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特表2022-516025遺伝子的に改変されたCLOSTRIDIUM細菌の、調製およびその使用。
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-24
(54)【発明の名称】遺伝子的に改変されたCLOSTRIDIUM細菌の、調製およびその使用。
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/11 20060101AFI20220216BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220216BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20220216BHJP
   C12N 15/63 20060101ALN20220216BHJP
   C12P 7/04 20060101ALN20220216BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20220216BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C12N1/21
C12N15/09 110
C12N15/63 Z
C12P7/04
C12N15/54
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021536334
(86)(22)【出願日】2019-12-20
(85)【翻訳文提出日】2021-08-12
(86)【国際出願番号】 FR2019053227
(87)【国際公開番号】W WO2020128379
(87)【国際公開日】2020-06-25
(31)【優先権主張番号】1873492
(32)【優先日】2018-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521268923
【氏名又は名称】イエフペ・エネルジ・ヌーヴェル
【氏名又は名称原語表記】IFP Energies nouvelles
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【弁理士】
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【弁理士】
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】オック,レミ
(72)【発明者】
【氏名】シャルティエ,グラディス
(72)【発明者】
【氏名】ヴァゼル,フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】ロペス フェレイラ,ニコラ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AC02
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA16
4B065AA23X
4B065AA23Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA05
4B065CA60
(57)【要約】
本発明は、Clostridium属の細菌、典型的にはClostridium属の溶媒生産細菌であって、特に野生型においてアンフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子を有する細菌、の遺伝子的な改変に関する。そのため、本発明はかかる遺伝的改変、特に、アンフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼをコードする配列、またはその転写を制御する配列の除去または改変を可能にする方法、ツール、およびキット、得られた遺伝子的に改変された細菌、ならびにその使用、特に溶媒の生産、好ましくは工業的規模においての溶媒の生産に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Clostridium属細菌のゲノム内で、配列番号18の配列のcatB遺伝子、またはそれと少なくとも70%同一である配列を認識する核酸。
【請求項2】
該核酸が、発現カセットおよびベクター、好ましくはプラスミドから選択されることを特徴とする、請求項1に記載の核酸。
【請求項3】
該核酸がガイドRNA(gRNA)および/または改変テンプレートを含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の核酸。
【請求項4】
該Clostridium細菌が野生型でイソプロパノールを生産し得る細菌であることを特徴とする、請求項1-3の何れか1項に記載の核酸。
【請求項5】
該Clostridium細菌が、サブクレードがDSM6423、LMG7814、LMG7815、NRRL B-593、NCCB27006、およびDSM6423菌株と少なくとも95%の同一性を有するサブクレードから選択されたC.beijerinckii細菌であることを特徴とする、請求項1-4の何れか1項に記載の核酸。
【請求項6】
配列番号21の配列のプラスミドpCas9ind-ΔcatB、または配列番号38の配列のプラスミドpCas9ind-gRNA_catBであることを特徴とする請求項2-5の何れか1項に記載の核酸。
【請求項7】
野生型でイソプロパノールを生産し得るClostridium細菌を形質転換する、および/また遺伝子的に改変するための、請求項2-6の何れか1項に記載の核酸の使用。
【請求項8】
配列番号18の配列のcatB遺伝子、またはそれと少なくとも70%同一である配列をC.beijerinckii DSM6423のゲノム内で認識する核酸の、C.beijerinckii DSM6423細菌を形質転換する、および/または遺伝子的に改変するための使用。
【請求項9】
該核酸が、Dam-およびDcm-型メチルトランスフェラーゼによって認識されるモチーフにおいてメチル化を示さない、DSM6423、LMG7814、LMG7815、NRRL B-593、NCCB27006、およびDSM6423菌株と、少なくとも95%、好ましくは97%、の同一性を示すサブクレード、から選択されたC.beijerinckiiサブクレード、を形質転換するための、請求項1-6の何れか1項に記載の核酸の使用。
【請求項10】
遺伝子改変ツールによってClostridium属の細菌を形質転換する、および好ましくは遺伝子的に改変するための方法であって、該細菌に請求項1-6の何れか1項に記載の核酸を導入することによって該細菌を形質転換するステップを含むことを特徴とする、方法。
【請求項11】
該細菌が、アンフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼをコードする、またはその転写を調節する標的配列の少なくとも1本の鎖の切断を担う酵素を用いたCRISPRツールによって形質転換されることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項10または11に記載の方法によって得られた、遺伝子的に改変されたClostridium属の細菌。
【請求項13】
番号LMG P-31151において寄託された、C.beijerinckii DSM6423 ΔcatB細菌。
【請求項14】
請求項12に記載の遺伝子的に改変された細菌、または番号LMG P-31151において寄託された、請求項13に記載のC.beijerinckii DSM6423 ΔcatB細菌の、溶媒、好ましくはイソプロパノール、または溶媒混合物を生産するための、好ましくは工業的規模において生産するための使用。
【請求項15】
(i)請求項2-6の何れか1項に記載の核酸および(ii)遺伝子改変ツールのエレメント;gRNAである核酸、修復テンプレートである核酸、少なくとも1つのプライマーペア、および該ツールによってコードされるタンパク質の発現を可能にする誘導剤、から選択された少なくとも1つのツール、を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はClostridium属の細菌、典型的にはClostridium属の溶媒生産細菌、特に野生型ではアンフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子を有する細菌、の遺伝子的な改変に関する。よってこれはかかる遺伝子的な改変、特に、アンフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼをコードする配列、またはコードする配列の転写を調節する配列の除去もしくは改変、を可能にする方法、ツールおよびキット、得られた遺伝子的に改変された細菌およびその使用、特に溶媒の生産、好ましくは工業的規模においての溶媒の生産に関する。
【背景技術】
【0002】
技術背景
Clostridium属には、Firmicutes門に属し、グラム陽性であり、厳格に嫌気性である、胞子形成細菌が含まれている。Clostridiaはいくつかの理由で、科学的なコミュニティにとって重要なグループである。第1に、多くの重篤な疾患(例えば、破傷風、ボツリヌス症)は、このファミリーの病原性細菌の感染が原因である(Gonzales et al.,2014)。第2に、酸生産菌株または溶媒生産菌株と呼ばれる菌株をバイオテクノロジーに利用できる可能性がある(John & Wood、1986、Moon et al.,2016)。これらの非病原性Clostridiaは、ABEとして知られる発酵過程の間に、多種多様な糖を変換し、目的の化学種、特にアセトン、ブタノール、およびエタノールを生産する能力を天然に有する(John&Wood、1986)。これに似た、アセトンを様々な割合でイソプロパノールへと還元するIBE発酵は、ある特定の種(Chen et al.,1986、 George et al.,1983)において、これらの菌株のゲノム中に、2級アルコールデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子が存在しているおかげで可能である(s-ADH; Ismael et al.,1993、 Hiu et al.,1987)。
【0003】
溶媒生産Clostridia種は顕著な表現型の類似性を示し、そのために現代のシーケンシング技術が出てくる以前はそれらの分類が困難であった(Rogers etal.,2006)。これらの細菌の完全なゲノムのシーケンシングが可能であることから、現在はこの細菌属を、4つのメジャーな種:C.acetobutylicum、C.saccharoperbutylacetonicum、C.saccharobutylicumおよびC.beijerinckii、に分類できる。最近の出版物では30菌株の完全なゲノムを比較解析し、これらの溶媒生産Clostridiaを4つのメインクレードに分類している(図1)。
【0004】
特に、これらのグループは、C.acetobutylicum種およびC.beijerinckii種から、ABE型発酵の研究のためのモデル菌株として、C.acetobutylicum ATCC824(DSM792またはLMG5710とも呼ばれる)およびC.beijerinckii NCIMB8052を分離している。
【0005】
天然にIBE発酵をなし得るClostridium菌株は少なく、およびその大半はClostridium beijerinckii種に属している(Zhangetal.,2018、表1を参照)。これらの菌株は、典型的にはC.butylicum LMD 27.6、C.aurantibutylicum NCIB 10659、C.beijerinckii LMD 27.6、C.beijerinckii VPI 2968、C.beijerinckii NRRL B-593、C.beijerinckii ATCC 6014、C.beijerinckii McClung 3081、C.isopropylicum IAM 19239、C.beijerinckii DSM6423、C.sp.A1424、C.beijerinckii optinoii、およびC.beijerinckii BGS1から選択される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、天然にイソプロパノールを生産し得る、特に天然にIBE発酵をなし得るClostridium細菌の菌株で、遺伝子的に改変された菌株、特に、クロラムフェニコールまたはチアンフェニコールなどの、アンフェニコールの分類に属する抗生物質に感受性を持つように遺伝子的に改変され、好ましくはイソプロパノールの最適化された生産が可能なように改変された菌株は、現在まで存在しない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、本発明の文脈において、および最初の機会として、遺伝子的に改変されたC.beijerinckii細菌について、およびClostridium属細菌、典型的には、天然に(すなわち、野生型において)イソプロパノールを生産できる、特に、天然にIBE発酵をなし得る、Clostridium属の溶媒生産細菌であって、細菌に1以上の抗生物質に対する耐性を付与する遺伝子、特にアンフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼ、例えば、クロラムフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼまたはチアンフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子を野生型において含む特定の細菌、の遺伝子的な改変を可能にするツールについて、記載する。
【0008】
本発明における好ましい遺伝子的に改変された細菌は、1以上の抗生物質に対する耐性を付与する酵素を発現しない細菌であって、特にアンフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼを発現しない細菌、例えば、catB遺伝子を欠損している、または発現できない細菌である。
【0009】
本発明における好ましい遺伝子的に改変された細菌は、2018年12月6日にBelgian Co-ordinated Collections of Micro-organisms(「BCCM」,K.L.Ledeganckstraat35, B-9000Gent-Belgium)に寄託番号LMGP-31151で登録されたC.beijerinckii DSM6423 ΔcatB(Clostridium beijerinckii IFP962 delta catBとしても識別される)として、本明細書で識別された細菌である。また、本明細書は任意の派生した細菌、クローン、変異株、またはその遺伝子改変バージョンに関する。
【0010】
本発明者らが記載する特定の対象物は、核酸であって、目的の細菌が抗生物質、典型的にはアンフェニコールの分類に属する抗生物質であって、好ましくはクロラムフェニコール、チアンフェニコール、アジダムフェニコール、およびフロルフェニコールから選択された抗生物質、を含む培地中で生育できるようにする酵素、典型的にはクロラムフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼまたはチアンフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼなどのアンフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼである、酵素、をi)コードする配列、ii)コードする配列の転写を調節する配列、またはiii)コードする配列に隣接する配列、の少なくとも1つの鎖を目的の細菌のゲノム内において認識する(少なくとも部分的に結合する)および好ましくは標的とする、すなわち、認識するおよび切断を可能にする、核酸である。
【0011】
本発明者らはまた、かかる核酸を、Clostridium属細菌、好ましくは天然にイソプロパノールを生産できるClostridium属細菌、特にIBE発酵を行うことができるClostridium属細菌の、形質転換および/または遺伝子的な改変に使用することについて記載する。
【0012】
特に、本発明者らは、C.beijerinckii DSM6423細菌を形質転換および/または遺伝子的に改変するための、C.beijerinckii DSM6423ゲノム中の配列番号18の配列のcatB遺伝子、またはそれと少なくとも70%の配列同一性をもつ配列、を認識する核酸の使用を記載する。
【0013】
野生型でイソプロパノールを生産し得る細菌は、例えば、C.beijerinckii細菌、C.diolis細菌、C.puniceum細菌、C.butyricum細菌、C.saccharoperbutylacetonicum細菌、C.botulinum細菌、C.drakei細菌、C.scatologenes細菌、C.perfringens細菌、およびC.tunisiense細菌から選ばれた細菌であり得、好ましくはC.beijerinckii細菌、C.diolis細菌、C.puniceum細菌、およびC.saccharoperbutylacetonicum細菌から選択された細菌で有り得る。特に好ましい天然にイソプロパノールを生産できる細菌はC.beijerinckii細菌である。
【0014】
特定の態様において、i)アンフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼ、をコードする配列、ii)かかる配列の転写を調節する配列、またはiii)かかる配列に隣接する配列、を認識する、好ましくは標的とする核酸は、DSM6423、LMG7814、LMG7815、NRRLB-593、NCCB27006から選択されたC.beijerinckiiのサブクレード、およびDSM6423菌株と少なくとも97%の同一性を有するサブクレードの形質転換に用いられる。
【0015】
本発明者らはさらに、Clostridium属細菌を形質転換する、および好ましくは遺伝子的に改変するための方法を記載する。この方法は、目的の酵素、好ましくはアンフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼを、i)コードする配列、ii)コードする配列の転写を調節する配列、またはiii)コードする配列に隣接する配列、を認識する、および好ましくは標的とする核酸を、この細菌に導入することによって、上記の細菌を形質転換するステップを含む。この方法は、典型的には、遺伝子改変ツールを用いて、例えば、CRISPRツール、グループIIイントロンに基づくツールおよびアレル交換ツールから選択された遺伝子改変ツールを用いて、実行される。かかる方法を用いて形質転換されたおよび遺伝子的に改変された細菌、例としてC.beijerinckii DSM6423 ΔcatB細菌、もまた記載されている。
【0016】
本発明者らが記載する他の態様は、溶媒、好ましくはイソプロパノール、または溶媒の混合物、を生産する、好ましくは工業的規模で生産するように遺伝子的に改変された、本発明における細菌、好ましくは寄託番号LMG P-31151で登録されたC.beijerinckii DSM6423 ΔcatB細菌、またはその遺伝子的に改変されたバージョン、の使用に関する。
【0017】
最後に、本明細書はキット、特に本文中に記載の核酸、および遺伝子改変ツール、特にCRISPRツール、グループIIイントロンに基づくツールおよびアレル交換ツールから選択された遺伝子ツールの要素;ガイドRNA(gRNA)である核酸;修復テンプレートである核酸;少なくとも1つのプライマーペア;および上記ツールによってコードされるタンパク質の発現を可能にする誘導剤、から選択された遺伝子改変ツール、を含むキットに関する。
【発明の効果】
【0018】
発明の詳細な記載
1世紀以上にわたって工業的に使用してきたにも関わらず、それらの遺伝子的な改変における困難さから、Clostridium属に属する細菌についての知識は限られている。
【0019】
この属の菌株を最適化するために、近年、様々な遺伝子ツールが設計されており、最新世代ではCRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)/CAS(CRISPR-associated protein)技術の使用に基づいている。この方法は、RNA分子にガイドされ、DNA分子(目的の標的配列)において二本鎖切断を行う、ヌクレアーゼ(CRISPR/Cas遺伝子ツールの場合においては典型的にはCas型ヌクレアーゼであって、例えばStreptococcus pyogenes由来のCas9タンパク質)と呼ばれる酵素の使用に基づいている。ガイドRNA(gRNA)の配列が、ヌクレアーゼによる切断部位を決定し、非常に高い特異性をヌクレアーゼに付与する(図17)。
【0020】
不可欠なDNA分子における二本鎖切断は生物にとって致命的であるため、生物の生存は、二本鎖切断の修復能力に依存する(例えば、Cui&Bikard、2016を参照)。Clostridium属の細菌において、二本鎖切断の修復は、切断された配列の無傷のコピーを必要とする相同組み換えメカニズムに依存している。元の配列を改変する一方で、この修復を可能にするDNAフラグメントを細菌に供することによって、微生物に対し強制的に、そのゲノム中に望みの変更を組み込むことが可能である。実行された改変はもはや、標的配列の改変またはPAMサイトを介したCas9-gRNAリボ核タンパク質複合体によるゲノムDNAの標的化を可能にしないものでなければならない(図18)。
【0021】
この遺伝子ツールをClostridium属の細菌において機能するようにするための異なるアプローチが記載されてきた。これらの微生物は、それらの形質転換および相同組み換え頻度が低いため、遺伝子的な改変が困難であることが実際に知られている。いくつかのアプローチは、C.beijerinckiiおよびC.ljungdahliiにおいて構成的に発現させる(Wang et al.,2015;Huang et al.,2016)または、C.beijerinckii、C.saccharoperbutylacetonicumおよびC.authoethanogenumにおいて誘導性プロモーターの制御下で発現させる(Wang et al.,2016;Nagaraju et al.,2016;Wang et al.,2017)、Cas9の使用に基づく。他の著者は、ゲノム中で2本鎖切断の代わりに1本鎖切断を行う、ヌクレアーゼの改変バージョンであるCas9nの使用について記載している(Xu et al.,2015;Li et al.,2016)。この選択は、Cas9が、試験した実験条件下でのClostridium属の細菌における使用のためには有害すぎる、という観察結果によるものである。上記に記載されたツールのほとんどは、単一のプラスミドの使用に依拠している。最後に、例えばC.pasteurianum(Pyne et al.,2016)のように、微生物のゲノム内で内在性CRISPR/Casシステムが同定されているならば、内在性CRISPR/Casシステムを使用することもまた可能である。
【0022】
CRISPR技術を用いたツールは、(前述の最後の場合のように)改変対象となる菌株の内在性メカニズムを使用しない限り、細菌ゲノムに挿入し得る目的の核酸のサイズ(したがって、コーディング配列または遺伝子の数)が大幅に制限されるという大きな欠点がある(Xu et al., 2015によると、最高で約1.8kb)。
【0023】
本発明者らは、この問題を顕著に解決する、2つの異なる核酸、典型的には2つのプラスミドの使用に基づいた、細菌、典型的にはFirmicutes門に属する細菌、特にClostridium属の細菌に適した、細菌を改変するためのより強力な遺伝子ツールを発展させ、記載した(WO2017064439、Wasels et al.,2017および図3を参照)。特定の実施形態において、このツールの第1の核酸は、Cas9の発現を可能にし、および、実行する改変に特異的な、第2の核酸は、1以上のgRNA発現カセットおよび、目的の配列により、Cas9によって標的とされる、細菌DNAの部分の置き換えを可能にする修復テンプレートを含む。このシステムの毒性はcas9および/またはgRNA発現カセットが誘導性プロモーターの制御下に置かれていることで制限されている。本発明者らは近年、このツールを改良し、非常に顕著に形質転換効率を増加させ、およびそのため、有用な数および量での(特に工業的規模の生産のための耐性菌株の選択という文脈において)遺伝子的に改変された目的の細菌の獲得量を増加させることを可能にした(FR18/54835を参照)。この改良されたツールにおいて、少なくとも1つの核酸は誘導性プロモーターの制御下におかれた抗CRISPRタンパク質(「acr」)をコードする配列を含む。この抗CRISPRタンパク質はDNAエンドヌクレアーゼ/ガイドRNA複合体の活性を抑制する。このタンパク質の発現は細菌の形質転換段階の間のみ自身が発現するように制御されている。
【0024】
本明細書の文脈において、Firmicutes門に属する細菌は、Clostridia、Mollicutes、BacilliまたはTogobacteria、好ましくはClostridiaまたはBacilliの分類に属する細菌を意味すると理解される。
【0025】
Firmicutes門に属する特定の細菌は、例えば、Clostridium属の細菌、Bacillus属の細菌、またはLactobacillus属の細菌を含む。
【0026】
「Bacillus属の細菌」とは特にB.amyloliquefaciens、B.thurigiensis、B.coagulans、B.cereus、B.anthracisまたはB.subtilisを意味する。
【0027】
「Clostridium属の細菌」とは、工業的な目的の特定のClostridium種、典型的にはClostridium属の溶媒生産または酸生産細菌を意味する。「Clostridium属の細菌」という表現は、野生型の細菌に加えて、CRISPRシステムにさらされることなくその性能を向上させる目的で遺伝子的に改変された(例えば、CtfA、CtfB,およびadc遺伝子の過剰発現)それに由来する菌株も包含する。
【0028】
「工業的な目的のClostridium種」とは、発酵により、溶媒および酸、たとえば、酪酸または酢酸を、糖類または単糖から、典型的には、キシロース、アラビノース、フルクトースなどの5つの炭素原子を含む糖類、グルコースまたはマンノースなどの6つの炭素原子を含む糖類、セルロース、またはヘミセルロースといった多糖類、および/または、Clostridium属の細菌に消化および使用され得る例えば他の任意の炭素源(例えば、CO、CO、およびメタノール)から生産し得る種を意味する。目的の溶媒生産細菌の例としては、アセトン、ブタノール、エタノールおよび/またはイソプロパノールを生産するClostridium属の細菌であり、文献中では「ABE菌株」(アセトン、ブタノール、エタノールの生産を可能にする発酵を行う菌株)および「IBE菌株」(イソプロパノール(アセトンの還元による)、ブタノール、エタノールの生産を可能にする発酵を行う菌株)として同定されているような菌株である。Clostridium属の溶媒生産細菌は、例えば、C.acetobutylicum、C.cellulolyticum、C.phytofermentans、C.beijerinckii、C.saccharobutylicum、C.saccharoperbutylacetonicum、C.sporogenes、C.butyricum、C.aurantibutyricumおよびC.tyrobutyricumから選択され得、最も好ましくはC.acetobutylicum、C.beijerinckii、C.butyricum、C.tyrobutyricumおよびC.cellulolyticum、およびさらに好ましくはC.acetobutylicumおよびC.beijerinckiiから選択され得る。
【0029】
イソプロパノールを天然に生産するClostridium属の細菌は、典型的にはアセトンをイソプロパノールに還元する1次/2次アルコール脱水素酵素をコードするadh遺伝子をそのゲノム上に持っており、自然状態でABE発酵をなし得る細菌とは遺伝子的にも機能的にも区別される。有利には、本発明の文脈において、本発明者らは、Clostridium属の天然のイソプロパノール生産菌であるC.beijerinckii DSM6423株を、参照株であるC.acetobutylicum DSM792株と同様に遺伝子的に改変することに成功した。
【0030】
よって本発明者らは、天然に(すねわち、野生型において)イソプロパノールを生産し得るClostridium属の溶媒生産細菌、特に天然にIBE発酵をなし得る細菌であって、遺伝子的に改変した細菌、およびツール、特に遺伝子ツールであってその細菌の取得を可能にしたツール、について初めて記載する。これらのツールは、野生型において、イソプロパノールを生産し得る、特にIBE発酵をなし得る細菌であって、特に抗生物質への耐性を担う酵素をコードする遺伝子を有する細菌の、形質転換および遺伝子的な改変を顕著に促進するという利点を有する。
【0031】
実験部分に記載された作業の一部として、IBE発酵が可能な菌株、すなわち、C.beijerinckiiDSM6423菌株において、発明者らによって近年記載されたゲノムおよびトランスクリプトーム解析を行った。(Mate de Gerando et al.,2018)。
【0032】
特に、本発明者らは、この菌株のゲノムアセンブリの間に、染色体に加えて、2つの天然プラスミド(pNF1およびpNF2)と線状バクテリオファージ(Φ6423)という移動性遺伝要素の存在を見出した(アクセッション番号PRJEB11626-https://www.ebi.ac.uk/ena/data/view/PRJEB11626)。
【0033】
本発明の特定の実施形態では、本発明者らはC.beijerinckii DSM6423菌株から天然のプラスミドpNF2を欠失させることに成功した。
【0034】
他の特定の実施形態では、本発明者らはC.beijerinckii DSM6423菌株の染色体にもともと存在するupp遺伝子を欠失させることに成功した。よってこれらの実験は、本発明者らによって本文中に記載されるツール、より一般的にはその技術を用いて、野生型において、イソプロパノールを生産し得る、特に、IBE発酵をなし得る細菌を、遺伝子的に改変し得ることを実証した。
【0035】
特に有利な実施形態では、本発明者らは特に、アンフェニコール類の抗生物質へ耐性を担う酵素をコードする遺伝子を天然に保有する(野生型で保有する)細菌を、アンフェニコール感受性にすることに成功した。
【0036】
本発明の文脈において、目的のアンフェニコールの例は、クロラムフェニコール、チアンフェニコール、アジダムフェニコールおよびフロルフェニコール(Schwarz S. et al.,2004)、特にクロラムフェニコールおよびチアンフェニコールである。
【0037】
よって、本発明の第1の態様は、目的の細菌、典型的には本文中に記載する、Firmicutes門に属する細菌、例えば、Clostridium属、Bacillus属またはLactobacillus属の細菌、好ましくは天然に(すなわち、野生型において)イソプロパノールを生産し得る、特に天然にIBE発酵をなし得るClostridium属の溶媒生産細菌、好ましくは天然に1以上の抗生物質に耐性をもつ細菌、例えばC.beijerinckii細菌、を遺伝子的に形質転換するおよび/または改変するために使用し得る遺伝子ツールに関する。好ましい細菌は、野生型において、細菌の染色体および染色体DNAとは異なる少なくとも1つのDNA分子の両者を有する。
【0038】
特定の態様においては、この遺伝子ツールは、目的の細菌ゲノムにおいて、i)目的の細菌が抗生物質を含んだ培地中で生育できるようにする、抗生物質への耐性を付与する酵素をコードする配列、ii)目的の細菌が抗生物質を含んだ培地中で生育できるようにする、抗生物質への耐性を付与する酵素をコードする配列の転写を調節する配列、またはiii)目的の細菌が抗生物質を含んだ培地中で生育できるようにする、抗生物質への耐性を付与する酵素をコードする配列に隣接する配列、のうちの少なくとも1つの鎖を認識する(少なくとも部分的には結合する)、および好ましくは標的とする、すなわち認識するおよび切断を可能にする核酸(本文中では「目的の核酸」としても識別される)からなる。この目的の核酸は、典型的には、本発明の文脈において、認識された配列を細菌のゲノムから欠失させる、またはその発現を改変する、例えば、その発現を調節/制御する、特にその発現を阻害する、好ましくは上記の細菌が上記配列由来のタンパク質、特に機能性タンパク質を発現できないようにするためにその発現を改変するために使用される。この認識された配列はまた、本文中において「標的配列」または「標的にされた配列」として識別される。
【0039】
特定の実施形態では、この目的の核酸には、細菌ゲノム内のDNAの標的とされた領域/部分/配列に対して、100%同一、または少なくとも80%同一、好ましくは85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは99%同一な標的配列に相補的な、少なくとも一つの領域であって、および上記の領域/部分/配列に相補的な配列の全体または一部、典型的には少なくとも1ヌクレオチド、好ましくは少なくとも1、2、3、4、5、10、14、15、20、25、30、35もしくは40ヌクレオチド、典型的には1、10、もしくは20から1000ヌクレオチドの間、例えば1、10もしくは20から900、800、700、600、500、400、300もしくは200ヌクレオチドの間、1、10もしくは20から100ヌクレオチドの間、1、10もしくは20から50ヌクレオチドの間、または、1、10もしくは20から40ヌクレオチドの間、例えば、10から40ヌクレオチドの間、10から30ヌクレオチドの間、10から20ヌクレオチドの間、20から30ヌクレオチドの間、15から40ヌクレオチドの間、15から30ヌクレオチドの間または15から20ヌクレオチドの間、好ましくは14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29もしくは30ヌクレオチドを含む、配列にハイブリダイズし得る標的配列に相補的な少なくとも一つの領域を含む。目的の核酸内に存在する、標的配列に相補的な領域は、CRISPRツール内で、本文中に記載されるように用いられるガイドRNA(gRNA)の「SDS」領域に対応していてよい。
【0040】
他の特定の実施形態では、目的の核酸は、それぞれが標的配列と相補的な少なくとも2つの領域であって、細菌ゲノム内の上記の標的とされた領域/部分/配列と100%同一または少なくとも80%同一、好ましくは少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一な、少なくとも2つの領域を含む。これらの領域は、上記の領域/部分/配列に相補的な配列の全体または一部、典型的には上記のように、少なくとも1つのヌクレオチド、好ましくは少なくとも100のヌクレオチド、典型的には100から1000ヌクレオチドの間を含む配列に、ハイブリダイズし得る。目的の核酸内に存在する、標的配列に相補的な領域は、例えば、ClosTron(登録商標)遺伝子ツール、TargeTron(登録商標)遺伝子ツール、またはACE(登録商標)型アレル交換ツールなどの本文中に記載の遺伝子改変ツールにおいて、標的とされた配列の5’および3’隣接領域を認識する、好ましくは標的とし得る。
【0041】
典型的には、標的配列は、アンフェニコール類に属する1以上の抗生物質、例えば、クロラムフェニコールおよび/またはチアンフェニコールを含む培地中で生育し得る、Clostridium属の目的の細菌のゲノム内で、アンフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼ、例えば、クロラムフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼまたはチアンフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼをコードする配列であり、かかる配列の転写を調節する配列であり、またはかかる配列に隣接する配列である。
【0042】
特定の実施形態では、認識された配列はC.beijerinckii DSM6423由来のクロラムフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼをコードするcatB遺伝子(CIBE_3859)に対応する配列番号18の配列、または上記のクロラムフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼに少なくとも70%、75%、80%、85%、90%もしくは95%同一なアミノ酸配列、または配列番号18の配列の全体または少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは99%を含む配列である。換言すると、認識された配列は、少なくとも1ヌクレオチド、好ましくは少なくとも1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、35または40ヌクレオチド、典型的には1から40ヌクレオチドの間を含む配列、好ましくは配列番号18の配列の14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30ヌクレオチドを含む配列であってよい。
【0043】
配列番号18の配列によってコードされるクロラムフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼと少なくとも70%同一のアミノ酸配列の例は、NCBIデータベースにおいて以下のエントリで識別された配列に対応する:WP_077843937.1、配列番号44(WP_063843219.1)、配列番号45(WP_078116092.1)、配列番号46(WP_077840383.1)、配列番号47(WP_077307770.1)、配列番号48(WP_103699368.1)、配列番号49(WP_087701812.1)、配列番号50(WP_017210112.1)、配列番号51(WP_077831818.1)、配列番号52(WP_012059398.1)、配列番号53(WP_077363893.1)、配列番号54(WP_015393553.1)、配列番号55(WP_023973814.1)、配列番号56(WP_026887895.1)、配列番号57(AWK51568.1)、配列番号58(WP_003359882.1)、配列番号59(WP_091687918.1)、配列番号60(WP_055668544.1)、配列番号61(KGK90159.1)、配列番号62(WP_032079033.1)、配列番号63(WP_029163167.1)、配列番号64(WP_017414356.1)、配列番号65(WP_073285202.1)、配列番号66(WP_063843220.1)、および配列番号67(WP_021281995.1)。
【0044】
配列番号18の配列によってコードされるクロラムフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼと少なくとも75%同一のアミノ酸配列の例は、以下の配列に対応する:WP_077843937.1、WP_063843219.1、WP_078116092.1、WP_077840383.1、WP_077307770.1、WP_103699368.1、WP_087701812.1、WP_017210112.1、WP_077831818.1、WP_012059398.1、WP_077363893.1、WP_015393553.1、WP_023973814.1、WP_026887895.1 AWK51568.1、WP_003359882.1、WP_091687918.1、WP_055668544.1およびKGK90159.1。
【0045】
配列番号18の配列によってコードされるクロラムフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼと少なくとも90%同一のアミノ酸配列の例は、以下の配列に対応する:WP_077843937.1、WP_063843219.1、WP_078116092.1、WP_077840383.1、WP_077307770.1、WP_103699368.1、WP_087701812.1、WP_017210112.1、WP_077831818.1、WP_012059398.1、WP_077363893.1、WP_015393553.1、WP_023973814.1、WP_026887895.1およびAWK51568.1。
【0046】
配列番号18の配列によってコードされるクロラムフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼと少なくとも95%同一のアミノ酸配列の例は、以下の配列に対応する:WP_077843937.1、WP_063843219.1、WP_078116092.1、WP_077840383.1、WP_077307770.1、WP_103699368.1、WP_087701812.1、WP_017210112.1、WP_077831818.1、WP_012059398.1、WP_077363893.1、WP_015393553.1、WP_023973814.1、およびWP_026887895.1。
【0047】
配列番号18の配列によってコードされるクロラムフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼと少なくとも99%同一である好ましいアミノ酸配列はWP_077843937.1、配列番号44(WP_063843219.1)および配列番号45(WP_078116092.1)の配列である。
【0048】
配列番号18と同一である特定の配列は、NCBIデータベースにおいてWP_077843937.1のエントリで識別される配列である。
【0049】
特定の実施形態において、標的配列は、そのアミノ酸配列が配列番号66に対応する(WP_063843220.1)、C.perfringens由来のクロラムフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼをコードするcatQ遺伝子に対応する配列番号68の配列であり、または上記クロラムフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%または95%同一の配列であり、または配列番号68の配列の全てまたは少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%を含む配列である。
【0050】
換言すると、認識される配列は、少なくとも1ヌクレオチド、好ましくは少なくとも1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、35または40ヌクレオチド、典型的には1から40ヌクレオチドの間を含む配列、好ましくは配列番号68の配列の14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30ヌクレオチドを含む配列で有り得る。
【0051】
さらに他の特定の実施形態では、認識される配列は、Clostridium属の細菌中に天然に存在し、またはかかる細菌に人工的に導入される、当業者に知られたcatB(配列番号18)、catQ(配列番号68)、catD(配列番号69、Schwarz S. et al.,2004)またはcatP(配列番号70、Schwarz S. et al.,2004)の核酸配列から選択される。
【0052】
上記に示すように、他の実施形態では、標的配列はまた、上記に示すようなコード配列(目的の細菌が抗生物質を含む培地中で生育できるようにする、抗生物質への耐性を付与する酵素をコードする)の転写を調節する配列、典型的にはプロモーター配列、例えばcatB遺伝子のプロモーター配列(配列番号73)またはcatQ遺伝子のプロモーター配列(配列番号74)で有り得る。
【0053】
遺伝子ツールとして用いられる目的の核酸は、上記のコード配列の転写を制御する配列をその際認識する、つまり典型的には結合し得る。
【0054】
他の実施形態では、標的配列は上記のようなコード配列(目的の細菌が抗生物質を含む培地中で生育できるようにする、抗生物質への耐性を付与する酵素をコードする)に隣接する配列、例えば、配列番号18の配列のcatB遺伝子に隣接する配列、またはそれ少なくとも70%と同一な配列であり得る。かかる隣接する配列は、典型的には1、10または20および1000ヌクレオチドを、例えば、1、10もしくは20から900、800、700、600、500、400、300もしくは200ヌクレオチドの間、1、10もしくは20から100ヌクレオチドの間、1、10もしくは20から50ヌクレオチドの間、または1、10もしくは20から40ヌクレオチドの間、例えば、10から40ヌクレオチドの間、10から30ヌクレオチドの間、10から20ヌクレオチドの間、20から30ヌクレオチドの間、15から40ヌクレオチドの間、15から30ヌクレオチドの間もしくは15から20ヌクレオチドの間を含む
【0055】
特定の態様では、標的配列はかかるコード配列に隣接する配列のペアに対応し、それぞれの隣接する配列は、典型的には少なくとも20ヌクレオチドを、典型的には100から1000ヌクレオチドの間、好ましくは200から800ヌクレオチドの間を含む。
【0056】
本発明で意味するところでは、「核酸」とは、任意の天然、合成、半合成、または組換えのDNAまたはRNA分子であって、任意には化学的に修飾され(すなわち、非天然の塩基、修飾ヌクレオチドであって、例えば修飾された結合、修飾された塩基、および/または修飾された糖を含む修飾ヌクレオチドを含む)、またはコード配列から合成される転写産物のコドンが、そこでの使用を考慮して、Clostridium属の細菌中で最も頻繁にみられるコドンであるように最適化されている、DNAまたはRNA分子を意味する。Clostridium属の場合、最適化されたコドンは、典型的にはアデニン(「A」)およびチミン(「T」)塩基に富んだコドンである。
【0057】
本明細書中で記載されるペプチド配列では、アミノ酸は以下の命名に従ってその1文字表記で示す:C:システイン;D:アスパラギン酸;E:グルタミン酸;F:フェニルアラニン;G:グリシン;H:ヒスチジン;I:イソロイシン;K:リジン;L:ロイシン;M:メチオニン;N:アスパラギン;P:プロリン;Q:グルタミン;R:アルギニン;S:セリン;T:トレオニン;V:バリン;W:トリプトファンおよびY:チロシン。
【0058】
本発明の文脈において、目的の細菌を形質転換する、および/または遺伝子的に改変するための遺伝子ツールとして用いられる目的の核酸は、Clostridium属の細菌、特にClostridium属の溶媒生産細菌であって天然にイソプロパノールを生産し得る、特に天然にIBE発酵をなし得る細菌のゲノム内において、目的の酵素、好ましくはアンフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼ、例えば、クロラムフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼまたはチアンフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼをi)コードする配列を認識する、ii)コードする配列の転写を調節する、またはiii)コードする配列に隣接するDNAフラグメントである。
【0059】
天然にイソプロパノールを生産し得る細菌は、例えばC.beijerinckii、C.diolis細菌、C.puniceum細菌、C.butyricum細菌、C.saccharoperbutylacetonicum細菌、C.botulinum細菌、C.drakei細菌、C.scatologenes細菌、C.perfringens細菌、およびC.tunisiense細菌から選択される細菌であってよく、好ましくはC.beijerinckii細菌、C.diolis細菌、C.puniceum細菌およびC.saccharoperbutylacetonicum細菌から選択される細菌であってよい。特に好ましい、野生型でイソプロパノールを生産し得る細菌はC.beijerinckii細菌である。
【0060】
特定の態様では、Clostridium属の細菌は、そのサブクレードがDSM6423、LMG7814、LMG7815、NCCB27006、およびDSM6423菌株と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有するサブクレード、から選択されたC.beijerinckii細菌である。
【0061】
上記に示すように、本発明における目的の核酸は、細菌ゲノム内で認識される配列(「標的配列」)を欠失させ得る、またはその発現を改変し得る、例えば、その発現を調節、特に阻害し得る、好ましくは上記の細菌が上記配列由来のタンパク質、特に機能性タンパク質、好ましくはアンフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼ、を発現できないようにするためにその発現を改変し得る。
【0062】
この目的の核酸は、例えば、1以上の目的の(コード)配列、例えばその発現産物が細菌において目的の機能の実現に貢献するいくつかの目的のコード配列を含むオペロン、と(当業者が理解する意味で)作動可能に連結した転写プロモーターを含む核酸、または、加えて活性化配列および/または転写ターミネーターを含む核酸、など、典型的には、発現カセット(または「コンストラクト」)の形態である;または円状もしくは直線状、一本鎖もしくは二本鎖ベクター、例えば上記に定義する1以上の発現カセットを含む、プラスミド、ファージ、コスミド、人工もしくは合成染色体、の形態である。好ましくは、ベクターはプラスミドである。
【0063】
目的の核酸、典型的にはカセットまたはベクターは、当業者によく知られた従来技術を用いてコンストラクトされ得る、および1以上のプロモーター、細菌性複製起点(ORI配列)ターミネーター配列、選択遺伝子、例えば抗生物質耐性遺伝子、およびカセットまたはベクターの標的とする挿入を可能にする配列(例えば「隣接領域」)を含み得る。さらに、これらの発現カセットおよびベクターは当業者によく知られた技術によってゲノム内に組み込まれ得る。
【0064】
目的のORI配列は、pIP404、pAMβ1、pCB102、repH(C.acetobutylicumの複製起点)、ColE1またはrep(E.coliの複製起点)、またはClostridium細胞内でベクター、典型的にはプラスミドの維持を可能にする、任意の他の複製起点、から選択されてよい
【0065】
目的のターミネーター配列はadc、thl、bcsオペロンのターミネーター、またはClostridiumにおいて転写終結を可能にする、当業者に知られた任意の他のターミネーターから選択されてよい
【0066】
目的の選択遺伝子(耐性遺伝子)は、ermB、catP、bla、tetA、tetM、および/またはアンピシリン、エリスロマイシン、クロラムフェニコール、チアンフェニコール、テトラサイクリン、またはClostridium属の細菌の選択に使われ得る、当業者によく知られた任意の他の抗生物質への耐性を与える、任意の他の遺伝子から選択されてよい。
【0067】
認識された、酵素をコードする配列が、細菌にクロラムフェニコールおよび/またはチアンフェニコール耐性を付与するような配列である、特定の実施形態では、使用される選択遺伝子はクロラムフェニコールおよび/またはチアンフェニコール耐性遺伝子ではなく、および好ましくはcatB、catQ、catDまたはcatP遺伝子の何れかでもない。
【0068】
特定の実施形態では、目的の核酸は、目的の酵素、特にアンフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼ、をコードする、その転写を調節する、またはコードする配列に隣接する配列(「標的配列」、「標的とされる配列」または「認識される配列」)を標的とする1以上のガイドRNAs(gRNAs)、および/または、改変テンプレート(本文中で「編集テンプレート」としても識別される)、例えば、好ましくは標的配列の発現を阻害または抑制するための、標的配列の全体、または一部を排除もしくは改変する事を可能にするテンプレート、典型的には、上述の標的配列の上流および下流に位置する配列に相同な(対応する)配列を含むマトリックス、典型的にはそれぞれが10もしくは20塩基対から1000、1500もしくは2000塩基対の間であり、例えば、100、200、300、400もしくは500塩基対から1000、1200、1300、1400もしくは1500塩基対の間、好ましくは100から1500または100から1000塩基対の間、およびさらに好ましくは500から1000塩基対の間、または200から800塩基対の間を含む配列(標的配列の上流および下流に位置する上記配列に相同な配列)を含むマトリックスを含む
【0069】
特定の目的の核酸は、それぞれのカセットが少なくとも1つのガイドRNA(gRNA)をコードする、1以上の発現カセットを含むベクターの形態である。
【0070】
本発明における特定の遺伝子ツールは、いくつかの(少なくとも2つ)の上記の目的の核酸を含み、上記の目的の核酸は互いに異なる。
【0071】
特定の実施形態では、目的の細菌、典型的にはClostridium属の細菌を形質転換するおよび/または遺伝子的に改変するための遺伝子ツールとして用いられる、目的の核酸は、細菌に1以上の抗生物質に対する耐性を付与する酵素をコードする配列、転写を調節する配列、またはコードする配列に隣接する配列、を認識する、およびこの細菌ゲノム内の上記配列を欠失させ得る、または非機能的にし得る核酸であって、特に、Dam-およびDcm-型メチルトランスフェラーゼ(dam-dcm-ジェノタイプを示すEscherichia coli細菌から調製)に認識されるモチーフとなるレベルでのメチル化を示さない核酸である。
【0072】
形質転換、および/または遺伝子的に改変された目的の細菌がC.beijerinckii細菌、特にDSM6423、LMG7814、LMG7815、NRRL B-593およびNCCB27006の内の1つのサブクレードに属している場合、遺伝子ツールとして用いられる目的の核酸、例えばプラスミド、はDam-およびDcm-型メチルトランスフェラーゼに認識されるモチーフとなるレベルでのメチル化を示さない核酸であり、典型的には、GATCモチーフのアデノシン(「A」)、および/またはCCWGGモチーフ(Wはアデノシン(「A」)またはチミン(「T」)に対応していてよい)の第2シトシン「C」は脱メチル化されている核酸である。
【0073】
Dam-およびDcm-型メチルトランスフェラーゼに認識されるモチーフのメチル化を示さない核酸は、典型的にはdam-dcm-ジェノタイプを持つEscherichia coli細菌(例えば、Escherichia coli INV110、Invitrogen)から調製され得る。これと同じ核酸は、例えば、EcoKI型メチルトランスフェラーゼによって行われた他のメチル化を含み得る、後者はAAC(N6)GTGCおよびGCAC(N6)GTTモチーフのアデニン(「A」)を標的とする(Nは任意の塩基に対応し得る)。
【0074】
好ましい実施形態では、標的とされた配列は、アンフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子に、例えばクロラムフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼにおけるcatB遺伝子に、この遺伝子の転写を調節する配列に、またはこの遺伝子に隣接する配列に、対応する。
【0075】
本発明の文脈において遺伝子ツールとして用いられる特定の目的の核酸は、例えば、ベクター、好ましくはプラスミド、例えば、本明細書の実験部分に記載された、配列番号21の配列のプラスミドpCas9ind-ΔcatB、または、配列番号38の配列のプラスミドpCas9ind-gRNA_catB、特に、上記配列の、Dam-およびDcm-型メチルトランスフェラーゼに認識されるモチーフにおけるメチル化を示さないバージョンである。
【0076】
本明細書はまた、本文中に記載するように、目的の細菌、特にClostridium属の溶媒生産細菌であって野生型においてイソプロパノールを生産し得る、特に野生型においてIBE発酵をなし得る細菌を、形質転換するおよび/または遺伝子的に改変するための、目的の核酸の使用に関する。
【0077】
野生型でイソプロパノールを生産し得る、特に野生型でIBE発酵をなし得る細菌は、例えば、C.beijerinckii細菌、C.diolis細菌、C.puniceum細菌、C.butyricum細菌、C.saccharoperbutylacetonicum細菌、C.botulinum細菌、C.drakei細菌、C.scatologenes細菌、C.perfringens細菌、およびC.tunisiense細菌、から選択された細菌で有り得る、好ましくは細菌C.beijerinckii細菌、C.diolis細菌、C.puniceum細菌およびC.saccharoperbutylacetonicum細菌から選択された細菌で有り得る。
【0078】
(天然に)野生型においてイソプロパノールを生産し得る、特に野生型においてIBE発酵をなし得る、特に好ましい細菌はC.beijerinckii細菌である。
【0079】
目的の酸生産細菌は、COおよびHから酸および/または溶媒を生産する細菌である。Clostridium属の酸生産細菌は、例えば、C.aceticum、C.thermoaceticum、C.ljungdahlii、C.autoethanogenum、C.difficile、C.scatologenesおよびC.carboxydivoransから選択され得る。
【0080】
特定の実施形態では、当該Clostridium属の細菌は「ABE菌株」であり、好ましくはC.acetobutylicum DSM792菌株(ATCC824菌株またはLMG5710とも呼ばれる)、またはC.beijerinckii NCIMB 8052菌株である。
【0081】
他の特定の実施形態では、当該Clostridium属の細菌は「IBE菌株」であり、典型的には本明細書で識別されるC.beijerinckii細菌の内の1つであり、例えば、そのサブクレードが、DSM6423、LMG7814、LMG7815、NRRL B-593、NCCB27006、またはC.aurantibutyricum DSZM793細菌(Georges et al. 1983)、および、かかるC.beijerinckiiまたはC.aurantibutyricum細菌のサブクレードであってDSM6423菌株と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を示すサブクレード、から選択されたC.beijerinckiiである。特定の好ましいC.beijerinckii細菌、またはC.beijerinckii細菌のサブクレードは、pNF2プラスミドを欠失している。
【0082】
一方ではLMG7814、LMG7815、NRRL B-593、NCCB27006サブクレード、他方ではDSZM793のそれぞれのゲノムは、DSM6423サブクレードのゲノムと少なくとも97%の配列同一性の割合を示す。
【0083】
本発明者らは発酵試験を行い、サブクレードがDSM6423、LMG7815およびNCCB27006であるC.beijerinckii細菌が野生型においてイソプロパノールを生産し得ることを確かめた。(表1を参照)。
【0084】
【表1】

天然イソプロパノール生産菌株C.beijerinckii DSM6423、LMG7815およびNCCB27006を用いたグルコース発酵試験のまとめ。
【0085】
本発明の特に好ましい実施形態では、C.beijerinckii細菌はDSM6423サブクレード細菌である。
【0086】
本発明のさらにその他の好ましい実施形態では、C.beijerinckii細菌はC.beijerinckii IFP963ΔcatBΔpNF2菌株(2019年2月20日にBCCM-LMG Collectionに寄託番号LMG P-31277で登録され、および本文中ではC.beijerinckii DSM6423ΔcatBΔpNF2としても識別される)である。
【0087】
特定の実施形態では、形質転換される、および好ましくは遺伝子的に改変される細菌は、野生型において上記細菌内に天然に存在する、少なくとも一つの染色体外のDNA分子(典型的には少なくとも1つのプラスミド)を欠失させることを可能にする、本発明における核酸または遺伝子ツールを用いた第1の形質転換ステップおよび第1の遺伝子的な改変ステップに暴露された細菌である
【0088】
本発明者らによって記載された他の態様は、Clostridium属の細菌を、本発明の遺伝子ツール、典型的には上記の本発明の目的の核酸を用いて、形質転換する、および、好ましくはそれをさらに遺伝子的に改変するための方法に関する。該方法には、上記細菌に本文に記載の目的の核酸を導入することで該細菌を形質転換するステップを含む。該方法には、形質転換された細菌、すなわち、所望の組換え/改変/最適化を有する細菌を得る、回収する、選択する、または単離するステップをさらに含んでもよい。
【0089】
特定の実施形態では、Clostridium属の細菌を形質転換する、および好ましくは遺伝子的に改変するための方法は、例えば、CRISPR、グループIIイントロン(例えば、TargeTron(登録商標)ツールまたはClosTron(登録商標)ツール)の使用に基づくツール、およびアレル交換ツール(例えば、ACE(登録商標)ツール)から選択された遺伝子改変ツールに関連し、および上記のように本発明における目的の核酸を上記細菌に導入する事で該細菌を形質転換するステップを含む。
【0090】
本発明は、典型的には、有利には、Clostridium属の細菌を形質転換する、および好ましくは遺伝子的に改変するために選択された遺伝子改変ツールが、野生型において1以上の抗生物質に対する耐性を担う酵素をコードする遺伝子を有する、C.beijerinckiiなどの細菌において使用されることが意図されている場合に実装され、およびそのような上記遺伝子ツールの実装には、この細菌が野生型では耐性を持つ抗生物質に対する耐性マーカーの発現を可能にする核酸を用いて上記細菌を形質転換するステップ、および/または上記抗生物質(この細菌が野生型で耐性を持つ)を用いて形質転換された細菌および/または遺伝子改変された細菌を選択するステップを含む。
【0091】
本発明、例えば、CRISPRツール、グループIIイントロンの使用に基づくツール、およびアレル交換ツールから選択された遺伝子改変ツールの使用、によって有利に得られる改変は、細菌に1以上の抗生物質に対する耐性を付与する酵素をコードする配列を欠失させること、またはこの配列を非機能的にすることからなる。本発明を通して有利に得られる他の改変は、細菌の性能、例えば、目的の溶媒または溶媒の混合物の生産性能を向上させるために細菌を遺伝子的に改変する事からなり、上記細菌は、事前に、本発明により、野生型では耐性のある抗生物質に対して感受性を持つように改変されている。
【0092】
好ましい実施形態では、本発明にかかる方法は、CRISPR(Clustered Regular Interspaced Short Palindromic Repeats)技術/遺伝子ツール、特にCRISPR/Cas遺伝子ツール(CRISPR-関連タンパク質)の使用(実装)に基づいている。
【0093】
この方法は、ヌクレアーゼ(CRISPR/Cas遺伝子ツールの場合、典型的にはCas-型ヌクレアーゼであって、例えばStreptococcus pyogenes由来のCRISPR-関連タンパク質9(Cas9タンパク質))と呼ばれる酵素の使用に基づき、これは、RNA分子によってガイドされ、DNA分子(目的の標的配列)の二本鎖切断をひき起こす。ガイドRNA(gRNA)の配列はヌクレアーゼの切断部位を決定し、ヌクレアーゼに非常に高い特異性を与える。微生物の生存に不可欠なDNA分子内の二本鎖切断は、実際に生物にとって致命的であるため、生物の生存はそれを修復する能力に依存することになる(例えばCui & Bikard, 2016を参照)。Clostridium属の細菌では、二本鎖切断の修復は、切断された配列の無傷のコピーを必要とする相同組換えメカニズムに依存している。元の配列を変更する一方で、この修復の発動を可能にするDNAフラグメントを細菌に提供することで、所望の変更をそのゲノムに組み込ませることを微生物に強いることができる。
【0094】
本発明は、Wang et al.(2015)に記載の、ヌクレアーゼを含む単一プラスミド、gRNAおよび修復テンプレートを用いた従来のCRISPR/Cas遺伝子ツールを用いて、Clostridium属の細菌において実装され得る。該CRISPR/Casシステムは2つの異なる不可欠の要素を含んでおり、それはすなわち、i)エンドヌクレアーゼ、CRISPR-関連のヌクレアーゼの場合、Cas、およびii)ガイドRNA。該ガイドRNAは細菌のCRISPR RNA(crRNA)およびtracrRNA(trans-activating CRISPR RNA)の組み合わせからなるキメラRNAの形態である。gRNAは、Casタンパク質のガイドとして働く、「スペーサー配列」に対応するcrRNAの標的特異性、およびcrRNAのコンフォメーション特性を合わせた一本鎖転写産物である。gRNAおよびCasタンパク質が細胞内で同時に発現すると、供された修復テンプレートのおかげで、標的ゲノム配列は、永続的に改変される。当業者であれば、周知の技術を用いて、標的とする染色体領域または移動性遺伝子要素に応じて、gRNAの配列や構造を容易に定義できる(例えば、DiCarlo et al.,2013の論文を参照)。
【0095】
遺伝子ツールの要素(核酸またはgRNA)の細菌への導入は、直接的または間接的な、当業者に知られた任意の方法、例えば、形質転換、コンジュゲーション、マイクロインジェクション、トランスフェクション、エレクトロポレーション、その他方法で実行され、好ましくは、エレクトロポレーション法である(Mermelstein et al.,1993)。
【0096】
本発明者らは近年、細菌を改変するための、Clostridium属の細菌を改変するのに適した、および本発明の文脈において使用できる、2つのプラスミドの使用に基づいた遺伝子ツールを発展および記載してきた、(WO2017/064439、Wasels et al.,2017、および本明細書に添付する図15を参照)。
【0097】
特定の実施形態では、このツールの「第1」プラスミドはCasヌクレアーゼの発現を可能にし、および実行される改変に特異的な「第2」プラスミドは、1以上のgRNA発現カセット(典型的には細菌のDNAの異なる領域を標的とする)および、相同組み換えメカニズムによって、目的の配列によってCasが標的とする細菌DNAの一部の置き換えを可能にする、修復テンプレートを含む。Cas遺伝子および/またはgRNA発現カセットは、構成的、または誘導性の、好ましくは誘導性の、当業者に知られた発現プロモーター(例えば、出願番号WO2017/064439に記載され、および参照により本明細書中に組み込まれている。)、および好ましくは異なっているが、同一の誘導剤で誘導可能な発現プロモーター、の制御下に置かれている。
【0098】
gRNAは天然のRNA、合成RNA、または組み換え技術によって生産されたRNAで有り得る。これらのgRNAは当業者に知られた任意の方法、例えば、化学合成、in vivo転写または増幅技術など、によって調製され得る。複数のgRNAを用いる場合は、各gRNAの発現を、異なるプロモーターによって制御し得る。好ましくは、用いられるプロモーターは全てのgRNAにおいて同一である。特定の実施形態では、同一のプロモーターは、発現させようとするいくつかの、たとえばいくつかのみ、または換言すると全部またはいくつかのgRNAの発現を可能にするために用いられ得る。
【0099】
他の特定の実施形態では、本発明の文脈における使用に適した、ii)上記の「第1」および「第2」核酸の少なくとも1つは、さらに、1以上のガイドRNA(gRNAs)をコードし、または該遺伝子ツールは、各ガイドRNAが、細菌のDNAの標的とされた部分に相補的な、Cas酵素に結合するRNA構造および配列を含む、1以上のガイドRNAをさらに含む、およびiii)上記の「第1」および「第2」核酸の少なくとも1つは、誘導性プロモーターの制御下に置かれた抗CRISPRタンパク質をコードする配列をさらに含み、または、該遺伝子ツールが、好ましくはCasおよび/または該RNAの発現を制御しているプロモーターとは異なっており、他の誘導剤で誘導可能な誘導性プロモーターの制御下に置かれている抗CRISPRタンパク質をコードする「第3」核酸をさらに含む。
【0100】
好ましい実施形態では、抗-CRISPRタンパク質は、好ましくは遺伝子ツールの核酸配列の、目的の菌種への導入段階の間に、ヌクレアーゼの作用を阻害し得る、好ましくは中和し得る。
【0101】
本発明の文脈において、Clostridium属の細菌を形質転換する、および典型的には、相同組み換えを用いて遺伝子的に改変するために実装され得るCRISPR技術に関する特定の方法は以下のステップを含む:
a)本発明者らが記載するCRISPR遺伝子ツールを、抗-CRISPRタンパク質の発現を誘導するための誘導剤の存在下で、細菌に導入すること、および
b)ステップa)の終了後に得られた形質転換された細菌を、抗CRISPRタンパク質の発現を誘導する、典型的にはCas/gRNAリボ核タンパク質複合体の発現を可能にする誘導剤を含まない培地中で(または関連しない条件下で)培養すること。
【0102】
特定の実施形態では、該方法は、上記の遺伝子ツールが上記細菌に導入されると、細菌の目的の遺伝子的な改変を可能にするために、かかるプロモーターが遺伝子ツール内に存在している場合には、ステップb)の最中、またはその後に、Casおよび/またはgRNAの発現を制御している誘導性プロモーターの発現を、誘導するステップをさらに含む。該誘導は、選択した誘導性プロモーターに関連した発現阻害を解除できる物質を用いて実行される
【0103】
他の特定の実施形態では、該方法は、修復マトリックスを含む核酸を除去する(細菌細胞が上記核酸について、「なくなった」と考える)、および/または、gRNAもしくはステップa)において遺伝子ツールと共に導入されたgRNAをコードする配列、を除去する、追加ステップc)を含む。
【0104】
さらに他の特定の実施形態では、該方法は、ステップb)またはステップc)に続いて、既に導入されたそれ(それら)とは異なる修復マトリックス、および、抗CRISPRタンパク質の発現を誘導する誘導剤の存在下で、細菌ゲノムの標的とされたゾーンに対して、上記の異なる修復マトリックスに含まれる目的の配列を組み込むことが可能な1以上のガイドRNA発現カセットを含む、第nの、例えば第3、第4、第5、などの核酸を導入する、1以上の追加ステップを含み、各追加ステップの後には、よって形質転換された細菌を、抗CRISPRタンパク質の発現を誘導する、典型的にはCas/gRNAリボ核タンパク質複合体の発現を可能にする誘導剤を含まない培地中で培養するステップが入る。
【0105】
本発明における方法の特定の実施形態では、上記に記載するようなCRISPRツールまたは方法を用いて、目的の標的配列の少なくとも1本の鎖の切断を担う酵素を用いて(例えば、コードすることで)、細菌を形質転換する、ここで、特定の実施形態における該酵素はヌクレアーゼ、好ましくはCas型ヌクレアーゼ、好ましくはCas9酵素およびMAD7酵素から選択されたヌクレアーゼである。好ましくは、該目的の標的配列は、例えば、catB遺伝子などの、細菌に1以上の抗生物質、好ましくはアンフェニコールの分類に属する1以上の抗生物質、典型的にはクロラムフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼなどのアンフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼ、に対する耐性を付与する酵素をコードする配列であり、コードする配列の転写を調節する配列であり、または上記コードする配列に隣接する配列である、
【0106】
本発明において使用するために適したCas9タンパク質の例としては、以下に限らないが、S.pyogenes(出願番号WO2017/064439の配列番号1およびNCBIアクセッション番号:WP_010922251.1を参照)、Streptococcus thermophilus、Streptococcus mutans、Campylobacter jejuni、Pasteurella multocida、Francisella novicida、Neisseria meningitidis、Neisseria lactamicaおよびLegionella pneumophila(Fonfara et al.,2013;Makarova et al.,2015を参照)由来のCas9タンパク質を含む。
【0107】
MAD7ヌクレアーゼ(アミノ酸配列は配列番号72に対応する)は、「Cas12」または「Cpf1」としても識別され、当業者に知られたかかるヌクレアーゼと結合し得るgRNAと組み合わせることにより、本発明の文脈において、他にも有利に使用され得る。(Garcia-Doval et al.,2017およびStella S. et al.,2017を参照)。
【0108】
特定の態様では、MAD7ヌクレアーゼをコードする配列は配列Clostridium菌株において容易に発現されるように最適化された配列であり、好ましくは配列番号71の配列である。
【0109】
使用する場合、抗-CRISPRタンパク質は、典型的には「抗Cas」タンパク質である、すなわち、Casの作用を阻害または抑制/中和し得るタンパク質、および/またはCRISPR/Casシステム、例えば、ヌクレアーゼがCas9ヌクレアーゼである場合のII型CRISPR/Casシステム、の作用を阻害または保護/中和し得るタンパク質である。
【0110】
有利には抗CRISPRタンパク質は、例えば、AcrIIA1、AcrIIA2、AcrIIA3、AcrIIA4、AcrIIA5、AcrIIC1、AcrIIC2およびAcrIIC3から選択された「抗Cas9」タンパク質である(Pawluk et al.,2018)。好ましくは該「抗Cas9」タンパク質はAcrIIA2またはAcrIIA4である。かかるタンパク質は、例えばCas9酵素に結合することによって、典型的には、Cas9の作用を非常に顕著に制限し、理想的に抑制する。
【0111】
他の有利に用いられ得る抗CRISPRタンパク質は「抗MAD7」タンパク質であり、例えば、AcrVA1タンパク質である(Marino et al.,2018)。
【0112】
標的にされたDNA部位(「認識された配列」)と同様に、編集/修復テンプレートは自身に、天然および/または合成の、コードおよび/または非コード配列に対応する1以上の核酸配列または核酸配列部位を含み得る。該テンプレートはまた、1以上の「外来」配列、すなわち、Clostridium属に属する細菌のゲノム、または上記の属の特定の種のゲノムに天然には存在しない、配列を含み得る。マトリックスはまた、これらの配列の組み合わせを含み得る。
【0113】
本発明で用いられる遺伝子ツールにより、修復テンプレートの、目的の核酸をもつ細菌ゲノム、典型的には、少なくとも1つの塩基対(bp)、好ましくは少なくとも1、2、3、4、5、10、15、20、50、100、1、000、10000、100000もしくは1000000bp、典型的には1bpから20kbの間、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12もしくは13kb、または1bpおよび10kbの間、好ましくは10bpから10kbの間、または1kpから10kbの間、例えば、1bpから5kbの間、2kbから5kbの間、または2.5もしくは3kbから5kbの間を含むDNA配列または配列部位、への組み込みの誘導が可能である。
【0114】
特定の実施形態では、目的のDNA配列の発現によりClostridium属の細菌は、いくつかの異なる糖、例えば、少なくとも2つの異なる糖、典型的には、6つの炭素原子を含む糖(例えば、グルコースまたはマンノース)の内の、および/または5つの炭素原子を含む糖(例えば、キシロース、アラビノース、またはフルクトース)の内の少なくとも2つの異なる糖、好ましくは、例えば、グルコース、キシロースおよびマンノース;グルコース、アラビノースおよびマンノース;ならびにグルコース、キシロースおよびアラビノースの内から選択された少なくとも3つの異なる糖、の発酵(典型的には、同時に)が可能になる。
【0115】
他の特定の実施形態では、目的のDNA配列は、少なくとも1つの目的の転写産物、好ましくはClostridium属の細菌による溶媒の生産を促進する転写産物、典型的には少なくとも1つの目的のタンパク質、例えば、酵素;トランスポーターなどの膜タンパク質;他のタンパク質のための成熟タンパク質(シャペロンタンパク質);転写因子;またはそれらの組み合わせ、をコードする。
【0116】
他の実施形態では、本発明における方法は、グループIIイントロンの使用、および例えば、ClosTron(登録商標)遺伝子技術/ツールまたはTargeTron(登録商標)遺伝子ツールの実装に基づく。
【0117】
TargeTron(登録商標)技術は、リプログラム可能なグループIIイントロン(Lactococcus lactis由来のLl.ltrBイントロンに基づく)の使用に依存しており、細菌のゲノムを速やかに、所望の遺伝子座に組み込むことが可能であり(Chen et al.,2005、Wang et al.,2013)、典型的には標的遺伝子の不活化を目的とする。編集領域の認識およびリバーススプライシングによるゲノムへの挿入のメカニズムは、一方ではイントロンおよび上記領域の相同性に基づいており、もう一方ではタンパク質(ltrA)の作用に基づいている。
【0118】
ClosTron(登録商標)技術は、同様のアプローチに基づいており、イントロン配列内に選択マーカーを追加することで補完されている(Heap et al.,2007)。このマーカーにより、ゲノム内へのイントロンの組み込みを選択でき、よって所望の変異の獲得を促進する。この遺伝子システムはまた、グループIイントロンを利用している。実際に、該選択マーカー(レトロトランポジション活性化マーカー,またはRAMと呼ばれる)は、かかる遺伝子要素によって妨げられ、プラスミドからの発現が阻止される(このシステムのより正確な説明:Zhong et al.)この遺伝子要素のスプライシングは、ゲノムに組み込まれる前に行われ、その結果、抵抗性遺伝子の活性型を持つ染色体が得られる。このシステムの最適化されたバージョンでは、この遺伝子の上流と下流にFLP/FRTサイトが含まれており、FRTリコンビナーゼを使って抵抗性遺伝子を除去することができる(Heap et al.,2010)。
【0119】
他の実施形態では、本発明における方法はアレル交換ツールの使用、および例えばACE(登録商標)遺伝子技術/ツールの実装に基づく。
【0120】
ACE(登録商標)技術は栄養要求性変異株(C.acetobutylicum ATCC824におけるpyrE遺伝子の欠失によるウラシル要求性であり、5-フルオロオロチン酸(A-5-FO)への耐性も生じる;Heap et al., 2012)の使用に基づく。このシステムは当業者によく知られた、アレル交換メカニズムを使用する。疑似自滅(pseudo-suicide)ベクター(非常に低コピー)の形質転換に続いて、第1のアレル交換イベントによる細菌の染色体への後者の組み込みは、プラスミド上に最初から存在している耐性遺伝子によって選択される。組み込みステップは、pyrE遺伝子座内、または他の遺伝子座内の2つの異なるやり方で実行され得る:
pyrE遺伝子座において組み込む場合、pyrE遺伝子もまた、プラスミド上に位置するが、発現しない(非機能性プロモーター)。第2の組み換えによって機能的なpyrE遺伝子が回復し、そして栄養要求性によって選択され得る(ウラシルを含まない最小培地)。非機能性pyrE遺伝子もまた、選択可能な特徴(A-5-FOへの感受性)を有するため、同じモデルにおいて他の組み込みが可能であり、pyrEの状態を機能的なものと非機能的なものとの間で連続的に切り替えることができる。
【0121】
他の遺伝子座において組み込む場合、組み換え後に対抗選択マーカーの発現を可能にする遺伝子領域を標的とする(典型的には、他の遺伝子、好ましくは高発現遺伝子、の後のオペロン)。そしてこの第2の組み換えは栄養要求性によって選択される(ウラシルを含まない最小培地)。
【0122】
グループIIイントロンの使用、および例えばClosTron(登録商標)遺伝子技術/ツールもしくはTargeTron(登録商標)遺伝子ツールの実装に基づく、またはアレル交換ツールの使用、および例えばACE(登録商標)遺伝子技術/ツールの実装に基づく記載された実施形態では、標的とされた配列は好ましくは、目的の酵素、好ましくは上記に説明するように、アンフェニコールO-アセチルトランスフェラーゼ、をコードする配列に隣接する配列である。
【0123】
本発明の他の目的物は、本明細書において本発明者らにより記載された方法によって得られた、形質転換、および/または遺伝子的に改変された細菌、典型的には本発明者らに記載された一つの種に属する、またはサブクレードの内の一つに対応するClostridium属の細菌、および任意の派生細菌、クローン、変異株、またはその遺伝子的な改変バージョン、に関する。
【0124】
そして形質転換、および/または遺伝子的に改変された本発明の典型である細菌は、もはや1以上の抗生物質に対する耐性を付与する酵素を発現しない細菌、特に、アンフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼを発現しない細菌、例えば、野生型においてcatB遺伝子を発現するが、一度形質転換されるおよび/または遺伝子的に改変されると、本発明のなすところにより、上記catB遺伝子を欠失する、または上記catB遺伝子を発現できなくなる、細菌である。よって本発明の効果によって形質転換、および/または遺伝子的に改変された細菌は、アンフェニコールに対して、例えば本文に記載のアンフェニコール、特にクロラムフェニコールまたはチアンフェニコールに対して感受性になる。
【0125】
本発明における好ましい遺伝子的に改変される細菌の特定の例としては、2018年12月6日にBelgian Co-ordinated Collections of Micro-organisms(「BCCM」,K.L.Ledeganckstraat35, B-9000Gent-Belgium)に寄託番号LMGP-31151で登録された本明細書中でC.beijerinckii DSM6423 ΔcatBとして識別された細菌である。本明細書はまた、チアンフェニコールおよび/またはクロラムフェニコールなどのアンフェニコールに感受性を保つ、上記細菌の任意の派生細菌、クローン、変異株、または遺伝子的に改変されたバージョンに関する。
【0126】
特定の実施形態では、本発明における形質転換、および/または遺伝子的に改変された細菌であり、1以上の抗生物質に対する耐性を付与する酵素、特にクロラムフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼなどのアンフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼを発現しない細菌、例えばC.beijerinckii DSM6423 ΔcatB細菌はなお形質転換、および好ましくは遺伝子的に改変され得る。これは核酸、例えば、本明細書の、例えば実験部分に記載のプラスミドを用いて行うことができる。有利に使用し得る核酸の例は、配列番号23の配列のプラスミドpCas9acrである(本明細書の実験部分に記載)。
【0127】
本発明の特定の態様は、実際に、本発明における遺伝子的に改変された細菌、好ましくは番号LMG P-31151で寄託されたC.beijerinckii DSM6423 ΔcatB細菌またはその遺伝子的に改変されたバージョンの使用、例えば本文中に記載の遺伝子ツールまたは方法を用いて、自発的にそのゲノムに導入された目的の核酸の発現を通じて、1以上の溶媒、好ましくは少なくともイソプロパノールを、好ましくは工業的規模で生産するための使用に関する。
【0128】
本発明はまた、(i)本発明における目的の核酸、典型的には、Clostridium属の細菌における、特に本文に記載のIBE発酵をなし得る細菌における、目的の酵素をコードする配列を、またはコードする配列の転写を調節する配列を、認識するDNAフラグメント、および(ii)、Clostridium属細菌の改良バリアントを生産するために、Clostridium属の細菌を形質転換する、および典型的には遺伝子的に改変するための、以下の遺伝子改変ツールの要素から選択された少なくとも1つのツール、好ましくはいくつかのツール;gRNAである核酸;修復テンプレートである核酸;少なくとも1つのプライマーペア、例えば、本発明の文脈において記載のプライマーペア;および上記ツールによってコードされるタンパク質の、例えば、Cas9またはMAD7型ヌクレアーゼの、発現を可能にする誘導剤、を含むキットに関する。
【0129】
Clostridium属の細菌を形質転換する、および典型的には遺伝子的に改変するための遺伝子改変ツールは、上述の説明のように、例えばCRISPRツール、グループIIイントロンに基づくツールおよびアレル交換ツール、から選択され得る。
【0130】
キットは、用いられるヌクレアーゼおよび/または1以上のガイドRNAの発現を制御するために遺伝子ツール内で任意に使用される、選択された誘導性プロモーターに合わせた1以上の誘導剤をさらに含んでいてもよい。
【0131】
本発明における特定のキットはタグを含むヌクレアーゼの発現を可能にする。
【0132】
本発明におけるキットはさらに、培地などの1以上の消耗品、少なくとも1つのコンピテントなClostridium属の細菌(すなわち、形質転換に適した)、少なくとも1つのgRNA、ヌクレアーゼ、1以上の選択分子、または説明書、を含み得る。
【0133】
本明細書はまた、本文に記載のClostridium属の細菌の形質転換および理想的な遺伝子的な改変の方法の実装のための、および/またはClostridium属の細菌、好ましくは天然にイソプロパノールを生産するClostridium属の細菌を用いた、溶媒もしくはバイオ燃料、またはその混合物の生産、好ましくは工業的な規模での生産のための、本発明におけるキット、またはこのキットの要素の1以上の使用に関する。
【0134】
生産され得る溶媒は、典型的にはアセトン、ブタノール、エタノール、イソプロパノール、またはその混合物、典型的にはエタノール/イソプロパノール、ブタノール/イソプロパノール、またはエタノール/ブタノール混合物、好ましくはイソプロパノール/ブタノール混合物でありうる。
【0135】
本発明における形質転換された細菌の使用は、典型的には工業的な規模で、年間で少なくとも100トンのアセトン、少なくとも100トンのエタノール、少なくとも1000トンのイソプロパノール、少なくとも1800トンのブタノール、または少なくとも40000トンのその混合物の生産を可能にする。
【0136】
以下の実施例および図は発明の範囲を制限することなく本発明をより十全に説明する事を目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0137】
図1図1はPoehlein et al.,2017による、30種類の溶媒生産Clostridium菌株の分類を示す。なお、サブクレードのC.beijerinckii NRRL B-593はまた、文献上ではC.beijerinckii DSM6423として識別されています。
【0138】
図2図2はpCas9ind-ΔcatBプラスミドマップを示す。
【0139】
図3図3はpCas9acrプラスミドマップを示す。
【0140】
図4図4はpEC750S-uppHRプラスミドマップを示す。
【0141】
図5図5はpEX-A2-gRNA-uppプラスミドマップを示す。
【0142】
図6図6はpEC750S-Δuppプラスミドマップを示す。
【0143】
図7図7はpEC750C-Δuppプラスミドマップを示す。
【0144】
図8図8はpGRNA-pNF2マップを示す。
【0145】
図9図9は形質転換したC.beijerinckii DSM6423菌株の細菌に由来するクローンにおいてCatB遺伝子のPCR増幅を示す。菌株にCatB遺伝子が残っている場合は約1.5kb、遺伝子が欠失している場合は約900bpを増幅する。
【0146】
図10図10は2YTG培地および2YTGチアンフェニコール選択培地におけるC.beijerinckii DSM6423 WTおよびΔcatB菌株の生育を示す。
【0147】
図11図11は、修復テンプレート有りまたは無しの場合において、pCas9acrおよびuppを標的とするgRNA発現プラスミドを含むC.beijerinckii DSM6423菌株の形質転換体におけるCRISPR/Cas9acrシステムの導入を示す。レジェンド:Em:エリスロマイシン、Tm:チアンフェニコール、aTc:アンヒドロテトラサイクリン、ND:希釈無し。
【0148】
図12図12は、CRISPR/Cas9システムによる、C.beijerinckii DSM6423のupp遺伝子座の改変を示す。図12Aは、upp遺伝子座の遺伝子構成を表す:遺伝子、gRNAターゲットサイト、および修復テンプレートが、ゲノムDNA上の対応するホモロジー領域と関連付けられている。PCR検証のためのプライマーハイブリダイゼーションサイト(RH010とRH011)も示されている。図12は、CRISPR/Cas9システムによる、C.beijerinckii DSM6423のupp遺伝子座の改変を示す。図12BはRH010およびRH011プライマーを用いた、upp遺伝子座の増幅を示す。改変したupp遺伝子では1090bpと予測されるのに対し、野生型遺伝子の場合、1680bpの増幅が予想される。Mは100bp-3kbのサイズマーカー(Lonza);WTは野生型菌種を示す。
【0149】
図13図13はC.beijerinckii 6423 ΔcatB菌株におけるプラスミドpCas9ind.の存在を確認するPCRの増幅を示す。
【0150】
図14図14は導入前(ポジティブコントロール1および2)およびそして導入後の、CRISPR-Cas9システムのaTcを含む培地における、天然のプラスミドpNF2の存在、または非存在を確認する、PCRの増幅(約900bp)を示す。
【0151】
図15図15は2つのプラスミドの使用に基づく、Clostridium属の細菌に適用する、細菌を改変するための遺伝子ツールを示す。(WO2017/064439、Wasels et al.,2017を参照)。
【0152】
図16図16はpCas9ind-gRNA_catBプラスミドマップを示す。
【0153】
図17図17は、Cas9ヌクレアーゼを用いて、ゲノムDNA内で1以上のgRNA指向性の二本鎖切断を作り出すための遺伝子ツールとしてゲノム編集のために用いられるCRISPR/Cas9システムを示す。gRNA:ガイドRNA、PAM:プロトスペーサー隣接モチーフ。図はJinek et al.,2012を改変。
【0154】
図18図18はCas9によって引き起こされた二本鎖切断の、相同組み換え修復を示す。PAM:プロトスペーサー隣接モチーフ
【0155】
図19図19はClostridiumにおけるCRISPR/Cas9の使用を示す。ermB:エリスロマイシン耐性遺伝子、catP(配列番号70):チアンフェニコール/クロラムフェニコール耐性遺伝子、tetR:発現産物がPcm-tetO2/1からの転写を抑制する遺伝子、Pcm-2tetO1およびPcm-tetO2/1:アンヒドロテトラサイクリン-誘導性プロモーター、「aTc」(Dong et al.,2012)、miniPthl:構成的プロモーター。
【0156】
図20図20はpCas9acrプラスミドマップ(配列番号23)を示す。ermB:エリスロマイシン耐性遺伝子、rep:E.coliの複製起点;repH:C.acetobutylicumの複製起点、Tthl:チオラーゼターミネーター、miniPthl:構成的プロモーター(Dong et al.,2012)、Pcm-tetO2/1:tetRの産物によって抑制され、アンヒドロテトラサイクリン、「aTc」によって誘導可能なプロモーター(Dong et al.2012)、Pbgal:lacRの産物によって抑制され、ラクトースによって誘導可能なプロモーター(Hartman et al.2011)、acrIIA4:抗CRISPRタンパク質AcrII14をコードする遺伝子、bgaR:発現産物がPbgalからの転写を抑制する、遺伝子。
【0157】
図21図21は、pCas9ind(配列番号22)またはpCas9acr(配列番号:23)を含むC.acetobutylicum DSM792の相対的な形質転換率を示す。頻度は、形質転換に用いたDNA1μgあたりの得られた形質転換体の数として表し、pEC750C(配列番号106)における形質転換の頻度に対して比較し、および少なくとも2の独立した実験の平均値を示した。
【0158】
図22図22は、pCas9acrおよびbdhBを標的とするgRNA発現プラスミドを含み、修復テンプレートを含む(配列番号79および配列番号80)、または含まない(配列番号105)CRISPR/Cas9システムのDSM792菌株形質転換体への導入を示す。Em:エリスロマイシン、Tm:チアンフェニコール、aTc:アンヒドロテトラサイクリン、ND:希釈無し。
【0159】
図23A図23は、CRISPR/Cas9システムによる、C.acetobutylicum DSM792のbdh遺伝子座の改変を示す。図23Aは、bdh遺伝子座の遺伝子構成を示す。修復テンプレートとゲノムDNAの間の相同性は、薄い灰色の平行四辺形で強調されている。また、プライマーV1およびV2のハイブリダイゼーションサイトも示している。
【0160】
図23B図23はCRISPR/Cas9システムによる、C.acetobutylicum DSM792のbdh遺伝子字の改変を示す。図23BはプライマーV1およびV2を用いたbdh遺伝子座の増幅を示す。M:2-logサイズマーカー(NEB)、P:pGRNA-ΔbdhAΔbdhBプラスミド、WT:野生型菌株。
【0161】
図24図24はC.beijerinckiiDSM6423菌株において、20μgのpCas9indプラスミドの形質転換効率(形質転換されたDNA1μgあたりの観察されたコロニー数)を示す。エラーバーは、生物学的な3連の平均値の標準誤差を示す。
【0162】
図25図25はNF3プラスミドマップを示す。
【0163】
図26図26はpEC751Sプラスミドマップを示す。
【0164】
図27図27はpNF3Sプラスミドマップを示す。
【0165】
図28図28はpNF3Eプラスミドマップを示す。
【0166】
図29図29はpNF3Cプラスミドマップを示す。
【0167】
図30図30はC.beijerinckii DSM6423の3つの菌株におけるプラスミドpCas9indの形質転換効率(形質転換されたDNA1μgあたりの観察されたコロニー数)を示す。エラーバーは生物学的な2連の平均値の標準偏差である。
【0168】
図31図31はC.beijerinckii DSM6423由来の2つの菌株におけるプラスミドpEC750Cの形質転換効率(形質転換されたDNA1μgあたりの観察されたコロニー数)を示す。エラーバーは生物学的な2連の平均値の標準偏差である。
【0169】
図32図32はC.beijerinckii IFP963 ΔcatB ΔpNF2菌株におけるプラスミドpEC750C、pNF3C、pFW01、およびpNF3Eの形質転換効率(形質転換に導入されたDNA1μgあたりの観察されたコロニー数)を示す。エラーバーは生物学的な3連の平均値の標準偏差である。
【0170】
図33図33はC.beijerinckii NCIMB8052菌株におけるプラスミド pFW01、pNF3EおよびpNF3Sの形質転換効率(形質転換されたDNA1μgあたりの観察されたコロニー数)を示す。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0171】
実施例1
材料および方法
培養条件
C.acetobutylicum DSM792を2YTG培地(トリプトン16g.l-1、酵母エキス10g.l-1、グルコース5g.l-1、NaCl4g.l-1)で培養した。E.coli NEB10BをLB培地(トリプトン10g.l-1、酵母エキス5g.l-1、NaCl5g.l-1)で培養した。固体培地は15g.l-1のアガロースを液体培地に添加することで作成した。エリスロマイシン(2YTGまたはLB培地にそれぞれに、40または500mg.l-1の濃度)、クロラムフェニコール(固体または液体LB培地それぞれに25または12.5mg.l-1)、およびチアンフェニコール(2YTG培地に15mg.l-1)を必要な場合には使用した。
【0172】
核酸の取り扱い
全ての酵素およびキットは提供元の推奨に従って使用した。
【0173】
プラスミドのコンストラクション
図20に示すpCas9acrプラスミド(配列番号23)を、Eurofins Genomicsが合成したPbgalプロモーターの制御下にあるbgaRおよびacrIIA4を含むフラグメント(配列番号81)をpCas9indベクターのSacIサイトにおいてクローニングすることでコンストラクトした(Wasels et al.,2017)。
【0174】
pGRNAindプラスミド(配列番号82)をEurofins Genomicsによって合成されたPcm-2tetO1プロモーター(Dong et al.,2012)の制御下にあるgRNAの発現カセット(配列番号83)をpEC750Cベクター(配列番号106)のSacIサイトにおいてクローニングすることでコンストラクトした。(Wasels et al.,2017)。
【0175】
pGRNA-xylB(配列番号102)、pGRNA-xylR(配列番号103)、pGRNA-glcG(配列番号104)およびpGRNA-bdhB(配列番号105)プラスミドを、それぞれのプライマーペア、5′-TCATGATTTCTCCATATTAGCTAG-3′および5′-AAACCTAGCTAATATGGAGAAATC-3′、5′-TCATGTTACACTTGGAACAGGCGT-3′および5′-AAACACGCCTGTTCCAAGTGTAAC-3′、5′-TCATTTCCGGCAGTAGGATCCCCA-3′および5′-AAACTGGGGATCCTACTGCCGGAA-3′、5′-TCATGCTTATTACGACATAACACA-3′および5′-AAACTGTGTTATGTCGTAATAAGC-3′で、BsaIで切断したpGRNAindプラスミド(配列番号82)内においてクローニングすることによってコンストラクトした。
【0176】
pGRNA-ΔbdhBプラスミド(配列番号79)を、一方は5′-ATGCATGGATCCAAACGAACCCAAAAAGAAAGTTTC-3′および5′-GGTTGATTTCAAATCTGTGTAAACCTACCG-3′、他方は5′-ACACAGATTTGAAATCAACCACTTTAACCC-3′および5′-ATGCATGTCGACTCTTAAGAACATGTATAAAGTATGG-3′のプライマーを用いて得られたPCR産物のPCRアセンブリのオーバーラップによって得られたDNAフラグメントをBamHIおよびSacIで切断したpGRNA-bdhBベクターにおいてクローニングすることでコンストラクトした。
【0177】
pGRNA-ΔbdhAΔbdhBプラスミド(配列番号80)を一方は5′-ATGCATGGATCCAAACGAACCCAAAAAGAAAGTTTC-3′および5′-GCTAAGTTTTAAATCTGTGTAAACCTACCG-3′他方は5′-ACACAGATTTAAAACTTAGCATACTTCTTACC-3′および5′-ATGCATGTCGACCTTCTAATCTCCTCTACTATTTTAG-3のプライマーを用いて得られたPCR産物のPCRアセンブリのオーバーラップによって得られたDNAフラグメントをBamHIおよびSacIで切断したGRNA-bdhBベクターにおいてクローニングすることでコンストラクトした。
【0178】
形質転換
C.acetobutylicum DSM792をMermelstein et al.,1993に記載のプロトコルに従って形質転換した。gRNA発現カセットを含むプラスミドで形質転換され、Cas9発現プラスミド(pCas9indまたはpCas9acr)をすでに含む、C.acetobutylicum DSM792形質転換体の選択を、エリスロマイシン(40mg.l-1)、チアンフェニコール(15mgand)およびラクトース(40nM)を含む固体2YTG培地で行った。
【0179】
cas9発現の誘導
得られた形質転換体の生育過程において、エリスロマイシン(40mg.l-1)、チアンフェニコール(15mg.l-1)およびcas9およびgRNA発現誘導剤、aTc(1mg.l-1)を含む固体2YTG培地でcas9の発現の誘導を行った。
【0180】
bdh遺伝子座の増幅
bdhAおよびbdhB遺伝子の遺伝子座におけるC.acetobutylicum DSM792のゲノム編集は、Q5(登録商標)高信頼性DNAポリメラーゼ酵素(NEB)とプライマーV1(5′-ACACATTGAAGGGAGCTTTT-3′)およびV2(5′-GGCAACAACATCAGGCCTTT-3′)を用いたPCRによって制御された。
【0181】
結果
形質転換効率
acrIIA4 遺伝子の挿入がCas9発現プラスミドの形質転換頻度に与える影響を評価するために、pCas9ind(配列番号22)またはpCas9acr(配列番号23)を含んだDSM792菌株に、異なるgRNA発現プラスミドを形質転換し、その形質転換体をラクトース補填培地で選択した。得られた形質転換頻度を図21に示す。
【0182】
ΔbdhBおよびΔbdhAΔbdhB変異体の作成
bdhB(pGRNA-bdhB-配列番号105)を標的とするgRNA発現カセットを含む標的プラスミド、ならびにbdhB遺伝子単独(pGRNA-ΔbdhB-配列番号79)またはbdhAおよびbdhB遺伝子(pGRNA-ΔbdhAΔbdhB-配列番号80)の欠失を可能にする修復テンプレートを含む2つの派生プラスミドを、pCas9ind(配列番号22)またはpCas9acr(配列番号23)を含むDSM792菌株に形質転換した。得られた形質転換頻度を表2に示す。
【表2】
【0183】
pCas9indまたはpCas9acrを含むDSM792菌株における、bdhBを標的とするプラスミドの形質転換頻度。頻度は形質転換に用いられたDNA1μgあたりの得られた形質転換体の数で示し、少なくとも2の独立した実験の平均値を示す。
【0184】
得られた形質転換体を、アンヒドロテトラサイクリン、aTcを補填した培地上で培養することによってCRISPR/Cas9システムの発現を誘導する段階を経た(図22)。
【0185】
所望の変更を2つのaTC耐性コロニー由来のゲノムDNAにおけるPCRによって確認した(図23)。
【0186】
結論
Wasels et al.,(2017)に記載のCRISPR/Cas9に基づく遺伝子ツールは2つのプラスミドを用いる:-第1プラスミド、pCas9indは、aTc誘導性プロモーターの制御下にあるCas9を含む、および第2プラスミドは、pEC750Cから派生し、gRNA発現カセット(第2aTc誘導性プロモーターの制御下にある)およびこのシステムによって誘導された2本鎖切断を修復するための編集テンプレートを含む。
【0187】
しかし、本発明者らはaTc誘導性プロモーターを用いたCas9の発現制御と同様の、gRNAの発現制御にも関わらず、いくつかのgRNAが依然としてあまりに毒性があるように見える事を観察したため、その結果遺伝子ツールによって細菌の形質転換効率を制限し、よって染色体の改変を制限した。
【0188】
この遺伝子ツールを改良するため、抗CRISPR遺伝子、acrIIA4、をラクトース誘導性プロモーターの制御下にあるように挿入する事でcas9発現プラスミドを改変した。そして異なるgRNA発現プラスミドの形質転換効率は顕著に向上し、試験した全プラスミドの形質転換体が得られた。
【0189】
pCas9indを含むDSM792菌株に導入できなかったプラスミドを用いて、C.acetobutylicum DSM792ゲノム内のbdhB遺伝子座の編集もまた、実行し得た。改変効率の観察は以前の観察(Wasels et al.,2017)と同様に、試験したコロニーの100%が改変された。
【0190】
結論として、cas9発現プラスミドの改変はCas9-gRNAリボ核タンパク質複合体のより良い制御を可能にし、形質転換体においてCas9の作用が目的の変異体を得るための引き金となり得るような形質転換体の取得を有利に促進する。
【0191】
実施例2
材料および方法
培養条件
C.beijerinckii DSM6423を2YTG培地(トリプトン16g.L-1、酵母エキス10g.L-1、グルコース5g.L-1、NaCl4g.L-1)で培養した。E.coli NEB10-βおよびINV110をLB培地(トリプトン10g.L-1、酵母エキス5g.L-1、NaCl5g.L-1)で培養した。固体培地を15g.L-1のアガロースを液体培地に添加することで作成した。エリスロマイシン(2YTGまたはLB培地中に、それぞれ20または500mg.L-1の濃度)、クロラムフェニコール(固体または液体LB培地中に、それぞれ25または12.5mg.L-1)、およびチアンフェニコール(2YTG培地中に15mg.L-1)またはスペクチノマイシン(LBまたは2YTG培地中に、それぞれ100または650mg.L-1の濃度)を、必要な場合には使用した。
【0192】
核酸およびプラスミドベクター
全ての酵素およびキットは、提供元の推奨に従って使用した。
【0193】
コロニーPCR試験は、以下のプロトコルに従った:
C.beijerinckii DSM6423 の単離したコロニーを100μLの10mM Tris pH7.5、5mM EDTAに再懸濁した。この溶液を攪拌せずに98℃で10分間加熱した。そして、0.5μLのこの細菌溶解物をPhire(Thermo Scientific)、Phusion(Thermo Scientific)、Q5(NEB)またはKAPA2G Robust(Sigma-Aldrich)ポリメラーゼを用いた10μLの反応系におけるPCRテンプレートとして用い得る。
【0194】
全ての、コンストラクションにおいて用いたプライマーのリスト(名前/DNA配列)を以下に詳しく示す:
【表A】

以下の9つのプラスミドベクターを調製した。
【0195】
プラスミド番号1:pEX-A258-ΔcatB(配列番号17)
これはプラスミドpEX-A258にクローニングした合成DNAフラグメントΔcatBを含む。このΔcatBフラグメントはi)アンヒドロテトラサイクリン誘導性プロモーター(発現カセット:配列番号19)の制御下にあるC.beijerinckii DSM6423のcatB遺伝子(クロラムフェニコール-O-アセチルトランスフェラーゼをコードするクロラムフェニコール耐性遺伝子-配列番号18)を標的とするガイドRNA発現カセット、およびii)catB遺伝子の上流および下流に位置する相同な400bpを含む編集テンプレート(配列番号20)を含む。
【0196】
プラスミド番号2:pCas9ind-ΔcatB(図2および配列番号21を参照)。
これはPCRで増幅され(プライマーΔcatB_fwdおよびΔcatB_rev)、およびXhoI制限酵素によって個々のDNAを切断した後にpCas9ind(特許出願WO2017/064439に記載-配列番号22)にクローニングされたΔcatBフラグメントを含む。
【0197】
プラスミド番号3:pCas9acr(図3および配列番号23を参照)
プラスミド番号4:pEC750S-uppHR(図4および配列番号24を参照)
これは、upp遺伝子の上流および下流と相同な2つのDNAフラグメント(それぞれの配列長:500(配列番号26)377(配列番号27)塩基対)からなり、およびupp遺伝子の欠失に用いる修復テンプレート(配列番号25)を含む。このアセンブリを、ギブソンクローニングシステム(New England Biolabs、Gibson assembly Master Mix2X)を用いて取得した。このために、上流および下流部分を、それぞれのプライマーRH001/RH002およびRH003/RH004を用いて、DSM6423菌株(Mate de Gerando et al.,2018およびアクセッション番号PRJEB11626(https://www.ebi.ac.uk/ena/data/view/PRJEB11626を参照))のゲノムDNAから、PCRによって増幅した。そしてこれら2つのフラグメントは事前に制限酵素(SalIおよびSacI制限酵素)によって線状化されたpEC750Sにアセンブリされた。
【0198】
プラスミド番号5:pEX-A2-gRNA-upp(図5および配列番号28を参照)
このプラスミドは、pEX-A2と呼ばれる複製用プラスミドに挿入された、構成的プロモーター(配列番号30の配列のノンコーディングRNA)の制御下でupp遺伝子(uppを標的とするプロトスペーサー(配列番号31))を標的とするgRNAの発現カセット(配列番号29)に対応するgRNA-uppDNAフラグメントを含む。
【0199】
プラスミド番号6:pEC750S-Δupp(図6および配列番号32を参照)。
これは、プラスミドpEC750S-uppHR(配列番号24)を基礎として、追加的に、構成的プロモーターの制御下でupp遺伝子を標的とするガイドRNA発現カセットを含む、DNAフラグメントを含む。このフラグメントはpEX-A2に挿入され、pEX-A2-gRNA-uppと名付けられた。そして、挿入産物をプライマーpEX-fwdおよびpEX-revを用いてPCRで増幅し、制限酵素 XhoIおよびNcoIで切断した。最終的に、このフラグメントを、事前に同じ制限酵素で切断していたpEC750S-uppHRにライゲーションすることでクローニングし、pEC750S-Δuppを得た。
【0200】
プラスミド番号7:pEC750C-Δupp(図7および配列番号33を参照)。
そして、このガイドRNAおよび修復テンプレートを含むカセットを、プライマーpEC750C-fwdおよびM13-revを用いて増幅した。増幅産物をXhoIおよびSacI酵素の制限酵素によって切断し、そしてpEC750Cに酵素ライゲーションすることでクローニングし、pEC750C-Δuppを得た。
【0201】
プラスミド番号8:pGRNA-pNF2(図8および配列番号34を参照)
このプラスミドはpEC750Cを基礎とし、pNF2プラスミド(配列番号118)を標的とするガイドRNA発現カセットを含む。
【0202】
プラスミド番号9:pCas9ind-gRNA_catB(図16および配列番号38を参照)。
これはPCR(プライマーΔcatB_fwdおよびΔcatB_gRN A_rev)によって増幅されたcatB遺伝子座を標的とするガイドRNA配列をコードする配列であって、pCas9ind(特許出願WO2017/064439に記載)に、XhoI制限酵素による個々のDNAの切断およびライゲーションの後でクローニングされた配列を含む。
【0203】
プラスミド番号10:pNF3(図25および配列番号119を参照)
これは、特に複製起点およびプラスミド複製タンパク質(CIBE_p20001)をコードする遺伝子を含むpNF2の部分を含み、プライマーH021およびRH022を用いて増幅された。そして、このPCR産物はプラスミドpUC19(配列番号117)のSalIおよびBamHI制限サイトにクローニングされた。
【0204】
プラスミド番号11:pEC751S(図26および配列番号121を参照)
これは、CatPクロラムフェニコール耐性遺伝子(配列番号70)を除いたすべてのpEC750C(配列番号106)のエレメントを含む。後者をスペクチノマイシンに対する抵抗性を付与するEnterococcus faecalis aad9 遺伝子(配列番号130)と置き換えた。このエレメントはプラスミドpMTL007S-E1(配列番号120)からプライマーaad9-fwd2およびaad9-revによって増幅され、およびpEC750CのAvaIIおよびHpaIサイトに、catP 遺伝子(配列番号70)の代わりにクローニングされた。
【0205】
プラスミド番号12:pNF3S(図27および配列番号123を参照)
これはpNF3の全てのエレメントを含み、BamHIおよびSacIサイト間にaad9遺伝子(pEC751SからプライマーRH031およびRH032で増幅した)が挿入されている。
【0206】
プラスミド番号13:pNF3E(図28および配列番号124を参照)
これはpNF3の全てのエレメントを含み、miniPthlプロモーターの制御下でClostridium difficile ermB遺伝子(配列番号131)が挿入されている。このエレメントはpFW01からプライマーRH138およびRH139によって増幅され、pNF3EのBamHIおよびSacIサイト間にクローニングされた、
【0207】
プラスミド番号14:pNF3C(図29および配列番号125を参照)
これはpNF3の全てのエレメントを含み、Clostridium perfringens catP遺伝子(配列番号70)が挿入されている。このエレメントはpEC750CからプライマーRH140およびRH141によって増幅され、pNF3EのBamHIおよびSacIサイト間にクローニングされた。
【0208】
結果1
C.beijerinckii DSM 6423菌株の形質転換
プラスミドはE.coli damdcm菌株(INV110、Invitrogen)に導入され、複製された。これにより、形質転換によるDSM6423菌株へのpCas9ind-ΔcatBプラスミドの導入前にこのプラスミドのDam-およびDcm-型のメチル化を除去することが可能であり、形質転換はMermelstein et al.,(1993)に記載されたプロトコルを参照にして、以下の改変を加える:菌株を、大量のプラスミド(20μg)で、OD600が0.8の時点で、以下のエレクトロポレーションパラメーターを用いて形質転換する:100Ω、25μF、1400V。エリスロマイシン(20μg/mL)を含むペトリディッシュに播種することで、pCas9ind-ΔcatBプラスミドを含むC.beijerinckii DSM6423形質転換体が得られた。
【0209】
cas9発現の誘導およびC.beijerinckii DSM6423 ΔcatB菌株の取得
いくつかのエリスロマイシン耐性コロニーを100μlの培地(2YTG)に採取し、培地で希釈係数が10になるまで段階希釈した。各コロニーについて、8μlの各希釈溶液をエリスロマイシンおよびアンヒドロテトラサイクリン(200ng/mL)を含んだペトリディッシュ上に播き、Cas9ヌクレアーゼ遺伝子の発現を誘導した。
【0210】
ゲノムDNAを抽出した後、プレート上で培養したクローン内のCatB遺伝子の欠失を、プライマーRH076およびRH077を用いたPCRによって検証した(図9を参照)。
【0211】
C.beijerinckiiDSM6423 ΔcatB菌株のチアンフェニコール感受性の検証
CatB遺伝子の欠失がチアンフェニコールへの新規感受性を付与したことを確かめるために、寒天培地における比較解析を行った。C.beijerinckii DSM6423およびC.beijerinckii DSM6423ΔcatBを2YTG培地で前培養し、100μlのこれらの前培養液を、チアンフェニコールを15mg/Lの濃度で添加した、または非添加の2YTG寒天培地上に播種した。図10は最初のC.beijerinckii DSM6423菌株のみがチアンフェニコール添加培地で生育し得ることを示す。
【0212】
C.beijerinckiiDSM6423 ΔcatB菌株におけるCRISPR-Cas9ツールによるupp 遺伝子の欠損
C.beijerinckii DSM6423 ΔcatB菌株のクローンを、dam-およびdcm-型メチルトランスフェラーゼ-認識モチーフ(damdcmジェノタイプのEscherichia coli細菌から調製)におけるメチル化を示さないpCas9acrベクターで事前に形質転換した。C。beijerinckii DSM6423菌株内に保持されるプラスミドpCas9acrの存在の確認を、プライマーRH025およびRH134を用いたコロニーPCRによって検証した。
【0213】
エリスロマイシン耐性クローンを事前に脱メチル化したpEC750C-Δuppで形質転換した。得られたコロニーをエリスロマイシン(20μg/mL)、チアンフェニコール(15μg/mL)およびラクトース(40mM)を含む培地で選択した。
【0214】
そして、これらのコロニーのいくつかを100μlの培地(2YTG)に再懸濁し、培地で段階希釈した(希釈係数104)。5μlの各希釈液をエリスロマイシン、チアンフェニコールおよびアンヒドロテトラサイクリン(200ng/mL)を含むペトリディッシュ上に播いた(図11を参照)。
【0215】
各クローンについて、2つのaTc耐性コロニーを、upp遺伝子座を増幅するように設計したプライマーを用いたコロニーPCRによって試験した(図12を参照)。
【0216】
C.beijerinckii DSM6423 ΔcatB菌株における、CRISPR-Cas9ツールを用いた天然プラスミドpNF2の欠失。
C.beijerinckii DSM6423 ΔcatB菌株のクローンを、Dam-およびDcm-型メチルトランスフェラーゼ-認識モチーフ(damdcmジェノタイプのEscherichia coli細菌から調製)におけるメチル化を示さないpCas9indベクターで事前に形質転換した。C.beijerinckii DSM6423菌株内のプラスミドpCas9indの存在を、プライマー pCas9ind_fwd(配列番号42)およびpCas9ind_rev(配列番号43)を用いたPCRによって検証した(図13を参照)。
【0217】
そして、エリスロマイシン耐性クローンを、damdcmジェノタイプのEscherichia coli細菌から調製した、pGRNA-pNF2の形質転換に用いた。
【0218】
エリスロマイシン(20μg/mL)およびチアンフェニコール(15μg/mL)を含む培地上で得られたいくつかのコロニーを、培地に再懸濁し、希釈係数10まで段階的に希釈した。8μLの各希釈溶液をエリスロマイシン、チアンフェニコールおよびアンヒドロテトラサイクリン(200ng/mL)を含んだペトリディッシュ上に播き、CRISPR/Cas9を発現させた。
【0219】
天然プラスミドpNF2が存在しないことを、プライマー pNF2_fwd(配列番号39)およびpNF2_rev(配列番号40)を用いたPCRで検証した(図14を参照)。
【0220】
結論
この研究過程で、本発明者らは、Clostridium beijerinckii DSM6423菌株内に異なるプラスミドを導入および保持する事に成功した。本発明者らは単一プラスミドの使用に基づいたCRISPR-Cas9ツールを使用してCatB遺伝子を欠失させることに成功した。寒天試験によって得られた組み換え菌株のチアンフェニコール感受性が確認された。
【0221】
この欠失は、本発明者にとって、特許出願FR1854835に記載された、2つのプラスミドが必要なCRISPR-Cas9ツールの使用を可能にした。本発明の目的を実証する2つの実施例を行った:upp遺伝子の欠失およびClostridium beijerinckiiDSM6423菌株にとって必須ではない天然のプラスミドの除去。
【0222】
結果2
C.beijerinckii菌株の形質転換
E.coli NEB10-β菌株で調製したプラスミドをまた、C.beijerinckii菌株NCIMB8052の形質転換に用いた。一方、C.beijerinckii DSM6423においては、該プラスミドをE.coli damdcm菌株(INV110、Invitrogen)に事前に導入し、および複製した。これによって、形質転換によるDSM6423菌株への該プラスミドの導入の前に、目的のプラスミド上のDam-およびDcm-型メチル化を除去することが可能である。
【0223】
形質転換は、これらの菌株でなくとも、各菌株に対して同様に実行される、すなわち、Mermelstein et al。1992に記載されたプロトコルを参照し、以下の改変を加える:菌株を、大量のプラスミド(5-20μg)で、OD600が0.6-0.8の時点で、以下のエレクトロポレーションパラメーターを用いて形質転換する:100Ω, 25μF, 1400V。2YTGで3時間再生後、該菌株を所望の抗生物質(エリスロマイシン:20-40μg/mL、チアンフェニコール:15μg/mL、スペクチノマイシン:650μg/mL)を含むペトリディッシュ(2YTG寒天)に播いた。
【0224】
C.beijerinckii DSM6423菌株の形質転換効率の比較
形質転換は、以下のC.beijerinckii菌株において生物学的2連で行った。:DSM6423野生型、DSM6423 ΔcatBおよびDSM6423 ΔcatB ΔpNF2(図30)。このために、形質転換効率が良くないために、細菌を改変するために用いることが特に難しいpCas9indベクターを用いた。これはまた、3つ全ての菌株が感受性を示す抗生物質である、エリスロマイシンへの耐性を付与する遺伝子を含む。
【0225】
その結果は、天然プラスミドpNF2がなくなったことで、形質転換効率が約15-20倍に向上したことをしめす。
【0226】
形質転換効率をまた、チアンフェニコールへの耐性を付与するプラスミドpEC750Cについて、野生型はこの抗生物質への耐性をもつため、DSM6423ΔcatB(IFP962ΔcatB)およびDSM6423ΔcatBΔpNF2(IFP963ΔcatBΔpNF2)菌株においてのみ、試験した(図31)。このプラスミドにおいては、形質転換効率の上昇はさらに顕著である(約2000倍の向上)。
【0227】
pNF3プラスミドと他のプラスミドの形質転換効率の比較
天然プラスミドpNF2の複製起点を含むプラスミドの形質転換効率を決定するために、プラスミドpNF3EおよびpNF3CをC.beijerinckii DSM6423ΔcatB ΔpNF2菌株に導入した。エリスロマイシンまたはクロラムフェニコール耐性遺伝子を含むベクターを使用することで、耐性遺伝子の性質に基づいて、ベクターの形質転換効率の比較が可能である。プラスミド pFW01およびpEC750Cもまた形質転換された。これら2つのプラスミドは異なる抗生物質に対する耐性遺伝子(それぞれエリスロマイシンおよびチアンフェニコール)を含んでおり、通常はC.beijerinckiiおよびC.acetobutylicumの形質転換に用いられる。
【0228】
図32に示すように、該pNF3に基づくベクターは優れた形質転換効率を示し、特にC.beijerinckii DSM6423 ΔcatB ΔpNF2において有用である。特に、pNF3E(エリスロマイシン耐性遺伝子を含む)は同じ耐性遺伝子を含むpFW01に比して顕著に高い形質転換効率を示した。これと同一のプラスミドは、野生型C.beijerinckii DSM6423菌株には導入できず(生物学的2連において、形質転換されたプラスミドを5μg用いて得られたのは0コロニーであった。)、天然プラスミドpNF2の存在の影響を実証した。
【0229】
他の菌株/種における、pNF3プラスミドの形質転換能の検証
他の溶媒生産Clostridium菌株におけるこの新しいプラスミドの使用可能性を示すために、本発明者らは、ABE菌株C.beijerinckii NCIMB 8052におけるプラスミドpFW01、pNF3E、およびpNF3Sの形質転換効率の比較解析を行った(図33)。NCIMB 8052株は天然にチアンフェニコールに耐性があるため、pNF3Cの代わりにスペクチノマイシンに耐性を付与するpNF3Sを用いた。
【0230】
その結果、NCIMB8052菌株がpNF3に基づくプラスミドで形質転換可能であることを実証し、これらのベクターが広い意味でC.beijerinckii種に適用できることを示した。
【0231】
また、該一群のpNF3に基づく合成ベクターの適用可能性を、参照菌株であるC.acetobutylicum由来のDSM792菌株において試験した。形質転換アッセイは、この菌株のpNF3Cプラスミドでの形質転換可能性を示した(形質転換効率は、形質転換に用いたDNA1μgあたり3コロニーが観察されたのに対し、pEC750Cプラスミドでは120コロニー/μgであった)。
【0232】
出願FR18/73492に記載されている遺伝子ツールとpNF3プラスミドの互換性の検証
特許出願FR18/73492は、ΔcatB菌株および、エリスロマイシン耐性遺伝子およびチアンフェニコール耐性遺伝子の使用を必要とする、2プラスミドCRISPR/Cas9システムの使用を記載する。新規の1群のpNF3プラスミドの価値を実証するために、該pNF3Cベクターを、すでにpCas9acrプラスミドを含むΔcatB菌株に形質転換した。2連で行ったこの形質転換は、0.625±0.125コロニー/μgDNA(平均値±標準誤差)の形質転換効率を示し、pNF3Cに基づくベクターがΔcatB菌株においてpCas9acrと組み合わせて使用され得ることを実証した。
【0233】
これらの結果と並行して、その複製起点(配列番号118)を含むpNF2プラスミドの一部を再利用することで、新規の一群のシャトルベクター(配列番号119、123、124および125)の作成に成功し得、これは望むように改変でき、特に、E.coli菌株での複製、およびC.beijerinckii DSM6423への再導入が可能である。これらの新規ベクターは、例えばC.beijerinckii DSM6423およびその派生体における、特に2つの異なる核酸を含むCRISPR/Cas9ツールを用いた、遺伝子編集を実行するために有利な形質転換効率を示す。
【0234】
これらの新規ベクターはまた、C.beijerinckiiの他の菌株(NCIMB8052)およびClostridium種(特にC.acetobutylicum)においての試験に成功し、Firmicutes門の他の生命体へのそれらの適用可能性を実証した。試験はまた、Bacillusにおいても行われている。
【0235】
結論
これらの結果から、天然プラスミドpNF2を欠失させると、それを含んでいた細菌の形質転換頻度が大幅に増加することが実証された(pFW01では約15倍、pEC750Cでは約2000倍)。この結果は、特に、形質転換が困難であることが知られているClostridium属の細菌の場合に、および特に、天然に形質転換効率が低い(プラスミド1μgあたり5コロニー未満)という問題を抱えるC.beijerinckii DSM6423菌株の場合に、興味深い。
【0236】
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図1
図2
図3
図4
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図6
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図8
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図11
図12
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図23A
図23B
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図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
【配列表】
2022516025000001.app
【国際調査報告】