(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-24
(54)【発明の名称】バイオロジカルスキャホールド及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61L 27/36 20060101AFI20220216BHJP
A61L 27/24 20060101ALI20220216BHJP
A61L 27/14 20060101ALI20220216BHJP
A61L 27/20 20060101ALI20220216BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20220216BHJP
【FI】
A61L27/36
A61L27/36 130
A61L27/24
A61L27/14
A61L27/20
A61L27/22
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021538059
(86)(22)【出願日】2019-12-30
(85)【翻訳文提出日】2021-08-17
(86)【国際出願番号】 US2019068907
(87)【国際公開番号】W WO2020140111
(87)【国際公開日】2020-07-02
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513088261
【氏名又は名称】エクセル メッド、エルエルシー
(71)【出願人】
【識別番号】510229072
【氏名又は名称】ナショナル チェン クン ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ホァン,リン,エル.エイチ.
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AA12
4C081AA14
4C081CD02
4C081CD06
4C081CD07
4C081CD09
4C081CD15
4C081CD16
4C081CD20
4C081DA02
4C081DB03
4C081DC04
(57)【要約】
本発明のバイオロジカルスキャホールドは、本体と、生物学的物質層と、任意で組織接着剤層を備える。本体は、少なくとも非再構成コラーゲンマトリックスを有する。生物学的物質層は、少なくとも本体の表面上にコーティングされ、組織接着剤層は、少なくとも本体の別の表面に配置される。バイオロジカルスキャホールドが組織接着剤層を通じて組織に接着されると、複数の細胞が組織から接着層又は生物学的物質層のいずれかに移動して、組織修復/再生が行われる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオロジカルスキャホールドであって、
非再構成コラーゲンマトリックスを含む本体と、
前記非再構成コラーゲンマトリックスは、交絡した重なり合う複数の束状コラーゲン細線維と、前記束状コラーゲン細線維によって形成された複数の細孔とを有し、
前記本体の第1の外面及び複数の細孔の内部をコーティングする生物学的物質と、
を備えるバイオロジカルスキャホールド。
【請求項2】
前記生物学的物質が、細胞接着材料、組織修復材料、細胞誘導材料、成長因子材料、抗菌材料、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載のバイオロジカルスキャホールド。
【請求項3】
前記抗菌材料が、抗生物質、抗菌タンパク質、抗菌ペプチド、又はこれらの組み合わせである、請求項2に記載のバイオロジカルスキャホールド。
【請求項4】
前記細胞接着材料が、糖類、ペプチド、タンパク質、リン脂質、又はこれらの組み合わせである、請求項2又は請求項3に記載のバイオロジカルスキャホールド。
【請求項5】
前記糖類材料が、グリコサミノグリカン材料である、請求項2~請求項4のいずれか一項に記載のバイオロジカルスキャホールド。
【請求項6】
前記グリコサミノグリカン材料が、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、ケラタン、ケラタン硫酸、デルマタン硫酸、カラギーナン、ヒアルロン酸、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項2~請求項5のいずれか一項に記載のバイオロジカルスキャホールド。
【請求項7】
前記成長因子材料が、上皮成長因子(EGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、血管内皮細胞成長因子(VEGF)、結合組織成長因子(CTGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、インスリン様成長因子(IGF-I、IGF-II)、神経成長因子(NGF)、肝細胞成長因子(HGF)、コロニー刺激因子(CSF)、幹細胞因子(SCF)、表皮細胞成長因子(KGF)、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、マクロファージコロニー刺激因子(MCSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GMCSF)、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)、毛様体神経栄養因子(CNF)、内皮-単球活性化ポリペプチド、上皮好中球活性化ペプチド、エリスロポエチン、骨形成タンパク質(BMP-1、BMP-2、BMP-3など)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、BRAK、セロトニン、フォン・ヴィレブランド因子(vWF)、トランスフォーミング成長因子(TGF-α、TGF-β)、インターロイキン(IL-1、IL-2、IL-3など)、腫瘍壊死因子(TNF)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項2~請求項6のいずれか一項に記載のバイオロジカルスキャホールド。
【請求項8】
前記細胞誘導材料が、ビタミン、ミネラル、化学薬品、薬剤、薬用ハーブ、代謝物、中間代謝物、糖類、ペプチド、タンパク質、リン脂質、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項2~請求項7のいずれか一項に記載の生物学的物質。
【請求項9】
前記組織修復材料が、生体材料、細胞外マトリックス、栄養素、又はこれらの組み合わせである、請求項2~請求項8のいずれか一項に記載のバイオロジカルスキャホールド。
【請求項10】
前記生体材料が、コラーゲン、ゼラチン、ヒアルロン酸、エラスチン、グリコサミノグリカン、キトサン、アルギン酸塩、ポリグルタミン酸(γ-PGA)、ポリリジン、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)、シルクフィブロイン、ポリアミノ酸、セルロース及びその誘導体、又はこれらの組み合わせである、請求項2~請求項9のいずれか一項に記載のバイオロジカルスキャホールド。
【請求項11】
前記細胞外マトリックスが、コラーゲン、ゼラチン、エラスチン、グリコサミノグリカン、プロテオグリカン、糖タンパク質、フィブロネクチン、ラミニン、アグリカン、メタロプロテアーゼ、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項2~請求項10のいずれか一項に記載のバイオロジカルスキャホールド。
【請求項12】
前記栄養素が、ビタミン、ミネラル、タンパク質、脂質、炭水化物、アミノ酸、ペプチド、ヌクレオチド、デオキシヌクレオチド、薬用ハーブ、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項2~請求項11のいずれか一項に記載のバイオロジカルスキャホールド。
【請求項13】
前記本体の複数の細孔内に細胞をさらに含む、請求項1~請求項12のいずれか一項に記載のバイオロジカルスキャホールド。
【請求項14】
前記細胞が、幹細胞、衛星細胞、始原細胞、前駆細胞、又は組織細胞である、請求項1~請求項13のいずれか一項に記載のバイオロジカルスキャホールド。
【請求項15】
前記生物学的物質が、前記本体の表面全体及び内面を実質的にコーティングする、請求項1~請求項14のいずれか一項に記載のバイオロジカルスキャホールド。
【請求項16】
前記本体の第2の表面にコーティングされた組織接着剤層をさらに備える、請求項1~請求項15のいずれか一項に記載のバイオロジカルスキャホールド。
【請求項17】
前記組織接着剤層が、
官能基又は二官能基を有する架橋剤と、
少なくとも、前記架橋剤で架橋されるマトリックス分子と、
前記マトリックス分子と反応していない前記架橋剤の過剰な官能基又は二官能基と反応させるためのクエンチ剤と、
を含む、請求項1~請求項16のいずれか一項に記載のバイオロジカルスキャホールド。
【請求項18】
前記架橋剤の1つの官能基が、アミン、スルフヒドリル、カルボニル、グリコール、ヒドロキシル、カルボキシル、アジド、イミドエステル、エポキシド、アルデヒド、ハロアセチル、ピリジルジスルフィド、ピリジルジチオール、ヒドラジド、光架橋剤、カルボジイミド、ジアジリン、アジリジン、アクリロイル、アリレート、チオール、ゲニピン、リボフラビン、フラボノイド及びその誘導体、ヒドロキシメチルホスフィン、イソシアネート、マレイミド、6-マレイミドヘキサン酸活性エステル、スベリン酸ジサクシンイミジル、スベリン酸ビス(スルホスクシンイミジル)、N-ヒドロキシ-スクシンイミドエステル(NHS-エステル)、スルホスクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート、ペンタフルオロフェニルエステル(PFP-エステル)、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グルタルアルデヒド、2,3-ジブロモプロピオニルN-ヒドロキシスクシンイミドエステル、スルホ-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、クロラムブシル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、ソラレン、ビニルスルホン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1~請求項17のいずれか一項に記載のバイオロジカルスキャホールド。
【請求項19】
前記マトリックス分子が、コラーゲン、ヒアルロン酸、ゼラチン、シルクプロテイン、フィブロイン、フィブロネクチン、エラスチン、テネイシン、ラミニン、ビトロネクチン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、ケラチン、ケラタン硫酸、デルマタン硫酸、カラギーナン、ヘパリン、キチン、キトサン、アルギン酸塩、アグリカン、アガロース、寒天、セルロース、メチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、グリコーゲン、フィブリン、フィブリノゲン、トロンビン、ポリグルタミン酸、ポリリジン、ポリアミノ酸、合成ポリマー(例えば、アクリレート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸-グリコール酸)、これらの誘導体、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1~請求項18のいずれか一項に記載のバイオロジカルスキャホールド。
【請求項20】
前記マトリックス分子が前記本体のコラーゲンである、請求項1~請求項19のいずれか一項に記載のバイオロジカルスキャホールド。
【請求項21】
前記クエンチ剤が、アミノ酸、オリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質、アミン、ジアミン、オリゴアミン、ポリアミン、カルボニル化合物、グリコール化合物、カルボキシル化合物、ジカルボキシレート、オリゴカルボキシレート、ポリカルボキシレート、スルフヒドリル化合物、オリゴスルフヒドリル化合物、ポリスルフヒドリル化合物、ヒドロキシル化合物、オリゴヒドロキシル化合物、ポリヒドロキシル化合物、糖類、オリゴ糖、多糖類、リボ核酸(RNA)、デオキシリボ核酸(DNA)、オリゴヌクレオチド、アジド、光架橋化合物、単官能基又はヘテロ二官能基、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1~請求項20のいずれか一項に記載のバイオロジカルスキャホールド。
【請求項22】
前記非再構成コラーゲンマトリックスが、
結合組織の層シートを得ることと、
前記層シートを高イオン強度の塩溶液に浸漬し、次いで前記塩溶液にタンパク質分解酵素を添加することで脱毛した層シートが生成される、脱毛ステップを行うことと、
前記脱毛した層シートが膨潤した層シートを形成するのに十分な時間にわたって、前記脱毛した層シートを第1の酸性溶液に浸漬することで、非再構成コラーゲンマトリックスが形成される、膨潤ステップを行うことと、
を含む手順によって調製される、請求項1~請求項21のいずれか一項に記載のバイオロジカルスキャホールド。
【請求項23】
前記層シートが動物皮膚組織から得られた皮層シートである、請求項1~請求項22のいずれか一項に記載のバイオロジカルスキャホールド。
【請求項24】
非再構成コラーゲンマトリックスを調製する方法であって、
動物皮膚組織から皮層シートを得ることと、
前記皮層シートを高イオン強度の塩溶液に浸漬し、次いで前記塩溶液にタンパク質分解酵素を添加することで脱毛した皮層シートが生成される、脱毛ステップを行うことと、
前記脱毛した皮層シートが膨潤した皮層シート層を形成するのに十分な時間にわたって、前記脱毛した皮層シートを第1の酸性溶液に浸漬することで、非再構成コラーゲンマトリックスが形成される、膨潤ステップを行うことと、
を含み、
前記非再構成コラーゲンマトリックスは、交絡した重なり合う複数の束状コラーゲン細線維と、前記束状コラーゲン細線維によって形成された複数の細孔を有する、
方法。
【請求項25】
前記塩溶液のイオン強度が0.15Nを超える、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記イオン強度が0.5Nから10Nの間である、請求項24又は請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記塩溶液が、塩化ナトリウム、硫酸アンモニウム、又はこれらの混合物を含有するリン酸塩溶液である、請求項24~請求項26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記タンパク質分解酵素が、セリンプロテアーゼ、トレオニンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、グルタミン酸プロテアーゼ、メタロプロテアーゼ、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項24~請求項27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
消毒ステップをさらに含む、請求項24~請求項28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記脱毛ステップの前又は後に脱脂ステップをさらに含む、請求項24~請求項29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記膨潤ステップの後に、前記非再構成コラーゲンマトリックスを、ペプシンを含有する第2の酸性溶液に浸漬することを含む脱抗原ステップをさらに含む、請求項24~請求項30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記膨潤ステップの後に、前記膨潤した皮層シート層を添加剤に浸漬することを含む強化ステップをさらに含む、請求項24~請求項31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
バイオロジカルスキャホールドを調製する方法であって、
請求項24~請求項31のいずれか一項に記載の方法によって調製された非再構成コラーゲンマトリックスを準備することと、
前記非再構成コラーゲンマトリックスを減圧環境下で生物学的物質を含有する溶液と接触させることで、前記生物学的物質を前記非再構成コラーゲンマトリックスの第1の外面及び複数の細孔の内部にコーティングすることと、
を含む方法。
【請求項34】
前記減圧環境が、真空引き動作によって生成される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記非再構成コラーゲンマトリックスの複数の細孔に細胞培養培地を注入することと、
前記生物学的物質に細胞が付着するように、細胞を前記複数の細孔に注入することと、
をさらに含む、請求項33又は請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記生物学的物質が、細胞接着材料、組織修復材料、細胞誘導材料、成長因子材料、抗菌材料、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項27に記載の方法。
【請求項37】
前記非再構成コラーゲンマトリックスの第1の外面を、生物学的物質を含有する溶液と接触させ、前記非再構成コラーゲンマトリックスの第2の外面に、組織接着剤層をコーティングすることをさらに含む、請求項29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記組織接着剤層が、官能基又は二官能基を有する架橋剤と、少なくとも、前記架橋剤で架橋されるマトリックス分子と、前記マトリックス分子と反応していない前記架橋剤の過剰な官能基又は二官能基と反応させるためのクエンチ剤とを含む、請求項31に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非再構成コラーゲンマトリックスと生物学的物質、任意で組織接着剤層で構成された、バイオロジカルスキャホールド及びその製造方法を提供する。より具体的には、このような非再構成コラーゲンマトリックス及びこのようなバイオロジカルスキャホールドは、創傷の治癒を促進するための被覆材として有用である。
【背景技術】
【0002】
組織工学とは、合成物質又は生物活性物質を用いるインビトロ培養又は建造技術を通じて、臓器及び組織を再構成又は修復することを指す。組織工学は、生物学、材料科学、及び工学などの複数の分野を含み、骨、軟骨、皮膚、腎臓、肝臓、消化管、角膜、筋、及び乳房などの組織を再構築することができている。「再生医療」としても知られている組織工学の基本的な手法は、以下のステップで構成される。最初に、人体から細胞を採取し、その細胞を十分な数に達するまでインビトロで培養する。次いで、その細胞を人工スキャフォールドに配置して増殖させる。時には、細胞分化を促進するためにいくつかの化学物質又は生物学的因子を添加する必要がある場合もある。最後に、人工組織を患者に入れる。したがって、組織再生の3つの要素は、細胞、バイオロジカルスキャホールド、及び成長因子である。
【0003】
その中で、人体の最も基本的な構造及び機能を構成する単位は細胞である。細胞間には、細胞自体によって形成される細胞外マトリックスが存在する。これは、タンパク質細線維/束(例えば、コラーゲン)、結晶性無機ミネラルなどの構造成分を含む物質である。
【0004】
組織は、同様の形態及び機能をもつ多くの細胞からなり、細胞外マトリックスを通じて互いに結合する。その中で、それらは、異なる細胞型に従って、例えば、上皮組織、結合組織、筋肉組織、及び神経組織などの異なる組織に分けられる。その中で、結合組織は、多数の細胞外マトリックスと、その中に散在する細胞で構成される。細胞外マトリックスは、マトリックス、細線維、組織液などを含有する。コラーゲンは、動物の結合組織で最も重要な構造タンパク質であり、細胞外マトリックスで最も重要な成分である。動物の結合組織には、60~70%の水に加えて、20~30%のコラーゲンが含まれている。したがって、コラーゲンは、動物に広く存在するタンパク質であり、結合組織は人体に広く分布し、ほぼすべての臓器に見られる。
【0005】
コラーゲンは、主に不溶性細線維の形態で存在し、ヒト組織のタンパク質の約33%を占めている。言い換えれば、コラーゲンは、人体のタンパク質の3分の1を占め、結合組織の非常に重要な構造タンパク質である。これは、様々な組織を保護及び連結して人体の構造を支える「マットレス」及び「セメント」の役割を果たす。したがって、コラーゲンは、バイオプロテーゼの材料としてよく用いられる。
【0006】
コラーゲンの最も基本的な単位はトロポコラーゲンであり、これは3つのポリペプチド鎖で構成される分子である。3つのポリペプチド鎖は、鎖間水素結合によって平行に緊密に結合されて安定した三重らせん構造を形成する。三重らせん鎖のコラーゲン単位はトロポコラーゲンと呼ばれ、直径約1.5nm、長さ約280nmである。生理学的条件では、複数のトロポコラーゲン分子が自己凝集してコラーゲンマイクロフィブリル構造となり、各分子は約67nmの距離だけずれている。次いで、マイクロフィブリルは、様々な直径の、普通は約50nmの細線維に凝集することがある。体内では、細線維は、積み重なって異なる四次構造となり、表皮細胞の下のマトリックスなどの網状細線維を形成し得る。これらの細線維はさらに、一方向に規則的に配置されたコラーゲン細線維を含む靱帯及び腱のような線維に凝集し得る。
【0007】
これまでに発見された動物性コラーゲンは、少なくとも28種類に分類することができる。主にII型コラーゲンである硝子軟骨を除いて、ほとんどの結合組織は主にI型コラーゲンを含有し、総コラーゲン含有量の約90%を占め、最も広く用いられているコラーゲン生体材料でもある。その主要な構造タンパク質は、結合組織に、張力、引張強さ、及び粘弾性などの、結合組織に必要な支持、保護、及び様々な機械的特性をもたらす。生化学特性の観点から、これは凝固カスケードを促進し、凝血塊の形成を触媒することができる。コラーゲンの機能としては、分子透過性の制御、創傷治癒と組織修復の促進、及び細胞と組織の生理的機能の調節が挙げられる。
【0008】
中国特許第476642号での多孔質コラーゲンマトリックスを調製する方法などの従来のコラーゲンマトリックスを調製する方法は、同様の生理学的条件で30~45℃でコラーゲンマトリックスを再構成することである。多孔質コラーゲンマトリックスは、このようなマトリックスを凍結及び凍結乾燥することによって得ることができる。
図3は、従来の多孔質コラーゲンマトリックスを100倍に拡大した電子顕微鏡写真を示す。その外観は、緩い不規則なフレーク状の外観を呈し、適切な細胞の移動及び増殖を最適化するのに必要とされる、より良好な張力及び抗細胞収縮性を提供しない構造を有する。さらに、コラーゲンの表面特性により、細胞の浸入にも悪影響を及ぼす。
【0009】
米国特許第5,997,895号「Dural/meningeal repair product using collagen matrix」のような別の従来技術は、髄膜を修復及び成長促進する方法を提供する。病原性ウィルス残留物を持たない、検査済みの生物適合性のコラーゲン源を用いることができる。コラーゲンマトリックスに架橋反応を使用し、細孔径10~500μmの多孔質コラーゲン構造を形成することで、損傷した髄膜を修復し、髄膜の成長を促進することができる。しかしながら、コラーゲンはブタ皮膚などの動物皮膚の皮層から採取されるため、ブタ皮膚の処理中に毛包が完全に除去されないと、その後のコラーゲンマトリックスの調製の全体構造が崩れることになる。また、調製されたコラーゲンの純度に影響することになり、臨床使用で細菌感染及び免疫反応を引き起こす又は免疫拒絶反応を引き起こす可能性がある。
【0010】
「Preparation of high purity collagen」という名称の台湾特許第098125217号は、20mm2~2m2の表面積を有する結合組織を用意することと、pH値が1~6の、実質的に塩を含有しない第1の酸溶液を使用して、結合組織の体積を少なくとも50%膨張させ、膨潤した結合組織を形成することと、膨潤した結合組織を洗浄して非コラーゲン性物質を除去し、コラーゲンマトリックスを形成することと、抽出溶液を使用してコラーゲンマトリックスからコラーゲンを抽出し、コラーゲン含有溶液を作製することを含む、コラーゲンの調製方法を提供する。前述の技術では、溶液がコラーゲンであり、従来の方法を通じて形成された多孔質コラーゲンマトリックスは、適切な細胞の浸潤及び増殖を最適化するために必要とされる、より良好な張力及び抗細胞収縮性を提供しない。
【0011】
「Acellular dermal matrix and method of use thereof for grafting」という名称の別の米国特許公開番号US8067149B2は、毛包を除去し、界面活性剤SDSで抽出することを含む、非細胞組織マトリックスを抽出する方法を提供する。しかしながら、これは、本発明の高純度多孔質コラーゲンマトリックスとは異なる、非細胞組織マトリックスを抽出するものである。
【0012】
バイオロジカルスキャホールドの現在の一般的な状況は以下の通りである。
【0013】
現在、市場に出回っているバイオロジカルスキャホールドのほとんどは、再構成コラーゲンマトリックスで作製されており、その関連製品が多くの先行特許で開示されている。例えば、米国特許第4,193,813号では、コラーゲンを最初に酢酸に溶解し、グルタルアルデヒドで架橋し、低温で長時間(例えば、20時間)凍結させる。解凍後に、水が機械的に除去されることでスポンジ状のマトリックスが形成され、この方法で得られるマトリックスの細孔径は約80~1400μmである。米国特許第4,412,947号は、高純度不溶性コラーゲン粒子を酢酸溶液に懸濁させ、約0.3~0.4℃/分の冷却速度で-65℃に凍結し、凍結乾燥して、多孔質シート基質を形成する方法を教示している。米国特許第4,522,753号は、コラーゲンとコンドロイチン硫酸を混合してコポリマーにし、グルタルアルデヒドで架橋し、凍結乾燥して、人工皮膚基質として用いることができる細孔径約20~180μmの多孔質マトリックスを得ることを教示している。米国特許第4,970,298号は、酸可溶性コラーゲン溶液、又は酸可溶性コラーゲン、ヒアルロン酸、及びフィブロネクチンなどの溶液を含む混合溶液を、カルボジイミド及び脱水熱架橋法で架橋できることを開示する。様々な温度で凍結した後に、凍結乾燥を用いて多孔質マトリックスを作製する。凍結温度は-30~-50℃であり、得られるマトリックスの細孔径は約50~250μmであり、ヒアルロン酸又はフィブロネクチンを含有するコラーゲンマトリックスの細孔径は100~150μmである。上記特許で開示されているコラーゲンマトリックスの調製方法は、主に高温で又は化学架橋剤で架橋した酸性又はアルカリ性コラーゲンを使用し、凍結乾燥して細孔を形成させることで多孔質マトリックスを得るものである。これらの方法で調製されたマトリックスは、細孔の均一性が低く、細孔径の制御が難しい。さらに、使用される化学架橋剤のほとんどに毒性がある。再構成コラーゲンマイクロフィブリル又は細線維は、マトリックスに、限定された支持、保護、並びに張力、引張強さ、及び粘弾性などの様々な機械的特性を与えるため、臨床応用にはあまり理想的ではない。
【0014】
非再構成コラーゲンマトリックスには臨床応用のための高い工業的価値があり、非再構成コラーゲンマトリックスの製造プロセスは、本発明者が以前に出願した「Method for preparing porous collagen matrices」という名称の米国特許第8,198,408号で開示されている。
【0015】
従来、「Preparation of a porous collagen matrix」という名称の中国特許第150746号などの従来技術で用いられていた方法では、最初にコラーゲンを30~45℃の中性溶液に一定時間入れてコラーゲンマイクロフィブリルを再組織化させ、ゼラチン状のコラーゲンマトリックスを得る。ゼラチン状のコラーゲンマトリックスを適切な冷却速度で適切な低温に凍結し、次いで、減圧下で凍結乾燥して、多孔質コラーゲンマトリックスを得る。「Process for preparing porous collagen matrix from connective tissue」という名称の中国特許第I284665号では、実質的にその場で処理される結合組織に、結合組織から不純物及び非コラーゲンを除去する洗浄ステップ後に多孔質処理ステップを行い、多孔質処理ステップは、多孔質特性をもつコラーゲンマトリックスを得ることである。このその場処理は、結合組織を細断する又は細かく切る従来の手順を省略し、このプロセスは、架橋剤の使用を必要としない。この方法は、2つ又は3つの処理ステップを省略することにより、コラーゲンマトリックスを調製するのにより便利であるが、多孔質構造とその支圧応力及び張力については説明していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
一般に、人体の表面に創傷がある場合、外部の細菌による感染を防ぐために、ガーゼ、包帯、パッチ、及び医療用テープなどを使用して創傷を覆う及び包む。しかしながら、上記の外部被覆材は、外部の細菌を抑制することしかできず、創傷自体の治癒を直接助けることはない。
【0017】
要約すれば、創傷が外部の細菌に感染するのを防ぎ、高純度多孔質コラーゲンを得るという課題を解決するために、本発明は、創傷被覆材のための非再構成コラーゲンマトリックスを備えるバイオロジカルスキャホールドを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、少なくとも1つの非再構成コラーゲンマトリックスと、非再構成コラーゲンマトリックスの少なくとも1つの表面又は外面と内面の両方を均一に覆う少なくとも1つの生物学的物質とを備えるバイオロジカルスキャホールドを提供する。また、従来のコラーゲンマトリックスよりも高い強度を有する、上記の非再構成コラーゲンマトリックス及びバイオロジカルスキャホールドを調製する方法も本発明で開示される。さらに、本発明によって提供されるバイオロジカルスキャホールドは、生物学的物質層で均一にコーティングすることができるので、非再構成コラーゲンマトリックスへの細胞の浸潤を容易にすることができる。加えて、この非再構成コラーゲンマトリックス中の毛包組織は、真皮コラーゲンの主構造を破壊することなく破壊することができ、これにより、従来技術で作製されたマトリックスよりも高い強度を有する非再構成コラーゲンマトリックスが得られる。また、毛包によって引き起こされる免疫応答を低下させ、細胞の成長を助けるので、このバイオロジカルスキャホールドは、外科手術、ヒト臓器及び組織の修復、再生医療、皮膚移植術、又は美容医療でのさらなる使用により適している。また、外科用修復メッシュファブリック、歯科用修復メッシュファブリック、ヒト皮膚代替物、人工髄膜代替物、整形外科用修復代替物、又は創傷被覆材代替物として用いることができる。
【0019】
本発明によって提供されるバイオロジカルスキャホールドは、少なくとも非再構成コラーゲンマトリックスと、少なくとも1つの生物学的物質を含む。非再構成コラーゲンマトリックスシステムは、複数の束状コラーゲン細線維と、束状コラーゲン細線維によって形成された複数の細孔を有する。生物学的物質は、本体の少なくとも1つの外面及び/又は束状コラーゲン細線維の外面上にコーティングされる。複数の細孔が束状コラーゲン細線維によって形成される、すなわち、コラーゲン細線維が細孔の内壁を形成するので、コラーゲン細線維の表面をコーティングすることは、細孔の内壁をコーティングすることと同等であり得る。
【0020】
非再構成コラーゲンマトリックスを調製する方法は、動物皮膚組織から皮層シートを得ることと、皮層シートを高イオン強度の塩溶液に浸漬し、次いで塩溶液にタンパク質分解酵素を添加することで脱毛した皮層シートが生成される、脱毛ステップを行うことと、脱毛した皮層シートが膨潤した皮層シート層を形成するのに十分な時間にわたって、脱毛した皮層シートを第1の酸性溶液に浸漬することで、非再構成コラーゲンマトリックスが形成される、膨潤ステップを行うこととを含むことができ、非再構成コラーゲンマトリックスは、交絡した重なり合う複数の束状コラーゲン細線維と、束状のコラーゲン細線維によって形成された複数の細孔を有する。
【0021】
任意で、非再構成コラーゲンマトリックスを調製する方法は、消毒ステップ、脱脂ステップ、脱抗原ステップ、及び/又は強化ステップをさらに含むことができる。
【0022】
バイオロジカルスキャホールドを調製する方法は、本明細書に記載の非再構成コラーゲンマトリックスを用意することと、非再構成コラーゲンマトリックスを減圧環境下で生物学的物質を含有する溶液と接触させることで生物学的物質を非再構成コラーゲンマトリックスの第1の外面及び複数の細孔の内部にコーティングすることを含むことができる。
【0023】
結論として、本発明の調製方法は、任意のステップを行う前又は後に消毒処理ステップをさらに含むことができ、シート又は皮層シートは消毒溶液で洗浄される。最も好ましくは、消毒溶液は過酢酸溶液である。
【0024】
本発明の一実施形態において、本発明によって提供される調製方法は、以下のステップをさらに含む。最初に、生物学的物質でコーティングされた非再構成コラーゲンマトリックスを取り出す。次に、細孔に細胞培養培地を注入し、次いで、細胞を含有する溶液を注入することにより、細胞が細孔に入り、バイオロジカルスキャホールドに付着する。好ましくは、細胞は、幹細胞、衛星細胞、前駆細胞、又は組織細胞とすることができる。
【0025】
本発明に係る非再構成コラーゲンマトリックスを調製する方法の一実施形態において、動物皮膚組織は、豚皮組織、牛皮組織、又は羊皮組織である。
【0026】
本発明に係る非再構成コラーゲンマトリックスを調製する方法の一実施形態において、高イオン強度の塩溶液は、陰イオンと陽イオンがイオン結合により結合されている塩溶液である。好ましくは、高イオン強度の塩溶液のイオン強度は0.15Nを超える。最も好ましくは、高イオン強度の塩溶液のイオン強度は0.5Nから10Nの間である。最も好ましくは、高イオン強度の塩溶液は、塩化ナトリウム、硫酸アンモニウム、及び上記の化合物の混合物を含有する溶液である。この高い塩の条件は、非再構成コラーゲンマトリックスの構造を安定化し、それを膨潤させず、毛包に押し出されるので、酵素が反応のために毛包にスムーズに入ることができる。
【0027】
本発明に係る非再構成コラーゲンマトリックスを調製する方法の一実施形態において、タンパク質分解酵素は、高イオン強度の塩溶液で作用することができる。好ましくは、タンパク質分解酵素は、セリンプロテアーゼ、トレオニンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、グルタミン酸プロテアーゼ、メタロプロテアーゼ、及び上記の酵素の組み合わせからなる群から選択される。好ましくは、システイン酵素は、パパイヤ酵素(例えば、パパイン)、パイナップル酵素(例えば、ブロメライン)、及び上記の酵素の混合物からなる群から選択される。最も好ましくは、メタロプロテアーゼは、ディスパーゼである。
【0028】
本発明に係る非再構成コラーゲンマトリックスを調製する方法の一実施形態において、脱毛処理ステップの前又は後に脱脂ステップがさらに含まれる。脱脂ステップは、鹸化処理、有機溶媒処理、又はこれらの組み合わせである。鹸化ステップでは、アルカリ性物質を使用して皮層シートの表面に接触させる。好ましくは、アルカリ性物質は、粒度が細かい強アルカリ性粒子である。最も好ましくは、強塩基性粒子は水酸化ナトリウム粒子である。有機溶媒処理は、アルコール処理、ヘキサン処理、又はクロロホルム処理である。
【0029】
本発明に係る非再構成コラーゲンマトリックスを調製する方法の一実施形態において、脱毛処理ステップ又はその後の任意のステップは、振とう又は攪拌ステップを行うことをさらに含む。好ましくは、振とう又は攪拌ステップは、超音波振動処理である。
【0030】
本発明に係る非再構成コラーゲンマトリックスを調製する方法の一実施形態において、脱毛処理ステップ又はその後の任意のステップは熱処理を行うことをさらに含む。熱処理は、25℃~40℃に加熱するのが最適である。
【0031】
本発明に係る非再構成コラーゲンマトリックスを調製する方法の一実施形態において、脱毛処理ステップを行った後の任意のステップは、シート又は皮層シートを洗浄溶液に浸漬する又は消毒ガスに通す、洗浄ステップをさらに含む。好ましくは、洗浄溶液は、リン酸塩溶液又は水溶液である。好ましくは、消毒ガスはオゾンである。
【0032】
本発明に係る非再構成コラーゲンマトリックスを調製する方法の一実施形態において、第1の酸性溶液は弱酸溶液である。
【0033】
本発明に係る非再構成コラーゲンマトリックスを調製する方法の一実施形態において、膨潤処理ステップの後に、脱抗原処理ステップをさらに含む。脱抗原処理ステップは、シート又は皮層シートを第2の酸性溶液に浸漬することである。第2の酸性溶液はペプシンを含有する。最も好ましくは、第2の酸性溶液は弱酸性溶液である。
【0034】
本発明に係る非再構成コラーゲンマトリックスを調製する方法の一実施形態において、膨潤処理ステップの後に、強化処理ステップがさらに含まれる。シート又は皮層シートは、添加剤に浸漬される。好ましくは、添加剤は架橋剤溶液である。
【0035】
本発明の一実施形態において、架橋剤は、トランスグルタミナーゼであるか又は官能基を通じて作用し、架橋剤の1つの官能基は、アミン、スルフヒドリル、カルボニル、グリコール、ヒドロキシル、カルボキシル、アジド、イミドエステル、エポキシド、アルデヒド、ハロアセチル、ピリジルジスルフィド、ピリジルジチオール、ヒドラジド、光架橋剤、カルボジイミド、ジアジリン、アジリジン、アクリロイル、アリレート、チオール、ゲニピン、リボフラビン、フラボノイド及びその誘導体、ヒドロキシメチルホスフィン、イソシアネート、マレイミド、6-マレイミドヘキサン酸活性エステル、スベリン酸ジサクシンイミジル、スベリン酸ビス(スルホスクシンイミジル)、N-ヒドロキシ-スクシンイミドエステル(NHS-エステル)、スルホスクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート、ペンタフルオロフェニルエステル(PFP-エステル)、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グルタルアルデヒド、2,3-ジブロモプロピオニルN-ヒドロキシスクシンイミドエステル、スルホ-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、クロラムブシル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、ソラレン、ビニルスルホン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0036】
本発明の一実施形態において、本体の複数の細孔の壁は、束状コラーゲン細線維が交絡した重なり合った構造を有する。
【0037】
本発明の一実施形態において、バイオロジカルスキャホールドは、少なくとも、非再構成コラーゲンマトリックスを含む本体と、少なくとも本体の第1の表面上にコーティングされた生物学的物質と、第1の表面とは反対の又は第1の表面に隣接する本体の別の表面上の又は第1の表面以外の2つ以上の表面上の組織接着剤層を含み、組織接着剤層は組織接着剤を含む。バイオロジカルスキャホールドが組織接着剤層によって組織に接着されると、複数の細胞が組織接着剤層から生物学的物質層に移動し、組織の再構築が行われる。
【0038】
本発明の一実施形態において、生物学的物質は、細胞接着材料、組織修復材料、細胞誘導材料、成長因子材料、抗菌材料、及び上記の物質の混合物からなる群から選択される。
【0039】
好ましくは、細胞接着材料は、糖類材料、ペプチド、タンパク質、リン脂質、又はこれらの組み合わせであり得る。
【0040】
好ましくは、糖類材料は、グリコサミノグリカン材料であり得る。
【0041】
好ましくは、グリコサミノグリカン材料は、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、ケラタン、ケラタン硫酸、デルマタン硫酸、カラギーナン、ヒアルロン酸、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0042】
好ましくは、組織修復材料は、生体材料、細胞外マトリックス、栄養素、及びこれらの組み合わせであり得る。
【0043】
好ましくは、生体材料は、コラーゲン、ゼラチン、エラスチン、グリコサミノグリカン、キトサン、アルギン酸塩、ポリグルタミン酸(γ-PGA)、ポリリジン、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)、シルクフィブロインなど、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0044】
好ましくは、細胞外マトリックスは、コラーゲン、ゼラチン、エラスチン、グリコサミノグリカン、プロテオグリカン、糖タンパク質、フィブロネクチン、ラミニン、アグリカン、メタロプロテアーゼなど、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0045】
好ましくは、栄養素は、ビタミン、ミネラル、タンパク質、脂質、炭水化物、アミノ酸、ペプチド、ヌクレオチド、デオキシヌクレオチド、薬用ハーブなど、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0046】
好ましくは、細胞誘導材料は、ビタミン、ミネラル、化学薬品、薬剤、薬用ハーブ、代謝物、中間代謝物、糖類、ペプチド、タンパク質、リン脂質、又はこれらの組み合わせなどの分子からなる群から選択される。
【0047】
好ましくは、抗菌材料は、抗生物質、抗菌タンパク質、又は抗菌ペプチドである。
【0048】
好ましくは、成長因子材料は、上皮成長因子(EGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、血管内皮細胞成長因子(VEGF)、結合組織成長因子(CTGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、インスリン様成長因子(IGF-I、IGF-II)、神経成長因子(NGF)、肝細胞成長因子(HGF)、コロニー刺激因子(CSF)、幹細胞因子(SCF)、表皮細胞成長因子(KGF)、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、マクロファージコロニー刺激因子(MCSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GMCSF)、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)、毛様体神経栄養因子(CNF)、内皮-単球活性化ポリペプチド、上皮好中球活性化ペプチド、エリスロポエチン、骨形成タンパク質(BMP-1、BMP-2、BMP-3など)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、BRAK、セロトニン、フォン・ヴィレブランド因子(vWF)、トランスフォーミング成長因子(TGF-α、TGF-β)、インターロイキン(IL-1、IL-2、IL-3など)、腫瘍壊死因子(TNF)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0049】
本発明の一実施形態において、本発明によって提供されるバイオロジカルスキャホールドは、細孔内に細胞培養培地をさらに含む。
【0050】
好ましくは、これは細胞をさらに含み、細胞は、バイオロジカルスキャホールドの細孔のいずれか1つの中に付着している。
【0051】
好ましくは、細胞は、幹細胞、衛星細胞、前駆細胞、又は組織細胞とすることができる。
【0052】
本発明の一実施形態において、減圧環境は、真空引き動作によって生成される。
【0053】
本発明の一実施形態において、組織接着剤層は、トランスグルタミナーゼであるか又は少なくとも官能基を有する架橋剤と、1つのマトリックス成分と、非再構成コラーゲンマトリックス自体又は架橋剤で架橋される追加のマトリックス分子と、細胞毒性を低減するべく架橋剤の官能基又は架橋剤の残りの官能基と反応させるために用いられるクエンチ剤を含む。
【0054】
好ましくは、マトリックス分子は、コラーゲン、ヒアルロン酸、ゼラチン、シルクフィブロイン、フィブロネクチン、エラスチン、テネイシン、ラミニン、ビトロネクチン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、ケラチン、ケラタン硫酸、デルマタン硫酸、カラギーナン、ヘパリン、キチン、キトサン、アルギン酸塩、アグリカン、アガロース、寒天、セルロース、メチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、グリコーゲン、フィブリン、フィブリノゲン、トロンビン、ポリグルタミン酸、ポリリジン、ポリアミノ酸、合成ポリマー(例えば、アクリレート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸-グリコール酸)、これらの誘導体、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0055】
好ましくは、クエンチ剤は、アミノ酸、オリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質、アミン、ジアミン、オリゴアミン、ポリアミン、カルボニル化合物、グリコール化合物、カルボキシル化合物、ジカルボキシレート、オリゴカルボキシレート、ポリカルボキシレート、スルフヒドリル化合物、オリゴスルフヒドリル化合物、ポリスルフヒドリル化合物、ヒドロキシル化合物、オリゴヒドロキシル化合物、ポリヒドロキシル化合物、糖類、オリゴ糖、多糖類、リボ核酸(RNA)、デオキシリボ核酸(DNA)、オリゴヌクレオチド、アジド、光架橋化合物、及び単官能基又はヘテロ二官能基からなる基、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0056】
好ましくは、組織は皮膚組織である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図1】本発明の一実施形態における非再構成バイオロジカルスキャホールドを示す略断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態における非再構成バイオロジカルスキャホールドの本体を示す略断面図である。
【
図3】従来の再構成多孔質コラーゲンマトリックスを100倍に拡大した電子顕微鏡画像を示す。
【
図4】本発明の非再構成コラーゲンマトリックスの調製についてのフローチャートを示す。
【
図5】本発明の非再構成コラーゲンマトリックスの調製についての別のフローチャートを示す。
【
図6】
図6A~
図6Cは、本発明の方法によって調製された非再構成コラーゲンマトリックスの電子顕微鏡画像を示す。
【
図7】
図7A~
図7Bは、本発明の一実施形態からのバイオロジカルスキャホールドの電子顕微鏡画像を示す。
【
図7C】バイオロジカルスキャホールド内のヒアルロン酸の良好な分布を示すアルシアンブルー染色を示す図である。
【
図8】本発明の一実施形態からのバイオロジカルスキャホールドと従来技術からのバイオロジカルスキャホールドとの剪断応力試験の比較図である。
【
図9】
図9A及び
図9Bは、本発明の非再構成多孔質コラーゲンマトリックスと従来技術からの再構成多孔質コラーゲンマトリックスの貯蔵弾性率及び損失弾性率を示す図である。
【
図10A】本発明のバイオロジカルスキャホールドと、従来の方法によって調製された再構成多孔質コラーゲン-コンドロイチン硫酸マトリックスとの創傷の治癒を示す比較図である。
【
図10B】様々な治療の下での創傷の治癒を示すグラフである。
【
図11】術後28日目の創傷治癒状態の比較を示す顕微鏡画像の組である。(A)正常な皮膚の対照、(B)PCHMグループの治癒したマトリックス、(C)Integraグループの治癒したマトリックス。
【
図12】本発明の一実施形態におけるバイオロジカルスキャホールドを調製する方法を示すフローチャートである。
【
図13】
図13A~
図13Bは、本発明の別の実施形態に係るバイオロジカルスキャホールドを示す略断面図及び部分拡大図である。
【
図14】
図14A~
図14Cは、本発明の一実施形態における程度の異なる生物学的物質コーティングを有するバイオロジカルスキャホールドの吸水能力の比較図である。
【
図15】
図15A~
図15Dは、本発明の一実施形態における異なる抗菌材料で覆われたバイオロジカルスキャホールドの抗菌作用を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
図1を参照すると、本発明は、本体10と、生物学的物質層20と、組織接着剤層30とを含む非再構成材料バイオロジカルスキャホールド1を提供する。本体10は、少なくとも1つの非再構成コラーゲンマトリックス10aを含む。生物学的物質層20及び組織接着剤層30は、それぞれ、本体の一方の表面及び本体の隣接する又は反対側の表面上にコーティングされる。前述のバイオロジカルスキャホールドが組織接着剤層によって組織2に接着されると、複数の細胞が生物学的物質によって化学的に誘引され、組織接着剤層から生物学的物質層に移動し、組織2の再構築が行われる。
【0059】
本発明の一実施形態におけるバイオロジカルスキャホールドの本体10の略断面図を示す
図2を参照する。図に示すように、本体10は、好ましくは非再構成コラーゲンマトリックス10aであり、このコラーゲンマトリックス10aは、複数の円柱状コラーゲン細線維で構成され、コラーゲン細線維によって構造化された複数の細孔10bを含む。細孔10bの内面に生物学的物質10cがコーティングされている。
【0060】
図4を参照すると、本発明の非再構成コラーゲンマトリックスを有するバイオロジカルスキャホールドから調製される創傷被覆材について、最初に、ステップS100に示すように、15℃未満の環境で動物組織、或いは豚皮組織、牛皮組織、又は羊皮組織などの動物皮膚組織を用意し、鋭利物で動物皮膚組織の皮下脂肪を除去し、組織を28±1cm×70±1cmのサイズに切断する。次に、動物皮膚組織を脱毛し、そこに残っている油分及び水分を擦り落とし、各皮膚組織を各サイズ13±1cm×34±1cmの4片に切断する。次いで、ブタ皮膚の皮層を機械で剥がして少なくとも1枚の皮層シートを得た後に、純水ですすぐ。最も好ましくは、皮層はブタ皮膚から採取される。
【0061】
さらに、ステップS102に示すように、皮層シートを高イオン強度の塩溶液に浸漬し、タンパク質分解酵素を加えた後に、塩溶液を25~40℃に加熱することによって、脱毛処理ステップを行う。次いで、超音波振動処理を2時間行う。脱毛処理後の皮層シートを洗浄するための洗浄溶液としてリン酸緩衝溶液が用いられる。高イオン強度の塩溶液は、陰イオンと陽イオンがイオン結合している塩溶液である。高イオン強度の塩溶液のイオン強度は0.15Nを超える。最も好ましくは、高イオン強度の塩溶液のイオン強度は0.5Nから10Nの間である。最も好ましくは、高イオン強度の塩溶液は、塩化ナトリウム、硫酸アンモニウム、又は上記の化合物の混合物を含有する溶液である。
【0062】
一実施形態において、高イオン強度の塩溶液は、塩化ナトリウムを含有するリン酸緩衝溶液である。この高い塩の条件は、非再構成コラーゲンマトリックスの構造を安定化し、組織を膨潤させず、毛包に押し出されるので、酵素が反応のために毛包にスムーズに入ることができる。
【0063】
一実施形態において、タンパク質分解酵素は、高イオン強度の塩溶液で作用する。最も好ましくは、タンパク質分解酵素は、セリンプロテアーゼ、トレオニンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、グルタミン酸プロテアーゼ、メタロプロテアーゼ、及び上記の酵素の組み合わせからなる群から選択される。最も好ましくは、システインプロテアーゼは、パパイヤ酵素、パイナップル酵素、及び上記の酵素の混合物からなる群から選択される。最も好ましくは、メタロプロテアーゼは、ディスパーゼである。
【0064】
以下の表1を参照すると、皮層シートを、約5mM又は0.16%(w/w)のL-システインを含有するリン酸緩衝溶液中のパパイン(パパイヤ酵素)に浸漬し、パパインの濃度が0.6mg/mLを超えていたとき(グループB、C、及びD)、ブタの毛は完全に除去された。皮層シートを、リン酸緩衝溶液中のブロメライン(パイナップル酵素)に浸漬し、ブロメライン濃度が0.2mg/mL及び0.6mg/mLのとき(グループA及びB)、まだ取れていないブタの毛があった。ブロメラインの濃度が1.2mg/mLのとき、ブタの毛は完全に除去された。ブタの毛包は、0.2U/mLを超えるディスパーゼでも完全に除去することができた。対照群(リン酸緩衝液のみ)のブタでは、すべてのブタの毛は取れていなかった。
【0065】
【0066】
図4を参照すると、ステップS104に示すように、脱毛処理後の皮層シートを第1の酸性溶液に浸漬し、第1の酸性溶液を超音波振動処理で33~37℃に加熱する、膨潤処理ステップを行う。超音波振動処理時間は24時間連続しているため、皮層シートの体積が少なくとも50パーセント増大する。好ましくは、第1の酸性溶液は、蟻酸、カルボン酸、シュウ酸、酢酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、ホウ酸、リン酸、塩酸、及びこれらの混合物からなる群から選択された弱酸溶液である。最も好ましくは、第1の酸性溶液は酢酸溶液である。
【0067】
ステップS105に示すように、皮層シートから非コラーゲン性材料を除去するために洗浄処理ステップを行い、精製されたコラーゲンマトリックスを得る。これに続いて、精製されたコラーゲンマトリックスを-20℃及び-80℃で凍結し、フリーズドライ又は凍結乾燥処理して、精製された非再構成多孔質コラーゲンマトリックスを得る。
【0068】
本発明の非再構成コラーゲンマトリックスの調製方法の別の実施形態を示す
図5を参照すると、ステップS101aに示すように、任意のステップを行う前又は後にシート又は皮層シートを消毒溶液で洗浄する消毒処理を行う。最も好ましくは、消毒溶液は過酢酸溶液である。
【0069】
ステップS102aに示すように、本発明の調製方法は、脱毛処理ステップS102の前又は後に脱脂ステップをさらに含む。脱脂ステップは、鹸化処理、有機溶媒処理、又はこれらの組み合わせである。鹸化ステップは、シート又は皮層シートをアルカリ性物質と接触させることであり、一方の表面のみに脂がついている場合、一方の特定の表面と接触させることができる。最も好ましくは、アルカリ性物質は、強塩基性粒子の顆粒の形態である。最も好ましくは、強塩基性粒子は水酸化ナトリウム粒子である。有機溶媒処理は、アルコール処理、ヘキサン処理、又はクロロホルム処理である。それでもなお、マトリックス中のコラーゲンの変性を防ぐために最適な処理量及び処理時間が必要とされる。
【0070】
ステップS104aに示すように、本発明の調製方法は、膨潤処理ステップS104の後に、脱抗原処理ステップをさらに含む。最も好ましくは、脱抗原処理ステップは、シート又は皮層シートを、ペプシンを含有する第2の酸性溶液に浸漬することである。ペプシンを含有する第2の酸性溶液を33℃~37℃に加熱する。次いで、超音波振動処理を4時間行う。シート又は皮層シートに残っている溶液を純水で洗い流す。シート又は皮層シートを25℃のリン酸二水素カリウム溶液で再び処理する。好ましくは、第2の酸性溶液は、蟻酸、カルボン酸、シュウ酸、酢酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、ホウ酸、リン酸、塩酸、及びそれらの混合物からなる群から選択された弱酸溶液である。最も好ましくは、第2の酸性溶液は酢酸溶液である。
【0071】
ステップS104bに示すように、本発明の調製方法は、膨潤処理ステップの後に、複数のシート又は皮層シートを積層し、添加剤、好ましくは架橋剤溶液に浸漬する、強化処理ステップをさらに含む。架橋剤溶液を33℃~37℃に加熱し、超音波振動処理を24時間行って架橋反応を完了させる。シート又は皮層シートに残っている溶液を純水ですすぐ。最も好ましくは、架橋剤の1つの官能基は、アミン、スルフヒドリル、カルボニル、グリコール、ヒドロキシル、カルボキシル、アジド、イミドエステル、エポキシド、アルデヒド、ハロアセチル、ピリジルジスルフィド、ピリジルジチオール、ヒドラジド、光架橋剤、カルボジイミド、ジアジリン、アジリジン、アクリロイル、アリレート、チオール、ゲニピン、リボフラビン、フラボノイド及びその誘導体、ヒドロキシメチルホスフィン、イソシアネート、マレイミド、6-マレイミドヘキサン酸活性エステル、スベリン酸ジサクシンイミジル、スベリン酸ビス(スルホスクシンイミジル)、N-ヒドロキシ-スクシンイミドエステル(NHS-エステル)、スルホスクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート、ペンタフルオロフェニルエステル(PFP-エステル)、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グルタルアルデヒド、2,3-ジブロモプロピオニルN-ヒドロキシスクシンイミドエステル、スルホ-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、クロラムブシル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、ソラレン、ビニルスルホン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0072】
上記の方法に従って調製された非再構成コラーゲンマトリックスの外観を示す
図6A~
図6Cを参照する。
図6Aは、本発明の一実施形態における非再構成コラーゲンマトリックスを100倍に拡大した走査型電子顕微鏡画像である。
図6Bは、本発明の一実施形態における非再構成コラーゲンマトリックスを400倍に拡大した走査型電子顕微鏡画像である。
図6Cは、本発明の一実施形態における非再構成コラーゲンマトリックスを10,000倍に拡大した走査型電子顕微鏡画像である。
【0073】
従来技術によって調製された多孔質コラーゲンマトリックス(
図3参照)と比較して、本発明によって調製された非再構成多孔質コラーゲンマトリックスは、絡み合った凝集した複数のコラーゲン細線維束で構成され、深さのある、溝壁を有する複数の細孔を有する。前述のコラーゲン細線維束は、プロコラーゲン分子で構成され、直径100nm未満であるが、本発明はこれに限定されるものではない。細孔の外観はランダムな半径の開口部であり、細孔のサイズは、狭い範囲に制御される。したがって、本明細書に記載の方法によって調製されたコラーゲンマトリックスは、比較的均一な細孔を有する。
【0074】
上記の方法に従って調製された非再構成コラーゲンマトリックスから作製されたバイオロジカルスキャホールドの外観を示す
図7A~
図7Cを参照されたい。
図7Aは、本発明の一実施形態におけるバイオロジカルスキャホールドを100倍に拡大した走査型電子顕微鏡画像である。
図7Bは、本発明の一実施形態におけるバイオロジカルスキャホールドを400倍に拡大した走査型電子顕微鏡画像である。
図7Cは、本発明の一実施形態における、CNBrによって事前に活性化され非再構成コラーゲンマトリックスに架橋されたヒアルロン酸を有するバイオロジカルスキャホールドの光学顕微鏡画像である。組織学サンプルの切片化後にスキャフォールド内に存在するヒアルロン酸誘導体を染色するためにアルシアンブルーを使用した。画像は、バイオロジカルスキャホールド内のヒアルロン酸誘導体の良好な分布を示す。
【0075】
本発明の実施形態に係る非再構成多孔質コラーゲンマトリックス(ラインB)と、従来技術によって得られた従来の多孔質コラーゲンマトリックス(ラインA)との剪断応力試験を示す、
図8を参照する。結果から、従来技術によって得られた多孔質コラーゲンマトリックスの剪断応力は、温度20℃で63.56e-03MPaであり、本発明の非再構成多孔質コラーゲンマトリックスの剪断応力は189.07MPaであったことが分かる。したがって、同じ試験条件下で、本発明の非再構成多孔質コラーゲンマトリックスの剪断強度は、従来技術の多孔質コラーゲンマトリックスよりも約3桁大きいことが実証された。毛包を初めに完全に除去することができるので、非再構成多孔質コラーゲンマトリックスは、従来の多孔質コラーゲンマトリックスよりも構造強度と張力が確かに優れている。要約すれば、本発明は、真皮層のコラーゲンの本来の架橋を破壊せずに毛包組織を破壊することができる、非再構成多孔質コラーゲンマトリックスを調製するためのプロセスを提供し、これにより、従来技術よりも高い構造強度を有する多孔質マトリックスが調製される。
【0076】
貯蔵弾性率及び損失弾性率の変化を、レオメータで監視した振動ひずみの変化とともに示す、
図9A及び
図9Bを参照する。貯蔵弾性率は、変形エネルギーを弾性的に貯蔵するマトリックスの能力の指標である。これは架橋の度合いに直接関係しており、架橋度が高いほど貯蔵弾性率が大きくなる。
図9Aは、本発明の非再構成多孔質コラーゲンマトリックスのデータであり、一方、
図9Bは、従来の再構成多孔質コラーゲンマトリックスのデータを示す。微細構造は、材料内の分子又は粒子間に力が存在することを意味する。微細構造を破壊するには、それを保持しているよりも大きな力が必要とされる。加えられた力が、分子力又は粒子間力よりも小さいとき、G’はG”よりも大きくなる。材料にはエネルギーを蓄える能力があり、機械的な力が加えられる前に、或る程度、その最初の構成に戻ることができるはずである。材料は弾性固体として挙動するが、機械的エネルギーの一部が散逸するため、理想と同じものではない。
図9A及び
図9Bでの結果は、非再構成多孔質コラーゲンマトリックスの貯蔵弾性率が、従来技術によって調製された再構成多孔質コラーゲンマトリックスの貯蔵弾性率よりも高いことを示す。非再構成多孔質コラーゲンマトリックスのほとんどの本来の架橋は保たれているが、従来の再構成多孔質コラーゲンマトリックスではほとんどの本来の架橋が失われる。
【0077】
さらに、非再構成コラーゲンマトリックス10a自体は親水性の材料ではないので、本体10は、コラーゲン細線維の外面にコーティングされた親水性の生体材料10cをさらに含み得る。すなわち、細胞が非再構成多孔質コラーゲンマトリックス10aに浸潤し、その後、その中で移動して接着/付着することを促進するために、これらの細孔10bの内壁も親水性の生物学的物質10c(
図2に示される)でコーティングされる。好ましくは、前述の生物学的物質は、成長因子、又はヒアルロン酸(HA)、コンドロイチン硫酸(CS)、又はヘパラン(Hep)などのグリコサミノグリカンであり得る。より好ましくは、親水性の生物学的物質10cはヒアルロン酸であるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0078】
図1を再び参照すると、本発明の好ましい実施形態において、本体10の片面にコーティングされた成長因子材料層20は、上皮成長因子(EGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、血管内皮細胞成長因子(VEGF)、結合組織成長因子(CTGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、インスリン様成長因子(IGF-I、IGF-II)、神経成長因子(NGF)、肝細胞成長因子(HGF)、コロニー刺激因子(CSF)、幹細胞因子(SCF)、表皮細胞成長因子(KGF)、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、マクロファージコロニー刺激因子(MCSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GMCSF)、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)、毛様体神経栄養因子(CNF)、内皮-単球活性化ポリペプチド、上皮好中球活性化ペプチド、エリスロポエチン、骨形成タンパク質(BMP-1、BMP-2、BMP-3など)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、BRAK、セロトニン、フォン・ヴィレブランド因子(vWF)、トランスフォーミング成長因子(TGF-α、TGF-β)、インターロイキン(IL-1、IL-2、IL-3など)、腫瘍壊死因子(TNF)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0079】
加えて、臨床医学及び組織工学で用いられる組織接着剤は、その接着特性により、薬剤放出の制御、生物適合性材料の分解の調節、又は血管の接合の促進の効果を達成することができる。しかしながら、従来技術の組織接着剤は、グルタルアルデヒド(GA)、グリオキサール、ホルムアルデヒド、又はトリポリリン酸ナトリウム(TPP)などの架橋剤で作製され、ゼラチン、キトサン、又はコラーゲンなどの担体材料で架橋されるため、架橋剤は細胞毒性があり、強い持続的な免疫応答を容易にもたらし、組織接着剤を細胞毒性にする。
【0080】
したがって、本発明では、より良好な結合強度と低い細胞毒性を有する組織接着剤層30が用いられ、これは、少なくとも1つの架橋剤と、少なくとも1つのマトリックス成分と、クエンチ剤を含む。架橋剤は、トランスグルタミナーゼであるか又は官能基を有し、マトリックス成分は、架橋剤との架橋に用いられる。クエンチ剤は、細胞毒性を低減するべく架橋剤の官能基と反応させるために用いられる。
【0081】
好ましい実施形態において、前述の架橋剤は、トランスグルタミナーゼである、又はその官能基のうちの1つは、アミン、スルフヒドリル、カルボニル、グリコール、ヒドロキシル、カルボキシル、アジド、イミドエステル、エポキシド、アルデヒド、ハロアセチル、ピリジルジスルフィド、ピリジルジチオール、ヒドラジド、光架橋剤、カルボジイミド、ジアジリン、アジリジン、アクリロイル、アリレート、チオール、ゲニピン、リボフラビン、フラボノイド及びその誘導体、ヒドロキシメチルホスフィン、イソシアネート、マレイミド、6-マレイミドヘキサン酸活性エステル、スベリン酸ジサクシンイミジル、スベリン酸ビス(スルホスクシンイミジル)、N-ヒドロキシ-スクシンイミドエステル(NHS-エステル)、スルホスクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート、ペンタフルオロフェニルエステル(PFP-エステル)、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グルタルアルデヒド、2,3-ジブロモプロピオニルN-ヒドロキシスクシンイミドエステル、スルホ-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、クロラムブシル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、ソラレン、ビニルスルホン、及びこれらの組み合わせを含有する反応性化合物からなる群から選択される。
【0082】
好ましい実施形態において、マトリックス成分は、コラーゲン、ヒアルロン酸、ゼラチン、シルクフィブロイン、フィブロネクチン、エラスチン、テネイシン、ラミニン、ビトロネクチン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、ケラチン、ケラタン硫酸、デルマタン硫酸、カラギーナン、ヘパリン、キチン、キトサン、アルギン酸塩、アグリカン、アガロース、寒天、セルロース、メチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、グリコーゲン、フィブリン、フィブリノゲン、トロンビン、ポリグルタミン酸、ポリリジン、ポリアミノ酸、合成ポリマー(例えば、アクリレート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸-グリコール酸)、これらの誘導体、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0083】
より好ましくは、マトリックス成分は、任意の天然に産生されたコラーゲン又はその機能的変異体及び/又はヒアルロン酸から調製することができる。さらに、ヒアルロン酸、特に高分子量のヒアルロン酸(5kDaを超える)は、血管新生を効果的に促進し、さらに創傷治癒を促進できることが示されている。例えば、ヒアルロン酸の分子量は、50kDa~5,000kDa、70kDa~1,500kDa、200kDa~1,500kDa、500kDa~1,500kDa、又は700kDa~1,500kDaとすることができる。細胞がコラーゲン又はヒアルロン酸のマトリックス中で成長するとき、それらは良好な生存能力を有する。したがって、本発明で用いられる組織接着剤層30のマトリックス成分中、ヒアルロン酸の濃度は0.001mg/mL~100mg/mLであり、コラーゲンの濃度は0.001mg/mL~100mg/mLである。好ましくは、コラーゲンの濃度は0.1mg/mL~100mg/mLであり、ヒアルロン酸の濃度は0.01mg/mL~35mg/mLである。より好ましくは、コラーゲンの濃度は3mg/mL~75mg/mL(6mg/mL又は9mg/mLなど)であり、ヒアルロン酸の濃度は0.2mg/mL~20mg/mLである。
【0084】
好ましい実施形態において、クエンチ剤は、アミノ酸、オリゴペプチド、ポリペプチド、タンパク質、アミン、ジアミン、オリゴアミン、ポリアミン、カルボニル化合物、グリコール化合物、カルボキシル化合物、ジカルボキシレート、オリゴカルボキシレート、ポリカルボキシレート、スルフヒドリル化合物、オリゴスルフヒドリル化合物、ポリスルフヒドリル化合物、ヒドロキシル化合物、オリゴヒドロキシル化合物、ポリヒドロキシル化合物、糖類、オリゴ糖、多糖類、リボ核酸(RNA)、デオキシリボ核酸(DNA)、オリゴヌクレオチド、アジド、光架橋化合物、単官能基又はヘテロ二官能基、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。より好ましくは、本発明で用いられるクエンチ剤としては、スペルミン、プロタミン、1-6ヘキサンジアミン、及び様々な分子量の異なるグループのポリリジンが挙げられる。ポリリジンの平均分子量は、それぞれ、3.4kDa、20kDa、99kDa、212kDa、及び225kDaである。
【0085】
図10Aは、Integra(登録商標)人工皮膚又はPCMHを移植したモルモットの背部皮膚の全層創傷の治癒を示す比較図である。対照として機能するIntegra(登録商標)人工皮膚は、脱水熱架橋による従来の方法によって調製された再構成多孔質コラーゲン-コンドロイチン硫酸マトリックスである。PCHMは、本発明のバイオロジカルスキャホールドであり、非再構成多孔質コラーゲンマトリックスと、マトリックスの外面及び内面にコーティングされたヒアルロン酸で構成される。PCHMの安定した多孔質構造により、対照群よりも最大4倍の、皮膚細胞のより良好な浸潤が可能となる。したがって、PCHMで満たされた創傷の治癒速度は、Integraグループよりもはるかに(約80%)速いことが実証された。PCHMグループの再生マトリックスの組織学で実証された治癒の質も、術後4か月で対照群よりもはるかに良好であった。
【0086】
図11を参照すると、術後28日目に、正常な皮膚と比較して、PCHMのバイオロジカルスキャホールドは2週間以内に分解し、PCHMグループの治癒したマトリックスは、
図11Bに示す組織構造のように基本的にネオマトリックスに置き換えられた。
図11Cに示すように、Integra人工皮膚の破片が観察され、創傷治癒の再生プロセスが妨げられた。
【0087】
図12を参照すると、ステップS106~S109に示すように、非再構成コラーゲンマトリックスを、生物学的物質を含有する溶液と接触させ、非再構成コラーゲンマトリックスに減圧環境を生成する。一実施形態では、非再構成コラーゲンマトリックスの一端を、少なくとも1つの生物学的物質を含有する溶液に入れる。ステップS108に示すように、非再構成コラーゲンマトリックスの他端に減圧環境が生成され、これにより、生物学的物質が非再構成コラーゲンマトリックスの構造に吸収され、生物学的物質を束状コラーゲン細線維の外面及び内面に均一にコーティングすることができる(細孔の内壁に均一にコーティングされると考えることもできる)。非再構成コラーゲンマトリックスの細孔径は極めて小さいため、非再構成コラーゲンマトリックスを溶液に単に浸漬するだけでは空気の残存を回避することは不可能であることに注意しなければならない。したがって、本発明では、空気を間接的に除去するためにサイフォンの原理が用いられ、これにより、生物学的物質は束状コラーゲン細線維の外面を完全に覆うことができる(細孔の内壁とみなすこともできる)。加えて、前述の減圧環境は、好ましくは真空引き動作によって生成される。
【0088】
前述の生物学的物質は、細胞接着材料、組織修復材料、細胞誘導材料、成長因子材料、抗菌材料、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。好ましくは、前述の細胞接着材料は、糖類、ペプチド、タンパク質、リン脂質、又はこれらの組み合わせである。好ましくは、糖類材料は、グリコサミノグリカン材料である。好ましくは、グリコサミノグリカン材料は、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、ケラタン、ケラタン硫酸、デルマタン硫酸、カラギーナン、ヒアルロン酸、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。好ましくは、本発明で用いられる生体材料は、コラーゲン、エラスチン、グリコサミノグリカン、キトサン、アルギン酸塩、ポリグルタミン酸(γ-PGA)、ポリリジン、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)PLGA、シルクプロテイン、及びフィブロインからなる群から選択されるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0089】
好ましくは、細胞誘導材料は、ビタミン、ミネラル、成長因子、化学薬品、薬剤、薬用ハーブ、代謝物、中間代謝物、糖類、ペプチド、タンパク質、リン脂質、又はこれらの組み合わせなどの分子からなる群から選択される。
【0090】
好ましくは、成長因子材料は、上皮成長因子(EGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、血管内皮細胞成長因子(VEGF)、結合組織成長因子(CTGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、インスリン様成長因子(IGF-I、IGF-II)、神経成長因子(NGF)、肝細胞成長因子(HGF)、コロニー刺激因子(CSF)、幹細胞因子(SCF)、表皮細胞成長因子(KGF)、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、マクロファージコロニー刺激因子(MCSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GMCSF)、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)、毛様体神経栄養因子(CNF)、内皮-単球活性化ポリペプチド、上皮好中球活性化ペプチド、エリスロポエチン、骨形成タンパク質(BMP-1、BMP-2、BMP-3など)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、BRAK、セロトニン、フォン・ヴィレブランド因子(vWF)、トランスフォーミング成長因子(TGF-α、TGF-β)、インターロイキン(IL-1、IL-2、IL-3など)、腫瘍壊死因子(TNF)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0091】
好ましくは、抗菌材料は、抗生物質、抗菌タンパク質、抗菌ペプチド、又はこれらの組み合わせである。
【0092】
非再構成コラーゲンマトリックスの詳細な構造については、本発明の一実施形態に係るバイオロジカルスキャホールドの略断面図である
図2を参照されたい。上記に示すように、非再構成コラーゲンマトリックス10aは、複数の細孔10bを含む複数の束状コラーゲン細線維で構成される。生物学的物質10cは、サイフォンの原理により、非再構成コラーゲンマトリックス10aに吸収され、束状コラーゲン細線維の外面上にコーティングされる。すなわち、細孔10bの内壁はすべて、生物学的物質10cでコーティングされており、これはその後の用途のために細胞が細孔に入って生物学的物質に付着するのにより伝導的である。
【0093】
本発明の好ましい実施形態において、
図2には示されていないが、生物学的物質が束状コラーゲン細線維の外面上にコーティングされた後に、細胞をバイオロジカルスキャホールドに導入することができる。細孔10bに細胞培養培地又は細胞を含有する溶液を注入することで、細胞が非再構成コラーゲンマトリックスの細孔に入ることが可能となる。すなわち、本発明の好ましい実施形態において、本発明によって提供されるバイオロジカルスキャホールドは、
図13Aに示すように細胞をさらに備える。
図13Aの点線円の部分拡大図である
図13Bを参照すると、細胞30は、細孔10b内で生物学的物質10cに付着している。好ましくは、細胞は、幹細胞、衛星細胞、前駆細胞、始原細胞、又は組織細胞であってよく、組織細胞は、皮膚組織、軟骨組織、又は脂肪組織なども含み得る。
【0094】
以下の表2は、異なる視野での、生物学的物質を含まない非再構成コラーゲンマトリックスと、生物学的物質を含む非再構成コラーゲンマトリックスの付着細胞数の比較を示す。表2から分かるように、非再構成コラーゲンマトリックス自体は疎水性の材料であり、細胞が細孔に付着するのに伝導的ではない。しかしながら、本発明が非再構成コラーゲンマトリックスの表面を細胞接着材料でさらにコーティングすると、その後、細胞がこれらの細孔に入り、バイオロジカルスキャホールドに付着するのに有益であることが示された。
【表2】
【0095】
次に、生物学的物質を含まない非再構成コラーゲンマトリックス(A1)、ヒアルロン酸でコーティングされた(1回)非再構成コラーゲンマトリックス(A2)、及びヒアルロン酸でコーティングされた(5回)非再構成コラーゲンマトリックス(A3)の吸水率をさらに比較した。
図14A~
図14C参照。3つの図は、それぞれA1、A2、及びA3の吸水条件を示す。したがって、生物学的物質のより多くの層でコーティングされた非再構成コラーゲンマトリックスは、より良好な吸水能力を有することが実証された。
【0096】
本発明によって提供される創傷被覆材に用いられるバイオロジカルスキャホールドの効果を確認した。
図10B及び
図11参照。
図10Bは、様々なバイオロジカルスキャホールドの創傷治癒時間を比較し、
図11は、様々なバイオロジカルスキャホールドの創傷治癒状態を比較している。
【0097】
最初に、
図10Bは、創傷の様々な治療を示し、これらは、創傷面積と治癒時間との関係性を観察するために、グループA、B、C、D、及びEに分けられた。その中で、最初の創傷面積は100%であり、創傷が完全に治癒するまで2日おきに測定した。Aは未治療の創傷を表し、Bは多孔質コラーゲンマトリックス(PCM)で治療された創傷を表し、Cは多孔質コラーゲンマトリックスとCNBr活性化ヒアルロン酸(aH)の組み合わせ(PCM-aH)で治療された創傷を表し、DはPCM-aHとさらに5mg/mLのヒアルロン酸で治療された創傷を表し、EはIntegra(登録商標)人工皮膚で治療された創傷を表している。図に示すように、グループB、グループC、及びグループDの創傷はすべて、約30日で治癒したが、人工皮膚で治療された創傷(グループE)の治癒には44日かかった。グループAは僅かにより早く治癒したが、瘢痕拘縮及び他の症状を呈した。
【0098】
図10Bに示すように、12日後に、グループC(PCM-aHで治療された創傷)の線維芽細胞増殖状態は、グループE(人工皮膚で治療された創傷)のそれを確かに上回った。したがって、前述の本体10と生物学的物質との組み合わせは、瘢痕拘縮を引き起こさずに細胞増殖を効果的に促進することができ、従来技術の人工皮膚よりも迅速に創傷を治癒できることが示された。
【0099】
次に、別の実施形態において、
図15A~
図15Dに示すように、バイオロジカルスキャホールドを、
図15A及び
図15Bの抗菌ペプチドのペキシガナン並びに
図15C及び
図15Dのネオマイシンなどの様々な抗菌材料でコーティングした。結果は、抗菌作用が濃度依存性であり、抗菌材料でコーティングされたバイオロジカルスキャホールドは良好な抗菌作用を有することを示した。
【0100】
要約すれば、本発明の目的は、創傷被覆材に用いることができるバイオロジカルスキャホールドを提供することである。一実施形態では、本体の一方の側部は生物学的物質の層でコーティングされ、別の側部は組織接着剤層でコーティングされ、これにより、濃度勾配の影響に基づいて細胞が本体内で移動することができる。さらに、本体は、親水性の生物学的物質を含有するので、細胞の移動及び付着をさらに容易にすることができる。したがって、創傷の感染を防ぐために外来細菌の侵入を効果的に遮断することに加えて、本発明によって提供されるバイオロジカルスキャホールドはまた、細胞の成長を加速し、創傷治癒速度を促進するために用いることができる。
【0101】
さらに、従来技術では、細分化されたコラーゲンを生物学的物質(ヒアルロン酸など)に添加し、それらを架橋して構造体に凝固させることが知られているが、コラーゲンと生物学的物質が絡み合うと、バイオロジカルスキャホールドの外側が完全には親水性にならない。加えて、再構成コラーゲンスキャフォールド(
図3に示す)が最初に用意され、次いで、本発明によって提供される方法が実施される場合、再構成コラーゲンマトリックスの支持力は、その後の生物学的物質でのスキャフォールドのコーティングに必要とされる真空引きステップによってかかる外圧に耐えるのに不十分となる(
図9及び上記の関連する説明参照)。前述のように、生物学的物質が非再構成コラーゲンマトリックスに完全に吸収又は導入され、表面を均一にコーティングできるように、サイフォンの原理が適用されるので、バイオロジカルスキャホールドの表面は細胞の浸潤及び付着に有利である。このバイオロジカルスキャホールドは、外科手術、ヒト臓器及び組織の修復、再生医療、皮膚移植術、又は美容医療に広く適用することができ、外科用修復メッシュファブリック、歯科用修復メッシュファブリック、ヒト皮膚代替物、人工髄膜代替物、整形外科用修復代替物、又は創傷被覆材代替物にも用いることができる。
【0102】
上記の詳細な説明は、本発明の特定の実行可能な実施形態の具体的な説明であるが、これらの実施形態は、本発明の特許範囲を限定することを意図するものではない。本発明の技術的精神から逸脱しない任意の同等の実装又は変化が本発明の特許範囲内に含まれるはずである。
【符号の説明】
【0103】
1 バイオロジカルスキャホールド
10 本体
10a 非再構成コラーゲンマトリックス
10b 細孔
10c 生物学的物質
20 生物学的物質層
30 組織接着剤層
2 組織
S100~S105 非再構成コラーゲンマトリックスを調製する方法
S100~S104b 非再構成コラーゲンマトリックスを調製する方法
S106~S109 バイオロジカルスキャホールドの調製
【国際調査報告】