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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-25
(54)【発明の名称】メタノールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 29/153 20060101AFI20220217BHJP
   C07C 31/04 20060101ALI20220217BHJP
   B01J 31/24 20060101ALI20220217BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220217BHJP
【FI】
C07C29/153
C07C31/04
B01J31/24 M
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021538403
(86)(22)【出願日】2019-12-10
(85)【翻訳文提出日】2021-08-26
(86)【国際出願番号】 EP2019084355
(87)【国際公開番号】W WO2020136003
(87)【国際公開日】2020-07-02
(31)【優先権主張番号】102018133689.6
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521285067
【氏名又は名称】クリエイティブクオンタム ゲーエムベーハー
(71)【出願人】
【識別番号】521285078
【氏名又は名称】ライブニッツ-インスチチュート フュア カタライセ イー.ヴイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】チェシンスキ、マレク パウエル
(72)【発明者】
【氏名】ベラー、マットヒアス
(72)【発明者】
【氏名】リャブチュク、パヴェル
(72)【発明者】
【氏名】ユンゲ、カトリン
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA06
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BA47A
4G169BB05A
4G169BC02A
4G169BC03A
4G169BC04A
4G169BC09A
4G169BC29A
4G169BC62A
4G169BC62B
4G169BC66A
4G169BC67A
4G169BE06A
4G169BE13A
4G169BE15A
4G169BE15B
4G169BE16A
4G169BE21A
4G169BE25A
4G169BE27A
4G169BE27B
4G169BE37A
4G169BE37B
4G169BE38A
4G169BE38B
4G169BE42A
4G169BE42B
4G169BE45A
4G169BE45B
4G169CC27
4H006AA02
4H006AC41
4H006BA16
4H006BA19
4H006BA47
4H006BA48
4H006BA61
4H006BB11
4H006BB43
4H006BC10
4H006BC11
4H006BC31
4H006BE20
4H006BE40
4H006FE11
4H039CA60
4H039CB20
(57)【要約】
本発明は、CO及びH2の触媒反応のための方法に関する。触媒は、中心イオンとしての遷移金属と少なくとも1つのルイス塩基性配位子とである。少なくとも1つの求核促進剤とともに、COとH2は生成物としてメタノールに変換される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CO及びH2の触媒反応のための方法であって、
触媒及び少なくとも1つの求核促進剤を用いて、CO及びH2の触媒反応により、メタノールを生成し、
前記触媒は、遷移金属と少なくとも1つのルイス塩基性配位子を含む、
方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、前記触媒は、N、P、O及びSを含む群から選択される少なくとも1つの原子を備える少なくとも1つの配位子を有する有機金属錯体である、
方法。
【請求項3】
請求項2記載の方法において、前記配位子は、ピンサー型錯体である、
方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の方法において、中心イオンは、中心イオンとしてMn、Fe又はMoを含む群から選択されるイオンである、
方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の方法において、前記触媒は、以下の錯体からなる群から選択される、
方法。
【化1】

【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の方法において、該方法は、塩基の存在下で行われる、
方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の方法において、塩基は、リチウム、ナトリウム、カリウム又はカルシウムのうちの少なくとも1つの水酸化物及び/又はアルコキシドである、
方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の方法において、前記促進剤は、窒素を含有する、
方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の方法において、前記促進剤は、少なくとも1つのN-H基を含有し、前記促進剤は、特に、第一級アミン、第二級アミン、第一級アニリン、及び窒素複素環、特にピロール、インドール、イミダゾール、カルバゾール及びベンゾイミダゾール、を含む群から選択される、
方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の方法において、前記促進剤は、以下の化合物を含む群から選択される、
方法。
【化2】

【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の方法において、前記促進剤と塩基との比r1が1:1~3:1であり、及び/又は塩基と前記触媒との比r2が25:1~100:1である、
方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の方法において、該方法は、200℃未満の温度で行われる、
方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の方法において、該方法は、非極性溶媒中で行われ、特にシクロヘキサンが溶媒として使用される、
方法。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の方法において、全ての化合物を、0.1~40バールの分圧で導入する、
方法。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の方法において、シクロヘキサン中において、1~10μmolのMn-PNP錯体、0.2~1mmolのアニリン及び0.1~0.5tBuOKの存在下で、120~150℃の温度で、互いに独立して0.1~40バールの圧力でCO及びH2からメタノールを生成する、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中心イオンとしての遷移金属と少なくとも1つのルイス塩基性配位子とを含む触媒錯体と、求核促進剤とを用いて、COとH2とを触媒反応させて、メタノールを生成する、CO及びH2の触媒反応のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタノールは、式CH3OH(水酸基に結合したメチル基、しばしばMeOHと略記される)で表される化学物質であり、化学工業における重要な要素である。メタノールは、燃料成分として使用できるだけでなく、化学工業における基本的な構成要素としても使用され、2018年の生産量は1億トンを超えている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、全ての公知の反応機構における欠点は、反応を比較的苛酷な条件下、特に250℃以上の温度及び100バール以上の高圧下で行わなければならないことである。このため、現在のプロセスは非常にエネルギーを消費するものとなっており、経済的観点及び環境的観点の両方から問題である。エネルギー消費を低減することによって、事業運営費(opex)及び設備投資(carpex)のコストを低減し、プロセスの持続可能性を改善することができる。
【0004】
従って、本発明は、エネルギー必要量が従来のプロセスよりも大幅に低いメタノール製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的は、請求項1の特徴を有する方法によって達成される。
【0006】
該方法は、中心イオンとしての遷移金属及びルイス塩基配性位子を有する触媒錯体によって、CO及びH2を変化させる。該反応はまた、求核促進剤(nucleophile promoter)の存在下で行われる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明では、一酸化炭素の水素化に対する概念的に新規なアプローチが開示される。この方法は、COの捕捉及びH2含有雰囲気下での促進剤によるCOのホルムアミド又はギ酸メチルへの変換、及びそれに続く、1つの工程による、得られた中間体の水素化、すなわちメタノールへの水素化を含む。CO固定は、アミンや窒素複素環のような種々の求核促進剤を用いて達成することができる。アミド又はギ酸メチルの水素化分解に関しては、Mn、Fe及びRuで促進することができる。
【0008】
可能な反応経路は以下のように記述される。
【0009】
【化1】
【0010】
1.金属イオンへのCO添加。
2.ルイス塩基の助けを借りて促進剤のX-H結合を切断し、COに添加される。この後、カルボニル化したH-XをH-CO-Xとして脱離。
3.H-CO-Xの脱離。
4.触媒によるH-CO-Xの水素化。
5.ホルムアルデヒドの脱離。
6.ホルムアルデヒドの水素化によるメタノールの生成。
【0011】
この反応経路では、触媒M-LB及び促進剤X-Hの活性中心が反応に不可欠である。
【0012】
メタノール合成を可能にする重要なことは、COと適合し且つH2含有雰囲気下でメタノールを生成する、触媒と促進剤との適切な組み合わせを見出すことである。従って、この研究の初期段階において、H2/CO混合物を用いて、アミドをアミンとメタノールに開裂する、又はエステルをアルコールに開裂する種々の遷移金属ルイス塩基性配位子錯体の有効性を調べた。
【0013】
本発明では、反応全体が1つの混合物で行われ、時間的及び/又は局所的に分離されたステップを必要としないことが、重要である。
【0014】
さらに、プロセスは、バッチプロセスとして、又は連続プロセスとして行うことができる。
【0015】
反応混合物中に追加の化合物、特にCO2を有することが可能である。これは、逆水性ガスシフト反応のような、異なる供給源からの合成ガスの使用を、洗浄工程無しに可能にする。
【0016】
触媒は、リード構造(lead structure)M-LBを有する金属触媒である。ここで、Mは金属イオンであり、LBは少なくとも1つのルイス塩基の中心である。最も単純な形態では、触媒は、以下の構造式(1)に示されるMxy(x=1~4、y=1~2)として記載することができる。
【0017】
【化2】
【0018】
この最も簡単な形態では、触媒は、典型的には配位子を含まない固体化合物である。
【0019】
しかしながら、以下の構造式(2)に示すような有機金属錯体も可能である。ここで、Mは金属イオンであり、LBは少なくとも1つのルイス塩基の中心である。Rは、N、P、O又はSを含む群から選択される少なくとも1つの原子を含む少なくとも1つの配位子である。この変形形態では、LBは、配位子の原子とは別に、N、P、O、S又はCを含む群から選択される少なくとも1つの原子を含有する。R及びLBは、例えば、C2(-C2H4-)又はC3(-C3H6-)鎖によって結合することができる。キレート配位子が特に好ましい。この構造式(2)によれば、配位子はオルト-アミノアニリンであってもよい。
【0020】
【化3】
【0021】
以下の構造式(3)は、2つの異なる配位子を有する他の有機金属錯体を示す。この構造式によれば、配位子は、例えば、第3のキレート残基を有するオルト-アミノアニリン誘導体であってもよい。
【0022】
【化4】
【0023】
特に好ましいのは、Mn、Fe、Cr、Mo、W、Re、Co、Rh、Ir、Ni及びPdの群から選択される金属イオンと、少なくとも1つの窒素原子を含有するルイス塩基と、それぞれ少なくとも1つのリン、窒素又は硫黄原子を含有するR、R1及び/又はR2とを有する系である。
【0024】
配位子は、ピンサー型錯体も可能である。それは、R1=P(iPr)2、R2=P(iPr)2、及びLB=NHであるPNPのピンサー型の群から選択することができる。他のピンサー型としては、PNN、NNN、NNS又はNNCであってもよい。ここで、PはP=PPh2、PEt2であり、NはN=NH2、NEt2、ピリジン、ピロール、インドール、イソインドール、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、アニリンであり、SはS=SMe、SEt、SPhである。
【0025】
遷移金属は、マンガン、鉄、モリブデン、クロム、コバルト、ルテニウム、ロジウム、ニッケル又はパラジウムからなる群から選択されるイオンである。マンガン、鉄又はモリブデンは特に良好な能力を示す。特に、中心イオンとしてのマンガンの使用は、高い触媒回転数(TON)を示す。
【0026】
また、プロセスは塩基の存在下で行われることが好ましく、これにより中心イオンでの配位の安定化や脱プロトン化がさらに可能になる。特に、リチウム、ナトリウム、カリウム又はカルシウムのうちの少なくとも1つの元素の水酸化物及び/又はアルカリ酸化物を使用できることが見出された。
【0027】
促進剤がCO水素化プロセスにおいて重要な役割を果たすことが見出された。特に、第一級アミン、第二級アミン、第一級アニリン及び窒素複素環(ピロール、インドール、イミダゾール、カルバゾール、ベンゾイミダゾール)等の促進剤が活性であることが見出された。
【0028】
50より高いTONを示す促進剤は、生成されるメタノールの量が窒素促進剤の量を超えることを示すので、特に注目される。最も有効な促進剤は、第二級アニリン、ピロール、インドール及びカルバゾールである。
【0029】
原理上は、以下の促進剤が試験に成功した。

【0030】
【化5】
【0031】
【化6】
【0032】
促進剤と塩基との比r1が1:1~3:1であること、及び/又は塩基と触媒との比r2が25:1~100:1であることが特に好ましいことも示された。最も高い触媒回転数(turnover rate)がそこで見出された。
【0033】
さらに、この方法を160℃より低い温度で実施することが特に有利であることが判明した。従って、試料の温度は160℃未満である。これにより、さらなるエネルギー節約が可能になる。
【0034】
反応は、(触媒に対して)弱い配位で又は非極性溶媒中で、起こることが有利である。ここではシクロヘキサンが特に好ましい。これにより、触媒の活性中心との相互作用が確実に防止される。
【0035】
CO及びH2は両方とも、好ましくは0.1~50バールの分圧でプロセスに導入される。特に、0.1~25バールの圧力のCO、30~50バールの圧力の水素が系に導入される。水素の圧力をCOの圧力よりもわずかに高くすることで、下流の水素化が実際に可能な限り完全に行うことが保証される。COについては、それらの圧力をさらに増加させる必要はない。
【0036】
さらに、均一な触媒作用の反応を実施することが可能である。均一系触媒反応の利点は、表面における吸着、脱着等の追加的な物質輸送効果や、限られた表面積による追加的な制限がないことである。
【0037】
しかしながら、同時に、本発明による錯体を表面上で安定化させ、不均一触媒還元を適用することも考えられる。該反応の利点は、一方では、化学工業で使用されるプロセスに対応するので、触媒の交換と操作条件の変更だけで済むことであり、他方では水素触媒プロセスは通常、触媒の分離を容易にすることである。
【0038】
従って、10~40バールの圧力でのCO及びH2からのメタノール製造が特に好ましく、各成分の圧力は他の成分の圧力とは独立である。温度は120~150℃である。触媒は1~10mmolの濃度で存在する。マンガン-PNP錯体が触媒として使用される。さらに、0.2~1mmolのアニリンを促進剤として使用するか、又は0.1~0.5mmolを塩基として使用する。全反応をシクロヘキサン中で行う。
【0039】
以下の実施例は、本発明の個々の態様を示す。記載された及び/又は図示された全ての特徴は、それらが特許請求の範囲に記載されているかどうか又は参照されているかどうかに関わらず、個別に又は任意の組み合わせで、本出願の主題を構成する。
【0040】
[さらに特定された触媒]
特定された反応経路に従って、他の触媒を、量子力学的バーチャルハイスループットスクリーニングによって、特定確認することができた。反応の最も重要な工程は、カルボニル錯体への促進剤の添加の自由エネルギー(スキームのステップ2)及びホルムアミドの脱離の自由エネルギー遷移障壁(TS)(スキームのステップ3)である。

【0041】
【化7】
【0042】
【表1】
【0043】
[CO/H2を用いたマンガン錯体によるアミドの水素化の一般的手順]
磁気撹拌棒を備えた火炎乾燥した8mLバイアルに、5μmmolのMn-1、0.25mmolのアミド及び2mLの乾燥溶媒を入れた。バイアルをセプタムで蓋をし、混合物を10秒間撹拌した。次いで、反応混合物をArで30秒間パージし、0.125mmolの塩基(t-BuOK)を添加した。セプタムを針で穿刺し、バイアルを300mLオートクレーブに入れた。オートクレーブを一酸化炭素で5回パージし(5~7atm)、次いで5~20atmに加圧した。オートクレーブを水素ラインに接続し、全圧50atmまで充填した。オートクレーブを予熱したアルミニウムブロックに入れ、150℃で20時間、700rpmで撹拌した。次いで、反応物を氷中に置き、冷却し、減圧した。反応バイアルをGC及びNMR分析によって分析し、メタノール及び対応するアミンの量を、n-ヘキサデカンを標準として、GCによって決定した。
【0044】
[CO/H2のメタノールへの変換のための一般的手順]
磁気撹拌棒を備えた火炎乾燥した8mLバイアルに、5μmmolのMn-1、0.25~6.0mmolの促進剤及び2mLの乾燥溶媒を入れた。バイアルをセプタムで蓋をし、混合物を10秒間撹拌した。次いで、反応混合物をArで30秒間パージし、0.125mmolの塩基(t-BuOK)を添加した。セプタムを針で穿刺し、バイアルを300mLオートクレーブに入れた。オートクレーブを一酸化炭素で5回パージし(5~7atm)、次いで20atmに加圧した。オートクレーブを水素ラインに接続し、全圧50atmまで充填した。オートクレーブを予熱したアルミニウムブロックに入れ、150℃で20時間、700rpmで撹拌した。次いで、反応物を氷中に置き、冷却し、減圧した。反応バイアルをGC及びNMR分析によって分析し、メタノールの量を、n-ヘキサデカンを標準として、GCによって決定した。
【国際調査報告】