(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-03
(54)【発明の名称】多次元細胞培養を行うための装置および方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20220224BHJP
C12Q 1/06 20060101ALI20220224BHJP
C12N 5/07 20100101ALI20220224BHJP
A61L 27/36 20060101ALI20220224BHJP
A61L 27/60 20060101ALI20220224BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20220224BHJP
A61L 27/40 20060101ALI20220224BHJP
A61L 27/58 20060101ALI20220224BHJP
A61K 35/34 20150101ALI20220224BHJP
A61K 35/36 20150101ALI20220224BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220224BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20220224BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220224BHJP
【FI】
C12M1/00 Z
C12Q1/06
C12N5/07
A61L27/36 100
A61L27/36 300
A61L27/60
A61L27/38 100
A61L27/38 300
A61L27/40
A61L27/58
A61K35/34
A61K35/36
A61P17/00
A61P21/00
A61P43/00 105
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021538765
(86)(22)【出願日】2020-01-04
(85)【翻訳文提出日】2021-08-30
(86)【国際出願番号】 IN2020050011
(87)【国際公開番号】W WO2020141559
(87)【国際公開日】2020-07-09
(31)【優先権主張番号】201911000546
(32)【優先日】2019-01-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521288817
【氏名又は名称】プレマス バイオテック プライベート リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100082072
【氏名又は名称】清原 義博
(72)【発明者】
【氏名】プラブッダ クマール,クンドゥ
(72)【発明者】
【氏名】アビジット,ダス
(72)【発明者】
【氏名】ヌプール メーロトラ,アローラ
(72)【発明者】
【氏名】サウミャブラタ,マズムダール
(72)【発明者】
【氏名】アンビカ,バル
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
4B065
4C081
4C087
【Fターム(参考)】
4B029AA01
4B029BB02
4B029BB11
4B029BB12
4B029CC02
4B029CC08
4B029CC10
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4C081AB18
4C081AB19
4C081CD34
4C087AA01
4C087AA03
4C087BB47
4C087BB48
4C087CA04
4C087MA67
4C087NA14
4C087ZA89
4C087ZA94
4C087ZB21
(57)【要約】
【解決手段】本発明は、多次元細胞培養を行うための装置および方法、より詳細には、3次元(3D)および4次元(4D)の装置および方法について開示する。本発明の装置および方法は、不織布スキャフォールド上でスフェロイド/人工生体組織として細胞を増殖させて、3D組織様構造体を作製することを含む。系は、はるかに短いタイムスパンで3D人工生体組織を生成することが可能で、また、長期間、1年以上にわたってさえも増殖させることが可能であることによって、4つ目の次元を提供する。本発明はまた、装置による、細胞薬物感受性を分析するために使用する方法を提供する。さらに、本発明は、細胞の増殖および薬物感受性を特徴付けるための装置を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を増殖させるための装置であって、
該装置は、少なくとも1つの無菌培養室を含み、各無菌培養室は、ハンギングドロップ培養のスフェロイド、大量の細胞培養物、生検の初代培養物、および生検の外植片の群から選択される接種材料を収容して支持するための無菌の不織布ベースマトリックス系を含有し、各無菌培養室は、3次元(3D)で細胞を増殖させるために、培養培地、前記ベースマトリックス系および細胞を保持するための底面と側面とを有する、装置。
【請求項2】
前記ベースマトリックス系の布は、PET、PP、PBT、ガラス繊維および綿の群から選択される少なくとも1つからなる重合体繊維の不織布状のマトリックスを含むことを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記ベースマトリックス系の布は、約10~50gm/m
2の密度を有し、少なくとも約0.05mmであって約5mm未満の厚さを有することを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
接種材料をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記細胞は、哺乳類を起源とすることを特徴とする、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記細胞は、起源が植物、真菌種および細菌種から選択されることを特徴とする、請求項4に記載の装置。
【請求項7】
前記細胞は、ヒトのものであることを特徴とする、請求項4に記載の装置。
【請求項8】
前記細胞は、細胞構築物を維持することを特徴とする、請求項4に記載の装置。
【請求項9】
前記細胞構築物は、細胞内および細胞外の機能および構造体を含むことを特徴とする、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
細胞外構築物は、細胞外マトリックスの少なくとも1つの成分を含むことを特徴とする、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記細胞外マトリックスは、コラーゲンまたは血管細管の産生およびさらなる増殖を含むことを特徴とする、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
細胞内マトリックスは、顕微鏡で見える細胞内構造体を少なくとも1つ含むことを特徴とする、請求項9に記載の装置。
【請求項13】
前記細胞内構造体は、チューブリンまたはアクチンであることを特徴とする、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
細胞人工生体組織を3次元的に増殖させるための装置を作る方法であって、
患者の生検、生検の外植片、組織培養プレートの細胞培養物、および/またはハンギングドロップ培養細胞のスフェロイドから選択される、前記装置上に接種をするための細胞試料を提供する工程であって、結果として生じる複数の多細胞接種材料を得る、工程と、
前記接種材料のうちの少なくとも1つを、各々が不織布ベースマトリックス系および増殖培地を含有する培養容器のうちの対応する少なくとも1つに移送する工程と、
前記装置中の細胞の3次元人工生体組織を得るために、前記培養容器をインキュベートする工程とを含む、方法。
【請求項15】
接種を提供する前記工程は、各細胞試料が、約1,000細胞未満、約500細胞未満、約250細胞未満、約100細胞未満、または約25細胞未満を含有するように調製することを含むことを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
不織布支持ベースマトリックス系上で人工生体組織を3次元的に増殖させるための装置による、細胞薬物感受性を分析するために使用する方法であって、
患者生検の細胞または組織から培養した人工生体組織の少なくとも1つの検査室と、少なくとも1つの濃度の薬物を接触させる工程と、
前記人工生体組織中の細胞の増殖および生存能力と、薬物が存在しないがそれ以外は同じである対照室のものを比較する工程とを含む、方法。
【請求項17】
前記少なくとも1つの濃度は、対応する複数の検査室にある薬物の複数の濃度であり、
および/または、前記薬物は、少なくとも2つの検査室にある少なくとも2つの薬物の組み合わせであることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記検査室と前記対照室とは、患者の腫瘍の生検から培養した人工生体組織を含有することを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
さらなる対照室は、患者の非腫瘍性の正常細胞を含む人工生体組織を含有することを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記薬物は、抗癌化学薬剤あるいは抗癌抗体もしくは結合タンパク質またはペプチドであることを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
複数の検査室は、2つ以上の濃度の2つ以上の薬物の組み合わせを含有することを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
前記抗癌化学薬剤に加えて、第2の薬物が、抗菌性、抗炎症性、抗ウイルス性、抗蠕虫性および抗精神病性のものから選択されることを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
癌を有する被験体の細胞の増殖および薬物感受性を特徴付けるための装置であって、
該装置は、複数の無菌培養室を含み、各無菌培養室は、ハンギングドロップ培養のスフェロイド、大量の細胞培養物および生検の初代培養物の群から選択される、被験体の細胞の接種材料を収容して支持するための無菌の不織布状のポリエチレンテレフタレート(PET)製布ベースマトリックス系を含有し、検査の複数の培養物は、前記被験体の癌組織に起源を持ち、対照培養物または対照生検は、前記被験体の正常組織に起源を持ち、各無菌培養室は、1組の可変培地構成成分下の3次元(3D)の細胞の増殖および生存能力を特徴付けるために、培養培地、前記ベースマトリックス系および細胞を保持するための底面と側面とを有する、装置。
【請求項24】
前記無菌培養室に培養した細胞をさらに含むことを特徴とする、請求項23に記載の装置。
【請求項25】
前記無菌培養室は、マルチウェル培養皿、例えば24ウェル培養皿または96ウェル培養皿のウェルであることを特徴とする、請求項23に記載の装置。
【請求項26】
請求項14の方法によって産生されるスフェロイド細胞培養物または人工生体組織。
【請求項27】
前記装置は、比較的少ない時間で異なる起源の細胞から人工生体組織を生成するのに役立ち、前記人工生体組織は、72時間未満、または48時間未満、またはさらには24時間未満で視認できることを特徴とする、請求項23に記載の装置。
【請求項28】
細胞培養物および人工組織産生用装置であって、
該装置は、少なくとも1つの無菌培養室を含み、各無菌培養室は、マトリックス上またはハンギングドロップ培養から形成したスフェロイド、大量の細胞培養物、生検の外植片および生検の初代培養物の群から選択される細胞の接種材料を収容して支持するための無菌の不織布状のポリエチレンテレフタレート(PET)製布ベースマトリックス系を含有し、各無菌培養室は、培養培地、前記ベースマトリックス系および細胞を保持するための底面と側面とを有し、各無菌培養室は、新鮮な培養培地を追加するための入口ポートと、使用済み培地を排出するための出口ポートとを有する、装置。
【請求項29】
前記細胞の起源は、鳥類または哺乳類であることを特徴とする、請求項27に記載の装置。
【請求項30】
前記細胞の起源は、筋肉または上皮から選択される組織であることを特徴とする、請求項28に記載の装置。
【請求項31】
請求項29に記載の装置によって結果として生じる産物の、治療用人工皮膚または筋肉としての使用。
【請求項32】
請求項29に記載の装置によって結果として生じる産物の、食品または食品添加物の製造のための使用。
【請求項33】
少なくとも約10日、少なくとも約20日、少なくとも約30日、少なくとも約90日または少なくとも約250日、または少なくとも約380日増殖させた細胞のスフェロイドまたは人工生体組織を含むことを特徴とする、上記の請求項のいずれか1つに記載の装置。
【請求項34】
前記細胞を有する前記装置をインキュベートする工程であって、少なくとも約10日間、少なくとも約20日間、少なくとも約30日間、少なくとも約90日間、少なくとも約250日間または少なくとも約380日間人工生体組織を形成する、工程を含むことを特徴とする、上記の請求項のいずれか1つに記載の方法。
【請求項35】
前記細胞は、生理機能性および前記細胞内構造体を維持し、前記人工生体組織は、細胞外構築物を含むことを特徴とする、請求項33に記載の方法によって製造した装置。
【請求項36】
前記装置は、大量の培養物を増殖させて、治療法/抗原/ワクチン候補などを産生するためのセルファクトリーまたはバイオリアクターとしての用途を有することを特徴とする、上記の請求項のいずれか1つに記載の装置。
【請求項37】
前記装置は、抗血管新生薬/アッセイおよび他の用途の研究のための血管新生モデルとしての実用性を有することを特徴とする、上記の請求項のいずれか1つに記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子細胞生物学の分野に属し、多次元細胞分析を行うための細胞培養装置および方法、より詳細には、3次元(3D)および4次元(4D)に基づく装置および方法を提供する。また、このような装置を作る方法を提供する。細胞培養方法および装置は、薬物の発見および開発、臨床試験、治療法決定、および患者のゲノム/癌ゲノム処置に商店を当てた結果データ(focused Patient Genome/Cancer Genome Treatment-Outcome data)に役立つ。
【背景技術】
【0002】
ヒトの生理、病理および組織に基づく分析は、近年までは、2次元(2D)細胞培養方法で行われてきたが、この方法は、発達生物学、組織形態形成、疾患メカニズム、薬物の発見、組織工学、再生医療および器官印刷の研究領域において様々な開発を促すのに重要な役割を果たしてきた。この方法に基づいて、著しい発見がなされ、利用され、世界人口にとって有益であった。しかし、研究力は、多大な見通しの変更やパラダイムシフトを受けて、2D培養物に関連した多数の相違や不備が、特に、2D培養物ではインビボ条件をエミュレートすることができないことや、生理学的関連性を持たせることができないことについて、明らかになってきている。癌の診断および医療の分野においては特に、インビボとインビトロのシナリオ間の違いによって存在する相違は、十分認識されている課題である。2D細胞に基づくアッセイは、設計に欠陥があること、3D空間に問題があること、アクセス性が困難であることなどの欠点があり、一般的には、有効性のある3Dインビボ環境を表すものではない。この相違を埋めるために、ここ数年で急速な進歩があり、ゲノムツールが試されてきたが、患者や動物モデルに存在する複雑性に対処するほど十分効率的ではなかった。2D細胞に基づくアッセイ/機能アッセイにおいて生じたデータ間の相違は、多くの場合は、候補分子の素早いカットオフに依存した薬物投与量設定研究の投薬強度において2~20倍である。よって、動物モデルには欠陥や動力があるので、なおさら現実世界での分子の潜在性や効力の判断を表すものではない。
【0003】
科学者はここ数年、細胞の環境をインビトロまたは人工的に作製しようと努めてきた。この環境では、これらの細胞を3次元(3D)で増殖させて周囲と相互作用させることができる。生物医学分野では、3次元(3D)細胞培養物は現在、細胞培養空間の新たな常識という地位を得ようとしている。現在の慣習では、3D培養物は、細胞培養バイオリアクターまたは小型プレートに基づく系/カプセルで増殖し、細胞は増殖すると、スフェロイドまたは3D細胞コロニーになることができる[Goodman et al, Microsc. Microanal. 22 (Suppl 3), 2016]。哺乳類細胞およびヒト細胞を3Dで細胞培養して、組織様器官を作製することは、細胞培養技術において革命的な分析であり、将来有望な成長がある様々な分野において用途を見出している。
【0004】
同型または異型の3D組織培養モデルを良好に増殖させる鍵は、それぞれの組織の生理的、組織的および機能的特性を模倣することである。同型の系は、純粋な細胞株を含み、異型の系は、例えば混合系列の細胞を含有した実際の腫瘍の生検試料を含む。3D細胞培養方法および様々な用途のさらなる開発によって、医学、医薬および生物工学に基づく様々な用途に著しく進出を遂げてきている。いくつか例を挙げると、癌、幹細胞研究、薬物の発見および再生医療の分野において、多数の研究が進行中である[Report ID: GVR-1-68038-091-0, Published Date: Jun, 2018]。病院、製薬会社、研究機関および研究所では、より良い結果を得るための3D細胞培養方法およびその派生方法を採用しつつあり、普及率は、今後10年間で急速に上昇するとされている。3D細胞培養方法の確立は、スキャフォールドに基づくプラットフォーム、スキャフォールドフリープラットフォーム、ゲル、バイオリアクターおよび/またはマイクロチップのいずれかの使用に基づいている。マクロポーラス、ミクロポーラス、ナノポーラスまたは固体のスキャフォールドといった、スキャフォールドに基づく様々なプラットフォームが文献に記載されている。しかし、これらの系は、産生および使用に手間がかかるという点では完全に効率的ではなく、また、非常に時間がかかり、長期間にわたって安定せず、スループットが低く、組織試料に対して生体適合性の問題があり得、試料取込の課題をもたらし得ることなどである(Archana Swami et al., 3D Tumor Models: History, Advances and Future Perspectives; Future Oncology, May 2014)。
【0005】
本発明は、先行技術における既存の課題に対処することで、納得のいく機能的結果を達成し、それによって、培養組織の内部のマイクロ規模またはマクロ規模の機能を綿密に模倣する多次元系および方法を提供する。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、多次元細胞培養を行うためのスループットの高い装置および方法を提供し、より詳細には、3次元(3D)および4次元(4D)の装置および方法を提供する。本発明の装置および方法は、不織布ベースマトリックス系上でスフェロイドおよび/または人口生体組織(Tissueoid)として細胞を増殖させて、3D組織様構造体を作製することを含む。本発明はまた、細胞の薬物感受性を分析するための方法および装置を提供する。さらに、本発明は、様々な細胞株および生検試料の特徴である、細胞の増殖および薬物感受性という機能を特徴付けて分析するための装置を提供する。
【0007】
本発明の装置および方法は、既存の2D/3D系を適用する際に直面する課題に対処するものであって、中でも特に癌の医薬開発、臨床試験、再生医療、個別化医療アッセイでの広範囲の産業上の用途を提示する。
【0008】
本発明の態様は、細胞を増殖させるための装置を提供し、該装置は、複数の無菌培養室を含み、各無菌培養室は、ハンギングドロップ培養のスフェロイド、大量の細胞培養物、および生検または外植片の初代培養物の群から選択される接種材料を収容して支持するための無菌の不織布ベースマトリックス系を含有し、各無菌培養室は、3次元(3D)で細胞を増殖させるために、培養培地、ベースマトリックス系および細胞を保持するための底面と側面とを有する。
【0009】
装置の全体的な実施形態では、ベースマトリックス系の布は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリアミド(PA)、ポリエチレン(PE)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、ガラス繊維、アクリル樹脂および綿の群から選択される少なくとも1つからなる重合体繊維または共重合体繊維でできた不織布状のマトリックスを含む。典型的には、ベースマトリックス系の布は、約10~50gm/m2の密度を有し、少なくとも約0.05mmであって約5mm未満の厚さを有する。
【0010】
全体的な実施形態では、細胞は、哺乳類、主としてヒト細胞を起源とするが、装置中の細胞の増殖を視覚化することで、鳥類および爬虫類などの真核生物、ならびに、酵母などの真核微生物の細胞でも増殖が可能となる。追加的な実施形態では、植物、真菌種および細菌種から選択される起源の細胞を使用して、装置が利用される。
【0011】
本発明の別の態様では、装置は、さらなるスクリーニング研究を行うのに、比較的少ない時間で異なる起源の細胞から人工生体組織を生成するのに役立ち、人工生体組織は72時間未満、または48時間未満、またはさらには24時間未満で視認できる。
【0012】
本発明の他の態様では、装置は、細胞外マトリックスの少なくとも1つの成分を含有する、人工生体組織の細胞外構築および細胞内構築を作製するのに役立ち、それによって、細胞外マトリックスは、コラーゲンまたは血管細管の産生およびさらなる増殖を含み、細胞内マトリックスは、チューブリンおよび/またはアクチンなどの細胞内の顕微鏡で見える構造体を少なくとも1つ含む。
【0013】
本明細書の本発明の別の態様は、細胞を3次元的に増殖するための装置を作る方法を提供し、該方法は、患者の生検、生検の外植片、組織培養プレートの細胞培養物、および、ハンギングドロップ培養細胞のスフェロイドから選択される起源の細胞試料を提供する工程であって、結果として生じる多細胞接種材料または複数の多細胞接種材料を得る、工程と、接種材料を、各々が不織布ベースマトリックス系および増殖培地を含有する、対応する複数の培養容器に移送する工程と、装置中の細胞の3次元スフェロイドを得るために、容器をインキュベートする工程と,を含む。方法の特に好適な実施形態では、各細胞試料は、約1,000細胞未満、約500細胞未満、またはさらには約250細胞未満、またはさらには約25細胞未満を含有する。よって、生検試料またはハンギングドロップ培養などの単一試料によって、複数の培養容器に、接種材料の複数のアリコートを提供する。装置中の細胞は、少なくとも約30日間、または少なくとも約60日間、または少なくとも約90日間、または少なくとも約250日間、または少なくとも約380日間、およびさらには実質的にそれより長く生存可能なままであり、機能性を維持することが実証されている。
【0014】
本明細書の本発明の別の態様は、不織布支持ベースマトリックス系上の細胞のスフェロイドを3次元的に増殖させるための装置による、細胞薬物反応および感受性を分析するために使用する方法を提供し、該方法は、スフェロイドの少なくとも1つの検査室と、少なくとも1つの濃度の薬物を接触させる工程と、スフェロイド中の細胞の増殖および生存能力と、薬物が存在しないがそれ以外は同じである対照室中の増殖を比較する工程とを含み、それによって、スフェロイドは、患者から、または疾患細胞株から、または疾患モデル動物から培養する。特定の実施形態では、少なくとも1つの濃度は、対応する複数の検査室にある薬物の複数の濃度であり、および/または、薬物は、複数の検査室にある複数の薬物である。全体的には、検査室と対照室は、腫瘍患者の生検組織から培養したスフェロイド/人工生体組織、または培養細胞株を含有する。さらなる対照室は、患者の非腫瘍性の正常細胞を含有するスフェロイド/人工生体組織を含有する。特定の実施形態では、腫瘍を有する患者のために、薬物は、抗癌化学薬剤または抗癌抗体もしくは結合タンパク質である。腫瘍を有する患者のために、方法のある実施形態は、2つ以上の薬物の組み合わせを含有する少なくとも1つの検査室を含む。代替的または追加的な実施形態では、少なくとも1つの検査室は、抗菌性、抗炎症性、抗ウイルス性、抗蠕虫性および抗精神病性のものから選択される薬物を含有する。方法の実施形態は、少なくとも約30日間、または少なくとも約60日間、または少なくとも約90日間、または少なくとも約250日間、または少なくとも約380日間、またはさらには1年間以上にわたって、スフェロイド/人工生体組織を増殖させ続ける工程と、細胞機能および反応を分析し続ける工程とを含む。
【0015】
したがって、本発明の態様は、癌を有する被験体の細胞の増殖および薬物感受性を特徴付けるための装置を提供し、該装置は、複数の無菌培養室を含み、各無菌培養室は、ハンギングドロップ培養のスフェロイド、大量の細胞培養物、および生検の初代培養物の群から選択される、被験体の細胞の接種材料を収容して支持するための無菌の不織布状のポリエチレンテレフタレート(PET)製布ベースマトリックス系を含み、検査の複数の培養物は、被験体の癌組織に起源を持ち、対照培養物または対照生検は、被験体の正常組織に起源を持ち、各無菌培養室は、1組の可変培地構成成分下の3次元(3D)の細胞の増殖および生存能力を特徴付けるために、培養培地、ベースマトリックス系および細胞を保持するための底面と側面とを有する。特定の実施形態では、装置は、無菌培養室に培養した細胞をさらに含む。例えば、無菌培養室は、マルチウェル培養皿、例えば24ウェル培養皿または96ウェル培養プレートのウェルである。
【0016】
本明細書で提供される本発明の態様は、本明細書の方法によって産生される1組の1つ以上の人工生体組織の細胞培養物である。
【0017】
本明細書の本発明の別の態様は、細胞培養物および人工組織産生用装置を提供し、該装置は、少なくとも1つまたは複数の無菌培養室を含み、各無菌培養室は、細胞が、ハンギングドロップ培養のスフェロイド、大量の細胞培養物、および生検の初代培養物の群から選択される、細胞の接種材料を収容して支持するための無菌の不織布状のポリエチレンテレフタレート(PET)製布ベースマトリックス系を含み、各無菌培養室は、培養培地、ベースマトリックス系および細胞を保持するための底面と側面とを有し、各無菌培養室は、新鮮な培養培地を追加するためのポートと、使用済み培地を枯渇させるためのドレインとを有する。全体的には、細胞の起源は、鳥類または哺乳類である。例えば、細胞の起源は、筋肉、上皮または他の組織である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1のA~
図1のCは、ベースマトリックス系として、空っぽ(
図1のA)、またはMCF-7(乳癌細胞株)の人工生体組織の存在下(
図1のBおよび
図1のC)の不織布の3次元の組織体の顕微鏡画像の写真一式であり、本明細書で提供される系が、組織様構造体を形成することを実証している。ベースマトリックス系は、スパンボンド技術を用いて作られた布マットである。画像(
図1のBおよび
図1のC)は、3D様式でAXTEX-4Dベースマトリックス系の上で人工生体組織を増殖させることを示す。3D培養物を作るために、ハンギングドロップ法を使用してスフェロイドを形成し、続いて、本明細書で提供される方法および系を使用してベースマトリックス系で増殖させ、結果として人工生体組織が形成される。
図1のAは、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察された、AXTEX-4D上で増殖する細胞や人工生体組織が一切ない、元々の形態のAXTEX-4Dベースマトリックス系の写真を示す。(倍率100倍)
図1のBは、化合物の顕微鏡によって観察された、AXTEX-4Dベースマトリックス系上で増殖させた乳癌細胞株MCF-7に由来する人工生体組織を示す。(倍率40倍)
図1のCは、SEMによって観察された、AXTEX-4Dベースマトリックス系上で増殖させたMCF-7細胞株に由来する乳癌の人工生体組織の画像を示す。(倍率350倍)
【
図2】
図2は、位相差顕微鏡法によって観察された、ベースマトリックス系上でHT-29細胞株を増殖させて、3D人工生体組織を形成した写真一式である。布マットの密度が異なる(19g/m
2、20g/m
2、30g/m
2、35g/m
2)ベースマトリックス系上の人工生体組織の増殖を観察する。
【
図3A】
図3A~
図3Bは、スフェロイドの写真、および/または、細胞が互いに相互作用し、結果として細胞がAXTEX-4D系上で3次元的に増殖することを示す人工生体組織の写真一式である。
図3Aは、MCF-7およびHUVEC細胞株に由来するスフェロイドの画像(上のパネル)、または、AXTEX-4Dベースマトリックス上で培養して、人工生体組織を得るスフェロイドの画像(下のパネル)を示す。写真は、位相差顕微鏡法によって観察される。(倍率10倍)。
【
図3B】
図3A~
図3Bは、スフェロイドの写真、および/または、細胞が互いに相互作用し、結果として細胞がAXTEX-4D系上で3次元的に増殖することを示す人工生体組織の写真一式である。
図3Bは、AXTEX-4D系上で増殖させた人工生体組織の構造時空間組織体を示す画像一式である。細胞外マトリックスと共に、細胞間の結合性と組織体を観察したが、これには、結腸癌から採取して、ベースマトリックス系上で直接増殖させ、AXTEX-4D系上で人工生体組織として増殖させた生検検体の組織体の3D組織様組織体、細胞間の結合および相互作用が挙げられる。写真は、SEMを使用して撮影した。(倍率1500倍、7000倍)。
【
図4】
図4は、走査電子顕微鏡法によって観察された、形質転換細胞株HEK-293およびCHO-K1の人工生体組織を示す。上のパネル:AXTEX-4Dベースマトリックス系上で増殖させた、ヒト胚性腎細胞株(HEK-293)の人工生体組織の3次元組織体を示す(倍率1000倍、1500倍)。下のパネル:AXTEX-4Dベースマトリックス系上で増殖させた、チャイニーズハムスター卵巣細胞株(CHO-K1)の人工生体組織の3次元組織体を示す(倍率1000倍、1500倍)。
【
図5】
図5は、肺癌から採取し、ベースマトリックス系上でそのように増殖させた生検の外植片の走査電子顕微鏡像を示す。生検の細胞は、AXTEX-4Dベースマトリックスで培養し、増殖によって、結果として細胞に事前処置を行うことなく人工生体組織を産生した。(倍率1000倍、1500倍)
【
図6】
図6は、AXTEX-4D系上の人工生体組織の共焦点顕微鏡画像を示し、一例としてPC3細胞株を採取し、カルセインAMによって染色し、異なる日、すなわち3日目、25日目、108日目および250日目に観察された人工生体組織の細胞増殖/増殖、ならびに、生存能力を示す。細胞の生存能力を判断するために、細胞透過性色素であるカルセインAMを使用した。
【
図7】
図7のA~
図7のFは、一例としてMCF-7細胞株を使用した、2D単層の細胞外マトリックス、および、AXTEX-4D系上の3D人工生体組織の細胞外マトリックスの形成を示す。7日目に、1:50希釈の抗コラーゲンI型抗体(緑)およびDAPI(青-核染色)によって染色を行い、蛍光顕微鏡法によって観察した。AXTEX-4D系上で形成された人工生体組織にECMが形成されるが、画像(
図7のA~
図7のF)で見られるように、2D単層で培養した細胞のものと比較してより連続的であることが観察された。(倍率10倍)。2D培養物について、図は、
図7のA-ヘキストによって染色した核、
図7のB-抗コラーゲン抗体によって染色したコラーゲン、
図7のC-合成画像を表す。人工生体組織分析について、図は、
図7のD-染色した核、
図7のE-染色したコラーゲン、
図7のF-合成画像を表す。
図7のG~
図7のHは、MCF-7細胞株から生成した、AXTEX-4D系上で増殖させた人工生体組織の塊全体の画像である。7日目に、1:50希釈の抗コラーゲンI型抗体(緑)およびDAPI(青-核染色)によって染色を行い、蛍光顕微鏡法によって観察した。(倍率10倍)
【
図8】
図8は、一例としてMCF-7細胞株を使用した、2D単層の細胞内マトリックス、および、AXTEX-4D系上の3D人工生体組織の細胞内マトリックスの形成を比較する。1:1000希釈の抗ファロイジン抗体(赤)およびDAPI(青-核染色)によって染色を行い、ベースマトリックス系上で増殖させた、細胞骨格成分を含有した人工生体組織を示す。人工生体組織の細胞骨格組織体は、以上の画像(
図8)で見られるように、2D単層で培養した細胞のものと比較してより連続的であることが観察された。(倍率10倍)
【
図9】
図9のA~
図9のEは、位相差顕微鏡を使用して、250細胞まで~25細胞までの間の範囲の様々な細胞数のMCF-7細胞から生成された人工生体組織を示す。人工生体組織は、AXTEX-4D系上で増殖させた。
図9のA、
図9のB、
図9のC、
図9のD、
図9のEは、位相差顕微鏡法の研究の画像であり(倍率10倍)、
図9のFは、走査型電子顕微鏡を使用した、AXTEX-4D系上で増殖させた25細胞までの画像である。(倍率1500倍)。5000細胞以下の細胞数の範囲の接種材料について評価を行い、ここに示されているデータは、AXTEX-4D系上で約250細胞~25細胞まで良好に増殖したことを描写している。
【
図10】
図10のA~
図10のBは、2D単層培養物として、またはAXTEX-4D系上で増殖させた人工生体組織としてのどちらかで増殖させたMCF-7細胞の形態的特徴を示す写真一式である。
図10のAは、2D培養物で増殖させた3日後に、ドキソルビシンを用いてまたはドキソルビシンを用いずに処置したMCF-7細胞の形態を表す。DMSOの存在下で培養した細胞のもの(ビヒクル対照)と比較して、処置群では、用量依存性の増殖阻害が観察された。2D培養物では、1μMのドキソルビシンであっても空胞が観察されたが、これは、最終的には細胞死に至った、ドキソルビシン処置に対する細胞の感受性を示すものである。上のパネルの画像の挿入図は、下のパネルの画像において拡大図として示される。
図10のBは、3日間のインキュベーション後のドキソルビシンに対するMCF-7の人工生体組織の感受性を示す写真一式である。MCF-7細胞株から生成した人工生体組織の増殖は、2.5μMの濃度のドキソルビシンでは阻害されることはなく、ビヒクル対照(DMSO)の存在下で薬物を用いずに増殖させた人工生体組織で観察された増殖に匹敵するものであった。5μMの濃度では、人工生体組織の増殖は、部分的に阻害されることが観察された。より高い濃度(5μM)では、人工生体組織は、収縮が見られたが、人工生体組織は、AXTEX-4Dベースマトリックス系から崩壊することなく、付着したままであった。
【
図11A】
図11A~
図11Bは、96ウェルプレートで単層として、またはAXTEX-4D系上で人工生体組織としてのどちらかで増殖させたMCF-7細胞について、ベバシズマブ抗体の存在下または非存在下で、示唆された濃度のドキソルビシンに対する感受性を説明する棒グラフ一式である。
図11Aは、48時間、2D単層培養物および3D人工生体組織系の両方で3つの異なる濃度のドキソルビシンを使用した薬物感受性の分析を示す。単層培養物(2D)および人工生体組織(3D)のそれぞれの細胞の生存能力は、PrestoBlueを使用して生存能力を分析することによって評価した。データは、相対蛍光単位(RFU)で表現し、ビヒクル対照を生存能力100%として正規化する。AXTEX-4D系上で増殖させた人工生体組織では、1μMのドキソルビシン濃度であっても、薬物活性に対する耐性が観察された(生存能力80%まで)。2D単層で培養した細胞は、同一の濃度(1μMのドキソルビシン)で生存能力35%を示した。
【
図11B】
図11A~
図11Bは、96ウェルプレートで単層として、またはAXTEX-4D系上で人工生体組織としてのどちらかで増殖させたMCF-7細胞について、ベバシズマブ抗体の存在下または非存在下で、示唆された濃度のドキソルビシンに対する感受性を説明する棒グラフ一式である。
図11Bは、人工生体組織として増殖させたVEGF-165誘導性MCF-7細胞の細胞増殖に対する、ドキソルビシンとベバシズマブの組み合わせ効果を示す。MCF-7の人工生体組織は、96ウェルプレートのウェル中で培養した。細胞は、約5時間血清飢餓させ、その後、100ng/mlのVEGF-165を単独、または1μMのドキソルビシンと25μg/mlのベバシズマブの組み合わせのどちらかで6日間処置した。細胞の生存能力は、PrestoBlueを使用して分析した。AXTEX-4D系上で増殖させた人工生体組織は、(
図11Aで示されるように)単剤治療と比較して、両方の薬物による組み合わせ効果の方が、細胞増殖を阻害するのにより大きな有効性(約57%)があることを示した。
【
図12】
図12は、16時間~18時間、サイトカインTNF-α(20ng/ml)とIFN-γ(0.5ng/ml)の組み合わせで処置する前(
図12のA)および処置した後(
図12のB)のHT-29の人工生体組織の位相差画像を表す。サイトカインを用いて処置した後に、無傷の人工生体組織を細片化して、AXTEX-4Dベースマトリックス系からのけて、細胞毒性の影響を実証した。
【
図13】
図13は、人工生体組織が培養物中に残存していた間の時間の長さ(各パネルで示されるように日数)の期間を示す写真一式である。位相差顕微鏡法を使用して、HepG2およびPC3細胞に由来する人工生体組織の寿命を観察した。異なる日に異なる視野を撮影すると、密度の増加と共に細胞数が増加することが観察された。本出願の出願日の時点では、PC3の人工生体組織は培養物中で生存可能である。(364日目)。
図13のA~
図13のBでは、82日目まで、HepG2の人工生体組織の生存能力が観察された。
図13のC~
図13のDでは、364日目まで、PC3の人工生体組織の生存能力が観察された。
【
図14】
図14は、形質転換線維芽細胞株(NIH-3T3)、内皮細胞(HUVEC)および乳癌細胞株(MCF-7)の細胞懸濁液を添加して、2D単層培養物として、またはベースマトリックス系AXTEX-4D上の人工生体組織として増殖させた、3つの細胞株の単培養物、共培養物および三培養物(tri culture)の写真一式である。各組み合わせの共培養物は、乳癌細胞株(MCF-7)と内皮細胞(HUVEC)、または、内皮細胞(HUVEC)と線維芽細胞(NIH-3T3)のどちらかを、それぞれ1:1の比率で採取することによって分析した。三培養物については、NIH-3T3、HUVECおよびMCF-7細胞株を2:1:1の比率で添加した。スフェロイドは、すべての組み合わせで形成され、2D単層ならびにAXTEX-4Dベースマトリックス系上で培養した。24時間以内にAXTEX-4Dベースマトリックス系上にスフェロイドが付着したことが観察され、また、すべての組み合わせが人工生体組織としてさらに増殖したことが観察された。
図14(上のパネル)は、2D形式で増殖させた、HUVEC、HUVEC:MCF-7、HUVEC:3T3およびHUVEC:MCF-7:3T3で作られたスフェロイドの単層培養物を示す。
図14(下のパネル)は、AXTEX-4Dベースマトリックス系上で増殖させた、HUVEC、HUVEC:MCF-7、HUVEC:3T3およびHUVEC:MCF-7:3T3の人工生体組織を示す。
【
図15】
図15は、AXTEX-4D系上で増殖させたHEK-293、NIH-3T3およびPC3の人工生体組織を示す写真一式である。
図15は、人工生体組織がAXTEX-4D系上に付着し、増殖を始めるのに要した最小時間を示す。HEK-293およびNIH-3T3細胞株の人工生体組織は、AXTEX-4D系上に付着して、細胞増殖するのに24時間未満要したが、PC3の人工生体組織は、AXTEX-4D系上に付着して、さらに増殖するのに約48時間要した。
【
図16】
図16のA~
図16のBは、AXTEX-4D系のセルファクトリーとしての用途を示す写真一式である。トシリズマブを発現する付着性CHO-DG44安定細胞株は、AXTEX-4Dベースマトリックス系上で人工生体組織として増殖させると、SDS-PAGEによって分析されるように、培養上清中でモノクローナル抗体であるトシリズマブの分泌が観察される。
図16のAは、AXTEX-4D上で人工生体組織として、トシリズマブを発現するCHO-DG44細胞を増殖させることを示す。
図16のBは、非還元SDS-PAGEによる、トシリズマブの発現分析を示す。簡単に説明すると、培養上清は、細胞から、ペトリプレート上で2D培養物として、および、AXTEX-4D系上で増殖させた人工生体組織として増殖させた、異なる日の培養物から採取した。AXTEX-4Dベースマトリックス系上で人工生体組織を増殖させることによって、寿命を増加し(分析するために試料を採取したところ、単層中で6日間、人工生体組織として26日間)、生産性を向上すると共に、よりコンパクトなスペースで細胞数を増加することができた。SDS-PAGEによる分析は、2D形式ならびに3D形式の付着性CHODG44細胞株中のモノクローナル抗体(トシリズマブ)の発現を示し、10%のSDS-PAGEの各レーンには、異なる試料、すなわちレーン1:事前に染色したタンパク質マーカー、レーン2:陽性対照(1μg)、レーン3:6日目の2D培養物の上清中の試料、レーン4:6日目の人工生体組織の上清中の試料、レーン5:12日目の人工生体組織の上清中の試料、レーン6:18日目の人工生体組織の上清中の試料、レーン7:26日目の人工生体組織の上清中の試料を充填した。2D形式ならびに3D形式上に、等しい細胞数を播種した。6日後、2D培養物は培養物のコンフルエンシーにより終了となったが、人工生体組織は26日目まで維持された。SDS-PAGEによって、2D単層培養物中では、6日目にトシリズマブ抗体の発現が観察されたが、AXTEX-4D上で増殖した人工生体組織中では、6日目に発現が観察されなかったことが明らかになった。しかし、3D培養物中のトシリズマブの発現は、12日目~26日目までの日数のインキュベーションの時間の関数として増加したことが観察された。
【
図17】
図17のA~
図17のBは、72時間、VEGF-165の存在下(
図17のB)および非存在下で処置した(
図17のA)、AXTEX-4Dベースマトリックス系上に人工生体組織として増殖させ、位相差顕微鏡法によって観察した内皮細胞HUVECを示す写真一式である。
図17のAは、スフェロイドが、細胞増殖が最小限でベースマトリックス系に付着することを示す。
図17のBは、管様構造体の形成に沿って細胞が増殖することを示し、AXTEX-4D系で血管新生が観察されたことを実証する。
図17のC(VEGF処置を行った人工生体組織の拡大図)は、管様構造体のより詳しい観察を描写した拡大図である。
【
図18】
図18は、3D要素および4D要素を備えた装置である本発明の実施形態の図面である。
【
図19】
図19は、本明細書で提供される装置の様々な用途および相対的な利点を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
添付の図面を参照した以下の説明は、本発明の例示的な実施形態の包括的な理解を助けるために提供される。以下の説明は、その理解を助けるための様々な具体的な詳細を含むが、これらは単なる例示とみなされるべきである。
【0020】
本発明は、様々な変更および代替的な形態を受け入れる余地があるものの、以下に、その具体的な実施形態を詳述している。本発明は、開示された特定の形態に限定するようには意図されておらず、むしろ、本発明は、本発明の主旨および範囲に入る全ての修正、等価物および代替案を網羅しようとするものであることが理解されるべきである。また、周知の機能および構築の説明は、明確性および一貫性のために省略されている。
【0021】
以下の説明および請求項で使用される用語および単語は書誌学的な意味に限定されるのではなく、本発明の明瞭で一貫した理解を可能にするために本発明者らによって使用されているに過ぎない。したがって、本発明の以下の説明および実施形態は、単に例示する目的で提供され、添付の特許請求の範囲および等価物によって定義されるように本発明を限定する目的で提供されていないことは、当業者に明白であるはずである。
【0022】
ある実施形態に関して説明および/または図示されている特徴は、1つ以上の他の実施形態で同一または同様の方法で使用されてもよく、および/または、他の実施形態の特徴と組み合わせてまたはその代わりに使用されてもよい。
【0023】
本明細書で使用される場合、用語「含む(comprises/comprising)」は、記述されている特徴、整数、工程または成分が存在していることを特定するように解釈されるが、1つ以上の他の特徴、整数、工程、成分またはその群が存在していることや追加されることを除外するものではない。
【0024】
したがって、本発明は、多次元の細胞培養系、特に、細胞または分子を研究するための3D/4Dの系に関する。また、新規な3D/4D組織培養モデルを包含する装置を提供する。さらに、本発明は、前記多次元細胞培養系を作成するための方法を提供する。
【0025】
本研究の目的は、多次元組織モデルを分析するための細胞培養系を提供することである。より詳細には、細胞および分子を分析するための3D/4D組織培養物および人工生体組織生成系、さらに、その用途である。
【0026】
本発明のさらに別の目的は、上述された系および培養装置を作成する方法を提供することである。
【0027】
本発明のさらに別の目的は、細胞を増殖させるためのスループットの高い装置を提供することであり、該装置は、複数の無菌培養室を含み、各無菌培養室は、ハンギングドロップ培養のスフェロイドまたは組織に由来する細胞の直接懸濁液のスフェロイド、細胞株に由来する大量の細胞培養物、および、生検または外植片の初代培養物の群から選択される接種材料を収容して支持するための無菌不織布ベースマトリックスを含有し、各無菌培養室は、3次元(3D)で細胞を増殖させるために、培養培地、ベースマトリックスおよび細胞を保持するための底面と側面とを有する。本明細書で提供される装置は、PET、PP、PBT、ガラス繊維および綿の群から選択される少なくとも1つからなる重合体繊維の不織布マットを含有する。
【0028】
別の実施形態では、装置が提供され、ベースマトリックスの布は、約10gm/m2~50gm/m2の範囲の密度、例えば19~25gm/m2の密度を有し、少なくとも約0.05mmであって約5mm未満の厚さ、例えば0.12mmの厚さを有する。繊維の厚さは、0.5~10dtex、例えば2.5~3.0dtexであり、空隙率は、20~80ミクロンの範囲である。
【0029】
別の実施形態では、本発明の装置は、哺乳類種から選択される細胞を増殖させるために使用される。実施形態では、哺乳類細胞は、患者の樹立細胞株または新鮮な生検試料などのヒト細胞か、またはチャイニーズハムスター卵巣由来細胞(CHOおよびCHO由来細胞)などの他の哺乳類細胞である。
【0030】
この技術を使用して良好に増殖した人工生体組織には、MCF7:腺癌の乳癌細胞株、HepG2:上皮細胞の肝臓癌、PC3:腺癌の前立腺癌細胞株、およびA375:上皮細胞株である皮膚黒色腫の癌細胞株が挙げられる。
【0031】
非悪性細胞株も良好に増殖したが、これらは、本明細書の実施例に示されるように、CHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣)、HEK-293(ヒト胚性腎細胞)、およびNIH-3T3(線維芽細胞)である。
【0032】
また、細胞の供給源として良好に使用された一次組織には、腫瘍の乳癌組織、腫瘍の結腸癌、腫瘍の胃癌、腫瘍の肺癌、および腫瘍の甲状腺癌が挙げられる。
【0033】
装置の全体的な実施形態では、本明細書の方法によって増殖させた人工生体組織は、細胞外構築物、すなわちコラーゲンを産生する。F-アクチンの発現を分析することによって、このベースマトリックスAXTEX-4D系で増殖させた人工生体組織は、骨格要素の3D様再構成を産生することが観察された。本明細書の装置によって、長期間細胞増殖し続ける人工生体組織が提供されるが、これは、好ましい増殖条件であることを示している。
【0034】
本発明の実施形態は、接種材料として、約1,000細胞未満、約500細胞未満、約250細胞未満、およびさらには約25細胞未満を含有する試料を利用した、細胞試料を増殖させるための方法を提供する。細胞は、安定した細胞株に由来するか、本明細書の装置および方法を使用して、エクスビボで培養した腫瘍の生検などの生体組織に由来する。
【0035】
別の態様では、本発明は、患者の細胞から培養した人工生体組織を不織布支持ベースマトリックス上で3次元的に増殖させるための装置による、細胞薬物感受性を分析するために使用する方法を提供し、該方法は、人工生体組織の少なくとも1つの検査室と、少なくとも1つの濃度の薬物を接触させ、人工生体組織中の細胞の増殖および生存能力と、薬物が存在しないがそれ以外は同じ対照室のものを比較する。
【0036】
ある実施形態では、少なくとも1つの濃度は、対応する複数の検査室にある薬物の複数の濃度であり、および/または、薬物は、複数の検査室にある複数の薬物である。薬物は、抗癌化学薬剤または抗癌抗体もしくは結合タンパク質から選択される。
【0037】
別の好ましい実施形態では、検査室および対照室は、腫瘍患者の生検組織から培養した人工生体組織を含有する。
【0038】
さらに別の実施形態では、さらなる対照室は、患者の非腫瘍性の生理的に正常な細胞を含有する人工生体組織を含有し、提供される。
【0039】
別の実施形態では、少なくとも1つの検査室は、1つの薬物または2つ以上の薬物の組み合わせを含有する。
【0040】
さらなる実施形態では、少なくとも1つの検査室は、抗菌性、抗炎症性、抗ウイルス性、抗蠕虫性および抗精神病性から選択される薬物を含有する。
【0041】
本発明の別の態様では、腫瘍を有する接種材料の細胞の増殖および薬物感受性を特徴付けるための装置が提供される。装置は、複数の無菌培養室を含み、各無菌培養室は、細胞の接種材料を収容して支持するための無菌の不織布状のポリエチレンテレフタレート(PET)製布ベースマトリックスを含有する。接種材料は、ハンギングドロップ培養のスフェロイド、大量の細胞培養物、および生検の初代培養物または外植片の群から選択され、それにより、検査の複数の培養物は、接種材料の癌組織に起源を持ち、対照培養物または対照生検は、接種材料の正常組織に起源を持つ。各無菌培養室は、1組の可変培地構成成分下の3次元(3D)の細胞の増殖および生存能力を特徴付けるために、培養培地、ベースマトリックスおよび細胞を保持するための底面と側面とを有する。さらなる実施形態では、培養した細胞は、マルチウェル培養皿、例えば24ウェル培養皿または96ウェル培養プレートの室に存在する。
【0042】
本発明はまた、細胞培養物およびエクスビボ組織産生装置を提供し、該装置は、少なくとも1つまたは複数の無菌培養室を含み、各無菌培養室は、細胞と、細胞の接種材料を収容して支持するための無菌の不織布状のポリエチレンテレフタレート(PET)製布ベースマトリックスとを含有する。細胞は、ハンギングドロップ培養のスフェロイド、大量の細胞培養物、および生検の初代培養物の群から選択され、各無菌培養室は、培養培地、ベースマトリックスおよび細胞を保持するための底面と側面とを有し、各無菌培養室は、新鮮な培養培地を追加するためのポートと、使用済み培地を枯渇させるためのドレインとを有する。
【0043】
本発明は、細胞の起源が鳥類または哺乳類である人工生体組織を有する装置を提供したものである。
【0044】
実施形態では、細胞の起源が筋肉、上皮または他の組織から選択されてもよい。
【0045】
本発明はまた、さらに治療用人工皮膚または筋肉として、装置によって結果として生じる産物の使用を提供する。
【0046】
別の態様では、本発明の本明細書で提供される方法および装置によって産生される人工生体組織の細胞は、先行技術で報告されているものと比較してより長い寿命、すなわちより長い期間の細胞生存能力を有する。
図6に示されるように、異なる細胞株を用いた本実施例では、最大250日間の生存能力が観察され、また、
図13に示されるように、最大364日間まで、細胞がさらに増殖を続けたことが示されている。人工生体組織は、12ヶ月などを超える期間十分な形態および機能を備えて生存可能なままであることが観察されている。様々な実施例が、様々な細胞株および初代細胞を用いて実施され、また、人工生体組織の寿命は、前に報告されたものより実質的に長いことが再現性よく確認された。
【0047】
別の態様では、本方法と本装置によって、前に報告されたものより短い時間(72時間未満)で始まる3D培養アッセイが提供される。Zanoni Mらは、1つのウェル当たり2×103、4×103および6×103細胞を使用することによって、ハンギングドロップ法を使用してスフェロイドを形成しているが、これらのスフェロイドは、7日間の期間を必要とすることが報告されていた。
【0048】
【0049】
本発明の装置および方法では、スフェロイドは、約24時間以下で生成された。さらに、このようなスフェロイドは、約24時間未満でベースマトリックス上に結合できた。本発明の別の好ましい実施形態では、人工生体組織は、24時間未満でベースマトリックス上で増殖することを示している。
【0050】
さらに別の利点は、装置および方法が、異なる細胞株を使用できることである。PC3細胞株(前立腺癌)およびHT29細胞株(大腸癌)など、通常はそれほどコンパクトな性質ではなかった種類の細胞でさえ、ベースマトリックスに対して良好な結合を表すことが観察された。本発明の3D/4Dの装置および方法は、本明細書で検査されたすべての細胞株にわたって、元の組織に類似した機能および構造が観察された人工生体組織を増殖することが観察された。
【0051】
さらに別の態様では、本発明の装置および方法は、初代腫瘍細胞のゲノムプロファイルおよびプロテオミクスプロファイルに匹敵する結果をもたらし、また、結果に一貫性がなく、再現不可能な場合もある単層培養物に対して行われた研究に取って代わる結果を出している。
【0052】
本発明の態様では、この装置/ベースマトリックスAXTEX-4D系の多次元的な物理的・分析的な読み取りの性質および用途は、下記である。人工生体組織は、単独純粋培養物として、または複数種の細胞の組み合わせとして増殖させた。付着または懸濁状態で、およびその組み合わせで、支持するために、維持するために、あるいは、特定の臓器、腫瘍、または、癌もしくは感染に対する免疫系の相互作用のインビボ微小環境を模倣するために、インビボネットワーク中で観察されたものに類似させる。化学的薬物および生物学的薬物の両方の1つ以上の組み合わせを使用する複数併用療法を設計、検査、評価した。様々な用量/剤形で薬物/組み合わせを投与した影響による遺伝子変化は、加速研究によって時間の関数として判定する。人工生体組織を付着、増殖、および増殖加速を促進する物理的刺激を検査して、薬物影響、有効性試験、遺伝子突然変異などの検査結果を速やかに出した。例えば、本発明中で提供される3D/4Dモデルは、処置計画に有効量として使用できる様々な薬物濃度を研究するためにも使用する。
【0053】
結果を得るのに所要時間が短いことによって、このモデルは、より有効な分析を出すことができ、臨床結果において患者に恩恵を与えることができる。
【0054】
別の実施形態では、本発明の系は、化学的薬物および生物学的薬物の両方を使用する薬物併用療法を確立するために使用される。系は、複数治療計画を決定するために、腫瘍学関連試験の臨床試験で患者を選択するのに役立つと想定され、同時に、すなわち同時進行で複数の濃度を研究して、疾患を有する患者のデータを生成し、インビトロで増殖した組織と、処置影響後の受け取ったデータを相関させる。よって、患者のゲノム/癌ゲノム処置に焦点を当てた結果データベースを生成し、患者のスクリーニングのために本明細書で提供されるエクスビボAXTEX-4Dベースマトリックス系を使用することによって、各患者に対して適切で効果のある治療薬を特定した有効な将来の処置計画ができる。
【0055】
さらに別の実施形態では、本発明によって、3Dで、また、長期間の時間の関数として4つ目の次元(4D)で、様々な腫瘍細胞株を支持することが可能な組織様構造体を検証するための方法および装置と、薬物の発見および他の臨床分析、診断などにおける、これらの用途が提供される。
【0056】
3D組織系およびその構成を包含した装置は、
図18に提示するが、ここでは、立方体の設計の中心にある3Dの腫瘍ベースマトリックス系を描写する。ある実施形態では、in situ条件下で組織を研究するのに使用される4Dのベースマトリックス系として、本発明の装置が提供され、これによって、効率的に観察することができ、入力した情報と、装置による結果を時間の関数として評価することができる。
【0057】
インビトロで細胞培養を実行する際に含まれる時間の次元は、既存の方法と比較してより迅速に疾患を診断する方法を提供する。さらに、また、これと共に記載された方法によって作製される人工生体組織の寿命が増加することによって、異なる分析のための試験窓を増加する。より長い期間使用される、本発明で想定されるAXTEX-4Dベースマトリックス系は、
図6に写真によって描写されている。
【0058】
本発明の別の重要な態様では、装置は、さらなるスクリーニング研究を行うのに比較的少ない時間で、異なる起源の細胞から人工生体組織を生成するのに役立ち、ここで、人工生体組織は、72時間未満、または48時間未満、またはさらには24時間未満で視認できる。
【0059】
研究における重要な観察であって、よって重要な態様は、細管様構造が増殖するという証拠があることであり、よって、場合によっては、本発明は、抗血管新生薬/アッセイの研究および他の用途のための血管新生モデルを提供すると言える。
【0060】
ある実施形態では、本発明の系は、プロテオミクスプロファイルおよびゲノムプロファイルを決定する際に材料の供給源として役立つ。
【0061】
さらに別の実施形態では、装置は、例えば、数ヵ月間にわたる時間経過の間に抗体などの価値の高いタンパク質を生成するために、生体内変換のためのリアクターとして使用される。
【0062】
さらに別の実施形態では、癌のような疾患を処置する有効な処置または治療計画を判断する方法が提供される。
【0063】
さらに別の実施形態では、本発明の系は、大量の培養物を増殖させて、治療法/抗原/ワクチン候補などを産生するためにセルファクトリー/バイオリアクターとして使用されてもよい。
【0064】
総じて、本発明の系は、組織様構造および組織様機能を綿密に表し、より素早く増殖し、頑強で、生存可能で、より長時間持続可能なものである。
【実施例】
【0065】
本発明について、実施例およびその比較例をもって以下でさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定することを意図したものではないことに注意されたい。
【0066】
実施例1:化合物および試薬
ベースマトリックス系としてAXTEX-4Dとして提供された装置および方法を使用して薬物感受性を分析するために使用される化合物および試薬。Sigmaから、ドキソルビシン、シスプラチン、コルヒチン、パクリタキセルおよびDMSOを購入した。これらの薬物は、2D(単層)および3D(人工生体組織としてAXTEX-4Dベースマトリックス系上)形式として増殖した異なる癌細胞株の細胞の感受性/耐性について検査し、データを比較した。例示的なデータは、
図10および
図11に示されている。
【0067】
実施例2:細胞株および腫瘍の分析
様々なヒト癌細胞株(MCF-7およびHepG2、PC3、HT29など)は、アメリカ培養細胞系統保存機関(ATCC、メリーランド州ロックビル)A375から得たものであり、CHO-K1細胞株は、NCCS(インド、プネー)から受け取ったものである。HUVECは、Lonzaから得たものである。MCF-7およびHepG2は、EMEM(Sigma-Aldrich、アメリカ合衆国ミズーリ州セントルイス)中で培養した。PC3およびCHOK-1は、F12K(Sigma-Aldrich、アメリカ合衆国ミズーリ州セントルイス)中で培養し、HT-29、A-375、NIH-3T3、HEK-293細胞は、DMEM(Sigma-Aldrich、アメリカ合衆国ミズーリ州セントルイス)中で培養した。HUVEC細胞は、EBM-2基礎培地およびEGM-2 Single Quots補添物中で培養した。
図1、
図2、
図3Aおよび
図4は、3Dベースマトリックス系上で細胞株が増殖させて、人工生体組織を形成するのを示す代表的な写真である。付着細胞株はすべて、10%のFBS(Gibco)下で、2mMのグルタミン(Sigma-Aldrich、アメリカ合衆国ミズーリ州セントルイス)を添加して培養した。細胞は、静的条件下で37℃、8%CO
2の加湿状態で培養した。
【0068】
各細胞株の人工生体組織の形態学的外観を、位相差として分析し、SEM画像は(
図1、
図2、
図3A、
図4)に示されている。
【0069】
原発腫瘍の生検を使用した、人工生体組織の生成:大腸癌腫、胃癌腫、肺癌腫および甲状腺癌腫のそれぞれの腫瘍の生検試料を、病理検体から採取し、培養のために輸送され、細胞培養研究所でエクスビボで分析した。組織は、1倍PBS(Ca
++およびMg
++なし)ですすぎ、メスを用いてより小さくスライスし、細胞を分離して、単離するために、プランジャーを用いてさらに処置した。その後、細胞は、2mMのグルタミン2倍の抗生物質溶液(ペニシリンおよびストレプトマイシン、HiMedia社)および20%のFBSを含有したDMEM培地中で培養した。懸濁培養物または外植片として、腫瘍組織検体を採取し、AXTEX-4D系上で増殖させた。AXTEX-4Dベースマトリックス系上の腫瘍組織の増殖は、一例として
図3Bおよび
図5で示されている。
【0070】
スフェロイドおよび人工生体組織の形成。他に示されていない限り、スフェロイドは、ハンギングドロップ法を使用して形成した。これによってさらに、人工生体組織が形成されるに至った。ハンギングドロップ法によって生成したスフェロイドの成長を示す
図3A(上のパネル)ならびに
図1、
図2、
図3A(下のパネル)、
図4は、AXTEX-4Dベースマトリックス上で増殖する人工生体組織の代表的な写真一式である。様々な細胞株のスフェロイドの形成プロセスについて、以下に記載する。
【0071】
簡単に説明すると、ハンギングドロップを作成する前日に、細胞を約80%の集密度で播種した。トリプシン処置後、細胞は、適切な量のそれぞれの培地中で再懸濁させ、細胞生存能力が90%より大きい場合のみに、ハンギングドロップ形成プロセスを始めた。各細胞懸濁液は、20μlの培地に10
3~10
4細胞の範囲の細胞数を含有するように生成した。無菌培養皿の蓋の内表面に液滴をピペッティングし、皿の底部にPBSを充填した。24~48時間後、内蓋を反転させて、新鮮な培地中で液滴を再懸濁した。スフェロイドは、位相差顕微鏡によって分析した。代表的な写真は、3A(上のパネル)のハンギングドロップ法を使用したスフェロイドの発達、および3Dベースマトリックス系上で増殖した人工生体組織(
図1のB、
図1のC、
図2、
図3A(下のパネル)および
図4)を示す。
【0072】
走査電子顕微鏡法。ベースマトリックスAXTEX-4D系に付着した細胞の3D形態は、SEM分析によって評価した(EVO-18 Research、Zeiss社)(
図1のCおよび
図4)。試料(固定化剤:PBS、pH7.4中2.5%のグルタルアルデヒドおよび2%のパラホルムアルデヒド)は、スタブの上に固定し、0.1mbarの圧力で10分間真空乾燥させ、続いて、アルゴンガスを追加した。試料は、スパッタコーターを使用して金粒子で被覆した。その後、被覆した試料は、走査電子顕微鏡法によって分析した。
【0073】
実施例3:3D細胞培養系の作成:
本明細書の実施例では、フラットボンドである、押出成形の円形連続フィラメントからなる市販のスパンボンドPET材(
図1のA)を使用した。使用する布は、無端の重合体繊維の不織布マットである。布の密度は、約19~35gm/m
2であり、空隙率は、約65ミクロンである。人工生体組織を作成するために、ハンギングドロップ法を使用してスフェロイドを調製し、これらは、ベースマトリックスの上で培養して増殖させる(
図1のB、
図1のCおよび
図3A(下のパネル))。
【0074】
人工生体組織の付着と増殖は、位相差顕微鏡法を使用して、時間の関数として継続してモニターした。24時間未満、または48時間未満、ないしは、スフェロイドを調製するための約24時間と、ベースマトリックス系上にスフェロイドを付着させるための約24時間と、スフェロイドを人工生体組織として増殖させ、生成するための数時間とを含む、72時間未満で、全プロセスが完了したことが観察された。この後、AXTEX-4D系(細胞はベースマトリックス系上で3D培養で増殖させた)は、他の実施例で実証されたスクリーニング研究および他の分析を実施できる状態となった。この人工生体組織ベースマトリックス系では、様々な初代細胞および組織、病的および非病的な癌細胞または患者の腫瘍の生検、トランスフェクトしたまたはトランスフェクトしなかった細胞株のスフェロイドは、インビボの組織と同様の形態を用いて増殖することが観察された。
【0075】
人工生体組織は、懸濁培養物および/または外植片のどちらかを採取することによって、腫瘍の生検から生成した。人工生体組織を形成する外植片の接種材料は、24時間未満、または48時間未満、または72時間未満で8%CO2インキュベーターで細胞が増殖することが観察された。この後、プラットフォームは、スクリーニング研究および他の分析を実施できる状態となった。
【0076】
実施例4:ベースマトリックス系の構築材料の種類、ならびに厚さのパラメータ:
(19、20、30、35)gm/m
2の様々な密度を有した、PET布などの異なる種類のスパン織布材料を、3Dベースマトリックス系として使用した。代表的な一例である
図2は、HT-29の人工生体組織が、異なる密度(19、20、30および35gm/m
2の範囲)を有する同一の布上のそれぞれに効率的に増殖することを示す。人工生体組織を増殖させるためにベースマトリックス系として検査した他の材料は、FNT社ベストボンドPP/PS/PA-40g/m
22、FNT社Cisellina PET 250g/m
2、FNT社Newjetビスコース 80g/m
2、FNT社Polibond PP 45g/m
2、Hydroweb社BicoPET/PP 150g/m
2、JM社011/120PET /120g/m
2、Mogul社Buffalo bico PET/coPET、丸形 80g/m
2、Mogul社Buffalo bico PET/coPET、三葉形 80g/m
2、Mogul社Mopet PET フラットボンド 19g/m
2、Mogul社Mopet PET フラットボンド 75g/m
2、Resintex社Master PE、アクリル樹脂 220g/m
2、AS10、AS03およびASO3Aを含む。
【0077】
実施例5:細胞対細胞外マトリックスの相互作用:
細胞対細胞外マトリックスの相互作用は、腫瘍の増殖および浸潤に対して重要な役割を果たし、腫瘍微小環境の重要な成分として機能する。ECM成分として存在するコラーゲンは、癌、線維症に関与する。ヒアルロン酸、フィブロネクチン、ラミニンおよびマトリックスメタロプロテアーゼのような他の成分の存在下では、コラーゲンは、癌細胞の活性に影響を及ぼす。MCF-7細胞株から生成して、AXTEX-4D系上で増殖させた人工生体組織は、コラーゲンを産生することが観察された(
図7)。ECMは、2D単層培養物と比較して、AXTEX-4D上で増殖させた人工生体組織の場合により連続的に形成された。
【0078】
実施例6:2Dおよび3D細胞培養物の薬物に対する感受性の分析
MCF-7細胞株は2D単層培養物として増殖させ、ならびに、人工生体組織は96ウェルプレート上で増殖させ、ここで、スフェロイドは膜の上で培養して、1~3日間インキュベートした。組織培養物の1.5%のアガロースを96ウェルプレートに被覆して事前に被覆した96ウェルプレート、または、組織培養物のアガロースを96ウェルプレートに被覆しなかった96ウェルプレートのどちらかの各ウェルに、スフェロイド当たり約5×103細胞の細胞数を添加した。スフェロイドの付着後、培地を、薬物の存在下または非存在下で新鮮な培地と交換した。2D培養物では、96ウェルプレートの各ウェルに5×103細胞を播種した。48~72時間細胞が付着した後、薬物処置を始めた。
【0079】
図10で示されているように、2D培養物またはAXTEX-4Dベースマトリックス系上で増殖させたMCF-7細胞は、ドキソルビシン(1~5μM)で処置し、3D形式で増殖させた細胞は、2D単層として培養した細胞と比較して、増殖停止または殺傷に対してより大きな耐性を示した(
図10)。
図10のAは、2D単層で増殖させるときの異なる濃度(1~5μM)のドキソルビシンの細胞生存能力に対する効果を示し、また、
図10のBは、AXTEX-4Dベースマトリックス系上の3D人工生体組織として増殖させるときの様々な濃度(1~5μM)のドキソルビシンの細胞生存能力に対する効果を示す。
図11Aで示されているように、細胞および人工生体組織は、異なる用量(1~5μM)のドキソルビシンで処置し、ビヒクル対照と比較して、1μMのドキソルビシンを用いた人工生体組織で、一部の耐性が観察された。
【0080】
図11Bは、MCF-7の人工生体組織の増殖に対する、ドキソルビシンおよびベバシズマブの両方の併用効果を示す。AXTEX-4Dベースマトリックス系上で増殖させたMCF-7人工生体組織は、最初に5時間血清飢餓させ、37℃、8%CO
2で6日間、100ng/mlのVEGF-165(R&D Systems社、Cat No.293-VE-010、スプライス変異体またはアイソフォームである血管内皮増殖因子-165)を単独で、または、1μMのドキソルビシンおよび25μg/mlのベバシズマブ(Rocheから調達、100mg/4ml)の存在下で処置した。生存能力は、PrestoBlueを使用することによって評価した。薬物感受性は、PrestoBlueを使用して、蛍光に基づく試験(励起485nm/発光595nm)によって分析した。
【0081】
AXTEX-4Dベースマトリックス系上で増殖させた人工生体組織は、25μg/mlのベバシズマブの存在下の1μMのドキソルビシンで、より大きな有効性で(約57%)細胞増殖が防がれることを示した。
【0082】
実施例7.蛍光顕微鏡法による、AXTEX-4Dベースマトリックス系上で増殖させた人工生体組織の評価:
免疫蛍光分析を実施するためのプロセスとして、試料は、15分間4%のPFAを用いて固定し、3回、各5分間PBSを用いて洗浄した。試料は、0.1%のトリトン-xを用いて浸透化した。7日目に、1:50希釈の抗コラーゲンI型抗体(緑)およびDAPI(青-核染色)を用いて染色を行い、蛍光顕微鏡法に基づいて観察した。AXTEX-4D系上で形成された人工生体組織で、ECMが形成されるが、画像(
図7のA~
図7のF)で見られるように、2D単層で培養した細胞のものと比較してより連続的であることが観察された。(倍率10倍)。試料は、ApoTome顕微鏡を使用して分析した。
【0083】
実施例8.共焦点分析
人工生体組織の3Dの増殖は、共焦点顕微鏡法を使用して視覚化した。共焦点分析を行うために、試料は固定し、染色し、Leica TCS SP8を使用して分析した。この実施例では、MCF-7細胞のスフェロイドを(本明細書に記載のように)調製し、膜の上に添加し、インキュベートして人工生体組織の増殖を得た。
【0084】
細胞は、F-アクチンについては、ファロイジンを使用して染色し、核染色については、ヘキスト色素を使用して染色した。細胞は、固定剤を用いて固定し、1%のBSAを有するPBS中で30分間、室温でブロッキングした。後で、検体はPBS中で洗浄し、アクチンを染色し、続いて、核を可視化するために、ヘキストを用いて対比染色した。1:1000希釈を使用して、40分間25℃でファロイジン染色を行った。1:1000希釈のヘキストを使用して、PBS中で15分間、25℃で核染色を行った(
図8)。Leica共焦点顕微鏡(Leica SP8)を使用して、3Dは倍率10倍で、2Dは倍率40倍で写真を撮影した。
【0085】
人工生体組織中のコラーゲンの発現を分析するために、細胞は、前に記載したように、固定して、ブロッキングした。MCF-7細胞株の人工生体組織は、1:50希釈の抗コラーゲンI抗体を用いて16時間染色した。核染色は、DAPIを使用して行った。写真は、前に記載したのと同一の倍率で撮影した。
【0086】
PC3細胞株に由来する人工生体組織の増殖の寿命を分析するために、人工生体組織は、カルセインAMを用いて、メーカーのプロトコルに従って30分間染色した。
図6に示されているように、ベースマトリックスAXTEX-4D上で増殖させたPC3細胞株から生成した人工生体組織は生存可能であり、最大250日間細胞増殖可能である。
【0087】
PC3の人工生体組織の増殖および生存能力を分析するために、異なる時点(3日目、25日目、108日目および250日目)にカルセインAM(Thermo Fisher社)染色を行った。PC3の人工生体組織は、1μMのカルセインAMを用いて30分間染色し、37℃、8%CO
2で維持した。その後、人工生体組織は、共焦点顕微鏡法によって分析し、結果は、カルセインAM染色によって示されているように、細胞数の生存能力の増加を示した(
図6)。
【0088】
共焦点分析のデータは、細胞の連続性が明らかに目に見える、MCF-7細胞株の人工生体組織の繊維状の組織を示した。これは、細胞が、画定した縁および辺縁を有し、非連続的であるような2D形式としてペトリ皿で増殖させた細胞から見られる写真とは対照的である(
図8)。
【0089】
実施例9:AXTEX-4D上で人工生体組織を増殖させるための接種材料としての初期試料の細胞数が小さい
データは、わずか25細胞であれば、良好に増殖し、ベースマトリックス系上で人工生体組織を形成したことを示した。20μlの培地が、25~250細胞の範囲の正確な細胞数を含有するような希釈法によって細胞懸濁液を作ることによって、分析を行った。底部にPBSを充填した蓋の内表面に液滴をピペッティングした。24時間後、内蓋を反転させて、新鮮な培地中で液滴を再懸濁した。位相差顕微鏡によってスフェロイドを分析し、組織培養プレート(24または96ウェルプレート)に載置したベースマトリックスの上に添加し、37℃、8%CO
2の加湿状態のインキュベーターでインキュベートした。接種をするのに異なる細胞数を使用して、人工生体組織を付着および増殖させ、位相差および走査型電子顕微鏡下で調査した(
図9)。
【0090】
図に示されているように、スフェロイドおよび3D人工生体組織を増殖させるための出発材料として、MCF-7細胞株の異なる細胞数を使用するが、これは、約250細胞~25細胞未満の範囲に至る。位相差顕微鏡(倍率10倍)を使用して
図9のA、
図9のB、
図9のC、
図9のDおよび
図9のEに示されているように、また、SEM分析(倍率1500倍)を使用して
図9のFに示されているように、3Dベースマトリックス系上でスフェロイドを増殖させた。写真は、人工生体組織の増殖を示しており、本明細書で提供されるベースマトリックス系上で人工生体組織を作製するのに、わずか25細胞を必要としたことを明らかに示した。
【0091】
実施例10:ベースマトリックス系上の細胞培養物の生存能力の時間経過および培養期間
ベースマトリックスであるAXTEX-4D上で増殖させた人工生体組織の増殖および生存能力は、PC3については1年以上(約364日、
図13、下のパネル)、HepG2については約3ヶ月(82日まで、
図13、上のパネル)、MCF-7の人工生体組織については130日近くに延びることが観察された。AXTEX-4Dベースマトリックス系(19gm/m
2)上で3つの異なる細胞株(HepG2、MCF-7およびPC3)を用いてこの現象を分析し、観察した。
【0092】
さらに、PC3の人工生体組織の生存能力は、その増殖の100日目に、LIVE/DEAD染色を使用してFACS分析によって分析し、ゲートをかけた集団(つまり75%まで)のうち、47%の細胞は生細胞、18.68%の細胞は死細胞であることを見出したが、これは、培養の100日後でさえ、PC3の人工生体組織の生存能力はほぼ60%であることを示す。
【0093】
長期増殖および生存能力の明確な利点は、本明細書のデータによって出され、ここで、長期間、繊維状の状況をエクスビボで模倣できることを示し、それによって、患者のために最適な治療用投薬計画を設計するために、薬物感受性のデータを得るための方法として、長期期間、異なるアッセイを行う。
【0094】
実施例11:ベースマトリックス系上で複数の異なる細胞株を増殖させた:
本出願に記載の人工生体組織生成方法および系は、本明細書の実施例において、3D形式で様々な種類の細胞の培養物を培養するために使用可能であることが示されたユニバーサルベースマトリックス系である。実施例2において以上に記載されたプロセスを使用して、布ベースマトリックス系上で以下の細胞株が良好に増殖したが(
図1のB、
図1のC、
図2、
図3A、
図4)、これには、MCF7:乳癌細胞株、腺癌、HepG2:肝臓癌、上皮細胞、PC3:前立腺癌細胞株、腺癌、A375:皮膚黒色腫、上皮細胞株、HT-29:結腸直腸、腺癌および非悪性細胞株CHO-K1細胞(表層タンパク質を安定的に発現する)、HEK-293、NIH3T3線維芽細胞が挙げられる。また、結腸、胃、肺、甲状腺などの初代腫瘍細胞に由来する人工生体組織の増殖について、この系を検査した(
図3Bおよび
図5で表される)。
【0095】
実施例12:ベースマトリックス系上の異なる細胞混合物の共培養物および三培養物
人工生体組織は、混合細胞集合から、2つ以上の細胞株を共培養することによって生成した。各組み合わせの共培養物は、乳癌細胞株(MCF-7)および内皮細胞(HUVEC)、または、内皮細胞(HUVEC)および線維芽細胞(NIH-3T3)のどちらかを、それぞれ1:1の比率で採取することによって分析した。
図14に示されているように、これらは、2D単層形式およびAXTEX-4Dベースマトリックス系上で増殖させた。人工生体組織は、非常に効率的に増殖することが見受けられた。
【0096】
人工生体組織は、3つの細胞株を共培養することによって、混合細胞集団から生成した。MCF-7細胞株の細胞懸濁液を、NIH-3T3およびHUVEC細胞株と1:2:1の比率で混合した。これらの混合細胞集団は、AXTEX-4D上で増殖させ、データは、
図14に示されているが、集団が非常に効率的に増殖したことを示している。
【0097】
人工生体組織ベースマトリックス系を使用して共培養物および三培養物を産生し、分析することは、細胞対細胞の相互作用の研究、薬物の発見および開発、および患者の処置計画、特に、癌免疫療および感染症用ベースマトリックス系で役立つものとして想定された(
図14)。
【0098】
実施例13:AXTEX-4Dベースマトリックス系上で増殖させた、患者の初代細胞および組織試料
腫瘍患者の組織生検の初代細胞株および試料は、人工生体組織としてベースマトリックス系上で増殖させた。懸濁培養物または外植片として、腫瘍組織検体を採取し、AXTEX-4Dベースマトリックス系上で増殖させた。ベースマトリックス系上の腫瘍組織の増殖は、
図3Bおよび
図5に一例として示されているが、これは、一次組織試料/生検から人工生体組織を生成するのに、AXTEX-4Dベースマトリックス系を有効かつ普遍的に使用することができることを実証している。
【0099】
実施例14:ベースマトリックス系上で人工生体組織を増殖させ、アッセイを始めるのにかかる時間の削減
本明細書の観察により、細胞株/初代細胞の細胞がAXTEX-4Dベースマトリックス系に付着し、人工生体組織として増殖し始めるのは、24時間以下の時間間隔であることが報告されている。人工生体組織は、治療薬投与計画のアッセイに適切な薬物感受性および耐性を分析するのに最適であることが観察された。特定の細胞株では、細胞は、それよりいくらか長い時間を要したが、全体的には、ヒト細胞株については、ベースマトリックス系に付着して、人工生体組織として増殖し始めるのに72時間以下要した。人工生体組織をこのように素早く培養することで、患者対薬物に関連した研究において長く必要とされていた、鍵となる重要な要因である時間要因に対処して、4次元の系とすることができる。(
図15)。
【0100】
実施例15:セルファクトリー
AXTEX-4Dベースマトリックス系は、より長い期間、人工生体組織の増殖を持続させる。細胞、ワクチン、ならびに治療用タンパク質、抗体、分泌タンパク質の大量産生には、本明細書で提供される3Dの系および方法および形式が非常に役立つことが想定される。系は、取り扱うのに都合がよく、特殊な管材を必要としないものであり、
図16で示されているように、抗体の産生が、時間の関数として増加したことが観察された。
【0101】
抗IL-6R抗体であるトシリズマブを安定して発現するCHO-DG44細胞をAXTEX-4Dベースマトリックス系上で増殖させることによって、抗体を発現する細胞の寿命を増加し、生産性を向上すると共に、よりコンパクトなスペースで細胞数を増加することができた(
図16)。これによって、生物製剤およびワクチンを生物学的に産生するためのセルファクトリーとして、AXTEX-4Dベースマトリックス系が使用されることが確認される。
【0102】
実施例16:血管新生ベースマトリックス系
内皮細胞の機能障害は、糖尿病、肺疾患、炎症性疾患、循環器疾患および免疫疾患などに関与する。血管新生は、組織発生、創傷治癒および腫瘍進行における重要なプロセスである。3D形式を利用した方法は、抗血管新生剤の阻害剤のための血管新生の研究または腫瘍微小環境のスクリーニングに役立つ洞察を提供するものであった。
【0103】
漠然とコンパクトにHUVEC細胞から生成した人工生体組織は、AXTEX-4D系上でVEGF-165の存在下で増殖させたが、ここで、VEGF-165は、血管新生の強力なメディエーターである。
図17は、72時間、50ng/mlのVEGF処置で処置した後に管状構造体が形成されると共に、人工生体組織が増殖することを表す。
【0104】
血管新生および腫瘍微小環境の形成、ならびに、インビボの腫瘍のものに非常によく似た系で強力な抗血管新生剤薬物をスクリーニングする必要について、本明細書で提供される3Dの方法および系は、役立つ洞察をもたらすものであった。
【国際調査報告】