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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-25
(54)【発明の名称】メタン生成のシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 3/26 20210101AFI20220217BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20220217BHJP
   C25B 3/03 20210101ALI20220217BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20220217BHJP
   C25B 13/02 20060101ALI20220217BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20220217BHJP
   C25B 11/054 20210101ALI20220217BHJP
   C25B 11/065 20210101ALI20220217BHJP
   C25B 11/081 20210101ALI20220217BHJP
   C25B 11/075 20210101ALI20220217BHJP
   C25B 11/091 20210101ALI20220217BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20220217BHJP
   C07C 9/04 20060101ALI20220217BHJP
   C07C 11/04 20060101ALI20220217BHJP
   C07C 31/08 20060101ALI20220217BHJP
   C07C 1/02 20060101ALI20220217BHJP
   C07C 29/15 20060101ALI20220217BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220217BHJP
【FI】
C25B3/26
C25B9/23
C25B3/03
C25B9/00 G
C25B13/02 301
C25B11/052
C25B11/054
C25B11/065
C25B11/081
C25B11/075
C25B11/091
C25B1/04
C25B9/00 A
C07C9/04
C07C11/04
C07C31/08
C07C1/02
C07C29/15
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021538665
(86)(22)【出願日】2020-01-07
(85)【翻訳文提出日】2021-08-27
(86)【国際出願番号】 US2020012600
(87)【国際公開番号】W WO2020146402
(87)【国際公開日】2020-07-16
(31)【優先権主張番号】62/789,371
(32)【優先日】2019-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/864,122
(32)【優先日】2019-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520271481
【氏名又は名称】オプス-12 インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】フネナー、サラ
(72)【発明者】
【氏名】カシ、アジャイ アール.
(72)【発明者】
【氏名】クール、ケンドラ ピー.
(72)【発明者】
【氏名】ジョージ、モーガン
(72)【発明者】
【氏名】マ、シチャオ
(72)【発明者】
【氏名】フオ、ジヤン
(72)【発明者】
【氏名】ケイブ、エトーシャ アール.
(72)【発明者】
【氏名】フア、ケネス エックス.
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC29
4H006AC41
4H006BA05
4H006BA82
4H006BE20
4H006FE11
4H039CA21
4H039CA60
4H039CB20
4H039CB40
4K011AA23
4K011AA68
4K011BA06
4K011DA10
4K021AC02
4K021AC05
4K021AC09
4K021BA02
4K021BA17
4K021DB31
4K021DB36
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC15
(57)【要約】
本明細書では、メタン(CH)生成のための酸化炭素(CO)還元反応器(CRR)の動作のためのシステムおよび方法が提供される。システムおよび方法の複数の実施形態はまた、アルコール類、カルボン酸、およびエチレン(CHCH)などその他の炭化水素を含む、その他の有機化合物を生成するために使用される。様々な実施形態によると、システムおよび方法は、以下の特徴のうちの1つまたは複数によって特徴付けられ得る。いくつかの実施形態では、膜電極アセンブリ(MEA)が、比較的低い触媒充填を有するカソード触媒層を備える。いくつかの実施形態では、両極性MEAが、薄いカチオン伝導性層と、薄いアニオン伝導性層とを備え、カチオン伝導性層はアニオン伝導性層よりも厚い。他の複数の実施形態において、カソード触媒とアノード触媒とを橋渡しするために純アニオン交換ポリマーのみの膜が使用され得る。これらおよびその他の特徴が、以下でさらに記載される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素、カルボン酸、またはアルコールから選択される生成物の生成を選択的に促進する酸化炭素還元触媒を有するカソード触媒層と、
水の酸化を促進する触媒を有するアノード触媒層と、
前記カソード触媒層と前記アノード触媒層との間に、これらに接触して配置されたポリマー電解質膜(PEM)層と
を備え、
前記カソード触媒層は、1mg/cm未満の触媒充填を有する、膜電極アセンブリ(MEA)。
【請求項2】
前記触媒充填は、0.5mg/cm未満である、請求項1に記載のMEA。
【請求項3】
前記触媒充填は、0.25mg/cm未満である、請求項1に記載のMEA。
【請求項4】
前記触媒充填は、0.15mg/cm未満である、請求項1に記載のMEA。
【請求項5】
前記酸化炭素還元触媒は遷移金属を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のMEA。
【請求項6】
前記酸化炭素還元触媒は銅を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載のMEA。
【請求項7】
前記銅は純銅である、請求項6に記載のMEA。
【請求項8】
前記銅はナノ粒子の混合物状であり、前記ナノ粒子の混合物は、銅ナノ粒子を含み、銀、金、およびニッケルの1つまたは複数を含むナノ粒子をさらに含む、請求項6に記載のMEA。
【請求項9】
前記銅は銅合金である、請求項6に記載のMEA。
【請求項10】
前記MEAに接触する塩溶液からの塩イオンをさらに備え、前記塩溶液中の前記塩イオンは、少なくとも約10μMの濃度を有する、請求項1から9のいずれか一項に記載のMEA。
【請求項11】
前記MEAに接触する塩溶液からの塩イオンをさらに備え、前記塩溶液中の前記塩イオンは、少なくとも約10mMの濃度を有する、請求項1から10のいずれか一項に記載のMEA。
【請求項12】
前記生成物はメタンであり、前記塩イオンはナトリウムイオンである、請求項10または11に記載のMEA。
【請求項13】
前記生成物は、2つ以上の炭素原子を含み、前記塩イオンは、カリウム、セシウム、ルビジウム、またはそれらの任意の組み合わせのイオンを含む、請求項10または11に記載のMEA。
【請求項14】
前記MEAは両極性であり、カチオン伝導性ポリマーの少なくとも1つの層、およびアニオン伝導性ポリマーの少なくとも1つの層を有する、請求項1から13のいずれか一項に記載のMEA。
【請求項15】
前記PEM層は、ポリマー電解質層およびカソードバッファ層を含む、請求項1から14のいずれか一項に記載のMEA。
【請求項16】
前記ポリマー電解質層は、カチオン伝導性ポリマーを含み、前記カソードバッファ層は、アニオン伝導性ポリマーを含む、請求項15に記載のMEA。
【請求項17】
前記ポリマー電解質層は、厚さが20~60ミクロンである、請求項16に記載のMEA。
【請求項18】
前記ポリマー電解質層の厚さの前記カソードバッファ層の厚さに対する比率が少なくとも3:1である、請求項16または17に記載のMEA。
【請求項19】
前記カソードバッファ層は、厚さが20ミクロン以下である、請求項16から18のいずれか一項に記載のMEA。
【請求項20】
前記MEAは、アニオン交換膜(AEM)のみのMEAである、請求項1から13のいずれか一項に記載のMEA。
【請求項21】
前記AEMは、厚さが10~75ミクロンである、請求項20に記載のMEA。
【請求項22】
前記酸化炭素還元触媒は、担持構造に担持されている、請求項1から21のいずれか一項に記載のMEA。
【請求項23】
前記担持構造は炭素を含む、請求項22に記載のMEA。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[参照による組み込み]
本出願の一部として、本明細書と同時にPCTリクエストフォームが出願されている。同時に出願されたPCTリクエストフォームに記載されているように、本出願が利益または優先権を主張する各出願は、そのすべてが、すべての目的のために、参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0002】
[政府支援の声明]
本発明は、アメリカ航空宇宙局によって授与された授与番号NNX17CJ02Cの下で政府の支援を受けて行われた。政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0003】
本開示は、一般に、電解酸化炭素還元分野、具体的には、メタンおよびその他の炭化水素の生成のための電解酸化炭素反応器の動作のためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0004】
酸化炭素(CO)の還元のための膜電極アセンブリ(MEA)は、カソード層、アノード層、およびカソード層とアノード層との間のイオン伝達を提供するポリマー電解質膜(PEM)を備えることができる。カソード触媒層とも呼ばれ得るカソード層は、メタンまたはその他の所望の生成物を生成する反応に対して優先的に触媒作用を及ぼす触媒粒子を含むことができる。触媒充填とは、MEAの幾何学的面積に対する触媒材料の量を指す。
【0005】
本明細書に含まれる背景および文脈上の説明は、本開示の文脈を一般的に提示することのみを目的として提供されている。本開示の多くは、発明者の研究を提示し、そのような研究が背景セクションに記載されているという理由、または本明細書の他の箇所で文脈として提示されているという理由だけで、そのような研究が先行技術として認められることを意味しない。
【発明の概要】
【0006】
本開示の一態様は、炭化水素、カルボン酸、またはアルコールから選択される生成物の生成を選択的に促進する酸化炭素還元触媒を有するカソード触媒層と、水の酸化を促進する触媒を有するアノード触媒層と、上記カソード触媒層と上記アノード触媒層との間に、これらに接触して配置されたポリマー電解質膜(PEM)層とを備え、上記カソード触媒層は、1mg/cm未満の触媒充填を特徴とする、膜電極アセンブリ(MEA)に関する。
【0007】
いくつかの実施形態では、上記触媒充填は、0.5mg/cm未満である。いくつかの実施形態では、上記触媒充填は、0.25mg/cm未満である。いくつかの実施形態では、上記触媒充填は、0.15mg/cm未満である。いくつかの実施形態では、上記触媒充填は、0.1mg/cm未満または0.05mg/cm未満である。
【0008】
いくつかの実施形態では、上記酸化炭素還元触媒は遷移金属を含む。いくつかの実施形態では、上記酸化炭素還元触媒は、純銅、銅合金、およびナノ粒子の混合物を含む様々な形態を取り得る銅を含み、上記混合物は、銅ナノ粒子を含み、銀、金、およびニッケルの1つまたは複数を含むナノ粒子をさらに含む。
【0009】
いくつかの実施形態では、上記MEAは、上記MEAに接触する塩溶液からの塩イオンを備え、上記塩溶液中の上記塩は、少なくとも約10μMの濃度を有する。いくつかのそのような実施形態において、上記塩溶液中の上記塩は、少なくとも約10mMの濃度を有する。いくつかの実施形態では、上記生成物はメタンであり、上記塩イオンはナトリウムイオンである。いくつかの実施形態では、上記生成物は、2つ以上の炭素原子を含み、上記塩イオンは、カリウム、セシウム、ルビジウム、またはそれらの任意の組み合わせのイオンを含む。
【0010】
いくつかの実施形態では、上記MEAは両極性であり、カチオン伝導性ポリマーの少なくとも1つの層、およびアニオン伝導性ポリマーの少なくとも1つの層を有する。いくつかの実施形態では、上記PEM層は、ポリマー電解質層およびカソードバッファ層を含む。いくつかのそのような実施形態では、上記ポリマー電解質層は、カチオン伝導性ポリマーを含み、上記カソードバッファ層は、アニオン伝導性ポリマーを含む。いくつかの実施形態では、上記ポリマー電解質層は、厚さが20~60ミクロンである。いくつかの実施形態では、上記ポリマー電解質層の厚さの上記カソードバッファ層の厚さに対する比率が少なくとも3:1である。いくつかの実施形態では、上記カソードバッファ層は、厚さが20ミクロン以下である。
【0011】
いくつかの実施形態では、上記MEAは、アニオン交換膜(AEM)のみのMEAである。いくつかのそのような実施形態では、上記AEMは、厚さが10~75ミクロンである。
【0012】
いくつかの実施形態では、上記酸化炭素還元触媒は、担持構造に担持されている。いくつかのそのような実施形態では、上記担持構造は炭素を含む。
【0013】
本開示の別の態様は、本明細書に記載のようなMEAを提供する段階と、高選択性をもたらす電流密度で電流を印加する段階とを含む、MEAを動作させる方法として実装され得る。いくつかの実施形態では、0.001~0.01mg/cmのカソード触媒充填について、100~200mA/cmの電流密度の電流が印加され得、0.01~0.04mg/cmの充填について、100~300mA/cmの電流密度の電流が印加され得、0.01~0.06mg/cmの充填について、300~400mA/cmの電流密度の電流が印加され得、0.02~0.12mg/cmの充填について、400~500mA/cmの電流密度の電流が印加され得、0.04~0.2mg/cmの充填について、500~600mA/cmの電流密度の電流が印加され得、および0.1~0.025mg/cmの充填について、600mA/cmを超える電流密度の電流が印加され得る。
【0014】
本開示の別の態様は、スタックに配置された1つまたは複数の膜電極アセンブリ(MEA)を有するCO還元反応器を備えるシステムとして実装され得る。各MEAは、(i)炭化水素、カルボン酸、またはアルコールに対して酸化炭素の還元を促進し、充填を含むCO還元触媒を有するカソードと、(ii)酸化を促進する触媒を有するアノードと、(iii)上記カソードと上記アノードとの間に配置されたポリマー電解質膜(PEM)層と、CO還元反応器に印加される電流を制御するよう構成された電源コントローラとを備える。上記電源コントローラは、CO還元反応器の平常動作中、0.001~0.01mg/cmのカソード触媒充填について、100~200mA/cmの電流密度の電流が印加され得、0.01~0.04mg/cmの充填について、100~300mA/cmの電流密度の電流が印加され得、0.01~0.06mg/cmの充填について、300~400mA/cmの電流密度の電流が印加され得、0.02~0.12mg/cmの充填について、400~500mA/cmの電流密度の電流が印加され得、0.04~0.2mg/cmの充填について、500~600mA/cmの電流密度の電流が印加され得、および0.1~0.025mg/cmの充填について、600mA/cmを超える電流密度の電流が印加され得るように電流密度を印加するよう構成される。
【0015】
本開示のこれらおよび他の特徴は、関連付けられる図面を参照して以下により詳細に提示される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A】本開示の様々な実施形態に記載の3つの膜電極アセンブリ(MEA)の配置の例示である。
【0017】
図1B】特定の実施形態に記載の触媒充填に対するメタン選択性の依存を示すプロットである。
【0018】
図2】特定の実施形態に記載の触媒粗度係数に対するメタン選択性の依存を示すプロットである。
【0019】
図3】銅の充填に応じた異なる電流密度で達成された最大メタン収率を示すプロットである。
【0020】
図4】様々な電流密度について最適な銅充填を示すプロットである。
【0021】
図5】両極性MEAについての、アニオン伝導性ポリマー層の厚さに対する性能安定性の依存を示すプロットである。
【0022】
図6】両極性膜のカチオン伝導性ポリマー交換膜(PEM)の厚さに対する、炭素担持銅(Cu/C)触媒を使用したメタン選択性の依存を示すプロットである。
【0023】
図7】両極性膜のアニオン交換膜(AEM)の厚さに対する、Cu/C触媒を使用したメタン選択性の依存を示すプロットである。
【0024】
図8】薄いAEMおよび薄いカチオン伝導性PEMを有する両極性膜をいずれも備える2つのMEAの性能を示すプロットである。
【0025】
図9】本開示の様々な実施形態に記載の電解酸化炭素(CO)還元システムの例を示す。
【0026】
図10】本開示の様々な実施形態に係るCO還元に使用するための膜電極アセンブリの概略図である。
【0027】
図11】両極性MEAを示している。
【0028】
図12】COガスがカソード触媒層に供給されるMEAを示している。
【0029】
図13】カソード触媒層と、アノード触媒層と、CO還元反応を促進するように構成されたアニオン伝導性PEMとを有するMEAを示している。
【0030】
図14】触媒担持粒子上に触媒が担持されたカソード粒子の形態の例を示す概略図である。
【0031】
図15図11に示したものと同様のMEAを示しているが、さらに、物質移送と、両極性界面でのCOと水の生成に関連する情報を示している。
【0032】
図16A】層間剥離に抵抗し、任意選択的に反応生成物が界面領域を離れる経路を提供する特徴を含む各種MEA設計を示している。
図16B】層間剥離に抵抗し、任意選択的に反応生成物が界面領域を離れる経路を提供する特徴を含む各種MEA設計を示している。
図16C】層間剥離に抵抗し、任意選択的に反応生成物が界面領域を離れる経路を提供する特徴を含む各種MEA設計を示している。
図16D】層間剥離に抵抗し、任意選択的に反応生成物が界面領域を離れる経路を提供する特徴を含む各種MEA設計を示している。
【0033】
図17】カソードバッファ層であり得るアニオン伝導性ポリマー層と、カチオン伝導性ポリマー層であり得るポリマー電解質膜とを含む部分的MEAを示している。
【0034】
図18】本開示の様々な実施形態に係るCO還元反応器(CRR)の主要な構成要素を示す概略図である。
【0035】
図19】本開示の様々な実施形態に係る分子、イオン、および電子の流れを示す矢印と共に、CRRの主要な構成要素を示す概略図である。
【0036】
図20】本開示の様々な実施形態に係るCRR反応器の主な入力と出力とを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本明細書では、メタン(CH)生成のための酸化炭素(CO)還元反応器(CRR)の動作のためのシステムおよび方法が提供される。システムおよび方法の複数の実施形態はまた、アルコール類、カルボン酸、およびエチレン(CHCH)などその他の炭化水素を含む、その他の有機化合物を生成するために使用される。様々な実施形態によると、システムおよび方法は、以下の特徴のうちの1つまたは複数によって特徴付けられ得る。いくつかの実施形態では、膜電極アセンブリ(MEA)が、比較的低い触媒充填を有するカソード触媒層を備える。いくつかの実施形態では、両極性MEAが、薄いカチオン伝導性層と、薄いアニオン伝導性層とを備え、カチオン伝導性層はアニオン伝導性層よりも厚い。他の複数の実施形態において、カソード触媒とアノード触媒とを橋渡しするために純アニオン交換ポリマーのみの膜が使用され得る。これらおよびその他の特徴が、以下でさらに記載される。
【0038】
メタン生成のシステムは、1つまたは複数の酸化炭素(二酸化炭素および/またはCO、COxなどのその他の酸化された炭素化合物など)を含む入力(多くの場合、流体入力流)からメタンを生成する反応器などの酸化炭素還元反応器(CRR)を備える。CRRを備えるシステムが、以下にさらに記載される図18中に例として示される。反応器は、典型的には、気相酸化炭素(例えば、一酸化炭素、二酸化炭素など)入力を受け取り、および/または、気相酸化炭素を用いる反応を行うが、追加的にまたは代替的に、液相酸化炭素、超臨界流体相酸化炭素、固相酸化炭素、および/または、任意の他の好適な酸化炭素入力を受け取ってよい。反応器は、典型的には、電解槽であり、より好ましくは、気相ポリマー電解質膜電解槽であるが、様々な実施形態において、システムは、追加的にまたは代替的に、任意の他の好適な反応器を含んでよい。
【0039】
以下の説明は主にメタン生成について言及するが、エチレン(CHCH)などの炭化水素を含むその他の生成物を生成するシステムおよび方法もまた提供される。いくつかの実施形態では、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール)およびカルボン酸(例えば、ギ酸および酢酸)などのその他の生成物が生成される。
【0040】
いくつかの実施形態では、反応器は、2017年5月3日に出願された米国特許出願第15/586,182号(発明の名称「CO、COおよび他の化合物の電気化学反応のための高度なアーキテクチャを備える反応器」)および/または2019年1月22日に出願された米国特許出願第16/254,255号(発明の名称「二酸化炭素リアクタ制御のためのシステムおよび方法」)に記載されたもののような1つまたは複数の要素を含み、当該出願は、本参照によりその全体が組み込まれる。しかしながら、追加的にまたは代替的に、反応器は、任意の他の好適な要素を任意の好適な配置において含んでよい。
【0041】
システムは、任意選択的に、反応器生成物のメタン量(例えば、流量、分圧、濃度など)を特徴付けるよう構成されたメタン検出器などの1つまたは複数の検出器を含んでよい。例えば、システムは、反応器生成物(および/またはそれらのメタン量)を特徴付けるよう構成されたガスクロマトグラフを含んでよい。しかしながら、システムは、追加的にまたは代替的に、メタン量および/または反応器生成物の任意の他の好適な態様を特徴付ける任意の他の好適な検出器を含んでよい。
【0042】
いくつかの実施形態では、反応器は、1つまたは複数のポリマー電解質膜(PEM)を含み、反応器のアノードとカソードとの間におけるイオン伝達を提供するMEAを備える。いくつかの実施形態では、反応器は、カソード触媒層(還元触媒層と呼ばれる場合もある);PEM膜(例えば、両極性膜、単極性膜など;アニオン交換膜(AEM)などの1つまたは複数のアニオン伝導体、プロトン交換膜などのプロトンおよび/またはカチオン伝導体、および/または任意の他の好適なイオン伝導性ポリマーを含む膜;1つまたは複数のバッファ層を含む膜など);および、アノード触媒層(酸化触媒層と呼ばれる場合もある)、を含むMEAを備える。各層のイオン伝導性ポリマーは、同一または異なるイオン伝導性ポリマーであってよい。一例(例えば、反応器が、一酸化炭素を含む入力(入力の酸化炭素が実質的に全て一酸化炭素であるなど)を受け入れる)では、MEAはAEMを含み、プロトン交換膜を含まない。本例の変形では、MEAは、薄いおよび/または高度に多孔性のプロトン交換膜のみを含むものなど、実質的にプロトン交換膜を含まない。しかしながら、追加的にまたは代替的に、MEAは任意の他の好適な膜要素を含んでよい。図1Aは、メタンまたはその他の生成物を生成するためのCu触媒で実装され得るMEAの概略例を示している。101では、AEMおよびカチオン伝導性PEMを有する両極性MEAが示されている。以下にさらに記載されるように、AEMは、カソードバッファ層として機能し得る。102および103では、AEMのみのMEAが示されている。すなわち、102ではバッファ層を有さないAEMのみのMEAが、103では液体バッファを有するAEMのみのMEAが示されている。AEMのみのMEAは、以下にさらに記載されるCOまたは混合CO/CO原料に有用である。
【0043】
本明細書に記載されたシステムに実装され得るMEA設計の更なる例が、図10から図17を参照して以下に提供される。特に、両極性MEAが図10および図11を参照したものを含んで以下に記載され、AEMのみのMEAが図12および図13を参照したものを含んでさらにその後に記載される。
【0044】
本明細書に記載の二酸化炭素反応器および/またはMEAは、(例えば、1セットの1つまたは複数の条件下での動作中に達成される1セットの1つまたは複数の性能測定基準に基づく)1つまたは複数の試験に合格するよう構成され得る。性能測定基準および/または条件には、メタン生成の選択性、電流効率、電流密度、電圧、電圧効率、および/または任意の他の好適な測定基準を含んでよい。
【0045】
メタン生成の選択性は、(例えば、試験の条件下で動作中の)メタン生成速度の合計還元生成物生成速度に対する比率として定義される。1つまたは複数の試験では、メタン生成の選択性は、選択性閾値(例えば、20%、30%、40%、45%、50%、55%、60%、70%、80%、25~40%、40~60%、60~75%、75~90%など)より大きくてよい。
【0046】
メタン生成の選択性は、ファラデー収率(FY)として測定され得る。ファラデー収率は、ファラデー効率、クーロン効率、または電流効率とも呼ばれることがあり、電気化学反応を促進するシステムで電荷が移動する効率である。ファラデー効率におけるファラデー定数の使用は、電荷を物質および電子のモルと相関させる。電子またはイオンが望ましくない副反応に関与するときに、ファラデー損失が生じる。これらの損失は、熱および/または化学的副産物として現れる。以下の例は、各種生成物のファラデー収率のプロットを含む。
【0047】
電流効率は、所望の電気化学反応(複数可)(例えば、メタン生成)に起因する(例えば、1つまたは複数の反応物の酸化および/または還元に寄与するなど、直接関与する)素子電流の割合として定義される。1つまたは複数の試験では、電流効率は、好ましくは、電流効率閾値(例えば、30%、40%、45%、50%、55%、60%、70%、10~25%、25~40%、40~60%、60~75%、75~90%、90%超、または10%未満など)より大きい。
【0048】
電流密度は、MEAの幾何学的単位面積当たりの素子電流として定義される。動作時に、電流密度は、電流密度閾値(例えば、70、100、150、200、250、300、400、500、1000、10~50、50~100、100~170、170~230、230~300、300~500、または500~2000mA/cmなど)より大きくてよい。
【0049】
単一MEAを含む単一セルの電圧は、動作中のセルのアノードとカソードとの間の電位として定義される。1つまたは複数の試験では、単一セル電圧は、好ましくは、電圧閾値(例えば、5、3、2.5、2.2、2、1.8、1.6、1.4、1.3、1.2、1.1~1.4、1.4~1.8、1.8~2.2、2.2~3、または3~5Vなど)未満である。
【0050】
電圧効率は、(例えば、メタン生成などの所望の電気化学反応のための)熱力学電圧制限の、(カソードとアノードとの間の)動作電圧に対する比率として定義される。いくつかの例では、熱力学電圧制限は約1.1ボルトである。1つまたは複数の試験では、電圧効率は、好ましくは、電圧効率閾値(例えば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、80%、90%、95%、5~15%、15~30%、30~50%、50~70%、70~80%、80~90%、または90~98%など)より大きい。
【0051】
試験の具体例では、(例えば、以下に記載のように)反応物(二酸化炭素を含む)を反応器に供給し、5V未満の電圧を維持することを含む、反応器を動作させた際に、反応器が200mA/cmを超える電流密度で動作し、25%または40%を超えるメタン生成の選択性でメタンを生成した場合に、酸化炭素反応器は試験に合格する。図3および図5図7のプロットに示されているファラデー収率は、代替的に、酸化炭素反応器を評価するために使用され得る。
【0052】
しかしながら、試験は、追加的にまたは代替的に、任意の他の好適な性能測定基準、条件、および/またはこれらに関連する値を含むことができる。
[カソード触媒層]
【0053】
いくつかの実施形態では、触媒(例えば、還元触媒、酸化触媒)の1つまたは複数は、ナノ粒子であってもよい触媒粒子(例えば、粒子の多孔性ネットワークを画定する)を含んでよい。MEAのカソード触媒層は、メタンまたはその他の所望の生成物を生成するために構成された触媒を含む。メタンのために構成された触媒は、その他の反応に優先して、1つまたは複数のメタン生成反応に対して触媒作用を及ぼす傾向がある。好適な触媒としては、銅(Cu)などの遷移金属が挙げられる。様々な実施形態によると、触媒は、ドープされている、またはドープされていないCuまたはその合金であってもよい。いくつかの実施形態では、窒素でドープされた炭素が使用される。
【0054】
一般的に、本明細書に記載される触媒は、非貴金属触媒である。例えば金(Au)が、一酸化炭素(CO)の生成に対して触媒作用を及ぼすために使用され得る。Auまたはその他の貴金属触媒(例えば、白金またはパラジウム)を採用するMEAは、本明細書に記載よりもかなり多い充填を採用し得る。
【0055】
図10図14を参照したものを含め、以下にさらに記載されるとおり、触媒層のうちの1つまたは複数が、任意選択的に1つまたは複数のポリマー電解質を含んでよい。ポリマー電解質は、触媒粒子と混合される(例えば、多孔性ネットワークにより画定される開口領域に装填されるなど、多孔性ネットワーク内に配置される)ことができる。ポリマー材料は、そのようなポリマーを含まない対応する触媒層よりも高い電流密度での動作を可能にすることができる。ポリマーは、ポリマー電解質膜(またはその構成要素)と同じ材料であってもよく、または異なるポリマー材料であってもよい。
【0056】
第1の例では、カソード触媒層が、アニオン伝導性ポリマー(例えば、アミノ化テトラメチルポリフェニレン、ポリ(エチレン-co-テトラフルオロエチレン)系の第四級アンモニウムポリマー、四級化ポリスルフォン、2259-60(Pall RAI)、株式会社トクヤマによるAHA、fumasep(登録商標)FAA-3(fumatech GmbH)、Sustanion(登録商標)、SolvayによるMorgane ADP、東ソーによるアニオン交換膜材料であるTosflex(登録商標)SF-17、IonomrによるAemion(商標)、EcolectroによるTetrakis、Orion Polymer社によるOrionTM1など)を含む。第2の例では、アノード触媒層が、カチオン伝導性ポリマー(例えば、パーフルオロスルホン酸ポリテトラフルオロエチレンco-ポリマースルホン化ポリ(エーテルエーテルケトン)、ポリ(スチレンスルホン酸-co-マレイン酸)、Nafion(登録商標)(DuPont(商標))、GORE-SELECT(登録商標)(Gore)、fumapem(登録商標)(fumatech GmbH)、Aquivion(登録商標)PFSA(Solvay)など)を含む。第3の例では、触媒層が、アニオン伝導性ポリマーおよびカチオン伝導性ポリマーの両方を含み、および/またはカチオン-アニオン伝導性ポリマー(例えば、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリウレタンなど)を含む電解質などの両極性ポリマー電解質を含む。
【0057】
また、以下にさらに記載されるように、触媒層のうちの1つまたは複数は、任意選択的に、電子伝導性担持構造を含む1つまたは複数の担持構造を含んでよい。いくつかの例では、担持構造の存在によって、水素生成の増加がもたらされ得る(例えば、水素生成速度全体の増加、水素生成のメタン生成に対する比率の増加など)。担持構造は、炭素(例えば、バルカン(Vulcan)炭素、ホウ素ドープダイヤモンド、フッ素ドープ酸化スズ、および/または任意の他の好適な材料などの材料を含んでよい。
【0058】
触媒層の形態は、MEAに所望のメタン(または他の所望の生成物)の生成特徴を達成するように設計され得る。厚さ、触媒充填、および触媒粗度などの形態特徴は、メタン生成速度、メタン生成の選択性(例えば、水素、エチレンなどの他の可能性ある生成物を上回る選択性)、および/または二酸化炭素反応器の動作の任意の他の好適な特徴に影響する可能性がある。
【0059】
いくつかの実施形態では、カソード触媒層は、(例えば、MEAの幾何学的面積の単位当たり)比較的少量の触媒材料を含み、これによってより高いメタン生成の選択性を可能にし得る。この影響は、Cu触媒充填(mg/cm)に応じたメタンの最大ファラデー収率(FY)を示すプロットである図1Bの例に示されている。プロットに示されているように、触媒充填が低いほどメタン選択性(FY CHで表される)は高くなる。本明細書で使用される場合、MEAの面積は、MEA表面における幾何学的平面の面積であり、細孔、またはMEA表面の平面性からの他の偏差を考慮したものである。
【0060】
いくつかの例では、選択性の増加の触媒材料量の低下との相関は、触媒表面の形態における変化、触媒活性表面への物質移送の変化(例えば、それにより電流効率が増加する)、および/または任意の他の好適な影響によるものであり得る。
【0061】
いくつかの実施形態では、触媒充填は、数μg/cm以下(例えば、1、2、4、10、20、30、40、0.1~1、1~2.5、2.5~5、または5~10μg/cm)であるが、代替的に、数十または数百μg/cm(例えば、10、15、20、25、35、50、10~30、30~100、100~1000μg/cmなど)以上であり得る。以下にさらに記載されるように、より高い電流密度ではより高い充填が使用され得る。図1Bのデータは、200mA/cmの電流密度を用いて生成された。最大メタン収率は、電流密度および触媒充填に依存する。しかしながら、高い電流密度(例えば、600~1200mA/cm)であっても、比較的低い触媒充填(1mg/cm未満、0.9mg/cm未満、0.8mg/cm未満、0.7mg/cm未満、0.6mg/cm未満、0.5mg/cm未満、0.4mg/cm未満、0.3mg/cm未満、0.25mg/cm未満)が使用され得る。(自明であるように、本書での充填は、1μg/cm=0.001mg/cmとしてμg/cmおよびmg/cmの両方で記載されている。)触媒充填と電流密度との関係は、図3を参照して以下にさらに記載される。
【0062】
触媒層の厚さは、いくつかの実施形態では数ミクロンまたはサブミクロンレベルである(例えば、0.25、0.5、1、2、3、5、0.1~0.3、0.3~1、1~3、または3~10μmなど)が、代替的に、より厚くてもより薄くてもよい。しかしながら、触媒層は代替的に、(例えば、メタン生成の選択性を低減し得る)より多量の触媒材料、および/または任意の他の好適な量の触媒材料を含んでよい。
【0063】
触媒層は、粗度係数(例えば、触媒材料の実表面積の、MEAの幾何学的面積に対する比率)を定義してよい。粗度係数は、小さいのが好ましい(例えば、0.02、0.05、0.1、0.01~0.02、0.02~0.05、0.05~0.1など)が、代替的に、図2の例に示すものなど、より大きくても(例えば、0.15、0.25、0.5、1、0.1~0.3、0.3~1、1~3、3より大きいなど)、またはより小さくても(例えば、0.01未満)よい。特に、図2は、粗度係数に応じて最高のCH選択性を示し、これは触媒材料の実表面積の、MEAの幾何学的面積に対する比率であった。図2の例では、粗度が低いほど選択性が高くなる。
【0064】
図3は、銅の充填に応じた異なる電流密度で達成された最大メタン収率を示すプロットである。より低い電流密度での性能(図3:100mA/cmおよび200mA/cm)は、非常に低い触媒充填(7μg/cm)において最適であると見られた。これはおそらく、メタンを生成するために必要な最小電位の達成を支援する薄い金属触媒層における局部電流密度がより高いことが原因である。
【0065】
メタン生成のために十分な過電圧による動力学的限界を克服するために、より高い触媒充填では、より高い電流密度を使用してよい。例えば、図3の40μg/cmのCu充填を有するMEAを参照されたい。図3の例では、これが400mA/cmで最高の最大FY CHを有し、より低い電流密度では同程度に動作しない。この結果は、最適な充填は電流密度に対する依存性が小さいことを示す。故に、いくつかの実施形態では、触媒充填は、所望の電流密度について構成されてよい。質量負荷を増加することにより、反応に利用可能な粗度係数または実触媒表面積が増加する。いくつかの実施形態では、粗度係数はまた、所望の電流密度についての最適な触媒表面積を決定するために考慮され得、逆もまた同様である。
【0066】
いくつかの実施形態では、MEAは、特定の銅または銅を含有する触媒充填について、以下に示される電流密度を使用して動作されてよい。同様に、MEAは、所望の電流密度について、以下に示される特定の充填で設計されてよい。
【表1】
【0067】
図4は、100mA/cm~700mA/cmの範囲にわたる様々な電流密度について、(最高の最大FY CHを達成するための)最適な銅充填のプロットである。指数関数的な傾向にある最適な銅充填の増加が示され、120μg/cmから140μg/cmの範囲のより大きい充填では影響が次第に小さくなる。これらの結果に基づいて、著しく高い電流密度での銅性能についての触媒充填は、やはり1~250または1~500μg/cm(始点および終点を含む)の範囲にとどまることが予想される。故に、様々な実施形態によると、炭化水素生成のための触媒充填は、0.1~250μg/cmまたは0.1~500μg/cmなど、1000μg/cm未満であってよい。
【0068】
上述のように、例えば、0.1~250μg/cm、または1~150μg/cm、1~80μg/cm、10~80μg/cm、10~20μg/cm、40~80μg/cm、または80~150μg/cmといったより低い範囲が使用されてよい。より低い電流密度(例えば、100mA/cm~700mA/cm)で動作するように設計されたMEAに関しては、これらのより低い範囲が有用であり得る。
【0069】
本明細書に記載のような固体(非水)電解質システムのための触媒充填は、典型的にかなり高い。しかしながら、上述のように、本明細書に記載のカソード触媒の低い充填により、水素に対してメタン生成のより良い選択性が提供される。この現象についての理論の一つは、COのメタンへの還元が触媒表面上で水素生成よりも優先的に発生し始める前に、動力学的過電圧閾値を超える必要がある点である。触媒充填が低いことで、この過電圧閾値への到達が可能になる。電流密度がより低ければ使用される触媒充填は低く、最適な充填の電流密度への依存は小さい。触媒充填よりもかなり高い電流密度をサポートするように設計されることで、物質移送の制限により、水素生成がここでもメタンより優位になり得る。メタンのために高電流効率を維持しながらも、使用することができる最高の触媒充填で最良のセル電圧が到達され得る。
【0070】
触媒層は、1つまたは複数の製造技術を使用して製造することができる。第1の実施形態では、触媒層は、溶媒系の技術を使用して製造される。一般に、溶媒系の技術は、好ましくは、溶媒および堆積される1つまたは複数の材料を含む混合物を基板上に堆積することを含む。溶媒は、多くの場合、揮発性の溶媒であるが、代替的に、任意の他の好適な溶媒を含んでよい。堆積される材料としては、触媒材料(例えば、銅または銅合金ナノ粒子などの触媒材料のナノ粒子)を含み、任意選択的に、1つまたは複数のポリマー電解質および/または任意の他の好適な材料(例えば、カーボン担体、配位子、またはその他の添加物)を含んでよい。材料は、溶媒に溶解され、溶媒に懸濁され、および/または任意の他の好適な形で溶媒に混合されてよい。触媒が堆積される基板は、ポリマー電解質膜、ガス分布層GDL(例えば、炭素GDL)、および/またはMEAの任意の他の好適な要素であってよい。
【0071】
第1の例では、混合物が基板上に噴霧される超音波噴霧堆積を使用して、触媒層が製造される。溶媒はアルコールであってよい。基板は、ポリマー電解質膜であってよいが、代替的に、GDLおよび/または任意の他の好適な基板であってよい。
【0072】
第2の例では、混合物が基板上に拡散されるドクターブレード法によって、触媒層が製造される。溶媒はグリコールであってよい。基板はGDLであってよいが、代替的に、ポリマー膜および/または任意の他の好適な基板であってよい。
【0073】
別の例では、触媒層は、電子ビーム堆積、スパッタリング、または電着によって製造される。本実施形態では、1つまたは複数の触媒材料(例えば、銅)が基板に堆積される。触媒材料の数ナノメートル(例えば、0.3、0.5、1、2、3、5、10、0.1~0.5、0.3~1、1~2、2~5、5~10、10~30nm、100~500nm、または500nm~1μmなど)などの薄層が堆積される。基板は、ガス拡散層(例えば、炭素GDL)であってよいが、代替的に、任意の他の好適な基板であってよい。本実施形態のいくつかの例では、電子ビーム堆積の後、(基板上の)触媒層は、ポリマー電解質膜に押し付けられ、これによって、例えば、ポリマー電解質を触媒層へと混合させることができる。しかしながら、追加的にまたは代替的に、触媒層は任意の他の好適な方法によって製造されてよい。触媒層のさらなる説明を以下に示す。
[両極性膜層の厚さ]
【0074】
いくつかの実施形態では、MEAは、アニオン伝導性ポリマーをMEAのカソード側に、相互作用するカチオン伝導性ポリマーをMEAのアノード側に有する両極性界面を含む。以下にさらに記載されるように、アニオン伝導性バッファ層を備える両極性MEAは、プロトンを中和し、カソードにおいて中性から高pHを維持するのに有用であり得る。これにより、銅触媒を、Hの形成よりもメタンの形成に向かう傾向とすることができる。
【0075】
そのような実施形態では、アニオン伝導性ポリマー層の厚さと、カチオン伝導性ポリマー層およびアニオン伝導性ポリマー層の相対厚さは、炭化水素を生成するMEAの性能および安定性に影響を与える。
【0076】
図5は、両極性MEAについての、アニオン伝導性ポリマー層の厚さに対する性能安定性の依存を示すプロットである。エチレン(FY-CHCH)およびメタン(FY-CH)の電流密度(J)、電圧(V)、およびファラデー収率が、厚いアニオン交換層(赤および青のマーク)および薄いアニオン交換層(緑のマーク)を有するMEAについて示されている。図5に見られるように、厚いアニオン交換層(赤および青のマーク)を有するMEAは、最初から高収率で動作し、メタンについて70%までのFYに到達するが、3.5時間の試験時間中に50%のFYまで減少し続ける。40%より薄いアニオン交換層(緑のマーク)を有するMEAは、かなり低い収率で開始し、200mA/cmで安定した50%のFYにまで性能が上向きとなる。いくつかの実施形態では、比較的薄いAEMが両極性膜に使用される。
【0077】
いくつかの実施形態では、薄いカチオン伝導性PEM層がAEM/PEM両極性膜に使用される。(図6図8の説明では、PEMは、カチオン伝導性層およびAEMを備える両極性膜のカチオン伝導性層を指す。しかしながら、本明細書に記載のように、MEA中のPEMは、両極性膜自体を指す場合もあり得る。)
【0078】
図6は、Cu/C触媒を使用したメタン選択性に対する、カチオン伝導性PEMの厚さの影響を示すプロットである。一方は50μmのカチオン伝導性PEM/11μmのAEMを有し、他方は127μmのカチオン伝導性PEM/11μmのAEMを有する、2つの両極性膜の性能が比較される。図6は、厚さが薄いAEMでは、薄いカチオン伝導性PEM膜が、厚いカチオン伝導性PEM膜よりもメタンに対する良い選択性で動作することを示している。
【0079】
図7は、Cu/C触媒を使用したメタン選択性に対する、AEMの厚さの影響を示すプロットである。薄いカチオン伝導性PEMでは、厚いAEM層が、薄いAEM層よりも、より高い電流密度においてかなり劣る電圧で動作する。故に、いくつかの実施形態では、メタン選択性を向上させ、膜/層抵抗を低減するために、薄いカチオン伝導性PEM膜および薄いAEM膜が実装される。
【0080】
図8は、薄いAEMおよび薄いカチオン伝導性PEMを有する両極性膜をいずれも備える2つのMEAの性能を示すプロットである。これらのMEAは、試験の設定(流れ場および圧縮)が異なる。300mA/cmで3時間保持された後の、メタンについて+5.25%の選択性増加率を有する安定した性能が達成された(図3の円)。より安定性に欠けるMEAは、300mA/cmで60%のメタンFYという高値を達成している(図3の四角)。この結果は、安定性(円のマーク)を達成する能力と、より高いFY(四角のマーク)を達成する能力を示している。
【0081】
故に、いくつかの実施形態では、両極性MEAにおいて薄いカチオン伝導性PEMが使用される。厚さは、例えば、20μmから80μm、または 20 μmから60μm(範囲の始点および終点を含む)の範囲であり得る。図6について以下でさらに議論されるように、薄いカチオン伝導性PEMのさらなる効果としては、フラッディングの回避が挙げられる。
【0082】
同一の、または他の実施形態では、カチオン伝導性PEMの厚さ:AEMの厚さの比率は少なくとも3:1、または少なくとも4:1であってよい。また、図7について以下でさらに議論されるように、いくつかの実施形態では、カソードバッファ層、またはカチオン伝導性ポリマー電解質膜に隣接する他のアニオン伝導性ポリマー層は、厚さが約5から20マイクロメートル、または約5から15マイクロメートルである。いくつかの実施形態では、99%を超える選択性のポリマーを使用することにより、AEMを2から10ミクロンに減らすことが可能になり得る。
【0083】
場合によっては、ポリマー電解質膜と隣接するアニオン伝導性ポリマー層との厚さの比率は、約3:1~90:1であり、上限の比率は高度に選択的なアニオン伝導性ポリマー層と共に使用される。いくつかの実施形態では、比率は、約3:1~13:1、または約7:1~13.1である。
【0084】
塩イオンが望ましくない水電解槽とは対照的に、塩イオンが酸化炭素電解槽の性能にプラスの影響を及ぼし得る。これは、2019年11月26日に出願され、すべての目的のために参照により本明細書に組み込まれる、米国特許出願第16/697,066号に記載される。そこに記載のように、カチオンは、電解槽のアノードを通って循環する水を介して、または膜電極アセンブリを作製するために使用されるポリマー電解質膜、触媒、または触媒担体に組み込むことによって、酸化炭素電解槽に導入され得る。塩の存在は、MEAセル電圧を低下させ、ファラデー収率を改善し、生成物の選択性を変化させ、および/または酸化炭素還元電解槽の動作中の動作パラメータ(例えば、電圧効率)の減衰率を低下させることが観察されている。
【0085】
MEAセルでは様々な種類の塩を使用できる。そのような塩は、無機または有機のカチオンおよびアニオンを有し得る。塩の組成は、過電圧、ファラデー効率、および/または複数の酸化炭素還元反応間の選択性などのセル動作条件に影響を与える可能性がある。特定の実施形態では、カソード上に銅触媒を有するMEAセルで使用される炭酸水素カリウムなどのカリウム含有塩は、二酸化炭素還元中にメタンよりもエタノールおよびエチレンを選択的に生成する。対照的に、炭酸水素ナトリウムなどのナトリウム含有塩は、カソード上に銅触媒を有するMEAセルで使用される場合、二酸化炭素還元中にメタンを選択的に生成する。銅還元触媒を使用するMEAセルでは、より高い原子量のカチオンを含む塩が、多炭素生成物(例えば、エチレン)のファラデー収率を増加させる。
【0086】
特定の実施形態では、反応器で使用される塩は、遷移金属のイオンではないカチオンを有する。特定の実施形態では、塩は、アルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンであるカチオンを含有する。特定の実施形態では、塩は、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオン、および/またはルビジウムイオンを含有する。特定の実施形態では、塩は、ナトリウムイオンおよび/またはカリウムイオン以外のカチオンを含有しない。いくつかの実装では、塩は、アルカリ金属イオンなどの一価であるカチオンのみを含有する。
【0087】
特定の実施形態では、塩は、水酸化物、炭酸水素塩、炭酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩、または硫酸塩であるアニオンを含有する。場合によっては、塩は、水酸化物、炭酸水素塩、炭酸塩、または硫酸塩であるアニオンを含有する。特定の実施形態では、塩はハロゲン化物イオンを含有しない。特定の実施形態では、塩は、酸化炭素還元反応から生成されるアニオンを含有する。例には、ギ酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩などのカルボン酸塩が含まれる。
【0088】
特定の実施形態では、塩は、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、炭酸水素セシウム、硫酸セシウム、およびそれらの任意の組み合わせを含む群から選択される。
【0089】
場合によっては、MEAは、複数の塩または混合塩を使用する。例えば、MEAは、複数のカチオン(例えば、ナトリウムイオンおよびカリウムイオン)を使用し得るが、単一のアニオン(例えば、硫酸塩)のみを使用し得る。別の例では、MEAは、単一のカチオン(例えば、ナトリウムイオン)のみを使用するが、複数のアニオン(例えば、炭酸水素塩および硫酸塩)を使用する。さらに別の例では、MEAは、少なくとも2つのカチオンおよび少なくとも2つのアニオンを使用する。特定の実施形態では、塩は、炭酸水素ナトリウムと炭酸水素カリウムとの組み合わせを含む。特定の実施形態では、塩は、炭酸水素カリウムとリン酸カリウムとの組み合わせを含む。銅または他の遷移金属を含有すると記載されているMEAカソード触媒は、合金、ドープされた金属、および銅または他の遷移金属の他の変形例を含むと理解される。
【0090】
塩は様々な方法でセルに伝達され得る。一例では、塩は、製造されたままのMEAと共に提供され、および/または再構成されたMEAと共に提供される。別の例では、塩は、アノードまたはカソードへの供給原料(反応物含有組成物)と共に提供される。いくつかの実装では、水がアノードでの反応物であり、塩がアノード反応物と共に提供される。アノードに供給される水は、「アノード水」と呼ばれることもある。アノード水は、動作中にアノードに流れる水溶液であり得る。いくつかの実施形態では、アノード反応は、酸素を生成するための水の酸化である。いくつかの実施形態では、塩を含有する液体水は、様々な方法のいずれかでカソードに伝達される。例えば、塩は、動作中に溶液をカソードに流すことによって伝達され得る。液体は、溶存二酸化炭素または溶存一酸化炭素を含有してよい。場合によっては、塩の水溶液が、液体とガスとの混合物としてカソードに伝達される。例えば、塩溶液をMEA上に噴霧することができる。
【0091】
動作中に直接またはアノード水を介してMEAに提供される塩含有溶液は、様々な方法で調製することができる。場合によっては、塩含有溶液は塩を直接水に溶解させて作られる。場合によっては、塩含有溶液は、塩を水中に放出する樹脂(任意選択的に、カラム状)に水を通すことによって作られる。
【0092】
アノード水などの液体水によって塩がMEAに提供される実施形態では、塩は設定された濃度で提供され得る。塩濃度は、MEA構成および使用される特定のカソード触媒、ならびに関連付けられる酸化炭素還元反応に応じて変化し得る。
【0093】
両極性膜MEAを使用するいくつかの実施形態では、塩は、水溶液中に、約1mMから約30mMの濃度で、または約3mMから約30mMの濃度で提供される。両極性膜MEAを使用するいくつかの実施形態では、塩は、約2mMから約15mMの濃度で提供される。両極性膜MEAを使用するいくつかの実施形態では、塩は、約0.1mMから約30mM、または約5mMから約10mMの濃度で提供される。
【0094】
二酸化炭素からの炭化水素生成のために構成された両極性膜MEAを使用するいくつかの実施形態では、塩は、約2mMから約50mMの濃度でアノード水または他のソースに提供される。二酸化炭素からのメタン生成のために構成されたセルで使用されるいくつかのMEAでは、塩は約10mMから30mMの濃度で提供される。様々な実装において、そのようなセルは、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、炭酸水素セシウム、硫酸セシウム、およびそれらの任意の組み合わせを含む群から選択される塩および銅触媒を使用する。様々な実施形態において、メタン選択性のために使用される塩は炭酸水素ナトリウムであり、炭酸水素ナトリウムは、メタン対エチレン比を少なくとも約20:1で高めることが示されている。
【0095】
酸化炭素、特に二酸化炭素から炭化水素生成物を生成するために構成された両極性膜MEAを使用する特定の実施形態では、塩は、約2mMから1Mの濃度で提供される。いくつかの実装では、塩は炭酸水素カリウムであり、炭酸水素カリウムは、炭酸水素ナトリウムと比較して約5:1の比率でメタンに対するC2-C3生成物の選択性を高めることが示されており、塩は約100mMから約500mMの濃度で提供される。銅触媒をカソードとして二酸化炭素をエチレンに還元するようにMEAが構成されている特定の実施形態では、炭酸水素カリウム濃度は約1mMから5mMである。一酸化炭素をエチレンに還元するようにMEAが構成されている特定の実施形態では、塩濃度、特に炭酸水素カリウムは、約150mMから約250mMである。
【0096】
アニオン伝導性ポリマーのみを含有するMEAを使用するいくつかの実施形態では、塩は、約1mMから10モルの濃度で水溶液中に提供される。アニオン伝導性ポリマーのみを含有するMEAを使用するいくつかの実施形態では、塩は、約100mMから5モルの濃度で提供される。水酸化カリウムを塩として使用する特定の実施形態では、塩濃度が約50~150mMである。炭酸水素カリウムを塩として使用する特定の実施形態では、塩濃度が約4~10mMである。
【0097】
以下の濃度範囲は、アニオン伝導性ポリマーのみ、および水酸化カリウムおよび/または炭酸水素カリウムを含むアノード水を使用する両極性セルに有用である。水酸化カリウムを使用する特定のMEAセルでは、塩濃度が約10mMから15Mである。水酸化カリウムを使用するいくつかのMEAセルでは、塩濃度が約50~500mMである。水酸化カリウムを使用するいくつかのMEAセルでは、塩濃度が約0.5Mから15Mである。炭酸水素カリウムを使用する特定のMEAセルでは、塩濃度が約1mMから1Mである。炭酸水素カリウムを使用するいくつかのMEAセルでは、塩濃度が約1から50mMである。炭酸水素カリウムを使用するいくつかのMEAセルでは、塩濃度が約100mMから500mMである。
【0098】
二酸化炭素をMEAセル内の反応物として使用する特定の実施形態では、以下の塩濃度範囲が使用される。
【0099】
メタンを生成するための両極性膜(例えば、銅含有触媒):アノード水中の塩濃度は、約1mM~40mM、または約10mM~30mM、または約3mM~20mMである。特定の実施形態では、塩が炭酸水素ナトリウムである場合、これらの濃度範囲のいずれかが使用される。特定の実施形態では、これらの濃度範囲のいずれかが、約25cmのカソード表面積を有するMEAセルに使用される。
【0100】
エチレンを生成するための両極性膜(例えば、銅含有触媒):アノード水中の塩濃度は、約100μM~20mM、または約1mM~10mM、または約1mM~5mM、または約2mM~5mMである。特定の実施形態では、塩が炭酸水素カリウムである場合、これらの濃度範囲のいずれかが使用される。特定の実施形態では、これらの濃度範囲のいずれかが、約25cmのカソード表面積を有するMEAセルに使用される。
【0101】
エチレンを生成するためのアニオン伝導性ポリマーのみのMEA(例えば、銅含有触媒):アノード水中の塩濃度は、約0.05M~5M、または約0.05M~1M、または約0.5M~1M、または約0.05M~0.5Mである。特定の実施形態では、塩が水酸化カリウムである場合、これらの濃度範囲のいずれかが使用される。特定の実施形態では、これらの濃度範囲のいずれかが、約25cmのカソード表面積を有するMEAセルに使用される。
【0102】
一酸化炭素をMEAセル内の反応物として使用する特定の実施形態では、以下の塩濃度範囲が使用される。
【0103】
エチレンを生成するためのアニオン伝導性ポリマーのみのMEA(例えば、銅含有触媒):アノード水中の塩濃度は、約0.05M~5M、または約0.05M~1M、または約0.5M~1M、または約0.05M~0.5M、または約0.5M~10Mである。特定の実施形態では、塩が水酸化カリウムである場合、これらの濃度範囲のいずれかが使用される。特定の実施形態では、これらの濃度範囲のいずれかが、約25cmのカソード表面積を有するMEAセルに使用される。
【0104】
メタンを生成するためのアニオン伝導性ポリマーのみのMEA(例えば、銅含有触媒):アノード水中の塩濃度は、約0.05M~10M、または約0.05M~1M、または約0.05M~0.5M、または約0.5M~10M、または約0.5M~1Mである。特定の実施形態では、塩が水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムである場合、これらの濃度範囲のいずれかが使用される。特定の実施形態では、これらの濃度範囲のいずれかが、約25cmのカソード表面積を有するMEAセルに使用される。
【0105】
エチレンを生成するための両極性MEA(例えば、銅含有触媒):アノード水中の塩濃度は、約20mM~2M、または約50mM~500mM、または約50mM~250mM、または約100mM~500mMである。特定の実施形態では、塩が炭酸水素カリウムである場合、これらの濃度範囲のいずれかが使用される。特定の実施形態では、これらの濃度範囲のいずれかが、約25cmのカソード表面積を有するMEAセルに使用される。
【0106】
本明細書で提供される塩濃度は、任意のサイズのMEAに適切であり得るが、特定の実施形態では、それらは、約25cmの表面積を有するMEAを使用するセルに適切であり、列挙された範囲は、より大きな表面積を有するMEAを備えるセルについてスケーリングされ得る。例えば、いくつかの実施形態では、塩濃度は、MEA面積の増加につれて約3:4の比率で増加する。従って、例えば、2mMの塩濃度が25cmのMEA面積を有するセルに適切であれば、100cmのMEA面積を有するセルについて濃度を6mMに増加させることができる。本明細書で使用される場合、MEAの面積は、MEA表面における幾何学的平面の面積であり、細孔、またはMEA表面の平面性からの他の偏差を考慮したものである。
【0107】
特定の実施形態では、MEA中の塩の濃度は、ポリマー電解質の質量あたりの塩のモルで、約1~3mM/gの間である。特定の実施形態では、ポリマー中の塩の濃度が、伝導率測定を使用して推定される。
【0108】
いくつかの実装では、アノード水またはカソード水に導入された塩以外の不純物は、いずれも濃度が非常に低い(例えば、百万分率程度)。これは、アノードで酸化可能なアニオンおよびカソードで還元可能なカチオンに特に当てはまる。特定の実施形態では、1つまたは複数の導入された塩を含有する水は、塩のイオン以外のイオンを実質的に有していない。例えば、水は、導入された塩に、約100ppb以下の任意の遷移金属以外の任意の遷移金属イオンを含有してよい。場合によっては、還元可能な遷移金属イオンの濃度は、10ppb以下、1ppb以下、または0.1ppb以下である。別の例では、水は、約10ppm以下の任意のハロゲン化物イオンを含有する。別の例では、水は、約10ppm以下の、アルカリ金属イオンおよび/またはアルカリ土類金属イオン以外の任意のカチオンを含有する。別の例では、水は、約10ppm以下の、アルカリ金属イオン以外の任意のカチオンを含有する。特定の実施形態では、塩含有水は、約100ppm以下の意図せずに提供されたイオンを含有する。場合によっては、塩含有水は、約10ppm以下の意図せずに提供されたイオン、または約1ppm以下の意図せずに提供されたイオン、または約0.1ppm以下の意図せずに提供されたイオンを含有する。
【0109】
特定の実施形態では、不要なイオンおよび/または他の不純物は、二酸化炭素還元セルに水を伝達する前に水から除去される。これは、水が伝達されるアノードおよび/またはカソードの上流で水を浄化することによって達成することができる。水は、シグマアルドリッチから入手可能なCR11などのキレート系樹脂を含有する樹脂カラムに水を通過させるなどの様々な技術のいずれかによって浄化することができる。超高純度水を実現する技術の例には、大きな粒子の総濾過、炭素濾過、軟水化、逆浸透、TOCおよび/または細菌の静的制御のための紫外線(UV)光への曝露、イオン交換樹脂または電気脱イオン処理(EDI)を用いた研磨、および濾過または限外濾過が含まれる。特定の段階は、開始時の水質に影響される。段階の特定の組み合わせにより、抵抗が約18MOhmを超えるまで水を浄化することが可能である。特定の実施形態では、塩を意図的に添加する前にわずか約10MOhmの抵抗があれば、CO電気分解のための浄水に十分である。
【0110】
本明細書に提示される塩濃度値は、MEAセルに供給される水溶液中の塩濃度を定義し得る。そのような溶液は、セルの動作中に供給されるアノード水、および、MEAを浸漬するか、さもなければ接触させて塩を注入する溶液などを含む。塩濃度は、MEAと、MEAに塩を供給する溶液とでは、異なる場合がある。通常、塩イオンは溶液からMEAに浸透し、次に、1つまたは複数の移送メカニズムを介してMEA内を移動する。1つのメカニズムでは、塩イオンが供給溶液を介してMEAに流れ込む。これは、溶液がMEA内の細孔または他の開口部を介してMEAに浸透する場合であり得る。MEAに入ると、溶液は圧力勾配の下で移動し得る。移動する溶液は、塩イオンを一緒に運ぶ。塩イオンが供給溶液で運ばれている間、塩イオンはより大きな体積を占めるため、MEAにおける塩イオンの全体的な濃度は低下する可能性があり、塩イオンは、MEAポリマーの体積に加えて供給溶液の体積を占める。
【0111】
溶液中の塩イオンは、塩濃度勾配の影響下(拡散または浸透)または電場の影響下(泳動)で、バルク溶液とは独立して移動し得る。これらの移送現象は、MEA内の塩濃度も変更し得る。供給溶液内の動きとは無関係に、塩イオンは、MEAの伝導性ポリマーを通るイオン伝導によって移動し得る。例えば、塩カチオンは、スルホン化テトラフルオロエチレンなどのカチオン交換膜のポリマーマトリックス内のイオン伝導によって移動し得る。塩アニオンは、アニオン交換膜のマトリックスを通るイオン伝導によって移動し得る。そのようなポリマーマトリックス内の塩イオンの動きは、ホッピングと呼ばれることもあり、塩イオンはポリマーマトリックス内の隣接する帯電部位間をホッピングする。MEAセルの動作中、ポリマーマトリックス内の塩イオンは、MEA内の全体的な塩または塩イオンの濃度に寄与する独自の濃度を有する。
【0112】
上記の要因、および場合によっては他の要因により、MEA内の塩濃度は、供給溶液内の塩濃度と異なり得る。本明細書に提示される塩濃度値は、通常、供給溶液がMEAに浸透する前の供給溶液内の塩濃度を表すが、その値はMEA内の濃度を表すこともある。その値がMEA内の濃度を表す限り、それはMEA全体の平均値と見なされるべきである。塩イオンは、そのソースの塩とは異なるモル濃度を有し得ることに留意されたい。例えば、硫酸ナトリウムの1M溶液は、完全に解離すると、ナトリウムイオンの2M溶液を提供すると見なすことができる。
[システム]
【0113】
図9は、本明細書に記載された1つまたは複数などのMEAを含むセルを備え得る、酸化炭素還元反応器903の動作を制御するシステム901を示している。反応器は、スタックに配置された複数のセルまたはMEAを含んでよい。システム901は、還元反応器903のアノードと相互作用するアノードサブシステムと、還元反応器903のカソードと相互作用するカソードサブシステムとを含む。
【0114】
図示するように、カソードサブシステムは、酸化炭素の供給流を還元反応器903のカソードに提供するよう構成された酸化炭素源909を含む。還元反応器903は、動作中、カソードにおける還元反応の生成物を含む出力ストリームを生成し得る。生成物流はまた、未反応酸化炭素および/または水素を含み得る。908を参照されたい。
【0115】
酸化炭素源909は、還元反応器903への酸化炭素の体積または質量流量を制御するよう構成された酸化炭素流量コントローラ913に連結される。1つまたは複数の他の構成要素が、酸化炭素源909から還元反応器903のカソードへの流路に配置されてよい。例えば、最適な加湿器904がこの経路に提供され、酸化炭素供給流を加湿するよう構成されてよい。加湿された酸化炭素は、MEAの1つまたは複数のポリマー層を湿らせ、それによりこのような層の乾燥を回避してよい。流路に配置され得る別の構成要素は、パージガス源917に連結されたパージガス入口である。特定の実施形態では、パージガス源917は、電流が還元反応器903のセルに一時停止している期間にパージガスを提供するよう構成される。いくつかの実装では、パージガスをMEAのカソード上に流すことにより、触媒活性および/または選択性の回復が促進される。これは、少なくとも部分的には、ある種の反応中間物を触媒活性部位から洗い流し、および/またはカソードから水を除去することによるものであり得る。パージガスの例としては、二酸化炭素、一酸化炭素、水素、窒素、アルゴン、ヘリウム、酸素、およびこれらの2つ以上の混合物が挙げられる。
【0116】
動作中、カソードからの出力ストリームは、セルのカソード側の圧力を定義された範囲(例えば、システム構成によって約50から800psig)内に維持するよう構成された背圧コントローラ915に接続する導管907を介して流れる。出力ストリームは、分離および/または濃縮のために、1つまたは複数の構成要素(図示せず)に反応生成物108を提供してよい。
【0117】
特定の実施形態では、カソードサブシステムは、出力ストリームからの未反応酸化炭素を還元反応器903のカソードに戻して制御可能に再生するよう構成される。いくつかの実装では、出力ストリームは、酸化炭素を再生する前に、還元生成物および/または水素を除去するよう処理される。MEAの構成および動作パラメータに応じて、還元生成物は、一酸化炭素、水素、メタンおよび/またはエチレンなどの炭化水素、ギ酸、酢酸などの酸素含有有機化合物、およびそれらの任意の組み合わせであり得る。特定の実施形態では、生成物流から水を除去するための1つまたは複数の構成要素(図示せず)が、カソードの出口から下流に配置される。このような構成要素の例としては、生成物ガス流から液体の水を除去するよう構成された相分離器、および/または生成物流ガスを冷却し、それにより例えば、必要時に下流のプロセスに乾燥ガスを提供するよう構成された凝縮器を含む。いくつかの実装では、再生された酸化炭素は、カソードの上流のソース909からの新鮮な酸化炭素と混合されてよい。
【0118】
図9に示されるように、アノードサブシステムは、アノード供給流を酸化炭素還元反応器903のアノード側に提供するよう構成される。特定の実施形態では、アノードサブシステムは、新鮮なアノード水を、アノード水貯蔵器919およびアノード水流量コントローラ911を含む再循環ループに提供するよう構成されたアノード水源(図示せず)を含む。アノード水流量コントローラ911は、還元反応器903のアノードへの、または還元反応器903のアノードからのアノード水の流量を制御するよう構成される。示される実施形態では、アノード水再循環ループは、アノード水の組成を調整するための構成要素に連結される。これらは、水貯蔵器921および/またはアノード水添加物源923を含み得る。水貯蔵器921は、アノード水貯蔵器919中とは異なる組成を有する(アノード水再循環ループ内を循環する)水を供給するよう構成される。一例では、水貯蔵器921内の水は、循環アノード水中の溶質または他の構成要素を希釈することができる純水である。純水は、従来の脱イオン水であっても、例えば、少なくとも約15MOhm-cmまたは18.0MOhm-cm超の抵抗率を有する超純水であってもよい。アノード水添加物源923は、塩などの溶質および/または他の構成要素を循環アノード水に供給するよう構成される。
【0119】
動作中、アノードサブシステムは、水または他の反応物を反応器903のアノードに提供してよく、ここで、少なくとも一部が反応して酸素などの酸化生成物を生成する。生成物は、未反応アノード供給材料と共に、還元反応器の出力ストリームに提供される。図9には図示されないが、任意の分離構成要素がアノード出力ストリームの経路に提供され、これが、アノード生成物流から酸化生成物を濃縮または分離するように構成されてよい。
【0120】
システム901には、他の制御特徴部も含まれ得る。例えば、温度コントローラが、動作中の酸化炭素還元反応器903を適切な温度で加熱および/または冷却するよう構成されてよい。示される実施形態では、温度コントローラ905は、アノード水再循環ループに提供されるアノード水を加熱および/または冷却するよう構成される。例えば、温度コントローラ905は、アノード水貯蔵器919内の水および/または貯蔵器921内の水を加熱または冷却し得る加熱器および/または冷却器を含んでも、またはこれらに連結されてもよい。いくつかの実施形態では、システム901は、アノード水構成要素以外の構成要素を直接加熱および/または冷却するよう構成された温度コントローラを含む。セルまたはスタック内のこのような他の構成要素の例としては、カソードを流れる酸化炭素が挙げられる。
【0121】
電流が酸化炭素還元反応器903に一時停止しているかを含む電気化学的動作のフェーズに応じて、システム901の特定の構成要素は、非電気的動作を制御するよう動作し得る。例えば、システム901は、カソードへの酸化炭素の流量、および/または反応器903のアノードへのアノード供給材料の流量を調整するよう構成されてよい。この目的のために制御され得る構成要素は、酸化炭素流量コントローラ913およびアノード水コントローラ911を含んでよい。
【0122】
また、電流が一時停止しているかを含む電気化学的動作のフェーズに応じて、システム901の特定の構成要素が、酸化炭素供給流および/またはアノード供給流の組成を制御するよう動作し得る。例えば、水貯蔵器921および/またはアノード水添加物源923は、アノード供給流の組成を調整するよう制御され得る。場合によっては、添加物源923は、水性アノード供給流中の1つまたは複数の塩などの1つまたは複数の溶質の濃度を調整するよう構成され得る。
【0123】
場合によっては、コントローラ905などの温度コントローラは、動作のフェーズに基づいて、システム901の1つまたは複数の構成要素の温度を調整するよう構成される。例えば、セル903の温度は、ならし運転、平常動作での電流一時停止、および/または貯蔵時に、増加または減少し得る。
【0124】
いくつかの実施形態では、酸化炭素電解還元システムが、還元セルの他のシステム構成要素からの除去を促進するよう構成される。これは、貯蔵、維持、改修などのためにセルを除去する必要がある場合に有用となり得る。示される実施形態では、遮断弁925aおよび925bが、セル903の、それぞれカソードへの酸化炭素のソース、および背圧コントローラ915への流体連通を遮断するよう構成される。追加的に、遮断弁925cおよび925dが、セル903の、それぞれアノード水入口、および出口への流体連通を遮断するよう構成される。
【0125】
酸化炭素還元反応器903はまた、1つまたは複数の電力源および関連するコントローラの制御の下で動作し得る。ブロック933を参照されたい。電力源およびコントローラ933は、還元反応器903内の電極に供給される電流および/またはこれら電極に印加される電圧を制御するようプログラムされるか、これを制御するよう他の方法で構成され得る。電流および/または電圧は、所望の電流密度で電流を印加するように制御され得る。システムオペレータや他の担当者が、還元反応器103に印加される電流のプロファイルを完全に定義するために、電力源およびコントローラ133と連動し得る。
【0126】
特定の実施形態では、電力源およびコントローラは、システム901の他の構成要素に関連する1つまたは複数の他のコントローラまたは制御機構と協調して機能する。例えば、電力源およびコントローラ933は、カソードへの酸化炭素の伝達、アノードへのアノード水の伝達、アノード水への純水または添加物の追加、およびこれらの特徴の任意の組み合わせを制御するためのコントローラと協調して機能し得る。いくつかの実装では、1つまたは複数のコントローラが、以下の機能、すなわち、電流および/または電圧を還元セル903に印加すること、(例えば、背圧コントローラ115を介して)背圧を制御すること、(例えば、パージガス構成要素917を使用して)パージガスを供給すること、(例えば、酸化炭素流量コントローラ913を介して)酸化炭素を伝達すること、(例えば、加湿器904を介して)カソード供給流内の酸化炭素を加湿すること、(例えば、アノード水流量コントローラ911を介した)アノードへ、および/またはアノードからのアノード水の流れ、および(例えば、アノード水源105、純水貯蔵器921、および/またはアノード水添加物構成要素923を介した)アノード水の組成の任意の組み合わせを制御するために協調して制御または動作するよう構成される。
【0127】
示される実施形態において、電圧監視システム934が、MEAセルのアノードおよびカソードを通した電圧、またはセルスタックの任意の2つの電極を通した電圧を決定するため、例えば、マルチセルスタック内の全てのセルを通した電圧を決定するために使用される。
【0128】
図9に示されるような電解酸化炭素還元システムは、コントローラと、ポンプ、センサ、ディスペンサ、バルブ、および電源などの1つまたは複数の制御可能な構成要素とを含む制御システムを使用してよい。センサの例には、圧力センサ、温度センサ、流量センサ、伝導率センサ、電圧計、電流計、電気化学機器を含む電解質組成センサ、クロマトグラフィーシステム、および吸光度測定ツールなどの光学センサなどが含まれる。そのようなセンサは、アノード水、純水、塩溶液など、および/または電解酸化炭素還元システムの他の構成要素を保持するための槽内で、MEAセルの入口および/または出口(例えば、流れ場内)に連結されてよい。
【0129】
1つまたは複数のコントローラによって制御され得る様々な機能としては、電流および/または電圧を酸化炭素還元セルに印加すること、そのようなセルのカソードからの出口で背圧を制御すること、カソード入口へパージガスを供給すること、カソード入口へ酸化炭素を伝達すること、カソード供給流内の酸化炭素を加湿すること、アノードへ、および/またはアノードからアノード水を流すこと、およびアノード供給組成を制御することが挙げられる。これらの機能の1つまたは複数は、その機能のみを制御するための専用コントローラを有してよい。これらの機能の2つ以上が、コントローラを共有してよい。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのマスターコントローラが2つ以上の構成要素コントローラに対して命令を提供するコントローラの階層が使用される。例えば、システムが、(i)酸化炭素還元セルへの電源、(ii)カソード供給流量コントローラ、および(iii)アノード供給流量コントローラへの高レベル制御命令を提供するよう構成されたマスターコントローラを備えてよい。例えば、システムの個々の構成要素を制御するために、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)が使用され得る。
【0130】
特定の実施形態では、制御システムが、本明細書に記載のように設定された電流によって、MEAを備える酸化炭素還元セルに電流を印加するよう構成される。特定の実施形態では、制御システムが、電流スケジュールに協調して、1つまたは複数の供給流(例えば、酸化炭素流などのカソード供給流およびアノード供給流)の流量を制御するよう構成される。いくつかの実施形態では、電流および/または電圧が、2019年12月18日に出願され、すべての目的のために参照により本明細書に組み込まれる、米国特許出願第16/719,359号に記載されたように定期的に一時停止するように規制され得る。
【0131】
特定の実施形態では、制御システムは、塩濃度を定義されたレベルに維持してよい、および/またはアノード水を回収および再循環させてよい。特定の実施形態では、塩濃度は、MEAセルに印加された電流一時停止のスケジュールに協調して調整される。制御システムの制御下で、システムは、例えば、(a)アノードから流出するアノード水を再循環させ、(b)アノードへのアノード水の組成および/または流量を調整し、(c)カソード流出からの水をアノード水に戻し、および/または(d)アノードに戻る前に、カソードストリームから回収された水の組成および/または流量を調整してよい。(d)は、カソードから回収された水中の酸化炭素還元生成物を考慮し得ることに留意されたい。ただし、いくつかの実装では、いくつかの還元生成物がその後アノードで酸化して無害な生成物になり得るため、これを考慮する必要はない。
【0132】
コントローラは、任意の数のプロセッサおよび/またはメモリデバイスを含んでよい。コントローラは、ソフトウェアまたはファームウェアなどの制御ロジックを含んでよい、および/または別のソースから提供された命令を実行してよい。酸化炭素を還元する前、途中、および後の電解セルの動作を制御するために、コントローラを電子機器と統合してよい。コントローラは、1つまたは複数の電解酸化炭素還元システムの様々な構成要素またはサブパーツを制御してよい。コントローラは、処理要件および/またはシステムのタイプに応じて、ガスの伝達、温度設定(例えば、加熱および/または冷却)、圧力設定、電力設定(例えば、MEAセルの電極に伝達される電圧および/または電流)、液体流量設定、流体伝達設定、および浄水および/または塩溶液の投与など、本明細書に開示されるプロセスのいずれかを制御するようにプログラムされてよい。これらの制御されたプロセスは、電解酸化炭素還元システムと協調して機能する1つまたは複数のシステムに接続されるか、そのシステムと相互作用してよい。
【0133】
様々な実施形態において、コントローラは、命令を受け取り、命令を発行し、本明細書に記載の動作を制御する様々な集積回路、ロジック、メモリ、および/またはソフトウェアを備える電子機器を含む。集積回路は、プログラム命令を格納するファームウェアの形態のチップ、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、特定用途向け集積回路(ASIC)として定義されるチップ、および/または1つまたは複数のマイクロプロセッサ、またはプログラム命令(例えば、ソフトウェア)を実行するマイクロコントローラを含んでよい。プログラム命令は、電解酸化炭素還元システムの1つまたは複数の構成要素でプロセスを実行するための動作パラメータを定義する、様々な個別の設定(またはプログラムファイル)の形でコントローラに伝達される命令であってもよい。いくつかの実施形態では、動作パラメータは、一酸化炭素、炭化水素、および/または他の有機化合物などの特定の還元生成物の生成中に1つまたは複数の処理段階を達成するためにプロセスエンジニアによって定義されるレシピの一部であってもよい。
【0134】
いくつかの実装では、コントローラは、システムと統合されるか、システムに連結されるか、他の方法でシステムにネットワーク接続されるか、またはそれらの組み合わせがなされるコンピュータの一部であるか、そのコンピュータに連結されてよい。例えば、コントローラは、リモートで(例えば、「クラウド」に)格納された命令を利用してよい、および/またはリモートで実行してよい。コンピュータは、システムへのリモートアクセスを可能にすることで、電解動作の現在の進行状況を監視し、過去の電解動作の履歴を調べ、複数の電解動作からの傾向または性能測定基準を調べて、現在の処理のパラメータを変更するか、現在の処理に従うように処理段階を設定するか、新しいプロセスを開始してよい。いくつかの例では、リモートコンピュータ(例えば、サーバ)が、ローカルネットワークまたはインターネットを含み得るネットワークを介してシステムにプロセスレシピを提供することができる。リモートコンピュータは、パラメータおよび/または設定の入力またはプログラミングを可能にするユーザインタフェースを含んでよく、パラメータおよび/または設定は、次に、リモートコンピュータからシステムに伝達される。いくつかの例では、コントローラは、1つまたは複数の動作中に実行されるべき処理段階の各々についてパラメータを指定する命令を、データの形で受信する。
【0135】
コントローラは、一緒にネットワーク化され、且つ、MEAセルへの電流の印加および本明細書に記載の他のプロセス制御などの共通の目的に向けて動作する、1つまたは複数の個別のコントローラを含むことなどによって分散されてよい。このような目的のための分散された制御システムの例としては、システム上の、酸化炭素を電解還元するための1つまたは複数のプロセッサと、遠隔に配置され(プラットフォームレベルで、またはリモートコンピュータの一部としてなど)、プロセスを制御するために結合した1つまたは複数のプロセッサとが挙げられる。
【0136】
特定の実施形態では、電解酸化炭素還元システムは、MEA内の塩の沈殿を回避するように構成および制御される。沈殿した塩は、チャネルを遮断する可能性がある、および/またはMEAセルの性能を低下させる他の影響を及ぼす可能性がある。場合によっては、例えばカソード側で、セルが過度に乾燥する可能性があり、これは、乾燥したガス状反応物が、特にカソード側で、MEAから過剰の水を除去するからである。塩の沈殿を引き起こし得るこの問題には、ガス入口ストリーム内の水の分圧を制御することによって(例えば、ガス状の酸化炭素源ガスを加湿することによって)対処することができる。場合によっては、アノード水中の塩濃度が十分に高いため、MEAでの塩の沈殿が促進される。この問題は、電流一時停止中にMEAを純水で洗い流すことにより対処され得る。
[MEA設計の実施形態]
[MEAの概要]
【0137】
様々な実施形態において、MEAは、アノード層と、カソード層と、電解質と、任意選択的に1つまたは複数の他の層とを含有する。層は、固体および/またはゲルであってよい。層は、イオン伝導性ポリマーなどのポリマーを含んでよい。
【0138】
使用時に、MEAのカソードは、CO、COと化学的に反応するイオン(例えば、プロトン)、および電子という3つの入力を結合することによって、COの電気化学的還元を促進する。還元反応によってCO、炭化水素、および/または酸素および水素含有有機化合物(メタノール、エタノール、および酢酸など)が生成され得る。使用時に、MEAのアノードは、酸素原子およびプロトンを生成するための水の電気分解などの電気化学的酸化反応を促進する。カソードおよびアノードはそれぞれ、それぞれの対応する反応を促進するための触媒を含有してよい。
【0139】
MEAにおける層の組成および配置は、CO還元生成物の高収率を促進し得る。この目的のために、MEAは、(a)カソードでの最小の寄生還元反応(非CO還元反応)、(b)アノードまたはMEAの他の箇所でのCO反応物の少ない損失、(c)反応中にMEAの物理的完全性を維持する(例えば、MEA層の層間剥離を防止する)こと、(d)CO還元生成物のクロスオーバーを防止すること、(e)酸化生成(例:O)のクロスオーバーを防止すること、(f)酸化に適したカソードの環境を維持すること、(g)望ましくないイオンを遮断しながら、所望のイオンがカソードとアノードとの間を移動するための経路を提供すること、(h)電圧損失を最小限に抑えること、といった条件のいずれか1つまたは複数を促進してよい。本明細書で説明するように、MEA中の塩または塩イオンの存在は、これら全ての条件のうちのいくつかを容易にすることができる。
[CO還元に関する考慮事項]
【0140】
MEAなどのポリマー系の膜アセンブリは、水電解槽などの様々な電解システム、および燃料電池などの様々なガルバニックシステムで使用されてきた。ただし、COの還元は、水電解槽および燃料電池では発生しない、または発生する程度が少ない問題を提示する。
【0141】
例えば、多くの用途では、CO還元のためのMEAが、約50,000時間以上程度(約5年間の連続運転)の寿命を必要とし、これは、自動車用途の燃料電池の予想寿命(例えば、5,000時間程度)よりも大幅に長い。また、様々な用途において、CO還元のためのMEAは、自動車用途の燃料電池に使用されるMEAと比較して、比較的大きな表面積を有する電極を使用している。例えば、CO還元のためのMEAは、少なくとも約500cmの表面積(細孔および他の非平面の特徴を考慮しない)を有する電極を使用してよい。
【0142】
CO還元反応は、特定の反応物および生成物種の物質移送を容易にし、且つ、寄生反応を抑制する、動作環境で実装されてよい。燃料電池および水電解槽MEAは、多くの場合、そのような動作環境を作り出すことができない。例えば、そのようなMEAは、カソードでのガス状水素発生および/またはアノードでのガス状CO生成などの望ましくない寄生反応を促進する可能性がある。
【0143】
いくつかのシステムでは、CO還元反応の速度は、カソードでのガス状CO反応物の利用可能性によって制限される。対照的に、水の電気分解の速度は、反応物の利用可能性によって大幅に制限されず、液体の水は、カソードおよびアノードに容易にアクセスできる傾向があり、電解槽は、可能な限り最高の電流密度に近い状態で動作することができる。
[MEA構成]
【0144】
特定の実施形態では、MEAは、カソード層と、アノード層と、アノード層とカソード層との間のポリマー電解質膜(PEM)とを有する。ポリマー電解質膜は、短絡を引き起こすであろう電子伝達を防止しながら、アノード層とカソード層との間のイオン伝達を提供する。カソード層は、還元触媒および第1のイオン伝導性ポリマーを含む。カソード層はまた、イオン伝導体および/または電子伝導体を含んでよい。アノード層は、酸化触媒および第2のイオン伝導性ポリマーを含む。アノード層はまた、イオン伝導体および/または電子伝導体を含んでよい。PEMは、第3のイオン伝導性ポリマーを含む。
【0145】
特定の実施形態では、MEAが、カソード層とポリマー電解質膜との間にカソードバッファ層を有する。カソードバッファは、第4のイオン伝導性ポリマーを含む。
【0146】
特定の実施形態では、MEAが、アノード層とポリマー電解質膜との間にアノードバッファ層を有する。アノードバッファは、第5のイオン伝導性ポリマーを含む。
【0147】
特定のMEA設計に関連して、イオン伝導性ポリマーには、アニオン伝導体、カチオン伝導体、およびカチオン-アニオン混合伝導体という3つの利用可能なクラスがある。特定の実施形態では、第1、第2、第3、第4、および第5のイオン伝導性ポリマーのうちの少なくとも2つは、異なるクラスのイオン伝導性ポリマーに由来する。
[MEA層用のイオン伝導性ポリマーの伝導率と選択性]
【0148】
「イオン伝導性ポリマー」という用語は、本明細書では、アニオンおよび/またはカチオンに対して約1mS/cmを超える比伝導率を有するポリマー電解質を説明するために使用される。「アニオン伝導体」という用語は、主にアニオンを伝導し(ただし、依然としていくらか少量のカチオン伝導があるであろう)、且つ、約100ミクロンの厚さで約0.85を超えるアニオンの輸率を有する、イオン伝導性ポリマーを表す。「カチオン伝導体」および/または「カチオン伝導性ポリマー」という用語は、主にカチオンを伝導し(例えば、依然として付随的な量のアニオン伝導が存在し得る)、且つ、約100ミクロンの厚さで約0.85を超えるカチオンの輸率を有する、イオン伝導性ポリマーを表す。アニオンおよびカチオンの両方を伝導すると説明されているイオン伝導性ポリマー(「カチオン-アニオン伝導体」)の場合は、アニオンもカチオンも、約100ミクロンの厚さで輸率が約0.85を超えることも約0.15を下回ることもない。材料がイオン(アニオンおよび/またはカチオン)を伝導すると言うことは、その材料がイオン伝導性材料またはアイオノマーであると言うことである。各クラスのイオン伝導性ポリマーの例を以下の表に示す。
【表2】
【0149】
いくつかのクラスAイオン伝導性ポリマーは、2259-60(Pall RAI)、Tokuyama CoのAHA、fumasep(登録商標)FAA-(fumatech GmbH)、Sustanion(登録商標)、SolvayのMorgane ADP、またはTosohアニオン交換膜材料のTosflex(登録商標)SF-17などの商品名として知られている。さらなるクラスAイオン伝導性ポリマーは、IonomrのHNN5/HNN8、FumatechのFumaSep、OrionのTM1、およびW7energyのPAP-TPを含む。いくつかのクラスCイオン伝導性ポリマーは、Nafion(登録商標)(DuPont(商標))、GORE-SELECT(登録商標)(Gore)、fumapem(登録商標)(fumatech GmbH)、およびAquivion(登録商標)PFSA(Solvay)の様々な製剤などの商品名として知られている。
[CO還元のための両極性MEA]
【0150】
特定の実施形態では、MEAは、アニオン伝導性ポリマーをMEAのカソード側に、相互作用するカチオン伝導性ポリマーをMEAのアノード側に有する両極性界面を含む。いくつかの実装では、カソードが、第1の触媒およびアニオン伝導性ポリマーを含有する。特定の実施形態では、アノードが、第2の触媒およびカチオン伝導性ポリマーを含有する。いくつかの実装では、カソードとPEMとの間に位置するカソードバッファ層が、アニオン伝導性ポリマーを含有する。いくつかの実施形態では、アノードとPEMとの間に位置するアノードバッファ層は、カチオン伝導性ポリマーを含有する。
【0151】
動作中に、両極性界面を備えたMEAは、ポリマー電解質を介してイオンを移動させ、カソード層およびアノード層における金属および/または炭素を介して電子を移動させ、層の細孔を介して液体およびガスを移動させる。
【0152】
カソードおよび/またはカソードバッファ層でアニオン伝導性ポリマーを使用する実施形態では、MEAは、望ましくない生成物を生成し、且つ、セルの全体的な効率を低下させる、望ましくない反応を低減または遮断することができる。アノードおよび/またはアノードバッファ層にカチオン伝導性ポリマーを使用する実施形態では、所望の生成物の生成を減少させ、且つ、セルの全体的な効率を低下させる、望ましくない反応を低減または遮断することができる。
【0153】
例えば、COのカソード還元に使用される電位のレベルでは、水素イオンが水素ガスに還元され得る。これは寄生反応であり、COを削減するために使用できる電流は、代わりに水素イオンを削減するために使用される。水素イオンは、CO還元反応器のアノードで実行される様々な酸化反応によって生成されてよく、MEAを横切って移動し、カソードに到達してよく、そこで還元されて水素ガスを生成することができる。この寄生反応が進行できる範囲は、カソードに存在する水素イオンの濃度の関数である。従って、MEAは、カソード層および/またはカソードバッファ層でアニオン伝導材料を使用してよい。アニオン伝導材料は、水素イオンがカソード上の触媒部位に到達することを少なくとも部分的に遮断する。その結果、水素ガス発生の寄生生成が減少し、COまたは他の生成物の生成速度とプロセスの全体的な効率とが向上する。
【0154】
回避可能な別の反応は、COを生成するアノードでの炭酸イオンまたは炭酸水素イオンの反応である。水性炭酸イオンまたは炭酸水素イオンは、カソードでCOから生成され得る。そのようなイオンがアノードに到達すると、水素イオンと反応してガス状COを生成および放出し得る。その結果、COはカソードからアノードへ純移動し、そこで反応せず、酸化生成物と一緒に失われる。カソードで生成された炭酸イオンおよび炭酸水素イオンがアノードに到達するのを防止するために、アノードおよび/またはアノードバッファ層は、炭酸水素イオンなどの負イオンのアノードへの移送を少なくとも部分的に遮断するカチオン伝導性ポリマーを含んでよい。
【0155】
従って、いくつかの設計では、両極性膜構造が、カソードでのpHを上げて、CO還元を促進し、プロトン交換層などのカチオン伝導性ポリマーが、相当量のCOおよびCO還元生成物(例えば、炭酸水素塩)のセルのアノード側への通過を防止する。
【0156】
CO還元に使用するためのMEA1000の例を図10に示す。MEA1000は、イオンがカソード層1020とアノード層1040との間を移動するための経路を提供するイオン伝導性ポリマー層1060によって分離された、カソード層1020とアノード層1040とを有する。特定の実施形態では、カソード層1020は、アニオン伝導性ポリマーを含み、および/または、アノード層1040は、カチオン伝導性ポリマーを含む。特定の実施形態では、MEAのカソード層および/またはアノード層は多孔質である。細孔は、ガスおよび/または流体の移送を容易にすることができ、反応に利用可能な触媒表面積の量を増加させることができる。
【0157】
イオン伝導層1060は、2つまたは3つの副層、すなわち、ポリマー電解質膜(PEM)1065、任意選択的なカソードバッファ層1025、および/または任意選択的なアノードバッファ層1045を含んでよい。イオン伝導層の1つまたは複数の層が多孔質であってもよい。特定の実施形態では、少なくとも1つの層が非多孔質であるため、カソードの反応物および生成物は、ガスおよび/または液体の移送によってアノードに通過することができず、その逆も同様である。特定の実施形態では、PEM層1065が非多孔質である。アノードバッファ層およびカソードバッファ層の特性の例は、本明細書の他の箇所に提供されている。特定の実施形態では、イオン伝導層が、単一の層または2つの副層のみを含む。
【0158】
図11は、カソード1105で水およびCO(例えば、加湿または乾燥したガス状CO)を反応物として受け取り、且つ、CHを生成物として排出するように構成された、CO電解槽1103を示している。電解槽1103はまた、アノード1107で水を反応物として受け取り、且つ、ガス状酸素を排出するように構成される。電解槽1103は、カソード1105に隣接するアニオン伝導性ポリマー1109と、アノード1107に隣接するカチオン伝導性ポリマー1111(プロトン交換膜として示される)とを有する両極性層を含む。
【0159】
電解槽1103の両極性界面1113の拡大挿入図に示されているように、カソード1105は、炭素担持粒子1117と、担持粒子上に担持された金属ナノ粒子1119とを電子的に伝導するアニオン交換ポリマー(この例では、両極性層にあるものと同じアニオン伝導性ポリマー1109)を含む。COおよび水は、細孔1121などの細孔を介して移送され、金属ナノ粒子1119に到達し、そこで、この場合は、水酸化物イオンと反応して、炭酸水素イオンおよび還元反応生成物(図示せず)を生成する。COは、アニオン交換ポリマー1115内の移送によって金属ナノ粒子1119に到達することもできる。
【0160】
水素イオンは、アノード1107から、カチオン伝導性ポリマー1111を通って、両極性界面1113に到達するまで移送され、そこで、水素イオンのカソードへのさらなる移送がアニオン交換ポリマー1109によって妨害される。界面1113では、水素イオンは、炭酸水素イオンまたは炭酸イオンと反応して炭酸(HCO)を生成してよく、炭酸は分解してCOおよび水を生成してよい。本明細書で説明するように、結果として得られるCOは気相で提供されてよく、それを還元することができるカソード1105に戻るMEA内の経路で提供される必要がある。カチオン伝導性ポリマー1111は、炭酸水素イオンなどのアニオンがアノードに移送され、そこでプロトンと反応し、カソードでの還元反応に関与できないCOを放出し得るのを妨害する。
【0161】
図示のように、アニオン伝導性ポリマーを有するカソードバッファ層は、カソードおよびそのアニオン伝導性ポリマーと協調して機能して、カソードへのプロトンの移送を遮断してよい。カソード、アノード、カソードバッファ層、およびアノードバッファ層(存在する場合)で適切な伝導性タイプのイオン伝導性ポリマーを使用するMEAは、カチオンのカソードへの移送とアニオンのアノードへの移送とを妨害し得るが、カチオンおよびアニオンは依然として、MEAの内部領域、例えば、膜層などで接触する可能性がある。
【0162】
炭酸水素イオンおよび/または炭酸イオンは、カソード層とアノード層との間で水素イオンと結合して炭酸を形成し、炭酸は分解してガス状COを形成してよい。MEAが時として剥離することが観察されているが、これは容易な出口経路を有しないこのガス状COの生成が原因であり得る。
【0163】
層間剥離の問題には、不活性フィラーおよび関連付けられる細孔を有するカソードバッファ層を使用することによって対処することができる。その有効性の考えられる説明の1つは、ガス状二酸化炭素が、それが還元され得るカソードに戻るための経路を、細孔が生成することである。いくつかの実施形態では、カソードバッファ層は多孔質であるが、カソード層とアノード層との間の少なくとも1つの層は非多孔質である。これにより、層間剥離を防止しながら、カソード層とアノード層との間のガスおよび/またはバルク液体の通過を防止することができる。例えば、非多孔質層は、アノードからカソードへの水の直接通過を防止することができる。MEAにおける様々な層のポロシティは、本明細書の他の箇所でさらに説明される。
[両極性MEAの例]
【0164】
一例として、MEAは、還元触媒および第1のアニオン伝導性ポリマー(例えば、Sustainion、FumaSep FAA-3、Tokuyamaアニオン交換ポリマー)を含むカソード層と、酸化触媒および第1のカチオン伝導性ポリマー(例えば、PFSAポリマー)を含むアノード層と、第2のカチオン伝導性ポリマーを含み、且つ、カソード層とアノード層との間に配置されてカソード層とアノード層とを伝導的に接続する、膜層と、第2のアニオン伝導性ポリマー(例えば、Sustainion、FumaSep FAA-3、Tokuyamaアニオン交換ポリマー)を含み、且つ、カソード層と膜層との間に配置されてカソード層と膜層とを伝導的に接続する、カソードバッファ層とを含む。この例では、カソードバッファ層は、約1~90容量パーセントのポロシティを有することができるが、追加的または代替的に、任意の適切なポロシティ(例えば、ポロシティがないことを含む)を有することができる。他の例では、カソードバッファ層は、任意の適切なポロシティ(例えば、0.01~95%、0.1~95%、0.01~75%、1~95%、1~90%など)を有することができる。
【0165】
ポロシティがありすぎると、バッファ層のイオン伝導度が低下し得る。いくつかの実施形態では、ポロシティは20%以下であり、特定の実施形態では、0.1~20%、1~10%、または5~10%である。これらの範囲のポロシティは、イオン伝導性を失うことなく、水および/またはCOの移動を可能にするのに十分であり得る。ポロシティは、以下でさらに説明するように測定されてよい。
【0166】
関連する例では、膜電極アセンブリは、第3のカチオン伝導性ポリマーを含み、且つ、膜層とアノード層との間に配置されて膜層とアノード層とを伝導的に接続する、アノードバッファ層を含むことができる。アノードバッファ層は、好ましくは、約1~90容量パーセントのポロシティを有するが、追加的または代替的に、任意の適切なポロシティ(例えば、ポロシティがないことを含む)を有することができる。ただし、他の構成および例では、アノードバッファ層が、任意の適切なポロシティ(例えば、0.01~95%、0.1~95%、0.01~75%、1~95%、1~90%)を有することができる。カソードバッファ層と同様に、いくつかの実施形態では、ポロシティが20%以下であり、例えば、0.1~20%、1~10%、または5~10%である。
【0167】
ある例では、アノードバッファ層は、アニオン交換ポリマーを有するカソード触媒層と、アニオン交換ポリマーを有するカソードバッファ層と、カチオン交換ポリマーを有する膜と、アニオン交換ポリマーを有するアノードバッファ層とを有するMEAにおいて使用されてよい。そのような構造では、アノードバッファ層が、膜/アノードバッファ層界面への水の移送を容易にするために多孔質であってよい。水はこの界面で分割されて、膜を通って移動するプロトンと、アノード触媒層に移動する水酸化物とを生成する。この構造の利点の1つは、塩基性条件でのみ安定している低コストの水酸化触媒(例えば、NiFeO)を使用できる可能性があることである。
【0168】
別の具体例では、膜電極アセンブリが、還元触媒および第1のアニオン伝導性ポリマー(例えば、Sustainion、FumaSep FAA-3、Tokuyamaアニオン交換ポリマー)を含むカソード層と、酸化触媒および第1のカチオン伝導性ポリマーを含むアノード層と、第2のアニオン伝導性ポリマー(例えば、Sustainion、FumaSep FAA-3、Tokuyamaアニオン交換ポリマー)を含み、且つ、カソード層とアノード層との間に配置されてカソード層とアノード層とを伝導的に接続する、膜層と、第2のカチオン伝導性ポリマーを含み、且つ、アノード層と膜層との間に配置されてアノード層と膜層とを伝導的に接続する、アノードバッファ層とを含む。
【0169】
アニオン交換ポリマー膜を含有するMEAと、カチオン交換ポリマーを含有するアノードバッファ層とを、CO還元に使用してよい。この場合は、水が、膜/アノードバッファ層の界面で形成される。アノードバッファ層の細孔は、水の除去を容易にし得る。この構造の1つの利点は、酸安定性(例えば、IrO)水酸化触媒の使用であり得る。
【0170】
関連する例では、膜電極アセンブリは、第3のアニオン伝導性ポリマーを含み、且つ、カソード層と膜層との間に配置されてカソード層と膜層とを伝導的に接続する、カソードバッファ層を含むことができる。第3のアニオン伝導性ポリマーは、第1および/または第2のアニオン伝導性ポリマーと同じであっても異なってもよい。カソードバッファ層は、好ましくは、約1~90容量パーセントのポロシティを有するが、追加的または代替的に、任意の適切なポロシティ(例えば、ポロシティがないことを含む)を有することができる。ただし、他の構成および例では、カソードバッファ層が、任意の適切なポロシティ(例えば、0.01~95%、0.1~95%、0.01~75%、1~95%、1~90%)を有することができる。いくつかの実施形態では、ポロシティは20%以下であり、特定の実施形態では、0.1~20%、1~10%、または5~10%である。
【0171】
ある例では、カソード触媒層は、Vulcan XC72R炭素に担持され、且つ、TM1(mTPN-1)アニオン交換ポリマー電解質(Orion製)と混合された、直径4nmのAuナノ粒子で構成される。層の厚さは~15μmであり、Au/(Au+C)=20重量%、触媒に対するTM1の質量比は0.32、質量負荷は1.4~1.6mg/cm(合計Au+C)、推定ポロシティは0.56である。アニオン交換ポリマー層は、TM1およびPTFE粒子で構成される。PTFEの直径は約200nmである。TM1の分子量は30k~45kである。層の厚さは~15μmである。PTFEは約8%のポロシティをもたらす可能性がある。プロトン交換膜層は、パーフルオロスルホン酸ポリマー(例えば、Nafion117)で構成される。厚さは約125μmである。膜は、層を通じたガス(CO、CO、H)の著しい移動を防止する連続層を形成する。アノード触媒層は、厚さ10μmのIrナノ粒子またはIrOナノ粒子(100~200nmの集合体)で構成される。
[CO還元のためのアニオン交換膜のみのMEA]
【0172】
いくつかの実施形態では、MEAは、カチオン伝導性ポリマー層を含有しない。そのような実施形態では、電解質はカチオン伝導性ポリマーではなく、アノードは、イオン伝導性ポリマーを含む場合、カチオン伝導性ポリマーを含有しない。例がここに提供される。
【0173】
AEMのみのMEAは、MEA全体でアニオンの伝導を可能にする。いずれのMEA層もカチオンに対して有意な伝導性を有しない実施形態では、水素イオンは、MEA内で制限された移動度を有する。いくつかの実装では、AEMのみの膜が、高pH環境(例えば、少なくとも約pH7)を提供し、カソードでの水素発生寄生反応を抑制することによって、COおよび/またはCOの還元を促進し得る。他のMEA設計と同様に、AEMのみのMEAは、イオン、特に水酸化物イオンなどのアニオンが、ポリマー電解質を通って移動することを可能にする。いくつかの実施形態では、pHがより低くてもよく、4以上のpHは、水素の発生を抑制するのに十分な高さであり得る。AEMのみのMEAは、電子が触媒層内の金属および炭素に移動し、且つ、金属および炭素を通過することも可能にする。実施形態では、アノード層、カソード層、および/またはPEMに細孔を有するため、AEMのみのMEAは、液体およびガスが細孔を通って移動することを可能にする。
【0174】
特定の実施形態では、AEMのみのMEAが、いずれかの側(カソードおよびアノード)に電極触媒層を有するアニオン交換ポリマー電解質膜を含む。いくつかの実施形態では、一方または両方の電極触媒層も、アニオン交換ポリマー電解質を含有する。
【0175】
特定の実施形態では、AEMのみのMEAは、カソードおよびアノード電極触媒層をガス拡散層などの多孔質伝導性担体上に堆積させて、ガス拡散電極(GDE)を形成し、ガス拡散電極間にアニオン交換膜を挟み込むことによって形成される。
【0176】
特定の実施形態では、AEMのみのMEAが、CO還元に使用される。アニオン交換ポリマー電解質の使用は、CO還元を不利にする低pH環境を回避する。さらに、AEMが使用される場合は、水がカソード触媒層から離れて移送され、それにより、セルのカソードにおける反応性ガスの移送を遮断し得る水の蓄積(フラッディング)が防止される。
【0177】
MEAでの水の移送は、拡散や電気浸透抗力など、様々なメカニズムを通じて発生する。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のCO電解槽の電流密度では、電気浸透抗力が支配的なメカニズムである。水は、イオンがポリマー電解質を通って移動するときに、イオンと共に引きずられる。Nafion膜などのカチオン交換膜の場合は、水の移送量は、膜の前処理/水和に依存するように十分に特徴付けられ、膜の前処理/水和に依存すると理解されている。プロトンは、正の電位から負の電位へ(アノードからカソードへ)移動する。それぞれ、前処理に応じて2~4の水分子を運ぶ。アニオン交換ポリマーでは、同じタイプの効果が発生する。ポリマー電解質を通って移動する水酸化物、炭酸水素塩、または炭酸イオンは、水分子を「引きずる」。アニオン交換MEAでは、イオンが負から正の電圧、つまりカソードからアノードに移動し、水分子を運び、その過程で水をカソードからアノードに移動させる。
【0178】
特定の実施形態では、AEMのみのMEAは、CO還元反応で使用される。CO還元反応とは異なり、CO還元は、アノードに移送されて有益な反応物を放出する可能性のある炭酸塩または炭酸水素塩のアニオンを生成しない。
【0179】
図12は、カソード触媒層1203と、アノード触媒層1205と、アニオン伝導性PEM1207とを有するCO還元MEA1201の構造例を示している。特定の実施形態では、カソード触媒層1203は、炭素粒子などの、導電性基板上に担持されていないか、担持されている金属触媒粒子(例えば、ナノ粒子)を含む。いくつかの実装では、カソード触媒層1203が、アニオン伝導性ポリマーをさらに含む。金属触媒粒子は、特に7を超えるpHで、CO還元に触媒作用を及ぼし得る。特定の実施形態では、アノード触媒層1205が、炭素粒子などの、導電性基板上に担持されていないか、担持されている酸化金属触媒粒子(例えば、ナノ粒子)を含む。いくつかの実装では、アノード触媒層1203が、アニオン伝導性ポリマーをさらに含む。アノード触媒層1205のための酸化金属触媒粒子の例には、酸化イリジウム、酸化ニッケル、酸化ニッケル鉄、酸化イリジウムルテニウム、および酸化白金などが含まれる。アニオン伝導性PEM1207は、例えば、IonomrによるHNN5/HNN8、FumatechによるFumaSep、OrionによるTM1、W7energyによるPAP-TP、Dioxide MaterialsによるSustainionなどの様々なアニオン伝導性ポリマーのいずれかを含んでよい。1.1~2.6の範囲のイオン交換容量(IEC)、0~14の動作pH範囲、いくつかの有機溶媒への耐えられる溶解度、適度な熱安定性および機械的安定性、優れたイオン伝導性/ASR、および許容可能な吸水/膨潤比を有するこれらおよび他のアニオン伝導性ポリマーが使用されてよい。ポリマーは、使用前に、ハロゲンアニオンの代わりに、特定のアニオンに化学的に交換されてよい。
【0180】
図12に示されるように、COガスなどのCOが、カソード触媒層1203に提供されてよい。特定の実施形態では、COは、ガス拡散電極を介して提供されてよい。カソード触媒層1203では、COが反応して、一般にCとして表示される還元生成物を生成する。カソード触媒層1203で生成されるアニオンは、水酸化物、炭酸塩、および/または炭酸水素塩を含んでよい。これらは、アノード触媒層1205に拡散するか、泳動するか、そうでなければ移動してよい。アノード触媒層1205では、水の酸化などの酸化反応が起こって、二原子酸素イオンおよび水素イオンが生成され得る。いくつかの用途では、水素イオンが、水酸化物、炭酸塩、および/または炭酸水素塩と反応して、水、炭酸、および/またはCOが生成されてよい。界面が少ないほど、抵抗は低くなる。いくつかの実施形態では、高度に塩基性の環境が、C2およびC3炭化水素合成のために維持される。
【0181】
図13は、カソード触媒層1303と、アノード触媒層1305と、アニオン伝導性PEM1307とを有するCO還元MEA1301の構造例を示している。全体として、MEA1301の構造は、図12のMEA1201の構造と同様であり得る。ただし、カソード触媒は、CO還元反応を促進するように選択されてよく、これは、COおよびCO還元の実施形態では異なる還元触媒が使用されることを意味する。
【0182】
いくつかの実施形態では、AEMのみのMEAは、CO還元にとって有利であり得る。AEM材料の吸水数は、触媒界面での水分の調整に役立つように選択でき、それによって触媒へのCOの利用可能性が向上する。このため、AEMのみの膜は、CO還元に有利であり得る。両極性膜は、塩基性のアノード液媒体でのCOの溶解およびクロスオーバーに対する耐性がより優れているため、COの還元に有利であり得る。
【0183】
様々な実施形態において、カソード触媒層1303は、炭素粒子などの、導電性基板上に担持されていないか、担持されている金属触媒粒子(例えば、ナノ粒子)を含む。いくつかの実装では、カソード触媒層1303が、アニオン伝導性ポリマーをさらに含む。特定の実施形態では、アノード触媒層1305が、炭素粒子などの、導電性基板上に担持されていないか、担持されている酸化金属触媒粒子(例えば、ナノ粒子)を含む。いくつかの実装では、アノード触媒層1303が、アニオン伝導性ポリマーをさらに含む。アノード触媒層1305の酸化金属触媒粒子の例には、図12のアノード触媒層1205について特定されたものが含まれてよい。アニオン伝導性PEM1307は、例えば、図12のPEM1207について特定されたものなどの様々なアニオン伝導性ポリマーのいずれかを含んでよい。
【0184】
図13に示されるように、COガスは、カソード触媒層1303に提供されてよい。特定の実施形態では、COは、ガス拡散電極を介して提供されてよい。カソード触媒層1303では、COが反応して、一般にCとして表示される還元生成物を生成する。
【0185】
カソード触媒層1303で生成されるアニオンは、水酸化物イオンを含んでよい。これらは、アノード触媒層1305に拡散するか、泳動するか、そうでなければ移動してよい。アノード触媒層1305では、水の酸化などの酸化反応が起こって、二原子酸素イオンおよび水素イオンが生成され得る。いくつかの用途では、水素イオンが水酸化物イオンと反応して、水を生成してよい。
【0186】
MEA1301の一般的な構成はMEA1201の構成と同様であるが、これらのMEAには一定の違いがある。第1に、MEAはCO還元のためにより湿っている可能性があり、触媒表面がより多くの-Hを有することを助ける。また、CO還元の場合は、図4に示すように、相当量のCOが溶解されてから、AEMのみのMEAのアノードに移送され得る。CO還元の場合は、著しいCOガスのクロスオーバーが発生する可能性は低くなる。この場合は、反応環境が非常に塩基性であり得る。触媒を含むMEA材料は、高pH環境で良好な安定性を有するように選択してよい。いくつかの実施形態では、CO還元よりもCO還元のために、より薄い膜を使用してよい。
【0187】
特定の実施形態では、AEMのみのMEAに、AEMとカソードとの間の液体バッファが設けられ得る。図1Aの103に例が示される。そのような実施形態では、アノードおよびAEMは、液体バッファを有さないAEMのみのMEAについて記載されたように使用され得る。AEMと多孔性炭素ガス拡散層に支持されたカソード触媒層との間に、薄い液体層が設けられる。液体層は、例えば、NaOH、KOH、NaHCO、またはKHCO水溶液のmM-M溶液といった、塩溶液であってよい。(例えば、アノード水の一部として)MEAに塩を提供するために記載された濃度範囲は、液体バッファについて使用されてよい。
[AEMのみのMEAの例]
【0188】
1.銅金属(USRN40nm厚Cu、~0.05mg/cm)を、電子ビーム堆積によって多孔質カーボンシート(Sigracet39BCガス拡散層)上に堆積させた。Ir金属ナノ粒子を、ドロップキャスティングを介して3mg/cmの負荷で多孔質チタンシート上に堆積させた。Ionomrからのアニオン交換膜(25~50μm、80mS/cmのOH-伝導率、2~3mS/cmのHCO 伝導率、33~37%の吸水率)を、多孔質のカーボンシートとチタンシートとの間に挟み込んで、電極触媒層が膜に面するようにした。
【0189】
2.Fumatech製のFAA-3アニオン交換固体ポリマー電解質と混合された、Sigma Aldrich 80nm球状Cuナノ粒子、上記のように設定された、触媒に対するFAA-3の質量比0.10。
【0190】
MEAの様々な特徴および例が記載されている、2017年11月9日に公開された米国特許出願公開第US2017/0321334号および2019年7月25日に公開された米国特許出願公開第20190226103号の全体が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書で参照される全ての刊行物は、本明細書に完全に記載されているかのように、その全体が参照により組み込まれる。
[カソード触媒層-一般的な構造]
【0191】
上記のように、カソード層またはカソード触媒層とも呼ばれるMEAのカソードは、CO変換を容易にする。MEAのカソードは、CO還元反応用の触媒を含有する多孔質層である。
【0192】
いくつかの実施形態では、カソード触媒層は、還元触媒粒子と、還元触媒粒子の担体を提供する電子伝導性担持粒子と、カソードイオン伝導性ポリマーとのブレンドを含有する。いくつかの実施形態では、還元触媒粒子は、担体なしでカソードイオン伝導性ポリマーとブレンドされる。
【0193】
還元触媒粒子に使用できる材料の例には、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Au、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、Hf、Ta、W、Re、Ir、Pt、およびHgなどの遷移金属、およびそれらの組み合わせ、並びに/または他の任意の適切な材料が含まれるが、これらに限定されない。他の触媒材料は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ランタニド、アクチニド、およびSn、Si、Ga、Pb、Al、Tl、Sb、Te、Bi、Sm、Tb、Ce、Nd、およびInなどの遷移後金属、もしくはそれらの組み合わせ、および/または他の任意の適切な触媒材料を含むことができる。触媒の選択は、CRRのカソードで実行される特定の反応に依存する。
【0194】
触媒は、サイズが約1~100nmの範囲のナノ粒子、またはサイズが約0.2~10nmの範囲の粒子、またはサイズ範囲が約1~1000nmまたは他の任意の適切な範囲の粒子の形態であり得る。ナノ粒子およびより大きな粒子に加えて、フィルムおよびナノ構造化表面を使用してよい。
【0195】
使用される場合、カソード内の電子伝導性担持粒子は、様々な形態の炭素粒子であり得る。他の考えられる伝導性担持粒子は、ホウ素ドープダイヤモンドまたはフッ素ドープ酸化スズを含む。一構成では、伝導性担持粒子がバルカン炭素である。伝導性担持粒子はナノ粒子であり得る。伝導性担持粒子のサイズ範囲は、約20nmから1000nmの間、または他の任意の適切な範囲である。これは、伝導性担持粒子が、CRRの動作時にカソード中に存在する化学物質と相溶性があり、還元的に安定しており、且つ、高い水素生成過電圧を有しており、その結果、いかなる電気化学反応にも関与しないといった場合に、特に有用である。
【0196】
Au/Cなどの複合触媒の場合は、金属ナノ粒子サイズの例は、約2nm~20nmの範囲であってよく、炭素サイズは、担持材料として約20~200nmであってよい。AgまたはCuなどの純金属触媒の場合は、粒子の結晶粒径は、2nm~500nmの広い範囲を有する。凝集はさらに大きく、マイクロメートルの範囲になり得る。
【0197】
一般に、そのような伝導性担持粒子は還元触媒粒子より大きく、各伝導性担持粒子は多くの還元触媒粒子を担持することができる。図14は、炭素粒子などの触媒担持粒子1410に担持された2つの異なる種類の触媒の考えられる形態を示す概略図である。第1のタイプの触媒粒子1430および第2のタイプの第2の触媒粒子1450は、触媒担持粒子1410に付着している。様々な配置において、触媒担持粒子1410に付着しているのは、1つのタイプの触媒粒子のみ、または2つより多いタイプの触媒粒子である。
【0198】
2つのタイプの触媒を使用することは、特定の実施形態では有用であり得る。例えば、1つの触媒が1つの反応(例えば、CO→CO)に適していて、2番目の触媒が別の反応(例えば、CO→CH)に適している場合がある。総合的に、触媒層は、COからCHへの変換を実行するが、反応の様々な段階が様々な触媒で行われる。これは、(例えば、図14に示すように)MEAの単層に2種類の触媒を一緒に混合すること、MEA内に2つの異なる触媒層(例えば、異なる触媒を有する2つの隣接する層)を有すること、MEAの2つの分離領域を有すること(例えば、CO→COが発生する領域と、CO→CHが発生する領域)、またはセルスタックもしくは分離セルスタック内に2つのMEAを有すること(例えば、CO→COが発生するMEAと、CO→CHが発生するMEA)によって達成され得る。
【0199】
電子伝導性担体は、チューブ(例えば、カーボンナノチューブ)およびシート(例えば、グラフェン)を含む、粒子以外の形態であってもよい。体積に対する表面積が大きい構造は、触媒粒子が付着するための部位を提供するのに有用である。
【0200】
還元触媒粒子および電子伝導性担持粒子に加えて、カソード触媒層は、イオン伝導性ポリマーを含んでよい。カソード内のカソードイオン伝導性ポリマーの量を選択することには、トレードオフがある。十分なイオン伝導性を提供するのに十分なカソードイオン伝導性ポリマーを含めることが重要な場合がある。しかし、反応物および生成物がカソードを通じて容易に移動できるように、また反応に利用可能な触媒表面積の量を最大化するために、カソードが多孔質であることも重要である。様々な配置において、カソードイオン伝導性ポリマーは、カソード層中の材料の30~70重量%、20~80重量%、もしくは10~90重量%の範囲、または他の任意の適切な範囲のどこかを構成する。カソード内のイオン伝導性ポリマーの重量%は、CO還元のための最高の電流密度を与える、カソード層のポロシティおよびイオン伝導性をもたらすように選択される。いくつかの実施形態では、これは20から60重量%、または20から50重量%である。カソード触媒層の厚さの例は、約80nm~300μmの範囲である。
【0201】
還元触媒粒子、カソードイオン伝導性ポリマー、および電子伝導性担体(存在する場合)に加えて、カソード触媒層は、PTFEなどの他の添加剤を含んでよい。
【0202】
ポリマー対触媒の質量比に加えて、触媒層は、質量負荷(mg/cm)およびポロシティによって特徴付けられてよい。ポロシティは、様々な方法によって決定し得る。1つの方法では、各構成要素(例えば、触媒、担体、およびポリマー)の負荷にそれぞれの密度を乗算する。これらを合計して、構成要素が材料に占める厚さを決定する。次に、これを既知の総厚さで割って、材料で満たされている層の割合を取得する。次に、結果として得られる割合を1から引いて、空気で満たされていると想定される層の割合、つまりポロシティを取得する。水銀ポロシメトリーまたはTEM画像の画像処理などの方法を使用してもよい。
【0203】
CO、メタン、およびエチレン/エタノールの生成のためのカソード触媒層の例を以下に挙げる。
・ CO生成:Vulcan XC72Rカーボンに担持され、Orion製のTM1アニオン交換ポリマー電解質と混合された、直径4nmのAuナノ粒子。層の厚さは約15μmであり、Au/(Au+C)=30重量%、触媒に対するTM1の質量比は0.32、質量負荷は1.4~1.6mg/cm、推定ポロシティは0.47である。
・ メタン生成:Vulcan XC72Rカーボンに担持され、Fumatech製のFAA-3アニオン交換固体ポリマー電解質と混合された、20~30nmサイズのCuナノ粒子。FAA-3対触媒質量比は0.18。1~100μg/cmのより広い範囲において、推定されたCuナノ粒子充填は~7.1μg/cm
・ エチレン/エタノール生成:Fumatech製のFAA-3アニオン交換固体ポリマー電解質と混合された、25~80nmサイズのCuナノ粒子。FAA-3対触媒質量比は0.10。純AEM用のSigracet39BC GDEまたはMEA電極アセンブリのいずれに堆積される。推定されたCuナノ粒子充填は270μg/cm
【0204】
いくつかの実施形態では、複数のカソード触媒層が、同じMEA内の、または同じスタックの異なるMEA内の異なる生成物のために使用されてよい。例えば、上述のようなCO生成のための触媒層およびメタン生成層のための触媒層は、二重層を形成してよい。別の例では、単一の触媒層が、CO生成専用の1つの領域と、メタン生成専用の別の領域とを有し、それぞれの領域に適切な触媒層を有してよい。別の例では、一方はCO生成専用であり、他方はメタン生成専用である、2つの別々のMEAが、同じセルスタックの一部、または直列接続された別々のセルスタックを形成してよい。いくつかの実施形態では、1つの層/領域/MEAの生成物(例えば、CO)が、別の層/領域/MEAの入力となる。
【0205】
カソード触媒層の構成要素の機能、材料、および構造を以下でさらに説明する。
[水管理(カソード触媒層)]
【0206】
カソード触媒層は、水の移動を容易にして、水がカソード触媒層に閉じ込められるのを防止することができる。閉じ込められた水は、触媒へのCOのアクセスを妨害し得る、および/またはカソード触媒層からの反応生成物の移動を妨害し得る。
【0207】
水管理の課題は、多くの点でCRRに固有のものである。例えば、PEM燃料電池の酸素電極と比較して、CRRははるかに低いガス流量を使用する。気相水の除去は、体積ガス流量によって決定されるため、CRRで実行される気相水の除去ははるかに少なくなる。CRRは、燃料電池より高い圧力(例えば、100psi~450psi)で動作してもよく、より高い圧力では、同じモル流量により、体積流量が少なくなり、気相水の除去が少なくなる。その結果、CRRのMEA内除去されるべき液体の水が存在する。いくつかのMEAの場合は、気相水を除去する能力は、燃料電池に存在しない温度制限によってさらに制限される。例えば、COからCOへの還元は、約50℃で実行されてよく、エチレンおよびメタンの生成は20℃~25℃で実行されてよい。これは、燃料電池の通常の動作温度である80℃~120℃と比較される。その結果、除去する液相水が多くなる。
【0208】
水を除去するカソード触媒層の能力に影響を与える特性は、ポロシティと、細孔サイズと、細孔サイズの分布と、疎水性と、イオン伝導性ポリマー、金属触媒粒子、および電子伝導性担体の相対量と、層の厚さと、層全体にわたる触媒の分布と、層全体および触媒周辺のイオン伝導性ポリマーの分布とを含む。
【0209】
多孔質層は、水の出口経路を可能にする。いくつかの実施形態では、カソード触媒層は、1nm~100nmのサイズを有する細孔と、少なくとも1ミクロンのサイズを有する細孔とを含む細孔サイズ分布を有する。このサイズ分布は、水の除去に役立ち得る。多孔質構造は、炭素担持材料内の細孔、積み重ねられた球状カーボンナノ粒子間のスタッキング細孔、凝集した炭素球の間の二次スタッキング細孔(マイクロメートルスケール)、または、同様に数百nm~マイクロメートルの範囲の不規則な細孔を生成する、不活性フィラー(例えば、PTFE)とカーボンとの間の界面に多孔質が導入された不活性フィラーのうちの1つまたは複数によって形成することができる。
【0210】
カソード触媒層は、水管理に寄与する厚さを有してよい。より厚い層を使用することにより、触媒、ひいては反応をより大きな体積で分散させることができる。これにより、配水が広がり、管理が容易になる。
【0211】
非極性の疎水性骨格を有するイオン伝導性ポリマーを、カソード触媒層で使用してよい。いくつかの実施形態では、カソード触媒層が、イオン伝導性ポリマーに加えて、PTFEなどの疎水性ポリマーを含んでよい。いくつかの実施形態では、イオン伝導性ポリマーは、疎水性ポリマーも含むコポリマーの構成要素であってよい。
[ガス移送(カソード触媒層)]
【0212】
カソード触媒層は、ガス移送用に構造化されてよい。具体的には、COは触媒に移送され、気相反応生成物(例えば、CO、エチレン、メタンなど)は、触媒層から移送される。
【0213】
ガス移送に関連付けられる特定の課題は、CRRに固有のものである。ガスは、カソード触媒層の内外に移送される。すなわち、COは内に移送され、CO、エチレン、およびメタンなどの生成物は外に移送される。PEM燃料電池では、ガス(OまたはH)が内に移送されるが、外には何も出ないか、生成水が出る。また、PEM水電解槽では、水がOガス生成物およびHガス生成物との反応物である。
【0214】
反応器を通る圧力、温度、および流量を含む動作条件は、ガス移送に影響を及ぼす。ガス移送に影響を与えるカソード触媒層の特性は、ポロシティと、細孔サイズおよび分布と、層の厚さと、アイオノマー分布とを含む。
【0215】
いくつかの実施形態では、アイオノマーと触媒との接触が最小限に抑えられる。例えば、カーボン担体を使用する実施形態では、アイオノマーが、触媒との接触を最小限に抑えながら、炭素の表面に沿って連続的なネットワークを形成してよい。アイオノマー、担体、および触媒は、アイオノマーが触媒表面よりも担体表面に対してより高い親和性を有するように設計されてよい。これは、アイオノマーが触媒との間でイオンを伝導できるようにしながら、アイオノマーによって遮断されることなく、触媒との間のガス移送を容易にすることができる。
[アイオノマー(カソード触媒層)]
【0216】
アイオノマーは、触媒層の粒子を一緒に保持することと、カソード触媒層を通るイオンの移動を可能にすることとを含むいくつかの機能を有してよい。場合によっては、アイオノマーと触媒表面との相互作用が、CO還元に有利な環境を作り出し、所望の生成物に対する選択性を高めてよい、および/または反応に必要な電圧を減少させてよい。アイオノマーは、カソード触媒層を通るイオンの移動を可能にするイオン伝導性ポリマーであることが重要である。例えば、水酸化物、炭酸水素塩、および炭酸イオンは、CO還元が発生する触媒表面から離れて移動する。以下の説明では、カソード触媒層のアイオノマーが、第1のイオン伝導性ポリマーと呼ばれ得る。
【0217】
第1のイオン伝導性ポリマーは、アニオン伝導体である少なくとも1つのイオン伝導性ポリマーを含むことができる。これは、プロトン伝導体と比較してpHを上げることから、有利な場合がある。
【0218】
いくつかの実施形態では、第1のイオン伝導性ポリマーは、可動性の負帯電イオンを移送するように構成された1つまたは複数の共有結合した正帯電官能基を含むことができる。第1のイオン伝導性ポリマーは、アミノ化テトラメチルポリフェニレン、ポリ(エチレン-co-テトラフルオロエチレン)系の第四級アンモニウムポリマー;四級化ポリスルフォン)、それらのブレンド、および/または他の任意の適切なイオン伝導性ポリマーからなる群から選択され得る。第1のイオン伝導性ポリマーは、炭酸水素塩または水酸化物の塩を可溶化するように構成され得る。
【0219】
いくつかの実施形態では、第1のイオン伝導性ポリマーは、カチオン-アニオン伝導体である少なくとも1つのイオン伝導性ポリマーを含むことができる。第1のイオン伝導性ポリマーは、カチオンおよびアニオンを移送できるポリエーテルと、カチオンおよびアニオンを移送できるポリエステルとからなる群から選択され得る。第1のイオン伝導性ポリマーは、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリフッ化ビニリデン、およびポリウレタンからなる群から選択され得る。
【0220】
カチオン-アニオン伝導体は(純粋なカチオン伝導体と比較して)pHを上昇させる。さらに、いくつかの実施形態では、アニオン伝導性ポリマーとカチオン伝導性ポリマーとの2D界面ではなく、より大きな体積で酸塩基の再結合を促進するために、カチオン-アニオン伝導体を使用することが有利な場合がある。これにより、水およびCOの生成、熱の発生を広げることができ、酸塩基反応に対する障壁を減少させることによって、潜在的に膜の抵抗を下げることができる。これらは全て、生成物の蓄積、熱を回避する手助けをするのに有利である場合があり、MEAでの抵抗損失を低下させてセル電圧を下げるのに有利である場合がある。
【0221】
典型的なアニオン伝導性ポリマーは、共有結合した正帯電官能基が付加されたポリマー骨格を有する。いくつかの実施形態では、これらは正帯電窒素基を含んでよい。いくつかの実施形態では、ポリマー骨格は、上記のように非極性である。ポリマーは、任意の適切な分子量、例えば、25,000g/mol~150,000g/molであってよいが、この範囲外のポリマーが使用され得ることが解るであろう。
【0222】
CRRのイオン伝導性ポリマーの特定の課題は、COがポリマー電解質を溶解または可溶化することで、その機械的安定性を低下させ、膨潤しやすくし、ポリマーがより自由に移動できるようにし得ることを含む。これにより、触媒層全体とポリマー電解質膜の機械的安定性が低下する。いくつかの実施形態では、CO可塑化の影響を受けにくいポリマーが使用される。また、水電解槽および燃料電池の場合とは異なり、炭酸イオンおよび炭酸水素イオンの伝導は、CO還元の重要なパラメータである。
【0223】
水素結合を形成できるヒドロキシル基およびカルボキシル基などの極性官能基の導入により、疑似架橋ネットワークが形成される。エチレングリコールおよびアルミニウムアセチルアセトナートのような架橋剤を添加して、アニオン交換ポリマー層を強化し、ポリマーのCO可塑化を抑制することができる。ポリジメチルシロキサン共重合体のような添加剤も、CO可塑化を緩和するのに役立ち得る。
【0224】
様々な実施形態によると、イオン伝導性ポリマーは、少なくとも12mS/cmの炭酸水素イオン伝導性を有してよく、80℃以下の温度で化学的および機械的に安定しており、メタノール、エタノール、およびイソプロポナールなどの、製造中に使用される有機溶媒に溶けやすい。イオン伝導性ポリマーは、CO還元生成物の存在下で安定している(化学的に安定しており、安定した溶解度を有する)。イオン伝導性ポリマーは、そのイオン交換容量、いくつかの実施形態では2.1mmol/g~2.6mmol/gの範囲であり得る、イオン交換に関与する活性部位または官能基の合計によって特徴付けられてもよい。
【0225】
上記の表には、アニオン伝導性ポリマーの例がクラスAイオン伝導性ポリマーとして示されている。アニオン伝導性ポリマーの特定の例は、Orion mTPN1であり、m-トリフェニルフルオロアルキレンを骨格として有し、トリメチルアンモニウム(TMA+)をカチオン基として有する。化学構造を以下に示す。
【化1】
【0226】
さらなる例には、FumatechおよびIonomrによって製造されたアニオン交換膜が含まれる。Fumatech FAA-3アイオノマーはBr-形態で提供される。Ionomrによって製造されたポリベンズイミダゾールに基づくアニオン交換ポリマー/膜は、AF-1-HNN8-50-XとしてI-形態で提供される。
【0227】
受け取ったままのポリマーは、アニオン(例えば、I、Brなど)を炭酸水素塩と交換することによって調製されてよい。
【0228】
また、上記のように、特定の実施形態では、アイオノマーがカチオン-アニオン伝導性ポリマーであってよい。上記の表には、例がクラスBイオン伝導性ポリマーとして示されている。
[金属触媒(カソード触媒層)]
【0229】
金属触媒は、CO還元反応に触媒作用を及ぼす。金属触媒は通常ナノ粒子であるが、いくつかの実施形態では、より大きな粒子、フィルム、およびナノ構造化表面を使用してよい。ナノ粒子の特定の形態は、より大きな活性を有する活性部位を露出および安定化させ得る。
【0230】
金属触媒は多くの場合、純粋な金属(例えば、Cu、Au、Ag)で構成されるが、特定の合金または他の二金属系は高い活性を有し、特定の反応に使用されてよい。触媒の選択は、所望の反応によって導かれてよい。例えば、COの生成にはAuを使用してよく、メタンおよびエチレンの生成にはCuを使用してよい。Agと、合金と、二金属系とを含む他の金属を使用してもよい。CuAuおよびCuAg合金は、メタンおよび/またはエチレンへのCO還元に適切な触媒である。CO還元は、既知の触媒での水素発生および酸素発生など、他のよく知られた電気化学反応と比較して、高い過電圧を有する。少量の汚染物質は、CO変換用の触媒を毒する可能性がある。また、上記のように、Cu、Au、およびAgなどの金属触媒は、水素燃料電池で使用される白金などの触媒よりも開発が進んでいない。
【0231】
カソード触媒層の性能に影響を与える金属触媒の特性は、サイズ、サイズ分布、担持粒子上の被覆率の均一性、形状、負荷(金属の重量/金属の重量+炭素の重量、または触媒層の幾何学的面積あたりの粒子の質量として特徴付けられる)、表面積(触媒層の体積あたりの実際の金属触媒表面積)、純度、および合成からの被毒表面配位子の存在を含む。
【0232】
ナノ粒子は、任意の適切な方法で合成され得る。例えば、Phanら「ナノ粒子の湿潤合成におけるキャッピング剤の役割(Role of Capping Agent in Wet Synthesis of Nanoparticles)」,J.
Phys. Chem.
A 2018,121,17,3213-3219、Bakshi「界面活性剤によるナノ材料の結晶成長の制御(How Surfactants Control Crystal Growth of Nanomaterials)」,Cryst.
Growth Des.
2016,16,2,1104-1133、およびMorsy「ナノテクノロジにおける界面活性剤の役割とその応用(Role of Surfactants in Nanotechnology and Their Applications)」,Int. J.
Curr. Microbiol.
App. Sci. 2014,3,5,237-260などに記載され、これらは参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0233】
いくつかの実施形態では、金属ナノ粒子は、被毒表面配位子の存在なしで提供される。これは、アイオノマーを、ナノ結晶触媒の合成を指示するための配位子として使用することによって達成されてよい。金属ナノ触媒の表面は、イオン伝導性アイオノマーと直接接続されている。これにより、アイオノマーが金属と接触できるように触媒表面を処理する必要がなくなり、接触が改善される。
【0234】
いくつかの実施形態では、金属触媒はカーボン担体上に配置されてよい。CO生成の場合は、例として、4~6nmのAu粒子サイズのVulcan XC-72Rカーボン上に担持されるPremetek20重量%Auと、5~7nmのAu粒子サイズのVulcan XC-72R上に担持される30%Au/Cとが含まれる。メタンの場合は、例として、20~30nmのCu粒子サイズのVulcan XC-72Rカーボン上に担持されたPremetek20重量%Cuが含まれる。いくつかの実施形態では、金属触媒が担持されていなくてもよい。エチレン生成の場合は、担持されていない金属触媒の例として、80nm粒子サイズのSigmaAldrichの担持されていないCuと、10nm~100nmの電子ビームまたはスパッタ堆積された薄いCu層とが含まれる。
[担体(カソード触媒層)]
【0235】
カソード触媒層の担体は、様々な機能を有してよい。カソード触媒層の担体は、金属ナノ粒子を安定化させてそれらが凝集するのを防止し、触媒層の体積全体に触媒部位を分散させて反応物の損失および生成物の形成を広げることができる。カソード触媒層の担体は、金属ナノ粒子への導電性経路を電子的に形成することもできる。例えば、炭素粒子は、接触する炭素粒子が導電性経路を提供するように一緒に充填される。粒子間のボイド空間は、ガスおよび液体が通過できる多孔質ネットワークを形成する。
【0236】
いくつかの実施形態では、燃料電池用に開発されたカーボン担体を使用することができる。多くの異なるタイプが開発されており、これらは、通常50nm~500nmのサイズであり、様々な形状(球、ナノチューブ、シート(例えば、グラフェン))、ポロシティ、体積あたりの表面積、電気伝導率、官能基(N-ドープ、O-ドープなど)で取得され得る。
【0237】
担体は疎水性であってよく、金属ナノ粒子に対する親和性を有してよい。
【0238】
使用できるカーボンブラックの例は次のとおりである。
・ Vulcan XC-72R-密度256mg/cm、30~50nm
・ Ketjen Black-中空構造、密度100~120mg/cm、30~50nm
・ Printexカーボン、20~30nm
[アノード触媒層]
【0239】
アノード層またはアノード触媒層とも呼ばれるMEAのアノードは、酸化反応を促進する。MEAのアノードは、酸化反応用の触媒を含有する多孔質層である。反応の例は次のとおりである。
2HO→4H+4e+O(プロトン交換ポリマー電解質の酸性環境--両極性膜)、または、
4OH→4e+O+2HO(アニオン交換ポリマー電解質の塩基性環境)
【0240】
COを生成するための炭化水素、または塩素ガスを生成するための塩化物イオンなど、他の物質の酸化が実行されてもよい。
【0241】
いくつかの実施形態では、図10を参照すると、アノード1040が、酸化触媒とアノードイオン伝導性ポリマーとのブレンドを含有する。アノードに供給される反応物とアノード触媒とに応じて、アノードでは様々な酸化反応が発生する。一構成では、酸化触媒は、Ir、Pt、Ni、Ru、Pd、Auの金属および酸化物とそれらの合金、IrRu、PtIr、Ni、NiFe、ステンレス鋼、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。酸化触媒は、炭素、ホウ素ドープダイヤモンド、およびチタンからなる群から選択される伝導性担持粒子をさらに含有することができる。
【0242】
酸化触媒は、構造化メッシュの形態であってもよいし、粒子の形態であってもよい。酸化触媒が粒子の形態である場合は、粒子は、電子伝導性担持粒子によって担持され得る。伝導性担持粒子はナノ粒子であり得る。これは、伝導性担持粒子が、CRRの動作時にアノード1040中に存在する化学物質と相溶性があり、且つ、酸化的に安定しており、その結果、いかなる電気化学反応にも関与しないといった場合に、特に有用である。これは、伝導性担持粒子が、アノードでの電圧および反応物を念頭に置いて選択される場合に、特に有用である。いくつかの配置では、伝導性担持粒子がチタンであり、高電圧に非常に適している。他の構成では、伝導性担持粒子が炭素であり、低電圧で最も有用であり得る。一般に、そのような伝導性担持粒子は酸化触媒粒子より大きく、各伝導性担持粒子は多くの酸化触媒粒子を担持することができる。そのような配置の例が図11に示され、カソード触媒層に関連して上述されている。一構成では、酸化触媒が酸化イリジウムルテニウムである。酸化触媒に使用できる他の材料の例には、上記のものが含まれるが、これらに限定されない。これらの金属触媒の多くは、特に反応条件下で酸化物の形態を取り得ることを理解されたい。
【0243】
いくつかの実施形態では、MEAは、酸化触媒と第2のイオン伝導性ポリマーとを含むアノード層を有する。第2のイオン伝導性ポリマーは、可動性の正帯電イオンを移送するように構成された、共有結合した負帯電官能基を含有する1つまたは複数のポリマーを含むことができる。第2のイオン伝導性ポリマーは、フッ化エタンスルホニル、2-[1-[ジフルオロ-[(トリフルオロエテニル)オキシ]メチル]-1,2,2,2-テトラフルオロエトキシ]-1,1,2,2,-テトラフルオロ-、テトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ-3,6-ジオキサ-4-メチル-7-オクテンスルホン酸コポリマー、他のパーフルオロスルホン酸ポリマー、およびそれらのブレンドからなる群から選択され得る。カチオン伝導性ポリマーの例には、例えば、Nafion115、Nafion117、および/またはNafion211が含まれる。
【0244】
アノード内のイオン伝導性ポリマーの量を選択することにはトレードオフがある。十分なイオン伝導性を提供するのに十分なアノードイオン伝導性ポリマーを含めることが重要である。しかし、反応物および生成物が、アノードを容易に移動できるように、また反応に利用可能な触媒表面積の量を最大化するために、アノードが多孔質であることも重要である。様々な配置において、アノード中のイオン伝導性ポリマーは、層の約50重量%、または約5~20重量%、10~90重量%、20~80重量%、25~70重量%、または任意の適切な範囲を構成する。これは、アノード240が、可逆水素電極に対して約1.2Vを超える電圧などの高電圧に耐えることができる場合に、特に有用である。これは、反応に利用可能な触媒表面積の量を最大化し、且つ、ガスおよび液体の移送を容易にするためにアノード240が多孔質である場合に、特に有用である。
【0245】
金属触媒の一例では、Ir粒子またはIrOx粒子(100~200nm)およびNafionアイオノマーが、約10μmの厚さの多孔質層を形成する。金属触媒の負荷は約0.5~3g/cmである。
【0246】
いくつかの実施形態では、NiFeOxは塩基性反応に使用される。
[PEM]
【0247】
MEAは、アノード触媒層とカソード触媒層との間に配置され、且つ、アノード触媒層およびカソード触媒層に伝導的に連結された、ポリマー電解質膜(PEM)を含む。図2を参照すると、ポリマー電解質膜265は、高いイオン伝導性(約1mS/cmを超える)を有し、機械的に安定している。機械的安定性は、高い引張強度、弾性率、破断点伸び、および引き裂き抵抗など、様々な方法で証明され得る。多くの市販の膜を、ポリマー電解質膜265に使用することができる。例には、様々なNafion(登録商標)製剤、GORE-SELECT、FumaPEM(登録商標)(PFSA)(FuMA-Tech GmbH)、およびAquivion(登録商標)(PFSA)(Solvay)が含まれるが、これらに限定されない。
【0248】
一構成では、PEMが、カチオン伝導体である少なくとも1つのイオン伝導性ポリマーを含む。第3のイオン伝導性ポリマーは、可動性の正帯電イオンを移送するように構成された、1つまたは複数の共有結合した負帯電官能基を含むことができる。第3のイオン伝導性ポリマーは、フッ化エタンスルホニル、2-[1-[ジフルオロ-[(トリフルオロエテニル)オキシ]メチル]-1,2,2,2-テトラフルオロエトキシ]-1,1,2,2,-テトラフルオロ-、テトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ-3,6-ジオキサ-4-メチル-7-オクテンスルホン酸コポリマー、他のパーフルオロスルホン酸ポリマー、およびそれらのブレンドからなる群から選択され得る。
[カソードバッファ層]
【0249】
図10を参照すると、ポリマー電解質膜1065は、それがカチオン伝導体であり、且つ、プロトンを伝導している場合に、CRRの動作中に高濃度のプロトンを含有し、一方、カソード1020は、低濃度のプロトンが存在する場合に最もよく動作することに留意されたい。高濃度のプロトンから低濃度のプロトンへの遷移領域を提供するために、ポリマー電解質膜1065とカソード1020との間にカソードバッファ層1025を含めることが有用であり得る。一構成では、カソードバッファ層1025が、カソード1020内のイオン伝導性ポリマーと同じ特性のうちの多くを有するイオン伝導性ポリマーである。カソードバッファ層1025は、プロトン濃度が、高いプロトン濃度を有するポリマー電解質膜1065から低いプロトン濃度を有するカソード1020へ遷移するための領域を提供する。カソードバッファ層1025内で、ポリマー電解質膜1065からのプロトンが、カソード1020からのアニオンに出会って、それらは互いに中和する。カソードバッファ層1025は、ポリマー電解質膜1065からの有害な数のプロトンがカソード1020に到達してプロトン濃度を上昇させないことを確実にするのに役立つ。カソード1020のプロトン濃度が高すぎる場合は、CO還元が起こらない。高いプロトン濃度は、約10~0.1モルの範囲であると見なされ、低濃度は約0.01モル未満であると見なされる。
【0250】
カソードバッファ層1025は、単一のポリマーまたは複数のポリマーを含むことができる。カソードバッファ層1025が複数のポリマーを含む場合は、複数のポリマーを一緒に混合するか、別々の隣接する層に配置することができる。カソードバッファ層1025に使用できる材料の例には、FumaSep FAA-3、Tokuyamaアニオン交換膜材料、およびポリエチレンオキシド(PEO)などのポリエーテル系ポリマー、並びにそれらのブレンドが含まれるが、これらに限定されない。さらなる例は、カソード触媒層の説明において上述されている。
【0251】
カソードバッファ層の厚さは、プロトン濃度が低いためにCO還元活性が高くなるのに十分であるように選択される。この十分性は、カソードバッファ層の材料によって異なる可能性がある。一般に、カソードバッファ層の厚さは、約200nmから100μmの間、300nmから75μmの間、500nmから50μmの間、または任意の適切な範囲である。
【0252】
いくつかの実施形態では、カソードバッファ層は、50μm未満、例えば、1~5μm、5~15μm、または10~25μmの間など、1~25μmの間である。この範囲の厚さのカソードバッファ層を使用することにより、セルの全体的な伝導率を維持しながら、カソード内のプロトン濃度を低減することができる。いくつかの実施形態では、超薄層(100nm~1μm、およびいくつかの実施形態では、サブミクロン)を使用してよい。また、上記のように、いくつかの実施形態では、MEAがカソードバッファ層を有しない。いくつかのそのような実施形態では、カソード触媒層中のアニオン伝導性ポリマーで十分である。カソードバッファ層の厚さは、PEMの厚さに対して特徴付けられてよい。
【0253】
カソードバッファ層とPEMとの界面で形成された水とCOとは、ポリマー層が接続するMEAを剥離する可能性がある。層間剥離の問題には、不活性フィラー粒子および関連付けられる細孔を有するカソードバッファ層を使用することによって対処することができる。その有効性の考えられる説明の1つは、ガス状二酸化炭素が、それが還元され得るカソードに戻るための経路を、細孔が生成することである。
【0254】
不活性フィラー粒子として適切な材料には、TiO、シリカ、PTFE、ジルコニア、およびアルミナが含まれるが、これらに限定されない。様々な配置において、不活性フィラー粒子のサイズは、5nmから500μmの間、10nmから100μmの間、または任意の適切なサイズ範囲である。粒子は、一般に球形であってよい。
【0255】
PTFE(または他のフィラー)の量が多すぎると、イオン伝導度が低くなるまでポリマー電解質が希釈される。ポリマー電解質の量が多すぎると、ポロシティに役立たないまで、PTFEを希釈する。多くの実施形態では、ポリマー電解質/PTFEの質量比は、0.25~2であり、より具体的には、0.5~1である。ポリマー電解質/PTFE体積比(または、より一般的には、ポリマー電解質/不活性フィラー)は、0.25~3、0.5~2、0.75~1.5、または1.0~1.5であってよい。
【0256】
他の構成では、ポロシティは、層が形成されるときに特定の処理方法を使用することによって達成される。そのような処理方法の一例は、ナノサイズからマイクロサイズのチャネルが層に形成されるレーザアブレーションである。別の例は、層に機械的に穴をあけて、層を通るチャネルを形成することである。
【0257】
一構成では、カソードバッファ層は、0.01%~95%(例えば、重量、体積、質量などで、だいたいその間)のポロシティを有する。ただし、他の構成では、カソードバッファ層が、任意の適切なポロシティ(例えば、0.01~95%、0.1~95%、0.01~75%、1~95%、1~90%)を有することができる。いくつかの実施形態では、ポロシティは50%以下であり、例えば、0.1~50%、5~50%、20~50%、5~40%、10~40%、20~40%、または25%~40%である。いくつかの実施形態では、ポロシティは20%以下であり、例えば、0.1~20%、1~10%、または5%~10%である。
【0258】
ポロシティは、満たされたスペース対空のスペースを計算するために、水銀ポロシメトリー、X線回折(SAXSまたはWAXS)、およびTEM画像の画像処理などの方法で、構成要素の質量負荷および厚さを使用することを含めて、触媒層に関連して上述したように測定されてよい。ポロシティは、MEAが完全に乾燥したときに測定される。なぜなら、材料は、動作中に水に露出されると様々な程度に膨潤するからである。
【0259】
カソードバッファ層を含むMEAの層のポロシティは、以下でさらに説明される。
[アノードバッファ層]
【0260】
いくつかのCRR反応では、炭酸水素塩がカソード1020で生成される。カソード1020とアノード1040との間のどこかに炭酸水素塩の移送を遮断するポリマーがある場合は、炭酸水素塩がカソードから離れて移動するのを防止することが有用であり得る。炭酸水素塩は移動するときにいくらかのCOを取り込むため、カソードでの反応に利用できるCOの量が減少する可能性がある。一構成では、ポリマー電解質膜1065が、炭酸水素塩の移送を遮断するポリマーを含む。そのようなポリマーの例には、Nafion(登録商標)製剤、GORE-SELECT、FumaPEM(登録商標)(PFSA)(FuMA-Tech GmbH)、およびAquivion(登録商標)(PFSA)(Solvay)が含まれるが、これらに限定されない。別の構成では、ポリマー電解質膜1065とアノード1040との間にアノードバッファ層1045があり、これが炭酸水素塩の移送を遮断する。ポリマー電解質膜がアニオン伝導体であるか、炭酸水素塩の移送を遮断しない場合は、炭酸水素塩の移送を防止するためのさらなるアノードバッファ層が有用であり得る。炭酸水素塩の移送を遮断するために使用できる材料には、Nafion(登録商標)製剤、GORE-SELECT、FumaPEM(登録商標)(PFSA)(FuMA-Tech GmbH)、およびAquivion(登録商標)(PFSA)(Solvay)が含まれるが、これらに限定されない。もちろん、CRRに炭酸水素塩がない場合に、イオン交換層1060に炭酸水素塩遮断機能を含めることは特に望ましくない。
【0261】
本発明の別の実施形態では、アノードバッファ層1045は、プロトン濃度がポリマー電解質膜1065とアノード1040との間で遷移するための領域を提供する。ポリマー電解質膜1065中のプロトン濃度は、その組成と、それが伝導しているイオンとの両方に依存する。例えば、プロトンを伝導するNafionポリマー電解質膜1065は、高いプロトン濃度を有する。水酸化物を伝導するFumaSep FAA-3ポリマー電解質膜1065は、低いプロトン濃度を有する。例えば、アノード1040での所望のプロトン濃度がポリマー電解質膜1065と3桁より大きく異なる場合は、アノードバッファ層1045は、ポリマー電解質膜1065のプロトン濃度からアノードの所望のプロトン濃度への遷移をもたらすのに有用であり得る。アノードバッファ層1045は、単一のポリマーまたは複数のポリマーを含むことができる。アノードバッファ層1045が複数のポリマーを含む場合は、複数のポリマーを一緒に混合するか、別々の隣接する層に配置することができる。pH遷移のための領域を提供するのに有用であり得る材料には、Nafion、FumaSep FAA-3、Sustainion(登録商標)、Tokuyamaアニオン交換ポリマー、およびポリエチレンオキシド(PEO)などのポリエーテル系ポリマー、それらのブレンド、並びに/または他の任意の適切な材料が含まれるが、これらに限定されない。高いプロトン濃度は、約10~0.1モルの範囲であると見なされ、低濃度は約0.01モル未満であると見なされる。イオン伝導性ポリマーは、伝導するイオンのタイプに基づいて、様々なクラスに分類され得る。これについては、上記で詳しく説明された。上記の表4に記載されているイオン伝導性ポリマーには3つのクラスがある。本発明の一実施形態では、カソード1020と、アノード1040と、ポリマー電解質1065と、カソードバッファ層1025と、アノードバッファ層1045とにおけるイオン伝導性ポリマーのうちの少なくとも1つは、他のもののうちの少なくとも1つとは異なるクラスのものである。
[層のポロシティ]
【0262】
カソード1020、カソードバッファ層1025、アノード1040、およびアノードバッファ層1045といった層のうちのいくつかまたは全てが多孔質である場合は、それは有用であり得る。いくつかの配置では、ポロシティは、不活性フィラー粒子をこれらの層のポリマーと組み合わせることによって達成される。
不活性フィラー粒子として適切な材料には、TiO、シリカ、PTFE、ジルコニア、およびアルミナが含まれるが、これらに限定されない。様々な配置において、不活性フィラー粒子のサイズは、5nmから500μmの間、10nmから100μmの間、または任意の適切なサイズ範囲である。他の構成では、ポロシティは、層が形成されるときに特定の処理方法を使用することによって達成される。そのような処理方法の一例は、ナノサイズからマイクロサイズのチャネルが層に形成されるレーザアブレーションである。レーザアブレーションは、追加的または代替的に、表面下アブレーションによって層のポロシティを達成することができる。表面下アブレーションは、層内のある点にビームを集束させ、それによってその点の近くの層材料を気化させると、層内にボイドを形成することができる。このプロセスを繰り返して、層全体にボイドを形成し、それによって層にポロシティを達成することができる。ボイドの体積は、好ましくは、レーザ出力によって決定される(例えば、より高いレーザ出力は、より大きなボイド体積に対応する)が、追加的または代替的に、ビームの焦点サイズ、または他の任意の適切なレーザパラメータによって決定され得る。別の例は、層に機械的に穴をあけて、層を通るチャネルを形成することである。ポロシティは、層内に任意の適切な分布(例えば、均一、層を通じて増加するポロシティ勾配、ランダムなポロシティ勾配、層を通じて減少するポロシティ勾配、周期的なポロシティなど)を有することができる。
【0263】
上記の例および他の例並びに変形例のポロシティ(例えば、カソードバッファ層、アノードバッファ層、膜層、カソード層、アノード層、他の適切な層などのポロシティ)は、好ましくは均一な分布を有するが、追加的または代替的に任意の適切な分布(例えば、ランダム化された分布、層を通じてまたは層に渡って増加する細孔サイズの勾配、層を通じてまたは層に渡って減少する細孔サイズの勾配など)を有することができる。ポロシティは、不活性フィラー粒子(例えば、ダイヤモンド粒子、ホウ素ドープダイヤモンド粒子、ポリフッ化ビニリデン/PVDF粒子、ポリテトラフルオロエチレン/PTFE粒子など)などの任意の適切なメカニズムと、ポリマー層内に実質的に非反応性の領域を形成するための他の任意の適切なメカニズムとによって形成され得る。不活性フィラー粒子は、最小で約10ナノメートルおよび最大で約200ナノメートルなどの任意の適切なサイズ、および/または他の任意の適切な寸法または寸法の分布を有することができる。
【0264】
上記のように、カソードバッファ層は、好ましくは、約1~90容量パーセントのポロシティを有するが、追加的または代替的に、任意の適切なポロシティ(例えば、ポロシティがないことを含む)を有することができる。ただし、他の構成および例では、カソードバッファ層が、任意の適切なポロシティ(例えば、0.01~95%、0.1~95%、0.01~75%、1~95%、1~90%など)を有することができる。いくつかの実施形態では、ポロシティは20%以下であり、例えば、0.1~20%、1~10%、または5~10%である。
【0265】
いくつかの実施形態では、カソードバッファ層は多孔質であるが、カソード層とアノード層との間の少なくとも1つの層は非多孔質である。これにより、層間剥離を防止しながら、カソード層とアノード層との間のガスおよび/またはバルク液体の通過を防止することができる。例えば、非多孔質層は、アノードからカソードへの水の直接通過を防止することができる。
[MEA製造]
【0266】
CO還元のためのMEAは、様々な技術を使用して製造され得る。様々な実施形態において、MEA製造は複数の段階を使用する。製造プロセスのパラメータのわずかな違いが性能に大きな違いをもたらす可能性がある。
【0267】
特定の実施形態では、MEA製造は、ポリマー電解質膜(例えば、Nafion PEM)層を使用し、カソード上にアニオン交換ポリマー電解質層およびカソード触媒層を堆積させるか他の方法で形成し、アノード上にアノード触媒層を堆積させるか他の方法で形成する。別のルートは、多孔質ガス拡散層(例えば、カソード用の炭素またはアノード用のチタン)上に触媒層を製造し、触媒含有多孔質層間に膜(アニオン交換層を含んでよい)を挟み込むことである。特定の実施形態では、触媒層は、固体触媒および担持粒子とポリマー電解質とのインクを溶媒中に分散させることによって製造される。インクは、様々な方法でポリマー電解質膜またはGDLに塗布され得る。その後、溶媒は蒸発し、多孔質の固体触媒層が残る。
【0268】
厚さおよび均一性を特徴付けるために、イメージング法を使用してよい。厚さは一貫性があり、制御可能である必要があり、均一性は滑らかで、可能な限り欠陥のない必要がある。
【0269】
MEAの個々の層を形成するために、様々な技術を使用してよい。一般に、これらの技術は、本明細書で言及されるようなPEM層またはGDLなどの層を基板上に形成する。そのような技術の例には、超音波噴霧堆積、ドクターブレード塗布、グラビア、スクリーン印刷、およびデカール転写が含まれる。
【0270】
アニオン交換ポリマーを使用する触媒インクは(特に特定のポリマーについて)十分に研究されておらず、燃料電池および電解槽で使用される典型的なNafion系インクと同じ溶液構造を有していない。十分に分散された、安定した触媒インクを形成するために必要な製剤および段階は知られていなかった。Nafionは、水性媒体での比較的容易な懸濁を可能にするミセルのような構造を形成すると考えられている。他のイオン伝導性ポリマー、特にいくつかのアニオン伝導性ポリマーは、そのような構造を形成しないため、懸濁液で提供することがより困難である。
【0271】
特定の実施形態では、触媒層インクは、金属または炭素触媒に担持された金属をイオン伝導性ポリマー(例えば、アニオン伝導性ポリマー)と混合し、超音波処理によって溶媒(アルコールなど)中に分散させることによって調製される。
【0272】
示されているように、特定の製造技術は、ドクターブレード塗布、スクリーン印刷、デカール転写、エレクトロスピニングなどを用いる。グラビアまたはマイクログラビアなどのロールツーロール技術は、高スループット処理に使用されてよい。
[MEA後処理]
【0273】
MEAが製造された後、性能を向上させるためにさらなる処理を使用することができる。性能改善のタイプの例には、寿命および電圧が含まれる。いくつかの実施形態では、後処理は、塩または特定の塩イオンをMEAに導入する。いくつかの実施形態では、後処理は、層間のよりよい接着を含む処理から生じる構造的変更を有するMEAを生成する。
【0274】
ホットプレス:MEAを圧力下で加熱して、層を結合する。ホットプレスは、層を「溶融」させて、層間剥離を防止するのに役立つ。
・ 時間:約2分から10分(MEAのみ)、1.5分~2分(MEA+ガス分配層(GDL))、「MEA+GDL」を少なくとも2回押して、安定したアセンブリを形成することができる。
・ 温度:約100℃から150℃。
・ 圧力:約300psi~600psi(3×3インチ(7.62×7.62センチメートル)1/2MEAの場合)であるが、MEAはGDLなしで約2500psiに耐えることができる。
【0275】
水和:セルを組み立てる前に、MEAを水または水溶液に浸して、ポリマー電解質を濡らす。いくつかの実施形態では、水溶液は、本明細書に記載されるような塩溶液である。
【0276】
Nafionまたは他のポリマー電解質MEAを沸騰させる。これにより、ポリマー電解質のマクロ構造が恒久的に変化し、ポリマーマトリックス内の水の量が増加する。これにより、イオン伝導度が増加するが、水輸率も増加する。
【0277】
加熱して乾かす。これにより、水分含有量を減らすことができ、動作中にポリマー電解質を介して移送される水の量を減らすことができる。
[MEA層間の安定化させた界面]
【0278】
アニオン伝導性層(例えば、カソードバッファ層)とカチオン伝導性膜(例えば、PEM)との界面で形成された水およびCOは、ポリマー層が接続する位置で2つの層を分離または剥離させ得る。両極性界面での反応を図3図7に示す。
【0279】
さらに、COは、自らが失われる代わりにアノードに還元され得る、セルのカソードに戻るのが望ましいので、アニオン交換層(例えば、カソードバッファ層および/またはカソード層)内の経路(例えば、細孔)は、界面から水およびCOを除去して層間剥離を防止する方法と、COを、それが反応できるカソードに戻す方法とを両方提供する。
【0280】
図15に示されている構造は、図11に示されている構造と同様であるが、図15は、物質移送と、両極性界面でのCOおよび水の生成とに関連する追加情報を含む。例えば、水酸化物とCOとがカソード側で反応して炭酸水素イオンを生成し、炭酸水素イオンが両極性界面1513に向かって移動するのが示されている。アノード側では、水の酸化によって生成された水素イオンが両極性界面1513に向かって移動し、そこで炭酸水素イオンと反応して水およびCOを生成する。水およびCOはどちらも、両極性層に損傷を与えることなく脱出できるようにする必要がある。
【0281】
また、図15には、(a)カソードから界面1513へのアニオンによる電気浸透抗力と、(b)アノードから界面1513へのカチオンによる電気浸透抗力と、(c)拡散とを含む水移送経路が示されている。水は、アノードとカソードとで蒸発する。
【0282】
様々なMEA設計は、層間剥離に抵抗し、任意選択的に反応生成物が界面領域を離れる経路を提供する特徴を含む。いくつかの実施形態では、両極性界面は平坦である。しかし、いくつかの設計では、界面が、組成勾配および/またはインターロッキング構造を備えている。これらは、層間剥離に抵抗するように構成されたMEA設計の両極性界面を示す図16A図16B図16C、および図16Dを参照して、以下でさらに説明される。
【0283】
いくつかの実施形態では、界面は勾配を含む。勾配は、例えば、噴霧堆積中に2つのノズルを使用し、且つ、カチオン交換層の堆積中にポリマーの相対量を変化させたアニオン交換ポリマーを添加することによって形成されてよい。同様に、アニオン交換層の堆積中に、カチオン交換ポリマーが添加されてよい。例えば、図15を参照すると、勾配は、アニオン交換領域およびカチオン交換領域の実質的に全てまたは一部を通って広がってよく、その結果、アニオン交換領域は、主にカソードに隣接するアニオン交換ポリマーを有し、カチオン交換ポリマーの相対量は、カソードから界面1513に向かって増加する。同様に、カソード交換領域は、主にアノードカソードに隣接するカチオン交換ポリマーを有し、アニオン交換ポリマーの相対量は、アノードから界面1513に向かって増加する。いくつかの実施形態では、純粋なアニオン交換領域および純粋なカチオン交換領域があり、2つの間に勾配がある。
【0284】
いくつかの実施形態では、両極性膜の層は一緒に溶融される。これは、適切な溶媒を選択することによって達成されてよい。例えば、Nafionは水/エタノール混合物に少なくともわずかに溶ける。その混合物(またはカチオン伝導性ポリマーが溶けやすい別の溶媒)をアニオン伝導性ポリマーの溶媒として使用することにより、Nafionまたは他のカチオン伝導性ポリマーを少なくともわずかに溶解させ、界面中に溶融させることができる。いくつかの実施形態では、これは、薄い勾配、例えば、アニオン伝導性ポリマー層の厚さ内へ0.5~10%延びる勾配をもたらす。
【0285】
いくつかの実施形態では、界面はポリマーの混合物を含む。図16Aは、カチオン伝導性ポリマー1621と、アニオン伝導性ポリマー1619とが混合された両極性界面1613を示している。図16Aの例では、アニオン伝導性ポリマー層1609の一部と、カチオン伝導性ポリマー層1611の一部とが示されている。アニオン伝導性ポリマー層1609は、純粋なアニオン伝導性ポリマーであってよく、カチオン伝導性ポリマー層1611は、純粋なカチオン交換ポリマーであってよい。カチオン伝導性ポリマー1621は、カチオン伝導性ポリマー層1611の場合と同じまたは異なるカチオン伝導性ポリマーであってよい。アニオン伝導性ポリマー1619は、アニオン伝導性ポリマー層1609の場合と同じまたは異なるアニオン伝導性ポリマーであってよい。
【0286】
いくつかの実施形態では、界面は、界面を物理的に補強する第3の材料を含む。例えば、図16Bは、界面1613にまたがる材料1630の例を示している。すなわち、材料1630は、アニオン伝導性ポリマー層1609およびカチオン伝導性ポリマー層1611に部分的に存在する。このため、材料1630は、これら2つの層を、層間剥離に抵抗する方式で結合してよい。一例では、材料1630は、多孔質PTFEなどの多孔質不活性材料である。そのような界面は、例えば、カチオン伝導性ポリマーおよびアニオン伝導性ポリマーを、PTFEまたは同様の多孔質フィルムの反対側にキャストするか他の方法で塗布し、続いてホットプレスすることによって製造されてよい。
【0287】
図16Cは、カチオン伝導性ポリマー層1611からアニオン伝導性ポリマー層1609中に延びるカチオン伝導性ポリマーの突起1640を有する両極性界面1613を示している。これらの突起は、界面1613を機械的に強化して、COおよび水が界面で生成されたときにそれが剥離しないようにすることができる。いくつかの実施形態では、突起がアニオン伝導性ポリマー層1609からカチオン伝導性ポリマー層1611中に延びる。特定の実施形態では、突起が両方向に延びる。寸法の例は、面内寸法で10μm~1mmであるが、より小さな寸法(例えば、500nm~1μm)も考えられる。面外寸法は、例えば、それが延びるポリマー層の全厚の10~75%または10~50%であってよい。突起は、例えば、リソグラフィー技術などの任意の適切な技術によって、またはポリマーを、後に除去されるパターン化されたメッシュ中に噴霧することによって製造されてよい。突起の形成には、表面粗面化技術を使用してもよい。いくつかの実施形態では、突起は、ポリマー層をインターロックし、且つ、界面を機械的に強化するのを助けるために、異なる材料、例えば、金属から形成されてよい。
【0288】
図16Dは、カチオン伝導性ポリマー層1611とアニオン伝導性ポリマー層1609との間に配置されるか、カチオン伝導性ポリマー層1611およびアニオン伝導性ポリマー層1609のうちの1つまたは複数と混合される、第3の材料1650を有する両極性界面1613を示している。いくつかの実施形態では、例えば、第3の材料1650は、以下でさらに説明する添加剤であり得る。いくつかの実施形態では、第3の材料1650は、界面におけるアニオン伝導性アイオノマーとカチオン伝導性アイオノマーとのブレンドであり得る。例えば、Nafion 5重量%アイオノマーとOrion 2重量% mTPN1との混合物であり得る。いくつかの実施形態では、第3の材料は、一緒に混合されるか、別個の層として提供される、イオンの受容体および供与体を含んでよい。
【0289】
いくつかの実施形態では、界面は、酸塩基反応を促進し、且つ、層間剥離を防止するための添加剤を含む。いくつかの実施形態では、添加剤は、酸塩基再結合を、アニオン伝導性ポリマーとカチオン伝導性ポリマーとの2D界面においてだけでなく、より大きな体積に広げることを容易にし得る。これにより、水およびCOの生成、熱の発生が広がり、酸塩基反応に対する障壁を低くすることによって、膜の抵抗を下げることができる。これらの効果は、生成物の蓄積、熱を回避する手助けをするのに有利である場合があり、MEAでの抵抗損失を低下させてセル電圧を下げるのに有利である場合がある。さらに、熱およびガスの生成による界面での材料の劣化を回避するのに役立つ。
【0290】
酸塩基反応を促進する添加剤の例には、プロトン受容体およびアニオン受容体の両方である分子が含まれ、例えば、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム水酸化物を有する水酸化物含有イオン液体などが具体例である。他のイオン液体が使用されてもよい。いくつかの実施形態では、アニオン伝導性ポリマー層およびカチオン伝導性ポリマー層のアイオノマーとは異なるアイオノマーを使用してよい。例えば、Sustainionなどの比較的高い伝導率のアニオン交換材料を使用してよい。そのようなアニオン交換材料は、カソードバッファ層として使用するには十分に選択的ではないかもしれないが、界面で使用され得る。
【0291】
界面に存在し得る材料のさらなる例には、異なる荷電基(例えば、カチオン固定荷電基およびアニオン固定荷電基の両方)を有するブロックコポリマー、カチオン-アニオン伝導性ポリマー、樹脂材料、酸化グラフェンを含む酸化物などのイオン供与体、酸/塩基再結合用の触媒、アノードとカソードとから拡散するHとOとを反応させる触媒、水分解触媒、CO吸収材料、およびH吸収材料が含まれる。
【0292】
いくつかの実施形態では、架橋剤を添加して、両極性膜の2つのポリマーを共有結合的に架橋してよい。架橋基の例には、アイオノマー上に提供され得るキシレンが含まれる。他の架橋基も使用してよい。架橋剤を、例えば、カチオン伝導性ポリマー上に提供し、その上にアニオン伝導性ポリマーを噴霧堆積させ、続いて、加熱して架橋反応を誘発し、界面全体に架橋を導入してよい。
【0293】
いくつかの実施形態では、両極性膜のアニオン伝導性ポリマーおよびカチオン伝導性ポリマーは、異なる固定荷電基を有する同じ骨格を有する。一例として、Orionアイオノマーが、異なる固定荷電基と共に使用されてよい。アイオノマーはより適合性があり、剥離しにくい。
【0294】
上記の例では、界面1613は、両極性膜の全体の厚さの1%~90%の厚さ、または、両極性膜の全体の厚さの5%~90%、もしくは10%~80%、もしくは20%~70%、もしくは30%~60%の厚さを有する三次元体積であってよい。いくつかの実施形態では、界面1613は、1%~45%、5%~45%、5%~40%、または5%~30%を含む、全体の厚さの半分未満である。
【0295】
ホットプレスは、上記の両極性界面設計のいずれかを製造する際に使用されてよい。
[MEA層の相対的なサイズ]
【0296】
特定の実施形態では、ポリマー電解質膜と、隣接するカソードバッファ層または他のアニオン伝導性ポリマー層とは、MEAの製造および/または動作性能を容易にする相対的な厚さを有してよい。
【0297】
図17は、カソードバッファ層であり得るアニオン伝導性ポリマー層(AEM)1703と、カチオン伝導性ポリマー層(例えば、プロトン交換ポリマー層)またはアニオン伝導性ポリマー層であり得るポリマー電解質膜(PEM)1705とを含む部分的なMEAの例を示している。この例では、PEM1705は、カソードバッファ層であり得るアニオン伝導性ポリマー層1703、およびカチオン伝導性ポリマー層(例えば、プロトン交換ポリマー層)またはアニオン伝導性ポリマー層であり得るポリマー電解質膜(PEM)1705よりも相対的に厚い。この例では、PEM1705は、アニオン伝導性ポリマー層1703よりも相対的に厚い。例えば、PEM1705は、AEM1703の約10~20マイクロメートルの厚さと比較して、120マイクロメートルであってよい。
【0298】
場合によっては、アニオン伝導性ポリマー層1703で使用されるものなどのアニオン伝導性ポリマーは、PEM1705で使用されるものなどのカチオン伝導性ポリマーよりも実質的に伝導性が低い。従って、MEAの全体的な抵抗を実質的に増加させることなくカソードバッファ層(例えば、アニオン伝導性ポリマー層1703)の利点を提供するために、比較的薄いカソードバッファが使用される。ただし、カソードバッファ層が過度に薄くなると、MEAの製造中および他の状況での取り扱いが困難になる。従って、特定の実施形態では、薄いカソードバッファ層が、カチオン伝導性ポリマー層などの相対的により厚いPEM層の上に製造される。アニオン伝導性ポリマー層は、例えば、本明細書の他の箇所に記載されている製造技術のいずれかを使用して、PEM層上に製造されてよい。
【0299】
様々な実施形態において、ポリマー電解質膜層は、厚さが約20~200マイクロメートルである。いくつかの実施形態では、ポリマー電解質膜層は、厚さが約60~120マイクロメートルである。いくつかの実施形態では、厚さ約20~60マイクロメートルの薄いポリマー電解質膜層が使用される。いくつかの実施形態では、厚さ約120~200マイクロメートルの比較的厚いポリマー電解質層が使用される。
【0300】
いくつかの実施形態では、より薄いカソードバッファ層が、より薄いポリマー電解質膜と共に使用される。これにより、界面で形成されたCOが、アノードではなくカソードに戻る移動が容易になり得る。いくつかの実施形態では、より厚いカソードバッファ層が、より厚いポリマー電解質膜と共に使用される。これにより、いくつかの実施形態では、セル電圧の低下が生じ得る。
【0301】
カソードバッファ層の厚さに影響を与え得る要因には、アニオン伝導性ポリマーのイオン選択性と、アニオン伝導性ポリマーのポロシティと、ポリマー電解質膜をコーティングするアニオン伝導性ポリマーの適合性とが含まれる。
【0302】
多くのアニオン伝導性ポリマーは、アニオンに対して95%の選択性の範囲にあり、電流の約5%がカチオンである。アニオンに対して99%を超える選択性を有する、より高い選択性のアニオン伝導性ポリマーは、十分なバッファを提供しながら、厚さの大幅な減少の減少を可能にし得る。
【0303】
アニオン伝導性層の機械的強度もその厚さに影響を与える可能性があり、より強い層はより薄い層を可能にする。アニオン伝導性ポリマーのポロシティを減少させると、アニオン伝導性層の厚さが減少し得る。
【0304】
いくつかの実装では、ポリマー電解質膜に隣接するカソードバッファ層または他のアニオン伝導性ポリマー層は、厚さが約10~20マイクロメートルである。いくつかの実施形態では、99%を超える選択性のポリマーを使用することにより、カソードバッファ層を2~10ミクロンに減らすことが可能になり得る。
【0305】
場合によっては、ポリマー電解質膜と隣接するアニオン伝導性ポリマー層との厚さの比率は、約3:1~90:1であり、上限の比率は高度に選択的なアニオン伝導性ポリマー層と共に使用される。いくつかの実施形態では、比率は、約2:1~13:1、約3:1~13.1、または約7:1~13.1である。
【0306】
特定の実施形態では、PEMが比較的薄いと、MEAの性能のいくつかの側面が改善される。図17を参照すると、例えば、ポリマー電解質膜1705は、約50マイクロメートルの厚さを有してよく、一方、アニオン伝導性層は、約10~20マイクロメートルの厚さを有してよい。PEMが薄いと、AEM/PEM界面で生成された水の移動が促進されて、アノードに向かって移動する。セルのカソード側のガスの圧力は、約80~450psiであってよく、これにより界面の水がアノードに移動する。ただし、場合によっては、PEMが厚いと、水の大部分がAEMを通ってカソードに移動し、フラッディングが起こる可能性がある。薄いPEMを使用することにより、フラッディングを回避することができる。
[CO還元反応器(CRR)]
【0307】
図18は、本開示のある実施形態に係るCO還元反応器(CRR)1805の主要な構成要素を示す概略図である。CRR1805は、本明細書の他の箇所に記載されているもののいずれかなどの膜電極アセンブリ1800を有する。膜電極アセンブリ1800は、イオン交換層1860によって分離されたカソード1820とアノード1840とを有する。イオン交換層1860は副層を含んでよい。図示の実施形態は、カソードバッファ層1825、ポリマー電解質膜1865、および任意選択的なアノードバッファ層1845という3つの副層を有する。さらに、CRR1805は、カソード1820に隣接するカソード担持構造1822と、アノード1840に隣接するアノード担持構造1842とを有する。
【0308】
カソード担持構造1822は、電圧を印加することができる、例えば、グラファイトで製造されるカソード極性プレート1824を有する。カソード極性プレート1824の内面に切り込まれた蛇行チャネルなどの流れ場チャネルが存在し得る。カソード極性プレート1824の内面に隣接するカソードガス拡散層1826もある。いくつかの構成では、複数のカソードガス拡散層(図示せず)がある。カソードガス拡散層1826は、膜電極アセンブリ1800に出入りするガスの流れを促進する。カソードガス拡散層1826の例には、炭素微孔質層を有するカーボン紙がある。
【0309】
アノード担持構造1842は、電圧を印加することができる、通常は金属で製造されるアノード極性プレート1844を有する。アノード極性プレート1844の内面に切り込まれた蛇行チャネルなどの流れ場チャネルが存在し得る。アノード極性プレート1844の内面に隣接するアノードガス拡散層1846もある。いくつかの構成では、複数のアノードガス拡散層(図示せず)がある。アノードガス拡散層1846は、膜電極アセンブリ1800に出入りするガスの流れを促進する。アノードガス拡散層1846の例には、チタンメッシュまたはチタンフェルトがある。いくつかの構成では、ガス拡散層1826、1846が微孔質である。
【0310】
膜電極アセンブリ1800への反応物および生成物の流れをそれぞれ可能にする、担持構造1822、1842に関連付けられる入口および出口(図示せず)もある。セルからの反応物および生成物の漏出を防止する様々なガスケット(図示せず)もある。
【0311】
一実施形態では、直流(DC)電圧が、カソード極性プレート1824およびアノード極性プレート1842を介して、膜電極アセンブリ1800に印加される。水は、アノード1840に供給され、酸化触媒上で酸化されて、分子酸素(O)を形成し、プロトン(H)および電子(e)を放出する。プロトンは、イオン交換層1860を通ってカソード1820に向かって移動する。電子は、外部回路(図示せず)を通って流れる。一実施形態では、反応は以下のように説明される。
2HO→4H+4e+O
【0312】
他の実施形態では、他の反応物をアノード1840に供給することができ、他の反応が起こり得る。
【0313】
図示の実施形態は、3つの副層を有するイオン交換層を示しているが、特定の実施形態は、単一の層(例えば、カチオン伝導性ポリマー層またはアニオン伝導性ポリマー層)のみを有するイオン交換層を使用する。他の実施形態は、2つの副層のみを有する。
【0314】
図19には、ある実施形態に係る、CRR1905反応器を通る反応物、生成物、イオン、および電子の流れが示されている。CRR1905は、本明細書の他の箇所で説明されているMEAのいずれかなどの膜電極アセンブリ1900を有する。膜電極アセンブリ1900は、イオン交換層1960によって分離されたカソード1920とアノード1940とを有する。特定の実施形態では、イオン交換層1960は、カソードバッファ層1925、ポリマー電解質膜1965、および任意選択的なアノードバッファ層1945という3つの副層を有する。さらに、CRR1905は、カソード1920に隣接するカソード担持構造1922と、アノード1940に隣接するアノード担持構造1942とを有する。
【0315】
カソード担持構造1922は、電圧を印加することができる、グラファイトで製造され得るカソード極性プレート1924を有する。カソード極性プレート1924の内面に切り込まれた蛇行チャネルなどの流れ場チャネルが存在し得る。カソード極性プレート1924の内面に隣接するカソードガス拡散層1926もある。いくつかの構成では、複数のカソードガス拡散層(図示せず)がある。カソードガス拡散層1926は、膜電極アセンブリ1900に出入りするガスの流れを促進する。カソードガス拡散層1926の例には、炭素微孔質層を有するカーボン紙がある。
【0316】
アノード担持構造1942は、電圧を印加することができる、金属で製造され得るアノード極性プレート1944を有する。アノード極性プレート1944の内面に切り込まれた蛇行チャネルなどの流れ場チャネルが存在し得る。アノード極性プレート1944の内面に隣接するアノードガス拡散層1946もある。いくつかの構成では、複数のアノードガス拡散層(図示せず)がある。アノードガス拡散層1946は、膜電極アセンブリ1900に出入りするガスの流れを促進する。アノードガス拡散層1946の例には、チタンメッシュまたはチタンフェルトがある。いくつかの構成では、ガス拡散層1926、1946が微孔質である。
【0317】
膜電極アセンブリ1900への反応物および生成物の流れをそれぞれ可能にする、担持構造1922、1942に関連付けられる入口および出口も存在し得る。セルからの反応物および生成物の漏出を防止する様々なガスケットも存在し得る。
【0318】
COは、カソード1920に供給され、プロトンおよび電子の存在下でCO還元触媒上で還元され得る。COは、0psigから1000psigの圧力または他の任意の適切な範囲でカソード1920に供給され得る。COは、他のガスの混合物と共に、100%未満または他の任意の適切な割合の濃度でカソード1920に供給され得る。いくつかの構成では、COの濃度を、約0.5%まで、5%まで、または20%または他の任意の適切な割合まで低くすることができる。
【0319】
一実施形態では、未反応COの約10%から100%が、カソード1920に隣接する出口で収集され、還元反応生成物から分離され、次いで、カソード1920に隣接する入口に戻って再利用される。一実施形態では、アノード1940での酸化生成物は、0psigから1500psigの圧力に圧縮される。
【0320】
一実施形態では、複数のCRR(図18に示されているものなど)が電気化学スタックに配置され、一緒に動作する。スタックの個々の電気化学セルを構成するCRRは、電気的に直列または並列に接続され得る。反応物が個々のCRRに供給され、次いで、反応生成物が収集される。
【0321】
いくつかの実施形態によると、反応器への入力および出力が図20に示されている。反応器にはCOアノード供給材料および電気が供給される。CO還元生成物および任意の未反応のCOが反応器を離れる。未反応のCOは還元生成物から分離され、反応器の入力側に戻って再利用され得る。アノード酸化生成物および任意の未反応のアノード供給材料は、別のストリームで反応器を離れる。未反応のアノード供給材料は、反応器の入力側に戻って再利用され得る。
【0322】
CRRのカソードにある様々な触媒により、CO還元反応から様々な生成物または生成物の混合物が形成される。カソードで起こりうるCO還元反応の例を以下に説明する。
CO+2H+2e→CO+H
2CO+12H+12e→CHCH+4H
2CO+12H+12e→CHCHOH+3H
CO+8H+8e→CH+2H
2CO+8H+8e→CHCH+2H
2CO+8H+8e→CHCHOH+H
CO+6H+8e→CH+H
【0323】
いくつかの実施形態では、上記の実施形態で説明したように、CO還元反応器を動作させる方法は、DC電圧をカソード極性プレートおよびアノード極性プレートに印加する段階と、酸化反応物をアノードに供給し、酸化反応を起こさせる段階と、還元反応物をカソードに供給し、還元反応を起こさせる段階と、アノードから酸化反応生成物を収集する段階と、カソードから還元反応生成物を収集する段階とを含む。電流または電圧は、上述のスケジュールによって周回するように制御されてよい。
【0324】
一構成では、DC電圧が約-1.2Vより大きい。様々な配置において、酸化反応物は、水素、メタン、アンモニア、水、またはそれらの組み合わせのいずれか、および/または他の任意の適切な酸化反応物であり得る。一構成では、酸化反応物が水である。様々な配置において、還元反応物は、二酸化炭素、一酸化炭素、およびそれらの組み合わせのいずれか、および/または他の任意の適切な還元反応物であり得る。一構成では、還元反応物が二酸化炭素である。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16A
図16B
図16C
図16D
図17
図18
図19
図20
【国際調査報告】