(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-24
(54)【発明の名称】リチウム正極活物質
(51)【国際特許分類】
H01M 4/505 20100101AFI20220216BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20220216BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20220216BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/525
C01G53/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021535721
(86)(22)【出願日】2019-12-18
(85)【翻訳文提出日】2021-08-11
(86)【国際出願番号】 EP2019086034
(87)【国際公開番号】W WO2020127543
(87)【国際公開日】2020-06-25
(32)【優先日】2018-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590000282
【氏名又は名称】ハルドール・トプサー・アクチエゼルスカベット
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【氏名又は名称】虎山 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】ホイベアウ・ヨーナタン
(72)【発明者】
【氏名】ホイ・ヤコプ・ヴァイラント
(72)【発明者】
【氏名】エルケーア・クレスチャン・フィンク
(72)【発明者】
【氏名】ロネゴー・ラース・フェール
(72)【発明者】
【氏名】デール・セーアン
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD04
4G048AD06
4G048AE05
5H050AA08
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5H050BA16
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5H050HA13
5H050HA14
5H050HA17
5H050HA18
5H050HA19
5H050HA20
(57)【要約】
本発明は、高電圧二次電池用のリチウム正極活物質に関し
前記リチウム正極活物質は、少なくとも94質量%のスピネルを含み、
前記スピネルはLixNiyMn2-yO4の正味の化学組成を有し、ここで、
0.95≦x≦1.05;
0.43≦y≦0.47;であり、
ここで、前記リチウム正極活物質が、粒子で構成され、前記粒子が、粒子が1.6未満の平均アスペクト比を有する、前記粒子が1.35未満の粗さを有する、前記粒子が0.55を超える円形度を有するというパラメータ範囲の一つ以上で特徴付けられる。本発明はまた、本発明の高電圧二次電池のためのリチウム正極活物質、ならびに本発明によるリチウム正極活物質を含む二次電池の製造方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電圧二次電池用のリチウム正極活物質であって、
前記リチウム正極活物質は、少なくとも94質量%のスピネルを含み、
前記スピネルはLi
xNi
yMn
2-yO
4の正味の化学組成を有し、ここで、
0.95≦x≦1.05;
0.43≦y≦0.47;であり、
ここで、前記リチウム正極活物質が、粒子で構成され、前記粒子が、粒子が1.6未満の平均アスペクト比を有する、前記粒子が1.35未満の粗さを有する、前記粒子が0.55を超える円形度を有するというパラメータ範囲の一つ以上で特徴付けられる、前記リチウム正極活物質。
【請求項2】
少なくとも90質量%の前記スピネルが無秩序空間群Fd-3mで結晶化されている、請求項1に記載のリチウム正極活物質。
【請求項3】
半電池中の前記リチウム正極活物質が、約29mA/gの電流での放電中に4.3V超で、容量の25%および75%での電位間で少なくとも50mVの差を有する、請求項1または2に記載のリチウム正極活物質。
【請求項4】
前記リチウム正極活物質が、格子定数aが8.171~8.183Åの間になるようにか焼される、請求項1~3のいずれか一つに記載のリチウム正極活物質。
【請求項5】
前記格子定数aが(-0.1932y+8.2613)Å~8.183Åの間にある、請求項4に記載のリチウム正極活物質。
【請求項6】
前記格子定数aが(-0.1932y+8.2613)Å~(-0.1932y+8.2667)Åの間にある、請求項4に記載のリチウム正極活物質。
【請求項7】
前記格子定数aが(-0.1932y+8.2613)Å~(-0.1932y+8.2641)Åの間にある、請求項4に記載のリチウム正極活物質。
【請求項8】
前記リチウム正極活物質が、2.2g/cm
3以上のタップ密度を有する、請求項1~7のいずれか一つに記載のリチウム正極活物質。
【請求項9】
前記リチウム正極活物質の粒子のD50が、3μm<D50<12μmを満たす、請求項1~8のいずれか一つに記載のリチウム正極活物質。
【請求項10】
前記リチウム正極活物質のBET面積が1.5m
2/g未満である、請求項1~9のいずれか一つに記載のリチウム正極活物質。
【請求項11】
前記粒子が0.8を超える面積包絡度を有することを特徴とする請求項1~10のいずれか一つに記載のリチウム正極活物質。
【請求項12】
前記粒子が3%未満の多孔度を有することを特徴とする請求項1~11のいずれか一つに記載のリチウム正極活物質。
【請求項13】
0.99≦x≦1.01である、請求項1~12のいずれか一つに記載のリチウム正極活物質。
【請求項14】
半電池中の前記物質の容量の減少が、55℃で3.5~5.0Vの間の100サイクルにおいて4%以下である、請求項1~13のいずれか一つに記載のリチウム正極活物質。
【請求項15】
前記リチウム正極活物質が、少なくとも138mAh/gの容量を有する、請求項1~14のいずれか一つに記載のリチウム正極活物質。
【請求項16】
前記リチウム正極活物質が、Li、Ni、およびMnを比Li:Ni:Mn:X:Y:2-Yで含む前駆体から合成され、ここで、0.95≦X≦1.05;および0.42≦Y<0.5である、請求項1~15のいずれか一つに記載のリチウム正極活物質。
【請求項17】
yが、電気化学的測定、X線回折、およびエネルギー分散X線分光法(EDS)と組み合わせた走査透過電子顕微鏡(STEM)からなる群から選択される方法によって測定される、請求項1~16のいずれか一つに記載のリチウム正極活物質。
【請求項18】
0.43≦y<0.45である、請求項1~17のいずれか一つに記載のリチウム正極活物質。
【請求項19】
a.Li
xNi
yMn
2-yO
4(ここで、0.95≦x≦1.05;および0.43≦y≦0.47である)の化学組成を有する少なくとも94質量%のスピネルを含むリチウム正極活物質を製造するための前駆体を提供する工程;
b.500℃~1200℃の温度に加熱して工程aの前記前駆体を焼結し、焼結された生成物を得る工程、
c.工程bの焼結された生成物を室温に冷却する工程
を含む、請求項1~15のいずれか一つに記載のリチウム正極活物質の製造方法。
【請求項20】
工程bの一部が還元雰囲気中で実施される、請求項19に記載の製造方法。
【請求項21】
工程bの温度が850℃~1100℃の間である、請求項19または20に記載の製造方法。
【請求項22】
工程cの冷却中に、前記リチウム正極活物質の少なくとも94%相純度を得るのに十分な量の時間、750~650℃の間隔で温度を維持する、請求項19~21のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項23】
前記前駆体の少なくとも1つが析出化合物である、請求項19~22のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項24】
前記析出化合物が、Ni-Mn共析出工程で形成されるNiおよびMnの共析出化合物である、請求項19~23のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項25】
共析出したNi-Mnの形態の前記前駆体が、析出工程で製造されたものであり、ここで、添加されたNiに対して、Mnおよび析出アニオンのそれぞれが、析出物の化学量論的量に関して、1:10~10:1、好ましくは1:5~5:1、より好ましくは1:3~3:1、より好ましくは1:2~2:1、より好ましくは1:1.5~1.5:1、より好ましくは1:1.2~1.2:1の比率で加えられる量で、Niを含む出発物質の第1の溶液、Mnを含む出発物質の第2の溶液および析出アニオンの第3の溶液を反応器内の液体反応媒体に同時に添加する、請求項24に記載の製造方法。
【請求項26】
第1、第2および第3の溶液が、反応混合物のpHをアルカリ性pH、例えば、8.0~10.0、好ましくは8.5~10.0の間のpHに維持するように調節された量で反応媒体に加えられる、請求項25に記載の製造方法。
【請求項27】
前記第1、第2および第3の溶液が、長期間、例えば、2.0~11時間にわたって反応混合物に加えられる、請求項25~26のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項28】
前記第1、第2および第3の溶液を、2W/L~25W/Lの入力を提供する激しい撹拌下で反応混合物に加える、請求項25~27のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項29】
請求項1~18のいずれか一つに記載のリチウム正極活物質を含む二次電池。
【請求項30】
貯蔵および使用中の物質の劣化を減少させるための請求項1~18のいずれか一つに記載のリチウム正極活物質の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、高電圧リチウム二次電池に用いるリチウム正極活物質に関する。特に、本発明は、Li/Li+基準に対して高容量、高電圧および低分解性を有するこのような物質に関する。さらに、本発明は、そのような物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
リチウム正極活物質(正極活性材料)は、下記式によって特徴付けられることができる:
LixNiyMn2-yO4-δ、式中0.9≦x≦1.1、0.4≦y≦0.5、0≦δ≦0.1である。このような材料は、例えば、携帯機器(US8,404,381B2);電気自動車、エネルギー蓄積システム、補助動力ユニットおよび無停電電源装置に使用され得る。リチウム正極活物質は、LiCoO2、およびLiMn2O4のような電流リチウム二次電池カソード物質の将来の後継物質として認識されている。
【0003】
リチウム正極活物質は、共析出法により得られた1つ以上の前駆体から製造できる。前駆体および生成物は共析出過程により球形である。Electrochimica Acta(2014)、pp290-296には、最初の熱処理工程(500℃)の後、500℃、次いで800℃で順次に焼結(熱処理)することで製造した材料が開示されている。得られた製品は、最初の熱処理工程(500℃)の後、結晶性が高く、スピネル構造を有している。製品の均一なモルフォロジー、タップ密度2.03gcm-3、均一な二次粒子径5.6μmが観察される。Electrochimica Acta(2004)、pp939-948によると、球状の粒子が均一に分布していると,無秩序な粒子よりも流動性や充填のしやすさの点で高いタップ密度を示すとされている。このLiNi0.5Mn1.5O4では、階層的な形態が得られたことと、二次粒子のサイズが大きかったことがタップ密度を高める要因になったと推測されている。
【0004】
US8,404,381B2およびUS7,754,384B2に開示されているように、リチウム正極活物質は出発物質を機械的に混合して均質な混合物を形成することによって得られた前駆体からも製造することができる。前駆体は600℃で加熱され、700~950℃でアニールされ、酸素を含む媒体中で冷却される。600℃の熱処理工程は、リチウムを混合ニッケルおよびマンガン酸化物前駆体に十分に組み込むために必要であることが開示されている。また、所望のスピネル形態を形成しながら酸素を消失させるために、一般的に800℃以上の温度でアニール処理を行うことが開示されている。さらに、酸素を含む媒体で冷却することで、酸素を部分的に戻すことができることも開示されている。US7,754,384B2は、材料のタップ密度に関しては記載されていない。前駆体を製造するために、1~5モル%の過剰量のリチウムを使用することが開示されている。
【0005】
J. Electrochem. Soc. (1997)144,144、pp205-213)にはまた、均質な混合物を得るために出発物質を機械的に混合して製造した前駆体からのスピネルLiNi0.5Mn1.5O4の製造を開示している。前駆体は空気中において750℃で3回、そして800℃で1回加熱される。650℃以上で加熱すると、LiNi0.5Mn1.5O4は酸素を失って不均化してしまうが、しかしながら、酸素を含む雰囲気中でのでゆっくりと冷却すると、LiNi0.5Mn1.5O4化学量論が回復することが開示されている。粒子径とタップ密度は開示されていない。また、出発材料を機械的に混合して均質な混合物を得ることによるスピネル相材料の製造は困難であり、ゾル-ゲル法で製造された前駆体が好ましいことも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】US8,404,381B2
【特許文献2】US7,754,384B2
【特許文献3】US7,754,384B2
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Electrochimica Acta(2004)、pp939-948
【非特許文献2】J. Electrochem. Soc. (1997)144,144、pp205-213)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
相純度が高く、容量の大きいリチウム正極活物質を提供することが望ましい。また、高安定性のリチウム正極活物質を提供することが望ましく、ここで、リチウム正極活物質の容量低下は、55℃で3.5~5.0Vの間で100サイクルにわたって4%以下であり、室温で3.5~5.0Vの間で100サイクルにわたって2%以下である。さらに、タップ密度がバッテリーのエネルギー密度を増加させる可能性があるため、高いタップ密度を有するリチウム正極活物質を提供することが望ましい。最後に、エネルギー密度とリチウム正極活物質の分解のバランスをとるために、最適なNi含有量を有するリチウム正極活物質を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
要約
本発明は、高電圧二次電池用のリチウム正極活物質に関し、前記リチウム正極活物質は、少なくとも94質量%のスピネルを含み、
前記スピネルはLixNiyMn2-yO4の正味の化学組成を有し、ここで、
0.95≦x≦1.05;
0.43≦y≦0.47;であり、
ここで、前記リチウム正極活物質が、粒子で構成され、前記粒子が、粒子が1.6未満の平均アスペクト比を有する、前記粒子が1.35未満の粗さを有する、前記粒子が0.55を超える円形度を有するというパラメータ範囲の一つ以上で特徴付けられる。
【0010】
本発明者らは、リチウム正極活物質中のNiの含有量が比較的狭い範囲、すなわち、0.43≦y≦0.47にある場合、およびリチウム正極活物質がスピネルの少なくとも94質量%、すなわち最大6質量%の不純物またはスピネル以外の相、例えば、食塩型を含む場合、および、前記リチウム正極活物質が粒子で構成され実質的に球形である場合、特に高い容量および低い退色が得られることを実現した。
【0011】
特に、本発明は、リチウム正極活物質を構成する粒子が実質的に球形(球状)である場合、リチウム正極活物質の分解度(劣化率)が非常に低く、また、エネルギー密度が高く、後続の処理工程における粉末の取り扱いが容易であることが得られるという実験的知見に基づいている。本発明はさらに、粒子がどれだけ球形であるかを実験的に測定するための多数の具体的なパラメータを提供し、前記パラメータのそれぞれと分解度のレベルとの間に明確な相関関係が存在することを示した。
【0012】
yの値の範囲は、高エネルギー密度と同様に低分解の均衡を保ちながら、良好な性能を有するリチウム正極活物質を提供するために選択される。yが0.47を超えると、リチウム正極活物質は分解度(劣化)が増大し、一方、yが0.43より小さいと、リチウム正極活物質のMn含有量が増大し、その結果、リチウム陽性電極物質を用いたバッテリーのエネルギー密度が低下する。このように、0.43≦y≦0.47の範囲であれば、高エネルギー密度と低分解の均衡において最適なNi含有量を提供することが分かった。好ましくは、yは約0.45である。
【0013】
リチウム正極活物質の粒子は、平均アスペクト比が1.6未満、および/または粗さが1.35未満であることを特徴とする場合、粒子は実質的に球形である。
【0014】
粒子の形状は、粒子の長さと粒子の幅の比として定義されるアスペクト比を用いて特徴付けることができる。ここで、長さは、周辺上の2点間の最大距離であり、幅は、長さに垂直な線によって結ばれた2つの周辺点間の最大距離である。
【0015】
1.6未満のアスペクト比および/または1.35未満の粗さを有するリチウム正極活物質は、その低い表面積のために安定しているという利点がある。好ましくは、平均アスペクト比は1.5未満であり、より好ましくは1.4未満でもある。更に、このようなアスペクト比および粗さは、高いタップ密度を有する材料を提供する。アスペクト比および粗さの値は、エポキシに埋め込まれ、例Bに記載されているように粒子断面を明らかにするために、研磨された粒子の走査型電子顕微鏡写真から測定しすることができる。
【0016】
粒子形状は、さらに、粒子の円形度または真球度および形状を用いて特徴付けることができる。J。Almeida-Prietoらは、J. Pharmaceutical Sci., 93 (2004) 621において、球形性の評価のために文献中に提案されている多くの形態因子を挙げている:Heywood因子、アスペクト比、粗さ、ペリップ(pellips)、長方形(rectang)、モデルクス(modelx)、伸長度、円形度、真円度、および本論文中で提案されているVpとVr因子。粒子の円形度は、4・π・(面積)/(外周)2と定義され、ここで、面積が粒子の投影面積である。したがって、理想的な球形の粒子は1の円形度を有し、他の形態を有する粒子は0から1の間の円形度の値を有する。
【0017】
一実施形態では、リチウム正極活物質は粒子で構成され、ここで、粒子は0.55を超える円形度であることを特徴とする。この場合も、実質的に球形の粒子に対応する。
【0018】
ここで留意すべきは、リチウム正極活物質のスピネル中のNiの含有量は、一部のNiが食塩型のような不純物の形であってもよいので、全リチウム正極活物質中のNiの含有量とは異なる可能性があることである。このような差異は、例えばリチウム正極活物質の製造で行われるか焼(焼成)、ひいてはリチウム正極活物質中の不純物または非スピネル相の量に依存する。スピネルに対して正しいy値を得るためには、この目的に適した方法を用いることが重要であり、これは、次の3つの方法に当てはまる:走査型電子顕微鏡(SEM)、X線回折測定および走査透過電子顕微鏡(STEM)とのエネルギー分散X線分光法(EDS)の組合せである。全リチウム正極活物質およびリチウム正極活物質中スピネル中のNiの含有量をそれぞれ測定する方法は、例Cにおいてより詳細に記載されており、また、容量の決定が例Aに記載されているように記載されていることに留意すべきである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
「スピネル」とは、酸素がわずかに歪んだ立方最密充填格子に配列され、格子内で格子間隙の八面体サイトと四面体サイトを占めるカチオンが存在する結晶格子をいう。酸素と八面体配位カチオンは四面体配位カチオンを占有する3次元チャネル系を有する骨格構造を形成する。スピネル型構造においては、四面体配位カチオンと八面体配位カチオンの比は約1:2で、カチオンと酸素の比は約3:4である。八面体サイトのカチオンは、単一の元素か、異なる元素の混合物からなることがある。異なるタイプの八面体配位カチオンの混合物がそれ自身で三次元周期格子を形成する場合、そのスピネルは秩序化スピネルと呼ばれる。カチオンがよりランダムに分布している場合、スピネルは無秩序スピネルと呼ばれる。P4332空間群とFd-3m空間群にそれぞれ記載されている秩序化スピネルと無秩序スピネルの例は、Adv. Mater. (2012) 24, pp 2109-2116に開示されている。
【0020】
「食塩型」とは、酸素がわずかに歪んだ立方最密格子に配列され、カチオンが格子中の八面体サイトを完全に占有する結晶格子をいう。カチオンは単一の元素または異なる元素の混合物から成ることができる。異なるタイプのカチオンの混合物は、統計的に無秩序化され、立方対称性(Fm-3m)を維持し、あるいは秩序化され、より低い対称性をもたらすことができる。カチオン/酸素比は岩塩型構造で1:1である。
【0021】
リチウム正極活物質の相組成は、Phillips社製のPW1800装置システムを用いて、CuKα放射(λ=1.541Å)を用いてBragg-Brentanoモードで働くθ-2θ配置により取得したX線回折パターンに基づいて決定することができる。観察されたデータのシフトに寄与する実験パラメータについては、観察されたデータを修正する必要がある。これは、Bruker社のTOPASソフトウェアで実装されているように、完全なプロファイル基本パラメータアプローチを用いて達成される。Rietveld解析から求めた相組成は、典型的な不確実性が1~2パーセントポイントの質量%で与えられ、全結晶相の相対組成を表している。したがって、どのような非晶質相も相組成には含まれない。
【0022】
本明細書に記載されている放電容量および放電電流は、リチウム正極活物質の質量に基づいた特異的な値として記載されている。
【0023】
なお、リチウム正極活物質は、Li、Ni、MnおよびO以外の少量の元素を含んでもよい。このような元素は、例えば、B、N、F、Mg、Al、Si、P、S、Ca、Ti、Cr、Fe、Co、Cu、Zn、Zr、Mo、Sn、Wのうちの1つまたは複数であってもよい。このような少量の元素は、リチウム正極活物質を製造するための出発原料中の不純物に由来することもあれば、リチウム正極活物質のいくつかの特性を改善する目的でドーパントとして添加されてもよい。
【0024】
xの値は元のリチウム正極活物質、すなわち合成したリチウム正極活物質のLi含量に関係する。リチウム正極活物質が電池に組み込まれるとき、x値は、典型的には、本来のリチウム正極活物質内のx値と比較して変化する。x値の変化も格子パラメータaの値を変化させることになる。本明細書に記載されている利点は、元のリチウム正極活物質、すなわち、元のリチウム正極活物質中のx値に基づいている。
【0025】
リチウム正極活物質が電池から抽出される場合、例Aに記載されているようなリチウム金属アノードを有する半電池(ハーフセル)において抽出されたリチウム正極活物質を電流が29mA/g未満で3.5V対Li/Li+の電位に放電し、3.5V対Li/Li+の電位を5時間維持することによって、その元の物質のx値を、すなわち、リチウム正極活物質がバッテリーの一部として組み込まれる前のx値を、測定することができる。
【0026】
一実施形態においては、リチウム正極活物質のスピネルの少なくとも90質量%が無秩序空間群Fd-3m中で結晶化される。無秩序材料は、類似の化学量論を有するか秩序化された材料として製造された材料と比較して、より低い分解性を有することが観察されている。秩序化は、通常、Ionics(2006)12、pp117-126に記載されているラマン分光法、X線回折法およびフーリエ変換赤外分光法のような技術によって特徴付けられる。例Dでさらに記載されているように、定量的秩序化パラメータは、約4.7Vでの2つのNi-平板間の分離の測定として、ラマン分光法に基づいて、または電気化学に基づいて、抽出することができる。これは、
図6bに例示されている。
図3に示すように、2つのパラメータは非常によく相関している。
図4は、リチウム正極活物質のプラトー分離dVと分解度の比較を示す。秩序化が分解度(劣化)に影響する唯一のパラメータではないが、あるプラトー分離、ひいては一定の秩序度で最小の分解度が存在することが分かる。スピネルがあまりに秩序化されている場合、低い分解度を達成することは不可能である。プラトー分離が40mV未満の場合、分解度の有意な増加が観察される。好ましくは、プラトー分離は少なくとも50mVで、好ましくは60mV前後でなければならない。
【0027】
一実施形態においては、半電池内のリチウム正極活物質は、約29mA/gの放電電流で放電中に4.3Vを超える容量の25%および75%の電位間で少なくとも50mVの差を有する。放電時の容量の25%と75%での電位の差が4.3Vを超えると、典型的には最大75~80mVとなる。放電時の容量4.3V以上の25%と75%の電位の差も「プラトー分離」やdVと表され、与えられた充電状態でのリチウムの挿入と除去に関係する自由エネルギーの尺度であり、これはスピネル相が無秩序か秩序化されているかによって影響される。あらゆる理論に束縛されることなく、少なくとも50mVのプラトー分離が有利であろう。なぜなら、これはリチウム正極活物質が秩序相か無秩序相か、リチウム正極活物質による半電池の退色速度に関係しているからである。プラトー分離は、好ましくは約60mVである。
【0028】
一実施形態では、リチウム正極活物質は、格子パラメータaが8.171Å~8.183Åとの間になるようにか焼される。格子定数aのこれらの値は、分解度の少ないリチウム正極活物質に関係している。
【0029】
特に、リチウム正極活物質は格子定数aを有し、格子定数aは(-0.1932y+8.2613)Å~8.183Åの間にある。格子定数aは(-0.1932y+8.2613)Å~(-0.1932y+8.2667)Åの間にあることが好ましい。より好ましくは、格子定数aは、(-0.1932y+8.2613)Å~(-0.1932y+8.2641)Åの値の間にある。格子定数aのこれらの値は、低分解化、高エネルギー密度のリチウム正極活物質に関係している。実施形態において、パラメータaは、値(-0.1932y+8.2613)Å~8.183Åの間であり、0.43≦y<0.45である。好ましくは、パラメータaは値(-0.1932y+8.2613)Å~(-0.1932y+8.2667)Åの間であり、0.43≦y<0.45の間にある。これらの格子パラメータaとyの値の組み合わせは、特に分解度の少ないリチウム正極活物質に対応する。
【0030】
一実施形態においては、リチウム正極活物質は、タップ密度が2.2g/cm3以上である。好ましくは、リチウム正極活物質のタップ密度は、2.25g/cm3以上;2.3g/cm以上、例えば2.5g/cm3である。
【0031】
「タップ密度」とは、通常所定の高さから測定回数だけ「タップ」することにより圧密、圧縮後の粉末(または粒状固体)のバルク密度を記述するための用語である。「タップ」の方法は「持ち上げ落とす」と表現するのが最良である。この文脈におけるタッピングは、タンピング、横向きの打撃や振動と混同されない。測定方法はタップ密度値に影響を及ぼす可能性があるため、異なる材料のタップ密度を比較する際には同じ方法を用いるべきである。本発明のタップ密度は、内径10mmのメスシリンダーを約5gの粉末を添加する前後に秤量し、添加物質の質を記録した後に、シリンダーをテーブル上でしばらく叩き(タッピングし)、次いで、タッピングされた物質の容積を読み取ることによって測定される。通常、タッピングはさらにタッピングしても容積がそれ以上変化しないようになるまで続けるべきである。一例として、タッピングは、1分間実施され、約120回または180回であってもよい。
【0032】
スラリーまたは粉末中の粒子の大きさを定量する1つの方法は、多数の粒子の大きさを測定し、すべての測定値の加重平均として特徴的な粒子の大きさを計算することである。粒子のサイズを特徴付ける別の方法は、粒子サイズ分布全体、すなわち粒子サイズの関数としてあるサイズを有する粒子の体積率をプロットすることである。このような分布では、D10は、母集団の体積分率の10%がD10の値を下回る粒子サイズと定義され、D50は、母集団の体積分率の50%がD50の値を下回る粒子サイズ(すなわち、中央値)として定義され、D90は、母集団の体積分率の90%がD90の値を下回る粒子サイズと定義される。粒子径分布を測定するために一般的に使用される方法には、レーザー回折測定および走査電子顕微鏡測定があり、画像解析と組み合わせる。
【0033】
リチウム正極活物質は、粒子で構成される、または粒子から成る粉末である。このような粒子は、例えば一次粒子の密に凝集されることによって形成される。この場合には「二次粒子」と規定することができる。あるいは、粒子は単結晶であることができる。このような単結晶粒子は、かなり小さく、典型的には5μm以下のD50を有する。したがって、「粒子」という用語は、単結晶のような一次粒子と二次粒子の両方をカバーすることを意味する。
【0034】
一実施形態においては、リチウム正極活物質を構成する粒子のD50は:3μm<D50<12μmを満たす。好ましくは、5μm<D50<10μm、例えば約7μmである。D50が3~12μmの場合には、粉体の取り扱いが容易になり、低い表面積を可能にするとともに、放電および充電の間にリチウムおよび電子を構造内外に輸送するのに十分な表面積を維持できるという利点である。1つの実施形態において、粒子のサイズの分布は、D90とD10の間の比が4以下であることを特徴とする。これは狭いサイズ分布に相当する。このような狭いサイズ分布は、粒子のD50が3~12μmの間であることと組み合わせて、リチウム陽性電極材料が微粉末の数、すなわち、粒子径が1μm未満の粒子数が少なく、したがって表面積が小さい少ないことを示している。粒子径が1μm未満の粒子数が少なく、さらに、粒子径分布が狭いことにより、リチウム陽性電極材料の全ての粒子の電気化学的応答が本質的に同じになることが保証され、その結果、充電および放電の間に、他の粒子よりも、粒子の一部が有意に多くのストレスを受けることが回避される。
【0035】
粒度分布値D10、D50およびD90は、Jillavenkatesa A, Dapkunas S J, Lin-Sien Lum: Particle Size Characterization, NIST (National Institute of Standards and Technology) Special Publication 960-1, 2001に記載されているように定義され、測定される。粒度分布を決定するために一般的に使用される方法には、レーザー回折測定および走査電子顕微鏡測定があり、画像解析と組み合わせる。
【0036】
一実施形態においては、リチウム正極活物質は、1.5m2/g未満のBET面積を有する。BET面積は、1.0m2/g未満または0.5m2/g未満、0.3m/gまで、または0.2m/gまで下げてもよい。低BET表面積は低多孔性の高密度の物質に相当するため、BET表面積が低いことが有利である。分解反応は材料の表面上で生じるので、このようなリチウム正極活物質は、典型的には、安定な材料、すなわち、分解度が遅い材料である。
【0037】
一実施形態では、リチウム正極活物質は粒子で構成され、ここで、当該粒子は0.8を超える面積包絡度(固形度、solidity)を有することを特徴とする。一実施形態においては、リチウム正極活物質は粒子で構成され、ここで、粒子は3%未満の多孔度を特徴とする。これらのパラメータの範囲は、分解性の低いリチウム正極活物質に関係している。円形度、面積包絡度および多孔度の値は、エポキシに埋め込まれ、例Bに記載されているように粒子断面を明らかにするために、研磨された粒子の走査型電子顕微鏡写真から測定することができる。
【0038】
一実施形態においては、LixNiyMn2-yO4式中において、0.99≦x≦1.01である。スピネルの結晶中に4つの酸素原子に対して2つの遷移金属イオン対して約1個のリチウムイオンが存在する場合、リチウム正極活性物質の結晶構造がよく利用されることになり、これが好ましい。この場合も、xの値は、元のリチウム正極活物質、すなわち合成されたリチウム正極活物質のLi含量と関係がある。このリチウム正極活物質が電池内にあるとき、x値は、典型的には、元のリチウム正極活物質内のx値と比較して変化する。x値の変化により格子パラメータaの値も変化させることになる。本明細書に記載されている利点は、元のリチウム正極活物質、すなわち、元のリチウム正極活物質中のx値に基づく。
【0039】
リチウム正極活物質が電池から抽出される場合、例Aに記載されたような、リチウム金属アノードを有する半電池(ハーフセル)において抽出されたリチウム正極活物質を電流が29mA/g未満で3.5V対Li/Li+の電位に放電し、3.5V対Li/Li+の電位を5時間維持することによって、その元の物質のx値、すなわち、リチウム正極活物質が電池の一部として組み込まれる前のx値を測定することができる。
【0040】
一実施形態においては、半電池中のリチウム正極活物質の比容量は、55℃において、3.5~5.0Vの間で100サイクルにわたって8%以下まで減少する。好ましくは、リチウム正極活物質の比容量は、3.5~5.0Vの間で100回の充放電サイクルにわたって6%以下まで減少し;さらに好ましくは、74mA/gおよび147mA/gの充放電電流で55℃においてサイクルすると、3.5~5.0Vの間で100回の充放電サイクルにわたって4%以下まで減少する。セル(電池)の種類および試験パラメータを例Aに示す。
【0041】
一実施形態においては、リチウム正極活物質は、Li、Ni、およびMnを比Li:Ni:Mn:X:Y:2-Yで含有する前駆体から合成され、ここで、0.95≦X≦1.05;および0.42≦Y<0.5である。本明細書中で使用される場合、リチウム正極活物質のスピネル中のLi、NiおよびMnの含有量、すなわち、正味の化学成分では、LixNiyMn2-yO4,はそれぞれ小文字のxとyで示されている。対照的に、リチウム正極活性物質を合成するために使用する前駆体中のLiとNiの含量は、XとYの文字で、大文字で示されている。xおよびyが、XおよびYと大きく異なる場合、低い相純度を意味する。したがって高い容量を得るためには、xがXに近いか等しいこと、およびyがYに近いか等しいことが望まれる。さらに、リチウム正極活性物質内の不純物相には、すなわち、スピネルではない相には、かなりの量のリチウムまたは異なる量のMnとNiを含まれることがある。これにより、スピネル内でxを減少させ、yを有意に変化させることができる。このような不純物相は、スピネルの能力をさらに低下させ、安定性を低下させる。不純物の存在は、リチウム正極活物質が電池セルに組み込まれた場合、さらに電解質の分解度を増加させる可能性があり、また、リチウム正極活物質からのMnおよびNiの溶解も増加させる可能性がある。どちらの作用も電池セルの容量フェードを増加させることが知られている。
【0042】
XとYの文字で示されるリチウム正極活物質を合成するために使用される前駆体中のLi、NiおよびMnの含有量は、リチウム正極活物質中、すなわち、試料全体を代表する量でスピネルと不純物の両方を含む試料中のLi、NiおよびMnの量を測定することにより決定することができる。このような測定は、例Cに記載されているように誘導結合プラズマまたはEDSであってよい。
【0043】
一実施形態においては、リチウム正極活物質は、少なくとも138mAh/gの容量を有する。これは、理論上の最大値である147mAh/gに近い容量を有するリチウム正極活物質に相当する。リチウム正極活物質が少なくとも138mAh/gの容量を有する場合、それは相純粋な材料である。
【0044】
本発明の一実施形態においては、yは、電気化学的測定、X線回折およびエネルギー分散X線分光法(EDS)と組み合わせた走査透過電子顕微鏡(STEM)からなる群から選択される方法によって測定される。
【0045】
本発明のリチウム正極活物質の一実施形態においては、0.43≦y<0.45である。
【0046】
本発明の別の実施形態は、リチウム正極活物質の製造方法に関する。当該方法は以下の工程を含む:
a.LixNiyMn2-yO4(ここで、0.95≦x≦1.05;および0.43≦y≦0.47である)の化学組成を有する少なくとも94質量%のスピネルを含むリチウム正極活物質を製造するための前駆体を提供する工程;
b.500℃~1200℃の温度に加熱して工程aの前記前駆体を焼結し、焼結された生成物を得る工程、
c.工程bの焼結された生成物を室温に冷却する工程。
【0047】
本明細書で使用する場合、「前駆体」は、出発物質を機械的に混合または共析出させて均質な+混合物を得ることによって製造された組成物(Journal of Power Sources(2013)238、245-250);出発物質を機械的に混合して均質混合物を得ることによって製造された組成物(Journal of Power Sources(2013)238、245-250);または出発物質の共析出により製造された組成物とリチウム源を混合することによって製造された組成物(Electrochimica Acta(2014)115、290-296)を意味する。好ましくは、工程aは、前駆体の共析出によって前駆体を提供することを含む。
【0048】
出発物質は、金属酸化物、炭酸金属、シュウ酸金属、酢酸金属、硝酸金属、硫酸金属、金属水酸化物および純金属からなる群から選択される1つ以上の化合物から選択される;ここで、金属はニッケル(Ni)、マンガン(Mn)およびリチウム(Li)およびそれらの混合物からなる群から選択される。好ましくは、出発物質は、酸化マンガン、酸化ニッケル、炭酸マンガン、炭酸ニッケル、硫酸マンガン、硫酸ニッケル、硝酸マンガン、硝酸ニッケル、水酸化リチウム、炭酸リチウムおよびそれらの混合物からなる群より選択される1つ以上の化合物から選択される。出発材料の金属の金属酸化状態は変化することができ、例えば、MnO、Mn3O4、Mn2O3、MnO2、Mn(OH)、MnOOH、Ni(OH)2、NiOOHなどである。
【0049】
良好なリチウム正極活物質を得るためには、当然に良い出発物質から出発する必要がある。好ましくは、前駆体は、例えばWO2018015207またはWO2018015210に記載されているように共析出したNi-Mn前駆体、ならびにLi前駆体を含む。あるいは、出発物質を機械的に混合することによって、Ni-Mn前駆体を製造することもできる。
【0050】
本発明の方法の一実施形態において、析出した化合物は、Ni-Mn共析出工程で形成されたNiおよびMnの共析出化合物である。リチウム正極活物質を得るためには、粒子の平均アスペクト比が1.6未満であり、粗さが1.35未満であり、かつ円形度が0.55を上回るように、共析出Ni-Mnの形態の前駆体を用いることが望ましいことが見い出されている。
【0051】
好ましくは、共析出Ni-Mn前駆体となり得るMn含有前駆体は、リチウム正極活性材料と類似した形態を有する球形粒子で構成される。したがって、リチウム正極活物質の製造に使用されるMn-前駆体および/またはNi-Mn前駆体は、1.6未満のアスペクト比、1.35未満の粗さ、および/または0.55より大きい円形度を有する粒子である。好ましくは、このような粒子はまた、0.8を超える面積包絡度を有する。
【0052】
NiとMnは、カーボネイト(炭酸塩)のような適切な析出アニオンで析出させることができる。好ましくは、共析出したNi-Mnの形態の前記前駆体は、析出工程製造されたものであり、ここで、Ni含有の出発物質の第1溶液、Mn含有の出発物質の第2溶液および析出アニオンの第3溶液を、反応器内の液体反応媒体に同時に添加するが、添加したNiに関連して、析出の化学量論量に対して、Mnおよび析出アニオンを1:10~10:1、好ましくは1:5~5:1、より好ましくは1:3~3:1、より好ましくは1:2~2:1、より好ましくは1:1.5~1.5:1、1:1.2~1.2:1の比で添加する。
【0053】
好ましくは、第1、第2および第3の溶液を、反応混合物のpHを例えば8.0~10.0の間、好ましくは8.5~10.0の間のアルカリ性pHに維持するように校正された量で反応媒体に加える。好ましくは、第1、第2および第3の溶液は、例えば2.0~11時間の間、好ましくは4.0~10.0時間の間、より好ましくは5.0~9.0時間の間に、より好ましくは反応混合物に加える。好ましくは、第1、第2および第3の溶液を、2W/L~25W/L、好ましくは4W/L~20W/L、より好ましくは6W/L~15W/L、より好ましくは8W/L~12W/Lの電力入力を提供する激しい撹拌下で反応混合物に加える。
【0054】
粒子が1.6未満の平均アスペクト比、1.35未満の粗さ、および0.55より大きいの円形度を有するリチウム正極活物質を得るためには、上記に示した析出工程で製造した共析出Ni-Mnの形態の前駆体を用いることが望ましいことが見出されており、すなわち、以下に示した一つ以上を用いて製造されたものである。すなわち、示されたpHを制御しながら、激しく撹拌しながら、第1および第2溶液を長期間にわたって同時添加する。
【0055】
第1および第2の溶液を第3の溶液に加える場合とは対照的に、第1、第2および第3の溶液を同時に加えることにより、反応混合物中に、片側のNiおよびMnと、もう一方の側の沈降アニオンが、同じレベル、または少なくとも同オーダーの大きさで存在することを保証できる可能性が提供されている。さらに、あらゆる理論に束縛されるものではないが、上記の3つの溶液を同時に添加することは、析出粒子が析出工程の間にサイズが成長し、析出された材料の新たな層が成長粒子の表面上に連続的に析出することを意味すると考えられる。このような粒子の段階的な構築は、前駆体粒子の所望の特性の形成を容易にし、最終的にリチウム正極活物質粒子の形成を促進すると考えられる。さらに、析出工程を長期間にわたって行うことは、前記粒子の段階的な構築を容易にするのにも寄与すると考えられる。
【0056】
さらに、あらゆる理論に束縛されるものではないが、反応混合物の激しい撹拌はまた、所望の特性を有する前駆体の形成を助けると考えられる。特に、激しく撹拌すると、粒子を互いに逆向きに移動させ、粉砕効果をもたらして粒子をより球形にすると考えられる。
【0057】
また、上記のように析出工程を行い、pHを制御しながら、激しく撹拌しながら第1液と第2液を長時間にわたって同時に加えると、より球形の粒子が多くなり、化学組成の均一性が高まった粒子も生じることが見い出されている。
【0058】
最終的に、上記のように、即ち、pHを制御しながら、激しく撹拌しながら第1および第2溶液を長期間にわたって同時に加えると、より球形の粒子を生じることに加えて、前駆体粒子も生じることが分かった。これは、リチウム正極活物質粒子を製造するために用いる場合、上記のように不純物のレベルが低下する。すなわち、Li:Ni:Mn:X:Y:2-Yの比でLi、Ni、およびMnを含む粒子であり、ここで、0.95≦X≦1.05;および0.42≦Y<0.5であり、言い換えると、xはXに近いかまたはXに等しく、そのyはYに近いかまたはそれに等しい。
【0059】
本発明に関連して、「化学量論量」という表現は、析出化合物中に存在する元素の量の比を意味する。
【0060】
一実施形態においては、リチウム正極活物質の前駆体は、出発物質が、2つ以上の出発物質から生成されており、出発物質としては、例えばニッケル-マンガンカーボネイトおよび炭酸リチウム、またはニッケル-マンガンカーボネイトおよび水酸化リチウム、またはニッケル-マンガン水酸化物および水酸化リチウム、またはニッケル-マンガン水酸化物および炭酸リチウム、またはマンガン酸化物および炭酸ニッケルおよび炭酸リチウムである。
【0061】
一実施形態において、工程bの一部は還元雰囲気中で実施される。たとえば、工程bの最初の部分はN2のような還元雰囲気で行われ、次の工程bの部分は大気中で行われる。
【0062】
一実施形態において、工程bの温度は850℃~1100℃の間である。
【0063】
一実施形態において、工程cの冷却中、リチウム正極活物質の少なくとも94%相純度を得るのに十分な量の時間、750~650℃の間隔で温度を維持する。少なくとも94%の相純度を得るのに十分な時間は、例えば、以下の例1~3に示されているとおりである;しかし、温度と時間の他の組み合わせは当業者に知られている。
【0064】
別の局面によると、本発明はさらに、本発明によるリチウム正極活物質を含む二次電池に関する。
【0065】
別の態様によれば、本発明はさらに、貯蔵および使用中の物質の劣化を減少させるための、本発明によるリチウム正極活物質の使用に関するものである。
【図面の簡単な説明】
【0066】
図の簡単な説明:
図1aは、一連のリチウム正極活物質に対するスピネル中のニッケル含有量と分解度との関係に関する実験データを示している;
【0067】
図1bは、ある範囲のリチウム正極活物質について、半電池内のリチウム正極活物質の4Vプラトーとリチウム正極活物質の分解度との関係に関する実験データを示す;
【0068】
図1cは、リチウム正極活物質のスピネル中の格子定数aと、aの範囲のリチウム正極活物質の分解度との関係に関する実験データである;
【0069】
図2aは、ある範囲のリチウム正極活物質について、スピネル中のニッケル含有量とスピネルの格子定数aとの関係に関する実験データを示す;
【0070】
図2bは、ある範囲のリチウム正極活物質について、半電池中のリチウム正極活物質の4Vプラトーとスピネルの格子定数aとの関係に関する実験データを示す;
【0071】
図3に、ラマン分光法と電気化学を用いて測定したカチオン秩序化パラメータの関係に関する実験データをそれぞれ示す;
【0072】
図4は、リチウム正極活物質の範囲で約29mA/gの電流で放電する際、容量4.3V以上の25%と75%の電位間の半電池の分解度と放電の差との関係に関する実験データである;
【0073】
図5aは、本発明によるリチウム正極活物質の4つの試料および実質的に同じスピネル化学量論に関する、円形度と分解度との関係を示す;
【0074】
図5bは、本発明によるリチウム正極活物質の4つの試料および実質的に同じスピネル化学量論での粗さおよび分解度の間の関係を示す;
【0075】
図5cは、本発明によるリチウム正極活物質の4つの試料および実質的に同一のスピネル化学量論に関する平均直径と分解度との関係を示す;
【0076】
図5dは、本発明によるリチウム正極活物質の4つの試料および実質的に同一のスピネル化学量論に関するアスペクト比および分解度の間の関係を示す;
【0077】
図5eは、本発明によるリチウム正極活物質の4つの試料および実質的に同じスピネル化学量論に関する面積包絡度と分解度との関係を示す;
【0078】
図5fは、本発明によるリチウム正極活物質の4つの試料および実質的に同じスピネル化学量論に関する多孔度と分解度との関係を示す;
【0079】
図6aおよび
図6bは、本発明によるリチウム正極活物質を用いた半電池について、4VプラトーおよびdVを測定するための放電および充電中の容量と電圧との関係をそれぞれ示したものである。
【0080】
図7aおよび
図7bは
図5a~
図5fに示されている材料のうちの1つの異なる倍率レベルにおけるSEM画像である;
【0081】
図8aおよび
図8bは、
図5a~
図5fに示される第2の材料の倍率レベルが異なるSEM画像である;
【0082】
図9aおよび
図9bは、
図5a~
図5fに示される第3の材料の倍率レベルが異なるSEM画像である;
【0083】
図10aおよび
図10bは、
図5a~
図5fに示される材料の第4の材料の異なる倍率レベルにおけるSEM画像である;
【0084】
図11は、Niyの異なる3つの試料について、走査型透過電子顕微鏡エネルギー分散型X線分光法(STEM-EDS)で測定したスピネルのNi含有量Niyを電気化学(EC)による値と比較したものを示す;
【0085】
図12は、例2に記載されたカソード電極活性材料を得るのに用いた加熱プロファイルを示す;
【0086】
図13は、秩序化された試料のラマンスペクトルを示す。4つの灰色の領域を用いて、秩序化の程度を計算する。
【0087】
図14aおよび
図14bは、それぞれ、本発明の材料のSEM画像を、透視図および断面図で示す。
【0088】
図15aおよび
図15bは、それぞれ、市販材料のSEM画像を、透視図および断面図で示す。
【0089】
図の詳細な説明:
図1aは、リチウム正極活性体の範囲のスピネルにおける分解度とニッケル量(
図1aでは「Niy」として示されているLi
xNi
yMn
2-yO
4の値y)の関係に関する実験データである。全ての試料は、例Aに記載されているように、55℃で3.5V~5Vの間の半電池において74mA/g(0.5C)で放電されるとき、少なくとも138mAh/gの容量を示す。分解度は、55℃で半電池において測定され、例Aに記載されているように、3.5V~5Vの間の100フル充電および放電サイクル当たりの分解度として記載される。分解度はいくつかの要因に影響されるため、ばらつきが生じるが、スピネルの所定のNi含有量では、最小の分解度が存在し、Ni含有量が減少すると最小の劣化速度が減少することを強調するために、目安となる線または曲線が記載されている。したがって、最小分解度よりも低い分解度のリチウム正極活物質を提供することはできない;しかしながら、リチウム正極活物質中の不均一性、形態(モルフォロジー)/または過剰な秩序化によって、最小分解度に達しにくくなる可能性がある。これらの他のパラメータのいくつかを説明するために,例4に示されるように、形態の分解度(劣化)にどのように影響するかを調べるために,4つの試料(黒い四角)を製造した。
【0090】
図1bは、半電池内のリチウム正極活物質の4Vプラトーとある範囲のリチウム正極活物質に対する分解度との関係に関する実験データを示す。全ての試料は、例Aに記載されているように、55℃で3.5V~5Vの間の半電池で74mA/g(0.5C)で放電されるとき、少なくとも138mAh/gの容量を示す。分解度は、55℃で半電池において測定され、例Aに記載されているように、3.5V~5Vの間の100フル充電および放電サイクル当たりの分解度として記載される。また、
図1bにおいても、所定の4Vプラトーで、最小の分解度が存在し、4Vプラトーの増加に伴って最小の分解度が減少することを強調するための目安となる線または曲線が記載されている。
図1aに黒い正方形で示された4つの試料も、
図1(b)に黒い正方形で示されている。
【0091】
図1cは、リチウム正極活物質のスピネル中の格子定数a「a軸」と、ある範囲のリチウム正極活物質の分解度との関係に関する実験データである。全ての試料は、例Aに記載されているように、55℃で3.5V~5Vの間の半電池で74mA/g(0.5C)で放電されるとき、少なくとも138mAh/gの容量を示す。分解度は、55℃で半電池においてされ、例Aに記載されているように、3.5V~5Vの間の100フル充電および放電サイクル当たりの分解度として記載される。また、
図1cにおいて、所定の格子パラメータについて、最小の分解度が存在し、格子パラメータaの増加に伴って最小の分解度が減少することを強調するための目安となる線または曲線が記載されている。
図1aおよび1bに黒い正方形で示された4つの試料も、
図1cに黒い正方形で示されている。
図1a、1bおよび1cは、同一試料の異なるパラメータ間の関係を示す。
【0092】
図2aは、スピネル中のニッケル量(
図2aでは「Niy」として示されているLi
xNi
yMn
2-yO
4中の値y)と、リチウムの正極活性物質に対するスピネルの格子パラメータaとの関係に関する実験データである。全ての試料は、例Aに記載されているように、55℃、3.5V~5Vの間で半電池において74mA/g(0.5C)で放電した場合、少なくとも138mAh/gの容量を示す。
図2aから、実験データについては、ニッケルの含有量と格子定数aとの間に線形の依存性が存在することが分かる。リチウム含有量の変動により、わずかな変動が生じることがある。
【0093】
図2bは、ある範囲のリチウム正極活物質について、半電池中のリチウム正極活物質の4Vプラトーとスピネルの格子定数aとの関係に関する実験データを示す。全ての試料は、例Aに記載されているように、3.5V~5Vの間の55℃で半電池において74mA/g(0.5C)で放出された場合、少なくとも138mAh/gの容量を示す。
図2aおよび2bは、同一試料について異なるパラメータ間の関係を示す。
【0094】
例Cで示されるように、Niが少ないとMn3+含量が高くなるので、スピネル中のNi含量とスピネルの格子パラメータとの間には相関関係がある。
【0095】
これにより、本発明者らは、リチウム正極活物質の低分解度、パラメータa、Ni含有率および4Vプラトーとの間に密接な相関関係が存在することを見出した。この相関は、特定の用途のためにリチウム正極活性材料を最適化するために、パラメータ、Ni含有量の適切な値を選択するために使用されることができる。
【0096】
図3に、ラマン分光法と電気化学を用いて測定されたカチオン秩序化パラメータの関係に関する実験データをそれぞれ示す。2つの方法は例Dに記載されており、相関が存在することがわかる。無秩序なリチウム正極活性物質は、秩序化物質として製造された類似物質と比較して分解度が低いことが観察されている。
図3に示した試料には多少の変動があるが、dV値が高い傾向が存在し、これはラマン秩序化値が低いことに対応している。電圧差dVは、
図6bに関連して説明されるように測定される。本明細書中で使用される「ラマン秩序」という用語は、例Dに記載されているラマン分光法に基づくリチウム正極活物質内のカチオン秩序化の測定を意味する。
【0097】
図4は、リチウム正極活物質の範囲について、約29mA/gの電流で、放電中の4.3V以上の容量の25%および75%での電位間の半電池の分解度と放電の差の関係に関する実験データを示す。この差dVは、例Dのように測定される。
図4においては、差dVとリチウム正極活物質の分解度との間に関係が存在することが示されている。差dVはまた「プラトー分離」と表され、与えられた充電状態でのリチウムの挿入と除去に関係する自由エネルギーの尺度であり、これはスピネル相が無秩序か秩序化されているかによって影響される。
図4に示した試料には多少の変動があるものの、dV値が高いほど分解度が低いことを示す傾向が存在する。理論に束縛されることなく、少なくとも50mVのプラトー分離が有利であると思われる。なぜなら、これはリチウム正極活物質が秩序相か無秩序相であるか、リチウム正極活物質による半電池の退色速度に関係しているからである。
【0098】
図5a~5fは、
図1a-1c、2a-2bと4における黒い四角で示された4つの試料についての分解度とパラメータの範囲との関係を示す。リチウム正極活物質のこれら4試料は、
図1a~1cおよび2a~2bから明らかなように、分解度が異なるが、スピネルの化学量論は非常に類似している。
図5a-5fに示す4つの試料のうち、3つの試料のスピネルはスピネル化学量論LiNi
0.454Mn
1.546O
4を有し、4番目の試料のスピネルはスピネル化学量論LiNi
0.449Mn
1.551O
4を有する
。共析出前駆体に基づいて4つの試料を全て製造し、粒子は二次粒子である。
【0099】
図5aは、本発明によるリチウム正極活物質の4つの試料および実質的に同一のスピネル化学量論に関して、二次粒子の円形度と分解度との関係を示す。二次粒子の円形度は、粒子形の面積と周径(外周)から4π
*[面積]/[外周]
2として測定される。円周は全体の形と表面の粗さの両方を表し、数値が高いほどより真円であり、表面が滑らかであることを意味する。表面が平滑な円形は円形度1である。平均円形度とは、試料中で測定されたすべての二次粒子の円形度の算術平均である。ソフトImageJ(https://imagej.nih.gov)で算出した。
図5aでは、円形度が高いほど分解度が低いことがわかる。
【0100】
図5bは、本発明によるリチウム正極活物質の4つの試料、および実質的に同じスピネル化学量論での、二次粒子の粗さと分解度との関係を示す。二次粒子の粗さは、粒子形状にフィットした楕円の外周との比で測定される。粗さは、表面がどのようにラフであるかを表す。値が高いほど、表面が粗いことを意味する。平均粗さは、試料内で測定されたすべての二次粒子の粗さの算術平均である。ソフトImageJ(https://imagej.nih.gov)で算出した。
図5bにおいては、粗さの値が低いほど分解度が少ないことがわかる。
【0101】
図5cは、本発明によるリチウム正極活物質の4つの試料および実質的に同じスピネル化学量論での二次粒子の平均直径と分解度との関係を示す。二次粒子の直径は、等価円直径、すなわち粒子と同じ面積の円の直径として測定される。平均直径は、試料中で測定されたすべての二次粒子の直径の算術平均である。ソフトImageJ(https://imagej.nih.gov)で算出した。
図5cでは、分解度を抑えるために平均直径を小さくしていることがわかる。二次粒子の平均直径はμmで与えられる。
【0102】
図5dは、本発明によるリチウム正極活物質の4つの試料および実質的に同じスピネル化学量論での二次粒子のアスペクト比と分解度との関係を示す。粒子形状に適合した楕円から二次粒子のアスペクト比を測定した。アスペクト比は、[主軸]/[短軸]として定義される。ここで、[主軸]と[短軸]は、フィットされた楕円の長軸および短軸である。平均アスペクト比は、試料中で測定された全ての二次粒子のアスペクト比の算術平均である。ソフトImageJ(https://imagej.nih.gov)で算出した。
図5dでは、一般的に、より低いアスペクト比がより分解度が少ないことに対応することがわかる。
【0103】
図5eは、本発明によるリチウム正極活物質の4つの試料、および実質的に同じスピネル化学量論での、二次粒子の面積包絡度と分解度との関係を示す。二次粒子の面積包絡度は、粒子面積と凸面面積との比、すなわち[面積]/[凸面の面積]として定義される。凸面の面積は、ゴムバンドを粒子の周りに巻くことによって生じる形と考えることができる。粒子の表面の凹形の特徴が多いほど、凸形の面積が高くなり、面積包絡度が低くなる。平均面積包絡度は、試料中で測定されたすべての二次粒子の面積包絡度の算術平均である。ソフトImageJ(https://imagej.nih.gov)で算出した。
図5eでは、面積包絡度の値が高いほど、より分解が少ないことがわかる。
【0104】
図5fは、本発明によるリチウム正極活物質の4つの試料および実質的に同一のスピネル化学量論に関して、二次粒子の多孔度と分解度との関係を示す。二次粒子の多孔度は、SEM画像において暗いコントラストを伴って現れる内部領域の割合であり、暗いコントラストは、多孔度、すなわち、粒子内部の孔として解釈される。平均多孔度とは、試料中で測定されたすべての二次粒子の多孔度の算術平均である。ソフトImageJ(https://imagej.nih.gov)で算出した。
図5fでは、一般的に多孔度の低い方が、より分解が少ないことがわかる。
【0105】
図6aおよび
図6bは、放電および充電中のリチウム正極活物質による半電池の容量と電圧の関係を、それぞれ4VのプラトーおよびdVを測定するために示している。2つのパラメータを計算するための例として用いた測定は、例2に記載したリチウム正極活物質に基づく。4Vプラトーは、全容量と比較して4V付近の容量を記述するために使用される。この比は、放電および充電の間でわずかに変動することがあるため、その値は2つの平均として決定される。図中から可変名を使用すると、4Vプラトーは(Q
4V
cha+(Q
tot
dis-Q
4V
dis))/(2
*Q
tot
dis)として計算される。例に基づいて、値は以下のように計算される:(11.0+(138.8-123.1))/(2
*138.8)=9.6%。4.7V付近の2つのプラトー間のプラトー分離、dVを、29.6mA/gでの放電中の4.3Vと5Vの間の放電容量の25%~75%の電位間の電圧の差として計算した。これを
図6bに示す例を用いて計算すると、4.718V-4.662V=56mVとなる。
【0106】
図7a~10bは、
図1a-1cと2a-2bに黒い四角で示された4つの試料についての2つの異なる倍率レベルでのSEM像である。
図1a~1cおよび
図2a~2bから明らかなように、これら4つの物質は分解度が異なる。
図7a、7b、9a、9b、10aおよび10bの試料では、スピネルの化学量論はLiNi
0.454Mn
1.546O
4を有し、
図8aおよび8bの試料のスピネルの化学量論はLiNi
0.449Mn
1.551O
4.を有する。
【0107】
図7aおよび7bは、
図1a-1c、2a-2bと5a-5fに示された試料のうちの1つの2つの異なる倍率レベルにおけるSEM画像である。
図7aおよび7bに示した試料は、7.2%の分解度を有するリチウム正極活物質である。試料材料をエポキシに埋め込み、平らな表面に研磨し、リチウム正極活物質の二次粒子の断面を画像化した。8kVの加速電圧と後方散乱電子検出器を用いて画像を取得した。ピクセルサイズ:a)0.216μm/ピクセル、b)0.054μm/ピクセル。
【0108】
図8aおよび
図8bは、
図1a-1c、2a-2bおよび
図5a-5fに示された試料の第2の2つの異なる倍率レベル第2のSEM画像である。
図8aおよび8bに示した試料は、6.2%の分解度を有するリチウム正極活物質である。試料材料をエポキシに埋め込み、平らな表面に研磨し、リチウム正極活物質の二次粒子の断面を画像化した。試料材料をエポキシに包埋し、平らな表面に研磨し、リチウム正極活物質の二次粒子の断面を画像化した。8kVの加速電圧と後方散乱電子検出器を用いて画像を取得した。ピクセルサイズ:a)0.216μm/ピクセル、b)0.054μm/ピクセル。
【0109】
図9aおよび9bは、
図1a-1c、2a-2bと5a-5fに示されている試料の第3の2つの異なる倍率レベルでのSEM画像である。
図9aおよび9bに示した試料は4.6%の分解度を有するリチウム正極活物質である。試料材料をエポキシに埋め込み、平らな表面に研磨し、リチウム正極活物質の二次粒子の断面を画像化した。8kVの加速電圧と後方散乱電子検出器を用いて画像を取得した。ピクセルサイズ:a)0.216μm/ピクセル、b)0.054μm/ピクセル。
【0110】
図10aおよび10bは、
図1a-1c、2a-2bと5a-5fに示されている試料の第4の2つの異なる倍率レベルでのSEM画像である。
図10aおよび10bに示した試料は3.2%の分解度を有するリチウム正極活物質である。試料材料をエポキシに埋め込み、平らな表面に研磨し、リチウム正極活物質の二次粒子の断面を画像化した。8kVの加速電圧と後方散乱電子検出器を用いて画像を取得した。ピクセルサイズ:a)0.216μm/ピクセル、b)0.054μm/ピクセル。
【0111】
図11は、Niyの値が異なる3つの試料について、走査型透過電子顕微鏡によるエネルギー分散型X線分光法(STEM-EDS)で測定したスピネル中のNi含有量Niyを、電気化学(EC)による値と比較したものである。STEM-EDSは物質の元素組成を直接測定し、ECは4V充電プラトーの大きさから組成を間接的に測定する。比較の結果、2つの方法は一致しており、4V充電プラトーは確かにスピネル相の組成に直接関係していることがわかった。したがって、4V充電プラトーの測定は、スピネルの組成を決定するための有効な方法である。
【0112】
図12は、例2で説明したカソード電極活性材料を得るために使用した加熱プロファイルを示す。粉末床に近接して熱電対で温度を測定する。加熱は例2のように2段階に分けられる。
【0113】
図13に秩序化スピネルのラマンスペクトルを示す。151cm
-1~172cm
-1、が385cm
-1~420cm
-1、482cm
-1~505cm
-1、627cm
-1~639cm
-1の4つの灰色の領域を用いて、秩序化の度合いが計算される。
【実施例】
【0114】
例:
以下において、本発明の例示的および非限定的実施形態は、実験データの形態で記載される。例1~5は、リチウム正極活物質の製造方法に関するものである。例Aは電気化学的試験の方法を記載し、例Bは形態学的パラメータのSEMに基づく測定を記載し、例Cはスピネル中のMnおよびNiの含有量を測定するための3つの方法を記載し、例Dはスピネル中のカチオン秩序化の度合いを測定するために使用される2つの方法を記載する。
【0115】
例1:リチウム正極活物質の合成
NiSO4・7H2O7.1kgとMnSO4・H2O15.1kgを水分48.5kgに溶かし、Ni:Mn原子比1:3.18のNiSO4とMnSO4の金属イオン水溶液を製造する。別の容器に、Na2CO311.2kgを51.0kgの水に溶かし、カーボネイト水溶液を製造する。アンモニアや他のキレート剤は使用されない。金属イオン溶液とカーボネイト溶液をそれぞれ約3L/hで別々に加え、激しく撹拌(400rpm)、pH8.8~9.5、温度35℃の反応器に挿入する。反応器の容積は40リットルである。4時間後に反応器から生成物を取り出し、6個に分ける。6バッジのうち1つについて4時間前後析出を継続し、その後2つに分ける。2つのバッチの各々について、所望のNi,Mn-カーボネイト前駆体が得られるまで析出を続ける。残りの5試料については、この手順に従う。Na2SO4を除去するために、前駆体をろ過し、洗浄する。
【0116】
上記のように生成した4667gの共析出Ni,Mn-カーボネイト(Ni:0.478、Mn:1.522)の形の前駆体と716gのLi2CO3(Li:Ni:Mn=1.00:0.478:1.522に相当)をエタノールと混合して粘性スラリーを形成する。スラリーをペイントシェーカー中で3分間振盪し、完全し脱凝集し粒状物質の混合物を得る。スラリーをトレイに注ぎ、80℃で乾燥させる。乾燥された材料は、自由流動性の均質な粉末混合物を得るために、ペイントシェーカー中で1分間振盪することによってさらに脱凝集される。
【0117】
粉末混合物を、窒素を流した炉の中で2.5℃/分の傾斜で550℃まで加熱する。粉末を550℃で4時間加熱する。以後、粉末を550℃の空気中で9時間処理する。温度を950℃に上げ、傾斜を2.5℃/分とする。950℃を10時間維持し、傾斜2.5℃/分で700℃に低下させる。700℃を4時間維持し、傾斜2.5℃/分で室温まで低下させる。
【0118】
続いて、20gの粉末を2.5℃/分の傾斜で酸素富化空気中(90%O2)において900℃に加熱する。900℃を1時間維持し、傾斜2.5℃/分で750℃に低下させる。750℃を4時間維持し、傾斜2.5℃/分で室温まで低下させる。
【0119】
この粉末をペイントシェーカーで6分間振り混ぜて再度脱凝集させ、45ミクロンふるいに通し、97.7%LNMO,1.5%O3および0.8%岩塩からなるリチウム正極活物質を得た。例AとCに記述された方法を用いて、スピネルの化学量論はLiNi0.47Mn1.53O4であると測定され、4Vプラトーは全放電容量の6%を構成し、55℃での分解度は半電池で100サイクル当たり4%であると測定された。関連するパラメータを以下の表1に示す。
【0120】
例2:リチウム正極活物質の合成
例1の記載と同様に製造された529gの共析出Ni,Mn-カーボネイト(Ni:0.46、Mn:1.54)の形態の前駆体と、(Li:Ni:Mn=1.00:0.46:1.54に相当)83.1gのLi2CO3をエタノールと混合し、粘性スラリーを形成する。スラリーをペイントシェーカー中で3分間振り混ぜ、完全に脱凝集し粒状物質の混合物を得る。スラリーをトレイに注ぎ、80℃で乾燥させる。乾燥物質をペイントシェーカーで1分間振り混ぜることによりさらに脱凝集し、自由に流動する均一な粉末混合物を得る。
【0121】
粉体混合物をマフル炉で傾斜約1℃/分で、550℃まで窒素流下で加熱する。550℃を3時間維持し、傾斜1℃/分前後で室温に冷却する。
【0122】
この生成物をペイントシェーカーで6分間振り混ぜて脱凝集し、45ミクロンのふるいを通し、アルミナるつぼに10~25mm層で分散させる。この粉末をマッフル炉内で、2.5℃/分の傾斜で空気中において670℃まで加熱する。670℃を6時間維持し、傾斜2.5℃/分でさらに900℃に上昇させる。900℃を10時間維持し、傾斜2.5℃/分で700℃に低下させる。700℃を4時間維持し、傾斜2.5℃/分で室温まで低下させる。
【0123】
この粉末をペイントシェーカーで6分間振り混ぜて再度脱凝集させ、45ミクロンのふるいに通し、98.9%LNMO、0.5%O3および0.6%岩塩からなるリチウム正極活物質を得た。例AとCに記述された方法を用いて、スピネルの化学量論はLiNi0.45Mn1.55O4であると決定され、4Vプラトーは全放電容量の10%を構成し、55℃での分解度は半電池で100サイクル当たり3%であると測定された。関連するパラメータを以下の表1に示す。
【0124】
例3:リチウム正極活物質の合成
例1の記載と同様に生成した1400gの共析出Ni,Mn-カーボネイト(Ni:0.47、Mn:1.53)の形の前駆体と、211gのLi2CO3(Li:Ni:Mn=0.98:0.47:1.53に相当)をエタノールと混合して粘性スラリーとする。スラリーをペイントシェーカー中で3分間振り混ぜ、完全に脱凝集し粒状物質の混合を得る。スラリーをトレイに注ぎ、80℃で乾燥させる。乾燥された材料は、自由流動性の均質な粉末混合物を得るために、ペイントシェーカー中で1分間振盪することによってさらに脱凝集される。
【0125】
粉末混合物を、窒素流のある炉内で傾斜2℃/分で600℃まで加熱する。600℃を6時間維持する。以後、粉末を600℃の空気中で12時間加熱する。温度を900℃に上昇させ、傾斜を2℃/分とする。900℃を5時間維持し、傾斜2℃/分で750℃に低下させる。750℃を8時間維持し、傾斜2℃/分で室温まで低下させる。
【0126】
この粉末をペイントシェーカーで6分間振り混ぜて再度脱凝集させ、45ミクロンのふるいに通し、98.1%LNMO,1.4%O3および0.5%岩塩からなるリチウム正極活物質を得た。例AおよびCに記載された方法を用いて、スピネルの化学量論はLiNi0.43Mn1.57O4であると決定され、4Vプラトーは全放電容量の13%を構成し、55℃での分解度は半電池において100サイクル当たり2%であると測定された。関連するパラメータを以下の表1に示す。
【0127】
例4:リチウム正極活物質の合成
スピネル中の同じNi含量を維持しながら、粒子の異なる形態を得るために4つの試料を合成した。4つの試料は、黒い正方形として
図1a~1c、2a~2bおよび4に含まれており、
図7a~10bは、粒子断面のSEM画像を示している。
図5a-5fは、4つの試料について、分解度と形態に関する一連のパラメータとの関係を示す。関連するパラメータを以下の表1に示す。全試料の前駆体は、わずかに異なるバリエーションを用いて、例1に記載されているように共析出させた。一例として、
図8aおよび8bに示されるような表2の試料2の前駆体は、充填された反応器において約2.6W/Lに相当する200rpmの撹拌により生成され、
図10aおよび10bに示されるような表2の試料4の前駆体は、充填された反応器において約10W/Lに相当する400rpmの撹拌により生成される。
【0128】
例5:リチウム正極活物質の合成
別々の前駆体および異なるか焼プログラムを用いて、例1~3として追加の試料を製造した。
図1aは、例Aに記載した半電池で測定した55℃での100サイクルあたりの分解度とスピネル中のNi含量との相関を示す。スピネル中のNi含量は、例Cに記載されているように電気化学的に測定される。
図1bは、例か焼Aおよび4Vプラトーに記載されているように、半電池で測定された55℃での100サイクル当たりの分解度の相関を示す。
図1cは、例Aに記載された半電池で測定された55℃での分解度とスピネル内の格子パラメータaとの相関を示す。以下の表1は、例1~5で説明した試料について、例Dで説明した2つのNi-プラトー間のNi含有量、Niy、格子パラメータ、a、4Vプラトー、容量、分解度および差、dVを含む。
【0129】
【0130】
例6:走査型電子顕微鏡を用いた形態の測定:本発明による試料(試料4)と市販試料の比較
例4で論じた試料4とリチウム正極活物質の市販品の試料を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて比較した。
【0131】
図14aおよび
図14bは、それぞれ、試料4のSEM画像を透視図および断面図により示し、
図15aおよび
図15bは、それぞれ、市販試料のSEM画像の透視図および断面図を示す。
図14aおよび
図14bから明らかなように、試料4の粒子は、高度に球形であり、その内部構造において高度に均一である。これに対して、市販試料(
図15aおよび
図15b)の粒子は球形ではなく、高い度合いの凝集を有するようである。
【0132】
例:例1~5より製造したリチウム正極活物質の電気化学的試験方法:
2032種類のコイン型電池で、薄い複合正極電極と金属リチウム負極電極(半電池)を用いた電気化学的試験を実現した。薄い複合正極は、84質量%のリチウム正極活物質(例1~4によって製造)と8質量%のSuperC65カーボンブラック(Timcal)および8質量%のPVdF結合剤(ポリビニリデンジフルオリド、シグマアルドリッチ)をNMP(N-メチル-ピロリドン)中に完全に混合してスラリーを形成することによって製造した。このスラリーを100~200μmの間隙を有するドクターブレードを用いて炭素コーティングアルミホイル上に広げ、80℃で12時間乾燥させてフィルムを形成した。乾燥したフィルムから直径14mm、リチウム正極活物質を約8mg充填した電極を切り出し、油圧式ペレットプレス(直径20mm、3トン)でプレスし、アルゴン充填のグローブボックス内において真空下120℃で10時間乾燥させた。
【0133】
アルゴンガスを充填したグローブボックス内(<1ppmのO2とH2O)で,2つのポリマーセパレータ(Toray V25EKDおよびFreudenberg FS2192-11SG)と,EC:DMC(重量比1:1)に1モルのLiPF6を含む電解液を用いて,コイン電池を組み立てた。対向電極には厚さ250μmのリチウムディスクを2枚使用し,電池内の圧力は2枚のステンレス製ディスクスペーサーと負極側のディスクスプリングで調整した。電気化学的なリチウムの挿入と抽出は,ガルバノスタティックモードで動作する自動サイクルデータ記録システム(Maccor社製)を用いてモニターした。
【0134】
電気化学的試験には、6回の生成サイクル(3サイクル0.2C/0.2C(充放電)と3サイクル0.5C/0.2C)、25回の出力試験サイクル(5サイクル0.5C/0.5C、5サイクル0.5C/1C、5サイクル0.5C/2C、5サイクル0.5C/5C、5サイクル0.5C/10C)、そして120回の0.5C/1Cサイクルを含み、分解度を測定する。C速度(Cレートは、147mAhg-1の正極活性物質(例えば、0.2Cは29.6mAg-1に対応し、10Cは1.47mAgに対応する)のリチウムの理論的比容量に基づいて計算された。4.7Vの2つのプラトーの電圧分離、dV、および4Vのプラトーの電圧分離はサイクル3に基づいて計算され、容量はサイクル7に基づいて計算され、分解度はサイクル33~サイクル133の間で計算される。
【0135】
例B:走査型電子顕微鏡を用いた粒子径および形状の測定方法:
走査電子顕微鏡(SEM)用の試料を製造するために、リチウム正極活物質をエポキシ中に埋め込み、粒子の断面を画像化するために平坦な表面に研磨した。スピネル相の化学量論が実質的に同じ試料について粒子形状と分解度との相関を評価するために、埋め込まれた断面のSEM画像を用いて、異なる試料の粒子サイズと形状を測定した。
図7a、7b、9a、9b、10aおよび10bの試料では、スピネルは化学量論LiNi
0.454Mn
1.546O
4を有し、
図8aおよび8bの試料のスピネルは化学量論LiNi
0.449Mn
1.551O
4を有する。
【0136】
8kVの加速電圧と後方散乱電子検出器を用いてSEM像を取得した。画像は、低倍率および高倍率で、それぞれピクセルサイズ0.216μm/ピクセル(
図7a、8a、9a、10a)および0.054μm/ピクセル(
図7b、8b、9b、10b)で取得した。低倍率画像を粒径と形状の測定に用いた。
【0137】
SEM画像はソフトウエアImageJ(https://imagej.nih.gov)を用いて解析した。手技は以下の通りであった:
・中央フィルター、半径1ピクセル;
・シャープ化;
・Otsuアルゴリズムを用いた閾値;
・粒子を分析する:面積3μm2を超える粒子のみを考慮。
【0138】
粒子を分析する工程は、各粒子について面積および外周(周囲長)を測定し、粒子と同じ面積を有する最良適合楕円を計算することを含む。次いで、面積、外周および当てはめられた楕円を用いて、SEM画像中の各粒子についてサイズおよび形状に関する多数の記述子を計算する:
・直径:等価な円径、すなわち粒子と同じ面積の円の直径。
・アスペクト比:粒子の適合楕円のアスペクト比、すなわち[主軸]/[短軸]。
・粗さ:測定された外周と当てはめられた楕円の周囲との間の比率。粒子の表面粗さを記述する。
・円形度:4π*[面積]/[外周]2。円形度は全体の形状と表面粗さを記述する。表面が平滑な円形で、円形度は1である。
・面積包絡度:[面積]/[凸面の面積]。凸面の面積は、ゴムバンドを粒子に巻き付けることから生じる形と考えることができる。粒子の表面の凹形の特徴が多いほど、凸面の面積が高くなり、面積包絡度が低くなる。
・多孔度:SEM画像で暗いコントラストで表示される粒子の内部領域の割合。暗いコントラストは空隙率、つまり粒子内部の孔(ホール)と解釈される。
【0139】
これらの記述子の標本平均値を、実質的に同一のスピネル化学量論であり、分解度が異なる4つの試料について、下表に示す。55℃で3.5~5.0Vの間の100サイクル後の容量の減少として、分解度を半電池で測定した。
【0140】
【0141】
図5a~5fに関連して記載されるように、6つの記述子の関数としての分解度は、低分解度を有するリチウム正極活物質が、以下のパラメータ:短い直径、低い粗さ、低アスペクト比、高円形度、高面積包絡度および低多孔度の1つ以上によって特徴付けられるように相関を示す。最適には、リチウム正極活物質は、短い直径、低い粗さ、低アスペクト比、高円形度、高面積包絡度および低多孔度の6つの記述子の大部分またはすべてを満たすであろう。好ましくは、直径は10μm未満であり、粗さは1.35未満であり、円形度は0.55より大きく、面積包絡度は0.8より大きい。
【0142】
例C:スピネル中のNiおよびMn含有量の測定
上述したように、リチウム正極活物質の製造に応じて、リチウム正極活物質のスピネル中のNiおよびMnの含有量は、とりわけICPを用いて決定することができるバルク値とは異なる場合がある。例Cは、リチウム正極活物質のスピネル中のNiおよびMnの含有量が、電気化学、回折および電子顕微鏡に基づく3つの異なる方法をそれぞれ用いて測定できることを示す。
【0143】
電気化学と回折に基づく方法は、Mn/Ni比の変化により、Mn3+とMn4+の比率が変化することを利用している。これは、Liの酸化状態を1+、Niの酸化状態を2+、Oの酸化状態を-2と仮定して、LixNiyMn2-yO4におけるMnの平均酸化状態を(4*2-1*x-2*y)/(2-y)と計算することで明らかになる。これを用いると、xが1の場合は式をLi+1Ni+2
yMn+3
1-2yMn+4
1+yO4として書くことができ、xが1以外の場合は同様の式を書くことができる。
【0144】
電気化学的には、循環中のLi+の抽出・挿入により、Mn3+はMn4+に可逆的に酸化されて戻ることができ、また循環中のLi+の抽出・挿入により、Ni2+はNi4+に可逆的に酸化されて戻ることができる。このように、Ni2+に対して2つのLi+を、Mn3+に対して1つのLi+を抽出(およびその後の挿入)することが可能である。x=1の場合、式Li+1Ni+2
yMn+3
1-2yMn+4
1+yO4に基づいて、全容量に対するMn活性に関連する容量の割合は、(1-2y)/(1-2y+2y)=(1-2y)で与えられる。例として、y=0はMn活性に関連する容量が0%に相当し、y=0.45と0.4はそれぞれ総容量の10%と20%がMn活性によるものに相当する。
【0145】
LNMOにおいては、Mn
3+/Mn
4+反応は約4V対Li/Li
+で観測され、Ni
2+/Ni
4+反応は約4.7V対Li/Li
+で観測された。したがって,3.5Vから5V対Li/Li
+までの全容量と比較して、3.5V~4.3V対Li/Li
+までの間に測定された容量がMn活性に相当すると予想される。4V付近の容量は、例Aに記載されているように29mA/g(0.2C)での3回目の放電を用いて決定される。充放電中、電池は平衡状態ではなく、電池内の内部抵抗のため、充電中は測定電圧が上方にシフトし、放電中は下方にシフトすることがある。この効果は電池電圧の突然の変化の近くで特に顕著であり、したがってMn活性の割合は、分析が充電に基づいているか放電に基づいているかによって異なるように見える。
図6aは、例Aで説明した29mA/g(0.2C)での3回目の充電について、容量の関数としての放電および充電電圧曲線を示している。充電と放電の間にそれぞれ4.3Vの電圧に相当する容量Q
4V
chaとQ
4V
disを用いて、全放電容量Q
tot
disを使用すると、Mn-活性の割合は(Q
4V
cha+(Q
tot
dis-Q
4V
dis))/(2*Q
tot
dis)で与えられる。この値は「4Vプラトー」と表される。4Vプラトーの最大値および最小値は、それぞれ(Q
tot
dis-Q
4V
dis)/(Q
tot
dis)および(Q
4V
cha)/(Q
tot
dis)で与えられる。
【0146】
回折
Mn3イオンとMn4+イオンの大きさは異なっており、これはスピネルの格子パラメータに影響する。粉末X線回折データを、CuKα放射(λ=1.541Å)を用いてBragg-Brentanoモードで働くθ~2θ幾何学におけるPhillips社製PW1800装置システム上で収集した。観測されたピーク位置のシフトに寄与する実験パラメータについては、観測されたデータを補正する必要があり、これは格子パラメータの計算に使用される。これは、Bruker社のTOPASソフトウェアで実装されているフルプロファイル・ファンダメンタル・パラメータ・アプローチを用いて達成される。その結果、スピネル格子定数は、Mn3+の量、ひいてはMnとNiの量を決定するのに十分な約5/10000Å近くの不確実性をもって決定される。
【0147】
電子顕微鏡
走査型透過電子顕微鏡(STEM)とエネルギー分散型X線分光法(EDS)を組み合わせて元素マッピングを行うことで、スピネル中のMnとNiの量を直接測定することができる。STEM-EDSは、スピネル相の組成を電気化学測定における4V充電プラトーから算出した値と比較するために、3つの異なるサンプルのNiとMnの量を測定した。
【0148】
STEM-EDS測定は,ChemiSTEM EDS検出器システムを搭載したFEI Talos透過型電子顕微鏡を用いて行った。顕微鏡はSTEMモードで,加速電圧は200kVであった。元素マップはBruker社のソフトウェアEsprit 1.9を用いて取得・分析した。自動バックグラウンド減算、シリーズデコンボリューション、Cliff-Lorimer法を用いて、標準的な定量化を行った。試料中の不純物または非スピネル相は,スピネルとは大きく異なる組成、すなわち、MnまたはNiに富む組成であること,および試料全体に占める割合が小さいことから容易に特定できた。スピネル相の組成を厳密に測定するために,これらの非スピネル相は定量化に含めなかった。定量化では,スピネル相に含まれる元素の原子パーセントを示した。スピネル中のNiの量、Niyは,Niy=2*Niat%/(Niat%+Mnat%)として求めた.ここでNiat%およびMnaat%は、スピネル中で測定したNiとMnの原子パーセントである。
【0149】
Niyの値を変えて作成した3つの試料を分析した結果、以下の表3と
図11に示すようになった。Niネット化学組成(正味の化学組成)とは、試料中の全体的なNi含有量を指し、Niyとは、STEM-EDSおよび4V充電プラトーを用いて測定したスピネル相のNi含有量を指す。表は、Niyの2つの測定値がよく一致しており、4V充電プラトーが実際にスピネル相の組成に直接関係していることを確認している。さらに、このデータは、Niyが必ずしも正味の化学組成と同一ではなく、むしろか焼時の条件によって決定されることを示している。
【0150】
【0151】
図2aに示されるように、XRD測定を用いて求めたa軸と、4Vのプラトーから求めたyによって与えられるMnとNiの比との間には関係が存在する。この対応は、a=-0.1932
*y+8.2627という直線に当てはめることができる。
図2(b)は、a軸と4Vプラトーの類似の対応を示している。
【0152】
例D:秩序化の定量化
リチウム正極活物質のスピネル中のNiとMnのカチオン秩序化は、Ionics(2006)12、pp117-126に記載されているように、ラマン分光法によって決定することができる。秩序化の度合いを定量化するには、カチオン秩序に関連する2つのピーク162cm
-1(151cm
-1~172cm
-1)と395cm
-1(385cm
-1~420cm
-1)および、秩序に依存しない496cm
-1(482cm
-1~505cm
-1)と636cm(627cm~639cm
-1)付近の2つのピークを使用する。簡単な方法としては、それぞれのピークの面積を
図13に示すように計算し、秩序化パラメータを比率(A
1+A
2)/(A
3+A
4)として計算することができる。この方法はバックグラウンドとシグナル強度の変動を補償する。完全に秩序化されたスピネルは0.4付近の値を示し、完全に無秩序なスピネルは0.1付近の値を示す。
【0153】
秩序化の度合を決定する別の方法は、29.6mA/g(0.2C)放電中に約4.7Vで2つの電圧プラトー間の差dVを測定することである。この方法は、
図6aおよび6bに見られるように、平坦でよく分離されたプラトーを得るために、十分に良好な材料および電極の製造を必要とする。
図6bに示すように、4.7V付近の2つのプラトーのそれぞれの中央の間の差を計算する。Q
4V
disは例Cに記載されているように決定され、2つのプラトーのそれぞれの中央はQ
4V
disの25%とQ
4V
disの75%で決定される。完全に秩序化されたスピネルは30mV前後の値を有し、完全に無秩序なスピネルは60mV前後の値を有する。
【0154】
図3は、相関関係が確認された2つの秩序化パラメータの比較を示している。
図4では、dVと秩序化の相関関係を用いて、カチオンの秩序化が分解度の増加を引き起こすと判断される。
【国際調査報告】