(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-22
(54)【発明の名称】多能性幹細胞の能力を調節する方法およびその適用
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0735 20100101AFI20220215BHJP
C12N 5/02 20060101ALI20220215BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220215BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220215BHJP
A61K 31/366 20060101ALI20220215BHJP
A61K 31/724 20060101ALI20220215BHJP
A61K 31/137 20060101ALI20220215BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220215BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20220215BHJP
【FI】
C12N5/0735
C12N5/02 ZNA
C12N5/10
A61P35/00
A61K31/366
A61K31/724
A61K31/137
A61K45/00
C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021537935
(86)(22)【出願日】2019-12-26
(85)【翻訳文提出日】2021-08-11
(86)【国際出願番号】 US2019068528
(87)【国際公開番号】W WO2020139914
(87)【国際公開日】2020-07-02
(32)【優先日】2018-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】596118493
【氏名又は名称】アカデミア シニカ
【氏名又は名称原語表記】ACADEMIA SINICA
【住所又は居所原語表記】128 Sec 2,Academia Road,Nankang,Taipei 11529 TW
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】ルゥ,ジョイス ジャン
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ウェイ-ジュ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA02
4B065BD39
4B065CA44
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZB26
4C086AA01
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4C206NA14
4C206ZB26
(57)【要約】
本発明は、ポドカリキシン様タンパク質1(PODXL)の発現を調整することによって多能性幹細胞(PSC)の能力を調節する方法、およびその適用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多能性幹細胞の能力を調節する方法であって、幹細胞を、有効量のポドカリキシン様タンパク質1(PODXL)のモジュレーターに曝すことを含む、方法。
【請求項2】
モジュレーターがPODXLアンタゴニストである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
PODXLアンタゴニストが、多能性幹細胞の能力を下方制御することにおいて有効である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
PODXLアンタゴニストが、抗PODXL抗体、PODXL標的干渉核酸、またはPODXLを阻害する低分子である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
PODXLアンタゴニストが、コレステロール合成阻害剤である、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
幹細胞が、コレステロールを含まない培養培地中で培養される、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
モジュレーターが、PODXLアゴニストである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
PODXLアゴニストが、多能性幹細胞の能力を上方制御することにおいて有効である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
分化細胞を調製する方法であって、
(a)未分化多能性幹細胞を分化に好適な条件に曝して、分化細胞および未分化多能性幹細胞を含む細胞集団を産生すること、
(b)該細胞集団を有効量のPODXLアンタゴニストまたはコレステロール合成阻害剤に曝すことによって、未分化多能性幹細胞を除去すること、および
(c)適宜、残存する分化細胞を培養すること
を含む、方法。
【請求項10】
PODXLアンタゴニストが、抗PODXL抗体、PODXL標的干渉核酸、またはPODXLを阻害する低分子である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
PODXLアンタゴニストまたはコレステロール合成阻害剤が、シンバスタチン[(1S,3R,7S,8S,8aR)-1,2,3,7,8,8a-ヘキサヒドロ-3,7-ジメチル-8-[2-[(2R,4R)-テトラヒドロ-4-ヒドロキシ-6-オキソ-2H-ピラン-2-イル]エチル]-1-ナフタレニリ-2,2-ジメチルブタノアート]、AY9944(trans-N,N-ビス[2-クロロフェニルメチル]-1,4-シクロヘキサンジメタンアミンジヒドロクロライド)、MBCD(メチル-β-シクロデキストリンメチル-β-シクロデキストリンシクロマルトヘプタオース、メチルエーテル)、プラカスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、ロバシミベ、VULM 1457、YM750、U 18666A、CI 976、Ro 48-8071フマラート、AK 7、BMS 795311、ラリッスタット1、アトルバスタチン、ロスバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、SB 204990、フィリピンIII、GGTI 298、トルセトラピブ、オルリスタット、エゼチミブ、アリロクマブ、エボロクマブ、ボコシツマブ、ナイアシン、およびアムロジピンからなる群より選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
未分化多能性幹細胞が、胚性幹細胞(ESC)、人工多能性幹細胞(IPSC)、および拡張型多能性幹細胞(EPSC)からなる群より選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
分化細胞が、骨芽細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、内皮細胞、ニューロン細胞、乏突起膠細胞、星状膠細胞、ミクログリア細胞、肝細胞、心臓細胞、肺細胞、腸細胞、血球、胃細胞、卵巣細胞、子宮細胞、膀胱細胞、腎臓細胞、眼の細胞、耳の細胞、口腔細胞、および成体幹細胞(すべて分化細胞型)からなる群より選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
細胞が、コレステロールを含まない培養培地中で培養される、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
必要とする対象における奇形腫を治療する方法であって、有効量のPODXLアンタゴニストまたはコレステロール合成阻害剤を対象に投与することを含む、方法。
【請求項16】
PODXLアンタゴニストまたはコレステロール合成阻害剤が、シンバスタチン[(1S,3R,7S,8S,8aR)-1,2,3,7,8,8a-ヘキサヒドロ-3,7-ジメチル-8-[2-[(2R,4R)-テトラヒドロ-4-ヒドロキシ-6-オキソ-2H-ピラン-2-イル]エチル]-1-ナフタレニリ-2,2-ジメチルブタノアート]、AY9944(trans-N,N-ビス[2-クロロフェニルメチル]-1,4-シクロヘキサンジメタンアミンジヒドロクロライド)、MBCD(メチル-β-シクロデキストリンメチル-β-シクロデキストリンシクロマルトヘプタオース、メチルエーテル)、プラカスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、ロバシミベ、VULM 1457、YM750、U 18666A、CI 976、Ro 48-8071フマラート、AK 7、BMS 795311、ラリッスタット1、アトルバスタチン、ロスバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、SB 204990、フィリピンIII、GGTI 298、トルセトラピブ、オルリスタット、エゼチミブ、アリロクマブ、エボロクマブ、ボコシツマブ、ナイアシン、およびアムロジピンからなる群より選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
多能性幹細胞の能力を上方制御する方法であって、幹細胞においてポドカリキシン様タンパク質1(PODXL)の発現を誘導することを含む、方法。
【請求項18】
PODXLの発現が、(a)PODXLをコードする組換えポリヌクレオチドを幹細胞に導入すること、および(b)PODXLの発現を可能にする条件下で幹細胞を培養することによって誘導される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
キメラ胚を調製する方法であって、非ヒト宿主の受精胚を、PODXLをコードする組換えポリヌクレオチドを含むヒト拡張型多能性細胞(hEPSC)と接触させること、およびPODXLを過剰発現するhEPSCと接触した宿主胚を培養してキメラ胚を形成させることを含む、方法。
【請求項20】
接触が、hEPSCを宿主胚に注入することによって実行される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
キメラ胚を、非ヒト宿主と同じ種の、偽妊娠した雌の非ヒトレシピエント動物に移植して、子孫を産ませること、および適宜、該子孫から臓器を得ることをさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
人工多能性幹細胞(iPSC)を生成する方法であって、ある割合の体細胞をiPSCに脱分化させる条件において体細胞を培養することを含み、該条件がコレステロールを含む培養培地を含む、方法。
【請求項23】
体細胞が、皮膚細胞、例えば線維芽細胞である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
請求項1~14のいずれか一項に記載の方法を実行するための、またはそのような方法を実行するための組成物を製造するための、請求項1から14のいずれか一項に記載のPODXLモジュレーターの使用。
【請求項25】
リプログラミングを介して体細胞から多能性幹細胞(iPSC)を生成するために体細胞を処理するための、または多能性幹細胞(iPSC)を生成するために体細胞を処理するための組成物を製造するための、コレステロールの使用。
【請求項26】
PODXLモジュレーターを含む、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法を実行するための組成物。
【請求項27】
培地組成物であり、細胞培養のための基礎培地を含む、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
コレステロールを含む、リプログラミングを介して体細胞から多能性幹細胞(iPSC)を生成するために体細胞を処理するための組成物。
【請求項29】
細胞培養のための培地組成物であり、基礎培地を含む、請求項28に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、米国特許法第119条のもと、その全内容が引用により本明細書に包含されている、2018年12月26日出願の米国特許仮出願第62/784,942号の利益を主張するものである。
【0002】
本発明は、ポドカリキシン様タンパク質1(PODXL)およびコレステロールの発現を調整することによって多能性幹細胞(PSC)の能力を調節する方法、ならびにその適用に関する。
【背景技術】
【0003】
初期胚の内部細胞塊から生成されたヒト胚性幹細胞(hESC)は、無限に増殖する能力を有し、内胚葉、中胚葉および外胚葉、ならびに潜在的には胎盤を除くあらゆる細胞型に分化する(Thomson et al., 1998)。hESCは、エピブラスト細胞のように挙動し、プライム型(primed state)と主張された(Brons et al., 2007;Kumari、2016;Nichols and Smith、2009;Tesar et al., 2007)。培養培地を変更することによって、プライム型ESCをナイーブ様状態へと変えることができる。ナイーブ幹細胞はほとんど分化しておらず、マウスではキメラを形成することができる(Chan et al., 2013;Gafni et al., 2013;Guo et al., 2016;Takashima et al., 2014;Takeda et al., 2000;Theunissen et al., 2014;Wang et al., 2014;Ware et al., 2014)。CellおよびNatureで2017年に発表された2つの論文は、細胞を4~7種の化学物質と共に培養することによる拡張型多能性幹細胞(EPSC、extended pluripotent stem cell)を主張した(Yang et al., 2017a;Yang et al., 2017b)。EPSCは、2~4細胞期の胚のように挙動する。マウスモデルでは、EPSCは、ナイーブ幹細胞と比較してはるかに高い効率で内部細胞塊に寄与しており、栄養外胚葉にも分布することができる(Yang et al., 2017a;Yang et al., 2017b)。
【0004】
再生医療におけるESCの潜在性はきわめて大きいが、免疫拒絶反応の問題を生じる。Oct4、Sox2、Myc、およびKlf4(またはOct4、Nanog、Sox2、およびLin28)によって体細胞をESC様細胞へと変えている人工多能性幹細胞(iPSC)が、再生医療のための有望な手法となっている。(Okita et al., 2007;Park et al., 2008;Takahashi et al., 2007;Wernig et al., 2007;Yu and Thomson、2008;Zhao and Daley、2008)。iPSCは、ESCと比較して、同じ性質を有しており、無限に増殖し、多能性を有し、異所注入した場合、奇形腫を形成する。iPSCは、黄斑ジストロフィー、パーキンソン病、および心疾患の患者を対象として臨床試験が行われている。
【0005】
PSC再生に関して、数多くの論文において、Oct4、Sox2、Nanog、Klf4、およびc-Mycのような転写因子が研究されてきた(Dunn et al., 2014;Hu et al., 2009;Jaenisch and Young、2008;Jiang et al., 2008;Kagey et al., 2010;Leeb et al., 2010;Silva et al., 2009;van den Berg et al., 2010;Young、2011)。しかしながら、膜貫通型タンパク質は詳しく研究されていない。EpCAM(Kuan et al., 2017)およびE-カドヘリン(Chen et al., 2011)のようなごく少数の因子ならびにC9ORF135が、マウスESCまたはhESCにおいて研究されてきた(Zhou et al., 2017)。
【0006】
TRA-1-60およびTRA-1-81は広く使用されており、未分化hESCの判定基準マーカーである(Andrews、2011;Muramatsu and Muramatsu、2004)。TRA-1-60およびTRA-1-81は、ポドカリキシンタンパク質(PODXL、またポドカリキシン様タンパク質-1、MEP21、PCLP1、Gp200/GCTM-2、およびThrombomucin(トロンボムチン)とも呼ばれる)のグリカンエピトープである。注目すべきは、TRA-1-60は、部分的にリプログラムされた細胞から完全にリプログラムされたiPSCを確認するために使用することができることである(Chan et al., 2009)。対照的に、公知の転写因子、NANOGは、完全にリプログラミングしている細胞を印付けるために使用することはできない(Chan et al., 2009)。PODXLは、未分化状態にあるhESCにおいて非常に多く発現される(Brandenberger et al., 2004;Cai et al., 2006;Kang et al., 2016)。その発現レベルは、ハウスキーピング遺伝子アクチンと同程度に高い(Kang et al., 2016)。PODXL発現レベルは、コア転写因子、ならびにOCT4、SOX2、およびNANOGより高い。PODXLに対する細胞傷害性抗体は、発癌性の未分化ESC/iPSCを殺すことができる(Choo et al., 2008;Kang et al., 2016;Tan et al., 2009)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ヒト多能性幹細胞(hPSC)におけるコレステロールの重要性は、依然として把握できていない。
【0008】
本発明では、多能性幹細胞(PSC)の能力がポドカリキシン様タンパク質1(PODXL)の発現を調整することを介して調節され得ることが、予想外に見出されている。PODXLは、EPSCおよびiPSCリプログラミングのために必須である。マイクロアレイの結果を通して、PODXLの下流にあり、hESC/iPSC/EPSC再生を維持しているコレステロール生合成経路を見出した。ESCは、3種の分化細胞型、線維芽細胞、骨髄間葉系幹細胞(BMMSC)、およびhESC由来神経幹細胞(NSC)と比較して、コレステロール阻害剤、シンバスタチン/AY9944/MβCDに対する感受性が高い。PODXL-コレステロール経路は、癌遺伝子c-MYCおよび不死化遺伝子テロメラーゼ(TERT)の上流である。PODXLおよびコレステロールはまた、脂質ラフト形成も調節していた。これらのデータは、ESC/iPSC再生において、PODXLは、膜から伝達するコレステロール代謝を組織化するタンパク質であることを指摘している。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、一面において、本発明は、多能性幹細胞の能力を調節する方法であって、幹細胞を有効量のPODXLモジュレーターに曝すことを含む方法を提供する。
【0010】
幾つかの態様において、モジュレーターは、PODXLアンタゴニストである。詳細に言えば、本明細書に記載したようなPODXLアンタゴニストは、多能性幹細胞の能力を下方制御することにおいて有効である。
【0011】
幾つかの態様において、PODXLアンタゴニストは、抗PODXL抗体、PODXL標的干渉核酸、またはPODXLを阻害する低分子である。
【0012】
幾つかの態様において、PODXLアンタゴニストは、コレステロール合成阻害剤である。
【0013】
幾つかの態様において、幹細胞は、コレステロールを含まない培養培地中で培養される。
【0014】
幾つかの他の態様において、モジュレーターは、PODXLアゴニストである。詳細に言えば、本明細書に記載したようなPODXLアゴニストは、多能性幹細胞、例えばESC/iPSC/EPSCの能力を上方制御することにおいて有効である。
【0015】
さらなる一面において、本発明は、分化細胞を調製する方法であって、
(a)未分化多能性幹細胞を分化に好適な条件に曝して、分化細胞および未分化多能性幹細胞を含む細胞集団を産生すること、
(b)該細胞集団を有効量のPODXLアンタゴニストまたはコレステロール合成阻害剤に曝すことによって、未分化多能性幹細胞を除去すること、および
(c)適宜、残存する分化細胞を培養すること
を含む方法を提供する。
【0016】
幾つかの態様において、未分化多能性幹細胞は、胚性幹細胞(ESC)、人工多能性幹細胞(iPSC)、および拡張型多能性幹細胞(EPSC)からなる群より選択される。
【0017】
幾つかの態様において、分化細胞は、骨芽細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、内皮細胞、ニューロン細胞、乏突起膠細胞、星状膠細胞、ミクログリア細胞、肝細胞、心臓細胞、肺細胞、腸細胞、血球、胃細胞、卵巣細胞、子宮細胞、膀胱細胞、腎臓細胞、眼の細胞、耳の細胞、口腔細胞、および成体幹細胞(すべて分化細胞型)からなる群より選択される。
【0018】
多能性幹細胞の能力を調節する方法および分化細胞を調製する方法を含む本発明の方法を実行するための、本明細書に記載したようなPODXLモジュレーターの使用もまた提供される。さらに、多能性幹細胞の能力を調節する方法および分化細胞を調製する方法を含む本発明の方法を実行するための、本明細書に記載したようなPODXLモジュレーターを含む組成物が提供される。
【0019】
本発明はまた、必要とする対象における奇形腫を治療する方法であって、有効量のPODXLアンタゴニストまたはコレステロール合成阻害剤を対象に投与することを含む方法も提供する。
【0020】
本発明は、多能性幹細胞の能力を上方制御する方法であって、幹細胞においてポドカリキシン様タンパク質1(PODXL)の発現を誘導することを含む方法を、さらに提供する。
【0021】
幾つかの態様において、PODXLの発現は、(a)PODXLをコードする遺伝子を含む組換え核酸配列を幹細胞に導入すること、および(b)PODXLの発現を可能にする条件下で幹細胞を培養することによって誘導される。
【0022】
幾つかの態様において、化学物質、成長因子、細胞内タンパク質などのPODXLアゴニストは、PODXLの発現を上方制御することができる。
【0023】
幾つかの態様において、本明細書に記載したような多能性幹細胞は、EPSC、ESC、および/またはiPSCであり得る。
【0024】
別の面において、本発明は、胚におけるキメラ化の効率を促進する方法であって、非ヒト宿主の受精胚を、PODXLをコードする組換えポリヌクレオチドを含むヒト拡張型多能性幹細胞(hEPSC)と接触させること、およびPODXLを過剰発現するhEPSCと接触した宿主胚を培養してキメラ胚を形成させることを含む方法を提供する。
【0025】
幾つかの態様において、接触は、hEPSCを宿主胚に注入することによって実行される。
【0026】
幾つかの態様において、宿主胚は、動物(例えばイヌ、ネコなど)、家畜(例えば雌ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマなど)、または実験用動物(例えばラット、マウス、モルモットなど)から生成する。
【0027】
幾つかの態様において、該方法は、キメラ胚を、非ヒト宿主と同じ種の偽妊娠した雌の非ヒトレシピエント動物に移植して、子孫を産ませること、および適宜、該子孫からヒト化臓器を得ることを、さらに含む。
【0028】
さらに、本発明において、コレステロールが、体細胞、例えば線維芽細胞などの皮膚細胞のリプログラミング効率をブーストし得ることが見出されている。したがって、本発明は、多能性幹細胞(iPSC)を生成する方法であって、ある割合の皮膚細胞をiPSCに脱分化させ得る条件において体細胞を培養することを含み、該条件がコレステロールを含む培養培地を含む、方法を提供する。幾つかの態様において、体細胞は、例えば組換え核酸を導入することによって、遺伝子操作されて、1つまたは複数のリプログラミング因子、例えばOct4、Sox2、Klf4、およびcMycを含むOSKMを過剰発現する。リプログラミングを介して体細胞から多能性幹細胞(iPSC)を生成するために体細胞を処理するための、コレステロールの使用もまた提供される。さらに、組成物、例えば、リプログラミングを介して体細胞から多能性幹細胞(iPSC)を生成するために体細胞を処理することにおいて有用であるコレステロールおよび基礎培地(basic medium)を含む、培地組成物が提供される。
【0029】
本発明の1つまたは複数の態様の詳細を下記の説明において示す。本発明の他の特徴または利点は、以下の幾つかの態様の詳細な説明、さらには添付する特許請求の範囲からも明らかとなるであろう。
【0030】
前述の発明の概要、および後述の発明を実施するための形態は、添付の図面と併せて読めばさらに理解が深まるであろう。本発明を説明するために、目下の好ましい態様を図面に示す。ただし、本発明は示された厳密な配置および手段に限定されるものではないことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1A~1J。PODXLはhPSCの自己複製および生存能のために必須であり、PODXL発現レベルはヒト胚胎状態と関連している。
図1Aは、PODXL発現レベルが、胚の1細胞期から4細胞期にわたって濃縮したことを示す。対照的に、重要な幹細胞性遺伝子、Oct4、Nanog、Sox2、およびLin28A発現は、桑実期および胚盤胞期においてピークとなった。データは、GEOデータセットGSE18290より算出した。
図1B~1Cは、FACS分析により、PODXL発現が、hESCでは、抗PODXLタンパク質抗体(
図1B)およびTra-1-60抗体(
図1C)によって検出したいずれの場合も、間葉系幹細胞および線維芽細胞と比較して大量であったことを示す。Tra-1-60抗体は、PODXLのグリコールエピトープを認識した。
図1Dは、PODXLが、hESCでは、間葉系幹細胞および線維芽細胞(CRL-2097)と比較して、より大量に発現されたことを示す。通常培養されたESCおよびEPSCでは、PODXLは過剰発現されたが、分化したESC(EB)または線維芽細胞(2097)では下方制御されことを示したウェスタンブロット分析。
図1Eは、shP6ODXLが、S6細胞の自己複製を遮断することを示す。shPODXL形質導入体は、形態的変化を誘導した。shRFP(陰性対照として用いた)およびPODXLに対する2つの異なるshRNA(shPODXL#1、shPODXL#2)のレンチウイルスを感染させたHUES6 hESCの明視野像を使用した。スケールバー、200μm。PODXLのノックダウンは相対細胞数を減少させた。アラマーブルーアッセイは、shRNA処理したS6 hESCにおいて行った。P値は、一元配置分散分析を用いてshRFP hESCとの比較によって算出した(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。PODXLのノックダウンは、ESCにおける多能性マーカー発現を阻害した。アルカリホスファターゼ活性(ALP)アッセイを行った。ALPレベルは、アラマーブルーアッセイ(AB)による相対細胞数に対して算出した。P値は、一元配置分散分析を用いてshRFP hESCとの比較によって算出した(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。
図1Fは、shP6ODXLが、H9細胞およびiPSC-0207の自己複製を遮断することを示す。PODXLのノックダウンは相対細胞数を減少させた。アラマーブルーアッセイは、shRNA処理したS6 hESCにおいて行った。P値は、一元配置分散分析を用いてshRFP hESCとの比較によって算出した(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。PODXLのノックダウンは、ESCにおいて多能性マーカー発現を阻害した。アルカリホスファターゼ活性(ALP)を行った。ALPレベルは、アラマーブルーアッセイ(AB)による相対細胞数に対して算出した。P値は、一元配置分散分析を用いてshRFP hESCとの比較によって算出した(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。
図1Gは、ウェスタンブロットによって、HUES6細胞においてレンチウイルス感染の3日後、c-MYCおよびTERTが減少したことが実証されたことを示す。
図1Hは、shPODXL発現hESCがアポトーシス/壊死を誘導されたことを示す。アネキシンV-PIによって染色するFACS分析によって証明された。細胞に、6日間、shRFPおよびshPODXLレンチウイルスを感染させた。定量結果。フローサイトメトリーによって測定したHUES6細胞のアポトーシスの割合をグラフ化した。エラーバーは、4回の反復実験の標準偏差を表す。P値は、一元配置分散分析を用いてshRFP hESCとの比較によって算出した(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。
図1Iは、PODXLの下方制御が、iPSC形成効率を低下させたことを示す。iPSC生成のプロトコール。ヒト包皮線維芽細胞を、0日目にOct4、c-Myc、KLF4、およびSox2、RFPまたはPODXLを発現するレンチウイルスで処理した。ALPアッセイを16日目に実施した。アルカリホスファターゼ(ALP)活性アッセイを実施した。赤に染色されたALP陽性コロニーを数えた。P値は、一元配置分散分析を用いてshRFP hESCとの比較によって算出した(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。
図1Jは、PODXLのノックダウンが、拡張型多能性幹細胞のコロニーの大きさおよびコロニーの数を低減させたことを示す。6日間、レンチウイルスを用いてshRNAを感染させたHUES6由来EPSCの明視野像。P値は、一元配置分散分析を用いてshRFP hESCとの比較によって算出した(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。
【
図2】
図2A~2G。PODXLはプライム型および拡張型多能性を促進することができる。
図2Aは、PODXL過剰発現が、shPODXLによって阻害された自己複製能をレスキューすることを示す。アラマーブルーアッセイ、アルカリホスファターゼ活性アッセイ、およびウェスタンブロットアッセイを実施した(
図2A)。P値は、一元配置分散分析を用いてshRFP hESCとの比較によって算出した(*p<0.05、**p<0.01)。
図2Bは、PODXLの過剰発現が、HUES6細胞の相対細胞数および幹細胞再生能を上方制御したことを示す。ウェスタンブロットアッセイ、アラマーブルーアッセイ、クリスタルバイオレットアッセイ、トリパンブルー排除アッセイ、およびアルカリホスファターゼ活性アッセイを実施した。3日間のレンチウイルス感染の後、PODXLまたはGFP過剰発現hESCを算出した。P値は、対応のないスチューデントt検定を実施することによって算出した(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。
図2Cは、PODXLがiPSC形成効率を促進することを示す。iPSC生成のプロトコールを上段パネルに記載した。0日目に、ヒト包皮線維芽細胞に、Oct4、KLF4、Sox2、c-Myc、ならびにGFPまたはPODXLを発現するレンチウイルスベクターを感染させた。16日目に、細胞を採取し、解析した。アルカリホスファターゼ(ALP)活性アッセイを実施し、リプログラムされたALP陽性コロニーを数えた。P値は、対応のないスチューデントt検定を実施することによって算出した(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。
図2Dは、PODXL発現EPSCが、より多くのドーム形状コロニーを形成したことを示す。PODXLを過剰発現させたEPSCのプロトコール(上段パネル)。フィーダー層を含まない、4日目のhEPSCの明視野像。
図2Eは、hEPSCにおけるPODXLの過剰発現が、コロニー数およびコロニーの大きさを増大させたことを示す。細胞は、6日間、薬剤を用いて選択した。コロニーの大きさは、イメージProソフトウエアによって算出し、3連で実施した。P値は、対応のないスチューデントt検定を実施することによって算出した(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。
図2Fは、フィーダーを含まないEPSC培養条件において、PODXLの過剰発現が、細胞数およびALP活性を上方制御したことを示す。P値は、対応のないスチューデントt検定を実施することによって算出した(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。
図2Gは、PODXL過剰発現が、EPSCにおけるドーム形状細胞形成を改善させたことを示す。P値は、対応のないスチューデントt検定を実施することによって算出した(**p<0.01)。
【
図3】
図3A~3E。PODXLはSREBP/HMGCRを調整することによって細胞のコレステロールレベルを上昇させる。
図3Aは、コレステロール合成の律速酵素HMGCRの発現が、PODXLの上方制御または下方制御によって変化することを示す。3連の実験において、RT-qPCR分析によると、HMGCRおよび数種のコレステロール関連遺伝子のmRNA発現レベルは、PODXL下方制御hESCにおいて低下している。P値は、一元配置分散分析を実行することによって、shRFP hESCに対して算出した(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。HMGCR mRNA発現レベルは、PODXL過剰発現hESCにおいて上昇している。QRT-PCR分析は、3連で実施した。P値は、スチューデントの対応のないt検定を実行することによって、RFP hESCに対して算出した(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。ウェスタンブロットは、HMGCR、c-MYC、およびTERTの発現レベルが、PODXL過剰発現hESCにおいて上昇することを示す。ウェスタンブロットは、レンチウイルス形質導入の3日後に行った。ウェスタンブロットは、hEPSC培養条件下、shPODXLを形質導入したHUES6において、HMGCR、c-MYCが下方制御されることを実証している。ウェスタンブロットは、6日間のレンチウイルス形質導入の後に行った。
図3Bは、PODXLを上方制御または下方制御した場合、コレステロールレベルが変化することを示す。コレステロールレベルは、shPODXLを形質導入したhESCでは下方制御されている。細胞のコレステロール含有量は、Amplex Redアッセイキットによって調べた。P値は、一元配置分散分析を行うことによって、shRFP hESCに対して算出した(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。コレステロールレベルは、PODXL過剰発現hESCでは上方制御されている。P値は、スチューデントの対応のないt検定を行うことによって、RFP hESCに対して算出した(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。
図3Cは、shHMGCRがhESCの自己複製を阻害することを示す。shHMGCRレンチウイルスを形質導入したHUES6およびH9細胞の明視野像。ウイルスは、4日間、感染させた。ウェスタンブロット。HMGCR、c-MYC、TERTは、shHMGCR感染hESCにおいて減少している。クリスタルバイオレットアッセイ、アルカリホスファターゼアッセイ。shHMGCRにおける自己複製能の低下を示したアラマーブルーアッセイ。P値は、一元配置分散分析を実行することによって、shRFP hESCに対して算出した(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。
図3Dは、ウェスタンブロットが、EPSC培養物において、PODXLを上方制御および下方制御した場合、SREBP1、SREBP2、HMGCR発現レベルが変化したことを実証していることを示す。(上段パネル)規定培地中で培養されたhESCにおいて、PODXLの下方制御がSREBP1およびSREBP2の発現を阻害することを示したウェスタンブロット。(下段左パネル)PODXLのノックダウンは、HMGCR、SREBP1、SREBP2、およびc-MYC発現を下方制御した。(下段右パネル)PODXL発現の上方制御は、HMGCR、SREBP1、SREBP2、テロメラーゼ、およびc-MYC発現を増加させた。
図3Eは、クロマチン結合SREBP1およびSREBP2のレベルが、PODXLを下方制御および上方制御した場合、変化したことを示す。(上段パネル)SREBP1、SREBP2、およびc-MYCタンパク質の細胞内局在化。shPODXLおよびshRFPウイルスを、3日間、hESCに形質導入した。ヒストン3(H3)、HDAC2、およびβ-チューブリン(β-TUB)を、クロマチン結合画分、可溶性核画分、および細胞質画分のマーカーとして用いる。(下段パネル)ウェスタンブロットは、3日目における、PODXL過剰発現hESCにおけるSREBP1、SREBP2、およびc-MYCタンパク質の細胞内局在化を実証している。
【
図4】
図4A~4C。コレステロールはhPSC再生に必須である。
図4Aは、コレステロール生合成の概略図を示す。PODXL過剰発現細胞では、コレステロール合成酵素(HMGCS1、HMGCR、SQLE、DHCR7)、コレステロールレベルセンサー(INIS1G1)、およびLDLR阻害剤(PCSK9)が、差次的に発現される。シンバスタチンはHMGCRの酵素活性を遮断し、一方、AY9944はDHCR7酵素活性を阻害する。MBCDは、脂質ラフトにおけるコレステロールを除去する。
図4Bは、シンバスタチン、AY9944、およびMBCDがhESC再生を遮断したことを示す。(左パネル)HUES6 hESCにおいて、3日間のシンバスタチン、AY9944、およびMBCDによる処理によって妨げられた、アルカリホスファターゼ活性。(右パネル)ウェスタンブロットは、シンバスタチンが、TERT、c-MYC、HMGCR、PODXL、TRA-1-60、TRA-1-81の発現を遮断することを実証している。
図4Cは、3種の阻害剤が、PODXLが媒介する幹細胞マーカー発現を遮断することを示す。アラマーブルーアッセイおよびアルカリホスファターゼ活性を、3日間の3種の阻害剤処理について調べた。スチューデントの対応のないt検定(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)を、GFP対照hESCに対して実施した。
【
図5】
図5A~5B。コレステロールの付加はPODXLノックダウン細胞におけるhESC再生をレスキューする。
図5Aは、コレステロールが、shPODXLによりノックダウンされた相対細胞数および幹細胞マーカー発現を回復させることを示す。4日間コレステロールを付加したPODXL下方制御HUES6 hESCにおいて、アラマーブルーアッセイおよびALP活性を実施した。
図5Bは、コレステロール付加が、PODXLノックダウンhESCにおいてアポトーシスを低減させることを示す。アネキシンV/PI陽性細胞の定量化は、3連で行った(下段左パネル)。P値は、一元配置分散分析を実施することによって、shRFP hESCに対して算出した(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。(下段右パネル)コレステロールは、shPODXLの発現によるc-MYC/TERT発現低下を回復させている。ウェスタンブロットは、コレステロールを4日間付加したPODXLノックダウンHUES6 hESCにおいて行った。
【
図6】コレステロールの付加はiPSCリプログラミング効率を促進する。CRL2097(9代)を播種し、500×濃縮SyntheChol(登録商標)NS0 サプリメント(S5442、Sigma)から希釈した最終濃度(0、0.5×、1×、2×、5×、8×)のコレステロールを加えて、レンチウイルスベクター(OSKM)を感染させた。アルカリホスファターゼアッセイを実施してリプログラミング効率を検定した。
【
図7】誘導性CRISPR/Cas9PODXLノックアウトiPSCは、PSCの自己複製を遮断する。(上段パネル)このアッセイで使用したsgRNAの位置の局在化。sgRNA標的配列は、PODXL座位の5’UTRおよびイントロン1において位置付けた。サイズが537bpであるエクソン1を、ゲノムから欠失させた。垂直方向の矢印は、sgRNA1、sgRNA2、およびsgRNA3の標的位置を指し示した。アラマーブルーアッセイによって測定された相対細胞数は、3日間および5日間薬剤選択された誘導性PODXLノックアウト細胞において、それぞれ算出した。3日間薬剤選択された誘導性PODXLノックアウト細胞における幹細胞マーカー発現について、それぞれALPアッセイを実施した。
【発明を実施するための形態】
【0032】
別段の定義がない限り、本明細書において使用する技術および科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。
【0033】
1.定義
本明細書で用いる、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈で別段の明確な記載がない限り、複数の対象を含む。よって、例えば、「構成要素(a component)」への言及には、複数のそのような構成要素および当業者に既知のそれらの均等物が含まれる。
【0034】
「含む(comprise)」または「含むこと(comprising)」という用語は、1つまたは複数の特徴、成分、または構成要素の存在を許すことを意味する、含む(include)/含むこと(including)という意味で、一般的に使用される。「含む(comprise)」または「含むこと(comprising)」という用語は、「なる(consist)」または「からなる(consisting of)」という用語を包含する。
【0035】
本明細書で用いる「約」という用語は、使用されている数の数値のプラスまたはマイナス5%を意味する。
【0036】
本明細書で用いる、「多能性幹細胞」または「未分化多能性幹細胞」という用語は、自己複製することができ、多能性である細胞を意味する。「多能性」という用語は、あらゆる細胞系列に分化する細胞の能力を意味する。具体的には、多能性細胞は、3つの主要な胚葉:内胚葉、外胚葉、および中胚葉に分化することができる細胞を含む。一般的に、未分化多能性幹細胞は胚性幹細胞(ESC)であり、胚の供給源、例えば前胚、受精後の胚の8日前の胚に由来していてもよい。未分化多能性幹細胞にはまた、1つまたは複数の特異的遺伝子を挿入することによってかまたは化学物質を用いて刺激することによって非多能性細胞(例えば、体細胞)から人為的に誘導される人工多能性幹細胞(iPSC)も、含むことができる。加えて、人工多能性幹細胞は、2つの特有の特性、すなわち自己複製能および多能性を有するという点で、多能性幹細胞(例えば、胚性幹細胞)と同じであるとみなされる。未分化多能性幹細胞にはまた、拡張型多能性幹細胞(EPSC)も含めた。EPSCは、胚注入した場合、栄養外胚葉および内部細胞塊に分化することができる。ESCおよびIPSCは、奇形腫を形成することができる。ヒトESC、IPSC、またはEPSCは、Nanog、Oct4、Sox2、TRA-1-60、TRA-1-81、アルカリホスファターゼなどの特定の細胞マーカーを発現することがさらに知られている。
【0037】
本明細書で用いる、「能力」という用語は、典型的には、他の細胞型に分化する細胞の能力を含み得る。細胞が分化することができる細胞型が多いほど、その能力は大きい。場合によって、「能力」という用語は、細胞の自己複製能および/または成長/増殖/生存能もまた一般的に含み得る。
【0038】
本明細書で用いる、「拡張された細胞能力(extended cell potency)」という用語は、対応する細胞の少なくとも1つおよび複数の細胞型に分化する幹細胞の能力を意味する。
【0039】
本明細書で用いる、「拡張型多能性幹細胞(EPSC)」という用語は、ESCおよびiPSC由来するものと比較した場合、インビボで(in vivo)胚体外系列を生成する能力が向上した多能性幹細胞を指し得る(Yang et al., 2017a;Yang et al., 2017b)。EPSCは、4~7種の化学物質を用いてESC/iPSCを処理することによって生成される(Yang et al., 2017a;Yang et al., 2017b)。詳細に言えば、EPSCは、胚の2~4細胞期を模倣し、内部細胞塊および栄養外胚葉(胎盤)のどちらにも寄与することができる。EPSCは、ナイーブ型幹細胞と比較して、より優れた内部細胞塊におけるキメラ形成能を有する。ヒトナイーブ型幹細胞は、ナイーブ誘導培地を用いて生成させることができる(Chan et al., 2013;Gafni et al., 2013;Guo et al., 2016;Takashima et al., 2014;Takeda et al., 2000;Theunissen et al., 2014;Wang et al., 2014;Ware et al., 2014)。ナイーブ型およびEPSCはいずれも、マウスモデルにおけるキメラ化に寄与できるが、規定培地中で培養されたプライム型ヒトESC/iPSCは寄与することはできない。
【0040】
本明細書で用いる、幹細胞の「能力を調節すること」という句は、細胞の能力の1つまたは複数の特定の特徴を上方制御するかまたは下方制御することを含んでもよい。例えば、そのような手法を用いていない同じ細胞と比較した場合、幹細胞の能力を上方制御することは、上方制御する手法(例えば、細胞をPODXLアゴニストと接触させること)を介して、多能性を増強することおよび/または細胞の自己複製能/成長/増殖/生存を促進することを含んでもよく、幹細胞の能力を下方制御することは、下方制御する手法(例えば、細胞をPODXLアンタゴニストと接触させること)を介して、多能性を低下させることおよび/または細胞の自己複製能/成長/増殖/生存を阻害することを含んでもよい。
【0041】
本明細書で用いる、「分化」という用語は、多能性幹細胞を、特定の形態または機能の細胞のために濃縮される後代に分化させる過程を意味する。分化とは、相対的な過程である。成熟体細胞、例えば、骨芽細胞(骨)、軟骨細胞(軟骨)、脂肪細胞(脂肪)、肝細胞(肝臓)、内皮細胞、ニューロン細胞、乏突起膠細胞、星状膠細胞、ミクログリア細胞、肝細胞、心臓細胞、肺細胞、腸細胞、血球、胃細胞、卵巣細胞、子宮細胞、膀胱細胞、腎臓細胞、眼の細胞、耳の細胞、口腔細胞、成体幹細胞(すべて分化細胞型)は、自発的条件下で様々な細胞型に分化する能力を既に失い、最終分化されている可能性がある。
【0042】
本明細書で用いる、未分化多能性幹細胞に関して使用する場合の「除去する」または「排除する」という用語は、元の試料中のその他の成分からの、または処理の1つまたは複数の工程の後に残存している試料中の成分からの、そのような細胞の単離または分離を意味する。その他の成分には、例えば、その他の細胞、特に分化細胞が含まれ得る。標的細胞の除去または排除は、例えば試料中で分化細胞などのその他の成分が濃縮されるような、本明細書において使用するような化合物を適用することによって、試料中の標的細胞を殺すか、抑制するか、または枯渇させることを含んでもよい。標的細胞を殺すことには、アポトーシスまたは細胞に対する細胞傷害性を引き起こすことが含まれ得る。標的細胞を抑制することまたは枯渇させることには、測定可能な量による、数、割合、増殖、または活性(多能性能または腫瘍形成活性)の低減が含まれ得る。除去は、部分的であっても完全であってもよい。本明細書で用いる、未分化多能性幹細胞を実質的に含まない試料または培養物は、例えば、約10%未満の、約5%未満の、約4%未満の、約3%未満の、約2%未満の、約1%未満の、または検出不可能な未分化多能性幹細胞を含有し得る。
【0043】
本明細書で用いる、「培養物」という用語は、培地を用いてインキュベートされた細胞の群を意味する。該細胞は継代され得る。細胞培養物は、動物組織から単離された後、継代されていない初代培養物であってもよく、または多数回継代されていてもよい(1回または複数回の継代培養物)。
【0044】
本明細書で用いる、「対象」という用語は、ヒト、ならびに愛玩動物(例えばイヌ、ネコなど)、家畜(例えば雌ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマなど)、または実験用動物(例えばラット、マウス、モルモットなど)などの非ヒト動物を含む。
【0045】
本明細書で用いる、「処理すること」という用語は、疾患、疾患の症状もしくは状態、または疾患の進行を患う対象に、疾患、疾患の症状もしくは状態、疾患によって誘発された障害、または疾患の進行を、治癒させるか、回復させるか、軽減するか、緩和するか、変化させるか、治療するか、改善させるか、好転させるか、または影響する目的で、1種または複数の活性薬剤を含む組成物を適用または投与することを意味する。
【0046】
本明細書で用いる、「有効量」という用語は、処置される細胞または対象において生物学的作用を付与する有効成分の量を意味する。有効量は、処置経路および頻度、体重、ならびに前記有効成分を投与される細胞または個体の種などの、様々な理由に応じて、変更してもよい。
【0047】
ポドカリキシン様タンパク質1(PODXL)は、PODXL遺伝子によってコードされる、CD34ファミリーに属する細胞表面糖タンパク質である。具体的には、ヒトPODXLは、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含み、ヒトPODXLをコードするPODXL遺伝子は、配列番号2の核酸配列を含む。
【0048】
本明細書で用いる、PODXLのモジュレーターは、細胞を処理した場合、細胞においてPODXL発現を上方制御するかまたは下方制御することができる薬剤、物質、または分子を意味する。具体的には、PODXLアゴニストには、細胞を処理した場合、細胞におけるPODXL発現レベルを、対照細胞(アゴニストの処理なし)のPODXL発現レベルと比較して上方制御する(増強する)ことができる薬剤、物質、または分子が含まれる。PODXLアンタゴニストには、細胞を処理した場合、細胞におけるPODXL発現レベルを、対照細胞(アンタゴニストの処理なし)のPODXL発現レベルと比較して下方制御する(低下させる)ことができる薬剤、物質、または分子が含まれる。
【0049】
本発明によると、PODXLモジュレーターが、多能性幹細胞の能力を調節するために使用され得ることが初めて見出されている。幾つかの態様において、PODXLアゴニストは、多能性幹細胞の能力を上方制御する(増強する)ために使用される。幾つかの態様において、PODXLをコードする組換え核酸分子が、細胞においてPODXLを過剰発現させるために幹細胞に導入され、その後、該細胞は、多能性幹細胞の上方制御された(増強された)能力を示す。
【0050】
他の態様において、PODXLアンタゴニストが、多能性幹細胞の能力を下方制御する(低下させる)ために使用される。具体的には、PODXLアンタゴニストは、抗PODXL抗体、PODXL標的干渉核酸、またはPODXLを阻害する化合物であり得る。一部の特定の場合において、本明細書で用いるPODXLアンタゴニストは、コレステロール合成の阻害剤である。
【0051】
特定の態様において、本発明の方法は、前記試料を有効量のPODXLアンタゴニストに曝すことによって、培養試料から未分化多能性幹細胞を除去することである。
【0052】
特定の態様において、本発明の方法は、分化細胞を調製することであって、分化に好適な条件で未分化多能性幹細胞を培養して分化細胞および未分化多能性幹細胞を含む細胞集団を産し、該細胞集団を有効量のPODXLアンタゴニストまたはコレステロール合成阻害剤に曝すことによって未分化多能性幹細胞を除去し/殺し;適宜、好適な条件、例えば細胞療法のために十分な細胞数を得るのに許容可能な条件で、残存する分化細胞を培養することである。
【0053】
幾つかの態様において、未分化多能性幹細胞は、胚性幹細胞(ESC)および人工多能性幹細胞(iPSC)からなる群より選択される。好ましくは、該多能性幹細胞はヒト由来である。ヒトESCは、当技術分野において既知の技術を使用してヒト胚盤胞細胞から得ることができる。ヒトIPSCは、好適な体細胞ドナー細胞、例えば、ヒト線維芽細胞または血球を単離し、培養することによって調製され得、当技術分野において既知の技術を使用して遺伝子操作され得る。
【0054】
幾つかの態様において、本発明による未分化多能性幹細胞および/または分化細胞を培養するのに好適な培養培地は、当技術分野において利用可能であり、20%ウシ胎仔血清または20%ノックアウト血清を含む、DMEM、MEM、DMEM/F12、またはIMEM培地などである。培養は、通常の条件、例えば、1~5%CO2下、37℃で行われ得る。分化は、所望の細胞系列に向かう分化を促進する培地成分を加えることによって促進され得る。ある態様において、本明細書で用いる適切な培養培地は、コレステロールを含まない市販の培地である。
【0055】
幾つかの態様において、培養培地は、DMEM/F12、AlbuMAX I、N2サプリメント、非必須アミノ酸(NEAA)を含有する。
【0056】
幾つかの態様において、培養培地は、EPSC誘導の有利になるように、1種または複数の成長因子および/または培養サプリメントを含んでもよい。培養サプリメントの例としては、N2、B27、DMEM/F12、Neurobasal培地、GlutaMAX、非必須アミノ酸、β-メルカプトエタノールおよびノックアウト血清代替物、組換えヒトLIF、CHIR 99021、IWR-1-endo、(S)-(+)-マレイン酸ジメチンデン、塩酸ミノサイクリン、ならびにY-27632が挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
PODXLアンタゴニストによる処理によって残存する未分化多能性幹細胞を選択的に殺し、それらの分化した後代から除去することができるため、残存する未分化多能性幹細胞を除去した後の分化した後代を含む試料を、腫瘍形成リスクの低い細胞療法において適用することができる。特に、PODXLアンタゴニストによる処理後に生きている未分化多能性幹細胞の量は、対照の細胞(例えば、そのような処理をしていない同じ細胞)より約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%少ない。より具体的には、除去は完璧なものである。すなわち、そのような処理後の未分化多能性幹細胞は完全に死滅し、残存する未分化多能性幹細胞は検出することができない。
【0058】
さらに、本発明はまた、必要とする対象における奇形腫を治療する方法であって、有効量のPODXLアンタゴニストまたはコレステロール合成阻害剤を対象に投与することを含む方法を提供する。
【0059】
幾つかの態様において、PODXLアンタゴニストまたはコレステロール合成阻害剤は、シンバスタチン[(1S,3R,7S,8S,8aR)-1,2,3,7,8,8a-ヘキサヒドロ-3,7-ジメチル-8-[2-[(2R,4R)-テトラヒドロ-4-ヒドロキシ-6-オキソ-2H-ピラン-2-イル]エチル]-1-ナフタレニリ(naphthalenyly)-2,2-ジメチルブタノアート]、AY9944(trans-N,N-ビス[2-クロロフェニルメチル]-1,4-シクロヘキサンジメタンアミンジヒドロクロライド)、MBCD(メチル-β-シクロデキストリンメチル-β-シクロデキストリンシクロマルトヘプタオース、メチルエーテル)、プラバスタチン(pracastatin)、アトルバスタチン、ピタバスタチン、アバシミベ(rovasimibe)、VULM 1457、YM750、U 18666A、CI976、Ro 48-8071フマラート、AK 7、BMS 795311、ラリッスタット1(Lalistat 1)、アトルバスタチン、ロスバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、SB204990、フィリピンIII(Filipin III)、GGTI298、トルセトラピブ、オルリスタット(Orli stas)、エゼチミブ、アリロクマブ、エボロクマブ、ボコシズマブ(Bococitumab)、ナイアシン、アムロジピンからなる群より選択される。
【0060】
【化1】
シンバスタチン
【化2】
AY9944
【化3】
メチル-β-シクロデキストリン(MCD)
【0061】
本発明によると、PODXLの活性化が、幹細胞、特に拡張型多能性幹細胞(EPSC)の能力を増強することができ、よって、キメラ胚がより効率的な手法で調製され得ることが見出されている。
【0062】
特定の態様において、本発明の方法は、キメラ胚を調製することであって、非ヒト宿主の受精胚を、PODXLをコードする組換えポリヌクレオチドを含むヒトEPSCと接触させること、およびPODXLを過剰発現するhEPSCと接触した宿主胚を培養してキメラ胚を形成させることを含む。具体的には、ヒトEPSCは、宿主受精胚に注入される。調製されたキメラ胚を、宿主と同じ種の偽妊娠した雌の非ヒトレシピエント動物に移植して、子孫を産ませ、該子孫から臓器を採取することができ、これを治療の目的で、必要とする対象に移植することができる。
【0063】
本発明はまた、PODXLモジュレーター、例えばPODXLアゴニストもしくはPODXLアンタゴニスト、または組成物、例えば多能性幹細胞の能力を調節する方法および分化細胞を調製する方法を含む本発明の方法を実行するための培地組成物、の使用も提供する。
【0064】
本発明は、多能性幹細胞(iPSC)を生成する方法であって、ある割合の皮膚細胞をiPSCに脱分化させることを可能にする条件において体細胞を培養することを含み、該条件がコレステロールを含む培養培地を含む、方法をさらに提供する。幾つかの態様において、体細胞は、例えば組換え核酸を導入されることによって、遺伝子操作されて、1種または複数のリプログラミング因子、例えばOct4、Sox2、Klf4、およびcMycを含むOSKMを過剰発現する。リプログラミングを介して体細胞から多能性幹細胞(iPSC)を生成するために体細胞を処理するための、コレステロールの使用もまた提供される。さらに、組成物、例えば、リプログラミングを介して体細胞から多能性幹細胞(iPSC)を生成するために体細胞を処理することにおいて有用であるコレステロールおよび基礎培地を含む、培地組成物が提供される。特に、コレステロールは、体細胞をiPSCへリプログラミングすることにおいて有効な量で組成物中に存在する。
【0065】
本発明を下記実施例によってさらに例証するが、これらは、限定ではなく、実証を目的として提供されるものである。当業者は、本開示に照らして、多くの変更が、本発明の精神と範囲から逸脱することなく、開示されている特定の態様においてなされることが可能であり、それらによって同様のまたは類似の結果がなお得られることを理解されたい。
【実施例】
【0066】
腫瘍転移において十分に特徴付けされている機能を除いては、hPSCにおける膜貫通型糖タンパク質ポドカリキシン様タンパク質1(PODXL、またポドカリキシン様タンパク質-1、PCLP1、MEP21、Gp200/GCTM-2、およびトロンボムチンとも呼ばれる)の機能は不明である。ここでは、未分化hPSCにおけるPODXLのノックダウンが、c-MYCおよびテロメラーゼタンパク質の発現をあまねく遮断して、自己複製能を有意に阻害したことを実証する。注目すべきは、人工多能性幹細胞(iPSC)および拡張型多能性幹細胞(EPSC)の誘導またはリプログラミングは、PODXLをノックダウンした場合、著しく遮断されることである。矛盾なく、PODXLの上方制御は、hPSC再生を容易にし、c-MYCおよびテロメラーゼの発現を増進させ、iPSC/EPSC形成を促進する。マイクロアレイ分析では、PODXLの過剰発現は、コレステロール生合成を制御するHMGCR発現を活性化している。PODXLは、SREBP1/2発現もまた上方制御することが見出された。注目すべきは、hPSCは、コレステロール阻害剤、ならびに自己複製能および生存能の阻害をもたらす脂質ラフト破壊に対し、より感受性が高いことである。コレステロールは、shPODXLノックダウンが媒介した多能性喪失を、用量依存的に完全にレスキューすることができる。コレステロールは、shRNAによって下方制御されたTERT、c-MYC、およびHMGCRの発現もまた明らかにレスキューする。我々のデータは、hPSC自己複製を制御するコレステロール代謝を調節することにおいて、PODXLが重要であることを強調するものである。
【0067】
1.材料および方法
1.1 プライム型hPSCの培養
HUES6(S6)細胞株は、Douglas A.Melton博士の研究室(Harvard University、Boston、MA、米国)から厚意により提供されたものである(Cowan et al., 2004)。WA09(H9)は、WiCells(Madison、WI、米国)から入手した(Thomson et al., 1998)。iPSC-0102およびiPSC-0207細胞株は、Food Industry Research and Development Institute(台湾)から持ち帰った。
【0068】
フィーダーフリー実験では、細胞は、合成培地(Essential 8培地)で培養した。
【0069】
1.2 ヒトEPSCの培養
ヒトEPS細胞は、5%CO2下、37℃で、N2B27-LCDM培地中で維持した。400mlのN2B27-LCDMの場合、193ml DMEM/F12(Thermo Fisher Scientific、11330-032)、193mL Neurobasal(ThermoFisher Scientific、21103-049)、2mL N2サプリメント(Thermo Fisher Scientific、17502-048)、4mL B27サプリメント(Thermo Fisher Scientific、12587-010)、1%GlutaMAX(Thermo Fisher Scientific、35050-061)、1%非必須アミノ酸(Thermo Fisher Scientific、11140-050)、0.1mMメルカプトエタノール(Sigma、M3148)、および5%ノックアウト血清代替物(Thermo Fisher Scientific、A3181502)、組換えヒトLIF(10ng/ml、Peprotech、300-05)、CHIR99021(1μM;LC laboratories、C-6556)、IWR-1-endo(1μM;Abmole、M2782)、(S)-(+)-マレイン酸ジメチンデン(DiM、2μM;Tocris、1425)、および塩酸ミノサイクリン(MiH、2μM;Tocris、3268)、Y-27632(2μM、LC laboratories、Y-5301)が含まれる。ヒトEPSCは、マイトマイシンCで不活性化させたマウス胚性線維芽細胞(MEF)上で継代した(1cm2当たり3*104細胞)。
【0070】
フィーダーフリー条件では、hPSCは、レンチウイルス形質導入の前に、5%KSRの非存在下のN2B27-LCDM培地中で1日、培養した。
【0071】
1.3 胚様体形成
胚様体(EB)を形成させるために、hESCを剥離し、細胞凝集塊を、13日間、bFGFを含まないhPSC培地中で継代した。
【0072】
1.4 アラマーブルーアッセイおよびトリパンブルー排除アッセイ
hESCは、15%アラマーブルーを含有するEssential 8培地(Thermo Fisher、A1517001)を用いて、37℃で5時間、培養した。活性は、570nmおよび600nmにおける吸光度を測定することによって算出した。細胞数をトリパンブルーアッセイによって数えるために、細胞をトリプシンで処理し、懸濁細胞に0.2%トリパンブルーを混ぜ(1:1)、血球計算器を用いて数えた。
【0073】
1.5 クリスタルバイオレット染色アッセイ
hESCを、4%(v/v)パラホルムアルデヒドを用いて、室温で10分間、固定した。細胞を、0.1%クリスタルバイオレットを用いて、10分間、染色した。PBSで洗浄した後、抽出溶液を加えた。吸光度を、590nmにて測定した。
【0074】
1.6 アルカリホスファターゼ活性および染色アッセイ
アルカリホスファターゼ(ALP)活性は、培養培地中にALPの基質であるp-ニトロフェニルリン酸(pNPP)(N7653、sigma)を加えることによって算出した。プレートを37℃で5分未満インキュベートし、次いで吸光度を405nmにて測定した。アルカリホスファターゼ(ALP)染色では、hPSCをまずPBSで洗浄し、固定液として4%ホルムアルデヒドを使用した。3分間の固定の後、細胞を1XPBSで洗浄し、ALP染色試薬(Sigma)によって染色した。次いで、細胞をPBSによってさらに洗浄した。
【0075】
1.7 レンチウイルス作製およびhESC形質導入
レンチウイルス作製は、一部の修正を加えて、先述のように行った(Huang et al., 2014)。手短に述べると、HEK293T細胞を播種した(10cmディッシュ当たり750万個)。次いで、細胞に以下のプラスミド(19.2μg)をトランスフェクトした。PODXLのcDNA、shPODXL(shPODXL#1:TRCN0000310117、5’-ACGAGCGGCTGAAGGACAAAT-3’(配列番号3);shPODXL#2:TRCN0000117019、5’-GTCGTCAAAGAAATCACTATT-3’(配列番号4))(National RNAi Core Facility、Taipei、台湾)、およびベクターの対照。15.6μgのヘルパープラスミド(pCMV-dR8.91:pMD.G=10:1(w/w)を加えた。24時間後、培地を、1%BSAを含有する新鮮培地に変えた。上清を回収し、0.45μmフィルターを通してろ過した。レンチウイルス形質導入のために、マトリゲルをプレコートしたプレート上に細胞を播種し、8μg/ml硫酸プロタミンの存在下でレンチウイルスと共にインキュベートした。
【0076】
1.8 hiPSCを生成するための体細胞のリプログラミング
ヒト包皮線維芽細胞(ATCC(登録商標)CRL-2097(商標))に、Axel Schambach博士から入手したpRRL.PPT.SF.hOKSM.idTomato.preFRTレンチウイルス(Warlich et al., 2011)、およびPODXL過剰発現またはshRNAレンチウイルスを同時に感染させた。感染後1~3日目までは、毎日、細胞は、誘導培地(DMEM、10%FBS、250μM酪酸ナトリウム、および50μg/mlアスコルビン酸)を交換した。感染後4日目、細胞をマトリゲルをコートしたプレートに継代した。6日間、細胞を誘導培地で培養し、250μM酪酸ナトリウムおよび50μg/mlアスコルビン酸を含む、誘導培地とmTeSR1(STEM CELL、85850)とが半々の培地に変えた。7~16日目の間は、毎日、トランスフェクトした細胞のmTeSR1を変えた。
【0077】
1.9 sgRNA デザインおよびサブクローン
MIT CRISPRデザイン(http://crispr.mit.edu)は、オフターゲット効果をほとんどを有さないsgRNAを設計するように実施した。sgRNAは、PODXL座位の5’UTRおよびイントロン1における配列を標的とするように設計した。sgRNA1は、TSS部位から-205に位置付ける。sgRNA2はTSS部位から-58に位置付けし、sgRNA3はTSS部位から+460に位置付ける。Cas9 sgRNAベクター(Addgene# 68463)は、BbsIを用いて切断し、ゲルを精製した。標的sgRNA配列を含む一対のオリゴヌクレオチドを変性させ、アニールさせ、Cas9 sgRNAベクターに連結させた。
【0078】
1.10 ゲノム欠失アッセイ
HEK293T細胞に、sgRNA対(sgRNA1+sgRNA3)および(sgRNA2+sgRNA3)ならびに野生型Cas9プラスミドを同時にトランスフェクトした。3日間のトランスフェクションの後、ゲノムDNAを回収した。遺伝子型判定のために、100ngのゲノムDNAを、25ulのPCR反応ミックス(KAPA HiFi Hotstart PCR)中に加えた。
【0079】
1.11 iPSCにおける誘導性CRISPR株の作製
AAV部位に安定的に組み込まれたドキシサイクリン誘導性Cas9を有する誘導性iPSC株(CRISPRn Gen 1C iPSC株)は、Bruce R.Conklin氏の研究室で生成し、入手した(Mandegar et al., 2016)。24時間後、ドキシサイクリン(2μM)を含むかまたは含まない(溶媒対照群として)新鮮なStemFlex培地を24時間加えて、Cas9遺伝子発現を誘導した。次いで、TransIT(登録商標)-LT1 Transfection Reagent(Mirus Bio、MIR 2304)を使用して、iPSC株に、様々な対のsgRNA(sgRNA1+sgRNA3、またはsgRNA2+sgRNA3)およびブラストサイジン発現ベクター(pLAS3W-GFP-Blasticidin)を同時にトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後、培地をE8培地に交換した。1日かけて2.5μg/mlブラストサイジンを用いて細胞を選択し、次いで、毎日、5μg/mlブラストサイジンを含み、ドキシサイクリンの存在または非存在の培地を新しくした。
【0080】
1.12 RNA抽出および定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)
全RNAは、TOOLSmart RNA Extractor(Biotools、DPT-BD24)を用いて精製した。逆転写は、Super Script III System(Invitrogen、18080051)を用いて実施した。定量的リアルタイムPCRは、ABI7900 Sequence Detection Systemを用いてKAPA SYBR FAST PCR Master Mix(KAPA Biosystems、KR0389)を使用して実施した。データは、デルタ・デルタCT法を用いて定量化した。試料は、HPRT mRNAレベル対照に対して正規化した。
【0081】
1.13 ウェスタンブロット分析
全細胞タンパク質抽出物は、RIPA溶解緩衝液(1%NP40、50mM Tris、pH8.0、150mM NaCl、2mM EDTA)を、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche、04693132001)の存在下で使用して、hPSCから精製した。タンパク質濃度は、Bio-Rad Bradford Protein Assayによって定量化した。等量のタンパク質を10%SDS-PAGEゲルにかけ、0.22μm PVDF膜(Millipore、ISEQ00010)上にブロットした。ブロットを、室温で1時間、5%BSA/TBST中でブロッキングした。このブロットを、5%BSA/TBST中で、4℃で一晩、一次抗体と共にインキュベートした。これらの抗体としては、以下が挙げられる:抗PODXL(1:1000;Santa Cruz、sc-23904)、抗TRA-1-60(1:1000、Santa Cruz、sc-21705)、抗TRA-1-81(1:500、Santa Cruz、sc-21706)、抗c-MYC(1:1000;Abcam、ab32072)、抗OCT4(1:1000;Cell Signaling Technology)、抗KLF4(1:1000;Abcam、ab72543)、抗TERT(1:1000;Abcam、ab183105)、抗HMGCR(1:1000;Abcam、ab174830)、抗SREBP1(1:500;Santa Cruz、sc-13551)、抗SREBP2(1:1000;Abcam、ab30682)、抗FlOTILLIN-1(1:1000;BD Biosciences、610821)、抗CD49B(1:1000;Abcam、ab133557)、抗CD49F(1:500;Millipore、217657)、抗インテグリンβ1(1:500;Santa Cruz、sc-13590)、抗ヒストン3(1:1000;Abcam、ab1791)、抗HDAC2(1:1000、Santa Cruz、sc-81599)、抗GAPDH(1:5000;Abcam、ab9485)、抗β-チューブリン(1:5000;Sigma、SAB4200715)、抗β-アクチン(1:5000;Sigma、A1978)。ブロットを、TBS/0.2%Tween-20で3回洗浄した。このブロットを、以下の特異的二次抗体と、4℃で一晩、反応させた:抗ウサギIgG、HRP結合抗体(1:10000;Jackson Immuno Research、711-036-150)、抗マウスIgG、HRP結合抗体(1:10000;Jackson Immuno Research、711-036-152)、抗マウスIgM、HRP結合抗体(1:1000;Millipore、AP128P)。膜をTBS/0.2%Tween-20で3回洗浄した後、次いでECL溶液(Thermo Fisher Scientific、34095)を用いて顕色させた。
【0082】
1.14 コレステロール定量化
コレステロールレベルは、Amplex Redコレステロールアッセイ(Molecular Probes)によって測定した。試料を反応緩衝液で希釈し、次いでAmplex Red作業溶液(300μM Amplex Red、2U/mlコレステロールオキシダーゼ、2U/mlコレステロールエステラーゼ、および2U/ml西洋ワサビペルオキシダーゼ)(1:1)と、さらに反応させた。この試料を、37℃で30分間、反応させた。吸光度は590nmにて検出した。コレステロール値は、コレステロール標準液を使用して算出し、正規化は、Bradford Protein Assay(Bio-Rad)によるタンパク質含有量によって行った。
【0083】
1.15 フローサイトメトリー
hESCをアキュターゼによって解離させた。細胞を、製造業者の使用説明書に従って染色した(eBioscience、88-8005-72)。手短に述べると、細胞(5×105)を、100μl 1X結合緩衝液中に懸濁し、次いで2.5μlのアネキシンV-FITCで染色した。室温で20分間の反応の後、細胞を、2.5μlのPI液と共に10分間、インキュベートした。次いで、細胞をPBSで希釈し、フローサイトメーターによって解析した。
【0084】
1.16 マイクロアレイおよびGO-term解析
公開したデータアレイ(表2に列記)ならびにGFPおよびPODXL過剰発現アレイは、GeneSpring GX 11によって解析した。2以上の倍率変化および0.5未満の倍率変化を有する候補遺伝子を列記した。GO-term解析は、DAVIDプログラムを用いて実施した。
【0085】
1.17 BMMSCおよびNSCの培養
ヒトBMMSC(Lonza)は、MSC NutriStem XF Medium(合成、異種成分不含有、無血清培地)中で培養し、阻害剤処理されたCorning CellBIND Surfaceプレート上で、3日間増殖させた。ヒト神経幹細胞(NSC)は、7日間、Gibco PSC Neural Induction Medium(無血清培地)を用いてH9 hESCから分化させた。次いで、NSCを、マトリゲルをコートしたプレート上に再播種し、3日間、各阻害剤を供給した。
【0086】
1.18 コレステロールによる処理
CRL2097(9代)を播種し、500X濃縮SyntheChol(登録商標)NS0 サプリメント(S5442、Sigma)から希釈した最終濃度(0、0.5×、1×、2×、5×、8×)のコレステロールを用いて、レンチウイルスベクター(OSKM)を感染させた。ウイルス形質導入の4日後、細胞を、マトリゲルをコートした6ウェルプレートに、1ウェル当たり細胞数27,000個として再播種した。細胞付着の2日後、コレステロールを、リプログラミング処理の間、連続的に供給した。iPSC生成に対するコレステロールの効果を十分に評価するために、iPSC生成には、無血清合成E8培地(250μm酪酸ナトリウム、50μg/mlビタミンC含有)を使用した。
【0087】
1.19 統計分析
データは、平均±SD/平均±SEMとして示した。P値は、両側スチューデントの対応のないt検定または一元配置分散分析を使用して算出し、P<0.05が、データが有意差を有することを意味する。すべての図面および統計的分析は、GraphPad Prism 5を使用して確証した。
【0088】
2.結果
2.1 PODXLはhPSC増殖および多能性のために必要である
ヒト初期胚におけるPODXLの発現パターンを調べるために、着床前段階の間のPODXL mRNAの相対量を確認した。我々が使用したデータセットは、先の研究(Kang et al., 2016)とは異なる。PODXL転写物が、1細胞期から4細胞期に濃縮されることも見出された(バー、
図1A)。発現レベルは、8細胞期から胚盤胞までは中程度である(バー、
図1A)。PODXLの発現パターンは、その他の幹細胞の主要マーカー、例えばOCT4、LIN28A、SOX2、NANOG、およびKLF4とは著しく異なっていた。これらのマーカーはすべて8細胞期後にのみ大量に発現した(バー、
図1Aおよびデータ非表示)。興味深いことに、1細胞期から胚盤胞までは、PODXL、OCT4、およびLIN28Aは、全測定遺伝子と比較して高発現転写物に属した(ほぼ100%)(ドット、
図1A)。対照的に、Sox2、Nanog、およびKLF4は、1細胞期から4細胞期では発現は少なく、その後、8細胞期の後に100%パーセンタイルまで大量に発現する。PODXLが初期胚において大量に発現していたことから、PODXLは、初期発生において、特に1~4細胞期に集中して、重大な役割を果たしている可能性がある。
【0089】
PSCおよび分化細胞におけるPODXL発現パターンを明らかにするために、何十ものアレイを用いて網羅的なトランスクリプトームの発現パターンを解析した。階層的クラスタリングヒートマップからは、PODXL転写物がPSCで大量に発現されており、分化細胞では発現レベルがはるかに低かったことが示された(データ非表示)。同様に、タンパク質レベルでは、PODXL発現は、2つの未分化hESC株、HUES6およびH9において濃縮していた。発現レベルは、多分化能間葉系幹細胞では低下しており、線維芽細胞ではさらに低い発現であった(
図1B)。PODXL上のグリコールエピトープを認識する別のPODXL抗体、TRA-1-60を用いた場合、結果は同じであった(
図1C)。さらに、ウェスタンブロット分析によると、PODXLタンパク質レベルは、EPSCおよびプライム型hESC(HUES6およびH9)ではより大量に発現されており、分化したESC由来胚様体(EB)、および線維芽細胞(CRL-2097)では、著しく低下していた(
図1D)。よって、我々のデータは、PODXLがヒトPSCにおいて大量に発現されることを実証した。
【0090】
hPSCにおけるPODXLの機能を調べるために、2つの異なるshRNAを使用してPODXLをノックダウンさせた。HUES6細胞では、細胞は、2種のshRNAノックダウンの後に分化した(
図1E)。相対細胞数(アラマーブルーアッセイおよびクリスタルバイオレットアッセイ)および幹細胞マーカー、アルカリホスファターゼ(ALP)は、いずれも有意に下方制御された(
図1E)。矛盾なく、shRNAは、H9およびiPSC-0207細胞においても同様に、ESC再生を無効にする(
図1F)。レンチウイルスノックダウンのたった3日後に、shPODXL発現hESCは、c-MYCおよびテロメラーゼ(TERT)が下方制御されており、これは、細胞増殖および不死化にとってきわめて重大なことである(
図1G)。アネキシン V-ヨウ化プロピジウム(Propidium Iodine)(PI)分析によると、shPODXL発現細胞では、shRFP対照hESCと比較してアポトーシスが増加した(
図1H)。このように、PODXLノックダウンは、アポトーシスを誘発し、hPSC再生を阻害した。
【0091】
iPSCリプログラミングにおけるPODXLの機能的役割を調べるために、ヒト初代包皮線維芽細胞CRL2097に、shPODXLおよび4種の因子(OKSM)を同時に感染させた。形質導入後16日目に、iPSCコロニーを算出した(
図1I)。shPODXLを感染させた細胞では、コロニーはshRFP対照と比較してはるかに少なかった(
図1I)。このデータから、PODXLの下方制御がiPSCリプログラミングを阻害したことが示された。
【0092】
これまでのデータでは、PODXL発現は、胚の4細胞胚までの接合体において濃縮していた(
図1A)。よって、PODXLは、胚形成のきわめて初期段階での幹細胞性の維持において重大な役割を果たしている可能性があるという仮説を立てた。この仮説を検証するために、shPODXLを使用して、HUES6およびH9由来EPSCにおいてPODXL遺伝子を下方制御した。EPSCは、Yangらによって公表されている合成カクテルによって生成した(Yang et al., 2017b)。shRNAを用いたPODXLノックダウンの後、EPSCのコロニーの大きさおよびコロニーの数はいずれも低減したことが見出された(
図1J)。
【0093】
2.2 PODXLの過剰発現はshPODXL処理によって誘導された多能性ならびにc-MYCおよびテロメラーゼ発現の低下を回復させる
shRNAのオフターゲット効果を排除するために、shPODXL発現細胞においてPODXLを過剰発現させた。shPODXL発現細胞におけるPODXLの過剰発現は、相対細胞数および幹細胞マーカーの減少をレスキューした(
図2A)。PODXLの過剰発現は、特に、shPODXL発現によってもたらされた、hESC増殖マーカー、c-MYCおよびテロメラーゼの下方制御を回復させた(
図2A)。よって、shPODXLが誘導した表現型の変化は、PODXL発現の喪失によって引き起こされたものであった。shRNAによって、オフターゲット効果は生じていない。
【0094】
2.3 PODXLはプライム型および拡張型hPSC再生に十分なものである
HUES6におけるPODXL過剰発現は、ウェスタンブロット分析によって証明した(
図2B)。興味深いことに、PODXL過剰発現させた場合、相対細胞数(クリスタルバイオレットアッセイ、アラマーブルーアッセイ、トリパンブルー排除アッセイ)および幹細胞マーカー(ALP活性)は、いずれも増加した(
図2B)。PODXLはまた、c-MYCおよびテロメラーゼの発現も高めることができる(
図2B)。リプログラミングにおけるPODXLの機能的役割を調べるために、ヒト包皮線維芽細胞にPODXLレンチウイルスおよび4種の因子(OKSM)を同時に感染させた。形質導入の16日後に、iPSCコロニーを数えた(
図2C)。注目すべきは、PODXLの過剰発現は、GFP対照と比較してリプログラミング効率を高め得ることである(
図2C)。このデータは、PODXLが、体細胞から誘導される多能性の樹立において重大な役割を果たしていることを意味する。
【0095】
Yangらは、細胞を胚性および胚体外系列のいずれにも発生できるようにする4種の化学物質を用いた、プライム型ESCからの拡張型多能性幹細胞(EPSC)の誘導を報告した(Yang et al., 2017b)。トランスクリプトームのプロファイルにおいては、これらのEPSCは、4細胞期の胚を部分的に模倣している(Yang et al., 2017b)。よって、EPSCリプログラミングにおけるPODXLの機能を試験するために、hPSCを、EPSCを誘導するカクテルであるN2B27-LCDM培地中で培養した(Yang et al., 2017b)。PODXL過剰発現させた場合、GFP対照と比較して、ドーム形状コロニーの数の増加が見出された(
図2D)。矛盾なく、異所性PODXL発現の後、コロニーの大きさおよびコロニーの数が有意に増大した(
図2E)。GFP対照と比較した場合、PODXL過剰発現によって、相対細胞数は、H9-EPSCでは8.8倍、HUES6-EPSCでは5.6倍増加した(
図2F)。幹細胞マーカーALP活性もまた、H9-EPSCでは8.1倍、HUES6-EPSCでは2.3倍増加した(
図2F)。これは、PODXLがEPSCの増加を促進することを意味する。hESCにおいてPODXL過剰発現によるEPSCの開始をまず確認して、次いでEPSC培地に移すと、GFP対照群と比較してドーム形状コロニーの数はやはり増加した(
図2G)。これは、PODXLがEPSC形成の開始を増進することができることを示唆している。要約すると、我々のデータは、PODXLがプライム型多能性の維持ならびに拡張型多能性の開始および獲得のための重大な因子として機能することを、はっきりと示している。
【0096】
2.4 PODXLはHMGCRおよびSREBPを通してコレステロールレベルおよびc-MYCレベルを調節する
PODXLによって誘発される初期シグナルのマップを作成するために、3日間PODXLを過剰発現させた細胞において、cDNAマイクロアレイを実施した。Davidの機能ツール(Huang da et al., 2009a、b)によると、上方制御された遺伝子セットでは、コレステロール生合成経路が有意に高まっていた(データ非表示)。下方制御された遺伝子セットでは、RNA代謝過程および形態形成の調節が高まっていた(データ非表示)。38個の遺伝子が2倍を超えて上方制御され、一方、26個の遺伝子が2倍を超えて下方制御されたことが見出された(データ非表示)。上方制御された遺伝子には、以下の6つのコレステロール関連遺伝子、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoAシンターゼ1(HMGCS1)、7-デヒドロコレステロールレダクターゼ(DHCR7)、スクアレンエポキシダーゼ(SQLE)、プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)、インスリン誘導遺伝子1(INSIG1)、ヒドロキシメチルグルタリル-CoAレダクターゼ(HMGCR)(1.6倍増の変化)(データ非表示)が含まれる。同時に、下方制御された遺伝子セットとしては、分化関連遺伝子-TBX3、TGFB2、ZEB2、GATA6、GATA3、FOXE1(データ非表示)が含まれる。この結果は、PODXLがコレステロール生合成経路を正に調節する可能性があることを強く示唆するものである。
【0097】
PODXLがどのようにコレステロール恒常性経路に影響を与えるのかを理解するために、qRT-PCRを実施した。PODXLノックダウンした場合、幾つかのコレステロール関連遺伝子が下方制御された(
図3A)。コレステロール合成については、律速酵素HMGCRに関して研究する。HMGCR転写物レベルおよびタンパク質レベルは、shPODXL感染後には低下し、PODXL過剰発現後には上昇した(
図3A)。また、shPODXLまたはPODXL過剰発現ウイルス感染後、細胞の総コレステロール含有量は、比例的に下方制御または上方制御された(
図3B)。これらのデータは、PODXLレベルが細胞のコレステロールレベルに影響を与えたことを示唆している。HMGCRの重要性を実証するために、2つの異なるshRNAを使用して、HMGCRをノックダウンさせた。HMGCRノックダウン細胞は分化し、表現型はshPODXL処理と同様に見える(
図3C)。矛盾なく、shHMGCR hESCでは、相対細胞数および幹細胞マーカー発現の低減もまた観察された(
図3C)。注目すべきは、HMGCR下方制御は、c-MYCおよびTERTの発現レベルも低下させることである(
図3C)。
【0098】
SREBP2は、内因性コレステロール生合成の主たる調節因子である。SREBP2は、HMGCR、HMGCS1、メバロン酸キナーゼ(MVK)などの多数のコレステロール合成遺伝子の発現を活性化する(Horton et al., 2002;Madison、2016)。SREBP1aもまた、すべての組織におけるコレステロール合成経路を促進することができる(Horton et al., 2002;Madison、2016)。HMGCRは、コレステロール生合成における律速酵素である。先の論文中では、HMGCR発現が、SREBP2およびSREBP1によって調節されている。次に、PODXLがこのSREBP2またはSREBP1発現レベルを調節できるかどうかを確認した。mRNAレベルによると、SREBP1およびSREBP2は、shPODXL形質導入体では低下していた(
図3A)。ウェスタンブロット分析によると、プライム型hESC-HUES6(
図3D)およびHUES6由来EPSC(
図3D)では、PODXLの下方制御は、SREBP2およびSREBP1のタンパク質発現レベルを低下させていた。矛盾なく、PODXLの過剰発現は、SREBP1およびSREBP2タンパク質レベルを上昇させていた(
図3D)。
【0099】
次に、転写因子SREBP2およびSREBP1が、その活性を意味する。DNAに結合するかどうかを確認する。shPODXL hESCでは、明らかに、SREBP2およびSREBP1はいずれもクロマチン結合画分において減少しており、これは、DNAに結合するSREBP2およびSREBP1の低減を示している(
図3E)。それにもかかわらず、SREBP2およびSERBP1はいずれも、PODXL過剰発現させた場合、クロマチン結合画分において増加した(
図3E)。我々の先のデータでは、PODXLはc-MYC発現のために必要であることを実証した(
図1Hおよび
図3A)。PODXLノックダウンさせた場合、c-MYCレベルが、細胞質、可溶性の核部分、およびクロマチン結合画分において下方制御されたことが観察された(
図3E)。PODXL過剰発現させた場合、c-MYCレベルは、細胞質ゾルおよびクロマチン結合画分において上昇した(
図3E)。先の報告では、SREBP2がc-MYC発現を活性化して前立腺がん(PCa)の幹細胞性および転移を促進することが示されている(Li et al., 2016)。まとめると、先の報告(Li et al., 2016)(Horton et al., 2002;Madison、2016)および我々の知見に基づき、PODXL-SREBPシグナルは、hPSCにおいてHMGCRおよびc-MYC発現の両方を調節することができるという仮説を立てた。
【0100】
2.5 コレステロールはhPSC多能性および生存に必須である
多能性に関するコレステロールの機能的役割を確認するために、コレステロール阻害剤、シンバスタチン、AY9944、メチル-β-シクロデキストリン(MBCD)を使用して、コレステロール生合成を阻害した(
図4A)。シンバスタチンは、HMGCRを阻害するFDA承認処方薬であり、心臓血管系疾患を治療するために広く使用されている(Zhou and Liao、2009)。HMGCRは、コレステロール生合成の律速酵素である。スタチンの副作用はほとんどなく、細胞傷害性の副作用はヒトでは報告されていない。AY9944は、Δ7-デヒドロコレステロールレダクターゼ(DHCR7)を阻害し、コレステロールのレベルを低下させる(Wassila Gaoua、2000)。メチル-β-シクロデキストリン(MBCD)は、細胞のコレステロールを直接的に取り除く(Mahammad and Parmryd、2015)(
図4A)。我々の研究では、細胞形態が約24時間以内に変化したことが見出された。コレステロール阻害剤処理の3日後、相対細胞数および幹細胞マーカー発現が劇的に減少した(
図4Bおよびデータ非表示)。さらに、ウェスタンブロット分析によると、シンバスタチンは、TERT、c-MYC、HMGCR、およびPODXL発現レベルを下方制御した(
図4B)。次に、PSCがコレステロール経路により依存するかどうかを知りたい。よって、3種のコレステロール阻害剤の感受性を、PSCおよび3種の体細胞性線維芽細胞において比較した。比較には、初代ヒト包皮線維芽細胞(CRL-2097)、ヒト包皮線維芽細胞株(BJ-5Ta)、および胎仔肺線維芽細胞株(IMR-90)を使用した。3種の阻害剤すべてのIC50は、HUES6およびH9では、線維芽細胞、CRL-2097、IMR-90、およびBJ-5Taと比較して非常に低い(表1)。初代線維芽細胞では、シンバスタチン、AY9944、MBCDのIC50は、HUES6より52倍、31倍、および2倍高い(表1)。hPSCは、ヒト骨髄間葉系幹細胞(hBMMSC)より163倍(シンバスタチン)、53倍(AY9944)、および2.65倍(MBCD)高い感受性を示す(表1)。同様の方法で、hPSCはまた、ヒト神経幹細胞(hNSC)より、568倍(シンバスタチン)、251倍(AY9944)、および2.44倍(MBCD)高い感受性を示す(表1)。よって、コレステロール阻害剤は、未分化hPSCを排除し、分化細胞を残すために使用することができる。
【0101】
【0102】
これらの結果から、hPSCは、体細胞性線維芽細胞と比較して、コレステロール合成の阻害に対する感受性がはるかに高いことが示された。
【0103】
コレステロールがPODXLの下流の標的であるのかどうかを明らかにするために、まず、PODXLを1日かけて過剰発現させた。次いで、細胞を、コレステロール阻害剤、シンバスタチン、AY9944、およびMBCDで別々に処理した。hESCでは、PODXLの過剰発現によって細胞増殖およびALP活性が増進した(
図4C)。しかしながら、この自己複製の上方制御は、シンバスタチン、AY9944、およびMBCDによる処理によって用量依存的に阻害された(
図4C)。この結果は、コレステロールがPODXLの下流エフェクターであることを示唆している。
【0104】
2.6 コレステロールはshPODXL表現型をレスキューし、iPSCリプログラミング効率をブーストすることができる
コレステロールがPODXLの主要な下流であるかどうかを調べるために、コレステロールを用いたレスキュー実験を実施した。驚くべきことに、コレステロールサプリメントは、PODXLノックダウンによる形態変化、相対細胞数喪失、およびALP活性の低下を妨げている(
図5A)。また、hPSCのアポトーシスも、6日間のPODXLノックダウンの後のコレステロール付加によって実質的に回復した(
図5B)。さらに、c-MYC、TERT、HMGCR、PODXL、TRA-1-60の発現レベルは、PODXL下方制御された細胞にコレステロールを加えることによってレスキューされた(
図5B)。要約すると、これらのデータは、PODXLが主にコレステロールを介してhPSC再生を調節することを示唆するものである。
【0105】
また、コレステロールは、4種のOSKM因子と共にリプログラミング効率をブーストすることができる(全体的なAP陽性、7.62倍)。
図6を参照されたい。
【0106】
2.7 PODXLの誘導性CRISPR/Cas9ノックアウトはhPSCの自己複製を阻害する
shRNAのオフターゲットを排除するために、誘導性CRISPR/Cas9編集法を使用してhPSCゲノムにおいてPODXLをノックアウトした(
図7)。誘導性iPSC株は、AAV座位中にドキシサイクリン誘導性システムを安定的に組み込むことによって生成した(Mandegar et al., 2016)。次いで、sgRNAの形質導入に加えてドキシサイクリンが存在すると、ゲノムが切断されることとなる。sgRNAの2つのペア(sgRNA1+2)および(sgRNA1+3)(
図7)を導入した後、エクソン1を除去する。3日間のドキシサイクリン付加の場合、溶媒対照と比較してコロニーの大きさは小さくなり、ALP活性は低下することが見出された(
図7)。5日間のドキシサイクリン発現の後、コロニーはほとんど認められず、これは、PODXLのノックアウトが、hPSC自己複製を強く阻害することを示唆するものである(
図7)。これはまた、shRNAの結果がオフターゲット効果に起因するものではないことを意味している。
【0107】
3.考察
十分に研究された多数の転写調節因子および証拠によって、クロマチン状態のエピジェネティックな調節因子がPSCの自己複製の異なる状態を維持するために重要であることが裏付けられていること(Jaenisch and Young、2008)を除けば、hPSC再生における膜貫通型タンパク質の機能的役割はほとんどわかっていない。ここでは、表面マーカー、PODXLが、自己複製するプライム型PSCおよびEPSCにおいて重要な役割を果たすという証拠を提供する。我々の知る限りでは、これは、PSCにおけるコレステロールシグナルの重要性を強調し、その分子機序を定義する初めての研究である。
【0108】
c-MYCは、増殖、抗アポトーシス、および幹細胞再生にきわめて重要である(Chappell and Dalton、2013;Scognamiglio et al., 2016;Varlakhanova et al., 2011;Varlakhanova et al., 2010;Wilson et al., 2004)。興味深いことに、ヒトiPSC生成は、MYC阻害剤の存在によって阻害されており(Asaf Zviran、2019)、これは、MycがiPSCリプログラミングに必須であることを示唆している。初期発生の間、MYCファミリーメンバーの間で機能的重複があるにもかかわらず、PSCにおいてc-MYCおよびN-MYCを同時にノックアウトすると、細胞周期の遮断に起因する自己複製障害および多能性の喪失、ならびに原始内胚葉および中胚葉系列への細胞分化がもたらされる(Smith et al., 2010)。また、c-MYCは、PSCのテロメアの伸長および不死化特性の維持のためにきわめて重要なテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)を活性化することができる(Wu et al., 1999)。PODXがhPSCにおいてc-MYCおよびTERT発現を特に調節することに注目する(
図1Gおよび
図2B)。興味深いことに、PODXLはプライム型多能性樹立のために必須でもあり十分でもあることが見出された(
図1Iおよび
図2C)。
【0109】
PODXLノックダウンによってヒトiPSC生成は損なわれており(
図1I)、このことはまた、多能性の樹立におけるPODXLの初期の重大な役割を明らかにする。同時に、ヒトEPSCにおけるPODXLのノックダウンも、コロニーの大きさおよびコロニーの数を低減させ(
図1J)、一方、強制的なPODXL発現は、コロニーの大きさおよびコロニーの数を増大させることができる(
図2Eおよび
図2D)。さらに、強制的なPODXL発現は、拡張型多能性リプログラミングへの、プライム型におけるドーム形状様コロニー形成の効率をさらに上昇させることができ(
図2G)、これは、PODXLが、拡張型多能性樹立のために十分であることを示唆している。手短に言うと、PODXLはプライム型多能性および拡張型多能性の樹立に必要であり、このことは、ヒト初期胚発生におけるMYCおよびTERTに関連したその特異な役割を示唆するものである。
【0110】
shRNAのオフターゲットの懸念の排除のために、強制的な異所性PODXL発現がshPODXLで誘導された表現型をレスキューすることができる(
図2A)。さらに、誘導性CRISPR/Cas9ゲノム編集法を使用して、iPSCにおいてPODXLのノックアウトも行った(
図7)。予想された通り、誘導性PODXKノックアウトは、細胞増殖および多能性に不利益であったことがわかった(
図7)。しかしながら、ある報告では、安定的にPODXLノックアウトされたhESC株は幹細胞多能性に対する影響は示さなかったが、ポドサイト様細胞では接合部組織欠損を引き起こすことが示されている(Freedman et al., 2015)。最近、幾つかの報告によって、生存に有害となるはずである遺伝子喪失に対して生物を保護する機序として、遺伝子代償が存在することが示された(Rossi et al., 2015;Sztal et al., 2018)。これらは、単一細胞クローニングにおいて、有害なPODXL喪失に対して保護する代償的ネットワークの活性化の問題を提起しているかもしれない。これによって、誘導性クローンと安定なクローンとにおける相違を説明することができる。よって、代償ネットワークが細胞培養選択圧下のPODXLノックアウト安定クローンにおいて誘発されたのかどうかという疑問は、さらに確認する必要がある。
【0111】
コレステロールは、ステロールホルモンおよびビタミンD産生においてだけでなく、シグナル伝達および脂質ラフト形成においても重要な役割を果たしている。しかし、PSCにおけるコレステロール代謝と再生との間の関係を理解するうえで利用できるデータは限られている。ある論文では、シンバスタチンが、RhoA/ROCK依存性細胞シグナル伝達を調整することによってマウスESC自己複製を損なわせており、コレステロール非依存性であったことが報告されている(Lee et al., 2007)。際立ったことに、我々の研究において、PODXLが、主要な調節因子であるSREBP1/SREBP2とコレステロール生合成経路の律速酵素であるHMGCRとを調節することによって、コレステロールレベルおよび脂質ラフト形成を調節し得ることが見出された(
図3)。また、HMGCR、HMGCS1、SQLE、LDLR、SCD、PCSK9、SCAPなどのコレステロール合成経路における幾つかの遺伝子転写物が、PSCにおいて上方制御されることもわかった(
図3A)。シンバスタチンおよびAY9944によるコレステロール経路の遮断またはMBCDによるコレステロール欠乏が、hPSCの自己複製能に深刻な影響を与えることに注目することが重要である(
図4Aおよび
図4B)。線維芽細胞と比較して、hPSCは、コレステロール遮断により高い感受性を示した(
図4C)。先の報告では、スタチンは、核型異常のhESCに対して毒性であるにしかすぎないが、正常核型を有するPSCは殺すことができないことが主張された(Gauthaman et al., 2009)。しかしながら、それらの細胞は、培地中に高レベルのコレステロールを含有するノックアウト血清(KSR)の存在下で、多量のbFGF(16ng/ml)と共に培養されていた(20%KSRは約1.408μg/mlのコレステロールと等価である)(Garcia-Gonzalo and Izpisua Belmonte、2008;Zhang et al., 2016)。対照的に、我々の細胞は、今日では幹細胞の分野において広く使用されている合成E8培地を用いて培養している。我々の細胞は核型分析を行っており、H9およびHUES6細胞いずれにおいても核型は正常である(データ非表示)。よって、我々の結果と先の結果との相違は、培養培地に起因することが示唆された。胚は血液拡散からしかコレステロールを得ることができないことから、胚が接触することができるコレステロールの量は少ないと推定される。このデータは、コレステロール生合成が、未分化PSCの幹細胞性特性と関連することを確証するものである。
【0112】
まとめると、我々のデータから、PODXLは、ヒトプライム型および拡張型PSCにおいて大量に発現されており、SREBP1/SREBP2-HMGCR-c-MYC-TERTシグナル伝達を通して自己複製を促進する膜貫通型タンパク質として機能することが示唆される。PODXLの強力な能力が、c-MYC、TERT、コレステロール経路を活性化し、増殖を促進し、アポトーシスを妨げると仮定すると、がん幹細胞も、腫瘍初発および進行に関して、PODXLへの同様の依存を示す可能性があると憶測したくなる。また、PODXLは、プライム型および拡張型多能性を支持することにおけるその特性により、再生医療における理論上無限の潜在力を有するものであり、将来、抗がん療法の効果的な標的を提供するものである。
【0113】
配列情報
ヒトPODXLのアミノ酸配列(配列番号1)
MRCALALSALLLLLSTPPLLPSSPSPSPSPSQNATQTTTDSSNKTAPTPASSVTIMATDTAQQSTVPTSKANEILASVKATTLGVSSDSPGTTTLAQQVSGPVNTTVARGGGSGNPTTTIESPKSTKSADTTTVATSTATAKPNTTSSQNGAEDTTNSGGKSSHSVTTDLTSTKAEHLTTPHPTSPLSPRQPTSTHPVATPTSSGHDHLMKISSSSSTVAIPGYTFTSPGMTTTLLETVFHHVSQAGLELLTSGDLPTLASQSAGITASSVISQRTQQTSSQMPASSTAPSSQETVQPTSPATALRTPTLPETMSSSPTAASTTHRYPKTPSPTVAHESNWAKCEDLETQTQSEKQLVLNLTGNTLCAGGASDEKLISLICRAVKATFNPAQDKCGIRLASVPGSQTVVVKEITIHTKLPAKDVYERLKDKWDELKEAGVSDMKLGDQGPPEEAEDRFSMPLIITIVCMASFLLLVAALYGCCHQRLSQRKDQQRLTEELQTVENGYHDNPTLEVMETSSEMQEKKVVSLNGELGDSWIVPLDNLTKDDLDEEEDTHL
ヒトPODXL遺伝子の核酸配列(配列番号2)
ATGCGCTGCGCGCTGGCGCTCTCGGCGCTGCTGCTACTGTTGTCAACGCCGCCGCTGCTGCCGTCGTCGCCGTCGCCGTCGCCGTCGCCCTCCCAGAATGCAACCCAGACTACTACGGACTCATCTAACAAAACAGCACCGACTCCAGCATCCAGTGTCACCATCATGGCTACAGATACAGCCCAGCAGAGCACAGTCCCCACTTCCAAGGCCAACGAAATCTTGGCCTCGGTCAAGGCGACCACCCTTGGTGTATCCAGTGACTCACCGGGGACTACAACCCTGGCTCAGCAAGTCTCAGGCCCAGTCAACACTACCGTGGCTAGAGGAGGCGGCTCAGGCAACCCTACTACCACCATCGAGAGCCCCAAGAGCACAAAAAGTGCAGACACCACTACAGTTGCAACCTCCACAGCCACAGCTAAACCTAACACCACAAGCAGCCAGAATGGAGCAGAAGATACAACAAACTCTGGGGGGAAAAGCAGCCACAGTGTGACCACAGACCTCACATCCACTAAGGCAGAACATCTGACGACCCCTCACCCTACAAGTCCACTTAGCCCCCGACAACCCACTTCGACGCATCCTGTGGCCACCCCAACAAGCTCGGGACATGACCATCTTATGAAAATTTCAAGCAGTTCAAGCACTGTGGCTATCCCTGGCTACACCTTCACAAGCCCGGGGATGACCACCACCCTACTAGAGACAGTGTTTCACCATGTCAGCCAGGCTGGTCTTGAACTCCTGACCTCGGGTGATCTGCCCACCTTGGCCTCCCAAAGTGCTGGGATTACAGCGTCATCGGTTATCTCGCAAAGAACTCAACAGACCTCCAGTCAGATGCCAGCCAGCTCTACGGCCCCTTCCTCCCAGGAGACAGTGCAGCCCACGAGCCCGGCAACGGCATTGAGAACACCTACCCTGCCAGAGACCATGAGCTCCAGCCCCACAGCAGCATCAACTACCCACCGATACCCCAAAACACCTTCTCCCACTGTGGCTCATGAGAGTAACTGGGCAAAGTGTGAGGATCTTGAGACACAGACACAGAGTGAGAAGCAGCTCGTCCTGAACCTCACAGGAAACACCCTCTGTGCAGGGGGCGCTTCGGATGAGAAATTGATCTCACTGATATGCCGAGCAGTCAAAGCCACCTTCAACCCGGCCCAAGATAAGTGCGGCATACGGCTGGCATCTGTTCCAGGAAGTCAGACCGTGGTCGTCAAAGAAATCACTATTCACACTAAGCTCCCTGCCAAGGATGTGTACGAGCGGCTGAAGGACAAATGGGATGAACTAAAGGAGGCAGGGGTCAGTGACATGAAGCTAGGGGACCAGGGGCCACCGGAGGAGGCCGAGGACCGCTTCAGCATGCCCCTCATCATCACCATCGTCTGCATGGCATCATTCCTGCTCCTCGTGGCGGCCCTCTATGGCTGCTGCCACCAGCGCCTCTCCCAGAGGAAGGACCAGCA GCGGCTAACAGAGGAGCTGCAGACAGTGGAGAATGGTTACCATGACAACCCAACACTGGAAGTGATGGAGACCTCTTCTGAGATGCAGGAGAAGAAGGTGGTCAGCCTCAACGGGGAGCTGGGGGACAGCTGGATCGTCCCTCTGGACAACCTGACCAAGGACGACCTGGATGAGGAGGAAGACACACACCTCTAG
【0114】
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【国際調査報告】