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特表2022-516408単離されたMHC由来ヒトペプチドおよびCD8+CD45RClowTregの抑制機能を刺激し、かつ活性化するためのその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-28
(54)【発明の名称】単離されたMHC由来ヒトペプチドおよびCD8+CD45RClowTregの抑制機能を刺激し、かつ活性化するためのその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/74 20060101AFI20220218BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20220218BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20220218BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20220218BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20220218BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20220218BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20220218BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20220218BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220218BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20220218BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20220218BHJP
【FI】
C07K14/74
C07K16/28 ZNA
C12N5/0783
A61P37/06
A61K38/10
A61K39/00 Z
A61K35/17 Z
A61K39/39
A61K39/395 N
C12N15/12
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021533724
(86)(22)【出願日】2019-12-13
(85)【翻訳文提出日】2021-08-04
(86)【国際出願番号】 EP2019085205
(87)【国際公開番号】W WO2020120786
(87)【国際公開日】2020-06-18
(31)【優先権主張番号】18306692.7
(32)【優先日】2018-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511074305
【氏名又は名称】インセルム(インスティチュート ナショナル デ ラ サンテ エ デ ラ リシェルシェ メディカル)
(71)【出願人】
【識別番号】519134337
【氏名又は名称】ユニバーシテ デ ナンテス
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ギロノー,キャロル
(72)【発明者】
【氏名】ベジエ,セブリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ピカーダ,エロディ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AA94X
4B065BA25
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA18
4C084MA21
4C084MA24
4C084MA41
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZB081
4C084ZB082
4C085AA03
4C085AA14
4C085AA21
4C085BB12
4C085CC32
4C085EE01
4C085FF13
4C085GG02
4C085GG03
4C085GG04
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB64
4C087NA14
4C087ZB08
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA15
4H045BA16
4H045BA17
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA22
(57)【要約】
本発明は、単離されたMHC由来ヒトペプチド、より具体的には、SDVGE-X-R(配列番号13)7アミノ酸モチーフを含む、単離されたMHC由来ヒトペプチドであって、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)、NREEYARFDSDVGEFR(Hpep2-配列番号2)、NREEYVRFDSDVGEYR(Hpep4-配列番号4)、およびSDVGE-X-R(配列番号13)モチーフを含み、かつ配列番号1、配列番号2、または配列番号4と少なくとも80、85、86、87、88、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%の同一性を有するアミノ酸配列を有する長さ16のアミノ酸を有する任意のペプチドからなる群から選択される、ヒトペプチドに関する。本発明はまた、免疫寛容を誘導するための方法、移植組織拒絶または移植片対宿主病(GVHD)を防止するかまたは低減するための方法、ならびにCD8CD45RClowTregの集団を単離し、拡大するための方法、またはCD8CD45RClowTregの集団を拡大し、その免疫抑制活性を刺激するための方法において、ペプチドの使用に関する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SDVGE-X-R(配列番号13)7アミノ酸モチーフを含む、単離されたMHC由来ヒトペプチドであって、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)、NREEYARFDSDVGEFR(Hpep2-配列番号2)、NREEYVRFDSDVGEYR(Hpep4-配列番号4)、およびSDVGE-X-R(配列番号13)モチーフを含み、かつ配列番号1、配列番号2、または配列番号4と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を有する長さ16のアミノ酸を有する任意のペプチドからなる群から選択される、ヒトペプチド。
【請求項2】
前記ペプチドが、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)であるか、またはSDVGE-X-R(配列番号13)モチーフを含み、配列番号1と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を有する長さ16のアミノ酸を有するペプチドである、請求項1に記載の単離されたMHC由来ヒトペプチド。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のペプチドをコードする核酸分子。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のペプチドに抱合されたかまたは融合された抗体を含む免疫抱合体。
【請求項5】
前記抗体が抗原提示細胞の表面抗原に対して向けられている、請求項4に記載の免疫抱合体。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の少なくとも1つのペプチドを含むナノ粒子であって、好ましくは、リポソームである、ナノ粒子。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載のペプチド、請求項4または請求項5に記載の免疫抱合体、または請求項6に記載のナノ粒子を含むワクチン組成物。
【請求項8】
請求項1または請求項2に記載のペプチドをロードしたMHCクラスI多量体。
【請求項9】
請求項1または請求項2に記載のペプチド、または請求項8に記載のMHCクラスI多量体に特異的に結合する抗体。
【請求項10】
薬剤として使用するための請求項1または請求項2に記載のペプチド、請求項4または請求項5に記載の免疫抱合体、請求項6に記載のナノ粒子、または請求項7に記載のワクチン組成物。
【請求項11】
それを必要とする患者において、移植組織もしくは移植片拒絶または移植片対宿主病(GVHD)の防止または低減に使用するための請求項1または請求項2に記載のペプチド、請求項4または請求項5に記載の免疫抱合体、請求項6に記載のナノ粒子、または請求項7に記載のワクチン組成物。
【請求項12】
CD8CD45RClowTregの集団を拡大し、その免疫抑制活性を刺激するための方法であって、抗原提示細胞(APC)の集団の存在下で請求項1または請求項2のペプチドを含む培養培地、または請求項8に記載のMHCクラスI多量体を含む培養培地で、CD8CD45RClowTregの集団を培養するステップを含む、方法。
【請求項13】
請求項1または2に記載のペプチドを特異的に認識するCD8CD45RClowTregの集団を単離し、拡大するための方法であって、請求項8に記載のMHCクラスI多量体を用いたMHC/ペプチド多量体染色によりCD8CD45RClowTregの集団を単離するステップと、次に、ポリクローナル刺激で前記単離されたCD8CD45RClowTregの集団を拡大するステップと、を含む、方法。
【請求項14】
請求項12または請求項13の方法によって得ることができるCD8+CD45RClowTregの集団。
【請求項15】
それを必要とする患者において移植組織もしくは移植片拒絶または移植片対宿主病(GVHD)の防止または低減に使用するための、請求項14に記載のCD8CD45RClowTregの集団。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単離されたMHC由来ヒトペプチド、およびCD8CD45RClowTregの抑制機能を刺激し、かつ活性化するためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫抑制レジメンは、過去数十年間で移植片の長期生存を大幅に改善しているが、それでも同種移植片の慢性移植片機能不全を防ぐことはできず、依然として移植患者の福祉にとって重大な障害である。したがって、ここ数年、主に慢性移植片拒絶、二次的効果、および非特異的免疫抑制のために、同種移植片の生存率の改善は停滞している。
【0003】
高い抑制能力およびドナー抗原に対する特異性を備えた移植における免疫応答を積極的に制御する制御性細胞集団のヒトでの同定は、制御性T細胞/エフェクターT細胞比(Treg/Teff)の調節解除を伴う複数の疾患における革命的な治療戦略を生み出した。制御性細胞を用いた細胞治療の確立が近年行われ、骨髄および固形臓器移植のみでなく、自己免疫においても有望な将来の治療法を有する。
【0004】
いくつかの研究は、生存率、抑制機能の刺激、およびそのような抗原経験のあるTregの優位性のためのTCRによる抗原認識の重要性を示している。移植片対宿主病(GVHD)および固形臓器移植の第I相試験は、明らかな毒性を有さない様々なタイプ(様々なCD4Treg、マクロファージ、およびDC)の制御性細胞で開始されたが、現在まで、動物モデルに関する文献は豊富にあるが、CD8Tregを使用した臨床試験はない。ヒトにおけるCD8Tregの翻訳の1つの制限は、免疫応答を効率的に抑制するCD4Tregの機能において重要な遺伝子であるFoxp3が、CD8Tregに対して明確に定義されておらず、また、他の表面マーカーまたはサイトカインによるその発現および機能が、ヒトのCD8Tregについて明確に示されていないことであり得る。
【0005】
近年では、非常に抑制的なヒトCD8CD45RClowTregの新規集団が同定された(国際公開第2017/042170号)。この集団は、Foxp3を発現し、IFNγ、IL-10、IL-34、およびTGFβを産生し、それらの抑制活性を媒介することを特徴とする。さらに、TCRバイアスCD8Tregによって認識される優性MHCクラスII由来抗原(Du51と呼ばれる)がラットにおいて同定された(国際公開第2015/150492号)。レシピエントラットを抗原Du51のみで治療することにより、ドナー特異的な同種移植片寛容の誘導が生じ、CD8Tregの生成および機能に対するTCR/ペプチド/MHC相互作用の重要性が強調された。
【0006】
ここでは、本発明者らは、4つのランダムなヒトMHCクラスII対立遺伝子から4つの16aaペプチドを設計し、IL-2およびCpGの存在下でHLA-A2pDCおよび同系CD8CD45RClowTregを使用する5日間の培養アッセイでこれらのペプチドの試験を個別に行った。ペプチドとのインキュベーション後にCD25およびCD69の発現がアップレギュレートされることが観察された。さらに、本発明者らは、1つのペプチドの存在下での抗原提示細胞(APC)による拡大が、CD8CD45RClowTregの10倍の拡大をもたらすことを示した。重要なことに、ペプチド拡大CD8CD45RClowTregは、新鮮なCD8CD45RClowTregと同様に、同種異系免疫応答の抑制に効果的であった。したがって、本発明は、単離されたMHC由来ヒトペプチド、免疫寛容を誘導するための、および移植組織もしくは移植片拒絶または移植片対宿主病(GVHD)を防止するかまたは低減させるためのその使用、ならびにCD8CD45RClowTregを刺激し、拡大するためのその使用、およびCD8CD45RClowTregの抑制機能を活性化するためのその使用に関する。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、単離されたMHC由来ヒトペプチド、およびCD8CD45RClowTregの抑制機能を刺激し、拡大し、かつ活性化するためのその使用に関する。特に、本発明は、特許請求の範囲によって定義される。
【0008】
したがって、本発明は、SDVGE-X-R(配列番号13)7アミノ酸モチーフを含む、単離されたMHC由来ヒトペプチドであって、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)、NREEYARFDSDVGEFR(Hpep2-配列番号2)、NREEYVRFDSDVGEYR(Hpep4-配列番号4)、およびSDVGE-X-R(配列番号13)モチーフを含み、かつ配列番号1、配列番号2、または配列番号4と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を有する長さ16のアミノ酸を有する任意のペプチドからなる群から選択される、ヒトペプチドに関する。一実施形態では、ペプチドは、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)であるか、またはSDVGE-X-R(配列番号13)モチーフを含み、配列番号1と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を有する長さ16のアミノ酸を有するペプチドである。
【0009】
本発明はまた、本発明のペプチドをコードする核酸分子に関する。本発明はまた、本発明のペプチドに抱合されたかまたは融合された抗体を含む免疫抱合体に関する。一実施形態では、抗体は、抗原提示細胞(APC)の表面抗原に対して向けられている。
【0010】
本発明はまた、本発明の少なくとも1つのペプチドを含むナノ粒子に関する。一実施形態では、ナノ粒子は、リポソームである。本発明はまた、本発明のペプチド、本発明の免疫抱合体、または本発明のナノ粒子を含むワクチン組成物に関する。
【0011】
本発明はまた、本発明のペプチドがロードされたMHCクラスI多量体に関する。本発明はまた、本発明のペプチドまたは本発明のMHCクラスI多量体に特異的に結合する抗体に関する。
【0012】
本発明はまた、薬剤として使用するための本発明のペプチド、本発明の免疫抱合体、本発明のナノ粒子、または本発明のワクチン組成物に関する。本発明はまた、それを必要とする患者において、移植組織もしくは移植片拒絶または移植片対宿主病(GVHD)を防止するかまたは低減させる際に使用するための本発明のペプチド、本発明の免疫抱合体、本発明のナノ粒子、または本発明のワクチン組成物に関する。
【0013】
本発明は、CD8CD45RClowTregの集団を拡大し、その免疫抑制活性を刺激するための方法にさらに関し、本方法は、CD8CD45RClowTregの集団を、抗原提示細胞(APC)の集団の存在下で、本発明のペプチドを含む培養培地、または本発明のMHCクラスI多量体を含む培養培地で培養するステップを含む。一実施形態では、抗原提示細胞は、樹状細胞、単球、および/または人工抗原提示細胞(aAPC)である。
【0014】
本発明はまた、本発明のペプチドを特異的に認識するCD8CD45RClowTregの集団を、単離し、かつ拡大するための方法に関し、本方法は、本発明のMHCクラスIを用いたMHC/ペプチド多量体染色によって本発明のペプチドを特異的に認識するCD8CD45RClowTregの集団を単離するステップと、次に、ポリクローナル刺激により、CD8CD45RClowTregの単離された集団を拡大するステップと、を含む。一実施形態では、ポリクローナル刺激は、抗CD3 mAbおよび抗CD28 mAbによる刺激である。
【0015】
本発明はまた、本発明の方法によって得られる、または得られやすいCD8CD45RClowTregの集団に関する。本発明はまた、それを必要とする患者における移植組織もしくは移植片拒絶または移植片対宿主病(GVHD)を防止するかまたは低減させる際に使用するためのCD8CD45RClowTregの集団に関する。

定義
【0016】
本発明において、以下の用語は、以下の意味を有する:
【0017】
数字の前の「約」には、その数字の値のプラスマイナス10%以下を含む。「約」という用語が指す値は、それ自体も具体的に、好ましくは開示されることを理解されたい。
【0018】
「同種異系(Allogeneic)」または「同種異系(allogenic)」とは、材料が導入されるかまたは移植される対象とは同じ種の異なる対象から得られた、または由来した任意の材料(例えば、細胞、組織、器官、移植片、移植組織)を指す。1以上の遺伝子座の遺伝子が同一でない場合、2以上の対象は互いに同種異系であると言われる。いくつかの態様では、同じ種の対象由来の同種異系材料は、抗原的に相互作用するためには、遺伝的に十分に異なっている可能性がある。
【0019】
「自己」とは、後に再導入される同じ対象から得られた、または由来する任意の材料(例えば、細胞、組織、移植片、移植組織)を指す。
【0020】
「ドナー」は、移植組織または移植片の由来である対象、好ましくはヒト対象を指す。
【0021】
「薬学的に許容される担体」または「薬学的に許容される賦形剤」は、哺乳動物、好ましくはヒトに投与されたときに有害、アレルギーまたは他の有害な反応を生じない賦形剤または担体を指す。これらの賦形剤または担体としては、例えば、分散媒体、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などの任意のあらゆる溶媒が挙げられる。薬学的に許容される賦形剤または担体とは、非毒性の固体、半固体または液体の充填剤、希釈剤、カプセル化材料、または任意のタイプの製剤補助剤を指す。ヒト投与の場合、調製物は、FDAまたはEMAなどの規制当局が要求する無菌性、発熱性、一般的な安全性、および純度の基準を満たす必要がある。
【0022】
「患者」は、哺乳動物、好ましくはヒトを指す。本発明の一実施形態では、患者は、移植組織または移植片、特に同種異系移植組織または移植片を必要とする哺乳動物、好ましくはヒトである。したがって、一実施形態では、患者は、移植組織または移植片を受け取った、受け取っている、または受け取るのを待機している哺乳動物、好ましくはヒトである。一実施形態では、患者は男性である。別の実施形態では、患者は女性である。一実施形態では、患者は成人である。本発明によれば、成人は、18歳、19歳、20歳、または21歳を超える患者である。別の実施形態では、患者は子供である。本発明によれば、子供は、21歳、20歳、19歳、または18歳未満の患者である。
【0023】
「レシピエント」とは、移植組織または移植片を受け取った、受け取っている、または受け取るのを待機している患者、好ましくはヒトの患者を指す。
【0024】
「治療有効量」または「治療有効用量」は、治療を必要とする患者に有意な負の副作用または有害な副作用を引き起こすことなく、患者に免疫寛容を誘導すること、および/または免疫応答を低減させること、特に移植組織もしくは移植片拒絶または移植片対宿主病(GVHD)を防止するかまたは低減させることを目的とする、本明細書で定義される単離されたMHC由来ヒトペプチドの量または濃度を指す。
【0025】
「治療すること」または「治療」は、治療的治療、予防的または防止的治療、または治療的治療と予防的もしくは防止的治療の両方を指し、その目的は、免疫寛容を誘導すること、すなわち、免疫応答、例えば移植組織または移植片に対する免疫応答を防止する、遅くする(減少させる)、または低減することである。一実施形態では、目的は、移植組織または移植片を受け取った、受け取っている、または受け取るのを待機している患者において、移植組織または移植片に対する寛容または部分寛容を誘導することである。したがって、一実施形態では、この目的は、移植組織または移植片拒絶を防止するかまたは低減することである。一実施形態では、目的は、移植片対宿主病(GVHD)を防止するかまたは低減することである。一実施形態では、本明細書で定義される単離されたMHC由来ヒトペプチドの治療有効用量を受けた後、患者は次の少なくとも1つを示す場合、患者は奏効して「治療」されている。a)免疫応答のレベルの低下、特に移植組織または移植片に対する免疫応答、例えば、T細胞媒介性免疫応答のレベルの低下、B細胞媒介性免疫応答のレベルの低下、および/またはドナー特異的抗体のレベル低下;b)免疫応答、特に移植組織もしくは移植片に対する免疫応答の開始もしくは進行の遅延、またはc)免疫応答、特に移植組織もしくは移植片に対する免疫応答の開始もしくは進行のリスクの低下。疾患の治療の奏効および改善を評価するための上記のパラメータは、医師が精通している日常的な手順によって容易に測定可能である。
【0026】
本明細書で使用されるとき、「Teff」(複数可)は、それぞれ、エフェクターT細胞(複数可)を指す。Teffは、例えば細胞傷害性T細胞などの特定の免疫応答を開始できるT細胞である。
【0027】
本明細書で使用されるとき、「Treg(複数可)」は、それぞれ、制御性T細胞(複数可)を指す。制御性T細胞は、異常または過剰な免疫応答を抑制し、免疫寛容において任意の役割を果たすT細胞の特殊な亜集団である。制御性T細胞は、常にではないが、典型的には、フォークヘッドボックスP3(Foxp3)制御性T細胞および/またはCD45RClow制御性T細胞である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の第一の目的は、SDVGE-X-R(配列番号13)7アミノ酸モチーフを含む、単離されたMHC由来ヒトペプチドであって、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)、NREEYARFDSDVGEFR(Hpep2-配列番号2)、NREEYVRFDSDVGEYR(Hpep4-配列番号4)、およびSDVGE-X-R(配列番号13)モチーフを含み、かつ配列番号1、配列番号2、または配列番号4と少なくとも80、85、86、87、88、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%の同一性を有するアミノ酸配列を有する長さ16のアミノ酸を有する任意のペプチドからなる群から選択される、ヒトペプチドに関する。
【0029】
本明細書で使用されるとき、モチーフSDVGE-X-R(配列番号13)において、Xは、任意のアミノ酸、好ましくは、20の標準アミノ酸(A、R、N、D、C、Q、E、G、H、I、L、K、M、F、P、S、T、W、YおよびV)のいずれかを指す。
【0030】
一実施形態によれば、本明細書に記載の本発明の単離されたMHC由来ヒトペプチドは、単離されたドナーMHC由来ヒトペプチドまたは単離されたレシピエントMHC由来ヒトペプチドである。一実施形態では、本明細書に記載される本発明の単離されたMHC由来ヒトペプチドは、単離されたドナーMHC由来ヒトペプチドである。
【0031】
一実施形態では、SDVGE-X-R(配列番号13)7アミノ酸モチーフを含む単離されたMHC由来ヒトペプチドは、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)、NREEYARFDSDVGEFR(Hpep2-配列番号2)、NREEYVRFDSDVGEYR(Hpep4-配列番号4)、および配列番号1、配列番号2、または配列番号4に記載のアミノ酸配列を有し、それぞれ配列番号1、配列番号2、または配列番号4の2つのアミノ酸の置換を有する任意のペプチドからなる群から選択され、ここで、この置換は、SDVGE-X-R(配列番号13)モチーフ内にないものとする。
【0032】
一実施形態では、SDVGE-X-R(配列番号13)7アミノ酸モチーフを含む単離されたMHC由来ヒトペプチドは、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)、NREEYARFDSDVGEFR(Hpep2-配列番号2)、NREEYVRFDSDVGEYR(Hpep4-配列番号4)、および配列番号1、配列番号2、または配列番号4に記載のアミノ酸配列を有し、それぞれ配列番号1、配列番号2、または配列番号4の1つのアミノ酸の置換を有する任意のペプチドからなる群から選択され、ここで、この置換は、SDVGE-X-R(配列番号13)モチーフ内にないものとする。
【0033】
一実施形態では、SDVGE-X-R(配列番号13)7アミノ酸モチーフを含む単離されたMHC由来ヒトペプチドは、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)、NREEYARFDSDVGEFR(Hpep2-配列番号2)およびNREEYVRFDSDVGEYR(Hpep4-配列番号4)からなる群から選択される。
【0034】
一実施形態では、SDVGE-X-R(配列番号13)7アミノ酸モチーフを含む単離されたMHC由来ヒトペプチドは、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)、NREEYARFDSDVGEFR(Hpep2-配列番号2)、およびSDVGE-X-R(配列番号13)モチーフを含み、かつ配列番号1または配列番号2と少なくとも80、85、86、87、88、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%の同一性を有するアミノ酸配列を有する長さ16のアミノ酸を有する任意のペプチドからなる群から選択される。
【0035】
一実施形態では、SDVGE-X-R(配列番号13)7アミノ酸モチーフを含む単離されたMHC由来ヒトペプチドは、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)、NREEYVRFDSDVGEYR(Hpep4-配列番号4)、およびSDVGE-X-R(配列番号13)モチーフを含み、かつ配列番号1または配列番号4と少なくとも80、85、86、87、88、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%の同一性を有するアミノ酸配列を有する長さ16のアミノ酸を有する任意のペプチドからなる群から選択される。
【0036】
一実施形態では、SDVGE-X-R(配列番号13)7アミノ酸モチーフを含む単離されたMHC由来ヒトペプチドは、NREEYARFDSDVGEFR(Hpep2-配列番号2)、NREEYVRFDSDVGEYR(Hpep4-配列番号4)、およびSDVGE-X-R(配列番号13)モチーフを含み、かつ配列番号2または配列番号4と少なくとも80、85、86、87、88、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%の同一性を有するアミノ酸配列を有する長さ16のアミノ酸を有する任意のペプチドからなる群から選択される。
【0037】
一実施形態では、SDVGE-X-R(配列番号13)7アミノ酸モチーフを含む単離されたMHC由来ヒトペプチドは、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)、またはSDVGE-X-R(配列番号13)モチーフを含み、配列番号1と少なくとも80、85、86、87、88、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%の同一性を有するアミノ酸配列を有する長さ16のアミノ酸を有するペプチドである。一実施形態では、SDVGE-X-R(配列番号13)7アミノ酸モチーフを含む単離されたMHC由来ヒトペプチドは、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)または配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、配列番号1の2つのアミノ酸の置換を有するペプチドであり、ここで、この置換は、SDVGE-X-R(配列番号13)モチーフ内にないものとする。一実施形態では、SDVGE-X-R(配列番号13)7アミノ酸モチーフを含む単離されたMHC由来ヒトペプチドは、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)または配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、配列番号1の1つのアミノ酸の置換を有するペプチドであり、ここで、この置換は、SDVGE-X-R(配列番号13)モチーフ内にないものとする。一実施形態では、SDVGE-X-R(配列番号13)7アミノ酸モチーフを含む単離されたMHC由来ヒトペプチドは、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)である。
【0038】
一実施形態では、SDVGE-X-R(配列番号13)7アミノ酸モチーフを含む単離されたMHC由来ヒトペプチドは、NREEYARFDSDVGEFR(Hpep2-配列番号2)、またはSDVGE-X-R(配列番号13)モチーフを含み、配列番号2と少なくとも80、85、86、87、88、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%の同一性を有するアミノ酸配列を有する長さ16のアミノ酸を有するペプチドである。
【0039】
一実施形態では、SDVGE-X-R(配列番号13)7アミノ酸モチーフを含む単離されたMHC由来ヒトペプチドは、NREEYVRFDSDVGEYR(Hpep4-配列番号4)、またはSDVGE-X-R(配列番号13)モチーフを含み、配列番号4と少なくとも80、85、86、87、88、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%の同一性を有するアミノ酸配列を有する長さ16のアミノ酸を有するペプチドである。
【0040】
「単離された」ペプチドによって、ペプチドは、炭水化物、脂質、または自然界のポリペプチドに関連する他のタンパク質性不純物などの汚染細胞成分を本質的に含まないことが意図されている。典型的には、単離されたペプチドの調製物は、高度に精製された形態、すなわち、少なくとも約80%の純度、少なくとも約90%の純度、少なくとも約95%の純度、または95%を超える純度、例えば96%、97%、または98%以上の純度、または99%を超える純度のペプチドを含む。特定のタンパク質調製物には単離されたペプチドが含まれていることを示す1つの方法は、タンパク質調製物のSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動およびゲルのクーマシーブリリアントブルー染色後の単一バンドの出現によるものである。あるいは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)または質量分析(MS)などの他の分析化学技術を使用して純度を決定することもできる。調製物中に存在する主要な種であるペプチドは、実質的に精製されている。
【0041】
「同一性」または「同一」という用語は、2つ以上のポリペプチドのアミノ酸配列間の関係で使用される場合、2つ以上のアミノ酸残基のストリング間の一致の数によって決定される、ポリペプチド間の配列関連性の程度を指す。「同一性」は、特定の数学的モデルまたはコンピュータプログラム(すなわち、「アルゴリズム」)によって対処されたギャップアラインメント(存在する場合)を有する2つ以上の配列のうちの小さい方の間の同一の一致のパーセントを測定する。関連するポリペプチドの同一性は、既知の方法によって容易に計算することができる。こうした方法は、これらに限定されないが、Computational Molecular Biology,Lesk,A.M.編、Oxford University Press,New York,1988年;Biocomputing:Informatics and Genome Projects,Smith,D.W.編、Academic Press,New York,1993年;Computer Analysis of Sequence Data,Part 1,Griffin,A.M.,and Griffin,H.G.編、Humana Press,New Jersey,1994年;Sequence Analysis in Molecular Biology,von Heinje,G.,Academic Press,1987;Sequence Analysis Primer,Gribskov,M.and Devereux,J.編、M.Stockton Press,New York,1991年;およびCarilloら、SIAM J.Applied Math.48,1073(1988年)に記載されているものが挙げられる。同一性を決定するための好ましい方法は、テストされた配列間で最大の一致を与えるように設計されている。同一性を決定する方法は、公開されているコンピュータプログラムに記載されている。2つの配列間の同一性を決定するための好ましいコンピュータプログラム方法には、GAP(Devereuxら、Nucl.Acid.Res.\2,387(1984);Genetics Computer Group,University of Wisconsin,Madison,Wis.)、BLASTP、BLASTNおよびFASTA(Altschulら、J.MoI.Biol.215,403-410(1990年))などのGCGプログラムパッケージが含まれる。BLASTXプログラムは、National Center for Biotechnology Information(NCBI)および他の情報源から公開されている(BLAST Manual,Altschulら、NCB/NLM/NIH Bethesda,Md.20894;Altschulら、上記)。周知のSmith Watermanアルゴリズムを使用して、同一性を決定することもできる。
【0042】
本発明によれば、本発明のペプチドは、従来の自動化ペプチド合成法によって、または組換え発現によって産生され得る。タンパク質を設計し、製造するための一般的な原理は、当業者に周知である。例えば、ペプチドは、従来の技術に従って、溶液中または固体支持体上で合成することができる。様々な自動合成器が市販されており、Stewart and Young;Tamら、1983年;Merrifield,1986年およびBarany and Merrifield,Gross and Meienhofer,1979年に記載されている既知のプロトコルに従って使用できる。本発明のペプチドはまた、Applied Biosystems Inc.からのモデル433Aなどの例示的なペプチド合成器を使用する固相技術によって合成され得る。自動ペプチド合成または組換え法によって生成された任意の所与のペプチドの純度は、逆相HPLC分析を使用して決定され得る。各ペプチドの化学的信頼性は、当業者に周知の任意の方法によって確立することができる。自動ペプチド合成の代替として、選択したペプチドをコードするヌクレオチド配列を発現ベクターに挿入し、適切な宿主細胞に形質転換するかまたはトランスフェクトし、以下に開示する発現に好適である条件下で培養する組換えDNA技術を使用することができる。
【0043】
本発明のさらなる目的は、本発明のペプチドをコードする核酸分子に関する。
【0044】
一実施形態では、本発明の核酸分子は、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)、NREEYARFDSDVGEFR(Hpep2-配列番号2)、NREEYVRFDSDVGEYR(Hpep4-配列番号4)、およびSDVGE-X-R(配列番号13)モチーフを含み、かつ配列番号1、配列番号2または配列番号4と少なくとも80、85、86、87、88、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%の同一性を有するアミノ酸配列を有する長さ16のアミノ酸を有する任意のペプチドからなる群から選択されるペプチドをコードする。
【0045】
一実施形態では、本発明の核酸分子は、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)ペプチドまたはSDVGE-X-R(配列番号13)モチーフを含み、配列番号1と少なくとも80、85、86、87、88、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%の同一性を有するアミノ酸配列を有する長さ16のアミノ酸を有するペプチドをコードする。一実施形態では、本発明の核酸分子は、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)ペプチドまたは配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、配列番号1の1つまたは2つのアミノ酸の置換を有するペプチドをコードし、ここで、この置換は、SDVGE-X-R(配列番号13)モチーフ内にないものとする。
【0046】
本明細書で使用されるとき、「核酸分子」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、DNAまたはRNA分子を指す。しかし、この用語は、これらに限定されないが、次のようなDNAおよびRNAの既知の塩基類似体のうちのいずれかを含む配列を表現する;4-アセチルシトシン、8-ヒドロキシ-N6-メチルアデノシン、アジリジニルシトシン、シュードイソシトシン、5-(カルボキシヒドロキシルメチル)ウラシル、5-フルオロ(fiuoro)ウラシル、5-ブロモウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウラシル、5-カルボキシメチル-アミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、イノシン、N6-イソペンテニルアデニン、1-メチルアデニン、1-メチルシュードウラシル、1-メチルグアニン、1-メチルイノシン、2,2-ジメチルグアニン、2-メチルアデニン、2-メチルグアニン、3-メチルシトシン、5-メチルシトシン、N6-メチルアデニン、7-メチルグアニン、5-メチルアミノメチルウラシル、5-メトキシアミノ-メチル-2-チオウラシル、ベータ-D-マンノシルケオシン、5′-メトキシカルボニルメチルウラシル、5-メトキシウラシル、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン、ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸、オキシブトキソシン、シュードウラシル、ケウオシン、2-チオシトシン、5-メチル-2-チオウラシル、2-チオウラシル、4-チオウラシル、5-メチルウラシル、-ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸、シュードウラシル、ケウオシン、2-チオシトシン、および2,6-ジアミノプリン。
【0047】
一実施形態では、本発明の核酸分子は、本明細書の上記のペプチドをコードする核酸配列を含むウイルスゲノムである。一実施形態では、本発明の核酸分子は、上記のペプチドをコードする核酸配列を含む組換えウイルスゲノムである。
【0048】
本発明のさらなる目的は、上記のような核酸分子を含むベクターに関する。
【0049】
ベクターの例としては、これらに限定されないが、プラスミド、ファージミド、ウイルス、特に組換えウイルスが挙げられる。
【0050】
一実施形態では、本発明のベクターは、ウイルス、特に組換えウイルスである。したがって、本発明はまた、上記のようにペプチドをコードする核酸分子を含むウイルス、特に組換えウイルスに関する。
【0051】
ウイルスの例としては、これらに限定されないが、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、レトロウイルスが挙げられる。
【0052】
一実施形態によれば、本発明のペプチドは、抗体に融合させるかまたは抱合され、したがって「免疫抱合体」を形成する。
【0053】
典型的には、本発明のペプチドが融合されるかまたは抱合される抗体は、抗原提示細胞(APC)の表面抗原に対して向けられ、その結果、本発明のペプチドは、免疫応答(例えば、寛容)を誘発するために細胞を標的とする。本明細書で使用されるとき、「抗原提示細胞」(APC)という用語は、T細胞を活性化することができる細胞を指し、これらに限定されないが、特定のマクロファージ、B細胞および樹状細胞が挙げられる。
【0054】
いくつかの実施形態では、抗体は、樹状細胞の表面抗原に対して向けられる。「樹状細胞」(DC)は、リンパ組織または非リンパ組織に見られる形態学的に類似した細胞型の多様な集団の任意のメンバーを指す。これらの細胞は、その独特の形態、高レベルの表面MHCクラスII発現を特徴とする(Steinmanら、Ann.Rev.Immunol.9:271(1991年);そのような細胞の説明のために参照により本明細書に組み込まれる)。これらの細胞は、本明細書に開示される複数の組織源から、かつ好都合なことに、末梢血から単離することができる。
【0055】
したがって、一実施形態では、抗体は、樹状細胞免疫受容体(DCIR)、MHCクラスI、MHCクラスII、CD1、CD2、CD3、CD4、CD8、CDl lb、CD14、CD15、CD16、CD19、CD20、CD29、CD31、CD40、CD43、CD44、CD45、CD54、CD56、CD57、CD58、CD83、CD86、CMRF-44、CMRF-56、DCIR、DC-ASPGR、CLEC-6、CD40、BDCA-2、MARCO、DEC-205、マンノース受容体、ランゲリン、デクチン-1、B7-1、B7-2、IFN-γ受容体およびIL-2受容体、ICAM-1、フェイ受容体、LOX-1、および/またはASPGRに特異的に結合する抗体から選択される。
【0056】
いくつかの実施形態では、抗体は、専門の抗原提示細胞(APC)、特に樹状細胞(DC)、マクロファージ、およびB細胞から選択される専門のAPCの細胞表面マーカーに特異的である。
【0057】
一実施形態では、抗体は、樹状細胞の細胞表面マーカー、例えば、CD83、CMRF-44またはCMRF-56に特異的である。
【0058】
一実施形態では、抗体は、B細胞またはマクロファージなどの別の専門の抗原提示細胞の細胞表面マーカーに特異的であり得る。例えば、CD40は、樹状細胞、B細胞、および他の抗原提示細胞で発現するため、より多くの抗原提示細胞が動員されることになる。一実施形態では、抗体はCD40に特異的である。
【0059】
分子を抗体に抱合させるための技術は、当技術分野において周知である(例えば、Arnonら、「Monoclonal Antibodies For Immunotargeting Of Drugs In Cancer Therapy」Monoclonal Antibodies And Cancer Therapy(Reisfeldら、編、Alan R.Liss,Inc.,1985年);Hellstromら、「Antibodies For Drug Delivery」 Controlled Drug Delivery(Robinsonら、編、Marcel Deiker,Inc.,第2版、1987年);Thorpe,「Antibody Carriers Of Cytotoxic Agents In Cancer Therapy:A Review」 Monoclonal Antibodies’84:Biological And Clinical Applications(Pincheraら、編、1985年);「Analysis,Results,and Future Prospective of the Therapeutic Use of Radiolabeled Antibody In Cancer Therapy」Monoclonal Antibodies For Cancer Detection And Therapy(Baldwinら、編、Academic Press,1985年);およびThorpeら、1982年,Immunol.Rev.62:119-58を参照のこと。また、例えば、PCT国際公開第89/12624号を参照のこと)。典型的には、核酸分子は、それぞれN-ヒドロキシスクシンイミドエステルまたはマレイミド官能基を介して、抗体のリジンまたはシステインに共有結合により接着する。遺伝子操作されたシステインを使用した抱合方法または非天然アミノ酸の取り込み方法は、抱合体の均質性を改善することが報告されている(Axup,J.Y.,Bajjuri,K.M.,Ritland,M.,Hutchins,B.M.,Kim,C.H.,Kazane,S.A.,Halder,R.,Forsyth,J.S.,Santidrian,A.F.,Stafin,Kら、(2012年),Synthesis of site-specific antibody-drug conjugates using unnatural amino acids.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 109,16101-16106.;Junutula,J.R.,Flagella,K.M.,Graham,R.A.,Parsons,K.L.,Ha,E.,Raab,H.,Bhakta,S.,Nguyen,T.,Dugger,D.L.,Li,Gら、(2010年),Engineered thio-trastuzumab-DM1 conjugate with an improved therapeutic index to target human epidermal growth factor receptor 2-positive breast cancer.Clin.Cancer Res.16,4769-4778)。Junutulaら(2008年)は、「THIOMAB」(TDC)と呼ばれるシステインベースの部位特異的抱合体を開発した。これは、従来の抱合方法と比較して、改善された治療指数を示すことが主張されている。抗体に組み込まれている非天然アミノ酸への抱合も、抗体薬物抱合体(ADC)について調査されているが、このアプローチの一般性は、まだ確立されていない(Axupら、2012年)。特に、当業者はまた、アシル供与体グルタミン含有タグ(例えば、Gin含有ペプチドタグまたはQ-タグ)、またはポリペプチド操作によって反応性にされる内因性グルタミン(例えば、ポリペプチドのアミノ酸の欠失、挿入、置換、または突然変異を介して)により操作されたFc含有ポリペプチドをも想定することができる。次に、トランスグルタミナーゼは、アミン供与剤(例えば、反応性アミンを含むか、または反応性アミンに接着した小分子)と共有結合により架橋して、アシル供与体グルタミン含有タグまたはアクセス可能/露出/反応性内因性グルタミンを介して、Fc含有ポリペプチドに部位特異的抱合するアミン供与剤と抱合する操作されたFc含有ポリペプチドの安定、かつ均質な集団を形成することができる(国際公開第2012/059882号)。
【0060】
本発明のさらなる目的は、本発明の少なくとも1つのペプチドを含むナノ粒子に関する。
【0061】
一実施形態では、本発明のナノ粒子は、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)、NREEYARFDSDVGEFR(Hpep2-配列番号2)、NREEYVRFDSDVGEYR(Hpep4-配列番号4)、およびSDVGE-X-R(配列番号13)モチーフを含み、かつ配列番号1、配列番号2または配列番号4と少なくとも80、85、86、87、88、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%の同一性を有するアミノ酸配列を有する長さ16のアミノ酸を有する任意のペプチドからなる群から選択されるペプチドを含む。
【0062】
一実施形態では、本発明のナノ粒子は、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)ペプチドまたはSDVGE-X-R(配列番号13)モチーフを含み、配列番号1と少なくとも80、85、86、87、88、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%の同一性を有するアミノ酸配列を有する長さ16のアミノ酸を有するペプチドを含む。一実施形態では、本発明のナノ粒子は、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)ペプチドまたは配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、配列番号1の1つまたは2つのアミノ酸の置換を有するペプチドを含み、ここで、この置換は、SDVGE-X-R(配列番号13)モチーフ内にないものとする。
【0063】
本明細書で使用されるとき、「ナノ粒子」という用語は、約1nm~約1000nm、好ましくは約2~約500nm、さらにより好ましくは約5~約300nmのサイズの粒子を意味する。ほとんどのナノ粒子の場合、ナノ粒子のサイズとは、ナノ粒子内の2つの最も離れた点の間の距離である。チューブウィスカまたはシリンダーなどの異方性ナノ粒子の場合、直径のサイズは、ナノ粒子が内接する最小のシリンダーの直径である。ナノ粒子のサイズは、動的光散乱(DLS)、小角X線散乱(SAXS)、走査型移動度粒径測定装置(SMPS)、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)などの様々な方法で決定できる(Orts-Gil,G.,K.Natteら、(2011年),Journal of Nanoparticle Research 13(4):1593-1604;Alexandridis,P.and B.Lindman(2000年),Amphiphilic Block Copolymers:Self-Assembly and Applications,Elsevier Science;Hunter,R.J.and L.R.White(1987年),Foundations of colloid science,Clarendon Press)。ナノ粒子は、異なる化学的性質、異なるサイズ、および/または異なる形状で作製され得る。ナノ粒子は、球、針、フレーク、プレートレット、チューブ、ファイバー、キューブ、プリズム、ウィスカの形態をとることができ、または不規則な形状を有し得る。
【0064】
いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、固体ナノ粒子の中から選択される。いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、無機、有機、または混合であり得る。
【0065】
一実施形態では、ナノ粒子は鉱物ナノ粒子である。鉱物ナノ粒子の中で、金属酸化物、アルミナ、シリカ、カオリン、ヒドロキシアパタイト、炭酸カルシウム、マイカ、石英などのケイ酸塩、ヘクトライト、ラポナイト、モンモリロナイト、ベントナイト、スメクタイトなどのゼオライトまたは粘土に言及され得る。鉱物粒子としては、これに限定されないが、金属粒子を挙げることができる。一実施形態では、ナノ粒子は金属ナノ粒子である。金属粒子は、金属合金またはアルカリ土類金属、遷移金属、希土類金属、およびそれらの合金から選択される金属のみで形成された粒子を包含する。いくつかの実施形態では、金属は、アルミニウム、銅、カドミウム、セレン、銀、金、インジウム、鉄、白金、ニッケル、モリブデン、シリコン、チタン、タングステン、アンチモン、パラジウム、亜鉛、スズ、およびそれらの合金であり得る。一実施形態では、これらの金属粒子は、それらの表面にグラフトされた化学成分を有するか、またはそれらの表面上に有機硫黄化合物などの化合物の自己組織化単分子膜を有する金属有機修飾ナノ粒子であり得る。いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、金属酸化物、例えば、酸化鉄(FeO、Fe2O3、Fe3O4)、酸化セリウム(CeO)、アルミナ(Al2O3)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化チタン(TiO2)、チタン酸塩(BaTiO3、Ba0.5Sr0.5TiO3、SrTiO3)、酸化インジウム(In2O3)、酸化スズ(SnO2)、酸化アンチモン(Sb2O3)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化マンガン(Mn3O4、MnO2)、酸化モリブデン(MoO3)、シリカ(SiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化イットリウム(Y2O3)、オキシ塩化ビスマス、酸化銅(CuO、Cu2O)のナノ粒子であり得る。一実施形態では、ナノ粒子はまた、有機金属ナノ粒子であり得る:これらは、有機材料によってコーティングされたかまたはグラフトされた、金属または金属酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、硫化物および水酸化物のナノ粒子である。一実施形態では、ナノ粒子は、金属無機塩の中から選択され得る。無機塩としては、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、炭酸水素マグネシウム(糖部分を含む)が挙げられる。
【0066】
一実施形態では、ナノ粒子は有機物である。ナノ粒子は有機物である場合、通常は有機ポリマーである。有機ポリマーには、これらに限定されないが、ポリスチレン、ポリ(酢酸ビニル)、ポリ(メチルスチレン)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(アクリロニトリル)、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(アクリル酸ブチル)、ポリ(アクリル酸)、スチレンとC1~C4アルキル(メタ)アクリレートの共重合体、スチレンとアクリルアミドの共重合体、スチレンとアクリロニトリルの共重合体、スチレンと酢酸ビニルの共重合体、アクリルアミドとC1~C4アルキル(メタ)アクリレートの共重合体、アクリロニトリルとC1~C4アルキル(メタ)アクリレートからの共重合体、アクリロニトリルとアクリルアミドの共重合体、スチレン、アクリロニトリルおよびアクリルアミドからのターポリマー、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(エチルメタクリレート)、共重合体スチレン/ブタジエン、スチレン/アクリル酸、スチレン/ビニルピロリドンおよびブタジエン/アクリロニトリル、またはメトキシポリ(エチレングリコール)-ポリ(ラクチド)共重合体(MPEG-PLA)を包含する。ポリマー粒子は、架橋されてもよく、また架橋されなくてもよい。例えば、有機粒子としては、これらに限定されないが、ナイロン(例えばATOCHEMにより販売)、ポリエチレン粉末(例えば、PLAST LABORにより販売)、ポリ-2-アラニン粉末、ポリテトラフルオロエチレン(例えば、DUPONT DE NEMOURSにより販売)などのポリフッ素化粉末、アクリル共重合体粉末(例えば、DOW CHEMICAにより販売)、ポリスチレン粉末(例えば、PRESPERESEにより販売)、ポリエステル粉末、熱可塑性材料の膨張ミクロスフェア(例えば、EXPANCELにより販売)、シリコン樹脂のマイクロボール(例えば、TOSHIBAにより販売)、ポリアクリレートなどの合成親水性ポリマー粉末(例えば、MATSUMOTOにより販売)、アクリルポリアミド(例えば、ORISにより販売)、不溶性ポリウレタン(例えば、TOSHNUにより販売)、セルロースの多孔質ミクロスフェア、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)のマイクロまたはナノ粒子が挙げられる。
【0067】
いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、多糖、すなわち、2つ以上の単糖単位を含む分子でできている。典型的には、多糖類は、デキストラン、プルラン、寒天、アルギン酸、ヒアルロン酸、イヌリン、ヘパリン、フコイダン、キトサン、およびそれらの混合物からなる群から選択される。特定の実施形態では、多糖は、プルラン/デキストランの混合物である。
【0068】
いくつかの実施形態では、ナノ粒子は無機物である。一実施形態では、ナノ粒子は、粘土、ケイ酸塩、アルミナ、シリカ、カオリン、カーボンナノチューブ、セルロースナノ結晶、ヒドロキシアパタイトのほか、酸化鉄などの磁性ナノ粒子、炭酸カルシウム、および酸化鉄コア/シリカシェル粒子などのコアシェル粒子から選択される。一実施形態では、小分子またはポリマー鎖をグラフトして、必要に応じて懸濁液中のナノ粒子を安定化させることができる。いくつかの実施形態では、ナノ粒子の少なくとも一部はシリカナノ粒子である。
【0069】
典型的には、本発明のペプチドは、好ましくは、例えば、カルボジイミドまたはスクシンイミドカップリングによって、またはペプチドを共有結合により連結させる別の方法によって、ナノ粒子に共有結合により連結させている。一実施形態では、本発明のペプチドは、ナノ粒子の外側に局在している。ペプチドはまた、ナノ粒子に非共有結合により会合していてもよい。
【0070】
本明細書で使用されるとき、「ナノ粒子」という用語には、リポソーム、ポリマーミセル、ポリマー-DNA複合体(ポリ複合体)、ナノスフェア、ナノファイバ、ナノチューブ、およびナノカプセルを包含する。これらのナノ粒子は、すべて当技術分野において公知である。このようなナノ粒子の表面は、多くの場合、PEGブラシによって修飾される(PEG化、すなわち、ポリエチレングリコール(PEG)がナノ粒子の表面に付着する)。
【0071】
いくつかの実施形態では、ナノ粒子はナノカプセルである。本明細書で使用されるとき、「ナノカプセル」という用語は、薬物、すなわち本発明のペプチドが、独特の高分子膜に取り囲まれている空洞に閉じ込められている小胞系を指す。
【0072】
いくつかの実施形態では、ナノ粒子はナノスフェアである。本明細書で使用されるとき、「ナノスフェア」という用語は、薬物、すなわち本発明のペプチドが物理的かつ均一に分散されているマトリックス系を指す。
【0073】
いくつかの実施形態では、ナノ粒子はリポソームである。
【0074】
したがって、本発明のさらなる目的は、上記のような少なくとも1つのペプチドを含むリポソームに関する。
【0075】
一実施形態では、本発明のリポソームは、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)、NREEYARFDSDVGEFR(Hpep2-配列番号2)、NREEYVRFDSDVGEYR(Hpep4-配列番号4)、およびSDVGE-X-R(配列番号13)モチーフを含み、かつ配列番号1、配列番号2または配列番号4と少なくとも80、85、86、87、88、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%の同一性を有するアミノ酸配列を有する長さ16のアミノ酸を有する任意のペプチドからなる群から選択されるペプチドを含む。
【0076】
一実施形態では、本発明のリポソームは、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)ペプチドまたはSDVGE-X-R(配列番号13)モチーフを含み、配列番号1と少なくとも80、85、86、87、88、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%の同一性を有するアミノ酸配列を有する長さ16のアミノ酸を有するペプチドを含む。一実施形態では、本発明のリポソームは、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)ペプチドまたは配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、配列番号1の1つまたは2つのアミノ酸の置換を有するペプチドを含み、ここで、この置換は、SDVGE-X-R(配列番号13)モチーフ内にないものとする。
【0077】
本明細書で使用されるとき、「リポソーム」という用語は、1つ以上の容積を取り囲む脂質二重層から構成される任意の構造を指し、その容積は、水性区画であり得る。リポソームは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれ以上の脂質二重層からなる。「脂質二重層」という用語としては、これらに限定されないが、リン脂質二重層、非イオン性界面活性剤からなる二重層が挙げられる。リン脂質二重層からなるリポソームは、混合脂質鎖を有する天然由来のリン脂質(例えば、ホスファチジルエタノールアミン)、またはDOPE(ジオレオリル(oleolyl)ホスファチジル-エタノールアミン)のような純粋な成分から構成することができるが、これらの成分に限定されない。リポソームとしては、これらに限定されないが、エマルジョン、フォーム、ミセル、エクソソーム、ベシクル、不溶性単層、液晶、リン脂質分散液、ラメラ層などが挙げられる。「リポソーム」という用語はまた、ある容積を取り囲む、脂質単層または二重層を含む従来のリポソームの表面に付着した水溶性ポリマー(例えば、ポリエチレングリコール(PEG))からなる、いわゆる「ステルスリポソーム」(例えば、いわゆるペグ化リポソーム)を含む。本発明における血液脳関門を標的とするのに好適であるリポソームを調製するための多種多様な方法が利用可能である。例えば、Szokaら、Ann.Rev.Biophys.Bioeng.9:467(1980年),Liposome Technology,G.Gregoriadis編、CRC Press,Inc.,Boca Raton,FIa.(1984年)、米国特許第4,235,871号、同第4,501,728号、同第4,837,028号、同第4,957,735号、および同第5,019,369号を参照のこと。これらはそれぞれ、参照によって本明細書に組み込まれる。リポソームの調製後、リポソームは、所望のサイズ範囲およびリポソームサイズの比較的狭い分布を達成するようにサイズ決定され得る。
【0078】
本発明によるペプチドをリポソームに連結する方法は、一般に、リポソーム脂質とペプチドとの間の共有結合架橋を含む。別のアプローチでは、本発明によるペプチドは、脂肪酸などの疎水性アンカーで共有結合により誘導体化されており、予め形成された脂質に組み込まれている。
【0079】
本明細書に開示のペプチド、免疫抱合体、およびナノ粒子は、1つ以上の医薬組成物の一部として投与され得る。したがって、本発明の1つの目的は、上記のペプチド、上記の免疫抱合体、または上記のナノ粒子と、少なくとも1つの薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物に関する。
【0080】
一実施形態では、本発明の医薬組成物は、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)ペプチドまたはSDVGE-X-R(配列番号13)モチーフを含み、配列番号1と少なくとも80、85、86、87、88、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%の同一性を有するアミノ酸配列を有する長さ16のアミノ酸を有するペプチドと、少なくとも1つの薬学的に許容される担体とを含む。一実施形態では、本発明の医薬組成物は、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)ペプチドまたは配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、配列番号1の1つまたは2つのアミノ酸の置換を有するペプチド(ここで、この置換は、SDVGE-X-R(配列番号13)モチーフ内にないものとする)と、少なくとも1つの薬学的に許容される担体とを含む。
【0081】
「医薬組成物」という用語は、本明細書に記載の組成物、特に、本発明によるペプチド、本発明による免疫抱合体または本発明によるナノ粒子、またはその薬学的に許容される塩を、担体および/または賦形剤などの他の剤と共に含む組成物を指す。本明細書で提供される医薬組成物として、典型的には、薬学的に許容される担体が挙げられる。「薬学的に許容される担体」という用語としては、望ましい特定の剤形に適合した、任意のすべての溶媒、希釈剤、または他の液体ビヒクル、分散助剤または懸濁助剤、界面活性剤、等張剤、増粘剤または乳化剤、防腐剤、固体結合剤、潤滑剤などが挙げられる。Remington’s Pharmaceutical-Sciences(第16版、E.W.Martin、Mack Publishing Co.,Easton,Pa.,1980年)には、医薬組成物の配合に使用される様々な担体およびその調製のための既知の技術を開示している。例えば、何らかの望ましくない生物学的効果を生み出すことによって、またはそうでなければ医薬組成物の任意の他の成分(複数可)と有害な方法で相互作用することによって、任意の従来の担体媒体が本発明のペプチドと適合しない場合を除いて、その使用は、本発明の範囲内であることを意図する。薬学的に許容される担体として機能できる材料のいくつかの例としては、これらに限定されないが、糖、例えば、ラクトース、グルコースおよびスクロース;デンプン、例えば、トウモロコシデンプンおよびジャガイモデンプン;セルロースおよびその誘導体、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースおよび酢酸セルロース;粉末トラガカント;麦芽;ゼラチン;タルク;賦形剤、例えば、カカオバターおよび坐剤ワックス;オイル、例えば、ピーナッツオイル、綿実油;ベニバナ油、胡麻油;オリーブオイル;コーン油および大豆油;グリコール;例えば、プロピレングリコール;エステル、例えば、オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチル;寒天;緩衝剤、例えば、水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウム;アルギン酸;パイロジェンフリー水;等張食塩水;リンゲル液;エチルアルコール、およびリン酸緩衝液、および、他の非毒性適合潤滑剤、例えば、ラウリル硫酸ナトリウムおよびステアリン酸マグネシウム;ならびに、着色剤、放出剤、コーティング剤、甘味料、風味剤および香料が挙げられ、配合者の判断によって、防腐剤および抗酸化剤も組成物中に存在し得る。
【0082】
特に、本明細書に開示されているペプチド、免疫抱合体、およびナノ粒子は、ワクチン組成物を調製するのに特に好適である。したがって、本発明の1つの目的は、上記のペプチド、上記の免疫抱合体、または上記のナノ粒子と、少なくとも1つの薬学的に許容される担体とを含むワクチン組成物に関する。
【0083】
一実施形態では、本発明のワクチン組成物は、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)ペプチドまたはSDVGE-X-R(配列番号13)モチーフを含み、配列番号1と少なくとも80、85、86、87、88、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%の同一性を有するアミノ酸配列を有する長さ16のアミノ酸を有するペプチドと、少なくとも1つの薬学的に許容される担体とを含む。一実施形態では、本発明のワクチン組成物は、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)ペプチドまたは配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、配列番号1の1つまたは2つのアミノ酸の置換を有するペプチド(ここで、この置換は、SDVGE-X-R(配列番号13)モチーフ内にないものとする)と、少なくとも1つの薬学的に許容される担体とを含む。
【0084】
本発明の目的のために、「ワクチン組成物」という用語は、免疫応答を誘導するためにヒトまたは動物に投与することができる組成物を指す。この免疫応答は、特定の細胞、特に抗原提示細胞、TregなどのTリンパ球、およびBリンパ球の活性化をもたらすことができる。
【0085】
したがって、いくつかの実施形態では、本発明のワクチン組成物は、アジュバントを含む。一実施形態では、「アジュバント」という用語は、単独で投与された有意な活性を欠いているが、別の治療剤の活性を増強することができる化合物を指す。いくつかの実施形態では、アジュバントは、不完全フロイントアジュバント(IFA)または他の油性アジュバントである。一実施形態では、アジュバントは、30~70%、好ましくは40~60%、より好ましくは45~55重量%の重量比(w/w)で存在する。
【0086】
いくつかの実施形態では、本発明のワクチン組成物は、TLR1、TLR2、TLR3、TLR4、TLR5、TLR6、TLR7、およびTLR8アゴニストからなる群から選択される少なくとも1つのToll様受容体(TLR)アゴニストを含む。
【0087】
本発明の医薬組成物およびワクチン組成物は、多種多様な投与経路または投与様式を使用して患者に送達することができる。好適な投与経路としては、これらに限定されないが、吸入、経皮、経口、直腸、経粘膜、腸および非経口投与、例えば筋肉内、皮下および静脈内注射が挙げられる。
【0088】
本発明のさらなる目的は、薬剤として使用するための上記のペプチド、上記のナノ粒子、上記の免疫抱合体、上記の医薬組成物、または上記のワクチン組成物である。
【0089】
一実施形態では、本発明は、薬剤として使用するための、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)ペプチドまたはSDVGE-X-R(配列番号13)モチーフを含み、配列番号1と少なくとも80、85、86、87、88、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%の同一性を有するアミノ酸配列を有する長さ16のアミノ酸を有するペプチドに関する。一実施形態では、本発明は、薬剤として使用するための、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)ペプチドまたは配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、配列番号1の1つまたは2つのアミノ酸の置換を有するペプチドに関し、ここで、この置換は、SDVGE-X-R(配列番号13)モチーフ内にないものとする。
【0090】
本発明のペプチド、ナノ粒子、免疫抱合体、医薬組成物またはワクチン組成物は、免疫寛容を誘導するのに特に好適である。したがって、本発明の1つの目的は、免疫寛容の誘導に使用するための上記のペプチド、上記のナノ粒子、上記の免疫抱合体、上記の医薬組成物、または上記のワクチン組成物に関する。
【0091】
一実施形態では、本発明は、免疫寛容の誘導に使用するための、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)ペプチドまたはSDVGE-X-R(配列番号13)モチーフを含み、配列番号1と少なくとも80、85、86、87、88、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%の同一性を有するアミノ酸配列を有する長さ16のアミノ酸を有するペプチドに関する。一実施形態では、本発明は、免疫寛容の誘導に使用するための、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)ペプチドまたは配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、配列番号1の1つまたは2つのアミノ酸の置換を有するペプチドに関し、ここで、この置換は、SDVGE-X-R(配列番号13)モチーフ内にないものとする。
【0092】
本明細書で使用されるとき、「免疫寛容」という用語は、免疫応答を誘発する能力を有する物質または組織に対して免疫系が無反応である状態を指す。
【0093】
したがって、一実施形態では、上記のペプチド、上記のナノ粒子、上記の免疫抱合体、上記の医薬組成物、または上記のワクチン組成物は、免疫応答を低下させるのに使用するためのものである。一実施形態では、本発明は、免疫応答を低下させるのに使用するための、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)ペプチドまたはSDVGE-X-R(配列番号13)モチーフを含み、配列番号1と少なくとも80、85、86、87、88、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%の同一性を有するアミノ酸配列を有する長さ16のアミノ酸を有するペプチドに関する。一実施形態では、本発明は、免疫応答を低下させるのに使用するための、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)ペプチドまたは配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、配列番号1の1つまたは2つのアミノ酸の置換を有するペプチドに関し、ここで、この置換は、SDVGE-X-R(配列番号13)モチーフ内にないものとする。
【0094】
本発明のペプチドは、移植組織の移植時に移植組織に対する寛容または部分寛容を達成するために有用である。本明細書で使用されるとき、「部分寛容」は、免疫応答の低下をもたらす部分免疫寛容である。本明細書で使用されるとき、「免疫応答」という用語は、T細胞媒介性および/またはB細胞媒介性免疫応答を含む。例示的な免疫応答としては、T細胞応答、例えば、サイトカイン産生および細胞性細胞毒性が挙げられ、さらに、免疫応答という用語としては、T細胞活性化によって間接的に影響を受ける免疫応答、例えば、抗体産生(体液性応答)およびサイトカイン応答性細胞の活性化、例えば、マクロファージが挙げられる。免疫応答に関与する免疫細胞としては、B細胞およびT細胞(CD4+、CD8+、Th1、Th2細胞)などのリンパ球、抗原提示細胞(例えば、樹状細胞などの専門の抗原提示細胞);ナチュラルキラー細胞;骨髄細胞、例えば、マクロファージ、好酸球、肥満細胞、好塩基球、および顆粒球が挙げられる。例えば、免疫応答は、移植片拒絶、ならびに例えば、間質性線維症、慢性移植片動脈硬化症、または血管炎などのそのような免疫応答の付随する生理学的結果に関与している。
【0095】
一実施形態では、免疫寛容は、患者における移植組織または移植片の移植時の移植組織または移植片に対する患者の寛容または部分寛容である。換言すると、一実施形態では、免疫寛容は、移植組織または移植片を受け取った、受け取っている、または受け取るのを待機している患者における移植組織または移植片に対する寛容または部分寛容である。したがって、一実施形態では、免疫寛容は、患者の免疫応答、特に、移植組織または移植片を受け取った、受け取っている、または受け取るのを待機している患者の移植組織または移植片に対する免疫応答の低下である。一実施形態では、免疫寛容は、ドナー特異的またはレシピエント特異的免疫寛容である。
【0096】
一実施形態では、免疫寛容は、ドナー特異的免疫寛容である。本明細書で使用されるとき、「ドナー特異的免疫寛容」は、本明細書に記載のペプチド、特に、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)ペプチドまたはSDVGE-X-R(配列番号13)モチーフを含み、配列番号1と少なくとも80、85、86、87、88、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%の同一性を有するアミノ酸配列を有する長さ16のアミノ酸を有するペプチドを含む主要組織適合性複合体(MHC、例えば、MHCクラスIおよび/またはMHCクラスII)ハプロタイプを有するドナーからの移植組織または移植片に対する免疫寛容を指す。一実施形態では、「ドナー特異的免疫寛容」は、本明細書に記載のペプチド、特に、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)ペプチドまたはSDVGE-X-R(配列番号13)モチーフを含み、配列番号1と少なくとも80、85、86、87、88、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%の同一性を有するアミノ酸配列を有する長さ16のアミノ酸を有するペプチドを含むMHCクラスIIハプロタイプを有するドナーからの移植組織または移植片に対する免疫寛容を指す。
【0097】
一実施形態では、免疫寛容は、レシピエント特異的免疫寛容である。本明細書で使用されるとき、「レシピエント特異的免疫寛容」は、ドナーからレシピエントへの移植組織または移植片内で誘導される免疫寛容を指し、レシピエントは、本明細書に記載のペプチド、特に、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)ペプチドまたはSDVGE-X-R(配列番号13)モチーフを含み、配列番号1と少なくとも80、85、86、87、88、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%の同一性を有するアミノ酸配列を有する長さ16のアミノ酸を有するペプチドを含む主要組織適合性複合体(MHC、例えば、MHCクラスIおよび/またはMHCクラスII)ハプロタイプを有する。一実施形態では、「レシピエント特異的免疫寛容」は、ドナーからレシピエントへの移植組織または移植片内で誘導される免疫寛容を指し、レシピエントは、本明細書に記載のペプチド、特に、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)ペプチドまたはSDVGE-X-R(配列番号13)モチーフを含み、配列番号1と少なくとも80、85、86、87、88、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%の同一性を有するアミノ酸配列を有する長さ16のアミノ酸を有するペプチドを含むMHCクラスIIハプロタイプを有する。
【0098】
したがって、一実施形態では、特に未治療の患者と比較して、本発明のペプチド、免疫抱合体、ナノ粒子、医薬組成物、またはワクチン組成物により治療された患者は、以下の生理学的特徴の少なくとも1つを示す:a)移植組織に対する免疫応答のレベルの低下(少なくとも部分的にはB細胞媒介性免疫応答、より具体的にはドナー特異的抗体によって媒介され得る);b)移植組織に対する免疫応答の開始もしくは進行の遅延;またはc)移植組織に対する免疫応答の開始もしくは進行のリスクの低下。
【0099】
したがって、本発明のペプチド、免疫抱合体、ナノ粒子、医薬組成物またはワクチン組成物は、それを必要とする患者における移植組織または移植片拒絶を防止するかまたは低減させる方法に特に好適である。
【0100】
一実施形態では、本発明のペプチド、免疫抱合体、または医薬組成物は、移植片対宿主病(GVHD)を防止するかまたは低減する方法に特に適している。
【0101】
一実施形態では、GVHDは、細胞、好ましくは多能性造血幹細胞、特にドナーの骨髄または末梢血に由来する多能性造血幹細胞の移植に続く。
【0102】
したがって、本発明の1つの目的は、それを必要とする患者において、移植組織もしくは移植片拒絶または移植片対宿主病(GVHD)の防止または低減に使用するための、上記のペプチド、上記の免疫抱合体、上記のナノ粒子、上記の医薬組成物、または上記のワクチン組成物に関する。
【0103】
本発明はまた、それを必要とする患者における移植組織もしくは移植片拒絶または移植片対宿主病(GVHD)を防止するかまたは低減させるための方法に関し、本方法は、上記のペプチド、上記の免疫抱合体、上記のナノ粒子、上記の医薬組成物、または上記のワクチン組成物を患者に投与することを含む。
【0104】
本発明はまた、それを必要とする患者における移植組織もしくは移植片拒絶または移植片対宿主病(GVHD)を防止するかまたは低減させるための薬剤を製造するための上記のペプチド、上記の免疫抱合体、上記のナノ粒子、上記の医薬組成物、または上記のワクチン組成物の使用に関する。
【0105】
上記のとおり、一実施形態では、ペプチドは、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)であるか、またはSDVGE-X-R(配列番号13)モチーフを含み、配列番号1と少なくとも80、85、86、87、88、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%の同一性を有するアミノ酸配列を有する長さ16のアミノ酸を有するペプチドである。一実施形態では、ペプチドは、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)であるか、または配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、配列番号1の1つまたは2つのアミノ酸の置換を有するペプチドであり、ここで、この置換は、SDVGE-X-R(配列番号13)モチーフ内にないものとする。
【0106】
本明細書で使用されるとき、「移植組織」および「移植片」という用語は、レシピエント対象、すなわちそれを必要とする患者に挿入される、または挿入される予定のドナー対象(例えば、細胞、組織、器官またはその断片)からの任意の材料を指す。一実施形態では、移植組織または移植片は、器官、組織または細胞である。より具体的には、本明細書で使用されるとき、「移植組織」は、好ましくは、組織または器官またはその断片からなるドナー対象からの材料を指す。より具体的には、本明細書で使用されるとき、「移植片」は、好ましくは、細胞からなるドナー対象からの材料を指す。
【0107】
一実施形態では、移植組織または移植片は、骨髄、末梢血、または臍帯血に由来する多能性造血幹細胞、および心筋細胞、ベータ膵臓細胞、肝細胞、ニューロンなど、異なる細胞系統の万能性(pluripotent)(すなわち、胚性幹細胞(ES)または人工万能性幹細胞(iPS))または多能性幹細胞由来の分化細胞を含むか、またはそれらからなる群から選択される細胞からなる。一実施形態では、細胞からなる移植組織または移植片は、造血幹細胞移植(HSCT)のために使用され、したがって、通常、骨髄、末梢血、または臍帯血に由来する多能性造血幹細胞を含む。HSCTは、白血病またはリンパ腫に罹患している患者を治癒し得る。しかし、HSCT、特に同種異系HSCTの重要な制限は、移植片対宿主病(GVHD)の発症であり、この治療を受けた患者の約30~50%において、重症形態で生じる。
【0108】
一実施形態では、それを必要とする患者は、急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ性白血病(ALL);慢性骨髄性白血病(CML);骨髄異形成症候群(MDS)/骨髄増殖性症候群;リンパ腫(ホジキンリンパ腫および非ホジキンリンパ腫など)、慢性リンパ性白血病(CLL)および多発性骨髄腫を含む、またはそれらからなる群から選択された疾患に罹患している。
【0109】
一実施形態では、それを必要とする患者は、ドナーの細胞、好ましくは多能性造血幹細胞、特にドナーの骨髄または末梢血に由来する多能性造血幹細胞からなる移植組織または移植片を受け取った、受け取っている、または受け取るのを待機している。
【0110】
一実施形態では、移植組織または移植片は同系であり、すなわち、ドナー対象およびレシピエント対象は遺伝的に同一である。一実施形態では、移植組織または移植片は同種異系である、すなわち、ドナー対象およびレシピエント対象は、異なる遺伝的起源であるが、同じ種である。一実施形態では、移植組織または移植片は異種であり、すなわち、ドナー対象およびレシピエント対象は異なる種に由来する。
【0111】
一実施形態では、移植組織または移植片は、ヒトドナーからのものである。移植組織のヒトドナーは、生きているドナーまたは死亡したドナー、すなわち死体ドナーであり得る。
【0112】
一実施形態では、移植組織または移植片は、本明細書に記載のペプチド、特に、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)ペプチドまたはSDVGE-X-R(配列番号13)モチーフを含み、配列番号1と少なくとも80、85、86、87、88、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%の同一性を有するアミノ酸配列を有する長さ16のアミノ酸を有するペプチドを含む主要組織適合性複合体(MHC、例えば、MHCクラスIおよび/またはMHCクラスII)ハプロタイプを有するヒトドナーからのものである。一実施形態では、移植組織または移植片は、本明細書に記載のペプチド、特に、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)ペプチドまたはSDVGE-X-R(配列番号13)モチーフを含み、配列番号1と少なくとも80、85、86、87、88、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%の同一性を有するアミノ酸配列を有する長さ16のアミノ酸を有するペプチドを含むMHCクラスIIハプロタイプを有するヒトドナーからのものである。
【0113】
一実施形態では、移植組織または移植片、特に、造血幹細胞などの幹細胞は、本明細書に記載のペプチド、特に、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)ペプチドまたはSDVGE-X-R(配列番号13)モチーフを含み、配列番号1と少なくとも80、85、86、87、88、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%の同一性を有するアミノ酸配列を有する長さ16のアミノ酸を有するペプチドを含む主要組織適合性複合体(MHC、例えば、MHCクラスIおよび/またはMHCクラスII)ハプロタイプを有するヒトレシピエントに挿入するか、挿入する予定である。一実施形態では、移植組織または移植片は、特に、造血幹細胞などの幹細胞は、本明細書に記載のペプチド、特に、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)ペプチドまたはSDVGE-X-R(配列番号13)モチーフを含み、配列番号1と少なくとも80、85、86、87、88、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%の同一性を有するアミノ酸配列を有する長さ16のアミノ酸を有するペプチドを含むMHCクラスIIハプロタイプを有するヒトレシピエントに挿入するか、挿入する予定である。
【0114】
本明細書で使用されるとき、「移植組織拒絶」または「移植片拒絶」という用語は、急性および慢性の両方の移植組織または移植片拒絶を包含する。「急性拒絶反応」は、移植組織または移植片組織が免疫学的に外来性である場合のレシピエントの免疫系による拒絶反応である。急性拒絶反応は、レシピエントの免疫細胞による移植組織または移植片組織の浸潤を特徴とし、免疫細胞は、それらのエフェクター機能を実行し、移植組織または移植片組織を破壊する。急性拒絶反応の発症は、急速であり、一般的に移植手術後数週間以内にヒトで生じる。一般に、急性拒絶反応は、ラパマイシン、シクロスポリンなどの免疫抑制薬物により阻害され得るかまたは抑制され得る。「慢性拒絶反応」は、一般に、急性拒絶反応の免疫抑制が奏効した場合であっても、生着後数ヶ月から数年以内にヒトで生じる。線維症は、すべての種類の臓器移植の慢性拒絶反応の一般的な要因である。
【0115】
典型的には、本発明の有効成分(すなわち、本明細書に開示されるペプチド、免疫抱合体、およびナノ粒子)は、治療有効量で対象に投与されるか、または投与されることになっている。「治療有効量」とは、寛容を誘導するか、または任意の医学的治療に適用可能な合理的な利益/リスク比で免疫応答を低下させるのに十分な量の本発明の有効成分を意味する。本発明の化合物および組成物の毎日の総使用量は、健全な医学的判断の範囲内で主治医によって決定されることが理解されよう。任意の特定の対象に対する特定の治療上有効用量レベルは、治療される障害および障害の重症度;使用される特定の化合物の活性;使用される特定の組成物、対象の年齢、体重、一般的な健康、性別および食事;投与期間、投与経路、および使用した特定の化合物の排泄率;治療期間;使用される特定のポリペプチドと組み合わせてまたは同時に使用される薬物;および医療分野において周知である同様の要因など、様々な要因に依存するであろう。例えば、所望の治療効果を達成するために必要とされるレベルよりも低いレベルで化合物の用量を開始し、所望の効果が達成されるまで投薬量を徐々に増加させることは、当技術分野の技術の十分な範囲内である。しかし、製品の1日の投薬量は、成人1名あたり1日0.01~1,000mgの広い範囲で変化し得る。一実施形態では、本発明のペプチドは、約0.01、0.05、0.1、0.5、1.0、2.5、5.0、10.0、15.0、25.0、50.0、100、250または500mgの用量で、好ましくは1日用量で使用されるか、または使用される予定である。一実施形態では、本発明のペプチドは、約100、120、140、160、180、200、220、240、260、280、300、320、340、360、380、400、420、440、460、480、500、520、540、560、580または600mgの用量で、好ましくは1日用量で使用されるか、または使用される予定である。薬剤は、典型的には、約0.01mg~約500mgの有効成分、特に1mg~約100mgの有効成分を含む。一実施形態では、本発明のペプチドの有効量は、0.0002mg/kg体重/日~約20mg/kg体重/日の範囲、特に約0.001mg/kg体重/日~約7mg/kg体重/日の範囲の投薬量レベルで投与されるか、または投与される予定である。一実施形態では、本発明のペプチドの有効量は、0.4mg/kg/日(1日あたり体重1gあたりのmg)~約40mg/kg/日の範囲、好ましくは、約1mg/kg/日~約10mg/kg/日の投薬量レベルで投与されるか、または投与される予定である。
【0116】
一実施形態では、本発明の有効成分(すなわち、本明細書に開示されるペプチド、免疫抱合体、およびナノ粒子)は、移植前に、それを必要とする患者に投与されるか、または投与される予定である。一実施形態では、本発明の有効成分(すなわち、本明細書に開示されるペプチド、免疫抱合体、およびナノ粒子)は、移植前に、それを必要とする患者に少なくとも1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日、15日、16日、17日、18日、19日、20日、21日、22日、23日、24日、25日、26日、27日、28日、29日、30日または31日投与されるか、または投与される予定である。一実施形態では、本発明の有効成分(すなわち、本明細書に開示されるペプチド、免疫抱合体、およびナノ粒子)は、移植前少なくとも1ヶ月、2ヶ月、または3ヶ月前に、それを必要とする患者に投与されるか、または投与される予定である。一実施形態では、本発明の有効成分(すなわち、本明細書に開示されるペプチド、免疫抱合体、およびナノ粒子)は、移植後に、それを必要とする患者に投与されるか、または投与される予定である。一実施形態では、本発明の有効成分(すなわち、本明細書に開示されるペプチド、免疫抱合体、およびナノ粒子)は、移植と同時に、それを必要とする患者に投与されるか、または投与される予定である。一実施形態では、本発明の有効成分(すなわち、本明細書に開示されるペプチド、免疫抱合体、およびナノ粒子)は、移植に付随して、その後継続的に、それを必要とする患者に投与されるか、または投与される予定である。
【0117】
一実施形態では、本発明の有効成分(すなわち、本明細書に開示されるペプチド、免疫抱合体、およびナノ粒子)は、少なくとも1つの免疫抑制剤と共に、それを必要とする患者に投与されるか、または投与される予定である。
【0118】
免疫抑制剤の例としては、これらに限定されないが、ブデソニド、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロンなどのコルチコステロイド;シクロスポリン;タクロリムス;シロリムス;アザチオプリンが挙げられる。
【0119】
一実施形態では、少なくとも1つの免疫抑制剤は、コルチコステロイドである。
【0120】
いくつかの実施形態では、本発明のペプチドは、MHCクラスI多量体にロードされる。典型的には、MHCクラスI多量体は当技術分野において周知であり、これらに限定されないが、二量体、四量体、五量体、ストレプタマー、デキストラマーおよび八量体が挙げられる。
【0121】
したがって、本発明はまた、MHC/ペプチド複合体としても公知であるMHC/ペプチド多量体に関する。ここで、MHC/ペプチド多量体は、上記のようにペプチドがロードされたMHCクラスI多量体である。
【0122】
一実施形態では、本発明のMHC/ペプチド多量体は、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)ペプチドまたはSDVGE-X-R(配列番号13)モチーフを含み、配列番号1と少なくとも80、85、86、87、88、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%の同一性を有するアミノ酸配列を有する長さ16のアミノ酸を有するペプチドをロードしたMHCクラスI多量体である。一実施形態では、本発明のMHC/ペプチド多量体は、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)ペプチドまたは配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、配列番号1の1つまたは2つのアミノ酸の置換を有するペプチドをロードしたMHCクラスI多量体であって、ここで、この置換は、SDVGE-X-R(配列番号13)モチーフ内にないものとする。
【0123】
本明細書で使用されるとき、「主要組織適合性複合体」(MHC)という用語は、ヒト白血球抗原(HLA)など、異なる種において記載されている組織適合性抗原系を包含することを意味する総称である。本明細書で使用されるとき、「MHC/ペプチド多量体」という用語は、本発明のペプチドがロードされた主要組織適合性複合体(MHC)タンパク質サブユニットから構成される安定な多量体複合体を指す。本発明によれば、MHC/ペプチド多量体(本明細書ではMHC/ペプチド複合体とも呼ばれる)としては、これらに限定されないが、MHC/ペプチド二量体、三量体、四量体または五量体が挙げられる。ヒトには、MHCクラスI分子をコードする3つの主要な異なる遺伝子座:HLA-A、HLA-B、およびHLA-Cが存在する(ヒトのMHC分子はヒト白血球抗原(HLA)とも称される)。HLA-A*01、HLA-A*02、およびHLA-A*11は、これらの遺伝子座から発現できる様々なMHCクラスI対立遺伝子の例である。さらに、HLA-E(マウスの機能的相同体はQa-1bと呼ばれる)およびMICA/B分子などの非古典的ヒトMHCクラスI分子も本発明の文脈に含まれることに留意されたい。いくつかの実施形態では、MHC/ペプチド多量体は、HLA-A/ペプチド多量体、HLA-B/ペプチド多量体、HLA-C/ペプチド多量体、HLA-E/ペプチド多量体、MICA/ペプチド多量体およびMICB/ペプチド多量体からなる群から選択されるHLA/ペプチド多量体である。MHC/ペプチド四量体を取得するための方法は、参照により組み込まれる国際公開第96/26962号および国際公開第01/18053号に記載されている。MHC/ペプチド多量体は、MHCの重鎖がビオチン化されている多量体であり得る。これにより、ストレプトアビジンとの四量体としての組み合わせが可能になる。このようなMHCペプチド四量体は、適切なTCR担体Tリンパ球に対して高結合力を有するため、免疫蛍光法によって反応性集団を可視化するために使用できる。多量体は、常磁性粒子または磁性ビーズに付着させて、非特異的結合レポーターの除去および細胞選別を容易にすることもできる。そのような粒子は、商業的供給源から容易に入手可能である(例えば、Beckman Coulter,Inc.,San Diego,Calif,USA)。多量体染色は、標識された細胞を殺傷することはない。したがって、細胞の完全性は、さらなる分析のために維持される。いくつかの実施形態では、本発明のMHC/ペプチド多量体は、(フローサイトメトリーアッセイにおいて)CD8CD45RClowTregの集団を単離するかまたは同定するために特に好適である。
【0124】
したがって、本発明のさらなる目的は、本発明のペプチドを特異的に認識するCD8CD45RClowTregの集団を単離し、拡大するための方法に関し、本方法は、本発明のMHCクラスI多量体によるMHC/ペプチド多量体染色によりCD8CD45RClowTregの集団を単離するステップ、および次にポリクローナル刺激によりCD8CD45RClowTregの単離された集団を拡大するステップを含む。
【0125】
一実施形態では、MHC/ペプチド多量体染色は、本発明のMHCクラスI多量体によるCD8CD45RClowTregの染色およびその後の染色されたCD8CD45RClowTregを選別することを含み、好ましくは、選別することは、例えば、FACS AriaソーティングなどのFACSソーティングである。
【0126】
ポリクローナル刺激(ポリクローナル活性化とも呼ばれる)の例としては、これらに限定されないが、抗CD3抗体(Ab)および抗CD28抗体(Ab)による刺激、特に抗CD3モノクローナル抗体(mAb)および抗CD28モノクローナル抗体(mAb)による刺激;抗CD3抗体(Ab)による刺激、特に抗CD3モノクローナル抗体(mAb)による刺激、フィトヘマグルチニンによる刺激が挙げられる。
【0127】
一実施形態では、ポリクローナル刺激は、抗CD3 Abおよび抗CD28 Abによる刺激、特に抗CD3 mAbおよび抗CD28 mAbによる刺激である。
【0128】
一実施形態では、CD8CD45RClowTregの集団は、ドナー対象(すなわち、移植組織または移植片が由来する対象)またはレシピエント患者(すなわち、移植組織または移植片を受け取った、受け取っている、または受け取るのを待機している患者)から単離される。
【0129】
一実施形態では、CD8CD45RClowTregの集団は、ドナー対象から、特に固形臓器移植の元となる対象から単離される。一実施形態では、CD8CD45RClowTregの集団は、レシピエント患者、特に造血幹細胞などの幹細胞を受け取った、受け取っている、または受け取るのを待機している患者から単離される。
【0130】
本明細書に開示されているペプチドおよび多量体はまた、その免疫抑制活性においてCD8CD45RClowTregの集団を拡大し、刺激するのに好適である。換言すれば、本明細書に開示されているペプチドおよび多量体はまた、CD8CD45RClowTregの集団を拡大し、CD8CD45RClowTregの集団の免疫抑制活性を刺激するのに好適である。
【0131】
したがって、本発明のさらなる目的は、CD8CD45RClowTregの集団をその免疫抑制活性において拡大し、刺激するための方法に関し、本方法は、樹状細胞の集団などの抗原提示細胞(APC)の集団の存在下で、本発明のペプチドを含む培養培地を用いてCD8CD45RClowTregの集団を培養するステップを含む。
【0132】
したがって、本発明のさらなる目的は、CD8CD45RClowTregの集団を拡大するため、およびその免疫抑制活性を刺激するための方法であり、本方法は、樹状細胞の集団などの抗原提示細胞(APC)の集団の存在下で、本発明のペプチドを含む培養培地を用いてCD8CD45RClowTregの集団を培養するステップを含む。
【0133】
CD45RClowTregまたはCD45RClow/-Tregに関連して本明細書で使用されるとき、「low」または「low/-」という用語は、当技術分野において周知であり、目的の細胞マーカー、すなわちCD45RCのTregによる発現レベルであって、全体として分析されているTregの集団におけるその細胞マーカーの発現レベルと比較して低い発現レベルを指す。より具体的には、「low」または「low/-」という用語は、細胞マーカー、すなわち、CD45RCを、1つ以上の他の別個のTreg集団よりも低いレベルで発現する別個のTreg集団を指す。
【0134】
したがって、本発明で使用される場合、CD8CD45RClowTregの集団は、CD8CD45RClow/-Tregの集団と呼ばれることがある。したがって、一実施形態では、CD8CD45RClowTregの集団は、CD8CD45RClow/-Tregの集団である。
【0135】
本明細書で使用されるとき、「拡大する」という用語は、所与の細胞集団(例えば、CD8CD45RClowTregなどのTreg)を変換し、かつ/または増幅するプロセスを指す。
【0136】
特定の実施形態では、CD8CD45RClowTregの集団を拡大し、その免疫抑制活性を刺激するための本発明の方法は、in vitro方法である。
【0137】
一実施形態では、免疫抑制活性においてCD8CD45RClowTregの集団を拡大し、刺激するための本発明の方法は、CD8CD45RClowTregの集団を、樹状細胞の集団などの抗原提示細胞(APC)の集団の存在下で、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)ペプチド、またはSDVGE-X-R(配列番号13)モチーフを含み、配列番号1と少なくとも80、85、86、87、88、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%の同一性を有するアミノ酸配列を有する長さ16のアミノ酸を有するペプチドを含む培養培地で培養するステップを含む。
【0138】
一実施形態では、免疫抑制活性において、CD8CD45RClowTregの集団を拡大し、刺激するための本発明の方法は、CD8CD45RClowTregの集団を、樹状細胞の集団などの抗原提示細胞(APC)の集団の存在下において、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)ペプチドまたは配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、配列番号1の1つまたは2つのアミノ酸の置換を有するペプチドを含む培養培地で培養するステップを含み、ここで、この置換は、SDVGE-X-R(配列番号13)モチーフ内にないものとする。
【0139】
一実施形態では、抗原提示細胞(APC)の集団は、樹状細胞、単球、および/または人工抗原提示細胞(aAPC)の集団である。
【0140】
本明細書で使用される「人工抗原提示細胞(aAPC)」は、本発明のヒトMHC由来ヒトペプチドなどの目的のペプチドをロードすることができるMHC-Iを発現する細胞株を指す。例えば、人工抗原提示細胞(aAPC)は、Butlerら、Clin Cancer Res.2007年3月15日;13(6):1857-67に記載されている。したがって、aAPCの例としては、Butlerら、Clin Cancer Res.2007年3月15日;13(6):1857-67に記載されているaAPC33細胞株が挙げられる。
【0141】
一実施形態では、抗原提示細胞(APC)の集団は、樹状細胞の集団である。
【0142】
一実施形態では、樹状細胞の集団は、形質細胞様樹状細胞(pDC)の集団である。いくつかの実施形態では、pDCは成熟pDCである。
【0143】
本明細書で使用されるとき、「培養培地」という用語は、T細胞の制御性T細胞への成長および分化を支援することができる任意の培地を指す。典型的には、栄養素(炭素、アミノ酸の供給源)、pH緩衝液、および塩を含む基本培地で構成され、成長因子および/または抗生物質を補充され得る。一実施形態では、基本培地は、RPMI 1640、DMEM、IMDM、X-VIVOまたはAIM-V培地であり得、これらはすべて、市販の標準培地である。一実施形態では、基本培地は、Texmacs、RPMI 1640、DMEM、IMDM、X-VIVOまたはAIM-V LymphoOne、CTS Optimizer、Immunocult、またはPrime XV培地であり得、これらはすべて市販の標準GMP培地(適正製造基準)である。ナイーブT細胞の制御性T細胞への成長および分化を支援する好ましい培地製剤としては、化学的に定義された培地(CDM)が挙げられる。本明細書で使用されるとき、「化学的に定義された培地」(CDM)という用語は、特定の成分、好ましくは既知の化学構造の成分のみを含む細胞を培養するための栄養溶液を指す。化学的に定義された培地は、無血清および/またはフィーダー非含有培地である。一実施形態では、培養培地には、精製されたヒトアルブミン(Vialebex)またはCTSオプティマイザー血清代替物が補充されてもよい。
【0144】
pDCの集団の存在下において本発明のペプチドと共にCD8CD45RClowTregの集団を培養するステップは、pDCによるCD8CD45RClowTregへのペプチドの提示に必要な時間の間実行されるものとする。典型的には、pDCの集団の存在下での本発明のペプチドを用いたCD8Tregの集団の培養は、1日から1週間以上にわたって行われなければならない。
【0145】
いくつかの実施形態では、この方法は、このように生成されたCD8CD45RClowTregの集団を単離する追加のステップを含み得る。
【0146】
あるいは、本発明は、その免疫抑制活性においてCD8CD45RClowTregの集団を拡大し、刺激するための方法に関し、本方法は、CD8CD45RClowTregの集団を、本発明のMHC/ペプチド多量体を含む培養培地で培養するステップを含む。
【0147】
いくつかの実施形態では、多量体はナノ粒子上にコーティングされている。
【0148】
免疫抑制活性においてCD8CD45RClowTregの集団を拡大し、刺激するための方法は、移植組織もしくは移植片拒絶またはGVHDを防止するための養子T細胞移植に特に有用である。
【0149】
本発明の別の目的は、上記の免疫抑制活性において、CD8CD45RClowTregの集団を拡大し、刺激するための方法によって、得られやすい、または得ることができるCD8CD45RClowTregの集団である。
【0150】
本発明の別の目的は、薬剤として使用するために、本発明の方法によって得られやすい、または得ることができるCD8CD45RClowTregの集団である。
【0151】
本発明の別の目的は、免疫寛容を誘導するのに使用するため、および/または免疫応答を低減するのに使用するために、本発明の方法によって得られやすい、または得ることができるCD8CD45RClowTregの集団である。
【0152】
本発明のさらなる目的は、移植組織もしくは移植片拒絶または移植片対宿主病(GVHD)の防止または低減に使用するために、本発明の方法によって得られやすい、または得ることができるCD8CD45RClowTregの集団である。
【0153】
本発明のさらなる目的は、本発明のペプチドまたは多量体に特異的に結合する抗体に関する。
【0154】
一実施形態では、本発明の抗体は、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)ペプチドまたはSDVGE-X-R(配列番号13)モチーフを含み、配列番号1と少なくとも80、85、86、87、88、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%の同一性を有するアミノ酸配列を有する長さ16のアミノ酸を有するペプチドに特異的に結合するか、またはペプチドのうちの1つがロードされたMHCクラスI多量体に特異的に結合する。
【0155】
一実施形態では、本発明の抗体は、NQEESVRFDSDVGEFR(Hpep1-配列番号1)ペプチドまたは配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、配列番号1の1つまたは2つのアミノ酸の置換を有するペプチド(ここで、この置換は、SDVGE-X-R(配列番号13)モチーフ内にないものとする)に特異的に結合するか、またはペプチドのうちの1つがロードされたMHCクラスI多量体に特異的に結合する。
【0156】
本明細書で使用されるとき、「抗体」という用語は、当技術分野においてその一般的な意味を有し、モノクローナル抗体(完全長モノクローナル抗体など)、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)を包含し、これらは、少なくとも2つの無傷の抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、ラクダ化抗体、キメラ抗体、単鎖Fv(scFv)、一本鎖抗体、単一ドメイン抗体、ドメイン抗体、Fab断片、F(ab’)断片、所望の生物学的活性を呈する抗体断片、ジスルフィド結合Fv(sdFv)、および抗イディオタイプ(抗Id)抗体(例えば、本発明の抗体に対する抗Id抗体など)、イントラボディ、および上記のいずれかのエピトープ結合断片から形成される。特に、抗体としては、免疫グロブリン分子および免疫グロブリン分子の免疫学的活性断片、すなわち、抗原結合部位を含む分子が挙げられる。免疫グロブリン分子は、任意のタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgAおよびIgY)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2)またはサブクラスであり得る。
【0157】
本明細書で使用されるとき、「結合する」という用語は、抗体がペプチドに対して親和性を有することを示す。本明細書で使用されるとき、「親和性」という用語は、エピトープへの抗体の結合強度を意味する。抗体の親和性は、[Ab]x[Ag]/[Ab-Ag]として定義される解離定数Kdによって求められ、式中、[Ab-Ag]は、抗体-抗原複合体のモル濃度であり、[Ab]は非結合抗体のモル濃度であり、[Ag]は非結合抗原のモル濃度である。親和性定数Kaは、1/Kdによって定義される。mAbの親和性を決定するための好ましい方法は、Harlowら、Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1988年),Coliganら、編、Current Protocols in Immunology,Greene Publishing Assoc.and Wiley Interscience,N.Y.,(1992年,1993年)、およびMuller,Meth.Enzymol.92:589-601(1983年)に見出すことができ、これらの参照は、その全体が、参照により本明細書に完全に組み込まれる。mAbの親和性を決定するための当技術分野において周知である1つの好ましい標準的な方法は、Biacore装置の使用である。
【0158】
いくつかの実施形態では、本発明の抗体は、モノクローナル抗体である。本明細書で使用されるとき、「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均質な抗体の集団から得られる抗体を指し、すなわち、集団を含む個々の抗体は、少量で存在し得る可能性のある天然に存在する突然変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は特異性が高く、単一の抗原部位に対して向けられている。さらに、典型的には、異なる決定基(エピトープ)に対して向けられた異なる抗体を含む従来の(ポリクローナル)抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対して向けられている。それらの特異性に加えて、モノクローナル抗体は、他の免疫グロブリン産生細胞によって汚染されていないハイブリドーマ細胞によって合成され得るという点で有利である。代替的産生方法は、当業者に公知であり、例えば、モノクローナル抗体は、モノクローナル抗体をコードする重鎖および軽鎖遺伝子で安定的にまたは一過的にトランスフェクトされた細胞によって産生され得る。
【0159】
モノクローナル抗体は、KohlerおよびMilsteinの方法を使用して生成され得る(Nature,256:495,1975年)。本発明において有用であるモノクローナル抗体を調製するために、マウスまたは他の適切な宿主動物は、適切な抗原形態(例えば、本発明のペプチドまたは多量体)で、好適な間隔(例えば、週2回、週1回、月2回、または月1回)で免疫化される。動物は、屠殺から1週間以内に抗原の最終的な「ブースト」を投与され得る。多くの場合、免疫化中に免疫学的アジュバントを使用することが望ましい。好適な免疫学的アジュバントとしては、完全フロイントアジュバント、不完全フロイントアジュバント、アラム、Ribiアジュバント、HunterのTitermax、QS21またはクイルAなどのサポニンアジュバント、またはCpG含有免疫刺激性オリゴヌクレオチドが挙げられる。他の好適なアジュバントは、この分野において周知である。動物は、皮下、腹腔内、筋肉内、静脈内、鼻腔内または他の経路によって免疫化され得る。所与の動物は、複数の経路によって複数の形態の抗原で免疫化され得る。免疫化レジメン後、リンパ球は、動物の脾臓、リンパ節、または他の器官から単離され、ポリエチレングリコールなどの剤を使用して好適な骨髄腫細胞株と融合させて、ハイブリドーマを形成する。融合後、細胞を、ハイブリドーマの成長を許容するが、融合パートナーの成長を許容しない培地に標準的な方法を用いて置く。ハイブリドーマの培養後、細胞上清は、所望の特異性の抗体、すなわち、抗原に選択的に結合する抗体の存在について分析する。好適な分析技術としては、ELISA、フローサイトメトリー、免疫沈降、およびウエスタンブロッティングが挙げられる。他のスクリーニング技術は、この分野において周知である。好ましい技術は、非変性ELISA、フローサイトメトリー、および免疫沈降など、立体配座的に無傷の、天然に折り畳まれた抗原への抗体の結合を確認するものである。
【0160】
いくつかの実施形態では、本発明のモノクローナル抗体は、キメラ抗体、特にキメラマウス/ヒト抗体である。本明細書で使用されるとき、「キメラ抗体」という用語は、非ヒト抗体のVHドメインおよびVLドメイン、ならびにヒト抗体のCHドメインおよびCLドメインを含む抗体を指す。いくつかの実施形態では、本発明のヒトキメラ抗体は、前述のようにVLおよびVHドメインをコードする核配列を得ることによって、ヒト抗体CHおよびヒト抗体CLをコードする遺伝子を有する動物細胞の発現ベクターに挿入することにより、ヒトキメラ抗体発現ベクターを構築することによって、および発現ベクターを動物細胞に導入することによりコード配列を発現させることによって、生成され得る。ヒトキメラ抗体のCHドメインとしては、ヒト免疫グロブリンに属する任意の領域であり得るが、IgGクラスのものが好適であり、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4などのIgGクラスに属するサブクラスのうちのいずれか1つでも利用され得る。また、ヒトキメラ抗体のCLとしては、Igに属する任意の領域であり得、カッパクラスまたはラムダクラスのものを使用できる。キメラ抗体を産生するための方法は、従来の組換えDNAを伴い、遺伝子トランスフェクション技術は当技術分野において周知である(Morrison SLら、(1984年)および米国特許第5,202,238号;および同第5,204,244号を参照のこと)。
【0161】
いくつかの実施形態では、本発明のモノクローナル抗体は、ヒト化抗体である。特に、ヒト化抗体において、可変ドメインは、ヒトアクセプターフレームワーク領域、および存在する場合は任意によりヒト定常ドメイン、ならびにマウスCDRなどの非ヒトドナーCDRを含む。本発明によれば、「ヒト化抗体」という用語は、ヒト抗体からの可変領域フレームワークおよび定常領域を有するが、以前の非ヒト抗体のCDRを保持する抗体を指す。本発明のヒト化抗体は、前述のように、CDRドメインをコードする核酸配列を得ることによって、(i)ヒト抗体と同一の重鎖定常領域、および(ii)ヒト抗体と同一の軽鎖定常領域をコードする遺伝子を有する動物細胞の発現ベクターに挿入することにより、ヒト化抗体発現ベクターを構築することによって、および発現ベクターを動物細胞に導入することにより遺伝子を発現させることによって、産生され得る。ヒト化抗体発現ベクターは、抗体重鎖をコードする遺伝子および抗体軽鎖をコードする遺伝子が別々のベクター上に存在するタイプ、または両方の遺伝子が同じベクター上に存在するタイプ(タンデムタイプ)のいずれかであり得る。ヒト化抗体発現ベクターの構築の容易さ、動物細胞への導入の容易さ、ならびに動物細胞における抗体H鎖およびL鎖の発現レベルのバランスに関して、タンデム型のヒト化抗体発現ベクターが好ましい。タンデム型ヒト化抗体発現ベクターの例としては、pKANTEX93(国際公開第97/10354号)、pEE18などが挙げられる。従来の組換えDNAおよび遺伝子トランスフェクション技術に基づいてヒト化抗体を産生するための方法は、当技術分野において周知である(例えば、Riechmann Lら、1988年;Neuberger MSら、1985年を参照のこと)。抗体は、例えば、CDR移植(欧州特許出願公開第239,400号;PCT国際公開第91/09967号;米国特許第5,225,539号;同第5,530,101号;および同第5,585,089号)、ベニアリング(veneering)またはリサーフェシング(resurfacing)(欧州特許出願公開第592,106号;欧州特許出願公開第519,596号;Padlan EA(1991年);Studnicka GMら、(1994年);Roguska MAら、(1994年))、および鎖シャッフリング(米国特許第5,565,332号)など、当技術分野において公知である様々な技術を使用してヒト化できる。そのような抗体を調製するための一般的な組換えDNA技術も公知である(欧州特許出願公開第125023号および国際公開第96/02576号を参照のこと)。
【0162】
いくつかの実施形態では、本発明の抗体は、ヒト抗体である。本明細書で使用されるとき、「ヒト抗体」という用語は、ヒト免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する抗体を含むことを意図している。本発明のヒト抗体は、ヒト免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基を含み得る(例えば、in vitroでのランダムまたは部位特異的突然変異誘発によって、またはin vivoでの体細胞突然変異によって導入される突然変異)。しかし、本明細書で使用されるとき「ヒト抗体」という用語は、マウスなどの別の哺乳動物種の生殖系列由来のCDR配列がヒトフレームワーク配列に移植されている抗体を含むことを意図するものではない。ヒト抗体は、当技術分野において公知である様々な技術を使用して産生できる。ヒト抗体は、一般に、van Dijk and van de Winkel Cur.Opin.Pharmacol.5;368-74(2001年)およびLonberg,Cur.Opin.Immunol.20;450-459(2008年)に記載されている。ヒト抗体は、抗原チャレンジに応答して無傷のヒト抗体、またはヒト可変領域を有する無傷の抗体を産生するように修飾されたトランスジェニック動物に免疫原を投与することによって調製され得る。このような動物は、典型的には、ヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部もしくは一部を含むか、または染色体外に存在するか、または動物の染色体にランダムに組み込まれる。このようなトランスジェニックマウスでは、内因性免疫グロブリン遺伝子座は一般に不活化されている。トランスジェニック動物からヒト抗体を得る方法のレビューについては、Lonberg,Nat.Biotech.23;1117-1125(2005年)を参照のこと。また、例えば、XENOMOUSETM技術について記載している米国特許第6,075,181号および同第6,150,584号、HUMAB(登録商標)技術について記載している米国特許第5,770,429号、K-M MOUSE(登録商標)技術について記載している米国特許第7,041,870号、およびVELOCIMOUSE(登録商標)技術について記載している米国特許出願公開第2007/0061900号も参照されたい。そのような動物によって生成された無傷の抗体由来のヒト可変領域は、例えば、異なるヒト定常領域と組み合わせることによって、さらに修飾させ得る。ヒト抗体は、ハイブリドーマベースの方法でも作製できる。ヒトモノクローナル抗体を産生するためのヒト骨髄腫およびマウス-ヒトヘテロ骨髄腫細胞株について記載されている(例えば、Kozbor J.Immunol.,13:3001(1984年);Brodeurら、Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications,pp.51-63(Marcel Dekker,Inc.,New York,1987年);およびBoernerら、J.Immunol.,147:86(1991年)を参照のこと)。ヒトB細胞ハイブリドーマ技術を介して生成されたヒト抗体は、Liら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,103:3557-3562(2006)に記載されている。さらなる方法としては、例えば、米国特許第7,189,826号(ハイブリドーマ細胞株からのモノクローナルヒトigM抗体の産生について記載)およびNi,Xiandai Mianyixue,26(4):265-268(2006年)(ヒト-ヒトハイブリドーマについて記載)に記載されているものが挙げられる。ヒトハイブリドーマ技術(Trioma technology)は、Vollmers and Brandlein,Histology and Histopathology,20(3):927-937(2005年)およびVollmers and Brandlein,Methods and Findings in Experimental and Clinical Pharmacology,27(3):185-91(2005年)にも記載されている。完全ヒト抗体は、ファージディスプレイライブラリーからも誘導され得る(Hoogenboomら、1991年,J.Mol.Biol.227:381;およびMarksら、1991年,J.Mol.Biol.222:581に開示されているとおり)。ファージディスプレイ技術は、繊維状バクテリオファージの表面に抗体レパートリーを表示することにより免疫選択を模倣し、その後、選択した抗原に結合することによってファージを選択する。そのような技術の1つは、PCT国際公開第99/10494号に記載されている。本明細書に記載のヒト抗体はまた、免疫化時にヒト抗体応答を生成することができるように、ヒト免疫細胞が再構成されたSCIDマウスを使用して調製することができる。そのようなマウスは、例えば、Wilsonらの米国特許第5,476,996号および同第5,698,767号に記載されている。
【0163】
本明細書に開示されている抗体は、移植組織または移植片拒絶またはGVHDを防止するのに特に好適である。特に、本発明の多量体に特異的に結合する抗体は、本発明のペプチドを提示する樹状細胞を枯渇させるのに好適であろう。
【0164】
本明細書で使用されるとき、樹状細胞に関して「枯渇する」という用語は、対象における樹状細胞の数の測定可能な減少を指す。減少は、少なくとも約10%、例えば、少なくとも約20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれ以上であり得る。いくつかの実施形態では、この用語は、対象またはサンプル中の樹状細胞の数が検出可能な限界を下回る量まで減少することを指す。
【0165】
いくつかの実施形態では、本発明の抗体は、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害を媒介する。本明細書で使用されるとき、「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害」または「ADCC」という用語は、非特異的細胞傷害性細胞(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、およびマクロファージ)が、標的細胞で結合した抗体を認識し、その後標的細胞の溶解を引き起こす細胞媒介性反応を指す。特定のあらゆる作用機序に限定されることを望むものではないが、ADCCを媒介するこれらの細胞傷害性細胞は、一般にFc受容体(FcR)を発現する。
【0166】
本明細書で使用されるとき、「Fc領域」は、第1の定常領域免疫グロブリンドメインを除く抗体の定常領域を含むポリペプチドを含む。したがって、Fcは、IgA、IgD、およびIgGの最後の2つの定常領域免疫グロブリンドメイン、ならびにIgEおよびIgMの最後の3つの定常領域免疫グロブリンドメイン、およびこれらのドメインのN末端の柔軟なヒンジを指す。IgAおよびIgMの場合、FcにはJ鎖が含まれ得る。IgGの場合、Fcは、免疫グロブリンドメインCgamma2およびCgamma3(Cγ2およびCγ3)、ならびにCgamma1(Cγ1)とCgamma2(Cγ2)との間のヒンジを含む。Fc領域の境界は変化し得るが、ヒトIgG重鎖Fc領域は通常、C226またはP230からそのカルボキシル末端までの残基を含むように定義され、番号付けは、Kabatら(1991年,NIH Publication 91-3242,National Technical Information Service,Springfield,Va.)のようにEUインデックスに従っている。「Kabatに記載されているEUインデックス」は、上記のKabatらに記載されているヒトIgG1 EU抗体の残基番号付けを指す。Fcは、単離しているこの領域を指してもよく、抗体、抗体断片、またはFc融合タンパク質の文脈でこの領域を指す場合もある。Fcバリアントタンパク質は、抗体、Fc融合物、またはFc領域を含む任意のタンパク質またはタンパク質ドメインであり得る。特に好ましいのは、バリアントFc領域を含むタンパク質であり、これらは、Fc領域の天然に存在しないバリアントである。天然に存在しないFc領域(本明細書では「バリアントFc領域」とも呼ばれる)のアミノ酸配列は、野生型アミノ酸配列と比較して、少なくとも1つのアミノ酸残基の置換、挿入、および/または欠失を含む。挿入または置換の結果としてバリアントFc領域の配列内に現れる任意の新しいアミノ酸残基は、天然に存在しないアミノ酸残基と呼ばれ得る。注記:多型は、これらに限定されないが、Kabat 270、272、312、315、356、および358など、複数のFc位置で観察されており、したがって、提示された配列と先行技術の配列との間にわずかな違いが存在し得る。
【0167】
「Fc受容体」または「FcR」という用語は、抗体のFc領域に結合する受容体を説明するために使用される。ADCCを媒介するための一次細胞であるNK細胞は、FcγRIIIを発現するが、単球は、FcγRI、FcγRII、FcγRIIIおよび/またはFcγRIVを発現する。造血細胞でのFcRの発現は、Ravetch and Kinet,Annu.Rev.Immunol.,9:457-92(1991年)に要約されている。分子のADCC活性を評価するために、米国特許第5,500,362号または同第5,821,337号に記載されているようなin vitro ADCCアッセイを実行できる。このようなアッセイに有用なエフェクター細胞としては、末梢血単核細胞(PBMC)およびナチュラルキラー(NK)細胞が挙げられる。代替的にまたは追加的に、目的の分子のADCC活性は、in vivoにおいて、例えば、Clynesら、Proc.Natl.Acad.Sci.(USA),95:652-656(1998年)に開示されているものなど、動物モデル内で評価され得る。本明細書で使用されるとき、「エフェクター細胞」という用語は、1つ以上のFcRを発現し、エフェクター機能を実行する白血球を指す。細胞は、少なくともFcγRI、FCγRII、FcγRIIIおよび/またはFcγRIVを発現し、ADCCエフェクター機能を実行する。ADCCを媒介するヒト白血球の例としては、末梢血単核細胞(PBMC)、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球、細胞傷害性T細胞および好中球が挙げられる。
【0168】
いくつかの実施形態では、本発明の抗体は、完全長抗体である。いくつかの実施形態では、完全長抗体は、IgG1抗体である。いくつかの実施形態では、完全長抗体は、IgG3抗体である。
【0169】
いくつかの実施形態では、本発明の抗体は、FcγRIA、FcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIIA、FcγRIIIB、およびFcγRIVに対して増加した親和性を有するバリアントFc領域を含む。いくつかの実施形態では、本発明の抗体は、少なくとも1つのアミノ酸置換、挿入または欠失を含むバリアントFc領域を含み、少なくとも1つのアミノ酸残基の置換、挿入または欠失により、FcγRIA、FcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIIA、FcγRIIIB、およびFcγRIVに対する親和性の増加がもたらされる。いくつかの実施形態では、本発明の抗体は、少なくとも1つのアミノ酸置換、挿入または欠失を含むバリアントFc領域を含み、少なくとも1つのアミノ酸残基は、残基239、330、および332からなる群から選択され、アミノ酸残基は、EUインデックスに従って番号が付けられている。いくつかの実施形態では、本発明の抗体は、少なくとも1つのアミノ酸置換を含むバリアントFc領域を含み、少なくとも1つのアミノ酸置換は、S239D、A330L、A330Y、および1332Eからなる群から選択され、アミノ酸残基は、EUインデックスに従って番号が付けられている。
【0170】
いくつかの実施形態では、抗体のグリコシル化が修飾されている。例えば、非グリコシル化抗体を作製することができる(すなわち、抗体はグリコシル化を含まない)。グリコシル化は、例えば、抗原に対する抗体の親和性を高めるように変更することができる。そのような炭水化物修飾は、例えば、抗体配列内のグリコシル化の1つ以上の部位を変更することによって達成することができる。例えば、1つ以上の可変領域フレームワークグリコシル化部位の除去をもたらし、それによってその部位でのグリコシル化を除去する1つ以上のアミノ酸置換を行うことができる。このような非グリコシル化は、抗原に対する抗体の親和性を高め得る。このようなアプローチは、Coらによる米国特許第5,714,350号および第6,350,861号にさらに詳細に記載されている。追加的または代替的に、フコシル残基の量が減少しているか全くない低フコシル化または非フコシル化抗体、または二等分GlcNac構造が増加している抗体など、変更されたタイプのグリコシル化を有する抗体を作製することができる。このような変更されたグリコシル化パターンは、抗体のADCC能力を高めることが実証されている。そのような炭水化物修飾は、例えば、変更されたグリコシル化機構を有する宿主細胞において抗体を発現させることによって達成することができる。変更されたグリコシル化機構を有する細胞は当技術分野において記載されており、本発明の組換え抗体を発現し、それにより変更されたグリコシル化を有する抗体を産生する宿主細胞として使用することができる。例えば、Hangらによる欧州特許第1,176,195号には、フコシルトランスフェラーゼをコードする機能的に破壊されたFUT8遺伝子を有する細胞株について記載しており、そのような細胞株内で発現する抗体は、低フコシル化を呈するか、またはフコシル残基を欠いている。したがって、いくつかの実施形態では、本発明のヒトモノクローナル抗体は、低フコシル化または非フコシル化パターンを呈する細胞株、例えば、フコシルトランスフェラーゼをコードするFUT8遺伝子の発現が不十分である哺乳動物細胞株における組換え発現によって産生され得る。PrestaによるPCT国際公開第03/035835号は、Asn(297)連結炭水化物にフコースを接着させる能力が低下し、また、その宿主細胞内で発現する抗体の低フコシル化をもたらす、バリアントCHO細胞株であるLecl3細胞について記載している(Shields,R.L.ら、2002年J.Biol.Chem.277:26733-26740も参照のこと)。UmanaらによるPCT国際公開第99/54342号には、糖タンパク質改変グリコシルトランスフェラーゼ(例えば、ベータ(1,4)-NアセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII(GnTIII))を発現するように操作された細胞株について記載している。これにより、操作された細胞株内に発現した抗体は、バイセクティングGlcNac構造の増加を呈し、その結果抗体のADCC活性が増加するようになる(Umanaら、1999年Nat.Biotech.17:176-180も参照のこと)。Eureka Therapeuticsはさらに、フコシル残基を欠く哺乳動物のグリコシル化パターンの変化を有する抗体を産生できる遺伝子操作されたCHO哺乳類細胞について記載している(http://www.eurekainc.com/a&boutus/companyoverview.html)。あるいは、本発明のヒトモノクローナル抗体は、哺乳動物のようなグリコシル化パターンのために操作され、かつグリコシル化パターンとしてフコースを欠く抗体を産生できる酵母または糸状菌内で産生され得る(例えば、欧州特許第1297172B1号を参照されたい)。
【0171】
いくつかの実施形態では、本発明の抗体は、補体依存性細胞毒性を媒介する。「補体依存性細胞毒性」または「CDC」は、補体活性化を開始し、補体の存在下で標的を溶解する分子の能力を指す。補体活性化経路は、補体系の最初の成分(C1q)が同族の抗原と複合体を形成した分子(例えば、抗体)に結合することによって開始される。補体活性化を評価するために、CDCアッセイは、例えば、Gazzano-Santaroら、J.Immunol.Methods,202:163(1996年)に記載のとおり、実施され得る。
【0172】
いくつかの実施形態では、本発明の抗体は、抗体依存性食作用を媒介する。本明細書で使用されるとき、「抗体依存性食作用」または「オプソニン化」という用語は、FcγRを発現する非特異的細胞傷害性細胞が標的細胞上の結合抗体を認識し、その後標的細胞の食作用を引き起こす細胞媒介性反応を指す。
【0173】
いくつかの実施形態では、本発明の抗体は、治療部分、すなわち、薬物に抱合されている。治療部分は、例えば、細胞毒素、化学療法剤、サイトカイン、免疫抑制剤、免疫刺激剤、溶解性ペプチド、または放射性同位元素であり得る。このような抱合体は、本明細書では「抗体薬物抱合体」または「ADC」と呼ばれる。
【0174】
いくつかの実施形態では、本発明の抗体は、細胞毒性部分に抱合されている。細胞毒性部分は、例えば、タキソール;サイトカラシンB;グラミシジンD;臭化エチジウム;エメチン;マイトマイシン;エトポシド;テノポシド(tenoposide);ビンクリスチン;ビンブラスチン;コルヒチン;ドキソルビシン;ダウノルビシン;ジヒドロキシアントラシンジオン;メイタンシンなどのチューブリン阻害剤またはその類似体もしくは誘導体;有糸分裂阻害剤、例えばモノメチルオーリスタチンEまたはFなど、またはその類似体もしくは誘導体;ドラスタチン10または15またはその類似体;イリノテカンまたはその類似体;ミトキサントロン;ミトラマイシン;アクチノマイシンD;1-デヒドロテストステロン;糖質コルチコイド;プロカイン;テトラカイン;リドカイン;プロプラノロール;ピューロマイシン;カリケアマイシンまたはその類似体または誘導体;代謝拮抗剤、例えばメトトレキサート、6メルカプトプリン、6チオグアニン、シタラビン、フルダラビン、5フルオロウラシル、ダカルバジン、ヒドロキシ尿素、アスパラギナーゼ、ゲムシタビン、またはクラドリビン;アルキル化剤、例えば、メクロレタミン、チオエパ(thioepa)、クロラムブシル、メルファラン、カルムスチン(BSNU)、ロムスチン(CCNU)、シクロホスファミド、ブスルファン、ジブロモマンニトール、ストレプトゾトシン、ダカルバジン(DTIC)、プロカルバジン、マイトマイシンC;白金誘導体、例えばシスプラチンまたはカルボプラチン;デュオカルマイシンA、デュオカルマイシンSA、ラケルマイシン(CC-1065)、またはその類似体もしくは誘導体;抗生物質、例えば、ダクチノマイシン、ブレオマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、イダルビシン、ミトラマイシン、マイトマイシン、ミトキサントロン、プリカマイシン、アントラマイシン(AMC));ピロロ[2,l-c][1,4]-ベンゾジアゼピン(PDB);ジフテリア毒素および関連分子、例えば、ジフテリアA鎖およびその活性断片およびハイブリッド分子、リシン毒素、例えば、リシンAまたは脱グリコシル化されたリシンA鎖毒素、コレラ毒素、志賀様毒素、例えばSLTI、SLT II、SLT IIV、LT毒素、C3毒素、志賀毒素、百日咳毒素、破傷風毒素、大豆ボーマン-バークプロテアーゼ阻害剤、シュードモナス外毒素、アロリン、サポリン、モデシン、ゲラニン(gelanin)、アブリンA鎖、モデシンA鎖、アルファ-サルシン、シナアブラギリ(Aleurites fordii)タンパク質、ジアンチンタンパク質、ヤマゴボウ(Phytolaccaamericana)タンパク質、例えば、PAPI、PAPII、およびPAP-S、ツルレイシ(momordica charantia)阻害剤、クルシン、クロティン、サボンソウ(sapaonaria officinalis)阻害剤、ゲロニン、ミトゲリン、レストリクトシン、フェノマイシン、およびエノマイシン毒素;リボヌクレアーゼ(RNase);DNase I;ブドウ球菌エンテロトキシンA;ヨウシュヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質;ジフテリン毒素;ならびにシュードモナスエンドトキシンからなる群から選択され得る。
【0175】
いくつかの実施形態では、本発明の抗体は、オーリスタチンまたはそのペプチド類似体、誘導体またはプロドラッグに抱合される。オーリスタチンは、微小管のダイナミクス、GTP加水分解、ならびに核および細胞の分裂を妨げ(Woykeら(2001年)Antimicrob.Agents and Chemother.45(12):3580-3584)、抗癌活性(US5663149)および抗真菌活性(Pettitら(1998年)Antimicrob.Agents and Chemother.42:2961-2965)を有することが示されている。例えば、オーリスタチンEは、パラアセチル安息香酸またはベンゾイル吉草酸と反応して、それぞれAEBおよびAEVBを生成することができる。他の典型的なオーリスタチン誘導体としては、AFP、MMAF(モノメチルオーリスタチンF)、およびMMAE(モノメチルオーリスタチンE)が挙げられる。好適なオーリスタチンおよびオーリスタチン類似体、誘導体およびプロドラッグ、ならびにオーリスタチンのAbへの抱合のための好適なリンカーは、例えば、米国特許第5,635,483号、同第5,780,588号および同第6,214,345号、国際公開第02088172号、同第2004010957号、同第2005081711号、同第2005084390号、同第2006132670号、同第03026577号、同第200700860号、同第207011968号、および同第205082023号に記載されている。
【0176】
いくつかの実施形態では、本発明の抗体は、ピロロ[2,l-c][1,4]-ベンゾジアゼピン(PDB)またはその類似体、誘導体もしくはプロドラッグに抱合される。好適なPDBおよびPDB誘導体、ならびに関連する技術は、例えば、Hartley J.A.ら、Cancer Res 2010年;70(17):6849-6858;Antonow D.ら、Cancer J 2008年;14(3):154-169;Howard P.W.ら、Bioorg Med Chem Lett 2009年;19:6463-6466、およびSagnouら、Bioorg Med Chem Lett 2000年;10(18):2083-2086に記載されている。
【0177】
いくつかの実施形態では、本発明の抗体は、アントラサイクリン、メイタンシン、カリケアマイシン、デュオカルマイシン、ラケルマイシン(CC-1065)、ドラスタチン10、ドラスタチン15、イリノテカン、モノメチルオーリスタチンE、モノメチルオーリスタチンF、PDB、および任意のそれらの類似体、誘導体、またはプロドラッグからなる群から選択される細胞毒性部分に抱合する。
【0178】
いくつかの実施形態では、本発明の抗体は、アントラサイクリンまたはその類似体、誘導体もしくはプロドラッグに抱合される。いくつかの実施形態では、抗体は、メイタンシンまたはその類似体、誘導体もしくはプロドラッグに抱合される。いくつかの実施形態では、抗体は、カリケアマイシンまたはその類似体、誘導体もしくはプロドラッグに抱合される。いくつかの実施形態では、抗体は、デュオカルマイシンまたはその類似体、誘導体もしくはプロドラッグに抱合される。いくつかの実施形態では、抗体は、ラケルマイシン(CC-1065)またはその類似体、誘導体もしくはプロドラッグに抱合される。いくつかの実施形態では、抗体は、ドラスタチン10またはその類似体、誘導体もしくはプロドラッグに抱合される。いくつかの実施形態では、抗体は、ドラスタチン15またはその類似体、誘導体もしくはプロドラッグに抱合される。いくつかの実施形態では、抗体は、モノメチルオーリスタチンEまたはその類似体、誘導体もしくはプロドラッグに抱合される。いくつかの実施形態では、抗体は、モノメチルオーリスタチンFまたはその類似体、誘導体もしくはプロドラッグに抱合される。いくつかの実施形態では、抗体は、ピロロ[2,l-c][1,4]-ベンゾジアゼピンまたはその類似体、誘導体もしくはプロドラッグに抱合される。いくつかの実施形態では、抗体は、イリノテカンまたはその類似体、誘導体もしくはプロドラッグに抱合される。
【0179】
本発明は、以下の図および実施例によってさらに説明される。しかし、これらの例および図は、本発明の範囲を限定するものとして決して解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0180】
図1】設計されたHLAクラスIIペプチド(MHCクラスIIペプチドとも呼ばれる)の詳細を示すスキームである。
図2】MHCクラスIIペプチドの存在下でのCD8Treg活性化のプロトコルを示すスキームである。
図3】CD25およびCD69の発現によって分析されたヒトペプチドに応答したCD8Tregの活性化を示す図である。図3Aは、MHCクラスIIペプチドと共にインキュベートしたCD8Tregにおける活性化マーカーCD25(黒)およびCD69(白)の発現を示すグラフである。バーは、ペプチド刺激後のマーカー陽性細胞のパーセンテージと、ペプチドを含まない対照条件におけるマーカー陽性細胞のパーセンテージとの間の比率を表す(+/- SEM)。*p<0.05。各ペプチドについてn=9~14。図3Bおよび図3Cは、対照ペプチド、MHCクラスIIペプチド(Hpep2)または抗CD/28刺激の存在下でのCD25(図3B)およびCD69(図3C)の発現の代表的なヒストグラムである。
図4】Hpep2ペプチドによるCD8Treg拡大のプロトコルを示すスキームである。CD8 Tregは、同系のHLA-A2APC、Hpep2ペプチド、IL-2、IL-15、およびCpG ODNによって0日目および7日目に刺激した。サイトカインは週に2回添加した。
図5】Hpep2または抗CD3/抗CD28 mAbとの14日間の培養後の総Treg倍数の拡大を示すグラフである(0日目に対して)。
図6】CD8CD45RClowTregの抑制活性を示す図である。図6Aは、同じドナーからのCD8CD45RClowTregと共培養された分裂中のCD4CD25T細胞の割合を示すグラフである。Hpep2ペプチドまたはポリクローナル刺激の14日後、拡大されたTregは、新鮮なTregと比較して、3名の健康なボランティアからプールされた同種異系APCで刺激された同系CFSE標識CD4CD25T細胞に対する抑制活性について試験した。n=2~5。図6B図6C図6D、および図6Eは、上記の条件でのCFSE染色の代表的なヒストグラムである。CD8CD45RClowTregを含まない対照条件(図6B);CD8CD45RClowTregの存在下でHpep2ペプチドで拡大(図6C);CD8CD45RClowTregの存在下で、抗CD3/抗CD28 mAb(ポリクローナル刺激)で拡大(図6D);新鮮なCD8CD45RClowTregの存在下(図6E)。
図7】Hpep2拡大CD8CD45RClowTregは、ポリクローナル拡大CD8CD45RClowTregと比較して同様のマーカー発現を示すことを示すグラフである。CD8TregをHpep2または抗CD3/抗CD28 mAbで14日間拡大させ、Foxp3、GITR、IL-10、TGFβ1、IL-34、およびIFNγの発現レベルをフローサイトメトリーで分析した。n=6~14。実施例材料および方法材料ヒトサンプル
【0181】
血液は、Etablissement Francais du Sang(Nantes,France)で収集した。ヘパリン化血液サンプルは、関連機関の倫理委員会によって承認されたインフォームドコンセントに署名した後、健康なボランティアから採取した(#N°CPDL-PLER-2018 180)。ドナーの性別は入手できなかった。

方法
ペプチドライブラリ
【0182】
16-aaペプチドは、ラット配列(Genscript、USA)とのアラインメントに基づいて、ヒトMHC-II対立遺伝子上でランダムに設計した。純度は90%超であった。ヒトペプチドを上記のように溶解し、かつ保存し、in vitroで使用するためにTexmacs培地で120μg/mlに希釈した。
細胞精製
【0183】
PBMCは、ブレーキなく室温で20分間、2000rpmでFicoll-Paque密度勾配遠心分離によって単離した。残りの赤血球および血小板は、低張液との5分間のインキュベーション、および4℃で10分間の1000rpmでの遠心分離を使用して除去した。pDCおよびT細胞の選別では、それぞれ、抗CD19(クローン:HBI19、eBiociences)、抗CD14(クローン:M5E2、eBiociences)、および抗CD16(クローン:3G8、精製)mAbを使用することによって、B細胞、単球、およびNK細胞を磁気的に枯渇させた(Dynabeads、Invitrogen)。濃縮されたPBMCは、CD8αCD45RClowTregおよびNeurophilin-1pDCを選別するために、抗CD45RC-FITC(クローン:MT2、IQ-Products)、抗CD8α-PE-Cy7(クローン:RPT8、eBiociences)および抗Nrp1-PE(クローン:u21-1283、BD Biosciences)により染色した。濃縮されたPBMCは、CD4CD25Teff細胞を選別するための抗CD3-PeCy7(クローンSK7、BD Biosciences)、抗CD4-PerCP-Cy5.5(クローン:RPA-T4、BD Biosciences)および抗CD25-APC-Cy7(クローン:M-A251、BD Biosciences)mAbで染色した。APCは、抗CD3(OKT3精製、5μg/ml)mAb(増殖アッセイでTeffを刺激するため)でT細胞を磁気的に枯渇させるか、または抗CD3-PE(クローン:HIT3a、BD Biosciences)を使用して選別中にT細胞をゲートアウトすることにより、PBMCから得た(活性化および拡大試験のため)。選別にはFACS ARIA II(BD biosciences,Mountain View,CA)を使用した。純度は、98%より高かった。
ペプチド刺激アッセイ
【0184】
CD8CD45RClowTreg細胞および同じ健康なHLA-A2ドナーからの自己pDCを、Treg:pDCの比が4:1で5日間、IL-2(25U/ml、Proleukin,Novartis)、CpG ODN 2006(0.5μM)および様々な合成ペプチド(120μg/ml)を補充した無血清Texmacs培地(Miltenyi Biotec)で共培養した。CD8CD45RClowTreg活性化は、CD69およびCD25マーカーの発現に基づいて分析した。陰性対照として、また結果を正規化するために、陰性ペプチドを使用した(ALIAPVHAV)。Dapiは、生存マーカーとして使用した。陽性対照として、CD8CD45RClowTregを抗CD3(OKT3、1μg/ml)および抗CD28 mAb(クローン:CD28.2;1μg/ml)で刺激した。結果は、FACS Canto IIサイトメーター(BD Biosciences)およびFlowjoソフトウェア(Tree Star,Inc.USA,version10)を使用して分析した。
抑制アッセイ
【0185】
同じ健康なボランティア(HLA-A2)からのCFSE標識CD4CD25TeffおよびCD8CD45RClowTregを、5%ヒトAB血清を補充したRPMI1640培地で、3名の異なる健康なドナー(HLA-A2)からの同種異系APCのプールと共培養した。培養は、V底96ウェルプレートで3回、1:1:1の比率(1=5x10細胞/ウェル)で5日間行った。CD4CD25レスポンダーT細胞の増殖は、CD3CD4生細胞(DAPI陰性)をゲーティングし、Flowjoソフトウェア(Tree Star,Inc.USA,version10)を使用することによって、フローサイトメトリー(FACS Canto II BD Biosciences(商標))によって分析した。
細胞外および細胞内染色
【0186】
Texmacs培地(Miltenyi Biotec)で最後の4時間のブレフェルジンA(10μg/ml)の存在下で、GITR(クローン:DT5D3、Miltenyi Biotec)、Foxp3(クローン:259D/C7、BD Biosciences)、IL-10(クローン:JES3-9D7、BD Biosciences)、IL-34(クローン:IC5265P、R&D)、TGFβ1(クローン:TW4-9E7、BD Biosciences)およびIFNγ(クローン:B27、BD Biosciences)を分析するために、CD8CD45RClowTreg細胞をPMA(50ng/ml)およびイオノマイシン(1μg/ml)で5時間刺激した。生細胞を選択するために、Fixable Viability Dye eF506(ThermoFisher Scientific)を生存マーカーとして使用した。Fc受容体は、染色前にブロックさせ(BD Biosciences)、細胞は細胞内染色のためにFix/Permキット(Ebiociences)で透過処理した。細胞表現型は、LSR II(BD Biosciences、Mountain View、CA)およびFlowjoソフトウェア(Tree Star.Inc.USA,version10)を使用したフローサイトメトリーによって分析した。
ヒトCD8CD45RClowTregのin vitroでの拡大
【0187】
5x10CD8CD45RClowTregおよびHLA-A2健康ドナーからの2x10自己APCを、ペニシリン(100U/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)、rhIL-2(1000U/ml、Proleukin、Novartis)、rhIL-15(10ng/ml、Miltenyi Biotec)、CpG(0.5μM)、およびHLA-II分子(GenScript)に由来する様々なペプチド(120μg/ml)を補充したTexmacs培地(Miltenyi Biotec)の24ウェルプレートに播種した。陰性対照として、無関係な陰性ペプチド(ALIAPVHAV)を使用した。陽性対照として、CD8CD45RClowTregをプレートコーティングした抗CD3(クローン:OKT3、1μg/ml)mAbおよび可溶性抗CD28 mAb(クローン:CD28.2;1μg/ml)で刺激した。7日目に、Tregをカウントし、再拡大させた。サイトカインは、週に2回新たに添加した。最後に、14日目に細胞を実験に使用した。
定量化および統計分析
【0188】
ペプチド活性化検定では、カラムの中央値を仮想値1.0と比較するノンパラメトリックウィルコクソン符号順位検定を実行した。分析は、GraphPad Prism 7ソフトウェア(GraphPad)を使用して行った。
結果
【0189】
4つの16aaペプチドは、Du51ペプチド(NREEYARFDSDVGEYR)および重複する12-merペプチドBu31-10(YLRYDSDVGEYR)の配列に基づいて(両方ともC末端にSDVGEYRモチーフを担持している(図1))、4つのランダムなヒトMHCクラスII対立遺伝子:Hpep1(NQEESVRFDSDVGEFR-配列番号1)、Hpep2(NREEYARFDSDVGEFR-配列番号2)、Hpep3(NREEYARFDSDVGVYR-配列番号3)およびHpep4(NREEYVRFDSDVGEYR-配列番号4)から設計した。5日間の培養アッセイにおいて、無血清Texmacs培地でインターロイキン-2(IL-2)およびCpGオリゴデオキシヌクレオチド(またはCpG ODN)の存在下で、同じ個体からの同系CD8CD45RClowTregおよび自己HLA-A2pDCを使用して(図2)、位置2、5、6、14、または15で異なるこれらのペプチドを個別にテストした。図3A図3Cに示すとおり、CD25およびCD69の発現は、Hpep1、Hpep2、およびHpep4ペプチドとのインキュベーション後にTregでアップレギュレートした。これらの3つのペプチドは、保存されたSDVGE-X-R(配列番号13)7aaモチーフを共有しているが、Hpep3はさらにペプチドの14位にグルタミン酸(E)の代わりにバリン(V)を有し、これがおそらくTCR認識に影響を与える。
【0190】
これらのペプチドから、より短いペプチドをさらに同定した:NREEYARFD(配列番号5)、REEYARFDS(配列番号6)、EEYARFDSD(配列番号7)、EYARFDSDV(配列番号8)、YARFDSDVG(配列番号9)、ARFDSDVGE(配列番号10)、RFDSDVGEF(配列番号11)およびFDSDVGEFR(配列番号12)。
【0191】
このMHC-II由来ペプチドを使用してCD8CD45RClowTregを拡大できるかを判断するために、IL-2、IL-15およびCpG ODNの存在下で、Hpep2ペプチドを使用して同じ個体からの選別済みのCD8CD45RClow/-TregおよびAPCを使用して拡大プロトコルを設定し、同様の条件でポリクローナル刺激(抗CD3/28)と比較した(図4)。APCおよびHpep2による拡大により、14日間でCD8CD45RClowTregの10倍の拡大となった(図5)が、0日目に存在する小さいHpep2特異的Treg画分の実際の拡大は、はるかに高い可能性がある。重要なことに、図6A図6Eに示すとおり、Hpep2および抗CD3/28拡大CD8CD45RClowTregはいずれも、新鮮なCD8CD45RClowTregと同様に、同種異系免疫応答の抑制に効果的であった。興味深いことに、ペプチド刺激Tregは、ポリクローナルTregよりも抑制性が高い傾向があり、治療のために抗原特異的Tregを拡大することの潜在的な利点を示唆している。図7に示すとおり、Hpep2または抗CD3/28拡大CD8CD45RClowTregにおけるFoxp3、GITR、IL-10、IFNγ、およびIL-34の発現レベルに有意差は観察されなかった。
【0192】
まとめると、これは、コンセンサスSDVGE-X-R(配列番号13)7aaモチーフを保持するヒトHLAクラスIIペプチドが抑制性ヒトCD8Tregを効率的に活性化し、拡大できることを示唆している。

参考文献
【0193】
本出願を通して、様々な参考文献は、本発明が関係する最新技術を説明している。これらの参考文献の開示は、参照により本開示に組み込まれる。
図1
図2
図3A
図3B-C】
図4
図5
図6A
図6B-E】
図7
【手続補正書】
【提出日】2021-09-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
2022516408000001.app
【手続補正書】
【提出日】2021-09-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0184
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0184】
CD8CD45RClowTreg細胞および同じ健康なHLA-A2ドナーからの自己pDCを、Treg:pDCの比が4:1で5日間、IL-2(25U/ml、Proleukin,Novartis)、CpG ODN 2006(0.5μM)および様々な合成ペプチド(120μg/ml)を補充した無血清Texmacs培地(Miltenyi Biotec)で共培養した。CD8CD45RClowTreg活性化は、CD69およびCD25マーカーの発現に基づいて分析した。陰性対照として、また結果を正規化するために、陰性ペプチドを使用した(ALIAPVHAV(配列番号14))。Dapiは、生存マーカーとして使用した。陽性対照として、CD8CD45RClowTregを抗CD3(OKT3、1μg/ml)および抗CD28 mAb(クローン:CD28.2;1μg/ml)で刺激した。結果は、FACS Canto IIサイトメーター(BD Biosciences)およびFlowjoソフトウェア(Tree Star,Inc.USA,version10)を使用して分析した。
抑制アッセイ
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0187
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0187】
5x10CD8CD45RClowTregおよびHLA-A2健康ドナーからの2x10自己APCを、ペニシリン(100U/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)、rhIL-2(1000U/ml、Proleukin、Novartis)、rhIL-15(10ng/ml、Miltenyi Biotec)、CpG(0.5μM)、およびHLA-II分子(GenScript)に由来する様々なペプチド(120μg/ml)を補充したTexmacs培地(Miltenyi Biotec)の24ウェルプレートに播種した。陰性対照として、無関係な陰性ペプチド(ALIAPVHAV(配列番号14))を使用した。陽性対照として、CD8CD45RClowTregをプレートコーティングした抗CD3(クローン:OKT3、1μg/ml)mAbおよび可溶性抗CD28 mAb(クローン:CD28.2;1μg/ml)で刺激した。7日目に、Tregをカウントし、再拡大させた。サイトカインは、週に2回新たに添加した。最後に、14日目に細胞を実験に使用した。
定量化および統計分析
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0189
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0189】
4つの16aaペプチドは、Du51ペプチド(NREEYARFDSDVGEYR(配列番号15))および重複する12-merペプチドBu31-10(YLRYDSDVGEYR(配列番号16))の配列に基づいて(両方ともC末端にSDVGEYR(配列番号17)モチーフを担持している(図1))、4つのランダムなヒトMHCクラスII対立遺伝子:Hpep1(NQEESVRFDSDVGEFR-配列番号1)、Hpep2(NREEYARFDSDVGEFR-配列番号2)、Hpep3(NREEYARFDSDVGVYR-配列番号3)およびHpep4(NREEYVRFDSDVGEYR-配列番号4)から設計した。5日間の培養アッセイにおいて、無血清Texmacs培地でインターロイキン-2(IL-2)およびCpGオリゴデオキシヌクレオチド(またはCpG ODN)の存在下で、同じ個体からの同系CD8CD45RClowTregおよび自己HLA-A2pDCを使用して(図2)、位置2、5、6、14、または15で異なるこれらのペプチドを個別にテストした。図3A図3Cに示すとおり、CD25およびCD69の発現は、Hpep1、Hpep2、およびHpep4ペプチドとのインキュベーション後にTregでアップレギュレートした。これらの3つのペプチドは、保存されたSDVGE-X-R(配列番号13)7aaモチーフを共有しているが、Hpep3はさらにペプチドの14位にグルタミン酸(E)の代わりにバリン(V)を有し、これがおそらくTCR認識に影響を与える。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
2022516408000001.app
【国際調査報告】