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特表2022-515856黒鉛を含む摩擦材料、摩擦材料の製造方法およびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-22
(54)【発明の名称】黒鉛を含む摩擦材料、摩擦材料の製造方法およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/21 20170101AFI20220215BHJP
   C01B 32/20 20170101ALI20220215BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20220215BHJP
   F16D 69/00 20060101ALI20220215BHJP
   F16D 69/02 20060101ALI20220215BHJP
【FI】
C01B32/21
C01B32/20
C09K3/14 520F
F16D69/00 R
F16D69/02 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021538000
(86)(22)【出願日】2019-12-23
(85)【翻訳文提出日】2021-06-28
(86)【国際出願番号】 EP2019086923
(87)【国際公開番号】W WO2020141131
(87)【国際公開日】2020-07-09
(31)【優先権主張番号】18306897.2
(32)【優先日】2018-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】319006807
【氏名又は名称】イメルテック ソシエテ パル アクシオン サンプリフィエ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100162422
【弁理士】
【氏名又は名称】志村 将
(72)【発明者】
【氏名】ジラルディ ラファエーレ
(72)【発明者】
【氏名】グラーシュ ミカール
(72)【発明者】
【氏名】スパール ミヒャエル
【テーマコード(参考)】
3J058
4G146
【Fターム(参考)】
3J058AA01
3J058AA41
3J058BA21
3J058BA23
3J058CA01
3J058CA41
3J058FA01
3J058FA21
3J058GA02
3J058GA28
3J058GA35
3J058GA37
3J058GA39
3J058GA41
3J058GA45
3J058GA54
3J058GA65
3J058GA73
3J058GA78
3J058GA92
3J058GA93
4G146AA02
4G146AA19
4G146AB01
4G146AC02B
4G146AC07B
4G146AC12A
4G146AC12B
4G146AC14B
4G146AC21A
4G146AC21B
4G146AC22A
4G146AC22B
4G146AC26A
4G146AC27A
4G146AC27B
4G146AD15
4G146AD26
4G146AD40
4G146BA02
4G146BA40
4G146BA46
4G146BB03
4G146BB06
4G146CB03
4G146CB09
4G146CB10
4G146CB11
4G146CB12
4G146CB19
4G146CB23
4G146CB32
4G146CB35
(57)【要約】
本発明は、0.3358nm以下のc/2および40%以上、例えば41%以上のスプリングバックを有する黒鉛を含む摩擦材料に関する。本発明はさらに、このような摩擦材料の製造方法および使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.3358nm以下、例えば0.3357nm以下、または0.3356nm以下のc/2、および40%以上、例えば41%以上のスプリングバックを有する黒鉛を含む摩擦材料。
【請求項2】
前記黒鉛が、95.3%以上、例えば96%以上、例えば97%以上の黒鉛化度を有する、請求項1記載の摩擦材料。
【請求項3】
前記黒鉛が、45%以上、または50%以上、または60%以上のスプリングバックを有する、請求項1または2記載の摩擦材料。
【請求項4】
前記黒鉛が、2.0g/cm3以上のキシレン密度、例えば2.1g/cm3以上のキシレン密度、例えば2.2g/cm3以上のキシレン密度、例えば2.23g/cm3以上のキシレン密度を有する、請求項1~3のいずれか1項記載の摩擦材料。
【請求項5】
前記黒鉛が、50nm以上の結晶化度(Lc)を有する、請求項1~4のいずれか1項記載の摩擦材料。
【請求項6】
前記黒鉛が、9m2/g以下のBET表面積、例えば8.0m2/g以下のBET表面積、または7.0m2/g以下のBET表面積、または6.0m2/g以下のBET表面積、または5.0m2/g以下のBET表面積、または4.5m2/g以下のBET表面積、または4.0m2/g以下のBET表面積を有する、請求項1~5のいずれか1項記載の摩擦材料。
【請求項7】
前記黒鉛が、表面改質黒鉛、例えば表面改質天然黒鉛または表面改質合成黒鉛、またはこれらの混合物、例えば熱処理による表面改質黒鉛および表面被覆処理によってもよい被覆黒鉛である、請求項1~6のいずれか1項記載の摩擦材料。
【請求項8】
前記黒鉛の前記表面改質には、熱処理および/または表面被覆処理による表面改質、例えば化学気相成長(CVD)プロセスによって得られる表面被覆が含まれ、前記表面改質には、濡れ性を増加させるさらなる処理、例えば酸化処理が含まれてもよく、前記表面被覆は、熱処理と同時にまたは別々に、例えば熱処理に続いて行い得る、請求項7記載の摩擦材料。
【請求項9】
前記摩擦材料の総質量に対して、0.1質量%~30質量%の、請求項1~8のいずれか1項記載の黒鉛を含む、請求項1~8のいずれか1項記載の摩擦材料。
【請求項10】
5質量%以下の銅含有量、例えば0.5質量%以下の銅含有量を有する、請求項1~9のいずれか1項記載の摩擦材料。
【請求項11】
NETZSCH LFA447によるレーザフラッシュを用いてASTM E1461に従って測定した場合、1.5W/mK以上の面内熱伝導率を有する、請求項1~10のいずれか1項記載の摩擦材料。
【請求項12】
0.5以下の摩擦係数を有する、請求項1~11のいずれか1項記載の摩擦材料。
【請求項13】
樹脂またはセメント結合剤、アンチモントリスルフィド、銅、硫酸バリウム、金属粉末、金属繊維、鉱物繊維、硫化鉄、コークス、他の天然、合成、膨張黒鉛、炭酸カルシウム、マイカ、タルクおよびジルコニアからなる群から選択される1種以上をさらに含む、請求項1~12のいずれか1項記載の摩擦材料。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項記載の摩擦材料の製造方法であって、
(a)黒鉛を用意するステップ、
(b)ステップ(a)で用意した黒鉛を600℃以上で30分以上熱処理に供するステップ、
(c)ステップ(b)の終わりに得られた処理黒鉛をさらなる成分と混合し、圧縮成形、または熱圧縮成形または熱処理による硬化、またはこれらの組合せなどによって処理して、摩擦材料を形成するステップ
を含む、方法。
【請求項15】
ステップ(a)において用意された前記黒鉛が、天然黒鉛、合成黒鉛、またはこれらの混合物から選択される、請求項14記載の方法。
【請求項16】
ステップ(b)における前記熱処理には、表面被覆処理、例えばCVD処理またはアモルファス炭素被覆処理が含まれる、請求項14または15記載の方法。
【請求項17】
前記熱処理が、
表面被覆処理の部分である第1の熱処理、例えばCVD被覆またはピッチ被覆とその後の炭化、および
表面被覆処理の部分ではなく、第1の熱処理の前または後に、例えば後処理として実施し得る第2の熱処理
を含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記第2の熱処理には、表面被覆処理、例えばCVD処理が含まれない、請求項17記載の方法。
【請求項19】
ブレーキパッドの製造における、例えば低銅ブレーキパッドの製造における、または銅を含まないブレーキパッドの製造における、請求項1~13のいずれか1項記載の摩擦材料の使用。
【請求項20】
カーボンブラシ、燃料電池用のバイポーラプレート、ディスクブレーキ、ドラムブレーキ、またはクラッチにおいての、自動車、大型車両、風車、または鉄道における用途のための、請求項1~13のいずれか1項記載の摩擦材料の使用。
【請求項21】
電動車両において使用するためのものであってもよい、請求項1~13のいずれか1項記載の摩擦材料を含むブレーキパッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、弾性黒鉛質材料を含む摩擦材料に関する。本発明はさらに、このような摩擦材料の製造方法、およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
摩擦材料は、様々な用途において、例えばディスクブレーキ、ドラムブレーキ、またはクラッチのために、および自動車、重量車両、風車、鉄道などの車両における最終使用のために用いられる。摩擦材料は、それらの意図された使用に応じて、様々な要件を満たさなければならない。所望の特性の一部には、高い熱伝導率によって得られる良好な熱放散、明確に定義された安定した摩擦係数、良好な潤滑性、高い圧縮性、振動減衰特性、騒音低減、および低いディスクブレーキ抵抗が含まれる。
摩擦材料中にアスベストを使用することは、過去数十年間にわたって、作業場の安全性、健康および環境上の懸念の理由から明らかにされて廃止されてきた。さらに、良好で安定した摩擦係数を有する良好な熱伝導性を兼ね備えた摩擦材料中の銅の使用は、長年の間実施されている環境的な法規を考慮して廃止されてきている。
以前には、黒鉛および黒鉛質炭素が摩擦材料に使われてきた。特に、弾性黒鉛質材料は、摩擦材料に使用するために必要なスプリングバック特性を与える。例えば、EP 3 088 764 A1号は、非アスベスト有機(NAO)ブレーキパッドに弾性黒鉛質材料を使用することを開示している。弾性黒鉛質炭素粒子は、炭素質メソフェーズまたはコークスを膨張させて形成し、続いて1900~2700℃で黒鉛化することにより生成されて、X線分析に従って測定したように80~95%の黒鉛化度が得られる。これは、加えられた圧縮荷重を除去するときの体積回収率が改善されている。さらに、クラックの形成が低減され、これによりチッピングが低減される。
【0003】
摩擦材料中に黒鉛質材料を使用することによる1つの欠点は、スプリングバック特性および熱伝導性になるときの黒鉛質材料に対して相反する要件に起因する。黒鉛のスプリングバックは、一般に、結晶化度に相関している。理論に束縛されることなく、カーボンスプリングバックは結晶化度の低下に伴って増加する傾向がある。例えば、c/2値が約0.34nmよりも高く、Lc値が約50nm未満であるアモルファスコークスは、スプリングバック値が50%以上であろう。また、c/2が約0.3356nm未満であり、Lc値が約100~約200nmである黒鉛化炭素については、より低いスプリングバックを有するであろう。約0.3358nm未満のc/2値および約200nmを超えるLc値を有する典型的なフレークタイプ天然黒鉛は、例えば約10%以下の非常に低いスプリングバック値を有するであろう。高い結晶化度は、熱放散のための高い熱伝導性、摩擦係数の安定化のための良好な潤滑性をもたらし、その全てが摩擦材料の望ましい特性である。一方、高いスプリングバックは、良好な振動減衰のために摩擦材料の高い圧縮性および低減された騒音、および低いディスクブレーキ抵抗をもたらす。
従って、摩擦材料中の黒鉛質材料の使用は、材料の対向する特性の間に必要なバランスをとった作用をもたらし、この摩擦材料の1つまたは複数の特性に妥協を必要とする。従って、当該技術の状態は問題を構成している。
【発明の概要】
【0004】
本発明の簡単な説明
上述の問題は、添付の特許請求の範囲に定義されるように、本発明により解決される。より詳細には、本発明は、良好な熱伝導性、ならびに/または充分な摩擦係数および/もしくは充分な潤滑性を兼ね備えた材料を提供する。さらに、本発明の材料は、充分に高いスプリングバックを与える。
特に、本発明は、0.3358nm以下、例えば、0.3357nm以下、または0.3356nm以下のc/2、および40%以上のスプリングバック、例えば、40.5%以上、または41%以上のスプリングバックを有する黒鉛を含む摩擦材料によって具体化される。当業者に知られているように、95.3%以上の黒鉛化は0.3358nm以下のc/2に相当する。これらのパラメータを有する黒鉛を得て、摩擦材料において良好な特性を与えることができることが見出された。1つの実施形態によれば、本発明に従う摩擦材料に使われる黒鉛は、45%以上、例えば50%以上、または60%以上のスプリングバックを有することができる。このような材料は、摩擦パッド用途に使用するために特に有利であることが見出された。
【0005】
本発明の1つの実施形態によれば、摩擦材料に含まれる黒鉛は、95.3%以上、例えば96%以上、例えば97%以上の黒鉛化度を有する。
本発明の1つの実施形態によれば、摩擦材料に含まれる黒鉛は、2.0g/cm3以上のキシレン密度を有する。
本発明の1つの実施形態によれば、摩擦材料に含まれる黒鉛は、50nm以上の結晶化度(Lc)を有する。
本発明の1つの実施形態によれば、摩擦材料に含まれる黒鉛は、9m2/g以下のBET表面積を有する。
本発明の1つの実施形態によれば、摩擦材料に含まれる黒鉛は、表面改質黒鉛である。例えば、摩擦材料に含まれる黒鉛は、表面改質天然黒鉛または表面改質合成黒鉛であってもよく、または表面改質天然黒鉛と表面改質合成黒鉛との混合物であってもよく、例えば熱処理による表面改質黒鉛および表面被覆処理による被覆黒鉛であってもよい。
本発明の1つの実施形態によれば、黒鉛の表面改質には、熱処理による表面改質が含まれる。
本発明の1つの実施形態によれば、表面改質には、黒鉛粒子表面の追加の被覆が含まれ、上記表面被覆は、熱処理と同時にまたは別々に、例えば熱処理に続いて行うことができる。
【0006】
本発明の1つのさらなる実施形態によれば、黒鉛の表面改質には、化学気相成長(CVD)プロセスによって得ることができる表面被覆、例えばCVDプロセスによって得られる炭素被覆が含まれる。
本発明のさらに別の実施形態によれば、黒鉛の表面改質には、熱処理による表面改質、さらに、例えばCVDプロセスによって、得られた表面被覆、黒鉛表面をアモルファス炭素で、または黒鉛表面に炭素前駆体の被覆で被覆し、その後、不活性ガス雰囲気中の熱処理によって炭化することが含まれる。
また、CVDプロセスの後、材料は典型的には疎水性である。CVDプロセス後の材料のさらなる処理は、水との濡れ性を向上させ、所望であれば、材料をより親水性であるか、またはより疎水性にするのを助けるものであってもよい。従って、さらなる酸化処理が本発明の部分を形成してもよい。酸化の程度は、黒鉛表面の親水性、従ってその湿度による濡れ性を制御することを可能にする。アモルファス炭素の表面被覆を有する黒鉛質材料に同じ酸化を適用できる。
【0007】
本発明の1つの特定の実施形態によれば、摩擦材料は、摩擦材料の総質量に対して、0.1質量%~30質量%の、上で定義した特性を有する黒鉛を含む。
本発明の1つの特定の実施形態によれば、摩擦材料は、5質量%以下の銅含有量、例えば0.5質量%以下の銅含有量を有する。本発明の1つの実施形態によれば、摩擦材料は本質的に銅を含まない。
本発明の1つの特定の実施形態によれば、摩擦材料は、NETZSCH LFA447によるレーザフラッシュを用いてASTM E1461に従って測定したように、1.5W/mK以上の面内熱伝導率を有する。
本発明の1つの特定の実施形態によれば、摩擦材料は、0.5以下の摩擦係数を有する。
本発明のさらに別の実施形態によれば、摩擦材料は、樹脂またはセメント結合剤、アンチモントリスルフィド、銅、硫酸バリウム、金属粉末、金属繊維繊維、鉱物繊維、硫化鉄、コークス、他の天然、合成、膨張黒鉛、炭酸カルシウム、マイカ、タルク、ジルコニア、およびそれらの混合物、ならびに当業者に公知である摩擦材料に典型的に使用されるさらなる成分からなる群から選択される1種以上のさらなる成分を含むことができる。
【0008】
また、本発明の一部分は、摩擦材料の製造方法であって、(a)黒鉛を用意するステップ、(b)ステップ(a)で用意された黒鉛を600℃以上で30分以上熱処理に供するステップ、(c)ステップ(b)の終わりに得られた処理黒鉛をさらなる成分と混合し、処理して、例えば圧縮成形または熱圧縮成形または熱処理による硬化、またはこれらの任意の組合せによって、摩擦材料を形成するステップを含む、方法である。
1つの実施形態によれば、用意された黒鉛は、天然黒鉛、または合成黒鉛、または天然黒鉛と合成黒鉛の混合物であってもよい。
1つのさらなる実施形態によれば、ステップ(b)の処理には、表面被覆処理、例えばCVD処理、またはアモルファス炭素表面被覆処理がさらに含まれてもよい。1つのさらなる実施形態によれば、上記方法の処理ステップ(b)には、その後の炭化を伴うCVD被覆またはピッチ被覆のような表面被覆処理の部分である第1の熱処理、および表面被覆処理の部分ではなく、その表面被覆処理の前または後に行われてもよい、第2の熱処理が含まれてもよい。1つのさらなる実施形態によれば、上記第2の熱処理は、後処理である(すなわち、表面被覆処理のような第1の処理の後に行われる)。
1つのさらなる実施形態によれば、処理ステップ(b)は、CVD処理のような表面被覆処理を含まなくてもよい。
【0009】
また、本発明の一部分は、ブレーキパッドの製造における、例えば、低銅ブレーキパッドの製造における、または銅を含まないブレーキパッドの製造における、本発明に従う摩擦材料の使用である。
また、本発明の一部分は、本発明に従う摩擦材料を含むブレーキパッドであり、電動車両に使用するためのものであってもよい。
下記の説明および図面を参照することは、本発明の例示的な実施形態に関するものであり、特許請求の範囲を限定するものではないことは理解されたい。
【発明を実施するための形態】
【0010】
発明の詳細な説明
添付の特許請求の範囲に従う本発明は、黒鉛を含む摩擦材料であって、黒鉛が0.3358nm以下、例えば0.3357nm以下、または0.3356nm以下のc/2値、および40%以上、例えば40.5%以上、または41%以上のスプリングバックを有する、摩擦材料を提供する。本発明の中心は、摩擦材料において有効な使用のために、黒鉛の黒鉛化とスプリングバックの本質的に矛盾する特性を両立させることを可能にした点にある。
当業者は、黒鉛のスプリングバックが一般にその結晶化度に依存することを認識するであろう。結晶化度の低い黒鉛は、一般に、高いスプリングバック特性を有し、その逆も同様である。高スプリングバックは低圧縮性をもたらし、黒鉛粉末の圧縮密度は減少する。
本発明に従う物理的パラメータの組合せを有する黒鉛質材料を含む摩擦材料は、以前には示されていない。
【0011】
黒鉛質材料
本発明によれば、摩擦材料中に含まれる黒鉛は、0.3358nm以下、例えば0.3357nm以下、または0.3356nm以下のc/2値、および40%以上のスプリングバック、例えば40.5%以上、または41%以上のスプリングバック、例えば45%以上のスプリングバック、例えば50%以上のスプリングバック、例えば55%以上のスプリングバック、例えば60%以上のスプリングバック、例えば65%以上のスプリングバック、例えば70%以上のスプリングバック、例えば75%以上のスプリングバックを有する。
本発明によれば、上記摩擦材料中に含まれる黒鉛は、0.3358nm以下のc/2値、例えば0.3357nm以下、または0.3356nm以下のc/2値を有する。
当業者には、高黒鉛化度と高スプリングバックを有することが最も有利であることは明らかであろう。従って、0.3358nm以下のc/2値および40%を超える、例えば41%以上のスプリングバックを有する黒鉛を含む摩擦材料、および0.3358nm以下のc/2値および50%以上のスプリングバックを有する黒鉛を含む摩擦材料、および0.3358nm以下のc/2値および60%以上のスプリングバックを有する黒鉛を含む摩擦材料、および95.3%以上の黒鉛化度および70%以上のスプリングバックを有する黒鉛を含む摩擦材料でさえも、および0.3356nm以下のc/2値(98%以上の黒鉛化度)および75%以上のスプリングバックを有する黒鉛を含む摩擦材料でさえも本発明の部分と考えられる。
【0012】
上記の導入部に記載されているように、高黒鉛化度は、黒鉛の良好な熱伝導性をもたらし、従って、この黒鉛を含む摩擦材料に良好な熱放散を引き起こす。また、良好なスプリングバックは、この材料の良好な圧縮性をもたらし、これにより、振動減衰および騒音低減の改善がもたらされる。
本発明の1つの実施形態によれば、摩擦材料中に含まれる黒鉛は、95.3%以上の黒鉛化度および40%を超える、例えば41%以上のスプリングバック、例えば、96%以上の黒鉛化度、または97%以上の黒鉛化度、または98%以上の黒鉛化度さえも有する。
本発明の1つの実施形態によれば、摩擦材料は、50nm以上の結晶化度Lcを有する黒鉛を含む。例えば、この摩擦材料は、100nm以上の結晶化度Lc、または150nm以上の結晶化度Lc、または200nm以上の結晶化度Lc、または250nm以上の結晶化度Lcを有する黒鉛さえも含む。本明細書で使用される場合、この結晶化度Lcは、黒鉛の平均結晶子サイズを示す。
【0013】
本発明の1つの実施形態によれば、摩擦材料は、2.0g/cm3以上のキシレン密度、例えば2.1g/cm3以上のキシレン密度、例えば2.2g/cm3以上のキシレン密度、例えば2.23g/cm3以上のキシレン密度、例えば2.24g/cm3以上のキシレン密度、例えば2.25g/cm3以上のキシレン密度、または2.26g/cm3以上のキシレン密度を有する黒鉛を含む。例えば、本発明の1つの実施形態に従う摩擦材料に含まれる黒鉛は、2.26g/cm3よりも高いキシレン密度を有することがない。
より高いキシレン密度は、一般に、c/2距離の結晶子サイズの数値の直接情報を与えることなく、黒鉛のより高い結晶化度を示し、従って、改善された材料の熱拡散率を示し、摩擦材料において使用するために改善された特性を与える。
本発明の1つの実施形態によれば、上記摩擦材料は、9m2/g以下のBET表面積を有する黒鉛を含む。例えば、本発明に従う摩擦材料に含まれる黒鉛は、8m2/g以下のBET表面積、8.0m2/g以下のBET表面積、または7.0m2/g以下のBET表面積、または6.0m2/g以下のBET表面積、または5.0m2/g以下のBET表面積、または4.5m2/g以下のBET表面積、または4.0m2/g以下のBET表面積であってもよい。より低いBET表面積の1つの利点は、一般に、低い樹脂消費量である。
【0014】
表面処理により所望の特性を有する黒鉛質材料の調製
本発明のいくつかの実施形態によれば、摩擦材料に使用するための黒鉛質材料は、天然黒鉛、または合成黒鉛、またはこれらの混合物であってもよい。例えば、黒鉛質材料は、表面処理天然黒鉛、または表面処理合成黒鉛であってもよい。
1つの実施形態によれば、上記黒鉛は、膨張黒鉛および/または非膨張黒鉛から選択できる。
さらなる実施形態によれば、上記黒鉛は、非膨張黒鉛から選択される。
本発明のある実施形態によれば、黒鉛質材料の上記表面処理は、熱処理であってもよい。例えば、熱処理は、600℃以上の温度、例えば800℃以上の温度、または1000℃以上の温度、または1200℃以上の温度、例えば1400℃の温度での熱処理であってもよい。
本発明のある実施形態によれば、黒鉛質材料の上記表面処理は、化学気相成長(CVD)処理のような、または炭素前駆体で黒鉛粒子を被覆し、その後、不活性ガス雰囲気中で炭化するような表面被覆処理であってもよい。
【0015】
典型的な表面被覆プロセスは、コールタールまたは石油ピッチ(典型的にはピッチ被覆と呼ばれる)のような炭素前駆体、またはフェノール樹脂またはポリスチレン、ポリビニルアルコール、フラン樹脂、またはフルフリルアルコール(炭化時に高い炭素収率をもたらすことが知られている)のような有機ポリマーを、乾燥または湿式混合プロセスで黒鉛表面上に被覆し、その後、不活性ガス雰囲気中で高温で炭化することに基づく[Wan et al., Journal of Applied Electrochemistry, 2009, 39, 1081;Yoon et al. Journal of Power Sources, 2001, 94, 68]。当該技術に記載されている別の公知のプロセスには、典型的にはCVD被覆と呼ばれる、高温で炭化水素ガスまたは蒸気中の黒鉛粒子を処理すること(化学気相成長)により達成される黒鉛表面における熱分解炭素の被覆が含まれる。記載された表面被覆は、黒鉛粒子の表面にアモルファス炭素の被覆を形成する。
これらの表面改質の例は、熱処理および表面被覆処理を包含し、これらは、例えば、CVD被覆の場合には同時であり、その後の炭化を伴う炭素前駆体のピッチ被覆の場合には独立している。
【0016】
CVDプロセスの間、通常炭化水素である気相中の炭素源は、高温で分解され、炭素粒子は、黒鉛表面上のいわゆる熱分解炭素として堆積される。熱分解炭素、特に等方性炭素の硬化効果が文献に示されている(例えば、Handbook Of Carbon, Graphite, Diamond And Fullerenes, Properties, Processing and Applications, Hugh O. Pierson, published in 1993 by Noyes Publications, ISBN: O-8155-1339-9, Printed in the United States, Published in the United States of America by Noyes Publications Mill Road, Park Ridge, New Jersey 07656を参照されたい)。そのランダム構造では、堆積された等方性熱分解炭素は配向を欠いており、結果として非常に硬質である。
ある実施形態によれば、従来技術の出願WO 2016/008951号またはEP 0 977 292号から知られているように、例えばロータリーキルン、流動床炉または固定床炉を使用してCVDプロセスを実施できる。これらの刊行物に開示された方法によれば、プロパン、メタンまたはトルエンおよびベンゼン蒸気のような炭化水素ガスは、600℃と1200℃の間の温度で分解される。得られた最終材料は、10nm~100nmの連続層のアモルファス炭素で被覆され、0.5~30質量%が疎水性または親水性を有することができる。熱分解炭素を堆積するための任意の他の公知のCVDプロセス、例えば、熱CVD、プラズマ強化CVD、ホットフィラメントCVD、低圧CVD、液体噴射CVDなどを使うこともできる。
【0017】
摩擦材料に使用するために表面処理された黒鉛質材料を製造するより詳細な方法については、下記でさらに説明する。
本発明によれば、このように調製された炭素被覆黒鉛質材料を分析し、スプリングバックの増加が実際に観察された。上記のような硬化剤として作用する熱分解炭素の効果に加えて、不活性雰囲気中での熱処理は、スプリングバックを増加させる効果を有する。かなりの滞留時間を有する500℃より高い温度ですでに、黒鉛粒子内部の少量の非黒鉛質炭素が、スプリングバックの増加につながる構造的変化を受けることが推測される。
これらの理由から、表面処理された合成または天然黒鉛から誘導された黒鉛質材料を含む摩擦材料であって、上記表面処理が、不活性雰囲気下での熱処理、またはCVD処理のような表面被覆処理、またはこれらの両方が同時にまたはその後に実施され得る、摩擦材料を提供することは、本発明の部分である。
【0018】
摩擦材料
本発明の1つの実施形態によれば、上述の黒鉛質材料を含む摩擦材料であって、上記黒鉛質材料が、摩擦材料の総量に対して、0.1質量%~30質量%の量で上記摩擦材料中に含まれる、摩擦材料が提供される。
例えば、上記黒鉛質材料は、摩擦材料中に、0.1質量%以上の量で、例えば、0.1質量%以上の量で、または0.5質量%以上の量で、または1質量%以上の量で、または5質量%以上の量で、または10質量%以上の量で、または15質量%以上の量で、または20質量%以上の量で、または25質量%以上の量で、例えば約30重量%の量で存在していてもよい。
例えば、上記黒鉛質材料は、摩擦材料中に30質量%以下の量で、例えば、25質量%以下の量で、または20質量%以下の量で、または15質量%以下の量で、または10質量%以下の量で、または5質量%以下の量で、または1質量%以下の量で、または0.5質量%以下の量で、または約0.1質量%の量で存在していてもよい。
例えば、本発明に従う上記黒鉛質材料は、摩擦材料中に、摩擦材料の総量に対して、0.5質量%~30質量%、例えば1質量%~25質量%、または例えば2質量%~10質量%の量で存在していてもよい。
【0019】
摩擦材料は、当業者に公知の摩擦材料に使用するために適した他の材料、例えば樹脂またはセメント結合剤、アンチモントリスルフィド、銅、硫酸バリウム、金属粉末、金属繊維、鉱物繊維、硫化鉄、コークス、他の天然、合成、または膨張黒鉛、炭酸カルシウム、マイカ、タルクおよびジルコニアなどをさらに含むことができる。例えば、摩擦材料は、高熱伝導性摩擦材料の場合に膨張黒鉛(例えば、TIMREX, C-THERM)をさらに含んでいてもよい。ある実施形態によれば、摩擦材料は、5質量%未満の銅、例えば1質量%未満の銅、または0.5質量%未満の銅、または0.1質量%未満の銅を含む。ある実施形態によれば、摩擦材料は銅を含まない。本明細書で使用する場合、摩擦材料は、0.05質量%未満の銅を含むか、または検出可能な銅を含まない場合には、銅を含まないとみなされる。摩擦材料は、例えば、熱伝導性の必要性が高い場合には、膨張黒鉛(例えば、TIMREX C-THERM)をさらに含んでいてもよい。
本発明に従う摩擦材料は、NETZSCH LFA 447によるレーザフラッシュを用いてASTM E1461に従って測定したように、1.5W/mK以上、例えば5W/mK以上の面内熱伝導率を有し得る。
本発明に従う摩擦材料は、0.5以下、例えば、0.2と0.5の間、または0.3と0.5の間の摩擦係数を有し得る。
【0020】
摩擦材料の製造方法
本発明の1つの実施形態によれば、摩擦材料は、40%以上、または41%以上のスプリングバック、および0.3358nm以下、例えば0.3357nm以下、または0.3356nm以下のc/2値を有する黒鉛質材料を用意することにより形成され得る。このような黒鉛は、合成または天然の粒子状黒鉛の熱処理および/または表面被覆処理、例えばCVD処理のステップが含まれる、上述したような方法を使用して得ることができる。
本発明によれば、摩擦材料は、黒鉛を用意し、用意された黒鉛を600℃以上で30分以上熱処理を施し、得られた処理黒鉛をさらなる成分と混合して処理して、摩擦材料を形成することにより、形成され得る。
このようなさらなる成分は、樹脂またはセメント結合剤、アンチモントリスルフィド、銅、硫酸バリウム、金属粉末、金属繊維、鉱物繊維、硫化鉄、コークス、他の天然、合成、膨張黒鉛、炭酸カルシウム、マイカ、タルクおよびジルコニア、および/または摩擦材料に典型的に使用される他の成分およびこれらの混合物からなる群から選択できる。
これらのさらなる成分と混合した後、混合物は、圧縮成形、例えば、冷間圧縮成形、または熱圧縮成形、または熱処理による硬化、またはこれらの組合せで処理され得る。
【0021】
本発明に従う方法で用意された黒鉛は、天然黒鉛、合成黒鉛およびこれらの混合物から選択し得る。例えば、上記黒鉛は、粉砕された天然黒鉛または粉砕された合成黒鉛、または粉砕された天然黒鉛と合成黒鉛の組合せであってもよい。
上記熱処理は、700℃以上、または800℃以上、または850℃以上の温度で行うことができる。上記熱処理は、30分以上、好ましくは60分以上、あるいは120分以上の時間に行うことができる。1つの実施形態によれば、上記熱処理は、600℃と850℃の間を含む温度で120分以上の時間行うことができる。
1つの実施形態によれば、熱処理は、約1000℃以上で少なくとも30分間行われる。1つの実施形態によれば、熱処理は、約1000℃以上で少なくとも60分間行われる。1つの実施形態によれば、熱処理は、約1200℃以上で少なくとも30分間行われる。1つの実施形態によれば、熱処理は、約1200℃以上で少なくとも60分間行われる。1つの実施形態によれば、熱処理は、約1300℃以上で少なくとも30分間行われる。1つの実施形態によれば、熱処理は、約1300℃以上で少なくとも60分間行われる。1つの実施形態によれば、熱処理は、約1500℃以上で少なくとも30分間行われる。1つの実施形態によれば、熱処理は、約1500℃以上で少なくとも60分間行われる。
【0022】
本発明の1つの実施形態によれば、摩擦材料の製造方法のステップ(b)には、表面被覆、例えばCVD処理が含まれてもよく、熱処理は、被覆処理と同時に行うことができ、あるいは表面被覆処理は、熱処理の前に、例えば、黒鉛表面を炭素前駆体で被覆し、その後、不活性ガスの下で炭化することができ、この場合、上記炭化は熱処理である。本発明のいくつかの実施形態によれば、このようなCVD処理は、例えば、窒素またはアルゴンのようなキャリアガスの存在下に、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ベンゼンまたはトルエンのようなアモルファス炭化水素ガスを使用する。
1つの別の実施形態によれば、上記ステップ(b)は、上記のように、別個のCVD処理(熱処理および表面被覆処理を包含する)および別個の熱処理(CVD処理の部分ではない)を含む。この実施形態では、上記熱処理は、上記CVD処理とは独立しており、両方の処理は、冷却、急冷、または化学処理のような他の中間ステップを伴ってまたは伴わずに、互いに続いて行われてもよい。
本発明の1つの実施形態によれば、用意された黒鉛は、天然黒鉛を含み、ステップ(b)には、熱処理および表面被覆処理が含まれる。
【0023】
1つのさらなる実施形態によれば、上記方法のステップ(b)には、表面被覆処理(例えば、CVD被覆またはピッチ被覆とその後の炭化)の部分である第1の熱処理および第2の熱処理(表面被覆処理の部分ではない)が含まれてもよく、第2の熱処理は、表面被覆処理の前または後に実施できる。さらなる実施形態によれば、このような第2の熱処理は後処理である。
1つのさらなる実施形態によれば、上記方法のステップ(b)には、表面被覆処理が含まれなくてもよい。
本発明の1つの実施形態によれば、用意された黒鉛は、合成黒鉛を含み、方法ステップ(b)は、CVD処理のような表面被覆処理を含んでいてもいなくてもよい。
さらに、本発明によれば、摩擦材料を形成するための種々の他の材料、例えば、樹脂またはセメント結合剤、アンチモントリスルフィド、銅、硫酸バリウム、金属粉末、金属繊維、鉱物繊維、硫化鉄、コークス、他の天然、合成、または膨張黒鉛、炭酸カルシウム、マイカ、タルクおよびジルコニアなどが用意される。
【0024】
また、本発明の一部分は、摩擦材料の形成における本明細書に開示されている黒鉛質材料の使用、ならびにディスクブレーキ、ドラムブレーキ、またはクラッチのためのブレーキパッドの形成において、および電気自動車を含む自動車、大型車両、鉄道などの車両における用途のためのこのような摩擦材料の使用である。
電気車両では、エンジンからの騒音がないので、低減された騒音を発生するブレーキパッドを使用することがさらに有利である。
本発明に従う摩擦材料はまた、例えば、カーボンブラシおよび燃料電池用のバイポーラプレートにおいて、またはディスクブレーキ、ドラムブレーキ、またはクラッチのために、および自動車、大型車両、風車、鉄道などの車両における用途のために使用され得る。
本発明の1つの実施形態によれば、用意された黒鉛は、例えば、カーボンブラシおよび燃料電池用のバイポーラプレートにおいて、自己潤滑性ポリマー化合物のために使用され得る。
また、本発明の一部分は、ブレーキパッドの性能を向上させるための方法であって、0.3358nm以下、例えば0.3357nm以下、または0.3356nm以下のc/2値、および40%以上、例えば41%以上のスプリングバックを有する黒鉛が含まれる、本発明に従う摩擦材料を使うことを含む、方法である。このブレーキパッドの性能は、騒音低減、耐久性、振動減衰、制動動力、摩擦係数安定化などの観点から評価され得る。
また、本発明の一部分は、本発明に従う摩擦材料を含むブレーキパッドである。
【0025】
黒鉛スプリングバック
スプリングバックは、圧縮された黒鉛粉末の弾力性に関する情報源である。所定量の粉末を20mm直径ダイに注入する。パンチを挿入し、ダイをシールした後、空気をダイから排気する。1.5メートルトンの圧縮力が加えられ、0.477t/cm2の圧力が生じ、粉末の高さが記録される。この高さは、圧力が解放された後に再び記録される。スプリングバックは、圧力下の高さに対する高さの差のパーセントである。
【0026】
層間隔c/2および黒鉛化度
層間空間c/2をX線回折法により測定した。[002]反射プロファイルのピーク最大の角度位置を決定し、ブラッグの式を適用することにより、層間隔を計算した(Klug and Alexander, Xray diffraction Procedures, John Wiley & Sons Inc., New York, London (1967))。炭素の低吸収係数、試料の計器整列および非平面性に起因する問題を回避するために、内部標準、シリコン粉末を試料に添加し、黒鉛ピーク位置をシリコンピークの位置に基づいて再計算した。黒鉛試料を、ポリグリコールとエタノールとの混合物を添加することにより、シリコン標準粉末と混合した。その後、得られたスラリーを150pm間隔のブレードによってガラス板上に塗布し、乾燥した。
層間隔(d002)および黒鉛化度(g)は、下記の式によって直接関係している:
【0027】
【数1】
【0028】
黒鉛結晶子サイズLc
結晶子サイズLcは、(002)および((004)回折プロファイルの分析により決定される。本発明では、Iwashita(N. Iwashita, C. Rae Park, H. Fujimoto, M. Shiraishi and M. Inagaki, Carbon 42, 701-714 (2004))により提案された方法が使用される。Iwashitaにより提案されたアルゴリズムは、炭素材料について具体的に開発されている。サンプルおよび基準の最大値の半分のラインプロファイルの幅を測定する。補正関数によって、純粋な回折プロファイルの幅を決定できる。その後、シェラーの式(P. Scherrer, Goettinger-Nachrichten 2 (1918) p. 98)を適用することによりこの結晶子サイズが計算される。
【0029】
キシレン密度
分析は、DIN 51901で規定されたように液体排除の原理に基づいている。約2.5g(精度0.1mg)の粉末を25mLのピクノメーターで計量する。キシレンを真空中で(15トル(20ミリバール))加える。常圧下で数時間の滞留時間の後、ピクノメーターを調整し、計量する。密度は、質量と体積の比を表す。質量は、試料の質量で示され、体積は、試料粉末の有無でキシレンが充填されたピノメーターの質量の差から計算される。
【0030】
BET比表面積
方法は、77Kにおいて、p/p0=0.04~0.26の範囲の液体窒素の吸着等温線の登録に基づいている。ブルナウアー、エメット、テラー(Adsorption of Gases in Multimolecular Layers, J. Am. Chem. Soc., 1938, 60, 309-319)により提案された手順に従って、単層容量を決定できる。窒素分子の断面積、単層容量および試料の質量に基づいて、比表面積を計算できる。
本発明は、相互に排他的であるような特徴の組合せを除いて、本明細書において参照される特徴および/または制限の任意の組合せを含むことができることに留意されたい。以上の説明は、本発明の特定の実施形態に向けられており、本発明の特定の実施形態を説明するためのものである。しかしながら、当業者には、本明細書に記載された実施形態に多くの変更および変形が可能であることは明らかであろう。このような変更および変形は全て、添付の特許請求の範囲に定義されるように、本発明の範囲内にあることが意図されている。
【実施例
【0031】
実施例1:回転炉を使用した疎水性CVD被覆合成黒鉛
D10=5μmおよびD90=73μmの粒度分布を有する粉砕された合成黒鉛「GRAPHITE SGA」を、黒鉛を含む摩擦材料として使用されるそのスプリングバック特性および他の特性を改善するための出発材料として使用した。この出発材料を、単軸スクリューを用いて、連続して1050℃に加熱されたロータリーキルン反応器に2時間供給し、約2000gの材料を生成した。化学気相成長(CVD)処理を、炭化水素と不活性ガス(アモルファス炭素前駆体:C3H8(3L/分)とキャリアガス:N2(1L/分))との混合物を用いて実施し、この反応器内の圧力を大気圧よりも高い0~8ミリバールで維持するように反応器に供給した。この管の傾斜を4°に設定し、回転速度を6rpmに設定し、キルン内の滞留時間を約30分とした。多環芳香族炭化水素(PAH)の量を排除するために、マッフル炉でのさらなる処理、または不活性雰囲気(N2)中の700℃の回転炉でのさらなる処理を加えた。
粉砕された合成黒鉛「GRAPHITE SGA」を、再び、黒鉛を含む摩擦材料として使用されるそのスプリングバック特性および他の特性を改良するための出発材料として使用した。この出発材料を流動床反応器に装入し、不活性ガス下で約900℃に加熱した。反応器内の大気圧を維持しながら、有機溶媒と不活性ガス(4L/分の窒素流)との混合物を用いて化学気相成長(CVD)を行った。処理の全所要時間は7時間(加熱および冷却を含む)であった。排出された材料SG HSB Bは、その後、150μmのふるいを使用して制御ふるいにかけた。
未処理の出発材料「GRAPHITE SGA」の性質および得られた高スプリングバック材料「GRAPHITE SG HSB A」および「GRAPHITE SG HSB B」の特性を表1に示す:
【0032】
【表1】
【0033】
実施例2:回転炉を使用し熱処理を追加した親水性CVD被覆天然黒鉛
高スプリングバックを有する処理天然黒鉛をベースとする、親水性黒鉛摩擦材料の出発材料として、D10=6μmおよびD90=42μmの粒度分布を有する薄片状天然黒鉛「GRAPHITE NGB」を使用した。この出発材料を、1050℃に外部から加熱したロータリーキルン反応器中に連続して2時間供給し、約700gの材料を生成した。化学気相成長(CVD)処理を、炭化水素と不活性ガス(アモルファス炭素前駆体:C3H8(3L/分)とキャリアガス:N2(1L/分))との混合物を用いて実施し、この反応器内の圧力を大気圧より高い0~8ミリバールに維持するように反応器内に供給した。この管の傾斜を4°に設定し、回転速度を6rpmに設定し、キルン内の滞留時間を約30分とした。
得られたCVD改質「GRAPHITE NGB」の濡れ性を向上させるために、実施例1にさらなるプロセスステップを加えた。得られたCVD改質「GRAPHITE NGB」を、酸素含有雰囲気(2L/分の合成空気の流れ)で満たされた650℃に加熱された回転炉に供給し、傾斜を6°および回転速度6romに設定した。350gの材料を約30分間かけて供給した。
未処理の出発材料「GRAPHITE NGB」の性質および得られた高スプリングバック材料「GRAPHITE NG HSB B」の特性を表2に示す:
【0034】
【表2】
【0035】
実施例3:流動床を使用したCVD処理合成黒鉛
流動床バッチプロセスの出発原料として、D10=7μmおよびD90=36μmの粒度分布を有するジャガイモ状合成黒鉛「GRAPHITE PSG」を使用した。この出発材料(8500g)を流動床反応器に装入し、次いで窒素雰囲気下で920℃に加熱した。炭化水素と不活性ガス(アモルファス炭素前駆体:トルエンC7H8とキャリアガス:N2)との混合物を用いてCVD処理を260分間行った。その後、この反応器および処理黒鉛を窒素雰囲気下で冷却した。この材料が周囲温度に達したとき、これを流動床から排出した。
未処理の出発材料「GRAPHITE PSG」の性質および得られた高スプリングバック材料「GRAPHITE PSG HSB C」の特性を表3に示す:
【0036】
【表3】
【0037】
実施例4:ボックス炉を用いた熱処理合成黒鉛
約450gの粉砕された合成黒鉛「GRAPHITE PSG」(実施例3を参照されたい)をるつぼに入れ、高温ガス気密ボックス炉に入れた。12%のスプリングバックを有する出発材料を、10℃/分の上昇で1500℃まで加熱した。これは、10L/分の一定の窒素流量で行われた。1500℃に達すると、この温度を60分の滞留時間保持した。その後、試料を窒素雰囲気で(依然として10L/分の流れで)冷却し、排出し、一旦周囲温度に達した後に分析した。
未処理の出発材料「GRAPHITE PSG」の性質および得られた熱処理された高スプリングバック材料「GRAPHITE PSG HSB HT」の特性を表4に示す:
【0038】
【表4】
【0039】
実施例5:ブレーキパッドの調製
表5に従って下記の成分を有するブレーキパッドを製造した。
【0040】
【表5】
【0041】
これらの成分を乾燥混合し、140バールのパフォーマーで冷間プレスし、160℃で9分間圧縮成形することにより硬化させ、オーブン内で(120℃で2時間、次いで160℃で5時間)後硬化させ、次いで粉砕してブレーキパッドに仕上げた。
4種のブレーキパッドを上記の手順に従って調製した。BP1は、黒鉛タイプとして「GRAPHITE NGB」を含み、BP2は、黒鉛タイプとして「GRAPHITE SG HSB A」を含み、BP3は、黒鉛タイプとして「GRAPHITE SG HSB A」を含み、BP4は、黒鉛タイプとして「GRAPHITE SG HSB B」を含む。これらの黒鉛タイプの特性は、上記表1および表2に見出すことができる。
ブレーキパッドBP1~BP4の密度および気孔率を測定した。規格SAE 9380を用いて密度を測定した。水または油のいずれかを用いる、規格JIS D4418:1996を用いて気孔率を測定した。これらのブレーキパッドの物理的特性は、下記の表6に見られる。
【0042】
【表6】
【0043】
本発明のブレーキパッドBP3およびBP4は、比較例のブレーキパッドBP1およびBP2よりも低い密度および高い気孔率を有することが見出された。ブレーキパッドのより高い気孔率は、使用中のノイズの発生を減少させると考えられる。
次に、ブレーキパッドBP1~BP4を、標準の手順で摩擦係数および質量損失を試験することによりこれらの性能について試験した。ブレーキパッドを取り付け、ブレーキパッド上に80km/hの速度において30バールで100回のブレーキをかけることによってベディングした。ベディングした後、ブレーキディスクを、Ra=3~4μmの表面粗さを有する試験ディスクに置き換えた。下記の試験サイクルを各試験ブレーキパッドに適用した:
・サイクル1:ブレーキパッド上に60km/hの速度において、20バールで25回ブレーキをかけ、続いて30バールで25回ブレーキをかけ、続いて40バールで25回ブレーキをかける;
・サイクル2:ブレーキパッド上に80km/hの速度において、20バールで25回ブレーキをかけ、続いて30バールで25回ブレーキをかけ、続いて40バールで25回のブレーキをかける;
・サイクル3:ブレーキパッド上に100km/hの速度において、20バールで25回ブレーキをかけ、続いて30バールで25回ブレーキをかけ、続いて40バールで25回のブレーキをかける。
従って、これらの試験ブレーキパッドの各々は、60km/h、80km/hおよび100km/hでそれぞれ75回、合計225回ブレーキ作用を受けた。各圧力/速度の組合せについて摩擦係数を測定した。サイクル3の終了時に、試験サイクル1の前および試験サイクル3後のブレーキパッドの質量差を求めることにより、ブレーキパッドの質量損失を測定した。
摩擦係数測定値を表7にまとめる。
【0044】
【表7】
【0045】
示された結果は全て、等価ブレーキパッドを用いた2回の試験処理後に得られた平均値である。本発明のブレーキパッドBP3およびBP4について測定した質量損失は、それぞれ58mgおよび55mgであり、一方、比較例のブレーキパッドBP1およびBP2について測定された質量損失は、それぞれ50mgおよび66mgであった。20バール/60km/hでの低応力試験を除いて、本発明のブレーキパッドBP3およびBP4は、比較例のブレーキパッドBP1およびBP2と比べて高い摩擦係数を達成することが分かる。いずれの場合においても、BP4の摩擦係数(0.33と0.44の間の変化)は、BP1(0.30と0.43の間の変化)とBP2(0.30と0.46の間の変化)の摩擦係数よりも安定である。
【国際調査報告】