(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-28
(54)【発明の名称】疎水性中空繊維による哺乳類細胞培養物の灌流および浄化用フィルター
(51)【国際特許分類】
B01D 69/08 20060101AFI20220218BHJP
B01D 63/02 20060101ALI20220218BHJP
B01D 65/00 20060101ALI20220218BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20220218BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20220218BHJP
B01D 71/26 20060101ALI20220218BHJP
B01D 71/32 20060101ALI20220218BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20220218BHJP
C12M 1/00 20060101ALN20220218BHJP
C12M 3/06 20060101ALN20220218BHJP
C12M 1/12 20060101ALN20220218BHJP
C12N 5/07 20100101ALN20220218BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20220218BHJP
C12N 1/16 20060101ALN20220218BHJP
【FI】
B01D69/08
B01D63/02
B01D65/00
B01D69/00
B01D69/02
B01D71/26
B01D71/32
C12N1/00 A
C12M1/00 C
C12M3/06
C12M1/12
C12N5/07
C12N1/20
C12N1/16
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021538234
(86)(22)【出願日】2019-12-30
(85)【翻訳文提出日】2021-08-23
(86)【国際出願番号】 US2019068972
(87)【国際公開番号】W WO2020142445
(87)【国際公開日】2020-07-09
(32)【優先日】2018-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503393010
【氏名又は名称】レプリゲン・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】Repligen Corporation
【住所又は居所原語表記】41Seyon Street,Building#1,Suite100,Waltham,Massachusetts02139,United StatesOfAmerica
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ブランスビー、マイケル
(72)【発明者】
【氏名】キャロル、デレク
(72)【発明者】
【氏名】ユエン、フィリップ
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
4D006
【Fターム(参考)】
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4B029AA02
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4D006PC80
(57)【要約】
本開示は、そのファウリング耐性、ならびに高固形分を含む溶液を濾過する能力により、細胞培養物の濾過、および他の生物学的灌流のために、疎水性中空繊維フィルターを使用することに関する。疎水性中空繊維フィルターは、処理容器および従来型分離システムと併せて、フィルターハウジング内に使用され得る。システムが交互接線流または接線流濾過と共に使用される場合、疎水性中空繊維フィルターは濾液のより効率的な濾過を達成し、高レベルの固形物を含有する溶液においても保持液をより大幅に濃縮する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
灌流細胞培養用の予め湿らされた使い捨て中空繊維フィルターであって、前記使い捨て中空繊維フィルターは、アルコールで予め湿らされ、緩衝液中に保管される、フィルター。
【請求項2】
フィルターハウジングをさらに含み、前記フィルターハウジングは、
入口と;
保持液出口と;
透過液出口と;
前記入口と前記保持液出口との間に延び、それによって前記保持液出口と前記入口とから前記透過液出口を流体的に分離する、少なくとも1つの疎水性中空繊維と;
前記疎水性中空繊維を前記フィルターハウジングに連結し、前記入口および前記保持液出口のうち少なくとも1つを前記透過液出口から密閉するポッティング材と;を含む、請求項1に記載のフィルター。
【請求項3】
前記疎水性中空繊維は、複数の細孔を含む、請求項2に記載のフィルター。
【請求項4】
前記複数の細孔の直径は、0.05um~2.0umである、請求項3に記載のフィルター。
【請求項5】
前記疎水性中空繊維は、10cm
2~90m
2の表面積を備える、請求項2から4のいずれか一項に記載のフィルター。
【請求項6】
前記疎水性中空繊維は、0.2mm~5.0mmの内径を備える、請求項2から5のいずれか一項に記載のフィルター。
【請求項7】
前記疎水性中空繊維は、50um~500umの壁厚を備える、請求項2から6のいずれか一項に記載のフィルター。
【請求項8】
前記疎水性中空繊維は、ポリオレフィンまたはフルオロポリマーを含む、請求項2から7のいずれか一項に記載のフィルター。
【請求項9】
前記ポリオレフィンは、ポリプロピレン、ポリエチレン、またはそれのコポリマーである、請求項8に記載のフィルター。
【請求項10】
灌流細胞培養の方法であって、
疎水性中空繊維フィルターを通って細胞培養液を循環させ、それによって前記細胞培養液を濾液および保持液に分離するステップと;
前記保持液をバイオリアクターに戻すステップと;を含む、方法。
【請求項11】
前記灌流細胞培養は、n-1培養および培地交換からなるグループから選択され、いずれの場合も前記濾液は保持されない、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記灌流細胞培養は、高生産性の集菌、集中流加培養、または連続灌流からなるグループから選択され、それぞれの場合において、前記濾液は、対象バイオ生成物を含み、保持される、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記灌流細胞培養は、哺乳類細胞培養、酵母細胞培養、原核細胞培養、または昆虫細胞培養である、請求項10から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞培養液の循環は、交互接線流によって実施される、請求項10から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞培養液の循環は、接線流濾過によって実施される、請求項10から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記細胞培養液の循環は、1、2、3、4、5、10、15、20、22.5、25、30l/m
2・hのフィルターフラックス(filter flux)で実施される、請求項10から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記分離のためのシステムは、蠕動ポンプヘッドを通る蠕動配管、マグレブポンプ、ATFポンプ、および他の容積式使い捨てポンプのうち1つ以上を含む、請求項10から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記方法は、10、20、30、40、50日にわたって実施される、請求項10から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
疎水性中空繊維は、ポリオレフィンまたはフルオロポリマーを含む、請求項10から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記ポリオレフィンは、ポリプロピレン、ポリエチレン、またはそれのコポリマーである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
灌流培養システムを組み立てる方法であって、
予め湿らされた疎水性中空繊維フィルターを前記灌流培養システムのフィルターハウジングの中に配置するステップと、任意選択的に前記フィルターハウジングの透過液出口を透過液収集容器に連結するステップと、を含み、
(a)前記灌流培養システムは、処理容器と、前記処理容器の内部を前記フィルターハウジングの内部に流体的に連結してフィルター供給チャネルを画定する第1コンジットと、任意選択的に、前記フィルターハウジングの内部を前記処理容器に連結し、保持液チャネルを画定する第2コンジットと、を含み、(b)前記フィルターハウジング内に配置される前に、前記疎水性中空繊維フィルターは、アルコールを含む溶液で予め湿らされ、緩衝水溶液中に保管される、方法。
【請求項22】
前記フィルターハウジングは、濾液用の出口をさらに含み、前記出口は、前記疎水性中空繊維フィルターによって前記フィルター供給チャネルおよび前記保持液チャネルから流体的に分離される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
細胞培養液の循環は、1、2、3、4、5、10、15、20、22.5、25、30l/m
2・hのフィルターフラックスで実施される、請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
疎水性中空繊維は、ポリオレフィンまたはフルオロポリマーを含む、請求項21から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記ポリオレフィンは、ポリプロピレン、ポリエチレン、またはそれのコポリマーである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
灌流細胞培養の方法であって、
疎水性中空繊維フィルターを横切るように細胞培養培地を接線方向に通過させて、前記細胞培養培地の第1成分の濃度を低下させるステップを含み、前記第1成分は、組換ペプチド、核酸、またはウイルスカプシドを含まない、方法。
【請求項27】
前記方法は、10、20、30、40、50日にわたって実施される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
細胞培養液の循環は、1、2、3、4、5、10、15、20、22.5、25、30l/m
2・hのフィルターフラックスで実施される、請求項26または27に記載の方法。
【請求項29】
疎水性中空繊維は、ポリオレフィンまたはフルオロポリマーを含む、請求項26から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記ポリオレフィンは、ポリプロピレン、ポリエチレン、またはそれのコポリマーである、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
流体を濾過する方法であって、
前記流体を疎水性中空繊維フィルターシステムの中に通過させるステップを含み、その結果、前記流体は、非層流方式で疎水性中空繊維フィルターの中を流れ、前記流体は、保持液および透過液に分離される、方法。
【請求項32】
前記疎水性中空繊維フィルターシステムの供給速度と前記疎水性中空繊維フィルターの内径との積は、2500mm
2s
-1より大きい、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記疎水性中空繊維フィルターに入る前記流体の流れを特徴づけるレイノルズ数は、2000、2300、2500、3000、3500、または4000より大きい、請求項31または32に記載の方法。
【請求項34】
疎水性中空繊維は、ポリオレフィンまたはフルオロポリマーを含む、請求項31から33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記ポリオレフィンは、ポリプロピレン、ポリエチレン、またはそれのコポリマーである、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記疎水性中空繊維フィルターを通る流れの方向は、交互である、請求項31から35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
フィルター透過液を収集するステップをさらに含む、請求項31から36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記疎水性中空繊維フィルターは、所望しない種を保持する、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記保持された所望しない種は、哺乳類細胞由来の種;微生物細胞由来の種;ウイルス由来の種;蛋白質;核酸;多糖類;または前述のもののうち任意のものの複合体からなるグループから選択される、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
所望の種は、前記疎水性中空繊維フィルターの中を通過して透過液に入る、請求項37から39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記所望の種は、哺乳類細胞由来の種;微生物細胞由来の種;ウイルス由来の種;蛋白質;核酸;多糖類;ウイルス;マイクロキャリア;粒子;または前述のもののうち任意のものの複合体からなるグループから選択される、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
請求項41に記載の方法に従って収集された透過液を含む組成物。
【請求項43】
前記組成物中の所望の種の濃度は、前記流体中の前記所望の種の濃度より少なくとも10倍、20倍、40倍、50倍、75倍、または100倍大きい、請求項42に記載の組成物。
【請求項44】
所望しない種の濃度は、前記流体中の前記所望しない種の濃度より少なくとも10倍、20倍、40倍、50倍、75倍、または100倍少ない、請求項42または43に記載の組成物。
【請求項45】
前記流体から透過液を除去し、それによって前記疎水性中空繊維フィルターによって保持された所望の種の濃度を増加させるステップをさらに含み、前記所望の種の濃度は、5倍、10倍、20倍、40倍、50倍、75倍、または100倍増加する、請求項31に記載の方法。
【請求項46】
流体を濾過する方法であって、
供給速度が、前記流体の動粘性率を中空繊維フィルター直径で割った商より2000、2300、2500、3000、3500または4000倍大きい条件下で、前記流体を疎水性中空繊維フィルターの中に通過させるステップを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権
本出願は、2018年12月31日に出願の、「Filter For Mammalian Cell Culture Perfusion And Clarification With Polypropylene Hollow Fiber」と題された米国特許出願第62/786,844号に対する優先権の利益、および2019年5月13日に出願の「Filter For Mammalian Cell Culture Perfusion And Clarification With Polypropylene Hollow Fiber」と題された米国特許出願第62/846,934号に対する優先権の利益を主張し、その出願の全文は、参照により本出願に組み込まれる。
【0002】
本開示の分野
本開示の実施形態は、概してプロセス濾過システムに関し、より具体的には疎水性中空繊維膜を利用するシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
濾過は、流体状の溶液、混合液、または懸濁液を分離、浄化、改質、および/または濃縮するために利用される。これはしばしば、生物工学、製薬、および医療の産業による薬物、診断薬、および化学物質の生産、加工、および分析ステージにおいて必要なステップである。濾過は、たとえば溶液から所望の化合物を除去して、または副産物を除去して、より濃縮された培地だけを残すために使用され得る。このようなプロセスは、多様なフィルター材料、細孔径、および/または他のフィルター変数を選択することで必要に応じて変更され得る。
【0004】
細胞培養物を生産する場合、育成培養物から廃棄物を濾過することがしばしば必要となる。今日、生物学的製造プロセスの進歩は、細胞培養物の大規模生産を可能にし、しばしば処理容器装置を使用して組換え蛋白質、ウイルス様粒子(VLP)、遺伝子治療粒子、およびワクチンの生産を可能にした。代謝廃棄物を除去し、栄養分を追加して培養物を更新する細胞貯留装置は、広範囲に使用可能である。一般にこの貯留は、接線流濾過または交互接線流濾過を使用して、中空繊維膜を用いた処理容器培養物の灌流を使用することによって実施される。
【0005】
加えて、バイオプロセスの運転が長期にわたっており、連続的にさえなっていることが産業の傾向である。そのような運転は、数日、数週間、または数月に及び得る。フィルターなどの多くの代表的構成要素は、ファウリングなしに、またはそうでなくても保守または交換の必要なく、そのような期間のあいだ十分機能することはできない。
【0006】
中空繊維膜は、細胞培養物の灌流および浄化にしばしば使用されるが、このような適用業務での使用は、細胞破片により膜がファウリングする可能性によって複雑になり得る。次いでファウリングによって、所望の生成物は、膜を通過するのではなく、膜に保持され得る。中空繊維膜は、一般に、膜内に細孔を作成し得るポリエーテルスルホン(PES)、ポリスルホン、セルロース、およびその他の材料で作られている。このような細孔は、一般に0.2μm~0.65μmである。PESは従来、細胞破片の付着を防止する、その陰イオン性の超荷電性質(anionic supercharged nature)により、バイオプロセス適用業務に使用されてきた。しかし、ファウリング耐性があり、高固形分を含む溶液の濾過を可能にする、改善された膜は、継続的に必要とされる。
【0007】
ポリプロピレン(PP)は、一般に産業用濾過に使用されてきた疎水性材料である。特定の分子は、分子とPES膜との間の極性相互作用により、PES膜と比較してPP膜にあまり吸着されないことが知られている。具体的には、ポリフェノール、多糖類、およびタンニンは、PES膜よりPP膜に、より低レベルで吸着することが判明している。ポリプロピレン(PP)が、中空繊維膜を作成するために使用されていたが、極度の疎水性故に、およびペプチド生物製剤の変性の原因になるという信念故に、このような膜は一般にバイオテクノロジーの灌流には使用されない。
【発明の概要】
【0008】
ここでポリプロピレンは、そのファウリング耐性、ならびに高固形分を含む溶液を濾過する能力により、細胞培養物の濾過、および他の生物学的灌流にふさわしいことが判明している。PP中空繊維フィルター(Membranaによって作られるものなど)は、処理容器および従来型分離システムと併せて、フィルターハウジング内に使用され得る。システムが交互接線流または接線流濾過と共に使用される場合、PP中空繊維フィルターは濾液のより効率的な濾過を達成し、高レベルの固形物を含有する溶液においても保持液をより大幅に濃縮する。いかなる理論にも拘束されようとは思わないが、場合によっては、ファウリングは、管状ピンチ効果によって少なくとも部分的に減少し、この効果は、濾過プロセス中にフィルターフラックス(filter flux)用繊維の適切な内径を選択することで得られる。このPP中空繊維フィルターは、たとえばN-1灌流に使用され得る。
【0009】
本開示は一態様において、灌流細胞培養用の予め湿らされた使い捨て中空繊維フィルターを説明する。フィルターは、アルコールで予め湿らされ得、緩衝液中に保管され得る。
【0010】
一実施形態において、フィルターはフィルターハウジングを含み得、フィルターハウジングは、入口と、保持液出口と、透過液出口と、入口と保持液出口との間に延び、それによって保持液出口と入口とから透過液出口を流体的に分離する、少なくとも1つの疎水性中空繊維と、疎水性中空繊維をフィルターハウジングに連結し、入口および保持液出口のうち少なくとも1つを透過液出口から密閉するポッティング材と、を含む。
【0011】
いくつかの実施形態において、疎水性中空繊維は、複数の細孔を含み得る。細孔の直径は、0.05um~2.0umであり得る。疎水性中空繊維は、10cm2~90m2の表面積を備え得る。疎水性中空繊維は、0.2mm~5.0mmの内径を備え得る。疎水性中空繊維は、50um~500umの壁厚を備え得る。疎水性中空繊維は、ポリオレフィンまたはフルオロポリマーを含み得る。ポリオレフィンは、ポリプロピレン、ポリエチレン、またはそれのコポリマーであり得る。
【0012】
一態様において、本開示は、灌流細胞培養の方法を説明する。この方法は、疎水性中空繊維フィルターを通って細胞培養液を循環させ、それによって細胞培養液を濾液および保持液に分離するステップと、保持液をバイオリアクターに戻すステップと、を含み得る。
【0013】
いくつかの実施形態において、灌流細胞培養は、n-1培養および培地交換からなるグループから選択され得、いずれの場合も濾液は保持されない。灌流細胞培養は、高生産性の集菌、集中流加培養、または連続灌流からなるグループから選択され得、それぞれの場合において、濾液は、対象バイオ生成物を含み、保持される。細胞培養は、哺乳類細胞培養、酵母細胞培養、原核細胞培養、または昆虫細胞培養であり得る。細胞培養の循環は、交互接線流によって実施され得る。細胞培養の循環は、接線流濾過によって実施され得る。細胞培養液の循環は、1、2、3、4、5、10、15、20、22.5、25、30l/m2・hのフィルターフラックスで実施され得る。分離システムは、蠕動ポンプヘッドを通る蠕動配管、マグレブポンプ、ATFポンプ、および他の容積式使い捨てポンプのうち1つ以上を含み得る。本方法は、10、20、30、40、50日にわたって実施され得る。疎水性中空繊維は、ポリオレフィンまたはフルオロポリマーを含み得る。ポリオレフィンは、ポリプロピレン、ポリエチレン、またはそれのコポリマーであり得る。
【0014】
一態様において、本開示は、灌流培養システムを組み立てる方法を説明する。この方法は、予め湿らされた疎水性中空繊維フィルターを灌流培養システムのフィルターハウジングの中に配置するステップと、任意選択的にフィルターハウジングの透過液出口を透過液収集容器に連結するステップと、を含み得、(a)灌流培養システムは、処理容器と、処理容器の内部をフィルターハウジングの内部に流体的に連結してフィルター供給チャネルを画定する第1コンジットと、任意選択的に、フィルターハウジングの内部を処理容器に連結し、保持液チャネルを画定する第2コンジットと、を含み、(b)フィルターハウジング内に配置される前に、疎水性中空繊維フィルターは、アルコールを含む溶液で予め湿らされ、緩衝水溶液中に保管される。
【0015】
いくつかの実施形態において、フィルターハウジングは、濾過用の出口をさらに含み得、出口は、中空繊維疎水性フィルターによって供給チャネルおよび保持液チャネルから流体的に分離される。細胞培養液の循環は、1、2、3、4、5、10、15、20、22.5、25、30l/m2・hのフィルターフラックスで実施され得る。疎水性中空繊維は、ポリオレフィンまたはフルオロポリマーを含み得る。ポリオレフィンは、ポリプロピレン、ポリエチレン、またはそれのコポリマーであり得る。
【0016】
一態様において、本開示は、灌流細胞培養の方法を説明する。この方法は、疎水性フィルターを横切るように細胞培養培地を接線方向に通過させて、細胞培養培地の第1成分の濃度を低下させるステップを含み得、第1成分は、組換ペプチド、核酸、またはウイルスカプシドを含まない。
【0017】
いくつかの実施形態において、本方法は、10、20、30、40、50日にわたって実施され得る。細胞培養液の循環は、1、2、3、4、5、10、15、20、22.5、25、30l/m2・hのフィルターフラックスで実施され得る。疎水性中空繊維は、ポリオレフィンまたはフルオロポリマーを含み得る。ポリオレフィンは、ポリプロピレン、ポリエチレン、またはそれのコポリマーであり得る。
【0018】
一態様において、本開示は、流体を濾過する方法を説明する。この方法は、流体を疎水性中空繊維フィルターシステムの中に通過させるステップを含み得、その結果、流体は、非層流方式で疎水性中空繊維フィルターの中を流れ、流体は、保持液および透過液に分離される。
【0019】
一実施形態において、システムの供給速度と疎水性中空繊維フィルターの内径との積は、2500mm2s-1より大きくてもよい。フィルターに入る流体の流れを特徴づけるレイノルズ数は、2000、2300、2500、3000、3500、または4000より大きくてもよい。疎水性中空繊維は、ポリオレフィンまたはフルオロポリマーを含み得る。ポリオレフィンは、ポリプロピレン、ポリエチレン、またはそれのコポリマーであり得る。
【0020】
一態様において、本開示は、流体を濾過する方法を説明する。この方法は、供給速度が、流体の動粘性率を中空繊維フィルター直径で割った商より2000、2300、2500、3000、3500または4000倍大きい条件下で、流体を中空繊維フィルターの中に通過させるステップを含み得る。
【0021】
一実施形態において、疎水性中空繊維フィルターを通る流れの方向は、交互であり得る。本方法は、フィルター透過液を収集するステップをさらに含む。疎水性中空繊維フィルターは、所望しない種を保持し得る。保持された所望しない種は、哺乳類細胞由来の種;微生物細胞由来の種;ウイルス由来の種;蛋白質;核酸;多糖類;または前述のもののうち任意のものの複合体からなるグループから選択され得る。所望の種は、疎水性中空繊維フィルターの中を通過して透過液に入り得る。所望の種は、哺乳類細胞由来の種;微生物細胞由来の種;ウイルス由来の種;蛋白質;核酸;多糖類;ウイルス;マイクロキャリア;粒子;または前述のもののうち任意のものの複合体からなるグループから選択され得る。組成物は、本開示で説明された方法に従って収集された透過液を含み得る。組成物中の所望の種の濃度は、流体中の所望の種の濃度より少なくとも10倍、20倍、40倍、50倍、75倍、または100倍大きくてもよい。所望しない種の濃度は、流体中の所望しない種の濃度より少なくとも10倍、20倍、40倍、50倍、75倍、または100倍少なくてもよい。本方法は、流体から透過液を除去し、それによって疎水性中空繊維フィルターによって保持された所望の種の濃度を増加させるステップをさらに含み得、所望の種の濃度は、5倍、10倍、20倍、40倍、50倍、75倍、または100倍増加する。所望の種は、哺乳類細胞由来の種;微生物細胞由来の種;ウイルス由来の種;蛋白質;核酸;多糖類;ウイルス;マイクロキャリア;粒子;または前述のもののうち任意のものの複合体からなるグループから選択され得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1A】本開示の様々な実施形態で使用される細胞培養物を浄化するための例示的システム。
【
図1B】本開示の様々な実施形態で使用される細胞培養物を浄化するための例示的システム。
【
図2A】様々なフィルターを使用して接線流(TF)モード下で実施されたIgG抗体の浄化を示すデータ。
【
図2B】様々なフィルターを使用して接線流(TF)モード下で実施されたIgG抗体の浄化を示すデータ。
【
図3】15および22.5LMHのポリプロピレンおよびPESフィルターを使用してTF下で実施されたIgG抗体の浄化を示すデータ。
【発明を実施するための形態】
【0023】
概要
いかなる理論にも拘束されようとは思わないが、疎水性中空繊維フィルターシステムで達成された濾過プロセスは、従来使用されているPES中空繊維接線流濾過膜中で発生する濾過プロセスとは異なり、ここで中サイズ粒子は壁の内面で堆積し得、結果としてゲル層またはフィルターケーキを形成し、フィルターのファウリングが生じる。
【0024】
以下の開示では、疎水性中空繊維フィルターに焦点を当てるが、このフィルターとして、制限なしでポリプロピレンおよびポリエチレンなどのポリオレフィンが含まれ得る。以下の開示ではポリプロピレンに焦点を当てるが、当業者は、特に指示のない限り、任意の類似のポリオレフィンが使用され得ることを認識するであろう。
【0025】
ここでポリプロピレン(PP)は、そのファウリング耐性、ならびに高固形分を含む溶液を濾過する能力により、細胞培養物の濾過、および他の生物学的灌流にふさわしいことが判明している。このような性能特性は、多数のバイオプロセス適用業務にとって有利であり得;本開示は、連続灌流細胞培養および接線流濾過に焦点を当てる。このような適用業務のために設計された例示的システムにおいて、接線流PP中空繊維フィルター要素は、フィルターハウジング内に配置されて、フィルター要素によって相互に分離された供給/保持流体チャネルおよび透過(濾液とも呼ばれる)流体チャネルを画定する。供給/保持流体チャネルは次いで、処理容器とフィルターハウジングの入口(流体供給液に対応)との間の流体カップリングによって、および任意選択的にフィルターハウジングの出口(保持液に対応)と処理容器との間の戻りカップリング(return coupling)によって、バイオリアクターまたは他の処理容器と流体連絡する。PP中空繊維フィルター要素を利用する本開示による灌流培養システムは、より効率的でファウリングの少ない濾液の濾過を提供し得、高レベルの固形物を含有する溶液においても保持液の濃度を上昇させる。
【0026】
中空繊維フィルターシステムは、いくつかのフィルターパラメータおよび運転変数を特徴とする。フィルターパラメータは、中空繊維内径(d)、中空繊維長さ(l)、中空繊維断面積(A)、およびフィルター中の中空繊維ユニットの数(N)を含む。運転変数として、供給流速(Q
F)、動粘性率(μ)、中空繊維当たりの供給速度(V
F)、剪断速度(γ)、およびレイノルズ数(Re)が含まれる。表1に、フィルターパラメータと運転変数との間の関係を示す。
【表1】
【0027】
レイノルズ数は、流体流れの挙動を予測する。管状システムにおける流体流れに適用された場合、レイノルズ数が略2300未満の場合に層流が想定され、4000を上回るレイノルズ数で乱流が想定され、層流から乱流への遷移は、これらの値の間で発生する。中空繊維フィルターにおける層流および乱流の挙動は、非透過性管状システムのモデル化された挙動とはいくぶん異なり得ることに留意しながら、本発明者は、供給流れ150のレイノルズ数が、層流範囲を上回る(たとえば略2300、2500、3000、3500、4000などを上回る)場合に、本開示による中空繊維フィルターシステムが、ファウリングすることなく非常に高いフラックスを許容することを発見した。いかなる理論にも拘束されようとは思わないが、乱流供給流れは、中空繊維フィルターの壁から中空繊維フィルターを通るバルク流れまで、粒子輸送を向上させ得ると思われ、このことは、層流と比較してファウリングを減少させ得る。したがって、本開示の様々な実施形態は、中空繊維フィルターシステムを運転する方法に関し、このシステムは、乱流であるか、またはたとえば2000、2300、2500、3000、3500、4000などを上回るRe値を特徴とする層流から乱流への遷移領域内の、供給流れを利用する。供給速度、剪断速度、および/または中空繊維フィルター内径の増加とともに、Reが増加するため、本開示の特定の方法は、2000、2300、2500、3000、3500、4000などを上回るRe値を生むように選択された供給速度または剪断速度を伴う中空繊維フィルターシステムを運転するステップを含む。希薄水溶液が略1センチストーク(cSt)の動粘性率を備えるので、本方法の特定の実施形態は、供給速度と中空繊維フィルター直径との積が2000、2300、2500、3000、3500、または4000mm2s-1より大きい条件下で、中空繊維フィルターシステムを運転するステップを含む。他の実施形態では本方法は、供給速度が、動粘性率を中空繊維内径で割った商(μ/d)より2000、2300、2500、3000、3500、または4000倍大きい条件下で、中空繊維フィルターシステムを運転するステップを含み、この商は、希薄水溶液については1/dに略等しい。
【0028】
本開示の追加の実施形態は、Re値が、2000、2300、2500、3000、3500、4000などを上回る条件下で、運転するように構成された中空繊維フィルターシステムに関する。特定の実施形態において、供給速度と中空繊維フィルター直径との積は、2000、2300、2500、3000、3500、または4000mm2s-1より大きい。本開示の他の実施形態は、供給速度が、動粘性率を中空繊維フィルター内径で割った商より2000、2300、2500、3000、3500、または4000倍大きい条件下で、運転するように構成されたシステムに関する。
【0029】
本開示の特定の実施形態は、非層流を促進するように選択された中空繊維フィルタージオメトリを利用する。たとえば内径の増加は、所定の剪断速度において乱流をより促進する傾向がある。本開示の実施形態で使用される中空繊維フィルターは、1mmより大きい内径および/または0.1mmより大きい厚さの壁を持ち、高フラックス条件下での運転に耐え得る。本開示のシステムおよび方法は、交互接線流(ATF)のセットアップにおいて、または一定の接線流下で採用され得、供給流れを誘導するために任意の好適なポンプ技術を採用し得る。中空繊維フィルター壁は一定または可変の密度を有し得、したがって壁の長さおよび/または円周にわたって、一定または可変の細孔の平均直径および最大直径を有し得る。中空繊維フィルターの有孔率は、中空繊維フィルター壁面に単数または複数のコーティングを適用することでさらに制御され得る。当業者であれば、中空繊維フィルター表面の改質を追加することは、選択的に特定分子種を精製するため制限なしに親和性試薬を使用すること(たとえば、蛋白質Aのコーティングは、ヒトIgGを破壊するために使用され得る)を含めて可能であり得ることを理解するであろう。
【0030】
当業者は、約2300の遷移値またはそれを少し上回るレイノルズ数を特徴とする供給流れについて、中空繊維フィルターの長さにわたる速度の減少は、結果として流れが中空繊維フィルター内でRe遷移値2300を下回り得ることを理解するであろう。本発明者は、フィルター容量およびファウリング挙動の改善が2300という低い供給でのRe値で観測されることを発見した。これは、中空繊維フィルターの全長にわたって乱流を必ずしも維持する必要がないことと、中空繊維フィルターの長さの一部分にわたる乱流が、フィルター容量およびファウリング挙動を一定程度改善するのに十分であり得ることとを示す。このため本開示の特定の実施形態では、中空繊維フィルターシステムは、供給でのVFが2300~2500の間、または2300~3000である条件下で運転される。いくつかの実施形態では、中空繊維フィルターシステムは、フィルター中の中空繊維ユニットの長さの一部分にわたって乱流が生成されるように運転される。
【0031】
本開示による中空繊維フィルターシステムは、多様な流体を濾過し、多様な可溶性または微粒子状の種を分離するために使用され得る。これには、哺乳類細胞または他の真核細胞、大腸菌(E.coli)などのバクテリア細胞を含む微生物細胞、および/または薬剤配布用粒子などの合成ナノ粒子のみならず、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、多糖類、およびこれらのうち1つ以上の複合体などの生体分子が制限なしで含まれる。本開示のシステムおよび方法は、前述の内容を制限することなく、免疫グロブリンまたはその機能的断片などの組換え蛋白質の製造および精製において使用され得る。当業者は、本開示のシステムおよび方法が、動物または微生物の培養物の浄化、前述の種などの種の濃縮および分別など、中空繊維TFFシステムが現在使用されている任意の設定に適用され得ることを理解するであろう。
【0032】
本開示で使用される中空繊維は、広範囲の長さを有し得る。いくつかの実施形態において中空繊維は、他の値の中でも、たとえば200mm~2000mmの範囲の長さを有し得る。前述のものなどの中空繊維は、バイオプロセスおよび製薬の適用業務用の接線流フィルターを構築するために使用され得る。そのような接線流フィルターが採用され得るバイオプロセス適用業務の例には、細胞培養液が処理されて蛋白質、ウィルス、ウイルス様粒子(VLP)、エキソソーム、脂質、DNA、および他の代謝物などの、より小さな粒子から細胞を分離するような例が含まれる。
【0033】
そのような適用業務には、灌流適用業務が含まれ、この適用業務においてより小さな粒子は、透過流体としての細胞培養培地から連続的に除去され、他方、細胞は、バイオリアクターに戻る保持流体中に保持される(そして、そのバイオリアクターにおいて、同等容積の培地が、通常バイオリアクターに同時に追加されてリアクター全体の容積を維持する)。そのような適用業務は、浄化または集菌の適用業務をさらに含み、この適用業務においてより小さな粒子(概して生物学的生成物)は、より速やかに透過流体としての細胞培養培地から除去される。
【0034】
前述のものなどの中空繊維は、粒子の分別、濃縮、および洗浄用の中空繊維フィルターを構築するために使用され得る。そのような中空繊維フィルターが採用され得る適用業務の例には、そのような中空繊維フィルターを使用して大粒子から小粒子を除去することと、そのような中空繊維フィルターを使用して微小粒子を濃縮することと、そのような中空繊維フィルターを使用して微小粒子を洗浄することと、が含まれる。
【0035】
本開示による灌流システムは、フィルターハウジング、コンジット、および持続的かつ滅菌され得る他の要素(たとえばオートクレーブ、蒸気洗浄、ガンマ線照射、化学的滅菌などを通じて)、を含み得;あるいは1つ以上の要素は、使い捨てであり得、使用後に廃棄され得る。使い捨てに好都合に設計され得る1つのシステム構成要素は、PP中空繊維フィルター要素である。さらに、場合によっては、PP中空繊維フィルター要素は、予め湿らされた滅菌構成要素として提供され得る:その疎水性故に、このようなフィルター要素は、概してアルコール(たとえばメタノール、エタノール、グリコールなど)などの非極性溶剤または弱極性溶剤を使用して湿らされ、使用前に濯ぎ、平衡化する必要がある。いくつかの場合において、PP中空繊維フィルターは、脱イオン水またはPBSなどの緩衝液中に保管されてエンドユーザに提供される。さらに、これは、使用前にアルコールで予め湿らされ得る。本開示の一態様において、PPフィルターは、客先でアルコールで湿らされ得る。さらに別の態様において、PPフィルターは、グリセリンで親水化され得る。さらに別の態様において、PPフィルターは、製造中に湿らされ得、脱イオン水またはPBS緩衝液で湿らされて出荷され得る。
【0036】
本開示の灌流システムは、再利用可能なPP中空繊維フィルターシステムを含み得る。再利用可能なシステムは、(たとえばオートクレーブ、蒸気洗浄、ガンマ線照射、化学的滅菌などを介して)滅菌され得る要素を含み得る。このような再利用可能なシステムは、処理容器との無菌連結部をさらに含み得る。
【0037】
本開示による灌流システムは、PP膜と、フィルターハウジングと、ポッティング材と、フィルターが処理容器とリンクし得る1つ以上のコンジットと、を含む中空繊維フィルター;および処理容器を含み得る。本開示の処理容器は、バイオリアクターであり得る。本開示のPP膜は複数の細孔を含み得、その細孔は溶液から所望の生成物を濾過するために使用され得る。細孔径は、特定の適用業務の要件によって、0.05μm~0.2μmの範囲であり得る。PP膜は中空繊維からなり得、このような中空繊維は0.2mm~5.0mmの内径を有し得る。さらに、このような中空繊維の壁厚は、50~500μmの範囲であり得る。中空繊維は並行して(つまり束状に)配置されて、中空繊維フィルターを形成し得る。この束は、結局、10cm2~90m2の表面積になり得る。
【0038】
処理容器から中空繊維フィルターハウジングへの流体流れは一般に、たとえばマグレブ、蠕動ポンプまたはダイヤフラム/ピストンポンプなどのポンプによって駆動され、このようなポンプは流体を単一方向に推進し得るか、または流れの方向を周期的に交互に入れ替え得る。
【0039】
このような適用業務のために設計された例示的システムにおいて、接線流PP中空繊維フィルター要素は、フィルターハウジング内に配置されて、フィルター要素によって相互に分離された供給/保持流体チャネルおよび透過流体チャネルを画定する。このような実施形態は、PP膜、つまり従来この目的にとって有益であると考えられていなかった材料の使用において、現行システムと異なる。ここで記載の実施形態は、フィルターが極度に疎水性である点において、つまり濾過プロセスを妨げると従来考えられていた一態様において、有益である。しかし、この態様は、他の材料より少ないファウリングで生物学的溶液をより効率的に濾過し得ることが判明している。
【0040】
さらに、本開示は、中空繊維フィルターおよび処理容器を含む、生物学的溶液の濾過用システムに関する。中空繊維フィルターは、PP膜を含む。様々な実施形態において、PP中空繊維フィルターは、処理容器に連結され得る。このような実施形態において、フィルターは、接線流濾過または交互接線流濾過のうちいずれかに使用され得る。システムが接線流に使用される場合、細胞または他の生物学的成分は、繊維のルーメンを貫流してリアクターに戻り得る。システムが交互接線流で使用される場合、細胞または他の生物学的成分は、膜を横切る様々な方向に往復してポンプで送り出され得、濾液の流れにルーメンを通過させ、フィルターのファウリングを制限する。ここで記載の実施形態は、中空繊維フィルターを含むPP膜が疎水性である点において有益であり、そのことは次いで、濾液による細孔を通る流れを可能にするので、膜を通るより効率的な流れを可能にし得るが、膜の疎水性という性質によりファウリング状態を可能にし得ない。
【0041】
本開示はまた、PP中空繊維フィルターを使用して生物学的溶液を濾過するシステムの使用方法を説明する。一群の実施形態において、PP中空繊維フィルターは、フィルターハウジング中に設置され得る。フィルターハウジングは、第1コンジットを介して処理容器に連結され得、第2コンジットを介して濾液容器に連結され得る。ポンプは、処理容器に対して第1コンジットの反対側で、フィルターハウジングに付着され得る。ポンプの起動は、PP中空繊維フィルターを通して液体を吸い上げ得る。フィルターを通って移動する溶液は濾液であり、システムから除去され得る。膜を横切らない溶液は保持液であり、処理容器に押し戻され得る。いくつかの実施形態において、液体は生物学的液体である。さらに別の実施形態において、液体は細胞を含む。いくつかの場合において、保持液は、フィルターを通って押し戻されて処理容器に戻る。
【0042】
図1Aおよび
図1Bは、本開示の実施形態による例示的灌流培養システムを示す。
図1Aに示される灌流培養システム100は、交互接線流濾過、および任意選択的に透析濾過を提供するように構成される。システム100は、バイオリアクターなどの処理容器110と、フィルターユニット120とを含み、このフィルターユニットは、フィルター(図示せず)を含み、このフィルターは、フィルターユニットを次の2つの流体コンパートメントに分離する:供給/保持液チャネル130および透過液チャネル140(濾液チャネルとも呼ぶ)。フィルターユニット120は、ピストンまたはダイヤフラムポンプなどの容積式ポンプに結合される。供給/保持液チャネル130は、処理容器110とフィルターユニット120との間をつなぎ、他方透過液チャネル140は透過液容器170に至る。システム100はまた、透析濾過流体容器150を含む。透析濾過流体容器150からの流出は、流れ制御部155(ここではポンプとして示されるが、バルブまたは他の好適な装置であり得る)の中を通過して、透析濾過流体チャネル160に入り、この透析濾過流体チャネルは、透析濾過流体容器150を処理容器110と連結する。
【0043】
システムはまた、ここでは汎用コンピュータとして示されたコントローラ180を含むが、これは、入力を受信し、出力を送信し、予めプログラムされた命令に基づいて自動的に運転を実行し得る任意の好適な装置であり得る。コントローラ180は、周辺装置(たとえば、キーボード、タッチスクリーンなど)を介したユーザ入力を受信し得、1つ以上のセンサー181~183からのプロセスデータ入力を受信し、これらのセンサーは、処理容器110および供給/保持液チャネル130のうちの1つまたは両方の内部の培養物中の1つ以上の変数を計測する。(ただし図では、センサー181~183は、供給/保持液チャネル130にのみ連結されているように示されている)。コントローラはまた、透過液チャネル140および透析濾過流体チャネル160の1つ以上のセンサー184、185それぞれから入力を任意選択的に受信する。このようなセンサーによって測定された変数は、圧力、流れ、pH、温度、濁度、光学濃度、インピーダンス、または浄化プロセスの制御に関連する他の変数、を制限なしで含み得る。
【0044】
このような入力に基づいて、および予めプログラムされた制御アルゴリズムまたは以下に詳細に記述された制御方法を実装するヒューリスティック(heuristic)の実行を介して、コントローラ180は1つ以上の出力を生成し、容積式ポンプ125と、透析濾過流体制御部155と、透過液チャネル140を通る流れを調節する透過液バルブ192とを含む、流体流れを調節するシステム100の構成要素にデータを送信する。
【0045】
次に
図1Bに目を向けると、代替システム設計では、接線流濾過および定容積透析濾過を利用する。システム200は、処理容器210および濾過ユニット220を含むが、このシステムは、別々の流出チャネル230および戻り(保持液)チャネル235を含み、その結果、濾過ユニット220を通る流れの方向は、システム運転中には
図1Aに示されたシステムのように交互ではなく一定である。流出チャネル230は、透析濾過流体容器250からの透析濾過チャネル255と合流して、濾過ユニット220の単一の供給チャネル260になる。透過液チャネル240、透過液容器270、コントローラ280、およびセンサー281~285は、
図1Aで示されたシステムについて略記述された通りである。ただし重要なこととして、定容積透析濾過プロセスは複数の流体チャネルの制御を含み、そのためコントローラ280は、透過液チャネル240、処理容器出力(process vessel output)230、および透析濾過流体出力(diafiltration fluid output)255それぞれを通る流れを調節する複数のバルブ291、292、293に出力を送信する。
【0046】
前述の灌流培養システムの特定の特徴は、システムの他の態様を変更することなしに変更され得ることに注意しよう。たとえば、
図1Bは、定容積透析濾過用に構成されたTFFシステムを示すが、当業者は、定容積透析濾過を提供しないTFFシステムが使用され得、定容積透析濾過を提供するATFシステムが使用され得ることを理解するであろう。
【0047】
図2Aおよび
図2Bは、2つの別々の実験について、30LMHのPESおよびPPの中空繊維フィルターでの、経時的な透過液圧力およびふるい(sieving)パーセントを示す。
【0048】
図3は、
図2Aおよび
図2Bについて前述した経時的な透過液圧力およびふるいパーセントを示すが、15LMHおよび22.5LMHの透過液フラックスでの透過液圧力およびふるいパーセントを示す。この図は、PESとPPの中空繊維フィルターでのファウリングの差を示し、PESフィルターは、ファウリングが加速されることを示し、他方PPフィルターは、22.5LMHという高い透過液フラックス下においても高いふるいパーセントを保持する。
【0049】
実施例
以下の実施例は、本開示の特定の原理を例示し、本開示の範囲または内容を制限することを決して意図するものではない。
【0050】
実施例1 - ポリプロピレン(PP)フィルターおよびポリエーテルスルホン(PES)フィルターの性能比較。
本実施例は、灌流培養中にPPフィルター要素を使用することで達成され得るフィルター性能改良の経験的検証を提供する。本実施例では、PPフィルターの性能を、PESフィルターのそれと比較した。
【0051】
図2Aおよび
図2Bは、以下のフィルター、すなわち0.2PES(1.0mm)、0.2PES(0.5mm)、0.2PP(1.8mm)、および0.2PP(0.6mm)フィルターについて、処理時間(hr)に対してプロットされた透過液圧力(psi)、および処理時間に対するふるいパーセント(%)を示す。バッチプロセスは、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を含むバイオリアクターにおいて1.5Lの作業体積で実行した。フィルターフラックスは、30リットル/m
2・hrに設定した。IgG抗体の浄化は、接線流(TF)モードで実施した。この図は、0.2PP(1.8mm)のフィルターが、経時的に一貫して高レベルのふるいパーセント、および一貫して低い透過液圧力という結果を生み出すことを示す。重要なこととして、類似した細孔径を有するPESフィルターおよびPPフィルターは、本テストでは異なる挙動を示した:0.2PES(0.5mm)フィルターは、プロセスの最初の10時間内に、ふるい百分率および透過液圧力の両方において急激な落ち込みを呈した。逆に、0.2PP(0.6mm)フィルターは、20時間超にわたって高いふるいおよび一貫した透過液圧力を呈し、1.0mmPESフィルターをもしのいだ。これは、材料の差(PES対PP)がファウリング性能に有意の効果を与えることを示す。浄化プロセス用のPPフィルターの使用は、処理時間の延長を可能にし得、同容積の培養培地の浄化に必要な表面積を減少させ得、潜在的に収率の増加および単価の低下をもたらす。歴史的にみて、これまでPPは蛋白質を変性させるであろうと想定されていたため、PPフィルターは長期培養に使用されてこなかった。いかなる理論にも拘束されようとは思わないが、前述の実験結果は、このようなフィルターが変性せず、実際に長期の培養期間にわたって使用され得ることを示唆している。
【国際調査報告】