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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-24
(54)【発明の名称】カプセル化農薬
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/26 20060101AFI20220216BHJP
   A01N 25/30 20060101ALI20220216BHJP
   A01N 57/20 20060101ALI20220216BHJP
   A01P 13/00 20060101ALI20220216BHJP
【FI】
A01N25/26
A01N25/30
A01N57/20 G
A01P13/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021536391
(86)(22)【出願日】2019-12-20
(85)【翻訳文提出日】2021-07-20
(86)【国際出願番号】 GB2019053659
(87)【国際公開番号】W WO2020128511
(87)【国際公開日】2020-06-25
(31)【優先権主張番号】1821031.0
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521270649
【氏名又は名称】パンジア アグロケミカルズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100124349
【弁理士】
【氏名又は名称】米田 圭啓
(72)【発明者】
【氏名】ハイグ,グラハム
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AB01
4H011BA01
4H011BA05
4H011BB17
4H011BC04
4H011BC19
4H011DA05
4H011DH10
(57)【要約】
カプセル化農薬
以下の工程を含む、農薬(例えばグリホサート)をカプセル化する方法。
(a) 4から100センチポアズまでの粘度(20℃の1%水溶液)を有するアルギン酸塩である第一の生体高分子と、第二の生体高分子とを溶液中で混合する工程、
(b) 農薬の溶液に工程(a)の生成物を加える工程、
(c) 工程(b)の生成物に界面活性剤を加える工程。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、農薬をカプセル化する方法。
(a) 4から100センチポアズまでの粘度(20℃の1%水溶液)を有するアルギン酸塩である第一の生体高分子と、第二の生体高分子とを溶液中で混合する工程、
(b) 農薬の溶液に工程(a)の生成物を加える工程、
(c) 工程(b)の生成物に界面活性剤を加える工程。
【請求項2】
前記第二の生体高分子がペクチンまたはキトサンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ペクチンが柑橘類ペクチンである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ペクチンがエステルの形態である、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
エステル化度が30%までである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記界面活性剤がココアミン界面活性剤である、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記界面活性剤の量が3%から30%までである、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記界面活性剤の量が約16%である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記第一の生体高分子と前記第二の生体高分子との比が9:1から1:9までである、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記第一の生体高分子と前記第二の生体高分子との比が約3:1である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
工程(b)において、前記生成物を500から3000RPMまでの撹拌速度で撹拌する、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記生成物が30分から24時間まで連続的に撹拌される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記生成物が、不活性ガス、場合により窒素ガスの雰囲気下でかき回され、またはかき混ぜられる、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
前記生成物が、プロペラ、アンカー、ディゾルバー、パドル、スイベル、ビーターとタービン、四枚羽根のインペラー、またはゲートミキサーを用いて撹拌される、請求項11から13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記農薬が、グリホサート、グルホシネート、または任意の水溶性農薬である、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記農薬が、アンモニウム、ジアンモニウム、ジメチルアンモニウム、イソプロピルアンモニウム、カリウムまたはセスキソジウムのいずれかの塩の形態のグリホサートである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
工程(b)が40℃から60℃までの温度で行われる、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
水溶液中で行われる、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記農薬が62%水溶液の形態で提供される、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
連続プロセスまたは回分プロセスとして行われる、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
最終生成物中の前記農薬の含有量が0.2 w/vh%から40 w/v%までである、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
先行する請求項のいずれかに記載の方法により得ることができる、または得られたカプセル化農薬。
【請求項23】
0.36 w/v %、0.72 w/v %、12 w/v %または18 w/v %の活性を有する、請求項22に記載のカプセル化農薬。
【請求項24】
請求項22または23に記載の生成物を植物に適用する方法であって、前記生成物を補助剤と共に適用する工程を含む方法。
【請求項25】
前記補助剤がPBOである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
請求項22または23に記載の生成物を植物に適用する方法であって、前記生成物を補助剤なしで適用する工程を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農薬をカプセル化する方法に関し、特にエマルションを形成する必要性を回避する方法に関する。また、本発明は、その方法に従って形成されたカプセル化農薬、およびその農薬を補助剤(アジュバント)とともに、または補助剤なしで使用する方法に関する。より詳細には、本発明は除草剤である農薬に関する。
【背景技術】
【0002】
除草剤は、栽培された製品の生産性と品質を改善するために、農業で一般的に使用される。除草剤の世界市場は2020年までに315億ドルに達すると推定されている。アジア太平洋地域が除草剤使用量の5分の2を占める主要な市場であるのに対し、北米地域は除草剤市場が生み出す世界的収益の1/3を占めている。
【0003】
現在、世界で最も広く使用されている除草剤はグリホサートであり、生産コストの低さと環境への影響の低さから、世界で年間100億ドルを超える売り上げがある。
【0004】
除草剤を長期間使用した結果、雑草が耐性を持つようになり、その数は指数関数的に増加しており、現在、世界中で217種を超える雑草種が耐性を持っている。ほとんどの場合、ある除草剤で処理された土地では3年以内に雑草耐性が出現すると推定されている。
【0005】
現在の解決策は、新しい除草剤を開発するか、グリホサートに対応した作物からグルホシネートに対応した作物に切り替えるかのいずれかである。どちらの方法も費用がかかり、雑草が3~5年後に耐性を獲得しないという保証がない。グルホシネート系除草剤の場合は、すでに雑草耐性が報告されている。雑草耐性の最初の症例は2009年に報告され、除草剤の使用の増加は広範な耐性をもたらす可能性が高い。
【0006】
他の代替案としては、環境に悪影響を及ぼす可能性のある高濃度のグリホサートを使用する方法、あるいは極端な場合には労働集約的な手作業で雑草を除去する方法がある。どちらの方法もコストが高くなったり、肥沃な土地を台無しにしてしまう危険性が伴ったりする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
EP 1499183 B2(Rothamsted Research Institute Limited他)は、基質害虫の農薬に対する抵抗性を防止または低減する方法を開示しており、この方法は、基質または害虫に、代謝酵素阻害剤(ピペロニルブトキシド-PBOなど)および(実質的に同時に)分解性カプセルに封入された農薬(ピレスロイド系殺虫剤など)を投与する工程を含む。カプセルは、阻害剤が基質に対する阻害作用を開始する時間を確保するまで、有効量の農薬が害虫によって吸収されるのを防止する。本件で使用される製剤は、PVAでカプセル化された殺虫剤(ラムダシハロトリン)である「Karate Zeon(登録商標)」(Syngenta社製)である。
【0008】
EP 0427991 A1(住友化学株式会社)は、水不溶性のマイクロカプセルで形成されたカプセル化部と、水に乳化または懸濁された流動化部との混合物である、殺虫および/または殺ダニおよび/または殺線虫組成物を開示している。
【0009】
US 2015/320036 A1は、インドセンダン(ニーム)(Azadirachta indica A.Juss (Neem))を含有する生体高分子ナノ粒子を得るための方法を開示しており、この方法は、第I相では、ニーム油および抽出物の水性エマルションを調製し、第II相では、有機溶媒中で生体高分子溶液を調製し、続いて、第I相および第II相の両方を混合し、第III相では、界面活性剤の水性エマルションを調製し、それを第I相および第II相の混合物に加えて、安定化されたナノ粒子懸濁液を得る工程を含む。得られた生体高分子ナノ粒子と粉末微粒子についても記載されている。
【0010】
US 2016/0330952 A1は、カプセル化ポリマー溶液と混合される揮発性有機化合物の安定したエマルションを形成し、その後、超微細繊維に形成することによって、前記揮発性有機化合物をカプセル化する方法を開示している。カプセル化された揮発性有機化合物を含有する超微細繊維は、腐りやすい製品の保存に使用するための様々な形式に形成することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本出願人は、改良されたカプセル化農薬を提供しようとする国際特許出願PCT/GB 2018/051864(本出願日において未公開)を出願している。本願は、さらなる改良、特に、カプセル化農薬を工業的に生産するのに商業的に適した改良方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第一の態様では、溶液中の農薬を第一の生体高分子、第二の生体高分子および界面活性剤と組み合わせる工程を含む、農薬をカプセル化する方法が提供される。好ましくは、本方法は以下の工程を含む。
(a) 前記第一の生体高分子と前記第二の生体高分子とを溶液中で混合する工程、
(b) 農薬の溶液に工程(a)での生成物を加える工程、
(c) 工程(b)での生成物に前記界面活性剤を加える工程。
【0013】
特に好ましい実施形態では、前記第一の生体高分子がアルギン酸塩であり、前記第二の生体高分子がペクチンであり、前記界面活性剤がココアミン界面活性剤である。
【0014】
本発明の方法では、エマルション(水中油型または油中水型のいずれも)を生成することを必要とせずに、カプセル化農薬を生成できることが見出された。これは、環境的 (有機溶媒を使用する必要性を回避する)および商業的(高価な洗浄工程を必要としないため)の両方に実質的な利点を有する。さらに、そのプロセスは、遠心分離工程や濾過工程の必要性を回避して、単一の容器内で実施することができる。その生成物は適切な農薬放出特性をも有する。
【0015】
前記第一の生体高分子は、好ましくは4から100センチポアズ(例えば、1 w/v%溶液の場合)までの粘度を有するアルギン酸塩である。低粘度のアルギン酸塩を使用することにより、得られる生成物が植物への適用(例えば)に適したレオロジー特性を有することが保証される。
【0016】
好ましい実施形態では、カルシウムイオンによってさらに安定したカプセル化生成物が得られると考えられているので(理論に縛られることなく)、カルシウムイオンを加えてもよい。硬水を使用することで、十分なレベルのカルシウムイオンが供給されると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
以下、本発明の多数の好ましい実施形態を、添付図面を参照して、また図面に示されるとおりに説明する。
図1図1はエマルション-ゲル化法によるマイクロカプセルの調製を示す概略図であり、そして、
図2図2は本発明に従ってカプセル化されたカプセルからの経時的なグリホサートの累積放出量を示すグラフである
【発明を実施するための形態】
【0018】
実験
材料
すべての化学物質はAldrichまたはFisher Scientificのいずれかから購入したが、溶媒はFisher Scientificから購入した。
・褐藻類由来のアルギン酸ナトリウム塩(Aldrich;製品番号 A0682)。
・ガラクタロン酸を74 %以上含有する、柑橘類果皮由来のペクチン(Aldrich;製品番号 P9135)。
・少なくとも85%が脱アシル化された、カニ殻由来のキトサン(Aldrich;製品番号 48165)。
・約75ブルーム(bloom)の牛皮由来のゼラチン(Aldrich)。
・塩化カルシウムの無水粉末(Fisher Scientific;製品番号 1.02378.2500)。
・氷酢酸(Fisher Scientific;A/0360/PB17)。
・リン酸(Aldrich;製品番号 79617)。
・グリホサート(99%、Aldrich:製品番号 455251)。
・67%グリホサートイソプロピルアンモニウム溶液は、Pangea Chemicals社から提供された。
・イソプロピルアミン(Aldrich:製品番号 471291)。
・ヒマワリ油(スーパーマーケットブランド;ASDA)。
【0019】
比較例 A
エマルション-ゲル化法
・コーティング剤の4 %(w/w)水溶液を蒸留水で調製した。唯一の例外はキトサンで、1 %(v/v)の酢酸で1 %の水溶液を調製したが、これも蒸留水で調製した。
・混合コーティング剤を含む製剤については、グリホサート塩を加える前に、必要なw/w比の各コーティング溶液を5分間撹拌して混合コーティング剤溶液を調製し、均一な混合物を確保した。
・コーティング剤の水溶液(25 g)と67 %(w/w)グリホセートイソプロピルアンモニウム溶液(5 g)とを、マグネチックスターラーを用いて、200rpmで2分間混合した。
・得られた溶液をヒマワリ油(100 ml)が撹拌されている250 mlのブレーカー(breaker)に滴下し、ホモジナイザー(IKA)を用いて、ブレード径27 mm、1000 rpmでエマルションを形成した。
・30分後、塩化カルシウム(1 g)の粉末を10分かけてゆっくりと加えた。粉末が反応容器上に均一に分布するように、ステンレス鋼製のスパチュラを用いて少量の粉末(0.1 g)を振りかけた。塩化カルシウムはコーティング剤と接触すると瞬時に反応する。
・得られた反応混合物を、ホモジナイザーを用いて1000 rpmで30分間さらに撹拌した。ブレーカー(breaker)の底に沈んでいく白いカプセルが形成されるのを観察する。
・得られた反応混合物を2本の遠心分離管(50 ml)に分け、3300rpmで10分間遠心分離した。
・上澄み液は廃棄した。
・ヘキサン(50 ml)を各遠心分離管(50 ml容量)に加え、懸濁液を3300 rpmで10分間遠心分離した。
・上澄み液をデカンテーションし、この工程をもう一度繰り返した。
・マイクロカプセルを高真空下に一晩置き、残留溶媒残留物を除去した。
【0020】
例 B
グリホサート120 g/l CS-1000リットルの実験的調製
工程1:プレミックスA
ステンレス鋼製のリボンブレンダーで、次の成分を混合する。
30キログラムの低粘度アルギン酸ナトリウム(粘度20 cps未満の1 %溶液)
10キログラムのペクチン、この規格はガラクツロン酸が74 %を超えることからエステル化が26 %未満であることが示唆される
上記のものを30分間、5から10 RPMの間の速度で混合する
【0021】
工程2:プレミックスB
抽出、混合および温度に適した清浄なステンレス鋼製の混合容器中に、267キログラムのグリホサートイソプロピルアンモニウム塩 620 g/kg(約122 g/lとなる。)を加える
45℃よりも高く且つ55℃以下に保温する
液体中に渦を発生させる速度でプロペラミキサーを始動させる。
プレミックスA(40キログラム)を、明らかなダマができないような速度で、渦にゆっくりと加える。
一度加えたら、溶液中に空気が混入しないようにミキサーの速度落とし、熱源を取り除き、温度が常温に戻るまで生成物を撹拌する。
****サンプル液は、すべてのプレミックスAがグリホサートIPA塩に溶解していなければならず、用いるアルギン酸塩やペクチンの種類によっては、この作業に2~24時間かかる場合もある。
【0022】
工程3:最終生成物
工程2による生成物307キログラムを取り出す
ゆっくりと攪拌を続け、気泡を取り込まないようにする。
100キログラム/時の速度でゆっくりと622.5キログラムのWHO標準硬水を加える (必要なカルシウムは水の硬度から得られる)
その後、次のものを追加する
160.0キログラムの界面活性剤LKD 1559
2.5キログラムのアシッドブルー9濃縮液
0.1キログラムのシトラスバーストWS
合計=1092.1キログラム/1000リットル
【0023】
結果
カプセルの特性評価
カプセル化効率(ee)
・カプセルのeeは、亜りん酸二水素カリウム緩衝液(5 ml)の水溶液中で、乳鉢と乳棒を用い、カプセル(100 mg)を15分間隔で1分間定期的に徹底的に粉砕するのを1時間かけて行って測定した。
・1時間後、粉砕した混合物をろ過(0.45 μm)し、HPLCでサンプルを流してグリホサート濃度を測定した。各実験を各カプセルについて3回繰り返した。
比較例Aおよび例Bのカプセルの結果を以下の表1に示す。
【0024】
【表1】
【0025】
グリホサート放出試験
これらはHPLCを用いて実施した。試験対象のカプセルを透析チューブに入れ(50 mlの水に1 g)、150 rpm、25℃、湿度35 %で混合した。
その後、異なる時間にカプセルをサンプリングし、HPLCを用いてグリホサートの放出を分析した。
比較例A(「バーミンガム(Birmingham)」と表示)および例B(「アグロスマートカプセル(AgroSmart capsules)」と表示)のカプセルの放出プロファイルを以下の図1に示す。カプセル化方法の違いにもかかわらず、同等の放出プロファイルが得られることが分かる。
【0026】
記載された実施形態および従属請求項のすべての任意かつ好ましい特徴ならびに変更は、本明細書で教示された本発明のすべての態様において使用可能である。さらに、従属請求項の個々の特徴だけでなく、記載された実施形態のすべての任意かつ好ましい特徴ならびに変更は、互いに組み合わせ可能であり、交換可能である。
【0027】
本出願が優先権を主張する英国特許出願第1821031.0号および本出願に添付された要約書の開示内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
図1
図2
【国際調査報告】