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特表2022-516727単糖を生成するための生合成法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-02
(54)【発明の名称】単糖を生成するための生合成法及び装置
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/02 20060101AFI20220222BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20220222BHJP
   C12P 1/00 20060101ALI20220222BHJP
   C12N 9/04 20060101ALN20220222BHJP
   C12N 9/02 20060101ALN20220222BHJP
   C12N 9/12 20060101ALN20220222BHJP
【FI】
C12P19/02
C12M1/00 Z
C12M1/00 D
C12P1/00 A
C12N9/04
C12N9/02
C12N9/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021538408
(86)(22)【出願日】2019-12-12
(85)【翻訳文提出日】2021-08-18
(86)【国際出願番号】 US2019065971
(87)【国際公開番号】W WO2020139570
(87)【国際公開日】2020-07-02
(31)【優先権主張番号】62/786,403
(32)【優先日】2018-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521285115
【氏名又は名称】セムヴィータ ファクトリー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100212509
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 知子
(72)【発明者】
【氏名】カリミ タヘレ
【テーマコード(参考)】
4B029
4B050
4B064
【Fターム(参考)】
4B029AA27
4B029BB02
4B029BB16
4B029CC01
4B029DB01
4B050DD02
4B050LL10
4B064AF02
4B064CA02
4B064CA21
4B064CB11
4B064CB16
4B064CB30
4B064CC09
4B064DA20
(57)【要約】
本開示は、単糖を形成するための生合成法、及びそれを生成するための装置に関する。本明細書に開示の方法及び装置の利益としては、自動化工程での単糖の持続可能な生産を挙げることができる。本明細書の方法及び装置の利益は、再生可能な原材料から単糖を生成することであり得る。本明細書の方法及び装置の追加の利益としては、栄養素として使用するための及び他の有用な応用のための選択された単糖を効率的に生成するための、二酸化炭素等の豊富な供給原料の使用を挙げることができる。本明細書に開示の方法及び装置の別の利益としては、過剰な二酸化炭素が環境から削減されることを挙げることができる。
【選択図】図2B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単糖を形成するための方法であって、
水素ガスを含む水素源を水性電解質溶液に提供すること;
二酸化炭素源を提供すること;
前記水素源及び前記二酸化炭素源を、水性反応溶液を含む合成反応容器へと供給することにより反応混合物を形成し、前記水性反応溶液は、複数の光合成酵素、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)及びアデニン三リン酸(ATP)を含む少なくとも2つのコファクター、並びに少なくとも1つの基質を含むこと;並びに
前記水素源、前記二酸化炭素源、並びに前記複数の光合成酵素及び前記少なくとも2つのコファクターに接触している前記少なくとも1つの基質を反応させることにより、前記単糖の量を前記合成反応容器にて形成すること
を含む方法。
【請求項2】
前記合成反応容器は、電気化学セル及び電源を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電気化学セルにて水の加水分解を実施して水素ガスを生産することにより、前記水素源を提供することを更に含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記複数の光合成酵素は、リブロース-1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼオキシゲナーゼ(Rubisco)、アデニル酸シクラーゼ、グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)、アルドラーゼ、フルクトース1,6-ビスホスファターゼ、フルクトース6-ホスファターゼ、ホスホグルコイソメラーゼ、グルコース6-ホスファターゼ、及びホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)、若しくはそれらの組合せからなる群から選択されるか、又は
前記少なくとも1つの基質は、リブロース1,5-ビスホスフェート(RuBP)、グリセルアルデヒド-3ホスフェート、3-ホスホグリセレート、1,3-ビスホスホグリセレート、若しくはそれらの組合せを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記単糖は、1分子当たり3~6個の炭素原子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記単糖は、グルコース、フルクトース、及びグリセルアルデヒドからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記電気化学セルは、少なくとも1対のグラファイトベース電極若しくは少なくとも1つの光化学触媒を含むか、又は
前記電気化学セルは、窒化炭素触媒を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記反応混合物は、ポリリン酸キナーゼ(PPK)、アデニル酸キナーゼ(ADK)、及びAMP-ホスホトランスフェラーゼ、若しくはそれらの組合せから選択される少なくとも1つのATP再生酵素を含むか、又は
前記反応混合物は、アデニン一リン酸(AMP)及びポリホスフェート若しくはそれらの組合せから選択される少なくとも1つのATP再生基質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
NAD(P)+の量を前記水素源と反応させることにより前記NADPHを再生することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記二酸化炭素源を、約80ml/分~約110ml/分の流速で前記水性反応溶液へと供給すること、又は
約-1.5V~約5.5Vの電圧で加水分解を実施すること
を更に含む、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
前記反応混合物を摂氏約20度~摂氏約50度の温度に維持すること、又は前記反応混合物を約7.0~約10.0のpHに維持することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
約2mg/ml~約40mg/mlの生産率で前記反応混合物から形成される単糖の量を回収することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記形成される単糖の量は、前記反応混合物中で約2mg/ml~約40mg/ml若しくはそれよりも高い濃度を有するか、又は
前記水性反応溶液は、ヒドロゲルに固定化された前記複数の光合成酵素を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記ヒドロゲルは、アルギン酸塩又はアルギン酸カルシウムを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記複数の光合成酵素の少なくとも1つは、シアノバクテリア種により発現される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記電源は、太陽光発電、日光、電力、又はそれらの組合せを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項17】
二酸化炭素及び水から単糖を生成するための合成装置であって、
電源を含む加水分解電気化学反応器、
二酸化炭素源、
前記加水分解電気化学反応器セルに接触している水素流体流路と、前記二酸化炭素源に接触している二酸化炭素流体流路と、複数の光合成酵素、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)及びアデニン三リン酸(ATP)を含む少なくとも2つのコファクター、並びに少なくとも1つの基質を含む水性反応溶液とを含む単糖発生器容器
を含む合成装置。
【請求項18】
前記水性反応溶液は、ポリリン酸キナーゼ(PPK)、アデニル酸キナーゼ(ADK)、及びAMP-ホスホトランスフェラーゼ、又はそれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1つのATP再生酵素;並びにアデニン一リン酸(AMP)及びポリホスフェート又はそれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1つのATP再生基質を含む、請求項17に記載の合成装置。
【請求項19】
前記水性反応溶液は、ヒドロゲルに固定化された前記複数の光合成酵素を含む、請求項17に記載の合成装置。
【請求項20】
前記加水分解電気化学反応器セルに接続された酸素貯蔵容器を更に含む、請求項17に記載の合成装置。
【請求項21】
単糖を形成するための方法であって、
水素ガスを含む水素源を水性電解質溶液に提供すること;
二酸化炭素源を提供すること;
前記水素源及び前記二酸化炭素源を、水性反応溶液中のシアノバクテリア種、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)及びアデニン三リン酸(ATP)を含む少なくとも2つのコファクター、並びに少なくとも1つの基質を含む細胞反応容器へと供給することにより反応混合物を形成し、前記シアノバクテリア種は、複数の光合成の酵素を発現すること;並びに
前記水素源、前記二酸化炭素源、並びに前記複数の光合成酵素及び前記少なくとも2つのコファクターに接触している前記少なくとも1つの基質を反応させることにより、前記単糖の量を前記合成反応容器にて形成すること
を含む方法。
【請求項22】
前記シアノバクテリア種は、少なくとも1つの光合成酵素をコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの細菌ベクタープラスミドを発現し、前記シアノバクテリア種は、シネココッカス・エロンガタスを含み、前記水性反応溶液は、ヒドロゲルに固定化された前記シアノバクテリア種を含むか;又は前記方法は、前記水性反応溶液に少なくとも1つの塩を添加することにより前記シアノバクテリア種の増殖を刺激することを更に含む、請求項21に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、単糖を形成するための生合成法、及びそれを生成するための装置に関する。本明細書に開示の方法及び装置の利益としては、自動化工程での単糖の持続可能な生産を挙げることができる。本明細書の方法及び装置の利益は、再生可能な原材料から単糖を生成することであり得る。本明細書の方法及び装置の追加の利益としては、栄養素として使用するための及び他の有用な応用のための選択された単糖を効率的に生成するための、二酸化炭素等の豊富な供給原料の使用を挙げることができる。本明細書に開示の方法及び装置の別の利益としては、過剰な二酸化炭素が環境から削減されることを挙げることができる。
【背景技術】
【0002】
炭水化物は、ほとんど全ての生物学的方法に対するエネルギー提供に中心的な役割を果たす。植物及びある特定の微生物は、光合成のカルビン回路により二酸化炭素から炭素を固定することにより、食料源としての炭水化物を産生することができる。カルビン回路の反応は、豊富で経済的な炭素源としての二酸化炭素を含む分子供給原料を炭水化物合成の前駆体として利用することができる可能性がある。生物学的に重要な炭水化物、特にグルコース等の単糖の生産は、栄養素及び他の有用な産物の重要で持続可能な供給源を提供することができる。グルコースは、ほぼ全ての生体分子の合成のための基材としての役目を果たし、幅広い範囲のバイオ製造工程の供給原料として使用されているため、重要な単糖である。例えば、二酸化炭素からの単糖の生産は、長期宇宙旅行のための安全で持続可能な栄養素の供給源を提供することができる。しかしながら、単糖を工業規模で生産するために持続可能な供給原料を活用することは、依然として困難である。
世界的な電力需要の増加は、石油及びガス等の化石燃料の燃焼から過剰な二酸化炭素がもたらされることに結び付き、いわゆる地球温暖化危機の大きな要因になっている。産業界は、大気中への二酸化炭素進入を防止すべく懸命であり、そのためには二酸化炭素を排気ガス及び大気から隔離することに頼らざるを得ない。従って、二酸化炭素は地下環境に貯蔵される。しかしながら、現在知られている隔離方法は全て、二酸化炭素を地下に貯蔵することにより二酸化炭素を大気から除去しているに過ぎない。現行の方法は、実際には、二酸化炭素を任意の他の有用な物質へと変換して戻すものではない。
現代史に基づくと、大気中の過剰な二酸化炭素は、削減が有益になる程度まで削減されることはないと言っても過言ではない。より効率的な再生可能で持続可能な技術により単糖を生産する必要性が依然として存在する。過剰な二酸化炭素を大気から除去する必要性が依然として存在する。栄養素として使用するために及び他の応用のために、グルコース及び他の単糖を再生可能な供給原料から商業規模で生産するための方法に対する必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0003】
本明細書の実施形態は、単糖を形成するための方法に関する。そのような実施形態では、本方法は、水素ガスを含む水素源を水性電解質溶液に提供すること;炭素源を提供すること;水素源及び二酸化炭素源を、水性反応溶液を含む反応容器へと供給することにより反応混合物を形成し、水性反応溶液は、複数の光合成酵素、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)及びアデニン三リン酸(ATP)を含む少なくとも2つのコファクター、並びに少なくとも1つの基質を含むこと、を含む。種々の実施形態では、本方法は、水素源、二酸化炭素源、並びに複数の光合成酵素及び少なくとも2つのコファクターと接触している少なくとも1つの基質を反応させることにより、合成反応容器にて単糖の量を形成することを含む。
ある特定の具体的な方法では、合成反応容器は、電気化学セル及び電源を含む。ある特定の実施形態では、本方法は、電気化学セルにて水の加水分解を実施して、水素ガスを生産することにより水素源を提供することを含む。ある特定の実施形態では、電気化学セルは、少なくとも1対のグラファイトベース電極又は少なくとも1つの光化学触媒を含む。ある特定の実施形態では、電気化学セルは、窒化炭素触媒を含む。ある特定の実施形態では、電源は、太陽光発電、日光、電力、又はそれらの組合せを含む。
【0004】
ある特定の具体的な方法では、複数の光合成酵素は、リブロース-1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼオキシゲナーゼ(Rubisco)、アデニル酸シクラーゼ、グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)、アルドラーゼ、フルクトース1,6-ビスホスファターゼ、フルクトース6-ホスファターゼ、ホスホグルコイソメラーゼ、グルコース6-ホスファターゼ、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)、又はそれらの組み合わせを含む。ある特定の実施形態では、少なくとも1つの基質は、リブロース1,5-ビスホスフェート(RuBP)、グリセルアルデヒド-3ホスフェート、3-ホスホグリセレート、1,3-ビスホスホグリセレート、又はそれらの組合せを含む。
ある特定の実施形態では、単糖は、1分子当たり3~6個の炭素原子を含む。ある特定の実施形態では、単糖は、グルコース、フルクトース、グリセルアルデヒド、又はそれらの組合せを含む。ある特定の実施形態では、形成される単糖の量は、反応混合物中で約2mg/ml~約40mg/mlの濃度を有する。ある特定の実施形態では、本方法は、約2mg/ml~約40mg/mlの生産率で反応混合物から形成される単糖の量を回収することを含む。
本明細書の方法のある特定の実施形態では、反応混合物は、少なくとも1つのATP再生酵素を含む。ある特定の実施形態では、少なくとも1つのATP再生酵素は、ポリリン酸キナーゼ(PPK)、アデニル酸キナーゼ(ADK)、AMP-ホスホトランスフェラーゼ、又はそれらの組合せを含む。ある特定の実施形態では、反応混合物は、少なくとも1つのATP再生基質を含む。ある特定の実施形態では、少なくとも1つのATP再生基質は、アデニン一リン酸(AMP)、ポリホスフェート、又はそれらの組合せを含む。ある特定の実施形態では、本方法は、NAD(P)+の量を水素源と反応させることによりNADPHを再生することを更に含む。
【0005】
ある特定の実施形態では、本方法は、二酸化炭素源を、約80ml/分~約110ml/分の流速で水性反応溶液へと供給することを含む。ある特定の実施形態では、本方法は、約-1.5V~約5.5Vの電圧で加水分解を実施することを含む。ある特定の実施形態では、本方法は、反応混合物を、摂氏約20度~摂氏約50度の温度に維持することを含む。ある特定の実施形態では、本方法は、反応混合物を、約7.0~約10.0のpHに維持することを含む。
ある特定の具体的な方法では、水性反応溶液は、ヒドロゲルに固定化された複数の光合成酵素を含む。ある特定の実施形態では、ヒドロゲルは、アルギン酸塩又はアルギン酸カルシウムを含む。ある特定の実施形態では、複数の光合成酵素の少なくとも1つは、シアノバクテリア種(Cyanobacteria sp)により発現される。
本明細書の実施形態は、二酸化炭素及び水から単糖を生成するための合成装置に関する。種々の実施形態では、装置は、以下のものを含む加水分解電気化学反応器を含む:電源;二酸化炭素源;加水分解電気化学反応器セルに接触している水素流体流路を含む単糖発生器容器;二酸化炭素源に接触している二酸化炭素流体流路;並びに複数の光合成酵素、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)及びアデニン三リン酸(ATP)を含む少なくとも2つのコファクター、並びに少なくとも1つの基質を含む水性反応溶液。ある特定の実施形態では、装置は、加水分解電気化学反応器セルに接続された酸素貯蔵容器を更に含む。ある特定の実施形態では、水性反応溶液は、ポリリン酸キナーゼ(PPK)、アデニル酸キナーゼ(ADK)、及びAMP-ホスホトランスフェラーゼ、又はそれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1つのATP再生酵素;並びにアデニン一リン酸(AMP)、ポリホスフェート、又はそれらの組合せを含む少なくとも1つのATP再生基質を含む。ある特定の実施形態では、水性反応溶液は、ヒドロゲルに固定化された複数の光合成酵素を含む。
【0006】
本明細書の実施形態は、単糖を形成するための方法に関する。ある特定のそのような実施形態では、本方法は、水素ガスを含む水素源を水性電解質溶液に提供すること;二酸化炭素源を提供すること;水素源及び二酸化炭素源を、水性反応溶液中のシアノバクテリア種、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)及びアデニン三リン酸(ATP)を含む少なくとも2つのコファクター、並びに少なくとも1つの基質を含む細胞反応容器(cellular reaction vessel)へと供給することにより反応混合物を形成することを含む。そのような実施形態では、シアノバクテリア種は、複数の光合成の酵素を発現する。そのような実施形態では、本方法は、水素源、二酸化炭素源、並びに複数の光合成酵素及び少なくとも2つのコファクターに接触している少なくとも1つの基質を反応させることにより、単糖の量を合成反応容器にて形成することを含む。ある特定の実施形態では、シアノバクテリア種は、少なくとも1つの光合成酵素をコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの細菌ベクタープラスミドを発現する。ある特定の実施形態では、シアノバクテリア種は、シネココッカス・エロンガタス(Synechococcus elongatus)を含む。ある特定の実施形態では、水性反応溶液は、ヒドロゲルに固定化されたシアノバクテリア種を含む。ある特定の実施形態では、本方法は、少なくとも1つの塩を水性反応溶液に添加することにより、シアノバクテリア種の増殖を刺激することを更に含む。
【0007】
前述の概要並びに実施形態の以下の詳細な説明は、添付の図面と共に読むとより良好に理解されるだろう。例示の目的で、好ましい場合がある一部の実施形態が図面に示されている。図示されている実施形態は、示されている正確な詳細に限定されないことが理解されるべきである。特に明記されていない限り、図面は縮尺通りではない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】1つ又は複数の単糖を形成するための本明細書の方法の実施形態を図示するフローチャートである。
図2A】本明細書の一部の実施形態による電気化学セルの概略図である。
図2B】本明細書の一部の実施形態による、単糖を生成するための装置の概略図である。
図3】本明細書の一部の実施形態による経時的なグルコースの生産を示すグラフである。
図4】本明細書の一部の実施形態によるグルコース生産に対する温度の効果を示すグラフである。
図5】本明細書の一部の実施形態によるグルコース生産に対するpHの効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
特に明記されていない限り、測定値は全て、標準メートル単位系である。
特に明記されていない限り、「a」、「an」、又は「the」という単語の出現は全て、それらが修飾する単語の1つ又は1つよりも多くを指すことができる。
特に明記されていない限り、「少なくとも1つ」という語句は、物体の1つ又は1つよりも多くを意味する。例えば、「少なくとも1つの基質」は、1つの基質、1つよりも多くの基質、又はそれらの任意の組合せを意味する。
特に明記されていない限り、「約」という用語は、最も近い整数に丸められた記載の非パーセント数値の±10%を指す。例えば、摂氏約50度は、摂氏45~55度を含むことになる。特に明記されていない限り、「約」という用語は、パーセント数値の±5%を指す。例えば、約40%は、35~45%を含むことになる。「約」という用語は、範囲の点で考察されている場合、下限より小さく、上限よりも大きな適切な量を指す。例えば、摂氏約20度~摂氏約50度は、摂氏18度~摂氏55度を含む。
【0010】
特に明記されていない限り、本明細書に記載の特性(高さ、幅、長さ、比等)は、平均化された測定値であると理解される。
特に明記されていない限り、「提供する」、「提供される」、又は「提供すること」という用語は、本明細書の任意の実施形態の任意の方法又は装置の任意の要素の供給、生産、購入、製造、組立て、形成、選択、構成、変換、導入、添加、若しくは組込み、量、成分、試薬、定量、測定、又は分析を指す。
特に明記されていない限り、「単糖」という用語は、これらに限定されないが、グルコース、フルクトース、グリセルアルデヒド、及びそれらの組合せを含む、1分子当たり3~6個の炭素原子を含む糖類を指す。
複写を容易にするため、CO2等の慣習的な式は、下付き数字を使用せずにCO2と書かれることが多い。特に明記されていない限り、CO2及びCO2は同義的である。
特に明記されていない限り、「流体流路」は、流体流路が、連続して接続されている流体流の経路を形成可能である限り、バルブ等の開閉により制御及び中断することができる流体流の経路を指す。
【0011】
ほとんど全ての生物学的方法は炭水化物を必要とする。それらの中でも、グルコース等の単糖は、最も不可欠な生物学的機能に対するエネルギー提供に中心的な重要性を有する。また、グルコースは、種々の産業及び研究努力に無数の有益な使用を有しているだけでなく、栄養素の主要な供給源でもある。従って、グルコースを含む単糖の商業規模での生成は、人間に安全な食料源の利益を提供するだけでなく、数多くの多様な他の有用な産物の供給源を提供することができる。単糖を現地で持続可能な様式で生産する能力は、長期宇宙飛行ミッション中の食料源の問題に対処する助けにもなり得る。
火星に着陸した人々等の長期宇宙旅行の主な制約の1つは、安全で栄養価の高い食料系の生産である。現在、ほとんど全ての物資は地球からの支援である。しかしながら、地球物資に依存することは、乗組員がグルコース等の日常的な医学的物資を利用可能でない場合、1つの予期しない健康問題が乗組員の病気及び死亡をもたらす場合があるため、長期宇宙飛行ミッションではリスクである。NASAが応用するための最先端(SOA)技術は、存在しないか又は規模が小さ過ぎるかのいずれかである。既存のCO2変換装置は、重いか、非効率的であるか、又は消費電力が大き過ぎる。以前の人工光合成装置は、光合成の1つの側面のみを、例えばCO2抽出又は太陽エネルギーの電気への変換を対象にするに過ぎない。バイオマス生産のための他の手法は、細菌培養に依存しており、多大な世話が必要である。光合成は、地球上の生命を維持するための基本的なエネルギー要件を提供する。しかしながら、宇宙での植物栽培は、重力が微小であり環境条件が過酷であるため非常に困難である。従って、現地資源利用(ISRU)のための解決策の開発は、長期宇宙飛行ミッションのための確実な食料系を提供するために重要である。
【0012】
本開示の実施形態は、自己再生性であり管理をほとんど必要としない装置、及び単糖のような基本栄養素を大規模に作出するバイオ再生性食料系の利益を提供することができる。栄養素バイオマスがリアルタイムで作られれば、包装及び貯蔵寿命はもはや問題ではない。本明細書の実施形態は、豊富な太陽エネルギーを回収してCO2及び水をグルコース及び酸素へと変換する植物及びある特定の細菌での自然光合成をモデル化したISRU解決策を提供することができる。宇宙飛行士は1人当たり1日当たり1kgものCO2を排出するため、CO2は、ISRUのための理想的な供給原料である。また、火星の大気も96%のCO2を含むため、CO2をグルコースへと変換することは、火星での長期的居住のために更に有用である。加えて、本開示の実施形態は、乗組員保健医療のために栄養素及び薬剤の両方を送達するためのIV流体を含む、多種多様な生命維持資源を製作するように構成することができる装置を提供することができる。
現在、社会が化石燃料に依存していることを考慮すると、大気二酸化炭素レベルを削減することができ、気候変動を緩和又は逆行させることができる技術を開発することに対する大きな必要性が存在する。CO2捕捉の効率が高く、環境に優しい出力産物の生産を伴う装置の開発は、地球の気候に対して重大な効果を及ぼすことができる。炭素捕捉貯蔵(CCS)等の炭素捕捉法は、二酸化炭素排出量を削減するための費用効果が高く手頃な方法であるが、二酸化炭素が散逸するまで地下に貯蔵しておくに過ぎないという問題が残る。従って、現在利用可能な方法は、大気中の過剰な二酸化炭素を削減するための持続可能な解決策を提供しない。単糖を商業規模で生産するために、二酸化炭素等の持続可能な供給原料を活用することは、依然として困難である。
【0013】
単糖を生産する化学反応は、単糖生産のための豊富な再生可能で経済的な基本成分として二酸化炭素を利用することができる可能性がある。自然光合成は、持続可能性のための及びCO2から付加価値物質を生産するための優れたモデルである。自然光合成中、植物は、日光及び大気中のCO2を吸収して、炭水化物及び酸素を生産する。現行のCO2利用法のほとんどは、高エネルギー要件に依存し、その後CO2排出を引き起こす電気化学的触媒法に着目している。電気化学的触媒法と比較して、自然光合成及び他の生物学ベースのCO2利用法の主な利点は、生物学的方法は周囲温度及び周囲圧力で稼動させることができることである。人工光合成に関する研究は盛んに行われているが、主な焦点は太陽燃料の生産であり、他の試みでは、人工光合成は、化学物質を生産するためのバイオ製造法として適用されている。そうした方法では、白金、レニウム、及びイリジウムのような希少で高価な金属が触媒として使用される。人工光合成を用いて食料及び人間の生命を支える物資を製造することに関しては、非常に限られた研究しか行われていない。
【0014】
本明細書の実施形態は、日光等の電力源、CO2、及び水を吸収して、酸素及びグルコース等の1つ又は複数の単糖を生成し、光合成の光依存性段階及び光非依存性段階に類似する酵素ベース合成経路にて完全な光合成プロセスを模倣する。本明細書の実施形態の利点としては、水を加水分解するために太陽エネルギーを活用すること、酸素を放出すること、及びCO2還元反応における次のステップに水素を提供することを挙げることができる。そのような実施形態は、制御された環境において酵素的光合成機構を使用し、太陽エネルギー及びCO2しか必要としない生合成工程の利益を提供することができる。そのような実施形態は、酸素及び栄養素を現地で生産する、バイオ再生性でコンパクトな携帯可能で費用効果の高い太陽光セルの利益を提供することができる。本明細書の実施形態は完全な光合成方法を模倣するため、様々な化学反応を調整して、水、栄養素、プロバイオティクス、静脈内流体、及びポリマーを含む様々なバイオマス出力を生産することができる。
本開示の実施形態は、二酸化炭素、水、及び光エネルギーを供給原料として使用して生物学的に重要な単糖を生産するための方法及び装置の利益を提供することができる。そのような実施形態は、大気からの過剰二酸化炭素除去を支援する役目を果たしつつ、栄養素及び他の有用な産物の持続可能で再生可能な供給源の重要な利益を提供することができる。
本開示は、単糖を形成するための方法、及びそのための合成装置に関する。本明細書に開示の方法の基本的概要として、図1を参照すると、本方法の実施形態は、水素ガスを含む水素源を水性電解質溶液102に提供すること;二酸化炭素源104を提供すること;水素源及び二酸化炭素源を、水性反応溶液108を含む合成反応容器106へと供給することにより反応混合物106を形成し、水性反応溶液は、複数の光合成酵素110、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)及びアデニン三リン酸(ATP)を含む少なくとも2つのコファクター112、並びに少なくとも1つの基質114を含むこと;並びに水素源、二酸化炭素源、並びに複数の光合成酵素及び少なくとも2つのコファクターに接触している少なくとも1つの基質を反応させることにより、単糖の量116を合成反応容器にて形成することを含む。
【0015】
本明細書に開示の装置の例示として、図2Aを参照すると、合成装置200は、電源204、イオン交換膜210により隔てられている負極206及び正極208、生産された水素212、並びに生産された酸素214を含む加水分解電気化学セル反応器202を含む。図2Bを参照すると、単糖発生器容器216は、加水分解電気化学セル反応器202に接触している水素流体流路218と、二酸化炭素源222に接触している二酸化炭素流体流路220と、複数の光合成酵素、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)及びアデニン三リン酸(ATP)を含む少なくとも2つのコファクター、並びに少なくとも1つの基質を含む水性反応溶液224と、サーマルジャケット226と、撹拌装置228と、ガス分配器230と、ガスケット232を有する脱着可能な上部と、ガスサンプリングポート234と、液体サンプリングポート236と、出口ポンプ238と、流出物240とを含む。
図3は、本明細書の一部の実施形態による摂氏37度及びpH7.4での酵素ベース光合成反応における経時的なグルコース生産を示すグラフである。
図4は、本明細書の一部の実施形態によるpH7.4での酵素ベース光合成反応における24時間後のグルコース生産に対する温度の効果を示すグラフである。
図5は、本明細書の一部の実施形態による摂氏37度での酵素ベース光合成反応における24時間後のグルコース産生に対するpHの効果を示すグラフである。
【0016】
単糖を形成するための方法の実施形態
本明細書の実施形態は、単糖を形成するための方法に関する。そのような実施形態では、本方法は、水素ガスを含む水素源を水性電解質溶液に提供すること;炭素源を提供すること;水素源及び二酸化炭素源を、水性反応溶液を含む反応容器に供給することにより反応混合物を形成し、水性反応溶液は、複数の光合成酵素、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)及びアデニン三リン酸(ATP)を含む少なくとも2つのコファクター、並びに少なくとも1つの基質を含むこと、を含む。種々の実施形態では、本方法は、水素源、二酸化炭素源、並びに複数の光合成酵素及び少なくとも2つのコファクターに接触している少なくとも1つの基質を反応させることにより、単糖の量を合成反応容器にて形成することを含む。そのような実施形態は、自動化工程での単糖の持続可能で連続的な生産の利益を提供することができる。
ある特定の具体的な方法では、合成反応容器は、電気化学セル及び電源を含む。一部の実施形態では、電源は、太陽光発電又は日光を含む。そのような実施形態では、電源は、太陽光発電セルを使用して発電することができる。他の実施形態では、電源は、電力、又は電力と日光又は太陽光発電との組み合わせを含んでいてもよい。ある特定の実施形態では、本方法は、電気化学セルにて水の加水分解を実施して、水素ガスを生産することにより水素源を提供することを含む。ある特定の実施形態では、電気化学セルは、少なくとも1対のグラファイトベース電極又は少なくとも1つの光化学触媒を含む。ある特定の実施形態では、電気化学セルは、窒化炭素触媒を含む。
【0017】
ある特定の具体的な方法では、複数の光合成酵素は、リブロース-1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼオキシゲナーゼ(Rubisco)、アデニル酸シクラーゼ、グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)、アルドラーゼ、フルクトース1,6-ビスホスファターゼ、フルクトース6-ホスファターゼ、ホスホグルコイソメラーゼ、グルコース6-ホスファターゼ、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)、又はそれらの組合せを含む。ある特定の実施形態では、少なくとも1つの基質は、リブロース1,5-ビスホスフェート(RuBP)、グリセルアルデヒド-3ホスフェート、3-ホスホグリセレート、1,3-ビスホスホグリセレート、又はそれらの組合せを含む。ある特定の実施形態では、複数の光合成酵素は、シアノバクテリア種細菌に由来してもよい。一実施形態では、少なくとも1つの基質は、CO2、H2O、水素、及び/又は光を含んでいてもよい。ある特定の実施形態では、シアノバクテリア種は、シネココッカス・エロンガタスを含む。一部の実施形態では、複数の光合成酵素は、好熱性細菌に由来してもよい。ある特定の実施形態では、好熱性細菌としては、温泉にいるシアノバクテリア種を挙げることができる。ある特定の実施形態では、複数の光合成酵素は、組換え微生物により発現させることができる。ある特定の実施形態では、組換え微生物は、少なくとも1つの光合成酵素をコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの細菌ベクタープラスミドを発現する。ある特定の実施形態では、組換え微生物は、シアノバクテリア種を含む。ある特定の実施形態では、シアノバクテリア種は、シネココッカス・エロンガタスを含む。
【0018】
ある特定の実施形態では、単糖は、1分子当たり5又は6個の炭素原子を含む、1分子当たり3~6個の炭素原子を含む。ある特定の実施形態では、単糖は、炭素、酸素、及び水素以外の元素を除外する。ある特定の実施形態では、単糖は、グルコース、フルクトース、グリセルアルデヒド、又はそれらの組合せを含む。ある特定の実施形態では、形成される単糖の量は、反応混合物中で約2mg/ml~約40mg/ml又はそれよりも高い濃度を有する。ある特定の実施形態では、形成される単糖の量は、反応混合物中で約7mg/ml~約35mg/ml又はそれよりも高い濃度を有する。ある特定の実施形態では、形成される単糖の量は、反応混合物中で約15mg/ml~約25mg/ml又は約15mg/ml~約35mg/ml又はそれよりも高い濃度を有する。ある特定の実施形態では、本方法は、約2mg/ml~約40mg/ml又はそれよりも高い生産率で反応混合物から形成される単糖の量を回収することを含む。ある特定の実施形態では、本方法は、約7mg/ml~約35mg/ml又はそれよりも高い生産率で反応混合物から形成される単糖の量を回収することを含む。ある特定の実施形態では、本方法は、約15mg/ml~約25mg/ml又は約15mg/ml~約35mg/ml又はそれよりも高い生産率で反応混合物から形成される単糖の量を回収することを含む。
【0019】
本明細書の方法のある特定の実施形態では、反応混合物は、少なくとも1つのATP再生酵素を含む。ある特定の実施形態では、少なくとも1つのATP再生酵素は、ポリリン酸キナーゼ(PPK)、アデニル酸キナーゼ(ADK)、AMP-ホスホトランスフェラーゼ、又はそれらの組合せを含む。ある特定の実施形態では、反応混合物は、少なくとも1つのATP再生基質を含む。ある特定の実施形態では、少なくとも1つのATP再生基質は、アデニン一リン酸(AMP)、ポリホスフェート、又はそれらの組合せを含む。ある特定の実施形態では、本方法は、NAD(P)+の量を水素源と反応させることによりNADPHを再生することを更に含む。そのような実施形態は、単糖形成反応に必要なコファクターを再生することにより、自己再生的で持続可能な単糖生産の利益を提供することができる。
【0020】
種々の実施形態では、二酸化炭素源は、宇宙船、軌道プラットフォーム、又は軌道船内にある周囲ガスに由来してもよい。ある特定の実施形態では、二酸化炭素源は、大気中の二酸化炭素、精錬及び他の工業工程から捕捉された二酸化炭素、又は地下層又は貯蔵タンクに貯蔵されている二酸化炭素に由来してもよい。ある特定の実施形態では、本方法は、二酸化炭素源を、約80ml/分~約110ml/分の流速で水性反応溶液へと供給することを含む。ある特定の実施形態では、本方法は、二酸化炭素源を、約85ml/分~約105ml/分の流速で水性反応溶液へと供給することを含む。ある特定の実施形態では、本方法は、二酸化炭素源を、約90ml/分~約100ml/分の流速で水性反応溶液へと供給することを含む。
ある特定の実施形態では、本方法は、約-1.5V~約5.5Vの電圧で加水分解を実施することを含む。ある特定の実施形態では、本方法は、約1.5V~約2.5Vの電圧で加水分解を実施することを含む。ある特定の実施形態では、本方法は、約1.9V~約2.1Vの電圧で加水分解を実施することを含む。ある特定の実施形態では、本方法は、反応混合物を、摂氏約20度~摂氏約50度の温度で維持することを含む。ある特定の実施形態では、本方法は、反応混合物を、約7.0~約10.0のpHに維持することを含む。ある特定の実施形態では、本方法は、反応混合物を、約7.5~約9.5のpHに維持することを含む。ある特定の実施形態では、本方法は、反応混合物を、約8.0~約9.0のpHに維持することを含む。
【0021】
ある特定の具体的な方法では、水性反応溶液は、ヒドロゲルに固定化された複数の光合成酵素を含む。ある特定の実施形態では、ヒドロゲルは、アルギン酸塩又はアルギン酸カルシウムを含む。そのような実施形態は、複数の光合成酵素の安定性を増加させるという利益を提供することができ、単糖形成の効率及び生産率を増加させることができる。一実施形態では、酵素をヒドロゲルに固定化してもよく、それにより酵素の濃度を増加させることができる。この濃度増加は、生産率を10倍又はそれよりも大きく増加させるという利益を提供することができる。固定化に好適な物質としては、ヒドロゲル、カーボンナノチューブ、及び膜を挙げることができる。
【0022】
本明細書の実施形態は、単糖を形成するための方法であって、複数の光合成酵素は、水性反応溶液に存在するシアノバクテリア種細菌により発現される、方法に関する。ある特定のそのような実施形態では、本方法は、水素ガスを含む水素源を水性電解質溶液に提供すること;二酸化炭素源を提供すること;水素源及び二酸化炭素源を、水性反応溶液中のシアノバクテリア種、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)及びアデニン三リン酸(ATP)を含む少なくとも2つのコファクター、並びに少なくとも1つの基質を含む細胞反応容器へと供給することにより反応混合物を形成することを含む。そのような実施形態では、シアノバクテリア種は、複数の光合成酵素を発現する。そのような実施形態では、本方法は、水素源、二酸化炭素源、並びに複数の光合成酵素及び少なくとも2つのコファクターに接触している少なくとも1つの基質を反応させることにより、単糖の量を合成反応容器にて形成することを含む。ある特定の実施形態では、シアノバクテリア種は、少なくとも1つの光合成酵素をコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの細菌ベクタープラスミドを発現する。ある特定の実施形態では、シアノバクテリア種は、シネココッカス・エロンガタスを含む。ある特定の実施形態では、水性反応溶液は、ヒドロゲルに固定化されたシアノバクテリア種を含む。ある特定の実施形態では、ヒドロゲルは、アルギン酸塩又はアルギン酸カルシウムを含む。ある特定の実施形態では、本方法は、少なくとも1つの塩を水性反応溶液に添加することにより、シアノバクテリア種の増殖を刺激することを更に含む。
本方法の一実施形態では、本方法の1つ又は複数のステップは、閉鎖系で実施され、閉鎖系は、連続的であり、一体型である。一実施形態では、本明細書に開示の方法の、各ステップを含む大部分のステップは、閉鎖系内で実施される。一実施形態では、水電気分解ステップ、単糖形成ステップ、又はそれらの任意の組合せは、閉鎖系である。閉鎖系とは、気密密封を含む、周囲環境から密閉された系である。本明細書に開示の方法を閉鎖系で実施することの1つの利益は、本方法が、宇宙旅行の低重力環境及び/又は限られている高度に制御された環境で好適に使用されることを含んでいてもよい。
【0023】
単糖を生成するための装置の実施形態
本明細書の実施形態は、二酸化炭素及び水から単糖を生成するための合成装置に関する。ある特定の実施形態では、装置は、以下のものを含む加水分解電気化学反応器を含む:電源;二酸化炭素源;加水分解電気化学反応器セルに接触している水素流体流路を含む単糖発生器容器;二酸化炭素源に接触している二酸化炭素流体流路;並びに複数の光合成酵素、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)及びアデニン三リン酸(ATP)を含む少なくとも2つのコファクター、並びに少なくとも1つの基質を含む水性反応溶液。そのような実施形態は、単糖の持続可能で連続的な自動化生産のための装置の利益を提供することができる。
【0024】
ある特定の実施形態では、合成反応容器は、電気化学セル及び電源を含む。一部の実施形態では、電源は、太陽光発電又は日光を含む。そのような実施形態では、電源は、太陽光発電セルを使用して発電することができる。他の実施形態では、電源は、電力、又は電力と日光又は太陽光発電との組み合わせを含んでいてもよい。ある特定の実施形態では、電気化学セルは、少なくとも1対のグラファイトベース電極又は少なくとも1つの光化学触媒を含む。ある特定の実施形態では、電気化学セルは、窒化炭素触媒を含む。
ある特定の実施形態では、装置は、加水分解電気化学反応器セルに接続されている酸素貯蔵容器を更に含む。そのような実施形態は、他の有用な応用のための酸素源を提供するという利益を提供することができる。
ある特定の実施形態では、水性反応溶液は、ポリリン酸キナーゼ(PPK)、アデニル酸キナーゼ(ADK)、及びAMP-ホスホトランスフェラーゼ、又はそれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1つのATP再生酵素;並びにアデニン一リン酸(AMP)、ポリホスフェート、又はそれらの組合せを含む少なくとも1つのATP再生基質を含む。そのような実施形態は、単糖形成反応に必要なコファクターを再生することにより、自己再生的で持続可能な単糖生産を提供する装置の利益を提供することができる。
【0025】
ある特定の実施形態では、水性反応溶液は、ヒドロゲルに固定化された複数の光合成酵素を含む。ある特定の実施形態では、ヒドロゲルは、アルギン酸塩又はアルギン酸カルシウムを含む。そのような実施形態は、複数の光合成酵素の安定性を増加させるという利益を提供することができ、単糖形成の効率及び生産率を増加させることができる。
本装置の一実施形態では、本装置の1つ又は複数の部分は、閉鎖系で実施され、閉鎖系は、連続的であり、一体型である。一実施形態では、本明細書に開示の装置の、各部分を含む装置の部分の大部分は、閉鎖系の一部である。一実施形態では、水電気分解装置、単糖形成装置、又はそれらの任意の組合せは、閉鎖系である。閉鎖系とは、気密密封を含む、周囲環境から密閉された系である。本明細書に開示の方法を閉鎖系で実施することの1つの利益は、本方法が、宇宙旅行の低重力環境及び/又は限られている高度に制御された環境で好適に使用されることを含んでいてもよい。
【0026】
実施例
実施例I:水分解反応による酸素及び水素の生産
光合成の第1段階をシミュレートするために(及び水素及び酸素生産反応の効率を加速させるために)、電気化学法を水分解反応に適用し、ソーラーパネルを使用して必要なエネルギーを提供した。水分解反応は、1.9Vから始めた低電圧で実施し、5Vまで徐々に増加させた。導電率を増加させるために、NaCl溶液(0.9%)を調製し、1対のグラファイトベース電極を1.9Vの電圧で使用して反応を開始させた。微生物電気合成装置での水分解反応用の電極の設計及び実験条件を適用した(Liuら、Microbial electrosynthesis of organic chemicals from CO2 by Clostridium Scatologenes, ATCC25775, Bioresour.、Bioprocess、5巻(7号)、1~102018頁;Hassら、Technical Photosynthesis involving CO2 electrolysis and fermentation、Nature,Catalysts、2018年1巻、32~39頁;Rabaey及びRozendal、Microbial electrosynthesis-revisiting the electrical route for microbial production、Nature reviews,Microbiology、2010年、8巻、706~716頁を参照)。
【0027】
実施例II:CO2固定及び生合成反応
CO2固定及びグルコース生合成反応を実施するために、酵素ベースのカルビン回路経路を使用してCO2及び水素からグルコースを生産する、光合成の光非依存性反応を模倣する酵素ベース経路を設計した。反応カクテルには、酵素、コファクター、及びグルコースのin vitro生産のための重要な基質が含まれていた。以下の酵素を、CO2固定及びグルコース合成反応に適用した:Rubisco、アルドラーゼ、フルクトース1,6-ビスホスフェート、フルクトース6-ホスファターゼ、グルコース6-ホスファターゼ、アデニル酸シクラーゼ、AMP-ホスホトランスフェラーゼ、及びホスホグリセリン酸キナーゼ。また、リブロース1,5-ビスホスフェートを初期基質として使用した。また、ATP及びNADPHを反応カクテルに添加して、工程を開始させた。CO2を100ml/分の流速で反応に注入し、NADP+を、水分解反応とCO2固定/還元方法との間の水素の担体として使用した。
【0028】
最初の酵素反応は、二酸化炭素の固定/還元に主な役割を果たすRubiscoで稼働させた。二酸化炭素還元の初期産物は、単純な3C糖であるグリセルアルデヒド3-ホスフェート(GA3P)である。次の段階では、GA3Pの2つの分子のコンジュゲーションにより、6C糖の生産がもたらされる。6C糖(フルクトース及びグルコースを含む)を生産するために、アルドラーゼを反応に添加した。アルドラーゼは、GA3Pの2つの分子のコンジュゲーションを引き起こし、6C糖(フルクトース6-ホスフェート)が生成される。また、ホスホグルコイソメラーゼを反応に添加して、フルクトース6-ホスフェートをグルコース6-ホスフェートに変換した。最後に、グルコース6-ホスファターゼは、グルコース6-ホスファターゼをグルコースに変換する。
【0029】
12.11mg/mlのTris塩基、0.48mg/mlのMgCl2、6.6mg/mlのKHCO3、及び0.78mg/mlのジチオスレイトール(DTT)を脱イオン水に添加することにより、反応緩衝液を調製した。次いで、ATPを最終濃度が0.5mg/mlになるように添加した。次いで、以下の炭素固定酵素/試薬を反応に添加した:0.177mg/mlのNADPH(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)、10U/mlのホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)、10mg/mlのリブロースビスリン酸カルボキシラーゼ(Rubisco)、1U/mlのアルドラーゼ、10U/mlのフルクトース1,6-ビスホスファターゼ、10U/mlのホスホグルコイソメラーゼ、0.1U/mlのグルコース6-ホスファターゼ、10U/mlのアデニル酸キナーゼ、10U/mlのホスホトランスフェラーゼ、0.08mg/mlのグリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)、及び0.116mg/mlのリブロース1,5-ビスホスフェート(RuBP)。溶液を、30秒間激しく振盪した。次いで、反応溶液をバイオリアクターチャンバーに移した。CO2を、100ml/分の流速で反応溶液へと注入した。加えて、1対のグラファイト電極を溶液に挿入した。電極は、ナフィオン膜117の層により互いに隔てられていた。電力供給に接続することにより工程を開始させた。
【0030】
実施例III:再生反応
1- NADPHの再生
光合成の第1段階の進行は、水分解反応に依存する。水分解反応の効率を増加させるために、電気化学的方法、光化学的方法、及び酵素的方法を含む幾つかの合成手法が適用されている。ここでの本研究の第1段階では、電気化学的方法を適用して水分子を分解し、酸素及び水素を生産した。本発明者らの本研究では、酸素は大気中に放出した。しかしながら、酸素は、貯蔵又は使用のために単離することもできる。水素は、NAD(P)+と反応して、水素を次の段階のCO2還元反応へと移行させる水素担体として機能するNAD(P)Hを生産する。
【0031】
NADHの再生は、光合成反応の進行にとって重要である。そうでなければ、反応へのNAD(P)Hの連続添加は持続可能ではない。以前の研究結果によると、NAD(P)H分子を還元及び再生するためには、酵素的方法、化学的方法、電気化学的方法、及び光化学的方法を含む様々な方法を適用することができる(Zhangら、Towards low-cost biomanufacturing through in vitro synthetic biology: bottom-up design、J. Mater. Chem., The Royal Chemistry of Society、2011年、1~12頁、DOI: 10.1039/c1jm12078f;Uppadaら、Cofactor regulation-an important aspect of biocatalysis、Current Science、2014年、106巻(70号)、1~12頁;Wangら、Cofactor NADH regeneration inspired by heterogenous pathway、Chem、2017年、2巻、621~654頁;Aliら、Direct electrochemical regeneration of enzymatic cofactor 1,4-NADH on a cathode composed of multi-walled carbon nanotubes decorated with Nickel nanoparticles、The Canadian journal of chemical engineering、2018年、96巻、98~73頁を参照)。電気化学的方法が高効率であり単純であることを考慮して、本研究の第1段階では、水分子を分解するためにこの方法を選択した。この目的のために、1対のグラファイト電極を使用し、水分解反応を1.9ボルトで始めた。反応に必要な電力供給は、最大12ボルトの変動出力及び4.25ワットに相当する電力を提供することができるソーラーパネルを使用した太陽エネルギーに由来するものだった。上述の電気化学的方法に加えて、光化学触媒(窒化炭素)が水分解反応に適用されるだろう。
【0032】
2- ATP分子の再生
ATPは、細胞のエネルギー通貨であるため、生体系のほぼ全ての生合成工程に必要とされている。自然光合成中、ATPは、光合成の光依存性反応の一部であるF0F1 ATPシンターゼにより生産される。ATPは、CO2固定/還元の進行に必要なエネルギーを提供する。無細胞系でのATPの生産は(F0F1 ATPaseを適用)、チラコイド膜上のF0F1 ATPシンターゼの天然構造が複雑であるため、効率が低い。従って、無細胞光合成及びバイオ製造工程では、ATPを再生するための代替的な低コスト法の開発が要求されている。
【0033】
ATPは、ポリリン酸キナーゼ(PPK)、アデニル酸キナーゼ(ADK)及びAMPホスホトランスフェラーゼ(PPT)を含む2段階合成酵素反応を適用して再生した。この反応では、ポリホスフェート又はポリ(Pi)nをホスフェート源として使用した。ポリホスフェートは、そのコストが低く、その化学構造の安定性が高いため、ATP再生のためのホスホリル基の魅力的な供給源である。PPT及びADKを適用したATP再生反応の過程では、PPKは、最初のステップで、外因性ポリホスフェート及びADPを使用することによりATPを再生することができる。続いて、2つのADP分子から1分子のATPを生成することができる。この反応は、ポリホスフェート非依存性アデニル酸キナーゼ(ADK)により媒介され、1つのAMP分子を産出する。次のステップでは、PPTは、ポリ(Pi)nの1つのリン酸基を使用することによりAMPをADPに変換する。
PPT/ADK系は、既存の酵素的ATP再生系の魅力的な代替法を提供し、AMP及びポリホスフェートは両方とも安価な基質であるため、コスト上の利点を有する。PPT/ADK系によるATP再生は、これまで、様々な規模の無細胞バイオ製造工程において費用効果の高い解決策として適用されてきた(Zhangら、2011年)。この研究では、PPT/ADK系を、CO2固定及びグルコース合成のための合成酵素経路に適用した。
【0034】
実施例IV:グルコース分析アッセイ
実験条件を適応させるため、グルコース合成を、様々な温度範囲(25、30、37、40、45、及び50℃)、pH、及び濃度を含む様々な環境条件で評価した。様々な時点で(6、12、及び24、36、及び48時間後)試料を収集し、分析アッセイまで-20℃で保管した。
総炭水化物及びグルコース測定アッセイには、Abcam炭水化物アッセイ及びMegazyme D-グルコースアッセイキットを使用した。Abcam炭水化物アッセイキットは、フェノール-硫酸法に基づいていた。炭水化物(グルコースを含む)を硫酸の存在下で加水分解し、フルフラール又はヒドロキシフルフラールに変換した。フルフラール化合物は、発色溶液を添加することにより検出した。発色溶液は、濃いオレンジ色の色原体の形成を引き起こした。490nmでの吸光度を測定することにより色原体を定量化した。
【0035】
加えて、Megazymeアッセイキットを適用して、グルコースレベルをより特異的に検出した。Megazymeアッセイキットは、グルコースを特異的に検出するための2つの酵素反応に基づいて設計されている。グルコースアッセイを実施する前に、まず全ての試料を10分間60℃に加熱して、溶液に既に存在している酵素(グルコース合成経路に由来する)を不活化した。次いで、グルコース含有量を測定するために、試料を氷上で15分間冷却した。Megazymeアッセイは、グルコースからグルコロネート-6-ホスフェート(glucoronate-6-phosphate)への変換を引き起こす2つの連続酵素反応で行った。最初の反応では、グルコースは、ATPの存在下でヘキソキナーゼ(HK)によりグルコース6ホスフェート(G-6-P)に変換される。2番目の反応では、グルコース6-リン酸デヒドロゲナーゼ(G6P-DH)の存在下で、G-6-Pは、NADPHにより酸化されてグルコネート-6-ホスフェートになり、NADPHが形成される。得られた産物(グルコースの量に対して化学量論的であった)を、340nmでの吸光度により測定した。
【0036】
実施例V:単糖形成の結果
1.9Vから始めた低電圧で水加水分解反応を開始させた。電力供給に接続した直後に、カソード周囲及びアノード周囲に水素及び酸素の気泡形成が観察された。図2Aは、実験室規模の水素生産装置での水加水分解反応を例示する。図2Bに例示されているようなバイオリアクターユニット(酵素及びコファクターの全てを含む)での実験操作後、グルコースの生産を、グルコース比色測定アッセイを使用して様々な時点で(6、12、24時間)評価した。グルコース測定アッセイの結果により、本実験条件下でのグルコース生産が確認された。
図3は、37℃及びpH7.4での経時的なグルコース生産の傾向を例示する。本実験条件下では、6、12、及び24、36、及び48時間後に、2、5.8、及び10.6、18.4、及び39.3mg/mlのレベルのグルコース生産が観察された。図4は、pH7.4での酵素ベース光合成反応における24時間後のグルコース生産に対する温度の効果を例示する。最も高いレベルのグルコース生合成は、37℃においてであることが観察された。こうした結果は、温度を20℃から37℃に上昇させることにより、グルコース生産率が有意に増強されたことを示した。温度を40℃まで上昇させても、反応速度に有意差は観察されなかった。温度を40℃よりも高く上昇させると、グルコース合成の有意な低下が観察された。これは、40℃を上回ると酵素が変性することに関連している可能性がある。図5は、10%酵素混合溶液中での酵素ベース光合成反応における24時間後のグルコース生産に対するpHの効果を示す。最も高いグルコース生産はpH8で観察された。
こうした結果は、無細胞酵素ベース系でCO2からグルコースを合成することが実施可能であることを明らかにした。
【0037】
実施例VI:シアノバクテリアで光合成酵素を産生させるための光バイオリアクター
無細胞酵素ベースのバイオ製造工程で使用するように、シアノバクテリアの増殖及び光合成酵素の大規模生産のための光バイオリアクターの設定を設計した。また、酵素の安定性を増加させるように、ヒドロゲルベースの酵素固定化系を設計した。海洋褐藻及び藻類に由来する直鎖状多糖であるアルギン酸カルシウムを適用した。アルギン酸塩は生体適合性ポリマーであり、食品業界及び薬剤業界で広く適用されている。アルギン酸カルシウムビーズのバッチを、酵素固定化のために生成した。
アルギン酸塩はアニオン性であり(負に荷電されている)、アルギン酸の塩として市販されている。アルギン酸塩ビーズを生成するために、まず、3%アルギン酸ナトリウムの溶液を調製した。次いで、CaCl2を添加することによりアルギン酸塩の重合を行った。これは、多価カチオンが、陰イオン成分であるアルギン酸塩に結合するためである。アルギン酸ナトリウムとは異なり、多価カチオン(カルシウム等)のアルギン酸塩は水に不溶性である。従って、多価カチオンの存在下でアルギン酸塩を重合させることができる。
ゲル化工程は、ナトリウムイオンをカルシウムイオンと交換することである。従って、ゲル化はカルシウムイオンの存在下で容易に行われた。
2Na(アルギン酸塩)+Ca+2 -> Ca(アルギン酸塩)2+2Na+
【0038】
イオン的に連結されたゲル構造は、20~100℃の範囲にわたって熱安定性である。アルギン酸ナトリウムマイクロビーズを、以下のプロトコールに従って調製した。
1- 30gのアルギン酸ナトリウムを、1リットルの脱イオン蒸留水に溶解して、3%の溶液を製作した。また、酵素混合物をアルギン酸ナトリウム溶液に添加した。
2- 0.2MのCaCl2溶液を調製し、別の容器に保管した。
3- ポリマー溶液を、およそ20cmの高さから注射器を用いて過剰(100ml)の攪拌0.2M CaCl2溶液に室温で滴下することによりアルギン酸カルシウムビーズを生成した。ビーズのサイズは、ポンプ圧力及び注射器のサイズにより制御することができる。ビーズをカルシウム溶液中に放置して2時間硬化させた。重合後、アルギン酸塩ビーズをカルシウム溶液から単離し、脱イオン水ですすいだ。
【0039】
次のステップでは、大規模化研究を実施することになる。アルギン酸塩負荷ビーズを、CO2固定及びバイオ製造工程に適用することになる。酵素固定化は、生体物質の大規模生産にとって重要であり、酵素の構造的及び機能的安定性を増加させること、酵素を再利用すること、及び反応物からの産物単離を増強することにより、バイオ製造の効率を向上させることができる。代謝的に操作されたシアノバクテリアを使用することによりCO2及び廃水から糖を現地生産するための単純な装置を開発することになる。光合成効率を増強するために、純粋なCO2を使用することになる。シアノバクテリアの窒素固定機序を促進し、その結果として培養増殖速度を増加させるために、アンモニアを培地に添加することになる。アンモニアを水に添加することにより、穏やかなアルカリ性環境が生じ、その結果としてCO2吸収が増強される。
最近の研究結果により、塩性環境でシアノバクテリアを増殖させると、この微生物のスクロース産生経路が誘導されることが示されている。この機序は、再生可能なバイオ燃料を生産するための持続可能な糖供給源を提供することができる。細菌ベースの糖合成システムを開発することになる。この目的のため、シネココッカス・エロンガタスが適用されることになる。このような微生物の代謝工学により、スクロース生産及び排泄経路を、工業規模での生産に適応させることになる。スクロースリン酸シンターゼ(SPS)は、スクロース合成経路で重要な役割を果たすため、この酵素を適用することになる。次いで、スクロースは、他の下流バイオ製造工程又はバイオ燃料及び化学物質の生産のための供給原料として使用することができる。
【0040】
実施例VII:光合成酵素を大規模生産するためのプラスミドの設計及び構築
グルコース生産ユニットに必要な酵素(Rubisco、PGK、GAPDH、FBA、FBP、GP1を含む)を生産するため、各酵素の遺伝子構築物を設計した。
DNA構築物を、化学的方法により合成した。第1のステップでは、各遺伝子のDNA構築物を、大腸菌コンピテント株EH5-アルファ(Molecular cloning社、DA-100)にクローニングすることにより増幅する。Maxiprep法(Pure linkプラスミドフィルター及び調製キット、Invitrogen社、K120026)によるクローニング後、DNA構築物を精製した。プラスミドの品質及びプラスミド中の遺伝子構築物の配向性を、PCRアッセイ(Platinium Taq DNAポリメラーゼキット、ThermofisherScience社)で分析した。
各遺伝子構築物を、バキュロウイルストランスファーベクターであるpDW445(Addgene社、カタログ番号8843)に挿入した。また、プラスミドpDW445は、ビオチンアクセプターペプチド(BAP)タグの遺伝子配列を有しており、それによりタンパク質発現中にビオチンタグのタンパク質尾部への付加が引き起こされる。BAPタグの付加は、アビジンタンパク質精製カラム(Pierceモノマーアビジンアガロースキット、Thermofisher Science社、20227)にアプライすることによる合成タンパク質の分離及び精製を可能にする。20mLのLuria Broth(LB)培地(Sigma Aldrich社)を含む250mLフラスコ中の大腸菌細胞を、37℃、220rpmの振盪インキュベーターで培養した。細胞は、テトラサイクリン(Sigma-Aldrich社)、タモキシフェン(Sigma-Aldrich社)、イソプロピル-B-D-チオガラクトシダーゼ(IPTG)(Sigma-Aldrich社)を含む、有利な誘導性スイッチにより6時間にわたって誘導した。各遺伝子構築物の発現は、各遺伝子構築物に特異的な誘導性スイッチを添加することにより誘導した。
【0041】
OD600が0.4に達した際に、組換えタンパク質の単離及び二次元ゲル電気泳動のための試料を採取した(約6時間の誘導後)。組換えタンパク質を、Peirceモノマーアビジンアガロースキット(ThermoFisher Scientific社、製品番号20227)にアプライして単離及び精製した。
精製したタンパク質を配列決定し、生理学的機能について分析した。標準的なアミノ酸配列決定法として、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化反射飛行時間型(MALDI-TOF、Matrix-Assisted Laser Desorption/ Ionization on reflection Time-Of-Flight)を使用した。
【0042】
種々の所望の酵素をコードする以下のポリヌクレオチド配列を、上記の方法によるプラスミド構築物のクローニングに使用した。
1.リブロース-1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ大サブユニット(葉緑体)をコードするポリヌクレオチド配列[クラミドモナス・レインハルドチイ(Chlamydomonas reinhardtii)](NCBI参照配列:NP_958405.1)
2.リブロース-1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ小サブユニットをコードするポリヌクレオチド配列[未培養海洋性A型シネココッカス GOM 4P21](GenBank:ABD96422.1)
3.リブロース-1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ大サブユニットをコードするポリヌクレオチド配列[細菌BMS3Abin12](GenBank:GBE11651.1)
4.アデニル酸シクラーゼをコードするポリヌクレオチド配列[シアノバクテリア細菌QS_8_48_54](GenBank:PSP35127.1)
5.グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ:略称=GAPDH;別名:正式=ペプチジル-システインS-ニトロシラーゼGAPDHをコードするポリヌクレオチド配列(UniProtKB/Swiss-Prot:P04406.3)
6.アルドラーゼをコードするポリヌクレオチド配列[未分類シアノバクテリア(その他)](NCBI参照配列:WP_106150617.1)
7.アルドラーゼをコードするポリヌクレオチド配列[シネココッカス種WH 8020](GenBank:AKN61847.1)
8.フルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼをコードするポリヌクレオチド配列[シネコシスチス種([Synechocystis sp.)PCC6803](GenBank:BAA10184.1)
9.ホスホグルコイソメラーゼをコードするポリヌクレオチド配列[シェフェルソマイセス・スチピチス(Scheffersomyces stipitis)CBS6054](NCBI参照配列:XP_001385910.1)
10.グルコース-6-ホスファターゼをコードするポリヌクレオチド配列[アファノテス・サクルム(Aphanothece sacrum)FPU1](GenBank:GBF81608.1)
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
【国際調査報告】