(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-22
(54)【発明の名称】ヒトTRBV9に特異的に結合するモノクローナル抗体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220215BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20220215BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220215BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20220215BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20220215BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20220215BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220215BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220215BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220215BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220215BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20220215BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220215BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220215BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20220215BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220215BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20220215BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220215BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220215BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C07K16/28
C07K16/46
C07K19/00
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P43/00 111
A61P7/00
A61P29/00
A61P35/02
A61K45/00
A61P43/00 121
A61P35/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021537704
(86)(22)【出願日】2019-12-24
(85)【翻訳文提出日】2021-08-25
(86)【国際出願番号】 RU2019050257
(87)【国際公開番号】W WO2020139171
(87)【国際公開日】2020-07-02
(32)【優先日】2018-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516261966
【氏名又は名称】ジョイント・ストック・カンパニー “バイオキャド”
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100107386
【氏名又は名称】泉谷 玲子
(72)【発明者】
【氏名】ブリタノワ,オルガ・ウラジミロフナ
(72)【発明者】
【氏名】スタロフェロフ,ドミトリー・ボリソビッチ
(72)【発明者】
【氏名】エフストラテワ,アンナ・バレンチノフナ
(72)【発明者】
【氏名】ミソリン,アレクセイ・コンスタンチノビッチ
(72)【発明者】
【氏名】ネマンキン,ティモフェイ・アレクサンドロビッチ
(72)【発明者】
【氏名】シュチェメレワ,マリーア・アレクサンドロフナ
(72)【発明者】
【氏名】ウラディミロワ,アンナ・コンスタンティノフナ
(72)【発明者】
【氏名】アニキナ,アリーナ・ビタレフナ
(72)【発明者】
【氏名】イワノフ,ロマン・アレクセービッチ
(72)【発明者】
【氏名】モロゾフ,ドミトリ・バレンチノビッチ
(72)【発明者】
【氏名】イアコフレフ,パベル・アンドレービッチ
(72)【発明者】
【氏名】ルキャノフ,セルゲイ・アナトリエビッチ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA94X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C084AA19
4C084NA05
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4C084ZA51
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4C084ZB27
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4C084ZC75
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB36
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4C085DD62
4C085EE01
4C085EE03
4C085GG01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA22
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、ヒトT細胞受容体のTRBV9ファミリーに特異的に結合するモノクローナルヒト化抗体またはその抗原結合断片に関する。本発明はまた、前記抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸、発現ベクター、前記抗体を調製するための方法、およびヒトT細胞受容体ファミリーに関連付けられる疾患または障害の処置における前記抗体の使用にも関する。本発明は、病態形成がTRBV9ファミリーTCRを伴う、特にAS、セリアック病および悪性血液疾患を処置するために使用され得る抗体の生成を対象とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトT細胞受容体のTRBV-9ファミリーベータ鎖領域に特異的に結合するモノクローナル抗体またはその抗原結合断片であって、アミノ酸配列が配列番号16に示される重鎖可変ドメイン、およびアミノ酸配列が配列番号18に示される軽鎖可変ドメインを含む、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項2】
配列番号20のアミノ酸配列を有する重鎖、および配列番号22のアミノ酸配列を有する軽鎖を含む、請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項3】
完全長IgG抗体である、請求項2に記載のモノクローナル抗体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸であって、前記抗体またはその抗原結合断片は、ヒトT受容体のTRBV9ファミリーベータ鎖領域に特異的に結合する、核酸。
【請求項5】
請求項4に記載の核酸を含有する発現ベクター。
【請求項6】
請求項1から3のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片を生産するための宿主細胞を得る方法であって、請求項5に記載のベクターによる細胞の共形質転換を含む、方法。
【請求項7】
請求項4に記載の核酸を含む、請求項1から3のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片を得るための宿主細胞。
【請求項8】
請求項1から3のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片を得る方法であって、前記抗体の産生を確実にする条件下で培養培地中で請求項7に記載の宿主細胞を培養するステップ、これに続いて得られた抗体を単離および精製するステップを含む、方法。
【請求項9】
ヒトT受容体のTRBV9ファミリーベータ鎖領域によって媒介される疾患または障害を予防または処置するための医薬組成物であって、治療有効量の請求項1から3のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片を、1つまたは複数の医薬的に許容される賦形剤と組み合わせて含む、医薬組成物。
【請求項10】
前記疾患または障害が、強直性脊椎炎、セリアック病、T細胞白血病、T細胞リンパ腫の群から選択される、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
TRBV9ファミリーベータ鎖を有するヒトT細胞受容体によって媒介される疾患または障害を予防または処置するための医薬組成物であって、治療有効量の請求項1から3のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片、および治療有効量の少なくとも1つのその他の治療活性化合物を含有する、医薬組成物。
【請求項12】
前記疾患または障害が、強直性脊椎炎、セリアック病、T細胞白血病、T細胞リンパ腫の群から選択される、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
その他の治療活性化合物が、小分子、抗体またはステロイドホルモンから選択される、請求項11または12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
ベータ鎖がTRBV9ファミリーに属するT細胞受容体の生物学的活性を阻害することが必要な対象において、そのような活性を阻害するための方法であって、請求項1から3のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片の有効量を対象に投与するステップを含む、方法。
【請求項15】
TRBV9ファミリーベータ鎖を有するヒトT細胞受容体によって媒介される疾患または障害を処置するための方法であって、治療有効量の請求項1から3のいずれかに記載の抗体もしくはその抗原結合断片または請求項9から13に記載の医薬組成物を、そのような処置を必要とする対象に投与するステップを含む、方法。
【請求項16】
疾患または障害が、強直性脊椎炎、セリアック病、T細胞白血病、T細胞リンパ腫の群から選択される、請求項17に記載の疾患または障害を処置するための方法。
【請求項17】
TRBV9ファミリーベータ鎖を有するヒトT細胞受容体によって媒介される疾患または障害の処置を必要とする対象において、そのような疾患または障害を処置するための、請求項1から3のいずれかに記載の抗体もしくはその抗原結合断片、または請求項9から13のいずれかに記載の医薬組成物の使用。
【請求項18】
疾患が、強直性脊椎炎、セリアック病、T細胞白血病、T細胞リンパ腫の群から選択される、請求項17に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオテクノロジーおよび生物医学の分野に、特に、抗体またはそれらの抗原結合断片に、ならびにそれらの使用に関する。より具体的には、本発明は、ヒトT細胞受容体ファミリーに特異的に結合するモノクローナルヒト化抗体に関する。本発明はまた、前記抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸、発現ベクター、前記抗体を調製するための方法、およびヒトT細胞受容体ファミリーに関連付けられる疾患または障害の処置における前記抗体の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
自己免疫疾患は自己反応性Tリンパ球によって引き起こされる(Haroon Nら、Arthritis Rheum.2013年10月;65(10):2645~54.、Duarte J.ら、PloS One 2010年5月10日;5(5):e10558;Konig M.ら、Front Immunol 2016年1月25日;7:11)。先行技術は、T細胞受容体(TCR)配列が、自己免疫疾患の病態形成に関与するTリンパ球クローンを特定するのを可能にするマーカーであることを開示する。構造的に、T細胞受容体のサブユニットは免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバであり、いくつかの遺伝子セグメントから形成される。TCR可変領域はTCR抗原結合部位を形成する。このことは、TCR可変領域はクローン特異的であること、すなわち、個別の抗原に応答するTリンパ球で異なることを意味する。
【0003】
TCR可変ドメイン内の可変(V)遺伝子セグメントのアミノ酸相同性の観点から、T細胞受容体は、様々なファミリーに分けられる。IMGT命名法にしたがって、ベータ鎖は26の個別のファミリーに区別され、アルファ鎖は41のファミリーに区別される(Turner SJら、Nature Reviews Immunology 2006、V.6、883~894)。TCR鎖ファミリーを決定するために、試験アミノ酸配列、および既知のTCR鎖配列の多重整列を使用するが、これに関する情報は、http://www.imgt.orgにてインターネット上で入手可能なIMGTデータベース(「The international ImMunoGeneTics information system」、Lefranc M-P.、Nucl Acids Res 2001;29:207~209)にまとめられてある。IgBlastソフトウェアパッケージを使用して、TCR鎖ファミリーの多重整列と決定が行われ得る。
【0004】
WO9006758が開示するところは、関節リウマチの診断および治療のための手段として提案された、TRBV5-3およびTRBV8-1のファミリーに属する、ヒトT細胞受容体可変ドメインのβ鎖領域に対する、モノクローナル抗体W112および2D1である。前記モノクローナル抗体は、それぞれ、TRBV5-3を有する0.3~5%の間の末梢Tリンパ球、およびTRBV8-1を有する0.5~13%の間の末梢Tリンパ球を認める。関節リウマチの病態形成におけるTリンパ球の関与を実証する多くの研究の結果は、T受容体のベータ鎖領域に特異的なモノクローナル抗体の使用をもたらした。具体的には、Brennanら、Clin Exp Immunol.1988年9月;73(3):417~423が、関節リウマチを罹患する患者の骨液試料において、健常者の骨液試料と比較して、TRBV5およびTRBV8を有するTリンパ球の高いパーセンテージを実証した。WO9405801は、ヒトT細胞受容体のVB3.1可変領域のエピトープと相互作用する、関節リウマチの診断および治療のためのモノクローナル抗体を開示しており、これは、TCR V(ベータ)3.1サブファミリーと相互作用する。
【0005】
ラットTRCの第13ファミリーベータ鎖を特異的に認識するモノクローナル抗体も記載されてきた。動物モデルが実証したところは、それら抗体の助けを借りて、T受容体がVB13ベータ鎖を含む(VB13+ T細胞)T細胞の小集団を予防的に除去することが可能であることであり、そして、こうした処置は、糖尿病易発性の系統のラットにおいて、I型糖尿病の発症を予防するとともに、また、ウイルス誘導性糖尿病の発症のリスクも著明に低減すること、が示されてきた(Zhijun Liuら、Diabetes.2012年5月;61(5):1160~1168.)。同時に、T受容体が個別のベータ鎖ファミリー(VB16)を含むT細胞の除去の結果は、対照群の結果とは異ならない。VB13に対するモノクローナル抗体の最初の投与でさえ、ラット脾臓において、VB13+ T細胞数の60%低下をもたらすことに留意されたい。
【0006】
強直性脊椎炎(ASまたはベクテレフ病)の患者における自己免疫TCRのコンセンサスバリアントが記載されており、これは、TCRのHLA*B27対立遺伝子の状態に関わらず、ASの患者において滑液および末梢血中に存在し、そして健常ドナーにおいては同じ分析深度にて非存在であることが示されてきた(Faham Mら、Arthritis Rheumatol.2017;69(4):774~784;Komech Еら 12th EJI-EFIS Tatra Immunology Conference;2016年9月3~7日;Strbske Pleso、Slovakia.要旨集39ページ)。前記TCRは、TRBV9ファミリーのメンバである(IMGTの命名法による)。TRBV9ファミリーベータ鎖を有するT細胞受容体は、セリアック病としてかかる自己免疫疾患の発症にも関与することが示されてきた(Petersen Jら、J Immunol.2015;194(12):6112~22)。それらはまた、エプスタイン-バーウイルス(EBV)によって引き起こされるT細胞リンパ腫を含めて、T細胞リンパ腫およびT細胞白血病において、悪性化にせまりやすいT細胞の表面でも見られる(Toyabe Sら、Clin Exp Immunol.2003;134(1):92~97)。
【0007】
出願第RU2017145662号は最近、ヒトT受容体のTRBV9ファミリーベータ鎖領域に特異的に結合することができるキメラモノクローナル抗体について記載しており、このモノクローナル抗体は、病態形成がTRBV9ファミリーに属するTCRを伴う自己免疫疾患および腫瘍性疾患、例えば、AS、セリアック病およびある種のT細胞リンパ腫およびT細胞白血病の治療に使用され得る。
【0008】
前記抗体は、TRBV9ファミリーTCRを有するT細胞を排除するのに使用され得る唯一の現在知られる抗体である。前記抗体の主たる欠点は、比較的低い程度のヒト化である、すなわち、前記抗体は、ヒト様の定常領域および構造成分を含むが、ラット様可変ドメインを有する。前記抗体の重鎖の可変断片に関してヒト化の程度は72%であり、一方、軽鎖の可変断片に関してヒト化の程度は69%である。
【0009】
上記親モノクローナル抗体は、
1)それらの重鎖の可変ドメイン(VH)であって、3つの超可変領域、HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含み、
HCDR1(Kabatナンバリングスキームによる)は、配列番号1のアミノ酸配列を有し、
HCDR2は、配列番号2のアミノ酸配列を有し、
HCDR3は、配列番号3のアミノ酸配列を有する、重鎖の可変ドメイン;
2)それらの軽鎖の可変ドメイン(VL)であって、3つの超可変領域、LCDR1、LCDR2、およびLCDR3を含み、
LCDR1は配列番号4のアミノ酸配列を有し、
LCDR2は配列番号5のアミノ酸配列を有し、
LCDR3は配列番号6のアミノ酸配列を有する、軽鎖の可変ドメイン
を含む。
【0010】
上記親モノクローナル抗体は、配列番号8および10に示されるアミノ酸配列を有する重鎖の可変ドメインおよび軽鎖の可変ドメインを含む。
上記親モノクローナル抗体は、配列番号12に示されるアミノ酸配列を有する軽鎖、および配列番号14のアミノ酸配列を有する抗体重鎖を含む。
【0011】
上記親抗体の重鎖の前記アミノ酸配列および軽鎖の前記アミノ酸配列をコードする各ヌクレオチド配列の例が、配列番号13および11に示される。
本発明は、モノクローナル抗体の生成を対象とし、この抗体は、病態形成がTRBV9ファミリーTCRを伴う、特にAS、セリアック病および悪性血液疾患の治療のために、TRBV9ファミリーTCRを有するT細胞を排除するのに使用され得、かつ、この抗体は高程度のヒト化によって特徴付けられる。同時に、ヒト化は抗体の親和性および/または溶解性の極めて重大な低下をもたらす場合が多い。したがって、ヒト化機能抗体を生成することは適切なタスクである。
【発明の概要】
【0012】
本発明は、ヒト化モノクローナル抗体およびその抗原結合断片であって、ヒトT受容体のTRBV9ファミリーベータ鎖領域に高親和性で特異的に結合する能力を有する、ヒト化モノクローナル抗体およびその抗原結合断片に関する。本発明による抗体は、病態形成がTRBV9ファミリーに属するTCRを伴う自己免疫疾患および腫瘍性疾患、例えば、AS、セリアック病およびある種のT細胞リンパ腫およびT細胞白血病を処置するための医薬として使用され得る。
【0013】
好ましい態様では、本発明の抗体は、
3つの超可変領域を持つ重鎖の可変ドメイン(VH)であって、
1)HCDR1(Kabatナンバリングスキームによる)は、配列番号1のアミノ酸配列を有し、
2)HCDR2は、配列番号2のアミノ酸配列を有し、
3)HCDR3は配列番号3のアミノ酸配列を有する、重鎖の可変ドメイン;
2)3つの超可変領域、LCDR1、LCDR2、およびLCDR3を持つ軽鎖の可変ドメイン(VL)であって、
LCDR1は、配列番号4のアミノ酸配列を有し、
LCDR2は、配列番号5のアミノ酸配列を有し、
LCDR3は、配列番号6のアミノ酸配列を有する、軽鎖の可変ドメイン
を含む。
【0014】
特段の記載がない限り、抗体のCDRを決定するために以下では、よく知られるKabatナンバリングスキームが使用される。
それによって、抗体の重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメインは、重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメインのFR断片にアミノ酸置換を含み、この置換は、親抗体と比較して、本発明の抗体のヒト化の程度を向上する。
【0015】
いくつかの(some)態様では、アミノ酸配列が配列番号8に示される、親抗体の重鎖の可変ドメインと比較して、本発明の抗体の重鎖の可変ドメインは少なくとも10個のヒト化アミノ酸置換を含む。
【0016】
好ましい態様では、本発明の抗体の重鎖の可変ドメインは、配列番号16に示される配列を有する。
いくつかの態様では、本発明の抗体の重鎖の可変ドメインは、抗体特異性を改変しないさらなるアミノ酸置換を含む。
【0017】
いくつかの態様では、アミノ酸配列が配列番号10に示される、親抗体の軽鎖の可変ドメインと比較して、本発明の抗体の軽鎖の可変ドメインは少なくとも10個のヒト化アミノ酸置換を含む。
【0018】
好ましい態様では、本発明の抗体の軽鎖の可変ドメインは、配列番号18に示される配列を有する。
いくつかの態様では、本発明の抗体の軽鎖の可変ドメインは、抗体特異性を改変しないさらなるアミノ酸置換を含む。
【0019】
いくつかの態様では、本発明のモノクローナル抗体は、完全長のヒトIgG抗体、例えば、IgG1またはIgG2またはIgG3またはIgG4である。
いくつかの態様では、本発明の抗体は重鎖を含み、この重鎖のアミノ酸配列は、配列番号20のアミノ酸配列と、少なくとも85%同一、または少なくとも90%同一、または少なくとも91%同一、または少なくとも92%、または少なくとも93%同一、または少なくとも94%、または少なくとも95%、または少なくとも96%、または少なくとも97%、または少なくとも98%または少なくとも99%または100%同一である。
【0020】
いくつかの態様では、本発明の抗体は軽鎖を含み、この軽鎖のアミノ酸配列は、配列番号22のアミノ酸配列と、少なくとも85%同一、または少なくとも90%同一、または少なくとも91%同一、または少なくとも92%、または少なくとも93%同一、または少なくとも94%、または少なくとも95%、または少なくとも96%、または少なくとも97%、または少なくとも98%または少なくとも99%または100%同一である。
【0021】
いくつかの態様では、抗体は、アミノ酸配列が配列番号22に示される軽鎖と、アミノ酸配列が配列番号20に示される重鎖とを有する。
また提供されるのは、本発明による抗体の重鎖の可変ドメインおよび軽鎖の可変ドメインをコードする核酸、本発明による抗体の重鎖および軽鎖ならびにそれらの機能的断片をコードする核酸、でもある。
【0022】
また提供されるのは、本発明の核酸および選択された宿主細胞において当該核酸の発現に必要な調節エレメントを含む発現カセットおよび発現ベクターでもある。ベクターまたは発現カセットは、染色体外エレメントとして宿主細胞中に存在してもよく、前記発現カセットまたはベクターの細胞への導入(トランスフェクションによる)の結果として細胞ゲノムに統合されてもよい。
【0023】
さらに、提供されるのは、本発明の核酸、ベクターまたは発現カセットを含む細胞および安定な細胞株、ならびにこれらの調製方法である。
また提供されるのは、上記抗体またはその抗原結合断片を生産するための方法でもあり、前記抗体の産生を確実にする条件下で、培養培地中で上記宿主細胞を培養するステップを含む。いくつかの態様では、方法は、生成する抗体のその後の単離および精製を含む。
【0024】
また提供されるのは、ヒトT受容体のTRBV9ファミリーベータ鎖領域によって媒介される疾患または障害を予防または処置するための医薬組成物でもあり、これは、上記抗体またはその抗原結合断片を、1つまたは複数の医薬的に許容される賦形剤と組み合わせて含む。
【0025】
一態様では、医薬組成物は、強直性脊椎炎、セリアック病、T細胞白血病、T細胞リンパ腫の群から選択される疾患または障害を予防または処置することを意図するものである。
【0026】
また提供されるのは、TRBV9ファミリーベータ鎖を有するヒトT細胞受容体によって媒介される疾患または障害を予防または処置するための医薬組合せでもあり、これは、上記抗体またはその抗原結合断片およびその他の少なくとも1つの治療活性化合物を含む。
【0027】
一態様では、医薬組合せは、強直性脊椎炎、セリアック病、T細胞白血病、T細胞リンパ腫の群から選択される疾患または障害を予防または処置することを意図するものである。
【0028】
一態様では、医薬組合せまたは医薬組成物は、小分子、抗体、またはコルチコステロイドなどのステロイドホルモンから選択される他の治療活性化合物を含む。
また提供されるのは、ベータ鎖がTRBV9ファミリーに属するT細胞受容体の生物学的活性を阻害することが必要な対象において、そのような活性を阻害するための方法でもあり、この方法は、上記抗体またはその抗原結合断片の有効量を対象に投与するステップを含む。
【0029】
また提供されるのは、TRBV9ファミリーベータ鎖を有するヒトT細胞受容体によって媒介される疾患または障害を処置するための方法でもあり、この方法は、治療有効量の上記抗体もしくはその抗原結合断片または前記医薬組成物を、そのような処置を必要とする対象に投与するステップを含む。
【0030】
疾患または障害を処置するための方法の態様の1つでは、疾患または障害は、強直性脊椎炎、セリアック病、T細胞白血病、T細胞リンパ腫の群から選択される。
また提供されるのは、TRBV9ファミリーベータ鎖を有するヒトT細胞受容体によって媒介される疾患または障害の処置を必要とする対象において、そのような処置をするための、上記抗体もしくはその抗原結合断片または上記医薬組成物の使用でもある。
【0031】
使用の態様の1つでは、疾患は、強直性脊椎炎、セリアック病、T細胞白血病、T細胞リンパ腫の群から選択される。
本発明の技術的成果とは、高度のヒト化を備える抗体を得ることにあり、この抗体は、ベータ鎖がTRBV9ファミリーに属するTCRに、高親和性で特異的に結合し、かつ、自己免疫および腫瘍性疾患であって、その病態形成がTCRを伴い、このベータ鎖はTRBV9ファミリーに属する、自己免疫および腫瘍性疾患を処置するのに使用され得る。
【0032】
好ましい態様では、抗体重鎖可変断片は87%のヒト化の程度によって特徴付けられる。好ましい態様では、抗体軽鎖可変断片は85%のヒト化の程度によって特徴付けられる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】抗体MA-042を使用してTリンパ球をソーティングした結果を示す、図である。
【
図2】1ng/ml(右)および1μg/ml(左)の濃度での抗体MA-042の存在下での細胞毒性活性アッセイの後のTリンパ球のフローサイトメトリーの結果を示す、図である。矩形は、CD45+CD3+TRBV9+の集団を示す。
【
図3】細胞毒性アッセイにおけるMA-042の半有効濃度(EC50)を決定するための、MA-042濃度に応じた死滅Tリンパ球の数を示す、図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明は、アナログと比較して、ヒト化の程度が向上した、ヒトT受容体のTRBV9ファミリーベータ鎖領域に特異的に結合する能力を有する単離されたモノクローナル抗体およびそれらの機能的断片に関する。また提供されるのは、本発明の抗体およびそれらの断片をコードする核酸、本発明の核酸を含む発現カセットおよび発現ベクター、ならびに選択された宿主細胞における核酸の発現に必要な調節エレメントでもある。さらに、提供されるのは、本発明の核酸、ベクターまたは発現カセットを含む細胞および安定な細胞株である。また提供されるのは、モノクローナル抗体またはその機能的断片を生産するための方法、有効量の本発明の抗体を、1つもしくは複数の医薬的に許容される賦形剤、希釈剤または担体と組み合わせて含む、医薬組成物および医薬組合せ、ならびに、本発明の抗体を使用したASおよびその他の疾患の診断および治療のための方法でもある。
【0035】
定義
本発明は、まずいくつかの用語の定義があることで、より容易に理解されるであろう。
本明細書で提供の材料および方法は、これらは変化してもよいので、特定の組成物および方法ステップに限定されないことが理解される。本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、文脈上が明らかに指示されていない限り、単数形は相当する複数形の参照を含むことに留意されたい。
【0036】
ヒト「T細胞受容体」とは、「TCR」、「T受容体」とも呼ばれるが、Tリンパ球表面上に見られるヘテロ二量体タンパク質複合体である。T受容体は、Tリンパ球上にのみ存在する。TCRの主な機能は、主要組織適合遺伝子複合体(HLA)の分子に結合した、プロセシングを受けた抗原を特異的に認識することである。
【0037】
ヒトTCRは、2つのサブユニット、α鎖およびβ鎖、またはγ鎖およびδ鎖からなり、ジスルフィド結合を通して連結され、細胞膜上に結合される。TCR鎖はそれぞれ、N末端可変(V)ドメイン、連結ドメイン、およびTリンパ球形質膜中に受容体を固定する膜貫通ドメインに連結された定常(C)ドメインを有する。アルファ鎖およびベータ鎖の定常ドメインの長さは、それぞれ、91個および129個のアミノ酸残基である。アルファ鎖の連結ドメインおよび膜貫通ドメインの長さは30個および17個のアミノ酸残基(AAR)であり、そしてベータ鎖の連結ドメインおよび膜貫通ドメインの長さは21個および22個のAARである。T受容体可変ドメインの長さは、104個から125個までのAARで変動する。
【0038】
Tリンパ球のごく一部が、γ/δ型T受容体を有する。これらは、α/β受容体と類似して構成されるが、一次構造が異なるとともにいくつかの機能的特徴を有する。これらは、はるかにより低い可変性(限定されたクローン特異性)を呈するとともに、「非古典的」(非MHC)抗原提示分子を含む複合体中の抗原またはさらには遊離抗原を認識する。
【0039】
T受容体は、その相補性を決定する6つの領域(CDR):3つのアルファ鎖領域および3つのベータ鎖領域を介して、MHC/抗原複合体と反応する。これらのCDRは、超可変領域、T細胞受容体の可変ドメインのループ、VアルファおよびVベータである。
【0040】
「TRBV9」または「TRBV9ファミリー」という用語は、IMGT命名法にしたがって区別されるように、T細胞受容体のベータ鎖の第9ファミリーを指し、これは、その可変ドメインのアミノ酸配列が、CDR1(アミノ酸配列はS-G-D-L-Sである)およびCDR2(アミノ酸配列はY-Y-N-G-E-Eである)の独特なモチーフを含むことで特徴付けられる。「TRBV9ファミリーTCR」という用語は、ベータ鎖がTRBV9ファミリーに属するT細胞受容体を指す。
【0041】
Tリンパ球またはTCRと関連して「病理的」という用語は、かかるTCRまたはTCR担持Tリンパ球が、疾患または病理に関連付けられるおよび/または疾患を引き起こすおよび/または疾患の発症の一因である、ことを意味する。
【0042】
TCRと関連して「自己免疫」という用語は、かかるTCRが自己免疫疾患の発症に関与することを意味する。
本明細書で使用される「抗体」という用語は、ジスルフィド結合によって連結された4つのポリペプチド鎖(2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖)からなる免疫グロブリン分子を指すことを意図するものである。軽鎖は、カッパまたはラムダと分類される。重鎖は、ガンマ、ミュー、アルファ、デルタまたはイプシロンと分類される;これらは、それぞれ、IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEなどの抗体アイソタイプを決定し、これらのうちのいくつかは、サブクラス(アイソタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2にさらに分けられ得る。各重鎖タイプは、特定の定常領域によって特徴付けられる。
【0043】
各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書では、HCVRまたはVHと略される)および重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2、およびCH3を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書では、LCVRまたはVLと略される)および軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン、CLを含む。VHおよびVLの領域は、相補性決定領域(CDR)と称される超可変性の領域にさらに細分され得るが、これらの領域は、フレームワーク領域(FR)と称されるより保存された領域によって取り囲まれる。VHおよびVLそれぞれは3つのCDRおよび4つのFRから構成され、これらは、アミノ末端からカルボキシ末端へと以下の順序:FR1、CDR1,FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4で配置される。
【0044】
本出願では、3つの重鎖CDRは「HCDR1、HCDR2およびHCDR3」と呼ばれ、一方、3つの軽鎖CDRは、「LCDR1、LCDR2およびLCDR3」と呼ばれる。CDRは、抗原と特異的に相互作用する残基の大部分を含有する。本発明による抗体のHCVRおよびLCVR内のCDRアミノ残基は、特に明記しない限り、よく知られたKabatナンバリングスキームに準じて番号付けおよび位置付けされる。本出願は、特に明記しない限り、アミノ酸に関する従来法の文字コードを含む。
【0045】
「抗TRBV9抗体」、「TRBV9に対する抗体」、「TRBV9ファミリーベータ鎖に特異的に結合する抗体」および「TRBV9ファミリーベータ鎖に対する抗体」という用語は、本出願の文脈において交換可能であり、ヒトT細胞受容体のTRBV9ファミリーベータ鎖のエピトープに特異的に結合する抗体に関するものである。
【0046】
加えて、本出願で使用される「モノクローナル抗体」とは、LCVRおよびHCVRをコードするDNAをリンカー配列に結合することによって得ることができる単鎖Fv断片とすることができる(Pluckthun、The Pharmacology of Monoclonal Antibodies、113巻、Rosenburg and Moore編、Springer-Verlag、New York、269~315ページ、1994を参照されたい)。断片または部分が言及されるかを問わず、本出願で使用される「抗体」という用語は、かかる断片または部分ならびに一本鎖形態を含むことが企図される。タンパク質がその標的(例えば、エピトープまたは抗原)に特異的にまたは好ましくは結合するその能力を維持する限り、当該タンパク質は「抗体」という用語によってカバーされる。抗体は、グリコシル化されていてもされていなくてもよく、なおも本発明の範囲内にある。
【0047】
本出願の目的上、「抗体」および「モノクローナル抗体」という用語は、TRBV9ファミリーTCRに対するモノクローナル抗体を指す。本明細書で使用される場合、「モノクローナル抗体」とは、特に明記しない限り、げっ歯類、霊長類またはラクダ科(Camelidae)の抗体に、好ましくはマウス、サル、ラクダもしくはラマの抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体または完全ヒト型抗体に、関するものである。
【0048】
「モノクローナル抗体」の集団は、同種または実質的に同種の抗体集団を指す(すなわち、集団中の抗体の少なくとも約85、90、91、92、93、94、95、96%、より好ましくは少なくとも約97または98%、さらにはより好ましくは少なくとも99%が、ELISAにおいて同じ抗原/エピトープに対して競合するか、またはより好ましくは、抗体はそれらのアミノ酸配列の点で同一である)。抗体は、グリコシル化されていてもされていなくてもよく、それでもなおも本発明の範囲内にある。モノクローナル抗体は、同一のアミノ酸配列を有する場合は同種であるとすることができるが、翻訳後修飾、例えばグリコシル化パターンにおいて異なる場合がある。
【0049】
各対の軽/重鎖の可変領域は、抗体の抗原結合部位を形成する。本出願において使用される場合、「抗原結合部分」、または「抗原結合領域」、または「抗原結合ドメイン」または「抗原結合部位」とは、抗体分子の部分であって、抗原と相互作用するとともに抗原と関連して抗体特異性および親和性を与えるアミノ酸残基を含む、このような抗体分子の部分に、相互転換可能に関するものである。抗体のこの部分は、抗原結合残基の適当なコンホメーションを維持するのに必要な、「フレームワーク」アミノ酸残基を含む。
【0050】
本明細書で使用される、「ヒト抗体」という用語は、可変ドメインおよび定常ドメインの配列がヒト配列に由来する抗体を指す。本発明によるヒト抗体は、例えばCDR中に、特にCDR3中に、ヒトにとっては通常のものでないアミノ酸残基(例えば、in vitro非特異的(undirected)突然変異誘発もしくは部位特異的突然変異誘発またはin vivo体細胞突然変異によって導入される突然変異)を含むことができる。
【0051】
「ヒト化」という用語は、抗体に関して使用される場合、ヒト様の定常領域および構造成分の存在によって特徴付けられるが、他の起源の免疫グロブリンにとって、または修飾抗体の相当する断片にとって特有である相補性決定領域(CDR)を有する、抗体を指すために使用される。
【0052】
本出願で使用される、「親」抗体とは、バリアントを得るために使用される、アミノ酸配列によってコードされる抗体である。親抗体は、げっ歯類、ラマ、キメラ、ヒト化またはヒトの各抗体に由来することができる。
【0053】
抗体と関連して「ヒト化の程度」という用語は、ヒト化抗体を生成するのに使用された、かつ、ヒトライブラリーから入手可能である元のヒトアクセプターフレームワーク領域と、ヒト化抗体のフレームワーク領域配列とのパーセント同一性を指すために使用される。好ましくは、本発明の抗体は、ヒトライブラリーから得たフレームワーク領域に関連して、少なくとも80%の同一性、典型的には少なくとも82%、より頻繁には少なくとも83%、例えば、少なくとも84%、または少なくとも85%、または少なくとも86%、または少なくとも87%の同一性を有するフレームワーク領域を含む。
【0054】
「ヒト化置換」という用語は、抗体またはその断片のヒト化の程度を向上するアミノ酸置換を指す。
本発明の抗体に関して「キメラ」という用語は、ヒト様定常領域によって特徴付けられるが、他の起源の可変領域を有する、抗体を指すために使用される。かかる抗体では、非ヒト起源の(例えば、ラット起源の)軽鎖の可変ドメインおよび/または重鎖の可変ドメインは、ヒト起源の相当する鎖の定常ドメインに作動可能に連結される。
【0055】
「作動可能に連結される」等の用語は、抗体について記載するのに使用される場合、互いに物理的(他に明記しない限り、共有結合の)および機能的関係に置かれたポリペプチド配列を指す。最も好ましい態様では、キメラ分子のポリペプチド成分の機能は、単離ポリペプチド成分の機能的特性と比較して未変化である。「作動可能に連結される」等の用語は、核酸について記載するのに使用される場合、核酸が連結されるポイントにリーディングフレームシフトおよびストップコドンが存在しないように核酸は共有結合で連結されることを、意味する。当業者であれば明白なように、「作動可能に連結される」成分(タンパク質、ポリペプチド、リンカー配列、タンパク質ドメイン等)を含むキメラタンパク質をコードするヌクレオチド配列は、前記成分をコードする断片からなり、完全長キメラタンパク質、例えば、本発明によるキメラ抗体が、ヌクレオチド配列の翻訳および転写過程で作り出されるように、前記断片は共有結合で連結される。
【0056】
本明細書で使用される場合、「単離された」という用語は、in vivoで分子または細胞が存在する環境とは異なる環境に存在する分子または細胞を意味する。
好ましい態様では、本発明の抗体は、組換え体である、すなわち、組換えDNA技法を使用して得られる。本明細書で使用される「組換え抗体」という用語には、組換え手段によって取得、発現、創製または単離されるあらゆる抗体、例えば、宿主細胞に導入された組換え発現ベクターを使用して発現された抗体、1セットの既知の組換えコンビナトリアルヒト抗体ライブラリーから単離された抗体、ヒト免疫グロブリン遺伝子に関してトランスジェニックである動物から単離された抗体(例えば、Taylor L.D.ら(1992) Nucl.Acids Res.20:6287~6295を参照されたい)、が含まれる。いくつかの態様では、組換えヒト抗体は、in vitro突然変異誘発(または、ヒトIg配列についてトランスジェニックである動物が使用される場合、in vivo体細胞突然変異誘発)に供され、したがって、組換え抗体のVH領域およびVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖細胞系列のVH配列およびVL配列に由来および関連するが、一方、in vivoでヒト抗体生殖細胞系列レパートリー内に天然では存在し得ない、配列である。
【0057】
本出願で使用される「特異的に結合する」という用語は、特異的結合対の一方のメンバがその特異的結合パートナー以外の分子に有意には結合しないという、状況を指す。この用語はまた、例えば、本発明の抗体の抗原結合ドメインは、いくつかの抗原が有する特定のエピトープに特異的である場合にも適用可能である;この場合、抗原結合ドメインを含む特異的抗体は、当該エピトープを有する種々の抗原に特異的に結合することができることになる。したがって、本発明のモノクローナル抗体は、ヒトT細胞受容体のTRBV9ファミリーベータ鎖のエピトープと特異的に結合するが、一方、その他のファミリーのTCRベータ鎖およびTCRアルファ鎖と特異的に結合しない。
【0058】
「エピトープ」という用語は、抗体の抗原結合領域のうちの1つまたは複数にて抗体によって認識され、抗体によって結合されることができる分子のその部分を指す。エピトープは多くの場合、アミノ酸や糖側鎖などの分子の化学活性表面グルーピングからなっており、特定の3次元構造特質ならびに特定の電荷特質を有する。
【0059】
本明細書で使用される場合、「エピトープ」という用語は、とりわけ、動物において、好ましくは哺乳動物、例えばマウス、ラットまたはヒトにおいて、抗原性および/または免疫原性活性を有する、ポリペプチド断片を指す。本出願で使用される「抗原性エピトープ」という用語は、抗体と特異的に結合することができ、先行技術からよく知られる任意の技法によって、例えば、標準的なイムノアッセイによって、検出され得るポリペプチド断片である。抗原エピトープは必ずしも免疫原性である必要はないが、免疫原性であってもよい。本明細書で使用される「免疫原性エピトープ」とは、先行技術から知られる任意の方法によって決定して、動物において抗体応答を惹起するポリペプチド断片として定義される。「非線形エピトープ」または「立体構造エピトープ」は、エピトープ特異的抗体に結合する抗原タンパク質内の非隣接ポリペプチド(またはアミノ酸)を含む。
【0060】
本発明の抗体またはその機能的断片に関して「生物学的特性」もしくは「生物学的特質」という句、または「活性」もしくは「生物活性」という用語は本出願において相互転換可能に使用され、これらには、エピトープ/抗原の親和性および特異性、TRBV9ファミリーに属するベータ鎖を含むTCRの活性を中和するまたはアンタゴナイズする能力が含まれるが、これらに限定されない。
【0061】
抗体の他の識別可能な生物学的特性には、例えば、交差反応性(すなわち、標的ペプチドの非ヒト相同体との、または一般にはその他のタンパク質または組織との)、および哺乳動物細胞でのタンパク質の高レベルの発現を保存する能力が含まれる。前述の特性または特質は、当技術分野で認められる技法を使用して観察、測定、および/または評価され得るが、それには、ELISA、競合的ELISA、BIACOREもしくはKINEXA表面プラズモン共鳴分析、限定されないin vitroまたはin vivo阻害アッセイ、受容体結合アッセイ、サイトカインもしくは増殖因子の産生アッセイおよび/または分泌アッセイ、およびシグナル伝達、およびヒト、霊長類または他の任意の供源を含めて種々の供源から得た組織切片の免疫組織化学が含まれるが、これらには限定されない。
【0062】
本発明の抗体の活性に関連して本出願で使用される「阻害する」または「中和する」という用語は、上記のものに限定されないが、抗体の生物学的活性、または特性、疾患または状態を含めて、まさに阻害されるところのものの例えば進行または重症度を、実質的に、アンタゴナイズする、妨げる、防止する、抑制する、遅延させる、中断する、排除する、停止する、低減する能力を指す。
【0063】
本明細書で使用される場合、「突然変異型」または「バリアント」という用語は、本発明に開示の抗体を指し、本発明の抗体またはそれらの断片の、N末端および/またはC末端にておよび/またはそれらの天然アミノ酸配列内で、1個または複数のアミノ酸が付加および/または置換および/または欠失および/または挿入される。本明細書で使用される場合、「突然変異型」という用語はまた、突然変異型タンパク質をコードする核酸分子も指す。さらに、「突然変異型」という用語は、タンパク質または核酸よりも短いまたは長い任意のバリアントを指す。
【0064】
「相同性」という用語は、ヌクレオチド配列またはアミノ酸配列と他のヌクレオチド配列またはアミノ酸配列との関係を記載するのに使用され、この関係は、比較される前記配列どうしの間の同一性および/または類似性の程度によって決定される。
【0065】
本明細書で使用される場合、アミノ酸配列またはヌクレオチド配列は、比較のために選択された領域内の指定された配列と、少なくとも85%の同一性を有する場合、参照配列と「実質的に類似」または「実質的に同じ」である。したがって、実質的に類似の配列には、例えば、少なくとも90%の同一性、または少なくとも91%の同一性、または少なくとも92%の同一性、または少なくとも93%の同一性、または少なくとも94%の同一性、または少なくとも95%の同一性、または少なくとも96%の同一性、または少なくとも97%の同一性、または少なくとも98%の同一性、または少なくとも99%の同一性を有するものが含まれる。互いに同一である2つの配列も実質的に類似である。
【0066】
参照配列に基づいて、配列同一性が決定される。配列解析用のアルゴリズムは、当技術分野で知られ、例えば、Yeら Nucleic Acids Res.2013、W34~40に記載のIgBLASTが知られる。本発明の目的上、ヌクレオチド配列どうしの間およびアミノ酸配列どうしの間の同一性および類似性のレベルを決定するため、標準的パラメータでのギャップアラインメントを使用して、National Center for Biotechnology Information(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/igblast/)によって提供されるIgBLASTソフトウェアパッケージの助けを借りて、ヌクレオチド配列およびアミノ酸配列が比較され得る。パーセント同一性を計算するため、参照配列、例えば可変領域の完全長が使用される。
【0067】
ポリペプチドを「コードする」ヌクレオチド配列への言及は、ポリペプチドが、mRNAの翻訳および転写過程でヌクレオチド配列から産生されることを意味する。これによって、mRNAと同一であるとともに配列のリストで通常使用もされるコード鎖と、転写のテンプレートとして機能する相補鎖との両方が指示され得る。当業者であれば明白なように、用語はまた、同じアミノ酸配列をコードする任意の縮重ヌクレオチド配列も含む。ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、イントロンを含む配列を含む。
【0068】
抗体
上述のように、本発明は、ヒトT受容体のTRBV9ファミリーベータ鎖領域に特異的に結合する能力を有する単離モノクローナルヒト化抗体およびそれらの機能的断片に関する。
【0069】
本発明による抗体は、キメラ、ヒト化またはヒトの各抗体、またはそれらの抗原結合断片とすることができ、病態形成が例えばTRBV9ファミリーに属するTCRを伴うASおよびその他の疾患、例えば、セリアック病またはT細胞リンパ腫を処置するための医薬として使用され得る。
【0070】
本発明による抗体はモノクローナルである。本発明のモノクローナル抗体は、例えば、当技術分野でよく知られるハイブリドーマ技法、ならびに組換え技術、ファージディスプレイ技術、合成技術、またはそのような技術または当技術分野でよく知られるその他の技術の組合せを使用して生産され得る。本出願で使用される「モノクローナル抗体」という用語は、その生産方法ではなく、例えば、任意の真核の、原核のまたはファージのクローンを含めて、単一コピーまたはクローンから得られる抗体を指す。
【0071】
ヒト化抗体およびキメラ抗体は、ペプチド合成によって、または下の「核酸」セクションで記載のように組換えDNA技法を使用して産生され得る。
いくつかの態様では、本発明の抗体は、キメラであり、非ヒト起源(例えば、ラットまたはマウス起源)の軽鎖の可変ドメインおよび重鎖の可変ドメイン、ならびにヒト起源の定常ドメインを有することで特徴付けられる。
【0072】
本発明の抗体は、以下の3つの超可変領域を持つ重鎖の可変ドメイン(VH)であって、
1)HCDR1(Kabatナンバリングスキームによる)は、配列番号1のアミノ酸配列を有し、
2)HCDR2は、配列番号2のアミノ酸配列を有し、
3)HCDR3は、配列番号3のアミノ酸配列を有する、重鎖の可変ドメイン;
2)3つの超可変領域、LCDR1、LCDR2、およびLCDR3を持つ軽鎖の可変ドメイン(VL)であって、
LCDR1は、配列番号4のアミノ酸配列を有し、
LCDR2は、配列番号5のアミノ酸配列を有し、
LCDR3は、配列番号6のアミノ酸配列を有する、軽鎖の可変ドメイン
を含む。
【0073】
特段の記載がない限り、抗体のCDRを決定するために以下では、よく知られるKabatナンバリングスキームが使用される。
すべての態様では、本発明の抗体の軽鎖の可変ドメインおよび重鎖の可変ドメインは、ヒト化されており、アミノ酸置換のヒト化の上で親抗体の両可変ドメインとは異なり、抗体の重鎖の可変ドメインおよび軽鎖の可変ドメインは、重鎖の可変ドメインおよび軽鎖の可変ドメインのFR断片中にアミノ酸置換を含み、その結果、親抗体と比較して、本発明の抗体のヒト化の程度を向上する。
【0074】
いくつかの態様では、本発明の抗体の重鎖の可変ドメインは、アミノ酸配列が配列番号8に示される、親抗体の重鎖の可変ドメインと比較して、少なくとも10個のヒト化アミノ酸置換を含む。
【0075】
好ましい態様では、本発明の抗体の重鎖の可変ドメインは、配列番号16に示されるアミノ酸配列を有する。
いくつかの態様では、本発明の抗体の重鎖の可変ドメインは、抗体特異性を改変しないさらなるアミノ酸置換を含む。
【0076】
いくつかの態様では、本発明の抗体の軽鎖の可変ドメインは、アミノ酸配列が配列番号10に示される、親抗体の軽鎖の可変ドメインと比較して、少なくとも10個のヒト化アミノ酸置換を含む。
【0077】
好ましい態様では、本発明の抗体の軽鎖の可変ドメインは、アミノ酸置換を含み、配列番号18に示される配列を有する。
いくつかの態様では、本発明の抗体の軽鎖の可変ドメインは、抗体特異性を改変しないさらなるアミノ酸置換を含む。
【0078】
いくつかの態様では、本発明のモノクローナル抗体は、完全長のヒトIgG抗体、例えば、IgG1またはIgG2またはIgG3またはIgG4である。
いくつかの態様では、本発明の抗体は重鎖を含み、この重鎖のアミノ酸配列は、配列番号20のアミノ酸配列と、少なくとも85%同一、または少なくとも90%同一、または少なくとも91%同一、または少なくとも92%、または少なくとも93%同一、または少なくとも94%、または少なくとも95%、または少なくとも96%、または少なくとも97%、または少なくとも98%または少なくとも99%または100%同一である。
【0079】
いくつかの態様では、本発明の抗体は軽鎖を含み、この軽鎖のアミノ酸配列は、配列番号22のアミノ酸配列と、少なくとも85%同一、または少なくとも90%同一、または少なくとも91%同一、または少なくとも92%、または少なくとも93%同一、または少なくとも94%、または少なくとも95%、または少なくとも96%、または少なくとも97%、または少なくとも98%または少なくとも99%または100%同一である。
【0080】
いくつかの態様では、抗体は、アミノ酸配列が配列番号22に示される軽鎖と、アミノ酸配列が配列番号20に示される重鎖とを有する。
先行技術から知られるように、突然変異が、可変ドメインを含めて、抗体配列に導入され得るが、このことは、抗原に結合する抗体の能力を実質的に改変しない。本発明による抗体はまた、TCRのTRBV9ファミリーベータ鎖と結合する抗体能力の喪失をもたらさないが、抗体依存性細胞介在性細胞傷害の低下または抗体の親和性またはその他の生物学的特性の向上をもたらすことができる、さらなる突然変異も含有し得る。特に、先行技術からよく知られるが、保存的アミノ酸置換が抗体配列において作製され得る。本出願の文脈における「保存的置換」とは、あるアミノ酸残基が類似の側鎖を有する別のアミノ酸残基で置き換えられる置換を指す。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは当技術分野でよく知られており、このファミリーとして、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β-分枝側鎖(例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)、および芳香族側鎖(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)が挙げられる。好ましくは、VLドメインおよび/またはVHドメインのCDR3領域は、5個以下の保存的アミノ酸置換、より頻繁には3個以下の保存的置換を含む。典型的には、保存的置換は、TRBV9ファミリーベータ鎖のエピトープに結合するために極めて重要なアミノ酸の位置では作製されない。
【0081】
本発明による抗体の上記バリアント(突然変異型)は、ペプチド合成によって、または下の「核酸」セクションで記載のように組換えDNA技法を使用して取得され得る。
好ましい態様では、抗体は、ヒトIgG1、IgG2、IgGS、IgG4、IgA、IgE、IgM、IgDの定常領域などの重鎖の定常領域を含む。好ましくは、重鎖定常領域は、ヒトIgG1重鎖定常領域である。さらに、抗体は、軽鎖定常領域または軽鎖カッパ定常領域または軽鎖ラムダ定常領域のいずれかを含み得る。好ましくは、抗体は軽鎖カッパ定常領域を含む。
【0082】
好ましい態様では、抗体重鎖可変断片は87%のヒト化の程度によって特徴付けられる。好ましい態様では、抗体軽鎖可変断片は85%のヒト化の程度によって特徴付けられる。
【0083】
また提供されるのは、本発明の抗体の抗原結合断片でもある。本明細書で使用される抗体の「抗原結合断片」(または「抗体の機能的断片」または「抗体の活性断片」)という用語は、抗原と特異的に結合する能力を保持する1つまたは複数の抗体断片を指す。抗体の抗原結合機能は、完全長抗体の断片によって実行され得ることが示されてきた。抗体の「抗原結合部分」という用語内に包含される結合断片の例として、(a)VL、VH、CLおよびCH1の各ドメインからなる一価断片である、Fab断片;(b)ヒンジ領域でのジスルフィド架橋によって連結される2つのFab断片を含む二価断片である、F(ab)2断片;(c)VHドメインおよびCH1ドメインからなるFd断片;(d)抗体の単一アームのVLドメインおよびVHドメインからなるFv断片;(e)VHドメインからなるdAb断片(Wardら(1989) Nature 341:544~546)、ならびに(f)単離された相補性決定領域(CDR)が挙げられる。さらに、Fv断片の2つのドメイン、VLおよびVHは、別々の遺伝子によってコードされるが、VLおよびVHが単一のタンパク質鎖として作製されることを可能にする合成リンカーによって、組換え法を使用して、連結され得る。この場合、VL領域とVH領域が対合して一価の分子を形成する(単鎖Fv(scFv)として知られる;例えば、Birdら(1988) Science 242:423~426;Hustonら(1988) Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879~5883を参照されたい)。こうした単鎖抗体もまた、抗体の「抗原結合断片」という用語内に包含されると企図される。これらにはまた、ダイアボディなどの他の形態の単鎖抗体も含まれる。ダイアボディとは、二価の二重特異性抗体であり、この場合、VHドメインおよびVLドメインが単一ポリペプチド鎖上で発現されるが、同じ鎖上の2つのドメインどうしの間のペアリングを可能にするには短すぎるリンカーを使用し、これによって、当該ドメインに別の鎖の相補ドメインと対形成することを強制し、2つの抗原結合部位を創製する(例えば、Holliger Р.ら(1993) Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444~6448;Poljak R.J.ら(1994) Structure 2:1121~1123を参照されたい)。
【0084】
FabおよびF(ab’)2などの抗体断片は、全抗体の、それぞれ、パパイン消化やペプシン消化などの従来技法を使用して、全抗体から取得され得る。さらに、抗体、抗体断片、および免疫接着分子が、標準的な組換えDNA技法を使用して取得され得る。
【0085】
抗体またはその抗原結合部分は、1つもしくは複数のタンパク質またはペプチドと抗体または抗体断片との共有結合のまたは非共有結合の会合によって形成される、より大きな免疫接着分子の一部とすることができる。こうした免疫接着分子の例として、四量体scFv分子を作製するためのストレプトアビジンコア領域の使用(Kipriyanov S.M.ら(1995) Human Antibodies and Hybridomas 6:93~101)ならびに二価でサイズが縮小したscFv生体分子を作製するためのシステイン残基、マーカーペプチドおよびC末端ポリヒスチジンタグの使用(Kipriyanov S.M.ら(1994) Mol.Immunol.、31:1047~1058)、が挙げられる。抗体断片どうしの間の他の化学的結合もまた、最新技術からよく知られる。
【0086】
本発明による抗体およびそれらの機能的断片は、単離された形態で存在する、すなわち、このことは、かかるタンパク質が、他のタンパク質またはオリゴ糖、核酸およびそれらの断片等などのその他の天然に存在する生体分子の存在を実質的に含まないことを意味するが、この場合における「実質的に含まない」という用語は、単離されたタンパク質を含む前記組成物のうちの70%未満、典型的には60%未満、より頻繁に50%未満が、他の天然に存在する生体分子であることを意味する。いくつかの態様では、前記タンパク質は、実質的に精製された形態で存在し、「実質的に精製された形態」という用語は、少なくとも95%に等しい、典型的には少なくとも97%に等しい、より頻繁に少なくとも99%に等しい純度を意味する。
【0087】
組換えまたはハイブリドーマの技法によって得られる抗体を精製する方法は当技術分野でよく知られており、例えば、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、特に特異抗原プロテインAまたはプロテインGに対する親和性、およびサイジングカラムクロマトグラフィー(sizing column chromatography))、遠心分離、溶解度の差(differential solubility)、またはタンパク質を精製するためのその他の任意の標準技法によって、精製が実行され得る。さらに、本発明による技術によって得られる抗体またはそれらの断片は、異種ポリペプチド配列(例えば、ヒスチジンタグ)に融合されて、精製を容易にすることができる。
【0088】
抗体親和性が、解離定数(KD)を決定することによる標準分析を使用して、決定され得る。等式KD=kdis/konを使用してKDが計算されるが、kdisは実験的に求めた解離速度定数であり、konは抗体-抗原複合体の実験的に求めた会合速度定数である)。
【0089】
好ましい抗体は、約1×10-7M以下;好ましくは約1×10-8M以下;より頻繁には、約1×10-9M以下、より好ましくは約1×10-10M以下、最も好ましくは約1×10-11M以下、例えば、約1×10-12M以下、のKD値でヒト抗原と結合する抗体である。
【0090】
好ましい抗体としては、下の実験セクションに詳細に記載される抗体MA-042が挙げられる。
本発明の組成物および方法で使用され得る抗体およびそれらの断片は、生物学的に活性な抗体および断片である、すなわち、これらは、所望の抗原性エピトープと結合するとともに直接的または間接的に生物学的効果を呈することができる。
【0091】
本発明による抗体およびその機能的断片は、TRBV9ファミリーベータ鎖のエピトープ(領域)と特異的に結合することができる。好ましい態様では、TRBV9ファミリーベータ鎖へのそれらの特異的結合の結果として、前記ベータ鎖を含むTCRの活性の阻害が生じる。典型的には、阻害は、好ましくは、少なくとも約20、または30、または40、または50、または60、または70、または80、または90、または95%またはこれ超に達する。
【0092】
いくつかの態様では、本発明によるTRBV9ファミリーベータ鎖に対する抗体またはその断片は、TRBV9ファミリーベータ鎖を含むTCRを有するT細胞を排除することができる。いくつかの態様では、本発明による抗体またはその断片は、Tリンパ球のうちの、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または約100%排除を提供することができる。
【0093】
本発明の好ましい態様では、抗体は抗体MA-042である。
抗体MA-042は、配列番号16および18に示されるアミノ酸配列を有する重鎖の可変ドメインおよび軽鎖の可変ドメインを含む。
抗体MA-042は、それぞれ、配列番号20および22に示されるアミノ酸配列を有する重鎖および軽鎖を含む。
【0094】
核酸
本発明は、本発明の抗体の重鎖および軽鎖、その機能的断片ならびに可変ドメインをコードする核酸分子を提供し、これは、ヒト抗体の既知の定常ドメインと作動可能に融合した本発明の可変ドメインを含むキメラ抗体を得るために、使用され得る。
【0095】
好ましい態様では、本発明の核酸は、抗体重鎖をコードし、この重鎖の可変ドメインは3つの超可変領域、HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含有し、
HCDR1(Kabatナンバリングスキームによる)は配列番号1のアミノ酸配列を有し、
HCDR2は配列番号2のアミノ酸配列を有し、
HCDR3は配列番号3のアミノ酸配列を有する。
【0096】
好ましい態様では、本発明の核酸は抗体軽鎖をコードし、この軽鎖の可変ドメインは3つの超可変領域、LDCR1、LDCR2およびLDCR3を含み、ここで:
LCDR1は配列番号4のアミノ酸配列を有し、
LCDR2は配列番号5のアミノ酸配列を有し、
LCDR3は配列番号6のアミノ酸配列を有する。
【0097】
好ましい態様では、本発明の核酸は、抗体の重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメインをコードし、これらは、重鎖の可変ドメインおよび軽鎖の可変ドメインのFR断片にアミノ酸置換を含有し、この置換は、親抗体と比較して、本発明の抗体のヒト化の程度を向上する。
【0098】
前記抗体鎖、これらの機能的断片およびドメインの相同体および突然変異型をコードする核酸分子もまた、本発明の範囲内である。
いくつかの態様では、核酸は本発明の抗体の重鎖の可変ドメインをコードし、これは、アミノ酸配列が配列番号8に示される、親抗体の重鎖の可変ドメインと比較して、少なくとも10個のヒト化アミノ酸置換を含有する。
【0099】
いくつかの態様では、核酸は抗体重鎖をコードし、この重鎖の可変ドメインは配列番号16のアミノ酸配列を有する。
いくつかの態様では、核酸は抗体軽鎖をコードし、この軽鎖の可変ドメインは、アミノ酸配列が配列番号10に示される、親抗体の軽鎖の可変ドメインと比較して、少なくとも10個のヒト化アミノ酸置換を含む。
【0100】
いくつかの態様では、核酸は抗体軽鎖をコードし、この軽鎖の可変ドメインは、配列番号18のアミノ酸配列を有する。
いくつかの態様では、核酸は抗体重鎖をコードし、この重鎖のアミノ酸配列は、配列番号20のアミノ酸配列と、少なくとも85%同一、または少なくとも90%同一、または少なくとも91%同一、または少なくとも92%、または少なくとも93%同一、または少なくとも94%、または少なくとも95%、または少なくとも96%、または少なくとも97%、または少なくとも98%または少なくとも99%または100%同一である。
【0101】
いくつかの態様では、核酸は抗体軽鎖をコードし、この軽鎖のアミノ酸配列は、配列番号22のアミノ酸配列と、少なくとも85%同一、または少なくとも90%同一、または少なくとも91%同一、または少なくとも92%、または少なくとも93%同一、または少なくとも94%、または少なくとも95%、または少なくとも96%、または少なくとも97%、または少なくとも98%または少なくとも99%または100%同一である。
【0102】
本発明の軽鎖および重鎖をコードする各核酸の例は、配列番号19および21に示される。
抗体の軽鎖の可変ドメインおよび重鎖の可変ドメインをコードする核酸も目的である。抗体の軽鎖の可変ドメインおよび重鎖の可変ドメインをコードする核酸は、抗体の相当する定常ドメインをコードする核酸との操作可能な融合に使用され得る。
【0103】
いくつかの態様では、核酸が、アミノ酸配列が配列番号16に示される、抗体の重鎖の可変ドメインをコードする。
いくつかの態様では、核酸が、アミノ酸配列が配列番号18に示される、抗体の軽鎖の可変ドメインをコードする。
【0104】
抗体の重鎖の可変ドメインおよび軽鎖の可変ドメインをコードする各核酸の例は、配列番号15および17に示される。
本明細書で使用される場合、「核酸分子」または「核酸」とは、ゲノムDNA分子またはcDNA分子などのDNA分子、またはmRNA分子などのRNA分子である。いくつかの態様では、本発明の核酸分子とは、本発明の抗体または抗体断片をコードし、適切な条件(例えば、生理学的細胞内条件)下で、異種発現システムでの発現に使用されることが可能であるオープンリーディングフレームを含有する、DNA(またはcDNA)分子である。
【0105】
いくつかの態様では、本発明の核酸分子は、遺伝子工学的方法によって生産される。核酸の生産方法は当技術分野でよく知られる。例えば、アミノ酸配列情報またはヌクレオチド配列情報のアベイラビリティが、オリゴヌクレオチド合成による本発明の単離された核酸分子の調製を可能にする。アミノ酸配列情報の場合、縮重コードに起因して互いに異なるいくつかの核酸が合成され得る。所望の宿主向けにコドンバリアントを選択する方法は、当技術分野でよく知られる。
【0106】
合成オリゴヌクレオチドは、ホスホルアミダイト法によって調製され得るが、生成した構築物は、当技術分野でよく知られる方法、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)または、例えば、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版(1989) Cold Spring Harbor Press、Cold Spring Harbor、NY、に記載のその他の方法にしたがって、および、例えば、米国HHS省、National Institute of Health(NIH) Guidelines for Recombinant DNA Research、に記載の指示のもとで、精製され得る。本発明の長い二本鎖DNA分子は、以下の方式で合成され得る:隣接する断片と接着することができる適切な末端を含む適切な相補性のより小さないくつかの断片を合成することによる。隣接する断片は、DNAリガーゼまたはPCRベースの方法を使用して連結され得る。
【0107】
本発明の核酸分子はまた、生物学的供源からクローニングされ得る。
本発明はまた、本発明のポリペプチドをコードする核酸と、相同である、実質的に同じである、同一である、またはそれらに由来する、核酸を包含する。
【0108】
本発明の核酸は、これらが自然界で存在する環境以外の環境において存在するものであり、例えば、本発明の核酸は、増加した量で単離され、存在するものであり、in vitro系においてあるいは本発明の核酸が自然界で存在する細胞もしくは生物体以外の細胞または生物体において、存在しまたは発現されるものである。
【0109】
密接に関連する核酸配列どうしの間のヌクレオチド配列の変化または差異は、正常な複製または重複の過程中で生じる配列中のヌクレオチド変化を表すことができる。特定のアミノ酸のコドンまたは調節領域のヌクレオチド配列を変更するなどの、特定の目的のために他の変更が、特別に設計され、配列に導入され得る。このような特定の変更が、様々な突然変異誘発技法を使用してin vitroで作製され得るか、またはこれらの変更向けに誘発または選択する特定の選択条件下に置かれた宿主生物体において生み出され得る。このような特別に得られた配列バリアントは、元の配列の「突然変異型」または「派生体」と呼ばれ得る。
【0110】
突然変異型または派生体の核酸が、テンプレート配列中の1個もしくは複数のヌクレオチドの修飾、欠失もしくは付加、またはそれらの組合せによって、上記核酸から選択されるテンプレート核酸上で取得されて、テンプレート核酸のバリアントを取得することができる。修飾、付加または欠失は、当技術分野で知られる任意の方法によって実施され得る(例えば、Gustinら、Biotechniques (1993) 14:22;Barany、Gene (1985) 37:111~123;およびColicelliら、Mol.Gen.Genet. (1985) 199:537~539、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、(1989)、CSH Press、pp.15.3~15.108を参照されたい)が、それには、エラープローンPCR、シャフリング、オリゴヌクレオチド特異的突然変異誘発、アセンブリPCR、性的なPCR突然変異誘発、in vivo突然変異誘発、カセット突然変異誘発、再帰的アンサンブル突然変異誘発、指数的アンサンブル突然変異誘発、部位特異的突然変異誘発、ランダム突然変異誘発、遺伝子再構築、遺伝子部位飽和突然変異誘発(GSSM)、合成ライゲーション再構築(SLR)、またはそれらの組合せが含まれる。修飾、付加または欠失はまた、組換え、再帰的配列組換え、ホスホチオエート修飾DNA突然変異誘発、ウラシル含有鋳型突然変異誘発、ギャップドデュプレックス突然変異誘発、点ミスマッチ修復突然変異誘発、修復欠損宿主株突然変異誘発、化学的突然変異誘発、放射線突然変異誘発、欠失突然変異誘発、制限-選択突然変異誘発、制限-精製突然変異誘発、人工遺伝子合成、アンサンブル突然変異誘発、キメラ核酸マルチマークリエーション、およびそれらの組合せを含む方法によっても実行され得る。
【0111】
また提供されるのは、本発明のタンパク質をコードする核酸の縮重バリアントでもある。核酸の縮重バリアントは、核酸のコドンを同じアミノ酸をコードする他のコドンと置き換えることを含む。特に、核酸の縮重バリアントが創製されて、宿主細胞における発現を向上させる。この態様では、宿主細胞中の遺伝子において、好ましくないかまたはより好ましくはない核酸のコドンが、宿主細胞中の遺伝子のコード配列中で大きな比率を占めるコドンと置き換えられ、前記置き換えられたコドンは同じアミノ酸をコードする。
【0112】
上記修飾は、抗体またはそれらの機能的断片の特性を実質的に改変しないが、宿主細胞におけるタンパク質折り畳みを容易にし、凝集能力を低下しまたはタンパク質のその他の生化学的特性、例えば半減期をモジュレートすることができる。いくつかの態様では、これらの修飾は、タンパク質の生化学的特性を修飾しない。いくつかの態様では、これらの修飾は、抗体免疫原性の減少をまねく。上で特定のすべてのタイプの修飾および突然変異は、核酸レベルにて実行される。
【0113】
開示の核酸は、実質的に精製された形態で単離および調製され得る。実質的に精製された形態とは、核酸が少なくとも約50%純粋であり、典型的には少なくとも約90%純粋であり、そして、典型的には「組換え体」、すなわち、ヌクレオチドが、その天然の宿主生物体中で自然に存在する染色体上で通常には会合しない1個または複数のヌクレオチドによって隣接される、ことを意味する。
【0114】
また提供されるのは、本発明のタンパク質またはその断片を含む融合タンパク質をコードする核酸でもあり、この核酸については下でより詳細に論じられる。発明の可変ドメインをコードする核酸は、抗体の軽鎖および重鎖の相当する定常ドメインをコードする核酸に作動可能に連結され得る。抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸は、宿主細胞からの発現産物の輸送を容易にするリーダーペプチドをコードする核酸に作動可能に連結され得る。これに続いて、リーダーペプチドは、ポリペプチドの成熟過程で排除される。
ベクター
また提供されるのは、開示の核酸を含むベクターおよびその他の核酸構築物でもある。「ベクター」という用語は、核酸分子が作動可能に連結された別の核酸を輸送することができる上記核酸分子を指す。導入された宿主細胞で自律的に複製することができるある特定のベクターもあれば、一方、宿主細胞ゲノムに統合し、宿主ゲノムと一緒に複製することができる他のベクターもある。さらに、いくつかのベクターは、これが作動可能に連結された遺伝子の発現を指示することができる。そのようなベクターは、本明細書では「組換え発現ベクター」(または単に「発現ベクター」)と呼ばれ、例示的なベクターは、先行技術からよく知られる。適切なベクターには、ウイルスベクターおよび非ウイルスベクター、プラスミド、コスミド、ファージ等、好ましくはプラスミドが含まれ、適切なベクターは本発明の核酸配列の適当な宿主への、クローニング、増幅、発現、搬送等用に使用される。適当なベクターの選択は、当業者にとって明白である。完全長の核酸またはその部分が典型的には、ベクター中の切断された制限酵素部位へのDNAリガーゼ付着の手段によって、ベクター内に挿入される。あるいは、所望のヌクレオチド配列は、in vivoでの相同組換えによって、典型的には、所望のヌクレオチド配列の隣接に、ベクターに相同の領域を付着することによって挿入され得る。相同性の領域は、オリゴヌクレオチドのライゲーションによって、または、例えば、相同性の領域と所望のヌクレオチド配列の一部、の双方を含むプライマーを使用してポリメラーゼ連鎖反応によって付加される。典型的には、ベクターは、染色体外エレメントとして細胞へのベクターの導入結果として、宿主細胞におけるその増殖を確実にする複製起点を有する。ベクターはまた、宿主細胞における核酸の発現および標的ポリペプチドの産生を確実にする調節エレメントを含み得る。発現ベクターでは、前記核酸は、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター、オペレーター、リプレッサーおよびインデューサー、ならびにポリペプチドのスタートコドンを含み得る調節配列に作動可能に連結される。いくつかの態様では、本発明の核酸はさらに、リーダーペプチドに作動可能に連結され、その結果、宿主細胞から細胞外空間への発現産物の分離を確実にする。
【0115】
また提供されるのは、とりわけ、発現カセットまたはシステムであって、これらに基づいた開示のポリペプチド(例えば、本発明の抗体の軽鎖および重鎖、または本発明の抗体の軽鎖の可変ドメインおよび重鎖の可変ドメイン)の取得用にまたは開示された核酸分子の複製用に使用される、発現カセットまたはシステムでもある。発現カセットは染色体外エレメントとして存在してもよく、前記発現カセットの細胞への導入の結果として細胞ゲノムに統合されてもよい。発現については、本発明の核酸によってコードされるタンパク質産物は、例えば細菌系、酵母、昆虫、両生類、または哺乳動物の細胞を含めて、好適な任意の発現系において発現される。発現カセットでは、標的核酸は、プロモーター、エンハンサー、終結配列、オペレーター、リプレッサーおよびインデューサー、ならびにポリペプチドのスタートコドンを含み得る調節配列に作動可能に連結される。いくつかの態様では、本発明の核酸はさらに、リーダーペプチドに作動可能に連結され、その結果、宿主細胞から細胞外空間への発現産物の分離を確実にする。所望の産物を発現することができる発現カセットまたはシステムの取得方法は、当業者に知られる。
【0116】
宿主細胞
上記発現系は、原核のまたは真核の宿主において使用され得る。大腸菌(E.coli)、枯草菌(B.subtilis)、出芽酵母(S.cerevisiae)、バキュロウイルスベクターと組合せで昆虫細胞、またはヒト胚細胞ではない高等生物体の細胞、例を挙げると、酵母、植物、脊椎動物、例えば、CHO細胞(例えば、ATCC CRL-9096)、NS0細胞、SP2/0細胞、HEK293細胞、COS細胞(例えば、ATCC CRL-1650、CRL-1651)およびHeLa(例えば、ATCC CCL-2)などの、宿主細胞はタンパク質の取得用に使用され得る。
【0117】
本発明の抗体を生産するため、宿主細胞が、抗体軽鎖をコードする核酸を含む発現ベクターと、抗体重鎖をコードする核酸を含む発現ベクターと、で共形質転換(co-transformation)される。いくつかの態様では、単一の発現ベクターが使用され、これに、抗体の軽鎖と重鎖の両方をコードする核酸が導入される。
【0118】
軽鎖および重鎖の発現の場合、重鎖および軽鎖をコードする発現ベクターは宿主細胞に形質転換(共形質転換)され、その結果、軽鎖および重鎖が宿主細胞中で発現され、好ましくは宿主細胞が培養される培地に分泌され、そしてその培地から抗体が単離され得る。「形質転換」という用語に関する種々の解釈は、原核または真核の宿主細胞に外在性DNAを導入するために一般的に使用される広範囲の方法を含むことを意図するものであるが、例えば、Sambrook、Fritsch and Maniatis(編) Molecular Cloning;A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor、N.Y.(1989;Ausubel F.M.ら(編) Current Protocols in Molecular Biology、Green Publishing Associates(1989)に記載の、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿、DEAE-デキストラントランスフェクション等である。
【0119】
抗体の核酸を含有する組換え発現ベクターが宿主細胞に導入される場合、宿主細胞中で抗体を発現するのに十分な時間期間、または(より好ましくは)宿主細胞が増殖する培地中に抗体を分泌するのに十分な時間期間、宿主細胞を培養することによって、抗体が得られる。抗体は、標準的なタンパク質精製技法を使用して培養培地から単離され得る。細胞培養条件は当業者によく知られており、Current Protocols in Cell Biology、Bonifacino J.S.、Dasso M.、Harford J.В.、Lippincott-Schwartz J. and Yamada K.M.(編) John Wiley & Sons, Inc.により出版、2000、に記載される。
【0120】
本発明の核酸の複製および/または発現に適した、上記宿主細胞またはその他の宿主細胞もしくは生物体のいずれかが使用される場合、生成する複製核酸、発現タンパク質またはポリペプチドは、宿主細胞または生物体の産物として、本発明の範囲内である。産物は、当技術分野で知られる適切な技法によって単離され得る。
【0121】
本発明のタンパク質を安定して発現する細胞株は、当技術分野で知られる方法によって選択され得る(例えば、dhfr、gpt、ネオマイシン、ハイグロマイシンなどの選択可能なマーカーでのコトランスフェクション、これは、ゲノムに統合された遺伝子を含有するトランスフェクト細胞の特定および単離を可能にする)。
【0122】
本発明の核酸分子はまた、生物学的試料における遺伝子発現を決定するのに使用され得る。ゲノムDNAまたはRNAなどの特定のヌクレオチド配列の存在について細胞が試験される方法は、当技術分野で十分に確立される。要約すると、DNAまたはmRNAが細胞試料から単離される。mRNAは、逆転写酵素を使用してRT-PCRによって増幅されて相補的DNA鎖を形成することができ、これに続いて、対象のDNA配列に特異的なプライマーを使用してポリメラーゼ連鎖反応増幅が行われる。あるいは、mRNA試料はゲル電気泳動によって単離され、適切な担体に、例えばニトロセルロース、ナイロン等に移され、次いで、プローブとして対象のDNAの断片を用いてプローブされる。他の技法、例えば、オリゴヌクレオチドライゲーションアッセイ、in situハイブリダイゼーション、および固相チップ上に固定されたDNAプローブへのハイブリダイゼーションもまた使用され得る。対象の配列にハイブリダイズするmRNAの検出は、試料における遺伝子発現を示すものである。
【0123】
本発明の抗体の治療的使用
一側面では、本発明の抗体またはその活性断片は、表面TRBV9ファミリーのTCRを有する病理的Tリンパ球の活性に関連付けられる障害であって、例えば、AS、セリアック病、T細胞リンパ腫において自己免疫Tリンパ球の活性を呈する、障害の処置に使用される。
【0124】
本出願で使用される「患者」という用語は、限定されないが、マウス、サル、ヒト、家畜哺乳動物、スポーツ哺乳動物およびペット哺乳動物を含めて哺乳動物を指し;好ましくは、当該用語はヒトに適用される。特定の態様では、患者は、ベータ鎖がTRBV9ファミリーに属するTCRの、患者体内での存在によって媒介される疾患または障害、または状態によってさらに特徴付けられる。先行技術から知られるように、ベータ鎖がTRBV9ファミリーに属するTCRは、ASおよびセリアック病に関連付けられる。さらに、ベータ鎖がTRBV9ファミリーに属するTCRは、エプスタインバーウイルスによって引き起こされるT細胞リンパ腫などの、いくつかの血液疾患の発症に関連付けられ得る。
【0125】
本明細書で使用される場合、1つまたは複数の他の治療薬を伴う抗体を指す、「同時投与」、「同時投与された」、および「組合せで」という用語は、以下を意味し、指し、かつ含むことが、企図される:
1)本発明の抗体と治療薬である成分が、患者に実質的に同時に前記成分を放出する単一剤形に一緒に製剤化される場合、処置を必要とする前記患者への、本発明の抗体と治療薬のこのような組合せの同時投与、
2)本発明の抗体と治療薬である成分が、患者によって実質的に同時に服用され、その上で、前記成分は前記患者に実質的に同時に放出される、別々の剤形に互いに離れて製剤化される場合、処置を必要とする前記患者への、本発明の抗体と治療薬のこのような組合せの同時投与、
3)本発明の抗体と治療薬である成分が、それぞれの投与の間に十分な時間間隔を持って患者によって連続した時間で服用され、その上で、前記成分は前記患者に実質的に異なる時間に放出される、別々の剤形に互いに離れて製剤化される場合、処置を必要とする前記患者への、本発明の抗体と治療薬のこのような組合せの連続投与;ならびにまた
4)本発明の抗体と治療薬である成分が、制御された様式で前記成分を放出し、その上で、前記成分は前記患者に、同じ時間および/または異なる時間に、同時に、連続的に、および/または重複して放出される、単一剤形に一緒に製剤化される場合、処置を必要とする前記患者への、本発明の抗体と治療薬のこのような組合せの連続投与、この場合、各部分が、同じ経路または異なる経路のいずれかによって投与され得る。
【0126】
本発明の抗体は、さらなる治療的処置なしで、すなわち、独立した治療として投与され得る。さらに、本発明の抗体による処置は、少なくとも1つのさらなる治療的処置(併用療法)を含み得る。本発明のいくつかの態様では、病態形成がTRBV9ベータ鎖を含むTCRを伴う、自己免疫疾患または腫瘍性疾患、例えば、AC、セリアック病、T細胞リンパ腫、T細胞白血病用の別の医薬/薬物とともに、抗体が同時投与または製剤化され得る。
【0127】
用量および投与の経路
本発明の抗体は、問題の状態の処置に有効である量で、すなわち、所望の成果を達成するのに必要な用量でおよび時間期間中、投与されることになる。治療有効量は、患者の処置される特定の状態、年齢、性別、および体重、ならびに抗体が単独で投与されるか、または1つもしくは複数のさらなる免疫抑制または抗炎症の治療術と組合せで投与されるか、などの要因によって変化してもよい。
【0128】
投薬レジメンは、最適な応答を提供するために調整され得る。例えば、単一ボーラスが投与されてもよく、いくつかの分割された用量が経時的に投与されてもよく、治療状況の緊急性によって指示されるように、用量が比例的に増減されてもよい。投与の容易さおよび投薬量の均一性のために、単位剤形で非経口組成物を製剤化することは特に有利である。本明細書で使用される標準剤形は、処置される患者/対象向けのまとまった投薬量として適した物理的に個別の単位を指すことを意図するものである;各単位は、所望の医薬担体と共同で、所望の治療効果を生み出すように計算された、活性化合物の所定量を含有する。本発明の標準剤形の仕様は典型的には、(a)化学療法剤の独特な特質、および達成しようとする特定の療法的または予防的効果、ならびに(b)対象における感受性を処置するためのこうした活性化合物の配合技術に固有の限界、によって規定されるとともにこれらに直接左右される。
【0129】
したがって、当業者であれば、本明細書で提供される開示に基づいて、用量および投薬レジメンが、治療技術でよく知られる方法にしたがって調整されることを理解するであろう。すなわち、最大許容用量が容易に確立され得るが、患者に検出可能な治療効果を提供する有効量もまた決定される場合もあり、患者に検出可能な治療効果を提供する各薬剤を投与するための時間的要件も同様に決定され得る。したがって、本文書ではいくつかの用量およびレジメンスキームが例として与えられるが、これらの例は、決して、本発明の実施において患者に必要となり得る投与の用量およびレジメンを制限するものではない。
【0130】
投薬値は、緩和される状態のタイプおよび重症度とともに変化することができ、単回または多回用量を含み得ることに留意されたい。さらに、特定の任意の対象の場合、特定の投薬レジメンは、個々の必要性および組成物の投与を管理または監督する医療専門家の判断にしたがって、経時的に調整される必要があること、ならびに、本明細書に記載の投薬の範囲は、例示に過ぎず、特許請求された組成物の範囲または実施を制限することを意図するものではないことを理解されたい。さらに、本発明の組成物による投薬レジメンは、疾患のタイプ、年齢、体重、性別、患者の健康状態、状態の重症度、投与経路、および使用される特定の抗体を含めて、種々の要因に基づくことができる。したがって、投薬レジメンは幅広に変化することができるが、標準法を使用してルーチン的に決定され得る。例えば、用量は、薬物動態学的または薬力学的パラメータに基づいて調整され得るが、このパラメータには、毒性効果および/または臨床検査値などの臨床効果が含まれ得る。したがって、本発明は、当業者によって決定される患者間用量漸増を包含する。適当な投薬量およびレジメンの決定方法は当技術分野でよく知られており、本明細書に開示のアイデアが提供されれば、当業者によって理解されるであろう。
【0131】
適切な投与方法の例が上に提供される。
本発明の抗体の適切な用量は、0.1~200mg/kg、好ましくは、約0.5~50mg/kg、例えば約1~20mg/kgを含めて、0.1~100mg/kgの範囲であることが企図される。抗体は、例えば少なくとも1mg/kgといった少なくとも0.5mg/kgなどの少なくとも0.25mg/kgの用量で、例えば少なくとも2mg/kgなどの少なくとも1.5mg/kgの用量で、例えば少なくとも4mg/kgを含めて少なくとも3mg/kgの用量で、例えば少なくとも5mg/kgの用量で;および例えば最大30mg/kgまでを含めて最大50mg/kgまで、例えば最大15mg/kgまでを含めて最大20mg/kgまで、投与され得る。投与は典型的には、適当な時間間隔で、例えば週1回、2週毎に1回、3週毎に1回または4週毎に1回、そして担当医が適切であると判断される限りの間、繰り返されることになるが、場合によっては、担当医は必要であれば用量を増減してもよい。
【0132】
医薬組成物
本発明の抗体は、患者への投与に適した医薬組成物に組み込まれ得る。本発明の抗体は、単回または多回用量で、単独で、または医薬的に許容される担体、希釈剤、および/もしくは賦形剤と組み合わせて、投与され得る。投与用の医薬組成物は、投与の選択された様式に適当であるように設計され、そして薬学的に許容される希釈剤、担体、および/または賦形剤、例えば分散剤、バッファ、界面活性剤、保存剤、可溶化剤、等張剤、安定化剤等が、適宜使用される。前記組成物は、例えば、開業医に一般的に知られる、組成物を得るための種々の技法を提供する、Remington, The Science and Practice of Pharmacy、第19版、Gennaro編、Mack Publishing Co.、Easton、PA 1995、におけるような従来技法にしたがって設計される。
【0133】
「医薬(薬物)」-とは、錠剤、カプセル、散剤、凍結乾燥物、注射剤、輸液、軟膏およびその他の既成型にある医薬組成物としての化合物または化合物の混合物であり、ヒトおよび動物において生理学的機能の回復、改善、または改変を、また、疾患の処置および防止を、診断、麻酔、避妊、美容術等を、意図されたものである。当技術分野で許容されるペプチド、タンパク質または抗体を投与するための任意の方法が、本発明の抗体に対して適切に用いられ得る。
【0134】
「医薬的に許容される」という用語は、哺乳動物、好ましくはヒトにおいての投与に適した1つまたは複数の適合性のある液体または固体の成分を指す。
「賦形剤」という用語は、本明細書では、本発明の上記成分以外の任意の成分を記載するのに使用される。これらは、薬品製品に必要な物理化学的特性を与えるために医薬品製造において使用される無機または有機の性質の物質である。
【0135】
「バッファ」、「バッファ組成物」、「バッファ剤」という用語は、溶液であって、その酸塩基共役成分の作用によってpHの変化に抵抗することができ、抗体薬物がpHの変化に抵抗することを可能にする、溶液を指す。一般に、医薬組成物は好ましくは、4.0から8.0の範囲のpHを有する。使用されるバッファの例としては、酢酸塩、リン酸塩、クエン酸塩、ヒスチジン、コハク酸塩等の各バッファ液が挙げられるが、これらに限定されない。
【0136】
本明細書で使用される「等張剤」、「浸透圧調節物質」または「浸透圧剤」という用語は、液体の抗体製剤の浸透圧を上昇させることができる賦形剤を指す。「等張」薬とは、ヒトの血液の浸透圧と等しい浸透圧を有する薬物である。等張薬は通常、約250から350mOsm/kgまでの浸透圧を有する。等張剤として、ポリオール、糖類およびスクロース、アミノ酸、金属塩、例えば、塩化ナトリウム等が使用され得るが、これらに限定されない。
【0137】
「安定化剤」とは、活性剤の物理的および/または化学的安定性をもたらす賦形剤または2種以上の賦形剤の混合物を指す。安定化剤として、アミノ酸、例えば、限定されないが、アルギニン、ヒスチジン、グリシン、リジン、グルタミン、プロリン;界面活性剤、例えば、限定されないが、ポリソルベート 20(商品名:Tween 20)、ポリソルベート 80(商品名:Tween 80)、ポリエチレン-ポリプロピレングリコールおよびそのコポリマー(商品名:ポロキサマー、プルロニック(登録商標)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS);抗酸化剤、例えば、限定されないが、メチオニン、アセチルシステイン、アスコルビン酸、モノチオグリセロール、硫酸塩等;キレート剤、例えば、限定されないが、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、クエン酸ナトリウム等が使用され得る。
【0138】
医薬組成物は、活性剤が、例えば、2~8℃の貯蔵温度での指定有効期間の間、その物理的安定性および/または化学的安定性および/または生物学的活性を保持する場合、「安定」である。好ましくは、活性剤は、物理的および化学的安定性、ならびに生物学的活性の両方を保持する。保管期間は、加速劣化条件または自然劣化条件での安定性試験の結果に基づいて選択される。
【0139】
本発明のモノクローナル抗体を含有する組成物は、経口、静脈内、腹腔内、皮下、肺、経皮、筋肉内、鼻腔内、口腔内、舌下、または坐剤の各投与を含めて、標準投与技法を使用して、本出願に記載の病状を呈する患者に投与され得る。
【0140】
本発明の医薬組成物は好ましくは、「治療有効量」の本発明の抗体を含有する、または「治療有効量」の本発明の抗体である。「治療有効量」という用語は、所望の治療成果を達成するのに必要な投薬量および期間において有効である量を指すことを意図するものである。抗体の治療有効量は、対象の病状、年齢、性別、および体重、ならびに対象において所望の応答を誘発する抗体またはこの一部の能力などの要因に応じて変化し得る。治療有効量とはまた、抗体の治療上有益な効果が毒性または有害ないかなる効果よりまさる量でもある。「予防的有効量」とは、所望の予防的成果を達成するのに必要な投薬量および期間において有効である量を指すことを意図するものである。予防的用量は、疾患以前にまたは疾患の初期段階に個人に処方されるので、通常には、予防的有効量は、治療有効量よりも少ない場合もある。
【0141】
治療有効量または予防有効量とは、少なくとも、活性剤の毒性用量よりも少ない治療上有益な最小用量である。他方、本発明の抗体の治療有効量とは、例えば、自己免疫クローンの存在が望ましくない病理的効果を引き起こすかもしくはこれの一因である場合、ベータ鎖がTRBV9ファミリー属にするTCRと結合することによって、前記クローンの生物学的活性を哺乳動物、好ましくはヒトにおいて減少させる量であり、または、ベータ鎖がTRBV9ファミリーに属するTCRを低下させることによって、哺乳動物、好ましくはヒトにおいて有益な治療効果を引き起こす量である。
【0142】
本発明の抗体の投与経路は、経口、非経口、吸入または局所とすることができる。好ましくは、本発明の抗体は、非経口投与に許容される医薬組成物に含まれ得る。本出願で使用される「非経口」という用語には、静脈内、筋肉内、皮下、直腸、膣または腹腔内の各投与が含まれる。静脈内、腹腔内または皮下の各注射が好ましい投与経路である。そのような注射用の許容可能な医薬担体は、先行技術からよく知られる。
【0143】
適当な指針に記載のように、医薬組成物とは容器内での製造および貯蔵の条件下で無菌かつ安定である必要があるが、この容器は、例えば、気密性のバイアル(アンプル)または注射器によって用意される。したがって、医薬組成物は、当該組成物を調製した後にろ過滅菌に供されてもよく、他の任意の技法によって微生物学的に適切であるとされ得る。静脈内注入用の典型的な組成物は、滅菌リンゲル液、生理食塩水、デキストロース溶液またはハンクス塩溶液などの流体250~1000mlと、治療有効用量(例えば、1~100mg/mlまたはこれ超)の抗体濃縮物とを含み得る。用量は、疾患の種類と重症度に応じて変化することができる。任意の患者への用量は、患者のサイズ、体表面積、年齢、投与される特定の化合物、性別、投与期間および投与経路、全身健康状態および同時投与のその他医薬を含めて多重要因に左右されることは、最新医療技術からよく知られる。典型的な用量は、例えば、0.001~1000μgの範囲としてもよい;しかし、特に上記のパラメータを考慮すると、この例示的な範囲よりも低めのおよび高めの用量が予想される。毎日の非経口投薬レジメンは、0.1μg/kgから100μg/kg総体重まで、好ましくは0.3μg/kgから10μg/kgまで、より好ましくは1μg/kgから1μg/kgまで、さらより好ましくは、1日あたり0.5から10μg/kg体重まで、とすることができる。処置プロセスは、患者の健康状態の定期的に評価によってモニタリングされ得る。数日間以上の反復投与の場合、患者の状態に応じて、疾患の症状の望ましい応答または抑制まで処置が繰り返される。しかし、本明細書に記載されていない別の投薬レジメンも適用され得る。所望の用量は、単回ボーラス投薬もしくは多回ボーラス投薬によって、または開業医によって所望される薬物動態学的分解に応じて抗体の連続注入によって、投与され得る。
【0144】
抗体のこれらの推定量は、医師の決定に大きく左右される。意図された効果は、適当な用量とレジメンを選択するためのキー要因である。本明細書で考慮される要因には、処置されるある特定の疾患、処置を受けるある特定の哺乳動物、ある特定の患者の臨床状態、障害の原因、抗体投与部位、特定の抗体タイプ、投与経路、投与レジメン、および医療技術でよく知られるその他の要因が含まれる。
【0145】
本発明の治療薬は、凍結または凍結乾燥され、そして、投与前に適当な滅菌担体中で再構成され得る。凍結乾燥および再構成は、抗体活性の一部の喪失をもたらす恐れがある。この喪失を補償するために用量が調整され得る。一般に、医薬組成物のpH値6から8までが好ましい。
【0146】
製造物品(製品)およびキット
本発明のさらなる態様は、病態形成がTRBV9ファミリーベータ鎖を有するTCRを伴う自己免疫疾患および関連状態ならびに悪性血液疾患を処置するために使用される製品を含有する、製造物品である。かかる疾患には、例えば、AS、セリアック病、T細胞白血病およびT細胞リンパ腫等が含まれる。
【0147】
製造物品とは、ラベルおよび添付文書を備える容器であり、これは、ブリスターおよび/またはパッケージの中に存在してもよい。適切な容器には、例えば、バイアル、アンプル、シリンジ等が含まれる。容器は、ガラスまたはポリマー材料などの種々の材料から作製されてもよい。容器は、ある特定の状態を処置するのに効果的である組成物を含むとともに、滅菌アクセスポートを有することができる。組成物中の少なくとも1つの有効成分は、本発明による抗体である。ラベルと添付文書は、薬物がある特定の状態を処置するために使用されることを意図するものであることを指示する。ラベルおよび/または添付文書は、かかる治療用製品の適応症、頻度、用量、投与経路、禁忌および/または注意を含めて、患者において抗体組成物を投与するための取扱説明書をさらに含有する。一態様では、添付文書は、組成物が処置するために使用されることを意図するものであることを指示する。
【0148】
さらに、製造物品は、限定なしで、溶媒、希釈剤、フィルター、針および注射器などの、商業目的に必要な、または消費者に必要な他の製品を含むことができる。
本発明はまた、キットであって、種々の目的のために、例えば、TRBV9ファミリーTCRを有するT細胞を殺滅する能力の評価のために、細胞由来のTRBV9受容体の精製または免疫沈降のために、使用され得るキットに関する。単離および精製の場合、キットは、ビーズ(例えばセファロースビーズ)にカップリングした抗体を含有することができる。キットは、容器、ラベルおよび添付文書を含む。
【0149】
診断用途
本発明の抗体はまた、診断目的で使用される(例えば、in vitro、ex vivo)。例えば、抗体は、患者から得られた試料(例えば、組織試料または炎症性滲出液、血液、腸液、唾液または尿などの体液の試料)中のTRBV9ファミリーTCRを含むTリンパ球のレベルを検出または測定するために使用され得る。検出および測定に適した方法としては、イムノアッセイ、例えばフローサイトメトリー、酵素連結免疫吸着アッセイ(ELISA)、化学発光アッセイ、ラジオイムノアッセイ、および免疫組織学が挙げられる。本発明は、キット、例えば、本明細書に記載の抗体を含む診断用キットをさらに含む。
【0150】
本発明をよりよく理解するために、以下の実施例を示す。これらの実施例は、例示のみを目的とするものであり、いかようにも本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0151】
本明細書で言及されるあらゆる刊行物、特許、および特許出願は、参照により本明細書に組み込まれる。前述の発明について、曖昧な解釈を回避するために例示および例によってある程度詳細に説明してきたが、本発明の包含された態様の本質および範囲から逸脱することなくある特定の変更および改変をなし得ることが、本発明で開示されたアイデアに基づいて、本分野の当業者に、非常に明らかとなるであろう。
【0152】
実験のセクション
実施例1.抗体可変ドメイン配列のin silicoでのヒト化
親(参照)配列として、抗TRBV9-2抗体の重鎖の可変ドメインおよび軽鎖の可変ドメインの配列を使用したが、これら可変ドメインのアミノ酸配列を配列番号8および10に示す。
【0153】
重鎖の可変ドメインおよび軽鎖の可変ドメインのアミノ酸配列を、Biocad(ロシア)が提供するオープンソースとドナーライブラリーの両方から取得した、ヒト免疫グロブリンの可変ドメインの生殖細胞系列配列と、ラット免疫グロブリンの可変ドメインの生殖細胞系列配列と、成熟したヒトおよびラットの抗体の配列とのプールと比較した。解析にはYlabソフトウェアパッケージを使用した(Biocad、ロシア)。
【0154】
分析によって、試験抗体の可変ドメインの配列において、最も動物様でありかつ非ヒト様である位置およびそれらの組合せを決定した。同時に、これらの位置でヒト抗体において最も頻繁であるアミノ酸の組合せを決定した。本発明の抗体のヒト化の程度を向上する置換を含有する可変ドメインの人工配列を、得られるデータに基づいて設計した。
【0155】
また、対象のアミノ酸バリアントをコードするヌクレオチド配列を、CHO細胞株中でヒト化抗体を発現するようにコドン最適化した。重鎖の可変ドメインおよび軽鎖の可変ドメインのヒト化ヌクレオチド配列(配列番号15および17)をde novoで合成し、それぞれSalI/NheIおよびSalI/BsiWI制限部位にて、pEE-HC、pEE-CKベクター、IgG1フォーマットにクローニングした(Xuら Front.Chem.Sci.Eng. 2015、9(3):376~380)。
【0156】
得られる軽鎖および重鎖の核酸配列を、Senger配列決定によって検証した。抗体MA-042をさらなる調査用に選択し、その軽鎖および重鎖のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列を配列番号19~22に示す。
【0157】
抗体MA-042は重鎖の可変ドメインおよび軽鎖の可変ドメインを含み、これらは配列番号16および18に示すアミノ酸配列を有する。
抗体MA-042の重鎖の可変ドメインのヒト化の程度は87%であったが、一方、軽鎖の可変ドメインのヒト化の程度は85%であった(表1)。重鎖定常ドメインを、IgG1フォーマット、Gm3アロタイプによって表す。
【0158】
【0159】
実施例2.組換え抗体の調製およびその親和性の決定
実施例1に記載のように得られた、抗体MA-042の軽鎖および重鎖をコードする核酸を含むベクターを、大腸菌細胞中で増殖し、Qiagen(ドイツ)製のプラスミドDNA精製キットを使用して精製し、このベクターを使用して、製造元の取扱説明書にしたがって、線状ポリエチレンイミン(PEI 「MAX」、「Polysciences」、米国)を使用してCHO-Fut8細胞株にトランスフェクトした。得られる反応混合物をシェーカー上で37℃でインキュベートした。トランスフェクションの9日後、培養液を0.5/0.22μmフィルターを通してろ過することによって細胞から分離した。ろ過後、培養液を使用して、リン酸バッファ生理食塩水(PBS、pH7.4)で平衡化した0.2mlのPreDictor RoboColumn MabSelect SuReカラム(GE Healthcare、米国)でのアフィニティークロマトグラフィーを使用して抗体を単離した。次いで、カラムをPBS5倍量で洗浄した。担体に結合したタンパク質を、0.1MグリシンバッファpH3を使用して溶出した。タンパク質を含有するメインピークを採取し、1M Trisバッファ(pH7.5)でpHを中性に調整した。すべての段階を、110cm/hの流速下で実施した。次いで、タンパク質を、透析を使用してPBS(pH7.4)に移し、0.22μmフィルターを通してろ過し、新しい滅菌チューブに移した。
【0160】
変性条件下で12%PAGEを使用して単離品質を評価した。280AにてNanoDrop2000マイクロ分光光度計で測定することによって、定量的評価を実施した。単離したタンパク質を-70℃で保存した。
【0161】
抗体親和性を、OctetRed 96システム(ForteBio、米国)で決定した。標準プロトコルおよび製造元の取扱説明書にしたがって、濃度20μg/mlでの抗原をAR2Gセンサー(ForteBio)の表面に固定化した。ワーキングバッファとして0.1%Tween 20と0.1%BSAを含むPBSを使用して30℃で分析を実施した。ベースラインの記録後、抗体溶液を含有するウェルにセンサーを300秒間浸漬し、複合体を会合させた。次いで、バッファ液中での複合体の解離を600秒間検出した。
【0162】
参照シグナルを引いた後、結合曲線を、標準手順にしたがってOctet Data Analysis(バージョン9.0)ソフトウェアを使用して、1:1Globalインタラクションモデルを使用して解析した。得られるデータ(表2)が示したところは、抗体がヒト抗原に特異的かつ高親和性を持って結合することである。
【0163】
【0164】
実施例3.IgG1フォーマットで抗体を安定して産生する細胞株の調製、および抗体の産生
抗体MA-042の重鎖および軽鎖の配列を、実施例1に記載のように調製し、HindIII、XbaI制限部位にてpSXベクターにクローニングした。得られるプラスミドを大腸菌細胞中で培養し、製造元の取扱説明書にしたがってBenchPro(Life Technology、СIIIА)を使用して600~700μgを単離した。プラスミドをPvuIエンドヌクレアーゼを使用して一晩線状化し、次いでエタノールを沈殿し、沈殿物を水に溶解し、最終容量中の濃度を900~1100ng/μlとした。
【0165】
CHO-K1-S細胞株を、Ham’s F12 Gibco培地(Thermo、米国)で培養した。МА-042鎖のコード配列を含む遺伝子構築物によるトランスフェクションを、製造元のプロトコルにしたがってNucleofector(商標)(Lonza、スイス)でのエレクトロポレーションを使用して、実行した。
【0166】
トランスフェクションの翌日、トランスフェクト細胞を、ピューロマイシン(最終濃度7.2μg/ml)およびハイグロマイシンB(最終濃度640μg/ml)を培地に添加することによって、24日間、抗生物質選択に供した。次いで、高レベルのMA-042を発現する構造において相同な抗生物質耐性細胞クローンを選択した。
【0167】
MA-042を発現するCHO-K1-Sを培養する場合、2-デオキシ-2-フルオロ-L-フコース(CarboSynth、英国)25~100μMを補充した無血清培地Ham’s F12 Gibco(Thermo、米国)を使用した。前臨床試験用のモノクローナル抗体MA-042を、50LのHyCloneシングルユースバイオリアクターファーメンター(Thermo Fisher Scientific)で生産した。Millistak C0HCデプスフィルター(Merck-Millipore、米国)を使用して、培養液から産生細胞を除去した。清澄な培養培地からの抗体の一次精製を、プロテインAアフィニティー吸着剤で行った。標的タンパク質を、酸性条件下でグリシンバッファpH3.3~3.8で特異的に溶出した。収集した溶出液を、ウイルス不活化の目的で酸性pHに30~60分間曝露し、次いで、1M Tris-HCl溶液でpH6.5~7.0に中和した。有り得る不純物(DNA、産生細胞タンパク質、放出されたアフィン吸着剤のリガンド、凝集体および抗体断片)を除去するための最終的なクロマトグラフィー精製を、フロースルーモードでCaptoAdhere吸着剤(GE HealthCare LifeSciences)を使用して実行した。したがって、タンパク質溶液を、低導電率(<3msec/cm2)で、pH6.5~7.0のTrisバッファで平衡化した調製吸着剤を通して流した。次いで、精製タンパク質を、Viresolve PROフィルターキット(Millipore、米国)を使用してウイルス除去ろ過に供し、酢酸バッファ(pH5.0~5.5)とトレハロースを含有する最終バッファに対して濃縮および透析ろ過を行った。
【0168】
実施例4.TRBV9ファミリーTCRへの特異的結合のための抗体の使用。
実施例3に記載のように得られたモノクローナル抗体MA-042を使用して、リンパ球亜集団をソーティングした。製造元のプロトコルにしたがってフルオレセインイソチオシアネート試薬(Sigma、米国)を使用して、抗体をフルオレセインで標識した。抗体分子と反応したフルオロフォアの数を、495/280nmの波長での吸収スペクトル比によって調節した。
【0169】
Tリンパ球は健常ドナー由来の末梢血から得た。血液をEDTA Vacuetteチューブ(それぞれ2×9ml)に採取し、(Kovalchuk L.V.ら Immunology:Workshop-2010.-176p.)に記載の標準手順にしたがって単核画分を単離した。単離後、0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)および2mM EDTAを含むリン酸バッファ生理食塩水(PBS)に、細胞を移した。細胞の総数およびその生存率を、Lang N.R.(Stimulation of lymphocytes M.:Medicine、1976.-288p.)によって記載のトリパンブルー染色法によって決定した。等量の0.1%トリパンブルー溶液を細胞懸濁液に添加し、次いで、染色(死滅)と非染色の青色細胞をGoryaevチャンバーでカウントした。これらのデータに基づいて、試験試料中の死滅細胞のパーセンテージを決定した。
【0170】
TRBV9ファミリーに属する膜TCRを有するTリンパ球の標的集団へのMA-042の結合の選択性を確認するために、0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)、2mM EDTA pH8、100ng/mlの濃度での、FITCで標識された抗体MA-042、CD3-eFluor405(Tリンパ球マーカー)(eBioscience、米国)およびCD45-PC5(eBioscience、米国)(総白血球マーカー)を含むPBSバッファに、単核画分の500,000細胞分量を添加した。反応混合物50μlを室温で30分間インキュベートし、その後、0.5%BSA、2mM EDTAを補充したPBSバッファで細胞を洗浄した。染色手順の後、細胞をフローサイトメトリー(FACSARIA III、米国、
図1)を使用したソーティングに使用した。染色においてこれらのマーカーを使用することで、表面TRBV9+、CD3+、CD45+を保有する標的集団細胞を単離すること、ならびに陰性集団細胞、すなわち免疫表現型「TRBV9-、CD3+、CD45+」に相当する細胞を得ること、が可能となった。2つの複製からのTRBV9+およびTRBV9-の集団細胞を、総RNAの単離およびTCRベータ鎖の配列決定に使用した。得られる細胞画分を、RLTバッファ(Quagen、ドイツ)に入れ、製造元のプロトコルにしたがってQuiagen RNAeasyミニキット#217004試薬キット(Quagen)を使用してそこからRNAを単離した。単離RNAテンプレート上でcDNAを合成し、Mint cDNA合成キット(Eurogen、ロシア)を使用して、Britanovaら(J Immunol、2016、196(12)5005~5013)に記載のプロトコルにしたがってT受容体ベータ鎖の断片を増幅した。Illuminaアダプター(米国)を産生されたアンプリコンにライゲーションし、シーケンサー製造元のプロトコルにしたがってMiSeq Illuminaプラットフォームで配列決定を行った。シーケンスデータを、https://milaboratory.comにてインターネットで入手可能なMiGEC、MiXCR、およびVDJtoolsソフトウェアを使用して解析した。TCRベータ鎖の得られるレパートリーの解析が示したところは、抗体MA-042を使用してソーティングすることによって得られたライブラリーが、TRBV9遺伝子セグメントによってコードされた配列で93%だけ濃縮されたのに対して、「TRBV9-」である陰性画分ベータ鎖のレパートリーではTRBV9を含む配列は検出されなかったこと、である。
【0171】
実施例5.抗体MA-042のin vitro機能活性
モノクローナル抗体MA-042を、実施例3に記載のように得た。ヒト血液の単核画分を、実施例4に記載のように得た。MA-042の細胞毒性活性を、サイトフルオロメトリー法を使用して決定した。単核画分からの細胞の一定分量を使用して細胞の総数を計算し、生存率はトリパンブルーで染色する能力によって決定した。細胞毒性効率を評価するために、20ng/ml 40ng/ml 100ng/ml 200ng/ml 500ng/mlおよび1μg/mlの濃度で抗体MA-042とともに、3~4×10
6個の細胞をPBSバッファ中で1時間インキュベートしたが、「ゼロコントロール」の場合、抗体を添加せずに細胞をインキュベートした。インキュベーション後、細胞をPBSで2回洗浄し、10%ヒト血清を含むRPMI培地に移し、CO
2インキュベーター内で72時間インキュベートした。次いで、細胞を遠心分離し、抗体CD4-PE、CD3-eFluor405(eBioscience、米国)およびMA-042-FITCで染色した。細胞の染色試料を、FacsAria IIIセルソーター(BD、米国)でのサイトメトリー解析に使用した。細胞毒性効果を、CD3+リンパ球集団におけるTRBV9陽性細胞の割合を漸次減少させることによって評価したが、標的細胞の数の低下は、標的集団が完全に排除されるまで、抗体MA-042濃度の上昇と相関した。MA-042染色の後の標的集団の完全な排除が、抗体濃度500ng/mlで検出された。「ゼロ対照」では、TRBV9Tリンパ球のパーセンテージは未変化のままであった。
図2にフローサイトメトリーの典型的な結果を示す。かくしてEC50値が得られたが(半数効果濃度とは、指定された期間期間後に所与の抗体の最大効果の半分を誘導する抗体濃度を指す)、この値は、抗体MA-042については100ng/mlとなった(
図3)。
【0172】
実施例6.抗体MA-042のin vivo機能活性
モノクローナル抗体MA-042を、実施例3に記載のように得た。アカゲザル(Macaca mulatta)へのMA-042の単回静脈内投与を行って、比活性および基本的な薬物動態パラメータを評価した。実験を、Federal State Budget Scientific Institution 「Scientific Research Institute of Medical Primatology」により提供された、体重4~10kgの性的成熟のオスのアカゲザルで実施した。提供後、動物を30日の検疫に供した。
【0173】
末梢血中のTRBV9+リンパ球の画分含有量を、実験動物および対照動物のコホートを形成するために予備的に推定した。動物の静脈血を4ml/チューブにEDTAバキュームチューブ(Vacuette、Greiner Bio-One、オーストリア)に採取した。次いで、単核細胞画分(1.077g/cm3 PanEco、ロシア)をフィコール勾配によって単離した。免疫表現型解析の場合、細胞100,000個を使用し、これに、1μlの市販の抗CD8 PE/Cy5(クローンRPA-T8)抗体(BioLegend、米国)、抗CD4-Alexa Fluor 488(クローンS3.5)抗体(Thermo Fisher、米国)および抗CD2-PerCP Cy 5.5(クローンRPA-2.10)抗体(BioLegend、米国)、抗TcRVβ1(TRBV9)-PE抗体(Beckman Coulter、米国)を補充し、室温で20分間インキュベートし、等量のハンクス溶液で2回洗浄した。試料を、FACSAria IIIセルソーター(米国)を使用して解析した。
【0174】
実験の期間の間、選択された動物を、飼料容器、ラベルホルダーを備えた個別の金属製ケージに、ケージ毎に1匹の動物で飼育した。食物は、平均的な給餌基準にしたがって、オールインワン飼料、果物、野菜で構成した。動物は中央給水から水を受け取った。
【0175】
主なリンパ球表面決定因子(CD4、CD8、CD2)に対する抗体を用いたサイトメトリー解析の結果に基づいて、動物を、対照群を含めて、4匹の動物/群の3群に分けた。対照群の動物は、ヒト免疫グロブリン(「Immunovenin」、Microgen、ロシア)を静脈内に受けた。
【0176】
製品用量に応じて、アカゲザル(Macaca mulatta)の末梢血中のTRBV9+ T細胞のパーセンテージ(%)の比較研究のために、2つの実験群にMA-042をそれぞれ動物1匹あたり1mgと10mgの用量で投与した。「Immunovenin」を取扱説明書にしたがって滅菌水で希釈し、動物1匹あたり10mgの濃度で投与した。MA-042製品を、カルシウムおよびマグネシウムを含まないダルベッコのリン酸バッファ生理食塩水(DPBS)で希釈した。製品を、1回の注射あたり5mlを超えない容量で右前肢の尺骨静脈に投与した。
【0177】
観察期間は42日続けた。血液試料を、表3に示すように選択した。試料の免疫表現型検査と解析を、上記のように実行した。
【0178】
【0179】
その結果、MA-042の投与から72時間後、動物は両濃度にて末梢血中のTRBV9+のほぼ完全な排除を呈した。TRBV9+リンパ球の一部を、1mg/動物の濃度での製品投与の336時間後に検出した。用量10mgで製品を摂取した動物では、TRBV9+リンパ球は検出されなかった。投与42日後、実験群ではTRBV9+リンパ球のケースは検出されなかった;対照群は、実験前と同じTRBV9+リンパ球レベルを呈した。
【0180】
実施例8.本発明の抗体を含む医薬組成物の調製
医薬組成物を、当技術分野で知られる標準技法によって得た。
医薬組成物の成分を表4に示す。
【0181】
【0182】
実施例9.抗体を有する医薬組成物を含むキット
抗体MA-042組成物を含む剤形を有するキットを製造するために、実施例5にしたがって調製された医薬組成物を、滅菌条件下で1mlのアンプルまたは注射器に密封し、プラスチックまたはボール紙の容器にラベルを貼りおよびパッケージする。
【0183】
また、アンプル容器に添付文書を含める。
【配列表】
【国際調査報告】