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特表2022-516173過酢酸の分解方法及びこれを用いた微生物の培養方法
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  • 特表-過酢酸の分解方法及びこれを用いた微生物の培養方法 図1
  • 特表-過酢酸の分解方法及びこれを用いた微生物の培養方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-24
(54)【発明の名称】過酢酸の分解方法及びこれを用いた微生物の培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/00 20060101AFI20220216BHJP
   C12N 1/12 20060101ALI20220216BHJP
   C12N 1/16 20060101ALI20220216BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20220216BHJP
【FI】
C12N1/00 J
C12N1/00 A
C12N1/12 A
C12N1/16 A
C12N1/20 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021538774
(86)(22)【出願日】2019-12-24
(85)【翻訳文提出日】2021-06-30
(86)【国際出願番号】 KR2019018348
(87)【国際公開番号】W WO2020141779
(87)【国際公開日】2020-07-09
(31)【優先権主張番号】10-2018-0174021
(32)【優先日】2018-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0172429
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521289227
【氏名又は名称】エヌ-セル カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】N-CELL CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】274, Sangno-gil, Wonnam-myeon Eumseong-gun Chungcheongbuk-do 27721 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】クォン ジョンヒ
(72)【発明者】
【氏名】チョ チャンホ
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA72X
4B065AA83X
4B065AA84X
4B065BD13
4B065CA01
4B065CA05
4B065CA19
4B065CA60
(57)【要約】
本発明は、過酢酸の分解方法及び該方法を用いた微生物の培養方法に関するものであり、本発明の方法を用いて微生物を培養する場合、滅菌に用いられた培地に存在する過酢酸を効果的に除去することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酢酸を水と混合するステップと、
前記混合物に鉄イオン、アルカリ金属の水酸化物、エチレンジアミン四酢酸(EDTA:Ethylenediaminetetraacetic acid)及び糖を添加し且つ反応させて過酢酸反応物を最終的に酢酸、水及び酸素に分解するステップと、
を含むことを特徴とする、過酢酸の分解方法。
【請求項2】
前記鉄イオンは、Fe2+イオンまたはFe3+イオンであることを特徴とする、請求項1に記載の過酢酸の分解方法。
【請求項3】
前記糖は、グルコース、スクロース、または廃糖蜜であることを特徴とする、請求項1に記載の過酢酸の分解方法。
【請求項4】
前記糖の濃度は、100g/L以下であることを特徴とする、請求項3に記載の過酢酸の分解方法。
【請求項5】
塩基性緩衝液をさらに添加することを特徴とする、請求項1に記載の過酢酸の分解方法。
【請求項6】
糖と窒素源とを含む培地に過酢酸を添加し、反応させて滅菌するステップと、
前記滅菌した培地に過酢酸分解促進剤として鉄イオン、アルカリ金属の水酸化物及びEDTAを添加し、前記培地内において前記過酢酸と過酢酸分解促進剤を反応させて過酢酸反応物を最終的に酢酸、水及び酸素に分解するステップと、
を含むことを特徴とする、培地の滅菌方法。
【請求項7】
前記鉄イオンは、Fe2+イオンまたはFe3+イオンであることを特徴とする、請求項6に記載の培地の滅菌方法。
【請求項8】
前記糖は、グルコース、スクロース、または廃糖蜜であることを特徴とする、請求項6に記載の培地の滅菌方法。
【請求項9】
前記糖の濃度は、100g/L以下であることを特徴とする、請求項6に記載の培地の滅菌方法。
【請求項10】
塩基性緩衝液をさらに添加することを特徴とする、請求項6に記載の培地の滅菌方法。
【請求項11】
バイオリアクターに前記請求項6の方法により滅菌された培地を添加するステップと、
前記添加された培地に微生物を接種し、純粋培養するステップと、
を含むことを特徴とする、微生物の培養方法。
【請求項12】
前記微生物は、オーランチオキトリウム属(オーランチオキトリウム sp.)、シゾキトリウム属(Schizochytrium sp.)、クロレラ属(Chlorella sp.)、シネコシスティス属(Synechocystis sp.)、デバルヨミセス属(Debaryomyces sp.)、酵母菌群(Yeasts)、乳酸菌群(Lactic acid bacteria)、放線菌群(Actinomycetes)、ユーグレナ(Euglena)、モルティエラ(Mortierella)、糸状菌群及び光合成細菌よりなる群から選ばれる一種以上であることを特徴とする、請求項11に記載の微生物の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酢酸を水と混合するステップと、前記混合物に鉄イオン、アルカリ金属の水酸化物、エチレンジアミン四酢酸(EDTA:Ethylenediaminetetraacetic acid)及び糖を添加し且つ反応させて過酢酸反応物を最終的に酢酸、水及び酸素に分解するステップと、を含む過酢酸の分解方法及び該方法を用いた微生物の培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオ産業において様々な微生物を用いて有用な代謝産物を量産しようとする場合、培地とリアクターの滅菌がかなり肝要である。このため、従来は、微生物培養培地とリアクターを滅菌するためにオートクレーブ(autoclave)を主として用いていた。
【0003】
しかしながら、オートクレーブを用いて培地とリアクターを滅菌する場合、培地の糖成分が培地の他の成分の一つであるタンパク質(ペプトンまたは酵母抽出物)と高温で反応し、ヒドロキシメチルフルフラール(hydroxymethyl furfural;HMF)などといった微生物の成長を妨げる虞がある毒性物質の発生を誘発して、微生物の生育を阻害するという問題点があり、微生物リアクターが金属やガラスなどの熱と圧力に強い材質から作製されなければならないという限界点がある。
【0004】
上記のような問題点及び限界点を克服するために、ろ過(filtration)をする方法が用いられているが、ろ過をする場合には、培養器それ自体を別途滅菌せねばならないという不便さがあり、ろ過の過程において目詰まり現象と再汚染現象が起こる危険性が高く、フィルターのサイズが制限的である他、高いコストがかかるが故に商業的に利用可能性が低いという問題点があった。このような問題点を解決するために、大韓民国公開特許公報第10-2015-0097295号に開示されているように、過酢酸(peracetic acid;PAA)を用いた滅菌方法が開発された。大韓民国公開特許公報第10-2015-0097295号は、光を必要とする微細藻類を純粋培養するに当たって、過酢酸を用いてフォトバイオリアクターを滅菌する方法を開示している。しかしながら、前記先行文献には、EDTAと糖(グルコース、ショ糖、廃糖蜜など)によって過酢酸の分解効率を増加させることについての開示がなく、糖と窒素源(ペプトン、酵母抽出物、乳清など)を含む培地を滅菌する方法については全く開示されていない。
【0005】
また、過酢酸を用いてフォトバイオリアクターと培地を滅菌する方法において、培地成分に糖と窒素源とが含まれている場合、完全な滅菌のためには5mM以上の高濃度の過酢酸を使用しなければならず、特に、窒素源が添加された培地を一緒に滅菌する場合、過酢酸による窒素酸化物(NO3-)が生成され、生成された窒素酸化物が鉄イオンと結合して過酢酸の分解のための触媒反応を阻害する。このような場合、過酢酸の自然分解と鉄と4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)による触媒反応だけでは、過酢酸反応物が完全に分解されるのに一か月以上の時間が求められる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、過酢酸と水とを混合するステップと、前記混合物に鉄イオン、アルカリ金属の水酸化物、エチレンジアミン四酢酸(EDTA:Ethylenediaminetetraacetic acid)及び糖を添加し且つ反応させて過酢酸反応物を最終的に酢酸、水及び酸素に分解するステップと、を含む過酢酸の分解方法を提供することである。
【0007】
本発明の他の目的は、糖と窒素源とを含む培地に過酢酸を添加し、反応させて滅菌するステップと、前記滅菌した培地に過酢酸分解促進剤として鉄イオン、アルカリ金属の水酸化物及びEDTAを添加し、前記培地内において前記過酢酸と過酢酸分解促進剤を反応させて過酢酸反応物を最終的に酢酸、水及び酸素に分解するステップと、を含む培地の滅菌方法を提供することである。
【0008】
本発明のさらに他の目的は、バイオリアクターに前記培地の滅菌方法により滅菌された培地を添加するステップと、前記添加された培地に微生物を接種し、純粋培養するステップと、を含む微生物の培養方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は、過酢酸と水とを混合するステップと、前記混合物に鉄イオン、アルカリ金属の水酸化物、エチレンジアミン四酢酸(EDTA:Ethylenediaminetetraacetic acid)及び糖を添加し且つ反応させて過酢酸反応物を最終的に酢酸、水及び酸素に分解するステップと、を含む過酢酸の分解方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、糖と窒素源とを含む培地に過酢酸を添加し、反応させて滅菌するステップと、前記滅菌した培地に過酢酸分解促進剤として鉄イオン、アルカリ金属の水酸化物及びEDTAを添加し、前記培地内において前記過酢酸と過酢酸分解促進剤を反応させて過酢酸反応物を最終的に酢酸、水及び酸素に分解するステップと、を含む培地の滅菌方法を提供する。
【0011】
さらに、本発明は、バイオリアクターに前記培地の滅菌方法により滅菌された培地を添加するステップと、前記添加された培地に微生物を接種し、純粋培養するステップと、を含む微生物の培養方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、過酢酸の分解方法及び該方法を用いた微生物の培養方法に関するものであり、本発明の方法を用いて微生物を培養する場合、熱を用いることなくバイオリアクターと培地を完璧に滅菌することができ、滅菌された洗浄水の使用なしに化学的な滅菌剤として用いられた培地に存在する過酢酸を分解して効果的に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】過酢酸の分解においてEDTAを添加しなかった場合、鉄イオンの凝集状態を顕微鏡で観察したものを示す図である。
図2】過酢酸の分解においてEDTAを添加した場合、鉄イオンの凝集状態を顕微鏡で観察したものを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について実施例により詳しく説明する。
但し、下記の実施例は、単に本発明を例示するものに過ぎず、本発明の内容が実施例により限定されることはない。
【0015】
実施例1:過酢酸の分解の確認
1Lのオーランチオキトリウム培地に10.52mMになるように過酢酸(ドンミョンONC社製、160126)を添加し、2時間反応させて滅菌した。前記過酢酸で滅菌した培地に96μMのFeCl(Sigma社製、7705-08-0)、5.5mMのNaOH(Sigma社製、1310-73-2)、96μMのEDTA(Sigma社製、60-00-4)、及び20g/Lのグルコース(Glucose)(Sigma社製、50-99-7)になるようにそれぞれの成分を添加し、1日間以上反応させて過酢酸とその反応物を最終的に酢酸、水、及び酸素に分解し、過酸化物テストスティックス(Quantofix Peroxide 100、マッハライ・ナーゲル社(Macherey-Nagel GmbH & Co.,)製、ドイツ)で過酢酸の分解の有無を測定した。
【0016】
このとき、前記オーランチオキトリウム培地は、1Lを目安として、酵母抽出物(Sigma社製、8013-01-2)2g、ペプトン(Sigma社製、91079-40-2)2g、D-グルコース(Sigma社製、50-99-7)20g、海水(seawater)(韓国の南海)500mL及び蒸留水500mLから構成されている(表5)。
【0017】
<表5>
【0018】
比較例1
実施例1の方法と同様にして実験を行ったが、EDTAを添加しなかった。
【0019】
比較例2
実施例1の方法と同様にして実験を行ったが、グルコースを添加しなかった。
【0020】
実施例2~6:グルコース濃度の差
実施例1の方法と同様にして実験を行ったが、添加するグルコースの量をそれぞれ10g/L(実施例2)、30g/L(実施例3)、40g/Lまたは(実施例4)、50g/L(実施例5)、または60g/L(実施例6)とした。
【0021】
実施例7~12:スクロース濃度の差
実施例1の方法と同様にして実験を行ったが、グルコースの代わりに、スクロースを、それぞれ10g/L(実施例7)、20g/L(実施例8)、30g/L(実施例9)、40g/L(実施例10)、50g/L(実施例11)、または60g/L(実施例12)の量になるように添加した。
【0022】
比較例3~9
実施例1の方法と同様にして実験を行ったが、EDTAを添加せず、FeClの代わりにCaClを添加(比較例3)し、EDTAを添加し、FeClの代わりにCaClを添加(比較例4)し、EDTAを添加せず、FeClの代わりにFeSOを添加(比較例5)し、EDTAを添加せず、FeClの代わりにMgClを添加(比較例6)し、EDTAを添加し、FeClの代わりにMgClを添加(比較例7)し、EDTAを添加せず、FeClの代わりにZnClを添加(比較例8)し、EDTAを添加し、FeClの代わりにZnClを添加(比較例9)した。
【0023】
実施例13
実施例1の方法と同様にして実験を行ったが、FeClの代わりにFeSOを添加した。
【0024】
実験例1:EDTAの効果
過酢酸の分解において、EDTAの効果を確認するために、実施例1及び比較例1の方法と同様にして実験を行った。
【0025】
その結果、EDTAを添加しなかった場合(比較例1、図1)には、EDTAを添加した場合(実施例1、図2)に比べて、金属イオンである鉄イオンの溶解度が急激に低下して過酢酸の分解速度が著しく減速されることを確認することができた(表1)。
【0026】
また、EDTAを添加した場合(実施例1、図2)に比べて、EDTAを添加しなかった場合(比較例1)には、鉄イオンが他の高分子内において凝縮されて結合されていることを確認することができた(図1)。この結果は、EDTAが存在する場合、鉄イオンが水溶性の状態で存在して過酢酸の分解の反応性が高くなるものの、EDTAが存在しない場合、鉄イオンが水溶性の状態で存在しないか、あるいは、他の成分と結合して過酢酸分解の反応性が低くなることを示唆している。
【0027】
【表1】
【0028】
前記表中の数字は、存在する過酢酸の濃度を意味し、例えば、>200は、200mg/L以上の過酢酸が残っていることを意味する。
【0029】
実験例2:グルコースの効果
過酢酸の分解において、グルコースの効果を確認するために、実施例1~6及び比較例2の方法と同様にして実験を行った。
【0030】
その結果、グルコースを添加しなかった場合、過酢酸がほとんど分解されなかったものの、添加するグルコースの量が増加するにつれて、過酢酸の分解速度が次第に速くなることを確認することができた(表2)。
【0031】
【表2】
【0032】
前記表中の数字は、存在する過酢酸の濃度を意味し、例えば、>200は、200mg/L以上の過酢酸が残っていることを意味する。
【0033】
実験例3:スクロースの効果
過酢酸の分解において、スクロースの効果を確認するために、実施例7~12及び比較例2の方法と同様にして実験を行った。
【0034】
その結果、糖を添加しなかった場合、過酢酸がほとんど分解されなかったものの、添加するスクロースの量が増加するにつれて、過酢酸の分解速度が次第に速くなることを確認することができた(表3)。
【0035】
【表3】
【0036】
前記表中の数字は、存在する過酢酸の濃度を意味し、例えば、>200は、200mg/L以上の過酢酸が残っていることを意味する。
【0037】
実験例4:金属の効果
過酢酸の分解において、金属の効果を確認するために、実施例1、実施例13及び比較例1、比較例3~9の方法と同様にして実験を行った。
【0038】
その結果、FeCl+EDTAまたはFeSO+EDTAを添加した場合には過酢酸が十分に分解されたものの、CaCl+EDTA、MgCl+EDTAまたはZnCl+EDTAを添加した場合には過酢酸がほとんど分解されず、FeCl、FeSO、CaCl、MgCl、またはZnCl金属のみを添加し、かつ、EDTAを添加しなかった場合には過酢酸がほとんど分解されないことを確認することができた(表4)。
【0039】
【表4】
【0040】
前記表中の数字は、存在する過酢酸の濃度を意味し、例えば、>200は、200mg/L以上の過酢酸が残っていることを意味する。
【0041】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0042】
本発明は、過酢酸と水とを混合するステップと、前記混合物に鉄イオン、アルカリ金属の水酸化物、EDTA(Ethylenediaminetetraacetic acid)及び糖を添加し且つ反応させて過酢酸反応物を最終的に酢酸、水及び酸素に分解するステップと、を含む過酢酸の分解方法を提供する。
【0043】
本発明において用いられた用語「滅菌(sterilization)」とは、微生物の栄養細胞及び胞子を死滅させることを意味する。
【0044】
本発明の前記過酢酸の分解方法において、前記鉄イオンは、Fe2+イオンまたはFe3+イオンであってもよく、前記鉄イオンは、FeCl、FeCl、FeSOなどのFeを含有する塩に由来したものであってもよい。
【0045】
本発明の前記過酢酸の分解方法において、アルカリ金属の水酸化物は、LiOH、NaOHまたはKOHであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0046】
本発明の前記過酢酸の分解方法において、前記アルカリ金属の水酸化物、例えば、NaOHを用いて過酢酸(PAA)の分解に適したpH値を容易に実現することができ、これにより、過酢酸の分解が早く起こることができる。
【0047】
本発明の前記過酢酸の分解方法において、EDTA(Ethylenediaminetetraacetic acid)は、鉄イオンの溶解度を増加させ、鉄と他の物質との結合を防いで過酢酸の分解を促すことができる。
【0048】
本発明の前記過酢酸の分解方法において、添加する鉄イオンのモル濃度がEDTAのモル濃度よりもわずかに高いかあるいは低い場合よりも、添加する鉄イオンとEDTAのモル濃度が互いに近似しているほど、過酢酸の分解速度がさらに速くなり、添加する鉄イオンとEDTAのモル濃度が同じである場合の方が、過酢酸の分解速度が最も速い。例えば、鉄イオンとEDTAのモル濃度比が10:1、9:1、8:1.7:1、6:1、5:1、4:1、3:1、2:1、または1:1であってもよく、1:2、1:3、1:4、1:5、1:6、1:7、1:8、1:9、1:10であってもよい。反応の際に存在するEDTAの量が鉄イオンの量よりも多い場合、鉄イオンによるフェントン反応を妨げて鉄による過酢酸の分解機作を妨げる虞がある。
【0049】
本発明の前記過酢酸の分解方法において、前記糖は、微生物の炭素源であって、グルコース、スクロース、または廃糖蜜(糖蜜)などであってもよいが、これに制限されるものではない。
【0050】
また、前記糖の濃度は、100g/L以下、好ましくは、5~50g/Lであってもよい。
【0051】
本発明の前記過酢酸の分解方法において、アルカリ金属の水酸化物の代わりに塩基性緩衝液を用いてもよく、あるいは、塩基性緩衝液をさらに添加してもよく、前記塩基性緩衝液は、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid;HEPES)であってもよい。
【0052】
本発明の前記過酢酸の分解方法において、前記過酢酸は、水と反応して次のように反応して酢酸と過酸化水素を形成する。
【0053】
i)CHCOH+HO→H+CHCO
【0054】
一方、過酢酸と水とが反応して生成された過酸化水素は、鉄イオンによりフェントン反応(Fenton reaction)をして最終的に下記の反応式のように酢酸、水及び酸素に分解される。
【0055】
ii)2CHCOH→2CHCOH+O
【0056】
iii)2HO2→2HO+O
【0057】
本発明は、糖と窒素源とを含む培地に過酢酸を添加し、反応させて滅菌するステップと、前記過酢酸で滅菌した培地に過酢酸分解促進剤として鉄イオン、アルカリ金属の水酸化物、及びEDTAを添加し、前記培地内において前記過酢酸と過酢酸分解促進剤を反応させて過酢酸反応物を最終的に酢酸、水及び酸素に分解するステップと、を含む培地の滅菌方法を提供する。
【0058】
本発明の前記培地の滅菌方法において、滅菌した培地に存在する過酢酸及び過酢酸反応物を最終的に酢酸、水及び酸素に分解して滅菌に用いられた培地に存在する過酢酸と過酢酸反応物を除去することができ、これを通して製造された培地を微生物の培養に用いることができる。
【0059】
本発明の前記培地の滅菌方法において、前記培地は、酵母やオーランチオキトリウム(Aurantiochytrium)などを培養する場合のように、糖(グルコース、ショ糖、廃糖蜜など)と窒素源(ペプトン、酵母抽出物、乳清など)を必要とする培地であってもよい。
【0060】
本発明の前記培地の滅菌方法において、前記培地は、海水種、淡水種などの微細藻類を培養する場合のように、光(light)を必要とする培地であってもよい。
【0061】
本発明の前記培地の滅菌方法において、前記鉄イオンは、Fe2+イオンまたはFe3+イオンであってもよく、前記鉄イオンは、FeCl、FeCl、FeSOなどのFeを含有する塩に由来するものであってもよい。
【0062】
本発明の前記培地の滅菌方法において、アルカリ金属の水酸化物は、LiOH、NaOHまたはKOHであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0063】
本発明の前記過酢酸の分解方法において、前記アルカリ金属の水酸化物、例えば、NaOHを用いて過酢酸(PAA)の分解に適したpH値を容易に実現することができ、これにより、過酢酸の分解が早く起こることができる。
【0064】
本発明の前記培地の滅菌方法において、EDTA(Ethylenediaminetetraacetic acid)は、鉄イオンの溶解度を増加させ、他の構成成分との結合を防いで過酢酸の分解を促すことができる。
【0065】
本発明の前記培地の滅菌方法において、添加する鉄イオンのモル濃度がEDTAのモル濃度よりもわずかに高いかあるいは低い場合よりも、添加する鉄イオンとEDTAのモル濃度が互いに近似しているほど、過酢酸の分解速度がさらに速くなり、添加する鉄イオンとEDTAのモル濃度が同じである場合の方が、過酢酸の分解速度が最も速い。
【0066】
本発明の前記培地の滅菌方法において、前記糖は、グルコース、スクロース、または廃糖蜜(糖蜜)であってもよいが、これに制限されるものではない。
【0067】
また、前記糖の濃度は、100g/L以下、好ましくは、5~50g/Lであってもよい。
【0068】
本発明の前記培地の滅菌方法において、アルカリ金属の水酸化物の代わりに塩基性緩衝液を用いてもよく、あるいは、塩基性緩衝液をさらに添加してもよく、前記塩基性緩衝液は、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid;HEPES)であってもよい。
【0069】
本発明の前記方法のようにして培地を滅菌すれば、中和するまでオートクレーブで滅菌しなくても、かつ、開放された容器においても汚れず、長期間にわたって保管することができるというメリットがある。
【0070】
本発明は、滅菌されたバイオリアクターまたはバイオリアクターに前記培地の滅菌方法により滅菌された培地を添加するステップと、前記添加された培地に微生物を接種し、純粋培養するステップと、を含む微生物の培養方法を提供する。
【0071】
本発明の前記微生物の培養方法において、前記微生物の例としては、オーランチオキトリウム属(オーランチオキトリウム sp.)、シゾキトリウム属(Schizochytrium sp.)クロレラ属(Chlorella sp.)、シネコシスティス属(Synechocystis sp.)、デバルヨミセス属(Debaryomyces sp.)、酵母菌群(Yeasts)、乳酸菌群(Lacticacidbacteria)、放線菌群(Actinomycetes)、ユーグレナ(Euglena)、モルティエラ(Mortierella)糸状菌群及び光合成細菌よりなる群から選ばれる一種以上が挙げられるが、これに限定されることはない。
【0072】
また、本発明は、バイオリアクターに糖と窒素源とを含む培地を入れ、過酢酸を添加し、反応させてバイオリアクターと培地を同時に滅菌する方法を提供する。
【0073】
本発明の一実施形態によれば、オーランチオキトリウム培地に過酢酸を添加し、2時間反応させて滅菌した培地にFeCl、NaOH、EDTA、及びグルコース(Glucose)を添加し、1日間以上反応させた場合、過酢酸が最終的に酢酸、水、及び酸素に著しく速い速度で分解されることを確認した(実験例1)。
【0074】
但し、本発明の一実施形態によれば、オーランチオキトリウム培地に過酢酸を添加し、2時間反応させて滅菌した培地にEDTAを除いてFeCl、NaOH、及びグルコース(Glucose)を添加し、1日間以上反応させた場合、過酢酸の分解速度が著しく減速されることを確認した(実験例1)。
【0075】
本発明の一実施形態によれば、オーランチオキトリウム培地に過酢酸を添加し、2時間反応させて滅菌した培地にFeCl、NaOH、及びEDTAを添加し、グルコース(Glucose)の量を次第に増やして添加し、1日間以上反応させた場合、添加するグルコースの量が次第に増加するにつれて、過酢酸が最終的に酢酸、水、及び酸素に分解される速度が次第に増加することを確認することができた(実験例2)。
【0076】
但し、本発明の一実施形態によれば、オーランチオキトリウム培地に過酢酸を添加し、2時間反応させて滅菌した培地にグルコース(Glucose)を除いてFeCl、NaOH、及びEDTAを添加し、1日間以上反応させた場合、過酢酸の分解速度が著しく減速されることを確認した(実験例2)。グルコースのような還元性糖が添加される場合、過酢酸により酸化された鉄を再び還元させることにより、鉄によるフェントン反応を活性化させて鉄による過酢酸の分解に一助となることができる。
【0077】
本発明の一実施形態によれば、オーランチオキトリウム培地に過酢酸を添加し、2時間反応させて滅菌した培地にFeCl、NaOH、及びEDTAを添加し、グルコースの代わりにスクロース(Sucrose)の量を次第に増やして添加し、1日間以上反応させた場合、添加するスクロースの量が次第に増加するにつれて、過酢酸が最終的に酢酸、水、及び酸素に分解される速度が次第に増加することを確認した(実験例3)。
【0078】
本発明の一実施形態によれば、オーランチオキトリウム培地に過酢酸を添加し、2時間反応させて滅菌した培地に金属、NaOH、グルコース及びEDTAを添加し、1日間以上反応させた場合、FeCl+EDTAまたはFeSO+EDTAを添加した場合には過酢酸が十分に分解されたものの、CaCl+EDTA、MgCl+EDTAまたはZnCl+EDTAを添加した場合には過酢酸がほとんど分解されず、FeCl、FeSO、CaCl、MgCl、及びZnCl金属のみを添加し、かつ、EDTAを添加しなかった場合には過酢酸がほとんど分解されないことを確認した(実験例4)。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の過酢酸の分解方法及び該方法を用いた微生物の培養方法を用いて微生物を培養する場合、熱を用いることなくバイオリアクターと培地を完璧に滅菌することができて、産業的に有用である。
図1
図2
【国際調査報告】