(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-03
(54)【発明の名称】血圧推定方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/021 20060101AFI20220224BHJP
A61B 5/02 20060101ALI20220224BHJP
A61B 5/0245 20060101ALI20220224BHJP
【FI】
A61B5/021
A61B5/02 310B
A61B5/0245 200
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021515503
(86)(22)【出願日】2019-12-11
(85)【翻訳文提出日】2021-04-15
(86)【国際出願番号】 CN2019124557
(87)【国際公開番号】W WO2021114134
(87)【国際公開日】2021-06-17
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504161984
【氏名又は名称】ホアウェイ・テクノロジーズ・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正平
【テーマコード(参考)】
4C017
【Fターム(参考)】
4C017AA08
4C017AA09
4C017AA10
4C017AB03
4C017AC27
4C017AC28
4C017BC11
4C017BD01
4C017BD05
4C017FF08
(57)【要約】
本願は、機械学習を使用する血圧(BP)推定技術であって、血圧推定方法を提供する技術に関し、ここで、方法は、患者のベースラインBP値を取得する段階と、患者に関連する光電容積脈波(PPG)信号を取得する段階と、ベースラインBP値、PPG信号、および推定モデルを使用することにより、患者のBP値を推定する段階であって、推定モデルは、PPG信号に基づいてBP値とベースラインBP値との間の差を推定するように構成される、推定する段階とを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血圧推定方法であって、
患者のベースライン血圧(BP)値を取得する段階と、
前記患者に関連する光電容積脈波(PPG)信号を取得する段階と、
前記ベースラインBP値、前記PPG信号、および推定モデルを使用することにより、前記患者のBP値を推定する段階であって、前記推定モデルは、前記PPG信号に基づいて前記BP値と前記ベースラインBP値との間の差を推定するように構成される、推定する段階と
を備える、方法。
【請求項2】
前記推定モデルは、所与のBP値の各々と前記所与のBP値に関連する所与のベースラインBP値との間の差を指示する第1のデータを含むトレーニングデータセットを使用する機械学習により構築される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記トレーニングデータセットはさらに、前記所与のBP値に関連する所与のPPG信号から抽出された少なくとも1つの特徴を指示する第2のデータを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記トレーニングデータセットは、前記所与のBP値における所与の心拍数(HR)値の各々と、前記所与のベースラインBP値における所与のHR値との間の差を指示する第3のデータを含む、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記所与のPPG信号は、複数のPPGパルスを含み、前記トレーニングデータセットは、各PPGパルスの特徴と、前記所与のベースラインBP値に関連するPPGパルスの対応する特徴との間の関係を指示する第4のデータを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記関係は、2つの前記特徴の間の差、2つの前記特徴の比、または、2つの前記特徴の間の数学的関係を表す予め定められた関数である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記患者の前記BP値を推定する前記段階は、前記患者の収縮期血圧(SBP)値と最低血圧(DBP)値とを推定する段階を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ベースラインBP値に対応するPPGパルス波形に基づいて、前記PPG信号の各PPGパルス波形を正規化する段階をさらに備える、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記患者の前記ベースラインBP値を取得する前記段階は、健診レポートの画像を撮像する段階と、前記患者の前記ベースラインBP値として、前記健診レポートの前記画像から特定のBP値を読み取る段階とを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
血圧推定装置であって、前記血圧推定装置は、プロセッサと光電容積脈波(PPG)センサとを備え、前記プロセッサは、
患者のベースライン血圧(BP)値を取得することと、
前記PPGセンサを介して前記患者に関連するPPG信号を取得することと、
前記ベースラインBP値、前記PPG信号、および推定モデルを使用することにより、前記患者のBP値を推定することであって、前記推定モデルは、前記PPG信号に基づいて前記BP値と前記ベースラインBP値との間の差を推定するように構成される、推定することとを行うように構成される、装置。
【請求項11】
前記推定モデルは、所与のBP値の各々と前記所与のBP値に関連する所与のベースラインBP値との間の差を指示する第1のデータを含むトレーニングデータセットを使用する機械学習により構築される、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記トレーニングデータセットはさらに、前記所与のBP値に関連する所与のPPG信号から抽出された少なくとも1つの特徴を指示する第2のデータを含む、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記トレーニングデータセットは、前記所与のBP値における所与の心拍数(HR)値の各々と、前記所与のベースラインBP値における所与のHR値との間の差を指示する第3のデータを含む、請求項11または12に記載の装置。
【請求項14】
前記所与のPPG信号は、複数のPPGパルスを含み、前記トレーニングデータセットは、各PPGパルスの特徴と、前記所与のベースラインBP値に関連するPPGパルスの対応する特徴との間の関係を指示する第4のデータを含む、請求項12に記載の装置。
【請求項15】
前記関係は、前記2つの特徴の間の差、前記2つの特徴の比、または、前記2つの特徴の間の数学的関係を表す予め定められた関数である、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記患者の前記BP値を推定する前に、前記プロセッサは、前記患者の収縮期血圧(SBP)値と最低血圧(DBP)値とを推定するように構成される、請求項10から15のいずれか一項に記載の装置。
【請求項17】
前記プロセッサはさらに、前記ベースラインBP値に対応するPPGパルス波形に基づいて、前記PPG信号の各PPGパルス波形を正規化するように構成される、請求項10から16のいずれか一項に記載の装置。
【請求項18】
前記患者の前記ベースラインBP値を取得する場合、前記プロセッサは、健診レポートの画像を取得することと、前記患者の前記ベースラインBP値として、前記健診レポートの前記画像から特定のBP値を読み取ることとを行うように構成される、請求項10から17のいずれか一項に記載の装置。
【請求項19】
請求項1から9のいずれか一項に記載の血圧推定方法をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、機械学習を使用する血圧(blood pressure,BP)推定技術、具体的には、光電容積脈波(photoplethysmogram,PPG)信号を使用するBP推定方法、ならびに、カフレスBPモニタ、医療デバイス、パーソナルBP測定デバイス、携帯電話、スマートフォン、通信端末、タブレットデバイスなどのモバイルデバイス、パーソナルコンピュータ、スマートウォッチ、またはヘルスケアデバイスなどといった装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血圧(BP)は、基本的なバイタルサインのうち1つであり、動脈硬化症、虚血性障害、高血圧、動脈炎、心筋梗塞、または脳卒中などといった心血管疾患を予測するのに使用される。頻繁なBP測定は、そのような心血管疾患の早期診断に重要である。頻繁なBP測定を容易にすべく、患者に不快感を与え得るカフの膨脹および収縮を必要とする従来のBP測定の代わりに、光電容積脈波(PPG)センサを使用するカフレスBP測定が開発される。加えて、LED(Light Emitting Diode)フラッシュおよびスマートフォン内に搭載されたカメラを使用するスマートフォンPPG、またはビデオ画像からパルス波を測定する方法などといった新しいPPG測定技術が提案されている。これらのカフレスBP測定技術は、継続的なBPモニタリングを実現可能にする。
【0003】
カフレスBP測定は、PPGセンサにより取得されたPPG信号に基づいてBP推定を使用する。BP推定に関して、例えば、パルス遷移時間(pulse transition time,PPT)ベースのアプローチと、パルス波形解析(pulse waveform analysis,PWA)ベースのアプローチが存在する。PTTベースのアプローチは、動脈におけるパルス波速度(pulse wave velocity,PWV)がその血管の剛性に比例するとみなし、PTTで除算されたパルス波距離として表されるPWVに基づいてBP推定を行う。PTTベースのアプローチで使用される原則は、「メーンズ・コルテベークの式」により表され得る。一方、PWAベースのアプローチは、「ウィンドケッセルモデル」を使用し、これは、大動脈などの弾性動脈の拡張と平均動脈圧(mean arterial pressure,MAP)との間の関係を微分方程式で説明する。当該関係は、類推による末梢血流量と末梢動脈圧との間の関係により置き換えられ得る。PPTベースのアプローチとPWAベースのアプローチとは、組み合わせで使用され得る。
【0004】
BPは、総末梢抵抗(total peripheral resistance,TPR)と、心拍数(heart rate,HR)およびストロークボリュームにより決定される心拍出量との積により定義され得る。BP変動は、例えば、年齢または季節による長期的な変動と、短期的な変動成分とにより構成される。短期的な変動成分は、交感神経系/副交感神経系、または圧受容器などといった様々な要因により影響される。さらに、BPは、エピネフリンの注射、横たわりから起立への姿勢変化、白衣性高血圧、および仮面高血圧などにより影響され得る。これらの短期効果は、高血圧の評価または管理のためにBP推定の適切な精度を実現するために、除去されるべきである。
【0005】
BP推定の精度を向上させるべく、近年、機械学習を使用するいくつかのBP推定技術が提案されている。例えば、M.Liu et al.,「Cuffless Blood Pressure Estimation Based on Photoplethysmogramy Signal and Its Second Derivative」,International Journal of Computer Theory and Engineering,Vol.9,No.3,June 2017,202-206(以下、Liu)は、サポートベクトル回帰(Support Vector Regression,SVR)を使用するPTTベースのアプローチを教示しており、BP推定において、SVRが、線形回帰とニューラルネットワークとより良い性能を示すことを説明する。Y.Liang et al.,「Hypertension Assessment via ECG and PPG Signals: An Evaluation Using MIMIC Database」,diagnostics 2018,8,65(以下、Liang)は、ロジスティック回帰、AdaBoost Tree、Bagged Treeおよびk近傍法を使用するBP推定を教示する。S.Shimazaki et al.,「Features Extraction for Cuffless Blood Pressure Estimation by Autoencoder from Photoplethysmogramy」,Conf.Proc.,IEEE Engineering in Medicine and Biology Society,July,2018,2857-2860(以下、Shimazaki)は、オートエンコーダを使用することにより抽出された特徴に基づいて機械学習を使用するBP推定を教示する。M. Kachuee et al.,「Cuffless Blood Pressure Estimation Algorithms for Continuous Health-Care Monitoring」,IEEE transactions of Biomedical Engineering,Vol.64,No.5,April 2017(以下、Kachuee)は、正規化線形回帰、決定木回帰、SVM、AdaBoost、およびランダムフォレスト回帰を使用するBP推定を教示する。
【0006】
最適な抽出された特徴に基づいて機械学習を使用するBP推定は、上述の短期効果を縮小し得、BPの推定精度を向上させ得る。しかしながら、既存のBP推定技術の精度は、人によって変わる血圧の本質的な差により、低下される。そのような本質的な差はBPと特徴との間の共通関係に影響を及ぼし、その効果は、BP推定の精度の向上において無視できない。これに関連して、例えば、BPの24時間平均または携帯型血圧モニタリング(ABPM)のもっとも低い値により定義され得るベースラインBPは、血管の抵抗の増加、動脈の剛性、細動脈のリモデリング、圧力-ナトリウム利尿関係のリセット、および心血管疾患などによって、年齢および/または患者の状態に応じて、徐々に増加する。したがって、ベースラインBPの差は、機械学習を使用するBP推定の精度を低下させ得る。
【発明の概要】
【0007】
実施形態は、BP推定方法と、プロセッサおよびPPGセンサを有し、BP推定に使用される装置とを提供する。装置は、カフレスBPモニタ、医療デバイス、またはパーソナルBP測定デバイスなどであってよい。装置は、カフレスBPモニタ、医療デバイス、パーソナルBP測定デバイス、携帯電話、スマートフォン、通信端末、タブレットデバイスなどのモバイルデバイス、パーソナルコンピュータ、スマートウォッチなどのウェアラブルデバイス、またはヘルスケアデバイスといったものであってもよい。
【0008】
実施形態の第1の態様は、血圧推定方法を提供する。第1の態様の第1の可能な実装形態において、方法は、患者のベースライン血圧(BP)値を取得する段階と、患者に関連する光電容積脈波(PPG)信号を取得する段階と、ベースラインBP値、PPG信号、および推定モデルを使用することにより、患者のBP値を推定する段階であって、推定モデルは、PPG信号に基づいてBP値とベースラインBP値との間の差を推定するように構成される、推定する段階とを備える。
【0009】
第1の態様の第1の可能な実装形態によると、推定モデルは、BP値とベースラインBP値との間の差を推定し、患者のベースラインBP値は、患者のBP値を推定する場合に考慮される。ベースラインBP値により説明される患者の特徴は推定されたBP値に反映され、その結果、BP推定の精度が向上され得る。
【0010】
第1の態様の第2の可能な実装形態は、第1の態様の第1の可能な実装形態に係る方法であって、ここで、推定モデルは、所与のBP値の各々と所与のBP値に関連する所与のベースラインBP値との間の差を指示する第1のデータを含むトレーニングデータセットを使用する機械学習により構築される、方法を提供する。
【0011】
第1の態様の第2の可能な実装形態によると、トレーニングデータセットは、所与のBP値と対応する所与のベースラインBP値との間の差を指示するデータからなる。これは、推定モデルを構築するために使用されるトレーニングデータセットから人の個性の少なくとも一部を除去し得、当該推定モデルによるBP推定の精度の向上が実現され得る。
【0012】
第1の態様の第3の可能な実装形態は、第1の態様の第2の可能な実装形態に係る方法であって、ここで、トレーニングデータセットはさらに、所与のBP値に関連する所与のPPG信号から抽出された少なくとも1つの特徴を指示する第2のデータを含む、方法を提供する。
【0013】
第1の態様の第3の可能な実装形態によると、推定モデルは、所与のPPG信号から抽出された少なくとも1つの特徴、対応する所与のBP値、ならびに、所与のBP値と所与のベースラインBP値との間の対応する差の組み合わせに基づいて構築され得る。少なくとも1つの特徴は、SDPTG(second derivative of photoplethysmogram,二次微分脈波)加齢指数、RMSSD(root mean square of successive differences of peak-to-peak intervals in waveforms,波形におけるピークツーピーク間隔の連続する差の二乗平均平方根)、PPG信号のピークまたは谷のタイミング、PPG信号の一次導関数におけるピークタイミング、PPG信号の二次導関数におけるピークタイミングのうち少なくとも1つ、またはこれらの組み合わせであり得る。トレーニングデータセットの一部として最適な特徴セットを適用することはさらに、BP推定の精度を向上させ得る。
【0014】
第1の態様の第4の可能な実装形態は、第1の態様の第2または第3の可能な実装形態に係る方法であって、ここで、トレーニングデータセットは、所与のBP値における所与の心拍数(HR)値の各々と、所与のベースラインBP値における所与のHR値との間の差を指示する第3のデータを含む、方法を提供する。
【0015】
第1の態様の第4の可能な実装形態によると、観察されたHR値と、ベースラインBP値における患者のHR値との間の差を考慮し得る推定モデルが、機械学習により構築され得る。患者の静止状態において、HRは、一般的に、BPに比例してもよく、また、BPと関連付けられる最適な特徴のうち1つであってもよい。したがって、ベースラインBPにおけるHR値を考慮することはさらに、BP推定の精度を向上させ得る。
【0016】
第1の態様の第5の可能な実装形態は、第1の態様の第3の可能な実装形態に係る方法であって、ここで、所与のPPG信号は、複数のPPGパルスを含み、トレーニングデータセットは、各PPGパルスの特徴と、所与のベースラインBP値に関連するPPGパルスの対応する特徴との間の関係を指示する第4のデータを含む、方法を提供する。
【0017】
第1の態様の第5の可能な実装形態によると、観察されたPPGパルスから抽出された特徴と、ベースラインBP値に対応する少なくとも1つのPPGパルスの特徴との間の関係を考慮し得る推定モデルが、機械学習により構築され得る。これは、推定モデルを構築するために使用されるトレーニングデータから人の個性の少なくとも一部を除去し得、当該推定モデルによるBP推定の精度の向上が実現され得る。
【0018】
第1の態様の第6の可能な実装形態は、第1の態様の第5の可能な実装形態に係る方法であって、ここで、関係は、2つの特徴の間の差、2つの特徴の比、または2つの特徴の間の数学的関係を表す予め定められた関数である、方法を提供する。上述したように、関係のタイプは、2つの特徴の形式または予め定められたプロトコルに従って適切に選択され得る。
【0019】
第1の態様の第7の可能な実装形態は、第1の態様の第1から第6の可能な実装形態のうちいずれか1つに係る方法であって、ここで、患者のBP値を推定する段階は、患者の収縮期血圧(SBP)値および最低血圧(DBP)値を推定する段階を含む、方法を提供する。
【0020】
第1の態様の第7の可能な実装形態によると、患者は、いくつかの心血管疾患の予測および/または診断に有用であり得るSBP値およびDBP値を取得し得る。
【0021】
第1の態様の第8の可能な実装形態は、第1の態様の第1から第7の可能な実装形態のうちいずれか1つに係る方法であって、ここで、方法はさらに、ベースラインBP値に対応するPPGパルス波形に基づいて、PPG信号の各PPGパルス波形を正規化する段階を備える、方法を提供する。
【0022】
第1の態様の第8の可能な実装形態によると、観察されたPPGパルスは、ベースラインBP値に対応するPPGパルス波形に基づいて正規化され、従って、PPG信号からの特徴抽出を容易にし、BP推定の精度を向上させる。
【0023】
第1の態様の第9の可能な実装形態は、第1の態様の第1から第8の可能な実装形態のうちいずれか1つに係る方法であって、ここで、患者のベースラインBP値を取得する段階は、健診レポートの画像を撮像する段階と、患者のベースラインBP値として、健診レポートの画像から特定のBP値を読み取る段階とを含む、方法を提供する。
【0024】
第1の態様の第9の可能な実装形態によると、患者は、健診レポートを使用して患者のベースラインBP値を入力し、従って、使いやすさを向上させ得る。
【0025】
実施形態の第2の態様は、血圧推定装置を提供する。第2の態様の第1の可能な実装形態において、装置はプロセッサとPPGセンサとを備え、ここで、プロセッサは、患者のベースライン血圧(BP)値を取得することと、PPGセンサを介して患者に関連するPPG信号を取得することと、ベースラインBP値、PPG信号、および推定モデルを使用することにより、患者のBP値を推定することであって、推定モデルは、PPG信号に基づいてBP値とベースラインBP値との間の差を推定するように構成される、推定することとを行うように構成される。
【0026】
第2の態様の第1の可能な実装形態によると、推定モデルは、BP値とベースラインBP値との間の差を推定し、患者のベースラインBP値は、患者のBP値を推定する場合に考慮される。ベースラインBP値により説明される患者の特徴は推定されたBP値に反映され、その結果、BP推定の精度が向上され得る。
【0027】
第2の態様の第2の可能な実装形態は、第2の態様の第1の可能な実装形態に係る装置であって、ここで、推定モデルは、所与のBP値の各々と所与のBP値に関連する所与のベースラインBP値との間の差を指示する第1のデータを含むトレーニングデータセットを使用する機械学習により構築される、装置を提供する。
【0028】
第2の態様の第2の可能な実装形態によると、トレーニングデータセットは、所与のBP値と対応する所与のベースラインBP値との間の差を指示するデータからなる。これは、推定モデルを構築するために使用されるトレーニングデータから人の個性の少なくとも一部を除去し得、当該推定モデルによるBP推定の精度の向上が実現され得る。
【0029】
第2の態様の第3の可能な実装形態は、第2の態様の第2の可能な実装形態に係る装置であって、ここで、トレーニングデータセットはさらに、所与のBP値に関連する所与のPPG信号から抽出された少なくとも1つの特徴を指示する第2のデータを含む、装置を提供する。
【0030】
第2の態様の第3の可能な実装形態によると、推定モデルは、所与のPPG信号から抽出された少なくとも1つの特徴、対応する所与のBP値、ならびに、所与のBP値と所与のベースラインBP値との間の対応する差の組み合わせに基づいて構築され得る。少なくとも1つの特徴は、SDPTG加齢指数、RMSSD、PPG信号のピークまたは谷のタイミング、PPG信号の一次導関数におけるピークタイミング、PPG信号の二次導関数におけるピークタイミングのうち少なくとも1つ、またはこれらの組み合わせであり得る。トレーニングデータセットの一部として最適な特徴セットを適用することはさらに、BP推定の精度を向上させ得る。
【0031】
第2の態様の第4の可能な実装形態は、第2の態様の第2または第3の可能な実装形態に係る装置であって、ここで、トレーニングデータセットは、所与のBP値における所与のHR値の各々と、所与のベースラインBP値における所与のHR値との間の差を指示する第3のデータを含む、装置を提供する。
【0032】
第2の態様の第4の可能な実装形態によると、観察されたHR値と、ベースラインBP値における患者のHR値との間の差を考慮し得る推定モデルが、機械学習により構築され得る。患者の静止状態において、HRは、一般的に、BPに比例してもよく、また、BPと関連付けられる最適な特徴のうち1つであってもよい。したがって、ベースラインBPにおけるHR値を考慮することはさらに、BP推定の精度を向上させ得る。
【0033】
第2の態様の第5の可能な実装形態は、第2の態様の第3の可能な実装形態に係る装置であって、ここで、所与のPPG信号は、複数のPPGパルスを含み、トレーニングデータセットは、各PPGパルスの特徴と、所与のベースラインBP値に関連するPPGパルスの対応する特徴との間の関係を指示する第4のデータを含む、装置を提供する。
【0034】
第2の態様の第5の可能な実装形態によると、観察されたPPGパルスから抽出された特徴と、ベースラインBP値に対応する少なくとも1つのPPGパルスの特徴との間の関係を考慮し得る推定モデルが、機械学習により構築され得る。これは、推定モデルを構築するために使用されるトレーニングデータセットから人の個性の少なくとも一部を除去し得、当該推定モデルによるBP推定の精度の向上が実現され得る。
【0035】
第2の態様の第6の可能な実装形態は、第2の態様の第5の可能な実装形態に係る装置であって、ここで、関係は、2つの特徴の間の差、2つの特徴の比、または2つの特徴の間の数学的関係を表す予め定められた関数である、装置を提供する。上述したように、関係のタイプは、2つの特徴の形式または予め定められたプロトコルに従って適切に選択され得る。
【0036】
第2の態様の第7の可能な実装形態は、第2の態様の第1から第6の可能な実装形態のうちいずれか1つに係る装置であって、ここで、患者のBP値を推定する場合、プロセッサは、患者のSBP値およびDBP値を推定するように構成される、装置を提供する。
【0037】
第2の態様の第7の可能な実装形態によると、患者は、いくつかの心血管疾患の予測および/または診断に有用であり得るSBP値およびDBP値を取得し得る。
【0038】
第2の態様の第8の可能な実装形態は、第2の態様の第1から第7の可能な実装形態のうちいずれか1つに係る装置であって、ここで、プロセッサはさらに、ベースラインBP値に対応するPPGパルス波形に基づいて、PPG信号の各PPGパルス波形を正規化するように構成される、装置を提供する。
【0039】
第2の態様の第8の可能な実装形態によると、観察されたPPGパルスは、ベースラインBP値に対応するPPGパルス波形に基づいて正規化され、従って、PPG信号からの特徴抽出を容易にし、BP推定の精度を向上させる。
【0040】
第1の態様の第9の可能な実装形態は、第2の態様の第1から第8の可能な実装形態のうちいずれか1つに係る装置であって、ここで、患者のベースラインBP値を取得する場合、プロセッサは、健診レポートの画像を取得することと、患者のベースラインBP値として、健診レポートの画像から特定のBP値を読み取ることとを行うように構成される、装置を提供する。
【0041】
第2の態様の第9の可能な実装形態によると、患者は、健診レポートを使用して患者のベースラインBP値を入力し、従って、使いやすさを向上させ得る。
【0042】
実施形態の第3の態様は、コンピュータに、第1の態様の第1から第9の実装形態のうちいずれか1つに係る方法を実行させるためのプログラムを格納する非一時的コンピュータ可読記憶媒体を提供する。実施形態の第4の態様は、コンピュータに、第1の態様の第1から第9の実装形態のうちいずれか1つに係る方法を実行させるためのコンピュータ可読プログラムコードを提供する。
【0043】
第3の態様および第6の態様のいずれか1つによると、推定モデルを構築する場合、人の個性の少なくとも一部がトレーニングデータセットから除去され得、当該推定モデルによるBP推定の精度の向上が実現され得る。
【0044】
実施形態の第5の態様は、第1の態様の第1から第9の実装形態のうちいずれか1つに係る推定モデルを構築する方法を提供する。実施形態の第6の態様は、第1の態様の第1から第9の実装形態のうちいずれか1つに係る推定モデルを構築する装置を提供する。実施形態の第7の態様は、コンピュータに、第5の態様に係る方法を実行させるためのプログラムを格納する非一時的コンピュータ可読記憶媒体を提供する。実施形態の第8の態様は、コンピュータに、第5の態様に係る方法を実行させるコンピュータ可読プログラムコードを提供する。
【0045】
第5の態様から第8の態様のいずれか1つによると、推定モデルを構築する場合、人の個性の少なくとも一部がトレーニングデータセットから除去され得、当該推定モデルによるBP推定の精度の向上が実現され得る。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】本開示の実施形態に係るシステムを説明する概略ブロック図である。
【
図2】本開示の実施形態に係るBP測定装置を説明する概略ブロック図である。
【
図3】本開示の実施形態に係るコンピューティングシステムを説明する概略ブロック図である。
【
図4】本開示の実施形態に係るトレーニングデータセットを説明する第1の表を示す。
【
図5】本開示の実施形態の変形例に係るトレーニングデータセットを説明する第2の表を示す。
【
図6】本開示の実施形態に係るBP測定動作を説明するフローチャートである。
【
図7】本開示の実施形態の第1の変形例に係るモデル構築動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下では、添付の図面を参照して、実施形態の技術的解決手段を説明する。以下に説明される実施形態は、全てではなく、単に本開示に関する実施形態の一部であることが理解されよう。創造的な努力なしに、以下に説明される実施形態に基づいて当業者により導出され得る全ての他の実施形態は、本開示の保護範囲に含まれるものとすることに留意されたい。
【0048】
図1は、本開示の実施形態に係るシステムを説明する概略ブロック図である。
図1に示されるシステムは、BP測定装置10、コンピューティングシステム20、およびカフ付きBPモニタ30を含み得る。任意選択的に、このシステムはさらに、他のヘルスケア用モニタを含んでもよく、または、心電計(electrocardiograph,ECG)センサ、ECGセンサの代替品、インピーダンスカルジオグラフィ(ICG)センサ、少なくとも1つのPPGセンサ、PPGセンサアレイ、または圧力センサなどといったセンサを含んでもよく、他のヘルスケア用モニタまたはセンサは、装置10に接続され得る。例えば、加速度センサ、振動センサ、ジャイロセンサ、シートタイプの圧力センサ、超音波センサ、マイクロ波センサ、またはミリメートル波レーダなどといったデバイスは、ECGセンサの代替品として使用され得る。少なくとも1つのPPGセンサは、装置10内に搭載されたPPGセンサにより測定されたポイント以外の測定ポイントにおいてPPG信号を測定し得る。圧力センサは、トノメトリ法により橈骨動脈などをモニタリングしてもよく、または、PPGセンサの接触圧を管理してもよい。
【0049】
装置10は、ネットワークNWを介してシステム20と接続され得る。ネットワークNWは、ローカルエリアネットワーク(LAN)、ワイドエリアネットワーク(WAN)、またはこれらの組み合わせなどの無線または有線ネットワークであり得る。装置10は、カフレスBPモニタ、医療デバイス、パーソナルBP測定デバイス、携帯電話、スマートフォン、通信端末、タブレットデバイスなどのモバイルデバイス、パーソナルコンピュータ、スマートウォッチ、またはヘルスケアデバイスなどといった装置であってもよい。システム20は、パーソナルコンピュータ、ワークステーション、サーバコンピュータ、または分散処理システムなどといったコンピュータであってもよい。モニタ30は、BP測定に使用されるカフを有するモニタリングデバイスであってよい。
【0050】
装置10は、カフレスBP測定を実行して、患者のBP値を取得するように構成される。システム20は、機械学習によるPPG信号に基づいてBP値を推定するための推定モデルを構築するように構成される。構築された推定モデルは装置10に提供され、装置10によるカフレスBP測定に使用される。モニタ30は、患者のBP値を測定するように構成され、モニタ30による測定結果は、装置10により使用される推定モデルの定期的な較正に使用される。任意選択的に、モニタ30はさらに、患者のHR値を測定するように構成され得る。
【0051】
図2は、本開示の実施形態に係るBP測定装置を説明する概略ブロック図である。
図2に示されるように、装置10は、PPGセンサ11、プロセッサ12、およびメモリ13を含み得る。装置10はさらに、LCD(Liquid Crystal Display)デバイス、またはELD(Electro-Luminescent Display)デバイスなどといった表示デバイスを含み得る。任意選択的に、装置10はさらに、デジタルカメラなどの撮像デバイスを含み得る。
【0052】
PPGセンサ11は、LEDフラッシュなどといった光源と、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサなどといった光検出デバイスと、少なくとも1つのCPU(Central Processing Unit)などの処理回路とを含む。代替的に、PPGセンサ11は、撮像された患者のビデオ画像を解析してPPG信号を取得することにより、PPG測定デバイスになる場合がある。
【0053】
PPGセンサ11が透過型センサであるとき、PPGセンサ11は、患者の指などといった患者の身体の一部を介して透過された光に基づいてPPG信号を取得するように構成される。PPGセンサ11が反映型センサであるとき、PPGセンサ11は、患者の内部における反映光に基づくPPG信号を取得するように構成される。本開示の実施形態において、任意のPPGセンサのタイプが、PPGセンサ11に適用可能であり得る。
【0054】
プロセッサ12は、データを処理するためのハードウェア要素であり、少なくとも1つのCPU、少なくとも1つのFPGA(Field-programmable gate array)、または少なくとも1つのGPU(Graphics Processing Unit)などといった処理回路であり得る。メモリ13は、データを格納するハードウェア要素であり、SSD(Solid State Drive)、HDD(Hard Disk Drive)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、またはメモリカードなどといったストレージデバイスであり得る。メモリ13は、非一時的コンピュータ可読記憶媒体であり得る。
【0055】
例えば、プロセッサ12は、患者のベースラインBP値13aを取得することと、PPGセンサ11を介して患者に関連するPPG信号を取得することと、ベースラインBP値13a、PPG信号、および推定モデル13bを使用することにより、患者のBP値を推定することとを行うように構成され得る。推定モデル13bは、PPG信号に基づいてBP値とベースラインBP値13aとの間の差を推定するように構成される。任意選択的に、患者のBP値を推定する前に、プロセッサ12は、ベースラインBP値13aに対応するPPGパルス波形に基づいて、PPG信号の各PPGパルス波形を正規化するように構成され得る。さらに、プロセッサ12は、患者のSBP値およびDBP値を推定するように構成され得る。
【0056】
ベースラインBP値13aは、患者により事前に入力され、メモリ13に格納され得る。任意選択的に、プロセッサ12は、患者の健診レポートの画像を取得することと、ベースラインBP値13aとして、健診レポートの画像から特定のBP値を読み取ることとを行うように構成され得る。健診レポートは、ベースラインBP値13aの情報を含む情報媒体の一例である。推定モデル13bは、システム10により構築され、メモリ13に予め格納されてもよく、または、ネットワークNWを介してシステム20から受信されてもよい。
【0057】
図3は、本開示の実施形態に係るコンピューティングシステムを説明する概略ブロック図である。
図3に示されるように、システム20は、プロセッサ21およびメモリ22を含み得る。プロセッサ21は、データを処理するためのハードウェア要素であり、少なくとも1つのCPU、少なくとも1つのFPGA、または少なくとも1つのGPUなどといった処理回路であり得る。メモリ22は、データを格納するためのハードウェア要素であり、SSD、HDD、RAM、ROM、フラッシュメモリ、またはメモリカードなどといったストレージデバイスであり得る。メモリ22は、非一時的コンピュータ可読記憶媒体であり得る。
【0058】
例えば、プロセッサ21は、所与のBP値の各々と所与のBP値に関連する所与のベースラインBP値との間の差を指示する第1のデータを含むトレーニングデータセット22aを使用する機械学習により推定モデル22bを構築するように構成され得る。
【0059】
本開示の実施形態において、プロセッサ21は、線形回帰、ニューラルネットワーク、サポートベクトル回帰、ロジスティック回帰、AdaBoost Tree、Bagged Tree、k近傍法、決定木回帰、またはランダムフォレスト回帰などといった技術に基づいて機械学習を実行し得る。
【0060】
トレーニングデータセット22aの少なくとも一部を取得するために、Medical Information Mart for Intensive Care(MIMIC)データベースが使用され得、ここで、MIMICデータベースは、何万もの集中治療室(ICU)患者を含む自由に使用可能なデータベースであり、ABPデータ、ECGデータ、またはPPGデータなどといった様々なタイプのデータを含む。
【0061】
トレーニングデータセット22aは、所与のBP値に関連する所与のPPG信号から抽出された少なくとも1つの特徴を指示する第2のデータを含み得る。少なくとも1つの特徴を指示する第2のデータは、MIMICデータベースなどのパブリックデータベースから取得されてもよく、または、オートエンコーダを使用することにより抽出されてもよい。
【0062】
例えば、いくつかのタイプの特徴は、ECG、PPG、VPG(Velocity waveform of PPG signals,PPG信号の速度波形)およびAPG(Acceleration waveform of PPG signals,PPG信号の加速度波形)信号に基づいて、PPG特徴として定義され得る。VPG信号は、元のPPG信号に対する1階微分として定義され得る。APG信号は、元のPPG信号に対する2階微分として定義され得る。PPT特徴のうち1つは、ECGおよびPPG信号から抽出され得るパルス到着時間(pulse arrival time,PAT)である。さらに、PPG、VPGおよびAPG信号から抽出され得るPPGの形態的特徴が存在する。加えて、SDPTG加齢指数、RMSSD、PPG信号のピークまたは谷のタイミング、VPG信号のピークタイミング、APG信号のピークタイミング、またはこれらの組み合わせは、本開示の実施形態に適用可能なPPG特徴として抽出され得る。
【0063】
任意選択的に、トレーニングデータセット22aは、所与のBP値における所与のHR値の各々と、所与のベースラインBP値における所与のHR値との間の差を指示する第3のデータを含み得る。例えば、HRおよびBP値は、HR測定機能を有するBPモニタリングデバイスを使用することにより、同時に測定され得る。したがって、HRおよびBP値のペアを含むデータベースが与えられたとき、HRおよびBP値の関連するペアは、推定モデル22bを構築するためのトレーニングデータセット22aとして使用され得る。加えて、トレーニングデータセット22aは、各PPGパルスの特徴と、所与のベースラインBP値に関連するPPGパルスの対応する特徴との間の関係を指示する第4のデータを含み得る。例えば、関係は、2つの特徴の間の差、2つの特徴の比、または、2つの特徴の間の数学的関係を表す予め定められた関数であり得る。
【0064】
図4は、本開示の実施形態に係るトレーニングデータセットを説明する第1の表を示す。
図4に示されるように、第1の表は、複数の例のうち1つとして、同じまたは同様の対象に関するデータセット#01、#02、#11および#12を含む。データセット#01および#02の各々は、ベースラインSBP値、SBP値、ベースラインDBP値、DBP値、ベースラインHR値、HR値および特徴からなる。データセット#11および#12の各々は、SBP値とベースラインSBP値との間の差、DBP値とベースラインDBP値との間の差、HR値とベースラインHR値との間の差、および特徴からなる。ベースラインSBP/DBP値は、BP値がベースラインBP値に等しい場合、SBP/DBP値に対応する。ベースラインHR値は、BP値がベースラインBP値に等しい場合、HR値として定義され得る。データセット#01および#02はそれぞれ、データセット#11および#12に対応する。
【0065】
データセット#1および#2がトレーニングデータセット22aのソースとして与えられたとき、データセット#1および#2の各々に対して、プロセッサ21は、SBP値とベースラインSBPとの間の差を、以下のように計算し得る:ΔSBP=SBP-ベースラインSBP。同様に、プロセッサ21は、DBP値とベースラインDBPとの間の差を、以下のように計算し得る:ΔDBP=DBP-ベースラインDBP。また、HR値とベースラインHRとの間の差を以下のように計算し得る:ΔHR=HR-ベースラインHR。
図4の例において、プロセッサ21は、データセット#01および#02の特徴を、データセット#11および#12に設定する。これは、プロセッサ21が、推定モデル22bを構築する場合、PPG信号から抽出された特徴を直接使用し得ることを意味する。同様のやり方で、プロセッサ21は、ΔSBP、ΔDBP、ΔHRおよび対応する特徴を含むデータセットを準備し得る。任意選択的に、これらのデータセットは、MIMICデータベースなどの外部データソースから取得され得る。
【0066】
プロセッサ21は、ΔSBP、ΔDBP、ΔHRおよび対応する特徴を含む準備されたデータセットに基づいて、推定モデル22bを構築する。
図4の例によると、準備されたデータセットは主に、ΔSBP,ΔDBP、およびΔHRという差からなる。これは、推定モデルを構築するために使用されるトレーニングデータセットから人の個性の少なくとも一部を除去し得、推定モデル22bによるBP推定の精度の向上の実現に寄与し得る。
【0067】
図5は、本開示の実施形態の変形例に係るトレーニングデータセットを説明する第2の表を示す。
図5に示されるように、第2の表は、
図4の第1の表の対応するデータセットと同一であるデータセット#01、#02、#11および#12を含む。
図5の例において、「ベースライン」とラベリングされたレコードが表に追加される。このラベリングされたレコードは、SBP値、DBP値およびHR値がそれぞれ、ベースラインSBP値、ベースラインDBP値およびベースラインHR値に等しい場合、特徴を指示するために追加される。ラベリングされたレコードには、データセット#1および#2などの所定のデータセットに線形/非線形内挿補間、線形/非線形外挿補間、または統計モデルなどを適用することにより取得され得るX、YおよびZの特徴が含まれる。さらに、パルス波解析(pulse wave analysis,PWA)アプローチに使用されるいくつかの特徴は、ベースラインにおけるPPGパルスに基づいて正規化されたパルス波形を合成することにより抽出され得る。
【0068】
図5の例において、プロセッサ21は、
図4の例と同様に、ΔSBP,ΔDBP、およびΔHRを計算し得る。さらに、プロセッサ21は、データセット#01の特徴A1と、ラベリングされたレコードの対応する特徴Xとの間の関係を計算し得る。これらの特徴に関して、関係は、対応する2つの特徴の間の差である。従って、プロセッサ21は、特徴A1とXとの間の差を計算し、当該差を、データセット#01に対応するデータセット#11に設定する。同様に、プロセッサ21は、特徴A2とXとの間の差を計算し、当該差を、データセット#02に対応するデータセット#12に設定する。
【0069】
図5の例において、第2の表における特徴B1およびB2は、ラベリングされたレコードの特徴Yに対応する。これらの特徴に関して、関係は、対応する2つの特徴の比である。従って、プロセッサ21は、B1とYとの比を計算し、当該比をデータセット#11に設定する。同様に、プロセッサ21は、B2とYとの比を計算し、当該比をデータセット#12に設定する。さらに、ラベリングされたレコードの特徴Zに対応する特徴C1およびC2に関して、関係は、数学的関数であり得る関数Fにより提供される。特徴C1およびC2に関して、プロセッサ21は、F(C1,Z)およびF(C2,Z)を計算し、これらの計算結果をそれぞれ、データセット#11および#12に設定する。任意選択的に、これらの特徴は、MIMICデータベースなどの外部データソースから取得され得る。
【0070】
プロセッサ21は、ΔSBP、ΔDBP、ΔHRおよび対応する特徴の関係を含む準備されたデータセットに基づいて、推定モデル22bを構築する。
図5の例によると、特徴ならびにΔSBP,ΔDBP、およびΔHRに対して、人の個性の少なくとも一部は、推定モデルを構築するのに使用されるトレーニングデータセットから除去され得、その結果、推定モデル22bによるBP推定の精度の向上が実装され得る。
【0071】
図6は、本開示の実施形態に係るBP測定動作を説明するフローチャートである。
図6に示されるBP測定動作は主に、装置10により実行される。
【0072】
段階S11において、装置10のプロセッサ12は、患者のベースラインBP値13aを取得する。ベースラインBP値は、キーボード、キーパッド、タッチパネル、タッチパッドなどといった入力インターフェースを介して患者により入力され得る。任意選択的に、プロセッサ12は、カフ付きBPモニタ30などといったBPモニタリングデバイスからベースラインBP値13aを取得し得る。この場合、患者は、BPモニタリングデバイスを使用することによりベースラインBP値13aを測定し、無線または有線通信ネットワークを介して、ベースラインBP値13aを装置10に伝送し得る。ベースラインBP値13aは、メモリ13に格納され、定期的に更新され得る。
【0073】
段階S12において、プロセッサ12は、PPGセンサ11を介して患者に関連するPPG信号を取得する。PPG信号を指示するデータは、メモリ13に格納され得る。任意選択的に、プロセッサ12はさらに、装置10に接続されたセンサ(図示せず)から出力される他の信号を取得し得る。例えば、外部ECGセンサなどからの信号は、プロセッサ12により取得され得る。
【0074】
段階S13において、プロセッサ12は、推定モデル13bおよびPPG信号に基づいて、BP値とベースラインBP値13aとの間の差を推定する。推定モデル13bは、システム20により構築され、装置10のメモリ13に予め格納され得る。任意選択的に、推定モデル13bは、ネットワークNWを介してシステム20から受信され得る。この場合、推定モデル13bは、定期的に更新され、装置10に提供され得る。
【0075】
任意選択的に、推定モデル13bは、BP値を推定する前に較正されてもよく、または較正されなくてもよい。これに関連して、Kachueeは、BP推定の任意選択的な較正が、既存のPPTベースのアプローチにおけるBP推定精度を向上させ得ることを提案している。本開示の実施形態において、較正は、カフ付きBPモニタ30から出力された実際のBP値またはΔBP値を使用することにより実行され得る。任意選択的に、推定モデル13bは、システム20により較正され得る。この場合、カフ付きBPモニタ30から出力されたBP値および/またはΔBP値は、システム20に提供され得、システム20は推定モデル13bを較正し得る。
【0076】
段階S14において、プロセッサ12は、取得されたベースラインBP値13aを使用することにより患者のBP値を計算し、推定モデル13bを使用することによりBP値とベースラインBP値13aとの間の推定差を計算する。段階S15において、プロセッサ12は、装置10に接続された表示デバイスに、計算されたBP値を表示する。段階15が完了した後、
図6に示されるBP測定動作は終了する。
【0077】
図7は、本開示の実施形態の第1の変形例に係るモデル構築動作を説明するフローチャートである。モデル構築動作は主に、システム20により実行される。
【0078】
段階S21において、システム20のプロセッサ21は、推定モデル22bを構築するのに使用される特徴をPPG信号から抽出する。例えば、PPG信号の特徴は、Shimazakiと同様の方式でオートエンコーダを使用することにより抽出され得る。任意選択的に、プロセッサ21は、MIMICデータベースなどのパブリックデータベースから、PPG信号の抽出された特徴を取得し得る。この段階において、いくつかのタイプの特徴が、抽出または取得され得る。例えば、PATは、ECGおよびPPG信号から抽出され得、PPGの形態的特徴は、PPG、VPGおよびAPG信号から抽出され得る。加えて、プロセッサ21は、SDPTG加齢指数、RMSSD、PPG信号のピークまたは谷のタイミング、VPG信号のピークタイミング、APG信号のピークタイミング、またはこれらの組み合わせを抽出し得る。
【0079】
段階S22において、プロセッサ21は、抽出された特徴に関連するBP値およびベースラインBP値を取得する。ベースラインBP値は、PPG信号、および/またはECG信号などの他の信号などに基づいて推定され得る。段階S23において、プロセッサ21は、抽出された特徴に関連するHR値およびベースラインHR値を取得する。段階S22およびS23によると、プロセッサ21は、
図4および5に示される上述のデータセット#01および#02などのソースデータセットを取得し得る。HR値がプロセッサ22により取得されなかったとき、段階S23は省略され得る。
【0080】
段階S24において、プロセッサ21は、各取得されたBP値と取得されたベースラインBP値との間の差を計算する。段階S25において、プロセッサ21は、各取得されたHR値と取得されたベースラインHR値との間の差を計算する。段階S26において、プロセッサ21は、各抽出された特徴とベースラインBP値に関連する特徴との間の関係を計算する。ベースラインBP値に関連する特徴は、線形/非線形内挿補間、線形/非線形外挿補間、または統計モデルなどといった演算を、同じまたは同様の対象に関連する抽出された特徴に適用することにより識別され得る。任意選択的に、ベースラインにおいてBPおよびHRに関連する値が取得されなかったとき、段階S26は省略され得る。この場合、抽出された特徴は、推定モデル22bを構築するのに直接使用され得る。
【0081】
段階S27において、プロセッサ21は、計算された差および計算された関係をトレーニングデータセット22aとして使用する機械学習を実行し、推定モデル22bを構築する。代替的に、段階S26が省略されたとき、プロセッサ21は、計算された差および抽出された特徴をトレーニングデータセット22aとして使用する機械学習を実行し得る。段階S27において、機械学習は、線形回帰、ニューラルネットワーク、サポートベクトル回帰、ロジスティック回帰、AdaBoost Tree、Bagged Tree、k近傍法、決定木回帰、またはランダムフォレスト回帰などといった技術に基づいてよい。
【0082】
段階S28において、プロセッサ21は、実際に測定されたBP値に基づいて推定モデル22bの較正を実行し得る。測定されたBP値は、カフ付きBPモニタ30などといったBPモニタリングデバイスから取得され得る。較正は段階S28の後に1回実行されるが、較正は、周期的にまたは任意のタイミングで実行され得、較正を実行する頻度は、2に等しいまたはそれより多くてよい。構築された推定モデル22bは、装置10に提供され、推定モデル13bとしてメモリ13に格納され得る。段階28が完了した後、
図7に示されるモデル構築動作は終了する。
【0083】
上述の開示は代表的な実施形態を開示するものに過ぎず、本発明の保護範囲を限定することを意図するものではない。当業者であれば、上述の実施形態と、本発明の請求項の範囲に基づいて導出され得る他の実施形態および修正の全部または一部とが、当然ながら本発明の範囲に含まれることを理解されよう。
【国際調査報告】