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  • 特表-クロロシランの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-25
(54)【発明の名称】クロロシランの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/107 20060101AFI20220217BHJP
【FI】
C01B33/107 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021535671
(86)(22)【出願日】2018-12-19
(85)【翻訳文提出日】2021-08-16
(86)【国際出願番号】 EP2018086007
(87)【国際公開番号】W WO2020125982
(87)【国際公開日】2020-06-25
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.MATLAB
(71)【出願人】
【識別番号】390008969
【氏名又は名称】ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns-Seidel-Platz 4, D-81737 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(72)【発明者】
【氏名】カール-ハインツ、リンベック
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス、ヒルシュマン
【テーマコード(参考)】
4G072
【Fターム(参考)】
4G072AA11
4G072AA14
4G072GG03
4G072HH07
4G072HH09
4G072JJ01
4G072LL01
4G072UU02
(57)【要約】
本発明は、反応器内で、水素、テトラクロロシラン、及び必要に応じて少なくとも1種のさらなるクロロシランを含む反応ガスを、必要に応じて触媒の存在下で反応させることにより、クロロシランを製造する方法に関し、クロロシランが一般式HnSiCl4-n(式中、n=1~4である)を有し、反応器の設計が指標K1により表され、反応器に入る前の反応ガスの組成が指標K2により表され、反応条件が指標K3により表され、K1の値が66~2300であり、K2の値が13~250であり、K3の値が7~1470であることを特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応器内で、水素、テトラクロロシラン、及び必要に応じて少なくとも1種のさらなるクロロシランを含む反応ガスを、必要に応じて触媒の存在下で反応させることにより、クロロシランを製造する方法であって、前記クロロシランが一般式HnSiCl4-n(式中、n=1~4である)を有し、
前記反応器の設計が、指標K1により表され、
前記反応器に入る前の反応ガスの組成が、指標K2により表され、
反応条件が、指標K3により表され、
K1の値が66~2300であり、K2の値が13~250であり、K3の値が7~1470である
ことを特徴とする方法。
【数1】
[式1中、
θ = 温度因子、
κ = 面積因子、
tot,ΔT- = 反応器内の冷却熱交換器の表面積[m2]、
tot,ΔT+ = 反応器内の加熱熱交換器の表面積[m2]、
R,eff = 有効反応器体積[m3]、及び
tot,gas = 反応器内のガス経路の長さ[m]。]
【数2】
【数3】
[式5中、
el = 電力[kg・m2/s2]、
νF = 前記流体の動粘性率[m2/s]、
ρF = 流体密度[kg/m3]、及び
diff = 反応ガスの差圧[kg/m・s2]。]
【請求項2】
K1の値が、95~1375であり、好ましくは640~780であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
K2の値が、20~189であり、好ましくは45~85であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
K3の値が、24~866であり、好ましくは40~300であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記有効反応器体積VR,effが、2~15m3であり、好ましくは4~9m3であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記反応器内の加熱熱交換器の前記表面積Atot,ΔT+が、90~420m2であり、好ましくは120~360m2であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記反応器内の冷却熱交換器の前記表面積Atot,ΔT+が、320~1450m2であり、好ましくは450~1320m2であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記反応器内の前記ガス経路の前記長さltot,gasが、5~70mであり、好ましくは25~37mであることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記触媒が、前記反応器内部における表面積上のコーティングの形態であることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記四塩化ケイ素の体積流量
【数4】
が、600~5800Nm3/hであり、好ましくは1100~4500Nm3/hであることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記水素の体積流量
【数5】
が、750~13500Nm3/hであり、好ましくは1350~9000Nm3/hであることを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記反応ガスにおける、四塩化ケイ素、水素、及び任意に存在するさらなるクロロシランの含有量が、少なくとも97%であり、好ましくは少なくとも98%、特に好ましくは少なくとも99%であることを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
さらなるクロロシランが、ジクロロシラン及び/又は一般式HmCl6-mSi2(式中、m=0~6である)のジシランであることを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記動粘性率νFが、2.5×10-4~5.1×10-42/sであり、好ましくは2.8×10-4~4.7×10-42/sであることを特徴とする、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記流体密度ρFが、19.5~28kg/m3であり、好ましくは21.5~26kg/m3であることを特徴とする、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記電気エネルギーWelが、450,000~3,700,000kg・m2/s2であり、好ましくは500,000~3,200,000kg・m2/s2であることを特徴とする、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記反応ガスの前記差圧pdiffが、4.5×105~3×106kg/m・s2であり、好ましくは6×105~2.6×106kg/m・s2であることを特徴とする、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
多結晶シリコンを製造するための統合システムに組み込まれていることを特徴とする、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応器内で、テトラクロロシラン、水素、及び必要に応じて少なくとも1種のさらなるクロロシランを含む反応ガスを、必要に応じて触媒の存在下で反応させることにより、クロロシランを製造する方法に関し、クロロシランが一般式HnSiCl4-n(式中、n=1~4である)を有し、反応器の設計が指標K1により表され、反応器に入る前の反応ガスの組成が指標K2により表され、反応条件が指標K3により表され、K1の値が66~2300であり、K2の値が13~250であり、K3の値が7~1470であることを特徴とする。
【0002】
チップ又は太陽電池を製造するための出発材料としての多結晶シリコン(polycrystalline silicon)は、通常、その揮発性ハロゲン化合物、特にトリクロロシラン(TCS、HSiCl3)、を分解することによって製造されている。
【0003】
多結晶シリコン(ポリシリコン)は、反応器内で加熱されたフィラメントロッド上にポリシリコンを堆積させるシーメンス法により、ロッド形状で製造することができる。プロセスガスとしては、通常、TCSと水素との混合物が使用されている。また、流動床反応器内でポリシリコン顆粒を製造することもできる。これは、ガス流を利用してシリコン粒子を流動床中で流動させることを含み、ここで当該流動床は、加熱装置により高温に加熱される。TCSなどのシリコン含有反応ガスを加えると、高温の粒子表面で熱分解反応が起こり、粒子の直径が大きくなる。
【0004】
クロロシラン、特にTCSは、以下の反応に基づく3つの方法によって基本的に製造することができる(国際公開第2010/028878A1号及び国際公開第2016/198264A1号参照)。
(1)Si+3HCl → SiHCl3+H2+副生成物
(2)Si+3SiCl4+2H2 → 4SiHCl3+副生成物
(3)SiCl4+H2 → SiHCl3+HCl+副生成物
【0005】
副生成物は、例えば、モノクロロシラン(H3SiCl)、ジクロロシラン(H2SiCl2)、四塩化ケイ素(STC、SiCl4)、並びにジ及びオリゴシランなどのさらなるハロシランを含むことがある。炭化水素、有機クロロシラン及び金属塩化物などの不純物が副生成物の構成要素であることもある。そのため、高純度のTCSの製造は、通常、後続の蒸留を含む。
【0006】
反応(1)による塩化水素化(HC)は、流動床反応器内で塩化水素(HCl)を加えることにより、冶金シリコン(Simg)からクロロシランを製造することを可能にし、ここで反応は発熱的に進行する。これにより、通常、主生成物としてTCS及びSTCが得られる。
【0007】
クロロシラン、特にTCSを製造するためのさらなる選択肢は、触媒の存在下又は非存在下で、気相中でのSTC及び水素の熱変換である。
【0008】
反応(2)による低温変換(LTC)は、弱吸熱過程であり、通常は触媒(例えば、銅含有触媒又は触媒混合物)の存在下で行われる。LTCは、流動床反応器内において、Simgの存在下、高圧下(0.5~5MPa)、400℃~700℃の温度で実施することができる。無触媒反応モードは、Simgを使用して、及び/又は反応ガスにHClを加えることによって、可能である。しかしながら、他の生成物分布が生じる可能性があり、及び/又は触媒を使用した場合よりも低いTCS選択性が得られる可能性がある。
【0009】
反応(3)による高温変換(HTC)は、吸熱過程である。この過程は、通常は高圧下、600℃~1200℃の温度の反応器内で行われる。この反応は、触媒下で行われてもよい。
【0010】
既知の方法は、原理的にコストがかかり、大量のエネルギーを消費する。必要なエネルギー投入は、通常は電気的手段により行われており、大きなコスト要因となっている。HTCの運転性能(例えば、TCS選択性-加重生産性、高沸点副生成物の生成がほとんどないこと、又はエネルギー効率で表される)は、調整可能な反応パラメータに決定的に依存する。さらに、連続プロセスモードでは、反応成分であるSTC及び水素を上記反応条件下で反応器に導入する必要があり、これにはかなりの技術的複雑さを伴う。このような背景に対して、可能な限り高い生産性(単位時間及び反応体積あたりに生成するクロロシランの量)と、所望の目的生成物(典型的にはTCS)に基づく可能な限り高い選択性(TCS選択性-加重生産性)とを実現することが重要である。
【0011】
HTCによるクロロシランの製造は、通常は動力学プロセスである。可能な限り性能を効率化し、HTCを常に最適化するためには、基本的な動力学を理解し、視覚化することが必要である。そのためには、通常は、プロセスモニタリングのための高い時間分解能を持つ手法が必要である。
【0012】
回収サンプルの分析(オフライン/アトライン測定(off-/at-line measurement))により、人的集約型実験室的方法でHTCからの生成混合物の組成を決定することが知られている。しかしながら、上記分析は、常に時間的な遅れを伴って行われることから、最良のケースでは、反応器(HTC用反応器は、通常は、高温変換器又は変換器として指定されている)の個別の動作状態についての点状の遡及的スナップショットを提供する。しかしながら、例えば、複数の変換器の生成物ガス流が1つの凝縮セクターで結合され、この凝縮混合物の1つのサンプルのみが回収される場合、分析結果に基づいて個々の反応器の動作状態について具体的な結論を出すことは不可能である。
【0013】
HTCからの生成混合物の組成を高い時間分解能で測定できるようにするためには、ガス流及び/又は凝縮物流中でプロセス分析計、例えばプロセスガスクロマトグラフ(オンライン/インライン及び/又は非侵襲的測定)を(好ましくは各反応器において)使用することが可能である。しかしながら、これの不利な点は、原理的には、高い熱的ストレス及び浸食的な化学環境のために、使用できる機器の数が限られることである。また、一般的に資本コストや維持コストが高いことも、さらなるコスト要因となっている。
【0014】
高温変換器の個別の動作状態を特定するために、原理的には、以下のように分類できる様々なプロセス分析法を利用することが可能である(W.-D.Hergeth,On-Line Monitoring of Chemical Reactions:Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,Wiley:Weinheim,Germany 2006)。
【0015】
【表1】
【0016】
プロセス分析計の不利な点は、いわゆるソフトセンサー(仮想センサー)に基づいたモデルベースの方法論によって回避することができる。ソフトセンサーは、プロセスの操作に不可欠な操作パラメータ(例えば、温度、圧力、体積流量、充填レベル、出力、質量流量、バルブの位置)について連続的に決定される測定データを利用する。これにより、例えば、主生成物及び副生成物の濃度を予測することが可能になる。
【0017】
ソフトセンサーは、数学的方程式に基づいており、代表的な測定値の目標値への依存性シミュレーションである。言い換えれば、ソフトセンサーは、相関する測定値の依存性を示し、目標パラメータにつながる。したがって、目標パラメータは直接測定されるのではなく、これに相関する測定値に基づき決定される。HTCに適用すると、これは、例えば、TCS含有量又はTCS選択性が、実際の測定センサー(例えば、プロセスガスクロマトグラフ)を用いて決定されるのではなく、操作パラメータ間の相関関係を介して計算することができることを意味する。
【0018】
ソフトセンサーの数学的方程式は、完全に経験的なモデリング(例えば、変換されたべき乗則モデルに基づく)、半経験的なモデリング(例えば、反応速度を記述するための速度方程式に基づく)、又は基本的なモデリング(例えば、流動力学及び動力学の基本方程式に基づく)によって得ることができる。数学的方程式は、プロセスシミュレーションプログラム(例えば、OpenFOAM、ANSYS又はBarracuda)又は回帰プログラム(例えば、Excel VBA、MATLAB又はMaple)を用いて導き出すことができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、HTCによるクロロシランの製造の経済性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この目的は、反応器(変換器)内において、水素、STC、及び必要に応じて少なくとも1種のさらなるクロロシランを含む反応ガスを、必要に応じて触媒の存在下で反応させることにより、クロロシランを製造する方法によって達成され、クロロシランは、一般式HnSiCl4-n(式中、n=1~4)を有する。
【0021】
反応器の設計は、無次元の指標K1により表される。
【数1】
【0022】
式1中、
θ = 温度因子、
κ = 面積因子、
tot,ΔT- = 反応器内の冷却熱交換器の表面積[m2]、
tot,ΔT+ = 反応器内の加熱熱交換器の表面積[m2]、
R,eff = 有効反応器体積[m3]、及び
tot,gas = 反応器内のガス経路の長さ[m]。
【0023】
反応器に入る前の反応ガスの組成は、無次元の指標K2により表される。
【数2】
【0024】
反応条件は、無次元の指標K3により表される。
【数3】
【0025】
式5中、
el = 電力[kg・m2/s2]、
νF = 流体の動粘性率[m2/s]、
ρF = 流体密度[kg/m3]、及び
diff = 反応ガスの差圧[kg/m・s2]。
【0026】
上記方法において、K1は66~2300の値に、K2は13~250の値に、K3は7~1470の値に規定されている。これらの範囲内では、上記方法の生産性が特に高い。
【0027】
プロセス監視の物理的及び仮想的な方法を使用することで、HTCにおける新たな相関関係を特定することができた。特定のパラメータ設定及びその組合せを選択することで上記方法を特に経済的に実施できるように、この相関関係により、3つの指標K1、K2及びK3を介してHTCを記述することが可能になった。本発明の方法は、HTCのための「アドバンスト・プロセス・コントロール(APC)」の文脈で、統合された予測的なプロセス制御を可能にする。HTCが、特にプロセス制御システム(好ましくはAPCコントローラ)を介して、K1、K2及びK3についての本発明の範囲で実施される場合、可能な限り最高の経済効率が達成される。シリコン製品(例えば、様々な品質等級のポリシリコン)を製造するための統合システムにおいて、上記方法を組み込むことにより、製造シーケンスを最適化し、製造コストを削減することができる。
【0028】
指標K1、K2及びK3の範囲は、直交座標系でプロットすると、HTCのための特に経済的な操作範囲を表す3次元空間を張る。このような操作範囲は、図1に模式的に示されている。本発明の方法は、特に、HTC(高温変換器)用の新しい反応器の構成を大幅に簡素化する。
【0029】
さらに、ソフトセンサーは、例えばTCS選択性などの性能パラメータを、K1、K2及びK3の関数として表示することができる。このようにして高時間分解能で決定された性能データを、プロセス制御手段、特にモデル予測制御手段に、操作変数として伝えることができる。このようにして、経済的に最適化された態様で上記方法を操作することができる。
【0030】
上記方法の好ましい実施形態では、K1の値は95~1375であり、特に好ましくは640~780である。
【0031】
K2の値は、好ましくは20~189であり、特に好ましくは45~85である。
【0032】
K3の値は、好ましくは24~866であり、特に好ましくは40~300である。
【0033】
K1-反応器の設計
指標K1は、反応器の形状のパラメータを互いに関連付ける。変換反応器の一例は、米国特許第4536642号明細書から明らかである。式1は、反応器内部の有効体積VR,eff、反応器内の全ての冷却熱交換器の表面積Atot,ΔT-の合計、反応器内の全ての加熱熱交換器の表面積Atot,ΔT+の合計、及び反応器内のガス経路の長さを、面積因子κ及び温度因子θに関連付ける。
【0034】
R,effは、反応器内部の総体積からすべての内部構造物を除いたものに相当する。VR,effは、望ましくは2~15m3であり、好ましくは4~9m3である。
【0035】
反応器内部の形状は、高さ、幅、形状(例えば、シリンダー又はコーン)などの一般的な構造上の特徴だけでなく、内部に配置された内部構造物によっても決定される。内部構造物は、特に、熱交換器ユニット、補強面、反応ガスを導入するための供給部(導管)、及び反応ガスを分配及び/又は偏向するための装置(例えば、ガス分配板)であってもよい。
【0036】
tot,ΔT-及びAtot,ΔT+は、熱-比表面積として記述される。Atot,ΔT+は、エネルギーが反応器に供給される表面積を包含する。これらは、特に、加熱表面積(例えば、抵抗ヒーターの表面積、システムにエネルギー/熱を供給する熱交換器の表面積)である。Atot,ΔT-は、熱/エネルギーが放散される表面積を包含する。これらは、特に、熱を外部に放散する、熱交換器の表面積及び反応器の壁の表面積である。
【0037】
反応器内の冷却熱交換器の表面積Atot,ΔT-は、好ましくは320~1450m2であり、特に好ましくは450~1320m2である。加熱熱交換器の表面積Atot,ΔT+は、好ましくは90~420m2であり、特に好ましくは120~360m2である。Atot,ΔT-は、通常、反応器の壁のためにAtot,ΔT+よりも大きい。
【0038】
反応器内又は反応器を通るガス経路(反応器へのガス入口からガス出口まで)の長さは、好ましくは5~70m、特に好ましくは25~37mである。
【0039】
原理的には、すべての対象物(例えば、内部の直径、内部構造物の外周、熱-比表面積)の測定は、例えば、レーザー測定/3Dスキャン(例えば、ZEISS COMET L3D 2)用いて実施することができる。これらの寸法は、通常、反応器メーカーの文献から、及び/又はその設計図面の参照からも知ることができるが、それらに基づいて計算してもよい。
【0040】
面積因子κは、反応ガスが接触する可能性のある、活性/触媒活性な表面積と不活性な表面積との商である。したがって、κは、反応に関与するすべての表面積の比率であり、式2から導かれる。
【0041】
【数4】
【0042】
式2中、
active = 副生成物の生成に影響を与える表面積[m2]、
cat = 副生成物に触媒効果を持つ表面積[m2]、及び
passive = 副生成物の生成に影響を与えない表面積[m2]。
【0043】
HTCに対して不活性な表面積は、原理的に、反応に悪影響を与えないことから好ましい。不活性な表面積とは、例えば、SiC層などの保護層が設けられた表面積であり、したがって、生成物の形成に関してだけでなく、副生成物の形成に関しても不活性である。また、保護層は、腐食を防止することもできる。例えば、コーティングされていないグラファイトの表面積は、水素によって攻撃され、メタンが放出される可能性がある。メタンからは、さらなる副生成物が発生する可能性がある。
【0044】
触媒効果を有する表面積とは、特に、生成物の形成に肯定的な効果を有する一方で、生成物の形成と副生成物の形成との両方に非選択的に有利な表面積を意味すると理解されるべきである。触媒作用のある表面積は、特に触媒活性層でコーティングされている。
【0045】
活性な表面積は、副生成物の形成に有利な表面積である。例えば、コーティングされていないグラファイトの表面積などが挙げられる。
【0046】
通常、反応器の内部構造物の設計は複雑であることから(例えば、ガス分配用のシリンダー状部品で、必要に応じて穴及び鋭利なエッジが設けられているもの;押し込み式やねじ式の部品など)、すべての表面積を不活性な表面積の形態にすることは基本的に不可能である。かなりのコストをかけて不活性な表面積の割合を増やすことはできるが、それはプロセス全体の経済性を損なうことになる。さらに、活性な表面積の形態にすべき表面積もある。例えば、抵抗ヒーターの部品の場合、プロセス中の意図的な浸食は、質量、ひいては温度プロファイルが連続的に変化することを意味することから、有利である。これは、意図的な局所的偏差、したがって黒鉛の攻撃の分配をもたらす。この分布が地理的に非常に限定されていないと、損傷が発生し、反応器が早期に破損する可能性がある。反応器内の全表面積(反応ガスが接触する表面積)の20%以下が、活性な表面積及び/又は触媒表面積の形態であることが好ましい。また、反応器内の全表面積の少なくとも20%が不活性な表面積の形態であることがさらに好ましい。
【0047】
必要に応じて存在する触媒は、反応器内部の表面積上のコーティングの形態であってもよい。
【0048】
触媒は、好ましくは、Fe、Cr、Ni、Co、Mn、W、Mo、V、P、As、Sb、Bi、O、S、Se、Te、Ti、Zr、C、Ge、Sn、Rh、Ru、Pt、Pd、Pb、Cu、Zn、Cd、Mg、Ca、Sr、Ba、B、Al、Y及びClからなる群からの1つ以上の元素を含む。触媒は、特に好ましくは、Fe、Ni、Cu、Cr、Co、Rh、Ru、Pt、Pd、Zn及びこれらの混合物からなる群から選択される。触媒活性元素は、コーティング中に一定の割合で存在してもよい。該元素は、例えば、コーティング中に、酸化形態若しくは金属形態で、塩化物として、ケイ化物として、又は他の冶金相中に存在してもよい。コーティングは、特に、合金成分Ni、Cu、Fe及びMoを含む高密度タングステン合金であってもよい。
【0049】
表面積Apassive、Aactive、Acatの合計は、好ましくは800~2900m2、特に好ましくは980~2650m2である。
【0050】
式1における温度因子θは、反応器内及び/又は反応器での温度を説明し、式3から導かれる。
【0051】
【数5】
【0052】
式3中、
gas,out = ガス出口温度[℃]、
gas,in = ガス入口温度[℃]、及び
gas,control = 制御温度[℃]。
【0053】
gas,inは、好ましくは80℃~160℃であり、特に好ましくは110℃~160℃である。Tgas,outは、好ましくは80℃~400℃であり、特に好ましくは200℃~320℃である。Tgas,controlは、好ましくは800℃~1200℃であり、特に好ましくは900℃~1000℃である。
【0054】
温度は、反応器入口の直上流及び反応器出口の直下流の導管内において、ガス流中で(例えば、PT100素子を用いて)測定される。Tgas,controlは、例えば米国特許第4536642号明細書に記載されているように、反応空間で測定される。
【0055】
原理的に、Tgas,inとTgas,outとの差が大きいと、より多くの追加エネルギーを供給する必要がある。この差が大きくなると、上記方法の経済性が悪化する。
【0056】
K2-反応ガスの組成
無次元の指標K2は、反応器に入る前の反応ガスの組成を式4により表す。K2は、反応ガスの純度Rtot,gasに加えて、特に、STCの供給量
【数6】
(STCの体積流量)と水素の供給量
【数7】
(H2の体積流量)との比で決定される。反応器に入る前の反応ガスの純度Rtot,gasは、特に、主成分であるSTC及びH2、さらに、任意に存在するさらなるクロロシランにも関する。
【0057】
STCの体積流量
【数8】
は、好ましくは600~5800Nm3/hであり、特に好ましくは1100~4500Nm3/hである。また、H2の体積流量
【数9】
は、好ましくは750~13,500Nm3/h、特に好ましくは1350~9000Nm3/hである。体積流量は、反応器入口上流の導管内で、例えばコリオリ流量計を用いて測定することができる。
【0058】
反応ガスは、HnSiCl4-n(n=1、3)、HmCl6-mSi2(m=2~6)、HqCl6-qSi2O(q=0~4)、(CH3xySiCl4-x-y(x=0~4、y=0又は1)、CH4、C26、C410、C512、C614、CO、CO2、O2、Cl2、N2からなる群から選択される1つ以上の成分をさらに含んでもよい。Rtot,gasが主成分であるH2及びSTCのみに関することが好ましい場合がある。
【0059】
さらなるクロロシランが、ジクロロシラン及び/又は一般式HmCl6-mSi2(m=0~6)のジシランであることが好ましい。
【0060】
反応ガスにおける、STC及びH2、並びに任意に存在するさらなるクロロシランの含有量は、好ましくは少なくとも97%、好ましくは少なくとも98%、特に好ましくは少なくとも99%である。説明されているパーセンテージは、純度Rtot,gasに相当する。
【0061】
反応ガスの組成は、通常、反応器に供給する前に、ラマン分光法や赤外分光法、ガスクロマトグラフィーによって測定される。これは、抜き取り検査でサンプルを採取し、その後「オフライン分析」することにより行うか、又は、システムに組み込まれた「オンライン」分析機器を使用して行うことができる。
【0062】
K3-反応条件
指標K3は、式5により、HTCの一般的に最も重要なパラメータを互いに関連付けている。ここには、流体の動粘性率νF、流体密度ρF、有効反応器体積VR,eff、反応器入口と反応器出口との間の反応ガスの差圧pdiff、及び電力Welが含まれる。
【0063】
流体密度ρF及び動粘性率νFは、プロセスエンジニアリングソフトウェアを用いた(相)平衡状態のシミュレーションによって決定することができる。流体とは、通常、反応器内部のガス状反応混合物を意味すると理解されるべきである。シミュレーションは、物理的パラメータ(例えば、p及びT)を変化させるために、気相及び液相の両方で実際に測定された反応混合物の組成を利用する適合相平衡に基づくのが一般的である。このシミュレーションモデルは、実際の動作状態/操作パラメータを用いて確認することができ、その結果、パラメータρF及びνFに関する操作最適条件を指定することができる。
【0064】
相平衡は、例えば、測定装置(例えば、修正されたRoeck and Sieg再循環装置、例えば、MSK Baraton typ 690、MSK Instruments)を使用して決定することができる。圧力及び温度などの物理的な影響を与える変数を変化させると、物質混合物の状態が変化する。続いて種々の状態を分析して、例えばガスクロマトグラフを用いて成分組成を決定する。状態方程式を改良して相平衡を記述するためには、コンピュータ支援モデリングを使用することができる。データは、プロセスエンジニアリングのソフトウェアプログラムに転送され、相平衡を計算することができる。
【0065】
動粘性率とは、動流体の流れ方向に垂直な方向の運動量移行を表す指標である。動粘性率(kinematic viscosity)νFは、粘性率(dynamic viscosity)と流体密度とにより表すことができる。密度は、例えば、液体の場合はRackett方程式で、気体の場合はPeng-Robinsonなどの状態方程式で近似することができる。密度は、デジタル密度測定器(例えば、DMA 58、Anton Paar)を用いて、ねじり振り子法(固有振動数測定)で測定することができる。
【0066】
動粘性率νFは、好ましくは2.5×10-4~5.1×10-42/sの範囲であり、特に好ましくは2.8×10-4~4.7×10-42/sの範囲である。流体密度ρFは、好ましくは19.5~28kg/m3であり、特に好ましくは21.5~26kg/m3である。
【0067】
電気エネルギーWelは、好ましくは450,000~3,700,000kg・m2/s2であり、特に好ましくは500,000~3,200,000kg・m2/s2である。Welは、通常、抵抗ヒーターを介してのみ反応器に導入される。これらは、反応器のサイズと変換される(加熱される)反応ガスの量とに応じて決められている。
【0068】
反応ガスの差圧pdiffは、好ましくは0.45~3MPaであり、特に好ましくは0.6~2.6MPaである。pdiffを決定するために、反応ガスの供給管内と排出ガスの排出管内との両方での圧力を、例えばマノメーターを用いて測定する。その差からpdiffを算出する。
【0069】
反応器内の絶対圧力は、好ましくは4~16MPaである。
【0070】
上記方法は、ポリシリコンを製造するための統合システムに組み込まれていることが好ましい。統合システムは、好ましくは以下の工程:本発明の方法によりTCSを製造し、製造されたTCSを精製して半導体品質のTCSを得て、好ましくはシーメンス法により、又は顆粒として、ポリシリコンを堆積すること、を含む。
【実施例
【0071】
クロロシラン製造の生産性に対する上記の知見及び相関関係を適用し、指標K1、K2及びK3の範囲(操作範囲)を定義するために、種々のサイズの連続運転される高温変換器に関する詳細な調査を行った。
【0072】
様々な実験Vを行い(表1:V1~V13)、HTCの全体的な最適操作範囲を定義するために、指標の基礎となるパラメータを順に変化させた。K1、K2及びK3の選択されたパラメータの組合せを評価し、転換率[kg/(Nm3)]、すなわち、反応器内で使用されるSTCの量[Nm3]に対して1時間あたりに生成するTCSの量[kg]に基づいて最適な範囲を定義した。転換率15.3kg/Nm3は、生産性が普通から良好であると考えられる。この値を超える転換率であれば、生産性は最適と考えられる。したがって、転換率を因子15.3kg/Nm3で正規化して生産性を示す。最適な生産性は100%超となる。V1~V13は、最適な範囲を決定するために行った複数の実験の代表例として示している。
【0073】
【表2】
【0074】
実験の結果、指標K1、K2及びK3について特許請求された範囲内で上記方法を維持した場合に、HTCによって高い/最適なクロロシランの製造が達成できることが確認された。
図1
【手続補正書】
【提出日】2021-02-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応器内で、水素、テトラクロロシラン、及び必要に応じて少なくとも1種のさらなるクロロシランを含む反応ガスを、必要に応じて触媒の存在下で反応させることにより、クロロシランを製造する方法であって、前記クロロシランが一般式HnSiCl4-n(式中、n=1~3である)を有し、
前記反応器の設計が、指標K1により表され、
前記反応器に入る前の反応ガスの組成が、指標K2により表され、
反応条件が、指標K3により表され、
K1の値が66~2300であり、K2の値が13~250であり、K3の値が7~1470である
ことを特徴とする方法。
【数1】
[式1中、
θ = 温度因子であって、
【数2】
(式3中、
gas,out = ガス出口温度[℃]、
gas,in = ガス入口温度[℃]、及び
gas,control = 制御温度[℃]。)、
κ = 面積因子であって、
【数3】
(式2中、
active = 副生成物の生成に影響を与える表面積[m2]、
cat = 副生成物に触媒効果を持つ表面積[m2]、及び
passive = 副生成物の生成に影響を与えない表面積[m2]。)、
tot,ΔT- = 反応器内の冷却熱交換器の表面積[m2]、
tot,ΔT+ = 反応器内の加熱熱交換器の表面積[m2]、
R,eff = 有効反応器体積[m3]、及び
tot,gas = 反応器内のガス経路の長さ[m]、
tot,ΔT-が、320~1450m2であり、
tot,ΔT+が、90~420m2であり、
R,effが、2~15m3であり、
tot,gasが、5~70mである。]
【数4】
【数5】
[式5中、
el = 電力[kg・m2/s2]、
νF = 前記流体の動粘性率[m2/s]、
ρF = 流体密度[kg/m3]、及び
diff = 反応ガスの差圧[kg/m・s2]、
elが、450,000~3,700,000kg・m2/s2であり、
νFが、2.5×10-4~5.1×10-42/sであり、
ρFが、19.5~28kg/m3であり、
diffが、4.5×105~3×106kg/m・s2である。]
【請求項2】
K1の値が、95~1375であり、好ましくは640~780であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
K2の値が、20~189であり、好ましくは45~85であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
K3の値が、24~866であり、好ましくは40~300であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記有効反応器体積VR,effが、4~9m3であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記反応器内の加熱熱交換器の前記表面積Atot,ΔT+が、120~360m2であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記反応器内の冷却熱交換器の前記表面積Atot,ΔT-が、450~1320m2であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記反応器内の前記ガス経路の前記長さltot,gasが、25~37mであることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記触媒が、前記反応器内部における表面積上のコーティングの形態であることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記四塩化ケイ素の体積流量
【数6】
が、1100~4500Nm3/hであることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記水素の体積流量
【数7】
が、1350~9000Nm3/hであることを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記反応ガスにおける、四塩化ケイ素、水素、及び任意に存在するさらなるクロロシランの含有量が、少なくとも97%であり、好ましくは少なくとも98%、特に好ましくは少なくとも99%であることを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
さらなるクロロシランが、一般式HmCl6-mSi2(式中、m=0~5である)のジシラン及び/ジクロロシランであることを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記動粘性率νFが、2.8×10-4~4.7×10-42/sであることを特徴とする、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記流体密度ρFが、21.5~26kg/m3であることを特徴とする、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記電気エネルギーWelが、500,000~3,200,000kg・m2/s2であることを特徴とする、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記反応ガスの前記差圧pdiffが、6×105~2.6×106kg/m・s2であることを特徴とする、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【国際調査報告】