態において、リグニンの水分含有量は、約10重量%~約50重量%またはそれらの間の任意の量であり得る。
【0027】

以下の例は、選択された実施形態の特徴を実証し、例えば、ZnOのみの硬化を有する単純なBIIR系においてカーボンブラックをリグニンで部分的に置換する(<50%)ことによって、補強剤として専ら汎用カーボンブラック(N660)を使用した場合と比べて、リグニン補強されたXIIRにおいて類似の機械的性能(同等の引張強度およびわずかに増加した引張弾性率)が得られ得ることを例示する。驚くべきことに、リグニンがこのような配合物においてさらに高い補強グレードのカーボンブラック(N330)を置換する場合には、補強効果はより顕著である。これらの特徴は、共補強剤に対するリグニンの比を調整することによってリグニン補強されたXIIR加硫物を調整できることを示す。
【0028】
リグニン補強されたXIIR系における効果とは対照的に、従来の硫黄硬化を有する単純なNR系においてリグニンが部分的なカーボンブラック置換として適用される場合、同様の引張強度であるが、増加した%伸び(これに対応して引張弾性率の低下を伴う)が硬化された加硫物において得られる。
【0029】
ZnO、硫黄ドナーおよび促進剤を用いて調製されたより複雑なBIIR/NR共配合物においては、リグニンによる補強グレードのカーボンブラック(N330)の部分的な置換は、加硫物特性の予想外の向上、具体的には硬化の際のトルク増加、および引張弾性率/剛性をもたらす。NMRおよび溶媒膨潤試験は、リグニンを含有するサンプルにおいてより大きな架橋度を確認し、選択された加硫物特性の実験的に観察された向上に対する機構的説明を与える。
【0030】
これらの例は、リグニンを含まない対照と比較して、これらの化合物の亀裂成長性能を有意に改善するために、複雑なBIIR/NR配合物の硬化パッケージを調整することによって、リグニンを含有する加硫物の特性を調整または調節することができることをさらに実証する。リグニンが選択された量で存在すると、硬化化学物質添加量が元の添加量の50%に低下された場合でさえ、加硫物の機械的特性が維持されることも実証される。
【0031】
以下の例は、代替のリグニンの使用による、リグニン含有XIIR加硫物の特性を調整するためのさらなる手段をさらに例示する。補強されたXIIR配合物中の異なるリグニンの種類の効果を比較することにより、異なるリグニンの種類が異なる程度で性能に影響を及ぼすことが示される。これは、例えば特定の配合物においてより大きな反応性を示すリグニンを選択することによって、特定のリグニンを化学的に修飾する必要なしに、リグニン補強の適合が代替的なリグニンの使用を通じて達成され得ることを示している。例えば、リグニンは、特定のフェニルプロパノイド単位、特に、グアヤシル(G)、シリンギル(S)およびp-ヒドロキシフェニル(H)リグニン構造に対応するコニフェリルアルコール、シナピルアルコールおよびクマリルアルコール単位の存在量に基づいて選択され得る。
【0032】
異なる物理的形態のリグニン、粉末およびペレットの使用も例示されており、ペレット化されたリグニンを使用すると、同様のまたはわずかに改善された性能を得ることができることを実証している。健康および安全性の観点から重要であり得る粉塵をより少なく生成するので、ペレット化されたリグニンは商業的状況における乾燥/直接混合のためのより実用的な選択肢であり得るため、これは重要である。
【0033】
本発明の様々な実施形態が本明細書に開示されているが、当業者の共通の一般知識に従って、本発明の範囲内で多くの適合および修正を行い得る。このような修正は、実質的に同じように同一の結果を達成するために、本発明の任意の態様を公知の均等物で置換することを含む。数値範囲は、範囲を定義する数を含む。「を含んでいる」という語は、本明細書では「含むが、限定されない」という句と実質的に同等の非限定的な用語として使用され、「含む」という語は対応する意味を有する。本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が明確に別段の指示をしない限り、複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「1つの物(a thing)」という表記は、1より多いそのような物を含む。本明細書における参考文献の引用は、そのような参考文献が本発明の先行技術であることを認めるものではない。本明細書で引用された全ての優先権書類ならびに特許および特許出願を含むがこれらに限定されない全ての刊行物は、あたかもそれぞれの個々の刊行物が参照により本明細書に組み込まれることが具体的かつ個別的に示され、本明細書に完全に記載されているかのように、参照により本明細書に組み込まれる。本発明は、実質的に本明細書に前述されているならびに例および図面を参照する全ての実施形態および変形を含む。
【0034】
例1:ZnO硬化を有するBIIRにおけるリグニン性能
本例は、単純なZnO硬化を有する標準的なブロモブチルゴム(BIIR)配合物中のリグニンの性能を示す。表1に示されている成分を用いて、ASTM D3958に従ってゴム配合物を調製した。
【表1】
【0035】
ASTM D3182に従って、例示されている配合物を処理した。具体的には、内部ミキサーおよび標準的な2ロールミルを含む2段階過程を使用した。混合の第一段階(開始温度67℃)は、まず、ブロモブチルゴム(BIIR、X_Butyl(商標)BB2030、ハロゲン含有量1.80重量%)を内部ミキサーに投入し、ラムを下げて30秒間混合することからなった。次いで、カーボンブラック、リグニンおよびステアリン酸を添加し、ラムを下げ、5~7分の累積時間まで混合した。138℃の温度でバッチを排出した。0.25インチおよび50℃に設定して、標準的な実験室用ミルに直ちにバッチを3回通した。混合の第二段階の間に、マスターバッチと共にZnOを内部ミキサーに投入し、93℃の温度に達するまで混合した。次いで、バッチを排出し、直ちに粉砕した後(50℃および0.032インチの開口部)、材料を折り重ね、粒子の方向を交替させながら、0.25インチの開口部を4回通過させた。
【0036】
表2は、わずかな可塑化効果(最小トルクの低下)およびデルタトルクの増加が観察されるが、カーボンブラックをリグニンによって部分的に置き換えても、ゴム硬化の程度に対してほとんど影響を及ぼさないことを示す。
【表2】
【0037】
カーカスグレード(N660)カーボンブラックの40%までの置換に関しては、得られたリグニン含有加硫物の物理的特性に対する影響はほとんどまたは全く存在しなかった(表3、D)。より高いリグニン添加量では、機械的特性は一般に低下する(表3、E)が、50~100%伸びでの引張弾性率に基づくと、ある程度の補強が観察される。(表3、A対E)。補強/トレッドグレードのカーボンブラック(N330)をリグニンで置き換えると、対照と比較してリグニンで引張弾性率のより有意な増加が観察され(表3、I対G)、それに対応して極限%伸びが減少する。これは、特に補強グレードのカーボンブラックを置き換える場合、リグニンによってより硬い加硫物を得ることができることを示している。さらに、同様のカーボンブラック含有量を有するがリグニンを含まない比較サンプルは、著しく低い引張弾性率を有する(表3、H)。
【表3】
【0038】
例2-従来の硫黄硬化を有するNR化合物におけるリグニン性能
本例では、(表4に示されているように)例1に記載されている条件を使用して、ASTM D3192の配合に従って標準的な天然ゴム(NR)化合物を調製した。
【表4】
【0039】
(表5に示されている)これらの化合物の物理的特性の比較は、BIIR(例1)と比較して、NRの機械的特性に対するリグニンの異なる効果を示している。リグニンがカーボンブラックの25%置換で存在する場合(表5、M)、引張強度は対照と同様であるが、極限%伸びの増加が存在し、これに対応して引張弾性率が低下する。しかしながら、引張弾性率は、未充填ゴム(表5、J)および同等のカーボンブラック添加量を有する化合物(表5、L)の引張弾性率よりも高い。50%置換では、引張強度および弾性率は対照より著しく低いが、未充填ゴムよりなお高い(表5、J)。100%置換では、300%伸びまでの引張弾性率は未充填ゴムの引張弾性率よりも著しく高いが、破断時の引張強度および極限%伸びは低下する。
【表5】
【0040】
例3-半効率的硬化を有するBIIR/NR配合物におけるリグニン性能
本例では、それぞれのBIIR系およびNR系におけるリグニンの相補的効果が実証される。ZnOに加えて、硫黄ドナーおよび促進剤を含むより複雑な硬化パッケージを有する複合BIIR/NR系を調製し(表6)、例1に従って処理した。しかしながら、本例では、混合の第二段階中に、ZnO、TMTM、MBTSおよびVultac 5をマスターバッチと共に内部ミキサーに投入し、93℃の温度に達するまで混合した。次いで、バッチを排出し、直ちに粉砕した後(50℃および0.032インチの開口部)、材料を折り重ね、粒子の方向を交替させながら、0.25インチの開口部を4回通過させた。
【0041】
表6は、対照(P)に対する異なるリグニン化合物(QおよびR)の組成を示す。化合物Qについては、N330カーボンブラックの20%がリグニンで置換されたのに対して、化合物Rでは、カーボンブラックの置換に加えて粘土の20%がリグニンで置換され、総リグニン添加量は16phrであった。
【表6】
【0042】
この配合物では、ゴム加硫物の硬化過程が著しく影響を受けた。基本的なASTM配合とは対照的に、リグニンを含まない対照(P)と比較して最小トルクおよび最大トルクの両方ならびにデルタトルクの著しい増加がリグニンサンプル(QおよびR)に対して観察された(表7)。最小および最大トルク値は、より高いリグニン添加量(R)についてわずかに高かったが、トルク差は2つの異なるリグニン添加量について同様であった。
【表7】
【0043】
機械的試験データは、伸びのわずかな減少と共に、異なるひずみでの化合物(QおよびR)の剛性(弾性率)の著しい増加を示した(表8)。しかしながら、引張強度は、リグニン(P)および完全なCB添加なしの加硫物と同等である。さらに、剛性増加の効果は、ひずみが200%(Q)および300%(R)まで増加するにつれてより顕著になった。
【0044】
リグニンを含有する両加硫物(QおよびR)は、対照(P)より改善された(より低い)透気率値を有し、これはインナーライナーなどの特定の用途に有益である。カーボンブラックおよび粘土の二重部分置換(R)は、実験的変動の範囲内で空気不透過性と亀裂成長抵抗に関して最良のバランスを例証した。これは、リグニンが、化合物の空気不透過性を改善しながら、XIIR加硫物においてカーボンブラックおよびシリカなどの補強性充填剤と粘土などの非補強性充填剤の両方を代替できることを示している。さらに、リグニンの密度は粘土の密度より著しく低い(典型的には約半分)ので、これは、改善された特性を有する軽量加硫物の製造を容易にする。
【表8】

【表9】
【0045】
架橋密度は、Boonkerdら(2016)によって記載されているように、n-デカン中での溶媒膨潤によって決定した。架橋密度の結果は、引張弾性率の観察を裏付けている。BIIR/ZnO化合物について架橋密度(XLD)を比較すると、対照(表9、G)と比較してリグニンの存在下でのXLDのわずかな増加(表9、I)が観察された。NR/CV硬化に関しては、25%EKL置換(表9、M)は、同等のカーボンブラックを有する対応するサンプル(表9、L)または未充填サンプル(表9、J)よりわずかに高い架橋密度を示すが、対照の架橋密度(表9、K)より低い架橋密度を示す。80/20のBIIR/NR組成および硫黄ドナーを有する配合物では、架橋密度はリグニンの存在下で著しく増加する(表9、Q対P)。
【0046】
例4-特性に対するゴム組成の効果
本例では、リグニンで観察される剛性の増加は、インナーライナー配合物中のゴムの種類の特異的な組み合わせに固有であることが示される。表10は、リグニンを含まない(S)もしくはリグニンを含む(T)100phrのBIIRまたはリグニンを含まない(U)もしくはリグニンを含む(V)100phrのNRのいずれかを含有する配合物の比較サンプルを示す。80phrのBIIRと20phrのNRを含有する特定のインナーライナー配合物(表6、PおよびQ)に対してこれらの化合物の引張特性を比較すると、リグニンは100phrのBIIRおよび100phrのNR系のいずれにおいても利益をもたらさないことが明らかである(表11)。100phrのBIIR系に関しては、リグニンを用いて得られた引張特性はリグニンなしの引張特性と同じであり、100phrのNR系に関しては、リグニンの存在下で引張特性、特に剛性が低下する。
【表10】

【表11】
【0047】
例5-追加硬化成分のリグニン置換
例3において開示されるような増加した架橋度、引張弾性率の増加およびデルタトルクの増加は、リグニンと硬化系間の相互作用を示す。半効率的加硫系におけるリグニンの驚くべき性能をさらに例示するために、本例では、表12に示されているように、様々な硬化化学物質の除去/低減を伴う実施形態が例示されている。
【表12】
【0048】
表13および14中の流動学的特性を比較すると、化合物X、W1およびW1+Xは、最大約50%の硬化剤を除去した場合でさえ、対照(P)より著しく高い最大トルクおよびデルタトルクを達成した。これは、硬化過程中のリグニンの驚くべき役割を示している。Vultac 5を完全に除去すると(W)、同様の最大トルクが得られたが、デルタトルクはわずかに低下した。全ての事例において、最小トルクはリグニンを用いるとより高かった。
【表13】

【表14】
【0049】
加硫物の機械的特性が表15に示されている。化合物Wは対照(P)よりも低い極限引張強度を有するが、その疲労性能(亀裂成長抵抗)は著しく改善されており、これは弾力性を必要とする用途、例えばインナーライナーにとって重要であることに注目されたい。改善された疲労性能に加えて、化合物Wは、300%までの伸びに関して化合物Pよりも剛性である。これは、一次硬化剤、すなわち硫黄ドナーの完全な除去という最も極端な事例に相当する。耐変形性と疲労性能は通常逆相関するので、疲労性能の改善と共に耐変形性(剛性/引張弾性率)が改善されたことは、共補強剤とリグニンの併用によって達成することができる特性の類のない調和である。しかしながら、この化合物の透気率は著しく増加する。
【0050】
さらに、リグニンが化合物中に存在する場合、機械的剛性に対して悪影響を及ぼすことなく、各硬化化学物質の50%を除去することができた(表15-W1、XおよびW1+X)。実際に、デルタトルクの増加と一致して、これらの化合物は対照と比較して優れた引張弾性率を有する。ZnO添加量の50%の減少(表15、X)は、亀裂成長性能または透気率を改善しないが、S-ドナーの50%の減少(表15、W 1)は、S-ドナーを含まない化合物(表15、W)と比較して、亀裂成長抵抗を著しく改善し、透気率も改善する。
【0051】
SドナーとZnOの複合的な減少(W1+X)は、良好な透気率を維持しながら、最良の亀裂成長性能を与える。しかし、この事例では、極限引張強度は元の77%に低下する。しかしながら、このリグニン化合物の引張弾性率は対照よりなお高く、これに対応して極限伸びが低下し、主硬化剤の両方を50%減少させた場合でさえ、リグニン存在下で化合物の剛性はより大きく、優れた亀裂成長抵抗を有することを示した。
【表15】
【0052】
例6-半効率的硬化を有するBIIR/NR配合物に対するリグニンの種類の効果
リグニン組成は、供給源(バイオマス)および抽出方法に応じて変化し得る。本例では、BIIR/NR/半効率系における異なる種類のリグニンの性能(表16)が例示される。異なるリグニンの種類は、広葉樹クラフト(HKL)、北米針葉樹クラフト(SKL1)、オルガノソルブリグニン(OSL)、リグノスルホナート(LS)およびスルホン化クラフトリグニン(SL)である。サンプルは上記のように配合し、加硫した。
【表16】
【0053】
これらの加硫物の機械的特性を表17に示す。極限引張強度および弾性率は、対照と比べて対照のものと比較的同等であり、HKL(Z)およびOSL(BB)の存在下でわずかに向上する。
【表17】
【0054】
例7:リグニン水分含有量および物理的形態(リグニンペレットおよび粉末)の特性に対する効果
本例では、加硫物性能に対するリグニン水分含有量(結合水および遊離水)および物理的形態(粉末およびペレット)の効果を提示し、表18に示す。リグニンを含まないカーボンブラック参照化合物(EEおよびFF)は、水分含有量にかかわらず同様の硬化および引張特性を有する。最大4phrの合計添加量まで水分含有量を増加させた場合でさえ、性能の差は観察されなかった。比較すると、水分含有量はリグニン含有加硫物性能に対しては影響を及ぼした。乾燥リグニンを用いて調製されたサンプル(GG)は、カーボンブラックのみのサンプル(EEおよびFF)と同程度の性能を示した。しかしながら、リグニン含有サンプルにおいては、水分の存在下で物理的特性の増加が観察された。水分含有量を10重量%に増加させると(HH)、引張特性が改善され、特に化合物剛性が改善された。この性能の改善は、水分含有量が100重量%までさらに増加された場合(JJ)にも維持された。他のリグニンの種類(KKおよびLL)についても同様の性能が観察された。
【0055】
リグニンのペレット化(直径1~2mmのペレット)は性能に影響を及ぼさず、リグニンペレットを使用して調製された対応する加硫物(II)は粉末形態(HH)と同程度に優れた性能を示した。いくつかの実施形態では、卵形ペレットが試験されており、同様の結果が得られ、大きな寸法は最大約10mm、小さな寸法は最大約5mmである。
【表18】
【0056】
参考文献
【数1-1】

【数1-2】

【国際調査報告】