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特表2022-516229多血小板血漿を自己由来トロンビンと組み合わせることにより得ることが可能な創傷処置ゲル
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-25
(54)【発明の名称】多血小板血漿を自己由来トロンビンと組み合わせることにより得ることが可能な創傷処置ゲル
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/16 20150101AFI20220217BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20220217BHJP
   A61K 38/48 20060101ALI20220217BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20220217BHJP
【FI】
A61K35/16 A
A61K47/22
A61K38/48 100
A61P17/02
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021532910
(86)(22)【出願日】2019-12-06
(85)【翻訳文提出日】2021-08-10
(86)【国際出願番号】 GB2019053460
(87)【国際公開番号】W WO2020115503
(87)【国際公開日】2020-06-11
(31)【優先権主張番号】1819987.7
(32)【優先日】2018-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521248442
【氏名又は名称】バイオセラピー サービシーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハドフィールド,ジャネット
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4C076BB31
4C076CC19
4C076DD59
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA44
4C084CA36
4C084DC03
4C084NA14
4C084ZA89
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB35
4C087DA15
4C087DA23
4C087MA63
4C087NA05
4C087ZA89
(57)【要約】
本発明は、創傷処置組成物を作製する方法を提供し、この方法は、i)全血試料を、多血小板血漿(PRP)試料、乏血小板血漿(PPP)試料及び赤血球試料を含む複数の試料に分画することであって、このPRP試料が1~10%のヘマトクリットレベルを有するものであること、ii)PPP及び/又はPRP試料の一部を処理して、PPP及び/又はPRP中に存在する自己プロトロンビンの切断を促進にして、自己トロンビンを生成すること、並びにiii)PRP試料をPPP試料の一部及びステップ(ii)で生成されたトロンビンの一部と組み合わせて、創傷処置組成物を生成すること、を含み、ステップii)は、15℃未満で実行される。好ましい実施形態において、このPRPは、2又は8%のヘマトクリットレベルを有する。この方法により生成された創傷処置組成物もまた、慢性および急性創傷を処置する際の使用のための組成物として提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
創傷処置組成物を作製する方法であって、
i)全血試料を、多血小板血漿(PRP)試料、乏血小板血漿(PPP)試料及び赤血球試料を含む複数の試料に分画することであって、前記PRP試料が1~10%のヘマトクリットレベルを有するものであること;
ii)前記PPP及び/又はPRP試料の一部を処理して、前記PPP及び/又はPRP中に存在する自己プロトロンビンの切断を促進して、自己トロンビンを生成すること、並びに
iii)前記PRP試料を前記PPP試料の一部及びステップ(ii)で生成された前記トロンビンの一部と組み合わせて、前記創傷処置組成物を生成すること、
を含み、
ステップii)が、15℃未満の温度で実行される、方法。
【請求項2】
ステップiii)が、15℃未満の温度で実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記トロンビンの添加と同時に、前記トロンビンの添加前に、又は前記トロンビンの添加後にアスコルビン酸を前記創傷処置組成物に添加するステップをさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記PRP試料が、8%のヘマトクリットレベルを有する、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記PRP試料が、2%のヘマトクリットレベルを有する、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記創傷処置組成物が、600~2,400×10血小板/リットルの血小板レベルを含む、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の方法により得ることが可能な創傷処置組成物。
【請求項8】
創傷、任意に慢性又は急性創傷の処置における使用のための、請求項7に記載の創傷処置組成物。
【請求項9】
請求項4に記載の方法により得ることが可能な創傷処置組成物。
【請求項10】
急性創傷の処置における使用のための、請求項9に記載の創傷処置組成物。
【請求項11】
請求項5に記載の方法により得ることが可能な創傷処置組成物。
【請求項12】
慢性創傷の処置における使用のための、請求項11に記載の創傷処置組成物。
【請求項13】
請求項9に記載の創傷処置組成物で過去に処置された創傷を処置する際の使用のための、請求項11に記載の創傷処置組成物。
【請求項14】
創傷を処置する方法であって、前記創傷に請求項9に記載の創傷処置組成物を適用し、その後、続いて前記創傷に請求項11に記載の創傷処置組成物を1回又は複数回適用することを含む、方法。
【請求項15】
請求項11に記載の創傷処置組成物が、1週間に1回適用される、請求項14に記載の方
法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処置が多血小板血漿を含む、創傷処置組成物を生成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
創傷は通例、身体への物理的傷害により誘発され、感染性疾患又は根底にある病気によっても誘発され得る。創傷は一般に、慢性又は急性のどちらかに分類される。慢性創傷は、正常な創傷治癒期を経て進行せず、通例、糖尿病などの病気に関連する。急性創傷は一般に、突然罹り、正常な創傷治癒期を介して予測可能な速度及び予期された速度で治癒する。
【0003】
創傷を急速かつ効率的に処置する必要性は、医療行為において非常に重要である。例えば非治癒性の慢性創傷は、糖尿病患者における死亡率及び疾病率の著しい原因であり多くの場合、創傷が処置されることができなければ、四肢は切断されなければならないであろう。糖尿病の発生率が上昇しているため、慢性創傷の効果的処置を開発する必要性が上昇している。現在、英国では年間220万例の慢性創傷が毎年、51億~53億ポンド/年のコストで処置されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、多血小板血漿(PRP)を含有する創傷処置組成物を生成する方法に関する。この組成物は特別に、慢性又は急性創傷への局所適用に適する。
【0005】
この創傷処置組成物は、全血試料から生成され、血液の様々な成分の創傷治癒特性を活用して増強する。全血は、血漿中に浮遊された3種の主な細胞型、つまり赤血球、白血球及びトロンボサイト(血小板)を含む。赤血球は、ヘモグロビンを含有する赤色の血液細胞であり、体中に酸素を運搬する。白血球は、自然免疫反応及び適応免疫反応を通して感染と戦うことに関与する白色の血液細胞であり、通例、血小板として知られるトロンボサイトは、損傷部位の出血を停止する止血/凝固に寄与する。
【0006】
血小板は、血小板血栓を形成して出血の停止を支援することにより創傷治癒工程を援助する。損傷部位が検出された時、血小板がその部位に接着し始め、活性化されて、トロンビンなどのアゴニストにより顆粒状物質(granular material)を放出する。一旦、顆粒の活性化が起こると、これが、増殖因子の放出を刺激し、新しい組織の形成を刺激して、創傷治癒の炎症段階を始動する。
【0007】
PRPに基づく創傷処置は現在、当該技術分野で知られている。しかし本発明者らは、驚くべきことに、PRPが様々なヘマトクリットレベルで生成され得、慢性又は急性創傷の処置に特に適することを見出した。より具体的には、およそ8%のヘマトクリットレベルを有するPRPは、全血試料由来の白血球の実質的に全てを保持し、急性創傷を処置する際に特に効果的であることが示された。およそ2%のヘマトクリットレベルで生成されたPRPは、白血球を実質的に含まず、慢性創傷を処置する場合に特に効果的であることが示された。さらに本発明の方法は、PRPを高濃度の血小板で生成することもでき、ベースライン(即ち、患者の血液中で見出される血小板の濃度)の4~6倍の血小板レベルが創傷を処置する際の使用に最も適することが見出された。全血からのPRP画分の調製のために設計された商業的分離システムが、参照により本明細書に取り込むDegen et al (2016) The musculoskeletal Journal of Hospital for Special Surgery (HSSJ) vol 13: 75-80により比較された。
【0008】
本明細書に記載された発明は、PRPを自己由来トロンビンと組み合わせることにより創傷処置ゲルを生成する方法を提供する。この方法では、PRPとトロンビンの両者が、同一の全血試料に由来し、そのためゲルは、完全に自己の創傷ケア組成物である。他の同様の創傷ケア用ゲルが、生成されているが、これらは、牛トロンビンを使用しており、免疫反応などの合併症及び牛海綿状脳症などの感染症の伝染を生じる可能性がある。さらに牛トロンビンは、英国などの国々では使用が認可されていない。PRPを自己トロンビンと組み合わせることにより、血小板が活性化されるようになり、その結果、増殖因子、サイトカイン、及びケモカインを放出するだけでなく、血漿中のフィブリノゲンを活性化して、フィブリンマトリックス足場の形成を誘発する。増殖因子が、創傷治癒工程の刺激を支援し、フィブリン細胞外マトリックスの生成が、ゲル粘稠性をもたらす。
【0009】
本発明者らは、驚くべきことに、低温での自己トロンビンの生成が、生成される創傷処置ゲルの粘稠性を有意に改善することを見出した。生成されたゲルは、ほぼ固形の粘稠性を有し、少なくとも10分間形状を保持させることが可能であり、創傷適用の内部で、48時間より長く損なわれずに原位置に留まるであろう。これは、この自己足場への組織の取り込みのためのマトリックスを効果的に提供する。
【0010】
ゲル粘稠性のさらなる安定化を支援するために、アスコルビン酸(ビタミンC)が、この組成物に組み込まれ得る。アスコルビン酸はまた、フリーラジカルをスカベンジングすること、組織を保護すること、コラーゲン合成を可能にすることなどのさらなる利益を提供し、抗炎症性である。
【0011】
本発明の方法は、自己創傷処置組成物を提供し、この組成物は、高割合の白血球を含むこと、又は処置される創傷の型に応じて白血球を実質的に含まないこと、のどちらかが可能である。そのためこの方法を利用することは、白血球レベルを処置される創傷の型に適合させることができ、より迅速かつより効果的な創傷処置組成物をもたらす。この組成物は、糖尿病患者における慢性創傷の処置に用いられており、処置過程での患者15名のパイロットコホートでは、創傷体積の平均低減は、75%を超えていた。創傷閉鎖が実現されるのにかかった平均時間は、創傷処置組成物のおよそ5回の処置で17.9日間であった。この処置は明らかに、創傷のための驚くほど改善された処置を提供する。
【0012】
本明細書内の明白に事前公開の文書の列挙又は議論は、必ずしも、この文書が最先端の部分であること、又は共通する一般的知識であることの認識ととらえるべきでない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
驚くべきことに、1~10%の間のヘマトクリットレベルを有するPRP試料を生成することにより、用いられるヘマトクリットレベルに応じて急性又は慢性のどちらかの創傷において特に効果的となる創傷処置組成物が生成され得ることが見出された。詳細には、PRPが高割合の白血球を含む、およそ8%のヘマトクリットレベルを有するPRP試料が、急性創傷を処置する際に効果的であることが見出された。一方、PRPが白血球を実質的に含まない、およそ2%のヘマトクリットレベルを有するPRP試料は、慢性創傷を処置する際に効果的であることが見出された。さらに本発明者らは、異なるヘマトクリットレベルを有する創傷処置組成物が、創傷の処置の間、連続で用いられ得ることを見出した。例えば慢性創傷を処置する場合、創傷が清拭されて急性期を誘導することができ、この創傷が最初に8%ヘマトクリットレベルを有する組成物で処置される。続いての創傷の処置では、2%ヘマトクリットレベルを有する組成物が用いられる。これらの処置の組み合わせが、創傷閉鎖及び急速な創傷治癒を実現するのに特に効果的であることが示された。治験では、平均5回及び17.9日間にわたる処置により、75%の創傷体積の低減が実現された。本明細書での特定のパーセンテージのヘマトクリットを有する創傷処置組成物への言及が、自己トロンビン及びアスコルビン酸などの賦形剤の導入前に、適当なヘマトクリットパーセンテージに生成されたPRP調製物から生成された組成物の言及であること、そしてそれが本明細書に記載された方法を利用して調製された創傷処置組成物における最終的なヘマトクリットパーセンテージを必ずしも示さない場合があることが理解されなければならない。
【0014】
本発明の創傷処置組成物を形成するために、PRP試料が、自己トロンビンと組み合わせられる(したがってトロンビンは、PRPと同じ供給源に由来している)。これは、創傷への局所適用に特に適したゲル粘稠性を有する組成物を生成する。本発明者らは、驚くべきことに、自己トロンビンが生成される温度が最終創傷組成物の粘稠性に影響を及ぼし得ることを見出した。自己トロンビンは、プロトロンビンをトロンビンに切断することにより生成される。この工程が、15℃未満の温度で実施される場合、トロンビンとPRPの組み合わせから得られる、結果として生じたゲルは、有益な性質を有する。例えばこのゲルは、ほぼ固形の粘稠性を有し、鋳型から取り出された時、その形状をおよそ10分間維持することができ、48時間より長く損なわれずに原位置に残留し、海綿状の壊滅的創傷を効果的に充填し、増殖因子及び細胞タンパク質の長期作用性放出のための効果的マトリックスを提供することが示された。それに比べ過去の創傷ケアゲルは、およそ60秒までしかその形状を維持しない。理論に結び付けるのを望むものではないが、固形粘稠性が大きいほどゲルを溶解前により長時間、創傷内に保持させることができ、そのためゲルが長い期間にわたって増殖因子を放出することができると仮定される。これらの特性が、本明細書で提供される実施例から認められ得る通り、改善された創傷治癒に導く。
【0015】
さらに、ゲルの固形粘稠性が大きいほど、著しい組織体積が損失された創傷を処置する際に特に有益であることが見出された。これらの例において、ゲルは、その形状を保持し得るため、創傷内に足場を提供して組織再生が起こり得る。
【0016】
それゆえ、本発明の一形態は、創傷処置組成物を作製する方法に関し、この方法は、i)全血試料を、多血小板血漿(PRP)試料、乏血小板血漿(PPP)試料及び赤血球試料を含む複数の試料に分画することであって、前記PRP試料が1~10%のヘマトクリットレベルを有するものであること;ii)PPP及び/又はPRP試料の一部を処理して、PPP及び/又はPRP中に存在する自己プロトロンビンの切断を促進して、自己トロンビンを生成すること、並びにiii)PRP試料をPPP試料の一部及びステップ(ii)で生成されたトロンビンの一部と組み合わせて、創傷処置組成物を生成すること、を含み、ステップii)は、15℃未満の温度で実行される。
【0017】
一態様において、第一の形態のステップiii)が15℃未満の温度で実行され得ることも想定される。
【0018】
本発明の第二の形態は、第一の形態の方法により得ることが可能な創傷処置組成物を含む。
【0019】
本発明の更なる形態は、本発明の第一の形態による方法により得ることが可能な創傷処置組成物を投与することにより対象において創傷を処置する方法を提供する。
【0020】
本発明はさらに、医薬における使用のため、より詳細には創傷を処置する際の使用のための、第二の形態による創傷処置組成物を提供する。
【0021】
本発明がより明確に理解され得るように、本発明の態様が、添付の図面を参照する実施例としてここに記載される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】創傷の処置の間に行われるステップを例示したフローチャートを示す。
図2-1】急性と分類された創傷の処置のために行われるステップを例示したフローチャートを示す。
図2-2】図2-1の続き。
図3-1】慢性と分類された創傷の処置のために行われるステップを例示したフローチャートを示す。
図3-2】図3-1の続き。
図4】実施例1に概説されたプロトコルを利用して創傷処置組成物を用いて処置された患者の創傷の例を示す。
図5】実施例1に概説されたプロトコルを利用して処置された糖尿病患者の踵における創傷を示す。
図6】Arthrex(登録商標)Angel(登録商標)Systemを用いて本発明の方法に従って全血を分画した結果の図を提供する。これは、各画分中で一般に見出される細胞型、及びPPPからPRPへ、そして赤血球部分までヘマトクリットレベルを変化させることを示している。おおよその血小板レベルが、2%及び7%のヘマトクリットレベルのために提供される。
図7】実施例で用いられたArthrex(登録商標)Angel(登録商標)SystemのPRPアウトプットの図を提供する。Arthrex(登録商標)Angel(登録商標)SystemのPRPアウトプットと全血との差異を評価するために、Arthrex(登録商標)Angel(登録商標)SystemのPRPが、健常ドナー6名の静脈血から、2%、5%、7%、10%及び15%のヘマトクリット設定で調製された。血小板、白血球細胞(WBC)及び好中球(NE)の濃度が、標準の全血球計算(CBC)で測定された。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の第一の形態において、創傷処置組成物を作製する方法が提供され、この方法は、
i)全血試料を、多血小板血漿(PRP)試料、乏血小板血漿(PPP)試料及び赤血球試料を含む複数の試料に分画することであって、前記PRP試料が1~10%のヘマトクリットレベルを有するものであること;
ii)PPP及び/又はPRP試料の一部を処理して、PPP及び/又はPRP中に存在する自己プロトロンビンの切断を促進して、自己トロンビンを生成すること、並びに
iii)PRP試料をPPP試料の一部及びステップ(ii)で生成されたトロンビンの一部と組み合わせて、創傷処置組成物を生成すること、
を含み、
ステップii)は、15℃未満の温度で実行される。
【0024】
本明細書で用いられる用語「全血」は、当該技術分野の用語であり、血漿、赤血球、白血球及び血小板を含む組成物をいう。したがって全血は、自然な成分の全てを含有する個体から採取された新鮮な血液試料であってもよい。全血試料はまた、試料の凝固の予防を支援するためにクエン酸塩又は他の適切な緩衝剤を含んでいてもよい。緩衝剤が薬理学的に許容できることが、想定される。
【0025】
用語「多血小板血漿(PRP)」は、高割合又は高濃度の血小板(即ち、全血よりも高い)を含有する血漿をいい、それはまた、赤血球を実質的に含まない。PRPは、全血試料を分画すること(例えば、遠心分離)により調製され、血小板を全血試料中で見出される濃度より高い濃度で含有する。本発明の第一の形態によれば、PRPは、600×10血小板/リットルより多く、又は800×10血小板/リットルより多く、又は1000×10血小板/リットルより多く、又は1200×10血小板/リットルより多く、又は1400×10血小板/リットルより多く、又は1600×10血小板/リットルより多く、又は1800×10血小板/リットルより多く、又は2000×10血小板/リットルより多く、又は2200×10血小板/リットルより多く、又は2400×10血小板/リットルより多くを含有してもよい。さらに、本発明の第一の形態によれば、PRPは、600~2400×10血小板/リットル、又は800~2200×10血小板/リットル、又は1000~2000×10血小板/リットル、又は1200~1800×10血小板/リットル、又は1400~1600×10血小板/リットル、又はそれらの任意の組み合わせを含有してもよい。「乏血小板血漿(PPP)」は、全血試料を分画することにより生成され、低割合の血小板、例えば1×10血小板/リットル未満、又は1×10血小板/リットル未満、又は1×10血小板/リットル未満を含有する血漿をいう。
【0026】
以下により詳細に説明される通り、PRP中の最適な血小板レベルが、ステップi)のPRPを生成するための全血の分画から直接、又はステップi)の後のPPPでのPRPの希釈後のどちらかで得られることが想定される。PRPの最適な血小板濃度は、したがって自己トロンビン(及び任意選択でのアスコルビン酸)の添加前に得られる。Arthrex(登録商標)Angel(登録商標)システムからのアウトプットの図が、図7に提供されている。
【0027】
本明細書で用いられる用語「自己トロンビン」は、PRPが由来するのと同じ全血試料に由来するトロンビンをいう。
【0028】
本発明の第一の形態により生成された創傷処置組成物は、200~2400×10血小板/リットル、又は400~2400×10血小板/リットル、又は600~2400×10血小板/リットル、又は800~2200×10血小板/リットル、又は1000~2000×10血小板/リットル、又は1200~1800×10血小板/リットル、又は1400~1600×10血小板/リットルを含んでいてもよい。
【0029】
本発明の第一の形態の特有の態様において、この方法は、トロンビン添加と同時に、トロンビン添加前、又はトロンビン添加後にアスコルビン酸(ビタミンC)を創傷処置組成物に添加するステップをさらに含む。アスコルビン酸は、0.5mM~5mMの間、好ましくは2mM~4mMの間、最も好ましくは2.5mM~3mMの間の濃度で添加される。本発明の第一の形態の好ましい態様において、アスコルビン酸(ビタミンC)は、PRP試料に添加される。
【0030】
トロンビンへのプロトロンビンの切断を促進するのに適していて、本発明の方法における使用に適当である、当該技術分野で知られる方法が多く存在する。本発明の第一の形態の特有の態様において、この方法の段階ii)は、PPP試料及び/又はPRP試料の一部を、塩化カルシウム及び/又はエタノールを含む組成物と接触させることを含む。エタノール中に塩化カルシウムを含む溶液が、トロンビンへのプロトロンビンの切断を促進するのに特に適する。この溶液は、およそ5~20%w/vの間の塩化カルシウム、又はおよそ8~15%w/vの間の塩化カルシウムを含有してもよく、好ましくはこの溶液は、10%w/vの塩化カルシウムを含有する。塩化カルシウムは、エタノールを含む溶液中に存在してもよく、この溶液は、およそ10~30%v/vの間のエタノール、又はおよそ10~20%v/vの間のエタノールを含有してもよく、好ましくはこの溶液は、およそ17%v/vのエタノールを含有する。PPP及び/又はPRP試料の一部を処理し、PPP及び/又はPRP中に存在する自己プロトロンビンの切断を促進して、自己トロンビンを生成するのに適した市販のキットが存在し、そのようなキットの非限定的例としては、Biotherapy Services ActivATキット及びArthre
x Thrombinatorが挙げられる。
【0031】
本発明の第一の形態において、ステップii)は、15℃未満の温度で実施される。詳細にはステップii)は、2℃~15℃、4℃~15℃、6℃~15℃、8℃~15℃、10℃~15℃、又は12℃~15℃の温度で実施されてもよい。この態様において、PPP及び/又はPRP試料の一部、並びにプロトロンビン切断反応に必要な溶液は、15℃未満に冷却される。典型的にはこれは、反応の前及び間の溶液を氷上で貯蔵することにより実現されてもよい。これは、より低温で起こる切断反応をもたらす。トロンビンが、PRPと組み合わせられる場合、血小板は、活性化されるようになり、ゲルの形成をもたらす。より高温であることによって、反応速度を上昇させることが知られるため、切断反応をより低温で実施することがより堅く効果的なゲルをもたらすトロンビン試料を生成する、というのは非常に驚くべきことである。疑念を回避するために、第一の形態のステップi)が典型的には室温で実施されることが想定される。全血試料を分画するための適切な方法が、当該技術分野で知られる。本発明の特有の機能は、遠心分離が全血試料を分画するのに用いられる。分画段階の間、遠心分離は、二段階で実施されてもよい。最初の遠心分離段階は、赤血球を他の成分から分離するために用いられて、次に、血小板の分画及びPRPの形成を支援する第二の遠心分離段階が用いられてもよい。最初の遠心分離段階は、3,000~4,500rpmの間、好ましくは3,200~4,000rpmの間、より好ましくは3,700rpmで実施されてもよい。第二の遠心分離段階は、2,000~3,500rpmの間、好ましくは2,500~3,000rpmの間、より好ましくは2,700rpmで実施されてもよい。そのような遠心分離ステップは、好ましくはArthrex(登録商標)Angel(登録商標)システムを用いて実行されてもよい。
【0032】
分画工程の間、PRP試料が、細分画されて(sub-fractionate)、高濃度の白血球を含有するPRP、及び低濃度の白血球を含有するPRPを生成するであろう。それゆえ、異なるレベルの白血球を含むPRPが生成され得る。本明細書で用いられる用語「ヘマトクリットレベル」は、全血試料から分画されたPRP中に存在する白血球のおおよその量をいう。
【0033】
異なるヘマトクリットレベルを有するPRP試料を生成するために、PPP試料とPRP試料と赤血球試料とを識別し得るセンサが用いられてもよい。センサはまた、白血球が多いPRP試料と、白血球が少ない試料とを識別することができる。適切なセンサとしては、LEDセンサが挙げられる。さらに、Magellan(登録商標)Autologous Platelet Separator、Biomet GPS(登録商標)Platelet Concentration System及びArthrex(登録商標)Angel(登録商標)Systemを含む、指定されたヘマトクリットレベルを有するPRPを生成するのに適した市販のシステムが多く存在する。
【0034】
異なるヘマトクリットレベルを有するPRP試料を生成することにより、PRP中に存在する白血球の量を改変することが可能である。全血試料の総白血球の80%より多くがPRP中に存在する、高割合の白血球を含むPRPを形成するためには、より高いヘマトクリットレベル、例えば5~10%の間のヘマトクリットレベル、好ましくは7~9%の間のヘマトクリットレベルのPRPが、生成されなければならない。全血試料の総白血球の10%未満がPRP中に存在する、白血球を実質的に含まないPRPを形成するためには、より低いヘマトクリットレベル、例えば1~5%の間のヘマトクリットレベル、好ましくは1~3%の間のヘマトクリットレベルのPRPが、生成されなければならない。
【0035】
2%のヘマトクリットレベルで生成されるPRP試料が、白血球を実質的に含まず、より具体的には全血試料の総白血球の10%未満、好ましくは5%未満、より好ましくは2
%未満、最も好ましくは1%未満が、PRP試料中に存在するであろう。2%のヘマトクリットレベルで生成されるPRPは、白血球を実質的に含まず、例えばPRPは、12×10白血球/リットル未満、又は6×10白血球/リットル未満、又は3×10白血球/リットル未満、又は12×10白血球/リットル未満、又は6×10白血球/リットル未満、又は3×10白血球/リットル未満を含有してもよい。本発明の特有の態様において、PRP試料は、およそ2%のヘマトクリットレベルを有する。本発明の別の態様において、PRP試料は、およそ1、1.5、2.5、3、3.5、4又は4.5%のヘマトクリットレベルを有してもよい。
【0036】
対照的に、およそ8%のヘマトクリットレベルで生成されたPRPは、全血試料に存在する白血球の大部分を含み、より具体的には全血試料の総白血球の80%より多く、好ましくは90%より多く、より好ましくは95%より多くが、PRP中に存在するであろう。8%のヘマトクリットレベルで生成されたPRPは、全血試料に存在する白血球の大部分を含み、例えばそれは、1×10白血球/リットルより多く、又は3×10白血球/リットルより多く、又は5×10白血球/リットルより多く、又は10×10白血球/リットルより多くを含んでいてもよい。好ましくは8%のヘマトクリットレベルで生成されたPRPは、およそ1×10~15×10個/リットルの間の白血球を含んでいてもよく、より好ましくはそれは、およそ3×10~12×10個の間の白血球を含んでいてもよい。そのため本発明の特有の態様において、PRP試料は、8%ヘマトクリットレベルを有する。本発明の別の態様において、PRP試料は、およそ5.5、6、6.5、7、7.5、8.5、9又は9.5%のヘマトクリットレベルを有してもよい。
【0037】
当業者であれば理解できる通り、「ヘマトクリット」レベルは、試料中の赤色の血球細胞の濃度の直接的な目視測定である。これは、血液試料中の白血球又は血小板のレベルの直接的測定ではないが、ヒトの血液分画の状況では、それは、試料中の白血球及び/又は血小板のレベルに直接相関する。これは、本明細書に記載された通りArthrex Angel Systemを用いて分画された全血中のヘマトクリットの勾配を示す図6に図示されている。当該技術分野において、ヘマトクリットレベルは通例、分画後に血液の構成要素の反復可能な測定を可能にする簡便な測定として用いられる。これは、所望の組成物の血液画分の回収が自動化され得る手段である。したがって当該技術分野において、ヘマトクリット測定は、所望の血小板レベルでの濃縮血小板試料の自動回収を可能にする。ヘマトクリットのレベルは、明白に識別可能であり、反復可能かつ予測可能であるため、ヘマトクリットレベルは、手動及びコンピュータの両方でPRP画分の回収を可能にする。血小板レベルを直接測定するより侵襲的手段は、本発明の状況では適当でなく、本発明は、患者の創傷に迅速に適用され得る創傷処置組成物を迅速に生成することを意図した方法である。ヘマトクリットを測定することは、実施例で用いられる装置により実施される通り、光学測定(光の吸収の差異を検出する)で簡単に実施され得るため、血液試料との任意の直接的接触又は任意の因子の添加を必要としない。したがってヘマトクリットは、血小板レベルの代用マーカになり、その手段及び目的は、当業者により即座に理解できるだろう。
【0038】
本発明者らはさらに、PRP試料中に最適な血小板レベルが存在することを見出した。最も効果的なPRP血小板濃度は、ベースライン血小板レベルの4~6倍の間であることが見出され、この場合のベースライン血小板レベルは、全血試料中で見出されたレベルである。それゆえPRP試料が、ベースライン血小板レベルの4~6倍より多く含有する場合、このPRP試料は、PPP試料を用いて希釈され得る。これは、自己トロンビン及びアスコルビン酸などの賦形剤の包含の前に、PRP試料がベースライン血小板レベルの4~6倍を含有することを、確実にするであろう。
【0039】
したがって上記の観点から理解できる通り、活性化トロンビンと組み合わせる前に、本
発明の方法のステップiii)でPPP試料の一部をPRP試料と組み合わせる主目的は、最適な血小板レベルのPRP試料を実現することである。したがってPPPは、さらなる処理の前にPRP(濃縮PRP)を希釈するために用いられてもよい。トロンビンと組み合わせる前のPRP中の最適な血小板レベルは、患者及び処置される創傷に依存するであろう。当業者に理解される通り、一部の個体は、例えば自然な素因又は疾患のせいで、より高レベルの血小板を呈するであろう。逆に一部の個体は、例えば自然な素因又は疾患のせいで、より低レベルの血小板を呈するであろう。したがって本発明の方法及びこの方法により製造される創傷処置組成物は、本発明の方法の第一のステップで発生された濃縮PRPの体積をもたらす患者の血液中の自然な血小板レベルに従って患者に適合されてもよい。上記に説明された通り、トロンビン(及び任意にアスコルビン酸)の添加前のPRP中の血小板レベルが個々の患者のベースライン血小板レベルのおよそ4~6倍の間であることが好ましい。幾つかの例において、本発明の方法のステップi)で生成されたPRPは、続く処理(例えば患者が、低い血小板レベルを有するならば)に許容される血小板を有するが、ほとんどの例では、ステップi)で生成されたPRPは、所望の血小板レベルより高いレベルを有するであろう。この例では、PPPが、PRPを所望の血小板レベルに希釈するために用いられてもよい。
【0040】
当業者により理解される通り、この方法により生成されるPRP中の血小板の濃度は、例えばArthrex(登録商標)Angel(登録商標)Systemを用いることにより、この方法で生成された濃縮PRPの体積と独立している。むしろこの体積は、処理前の全血試料中の血小板量の指標である。したがってPRPは、ほぼ固定された血小板濃度で生成されるが、PRPの体積は、変動する。Arthrex(登録商標)Angel(登録商標)Systemにより生成されたPRP中の血小板の濃度は、3600×10血小板/リットルの領域内である。例えば血中に100×10血小板/リットルを有する患者は、およそ1mlの濃縮PRPを発生し、これはその後、PPPの添加により6mlに希釈して戻され、およそ600×10血小板/リットル(ベースラインの6倍)を有する希釈PRP溶液を生成することになる。血中におよそ400×10血小板/リットルを有する患者は、およそ4mlの濃縮PRPを発生し、これはその後、6mlに希釈して戻され、およそ2400×10血小板/リットル(ベースラインの6倍)を有する希釈PRP溶液を生成することになる。それゆえ、自己トロンビンを添加する前のPRP部分の中の血小板濃度は、典型的には全血中のベースライン血小板レベルの4~6倍の間、好ましくは6倍である。
【0041】
トロンビンの添加前のPRP中の最適な血小板レベルは、およそ600×10~1400×10血小板/リットルであると想定される。好ましくはおよそ600×10~1200×10血小板/リットル、およそ600×10~1000×10血小板/リットル、およそ600×10~800×10血小板/リットル、およそ800×10~1400×10血小板/リットル、およそ800×10~1200×10血小板/リットル、又はおよそ800×10~1000×10血小板/リットル。したがって本発明の方法は、トロンビン(そして任意にアスコルビン酸)の添加前に、ステップiii)で最適な血小板レベルを有するPRP試料を提供することを含む。
【0042】
2%~7%ヘマトクリット設定での全血に比較した、そして他の市販の機械に比較した、Arthrex(登録商標)Angel(登録商標)SystemのPRP中の血小板密度が、上記に参照されるDegen et al (2017)の表2に提供されている。
【0043】
本発明の第一の形態によれば、創傷処置組成物は、200~2,600×10血小板/リットル、好ましくは600~2,400×10血小板/リットル、より好ましくは1,000~2,000×10血小板/リットルの血小板レベルを含む。
【0044】
本発明の第一の形態により生成された創傷処置組成物は、0.5~10%又は1~8%の最終ヘマトクリットレベルを含む。一態様において、本発明の第一の形態により生成された創傷処置組成物は、0.5~5%、0.5~4%、0.5~3%又は0.5~2%の最終ヘマトクリットレベルを含む。さらなる態様において、本発明の第一の形態により生成された創傷処置組成物は、4~10%、4~9%、4~8%、4~7%又は4~6%の最終ヘマトクリットレベルを含む。
【0045】
本発明によれば、自己生成されたトロンビンが、PRPと組み合わせられる。トロンビンは、PRP試料中の血小板を活性化して増殖因子の放出をもたらすアゴニストとして作用する。それゆえこれらの増殖因子は、本発明の創傷処置組成物中に存在してもよく、存在する増殖因子の非限定的例としては、血小板由来増殖因子(PDGF-AB)、トランスフォーミング増殖因子ベータ1(TGF-B1)、インスリン様成長因子(IGF-1
IGF2)、血管内皮増殖因子(VEGF)、血小板由来血管新生因子(PDAF)、血小板由来上皮成長因子(platelet-derived epidermal growth-factor)(PDEGF)、血小板第4因子(PF-4)、酸性線維芽細胞増殖因子(FGF-A)、塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF-B)、トランスフォーミング増殖因子α(TGF-A)、βトロンボグロブリン関連タンパク質(BTG)、トロンボスポンジン(TSP)、フィブロネクチン、フォン・ビレブランド因子(vWF)、フィブロペプチドA(fibropeptide A)、フィブリノゲン、アルブミン、プラスミノゲン活性化抑制因子1(PAI-1)、オステオネクチン、活性化正常T細胞における発現及び分泌調節性(regulated upon activation normal T cell expressed and presumably secreted)(RANTES)、GRO-α、ビトロネクチン、フィブリンD-ダイマー、第V因子、アンチトロンビンIII、免疫グロブリン-G(IgG)、免疫グロブリン-M(IgM)、免疫グロブリン-A(IgA)、a2-マクログロブリン、アンギオゲニン、Fg-D、エラスターゼ、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、上皮成長因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、腫瘍壊死因子(TNF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)及びインターロイキン-1(IL-1)、並びにそれらの組み合わせが挙げられる。これらの増殖因子は、相乗的に作用して、創傷治癒の促進を支援する。
【0046】
本発明の第二の形態は、本発明の第一の形態による方法により得ることが可能な創傷処置組成物を含む。
【0047】
本発明の第二の形態の特有の機能は、多血小板血漿(PRP)、トロンビン及びアスコルビン酸を含む創傷処置組成物であり、この組成物は、200×10血小板/リットルより多い、又は400×10血小板/リットルより多い、又は600×10血小板/リットルより多い、又は800×10血小板/リットルより多い、又は1000×10血小板/リットルより多い血小板レベルを含む。
【0048】
本発明の第二の形態による組成物の態様において、PRP及びトロンビンは、単一個体から得られた全血試料から生成される。
【0049】
本発明の創傷処置組成物は、創傷の処置における使用のためであってもよい。特有の態様において、本発明の創傷処置組成物は、急性又は慢性創傷の処置における使用のためであってもよい。
【0050】
本発明者らは、本発明による、例えば1~5%の間の、より低いヘマトクリットレベルを有するPRP試料から生成された創傷処置組成物が、慢性創傷を処置する際に効果的であることを見出した。より具体的にはおよそ2%のヘマトクリットレベルを有するPRPから生成された創傷組成物は、驚くべきことに、慢性創傷を処置する際の使用に特に効果的である。そのため本発明の創傷処置組成物の態様は、1~5%の間、好ましくは2%の
ヘマトクリットレベルを有するPRP試料から生成されてもよい。したがって一態様において、1~5%の間、好ましくは2%のヘマトクリットレベルを有するPRP試料から形成された創傷処置組成物は、必要とする患者における慢性創傷を処置する際の使用のためであってもよい。本明細書で用いられる用語「慢性創傷」は、正常な創傷治癒期を経て進行せず、多くの場合、治癒の炎症段階に残存する創傷をいう。起こる場合があり、本発明の組成物で利益を享受し、したがって処置され得る慢性創傷の非限定的例としては、糖尿病足潰瘍、静脈性下肢潰瘍、及び褥瘡が挙げられる。
【0051】
さらに、例えば5~10%の間の、より高いヘマトクリットレベルを有するPRP試料から生成された本発明による創傷処置組成物は、急性創傷を処置する際に効果的である。より具体的には、およそ8%のヘマトクリットレベルを有するPRPから生成された創傷組成物は、急性創傷を処置する際の使用に特に効果的である。そのため、本発明による創傷処置組成物の一態様は、5~10%の間、好ましくは8%のヘマトクリットレベルを有するPRP試料から生成されてもよい。したがって一態様において、5~10%の間、好ましくは8%のヘマトクリットレベルを有するPRP試料から形成された創傷処置組成物は、必要とする患者における急性創傷を処置する際の使用のためであってもよい。本明細書で用いられる用語「急性創傷」は、経時的というよりむしろ突然起こる傷害又は損傷をいうために用いられる。慢性創傷は、デブリードマンなどの工程を受けることにより急性創傷に誘導されてもよく、その場合、死滅又は損傷組織は、創傷から除去されて、健常組織をあらわにする。これは、創傷を血液に暴露し、したがって自然な治癒を刺激する。これらの工程は通例、慢性創傷処置の間に用いられ、熟練者は、適当な方法を認知している。
【0052】
本発明の創傷処置組成物は、好ましくは、一旦生成されるとゲル粘稠性を得るまで固化する。したがって鋳型が、ゲルの形状を処置される創傷に適合させるために用いられてもよく、又はゲルが、処置される創傷及び医師の選好に応じて具体的サイズ若しくは形状に切断され得る。本発明の創傷処置組成物は、過去の組成物よりも安定した構造を有するため、ゲルを切断して、又はかたどって、それを特有の創傷に適合させることがより容易である。
【0053】
本発明の態様は、本発明の創傷処置組成物を適用することにより創傷を処置する方法に関する。この方法は、処置の過程で創傷処置組成物の複数の適用を含んでいてもよい。例えば創傷は、デブリードマンを受け、次に例えば5~10%の間の、より高いヘマトクリットレベルを有するPRP試料から生成された創傷処置組成物を適用されてもよい。この創傷は、例えば1~5%の間の、より低いヘマトクリットレベルを有するPRP試料から生成された創傷処置組成物を適用することによる、続いての処置を受けてもよい。本発明のさらなる形態は、本発明の第一の形態による方法により得ることが可能な創傷処置組成物を投与することにより、対象における創傷を処置する方法である。したがって本発明により対象における創傷を処置する方法は、以下のステップ:
i)処置される対象から全血試料を得るステップ;
ii)全血試料を、多血小板血漿(PRP)試料、乏血小板血漿(PPP)試料及び赤血球試料を含む複数の試料に分画するステップであり、前記PRP試料が1~10%のヘマトクリットレベルを有するものであるステップ;
iii)PPP及び/又はPRP試料の一部を処理して、PPP及び/又はPRP中に存在する自己プロトロンビンの切断を促進して、自己トロンビンを生成するステップ、並びに
iv)PRP試料をPPP試料の一部及びステップ(iii)で生成されたトロンビンの一部と組み合わせて、創傷処置組成物を生成するステップであり、前記創傷処置組成物が600×10血小板/リットルより多くの血小板レベルを含むものであるステップ、並びに
v)創傷処置組成物を処置される対象の創傷に適用するステップ、
を含んでいてもよく、ステップiii)は、15℃未満の温度で実施される。
【0054】
本発明により創傷を処置する方法は最初、慢性創傷を清拭して清浄な創面を露出し、それを急性創傷に効果的に変換すること、又は最初に例えば8%の、高ヘマトクリットのPRP試料から生成された本発明の創傷処置組成物で急性創傷を処置すること、を伴っていてもよい。その後、次の処置ステップにおいて、創傷治癒の最初の急性期が、終了して、創傷が慢性と見なされ得る場合、本発明の方法はその後、例えば2%の、より低いヘマトクリットを有するPRP組成物から生成された本発明の創傷処置組成物を適用することを含んでいてもよい。この第二段階の複数の適用は、創傷の充分な治癒が起こるまで、適宜、行われてもよい。
【0055】
したがって本発明のさらなる態様は、8%のヘマトクリットレベルを有するPRP試料から生成された本発明による創傷処置組成物を投与することにより、対象における急性創傷を処置する方法である。したがって本発明のさらなる態様は、2%のヘマトクリットレベルを有するPRP試料から生成された本発明による創傷処置組成物を投与することにより、対象における慢性創傷を処置する方法である。
【0056】
本発明のさらなる形態は、創傷の処置のための薬剤の製造における創傷処置組成物の使用であり、この創傷処置組成物は、以下の方法:
i)全血試料を、多血小板血漿(PRP)試料、乏血小板血漿(PPP)試料及び赤血球試料を含む複数の試料に分画することであって、前記PRP試料が1~10%のヘマトクリットレベルを有するものであること;
ii)PPP及び/又はPRP試料の一部を処理して、PPP及び/又はPRP中に存在する自己プロトロンビンの切断を促進して、自己トロンビンを生成すること、並びに
iii)PRP試料をPPP試料の一部及びステップ(ii)で生成されたトロンビンの一部と組み合わせて、創傷処置組成物を生成すること、
により得ることが可能で、
ステップii)は、15℃未満の温度で実行される。
【0057】
本発明はまた、医薬における使用のため、詳細には本明細書に提示された通り慢性又は急性創傷を処置する際の使用のための、第二の形態による創傷処置組成物を提供する。
【0058】
本発明の初期の形態に関係して記載された全ての態様は、適切ならば、本発明の前述の形態に等しく適用可能とする。
【実施例
【0059】
以下の実施例は、本発明を例証している;
実施例1
以下の実施例は、例えば糖尿病患者において、創傷を処置する場合に行われるステップを概説している。
【0060】
第一段階
8%のヘマトクリットレベルを有するPRPが、第一の処置における使用のために生成される。創傷は、壊死組織の外科的デブリードマンで「外科的に新鮮にされて(surgically freshened)」、新鮮な急性創底を露出させる。創傷処置組成物は、以下の配合に従って生成される。この配合は、容量が適合されるように設計されており、7000mmを超える創傷を処置するためには容量が倍増される。
i.全血52mLから処理されたPRP 5ml。このPRPは、全血試料中に見出された血小板濃度の5~6倍を含有する。
ii.アスコルビン酸500mg/5ml USPの0.75mLを添加する。
iii.自己トロンビン2mLを添加して、PRP/アスコルビン酸液を活性化させゲル化する。
【0061】
第一の処置は、濃縮された血小板及び大「用量」の白血球を含有する。この段階は、過刺激処置と称されてもよい。Opsiteなどの半密封型ドレッシングが、ゲル及び創傷を覆うために用いられてもよい。
【0062】
第二段階
第二の処置は、48時間後に実施される。第二の処置及び続いての処置では、2%のヘマトクリットレベルを有するPRPが、用いられる。続いての処置は、1週間に1回/7日ごとに実行される。2%ヘマトクリットレベルを用いて、98%より多くの白血球が、PRPから除去され、創傷処置組成物が、以下の配合に従って生成される。
i.全血52mLから処理されたPRP 5mL。このPRPは、全血試料中に見出された血小板濃度の5~6倍を含有する。
ii.アスコルビン酸500mg/5ml USPの0.75mLを添加する。
iii.自己トロンビン2mLを添加して、PRP/アスコルビン酸液を活性化させゲル化する。
【0063】
創傷が、1週あたり30%より多くの創傷閉鎖改善を示さなければ、創傷は、8%のヘマトクリットレベルを有する急性配合物を用いて処置されなければならない。
このアプローチは、臨床現場における慢性創傷の反復可能かつロバストな処置を可能にする。
【0064】
実施例2
臨床現場において、患者15名で処置された18の創傷。5名は、露出した骨/腱/軟骨を有する広範囲の組織損失を有し;3名は、腎置換療中であり;4名は、著しい末梢神障害を有し;4名は、深部の骨髄炎を有し;1名は、摂食障害に関係する重度の栄養失調を有した。処置開始時の平均創傷体積:8203.3mm(範囲141.3~41257.2mm)。創傷は、実施例1に概説された方法論を利用して処置された。PRP処置の完了時の平均創傷体積:2783.2mm(範囲0.5~28809mm)。処置完了時の創傷体積の平均低減:75%。PRP処置開始後の創傷治癒が90%を超えるまでの総日数:17.9日(範囲6~40日)。処置後の外科的介入が、患者1名で必要となり、大切断術に進み、残りの患者は、さらなる介入を行われずに退院した。
【0065】
図4は、この研究で処置された患者の創傷の実施例を示しており、表1は、処置過程での創傷体積の低減及び90%未満の創傷治癒にかかった日数を詳述している。
【0066】
【表1】
【0067】
実施例3
糖尿病患者が、踵の領域の創傷の外科的デブリードマン及び骨髄炎の除去を受けた。その後、この創傷は、本発明の創傷処置組成物で処置された。3回の処置が、14日間で実施された。
【0068】
14日間にわたる体積曲線の低減は、-36581.2mm(-90.7%)であった。体積変化は、-417.3mm(-30.8%)であり、創傷が肉芽を生じて組織を再生し、創傷を閉鎖するため体積の増加を示している。創傷エリアの減少は、-1051.1mm(-25.8%)であった。処置過程での創傷治癒の画像が、図5に示される。
【0069】
創傷処置組成物が、本発明により生成された。下記の表は、創傷ケア処置の重大な特徴の幾つかに及ぼす、15℃未満の温度でのプロトロンビンからトロンビンへの変換を実施することの影響を実証している。
【0070】
【表2】
【0071】
血小板、好中球及び白血球細胞の濃度が、出発レベルの因子として表される。
図1
図2-1】
図2-2】
図3-1】
図3-2】
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2021-08-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
創傷処置組成物を作製する方法であって、
i)全血試料を、多血小板血漿(PRP)試料、乏血小板血漿(PPP)試料及び赤血球試料を含む複数の試料に分画することであって、前記PRP試料が1~10%のヘマトクリットレベルを有するものであること;
ii)前記PPP及び/又はPRP試料の一部を処理して、前記PPP及び/又はPRP中に存在する自己プロトロンビンの切断を促進して、自己トロンビンを生成すること、並びに
iii)前記PRP試料を前記PPP試料の一部及びステップ(ii)で生成された前記トロンビンの一部と組み合わせて、前記創傷処置組成物を生成すること、
を含み、
ステップii)が、15℃未満の温度で実行される、方法。
【請求項2】
ステップiii)が、15℃未満の温度で実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記トロンビンの添加と同時に、前記トロンビンの添加前に、又は前記トロンビンの添加後にアスコルビン酸を前記創傷処置組成物に添加するステップをさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記PRP試料が、8%のヘマトクリットレベルを有する、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記PRP試料が、2%のヘマトクリットレベルを有する、請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記創傷処置組成物が、600~2,400×10血小板/リットルの血小板レベルを含む、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の方法により得ることが可能な創傷処置組成物。
【請求項8】
創傷、任意に慢性又は急性創傷の処置における使用のための、請求項7に記載の創傷処置組成物。
【請求項9】
請求項4に記載の方法により得ることが可能な創傷処置組成物。
【請求項10】
急性創傷の処置における使用のための、請求項9に記載の創傷処置組成物。
【請求項11】
請求項5に記載の方法により得ることが可能な創傷処置組成物。
【請求項12】
慢性創傷の処置における使用のための、請求項11に記載の創傷処置組成物。
【請求項13】
請求項9に記載の創傷処置組成物で過去に処置された創傷を処置する際の使用のための、請求項11に記載の創傷処置組成物。
【国際調査報告】