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特表2022-516735トマトブラウンルーゴスフルーツウイルスに抵抗性のトマト植物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-02
(54)【発明の名称】トマトブラウンルーゴスフルーツウイルスに抵抗性のトマト植物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/29 20060101AFI20220222BHJP
   A01H 6/82 20180101ALI20220222BHJP
   A01H 5/10 20180101ALI20220222BHJP
   A01H 5/00 20180101ALI20220222BHJP
【FI】
C12N15/29
A01H6/82 ZNA
A01H5/10
A01H5/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021538784
(86)(22)【出願日】2019-12-09
(85)【翻訳文提出日】2021-08-30
(86)【国際出願番号】 EP2019084272
(87)【国際公開番号】W WO2020148021
(87)【国際公開日】2020-07-23
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2019/050830
(32)【優先日】2019-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】509018845
【氏名又は名称】エンザ・ザデン・ビヘーア・ベスローテン・フエンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】ENZA ZADEN BEHEER B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】イケマ, マリーケ
(72)【発明者】
【氏名】フェルヴェイ, コルネリス ウォルター
(72)【発明者】
【氏名】デ ラ フエンテ ファン ベンテム, セルジオ
(72)【発明者】
【氏名】ペレファレス, フレデリック ミシェル ピエール
【テーマコード(参考)】
2B030
【Fターム(参考)】
2B030AA02
2B030AB03
2B030AD04
2B030CA17
2B030CB02
(57)【要約】
本発明は、1つ又は複数のゲノム配列を含む、トバモウイルスに抵抗性のS.リコペルシクム種の植物に関する。より詳細には、本発明は、トマトブラウンルーゴスフルーツウイルス(TBRFV)に抵抗性であるトマト植物(S.リコペルシクム)に関する。本発明は、トバモウイルスに対する抵抗性を提供するゲノム配列又は遺伝子座にさらに関する。さらに、本発明は、トバモウイルスに抵抗性であるS.リコペルシクム植物を提供する方法に関する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トバモウイルスに抵抗性のS.リコペルシクム種の植物であって、TBRFV抵抗性タンパク質をコードするTBRFV抵抗性遺伝子を含み、前記タンパク質が配列番号116と少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有する、植物。
【請求項2】
前記TBRFV抵抗性遺伝子が、配列番号115と少なくとも90%のヌクレオチド配列同一性を有するコード配列を含む、請求項1に記載の植物。
【請求項3】
配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17及び配列番号18からなる群から選択される、又は前記配列番号のいずれかと少なくとも95%の配列同一性を有する、1つ又は複数のゲノム配列を含む、請求項1又は2に記載の植物。
【請求項4】
配列番号8、配列番号11、配列番号14を含む、請求項1又は2に記載の植物。
【請求項5】
配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13及び配列番号14を含む、請求項1又は2に記載の植物。
【請求項6】
トバモウイルス株Tm0、Tm1及びTm2に抵抗性である、請求項1~5のいずれか一項に記載の植物。
【請求項7】
前記トバモウイルスが、トマトブラウンルーゴスフルーツウイルス(TBRFV)である、請求項1~6のいずれか一項に記載の植物。
【請求項8】
前記TBRFV抵抗性遺伝子が、前記植物のゲノムにおいてヘテロ接合性又はホモ接合性で存在する、請求項1~7のいずれか一項に記載の植物。
【請求項9】
前記1つ又は複数のゲノム配列が、前記植物のゲノム中でヘテロ接合性又はホモ接合性で存在する、請求項3~8のいずれか一項に記載の植物。
【請求項10】
前記1つ又は複数のゲノム配列が、寄託アクセッション番号NCIMB 43279中に見られるものである、請求項3~9のいずれか一項に記載の植物。
【請求項11】
前記TBRFV抵抗性遺伝子が、寄託アクセッション番号NCIMB 43279中に見られるものである、請求項1~10のいずれか一項に記載の植物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の植物に由来する植物、植物部分、組織、細胞及び/又は種子。
【請求項13】
S.リコペルシクム植物においてトバモウイルスに対する抵抗性を提供する抵抗性遺伝子であって、配列番号115と少なくとも90%のヌクレオチド配列同一性を有するコード配列によって表される、抵抗性遺伝子。
【請求項14】
S.リコペルシクム植物においてトバモウイルスに対する抵抗性を提供するゲノム配列であって、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17及び配列番号18からなる群から選択される、又は前記配列番号のいずれかと少なくとも95%の配列同一性を有する、ゲノム配列。
【請求項15】
S.リコペルシクム植物においてトバモウイルスに対する抵抗性を提供する抵抗性遺伝子座であって、配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号4、好ましくは配列番号3によって表される、遺伝子座。
【請求項16】
前記トバモウイルスがTBRFVである、請求項13~15のいずれか一項に記載の抵抗性遺伝子、ゲノム配列又は遺伝子座。
【請求項17】
トバモウイルスに抵抗性であるS.リコペルシクム種の植物を提供する方法であって、
a)トバモウイルスに抵抗性であるS.ハブロカイテス植物を選択するステップであり、請求項13~16のいずれか一項に記載の抵抗性遺伝子、ゲノム配列又は抵抗性遺伝子座、好ましくは前記抵抗性遺伝子の存在を確認するステップを含むステップと、
b)ステップa)の同定された抵抗性遺伝子、ゲノム配列又は遺伝子座を、例えば交雑によってS.リコペルシクム植物中に移入し、それによって前記S.リコペルシクム植物にトバモウイルス抵抗性を付与するステップとを含む、方法。
【請求項18】
ステップb)の後に、トバモウイルスに抵抗性である第1のS.リコペルシクム植物が選択され、トバモウイルスに抵抗性でない第2のS.リコペルシクム植物と交雑され、その後トバモウイルスに抵抗性であるS.リコペルシクム植物を選択する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
ステップa)においてS.ハブロカイテス植物中の前記抵抗性遺伝子、抵抗性を付与するゲノム配列又は抵抗性遺伝子座の前記存在を確認するステップが、配列番号83、配列番号84、配列番号85、配列番号86、配列番号87、配列番号88、配列番号89、配列番号90、配列番号91、配列番号92、配列番号93、及び配列番号94、配列番号105、配列番号106、配列番号107、配列番号108、配列番号109、配列番号110、配列番号111、及び配列番号112、好ましくは配列番号105、配列番号106、配列番号107、配列番号108、配列番号109、配列番号110、配列番号111及び配列番号112からなる群から選択される1つ又は複数のマーカーによって実行される、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
S.リコペルシクム植物において請求項13~16のいずれか一項に記載のTBRFV抵抗性遺伝子、抵抗性を付与するゲノム配列又は抵抗性遺伝子座の存在を確認するためのマーカーの使用であって、マーカーが、配列番号83、配列番号84、配列番号85、配列番号86、配列番号87、配列番号88、配列番号89、配列番号90、配列番号91、配列番号92、配列番号93及び配列番号94、配列番号105、配列番号106、配列番号107、配列番号108、配列番号109、配列番号110、配列番号111及び配列番号112、好ましくは配列番号105、配列番号106、配列番号107、配列番号108、配列番号109、配列番号110、配列番号111及び配列番号112からなる群から選択される1つ又は複数である、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1つ又は複数のゲノム配列を含む、トバモウイルスに抵抗性のS.リコペルシクム(S.lycopersicum)種の植物に関する。より詳細には、本発明は、トマトブラウンルーゴスフルーツウイルス(TBRFV)に抵抗性であるトマト植物(S.リコペルシクム)に関する。本発明は、トバモウイルスに対する抵抗性を提供するゲノム配列又は遺伝子座にさらに関する。さらに、本発明は、トバモウイルスに抵抗性であるS.リコペルシクム植物を提供する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トバモウイルスは、タバコ、ジャガイモ、トマト及びナスなどのナス科植物を含めた植物を感染させるウイルス種であるビルガウイルス科の1つの属であり、世界中の野菜作物に対して最も深刻な脅威の1つである。トバモウイルスは、保護環境で栽培されるトマト作物において特に問題となり、外部からの種子汚染によって長距離にわたって、並びに作業者の手、衣服、道具による一般的な耕作行為を介して植物から植物へと機械的に伝達され、種子及び汚染土壌中で感染性を維持する能力がある。さらにまた、ウイルスに感染した場合にしばしば無病徴である一般的な雑草は、成長サイクルの間の隠れた貯蔵場所を構成する。
【0003】
トバモウイルス感染は、汚染した場合、作物に悲惨な効果を有し得る。例えば、ウイルスを含まない環境で育苗することによる感染の防止は、一般に費用がかかり及び/又は環境に不都合である。加えて、これらの方法は、満足な結果を必ずしも提供しない。
【0004】
トバモウイルスは、非エンベロープ型であり、らせん棒状の幾何形状を持ち、らせん対称である。ウイルス粒子は、棒形状であり、直径およそ18nm、長さ300~310nmを有する。それらの正のセンス一本鎖RNAゲノムは、直鎖状でセグメント化されておらず、長さおよそ6.3~6.5kbである。この属には、トマトモザイクウイルス(ToMV)又はタバコモザイクウイルス(TMV)、トマトマイルドモットルウイルス(ToMMV)、及び最近新しく発見されたトマトブラウンルーゴスフルーツウイルス(TBRFV)を含めた35種類以上のウイルス種が存在する。
【0005】
トマトにおいて、現在認識されているトバモウイルス(より詳細にはToMV)の4つの系統の呼称(Tm-0、Tm-1、Tm-2及びTm-2)は、関連する野生種から、遺伝子移入された抵抗性(R)遺伝子であるTm1、Tm2及びTm2に基づく。Tm1遺伝子は、ソラナムハブロカイテス(Solanum habrochaites)から遺伝子移入され、不完全優性である。Tm2及びTm2遺伝子は、ソラナムペルビアナム(Solanum peruvianum)から遺伝子移入され、ToMVに対して優性の完全な抵抗性を付与する。しかしながら、抵抗性が克服されるにつれてトバモウイルスの新たな系統が出現し、メキシコ、ヨルダン及びイスラエルの商業的な畑において抵抗性を破るトバモウイルス種が、最近報告されている。
【0006】
2014年末から2015年初めにかけて、イスラエル及びヨルダンにおいてトマトに感染する新たな病害の発生が起こった。病徴がある植物は、葉にモザイクパターンを示し、葉の狭まり及び黄色の斑点のある果実を時として伴った。研究は、この新たな病害が新たなトバモウイルスであることを示し、TBRFVと呼ばれた。TBRFV感染は、葉に壊死病斑を伴い、トマト植物は、季節の終わりに軽度の葉の病徴を示すが、果物に強い茶色の萎縮病徴を示し、果実を消費に適さないものとする。さらにまた、ナス科ファミリーの他のメンバーに関しては、例えばトウガラシ植物が、30℃を上回る高温で、感染したトマト植物の前の成長サイクルからの汚染土壌に植えられた場合、TBRFVは同様に感染する能力があるようである。
【0007】
トバモウイルスに対する戦いにおいて、R遺伝子Tm2及びTm2の遺伝子移入によって抵抗性がトマトに導入され、ToMVに対する抵抗性を得られた。しかしながら、ウイルスタンパク質の異なるドメインは、異なるタンパク質構造から構成されており、異なる抵抗性メカニズムには新たな抵抗性メカニズム及び/又は抵抗性遺伝子が必要なので、これらR遺伝子は新たなTBRFVに対し抵抗性を発揮しない。さらにまた、ウイルスは、適応し、進化しその結果ウイルス突破を生じることになるので、経時的に抵抗性は破られることになる可能性が非常に高い。従って、新たな抵抗性遺伝子を同定し及び/又は組み合わせて、特に新たなTBRFVに抵抗性の作物を提供する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記を考慮すると、当業者にはTBRFV抵抗性のトマト植物、より詳細にはTBRFV抵抗性のS.リコペルシクムのニーズがある。加えて、当業者にはTBRFV抵抗性のS.リコペルシクム植物を得るための方法及び手段を提供するニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
当業者における上記ニーズを解決することは、他の目的の中でも、本発明の目的である。他の目的の中でも、本発明の目的は、添付の特許請求の範囲に概説される本発明によって満たされる。
【0010】
特に、他の目的の中でも、上記の目的は、第1の態様によると、トバモウイルスに抵抗性のS.リコペルシクム種の植物であって、TBRFV抵抗性タンパク質をコードするTBRFV抵抗性遺伝子を含み、そのタンパク質は、配列番号116と少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%、さらにより好ましくは少なくとも99%、最も好ましくは100%のアミノ酸配列同一性を有する、植物よる本発明によって満たされる。TBRFV抵抗性遺伝子は、NBS-LRR抵抗性タンパク質をコードすると予測される。
【0011】
好ましい実施形態によると、本発明は、TBRFV抵抗性遺伝子が、配列番号115と少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%、さらにより好ましくは少なくとも99%、最も好ましくは100%のヌクレオチド配列同一性を有するコード配列を含む、前記植物に関する。
【0012】
別の好ましい実施形態によると、本発明は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17及び配列番号18からなる群から選択される、又は前記配列番号のいずれかと少なくとも95%の配列同一性を有する、1つ又は複数のゲノム配列を含む、前記植物に関する。ゲノム配列は、トバモウイルスに対する抵抗性を提供する1つ又は複数の遺伝子又は遺伝的エレメントをコードする。配列が、米国バイオテクノロジー情報センター(NCBI)の公開データベースを使用して遺伝子相同性に関して調べられた。6つのゲノム配列が、NBS-LRR抵抗性タンパク質をコードする配列と相同性を有する(配列番号7、8、9、10、11及び14)。4つのゲノム配列が、LRR受容体様セリン/トレオニンプロテインキナーゼと相同性を有する(配列番号5、6、12及び13)。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】トバモウイルス、より詳細にはS.リコペルシクムにおいてTRBFVに対する抵抗性を提供する遺伝子座のマッピングの概要を示す図である。マッピング用として2つの集団を創出するために、抵抗性表現型について選択されたS.ハブロカイテス株90479-3をS.リコペルシクム株OT9及びOT1317と交雑することによってF1植物が創出された。700個以上の植物が、TRBFV抵抗性に関して試験され、いくつかの組換え植物(21個の植物)が選択され、病害試験の結果が、マーカーデータと組み合わせられる。いくつかの分子マーカー(M1~M42)を使用して、TRBFVに対する抵抗性を提供するゲノム配列の位置及びサイズを決定した。明らかな分離が、抵抗(R)と感染性(S)の植物間に観察された。結果は、マーカーM16とM17の間に位置するゲノム領域が、TRBFV抵抗性を提供していることを示し;対応する遺伝子座(LYC4943 R遺伝子座と命名される)は、長さ133,515bpであり、いくつかの推定遺伝子を含んでいる。さらなる細かいマッピングに基づいて、TBRFV抵抗性を保有しているゲノム配列のサイズ及び場所は、マーカーM33とM38の間にあると決定され、S.リコペルシクムのSL2.40参照ゲノムと比較しておよそ68,000bp大きい(それぞれ、85,240bp対17,328bp)。従って、1つ又は複数の遺伝子が、「TBRFV領域」と示されるこの領域内に位置し、TBRFV抵抗性を提供している可能性が最も高い。
図2】本発明の感染した及び感染してないトマト植物(S.リコペルシクム)並びにTBRFV抵抗性遺伝子座を含まない植物においてTBRFVを検出するためのqPCRの結果を示す図である。低いCt値(即ち30以下)は、サンプル中に存在するウイルスRNAの多い存在を示す。OT9は、TBRFV抵抗性遺伝子座を含まないトマト植物である。対照サンプル(感染していないOT9)は、35~40サイクルのCt値を示し、感染している対照サンプル(感染OT9)は、20~25のCt値を示した。30サイクル以上のCt値、好ましくはおよそ35サイクルを示す植物は、抵抗性と考えられ、30未満のCt値を示す植物は、感染性と考えられた。TBRFV抵抗性遺伝子座、ホモ接合性(B)又はヘテロ接合性(H)を含むトマト植物は、30サイクル以上のCt値を有し、抵抗性と考えられる。さらに、結果は、抵抗性が優性であることを示している。TBRFV抵抗性遺伝子座を含まなかった植物(A及び感染したOT9)は、20~25のCt値を示し、植物がTBRFV感染症に感染性であることを示した。
図3】トバモウイルスに対する抵抗性を提供する1つ又は複数の遺伝子又は遺伝的エレメントをコードする本発明のゲノム配列配列番号1~配列番号18の図式的概観を示す図である。
図4図1に加えてトバモウイルスに対する抵抗性を提供する遺伝子座のさらなるマッピングの概要を示す図である。M33及びM38で植物をさらに遺伝子型判定することによってさらなる組換え選択を実行して、同定したTBRFV領域における組換え植物を同定し、さらにこのTBRFV領域を限定した。組換え植物が、TBRFV遺伝子座を網羅し、TBRFV遺伝子座内の候補領域、即ちトバモウイルスに対する抵抗性を提供する1つ又は複数の遺伝子又は遺伝的エレメントをコードする本発明のゲノム配列配列番号1~配列番号18を除去するように特に設計されたマーカー(M-SEQ 10、M-SEQ 11-1、M-SEQ 11-2、及びM-SEQ 14)を用いてさらに遺伝子型判定された。組換え植物15321-02、15321-03及び15321-07が、TBRFV分離株AE50の接種による抵抗性に対してスクリーニングされた。これら組換え植物に基づいて、TBRFV感染を決定するための表現型判定、ELISA及びqPCRデータと組み合わせて、抵抗性を付与する遺伝子がゲノム配列番号14の部分であると結論された。植物15321-02及び15321-03は、配列番号14を含まず、感染性の対照株OT9で得られた値に相当する高いELISAスコア及び低いqPCR Ct値でTBRFVに対して感染性であることを示し、ウイルス感染を示した。植物15321-07は、配列番号14を含み、低いELISAスコア及びより高いqPCR Ct値でTBRFVに抵抗性であることを示した。
図5】ホモ接合性のTBRFV抵抗性株(15322-04)及び感染性の対照株(OT9)におけるELISAによるTBRFV感染を示す図である。植物を、TBRFVに感染させ(+TRBFV)、TRBFV抵抗性遺伝子を特異的に標的する構築物VIGS-01a又は同定されているTRBFV領域内の異なる領域を標的する構築物VIGS-01bを浸潤させた。ELISAの読み取りは、405nmでの吸収の測定によって行われた。TBRFVによって感染させた対照植物OT9は、2000abs又はより高い吸収レベルをもたらしたが、TRBFVで感染させた抵抗性植物株はおよそ500absの吸収レベルをもたらした。抵抗性植物株においてTRBFV抵抗性遺伝子が、VIGS-01aによってサイレンシングされた場合、1500~2250absの吸収レベルが測定され、ウイルス感染を示した。抵抗性植物株におけるVIGS-01bによるサイレンシングは、VIGSによってサイレンシングされていない感染させた抵抗性植物株において観察されたのと類似の吸収レベルをもたらした。
図6】ホモ接合性のTBRFV抵抗性株(15322-04)及び感染性の対照株(OT9)におけるqPCRによるTBRFV感染を示す図である。植物を、TBRFVに感染させ(+TRBFV)、TRBFV抵抗性遺伝子を特異的に標的する構築物VIGS-01a又は同定されているTRBFV領域内の異なる領域を標的する構築物VIGS-01bを浸潤させた。感染させた対照サンプルはおよそ12又は13のCt値を示した。TRBFVで感染させた抵抗性植物株は、およそ30のCt値を示し、TBRFV抵抗性を示した。抵抗性植物株においてTRBFV抵抗性遺伝子が、VIGS-01aによってサイレンシングされた場合、Ct値は、感染させた対照細胞より高いおよそ12~20に低下することが観察され、ウイルス感染を明らかに示した。抵抗性植物株におけるVIGS-01bによるサイレンシングは、VIGSによってサイレンシングされていない感染させた抵抗性植物株において観察されたのと類似のCtレベル(Ct値およそ30)をもたらした。
【発明を実施するための形態】
【0014】
植物による病原体認識は、2つの主要な型のタンパク質が関わる宿主受容体の関連する2つの群、即ち、受容体様キナーゼ又はタンパク質(RLK又はRLP)及びヌクレオチド結合部位ロイシンリッチリピートタンパク質(NBS-LRR抵抗性タンパク質)を介して行われる。第1の群は、病原体関連分子パターン(PAMP)の認識を専門とするパターン認識受容体(PRR)である。RLP又はRLKは、細胞膜に結合しており、細胞外免疫受容体である。植物RLKは、植物-病原体相互作用及び防御応答に関係し、植物受容体キナーゼ(PRK)は、細胞外ドメイン、1回膜貫通ドメイン及び細胞質セリン/トレオニン(ser/thr)プロテインキナーゼドメインを含有するタンパク質と定義され得る。植物LRR-RLK(ロイシンリッチリピート-受容体様キナーゼ)は、機能的細胞質キナーゼドメインを保有し、現在までに分析されている植物LRR-RLKの全ては、ser/thrキナーゼ活性を保有する。これら受容体によって得られる病原体に対する抵抗性は、PAMP誘導性免疫(PTI)と呼ばれる。他の群は、抵抗性タンパク質(Rタンパク質)と呼ばれる細胞内受容体を主に含む。植物における病害抵抗性遺伝子の大多数は、ヌクレオチド結合部位ロイシンリッチリピートタンパク質、別名NBS-LRRタンパク質をコードしている。これらのタンパク質は、ヌクレオチド結合部位(NBS)及びロイシンリッチリピート(LRR)ドメイン並びに可変的なアミノ及びカルボキシ末端ドメインによって特徴付けられ、細菌、ウイルス、真菌、線虫、昆虫及び卵菌を含めた多様な病原体の検出に関係する。トバモウイルス抵抗性を提供する同定されているゲノム配列の大多数は、複数のLRRドメインを含む。これらドメインが、エフェクター認識、従って病害感染性/抵抗性を決定すると思われる。
【0015】
病原体は、PAMP又はMAMPを修飾又は変化させることによってPTIを乗り越えるための反対戦略を発達させる。次いで、植物は、これらエフェクターを認識する方法を発達させ、エフェクター誘導性免疫(ETI)として公知のより速く、より強い二次防御応答を誘導することになる。ETIは、Rタンパク質によって媒介され、感染部位の周りに限局性の細胞死を伴う。NBS-LRRタンパク質及び/又は植物受容体キナーゼをコードしているこれらの新しく同定された抵抗性遺伝子及び/又はゲノム領域の存在は、抵抗性を乗り越える病原体の機会を低下させることになる、或いは他の抵抗性遺伝子と組み合わせた場合、病害抵抗性は、なおいっそう改善され得る。
【0016】
好ましい実施形態によると、本発明は、配列番号3によって表されるゲノム配列を含む、前記植物に関する。ゲノム配列配列番号3は、NBS-LRR抵抗性タンパク質及びLRR受容体様セリン/トレオニンプロテインキナーゼをコードする配列と相同性を有する複数の配列を含む。
【0017】
さらに別の好ましい実施形態によると、本発明は、配列番号8、配列番号9、配列番号10及び配列番号11を含む、前記植物に関する。
【0018】
本発明によると、植物のトバモウイルス抵抗性は、配列番号8、9、10、11及び14の群から選択されるNBS-LRRタンパク質をコードしているゲノム配列のうちの1つ又は複数、例えば配列番号8と配列番号9、又は配列番号8と配列番号10、配列番号8と配列番号11、配列番号9と配列番号10、配列番号9と配列番号11、配列番号10と配列番号11の組合せによる影響を受け得る。さらに又は代わりに、抵抗性は、配列番号12、配列番号13、又は配列番号12及び配列番号13の群から選択されるLRR受容体様セリン/トレオニンタンパク質キナーゼをコードする1つ又は複数のゲノム配列による影響を受け得る。
【0019】
さらに別の好ましい実施形態によると、本発明は、配列番号8、配列番号11及び配列番号14のゲノム配列を含む、前記植物に関する。
【0020】
好ましい実施形態によると、本発明は、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13及び配列番号14を含む、前記植物に関する。
【0021】
別の好ましい実施形態によると、本発明は、トバモウイルス株Tm-0、Tm-1及びTm-2に抵抗性である、前記植物に関する。トマトにおいて、4つの系統のトバモウイルスが、同定されている;Tm-0、Tm-1、Tm-2及びTm-2
【0022】
さらに別の好ましい実施形態によると、本発明は、トマトブラウンルーゴスフルーツウイルス(TBRFV)に抵抗性である、前記植物に関する。
【0023】
さらに別の好ましい実施形態によると、本発明、TBRFVが、ウイルス分離株AE050である、前記植物に関する。
【0024】
さらに別の好ましい実施形態によると、本発明は、トマト植物[ソラヌムリコペルシクム]である、前記植物に関する。
【0025】
さらに別の好ましい実施形態によると、本発明は、1つ又は複数のゲノム配列及び/又はTBRFV抵抗性遺伝子が、前記植物のゲノムにおいてヘテロ接合性又はホモ接合性で存在する、前記植物に関する。実験データから、抵抗性は優性であり、TBRFV抵抗性遺伝子及び/又はゲノム配列は、トバモウイルスに対する抵抗性を得るためには植物のゲノム中で少なくともヘテロ接合性で存在しなければならないと結論され得る。
【0026】
さらに別の好ましい実施形態によると、本発明は、前記TBRFV抵抗性遺伝子及び/又は1つ若しくは複数のゲノム配列が、寄託アクセッション番号NCIMB 43279中に見られるものである、前記植物に関する。NCIMB 43279、ソラヌムリコペルシクム種子は、NCIMB、Ferguson Building、Craibstone Estate Bucksburn、AB21 9YA Aberdeen、英国で、2018年11月16日に寄託された。
【0027】
本発明は、第2の態様によると、本発明の植物に由来する植物、植物部分、組織、細胞及び/又は種子に関する。
【0028】
本発明は、別の態様によると、S.リコペルシクム植物においてトバモウイルスに対する抵抗性を提供する前記抵抗性遺伝子(TBRFV抵抗性遺伝子)であって、配列番号115と少なくとも90%のヌクレオチド配列同一性を有するコード配列によって表される、抵抗性遺伝子に関する。
【0029】
本発明は、別の態様によると、S.リコペルシクム植物においてトバモウイルスに対する抵抗性を提供するゲノム配列であって、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17及び配列番号18からなる群から選択される、又は前記配列番号のいずれかと少なくとも95%の配列同一性を有する、ゲノム配列に関する。好ましくは、ゲノム配列は、配列番号8、配列番号11又は配列番号14である。
【0030】
本発明は、別の態様によると、S.リコペルシクム植物においてトバモウイルスに対する抵抗性を提供する抵抗性遺伝子座であって、配列番号1、配列番号2、配列番号3又は配列番号4、好ましくは配列番号3によって表される、遺伝子座に関する。
【0031】
本発明の好ましい実施形態によると、抵抗性遺伝子、ゲノム配列又は抵抗性遺伝子座は、TBRFVに対する抵抗性を提供する。
【0032】
本発明は、別の態様によると、トバモウイルスに抵抗性であるS.リコペルシクム種の植物を提供する方法であって、
a)トバモウイルスに抵抗性であるS.ハブロカイテス植物を選択するステップであり、本発明の抵抗性遺伝子、ゲノム配列又は抵抗性遺伝子座の存在を確認するステップを含むステップと、
b)ステップa)の同定されたゲノム配列又は遺伝子座をS.リコペルシクム植物中に移入し、それによって前記S.リコペルシクム植物にトバモウイルス抵抗性を付与するステップとを含む、方法に関する。移入は、選択されたS.ハブロカイテス植物をS.リコペルシクムと交雑することによって行われ得る。その後、トバモウイルス抵抗性のS.リコペルシクム植物が選択され得る。
【0033】
別の好ましい実施形態によると、本発明は、ステップb)の後に、トバモウイルスに抵抗性である第1のS.リコペルシクム植物が選択され、トバモウイルスに抵抗性でない第2のS.リコペルシクム植物と交雑され、その後トバモウイルスに抵抗性であるS.リコペルシクム植物を選択する、前記方法に関する。
【0034】
好ましい実施形態によると、本発明は、ステップa)において、S.ハブロカイテス植物中の抵抗性遺伝子(TBRFV抵抗性遺伝子)、抵抗性を付与するゲノム配列又は抵抗性遺伝子座の存在を確認するステップは、配列番号83、配列番号84、配列番号85、配列番号86、配列番号87、配列番号88、配列番号89、配列番号90、配列番号91、配列番号92、配列番号93、及び配列番号94、配列番号105、配列番号106、配列番号107、配列番号108、配列番号109、配列番号110、配列番号111、及び配列番号112、好ましくは配列番号105、配列番号106、配列番号107、配列番号108、配列番号109、配列番号110、配列番号111及び配列番号112からなる群から選択されるマーカーの1つ又は複数によって実行される、前記方法に関する。
【0035】
本発明は、さらなる態様によると、S.リコペルシクム植物においてTBRFV抵抗性遺伝子、TBRFV抵抗性を付与するゲノム配列又は抵抗性遺伝子座の存在を確認するためのマーカーの使用であって、マーカーが、配列番号83、配列番号84、配列番号85、配列番号86、配列番号87、配列番号88、配列番号89、配列番号90、配列番号91、配列番号92、配列番号93、及び配列番号94、配列番号105、配列番号106、配列番号107、配列番号108、配列番号109、配列番号110、配列番号111及び配列番号112、好ましくは、配列番号105、配列番号106、配列番号107、配列番号108、配列番号109、配列番号110、配列番号111、及び配列番号112からなる群から選択される1つ又は複数である、使用に関する。
【0036】
本発明は、以下の例及び図においてさらに詳述されることになる。
【実施例
【0037】
TBRFVのトマト植物への接種
TBRFV分離株AE050(サウジアラビア起源)を使用して、病害アッセイを実行した。植物材料としてTBRFVに感染性の植物株である株OT9を使用して、ウイルスを維持した。株OT9に葉液を機械的に接種するために元サンプルから入手した病徴のある葉を使用した。ウイルスを、新たな3週齢の苗に対する毎月の葉液の機械的接種によって全身的に感染させたトマト植物OT9上で維持した。
【0038】
ソラヌムペンネリイ(Solanum pennellii)、S.ペルビアナム、S.キレンセ(S.chilense)、S.ハブロカイテス、S.ピンピネリフォリウム(S.pimpinellifolium)、S.ネオリキイ(S.neorickii)、S.コルネリオムレリ(S.corneliomulleri)、S.クミエレウスキイ(S.chmielewskii)、S.ケエスマニアエ(S.cheesmaniae)、S.ガラパゲンセ(S.galapagense)の種のトマト植物をスクリーニングした(合計912個の野生ナス属系統からおよそ800個)。各系統の植物12個を、TBRFV分離株AE050で感染させた。
【0039】
種子をバーミキュライト中に播種し、苗をロックウールブロックに移植し、播種4週間後に接種した。出発材料として、感染させたOT9の病徴がある葉を採集し、カーボランダム(1グラム/100mL)を含む冷却した脱塩水中で乳鉢及び乳棒ですり潰した。各試験植物の3週齢の苗の最も古い葉を、1本指で葉を一回穏やかに擦ることによってAE050で機械的に接種した。
【0040】
植物を、植物及び葉の目視による得点によって表現型判定した。植物を、一定の時間間隔での目視により病徴について得点する。接種の2、4及び6週間後に病徴を目視で査定し、残りの植物に対するELISA試験を6週目以降1カ月間隔で行った。植物の50%以上は、接種2週間後に既に病徴を示した。
【0041】
目視による得点を、1週間毎に実行した。植物を、目視による病徴について得点する。葉の黄色いモザイクパターン、葉の変形(狭まり、斑点)の存在を、植物レベルで1週間毎に記録した。最初の病徴は、接種12~14日後に一般に観察された。葉にそのような病徴が観察されなかった場合、植物を抵抗性と分類した。葉に病徴のいずれかを示した植物を、「感染性」と分類した。葉サンプルを無病徴植物(即ち抵抗性)から採集して、ELISAによって、いずれかのウイルスの存在について試験した。
【0042】
スクリーニングにより、抵抗性育種のためにいくつかの候補を選択することが可能になり、最良の候補は、ペルー由来のS.ハブロカイテス系であるLYC4943であった。LYC4943は、接種後15週間以上病徴がなく、ELISAによりウイルスを含まないことを試験した。
【0043】
ELISAによるTBRFV感染の決定
感染をELISAによって決定した。全ての植物から頂部葉(完全に広がっている)1枚を採集した。葉を、R302 D63N-472型機械(VECTOR aandrijftechniek B.V.、Rotterdam、オランダ)を使用して破砕し、葉液を、PBS-Tween緩衝液2mLを添加することによって採集した。抽出液100μLを、ToMVに対する抗体(供給元Prime Diagnostics、Wageningen、オランダ)と共にELISAに使用した。ELISAの読み取りを、FLUOstar Galaxy装置で405nmの吸収を測定することによって行った。純系の対照植物の1.5倍以上の吸収値を示す植物は、感染している(感染性)と考えられた。
【0044】
TBRFV抵抗性ゲノム配列のバイオアッセイ及びマッピング
元のLYC4943(S.ハブロカイテス)種子ロットを、抵抗性について分離する。9つの異なるF1ファミリーを、バイオアッセイ用に播種して、完全に抵抗性であり(抵抗性が固定されている)、さらなる戻し交配に使用されることになるF1ファミリーを同定した。4つのF1ファミリーが発芽し、バイオアッセイにおいて試験された。LYC4943植物3(90479-3)で創出されたF1植物を抵抗性表現型について選択して、戻し交配株としてS.リコペルシクム株OT9及びOT1317を選択してマッピング用として2つの集団を創出した。マッピングに使用されたマーカーM1~M42(それぞれ、配列番号19~配列番号102)を表1に挙げる。
【0045】
298個の植物[(OT9×90479-3)×OT9]及び484個の植物(OT1317×90479-3)=合計782個の植物を、TBRVF分離株AE050で接種した。接種2~3週間後にはTBRFV病徴が存在し、眼による表現型判定を行った。明らかな分離が、抵抗性(R)と感染性(S)植物の間に観察され、抵抗性の表現型は、参照ゲノムSL2.40(S.リコペルシクム)において2,673,609bpで8番染色体上に位置するマーカーM1(表1を参照のこと)と連鎖している可能性がある。92個の植物を、26個のマーカーで遺伝子型判定して、QTLに隣接させた(M2~M27、表1を参照のこと)。これらの結果に基づくと、抵抗性は、参照ゲノムSL2.40において53,118,984bp~57,038,544bpの間にマップされ得る(M8とM20の間、表1及び図1を参照のこと)。
【表1】


【0046】
782個の植物の全体の集団を、隣接するマーカーM8及びM20で遺伝子型判定して、さらなる細かいマッピングのために組換え植物を見いだした。これにより、21個の組換え植物を得られた(図1を参照のこと)。これら21個の組換え植物を選択し、11個のマーカーM9~M19で遺伝子型判定して、領域をさらに細かくマップした(表1)。抵抗性は、参照ゲノムSL2.40上で56,920,720~56,990,004の間(マーカーM16とM17の間)で細かくマップされ得る。
【0047】
Oxford Nanopore配列決定技術を使用して抵抗性LYC4943領域を配列決定することにより、133,515bpの遺伝子座を得た。21個の組換え植物を、LYC4943のこの特定の遺伝子座内の追加のマーカー(M28~M42)で遺伝子型判定した。組換え植物、植物594及び608に基づくと、抵抗性領域は、参照ゲノムSL2.40に基づいて56,941,043~56,958,371位の間に位置し、LYC4943遺伝子座上の15,893~101,133位の間の位置(M33とM38の間、図1を参照のこと)と一致すると決定された。
【0048】
細かいマッピングに基づいて、TBRFV抵抗性を保有しているゲノム配列のサイズ及び場所は、マーカーM33とM38の間にあると決定され、S.リコペルシクムのSL2.40参照ゲノムと比較しておよそ68,000bp大きい(それぞれ、85,240bp対17,328bp)。従って、1つ又は複数の遺伝子が、図1において「TBRFV領域」と示されるこの領域内に位置し、TBRFV抵抗性を提供している可能性が非常に高く、この出願において配列番号3と示される。参照ゲノムSL2.40及びin silico予測分析(ITAG 2.3)に基づくと、CC-NBS-LRR抵抗性タンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子が、細かくマップした領域内に位置する。米国バイオテクノロジー情報センター(NCBI)のデータベースに対して細かくマップしたTBRFV領域をblast検索することにより、7つのゲノム断片が得られ、そのうち5つ(配列番号8、9、10、11及び14)は、NBS-LRR抵抗性タンパク質と相同性を有し、2つ(配列番号12及び配列番号13)は、LRR受容体様セリン/トレオニンプロテインキナーゼと相同性を有する。
【0049】
次に、さらなる細かいマッピングを実行し、668個のBC2植物[(OT9×90479-3)×OT9×OT9]をM33及びM38で遺伝子型判定することによって組換え選択を実行して、TBRFV領域における組換え植物を同定し、それにより、3つの植物15321-02、15321-03及び15321-07を得た(図4を参照のこと)。これら3つの植物を、TBRFV分離株AE50の接種によって抵抗性について試験した。TBRFV接種のおよそ3週間後に、植物を観察によって表現型判定し、ELISA及びqPCRを実行してウイルス感染をモニタリングした。組換え植物を、TBRFV遺伝子座を網羅し、TBRFV遺伝子座内の候補遺伝子を除去するように特に設計されたマーカー(M-SEQ 10、M-SEQ 11-1、M-SEQ 11-2、及びM-SEQ 14、それぞれ配列番号105~配列番号112)を用いて遺伝子型判定した。この手法により、本発明の候補ゲノム配列、配列番号1~配列番号18のうちどれが、TBRFVに対する抵抗性を特に提供するかという洞察を得られる。組換え植物並びに病害試験、ELISA及びqPCRによる表現型判定に基づいて、抵抗性を付与する遺伝子が、配列番号14のゲノム配列、より詳細には配列番号16のタンパク質をコードしている配列番号115のコードDNA配列によってコードされていると結論した。
【0050】
TBRFV抵抗性遺伝子座を含む植物におけるTm0、Tm1及びTm2系統抵抗性の検証
TBRFV抵抗性遺伝子座(配列番号1)を含む本発明のトマト植物(S.リコペルシクム)を、Tm0、1及び2系統に対して抵抗性について試験した。TBRFV抵抗性遺伝子座の存在を、マーカーM16、M17及びM33によって決定した。植物が、Tm2遺伝子(Tm0、1及び2系統に対する抵抗性をもたらす公知の遺伝子である)を含有しないことを、さらに確認した。一部の場合において、植物は、Tm1抵抗性遺伝子を含有した。対照として、TBRFV抵抗性遺伝子座を含有しない植物を選択した。
【0051】
6つの植物がTBRFV抵抗性遺伝子座(ヘテロ接合性)を含み、2つの植物(7及び8)がTBRFV抵抗性遺伝子座を含まない8つの植物(表2、1~8を参照のこと)に、Tm0分離株を接種した。6つの植物がTBRFV抵抗性遺伝子座(ヘテロ接合性)を含み、2つの植物(15及び16)がTBRFV抵抗性遺伝子座を含まない8つの植物(表2、9~16を参照のこと)に、Tm-1分離株を接種した。4つの植物がTBRFV抵抗性遺伝子座(2つのホモ接合性17、18、+2つのヘテロ接合性19、20)を含み、4つの植物がTBRFV抵抗性遺伝子座を含まない8つの植物(表2、17~28を参照のこと)に、Tm2分離株を接種した。対照として、感染性の栽培種トマト株OT95にも、3つ全ての系統を接種した。
【0052】
第1の病徴は、接種12~14日後に一般に観察された。葉にモザイクパターンの病徴が観察されなかった場合、植物を抵抗性(R)と分類し;葉に病徴のいずれかを示した植物を、感染性(S)と分類した。1つ1つの植物の表現型を、TBRFV遺伝子型と比較した。結果を、以下の表2に要約する。
【表2】
【0053】
結果Tm0
TBRFV抵抗性遺伝子座を含有した植物は全て抵抗性である。植物7及び8は、TBRFV抵抗性遺伝子座を含有しないが、抵抗性であった。その結果を説明し得る理由は、Tm1遺伝子が、ToMV分離株Tm-0に対する抵抗性の原因であるということである。加えて、植物1、2及び3は、Tm1遺伝子を含有しないが、TBRFV抵抗性遺伝子座を含有し、抵抗性であることを示した。
【0054】
結果Tm1
抵抗性表現型は、TBRFV遺伝子型と連鎖しており、ToMV分離株Tm-1に対する抵抗性をもたらす。
【0055】
結果Tm2
抵抗性表現型(ヘテロ接合性、ホモ接合性)は、TBRFV遺伝子型と連鎖しており、ToMV分離株Tm-2に対する抵抗性をもたらす。
【0056】
qPCRによるトマト(S.リコペルシクム)におけるTBRFV感染の決定
TBRFV抵抗性遺伝子座(ヘテロ接合性又はホモ接合性)を含むトマト植物及びこの領域を含有しない植物を、マーカー(M16及びM17)を使用してTBRFVバイオアッセイのために選択した。植物をTBRFVに感染させ、感染性トマト株OT9(感染させていない及び感染させたOT9)を対照として含めた。
【0057】
接種3週間後に、全ての植物の、植物の最上部の葉1枚を、6.35mmの金属小球を含有する2mL管に採集した。管を、液体窒素中で凍結させた。管を高速で振盪して、植物材料を粉砕した。管を遠心沈殿させた後、マシュレ-ネーゲル(Machrey-Nagel)(商標)ヌクレオスピン(NucleoSpin)(商標)RNA Plantを使用して標準的なRNA摘出を実施した。RNA濃度を、DropSense 96(Trinean)を使用して測定し、濃度100ng/μLに希釈した。900ngを使用して、M-MLV逆転写酵素(Invitrogen)を使用してcDNA合成した。cDNA 10ngを使用して、インターカレート色素としてLC Greenを使用してリアルタイムPCRした。TBRFV系統を増幅するために2つのプライマーの組合せを使用した、表3を参照のこと(それぞれ配列番号103及び配列番号104)。
【表3】
【0058】
サンプル中に存在するウイルスRNAが多いほど、(ウイルスRNAの)cDNAを増幅し、シグナルを拾うのに必要なPCRサイクルがより少ないので、qPCRにおけるCt値は低くなる。対照サンプル(感染していないOT9)は、35~40サイクルのCt値を示し、感染している対照サンプル(感染OT9)は、20~25のCt値を示した。従って、30サイクル以上のCt値、好ましくはおよそ35サイクルを示す植物は、抵抗性と考えられ、30未満のCt値を示す植物は、感染性と考えられた。(図2を参照のこと)。
【0059】
TBRFV抵抗性遺伝子座、ホモ接合性(B)又はヘテロ接合性(H)を含むトマト植物は全て、30サイクル以上のCt値を有し、抵抗性と考えられ得る。結果は、抵抗性が優性であることを示している。TBRFV抵抗性遺伝子座を含まなかった植物(A)は、20~25のCt値を示し、植物がTBRFV感染症に感染性であることを示した。
【0060】
抵抗性トマト植物のゲノム配列の配列決定
2018年4月27日にNature、Protocol Exchange(2018年)、Rachael Workmanら、「High Molecular Weight DNA Extraction from Recalcitrant Plant Species for Third Generation Sequencing」において公開されたプロトコールに従って、ゲノムDNAを、本発明の抵抗性植物(S.リコペルシクム)、即ちTBRFV抵抗性遺伝子座を含む植物から単離した。配列決定ライブラリを、PCR不要の、非多重化、DNA Ligation Sequencing Kit-Promethion(SQK-LSK109)を使用して調製した。単離手順の結果、配列決定のためにOxford Nanoporeシステム(ONT配列決定)で使用される高品質配列決定ライブラリを得た。Promethion Flowcell Packs(3000個細孔/フローセル)バージョンR9.4.1.を配列決定に使用した。
【0061】
さらにまた、TBRFV遺伝子座をさらに分析し、TBRFV抵抗性を提供する遺伝子を同定するために、抵抗性株(LYC4943)においてONT配列決定を実行した。抵抗性LYC4943株の完全な転写産物アイソフォームの配列決定を、Iso-Seq分析アプリケーション(Pacific Biosciences of California、PacBio)を使用して行った。これにより、マーカーM33とM38の間、より詳細には配列番号115のTBRFV抵抗性遺伝子の領域に位置する候補抵抗性転写産物/遺伝子を1つだけ得た。この転写産物は、配列番号116のCC-NBS-LRR抵抗性タンパク質をコードすると予測された。
【0062】
VIGSを使用する遺伝子検証
TBRFV抵抗性遺伝子(配列番号115)が実際にTBRFVに対する抵抗性を付与する遺伝子であることを確認するために、ウイルス誘導遺伝子サイレンシング(VIGS)分析を実行した。タバコ茎壊疽ウイルス(TRV)由来のVIGSベクターが、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、ニコチアナベンサミアナ(Nicotiana benthamiana)、リコペルシコンエスクレンタム(Lycopersicon esculentum)などの植物及び他の植物において遺伝子機能を研究するために多く記載されている[例えばHuang C、Qian Y、Li Z、Zhou X.:Virus-induced gene silencing and its application in plant functional genomics.Sci China Life Sci.2012年;55(2):99~108頁を参照のこと]。
【0063】
従って、2つのVIGS構築物、配列番号115を特異的に標的するための1つの構築物VIGS-01a、及び配列番号7、即ち以前に同定されているTBRFV遺伝子座内に同様に位置する配列を標的する対照構築物VIGS-01bを開発した(表4)。
【表4】
【0064】
VIGS断片を合成し(IDT、gBlocks)その後TRVベクターへとクローニングした。DNA配列を、サンガー配列決定によって確認した。ベクターは、標的配列を含む機能的TRV粒子に必要とされるタンパク質をコードしている配列を全て含有する。VIGS-01a及びVIGS-01b構築物を含むVIGSベクターを、アグロバクテリウムツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)系統GV3101に形質転換し、VIGS実験に使用して、本実験に使用したトマト植物中の内在性mRNAレベルを減少させた。ホモ接合性TBRFV抵抗性株(15322-04)及び感染性対照株(OT9)を、VIGS実験に使用し、植物を、苗段階(子葉)でアグロバクテリウム浸潤させ、その後アグロバクテリウム浸潤の3週間後にTBRFV分離株E50を接種した。TBRFV接種2週間後、個々の植物を、ELISA及びqPCRによって表現型判定し、構築物VIGS-01aを浸潤させた抵抗性植物では感染性が見られたが、構築物VIGS-01bを使用して浸潤させた抵抗性植物に感染性は検出されないことが明らかになった。ELISA及びqPCRの結果を、図5及び図6に示し、結果を表5に要約した。
【表5】
【0065】
予想通り、OT9株植物は全て感染性であった。疑わしいTBRFV抵抗性遺伝子を、この遺伝子を特異的に標的するように設計したVIGS-01a構築物を使用してサイレンシングした場合、完全に抵抗性であることが以前に示されたR株がTBRFVに感染性になり、一方でVIGS-01b構築物(対照構築物)を使用したサイレンシングは、試験した植物にいかなる感染性ももたらさなかった。これらの結果に基づくと、遺伝子配列番号115が、TBRFVに対する抵抗性を付与すると結論され得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
2022516735000001.app
【国際調査報告】