(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-24
(54)【発明の名称】遺伝子療法ベクターのための発現カセット
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20220216BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220216BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20220216BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20220216BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C12N15/63 Z
C12N15/86 Z
C12N15/864 100Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021535839
(86)(22)【出願日】2019-12-19
(85)【翻訳文提出日】2021-08-18
(86)【国際出願番号】 EP2019086431
(87)【国際公開番号】W WO2020127813
(87)【国際公開日】2020-06-25
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】503197304
【氏名又は名称】ジェネトン
(71)【出願人】
【識別番号】507241492
【氏名又は名称】アンスティトゥート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシャルシュ・メディカル・(インセルム)
(71)【出願人】
【識別番号】503119487
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・デヴリ・ヴァル・デソンヌ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アナ・ビュジ・ベロ
(72)【発明者】
【氏名】マルティナ・マリネッロ
(57)【要約】
本発明は、SMNタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む組換え発現カセットに関する。このカセットは遺伝子療法ベクターに含めることができ、脊髄性筋萎縮症(SMA)を治療するための方法に使用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
- 配列番号1に示される配列からなるPGKプロモーターであるプロモーター、又は配列番号1と少なくとも80%同一であるヌクレオチド配列を有する前記プロモーターの機能的バリアントと、
- 配列番号12に示される配列からなるヒトβグロビン遺伝子由来の改変されたイントロン2/エキソン3配列、又は配列番号12と少なくとも80%同一であるヌクレオチド配列を有する機能的バリアントと、
- 生存運動ニューロン(SMN)タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列と、
- 配列番号7若しくは配列番号8に示される配列からなるポリアデニル化シグナル、又は配列番号7若しくは配列番号8と少なくとも80%同一であるヌクレオチド配列を有するその機能的バリアントと
を含む発現カセット。
【請求項2】
導入遺伝子がヒトSMN1遺伝子である、請求項1に記載の発現カセット。
【請求項3】
ポリアデニル化シグナルが、SMN1遺伝子ポリアデニル化シグナル、HBBポリアデニル化シグナル、ウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナル、SV40ポリアデニル化シグナル及び合成ポリAからなる群において選択される、請求項1又は2に記載の発現カセット。
【請求項4】
配列番号11に示される配列、又は配列番号11と少なくとも80%同一である配列を含むか、又はそれからなる配列を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の発現カセット。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の発現カセットを含む組換えベクター。
【請求項6】
プラスミドベクター又はウイルスベクターである、請求項5に記載の組換えベクター。
【請求項7】
組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターである、請求項5又は6に記載の組換えベクター。
【請求項8】
前記rAAVベクターがAAV9又はAAVrh10キャプシドを有する、請求項7に記載の組換えベクター。
【請求項9】
前記rAAVベクターが一本鎖ゲノムを有する、請求項7又は8に記載の組換えベクター。
【請求項10】
rAAVベクターのゲノムが、
- AAV 5'-ITRと、
- 配列番号1に示される配列からなるPGKプロモーターであるプロモーター、又は配列番号1と少なくとも80%同一であるヌクレオチド配列を有する前記プロモーターの機能的バリアントと、
- 配列番号12に示される配列からなるヒトβグロビン遺伝子由来の改変されたイントロン2/エキソン3配列、又は配列番号12と少なくとも80%同一であるヌクレオチド配列を有する機能的バリアントと、
- 生存運動ニューロン(SMN)タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列と、
- 配列番号7若しくは配列番号8に示される配列からなるポリアデニル化シグナル、又は配列番号7若しくは配列番号8と少なくとも80%同一であるヌクレオチド配列を有するその機能的バリアントと、
- AAV 3'-ITRと
を含む一本鎖ゲノムである、請求項7から9のいずれか一項に記載の組換えベクター。
【請求項11】
rAAVベクターのゲノムが、
- AAV 5'-ITRと、
- 配列番号11に示される配列、又は配列番号11と少なくとも80%同一である配列を含むか、又はそれからなる配列を有する発現カセットと、
- AAV 3'-ITRと
を含む一本鎖ゲノムである、請求項7から10のいずれか一項に記載の組換えベクター。
【請求項12】
rAAVベクターのゲノムがAAV2逆位末端反復を含む、請求項7から11のいずれか一項に記載の組換えベクター。
【請求項13】
医薬として使用するための、請求項1から4のいずれか一項に記載の発現カセット、又は請求項5から12のいずれか一項に記載の組換えベクター。
【請求項14】
脊髄性筋萎縮症を治療するための方法に使用するための、請求項1から4のいずれか一項に記載の発現カセット、又は請求項5から12のいずれか一項に記載の組換えベクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はSMN遺伝子を含む組換え発現カセットに関する。このカセットは、遺伝子療法ベクターに含めることができ、脊髄性筋萎縮症(SMA)を治療するための方法に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
脊髄性筋萎縮症(「SMA」)は、最も広義には、筋力低下及び筋萎縮の原因となる脊髄における運動ニューロン欠如を特徴とする遺伝性及び後天性中枢神経系(CNS)疾患の一群を示す。SMAの最も一般的な形態は、生存運動ニューロン(「SMN」)遺伝子の突然変異によって引き起こされ、乳児から成人まで影響を与える広い範囲の重篤度で表れる。乳児SMAは、この神経変性障害の最も重篤な形態の1つである。発症は通常、突発的で劇的である。症状のいくつかには、筋力低下、筋緊張低下、弱い泣き声、弱々しさ(limpness)又はばったり倒れ込む(flop)傾向、哺乳(sucking)又は嚥下困難、肺又は喉における分泌物の蓄積、摂食困難及び気道感染に対する感受性増加が含まれる。足は腕よりも弱くなる傾向があり、頭を上げる又は上半身を起こす(sitting up)等の発達の重要な段階に達することができない。一般的に、症状が早く現れるほど、寿命は短い。症状が現れて間もなく、運動ニューロン細胞は迅速に悪化する。疾患は致命的でありうる。SMAの経過は弱さの重篤度に直接関係する。重篤な形態のSMAである乳児は、呼吸を支援する筋肉が弱いために、呼吸器疾患で死亡することが多い。軽度の形態のSMAである小児、特に、スペクトルのより重篤な側にいる小児は、広範な医療支援を必要とすることがあるが、ずっと長く生きる。疾患の進行及び平均余命は、対象の発症時の年齢及び弱さのレベルと強く相関する。SMA障害の臨床スペクトルは、以下の5つの群に分けられている。
(a)新生児SMA(0型SMA;出生前):非常に重篤なSMAとしても知られている0型は、SMAの最も重篤な形態であり、出生前に始まる。通常、0型の最初の症状は、妊娠30週から36週の間で最初に観測される胎児の運動減少である。出生後、これらの新生児はほとんど動かず、嚥下及び呼吸に困難を有する。
(b)乳児SMA(1型SMA又はウェルドニッヒ・ホフマン病;一般的に0~6カ月):重篤な乳児SMA又はウェルドニッヒ・ホフマン病としても知られている1型SMAは非常に重篤で、出生時又は生後6カ月以内に表れる。患者は座る能力を獲得せず、通常、換気補助無しでは最初の2年以内で死に至る。
(c)中間型SMA(2型SMA又はデュボヴィッツ病;一般的に6~18カ月):2型SMA又は中間型SMAの患者は、補助無しで座る能力を獲得するが、援助無しで立ったり歩いたりすることはできない。弱さの発症は通常、6カ月から18カ月の間のどこかで認められる。この群の予後は、呼吸器障害の程度に大きく左右される。
(d)若年性SMA(3型又はクーゲルベルグ・ヴェランダー病;一般的に18カ月超):3型SMAは、疾患経過の間のある時点では自力で歩くことができるが、青年期又は成人期には車いすに束縛されるようになることが多い人を示す。
(e)成人型SMA(4型SMA):通常、青年期後期に舌、手、又は足が弱くなり始め、その後体の他の領域に進行する。成人型疾患の経過はずっと遅く、平均余命にはほとんど又は全く影響しない。
【0003】
SMA疾患遺伝子は、連鎖解析によって染色体5qの複合体領域にマッピングされている。ヒトでは、この領域は大きな逆位重複を有し、結果として、2コピーのSMN遺伝子が存在する。SMAは、両染色体中の遺伝子SMN1のテロメア側コピーの劣性突然変異又は欠失によって引き起こされ、SMN1遺伝子機能の欠如が生じている。しかし、ほとんどの患者は、遺伝子SMN2のセントロメア側コピーを保持しており、SMA患者におけるSMN2遺伝子のコピー数は、疾患の重篤度に対して重大な改変効果を有するとされており、すなわち、重篤度の低い疾患では、SMN2のコピー数の増加が認められる。それにも関わらず、SMN2遺伝子によって産生される完全長RNAの量は少なく、タンパク質形成の効率が不十分なので、SMN2はSMN1機能の欠如を完全には補償することはできないが、少量ならば補償する。より詳細には、SMN1及びSMN2遺伝子は5個のヌクレオチドが異なっており、これらの違いの1つ、エキソンスプライシング領域のCからTへの翻訳上サイレントな置換は、SMN2の転写の間にエキソン7のスキッピングをしばしば引き起こす。結果として、SMN2から産生する転写物の大半は、エキソン7を欠如しており(SMNΔE×7)、迅速に分解される短縮型タンパク質をコードする(SMN2転写物の約10%は完全長で、機能的SMNタンパク質をコードする)。
【0004】
結果として、SMN1の遺伝子置換がSMAの治療戦略として提案された。特に、以前は、全身経路によって投与されたAAV9キャプシド(本明細書以下では、ベクターのゲノムが由来する血清型とは関係なく、「AAV9ベクター」と称する)を含むAAVベクターを用いて血液脳関門を横断するSMN遺伝子の送達によるSMAの治療に焦点が当てられた(WO2010/071832等)。実際に、AAV9キャプシドを含むAAVベクターは、血液脳関門を横断することができ、その後運動ニューロン及びグリア細胞等のSMA進行に関与する細胞を形質導入することができることが示された。
【0005】
更に、PCT/EP2018/068434は、AAV9又はAAVrh10キャプシド、及び脊髄運動ニューロン(SMN)タンパク質をコードする遺伝子を含む一本鎖ゲノムを含む組換えAAVベクターを開示している。この特許出願はまた、SMN遺伝子を含む多数の特定の構築物及び疾患の動物モデルにおいてSMAを治療する際のそれらの予想外に良好な効率を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2010/071832
【特許文献2】PCT/EP2018/068434
【特許文献3】WO01/83692
【特許文献4】米国特許第5,173,414号
【特許文献5】WO95/13365
【特許文献6】米国特許第5,658.776号
【特許文献7】WO95/13392
【特許文献8】WO96/17947
【特許文献9】PCT/US98/18600
【特許文献10】WO97/09441(PCT/US96/14423)
【特許文献11】WO97/08298(PCT/US96/13872)
【特許文献12】WO97/21825(PCT/US96/20777)
【特許文献13】WO97/06243(PCT/FR96/01064)
【特許文献14】WO99/11764
【特許文献15】米国特許第5,786,211号
【特許文献16】米国特許第5,871,982号
【特許文献17】米国特許第6,258,595号
【特許文献18】米国特許第6,566,118号
【特許文献19】WO98/09657
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Singerら、Gene、32 (1984)、409頁
【非特許文献2】Sharp and Li、1987、Nucleic Acids Research 15:1281~1295頁
【非特許文献3】Kimら、Gene. 1997、199:293~301頁
【非特許文献4】zur Megedeら、Journal of Virology、2000、74:2628~2635頁
【非特許文献5】Lingら、2016年7月18日、Hum Gene Ther Methods. [Epub ahead of print]
【非特許文献6】Vercauterenら、2016、Mol. Ther. Vol. 24(6)、1042頁
【非特許文献7】Rosarioら、2016、Mol Ther Methods Clin Dev. 3、16026頁
【非特許文献8】Samulskiら、1982、Proc. Natl. Acad. S6. USA、79:2077~2081頁
【非特許文献9】Laughlinら、1983、Gene、23:65~73頁
【非特許文献10】Senapathy & Carter、1984、J. Biol. Chem.、259:4661~4666頁
【非特許文献11】Carter、1992、Current Opinions in Biotechnology、1533~539頁
【非特許文献12】Muzyczka、1992、Curr. Topics in Microbial, and Immunol.、158:97~129頁
【非特許文献13】Ratschinら、Mol. Cell. Biol. 4:2072頁(1984)
【非特許文献14】Hermonatら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:6466頁(1984)
【非特許文献15】Tratschinら、Mol. Cell. Biol. 5:3251頁(1985)
【非特許文献16】McLaughlinら、J. Virol.、62: 1963頁(1988)
【非特許文献17】Lebkowskiら、1988 Mol. Cell. Biol.、7:349頁(1988)
【非特許文献18】Samulskiら (1989、J. Virol.、63:3822~3828頁)
【非特許文献19】Perrinら(1995) Vaccine 13: 1244~1250頁
【非特許文献20】Paulら(1993) Human Gene Therapy 4:609~615頁
【非特許文献21】Clarkら(1996) Gene Therapy 3:1124~1132頁
【非特許文献22】Clarkら、Hum. Gene Ther.、10(6): 1031~1039頁(1999)
【非特許文献23】Schenpp及びClark、Methods Mol. Med.、69: 427~443頁(2002)
【非特許文献24】Xiaoら、J. Virol.1998;72:2224~2232頁
【非特許文献25】Bowermannら、Neuromusc Disord 2012年3月;22(3):263~76頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
SMNを発現するための更なる最適化された構築物が本明細書に開示される。これらの構築物は、それらで治療された動物の生存率の顕著な改善を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の態様では、本発明は、
- PGKプロモーターと、
- ヒトβグロビン遺伝子由来の改変されたイントロン2/エキソン3配列と、
- 生存運動ニューロン(SMN)タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列と、
- ポリアデニル化シグナルと
を含む核酸構築物に関する。
【0010】
特定の実施形態では、PGKプロモーターは配列番号1に示される配列を有するか、又は前記プロモーターは、配列番号1と少なくとも80%同一である、特に配列番号1と少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%又は少なくとも99%同一であるヌクレオチド配列を有する前記プロモーターの機能的バリアントである。
【0011】
特定の実施形態では、ヒトβグロビン遺伝子由来の改変されたイントロン2/エキソン3配列は配列番号12に示される配列を有するか、又は配列番号12に示される配列の機能的バリアントであり、その機能的バリアントは、配列番号12と少なくとも80%の同一性、特に配列番号12と少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%又は少なくとも99%の同一性を有する。
【0012】
他の発現カセットと比較して、この疾患のマウスモデルにおいて脊髄性筋萎縮症を矯正するためのウイルスベクターに使用されるこのような発現カセットは、以前に報告されていないレベルで治療した動物の生存の増加をもたらすことが本明細書に示される。
【0013】
第1の態様の特定の実施形態では、ポリアデニル化シグナルは、SMN1遺伝子ポリアデニル化シグナル、ヒトβグロビン遺伝子由来のポリアデニル化シグナル(HBB pA)、ウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナル、SV40ポリアデニル化シグナル、及び配列番号10の合成ポリA等の合成ポリAからなる群において選択される。第1の態様の特定の実施形態では、ポリアデニル化シグナルは、配列番号7及び配列番号8からなる群において選択される配列を有するHBBポリアデニル化シグナル等のHBBポリアデニル化シグナル、又は配列番号7若しくは配列番号8に示される配列と少なくとも80%同一である、特に配列番号7若しくは配列番号8と少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%若しくは少なくとも99%同一であるヌクレオチド配列を有するその機能的バリアントである。
【0014】
特定の実施形態では、SMNタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列(ORF)はヒトSMN1遺伝子に由来する。
【0015】
特定の実施形態では、発現カセットは、組換えウイルスベクターへの発現カセットのパッケージングに好適な配列に隣接してもよい。例えば、発現カセットは、AAVベクターへのその更なるパッケージングのためにAAV 5'-ITR及びAAV 3'-ITRに隣接してもよいか、又はレンチウイルスベクター等のレトロウイルスベクターへのその更なるパッケージングのために5'-LTR及び3'-LTRに隣接してもよい。
【0016】
特定の実施形態では、発現カセットは、配列番号11に示される配列、又は配列番号11と少なくとも80%同一である、例えば、配列番号11と少なくとも85%同一、少なくとも86%同一、少なくとも86%同一、少なくとも87%同一、少なくとも88%同一、少なくとも89%同一、少なくとも90%同一、少なくとも91%同一、少なくとも92%同一、少なくとも93%同一、少なくとも94%同一、少なくとも95%同一、少なくとも96%同一、少なくとも97%同一、少なくとも98%同一若しくは少なくとも99%同一である配列を含むか、又はそれからなる配列を有する。
【0017】
第2の態様では、本発明は、本発明の発現カセットを含む組換えベクターに関する。
【0018】
特定の実施形態では、ベクターはプラスミドベクターである。プラスミドベクターは、組換えウイルスベクターへの発現カセットのパッケージングに好適な配列に隣接しているか、又は隣接していない発現カセットを含んでもよい。
【0019】
別の特定の実施形態では、ベクターは組換えウイルスベクターである。本発明の実施に有用な例示的なウイルスベクターは、限定されないが、アデノ随伴(AAV)ベクター、レンチウイルスベクター及びアデノウイルスベクターを含む。別の特定の実施形態では、本発明の組換えベクターは組換えAAV(rAAV)ベクターである。更なる実施形態では、rAAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVrh10、AAV11、AAV12及びAAV-PHP.Bキャプシドからなる群において選択されるキャプシドを有する。別の特定の実施形態では、rAAVベクターはAAV9及びAAVrh10キャプシドから選択されるキャプシドを有する。本発明のrAAVベクターは、一本鎖又は二本鎖、自己相補的ゲノムを有してもよい。rAAVベクターのゲノムは任意のAAVゲノムに由来してもよく、このことは、そのAAV 5'-ITR及びAAV 3'-ITRは任意のAAV血清型に由来してもよく、AAV 5'-及び3'-ITRはより詳細には、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVrh10、AAV11、AAV12又はAAV-PHP.Bキャプシド5'-及び3'-ITRに由来することを意味する。特定の実施形態では、AAV 5'-及び3'-ITRはAAV2 5'-及び3'-ITRである。本発明の実施では、AAVキャプシド及びAAV ITRは同じ血清型又は異なる血清型に由来してもよい。キャプシド及びゲノムの血清型が異なる場合、rAAVベクターは「シュードタイプ化」と称される。特定の実施形態では、本発明のrAAVベクターはシュードタイプ化ベクターである。
【0020】
更に別の態様では、本発明は、遺伝子療法によって疾患を治療するための方法に使用するための本発明のベクターに関する。特定の実施形態では、目的の導入遺伝子はSMNタンパク質をコードする遺伝子であり、疾患は、乳児SMA、中間型SMA、若年性SMA又は成人発症型SMA等の脊髄性筋萎縮症(SMA)である。特定の実施形態では、本発明に従って使用するためのベクターは本明細書に開示されるようなrAAVベクターである。別の実施形態では、前記rAAVベクターは、特にくも膜下腔内及び/又は脳室内注射による対象の脳脊髄液への投与のためである。或いは、前記rAAVベクターは、血管内(例えば静脈内又は動脈内)、筋肉内及び腹腔内投与等の末梢投与のためである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】未治療のSmn
2B/-マウス、野生型動物(群当たりマウスn=10)及びhSMN1導入遺伝子を含む異なる一本鎖AAVベクターで治療したSmn
2B/-マウスのカプラン・マイヤー生存曲線の図である。
【
図2】未治療のSmn
2B/-マウス、野生型動物(群当たりマウスn=10)並びにPGKプロモーター及びヒトβグロビン遺伝子由来の改変されたイントロン2/エキソン3配列に作動可能に連結されたhSMN1導入遺伝子を含む一本鎖AAVベクターで治療したSmn
2B/-マウスの体重評価の図である。
【
図3】未治療のSmn
2B/-マウス、野生型動物(群当たりマウスn=10)及び異なる用量のssAAV9-7212ベクターで治療したSmn
2B/-マウスのカプラン・マイヤー生存曲線の図である。
【
図4】未治療のSmn
2B/-マウス、野生型動物(群当たりマウスn=10)及び異なる用量のssAAV9-7212ベクターで治療したSmn
2B/-マウスの体重評価の図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、療法、より詳細にはSMAの治療のために有用な材料及び方法を提供する。より具体的には、本発明は、SMNタンパク質をコードする遺伝子等の目的の導入遺伝子の改善された発現に有用な調節エレメントの組合せを提供する。本発明の利点は、より詳細にはSMAの治療に関して示される。実際に、本発明者らは動物モデルSMAの生存の目覚ましい改善を示し、そのレベルは以前には報告されていなかった。
【0023】
発現カセット
本発明は、第1の態様では、
- PGKプロモーターと、
- ヒトβグロビン遺伝子由来の改変されたイントロン2/エキソン3配列と、
- SMNタンパク質をコードする目的のポリヌクレオチド配列と、
- ポリアデニル化シグナルと
を5'から3'までこの順番で含む、発現カセットに関する。
【0024】
PGKプロモーターは、Singerら、Gene、32 (1984)、409頁に記載されている。その配列は配列番号1に示される。予想外に、ヒトβ-グロビン遺伝子由来の改変されたイントロン2/エキソン3配列と組み合わされたPGKプロモーターは、SMN導入遺伝子等の目的の導入遺伝子に作動的に連結された場合、SMNタンパク質の発現のための他のユビキタスプロモーターと比較して、SMAのマウスモデルにおいて非常に良好な生存率を提供することが本明細書に示される。
【0025】
特定の実施形態では、PGKプロモーターは、配列番号1に示される配列と少なくとも80%同一である、特に配列番号1と少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%又は少なくとも99%同一であるヌクレオチド配列を有する、配列番号1に示される配列のバリアントである。本発明の文脈において、PGKプロモーターの機能的バリアントは、ヌクレオチド置換、付加又は欠失等の1つ又は複数のヌクレオチド改変によってそのPGKプロモーターに由来する配列であり、それに作動的に連結されたSMN導入遺伝子の同じ又は実質的に同じレベルの発現(例えば±20%、±10%、±5%又は±1%等)を生じる。
【0026】
発現カセットは、ヒトβグロビン遺伝子由来の改変されたイントロン2/エキソン3配列から構成される配列を含む。この配列はPGKプロモーターの3'及びSMNタンパク質をコードする導入遺伝子の5'に位置する。
【0027】
特定の実施形態では、ヒトβグロビン遺伝子由来の改変されたイントロン2/エキソン3配列は、配列番号12に示される配列を有するか、又は配列番号12に示される配列の機能的バリアントであり、その機能的バリアントは、配列番号12と少なくとも80%の同一性、特に配列番号12と少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%又は少なくとも99%の同一性を有する。本発明の文脈において、ヒトβグロビン遺伝子由来の改変されたイントロン2/エキソン3配列の機能的バリアントは、ヌクレオチド置換、付加又は欠失等の1つ又は複数のヌクレオチド改変によってその改変されたイントロン2/エキソン3配列に由来する配列であり、それに作動的に連結されたSMN導入遺伝子の同じ又は実質的に同じレベルの発現(例えば±20%、例えば±10%、±5%又は±1%)を生じる。
【0028】
本発明の発現カセットにおけるポリアデニル化シグナルは複数の遺伝子に由来してもよい。例示的なポリアデニル化シグナルには、限定されないが、SMN1遺伝子ポリアデニル化シグナル、ヒトβグロビン遺伝子(HBB)ポリアデニル化シグナル、ウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナル及びSV40ポリアデニル化シグナルが含まれる。特定の実施形態では、ポリアデニル化シグナルは、配列番号7及び配列番号8からなる群において選択される配列を有するHBBポリアデニル化シグナル等のHBBポリアデニル化シグナルである。
【0029】
特定の実施形態では、HBBポリアデニル化シグナルは配列番号7又は配列番号8に示される配列の機能的バリアントであり、その機能的バリアントは、配列番号7又は配列番号8と少なくとも80%の同一性、特に配列番号7又は配列番号8と少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%又は少なくとも99%の同一性を有する。本発明の文脈において、HBBポリアデニル化シグナルの機能的バリアントは、ヌクレオチド置換、付加又は欠失等の1つ又は複数のヌクレオチド改変によってそのHBBポリアデニル化シグナルに由来する配列であり、それに作動的に連結されたSMN導入遺伝子の同じ又は実質的に同じレベルの発現(例えば±20%、±10%、±5%又は±1%等)を生じる。
【0030】
もちろん、コザック配列(配列番号9に示される配列等)等の他の配列が当業者に公知であり、導入遺伝子の発現を可能にするように導入される。
【0031】
本明細書に開示される発現カセットは、組換えウイルスベクターへの発現カセットのパッケージングに好適な配列に隣接してもよい。例えば、発現カセットは、AAVベクターへのその更なるパッケージングのためにAAV 5'-ITR及びAAV 3'-ITRに隣接してもよいか、又はレンチウイルスベクター等のレトロウイルスベクターへのその更なるパッケージングのために5'-LTR及び3'-LTRに隣接してもよい。
【0032】
好ましい実施形態では、SMNタンパク質をコードする目的の導入遺伝子はヒトSMNタンパク質である。特定の実施形態では、ヒトSMNタンパク質をコードする核酸は、Genbank受託番号NM_000344.3を有する配列に由来する。特定の実施形態では、SMNタンパク質をコードする遺伝子は、配列番号2に示される配列からなるか、又はそれを含む。
【0033】
別の特定の実施形態では、SMNタンパク質、特にヒトSMNタンパク質をコードする導入遺伝子の配列は最適化される。配列最適化は、コドン最適化、GC含量の増加、CpG島の数の減少、選択的オープンリーディングフレーム(ARF)の数の減少並びに/又はスプライスドナー及びスプライスアクセプター部位の数の減少を含む、核酸配列における複数の変化を含んでもよい。遺伝コードの縮重のために、異なる核酸分子が同じタンパク質をコードすることがある。異なる生物の遺伝コードが、同じアミノ酸をコードするいくつかのコドンの1つをその他のものよりも使用する方に偏ることが多いことも周知である。コドン最適化によって、所与の細胞の状況において存在するコドンの偏りを利用する変化がヌクレオチド配列に導入され、それによって、得られたコドン最適化ヌクレオチド配列は、コドン非最適化配列と比較して、このような所与の細胞の状況において比較的高いレベルで発現しやすい。本発明の好ましい実施形態では、SMNタンパク質をコードするヌクレオチド配列を最適化したこのような配列は、同じタンパク質(例えばSMNタンパク質)をコードするコドン非最適化ヌクレオチド配列と比較して、例えば、ヒトの特定のコドン使用頻度の偏りを利用することによって、ヒト細胞における配列の発現を改善するようにコドン最適化されている。
【0034】
特定の実施形態では、最適化されたコーディング配列(例えばSMNコーディング配列)はコドンが最適化されており、並びに/又は野生型コーディング配列(配列番号2の野生型ヒトSMN1コーディング配列等)と比較して、GC含量が増加しており、並びに/又は選択的オープンリーディングフレームの数が減少しており、並びに/又はスプライスドナー及び/若しくはスプライスアクセプター部位の数が減少している。
【0035】
特定の実施形態では、SMNタンパク質をコードする核酸配列は、配列番号2に示される配列と少なくとも70%同一、特に少なくとも75%同一、少なくとも80%同一、少なくとも85%同一、少なくとも86%同一、少なくとも86%同一、少なくとも87%同一、少なくとも88%同一、少なくとも89%同一、少なくとも90%同一、少なくとも91%同一、少なくとも92%同一、少なくとも93%同一、少なくとも94%同一、少なくとも95%同一、少なくとも96%同一、少なくとも97%同一、少なくとも98%同一又は少なくとも99%同一である。
【0036】
上記で述べたように、GC含量及び/又はARFの数に加えて、配列最適化はまた、配列中のCpG島の数の減少並びに/又はスプライスドナー及びアクセプター部位の数の減少を含んでもよい。もちろん、当業者には周知であるように、配列最適化は、これらのパラメーター全ての間の調和であり、上記パラメーターの少なくとも1つが改善され、他のパラメーターの1つ又は複数が改善されていない場合、最適化された配列が、in vivoにおける導入遺伝子の発現改善及び/又は導入遺伝子に対する免疫応答の減少等の導入遺伝子の改善を導く限り、配列は最適化されたと考えてもよいことを意味する。
【0037】
更に、ヒト細胞のコドン使用頻度に対するSMNタンパク質をコードするヌクレオチド配列の適合性は、コドン適合係数(CAI)として表すことができる。本明細書では、コドン適合係数は、高度に発現したヒト遺伝子のコドン使用頻度に対するある遺伝子のコドン使用頻度の相対的適合性の測定値と定義する。各コドンの相対的適合性(w)とは、同じアミノ酸の最も豊富なコドンの使用頻度に対する各コドンの使用頻度の比である。CAIは、これらの相対的適合性の値の相乗平均と定義する。非同義コドン及び終止コドン(遺伝コードに左右される)は除外する。CAI値は、0~1の範囲で、値が高いほど最も豊富なコドンの割合が高いことを示している(Sharp and Li、1987、Nucleic Acids Research 15:1281~1295頁を参照のこと; また、Kimら、Gene. 1997、199:293~301頁; zur Megedeら、Journal of Virology、2000、74:2628~2635頁も参照のこと)。
【0038】
特定の実施形態では、目的の導入遺伝子はヒトSMNタンパク質をコードし、ヒトSMNタンパク質をコードする核酸配列は、配列番号3、配列番号4、配列番号5又は配列番号6に示される配列のような最適化された配列からなるか、又はそれを含む。
【0039】
本明細書に開示される発現カセットは、組換えウイルスベクターへの発現カセットのパッケージングに好適な配列に隣接してもよい。例えば、発現カセットは、AAVベクターへのその更なるパッケージングのためにAAV 5'-ITR及びAAV 3'-ITRに隣接してもよいか、又はレンチウイルスベクター等のレトロウイルスベクターへのその更なるパッケージングのために5'-LTR及び3'-LTRに隣接してもよい。
【0040】
組換えベクター
本発明の発現カセットは組換えベクターに含めることができる。それ故、本発明は更に、上記のような発現カセットを含む組換えベクターに関する。
【0041】
特定の実施形態では、組換えベクターはプラスミドベクターである。特に、プラスミドベクターは、上記のように組換えウイルスベクターへの発現カセットのパッケージングに好適な配列に隣接しているか、又は隣接していない発現カセットを含んでもよい。
【0042】
別の特定の実施形態では、ベクターは組換えウイルスベクターである。本発明の実施に有用な例示的なウイルスベクターには、限定されないが、アデノ随伴(AAV)ベクター、レンチウイルスベクター及びアデノウイルスベクターが含まれる。
【0043】
別の特定の実施形態では、本発明の組換えベクターは組換えAAV(rAAV)ベクターである。
【0044】
ヒトパルボウイルスアデノ随伴ウイルス(AAV)は、生来、複製に欠陥があるディペンドウイルスであり、それは潜伏感染を確立するために感染細胞のゲノムに組み込むことができる。AAVベクターは、ヒト遺伝子療法のための可能性のあるベクターとしてかなりの関心を集めている。ウイルスの有益な特性の中には、いずれかのヒト疾患との関連性の欠如、分裂及び非分裂細胞の両方に感染する能力、並びに感染されうる異なる組織に由来する広範囲の細胞株がある。
【0045】
本発明の文脈において、「アデノ随伴ウイルス」(AAV)及び「組換えアデノ随伴ウイルス」(rAAV)という用語は、本明細書において交換可能に使用され、野生型(wt)AAVゲノムと比較して、wtゲノムの一部と目的の導入遺伝子との置換によって、ゲノムが改変されたAAVを指す。「導入遺伝子」という用語は、核酸配列がAAVゲノムにおいて天然には存在しない遺伝子を指す。特に、rAAVベクターが遺伝子療法に使用される。本明細書で使用される場合、「遺伝子療法」という用語は、遺伝性又は後天性の疾患又は状態を治療又は予防するための宿主への目的の遺伝物質(例えば、DNA又はRNA)の移入を指す。目的の遺伝物質は、産生がin vivoで所望される産物(例えば、ポリペプチド又は機能的RNA)をコードする。例えば、目的の遺伝物質は、治療的価値のあるホルモン、受容体、酵素又はポリペプチドをコードすることができる。或いは、目的の遺伝物質は、治療的価値のあるアンチセンスRNA又はshRNA等の、治療的価値のある機能的RNAをコードすることができる。
【0046】
組換えAAVは、核酸配列の細胞特異的送達のため、免疫原性を最小化するため、安定性及び粒子寿命を調整するため、効果的な分解のため、核への正確な送達のためにこれらの粒子を最適化することを可能にする、従来の分子生物学的技術を使用して操作することができる。ベクターへのアセンブリのために望ましいAAVエレメントには、vp1、vp2、vp3及び超可変領域を含むcapタンパク質、rep78、rep68、rep52及びrep40を含むrepタンパク質、並びにこれらのタンパク質をコードする配列が含まれる。これらのエレメントは様々なベクター系及び宿主細胞に容易に使用することができる。
【0047】
本発明では、AAVベクターのキャプシドは天然に存在する又は天然に存在しない血清型に由来してもよい。特定の実施形態では、AAVベクターのキャプシドの血清型はAAV天然血清型から選択される。AAV天然血清型を使用する代わりに、本発明の文脈において、限定されないが、天然に存在しないキャプシドタンパク質を有するAAVを含む人工AAV血清型を使用してもよい。このような人工キャプシドは、異なる選択されたAAV血清型、同じAAV血清型の非隣接部分から、非AAVウイルス源から、又は非ウイルス源から得ることができる異種配列と組み合わせて選択されたAAV配列(例えば、vp1キャプシドタンパク質の断片)を使用して任意の好適な技術によって生成することができる。人工AAV血清型由来のキャプシドは、限定されないが、キメラAAVキャプシド、組換えAAVキャプシド又は「ヒト化」AAVキャプシドであってもよい。
【0048】
特定の実施形態によれば、AAVベクターのキャプシドは、AAV-1、-2、AAV-2バリアント(Lingら、2016年7月18日、Hum Gene Ther Methods. [Epub ahead of print]に開示されている、Y44+500+730F+T491V変化を有する操作されたキャプシドを含む四重突然変異体キャプシド最適化AAV-2等)、-3及びAAV-3バリアント(Vercauterenら、2016、Mol. Ther. Vol. 24(6)、1042頁に開示されている、2つのアミノ酸変化、S663V+T492Vを有する操作されたAAV3キャプシドを含むAAV3-STバリアント等)、-3B及びAAV-3Bバリアント、-4、-5、-6及びAAV-6バリアント(Rosarioら、2016、Mol Ther Methods Clin Dev. 3、16026頁に開示されている、三重突然変異したAAV6キャプシドY731F/Y705F/T492V形態を含むAAV6バリアント等)、-7、-8、-9及びAAV-9バリアント(AAVhu68等)、-2G9、-10、例えば、-cy10及び-rh10、-11、-12、-rh39、-rh43、-rh74、-dj、Anc80L65、LK03、AAV.PHP.B、AAV2i8、AAVpo4及びAAVpo6等のブタAAV、並びにAAV血清型のチロシン、リジン及びセリンキャプシド突然変異体のものである。更に、シャフリング、論理的設計、エラープローンPCR及び機械学習技術によって得られる、他の非天然の操作されたバリアント(AAV-spark100等)、キメラAAV又はAAV血清型のキャプシドも有用でありうる。
【0049】
特定の実施形態では、AAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV-cy10、AAVrh10、AAV11及びAAV12キャプシド等の天然に存在するキャプシドを有する。特定の実施形態では、AAVベクターのキャプシドはAAV9又はAAVrh10キャプシドから選択される。
【0050】
特定の実施形態では、AAVベクターは、運動ニューロン、グリア細胞、筋細胞及び/又は心臓細胞に対して高い向性を有するAAVベクターである。この実施形態のバリアントでは、AAVベクターは、AAV8、AAV9、AAVrh10、PHP.B又はAAV Anc80L65キャプシドを有する。
【0051】
本発明の特定の実施形態では、rAAVベクターはAAV9又はAAVrh10キャプシドを含んでもよい。このようなベクターは本明細書において、rAAVベクターに含まれるゲノムが由来する血清型とは関係なく、それぞれ「AAV9ベクター」又は「AAVrh10ベクター」と呼ばれる。従って、AAV9ベクターは、AAV9キャプシド及びAAV9由来のゲノム(すなわち、AAV9 ITRを含む)を含むベクター又はAAV9キャプシド及びAAV9血清型と異なる血清型に由来するゲノムを含むシュードタイプ化ベクターであってもよい。同様に、AAVrh10ベクターは、AAVrh10キャプシド及びAAVrh10由来のゲノム(すなわち、AAVrh10 ITRを含む)を含むベクター又はAAVrh10キャプシド及びAAVrh10血清型と異なる血清型に由来するゲノムを含むシュードタイプ化ベクターであってもよい。
【0052】
本発明のrAAVベクター内に存在するゲノムは一本鎖又は自己相補的であってもよい。本発明の文脈において、「一本鎖ゲノム」は自己相補的ではないゲノムであり、すなわち、その中に含まれるコーディング領域は、分子内二本鎖DNA鋳型を形成するためにMcCartyら、2001及び2003(前掲)に開示されているようには設計されていない。対照的に、「自己相補的AAVゲノム」は、分子内二本鎖DNA鋳型を形成するためにMcCartyら、2001及び2003(前掲)に開示されているように設計されている。
【0053】
特定の実施形態では、rAAVゲノムは一本鎖ゲノムである。
【0054】
rAAVベクター内に存在するゲノムは好ましくはAAV rep及びcap遺伝子であってもよく、目的の導入遺伝子を含む。従って、AAVゲノムは、AAV ITRに隣接している目的の導入遺伝子を含んでもよい。ITRは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV-cy10、AAVrh10、AAV11又はAAV12ゲノム等の任意のAAVゲノムに由来してもよい。特定の実施形態では、AAVベクターのゲノムは5'-及び3'-AAV2 ITRを含む。
【0055】
AAV血清型キャプシド及びITRの任意の組合せが本発明の文脈において実施されてもよく、このことは、AAVベクターが、同じAAV血清型に由来するキャプシド及びITR、又は第1の血清型に由来するキャプシド及び第1の血清型と異なる血清型に由来するITRを含んでもよいことを意味する。異なる血清型に由来するキャプシドITRを有するこのようなベクターはまた、「シュードタイプ化ベクター」とも呼ばれる。より詳細には、シュードタイプ化rAAVベクターには以下が含まれうる:
- AAV1 5'-及び3'-ITR、並びにAAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVrh10、AAV11及びAAV12キャプシドからなる群において選択されるキャプシドを含むゲノム;
- AAV2 5'-及び3'-ITR、並びにAAV1、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVrh10、AAV11及びAAV12キャプシドからなる群において選択されるキャプシドを含むゲノム;
- AAV3 5'-及び3'-ITR、並びにAAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVrh10、AAV11及びAAV12キャプシドからなる群において選択されるキャプシドを含むゲノム;
- AAV4 5'-及び3'-ITR、並びにAAV1、AAV2、AAV3、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVrh10、AAV11及びAAV12キャプシドからなる群において選択されるキャプシドを含むゲノム;
- AAV5 5'-及び3'-ITR、並びにAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVrh10、AAV11及びAAV12キャプシドからなる群において選択されるキャプシドを含むゲノム;
- AAV6 5'-及び3'-ITR、並びにAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV7、AAV8、AAV9、AAVrh10、AAV11及びAAV12キャプシドからなる群において選択されるキャプシドを含むゲノム;
- AAV7 5'-及び3'-ITR、並びにAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV8、AAV9、AAVrh10、AAV11及びAAV12キャプシドからなる群において選択されるキャプシドを含むゲノム;
- AAV8 5'-及び3'-ITR、並びにAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV9、AAVrh10、AAV11及びAAV12キャプシドからなる群において選択されるキャプシドを含むゲノム;
- AAV9 5'-及び3'-ITR、並びにAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAVrh10、AAV11及びAAV12キャプシドからなる群において選択されるキャプシドを含むゲノム;
- AAVrh10 5'-及び3'-ITR、並びにAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV11及びAAV12キャプシドからなる群において選択されるキャプシドを含むゲノム;又は
- AAV11 5'-及び3'-ITR、並びにAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVrh10及びAAV12キャプシドからなる群において選択されるキャプシドを含むゲノム。
【0056】
特定の実施形態では、シュードタイプ化rAAVベクターは、ゲノム、特に、AAV2 5'-及び3'-ITR、並びにAAV1、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVrh10、AAV11及びAAV12キャプシドからなる群において選択されるキャプシドを含む一本鎖ゲノムを含む。別の特定の実施形態では、シュードタイプ化rAAVベクターは、ゲノム、特に、AAV2 5'-及び3'-ITR、並びにAAV9及びAAVrh10キャプシドからなる群において選択されるキャプシドを含む一本鎖ゲノムを含む。
【0057】
特定の実施形態では、特に、ゲノムが一本鎖AAVゲノム(上記に説明したように自己相補的ではない)であるバリアントにおいて、発現カセットは、2100から4400ヌクレオチドの間、特に2700から4300ヌクレオチドの間、より詳細には3200から4200ヌクレオチドの間に含まれるサイズを有する。特定の実施形態では、発現カセットのサイズは、約3200ヌクレオチド、約3300ヌクレオチド、約3400ヌクレオチド、約3500ヌクレオチド、約3600ヌクレオチド、約3700ヌクレオチド、約3800ヌクレオチド、約3900ヌクレオチド、約4000ヌクレオチド、約4100ヌクレオチド、又は約4200ヌクレオチドである。
【0058】
本発明によれば、数値を指す場合、「約」という用語は、この数値のプラス又はマイナス5%を意味する。
【0059】
別の態様では、本発明は本発明のrAAVゲノムを含むDNAプラスミドを提供する。rAAVの産生は、以下の成分:rAAVゲノム、rAAVゲノムから分離した(すなわち、rAAVゲノム中にはない)AAV rep及びcap遺伝子、並びにヘルパーウイルス機能が単一細胞(本明細書では、パッケージング細胞と示す)内に存在することを必要とする。シュードタイプ化rAAVの産生は、例えば、WO01/83692に開示されている。産生は、2、3又はそれ以上のプラスミドによる細胞のトランスフェクションを実施してもよい。例えば、(i)Rep/Capカセットを有するプラスミド、(ii)rAAVゲノム(すなわち、AAV ITRに隣接した導入遺伝子)を有するプラスミド、及び(iii)ヘルパーウイルス機能(アデノウイルスヘルパー機能等)を有するプラスミドを含む3つのプラスミドを使用してもよい。別の実施形態では、(i)Rep及びCap遺伝子及びヘルパーウイルス機能を含むプラスミド、並びに(ii)rAAVゲノムを含むプラスミドを含む2プラスミド系を使用してもよい。
【0060】
更なる態様では、本発明は、本発明の単離された核酸構築物を含むプラスミドに関する。このプラスミドは、rAAVゲノムを細胞に提供することによって本発明によるrAAVベクターを産生するために前記細胞に導入されてもよい。
【0061】
パッケージング細胞を生成する方法は、AAV粒子産生のために必要な成分全てを安定して発現する細胞株を作出することである。例えば、AAV rep及びcap遺伝子を欠如したrAAVゲノムを含む1つのプラスミド(又は複数のプラスミド)、rAAVゲノムから分離したAAV rep及びcap遺伝子並びにネオマイシン耐性遺伝子等の選択マーカーを細胞のゲノムに組み込む。AAVゲノムは、GCテーリング(Samulskiら、1982、Proc. Natl. Acad. S6. USA、79:2077~2081頁)、制限エンドヌクレアーゼ切断部位を含有する合成リンカーの付加(Laughlinら、1983、Gene、23:65~73頁)等の手法によって、又は平滑末端直接連結(Senapathy & Carter、1984、J. Biol. Chem.、259:4661~4666頁)によって、細菌プラスミドに導入されている。この方法の利点は、細胞が選択可能で、rAAVの大規模産生のために好適であることである。好適な方法の他の例は、rAAVゲノム並びに/又はrep及びcap遺伝子をパッケージング細胞に導入するために、プラスミドよりもアデノウイルス又はバキュロウイルスを利用する。
【0062】
rAAV産生の一般的原理は、例えば、Carter、1992、Current Opinions in Biotechnology、1533~539頁及びMuzyczka、1992、Curr. Topics in Microbial, and Immunol.、158:97~129頁に概説されている。様々なアプローチが、Ratschinら、Mol. Cell. Biol. 4:2072頁(1984);Hermonatら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:6466頁(1984);Tratschinら、Mol. Cell. Biol. 5:3251頁(1985);McLaughlinら、J. Virol.、62: 1963頁(1988);及びLebkowskiら、1988 Mol. Cell. Biol.、7:349頁(1988);Samulskiら (1989、J. Virol.、63:3822~3828頁);米国特許第5,173,414号;WO95/13365及び対応する米国特許第5,658.776号;WO95/13392;WO96/17947;PCT/US98/18600;WO97/09441(PCT/US96/14423);WO97/08298(PCT/US96/13872);WO97/21825(PCT/US96/20777);WO97/06243(PCT/FR96/01064);WO99/11764;Perrinら(1995) Vaccine 13: 1244~1250頁;Paulら(1993) Human Gene Therapy 4:609~615頁;Clarkら(1996) Gene Therapy 3:1124~1132頁;米国特許第5,786,211号;米国特許第5,871,982号;及び米国特許第6,258,595号に記載されている。それ故、本発明はまた、感染性rAAVを産生するパッケージング細胞も提供する。一実施形態では、パッケージング細胞は、HeLa細胞、HEK293細胞、HEK293T、HEK293vc及びPerC.6細胞(同種293系)等の、安定に形質転換したがん細胞であってもよい。別の実施形態では、パッケージング細胞は、継代数の少ない293細胞(アデノウイルスのE1で形質転換したヒト胎児腎細胞)、MRC-5細胞
(ヒト胎児線維芽細胞)、WI-38細胞(ヒト胎児線維芽細胞)、Vero細胞(サル腎細胞)及びFRhL-2細胞(アカゲザル胎児肺細胞)等の形質転換したがん細胞ではない細胞である。
【0063】
rAAVは、カラムクロマトグラフィー又は塩化セシウム勾配等の当該分野において標準的な方法によって精製することができる。ヘルパーウイルスからrAAVベクターを精製するための方法は当該分野において公知であり、例えば、Clarkら、Hum. Gene Ther.、10(6): 1031~1039頁(1999);Schenpp及びClark、Methods Mol. Med.、69: 427~443頁(2002);米国特許第6,566,118号並びにWO98/09657に開示されている方法を含む。
【0064】
別の態様では、本発明は本出願に開示されているrAAVを含む組成物を提供する。本発明の組成物は、薬学的に許容される担体中にrAAVを含む。組成物はまた、希釈剤及びアジュバント等の他の成分を含んでもよい。許容される担体、希釈剤及びアジュバントは、レシピエントに対して無毒で、利用される投薬量及び濃度では好ましくは不活性であり、リン酸、クエン酸若しくは他の有機酸等の緩衝剤、アスコルビン酸等の抗酸化剤、低分子量ポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチン若しくはイムノグロブリン等のタンパク質、ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン若しくはリジン等のアミノ酸、グルコース、マンノース若しくはデキストリンを含む単糖類、二糖類及び他の炭水化物、EDTA等のキレート剤、マンニトール若しくはソルビトール等の糖アルコール、ナトリウム等の塩形成対イオン、及び/又はTween、プルロニック(登録商標)若しくはポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン性界面活性剤を含む。
【0065】
本発明の治療的使用
本発明のおかげで、目的のSMNタンパク質をコードする導入遺伝子を、脊髄性筋萎縮症(SMA)を治療するために目的の組織内で効率的に発現することができ、例えばSMAは、乳児SMA、中間型SMA、若年性SMA又は成人発症型SMAである。
【0066】
従って、本発明は、療法に使用するための、本明細書に開示されているベクターに関する。
【0067】
目的の導入遺伝子がSMNタンパク質をコードする特定の実施形態では、前記導入遺伝子は、脊髄運動ニューロン(すなわち、体細胞が脊髄内にある運動ニューロン)及び脊髄グリア細胞等の下位運動ニューロンに送達されうる。この実施形態では、本発明のベクターはSMAを治療するための方法に使用されうる。特定の実施形態では、SMAは、新生児SMA、乳児SMA、中間型SMA、若年性SMA又は成人発症型SMAである。
【0068】
好ましい実施形態では、本発明のベクターは、目的の導入遺伝子としてSMNタンパク質をコードする遺伝子を含む一本鎖ゲノム等の、上記に定義されるゲノムを含むAAV9又はAAVrh10ベクターであってもよい。
【0069】
本発明による使用のためのベクターは、全身同時送達の有無にかかわらず、局所的に投与してもよい。本発明の文脈において、局所投与はrAAVベクターのくも膜下腔内注射等を介した、対象の脳脊髄液への投与を意味する。一部の実施形態では、この方法は更に、有効量のベクターの脳内投与による投与を含む。一部の実施形態では、ベクターはくも膜下腔内投与及び脳内投与によって投与してもよい。一部の実施形態では、ベクターは、くも膜下腔内及び/又は脳内及び/又は末梢(血管、例えば、静脈内又は動脈内、特に静脈内等)投与の併用によって投与してもよい。
【0070】
本明細書で使用される場合、「くも膜下腔内投与」という用語は、本発明によるベクター又は本発明のベクターを含む組成物の脊柱管への投与を指す。例えば、くも膜下腔内投与は、脊柱管の頸部領域、脊柱管の胸部領域、又は脊柱管の腰部領域への注射を含むことができる。典型的に、くも膜下腔内投与は、薬剤、例えば、本発明のベクターを含む組成物を、脊柱管のくも膜と軟膜との間の領域である、脊柱管のくも膜下腔(subarachnoid cavity)(くも膜下腔(subarachnoid space))に注射することによって実施する。くも膜下腔は、小柱(くも膜から延び、軟膜に入り込む繊細な結合組織繊維)及び脳脊髄液が含有される相互連絡するチャネルからなる海綿状組織によって占有されている。一部の実施形態では、くも膜下腔内投与は、脊髄の脈管構造への投与ではない。ある特定の実施形態では、くも膜下腔内投与は対象の腰部領域内である。
【0071】
本明細書で使用される場合、「脳内投与」という用語は、薬剤の脳内及び/又は脳周囲への投与を指す。脳内投与には、限定されないが、薬剤の大脳、髄質、脳橋、小脳、頭蓋腔及び脳の周囲の髄膜への投与を含む。脳内投与は、脳の硬膜、くも膜及び軟膜への投与を含んでもよい。脳内投与には、一部の実施形態では、薬剤の脳の周囲のくも膜下腔の脳脊髄液(CSF)への投与を含んでもよい。脳内投与は、一部の実施形態では、薬剤の脳/前脳の脳室、例えば、右側脳室、左側脳室、第3脳室、第4脳室への投与を含んでもよい。一部の実施形態では、脳内投与は、脳の脈管構造への投与ではない。
【0072】
一部の実施形態では、脳内投与は、定位固定手法を使用した注射を含む。定位固定手法は当該分野において周知であり、典型的には、注射を特定の脳内領域、例えば、脳室領域に導くために一緒に使用されるコンピュータ及び3次元走査装置の使用を含む。微量注入ポンプ(例えば、World Precision Instruments社製)も使用することができる。一部の実施形態では、本発明のベクターを含む組成物を送達するために微量注入ポンプが使用される。一部の実施形態では、組成物の注入速度は、1μl/分から100μl/分の範囲内である。当業者に理解されるように、注入速度は、例えば、対象の種、対象の年齢、対象の体重/大きさ、ベクターの種類(すなわち、プラスミド又はウイルスベクター、ウイルスベクターの種類、rAAVベクターの場合、ベクターの血清型)、必要な投薬量、標的とする脳内領域等を含む様々な要因に依存する。それ故、ある特定の環境では、当業者は他の注入速度が適切であると判断することがある。
【0073】
更に、ある特定のrAAVベクター(例えば、rAAV9又はrAAVrh10ベクター)によって誘発される血液脳関門を横断する能力のおかげで、全身経路を介する投与を考慮することができる。従って、rAAVベクターの投与方法には、限定されないが、筋肉内、腹腔内、血管(例えば、静脈内又は動脈内)、皮下、鼻腔内、硬膜外及び経口経路が含まれる。特定の実施形態では、全身投与は、rAAVベクターの血管注射、特に静脈内注射である。
【0074】
特定の実施形態では、ベクターは脳脊髄液内に、特にくも膜下腔内注射によって投与される。特定の実施形態では、患者は、rAAVベクターのくも膜下腔内送達後、トレンデレンブルグ体位にされる。
【0075】
SMAの治療に有効である本発明のベクターの量は、標準的な臨床技術によって決定することができる。更に、最適な投薬量範囲の予測に役立てるために、in vivo及び/又はin vitroアッセイを任意選択で利用することができる。本発明のベクターを必要とする対象に投与される本発明のベクターの投薬量は、限定されないが、治療される疾患の特定の種類又は段階、対象の年齢又は治療効果を得るために必要な発現のレベルを含むいくつかの要因に基づいて変化する。当業者は、この分野における知識に基づいて、これらの要因及びその他に基づいて必要な投薬量範囲を容易に決定することができる。AAVベクターの典型的な用量は、体重キログラム当たり少なくとも1×108ベクターゲノム(vg/kg)、例えば、少なくとも1×109vg/kg、少なくとも1×1010vg/kg、少なくとも1×1011vg/kg、少なくとも1×1012vg/kg、少なくとも1×1013vg/kg、少なくとも1×1014vg/kg又は少なくとも1×1015vg/kgである。
【実施例】
【0076】
(実施例1)
SMAのマウスモデルの生存が、上記に定義されるPGKプロモーター及びヒトβグロビン遺伝子由来の改変されたイントロン2/エキソン3配列に作動可能に連結されたヒトSMN1遺伝子を有するAAVベクターの投与後、調節エレメントの他の組合せを含むAAVベクターと比較して、予測を超えて大いに改善されることを本明細書で実証する。
【0077】
材料及び方法
ベクター産生
使用する本発明によるAAVベクター(7212ベクターとも称される)は、PGKプロモーター、ヒトβグロビン遺伝子由来の改変されたイントロン2/エキソン3配列及びHBB遺伝子由来のポリA領域の制御下でヒトSMN1遺伝子を有する一本鎖組換えAAV9ベクターである。
【0078】
ssAAV9ベクターは、標準的な手法を使用する3トランスフェクション系(Xiaoら、J. Virol.1998;72:2224~2232頁)によって産生した。シュードタイプ化組換えrAAV2/9(rAAV9)ウイルス調製物は、AAV2逆位末端反復(ITR)組換えゲノムのAAV9キャプシドへのパッケージングによって生成した。簡単に説明すると、PGK-hSMN1構築物を有するシス作用プラスミド、ベクターの複製及び構造に必要なタンパク質をコードするトランス補完rep-cap9プラスミド、並びにアデノウイルスヘルパープラスミドをHEK293細胞にコトランスフェクトした。ベクター粒子は、2回連続した塩化セシウム勾配超遠心及び滅菌PBS-MKに対する透析によって精製した。DNAse I耐性ウイルス粒子は、プロテイナーゼKで処理した。ウイルス力価は、TaqManリアルタイムPCRアッセイ(Applied Biosystem社)によってポリA領域に特異的なプライマー及びプローブを用いて定量し、ml当たりウイルスゲノム(vg/ml)として表現した。
【0079】
このベクターを、以下のエレメントを含む一本鎖ゲノムを有するAAVベクターと比較した:
- ベクター7209:CAGプロモーター(ハイブリッドCMVエンハンサー/ニワトリ-β-アクチンプロモーター及びベータ-グロビンスプライスアクセプター部位)、ヒトSMN1遺伝子、ヒトSMN1 3'-UTR及びHBB遺伝子由来のポリA領域を有するプラスミド、
- ベクター7210:CAGプロモーター、ヒトSMN1遺伝子及びHBB遺伝子由来のポリA領域を有する実施例1のベクター、
- ベクター7211:CAGプロモーター、ヒトSMN1遺伝子、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)及びHBB遺伝子由来のポリA領域を有するベクター。
【0080】
動物
Smn2B/-マウスは、Smn2B/2Bホモ接合体(Rashmi Kothary, Ottawa, Ontario, Canadaから恵与された)及びSmn+/-ヘテロ接合体マウス(Jackson Laboratories)を交雑して2つのコロニーによって得られ、交配してSmn2B/+及びSmn2B/-マウスを生成した。同腹仔は出生時に遺伝子型を同定した。マウスは12時間明12時間暗サイクル下に維持し、Diet Recoveryゲルを補給した標準食を与え、食物及び水は不断給餌した。マウスの世話及び処置は、動物実験法に関する国内及び欧州の法令に従って実施し、施設内倫理委員会によって承認された。
【0081】
in vivoでの遺伝子療法
Smn2B/-マウスは、出生時(P0)に脳室内(ICV)注射によってウイルス粒子で治療した;ssAAV9-hSMN1(8×10e12vg/kg、全体積7μl)を右側脳室に投与した。対照Smn2B/+同腹仔及び野生型マウスには、出生時に同じ手法を使用してPBS-MK(MgCl2 1mM、KCl 2.5mM)7μlを与えた。
【0082】
【0083】
この研究の目的は、脊髄性筋萎縮症のマウスモデルにおいてヒトSMN1を発現する一本鎖(ss)AAV9ベクターの治療有効性を評価することである。本発明者らは、Smn2B/-新生仔マウスに脳室内(ICV)投与した4つのssAAV9-hSMN1ベクターの効果を、注射後21日目及び90日目に比較した。
【0084】
本発明者らは異なるパラメーター:
- 生存、
- 体重、
- 脊髄運動ニューロンの計数
を分析した。
【0085】
野生型ヒトSMN1コーディング配列(NCBI参照配列:NM_000344.3)及び異なるプロモーター及び調節配列を含有する4つのssAAV9-hSMN1ベクター(7209、7210、7211及び7212、後者は本発明によるものである)及び1つのssAAVrh10-hSMN1ベクターは、HEK293細胞において3トランスフェクション系によって産生した。
【0086】
本発明者らは、このベクターをSmn2B/-新生仔マウスの脳脊髄液に投与した(出生後日数0~1日-P0/1、ICV注射による)。Smn2B/-マウスは、約15日齢で体重減少及び疾患の臨床徴候を伴う重篤な表現型を発症し、本発明者らのコロニーのSmn2B/-マウスの現在の平均生存期間は26日である(Bowermannら、Neuromusc Disord 2012年3月;22(3):263~76頁によって開発されたマウス系統)。
【0087】
Smn2B/-マウスは、出生時(P0)に脳室内(ICV)注射によってウイルス粒子で治療した;ssAAV9-hSMN1(8×10e12vg/kg、全体積7μl)を右側脳室に投与した。対照Smn2B/+同腹仔及び野生型マウスには、出生時に同じ手法を使用してPBS-MK(MgCl2 1mM、KCl 2.5mM)7μlを与えた。in vivoでのプロトコールは、治療後の突然変異マウスの寿命を対象と比較して評価するために設計した。動物の群(3系列、群当たりマウスn=10)を使用して、治療したSmn2B/-マウスの平均余命を注射していない突然変異マウスと比較して分析した。
【0088】
未治療のSmn2B/-マウスは約26日齢の平均寿命を有した(n=20)。対照的に、ssAAV-hSMN1ベクターの注射は、平均寿命に差があるが、Smn2B/-マウスの寿命を延ばすことができた(各群当たりn=10):
- ssAAV9 7210:228日
- ssAAV9 7209:335日
- ssAAV 7212:50%超のマウスが575日でも生存しているため未確定
- ssAAVrh10 7210:209日
- ssAAV9 7211:103日。
【0089】
575日目に、ssAAV9-7212で治療したマウス(n=10)の70%がまだ生存しており、本発明のrAAVベクターのおかげで生存の目覚ましい改善が得られることが示された。
【0090】
図2は、本発明のベクターで治療したマウスの体重が、未治療のマウスと比較して非常に改善されていることを示す。
【0091】
更に、連続冠状クリオスタット(16μm厚)切片をクリオスタットによって収集し、抗ChAT(コリンアセチルトランスフェラーゼ)染色のために処理した。両側の計数を腰部断片に沿って実施した:ChAT+シグナルを示した脊髄の薄片8及び9(前角)における大きな細胞体のみを運動ニューロンとみなした。
【0092】
【0093】
結論として、本発明の発現カセットは、導入遺伝子の発現に特に効率的であると報告された調節エレメントを含む他の発現カセットと比較して、治療後、寿命の明らかな延長を提供する。この結果は、これらの調節エレメントに関して入手可能である以前の刊行物からは全く予想外であった。
【0094】
(実施例2)
Smn2B/-マウスは、約15日齢で体重減少及び疾患の臨床徴候を伴う重篤な表現型を発症し、本発明者らのコロニーのSmn2B/-マウスの現在の平均生存期間は26日である(Bowermannら、Neuromusc Disord 2012年3月;22(3):263~76頁によって開発されたマウス系統)。Smn2B/-マウスは、出生時(P0)に右側脳室への脳室内(ICV)注射(全体積7μl)によってウイルス粒子で治療した。in vivoでのプロトコールは、治療後の突然変異Smn2B/-マウス(群当たりマウスn=10)の寿命を、注射していない突然変異マウスと比較して評価するために設計した。
【0095】
ssAAV9 7212の単回のICV注射を使用して増加した生存についての最小有効用量を決定するために、本発明者らは3つの用量を試験した:
- 2e12 VG/Kg(低用量)
- 8e12 VG/Kg(中用量)
- 3e13 VG/Kg(高用量)。
【0096】
図3は、治療後、寿命の明らかな延長を伴う、治療及び未治療Smn
2B/-マウス及び野生型動物の生存率を示す。データ収集の時点で、本発明者らは、治療していないSmn
2B/-マウス(26日)についてのみの平均生存期間を算出することができたが、これは、ssAAV9で治療したSmn
2B/-マウスの50%超が注射後155~180日でも生存していたからである。
【0097】
図4は、体重増加が注射した用量と部分的に相関する、治療したSmn
2B/-マウス及び野生型動物の体重の増加を示す(多重T検定;エラーバー=SEM;群当たり14<N<24)。
【0098】
結論
出生時(P0)の単回ICV注射後のssAAV9-7212の最小有効用量を決定するために、本発明者らはベクターの用量応答研究を実施した。生存及び体重増加を1週間に2回モニターし、治療していないSmn2B/-マウスの平均生存期間と比較した。本発明者らは、試験した用量の全てが生存率を増加させることを示し、SMA表現型を救済する有効性を確認する。
【配列表】
【国際調査報告】