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特表2022-516212二次元磁気モーメントと高動作周波数帯を有する軟磁性複合材とその調製方法
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  • 特表-二次元磁気モーメントと高動作周波数帯を有する軟磁性複合材とその調製方法 図1
  • 特表-二次元磁気モーメントと高動作周波数帯を有する軟磁性複合材とその調製方法 図2
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  • 特表-二次元磁気モーメントと高動作周波数帯を有する軟磁性複合材とその調製方法 図8
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-25
(54)【発明の名称】二次元磁気モーメントと高動作周波数帯を有する軟磁性複合材とその調製方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/26 20060101AFI20220217BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20220217BHJP
   H01F 1/059 20060101ALI20220217BHJP
   H01F 1/057 20060101ALI20220217BHJP
   H01F 1/055 20060101ALI20220217BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20220217BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20220217BHJP
【FI】
H01F1/26
H01F1/147 191
H01F1/059 160
H01F1/057 110
H01F1/055 110
H01F27/255
H01F41/02 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2020571819
(86)(22)【出願日】2019-09-29
(85)【翻訳文提出日】2020-12-18
(86)【国際出願番号】 CN2019108896
(87)【国際公開番号】W WO2020140506
(87)【国際公開日】2020-07-09
(31)【優先権主張番号】201910000894.7
(32)【優先日】2019-01-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520500783
【氏名又は名称】▲広▼州新莱福新材料股▲フン▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】GUANGZHOU NEWLIFE NEW MATERIAL CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】No. 4 Canghai 4th Road, Yonghe Economic Zone, Economic And Technological Development Zone Guangzhou, Guangdong 511356, CHINA
(71)【出願人】
【識別番号】520500794
【氏名又は名称】▲蘭▼州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】汪 小明
(72)【発明者】
【氏名】▲楊▼ 正
(72)【発明者】
【氏名】李 ▲発▼伸
(72)【発明者】
【氏名】郭 春生
(72)【発明者】
【氏名】▲喬▼ 亮
(72)【発明者】
【氏名】王 涛
【テーマコード(参考)】
5E040
5E041
【Fターム(参考)】
5E040AA03
5E040AA06
5E040BB03
5E041AA01
5E041AA05
5E041AA07
5E041BB03
5E041BD12
5E041NN06
(57)【要約】
本開示は、二次元磁気モーメントと高動作周波数帯を有する軟磁性複合材と、その調製方法に関する。実施形態によると、二次元磁気モーメントを有する軟磁性複合材は、絶縁マトリクスと、絶縁マトリクス中に分散した二次元磁気モーメント微粉末とを備え得て、二次元磁気モーメント微粉末内において、磁気モーメントは特定の二次元平面内に分布している。本開示の二次元磁気モーメントを有する軟磁性複合材は、既存の物質よりも高いカットオフ周波数を有するので、高周波数マイクロ波応用の分野において広範に適用可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次元磁気モーメントを有する軟磁性複合材であって、
絶縁マトリクスと、
前記絶縁マトリクス中に分散した二次元磁気モーメント微粉末と、を備え、
前記二次元磁気モーメント微粉末内において磁気モーメントが特定の二次元平面内に分布している、二次元磁気モーメントを有する軟磁性複合材。
【請求項2】
前記二次元磁気モーメント微粉末が、人工二次元磁気モーメント微粉末と固有二次元磁気モーメント微粉末とのうちの少なくとも一方を含む、請求項1に記載の二次元磁気モーメントを有する軟磁性複合材。
【請求項3】
前記人工二次元磁気モーメント微粉末が立方晶構造を有し、
前記固有二次元磁気モーメント微粉末が非立方晶構造を有し、前記固有二次元磁気モーメント微粉末の磁化容易軸がC軸に垂直である、請求項2に記載の二次元磁気モーメントを有する軟磁性複合材。
【請求項4】
前記人工二次元磁気モーメント微粉末が、20μm以下好ましくは15μm以下のサイズと、500nm以下好ましくは100nm以下の厚さと、40から200の範囲内好ましくは50から150の範囲内の直径対厚さ比と、を有し、
前記固有二次元磁気モーメント微粉末が、10μm以下好ましくは5μm以下のサイズを有する、請求項3に記載の二次元磁気モーメントを有する軟磁性複合材。
【請求項5】
前記人工二次元磁気モーメント微粉末が、Feと、カルボニル鉄と、Co及びNiの少なくとも一方とFeとからなる合金と、FeSiAlと、FeNiMoとから成る群からの一種以上を含み、
前記固有二次元磁気モーメント微粉末が、R(Fe,Ni,Si,Al)17(RはY、Ce、Nd、又はPr)と、Sm(Fe,Ni,Co)14Bと、R(Co,Fe,Ni)17(RはY又はNd)とのうちの一種以上を含む、請求項2に記載の二次元磁気モーメントを有する軟磁性複合材。
【請求項6】
前記絶縁マトリクスが、熱可塑性樹脂と、熱硬化性樹脂と、合成ゴムとのうちの少なくとも一種を含む、請求項1に記載の二次元磁気モーメントを有する軟磁性複合材。
【請求項7】
前記二次元磁気モーメント微粉末の磁気モーメントが前記二次元平面内に分布するように前記二次元磁気モーメント微粉末が前記絶縁マトリクス中に配向されている、請求項1に記載の二次元磁気モーメントを有する軟磁性複合材。
【請求項8】
回路と、
前記回路の直ぐ隣に位置する絶縁磁気部品と、を備え、
前記絶縁磁気部品が請求項1から7のいずれか一項に記載の二次元磁気モーメントを有する軟磁性複合材製である、電子デバイス。
【請求項9】
前記電子デバイスが、インダクタと、アンテナと、マイクロ波アイソレータと、マイクロ波サーキュレータと、位相シフタと、フィルタと、変圧器とのうちの一つである、請求項8に記載の電子デバイス。
【請求項10】
二次元磁気モーメントを有する軟磁性複合材を調製する方法であって、
磁気モーメントが特定の二次元平面内に分布している二次元磁気モーメント微粉末を調製することと、
前記二次元磁気モーメント微粉末を絶縁マトリクス中に均一に分散させることと、
前記絶縁マトリクスを硬化させることと、を備える方法。
【請求項11】
前記絶縁マトリクスを硬化させる前に、外部磁場を用いて、前記外部磁場によって決められる二次元平面内に前記絶縁マトリクス中の二次元磁気モーメント微粉末の磁気モーメントを配向させることを更に備える請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して磁性体の分野に係り、特に、高い動作周波数を有し、高周波数帯及びマイクロ波周波数帯において優れた磁気的特性を実現する二次元磁気モーメントを有する軟磁性複合材(又は、二次元磁気モーメント微粉末から成る軟磁性複合材、又は、二次元磁気モーメント軟磁性複合材(2DMM‐SMC,two‐dimensional magnetic moment soft magnetic composite))に関する。
【背景技術】
【0002】
多様な周波数において動作する軟磁性体の基本的機能は電磁エネルギーや電磁信号を変換することであり、その変換効率は、物質の磁化と動作周波数との積に比例する。珪素鋼板と軟磁性フェライトの二種類が従来の軟磁性コア(磁心)材である。珪素鋼板は高い飽和磁化を有するが、周波数の増加と共に渦電流損失が急激に増加するので、珪素鋼板は低周波数、一般的には1kHz未満のみにおいて動作可能である。フェライトコアは優れた高周波数磁気特性、最大略10MHzの動作周波数、大きな抵抗率、及び低い渦電流損失を有するが、低い磁束密度が低い変換効率をもたらすという欠点を有する。これら二種類の従来の軟磁性体は、AC(交流)機器の小型化の困難に直面している。
【0003】
重要なのは、軟磁性体の磁化と動作周波数を改善することによって、軟磁性デバイスの電力変換効率を最適化し、更に磁気デバイスの小型軽量化を実現することである。従来の珪素鋼板と軟磁性フェライトに存在する問題点に鑑み、軟磁性複合材(SMC)が提案されているが、これは、有機又は無機絶縁体のマトリクス中に分散させた軟磁性体微粉末(一般的に、Fe、FeSiAl、FeNi等)を含む。軟磁性複合材は珪素鋼板よりも高い動作周波数(例えば、最大略100kHzとなり得る)を有し、また、軟磁性複合材は、軟磁性フェライトよりも高い飽和磁化を有するので、今日では多種多様な分野において広く用いられている。
【0004】
理論的研究により、今日大量生産され広く用いられている軟磁性複合材からなる全ての軟磁性微粉末が、以下の式1によって表されるスニーク(Snoek)の限界に従うことが示されている。
【0005】
(μ-1)f=(2/3)γ’M (式1)
【0006】
ここで、μは初期透磁率であり、fは固有共振周波数(カットオフ周波数としても知られている)であり、γ’は磁気回転比であり、Mは飽和磁化である。スニークの限界のため、現状の軟磁性複合材の動作周波数は100kHzから200kHz未満にしかならず、これが、高周波数帯及びマイクロ波帯の分野における軟磁性複合体の応用の妨げとなっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示の一態様は、二次元磁気モーメントを有する軟磁性複合材とその調製方法を提供することである。二次元磁気モーメントを有する軟磁性複合材はスニークの限界を突破することができるので、高周波数帯に応用可能であり、デバイスの小型化、軽量化、及び効率的な電力変換の実現に貢献することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態によると、本開示が提供する二次元磁気モーメントを有する軟磁性複合材は、絶縁マトリクスと、絶縁マトリクス中に分散した二次元磁気モーメント微粉末(つまり、二次元磁気モーメント構成を有する微粉末)と、を備え、二次元磁気モーメント微粉末内において、磁気モーメントが特定の二次元平面内に分布している。
【0009】
一部例では、二次元磁気モーメント微粉末は、人工二次元磁気モーメント微粉末と固有二次元磁気モーメント微粉末とのうちの少なくとも一方を備える。
【0010】
一部例では、人工二次元磁気モーメント微粉末は立方晶構造を有し、固有二次元磁気モーメント微粉末は非立方晶構造を有し、その磁化容易軸はC軸に垂直である。
【0011】
一部例では、人工二次元磁気モーメント微粉末は、20μm以下好ましくは15μm以下のサイズと、500nm以下好ましくは100nm以下の厚さと、40から200の範囲内好ましくは50から150の範囲内の直径対厚さ比と、を有する。
【0012】
一部例では、固有二次元磁気モーメント微粉末は、10μm以下好ましくは5μm以下のサイズを有する。
【0013】
一部例では、人工二次元磁気モーメント微粉末は、Feと、カルボニル鉄と、Co及びNiの少なくとも一方とFe製の合金と、FeSiAlと、FeNiMoとのうちの少なくとも一種を備える。
【0014】
一部例では、固有二次元磁気モーメント微粉末は、R(Fe,Ni,Si,Al)17(ここでRはY、Ce、Nd、又はPr)と、Sm(Fe,Ni,Co)14Bと、R(Co,Fe,Ni)17(ここでRはY又はNd)とのうちの一種以上を含む。
【0015】
一部例では、絶縁マトリクスは、熱可塑性樹脂と、熱硬化性樹脂と、合成ゴムとのうちの少なくとも一種を含む。
【0016】
一部例では、二次元磁気モーメント微粉末が二次元平面内に分布するようにして二次元磁気モーメント微粉末が絶縁マトリクス中に配向される。
【0017】
一実施形態によると、本開示が提供する電子デバイスは、回路と、回路の直ぐ隣に位置する絶縁磁気部品と、を備え、絶縁磁気部品は、上記二次元磁気モーメントを有する軟磁性複合材製である。
【0018】
一部例では、電子デバイスは、インダクタと、アンテナと、マイクロ波アイソレータと、マイクロ波サーキュレータと、位相シフタと、フィルタと、変圧器とのうちの一つである。
【0019】
一実施形態によると、本開示が提供する二次元磁気モーメントを有する軟磁性複合材を調製する方法は、二次元磁気モーメント微粉末(その内部において磁気モーメントが特定の二次元平面内に分布している)を調製することと、調製した二次元磁気モーメント微粉末を絶縁マトリクス中に均一に分散させることと、絶縁マトリクスを硬化させることと、を備える。
【0020】
一部例では、本方法は、絶縁マトリクスを硬化させる前に、外部磁場を用いて、外部磁場が発生させる二次元平面内に絶縁マトリクス中の二次元磁気モーメント微粉末の磁気モーメントを配向させることを更に備える。
【0021】
本開示の二次元磁気モーメントを有する軟磁性複合材は、従来の軟磁性複合材のスニークの限界を突破することができ、高周波数帯及びマイクロ波周波数帯においても良好な磁気的特性を有し、大量生産に適しており、広範な応用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本開示の実施形態に係る固有二次元磁気モーメント微粉末の結晶格子の磁気モーメント構成(左側)と人工二次元磁気モーメント微粉末の磁気モーメント構成(右側)を示す。
図2】本開示の実施形態に係る二次元磁気モーメント複合材の微粉末の磁気モーメントの空間分布の概略図を外部磁場の下での配向前(左側)と外部磁場の下での配向後(右側)について示す。
図3】直径対厚さ比に対する減磁率の依存性を示す。
図4】本開示の実施形態に係る二次元磁気モーメントを有する軟磁性複合材の調製方法のフローチャートを示す。
図5】本開示の実施形態に従って調製された二次元磁気モーメントを有する軟磁性複合材のFe57メスバウアースペクトルグラムを示す。
図6図5の二次元磁気モーメントを有する軟磁性複合材の磁気ヒステリシスループの測定結果を示す。
図7図7A図7Bは、異なる周波数帯における図5の二次元磁気モーメントを有する軟磁性複合材の磁気スペクトルを示す。
図8】本開示の実施形態に係る二次元磁気モーメントを有する軟磁性複合材のXRDスペクトログラムを外部磁場の下での配向前と外部磁場の下での配向後について示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本開示の例示的な実施形態について図面を参照して説明する。
【0024】
図1は、本開示の実施形態に係る固有二次元磁気モーメント微粉末の結晶格子の磁気モーメント構成(左側)と、人工二次元磁気モーメント微粉末の磁気モーメント分布(右側)とを示し、図2は、本開示の実施形態に係る二次元磁気複合材の二次元磁気モーメント微粉末の概略的構成を外部磁場の下での配向前(左側)と外部磁場の下での配向後(右側)について示す。図1及び図2に示されるように、二次元磁気モーメントを有する軟磁性複合材100は、絶縁マトリクス(母材)110と、絶縁マトリクス110中に分散した二次元磁気モーメント微粉末120とを含み得る。
【0025】
絶縁マトリクス110は、従来の軟磁性複合材において使用されている絶縁マトリクスであり得て、一般的には、有機絶縁体、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、合成ゴム等の有機ポリマー接着剤であり、ポリウレタンやポリイミド等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0026】
二次元磁気モーメント微粉末120は絶縁マトリクス110中に分散して固定されるので、二次元磁気モーメントを有する軟磁性複合材100は電気絶縁体である。本開示の二次元磁気モーメントを有する軟磁性複合材100においては、二次元磁気モーメント微粉末120の磁気モーメントが、その内部の特定の「作用力」によって磁気粉末の特定の二次元平面内に制限されている。二次元磁気モーメントを有する軟磁性複合材自体は、多様な物理的形状、例えば、薄膜形状や、立方体や直方体といった三次元バルク形状等になり得ることを理解されたい。二次元磁気モーメントを有する軟磁性複合材がどのような形状であっても、二次元磁気モーメント微粉末120の磁気モーメントは全て磁気粉末内の特定の二次元平面内にある。
【0027】
本開示の一部実施形態においては、二次元磁気モーメント微粉末120は、図1の右側と左側にそれぞれ示される人工二次元磁気モーメント微粉末と固有二次元磁気モーメント微粉末との二種類の微粉末のうちの少なくとも一方を含み得る。その名の通り、固有二次元磁気モーメント微粉末は二次元磁気モーメント構成を固有に有する物質であり、一方、人工二次元磁気モーメント微粉末は、以下で詳述する手作業によって二次元磁気モーメント構成を備える物質である。
【0028】
固有二次元磁気モーメント微粉末は、非立方晶の結晶構造を有する軟磁性体の微粉末を含み得て、軟磁性体の磁化容易軸(「容易軸」と略称)は全て結晶構造のC軸に垂直である。非立方晶の結晶構造を有する磁性体、例えば、非立方晶構造の特定の希土類三次元遷移金属間化合物や、一部の非立方晶構造の強磁性合金は、強力な磁気結晶異方性を有し、その磁気結晶異方性定数Kは絶対値が大きな負の値を有する。K<0であるこの種の物質については、その全ての容易軸がC軸に垂直であり、磁気モーメントが、六角形の面やC面等の特定の結晶面に沿って配向されるので、二次元磁気モーメント構成を形成する。このような物質の放射状(又は面内)異方性磁場Hxyと垂直(又は面外)異方性磁場Hの両方は、その物質自体の磁気結晶異方性に起因しているので、固有二次元磁気モーメント微粉末と称される。
【0029】
固有二次元磁気モーメント微粉末のいくつかの非限定的な例として、R(Fe,Ni,Si,Al)17(ここで、RはY、Ce、Nd又はPr)、Sm(Fe,Ni,Co)14B、R(Co,Ni,Fe)17(ここで、RはY又はNd)等が挙げられる。固有二次元磁気モーメント微粉末の形状には特に制限がなく、例えば、略球形の粒子やフレーク状等となり得て、どのような形状であろうとも、その磁気モーメントは、六角形の面やC面等の特定の結晶面に沿って分布して、二次元磁気モーメント構成を形成している。一般的には、固有二次元磁気モーメント微粉末のサイズは10μm以下となり得て、好ましくは5μm以下となり得る。本願において微粉末のサイズに言及している場合、それは、特に断らない限り、微粉末の最長方向のサイズについて一般的に言及していることを理解されたい。
【0030】
人工二次元磁気モーメント微粉末は、いずれも立方晶構造を有する金属や合金の軟磁性体を含み得る。立方晶構造を有する軟磁性体については、磁気結晶異方性エネルギーが小さい。本開示の実施形態では、この種の物質を高い直径対厚さ比の磁気粉末に加工することによって、二次元磁気モーメント構成を得ることができる。図3は、直径対厚さ比に対する減磁率の依存性を示す。図3に示されるように、直径対厚さ比が増大すると共に、垂直(面外)減磁率Noutが連続的に増加して最終的には1に近づく一方で、面内減磁率Ninは連続的に減少して最終的には0に近づく。垂直減磁率Noutが1に近く、面内減磁率Nin(例えば、X方向減磁率NとY方向減磁率N)がゼロに近い場合、微粉末の磁気モーメントはそのXY平面内に分布して、二次元磁気モーメント構成を形成する。面外(又は垂直)異方性磁場Hは減磁場に起因するものであり、面内(又は放射状)異方性磁場Hxyは、その物質自体の磁気結晶異方性磁場に起因するものである。この種の粉末が人工二次元磁気モーメント微粉末と称されるのは、その粉末の二次元磁気モーメント構成を生成するのに特定の形状への人工的加工が必要だからである。
【0031】
人工二次元磁気モーメント微粉末のいくつかの非限定的な例として、Fe、カルボニル鉄、Co及びNiの少なくとも一方とFeとからなる合金、FeSiAl、FeNiMo等が挙げられる。人工二次元磁気モーメント微粉末の直径対厚さ比は、40から200の範囲内、好ましくは50から150の範囲内となり得る。上述のように、直径対厚さ比が大きくなるほど、二次元磁気モーメント構成の形成にとって有用になる。従って、好ましくは、直径体厚さ比が50を超えると、実質的に良好な二次元磁気モーメント構造を実現することができる。しかしながら、直径対厚さ比が大きな微粉末を生成することは、コストと複雑な調製プロセスに繋がり得る。従って、直径対厚さ比は、200以下、好ましくは150以下、より好ましくは100以下となり得る。また、人工二次元磁気モーメント微粉末のサイズは20μm以下、好ましくは15μm以下となり得て、人工二次元磁気モーメント微粉末の厚さは500nm以下、好ましくは300nm以下となり得る。
【0032】
上述のような二次元磁気モーメント軟磁性微粉末については、理論的分析から以下の式2を得ることができる。
【0033】
(μ-1)f=(2/3)γ’M√(H/Hxy) (式2)
【0034】
ここで、μは初期透磁率であり、fは固有共振周波数であり、γ’は磁気回転比であり、Mは飽和磁化であり、Hは面外異方性磁場であり、Hxyは面内異方性磁場である。上述のように、面外異方性磁場Hは面内異方性磁場Hxyよりもはるかに大きく、一般的には三桁程大きいので、外部磁場がゼロの場合には二次元磁気モーメント微粉末の磁気モーメントは特定の平面内に分布し、外部磁場がゼロではない場合には磁気モーメントは外部磁場の作用下において面内で(又は面に沿って)回転運動又は歳差運動を行う。微粉末のカットオフ周波数(又は固有共振周波数)を大幅に増大させるのは、このような二次元磁気モーメント面に沿った歳差運動であるので、微粉末は高周波数帯及びマイクロ波帯で動作することができる。一部実施形態では、透磁率を更に改善するため、図2に示されるように、外部から印加される回転磁場や多極磁場によって、全ての磁気粉末を配向させることができるので、回転磁場によって決められる二次元平面内に全ての磁気微粉末の二次元磁気モーメントが配向され、外部磁場配向面内における二次元磁気モーメント軟磁性複合材の透磁率が、未配向の複合材の透磁率と比較して大幅に改善され、理論的には1.5倍増大し得て、配向面内おいて等方的な磁性となる。
【0035】
以下、図4を参照して、本開示の実施形態に係る二次元磁気モーメントを有する軟磁性複合材100の調製方法を説明する。図4に示されるように、方法200は、二次元磁気モーメント微粉末120を調製するためのステップS210で開始し得る。
【0036】
固有二次元磁気モーメント微粉末については、微粉末の形状に対する要求(直径対厚さ比等)が無いので、微粉末の調製ステップは比較的単純である。例えば、初期粉末は、急速凝固法、精錬鋳塊粉砕法、還元拡散法等の従来の方法を用いて調製可能であり、又は直接購入可能であり、次いで、高エネルギーボールミルやサンドミルによって処理されて10μm以下、好ましくは5μm以下に精製される。
【0037】
人工二次元磁気モーメント微粉末については、5~20μm未満のサイズの鉄粉末、カルボニル鉄粉末、FeSiAl粉末、FeNi粉末等が、ガスアトマイゼーション、水アトマイゼーション等によって調製可能であり、又は直接購入可能であり、次いで、高エネルギーボールミルやサンドミルを用いて磁気粉末が処理され、また、粉砕プロセスを最適化することによって、得られる微粉末の大半の直径対厚さ比が40を超え、好ましくは50を超え、その厚さは500nm未満、好ましくは300nm未満となる。ボールミルプロセスを最適化することによる直径対厚さ比の調節は当業者には既知であるので、ここでは特に説明しない。
【0038】
次いで、ステップS220では、調製された二次元磁気モーメント微粉末120を、ポリマーバインダー等の絶縁マトリクス110中に均一に分散させ得るが、これは、例えば、混合ステップ及び攪拌ステップによって実現可能である。
【0039】
次に、ステップS230では、外部から印加される配向磁場を用いて、絶縁マトリクス110中の全ての二次元磁気モーメント微粉末を配向させ得る。例えば、回転磁場や多極磁場等によって、外部磁場が発生させたに二次元平面内に二次元磁気モーメント微粉末120を配向させることができる。ステップS230では、二次元磁気モーメント微粉末120が、適度な粘度を有する有機絶縁マトリクス110中でゆっくりと回転し得るので、配向ステップS230を通して、全ての微粉末120の磁化容易面が、外部磁場が発生させた二次元平面内に配向し得ることを理解されたい。
【0040】
最後に、ステップS240では、絶縁マトリクスを硬化させて、形状を定め得て、二次元磁気モーメント軟磁性微粉末120が絶縁マトリクス110中に固定される。絶縁マトリクス110の物質に応じて、対応する硬化手段、例えば、加熱、紫外線照射、加圧、自然硬化等が使用可能である。
【0041】
一部実施形態では、実際の要求に応じて、配向ステップ230無しでステップ240を直接行うことができ、所望の形状(塊(バルク)、柱、薄膜等)を有する二次元磁気モーメント軟磁性複合材が、カレンダー加工、成型(モールディング)、押し出し、射出、テープ成形等の多様なプロセスによって調製可能である。勿論、二次元磁気モーメント軟磁性複合材の透磁率を改善することができるので、ステップS230を行うことが好ましいことを理解されたい。
【0042】
上記説明からは、本開示の「二次元磁気モーメント」を二段階で理解することができる。第一に、粉末内部において、磁気モーメントは二次元平面内に分布し、物質の固有共振周波数を増大させることができるので、物質が高周波数帯やマイクロ波帯等のより高い周波数帯で動作することができる。第二に、軟磁性複合体内において、全ての微粉末の磁気モーメントを互いに平行な複数の二次元平面内に配向させて、透磁率が増大するようにすることができる。しかしながら、二点目は、本質的なものではなく副次的なものである。
【0043】
以下、本開示の二次元磁気モーメント微粉末から成る軟磁性複合材の例をいくつか説明する。
【0044】
例1
【0045】
ボールミル処理前の原料粉末は市販のカルボニル鉄粉末であり、その型番はMCIP‐4であり、サイズは4から5マイクロメートルである。カルボニル鉄粉末を高エネルギービールミルやサンドミルによって粉砕し、高直径対厚さ比を有する二次元磁気モーメント微粉末が得られる。微粉末を、磁気粉末の体積濃度を65%にしてポリウレタンと均一に混合し、回転磁場(2T)で配向させ、3MPaの一方向圧力で圧縮して、試料が得られる。
【0046】
図5は、試料のFe57メスバウアースペクトログラムを示し、そのデータは、本開示によって得られた複合材試料の磁気モーメントの平面配向度が95%を超えていることを示している。図6は、振動試料型磁力計(VSM)によって行われたX、Y、Zの三方向における試料の磁気ヒステリシスループ測定結果を示し、XY平面内において試料が磁化されて等方性になり易く、試料の磁気モーメントの平面配向度が95%を超えていることを示している。図7A及び図7Bは、図5に示される二次元磁気モーメント軟磁性複合材の磁気スペクトルを異なる周波数帯において示し、図7Aに示される周波数帯は1~110MHzであり、図7Bに示される周波数帯は0.1~18GHzである。以下の表1は、10~110MHzの周波数帯における複数の特定の周波数点での実部μ’、虚部μ”、Q値を示す。例1の二次元磁気モーメント軟磁性複合材が1~100MHzの高周波数範囲において良好に動作可能であり、対応する透磁率の実部が略25~27であり、対応するQ値が181~9であることが見て取れる。
【0047】
表1
【0048】
【表1】
【0049】
例2
【0050】
二次元磁気モーメント軟磁性複合材FeNiについては、ボールミル処理前の原料粉末は市販の鉄ニッケル粉末であり、そのサイズは15~20マイクロメートルである。最適化されたボールミル条件下で高エネルギーボールミル又はサンドミルを用いることによって、直径対厚さ比が30~50の二次元磁気モーメント微粉末が得られる。二次元磁気モーメント微粉末FeNiを、磁気粉末の体積濃度を30%にしてポリウレタンと混合し、回転磁場(2T)内で3MPaの一方向圧力で圧縮して、試料が得られる。
【0051】
この試料についてもFe57メスバウアー分光測定と振動試料型磁力計測定を行い、その測定結果(図示せず)は、XY平面内において試料が磁化されて等方性になり易く、試料の磁気モーメントの平面配向度が95%を超えることを示している。この試料に対しても磁気スペクトル測定を1~110MHzの周波数帯と0.1~18GHzの周波数帯において行い、以下の表2は、1~110MHzの周波数帯における特定の複数の周波数点での実部μ’、虚部μ”、Q値を示す。例2の二次元磁気モーメント軟磁性複合材が1~100MHzの高周波範囲において良好に動作可能であり、対応する透磁率の実部が略25であり、対応するQ値が283~4であることが見て取れる。
【0052】
表2
【0053】
【表2】
【0054】
例3
【0055】
二次元磁気モーメント軟磁性複合材NdFeNについては、還元拡散法によって調製した球形微粉末NdFe17を窒化させることによって、二次元磁気モーメント微粉末Nd173-δが得られる。ボールミル処理を最適化することによって、適切なサイズの二次元磁気モーメント微粉末が得られる。磁気粉末の重量濃度を65%にして微粉末をポリウレタンと均一に混合し、回転磁場又は多極磁場(2T)内で配向させ、圧縮(一方向圧力は3MPa)することによって、複合材の試料が得られる。
【0056】
例3の二次元磁気モーメント軟磁性複合材NdFeNについて外部磁場の下での配向前と外部磁場の下での配向後にXRD(X線回折)測定を行い、その測定結果を図8に示す。図8から見て取れるように、配向後の(006)ピークが明らかに強くなっていて、計算によると、二次元磁気モーメント軟磁性複合材Nd173-δの磁気モーメント平面配向度が95%を超えることが示されていて、これは、メスバウアー分光測定と振動試料型磁力計の測定結果とも一致している。また、この試料に対して磁気スペクトル測定も1~110MHzの周波数帯と0.1~18GHzの周波数帯において行い、以下の表3は、1MHzから10GHzの周波数範囲における複数の特定の周波数点での透磁率とQ値を示す。例3の二次元磁気モーメント軟磁性複合材の動作周波数が最大略10GHzとなり得て、対応する透磁率が略7.5~2であることが見て取れる。調製プロセスの最適化によって軟磁性複合材の高周波数透磁率を改善する余地はまだまだある。
【0057】
表3
【0058】
【表3】
【0059】
本開示の一部実施形態に係る二次元磁気モーメント軟磁性複合材とその調製方法を上述してきた。本開示の二次元磁気モーメント軟磁性複合材は多様なデバイス、特に、高周波数帯及びマイクロ波帯で動作するデバイスに適用可能である。従って、本開示の一部実施形態は、回路と、回路の直ぐ隣に位置する絶縁磁気部品とを備える電子デバイスも提供する。例えば、多様な電子回路に応じて、回路は、コイル、共振回路等であり得て、回路の直ぐ隣に位置する絶縁磁気部品は、本開示の実施形態に係る二次元磁気モーメント軟磁性複合材製となり得るコア(磁心)等であり得る。このような電子デバイスの例として、インダクタ、アンテナ、マイクロ波アイソレータ、マイクロ波サーキュレータ、位相シフタ、フィルタ、変圧器等が挙げられるがこれらに限定されない。こうしたデバイスの構造は既知であるのでは、本明細書では特に説明しない。本開示の他の実施形態では、こうした電子デバイスを含む電子機器も提供される。
【0060】
上記説明は例示と説明を目的として与えられている。更に、その説明は、本開示の実施形態を開示されている形態に限定するものではない。多様な例示的態様と実施形態を上述してきたが、当業者はその特定の変形、修正、変更、追加、部分的組み合わせを認識するものである。
【符号の説明】
【0061】
100 二次元磁気モーメントを有する軟磁性複合材
110 絶縁マトリクス
120 二次元磁気モーメント微粉末
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】