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特表2022-516201空間構造繊維の製造方法及びこれにより得られた繊維ならびにその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-24
(54)【発明の名称】空間構造繊維の製造方法及びこれにより得られた繊維ならびにその使用
(51)【国際特許分類】
   D01F 8/02 20060101AFI20220216BHJP
【FI】
D01F8/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021542242
(86)(22)【出願日】2019-07-30
(85)【翻訳文提出日】2021-03-30
(86)【国際出願番号】 CN2019098432
(87)【国際公開番号】W WO2020063094
(87)【国際公開日】2020-04-02
(31)【優先権主張番号】201811157406.5
(32)【優先日】2018-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201811158575.0
(32)【優先日】2018-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517359004
【氏名又は名称】青島大学
【氏名又は名称原語表記】QINGDAO UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】308 Ningxia Road, Shinan district, Qingdao, Shandong266073,China
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】隋坤艶
(72)【発明者】
【氏名】潘娜
(72)【発明者】
【氏名】崔慧琳
(72)【発明者】
【氏名】林敏
(72)【発明者】
【氏名】譚亜強
(72)【発明者】
【氏名】范▲ウェン▼▲シン▼
【テーマコード(参考)】
4L041
【Fターム(参考)】
4L041AA02
4L041BA02
4L041BA03
4L041BA04
4L041BA21
4L041BA41
4L041CA56
4L041CB02
(57)【要約】
本発明は、空間構造繊維の製造方法及びこれにより得られた繊維ならびにその使用を提供し、該繊維は、湿式紡糸の方法を用いて低分子量の多糖類多価電解質を紡糸原液に調製し、任意的にその中に不活性導電材料を分散させ、凝固槽内に高分子量の多糖類多価電解質を添加して凝固浴とし、紡糸原液を注射器により凝固浴内に注入することにより、製造される。前記製造方法は、設備が簡単であり、コストが低く、紡績性に優れ、大規模生産に適し、得られた空間構造繊維、特に中空多層繊維は、層数、チャンバ数、直径が制御可能であり、良好な引張強度、極めて高い比表面積を有し、触媒、吸着、濾過及び組織工学等の分野へ広く利用可能であり、得られた空間構造繊維、特にコア・シェル構造繊維は、線形ウルトラキャパシタの作製に利用可能であり、外層で生成した天然電解質のシェルは、両電極の短絡を非常によく防止することができ、キャパシタの安全性を高める。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低分子量の多糖類多価電解質を水に入れて、任意に不活性導電材料をその中に分散させ、紡糸原液を得る工程1と、
高分子量の多糖類多価電解質を水に入れて、凝固浴を得る工程2と、
工程1で得られた紡糸原液を、工程2で得られた凝固浴内に注入し、前記空間構造繊維を得る工程3と、
を含むことを特徴とする空間構造繊維の製造方法。
【請求項2】
前記空間構造繊維は、中空多層構造繊維及びコア・シェル多層構造繊維を含み、
工程1において不活性導電材料を分散させなかった場合、工程3では中空多層構造繊維が得られ、好ましくは、工程1で得られた紡糸原液を注射器又は紡糸口金により工程2で得られた凝固浴内に注入し、その後、巻付、洗浄及び乾燥処理を行い、前記中空多層構造繊維が得られ、
工程1において不活性導電材料を分散させた場合、工程3ではコア・シェル多層構造繊維が得られ、この時、
前記紡糸液において、不活性導電材料と低分子量の多糖類多価電解質との重量比が1:(0.2~100)であり、好ましくは1:(0.5~1)であり、
前記不活性導電材料は、グラフェン、カーボンナノチューブ及び金属超微細粉末から選択されることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記低分子量の多糖類多価電解質と前記高分子量の多糖類多価電解質とは、反対の電荷を持っていることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
工程1において、
前記低分子量の多糖類多価電解質の分子量が2000~10000Daであり、好ましくは2000~6000Daであるか、及び/又は
前記低分子量の多糖類多価電解質は、キトサンオリゴ糖、アルギン酸ナトリウムオリゴ糖又はカラギーナンオリゴ糖から選択されることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
工程2において、
前記高分子量の多糖類多価電解質の分子量が100000~800000Daであり、好ましくは300000~700000Daであり、より好ましくは400000~600000Daであるか、及び/又は
前記高分子量の多糖類多価電解質は、キトサン、アルギン酸ナトリウム又はカラギーナンから選択されることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
工程1において、前記紡糸原液中に、低分子量の多糖類多価電解質の質量パーセント濃度が5~60%であり、好ましくは5~40%であり、より好ましくは5~25%であり、さらに好ましくは5~20%であり、例えば5~10%であるか、及び/又は
工程2において、前記凝固浴中に、高分子量の多糖類多価電解質の質量パーセント濃度が0.5~5%であり、好ましくは0.5~3%であり、より好ましくは0.5~2%であり、最も好ましくは0.5%~1%であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
不活性導電材料を分散させなかった場合、
工程2において、紡糸原液のpHを2~6となるように調節し、好ましくは紡糸原液のpHを3.5~5となるように調節するか、及び/又は
工程2において、NaClを添加し、好ましくは0.1~1MのNaCl溶液を添加し、より好ましくは0.2~0.5MのNaCl溶液を添加し、
工程3において、注射器を採用する場合、1つ又は複数の注射器を用いて同時に行い、それぞれシングルチャンバ又はマルチチャンバ繊維が得られ、
工程3において、紡糸口金を用いた場合、単孔又は多孔の紡糸口金を用いて行い、それぞれシングルチャンバ又はマルチチャンバ繊維が得られることを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項8】
不活性導電材料を分散させた場合、
工程3において、紡糸液の押出速度が300~600mL/minであり、好ましくは400~500mL/minであることを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項9】
中空多層構造繊維及びコア・シェル多層構造繊維を含み、
前記中空多層構造繊維はシングルチャンバ又はマルチチャンバ構造であり、好ましくは各々のチャンバが1層又は多層のカプセル壁構造を含み、より好ましくは各層のカプセル壁がいずれも多孔状であり、かつ、多層構造である場合、内部から外部へと各層のカプセル壁の孔径が徐々に大きくなり、
前記コア・シェル構造繊維は、不活性導電材料をコアとし、多糖類多価電解質をシェルとする、請求項1~8のいずれか1項に記載の製造方法で得られた空間構造繊維。
【請求項10】
好ましくは、中空多層構造繊維は、組織工学に使用され、繊維チャンバ内又は各層表面に細胞を培養するために用いられ、
好ましくは、コア・シェル構造繊維は、ウルトラキャパシタの製造に使用される、
請求項9に記載の空間構造繊維の、組織工学又はウルトラキャパシタ製造への使用。
【請求項11】
前記ウルトラキャパシタは、
水とリン酸とを均一に混合し、溶液Aを得る工程1と、
PVAを水に溶解し、溶液Bを得る工程2と、
溶液Bと溶液Aとを混合し、攪拌して溶液Cを得る工程3と、
溶液Cを前記コア・シェル構造繊維上に塗布して、前記ウルトラキャパシタを得る工程4と、を含む製造方法により製造される、請求項10に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間構造繊維の分野に関し、具体的には多層構造、例えば中空多層構造繊維及びコア・シェル多層構造繊維の製造、及びこれにより得られた繊維ならびにその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
層状構造は、自然界の中で夥しく存在しており、様々な生体が分子断片間の種々の弱相互作用により自発的に組み立て、堆積して多層的な空間構造を形成し、最後に生体機能を実現し、例えば、貝殻、木の年輪等がいずれも高度的再現性の多層パターン化配列を呈する。自然界に啓発されて、科学者は多層構造材料のバイオニック設計と製造及びその理論研究を幅広く進んできた。
【0003】
多層構造材料の製造は、従来、LBL方法を主としており、LBLは、最初に多価電解質の陰・陽イオン間の静電的相互作用に基づいて1層ずつ交互に析出して多層薄膜材料を構築する方法であり、その後、水素結合、電荷移動及び分子識別等幾つかの弱作用力まで広げられた。
【0004】
多層構造材料の製造は、マイクロ流体技術によって実現されてもよい。熱伝導が速く、反応温度及び有効反応時間等の反応条件が精確に制御可能であるので、マイクロ流体により、多層(マルチチャンバ)及び複雑な構造繊維の構築を実現することができる。
【0005】
しかしながら、マイクロ流体により構築された多層構造繊維は、正しくはゾーン分割繊維としか呼ばれず、かつその寸法がマイクロ・ナノスケールに制限されているので、マクロスケールの意味での多層構造繊維の製造が依然として進展されていない。
【0006】
線形ウルトラキャパシタは、体積が小さく、機動性が高く、及びウェアラブルの優位性を有し、ますます注目されている。
【0007】
しかし、ほとんどの可撓性キャパシタは電極が露出しており、両電極が互いに接触する際に短絡が非常に発生しやすく、危険をもたらす。
【0008】
従来、コーディング技術を用いて、露出した電極の外部にPVA固体電解質を1層塗布する方法によりこの問題を解決するが、短絡発生の確率をある程度低下させることができる。
【0009】
しかし、コーディングプロセスは比較的複雑で、時間がかかり、しかも電極の外部に均一に塗布できないため、キャパシタ性能の低下を招く。
【発明の概要】
【0010】
上記の課題に鑑みて、本発明は、空間構造繊維、特に多層構造繊維及びコア・シェル構造繊維の製造を提供し、その製造コストが低く、かつ大規模生産に適し、プロセスが簡単であり、環境にやさしく、得られた多層構造繊維は、層数、チャンバ数、直径が制御可能であり、良好な引張強度、極めて高い比表面積を有し、触媒、吸着、濾過及び組織工学等の分野へ広く利用可能であり、得られたコア・シェル構造繊維のコアが不活性導電材料であり、電極とされてもよく、シェルが天然多糖類の錯体であり、線形電極の安全性を解決いた上、ウェアラブル設備の非毒性をも保証している。
【0011】
本発明の目的は、空間構造繊維の製造方法を提供することにあり、前記方法は、
低分子量の多糖類多価電解質を水に入れて、任意に不活性導電材料をその中に分散させ、紡糸原液を得る工程1と、
高分子量の多糖類多価電解質を水に入れて、凝固浴を得る工程2と、
工程1で得られた紡糸原液を、工程2で得られた凝固浴内に注入し、前記空間構造繊維を得る工程3と、
を含む。
【0012】
本発明のもう1つの目的は、上記製造方法により得られた空間構造繊維を提供することにあり、前記空間構造繊維は、中空多層構造繊維及びコア・シェル多層構造繊維を含み、
前記中空多層構造繊維はシングルチャンバ又はマルチチャンバ構造であり、好ましくは各々のチャンバが1層又は多層のカプセル壁構造を含み、より好ましくは各層のカプセル壁がいずれも多孔状であり、かつ、多層構造である場合、内部から外部へと各層のカプセル壁の孔径が徐々に大きくなり、
前記コア・シェル構造繊維は、不活性導電材料をコアとし、多糖類多価電解質をシェルとする。
【0013】
本発明の更なる目的は、前記空間構造繊維の、組織工学又はウルトラキャパシタの製造への使用を提供することにあり、
好ましくは、中空多層構造繊維は、組織工学に使用され、繊維チャンバ内又は各層表面に細胞を培養するために用いられ、
好ましくは、コア・シェル構造繊維は、ウルトラキャパシタの製造に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施例1で得られたアルギン酸ナトリウム/キトサンオリゴ糖多層繊維の電子顕微鏡写真を示す(主に繊維全体の横断面を示す)。
図2図2は、実施例1で得られたアルギン酸ナトリウム/キトサンオリゴ糖多層繊維の電子顕微鏡写真の1を示す(主に中空コアの第1層に近接する外面を示す)。
図3図3は、実施例1で得られたアルギン酸ナトリウム/キトサンオリゴ糖多層繊維の電子顕微鏡写真の3を示す(主に中空コアの最外層に近接する外面を示す)。
図4図4は、実施例1で得られたアルギン酸ナトリウム/キトサンオリゴ糖多層繊維の引張強度を示す。
図5図5は、実施例2で得られたアルギン酸ナトリウム/キトサンオリゴ糖多層繊維の顕微鏡写真を示す(主に繊維全体の横断面を示す)。
図6図6は、実施例3で得られたアルギン酸ナトリウム/キトサンオリゴ糖多層繊維の顕微鏡写真を示す(主に繊維全体の横断面を示す)。
図7図7は、実施例4で得られたアルギン酸ナトリウム/キトサンオリゴ糖多層繊維の顕微鏡写真を示す(主に繊維全体の横断面を示す)。
図8図8は、実施例1で得られたアルギン酸ナトリウム/キトサンオリゴ糖多層繊維の赤外線吸収スペクトルを示す。
図9図9は、実施例2で得られたアルギン酸ナトリウム/キトサンオリゴ糖多層繊維で細胞を培養するDAPI蛍光図である。
図10図10は、実施例1で得られたアルギン酸ナトリウム/(キトサンオリゴ糖/カーボンナノチューブ)繊維の電子顕微鏡写真の1を示す(主に繊維全体の横断面を示す)。
図11図11は、実施例1で得られたアルギン酸ナトリウム/(キトサンオリゴ糖/カーボンナノチューブ)写真の2を示す(主に繊維のコア・シェル構造を示す)。
図12図12は、実施例1で得られたアルギン酸ナトリウム/(キトサンオリゴ糖/カーボンナノチューブ)の電子顕微鏡写真の3を示す(主に繊維のコアの形態を示す)。
図13図13は、実施例1で得られたアルギン酸ナトリウム/(キトサンオリゴ糖/カーボンナノチューブ)繊維を線形キャパシタに組み立てる原寸図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施例及び実験例により本発明をさらに詳しく説明する。これらの説明により、本発明の特徴及び利点がより明らかになる。
【0016】
本発明は、空間構造繊維の製造方法を提供し、前記方法は、
低分子量の多糖類多価電解質を水に入れて、任意に不活性導電材料をその中に分散させ、紡糸原液を得る工程1と、
高分子量の多糖類多価電解質を水に入れて、凝固浴を得る工程2と、
工程1で得られた紡糸原液を、工程2で得られた凝固浴内に注入し、前記空間構造繊維を得る工程3と、
を含む。
【0017】
1つの好ましい実施形態において、本発明は、多層構造繊維の製造方法を提供し、前記方法は、
低分子量の多糖類多価電解質を水に入れて、紡糸原液を得る工程1と、
高分子量の多糖類多価電解質を水に入れて、凝固浴を得る工程2と、
工程1で得られた紡糸原液を注射器又は紡糸口金により工程2で得られた凝固浴内に注入し、その後、巻付、洗浄及び乾燥処理を行い、前記中空多層構造繊維を得る工程3と、を含む。
【0018】
その中、低分子量の多糖類多価電解質と高分子量の多糖類多価電解質(それぞれ反対の正、負電荷を持つ)との間の静電気作用で、両者が錯化し、多価電解質錯化膜を形成し、その後、浸透圧の駆動により、低分子量の多糖類多価電解質は、自発的に錯化膜を通過して高分子量の多糖類多価電解質方向へ拡散し続け、再度、高分子量の多糖類多価電解質と錯化して新たな錯化膜を形成することができる。溶液が自発的に上記の錯化-拡散-再錯化の過程を繰り返すことにより、制御して異なるカプセル壁層数を有する繊維を得ることができる。
【0019】
もう1つの実施形態において、本発明は、コア・シェル構造繊維の製造方法を提供し、前記方法は、
低分子量の多糖類多価電解質を水に入れて、第1溶液を得、不活性導電材料を工程1で得られた第1溶液に分散させて、紡糸液を得る工程1と、
高分子量の多糖類多価電解質を水に入れて、凝固浴を得る工程2と、
工程2で得られた紡糸液を工程1で得られた凝固浴に押出し、前記コア・シェル構造繊維を得る工程3と、を含む。
【0020】
本発明の一実施形態によれば、前記低分子量の多糖類多価電解質と前記高分子量の多糖類多価電解質は反対の電荷を持っている。このようにしてこそ、両者の間に静電気作用の形成が可能となる。
【0021】
さらに好ましい実施形態において、前記低分子量の多糖類多価電解質は、キトサンオリゴ糖、アルギン酸ナトリウムオリゴ糖又はカラギーナンオリゴ糖から選択される。
【0022】
さらに好ましい実施形態において、前記高分子量の多糖類多価電解質は、キトサン、アルギン酸ナトリウム又はカラギーナンから選択される。
【0023】
その中、キトサンオリゴ糖は正電荷を持つと、高分子量多価電解質は、それと反対の電荷を持ち、例えばアルギン酸ナトリウム、カラギーナン又は両者の混合液から選択される。アルギン酸ナトリウムオリゴ糖が負電荷を持つと、高分子量多価電解質は、それと反対の電荷を持ち、例えばキトサンから選択される。カラギーナンオリゴ糖が負電荷を持つと、高分子量多価電解質は、それと反対の電荷を持ち、例えばキトサンから選択される。
【0024】
本発明において、得られた多層構造繊維は、吸着、濾過及び組織工学分野へ広く利用可能である。
【0025】
その原因は以下の通りである。(1)多糖類多価電解質が正、負電荷を持ち、両者が錯化反応しても、分子鎖上に依然として未反応の帯電性官能基があり、潜在的に有機染料と反応し得る結合部位となるので、これらの結合部位は、正又は負電荷を持つイオン染料と静電気作用して吸着を実現することができる。(2)製造された繊維が濾過性能を有する原因は、繊維自体に多層構造が存在し、各層の孔径の大きさが異なり、内部から外部へと勾配構造を呈するので、繊維が表層から内層へと異なる粒子の粒径の大きさに従って段階的に分層して濾過されて使用要求に達し、流体における混合塵が表層から濾材に入り、粒径の大きい粒子が表層により阻止され、中ほどの粒径粒子が中間で吸着され、微細な粒径粒子が内層により遮断されることにある。(3)繊維は、組織工学に利用可能である原因は、繊維原材料の生体相溶性が良く、中空繊維の比表面積が大きく、かつ独特な血管類似構造を有する。
【0026】
本発明において、得られたコア・シェル構造繊維は、線形可撓性ウルトラキャパシタの製造に利用可能である。
【0027】
その原因は、得られた繊維が不活性導電材料をコアとし、多孔質構造を有する天然多糖類錯体がシェルの構造であり、その中、コアの不活性導電材料は優れた導電性を有し、外層の多孔質は、天然多糖類錯体であり、電極を保護できるとともに、イオントランスポートの通路を提供できる。
【0028】
本発明で得られたコア・シェル構造繊維において、低分子量の多糖類多価電解質を不活性導電材料に分散させて紡糸液を得、これを含有する紡糸液を高分子量の多糖類多価電解質凝固浴中に注入し(高低分子量の多糖類多価電解質がそれぞれ反対の正、負電荷を持つ)、接触直後、正負電荷が緊密に結合し、1層の緻密的な薄膜を形成し、半透膜として利用可能であり、浸透圧の駆動作用により、低分子量の多糖類多価電解質は自発的に錯化膜を通過して高分子量の多糖類多価電解質方向へと拡散し続き、再度、高分子量の多糖類多価電解質と錯化して新たな錯化膜を形成することができ、不活性導電材料を不活性物質とすると、低分子量多価電解質が拡散する過程においてアンラッピングが発生し、繊維内部に滞留することにより、繊維が得られ、該繊維の内部は不活性導電材料をコアした電極部分であり、外部に電極保護層のシェルとして天然多糖類多価電解質が形成される。
【0029】
本発明の一実施形態によれば、工程1において、前記低分子量の多糖類多価電解質の分子量が2000~10000Daである。
【0030】
さらに好ましい実施形態において、工程1において、前記低分子量の多糖類多価電解質の分子量が2000~6000Daである。
【0031】
その中、低分子量の多糖類多価電解質の数平均分子量が2000Da未満である場合、それと高分子量の多糖類多価電解質とが錯化反応する際に、低分子量の多糖類多価電解質と高分子量の多糖類多価電解質との間の結合部位が少なく、交絡が不十分であり、成膜さらに繊維形成には不十分であり、最後に複合体沈殿粒子が形成される。同時に、もし前記低分子量の多糖類多価電解質の数平均分子量が10000Daを超えた場合、低分子量の多糖類多価電解質と高分子量の多糖類多価電解質とが静電気錯化反応して形成された錯化層の構造が緻密であり、低分子量の多糖類が通過できず、拡散過程が阻害され、最後に、中空構造又は自己支持薄膜を形成できない。
【0032】
本発明の一実施形態によれば、工程2において、前記高分子量の多糖類多価電解質の分子量が100000~800000Daである。
【0033】
さらに好ましい実施形態において、工程2において、前記高分子量の多糖類多価電解質の分子量が300000~700000Daである。
【0034】
さらに好ましい実施形態において、工程2において、前記高分子量の多糖類多価電解質の分子量が400000~600000Daである。
【0035】
その中、もし前記高分子量の多糖類多価電解質の分子量が上記範囲外であれば、それと低分子量の多糖類多価電解質とが錯化反応して形成された繊維カプセル壁/多価電解質繊維シェルが緻密になりすぎ、低分子量の多糖類多価電解質分子がカプセル壁/緻密になり過ぎた繊維層を通過できなくなるため、低分子量の多糖類多価電解質の更なる拡散が阻害され、錯化-拡散-再錯化の過程ができなくなり、最後に、1層の緻密的な構造の繊維しか得られない。
【0036】
本発明の一実施形態によれば、工程1において、前記紡糸原液中に、低分子量の多糖類多価電解質の質量パーセント濃度が5~60%であり、好ましくは5~40%である。
【0037】
さらに好ましい実施形態において、工程1において、前記紡糸原液中に、低分子量の多糖類多価電解質の質量パーセント濃度が5~25%であり、好ましくは5~20%であり、例えば、5~10%である。
【0038】
その中、発明者は、大量の実験を経て以下のことを見出した。紡糸原液中の低分子量の多糖類多価電解質の濃度は、得られた中空繊維の層数に重要な影響を与えており、具体的に、紡糸原液中の低分子量の多糖類多価電解質の濃度を大きくすると、多層繊維が単層から多層となり、濃度が大きくなるにつれて、得られた多層繊維の層数が多くなり、このようにして、本発明に記載の方法を利用して層数が制御可能な多層中空繊維を得ることができる。
低分子量の多糖類多価電解質と不活性導電材料の質量パーセント濃度は、シェル多糖類多価電解質錯化層の厚みに影響を与えている。低分子量の多糖類多価電解質の濃度比が高いほど、反応で得られた多糖類多価電解質シェル繊維の厚みが厚くなる。主な原因は、低分子量の多糖類多価電解質の濃度が高いほど、それと高分子量多糖類多価電解質との錯化が多くなり、シェル繊維の厚みが厚くなることにある。特に、低分子量の多糖類多価電解質の質量パーセントが5%未満である場合、不活性導電材料をよく分散させることができず、低分子量多価電解質の質量パーセントが高すぎると、得られたコア・シェル繊維のシェルにカーボンナノチューブが含まれてしまうか、又はコアに含まれる不活性導電材料の導電性が低下する可能性がある。
【0039】
本発明の一実施形態によれば、工程1において、前記紡糸液において、不活性導電材料と低分子量の多糖類多価電解質との重量比が1:(0.2~100)である。
【0040】
さらに好ましい実施形態において、工程1において、前記紡糸液において、不活性導電材料と低分子量の多糖類多価電解質との重量比が1:(0.5~1)である。
【0041】
本発明の一実施形態によれば、工程2において、前記凝固浴中に、高分子量の多糖類多価電解質の質量パーセント濃度が0.5~5%である。
【0042】
さらに好ましい実施形態において、工程2において、前記凝固浴中に、高分子量の多糖類多価電解質の質量パーセント濃度が0.5~3%であり、より好ましくは0.5~2%である。
【0043】
その中、低分子量の多糖類多価電解質を高い濃度(5~60%、又は5~40%)に制御し、高分子量の多糖類多価電解質を低い濃度(0.5~5%)に制御することにより、両者は、イオン濃度差により浸透圧を形成し、浸透圧により低分子量の多糖類多価電解質が高分子量多価電解質へ拡散し、その後、静電気作用により結合し、繊維が得られる。
【0044】
本発明の一実施形態によれば、不活性導電材料を分散させなかった場合、工程2において、任意的にNaClを添加する。
【0045】
さらに好ましい実施形態において、工程2において、任意的に0.1~1MのNaClを添加する。
【0046】
さらに好ましい実施形態において、工程2において、任意的に0.2~0.5MのNaClを添加する。
【0047】
その中、塩化ナトリウムは、小分子電解質として、低分子量の多糖類多価電解質と高分子量の多糖類多価電解質の電荷を遮蔽し、両者間の静電気作用を弱めることにより、繊維のカプセル壁構造がより疏散し、即ち、より孔径の大きいカプセル壁構造が得られ、また、構造がより疏散した多層構造中空繊維がさらに油吸収への使用に有利である。しかも、塩化ナトリウムを添加した後、一部の多糖類多価電解質は、電荷が一時遮蔽され有機染料反応のための幾つかの結合部位を「保有/保留」しているので、得られた多層構造中空繊維は、有機染料に対する吸着性能もより優れる。
【0048】
本発明の一実施形態によれば、工程1において、任意的に紡糸原液のpHを2~6となるように調節する。
【0049】
その中、低分子量の多糖類多価電解質及び高分子量の多糖類多価電解質はいずれも一定の酸解離指数pKaを有し、反応系のpHを調節することにより、電荷密度を変化させ、さらに、低分子量の多糖類多価電解質と高分子量の多糖類多価電解質との静電気錯化程度に影響を与えることができる。具体的に、酸解離指数pKaから離れるほど、電荷密度が大きくなり、低分子量の多糖類多価電解質と高分子量の多糖類多価電解質との結合力が強くなり、得られた錯化膜の構造が緻密となり、逆に、酸解離指数pKaに近づくほど、電荷密度が小さくなり、低分子量の多糖類多価電解質と高分子量の多糖類多価電解質との結合力が弱くなり、得られた錯化膜の構造がより疏散となる。
【0050】
さらに好ましい実施形態において、工程1において、任意的に紡糸原液のpHを3.5~5となるように調節する。
【0051】
従って、酸性pHの環境下、カプセル壁が比較的に疏散の多層繊維が得られ、これにより、繊維に対してより優れた吸着性能を付与することができる。
【0052】
本発明の一実施形態によれば、工程3において、注射器を採用する場合、1つ又は複数の注射器を用いて同時に行い、それぞれシングルチャンバ又はマルチチャンバ繊維を得た。
【0053】
その中、1つの注射器を用いて行う場合、シングルチャンバ繊維を得、複数の注射器を用いて行う場合、マルチチャンバ繊維を得ることができる。
【0054】
さらに好ましい実施形態において、工程3において、1~8つの注射器を用いて同時に行う。
【0055】
さらに好ましい実施形態において、工程3において、1~6つ、例えば1~3つの注射器を用いて同時に行う。
【0056】
その中、複数の注射器を用いる場合、互いに近接して注射を行うことが好ましく、このようにして、同時に噴出した複数本の繊維が凝固浴において自発的に貼り付き、さらにマルチチャンバ繊維が得られる。もし同時に噴出した複数本の繊維は、凝固浴において自発的に貼りつかない場合、人為的に行い、同時に噴出した複数本の繊維を繋げ、マルチチャンバ繊維を形成してもよい。
【0057】
本発明の一実施形態によれば、工程3において、紡糸口金を用いた場合、単孔又は多孔の紡糸口金を用いて行い、それぞれシングルチャンバ又はマルチチャンバ繊維が得られる。
【0058】
さらに好ましい実施形態において、1~8孔の紡糸口金を用いて行い、より好ましくは1~6孔の紡糸口金、例えば1~3孔の紡糸口金を用いて行う。
【0059】
その中、紡糸口金を用いて行う場合、好ましくは紡糸口金上の隣接する紡糸孔の間隔を小さくして、噴出した繊維同士が貼りつく可能となり、もし自発的に貼りつくことができなければ、同様に、人為的に行い、同時に噴出した複数本の繊維を繋げ、マルチチャンバ繊維を形成することができる。
【0060】
本発明の一実施形態によれば、工程3において、繊維を得た後、任意的にそれを多価陽イオン塩溶液、例えば塩化カルシウム溶液などで含浸する。
【0061】
その中、多価陽イオン塩で含浸した後、陽イオン塩と分子鎖との間に架け橋が発生し、繊維の表面粗さを変化させて強度を増加させることができる。
【0062】
さらに好ましい実施形態において、前記多価陽イオン塩溶液の濃度が1~10%であり、好ましくは3~8%、例えば5%である。
【0063】
本発明の一実施形態によれば、不活性導電材料を分散させた場合、工程2において、凝固浴溶液の調製時に酢酸を添加する。
【0064】
さらに好ましい実施形態において、酢酸を添加した場合、工程2において水浴酢酸の体積使用量の比が(20~80):1である。
【0065】
本発明の一実施形態によれば、工程3において、紡糸液の押出速度が300~600mL/minである。
【0066】
さらに好ましい実施形態において、工程4において、紡糸液の押出速度が400~500mL/minである。
【0067】
その中、発明者は、大量の実験を経て、紡糸液押出速度が繊維の成形性に大きな影響を及ぼすことを見出した。
【0068】
本発明の一実施形態によれば、不活性導電材料を分散させた場合、工程3において、任意的に凝固浴を回転させる。
【0069】
さらに好ましい実施形態において、工程3において、凝固浴を回転させる場合、好ましくは紡糸液の押出方向を凝固浴の回転方向と垂直にする。
【0070】
さらに好ましい実施形態において、工程3において、凝固浴を回転させる場合、凝固浴の回転速度が80~200rpm/minであり、好ましくは100~180rpm/minであり、より好ましくは120~160rpm/minである。
【0071】
その中、発明者は、大量の実験を経て、凝固浴を回転させる場合、繊維の成形に有利であることを見出した。具体的に、紡糸液を、回転する高分子量の多糖類多価電解質凝固浴に垂直に押し出す場合、回転の凝固浴は押出される紡糸液に対して回転方向に沿った接線方向のせん断力を提供し、繊維の成形に有利である。
【0072】
本発明のもう1つの態様は、第1態様に記載の方法を利用して得られた空間構造繊維、例えば中空多層繊維又はコア・シェル構造繊維を提供する。
【0073】
本発明の一実施形態によれば、前記中空多層繊維はシングルチャンバ又はマルチチャンバ構造である。さらに好ましい実施形態において、前記繊維の各チャンバは1層又は多層カプセル壁構造を含む。さらに好ましい実施形態において、各層カプセル壁はいずれも多孔状を呈し、しかも、多層構造である場合、内部から外部へと、各層カプセル壁の孔径が徐々に大きくなる。
【0074】
その中、本発明に記載の方法を利用して多層カプセル壁構造を得、前記多層カプセル壁構造において、内層カプセル壁の孔径は、それと隣接する外層カプセル壁の孔径よりも小さく、内部から外部への順序でカプセル壁上の孔径が単調増加する。
【0075】
前記コア・シェル構造繊維は、不活性導電材料をコアとし、多糖類多価電解質をシェルとする。
【0076】
本発明の第3態様は、第2態様に記載の空間構造繊維の使用、例えば、中空多層構造繊維及びコア・シェル構造繊維の使用を提供する。
【0077】
本発明の一実施形態によれば、前記中空多層構造繊維は組織工学に用いられる。
【0078】
さらに好ましい実施形態において、細胞培養、例えば繊維チャンバ内又は各層表面での細胞培養に用いられる。
【0079】
さらに好ましい実施形態において、繊維チャンバ内で培養し、しかも、マルチチャンバ構造である場合、複数種の細胞を同時に培養する。
【0080】
本発明の一実施形態によれば、前記コア・シェル構造繊維はウルトラキャパシタの作製に用いられる。
【0081】
本発明の一実施形態によれば、前記ウルトラキャパシタは、
水とリン酸とを均一に混合し、溶液Aを得る工程1と、
PVAを水に溶解し、溶液Bを得る工程2と、
溶液Bと溶液Aとを混合し、攪拌して溶液Cを得る工程3と、
溶液Cを本発明の第2態様に記載のコア・シェル構造繊維上に塗布し、前記ウルトラキャパシタを得る工程4と、を含む製造方法により製造される。
【0082】
本発明は、下記の有益な効果を含む。
(1)本発明に記載の製造方法は、簡単であり、常温、常圧で繊維の製造を完成することができ、かつ、製造過程が常温、常圧で行われ、プロセスパラメータが制御しやすく、生産効率が高い。
(2)本発明に記載の製造方法を利用して単層構造又は多層構造の繊維を製造することができ、しかも、より重要なのは、繊維の孔径勾配、層数、成分及びチャンバ数は、必要に応じて任意に調節及び制御可能である。
(3)本発明に記載の製造方法を用いて得られた中空多層構造繊維は、良好な引張強度、極めて高い比表面積を有し、触媒、吸着、濾過及び組織工学等の分野に広く利用可能である。
(4)本発明が製造するコア・シェル構造繊維は、内部が不活性導電材料をコアとし、外層が天然多価電解質錯体をシェルとし、低分子量の天然多価電解質の濃度を増加させることでシェル繊維の厚みを高めることができる。
(5)本発明が製造するコア・シェル構造繊維は、可撓性キャパシタとして利用可能であり、その外層を覆う多糖類多価電解質錯化層は、両電極が互いに接触するのを防止し、材料の安全性を大幅に高めた。
(6)本発明が製造するコア・シェル構造繊維において、外層の多糖類多価電解質錯体に豊富な孔があり、電解質イオントランスポートの通路を提供しており、同時に、外層原料が純天然で、分解可能な多糖類多価電解質であり、いずれも毒性がないので、ウェアラブル設備に対して良好な材料となる。
【実施例
【0083】
以下、具体的な実施例により本発明をさらに説明する。しかし、これらの実施例は、単に例示的なものであり、本発明の保護範囲を制限するものではない。
【実施例1】
【0084】
質量比20:1で、分子量が2000Daのキトサンオリゴ糖、分子量が30万Daのアルギン酸ナトリウムをそれぞれ秤量して、用意した。
秤量したキトサンオリゴ糖を脱イオン水に添加して溶解し、質量パーセント濃度が20%の紡糸原液を得た。
秤量したアルギン酸ナトリウムを1.17%の塩化ナトリウム(0.2MのNaCl)溶液に添加し、質量パーセント濃度が1%の凝固浴を調製した。
紡糸原液を1つの注射器により凝固浴内に注入し、拡散反応を行い、その後、巻付、洗浄、乾燥を行い、前記多糖類多価電解質中空繊維を得た。
【0085】
得られた繊維に対して、電子顕微鏡検出及び強度測定を行い、その結果を図1~4に示す。
(1)図1は、中空多層繊維全体の横断面を示し、具体的に、得られた繊維は中空多層構造であり、繊維直径が約900μmであり、層数が約9であることがわかる。
(2)図2は、主に中空コアの第1層に近接する外面を示し、具体的に、得られたキトサンオリゴ糖/アルギン酸ナトリウム繊維は中空コアの第1層の外面の孔の大きさが約100nmであることがわかる。
(3)図3は、主に最外層に近接する外面を示し、具体的に、得られた繊維は最外層に近接する外面の孔の大小が約50μmである。
(4)得られた中空多層繊維に対して引張強度測定を行い、その結果を図4に示し、図からわかるように、繊維の引張強度が203MPaであり、延び率が7.7%に達した。
【実施例2】
【0086】
実施例1の過程を繰り返し、その相違点は、注射器の数を2に変更し、紡糸原液の濃度を10%に変更したことにあり、2本の繊維を噴出した後、凝固浴内で両者を繋げ、繊維を得た。
得られた繊維に対して電子顕微鏡検出を行い、図5に示すように、キトサンオリゴ糖/アルギン酸ナトリウム繊維が中空多層マルチチャンバ構造であり、チャンバ数が2であることが分かった。
【実施例3】
【0087】
実施例2の過程を繰り返し、その相違点は、注射器の数を3に変更したことにある。
得られた繊維に対して電子顕微鏡検出を行い、図6に示すように、キトサンオリゴ糖/アルギン酸ナトリウム繊維が中空多層マルチチャンバ構造であり、チャンバ数が3であることが分かった。
【実施例4】
【0088】
実施例3の過程を繰り返し、その相違点は、注射器の数を4に変更したことにある。
得られた中空多層マルチチャンバ繊維に対して電子顕微鏡検出を行い、図7に示すように、キトサンオリゴ糖/アルギン酸ナトリウム繊維が中空多層マルチチャンバ構造であり、チャンバ数が4であることが分かった。
【実施例5】
【0089】
質量比10:1で、分子量が2000Daのカラギーナンオリゴ糖、分子量が75万Daのキトサンをそれぞれ秤量して、用意した。
秤量したカラギーナンオリゴ糖を脱イオン水に添加して溶解し、pHを4.8に調整し、質量パーセント濃度が10%の紡糸原液を得た。
秤量したキトサンを脱イオン水及び酢酸(50:1)に添加して、質量パーセント濃度が1%の凝固浴を調製した。
紡糸原液Aを注射器により凝固浴B内に注入し、拡散反応を行い、その後、巻付、洗浄、乾燥を行い、前記多糖類多価電解質中空多層繊維を得た。
得られた繊維に対して電子顕微鏡検出を行い、得られたカラギーナンオリゴ糖/キトサン繊維が中空多層構造であり、直径が約400μmであり、層数が4層であることが分かった。
【実施例6】
【0090】
質量比40:1で、分子量が3000Daのキトサンオリゴ糖、分子量が20万Daのカラギーナンをそれぞれ秤量して、用意した。
秤量したキトサンオリゴ糖を脱イオン水に添加して溶解し、質量パーセント濃度が20%の紡糸原液を得た。
秤量したカラギーナンに脱イオン水及び酢酸(50:1)を添加して、質量パーセント濃度が1%の凝固浴を調製した。
紡糸原液Aを注射器により凝固浴B内に注入し、拡散反応を行い、その後、巻付、洗浄、乾燥を行い、前記中空繊維を得た。
得られた繊維に対して電子顕微鏡検出を行い、得られた繊維が中空多層構造であり、繊維直径が約1mmであり、層数が約8層であることが分かった。
【実施例7】
【0091】
質量比1:3で、分子量がそれぞれ30万Daのアルギン酸ナトリウム及び分子量が20万Daのカラギーナン、ならびに分子量が3000Daのキトサンオリゴ糖をそれぞれ秤量して、用意した。
秤量したキトサンオリゴ糖を脱イオン水に添加して溶解し、質量パーセント濃度が20%の紡糸原液を得た。
秤量したアルギン酸ナトリウム及びカラギーナンに脱イオン水を添加し、質量パーセント濃度が1%の凝固浴を調製した。
紡糸原液Aを注射器により凝固浴B内に注入し、拡散反応を行い、その後、巻付、洗浄、乾燥を行い、前記多糖類多価電解質中空繊維を得た。
得られた繊維に対して電子顕微鏡検出を行い、キトサンオリゴ糖/(アルギン酸ナトリウム/カラギーナン)繊維が中空多層構造であり、直径が約1mmであり、層数が10層であることが分かった。
【実施例8】
【0092】
実施例1の過程を繰り返し、その相違点は、(1)2000Daのキトサンオリゴ糖の代わりに6000Daのキトサンオリゴ糖を用い、5%の紡糸原液を調製し、(2)30万Daのアルギン酸ナトリウムの代わりに70万Daのアルギン酸ナトリウムを用い、2%の凝固浴を調製したことにある。
【実施例9】
【0093】
質量比5:5:1で、分子量が2000Daのキトサンオリゴ糖、長さが50μmのカーボンナノチューブ、分子量が30万Daのアルギン酸ナトリウムをそれぞれ秤量して、用意した。
秤量したキトサンオリゴ糖を脱イオン水に添加して溶解し、質量パーセント濃度が5%の第1溶液を得た。
多壁カーボンナノチューブを添加し、攪拌、超音波分散を経てキトサンオリゴ糖/カーボンナノチューブの紡糸液を得た。
秤量したアルギン酸ナトリウムを脱イオン水に添加して溶解し、質量パーセント濃度が1%の凝固浴を調製した。
紡糸液を含有する注射器をアルギン酸ナトリウム凝固浴溶液に押し出す。
注射器の押出速度を500mL/min、凝固浴の回転速度を120rpm/minに調整し、得られた繊維に対して電子顕微鏡検出を行い、その結果を図10~12に示す。得られた(キトサンオリゴ糖/カーボンナノチューブ)/アルギン酸ナトリウム繊維がコア・シェル構造であり、コアがカーボンナノチューブであり、外層が多糖類多価電解質錯化層であることが分かった。
【実施例10】
【0094】
実施例1の過程を繰り返し、その相違点は、質量比12:24:1で、分子量が2000Daのキトサンオリゴ糖、長さが50μmのカーボンナノチューブ、分子量が30万Daのアルギン酸ナトリウムをそれぞれ秤量して、用意した。
得られた繊維に対して電子顕微鏡検出を行った結果、得られた(キトサンオリゴ糖/カーボンナノチューブ)/アルギン酸ナトリウム繊維がコア・シェル構造であり、繊維外層カプセル壁の厚みが4μmであることが分かった。
【実施例11】
【0095】
質量比5:10:1で、分子量が2000Daのアルギン酸ナトリウムオリゴ糖、長さが50μmのカーボンナノチューブ、分子量が75万Daのキトサンをそれぞれ秤量して、用意した。
秤量したアルギン酸ナトリウムオリゴ糖を脱イオン水に添加して溶解し、質量パーセント濃度が5%の第1溶液を得た。
多壁カーボンナノチューブを添加し、攪拌、超音波分散を経て、アルギン酸ナトリウムオリゴ糖/カーボンナノチューブの紡糸液を得た。
秤量したキトサンを脱イオン水及び酢酸(50:1)に添加して、質量パーセント濃度が1%の凝固浴を調製した。
紡糸液を含有する注射器をキトサン凝固浴溶液に押し出して反応を行い、同時に、注射器の押出速度を500mL/min、凝固浴の回転速度を120rpm/minに調整した。
得られた繊維に対して電子顕微鏡検出を行い、得られた(アルギン酸ナトリウムオリゴ糖/カーボンナノチューブ)/キトサン繊維がコア・シェル構造であり、コアがカーボンナノチューブであり、外層が多糖類多価電解質錯化層であることが分かった。
【実施例12】
【0096】
質量比18:18:1で、分子量が2000Daのカラギーナンオリゴ糖、長さが50μmのカーボンナノチューブ、分子量が75万Daのキトサンをそれぞれ秤量して、用意した。
秤量したアルギン酸ナトリウムオリゴ糖を脱イオン水に添加して溶解し、質量パーセント濃度が18%の第1溶液を得た。
多壁カーボンナノチューブを添加し、攪拌、超音波分散を経て、カラギーナンオリゴ糖/カーボンナノチューブの紡糸液を得た。
秤量したキトサンを脱イオン水及び酢酸(50:1)に添加し、質量パーセント濃度が1%の凝固浴を調製した。
この紡糸液を含有する注射器をキトサン溶液凝固浴に押し出した。
注射器の押出速度を500mL/min、凝固浴の回転速度を120rpm/minに調整し、得られた繊維に対して電子顕微鏡検出を行い、得られた(カラギーナンオリゴ糖/カーボンナノチューブ)/キトサン繊維がコア・シェル構造であり、コアがカーボンナノチューブであり、外層が多糖類多価電解質錯化層であることが分かった。
【実施例13】
【0097】
実施例9の過程を繰り返し、その相違点は、カーボンナノチューブの代わりにグラフェンを用いて、電子顕微鏡検出を行い、繊維がコア・シェル構造であり、コアがグラフェンであり、外層が多糖類多価電解質錯化層であることが分かった。
比較例
比較例1
【0098】
実施例1の過程を繰り返し、その相違点は、凝固浴においてアルギン酸ナトリウムの質量パーセント濃度が非常に低く、0.1%のみであることにある。
その結果、アルギン酸ナトリウム(高分子量多価電解質)の濃度が非常に低い場合、沈殿を形成することがわかった。アルギン酸ナトリウムの鎖間交絡及びアルギン酸ナトリウムとキトサンオリゴ糖との交絡が不十分であるため、アルギン酸ナトリウム及びキトサンオリゴ糖の結合部位が不十分であり、沈殿のみを形成し、成膜には不十分である。
比較例2
【0099】
実施例1の過程を繰り返し、その相違点は、凝固浴においてアルギン酸ナトリウムの質量パーセント濃度が実施例1よりも低いが、比較例1よりも高く、0.4%であることにある。
その結果、比較例1と比べて、十分な交絡及び架け橋により、繊維を形成することができる。しかしながら、実施例1と比べて、得られた繊維が非常に脆かった。
比較例3
【0100】
実施例9の過程を繰り返し、その相違点は、紡糸液においてアルギン酸ナトリウムの質量パーセント濃度が非常に低く、0.1%のみであることにある。
その結果、アルギン酸ナトリウム(高分子量多価電解質)の濃度が非常に低い場合、沈殿を形成することがわかった。アルギン酸ナトリウムの鎖間交絡及びアルギン酸ナトリウムとキトサンオリゴ糖との間の交絡が不十分であるため、アルギン酸ナトリウム及びキトサンオリゴ糖の結合部位が不十分であり、沈殿のみを形成し、成膜には不十分である。
実験例
実験例1 赤外線検出
【0101】
実施例1で得られた中空多層繊維に対して赤外線検出を行い、その結果を図8に示し、図からわかるように、純キトサンオリゴ糖及びアルギン酸ナトリウムと比べて、前記繊維は、アミドIIスペクトルバンド1540cm-1で(図中の円の箇所)で新しいピークを示し、この結果より、キトサンオリゴ糖のアミン基とアルギン酸塩のカルボキシ基との間の静電気錯化反応に成功したことを明らかにした。
実験例2 細胞培養
【0102】
実施例2で得られたマルチチャンバ中空多層繊維をテンプレートとして細胞培養を行い、その結果、図9に示すように、時間の延長につれて、細胞が増殖したことが分かった。
実験例3 線形ウルトラキャパシタの組み立て
【0103】
水10mLとリン酸10mLとを均一に混合し、溶液Aを得た。PVAを90℃の水90mLに溶解し、溶液Bを得た。溶液Bと溶液Aとを混合し、均一に攪拌し、溶液Cを得た。溶液Cを実施例9のコア・シェル構造繊維上にのみ塗布し、図13に示すように、ウルトラキャパシタを得た。
以上、好ましい実施形態及び例示的な例を組み合わせて本発明を詳しく説明した。しかし、これらの具体的な実施形態は本発明に対する説明的解釈であり、本発明の保護範囲を制限するものではない。本発明の趣旨及び保護範囲内で、本発明の技術内容及びその実施形態に対して、各種の改進、等価置換又は修飾を行うことができ、これらはいずれも本発明の保護範囲内に入っている。本発明の保護範囲は、添付する請求項に準じる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【国際調査報告】