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特表2022-517135A型肝炎ウイルス(HAV)抗原を細胞培養物から抽出するための方法
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  • 特表-A型肝炎ウイルス(HAV)抗原を細胞培養物から抽出するための方法 図1
  • 特表-A型肝炎ウイルス(HAV)抗原を細胞培養物から抽出するための方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-04
(54)【発明の名称】A型肝炎ウイルス(HAV)抗原を細胞培養物から抽出するための方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/00 20060101AFI20220225BHJP
   C07K 1/12 20060101ALI20220225BHJP
   C07K 1/14 20060101ALI20220225BHJP
   C12P 21/06 20060101ALI20220225BHJP
【FI】
C12P21/00 B
C07K1/12
C07K1/14
C12P21/06
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021547569
(86)(22)【出願日】2020-02-11
(85)【翻訳文提出日】2021-10-11
(86)【国際出願番号】 EP2020053376
(87)【国際公開番号】W WO2020165113
(87)【国際公開日】2020-08-20
(31)【優先権主張番号】19156944.1
(32)【優先日】2019-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521358165
【氏名又は名称】メディアグノスト ゲゼルシャフト フュア フォルシュング ウント ヘーアシュテルング フォン ダイアグノステカ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】MEDIAGNOST GESELLSCHAFT FUER FORSCHUNG UND HERSTELLUNG VON DIAGNOSTIKA GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 幸史
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(72)【発明者】
【氏名】バートラム フレーミク
【テーマコード(参考)】
4B064
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG33
4B064CA10
4B064CA12
4B064CA19
4B064CB01
4B064CC15
4B064CE08
4B064CE14
4B064DA01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA02
4H045DA86
4H045EA31
4H045FA72
4H045FA74
4H045GA01
4H045GA15
4H045GA21
4H045GA30
(57)【要約】
本発明は、A型肝炎ウイルス(HAV)抗原を細胞培養物から抽出するための方法と、A型肝炎ウイルス(HAV)抗原を細胞培養物から抽出するための組成物の使用とを対象とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
A型肝炎ウイルス(HAV)抗原を細胞培養物から抽出するための方法であって、
方法が:
a)A型肝炎ウイルス(HAV)抗原をコードする核酸を発現する少なくとも1つの哺乳類細胞を提供するステップと、
b)少なくとも1つのプロテアーゼおよび少なくとも1つの界面活性剤と細胞を接触させることによって、A型肝炎ウイルス(HAV)抗原をコードする核酸を発現する少なくとも1つの哺乳類細胞をリシスするステップと、
c)A型肝炎ウイルス(HAV)抗原を含むライセートを収集するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
少なくとも1つの界面活性剤が、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、双性イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つの界面活性剤が、アルコキシル化直鎖アルコール、アルコキシル化アルキルフェノール、アルコキシル化チオール、脂肪酸アルコキシレート、アルコキシル化アミンおよび/または脂肪酸アミド、エチレンオキシドおよびプロピレンオキシドのコポリマー、ポリヒドロキシ化合物の脂肪酸エステル、ポリヒドロキシ化合物のアルキルエーテル、アミンオキシド、スルホキシド、ホスフィンオキシド、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される非イオン性界面活性剤である、請求項1または2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1つの界面活性剤が、ソルビタン脂肪酸エステル、アルコキシル化ソルビタン脂肪酸エステル、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つのプロテアーゼが、トリプシン、キモトリプシン、パパイン、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ステップa)において、A型肝炎ウイルス(HAV)抗原をコードする核酸を発現する少なくとも1つの脊椎動物細胞が、接着細胞培養物としてまたは懸濁細胞培養物として提供される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
ステップb)において、A型肝炎ウイルス(HAV)抗原をコードする核酸を発現する少なくとも1つの哺乳類細胞をリシスすることが、少なくとも1つのキレート剤の存在下において、少なくとも1つのプロテアーゼおよび少なくとも1つの界面活性剤と細胞を接触させることによって達成される、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
方法が、さらに:
d)ステップc)において得られるライセートに含まれるA型肝炎ウイルス(HAV)抗原を、好ましくは、濾過、クロマトグラフィー、透析、電気泳動、遠心分離、またはそれらの組み合わせの手段によって濃縮するステップ、
を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
方法が、さらに:
e)少なくとも1つのアルデヒドおよび/またはアルデヒドを放出する薬剤、好ましくはホルムアルデヒドおよび/またはホルムアルデヒドを放出する薬剤と、A型肝炎ウイルス(HAV)抗原を接触させることによって、A型肝炎ウイルス(HAV)抗原を不活化するステップ、
を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
A型肝炎ウイルス(HAV)抗原が、A型肝炎ウイルスの成熟VP1カプシド蛋白質、A型肝炎ウイルスの成熟VP2カプシド蛋白質、A型肝炎ウイルスの成熟VP3カプシド蛋白質、および/またはそれらの混合物の少なくとも1つ、好ましくは、A型肝炎ウイルスの成熟VP1カプシド蛋白質および/またはA型肝炎ウイルスの成熟VP3カプシド蛋白質の少なくとも1つを含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
A型肝炎ウイルス(HAV)抗原を細胞培養物から抽出するための組成物の使用であって、組成物が少なくとも1つのプロテアーゼおよび少なくとも1つの界面活性剤を含む、使用。
【請求項12】
少なくとも1つの界面活性剤が、アルコキシル化直鎖アルコール、アルコキシル化アルキルフェノール、アルコキシル化チオール、脂肪酸アルコキシレート、アルコキシル化アミンおよび/または脂肪酸アミド、エチレンオキシドおよびプロピレンオキシドのコポリマー、ポリヒドロキシ化合物の脂肪酸エステル、ポリヒドロキシ化合物のアルキルエーテル、アミンオキシド、スルホキシド、ホスフィンオキシド、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される非イオン性界面活性剤である、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
少なくとも1つの界面活性剤が、ソルビタン脂肪酸エステル、アルコキシル化ソルビタン脂肪酸エステル、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項11または12のいずれか1項に記載の使用。
【請求項14】
少なくとも1つのプロテアーゼが、トリプシン、キモトリプシン、パパイン、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項11~13のいずれか1項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、A型肝炎ウイルス(HAV)抗原を細胞培養物から抽出するための方法と、A型肝炎ウイルス(HAV)抗原を細胞培養物から抽出するための組成物の使用とを対象とする。
【背景技術】
【0002】
グローバルに主要な健康問題を生じさせるA型肝炎は、A型肝炎ウイルス(HAV)によって引き起こされる。
【0003】
A型肝炎ウイルスは世界的に急性肝疾患を引き起こす最も普通な因子であり、その一次的な複製部位は肝臓である。A型肝炎の発生率は国から国に大いに変動し、衛生の品質および飲み水へのアクセスに影響する社会経済的因子と関連する。
【0004】
疾患の重症度は年齢と強く関連し、年長児童および成人は多くの場合に症候性疾患を経験する。A型肝炎ウイルス感染は単純な黄疸から急性肝不全(ALF)へと進行し得る。
【0005】
A型肝炎ウイルスの感染は通常は糞口伝播経路によって起こり、3から6週の潜伏期間の間の、および病の早期の時期まで延びる糞便中のウイルスの大規模な排出と関連している。より少ない量のウイルスが数週および数ヶ月に渡って糞便によって排泄され、長い期間に渡って血中にもまた存在し得る。これは、低い衛生水準がA型肝炎ウイルスの伝播を促進する地域における感染の高い有病率を説明する。
【0006】
A型肝炎ウイルスは、常温において、および低いpHにおいて並外れて安定である。ウイルスのこれらの特徴は、環境において生残する、ならびに汚染された食物および飲料水によって伝播されるその能力を説明する。酸pHおよび洗剤に対する耐性は、胃を通過し胆道から宿主を出るその能力をもまた説明する。これらはA型肝炎の発症機序に大いに寄与する重要な特徴である。
【0007】
A型肝炎ウイルスは、特にポリプロテインプロセシングおよびビリオン形態形成のそのメカニズムの観点からピコルナウイルス科の中でそれを独特にし、かつ蓋然的にはその病理生物学に寄与するいくつかの特徴を有する。
【0008】
A型肝炎ウイルスおよびピコルナウイルスの起源の概要は、Wang,X.et al.(2015)(“Hepatitis A virus and the origins of picornaviruses”,Nature 517(7532),pages 85 to 88.doi:10.1038/nature13806)に見出され得る。
【0009】
A型肝炎ウイルスは7.5キロベース(kb)長の一本鎖(+)RNAゲノムを有する。ウイルスゲノムはおよそ250kDaのポリプロテインをコードする単一のオープンリーディングフレーム(ORF)を有する。完全なA型肝炎ウイルスゲノムの核酸配列は、例えば、GenBank accession number M14707.1によって入手可能である。
【0010】
ウイルス蛋白質はメッセンジャーセンスゲノムRNAから直接的に翻訳され、これはウイルス粒子のアンコーティング後に細胞質に送達される。
【0011】
A型肝炎ウイルス遺伝子発現および蛋白質アセンブリはポリプロテインからの翻訳共役的および翻訳後蛋白質分解による個々の蛋白質の成熟を要求し、これは、P1、P2、およびP3として公知の3つの主要領域からなる。P1領域は、ウイルスカプシドVP1、VP2、VP3という3つの構造蛋白質、およびVP4と呼称されかつビリオン形成にとって必須であるが成熟ウイルス粒子には存在しないウイルスカプシド蛋白質へとプロセシングされる。
【0012】
構造蛋白質は、P3領域にコードされるウイルスプロテアーゼ3Cによって切断される。非構造蛋白質はP2およびP3領域からプロセシングされ、RNA合成およびビリオンアセンブリのために要求される。P3セグメントは、3A、3B、3C、および3D蛋白質を含む。
【0013】
A型肝炎ウイルスの分子的特徴の概要は、Vaughan,G.et al.(2014)(“Hepatitis A virus:host interactions,molecular epidemiology and evolution”,Infect.Genet.Evol.21,pages 227 to 243,doi:10.1016/j.meegid.2013.10.023)に見出され得る。
【0014】
A型肝炎ウイルスはメインの保存された抗原性の中和部位を所有することが示されており、結果として、世界の異なる地域からの全ての分離株は単一の血清型に属する。
【0015】
抗原性バリアントを代表し、かつ異なるモノクローナル抗体(MAbs)に対する変動する耐性度を見せるA型肝炎ウイルス(HAV)免疫逃避変異体による実験は、新たな血清型の出現にとって必要なより大規模な遺伝子バリエーションを妨げるHAVカプシドにおける重度の構造的制約の存在を示唆し、なぜなら、全ての観察された免疫逃避バリアントはVP3蛋白質上の置換を共有したからである。
【0016】
A型肝炎ウイルスに対する適応免疫応答はロバストであり、ウイルスを排除することにおいて極めて有効である。一般的に、ウイルスに対する中和抗体(抗HAV)は、血清アミノトランスフェラーゼ上昇および肝細胞障害の最も早期の証拠と同時的に血清中に現れる。抗HAV-IgGは一生に渡って持続し、再感染に対する、少なくとも第2の病に対する防御を授ける。
【0017】
過去に、工業国では、A型肝炎ワクチン接種が、A型肝炎を獲得する増大したリスクがある者に推奨されており、それらは高いA型肝炎エンデミック性の地域への旅行者、違法薬物のユーザー、ホモセクシュアル的に活発な男性、および凝固因子濃縮製剤を受ける凝固因子異常の患者を包含する。
【0018】
免疫化は、A型肝炎ウイルスに感染する場合に劇症疾患を発生する増大したリスクがある者についてもまた推奨されている。
【0019】
細胞培養による増殖に適応しているウイルスを用いて、弱毒化生HAVワクチンが開発されている。しかしながら、ワクチン候補は不十分に免疫原性であった。弱毒化ワクチンはいくつかの利点を有し得るが、不活化ワクチンは良く働く。
【0020】
不活化HAVワクチンは、細胞培養によって生産、精製され、ホルマリンによって不活化され、水酸化アルミニウムなどのアジュバントに吸着されるウイルス粒子を含有する。
【0021】
不活化HAVワクチンは高度に免疫原性であり、感染および疾患の両方から防御する。この防御は、蓋然的には主として抗体に基づき、A型肝炎ウイルスの全ての株を幅広く指向し、ヒトの株の間におけるA型肝炎ウイルスの単一の血清型の同定と整合している。
【0022】
細胞培養によって生産されたホルマリン不活化ウイルスを含有する有効性のあるワクチンが複数国において認可されているが、その使用はコストの問題によって限定されていて、とりわけ、それは困難な培養条件からもたらされる。
【0023】
A型肝炎ウイルスは、非肝臓または非霊長類的起源の細胞を包含する培養哺乳類細胞の多くの型において複製するように適応している。その複製サイクルのいくつかの特徴は、それをポリオウイルスおよび多くの他の良く研究されているピコルナウイルスから区別し、そのゆっくりとしたかつ長引く経時変化、低いウイルス収量、および細胞培養において持続的感染を確立する傾向を包含する。
【0024】
野生型ウイルスの増殖は培養細胞において一般的に不良であり、ウイルスは効率的な複製ができるようになる前に好ましくは適応のプロセスを受ける。
【0025】
A型肝炎ウイルスの少数の高度に細胞培養に適応している急速に複製する株が単離されている。このウイルスは細胞変性性であり、アポトーシスを誘導することによって細胞死を引き起こすように見える。しかしながら、ほとんどのHAV感染した細胞では、細胞培養において、およびおそらくまたインビボにおいての両方で、細胞変性効果はない。明らかに、ウイルスは、その増殖に普通に用いられる細胞、例えばアカゲザル胎児腎臓(FRhK-4)細胞、またはヒト肺線維芽細胞細胞株、例えばMRC-5において、その複製を下方制御する。
【0026】
ワクチンの相対的に高いコストは、部分的には、A型肝炎ウイルスを細胞培養によって増殖させることに内在する困難に関連するが、現行の限定された製造スケールにもまた関連する。
【0027】
HAVワクチンの開発の概要は、Martin,A.and Lemon,S.M.(2006)(“Hepatitis A virus:From discovery to vaccines”,Hepatology 43(2),pages 164 to 172,https://doi.org/10.1002/hep.21052)に見出され得る。
【0028】
A型肝炎ビリオンの精製のためのプロセスがEP0302692A2に記載されている。
【0029】
EP0522291A1は、A型肝炎ウイルス(HAV)を精製するためのプロセスおよびA型肝炎ウイルスを含有するワクチン組成物を開示している。
【0030】
US5,731,187Aは、A型肝炎ウイルス(HAV)抗原およびワクチンを調製するためのプロセスを対象としている。
【0031】
当分野において公知の方法は、培養基質上におけるHAV感染した細胞の増殖に依拠し、細胞の掻き取りまたは細胞のトリプシン処理が、HAV感染した細胞の懸濁液を収穫することの要件である。HAV感染した細胞は、通例では遠心分離の手段によって収集される。
【0032】
代替的には、懸濁細胞培養物が用いられることができ、HAV感染した細胞が遠心分離によって細胞培養培地から収穫される。
【0033】
全てのケースにおいて、HAV感染した細胞は、収穫された細胞から十分量のHAV抗原が放出するために、低張緩衝液に対する暴露、ボルテックス、凍結融解サイクル、およびソニケーションを包含するがこれらに限定されない種々の技術のいずれか1つ以上によってリシスされ、細胞破片が遠心分離の手段によってライセートから取り除かれる。
【0034】
それから、上清が抽出手順に付される。かかる抽出は、他の混入物の中でも、脂質および脂質様物質を取り除く。好適な抽出手順は、有機溶媒による有機抽出、クロマトグラフィー、ゲル濾過、および/または遠心分離を包含する。
【0035】
しかしながら、当分野において公知の方法は相対的に時間がかかり、HAV抗原の収量の有意な損失を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0036】
よって、A型肝炎ウイルス(HAV)抗原を細胞培養物から抽出するための方法を提供することが本発明の目的であり、これは増大した量のHAV抗原を提供し、かつ、好ましくは得られるHAV抗原の抗原性を縮減することなしに大スケール抗原生産もまた実行可能とする。
【課題を解決するための手段】
【0037】
本発明の目的は、A型肝炎ウイルス(HAV)抗原を細胞培養物から抽出するための請求項1の方法の提供によって解決され、その方法は:
a)A型肝炎ウイルス(HAV)抗原をコードする核酸を発現する少なくとも1つの哺乳類細胞を提供するステップと、
b)少なくとも1つのプロテアーゼおよび少なくとも1つの界面活性剤と細胞を接触させることによって、A型肝炎ウイルス(HAV)抗原をコードする核酸を発現する少なくとも1つの哺乳類細胞をリシスするステップと、
c)A型肝炎ウイルス(HAV)抗原を含むライセートを収集するステップと、
を含む。
【0038】
本発明の方法の好ましい実施形態は従属請求項2から10に開示されている。
【0039】
本発明の目的は、さらに、A型肝炎ウイルス(HAV)抗原を細胞培養物から抽出するための組成物の請求項11に従う使用の提供によって解決され、その組成物は少なくとも1つのプロテアーゼおよび少なくとも1つの界面活性剤を含む。
【0040】
本発明の使用の好ましい実施形態は従属請求項12から14に開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0041】
HAV抗原をコードする核酸を発現する少なくとも1つの哺乳類細胞を含む細胞培養物からHAV抗原を抽出するための本発明の方法では、少なくとも1つの哺乳類細胞は、少なくとも1つの哺乳類細胞を、少なくとも1つのプロテアーゼおよび少なくとも1つの界面活性剤と、好ましくは少なくとも10時間に渡って、好ましくは少なくとも12時間に渡って、好ましくは10時間から36時間の期間に渡って、さらに好ましくは12時間から24時間の期間に渡って、好ましくは少なくとも20℃の温度で、好ましくは少なくとも25℃の温度で、好ましくは少なくとも37℃の温度で、さらに好ましくは20℃から38℃の範囲の温度で、さらに好ましくは25℃から37℃の範囲の温度で接触させることによってリシスされる。
【0042】
本発明の発明者は、少なくとも1つの哺乳類細胞を、少なくとも1つのプロテアーゼおよび少なくとも1つの界面活性剤の組み合わせによって、十分な時間の期間に渡って、好ましくは少なくとも10時間に渡って、さらに好ましくは少なくとも12時間に渡って、好ましくは10時間から36時間の期間に渡って、さらに好ましくは12時間から24時間の期間に渡って、好ましくは少なくとも20℃の温度で、好ましくは少なくとも25℃の温度で、好ましくは少なくとも37℃の温度で、さらに好ましくは20℃から38℃の範囲の温度で、さらに好ましくは25℃から37℃の範囲の温度で、リシスすることによって、さらに好ましくは例えば破砕された宿主細胞のリシス後の重力または遠心分離による沈降の手段によって細胞破片を沈殿させる必要性なしに、HAV抗原をコードする核酸を発現する少なくとも1つの哺乳類細胞から、HAV抗原が効率的に放出され得るということを見出した。
【0043】
十分な時間の期間に渡って、好ましくは少なくとも10時間に渡って、好ましくは少なくとも12時間に渡って、好ましくは10時間から36時間の期間に渡って、さらに好ましくは12時間から24時間の期間に渡っての、好ましくは少なくとも20℃の温度で、好ましくは少なくとも25℃の温度で、好ましくは少なくとも37℃の温度で、さらに好ましくは20℃から38℃の範囲の温度で、さらに好ましくは25℃から37℃の範囲の温度での、少なくとも1つのプロテアーゼおよび少なくとも1つの界面活性剤の組み合わせ適用は、HAV抗原発現宿主細胞の効率的破砕を提供し、これによって、好ましくは、宿主細胞からのいずれかのHAV抗原が、本発明の方法のステップb)において得られるライセート中に放出される。
【0044】
本発明に従うと、「組み合わせ適用」は、少なくとも1つのプロテアーゼおよび少なくとも1つの界面活性剤が、好ましくはHAV感染したHAV発現哺乳類細胞に対して実質的に同時に作用し得るということを意味する。つまり、少なくとも1つのプロテアーゼおよび/または少なくとも1つの界面活性剤は、好ましくはHAV感染したHAV発現哺乳類細胞に続けて添加もされ得る。少なくとも1つのプロテアーゼおよび少なくとも1つの界面活性剤が、好ましくはHAV感染したHAV発現哺乳類細胞のリシスの間に十分な時間の期間に渡って一緒に作用するということのみが重要である。
【0045】
結果として、かなり高い量のHAV抗原が本発明の方法によって得られる。
【0046】
本発明に従うと、用語「A型肝炎ウイルス抗原」または「HAV抗原」は、少なくとも、免疫原性を提供するA型肝炎ウイルスカプシド蛋白質の部分を指す。好ましくは、そのHAV抗原は、A型肝炎ウイルスの成熟VP1カプシド蛋白質、A型肝炎ウイルスの成熟VP2カプシド蛋白質、A型肝炎ウイルスの成熟VP3カプシド蛋白質、および/またはそれらの混合物の少なくとも1つ、好ましくは、A型肝炎ウイルスの成熟VP1カプシド蛋白質および/またはA型肝炎ウイルスの成熟VP3カプシド蛋白質の少なくとも1つを含む。
【0047】
A型肝炎ウイルスポリプロテインのアミノ酸配列は、UniProt accession number Q67825,version 106によって入手可能である。
【0048】
A型肝炎ウイルスの成熟VP1カプシド蛋白質、成熟VP2カプシド蛋白質、および成熟VP3カプシド蛋白質は、好ましくは、プロテアーゼによる酵素的切断によってHAVポリプロテインから作出される。
【0049】
同義的にヘパトウイルスAと呼称されるA型肝炎ウイルスのヌクレオチド配列は公知であり、例えば、Graff,J.et al.(1994)(“Nucleotide sequence of wild-type hepatitis A virus GBM in comparison with two cell culture-adapted variants”.J.Virol.68(1),page 548 to 554)に開示されていて、その開示は参照によってここに組み込まれる。それぞれの核酸配列は、例えば、GenBank accession number X75214.1、X75215.1、およびX75216.1によって入手可能である。
【0050】
用語「A型肝炎ウイルス(HAV)をコードする核酸」は、HAVの変異体および/または機能的均等物を含むことをもまた意味される。「機能的均等物」は、野生型HAVのワクチン接種または適用と比較して、人間へのワクチン接種または適用後に実質的に同じ免疫反応を誘発する短縮または変異したHAV抗原をコードする核酸配列を意味する。
【0051】
好ましくは、HAV発現哺乳類細胞のコード配列は野生型A型肝炎ウイルスGBM株のポリプロテインのP1領域をコードする核酸配列を含み、これは好ましくはGenBank accession number X75215.1によって入手可能な核酸配列のヌクレオチド位置688から3060に対応する。
【0052】
本発明の方法に従うと、HAV抗原が、HAV抗原をコードする核酸を発現する好ましくはHAV感染した少なくとも1つの哺乳類細胞を含む細胞培養物から抽出される。
【0053】
好ましくは、HAV抗原をコードする核酸を発現する好ましくはHAV感染した少なくとも1つの哺乳類細胞を含む細胞培養物は、接着細胞培養物または懸濁細胞培養物、好ましくは接着細胞培養物である。
【0054】
造血細胞株および少数の他のものを例外として、哺乳類に由来する細胞の大多数は、好ましくは足場依存性細胞であり、さらに好ましくは細胞接着および細胞の広がりを許すための当分野で公知の方法によって特に処理されている好適な基質上で培養される。
【0055】
しかしながら、多くの細胞株は懸濁培養にも適応し得る。
【0056】
懸濁培養される細胞は、組織培養処理されていない培養フラスコ中で維持され得るが、表面積に対する培養体積は充分なガス交換が妨げられるのを超えて増大するので、培地は例えば磁力式攪拌子または回転スピナーフラスコの手段による攪拌を要求する。
【0057】
好ましくは、ステップa)において、HAV抗原を発現する好ましくはHAV感染した少なくとも1つの哺乳類細胞は、接着細胞培養物として提供され、これにおいては、HAV抗原をコードする核酸を発現する好ましくはHAV感染した少なくとも1つの哺乳類細胞が、当分野において公知の条件下の好適な増殖培地中で単層として増殖される。
【0058】
本発明の方法のステップa)において提供されるHAV抗原を発現する好ましくはHAV感染した少なくとも1つの哺乳類細胞は、当分野において公知の方法によって、例えば少なくとも1つの哺乳類細胞を十分量のA型肝炎ウイルスに感染させることによって、得られ得る。
【0059】
HAV感染した細胞は、種々の従来からの細胞培養技術のいずれか1つ以上によって増殖および収穫される。
【0060】
好ましくは、HAV抗原を発現する少なくとも1つの哺乳類細胞を得るために用いられるA型肝炎ウイルスは、細胞培養による増殖に、好ましくはHAV抗原を発現するために用いられる細胞株に適応している。
【0061】
A型肝炎ウイルスは、当分野において公知の方法によって好ましくは培養細胞の多くの型において複製するように適応しており、例えば、Graff,J.et al.(1994),Cohen,J.I.(1989),(“Attenuation and cell culture adaptation of hepatitis A virus(HAV):a genetic analysis with HAV cDNA”,J.Virol.63(12),pages 5364 to 5370)、またはFlehmig,B.et al.(1981)(“Hepatitis A virus in cell culture.III.Propagation of hepatitis A virus in human embryo kidney cells and human embryo fibroblast strains”,Med.Microbiol.Immunol.170(2),pages 83 to 89)に開示される通りである。
【0062】
培地の選択を包含する増殖条件は、採用されるそれぞれの細胞株の要求に依存し、当業者に公知である。
【0063】
さらに好ましくは、A型肝炎ウイルス(HAV)抗原をコードする核酸を発現する少なくとも1つの哺乳類細胞を、ステップb)において少なくとも1つのプロテアーゼおよび少なくとも1つの界面活性剤と接触させる前に、培養培地は取り除かれる。
【0064】
好適な細胞株は、公知の哺乳類細胞株、例えば、ヒト胎児腎臓細胞、アカゲザル胎児腎臓(FRhK-4)細胞、ヒト肺線維芽細胞細胞株、好ましくはMRC-5、アフリカグリーンモンキーの腎臓からのバッファローグリーンモンキー腎臓(BGMK)細胞、およびそれらの混合物を包含する。
【0065】
例えば、MRC-5細胞は基材への付着を要求する。その結果、本発明の方法のステップb)においては、細胞培養支持体に付着している細胞を少なくとも1つのプロテアーゼおよび少なくとも1つの界面活性剤の組み合わせと接触させることによって、HAV抗原が、HAV抗原を発現するMRC-5細胞から効率的に抽出され得る。
【0066】
本発明に従うと、少なくとも1つのプロテアーゼおよび少なくとも1つの界面活性剤を含む組成物が、好ましくは、少なくとも1つのプロテアーゼおよび少なくとも1つの洗剤の、同時、順次、または組み合わせ適用によって、細胞培養物からHAV抗原を抽出するために用いられる。
【0067】
好ましくは、少なくとも1つのプロテアーゼおよび少なくとも1つの洗剤は、好ましくは液体のリシス組成物の形態で、少なくとも1つの細胞に適用される。
【0068】
好ましくは、HAV抗原をコードする核酸が発現される好ましくはHAV感染した少なくとも1つの哺乳類細胞を、前述の条件下で本発明の方法のステップb)において少なくとも1つのプロテアーゼおよび少なくとも1つの界面活性剤の組み合わせと接触させることによって、著しい量のHAV抗原が含まれるライセートが提供される。
【0069】
好ましくは、少なくとも1つのプロテアーゼとの組み合わせで本発明の方法に用いられる少なくとも1つの界面活性剤は、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、双性イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0070】
さらに好ましくは、少なくとも1つの界面活性剤は、アルコキシル化直鎖アルコール、アルコキシル化アルキルフェノール、アルコキシル化チオール、脂肪酸アルコキシレート、アルコキシル化アミンおよび/または脂肪酸アミド、エチレンオキシドおよびプロピレンオキシドのコポリマー、ポリヒドロキシ化合物の脂肪酸エステル、ポリヒドロキシ化合物のアルキルエーテル、アミンオキシド、スルホキシド、ホスフィンオキシド、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される非イオン性界面活性剤である。
【0071】
さらに好ましくは、少なくとも1つの界面活性剤は、ポリヒドロキシ化合物の脂肪酸エステル、ポリヒドロキシ化合物のアルキルエーテル、およびそれらの混合物、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、アルコキシル化ソルビタン脂肪酸エステル、およびそれらの混合物からなる群から選択され、これらは例えばCroda International PLC(Snaith,UK)による商標Tween(登録商標)によって市販されている。
【0072】
好適な非イオン性界面活性剤は、例えば、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(ポリソルベート20、Tween(登録商標)20)、ポリオキシエチレン(4)ソルビタンモノラウレート(ポリソルベート21、Tween(登録商標)21)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミテート(ポリソルベート40、Tween(登録商標)40)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート(ポリソルベート60、Tween(登録商標)60)、ポリオキシエチレン(4)ソルビタンモノステアレート(ポリソルベート61、Tween(登録商標)61)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタントリステアレート(ポリソルベート65、Tween(登録商標)65)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート(ポリソルベート80、Tween(登録商標)80)、ポリオキシエチレン(5)ソルビタンモノオレエート(ポリソルベート81、Tween(登録商標)81)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタントリオレエート(ポリソルベート85、Tween(登録商標)85)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノイソステアレート(ポリソルベート120)、またはそれらの混合物、好ましくはポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートである。
【0073】
好ましくは、少なくとも1つの界面活性剤は、それぞれリシス組成物の総体積のmL当たりの少なくとも1つの界面活性剤の体積に基づいて、mL当たり少なくとも0.05vol%、好ましくはmL当たり少なくとも0.1vol%、好ましくはmL当たり0.05vol%からmL当たり5.0vol%、さらに好ましくはmL当たり0.1vol%からmL当たり1.5vol%の濃度で用いられる。
【0074】
好ましくは、少なくとも1つの界面活性剤との組み合わせで本発明の方法に用いられる少なくとも1つのプロテアーゼは、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、スレオニンプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、グルタミン酸プロテアーゼ、メタロプロテアーゼ、アスパラギンペプチドリアーゼ、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0075】
さらに好ましくは、少なくとも1つのプロテアーゼは、トリプシン、キモトリプシン、パパイン、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0076】
好ましくは、少なくとも1つのプロテアーゼは、それぞれリシス組成物の総体積当たりの少なくとも1つのプロテアーゼの乾燥重量に基づいて、mL当たり少なくとも0.05vol%、好ましくはmL当たり少なくとも0.1wt%、好ましくはmL当たり少なくとも0.5wt%、さらに好ましくはmL当たり0.05wt%から5.0wt%、さらに好ましくはmL当たり0.1vol%からmL当たり1.5vol%、さらに好ましくはmL当たり0.5vol%からmL当たり1.0vol%の濃度で用いられる。
【0077】
さらに好ましくは、リシス組成物は、少なくとも、それぞれリシス組成物の総体積のmL当たりのTween20の体積に基づいて、mL当たり0.1vol%からmL当たり1.5vol%、さらに好ましくはmL当たり0.5vol%からmL当たり1.0vol%の濃度のTween20と、少なくとも、それぞれリシス組成物の総体積当たりのトリプシンの乾燥重量に基づいて、mL当たり0.1vol%からmL当たり1.5vol%、さらに好ましくはmL当たり0.5vol%からmL当たり1.0vol%の濃度のトリプシンとを含む。
【0078】
好ましくは、プロテアーゼの活性は、少なくとも1つのキレート剤、例えばエチレンジアミン四酢酸(EDTA)の添加によって制御され得る。
【0079】
さらに好ましくは、本発明の方法のステップb)において、HAV抗原を発現する少なくとも1つの脊椎動物細胞をリシスすることが、少なくとも1つのキレート剤の存在下において、少なくとも1つのプロテアーゼおよび少なくとも1つの界面活性剤と細胞を接触させることによって達成される。
【0080】
好ましくは、細胞のリシスは、少なくとも1つのプロテアーゼおよび少なくとも1つの洗剤の組み合わせ作用によってのみ、好ましくは、例えば超音波リシスまたはフレンチプレス細胞リシスなどの機械的リシスのいかなるさらなる作用もなしに、成就される。
【0081】
好ましくは、HAV抗原を含む本発明の方法のステップb)において得られるライセートは、本発明の方法のステップc)において収集され、保存され得るかまたは直接的に爾後の適用に用いられ得る。
【0082】
従来からの、および周知の特性の追加のプロセシングステップが、精製されたHAV抗原を調製するために適用され得る。
【0083】
さらに好ましくは、ステップc)において得られるライセートに含まれるHAV抗原は、ステップd)において、好ましくは、濾過、クロマトグラフィー、透析、電気泳動、遠心分離、またはそれらの組み合わせの手段によって濃縮され得る。
【0084】
さらなる精製ステップは、ライセートからのリポ蛋白質の抽出のためのクロロホルムなどの少なくとも1つの極性液体の使用である。
【0085】
ライセートおよびクロロホルムなどの少なくとも1つの極性液体、好ましくは、4部のライセート、1部のクロロホルムなどの極性液体、が一緒に混合され、強く振盪され、その後に、ライセートおよびクロロホルムなどの極性液体は、例えば遠心分離によって分離され、ライセートはさらなる目的に用いられる。
【0086】
例えば、ホルマリンによる処理、滅菌濾過、および担体またはアジュバントへの吸着は、ホルマリン不活化ワクチンを調製するための典型的な基本ステップであり、例えば、Provost,P.J.et al.(1979)(“Propagation of human hepatitis A virus in cell culture in vitro”;Proc.Soc.Exp.Biol.Med.160(2),pages 213 to 221)およびProvost,P.J.et al.(1986)(“An inactivated hepatitis A viral vaccine of cell culture origin”;J.Med.Virol.19(1),pages 23 to 31)に記載されている通りである。
【0087】
HAV抗原は、例えば、熱、pH変化、有機溶媒による処理、紫外線照射、ならびに/または、ホルムアルデヒドなどのアルデヒドおよび/もしくはホルムアルデヒドを放出する薬剤などのアルデヒドを放出する薬剤への暴露によって不活化され得る。
【0088】
さらに好ましくは、本発明の方法によって得られるHAV抗原は、HAV抗原を、少なくとも1つのアルデヒドおよび/またはアルデヒドを放出する薬剤、好ましくはホルムアルデヒドおよび/またはホルムアルデヒドを放出する薬剤と、十分な時間の期間、好ましくは少なくとも7日、好ましくは少なくとも9日、さらに好ましくは少なくとも11日に渡って、少なくとも20℃の温度で、好ましくは37℃の温度で、さらに好ましくは少なくとも21日に渡って接触させることによって、不活化される。
【0089】
本発明の方法は、弱毒化されているか否かにかかわらず、いずれかの公知のA型肝炎ウイルス(HAV)株にも適用され得る。弱毒化株は、細胞、動物における連続継代によって、または他の方法によって単離され得る。弱毒化の詳細については、例えば、Provost,P:J.et al.(1982)(“Progress toward a live,attenuated human hepatitis A vaccine”;Proc.Soc.Exp.Biol.Med.170(1),pages 8 to 14)およびProvost,P.J.et al.(1986)(“New findings in live,attenuated hepatitis A vaccine development”;.J.Med.Virol.20(2),pages 165 to 175)を見よ。
【0090】
本発明の方法は、A型肝炎ウイルスの弱毒化または非弱毒化株に直ちにかつ容易に適応可能である。
【0091】
本発明の方法によって得られるHAV抗原は、A型肝炎ウイルス抗体または不活化A型肝炎ワクチンを作出するために用いられ得る。
【実施例
【0092】
次の例は例示的な目的でのみ与えられている。本発明は次の例に限定されると解釈されるべきではない。
【0093】
例1:HAV発現細胞の作出
MRC-5ヒト2倍体線維芽細胞(ロット1)またはアカゲザル胎児腎臓(Frhk-4)細胞(ロット2)が、それぞれ、Flehmig,B.(1980)(“Hepatitis A-virus in cell culture:I.propagation of different hepatitis A-virus isolates in a foetal rhesus monkey kidney cell line(Frhk-4)”;Med.Microbiol.Immunol.168(4),pages 239 to 248)に記載されている方法によってA型肝炎ウイルス(GBM株)に感染させられた。
【0094】
感染後に、細胞が2回継代され、2つの別々のベッセルAおよびBへと分割され、それぞれは、3週間のインキュベーション後に同一の細胞数を有した。
【0095】
各ベッセル(1Aおよび1B)から、HAV抗原が、従来からの抽出方法または本発明の方法のどちらかの適用によって抽出された。
【0096】
例2:本発明の方法によるHAV抗原の抽出
次の組成を有する予温された(37℃)溶液の適用に先立って、細胞培養培地がアスピレーションによって取り除かれた:
0.5wt%トリプシン(Sigma Aldrich Chemie GmbH,Munich,De)
0.1vol%Tween-20
ハンクス平衡塩溶液中、最終pH:7.4から7.6
細胞層をカバーするために十分な量(10cm当たりおよそ0.5mL)による。
【0097】
細胞が37℃で一晩インキュベーションされた。
【0098】
次の日に、ライセートが収集され、HAV抗原の量が例4に記載されている方法によって決定された。
【0099】
比較例3:従来からの抽出方法によるHAV抗原の抽出
次の組成を有する予温された(37℃)溶液の適用に先立って、細胞培養培地がアスピレーションによって取り除かれた:
0.5wt%トリプシン(Sigma Aldrich Chemie Gmbh,Munich,DE)
ハンクス平衡塩溶液中、最終pH:7.4から7.6
細胞層をカバーするために十分な量(10cm当たりおよそ0.5mL)による。
【0100】
細胞が37℃で5分に渡ってインキュベーションされた。十分量のウシ胎児血清、好ましくは1%以上を添加することによって、トリプシンが不活性化された。
【0101】
トリプシン処理された細胞は遠心分離によって収穫され、上清は捨てられた。もたらされた細胞ペレットは-20℃から-70℃の温度で一晩凍結された。
【0102】
次の日に、凍結細胞ペレットは室温において融解され、およそ5分に渡って、Ultra-Turrax分散機(IKA-Werke GmbH&CO.KG,Staufen,DE)を用いる機械的破砕に付された。
【0103】
機械的破砕後に、懸濁液は再度遠心分離され、上清が取り除かれ、収集された。
【0104】
上清中のHAV抗原の量が例4に記載されている方法によって決定された。
【0105】
例4:HAV抗原の決定
HAV抗原の決定が、Mediagnost Gesellschaft fuer Forschung und Herstellung von Diagnostika GmbHから市販のHAV抗原酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)キット、製品番号E12を用いて、製造者の説明書に従って行われた。
【0106】
手短には、例2および比較例3で得られた各細胞ライセートの50μlアリコートが、ELISAキットに包含されるマイクロタイタープレートのウェルにピペッティングされた。
【0107】
ウェルが、HAV抗原を指向する抗体によってプレコーティングされた。それぞれの細胞ライセート中に存在するHAV抗原は固定された抗体に結合し、37℃における2時間のインキュベーション期間後に、マイクロタイタープレートは、キットによって供給される洗浄緩衝液によって丁寧に洗浄された。
【0108】
結合したHAV抗原は、爾後に、これもまたキットによって供給されるペルオキシダーゼコンジュゲート化マウスモノクローナル抗HAV-IgG抗体の添加と、37℃における別の2時間に渡ってのインキュベーションとによって同定された。
【0109】
過剰なペルオキシダーゼコンジュゲート化抗体が洗浄緩衝液による洗浄によって取り除かれた。爾後に、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)を含有する基質溶液がELISA発色のために添加された。
【0110】
室温における30分のインキュベーション後に、反応はストップ溶液を添加することによって終結された。ウェルの青色は黄色に変化し、吸光度がマイクロプレートリーダー上で450nmの波長において測定された。
【0111】
色の強度は、結合したHAV抗原の濃度を指し示した。
【0112】
力価は、ポジティブコントロールの10%という上で指し示されている波長における消衰を有するHAV抗原調製物の希釈として定義される。図1Aのポジティブコントロールは1.76であり、この値の10%は0.176%である。図1Bのポジティブコントロールは1.6であり、この値の10%は0.160である。力価決定が、例3に記載されている通り調製されたHAV抽出物および例2に記載されている通り調製されたHAV抽出物からの2つの異なるロットによって行われた。
【0113】
図1Bから見られ得る通り、例2に記載されている通り調製された抽出物の力価は、図1Aに見られる例3に記載されている通り調製された抽出物と比較して実質的に高く、二倍近い。
【0114】
より高いHAV-Ag含量を有する2つの他のサンプルによって、力価値が表1に見られ得る通り達成される。また、これらのサンプルの中で、例2による抽出は例3と比較してかなり高い力価に達した。
【0115】
各ベッセルのこれらの異なるロットの決定されたHAV抗原力価が下の表1にまとめられている。
【0116】
【表1】
【図面の簡単な説明】
【0117】
図1図1A:例3に記載されている通り調製されたHAV抽出物の力価
図2図1B:例2に記載されている通り調製されたHAV抽出物の力価
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2022-01-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
A型肝炎ウイルス(HAV)抗原を細胞培養物から抽出するための方法であって、
方法が:
a)A型肝炎ウイルス(HAV)抗原をコードする核酸を発現する少なくとも1つの哺乳類細胞を提供するステップと、
b)少なくとも1つのプロテアーゼおよび少なくとも1つの界面活性剤と細胞を接触させることによって、A型肝炎ウイルス(HAV)抗原をコードする核酸を発現する少なくとも1つの哺乳類細胞をリシスすることで、少なくとも1つのプロテアーゼおよび少なくとも1つの界面活性剤が、リシスの間に十分な時間の期間に渡って一緒に作用するステップと、
c)A型肝炎ウイルス(HAV)抗原を含むライセートを収集するステップと、
を含み、A型肝炎ウイルス(HAV)抗原が、A型肝炎ウイルスの成熟VP1カプシド蛋白質、A型肝炎ウイルスの成熟VP2カプシド蛋白質、A型肝炎ウイルスの成熟VP3カプシド蛋白質、および/またはそれらの混合物の少なくとも1つを含む、方法。
【請求項2】
少なくとも1つの界面活性剤が、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、双性イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つの界面活性剤が、アルコキシル化直鎖アルコール、アルコキシル化アルキルフェノール、アルコキシル化チオール、脂肪酸アルコキシレート、アルコキシル化アミンおよび/または脂肪酸アミド、エチレンオキシドおよびプロピレンオキシドのコポリマー、ポリヒドロキシ化合物の脂肪酸エステル、ポリヒドロキシ化合物のアルキルエーテル、アミンオキシド、スルホキシド、ホスフィンオキシド、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される非イオン性界面活性剤である、請求項1または2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1つの界面活性剤が、ソルビタン脂肪酸エステル、アルコキシル化ソルビタン脂肪酸エステル、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つのプロテアーゼが、トリプシン、キモトリプシン、パパイン、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ステップa)において、A型肝炎ウイルス(HAV)抗原をコードする核酸を発現する少なくとも1つの脊椎動物細胞が、接着細胞培養物としてまたは懸濁細胞培養物として提供される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
ステップb)において、A型肝炎ウイルス(HAV)抗原をコードする核酸を発現する少なくとも1つの哺乳類細胞をリシスすることが、少なくとも1つのキレート剤の存在下において、少なくとも1つのプロテアーゼおよび少なくとも1つの界面活性剤と細胞を接触させることによって達成される、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
方法が、さらに:
d)ステップc)において得られるライセートに含まれるA型肝炎ウイルス(HAV)抗原を、好ましくは、濾過、クロマトグラフィー、透析、電気泳動、遠心分離、またはそれらの組み合わせの手段によって濃縮するステップ、
を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
方法が、さらに:
e)少なくとも1つのアルデヒドおよび/またはアルデヒドを放出する薬剤、好ましくはホルムアルデヒドおよび/またはホルムアルデヒドを放出する薬剤と、A型肝炎ウイルス(HAV)抗原を接触させることによって、A型肝炎ウイルス(HAV)抗原を不活化するステップ、
を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
A型肝炎ウイルス(HAV)抗原がA型肝炎ウイルスの成熟VP1カプシド蛋白質および/またはA型肝炎ウイルスの成熟VP3カプシド蛋白質の少なくとも1つを含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
A型肝炎ウイルス(HAV)抗原を細胞培養物から抽出するための組成物の使用であって、組成物が少なくとも1つのプロテアーゼおよび少なくとも1つの界面活性剤を含み、A型肝炎ウイルス(HAV)抗原が、A型肝炎ウイルスの成熟VP1カプシド蛋白質、A型肝炎ウイルスの成熟VP2カプシド蛋白質、A型肝炎ウイルスの成熟VP3カプシド蛋白質、および/またはそれらの混合物の少なくとも1つを含む、使用。
【請求項12】
少なくとも1つの界面活性剤が、アルコキシル化直鎖アルコール、アルコキシル化アルキルフェノール、アルコキシル化チオール、脂肪酸アルコキシレート、アルコキシル化アミンおよび/または脂肪酸アミド、エチレンオキシドおよびプロピレンオキシドのコポリマー、ポリヒドロキシ化合物の脂肪酸エステル、ポリヒドロキシ化合物のアルキルエーテル、アミンオキシド、スルホキシド、ホスフィンオキシド、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される非イオン性界面活性剤である、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
少なくとも1つの界面活性剤が、ソルビタン脂肪酸エステル、アルコキシル化ソルビタン脂肪酸エステル、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項11または12のいずれか1項に記載の使用。
【請求項14】
少なくとも1つのプロテアーゼが、トリプシン、キモトリプシン、パパイン、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項11~13のいずれか1項に記載の使用。
【国際調査報告】