(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-22
(54)【発明の名称】電気絶縁材料及び製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 63/00 20060101AFI20220215BHJP
H01B 3/40 20060101ALI20220215BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20220215BHJP
C08G 59/68 20060101ALI20220215BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20220215BHJP
【FI】
C08L63/00 C
H01B3/40 D
C08K3/013
C08G59/68
C08J5/18 CFC
C08J5/18 CFG
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021538720
(86)(22)【出願日】2019-12-27
(85)【翻訳文提出日】2021-08-26
(86)【国際出願番号】 FR2019053305
(87)【国際公開番号】W WO2020141280
(87)【国際公開日】2020-07-09
(32)【優先日】2018-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517202755
【氏名又は名称】スーパーグリッド インスティテュート
【住所又は居所原語表記】23 RUE CYPRIAN, 69100 VILLEURBANNE, FRANCE
(71)【出願人】
【識別番号】305023584
【氏名又は名称】サントル・ナシオナル・ド・ラ・ルシェルシュ・シアンティフィック
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
【住所又は居所原語表記】3 rue Michel Ange, 75794 PARIS CEDEX 16, France
(71)【出願人】
【識別番号】508019311
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ クロード ベルナール リヨン 1
(71)【出願人】
【識別番号】516248495
【氏名又は名称】インスティテュウト ナショナル デ サイエンシーズ アプリケーズ ドゥ リヨン
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DES SCIENCES APPLIQUEES DE LYON
【住所又は居所原語表記】20, avenue Albert Einstein, F-69621 Villeurbanne Cedex (FR)
(71)【出願人】
【識別番号】517217597
【氏名又は名称】ユニベルシテ ジャン モネ サン テティエンヌ
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ルフォール, ティボ
(72)【発明者】
【氏名】バシェレリ, ダミアン
(72)【発明者】
【氏名】プリュヴォ, セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】デュシェ, ヤニック
(72)【発明者】
【氏名】リヴィ, セバスチャン
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
4J036
5G305
【Fターム(参考)】
4F071AA42
4F071AA60
4F071AB18
4F071AB22
4F071AB26
4F071AC12
4F071AC15
4F071AC19
4F071AE17
4F071AE22
4F071AF37Y
4F071AF39Y
4F071AH12
4F071BB03
4F071BC01
4F071BC03
4J002CD021
4J002CD051
4J002CM042
4J002DE076
4J002DE086
4J002DE136
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4J002DF016
4J002DJ016
4J002EN137
4J002EU047
4J002EU117
4J002EW177
4J002FD012
4J002FD016
4J002FD122
4J002FD126
4J002FD147
4J002GQ01
4J036AA01
4J036AB07
4J036AD08
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4J036FB14
4J036GA01
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4J036HA03
4J036JA05
4J036JA15
5G305AA03
5G305AB01
5G305BA05
5G305CA15
(57)【要約】
【課題】電気絶縁材料及び製造方法の提供。
【解決手段】本発明は、40質量%未満の量の脂環式系又はジグリシジルエーテル系ポリエポキシドマトリックス(2)と、1種以上のマイクロメートル及び/又はメソメートル充填材(3)20~75質量%と、少なくとも1種のイオン液体(4)0.1~20質量%とを含む電気絶縁複合材料(1)であって、各質量は上記電気絶縁複合材料(1)の全質量を基準とする、電気絶縁複合材料(1)に関する。本発明はまた、このような電気絶縁複合材料(1)を製造する方法、及び金属閉鎖形変電所(5)における電気絶縁支持体(9)へのその使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)40質量%未満の量の脂環式系又はジグリシジルエーテル系ポリエポキシドマトリックス(2)と、
ii)1種以上のマイクロメートル及び/又はメソメートル充填材(3)20~75質量%と、
iii)少なくとも1種のイオン液体(4)0.1~20質量%と
から形成される電気絶縁複合材料(1)であって、各質量は上記電気絶縁複合材料の全質量を基準とする、電気絶縁複合材料(1)。
【請求項2】
上記イオン液体(4)は、アンモニウム、イミダゾリウム、ピリジニウム又はホスホニウム系である、請求項1に記載の電気絶縁複合材料(1)。
【請求項3】
上記イオン液体(4)の量は、上記電気絶縁複合材料(1)の全質量に対して0.1~5質量%である、請求項1又は2に記載の電気絶縁複合材料(1)。
【請求項4】
BN、ポリイミド、SiO
2、Al
2O
3、Al(OH)
3、CaO、MgO、CaCO
3、及びTiO
2から選択される少なくとも1種のマイクロメートル及び/又はメソメートル充填材(3)を含む請求項1~3のいずれか1項に記載の電気絶縁複合材料(1)。
【請求項5】
上記マイクロメートル及び/又はメソメートル充填材(3)の量は、上記電気絶縁複合材料(1)の全質量に対して40~70質量%である、請求項1~4のいずれか1項に記載の電気絶縁複合材料(1)。
【請求項6】
上記マトリックス(2)は、ジグリシジルエーテル系ポリエポキシドマトリックス、好ましくはビスフェノールAのジグリシジルエーテル系のポリエポキシドマトリックスである、請求項1~5のいずれか1項に記載の電気絶縁複合材料(1)。
【請求項7】
ISO規格62631-3に準拠して測定されることが好ましい体積導電率が10
-18~10
-12S/m、好ましくは約10
-15S/mである請求項1~6のいずれか1項に記載の電気絶縁複合材料(1)。
【請求項8】
ガラス転移温度Tgが70℃~160℃、好ましくは100℃~130℃である請求項1~7のいずれか1項に記載の電気絶縁複合材料(1)。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の電気絶縁複合材料(1)から形成される電気絶縁支持体(9)。
【請求項10】
請求項9に記載の電気絶縁支持体(9)を用いて高圧導電体(8)が設置されているエンクロージャ(7)を内部に画定する外殻(6)を含む金属閉鎖形変電所(5)。
【請求項11】
高圧直流変電所である請求項10に記載の金属閉鎖形変電所(5)。
【請求項12】
請求項1~8のいずれか1項に記載の電気絶縁複合材料(1)を製造する方法であって、
a)脂環式系又はジグリシジルエーテル系エポキシプレポリマー、1種以上のマイクロメートル及び/又はメソメートル充填材(3)、少なくとも1種のイオン液体(4)、並びに必要に応じて上記イオン液体とは異なる架橋剤を含む架橋性混合物を調製する工程、
b)上記架橋性混合物を型内に導入する工程、及び
c)上記型内の上記架橋性混合物を架橋する工程
を含む方法。
【請求項13】
上記架橋性混合物は、ISO規格12058に準拠して80℃で測定されることが好ましい粘度が6,000mPa・s~15,000mPa・s、好ましくは10,000mPa・s~12,000mPasである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
上記架橋性混合物は、活性化硬化剤、硬化剤と開始剤とを含む混合物、又は硬化剤と開始剤との組み合わせから選択される上記イオン液体とは異なる架橋剤を含み、好ましくは、上記硬化剤は、アミン系又は無水物系硬化剤から選択される、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
上記架橋性混合物は、上記イオン液体とは異なる架橋剤を含まない、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項16】
上記架橋は、加熱又はUV等の架橋手段を適用することで行われる、請求項12~15のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気絶縁複合材料に関する。上記電気絶縁複合材料は特に、一般に頭字語でGIS(Gas Insulated Substation:ガス絶縁変電所)と称される金属閉鎖形変電所等の高圧電気設備における導電体用絶縁支持体を製造するのに使用でき、高圧直流に供することができる。
【背景技術】
【0002】
再生可能エネルギーを電力ネットワークに統合する場合、発電地点(洋上風力タービン等)から消費地までの長距離で生じる損失を抑えるために、高圧直流(HVDC)技術が使用される。しかしながら、現在のネットワーク全体は高圧交流(HVAC)で作動している。この2つの技術では同じ現象が生じない。従って、ネットワーク及びその構成要素をHVDC用に再設計し、開発しなければならない。
【0003】
従来、金属閉鎖形変電所では、スペーサー等の電気絶縁支持体を用いて高圧導電体が金属殻の中心に保持されている。上記外殻は接地され、アースに対する各相の電気的絶縁は、絶縁耐力が高い絶縁媒体、典型的にはSF6によって確保される。これらの変電所は非常に小型で、屋内外に設置できる。
【0004】
電気絶縁体として使用するためには、絶縁支持体の材料は、低気孔率、高絶縁耐力、低誘電率、且つ低熱膨張係数でなければならない。また、電気絶縁支持体は、その使用中、持続的電気ストレスにさらされるため、局所的なホットスポットが生じるおそれがある。従って、絶縁支持体の材料の熱伝導性が高いこと、そして該支持体の耐用期間を通じてそうであることも重要である。また、HVACと比較してHVDCにより課せられた新たな課題の一つとして、電荷蓄積現象がある。実際に、直流電圧を印加すると、絶縁支持体の表面及び体積に電荷蓄積が起こる。その結果、電弧が発生し、そのため装置が劣化して危険となるおそれがある。この現象は、導電体と金属殻との間に温度勾配が生じると悪化する。
【0005】
一般的に、電気絶縁支持体は、少なくとも2種の不混和成分の集合体である複合材料から形成される。典型的には、絶縁支持体は、1種以上の充填材が分散された有機マトリックスから構成される。マトリックスは、例えばコモノマー反応系を架橋することなどによって形成された電気絶縁材料であり、コモノマーのうちの1種は硬化剤であってよい。充填材は、マイクロメートル又はナノメートルタイプの有機性又は無機性であってよく、形状因子が可変の様々な形状であってよい。このマトリックスには、例えば希釈剤や可塑剤等の他の添加剤が含まれていてもよい。このような複合材料は、例えば特許文献1及び特許文献2に記載されている。
【0006】
直流電荷の蓄積を克服するためには、その排除を向上させる必要がある。そのために、様々な開発分野が想定されている。
【0007】
第1に、電気絶縁支持体の形状を変更して、局所的な現象のいくつかを監視することが考えられる。その場合、電気絶縁性支持体を構成する材料の組成は変わらない。しかしながら、この選択肢は、電気絶縁支持体の寸法を大きく増加させることが主となることから、設置面積が極めて大きくなる。また、そのような部品の経時的な抵抗は不確定である。また、この選択肢は、電荷蓄積に与える影響が小さいことが知られている。絶縁支持体の形状は、主に耐絶縁破壊性に影響を与える。
【0008】
第2に、電気絶縁支持体に表面処理を施すことが考えられる。この場合、電気絶縁体を構成する材料の組成は変わらず、表面処理によって、その特性を表面でのみ変更することができる。この選択肢では、新たな工程が必要となる。近年の研究によれば、例えばフッ素化等、成果を上げていると見られる表面処理もあるとしても、そのような方法が健康や環境に与える影響は実際に不利益であると思われる。
【0009】
第3に、電気絶縁体を構成する材料の性質を変更することが考えられる。実際、一部の成分を変更及び/又は除去及び/又は追加することによって、電気絶縁材料の特性を変更できる。この最後の選択肢には、適切な寸法の支持体を製造できるという利点がある。また、材料の特性は表面だけではなく、体積全体で変化する。
【0010】
後者の選択肢がより有利であることから、研究の重点は、より一般的には、電気絶縁材料の組成を変更することに置かれている。そのため、マトリックスの変更、充填材の変更、又は添加剤の追加といういくつかの方法が想定されている。
【0011】
マトリックスに関しては、その化学的性質やその構造に関する変更が考えられる。しかしながら、マトリックスを変更するいずれの場合も、材料に関する大変な研究作業が必要であるとともに、電気絶縁複合材料の製造方法を改変する必要がある。
【0012】
充填材に関しては、炭素系導電性充填材、マイクロメートル若しくはナノメートル無機充填材、又は特定の条件下で電界に基づく非線形導電率を得ることができる充填材(RFGM(Resistive Field Grading Material:抵抗性電界緩和材料)の使用が想定された。炭素系導電性充填材は導電率に多大な影響を与えるため、導電率の最適化が極めて困難となり、工業的な観点から使用しにくい。ナノメートル充填材は、粘度が上昇したり、凝集体形成を防ぐために充填材の分散状態を監視しなければならなかったりすることから、マトリックス中に分散させるのが煩雑である。また、該充填材が空気中に飛散するのを避ける必要があるため、使用時の安全衛生に関する制約が大きい。RFGM充填材も最適に分散させにくく、その実施を再現することが難しい。
【0013】
従って、低気孔率、高絶縁耐力、低誘電率、低熱膨張係数、高熱伝導性、良好な機械抵抗、電食と電弧の内部伝播とに対する良好な耐性を有するだけでなく、通常の高圧絶縁材料よりも(表面及び体積で)導電率が高い電気絶縁複合材料が求められている。実際、経時的な電荷の排除を良好にすることで、その蓄積を防ぐことができる。本発明に係る電気絶縁複合材料の導電率は、性質及び製造に使用される各成分の割合に応じて調整できる点で有利である。この電気絶縁複合材料は製造しやすい点で有利である。
【0014】
本発明では、有機、無機又はハイブリッド添加剤を加えて、電気絶縁複合材料の導電率をわずかに上昇させることを提案している。そのためには、電荷蓄積現象を避けるための導電性の向上と、本来の機能である電気絶縁とのバランスを取ることができる添加剤でなければならない。実際に、導電性が高すぎるか又は中程度である添加剤を大量に添加すると、電気絶縁複合材料が導電性材料となってしまうため、使用できなくなる。本出願人は、適切な量でイオン液体を使用することによって、そのような折り合いをつけながら、HVDCで使用される電気絶縁複合材料に必要な特性を維持できることを見出した。
【0015】
イオン液体は、溶融塩と同様に完全にイオン(カチオン及びアニオンの組み合わせ)で構成される化合物であるが、融点が100℃より低い点で区別される。イオン液体が有する特定の物理化学的特性から、熱的及び化学的に安定であり、沸点が高く、蒸気圧が無視できるほど低く(故に、揮発性が極めて低く)、且つイオン伝導性が高い(従って、導電率が良好である)という利点がわかる。様々な種類のイオン液体がある。カチオンは性質が有機性であり、例えば、アンモニウム、ホスホニウム、チアゾリウム又はスルホニウム系であってよい。アニオンの選択肢も広く、アニオンは有機性(アルミン酸イオン、アルキル硫酸イオン、アルキルスルホン酸イオン、又はホスフィン酸イオン等)又は無機性(ハロゲン化物イオン又はヘキサフルオロリン酸イオン等)であってよい。
【0016】
イオン液体は、その導電特性が電気絶縁体の主目的に反していることから、電気絶縁のために使用することは想定されてこなかった。また、イオン液体は可塑特性を有することが知られており、特に可塑剤が存在する場合、絶縁体の機械的特性を損なうおそれがある。
【0017】
エポキシ樹脂及びイオン液体を含むが、充填材は含まない組成物が特許文献3及び特許文献4に記載されている。しかしながら、これらの組成物の電気絶縁への使用は記載されていない。更に、エポキシ樹脂と、エポキシ樹脂の質量に対して1~9質量%のパリゴルスカイトと、1~9質量%のイオン液体とを含む組成物が特許文献5に記載されているが、その電気絶縁特性に関する使用については記載されていない。パリゴルスカイトはケイ酸塩であるため、GISで絶縁体として従来使用されるSF6、特にその副生成物とは親和性が無い。また、調製方法では、希釈剤等の様々な添加物を使用し、且つ50~70℃に加熱するため、最終材料において可能な電気絶縁特性が制限される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】国際公開第98/32138号
【特許文献2】国際公開第2008/009560号
【特許文献3】米国特許出願公開第2009/030158号明細書
【特許文献4】国際公開第2018/000125号
【特許文献5】中国特許出願公開第102964778号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0019】
この文脈において、本発明は、
i)40質量%未満の量の脂環式系又はジグリシジルエーテル系ポリエポキシドマトリックスと、
ii)1種以上のマイクロメートル及び/又はメソメートル充填材20~75質量%と、
iii)少なくとも1種のイオン液体0.1~20質量%と
から形成される電気絶縁複合材料であって、各質量は上記電気絶縁複合材料の全質量を基準とする、電気絶縁複合材料に関する。
【0020】
本発明の枠内において、「ポリエポキシドマトリックス」は、架橋エポキシポリマーを指す。
【0021】
「マイクロメートル充填材」とは、最大寸法が2μm~100μmである充填材を意味する。
【0022】
本発明の枠内において、上記寸法は数平均寸法である。上記寸法は、走査型電子顕微鏡(SEM)等の顕微鏡と連動する測定ソフトを用いて測定できる。
【0023】
「メソメートル充填材」とは、最大寸法が100nm~2μmである充填材を意味する。
【0024】
本発明に係る電気絶縁複合材料は、電気抵抗、機械抵抗、及び電食と電弧の内部伝播とに対する耐性が良好であり、且つ、電気絶縁特性を維持しながらも、通常の高圧用絶縁材料よりも導電率が高い。実際に、各成分、特に充填材及びイオン液体、並びにそれら各々の量を選択することで、これらの先験的に相反する特性の折り合いをつけることができた。本発明に係る電気絶縁材料の導電率は、使用する充填材及びイオン液体の性質、並びにそれら各々の量により調整することができ、有利である。また、本発明に係る電気絶縁材料は、熱伝導性が良好である。従って、本発明に係る電気絶縁材料は、有利にも過大な寸法とすることなく、高圧直流で使用できる。高圧は、交流では50,000Vを超える電圧値、直流では75,000Vを超える電圧値として定義される。
【0025】
本発明に係る電気絶縁複合材料は、下記の付加的特徴のうち1つ以上を有していてもよい。
・上記イオン液体は、アンモニウム、イミダゾリウム、ピリジニウム又はホスホニウム系である。
・上記イオン液体の量は、上記電気絶縁複合材料の全質量に対して0.1~5質量%である。
・上記マイクロメートル及び/又はメソメートル充填材は、BN、ポリイミド、SiO2、Al2O3、Al(OH)3、CaO、MgO、CaCO3、及びTiO2から選択される。
・上記マイクロメートル及び/又はメソメートル充填材の量は、上記電気絶縁複合材料の全質量に対して40~70質量%である。
・上記マトリックスは、ジグリシジルエーテル系ポリエポキシドマトリックス、好ましくはビスフェノールAのジグリシジルエーテル系のポリエポキシドマトリックスである。
・上記電気絶縁複合材料は、ISO規格62631-3に準拠して測定されることが好ましい体積導電率が10-18~10-12S/m、好ましくは約10-15S/mである。
・上記電気絶縁複合材料は、ガラス転移温度Tgが70℃~160℃、好ましくは100℃~130℃である。
・上記電気絶縁複合材料は、ISO規格527に準拠して測定されることが好ましい弾性率が5,000MPaを超え、好ましくは10,000MPaを超える。
・上記ポリエポキシドマトリックス/上記イオン液体の質量比は2~20%、好ましくは4~10%である。
・上記電気絶縁複合材料は、金属閉鎖形変電所において導電体を維持可能な電気絶縁支持体の形態である。
【0026】
本発明の枠内において、ガラス転移温度の測定は、TA instrument社製の示差走査熱量計(DSC)Q10を使用して行う。測定は、Tg<150℃の場合は勾配を25℃~175℃の範囲、Tgが150℃を超える場合は25℃~250℃の範囲とし、20℃/分で昇温して行う。2つの熱勾配を連続して実施して、Tg値を監視する。Tg値は、転移開始点(オンセット)に対応する。
【0027】
本発明の別の目的は、本発明に係る電気絶縁複合材料を製造する方法に関し、上記方法は、
a)脂環式系又はジグリシジルエーテル系エポキシプレポリマー、1種以上のマイクロメートル及び/又はメソメートル充填材、少なくとも1種のイオン液体、並びに必要に応じて上記イオン液体とは異なる架橋剤を含む架橋性混合物を調製する工程、
b)上記架橋性混合物を型内に導入する工程、及び
c)上記型内の上記架橋性混合物を架橋する工程
を含む。
【0028】
本発明の枠内において、「架橋性混合物」とは、脂環式系又はジグリシジルエーテル系エポキシプレポリマー、1種以上のマイクロメートル及び/又はメソメートル無機充填材、少なくとも1種のイオン液体、必要に応じて上記イオン液体とは異なる架橋剤、並びに必要に応じて当該分野で既知である通常の添加剤からなる混合物を意味する。このような混合物は、以下に説明するように架橋されることが有利である。
【0029】
本発明の枠内において、「エポキシプレポリマー」は、架橋されていないエポキシモノマーを指す。エポキシプレポリマーは、架橋によってポリエポキシドマトリックスへと変換される。
【0030】
本発明の枠内において、「架橋剤」とは、架橋性プレポリマー、より具体的には本発明の枠内で使用されるエポキシプレポリマーと化学的に反応できる剤(すなわち化合物)を意味する。例えば、架橋剤は、活性化硬化剤、硬化剤と開始剤とを含む混合物、又は開始剤と硬化剤との組み合わせであってよい。
【0031】
本発明に係る方法は実施しやすく、また、電気抵抗、機械抵抗、電食と電弧の伝播とに対する耐性、熱伝導性が良好で、高圧用に一般的に使用される絶縁体よりも導電率が高い電気絶縁複合材料が得られる。
【0032】
また、本発明に係る方法は、以下の付加的特徴のうち1つ以上を有していてもよい。
・上記架橋性混合物は、ISO規格12058に準拠して80℃で測定されることが好ましい粘度が6,000mPa・s~15,000mPa・s、好ましくは10,000mPa・s~12,000mPasである。
上記架橋性混合物は、活性化硬化剤、開始剤と硬化剤とを含む混合物、又は硬化剤と開始剤との組み合わせから選択される上記イオン液体とは異なる架橋剤を含み、好ましくは、上記硬化剤は、アミン系又は無水物系硬化剤から選択される。
・上記架橋性混合物は、上記イオン液体とは異なる架橋剤を含まない。
・上記架橋は、加熱又はUV等の架橋手段を適用することで行われる。
【0033】
本発明の枠内において、「架橋手段」は、加熱やUV等、架橋性混合物を架橋できる物理的手段である。
【0034】
本発明はまた、本発明に係る材料から形成される電気絶縁支持体、及びその製造方法に関する。
【0035】
最後に、本発明の別の目的は、本発明に係る電気絶縁複合材料又は本発明に係る方法により得られる電気絶縁複合材料から形成される本発明に係る電気絶縁支持体を用いて高圧導電体が設置されているエンクロージャを内部に画定する外殻を含む金属閉鎖形変電所(GIS(Gas Insulated Switchgear:ガス絶縁開閉装置))に関する。本発明に係る金属閉鎖形変電所は、有利にも直流且つ高圧で使用できる。
【0036】
様々な他の特徴が、添付の図面を参照して以下の説明から明らかとなる。図面は、非限定的な例として、本発明の目的の実施形態を示す。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明に係る電気絶縁複合材料の模式図である。
【
図2】コーン形態の電気絶縁支持体を含む金属閉鎖形変電所の断面図である。
【
図3】「ポスト型」形態の電気絶縁支持体を含む金属閉鎖形変電所の断面図である。
【
図4】本発明に係る処方A及び本発明以外の処方Bについて、電界の関数として電流密度(A/m
2)を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明は、GISにおける導電体を所定位置に保持する電気絶縁支持体の形成に使用するのに適した電気絶縁複合材料1に関する。電気絶縁複合材料1は、少なくとも1種のマイクロメートル及び/又はメソメートル充填材3及び少なくとも1種のイオン液体4が分散されたマトリックス2から構成されている。
【0039】
マトリックス2は、脂環式系エポキシプレポリマー又はジグリシジルエーテル系エポキシプレポリマーを架橋することでそれぞれ形成される脂環式系又はジグリシジルエーテル系ポリエポキシドマトリックスである。マトリックス2は、ジグリシジルエーテル系マトリックス、特にビスフェノールAのジグリシジルエーテルであることが好ましい。
【0040】
ポリエポキシドマトリックス2は、電気絶縁複合材料1中に、該電気絶縁複合材料の全質量に対して40質量%未満の量で含まれる。電気絶縁複合材料1は、電気絶縁複合材料1の全質量に対して20質量%以上の量でマトリックス2を含むことが好ましい。
【0041】
また、電気絶縁複合材料1は、少なくとも1種の充填材3を含む。より具体的には、電気絶縁複合材料1は、少なくとも1種のマイクロメートル充填材3、少なくとも1種のメソメートル充填材3、又は、少なくとも1種のマイクロメートル充填材3と少なくとも1種のメソメートル充填材3との組み合わせを含む。
【0042】
本発明の枠内で使用される充填剤3は、マトリックスに対して不活性(すなわち、マトリックスと反応しない)であってよい。あるいは、マトリックスと相互作用できるように機能化されていてもよい。電気絶縁特性を有する任意のマイクロメートル及び/又はメソメートル充填材が本発明の枠内で好適であり得る。特に、本発明の枠内で使用できるマイクロメートル及びメソメートル充填材3は、任意の形状であってよく、例えば、球状、準球状、管状、又はラメラ状であってよい。
【0043】
充填剤3の性質は、無機性であっても有機性であってもよい。本発明の枠内で使用される充填剤3は、金属酸化物等の無機性のものであることが有利である。
【0044】
マイクロメートル充填材3の例としては、BN、ポリイミド、SiO2、Al2O3、Al(OH)3、CaO、MgO、CaCO3、及びTiO2が挙げられる。マイクロメートル充填材3は、SiO2、Al2O3、Al(OH)3、及びTiO2から選択されることが好ましい。
【0045】
メソメートル充填材3の例としては、BN、ポリイミド、SiO2、Al2O3、Al(OH)3、CaO、MgO、CaCO3、及びTiO2が挙げられる。メソメートル充填材3は、SiO2、Al2O3、Al(OH)3、及びTiO2から選択されることが好ましい。
【0046】
本発明の好ましい一実施形態によれば、上記電気絶縁複合材料は、マイクロメートル及び/又はメソメートル充填材3として、Al2O3を含む。
【0047】
本発明の好ましい一実施形態によれば、上記電気絶縁複合材料は、ジグリシジルエーテル系マトリックス2、特にビスフェノールAのジグリシジルエーテルと、マイクロメートル及び/又はメソメートル充填材3としてのAl2O3とを含む。
【0048】
本発明の枠内では、1種以上の充填材3を表面機能化してもよい。このような機能化によって、特に充填材のマトリックスに対する親和性を向上させ、それにより材料の熱伝導性及び熱膨張係数を向上することができる。充填材の表面機能化は当該分野で通常行われており、ここでは詳述しない。
【0049】
本発明に係る電気絶縁複合材料1は、マイクロメートル及び/又はメソメートル充填材3を電気絶縁複合材料1の全質量に対して20~75質量%、好ましくは40~70質量%含む。本発明に係る電気絶縁複合材料1は、マイクロメートル及び/又はメソメートル充填材3を電気絶縁複合材料1の全体積に対して15~45体積%含むことが有利である。
【0050】
また、本発明に係る電気絶縁複合材料1は、電気絶縁複合材料1の全質量に対して0.1~20質量%、好ましくは0.1~5質量%の量で少なくとも1種のイオン液体4を含む。
【0051】
任意の種類のイオン液体が本発明の枠内では好適である。特に、イオン液体4は、後述するカチオン及びアニオンを任意に組み合わせて形成される塩から選択できる。
【0052】
イオン液体4は、アンモニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、トリアゾリウムカチオン、又はホスホニウムカチオンを含んでもよい。イオン液体4のカチオンは、アンモニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、及びホスホニウムカチオンから選択されることが好ましい。
【0053】
本発明の枠内で使用されるアンモニウムカチオンは、下記式Iで表されるものであることが好ましい。
【0054】
【0055】
式中、R1、R2、R3、及びR4は、同一又は異なって、C1-C20アルキル基、好ましくはC1-C10アルキル基から選択され、環状又は好ましくは非環状であってもよく、直鎖状又は分岐状であってもよく、-C1-C10アルキル、-CN、-O(C1-C6アルキル)、-OH、-NH2、-SO3Hから選択される1個以上の置換基、好ましくは1個以上の置換基-C1-C10アルキル、-CN、又は-O(C1-C6アルキル)で置換されていてもいなくともよい。
【0056】
上記アンモニウムカチオンは、R1、R2、R3、及びR4が同一又は異なってC1-C10アルキル基から選択され、環状又は好ましくは非環状であってもよく、直鎖状又は分岐状であってもよく、-C1-C10アルキル、-CN、-O(C1-C6アルキル)から選択される1個以上の置換基で置換されていてもいなくともよい式Iのアンモニウムカチオンから選択してもよく、好ましい。
【0057】
本発明の枠内で使用できるアンモニウムカチオンの例としては、R1、R2、R3、及びR4が同一又は異なって、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル基から選択され、1個以上の置換基-CN、-OMe、-OEt、-Meで置換されていてもよい式Iのアンモニウムカチオンが挙げられる。
【0058】
本発明の枠内で使用されるイミダゾリウムカチオンは、下記式IIで表されるものであることが好ましい。
【0059】
【0060】
式中、R5及びR6は、同一又は異なって、C1-C20アルキル基、好ましくはC1-C10アルキル基から選択され、環状又は好ましくは非環状であってもよく、直鎖状又は分岐状であってもよく、-C1-C10アルキル、-CN、-O(C1-C6アルキル)、-OH、-NH2、-SO3Hから選択される1個以上の置換基、好ましくは1個以上の置換基-C1-C10アルキル、-CN、又は-O(C1-C6アルキル)で置換されていてもいなくともよい。
【0061】
上記イミダゾリウムカチオンは、R5及びR6が同一又は異なってC1-C10アルキル基から選択され、環状又は好ましくは非環状であってもよく、直鎖状又は分岐状であってもよく、-C1-C10アルキル、-CN、-O(C1-C6アルキル)から選択される1個以上の置換基で置換されていてもいなくともよい式IIのイミダゾリウムカチオンから選択してもよく、好ましい。
【0062】
本発明の枠内で使用できるイミダゾリウムカチオンの例としては、R5及びR6が同一又は異なって、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、及びヘキシル基から選択され、1個以上の置換基-C1-C10アルキル、-CN、-OMe、-OEtで置換されていてもよい式IIのイミダゾリウムカチオンが挙げられる。
【0063】
本発明の枠内で使用されるピリジニウムカチオンは、下記式IIIで表されるものであることが好ましい。
【0064】
【0065】
式中、
・R7、R8、及びR9は同一又は異なり、
・R7は、C1-C20アルキル基、好ましくはC1-C10アルキル基から選択され、環状又は好ましくは非環状であってもよく、直鎖状又は分岐状であってもよく、-C1-C10アルキル、-CN、-O(C1-C6アルキル)、-OH、-NH2、-SO3Hから選択される1個以上の置換基、好ましくは1個以上の置換基-C1-C10アルキル、-CN、又は-O(C1-C6アルキル)で置換されていてもいなくともよく、
・R8及びR9は、同一又は異なって、水素原子、C1-C20アルキル基、好ましくはC1-C10アルキル基から選択され、環状又は好ましくは非環状であってもよく、直鎖状又は分岐状であってもよく、-C1-C10アルキル、-CN、-O(C1-C6アルキル)、-OH、-NH2、-SO3Hから選択される1個以上の置換基、好ましくは1個以上の置換基-C1-C10アルキル、-CN、又は-O(C1-C6アルキル)で置換されていてもいなくともよい。
【0066】
一実施形態によれば、R8及びR9はメタ位に位置し、水素原子を表さない。
【0067】
一実施形態によれば、R8及びR9はオルト位に位置し、水素原子を表さない。
【0068】
一実施形態によれば、R9は水素原子を表し、R8はパラ位に位置し、水素原子を表さない。
【0069】
一実施形態によれば、R8及びR9はそれぞれ水素原子を表す。
【0070】
第1の好ましい実施形態によれば、上記ピリジニウムカチオンは式IIIのピリジニウムカチオンから選択され、式中、
・R7及びR8は、同一又は異なってC1-C10アルキル基から選択され、環状又は好ましくは非環状であってもよく、直鎖状又は分岐状であってもよく、-C1-C10アルキル、-CN、-O(C1-C6アルキル)から選択される1個以上の置換基で置換されていてもいなくともよく、
・R9は水素原子を表し、
・R9は、ピリジニウムの窒素原子に対してパラ位に位置する。
【0071】
第2の好ましい実施形態によれば、上記ピリジニウムカチオンは式IIIのピリジニウムカチオンから選択され、式中、
・R7、R9、及びR8は同一又は異なってC1-C10アルキル基から選択され、環状又は好ましくは非環状であってもよく、直鎖状又は分岐状であってもよく、-C1-C10アルキル、-CN、-O(C1-C6アルキル)から選択される1個以上の置換基で置換されていてもいなくともよく、
・R8及びR9は、ピリジニウムの窒素原子に対してオルト位に位置する。
【0072】
第3の好ましい実施形態によれば、上記ピリジニウムカチオンは式IIIのピリジニウムカチオンから選択され、式中、
・R7はC1-C10アルキル基から選択され、環状又は好ましくは非環状であってもよく、直鎖状又は分岐状であってもよく、-C1-C10アルキル、-CN、-O(C1-C6アルキル)から選択される1個以上の置換基で置換されていてもいなくともよく、
・R8及びR9はそれぞれ水素を表す。
【0073】
本発明の枠内で使用できるピリジニウムカチオンの例としては、1-(3-シアノプロピル)ピリジニウム及び1-ブチル-4-メチルピリジニウムが挙げられる。
【0074】
本発明の枠内で使用されるホスホニウムカチオンは、下記式IVで表されるものであることが好ましい。
【0075】
【0076】
式中、R10、R11、R12、及びR13は、同一又は異なって、C1-C20アルキル基、好ましくはC1-C10アルキル基から選択され、環状又は好ましくは非環状であってもよく、直鎖状又は分岐状であってもよく、-C1-C10アルキル、-CN、-O(C1-C6アルキル)、-OH、-NH2、-SO3Hから選択される1個以上の置換基、好ましくは1個以上の置換基-C1-C10アルキル、-CN、又は-O(C1-C6アルキル)で置換されていてもいなくともよい。
【0077】
上記ホスホニウムカチオンは、R10、R11、R12、及びR13が同一又は異なってC1-C10アルキル基から選択され、環状又は好ましくは非環状であってもよく、直鎖状又は分岐状であってもよく、-C1-C10アルキル、-CN、-O(C1-C6アルキル)から選択される1個以上の置換基で置換されていてもいなくともよい式IVのホスホニウムカチオンから選択してもよく、好ましい。
【0078】
本発明の枠内で使用できるホスホニウムカチオンの例としては、R10=R11=R12であり、非置換の直鎖状又は分岐状アルキル基、好ましくはC1-C10アルキル基、例えばn-ヘキシル基を表し、R13は、非置換の直鎖状又は分岐状アルキル基、好ましくはC1-C10アルキル基、例えばn-テトラデシル基を表す式IVのホスホニウムカチオンが挙げられる。
【0079】
イオン液体4は、有機又は無機アニオンを含んでいてよい。
【0080】
使用できる無機アニオンの例としては、以下が挙げられる。
・Cl-、Br-、I-、F-等のハロゲン化物イオン
・ヘキサフルオロリン酸イオン(PF6
-)
・四フッ化ホウ素イオン(BF4
-)
【0081】
本発明の枠内で使用できる有機アニオンの例としては、炭酸イオン、トシル酸イオン、又はホスフィン酸イオンが挙げられる。
【0082】
本発明の枠内で使用できるホスフィン酸イオンは、下記式Vで表されるものであってよい。
【化5】
式中、R14及びR15は、同一又は異なって、C
1-C
20アルキル基、好ましくはC
1-C
10アルキル基から選択され、環状又は好ましくは非環状であってもよく、直鎖状又は分岐状であってもよく、-C
1-C
10アルキル、-CN、-O(C
1-C
6アルキル)、-OH、-NH
2、-SO
3Hから選択される1個以上の置換基、好ましくは1個以上の置換基-C
1-C
10アルキル、-CN、又は-O(C
1-C
6アルキル)で置換されていてもいなくともよい。
【0083】
上記ホスフィン酸イオンは、R14及びR15が同一又は異なってC1-C10アルキル基から選択され、環状又は好ましくは非環状であってもよく、直鎖状又は分岐状であってもよく、-C1-C10アルキル、-CN、-O(C1-C6アルキル)から選択される1個以上の置換基で置換されていてもいなくともよい式Vのホスフィン酸イオンから選択してもよく、好ましい。
【0084】
本発明の枠内で使用できるホスフィン酸アニオンの例としては、R14=R15であり、2,4,4-トリメチルペンチル基を表す式Vのホスフィン酸アニオンが挙げられる。
【0085】
本発明の特定の一実施形態によれば、本発明の枠内で使用されるイオン液体4は、上記で定義した式IVのホスホニウムカチオンと、上記で定義した式Vのホスフィン酸アニオンとから形成される。本実施形態によれば、上記イオン液体は、例えば下記式VIで表されるものであってよい。
【0086】
【化6】
式中、R10、R13、及びR14は上記で定義した通りである。
【0087】
本発明の特定の実施形態によれば、本発明の枠内で使用されるイオン液体4は、上記で定義した式IVのホスホニウムカチオンと、無機アニオン、好ましくは上記で定義したハロゲン化物イオンとから形成される。本実施形態によれば、上記イオン液体は、例えば下記式VIIで表されるものであってよい。
【0088】
【化7】
式中、R10及びR13は上記で定義した通りであり、Halはハロゲン、好ましくはClを表す。
【0089】
電気絶縁複合材料1はまた、希釈剤や可塑剤等の添加剤を含んでもよい。
【0090】
少量のイオン液体が存在すると、材料の他の物理化学的特性に悪影響を与えることなく、電気絶縁複合材料1の導電率を、イオン液体を含まない同じ電気絶縁複合材料と比較してわずかに、典型的には最大2桁(102)上昇させることができる。従って、本発明に係る電気絶縁複合材料1の導電率は10-18~10-12S/mであり、約10-15S/mであることが好ましい。本発明の枠内において、「導電率」は体積導電率及び/又は表面導電率を指し、ISO規格62631-3に準拠して測定できる。
【0091】
電気絶縁複合材料1の導電特性は、含まれるイオン液体4の性質に応じて、別々の方法で変更される。
【0092】
第1の実施形態によれば、上記イオン液体は、ポリエポキシドマトリックス2を化学的に修飾することなく該マトリックス中に分散している。
図1に示すように、上記イオン液体の充填材はマトリックス2中で「遊離」しており、電流を誘導できる。
【0093】
第2の実施形態によれば、ポリエポキシドマトリックス2は上記イオン液体と化学的及び/又は物理的に結合している。その場合、誘導可能な電流は、上記イオン液体の存在によって変更される。
【0094】
第3の実施形態によれば、ポリエポキシドマトリックス2は上記イオン液体の一部と化学的及び/又は物理的に結合しているので、上記イオン液体の一部はマトリックス2中に分散している。その場合、誘導可能な電流は、上記マトリックスに結合したイオン液体の一部の存在と、上記マトリックス中の「遊離」イオン液体の一部の存在との組み合わせとなる。
【0095】
本発明に係る電気絶縁複合材料1は、導電体等の別の部品を所定位置に保持可能な支持体を形成できる十分な硬さを有する。より具体的には、電気絶縁複合材料1は、弾性率が5,000MPaを超え、好ましくは10,000MPaを超える。本発明の枠内において、上記弾性率はISO規格527に準拠して測定される。
【0096】
本発明に係る電気絶縁複合材料1は、炭素及びリンNMRスペクトルが特徴的であるため、比較法により同定することができる。
【0097】
本発明は、本発明の枠内で定義した電気絶縁複合材料1を製造する方法にも関する。この方法は、架橋性混合物を調製する工程と、それを型内に導入する工程と、その後、上記架橋性混合物を架橋する工程とを含む。
【0098】
架橋性混合物を調製する第1の工程は、当業者に既知である任意の技術によって、エポキシプレポリマー、1種以上のマイクロメートル及び/又はメソメートル充填材、並びに少なくとも1種のイオン液体を混合することで行う。
【0099】
上記エポキシプレポリマーは、脂環式系エポキシプレポリマーであっても、ジグリシジルエーテル系エポキシプレポリマーであってもよい。本発明の好ましい実施形態によれば、上記エポキシプレポリマーは、ジグリシジルエーテル系エポキシプレポリマーであり、特にビスフェノールAのジグリシジルエーテルである。
【0100】
本発明の枠内で使用できるマイクロメートル及びメソメートル充填材並びにイオン液体は、上記電気絶縁複合材料に関して上記で定義した通りである。
【0101】
上記架橋性混合物が、上記イオン液体とは異なる架橋剤及び/又は添加剤を含む場合、これらは、この第1の工程中、又は架橋終了前の第2の工程において上記架橋性混合物に配合される。
【0102】
特定の一実施形態によれば、まず、上記マイクロメートル及び/又はメソメートル充填材を一緒に混合してから、次いでその充填材混合物に上記イオン液体を添加した後、上記架橋性混合物を架橋する工程を行う。
【0103】
上記架橋性混合物中の上記充填材及びイオン液体の分布は、均一であることが有利である。
【0104】
本発明に係る電気絶縁複合材料1を製造する方法の第2の工程では、第1の工程で得られた架橋性混合物を所望の形状の型内に導入する。この導入は、当業者に既知である任意の技術で行うことができる。このような型内への導入は、重力鋳造で行うか、又は自動加圧によるゲル化等、当該分野で既知である任意の技術による注入で行うことが好ましい。
【0105】
本発明の枠内において、上記架橋性混合物は、ISO規格12058に準拠して80℃で測定されることが好ましい粘度が6,000mPa・s~15,000mPa・s、好ましくは10,000mPa・s~12,000mPasであることが有利である。従って、上記架橋性混合物は、真空下での重力鋳造又は自動加圧ゲル化による製造を可能とする粘度であるため、本発明に係る電気絶縁複合材料を製造しやすくなる。また、上記架橋性混合物の粘度が高すぎると、型内に導入しにくくなり、上記架橋性混合物中に気泡が生じてしまうため、多孔質の及び/又は欠陥を有する最終材料となってしまう。一方、粘度が低すぎると、自動加圧ゲル化製造法の効率が低下し、上記充填材の分散に影響が出てしまう。
【0106】
本発明に係る電気絶縁複合材料1を製造する方法の第3の工程では、前の工程で型内に導入した架橋性混合物を架橋する。この架橋工程は、当業者に既知である任意の技術で実施できる。特に、この工程は、架橋手段の存在下、必要に応じて上記架橋性混合物中に含まれる別の架橋剤を用いて行うことができる。
【0107】
第1の実施形態によれば、上記架橋性混合物中に含まれる上記イオン液体の一部は、上記架橋性混合物中に含まれる上記エポキシプレポリマーの架橋反応を開始させることができ、従って架橋剤として作用する。この場合、イオン液体4が上記エポキシプレポリマーに化学的又は物理的に結合して該プレポリマーを化学修飾することで、単独重合を行うことができる。そして、これにより、イオン液体4の一部と化学的又は物理的に結合したポリエポキシドマトリックス2が得られる。この第1の実施形態によれば、上記架橋性混合物は、上記架橋性混合物中に含まれる上記イオン液体とは異なる架橋剤を含まない。あるいは、この第1の実施形態によれば、上記架橋性混合物は架橋剤を含んでいてもよいが、その量は、上記エポキシプレポリマーの架橋反応を開始可能なイオン液体を上記架橋性混合物が含まない場合に必要な量よりも少ない。この第1の実施形態では、方法を単純化でき、且つ製造コストを削減でき、有利である。
【0108】
第2の実施形態によれば、上記イオン液体は架橋反応を開始させることができず、異なる架橋剤が必要となる。従って、この第2の実施形態によれば、上記架橋性混合物中に架橋剤が含まれる。上記架橋剤は硬化剤であってよく、場合によっては開始剤と組み合わされてもよい。より具体的には、上記架橋剤は、活性化硬化剤、硬化剤と開始剤とを含む混合物、又は硬化剤と開始剤との組み合わせであってよい。本発明の枠内において、上記脂環式系又はジグリシジルエーテル系エポキシプレポリマーを出発原料とした架橋に使用できる硬化剤及び開始剤は、当該分野で一般的に使用されるものである。硬化剤の例としては、ジアミン及び無水物が挙げられる。
【0109】
一実施形態によれば、上記架橋工程は架橋手段を用いずに行う。別の実施形態によれば、上記架橋工程は、例えば加熱やUV等の架橋手段により行う。
【0110】
最後に、上記方法は、上記架橋工程後に得られる電気絶縁複合材料1から形成された構造体を、当該分野で既知である任意の技術によって脱型する最終工程を含んでもよい。
【0111】
このようにして得た電気絶縁複合材料から形成された部品は製造しやすく、高圧直流で絶縁支持体として使用するのに必要な技術的特性を有する(すなわち、電気抵抗、機械抵抗、電食と電弧の内部伝播とに対する耐性、及び熱伝導性が良好であり、気孔率が低く、且つ高圧交流絶縁体よりも導電率が高い)。
【0112】
図2及び
図3に示す通り、本発明はまた、本発明に係る電気絶縁複合材料1から形成される電気絶縁支持体9によって所定位置に保持された高圧導電体8が設置されているエンクロージャ7を内部に画定する外殻6を含む金属閉鎖形変電所5に関する。金属製外殻6の気密性により、エンクロージャ7の内容積は、典型的にはSF
6等の絶縁ガスである絶縁流体で充填されている。金属閉鎖形変電所5は、直流且つ高圧であることが有利である。
【0113】
図2及び
図3に示す例示的な好ましい実施形態によれば、金属製外部ケーシング6は円筒形である。この例は限定的なものではない。
【0114】
金属製外殻6の内部には、それ自体が既知である任意の種類の高圧導電体8が設置される。
図2及び
図3に示す例示的な実施形態では、高圧導電体8は管状である。
【0115】
高圧導電体8は、コーン(
図2)又は「ポスト型」(
図3)で示す例において形成されたスペーサー等の電気絶縁支持体9を用いて、金属製外部ケーシング6の中央に保持される。図示しないが、他の形状も想定され得る。いかなる形状であっても、電気絶縁支持体9は本発明に係る電気絶縁複合材料1から形成される。
【0116】
本発明はまた、本発明に係る電気絶縁複合材料又は本発明に係る方法により得られる電気絶縁複合材料から形成される電気絶縁支持体に関する。このような電気絶縁支持体は、高圧直流で使用される金属閉鎖形変電所において使用できる。
【実施例】
【0117】
以下の例によって、本発明を例示することができるが、決して限定的なものではない。
【0118】
本発明に係る処方Aと、本発明とは別の処方Bを用意した。
【0119】
本発明に係る処方Aは、エポキシプレポリマー(Hunstman社よりAraldite CY5923の参照番号で市販)18質量%、無水物系架橋剤(Huntsman社よりAradur HY5925の名称で市販)14質量%、Al2O3充填材(Imerys社より市販)66質量%、及びホスホニウム系イオン液体(トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムクロライド、Cytec社よりCYPHOS(登録商標)IL101の参照番号で市販)2質量%を含む。処方Aは、上記エポキシプレポリマー、上記架橋剤、及び上記充填材を混合した後、この混合物に上記イオン液体を加えることで調製される。その後、この架橋性混合物を架橋する。
【0120】
本発明とは別の処方Bは、処方Aと同じエポキシプレポリマー、同じ架橋剤、及び同じ充填材を含むが、イオン液体は含まない。従って、処方Bは、エポキシプレポリマー(Hunstman社よりAraldite CY5923の参照番号で市販)19質量%、無水物系架橋剤(Huntsman社よりAradur HY5925の名称で市販)15質量%、及びAl2O3充填材(Imerys社より市販)66質量%を含む。処方Bは、イオン液体の添加を除き、処方Aと同様に調製される。
【0121】
処方A及びBの体積導電率をISO規格62631に準拠して測定した。結果を表1及び
図4に示す。
【0122】
処方Aは、温度や印加した電界にかかわらず、体積導電率が処方Bに比べて約1桁大きい。従って、本発明の枠内で記載した量のイオン液体を電気絶縁材料に添加すると、材料の体積導電率をわずかに上昇させることができる。このようにして得られた材料は、その電気絶縁特性を保持しつつ、電荷の排除を良好にできる。
【0123】
【0124】
本発明は、その枠を逸脱することなく様々な変更が可能であるため、記載及び表示された例に限定されるものではない。
【国際調査報告】