(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-07
(54)【発明の名称】イオンビームイメージングのための組成物および試薬
(51)【国際特許分類】
G01N 33/532 20060101AFI20220228BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220228BHJP
C12Q 1/00 20060101ALN20220228BHJP
【FI】
G01N33/532 Z
G01N33/53 Y
C12Q1/00 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021539075
(86)(22)【出願日】2020-01-03
(85)【翻訳文提出日】2021-08-19
(86)【国際出願番号】 US2020012149
(87)【国際公開番号】W WO2020142664
(87)【国際公開日】2020-07-09
(32)【優先日】2019-01-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】520328475
【氏名又は名称】アイオンパス, インク.
【氏名又は名称原語表記】IONpath, Inc.
【住所又は居所原語表記】960 O’Brien Drive, Menlo Park, California 94025 (US)
(74)【代理人】
【識別番号】100136630
【氏名又は名称】水野 祐啓
(74)【代理人】
【識別番号】100201514
【氏名又は名称】玉井 悦
(72)【発明者】
【氏名】ベンダル, ショーン
(72)【発明者】
【氏名】プタチェク,ジェイソン
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA05
4B063QA20
4B063QQ21
4B063QQ41
4B063QQ61
4B063QR54
4B063QR56
4B063QR66
4B063QS28
4B063QS33
4B063QS39
4B063QX02
(57)【要約】
【要約】
組成物は、複数の遊離標識基を特徴とする標識剤を含み、各標識基は、生物学的分子に共有結合する少なくとも1つの共役基と、少なくとも1つの金属キレート化基と、この少なくとも1つの金属キレート化基によってキレート化された金属イオンとを含み、この組成物中の水の重量パーセントは、10%以下である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物であって:
複数の遊離標識基を含む標識剤を含み、各標識基が:
生物学的分子に共有結合する少なくとも1つの共役基と:
少なくとも1つの金属キレート化基と;
前記少なくとも1つの金属キレート化基によってキレート化された金属イオンとを含み、
前記組成物中の水の重量パーセントは10%以下である、組成物。
【請求項2】
各遊離標識基は、複数の共役モノマー単位から形成されるオリゴマー単位である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
各オリゴマー単位は、少なくともn個の共役モノマー単位を含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
nが3以上である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
nが5以上である、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
各オリゴマー単位は、同数の共役モノマー単位を含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項7】
前記遊離オリゴマー単位の少なくとも1つが、第1の数の共役モノマー単位を含み、前記遊離オリゴマー単位の少なくとも1つが、前記第1の数の共役モノマー単位とは異なる第2の数の共役モノマー単位を含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項8】
前記遊離オリゴマー単位の少なくとも1つが、1つ以上の第1モノマー単位と、当該第1モノマー単位とは異なる1つ以上の第2モノマー単位を含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項9】
前記遊離オリゴマー単位の前記少なくとも1つにおける前記第1モノマー単位と前記第2モノマー単位の比が、50:1と1:50との間である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記第1及び第2モノマー単位が、前記遊離オリゴマー単位の前記少なくとも1つにおいて交互に共役している、請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
前記第1モノマー単位の少なくとも2つが、前記遊離オリゴマー単位の前記少なくとも1つにおいて互いに共役している、請求項8に記載の組成物。
【請求項12】
前記遊離オリゴマー単位の少なくとも1つが、1つ以上の第1モノマー単位と、前記第1及び第2モノマー単位とは異なる1つ以上の第3モノマー単位を含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項13】
前記モノマー単位が1つ以上のアミノ酸を含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項14】
前記1つ上のアミノ酸は、リジン、セリン、アルギニン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、スレオニン、チロシン、システイン、アラニン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、バリン、プロリン、及びグリシンからなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記オリゴマー単位の1つ以上はペプチドを含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項16】
前記モノマー単位は1つ以上の有機モノマーを含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項17】
前記1つ以上の有機モノマーは、メタクリレート及びその誘導体、ビニール及びその誘導体、エチレン及びその誘導体、プロピレン及びその誘導体、スルホン及びその誘導体、並びにウレタン及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
少なくとも1つのオリゴマー単位は、共役して線形構造部分を形成する複数のモノマー単位を含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項19】
少なくとも1つのオリゴマー単位は、共役してデンドリマーを形成する複数のモノマー単位を含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項20】
各遊離標識基はナノ粒子である、請求項1に記載の組成物。
【請求項21】
前記少なくとも1つの共役基は、スクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート)基、N-ヒドロキシスクシンイミド基、マレイミド基、及びイソチオシアネート基からなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項22】
前記少なくとも1つの共役基は、生物学的分子のアミン基と反応する部分を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項23】
前記少なくとも1つの共役基は、生物学的分子のスルフヒドリル基と反応する部分を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項24】
前記少なくとも1つの共役基は、生物学的分子のカルボン酸基と反応する部分を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項25】
前記少なくとも1つの共役基は、アセチレンと反応する部分を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項26】
前記少なくとも1つの共役基は、アジド基又はイオンと反応する部分を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項27】
前記遊離標識基の少なくとも1つは、複数の共役基を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項28】
前記遊離標識基の前記少なくとも1つは、2つ以上の共役基を含む、請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
前記遊離標識基の前記少なくとも1つは、3つ以上の共役基を含む、請求項27に記載の組成物。
【請求項30】
前記複数の共役基の少なくとも1つは、前記複数の共役基の別の1つとは異なる、請求項27に記載の組成物。
【請求項31】
少なくとも1つの遊離標識基は、複数の金属キレート化部分を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項32】
前記少なくとも1つの遊離標識基は、3つ以上の金属キレート化部分を含む、請求項31に記載の組成物。
【請求項33】
前記少なくとも1つの遊離標識基は、5つ以上の金属キレート化部分を含む、請求項31に記載の組成物。
【請求項34】
前記少なくとも1つの遊離標識基は、少なくとも1つの第1金属キレート化部分と、当該第1金属キレート化部分とは異なる少なくとも1つの第2金属キレート化部分とを含む、請求項31に記載の組成物。
【請求項35】
前記少なくとも1つの金属キレート化部分は、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸基及びその共役物、ジエチレントリアミン五酢酸基及びその共役物、エチレンジアミン四酢酸基及びその共役物、並びに1,4,7-トリカルボキシメチル-1,4,7-トリアザシクロノナン基及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項36】
前記少なくとも1つの金属キレート化基は、2つのキレート化部分を備えた少なくとも1つの基を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項37】
前記少なくとも1つの金属キレート化基は、3つのキレート化部分を備えた少なくとも1つの基を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項38】
前記少なくとも1つの金属キレート化基は、4つのキレート化部分を備えた少なくとも1つの基を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項39】
少なくとも1つの遊離標識基は、n個のキレート化部分を含む第1金属キレート化基と、当該第1金属キレート化基とは異なると共にm個のキレート化部分を含む第2金属キレート化基とを含み、nとmは異なる、請求項1に記載の組成物。
【請求項40】
少なくとも1つの遊離標識基は、第1金属イオンと、当該第1金属イオンとは異なる第2金属イオンとを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項41】
前記第1及び第2金属イオンが異なる原子番号を持つ、請求項40に記載の組成物。
【請求項42】
前記第1及び第2金属イオンは異なる同位体であり、共通の原子番号を持つ、請求項40に記載の組成物。
【請求項43】
前記第1金属イオンと前記第2金属イオンの濃度比は、95:5以上である、請求項42に記載の組成物。
【請求項44】
少なくとも1つの遊離標識基は2つ以上の金属イオンを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項45】
前記少なくとも1つの遊離標識基は3つ以上の金属イオンを含む、請求項44に記載の組成物。
【請求項46】
前記少なくとも1つの遊離標識基は5つ以上の金属イオンを含む、請求項44に記載の組成物。
【請求項47】
前記組成物が塩を形成するように複数のアニオンをさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項48】
前記複数のアニオンは、塩化物イオン、フッ化物イオン、ヨウ化物イオン、臭化物イオン、硝酸イオン、酢酸イオン、及び酸化物イオンからなる群の少なくとも1つとを含む、請求項47に記載の組成物。
【請求項49】
複数の遊離標識基を含む標識剤を準備する段階であって、各標識基は、生物学的分子と共有結合するための少なくとも1つの共役基と、少なくとも1つの金属キレート化基と、前記少なくとも1つの金属キレート化基によってキレート化された金属イオンとを含み、前記標識剤中の水の重量パーセントは10%以下である、準備する段階と;
共役標識試薬を形成するために前記標識剤を生物学的分子に共役させる段階と;
前記共役標識試薬を安定化させる段階とを含む、方法。
【請求項50】
前記安定化された共役標識試薬は、室温で少なくとも2週間の貯蔵寿命を持つ、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記共役標識試薬を安定化させる段階は、前記共役標識試薬中の水の重量パーセントを10%以下に調節する段階を含む、請求項49に記載の方法。
【請求項52】
前記共役標識試薬の脱水及び遠心分離の少なくとも一方を行うことによって、前記共役標識試薬から水を抽出する段階をさらに含む、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記共役標識試薬を有機溶剤と混合することによって、前記共役標識試薬から水を抽出する段階をさらに含む、請求項50に記載の方法。
【請求項54】
前記共役標識試薬を安定化させる段階は、前記共役標識試薬の温度を摂氏-20度まで低下させる段階と、この低下した温度を維持する段階とを含む、請求項49に記載の方法。
【請求項55】
前記共役標識試薬を安定化させる段階は、前記共役標識試薬のpHを6.5以下の値に調節する段階及びその値で維持する段階の少なくとも一方を含む、請求項49に記載の方法。
【請求項56】
前記pHは、pH値6以下に調節されたもの及びその値で維持されたもの少なくとも一方である、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記共役標識試薬を安定化させる段階は、前記共役標識試薬を保存剤と混合する段階をさらに含む、請求項49に記載の方法。
【請求項58】
前記保存剤は、炭水化物とポリマーとからなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記保存剤は、トレハロースと、マルトースと、スクロースと、ポリエチレングリコールと、ゼラチンとからなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項57に記載の方法。
【請求項60】
前記共役標識試薬を安定化させる段階は、保護基を前記少なくとも1つの共役基に共有結合させるために、前記少なくとも1つの共役基を保護剤で処理する段階を含む、請求項49に記載の方法。
【請求項61】
前記保護基は、2,5-ジメチルフランなどのジメチルフラン及びその誘導体及び異性体と、2-メチルフランなどのメチルフラン及びその誘導体及び異性体と、メトキシメチルエーテル及びエトキシメチルエーテルなどのアルコキシメチルエーテルを形成する化学基とからなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
試薬キットであって:
複数の遊離標識基を含む標識剤であって、各標識基が:
生物学的分子に共有結合する少なくとも1つの共役基と;
少なくとも1つの金属キレート化基と;
前記少なくとも1つの金属キレート化基によってキレート化された金属イオンとを含む、標識剤と;
前記標識剤の共役物を調製するための取扱指示と、1種類以上の緩衝液と、1つ以上の精製装置と、前記標識剤の共役物を保存するための安定化溶液とからなる群の少なくとも1つとを含む、試薬キット。
【請求項63】
前記1つ以上の精製装置は、MWCOカラム及びゲル透過クロマトグラフィーカラムの少なくとも一方を含む、請求項62に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、引用してその全体を本明細書に援用する2019年1月3日付けの米国特許仮出願第62/788,118号の優先権を主張する。
【0002】
本開示は、イオンビームを用いた生物学的試料の走査及び走査のための試料調製に関する。
【背景技術】
【0003】
免疫組織化学法は、腫瘍組織生検などの生物学的試料のタンパク質発現を可視化するために使用されてきた。典型的には、こうした方法は、試料を、着色力を発生する蛍光部分又は酵素レポーターに結合された抗体に暴露する段階を含む。タグ付き試料のスペクトル画像の分析は、タンパク質発現レベル及び共発現事象を評価するために使用できる。そうした方法を用いれば、ホルマリン固定パラフィン包埋された組織切片を含む様々な試料の分析が可能である。
【発明の概要】
【0004】
生物学的試料のイオンビーム走査やイメージングは、試料のタンパク質の発現と、核酸と、構造成分との機能的な関係を知るための強力な手法である。個々の細胞や細胞内コンパートメント内での同時制御及び共発現に関する情報は、疾患の機序の解明及び医薬品や他の治療法の評価に利用できる。
【0005】
ある種のイオンビームイメージング法では、イオン源からの一次イオンのビームを試料に照射する段階を含む。一次イオンは、試料から二次イオンを生成し、これを検出する。一般的に、特定の種類の二次イオンは、試料内の特定の分析物と相関しており、各種類の分析物を選択的且つ定量的に測定することができる。いくつかの方法では、生成される二次イオンは、特定の質量電荷比を持つ質量タグである。
【0006】
一次イオンビームを照射する前に、適切な質量タグを用いて試料を調製することができる。一般的に、適切な調製方法には、特定の質量タグをサンプル内の特定の分析物(例えば、生体分子及び/又は構造部分)に結合させる段階が含まれる。質量タグに対応する二次イオンが生成されると、個別の種類の二次イオン(特定の質量電荷比を持つ)は、対応する質量タグが結合された特定の分析物に起因すると考えられる。
【0007】
本開示は、イオンビームイメージングに先立つ試料調製のための試薬と、当該試薬を用いて試料を調製するための方法を特徴とする。一般に、前記試薬は、質量タグのための1つ以上の結合側を含む標識剤と、前記1つ以上の結合部位の少なくとも一部に結合した質量タグとを含む。様々な質量タグが使用できる。いくつかの実施形態では、前記質量タグは、金属原子又はイオン、特にランタノイド金属原子又はイオンを含むことができる。金属原子又はイオンに対応した質量タグを用いることで、前記試料から生成される二次イオンは特定の質量電荷比を持つ金属イオンとなる。そうした二次イオンは容易に検出且つ識別される。
【0008】
第1の側面では、本開示は、複数の遊離標識基を特徴とする標識剤を含む組成物を特徴とし、各標識基は、生物学的分子に共有結合する少なくとも1つの共役基と、少なくとも1つの金属キレート化基と、前記少なくとも1つの金属キレート化基によってキレート化された金属イオンとを含み、前記組成物中の水の重量パーセントは、10%以下である。
【0009】
前記組成物の実施形態は、次の特徴の内1つ又は複数を含むことができる。
【0010】
各遊離標識基は、複数の共役モノマー単位から形成されるオリゴマー単位でよい。各オリゴマー単位は、少なくともn個の共役モノマー単位を含むことができ、nは3以上又は5以上である。各オリゴマー単位は、同数の共役モノマー単位を含むことができる。
【0011】
前記オリゴマー部分の少なくとも1つが、第1の数の共役モノマー単位を含むことができ、前記遊離オリゴマー単位の少なくとも1つが、前記第1の数の共役モノマー単位とは異なる第2の数の共役モノマー単位を含むことができる。前記遊離オリゴマー単位の少なくとも1つが、1つ以上の第1モノマー単位と、当該第1モノマー単位とは異なる1つ以上の第2モノマー単位を含むことができる。前記遊離オリゴマー単位の前記少なくとも1つにおける前記第1モノマー単位と前記第2モノマー単位の比を、50:1と1:50との間とすることができる。
【0012】
前記第1及び第2モノマー単位は、前記遊離オリゴマー単位の前記少なくとも1つにおいて交互に共役可能である。前記第1モノマー単位の少なくとも2つが、前記遊離オリゴマー単位の前記少なくとも1つにおいて互いに共役可能である。前記遊離オリゴマー単位の少なくとも1つが、1つ以上の第1モノマー単位と、当該第1及び第2モノマー単位とは異なる1つ以上の第3モノマー単位を含むことができる。
【0013】
前記モノマー単位は、1つ以上のアミノ酸を含むことができる。前記1つ上のアミノ酸は、リジン、セリン、アルギニン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、スレオニン、チロシン、システイン、アラニン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、バリン、プロリン、及びグリシンからなる群から選択される少なくとも1つを含むことができる。
【0014】
前記オリゴマー単位の1つ以上はペプチドを含むことができる。前記モノマー単位は、1つ以上の有機モノマーを含むことができる。前記1つ以上の有機モノマーは、メタクリレート及びその誘導体、ビニール及びその誘導体、エチレン及びその誘導体、プロピレン及びその誘導体、スルホン及びその誘導体、並びにウレタン及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを含むことができる。
【0015】
少なくとも1つのオリゴマー単位は、共役して線形構造部分を形成する複数のモノマー単位を含むことができる。少なくとも1つのオリゴマー単位は、共役してデンドリマーを形成する複数のモノマー単位を含むことができる。各遊離標識基はナノ粒子でよい。
【0016】
前記少なくとも1つの共役基は、スクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート)基、N-ヒドロキシスクシンイミド基、マレイミド基、及びイソチオシアネート基からなる群から選択される少なくとも1つを含むことができる。
【0017】
前記少なくとも1つの共役基は、生物学的分子のアミン基と反応する部分を含むことができる。前記少なくとも1つの共役基は、生物学的分子のスルフヒドリル基と反応する部分を含むことができる。前記少なくとも1つの共役基は、生物学的分子のカルボン酸基と反応する部分を含むことができる。前記少なくとも1つの共役基は、アセチレンと反応する部分を含むことができる。前記少なくとも1つの共役基は、アジド基又はイオンと反応する部分を含むことができる。
【0018】
前記遊離標識基の少なくとも1つは、複数の共役基(例えば、2つ以上の共役基、3つ以上の共役基)を含むことができる。前記複数の共役基の少なくとも1つは、前記複数の共役基の別の1つとは異なることができる。
【0019】
少なくとも1つの遊離標識基は、複数のキレート化基(例えば、3つ以上の共役基、5つ以上のキレート化基)を含むことができる。前記少なくとも1つの遊離標識基は、少なくとも1つの第1金属キレート化部分と、当該第1金属キレート化部分とは異なる少なくとも1つの第2金属キレート化部分とを含むことができる。
【0020】
前記少なくとも1つの金属キレート化部分は、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸基及びその共役物、ジエチレントリアミン五酢酸基及びその共役物、エチレンジアミン四酢酸基及びその共役物、並びに1,4,7-トリカルボキシメチル-1,4,7-トリアザシクロノナン基及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを含むことができる。
【0021】
前記少なくとも1つの金属キレート化基は、2つのキレート化部分を備えた少なくとも1つの基を含むことができる。前記少なくとも1つの金属キレート化基は、3つのキレート化部分を備えた少なくとも1つの基を含むことができる。前記少なくとも1つの金属キレート化基は、4つのキレート化部分を備えた少なくとも1つの基を含むことができる。少なくとも1つの遊離標識基は、n個のキレート化部分を特徴とする第1金属キレート化基と、当該第1金属キレート化基とは異なると共にm個のキレート化部分を特徴とする第2金属キレート化基とを含むことができ、nとmは異なる。
【0022】
少なくとも1つの遊離標識基は、第1金属イオンと、当該第1金属イオンとは異なる第2金属イオンとを含むことができる。前記第1及び第2金属イオンは異なる原子番号を持つことができる。前記第1及び第2金属イオンは異なる同位体でよく、共通の原子番号を持つことができる。前記第1金属イオンと前記第2金属イオンの濃度比は、95:5以上とすることができる。少なくとも1つの遊離標識基は、2つ以上の金属イオン(例えば、3つ以上の金属イオン、5つ以上の金属イオン)を含むことができる。
【0023】
前記組成物は、当該組成物が塩を形成するように複数のアニオンをさらに含むことができる。前記複数のアニオンは、塩化物イオン、フッ化物イオン、ヨウ化物イオン、臭化物イオン、硝酸イオン、酢酸イオン、及び酸化物イオンからなる群の少なくとも1つとを含むことができる。
【0024】
前記組成物の実施形態は、特に明示的に述べられていない限り、異なる実施形態との関連で開示された特徴の組合せを含んだ、本明細書で開示された任意の他の特徴を含むことができる。
【0025】
別の側面では、本開示は、複数の遊離標識基を特徴とする標識剤を準備する段階であって、各標識基は、生物学的分子に共有結合する少なくとも1つの共役基と、少なくとも1つの金属キレート化基と、前記少なくとも1つの金属キレート化基によってキレート化された金属イオンとを含み、前記標識剤中の水の重量パーセントは10%以下である、準備する段階と、共役標識試薬を形成するために前記標識剤を生物学的分子に共役させる段階と、前記共役標識試薬を安定化させる段階とを含む、方法を開示する。
【0026】
前記方法の実施形態は、次の特徴の内1つ又は複数を含むことができる。
【0027】
前記安定化された共役標識試薬は、室温で少なくとも2週間の貯蔵寿命を持つことができる。
【0028】
前記共役標識試薬を安定化させる段階は、前記共役標識試薬中の水の重量パーセントを10%以下に調節する段階を含むことができる。前記方法は、前記共役標識試薬の脱水及び遠心分離の少なくとも一方を行うことによって、前記共役標識試薬から水を抽出する段階をさらに含むことができる。前記方法は、前記共役標識試薬を有機溶剤と混合することによって、前記共役標識試薬から水を抽出する段階をさらに含むことができる。
【0029】
前記共役標識試薬を安定化させる段階は、前記共役標識試薬の温度を摂氏-20度まで低下させる段階と、この低下した温度を維持する段階とを含むことができる。前記共役標識試薬を安定化させる段階は、前記共役標識試薬のpHを6.5以下の値(例えば、6以下の値)に調節する段階及びその値で維持する段階の少なくとも一方を含むことができる。
【0030】
前記共役標識試薬を安定化させる段階は、前記共役標識試薬を保存剤と混合する段階をさらに含むことができる。前記保存剤は、炭水化物とポリマーとからなる群から選択された少なくとも1つを含むことができる。前記保存剤は、トレハロース、マルトース、スクロース、ポリエチレングリコール、及びゼラチンからなる群から選択される少なくとも1つを含むことができる。
【0031】
前記共役標識試薬を安定化させる段階は、保護基を前記少なくとも1つの共役基に共有結合させるために、前記少なくとも1つの共役基を保護剤で処理する段階を含むことができる。前記保護基は、2,5-ジメチルフランなどのジメチルフラン及びその誘導体及び異性体と、2-メチルフランなどのメチルフラン及びその誘導体及び異性体と、メトキシメチルエーテル及びエトキシメチルエーテルなどのアルコキシメチルエーテルを形成する化学基とからなる群から選択される少なくとも1つを含むことができる。
【0032】
前記方法の実施形態は、特に明示的に述べられていない限り、異なる実施形態との関連で開示された特徴の組合せ及び前記組成物との関連で開示された特徴の組合せを含んだ、本明細書で開示された任意の他の特徴を含むことができる。
【0033】
さらなる側面では、本開示は、複数の遊離標識基を特徴とする標識剤を含む試薬キットを特徴とし、各標識基は、生物学的分子に共有結合する少なくとも1つの共役基と、少なくとも1つの金属キレート化基と、前記少なくとも1つの金属キレート化基によってキレート化された金属イオンとを含み、前記標識剤の共役物を調製するための取扱指示と、1種類以上の緩衝液と、1つ以上の精製装置と、前記標識剤の共役物を保存するための安定化溶液とからなる群の少なくとも1つとをさらに含む。
【0034】
前記試薬キットの実施形態は、次の特徴の内1つ又は複数を含むことができる。
【0035】
前記1つ以上の精製装置は、MWCOカラム及びゲル透過クロマトグラフィーカラムの少なくとも一方を含むことができる。
【0036】
前記試薬キットの実施形態は、特に明示的に述べられていない限り、異なる実施形態との関連で開示された特徴の組合せ及び前記組成物との関連で開示された特徴の組合せを含んだ、本明細書で開示された任意の他の特徴を含むことができる。
【0037】
他に特に定義しない限り、本明細書で用いる科学技術用語は、本開示が属する分野の通常の技能を備えた当業者が一般に理解する意味と同一である。本明細書に記載したものと類似又は同等の方法及び材料を、本明細書の主題の実施又は試験に用いることができるが、適切な方法及び材料は後述する。本明細書で言及された全ての刊行物、特許出願、特許、及び他の引用文献は、その全体を引用して援用する。矛盾が生じた場合は、定義も含めて本明細書が優先する。さらに、これら材料、方法、及び例は、例示的なものであって限定を意図したものではない。
【0038】
1つ以上の実施形態の詳細が、添付の図面及び以下の説明に記載されている。他の特徴及び利点は、詳細な説明、図面、及び特許請求の範囲から明らかとなるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】
図1は、多重化イオンビームイメージングのための試料を調製する際に使用する標識基の一例を示す模式図である。
【
図2】
図2A-2Fは、構造骨格の例を示す概略図である。
【
図3】
図3は、金属イオンを金属キレート化基に結合するための一連の例示的な段階を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、共役基を抗体に共有結合させて共役標識試薬を製造するための一連の例示的な段階を含むフローチャートである。
【
図5】
図5は、支持体上の試料を示す概略図である。
【
図6】
図6は、多数の試料ウェルを含む支持体上の試料を示す概略図である。
【
図7】
図7は、試料の多重化イオンビームイメージングのための例示的なシステムを示す概略図である。
【
図8】
図8は、共役標識試薬を形成するため遊離標識基を共役した後に回収された抗体の量を示すグラフである。
【
図9】
図9は、新たに調製された標識組成物及び予め調製し保存された標識組成物に共役した抗体に関する、抗体1分子あたりの質量タグの存在度を示すグラフである。
【
図10】
図10は、結腸組織の多重化イオンビーム画像を示す。
【
図11】
図11は、胎盤組織の多重化イオンビーム画像を示す。
【
図12】
図12は、異なる標識試薬の相対的な金属タグローディング濃度レベルを示すグラフである。
【0040】
これらこれら様々な図面中の類似の参照記号は、類似の構成要素を示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
(i) 序論
タンパク質発現並びに他の生化学的部分及び構造の多重可視化によって、研究者達は、生物機能的事象間の重要な相互関係を特定することができる。タンパク質発現の可視化を用いれば、精密診断の一部として切除組織試料の悪性度を評価し、さらに、とりわけ腫瘍組織におけるシグナル伝達経路及び相関構造発育に関する重要な情報を提供することができる。
【0042】
タンパク質の発現を可視化する従来の多重免疫組織化学的技法は、多数の抗体共役蛍光体で標識付けられている試料からの蛍光発光の光学検出に依存している。これら共役蛍光体は、試料内の対応する抗原に特異的に結合し、試料からの蛍光発光のイメージングを使用して蛍光体の空間的分布を評価する。抗体濃度が比較的低い例では、信号増幅(例えば、多価の酵素標識二次抗体を用いて)を用いて可視化を補助できる。しかし、信号増幅技法を使うと、試料画像から別の方法では抽出可能な量的情報(例えば、抗原濃度情報)を損なうことがある。
【0043】
従来の多重免疫組織化学的可視化技法では、他の制約が発生する可能性もある。多数の蛍光体のスペクトルシグネチャの光学検出及び分離は複雑な問題であり、蛍光体の蛍光スペクトルが有意な重なりを示す場合は特にそうである。これら蛍光体のスペクトルシグネチャを明確に区別しなければ、重要な発現関連情報は明らかにできない可能性がある。さらに、そうした技法は、異なる宿主種で発生する一次抗体に依存することが多い。これらの要素が、効果予測バイオマーカーの開発及び臨床診断のための従来の多重免疫組織化学的な可視化技法の有用性を制限することがある。
【0044】
二次イオン質量分析法は、生物学的試料における抗原並びに他の生化学的構造及び部分の多重可視化を実行するための代替技術として使用できる。構造特異的抗体は、典型的には金属元素(例えば、ランタニド元素)の形式の特定の質量タグに共役される。質量タグと結合基を含む標識剤に試料を暴露させると、標識剤が試料中の相補的部分(complementary moiety)に結合する。一例として、標識剤は、試料中の対応する抗原に特異的に結合する抗体を含むことができる。
【0045】
標識試料を一次イオンビームに暴露すると、その標識試料から共役質量タグに対応する二次イオンが遊離する。この試料から発生した二次イオンの空間分解検出を実行すると、試料中の特定抗原の位置確認を直接可視化でき、且つ量的情報(例えば、抗原濃度)を空間的位置の関数として抽出可能となる。この情報を他の構造的情報(例えば、腫瘍境界、細胞型/形態)と組み合わせると、試料内の腫瘍の生存率及び悪化を詳細に評価できる。
【0046】
本明細書で開示する方法は、多重化イオンビームイメージング(MIBI)法と呼ばれ、試料に付加された比較的多数の質量タグの空間分布を解像するために使用できる。例えば、1つの試料に含まれる最大100の異なる質量タグを視覚的且つ定量的に評価することが可能である。試料に付加される質量タグの性質にもよるが、10億分の1の感度を約105のダイナミックレンジで達成することができる。イメージング分解能は、典型的には高倍率の光学顕微鏡に匹敵する。
【0047】
MIBI法で使用するのに適した質量タグを導入するための従来の試料調製方法は、さまざまな理由で実行が困難な場合がある。一般的に、このような方法は、比較的限定的なpH、温度、その他の条件下で注意深く行われる一連の制御された段階を含む。全体の調製時間は約6時間以上と長く、結果的に全体の測定工程が比較的長くなってしまうことがある。さらに、このような調製手順の複雑さのため、特に経験の浅いユーザーが調製を行った場合、性能を低下させてしまう可能性がある。
【0048】
また、ある種の質量タグは、二次イオンとしての検出には適しているものの、試料に悪影響を及ぼす可能性がある。特に、ある種の重金属元素は、溶液中に比較的低濃度で存在している場合でも、試料成分に化学的及び/又は物理的変化(DNAのCsCl析出など)を引き起こす可能性がある。ある種の質量タグが許容できない試料の改変を引き起こすのを防止するのは困難な場合もある。
【0049】
さらには、従来の試料調製方法では、多量体のキレート剤に質量タグ(金属原子など)を「ロード(load)」するインサイチューのロード段階を含むことが一般的であった。特定の金属原子は、pH値が約7の溶液には比較的不溶であるため、そのような金属原子を導入するには、溶液のpHをかなり酸性側の値まで下げる必要が生じうる。しかし、比較的酸性のpH値では、生物反応性の官能基(抗体など)が、キレート化及び洗浄段階の間に加水分解される可能性があり、試料の標識化工程の全体的な収率が低下してしまう。
【0050】
標識剤をインシトゥ調製してから試料に暴露させる方法とは対照的に、ここで説明する方法では、中間体としての標識剤を調製して分離する。分離された標識剤は、生物学的分子と共有結合するための少なくとも1つの共役基と、少なくとも1つの金属キレート化基と、このキレート化基に結合した少なくとも1つの金属原子又はイオン(ランタノイド金属原子又はイオンなど)を含む。標識剤は、1つまたは複数の金属イオン質量タグが、1つまたは複数のキレート化基に結合した状態を維持するように、分離工程の一部として安定化される。その後、試料結合部分(抗体や核酸断片など)を、分離された標識剤に共役させて試料標識を形成し、試料を試料標識に曝して試料の調製を完了する。
【0051】
前述の方法で試料を調製することで、従来の試料調製方法に関連する複雑さのいくつかを克服することができる。全体的な試料調製時間を短縮することができ、調製段階が試料の結合基に干渉する可能性や、望ましくない試料の改変をもたらす可能性を低減することができる。中間体標識剤は、かなり以前に調製しておき、明らかに大きな悪影響を及ぼすことなく使用前に1年間以上の期間保存することができる。
【0052】
(ii)標識基
図1は、MIBIイメージング用の試料を調製する際に使用する標識基100の一例を示す模式図である。標識基100は、構造骨格102と、少なくとも1つの共役基104と、少なくとも1つの金属キレート化基106と、少なくとも1つの金属キレート化基106にキレート化した少なくとも1つの金属原子又はイオン108とを含む。
【0053】
一般的に、本明細書に記載された標識剤組成物は、複数の遊離標識基100を含む。すなわち、そのような組成物は、典型的には、試料にも互いにも結合していない少なくともいくつかの標識基100を含む。遊離標識基100は、後により詳細に説明するように、その後、試料に直接暴露するためにさらに調製することができる標識剤を形成する。
【0054】
標識基100には、多種多様な異なる構造骨格を使用することができる。いくつかの実施形態では、例えば、構造骨格102は、複数の共役モノマー単位から形成されるオリゴマー部分である。例えば、構造骨格102は、少なくともn個の共役モノマー単位から形成することができ、ここでnは2以上(例えば、3以上、4以上、5以上、6以上、8以上、10以上、15以上、20以上、又はそれ以上)である。
【0055】
特定の実施形態では、標識剤中のそれぞれの遊離標識基100は、同じ数の共役モノマー単位から形成された構造骨格102を有する。代替的には、実施形態によっては、標識剤は、異なる数の共役モノマー単位から形成された構造骨格102を有する遊離標識基100を含むことができる。例えば、標識剤は、j個の共役モノマー単位から形成された構造骨格102を有する1つ以上の遊離標識基100と、k個の共役モノマー単位から形成された構造骨格102を有する1つ以上の遊離標識基100とを含むことができ、ここで、j及びkは異なる。さらに、説明した標識剤は、3つ以上の異なる数の共役モノマー単位から形成された構造骨格102を有する遊離標識基100を含むことができる。すなわち、一般的には、標識剤は、2つ以上(例えば、3つ以上、4つ以上、5つ以上、6つ以上、8つ以上、10以上、又はさらにそれ以上)の異なる数の共役モノマー単位から形成された構造骨格を有する遊離標識基100を含むことができる。
【0056】
いくつかの実施形態では、構造骨格102は、複数の共役モノマー単位で形成することができ、各モノマー単位は同じである。すなわち、構造骨格102は、モノブロックオリゴマー(monoblock oligomer)に対応することができる。
図2Aは、1種類のモノマー単位Aのみからなるモノブロックオリゴマー構造骨格102の模式図を示したものである。あるいは、特定の実施形態では、構造骨格102は、異なる種類の共役モノマー単位で形成することができる。例えば、
図2Bは、ジブロックオリゴマーとして、A及びBの両方のモノマー単位で形成された構造骨格102の模式図を示す。
図2Cは、トリブロックオリゴマーとしての、A、B、及びCのモノマー単位で形成された構造骨格102の概略図を示す。より一般的には、構造骨格102は、任意の数の異なる種類の共役モノマー単位、例えば、2つ以上(3つ以上、4つ以上、5つ以上、6つ以上、8つ以上、10以上、又はそれ以上)の異なる種類の共役モノマー単位で形成することができる。
【0057】
特定の実施形態では、
図2B及び
図2Cに示すように、構造骨格102が異なる種類のモノマー単位を含む場合、これらモノマー単位は、構造骨格102中に等モル比で存在する。あるいは、いくつかの実施形態では、異なるタイプのモノマー単位が非等モル比で存在しうる。例えば、
図2D及び2Eは、Aモノマー単位とBモノマー単位との比が2:1である構造骨格102の例を示す。より一般的には、構造骨格102中のモノマー単位は、適切な特性(例えば、溶解性、結合親和性、配座形状)を有する遊離標識基100を得るために、所望の任意の比率で存在することができる。別の例として、遊離標識基100の構造骨格102中の2つの異なるモノマー単位は、50:1から1:50の間(例えば、20:1から1:20の間、10:1から1:10の間、1:5から5:1の間)の比で存在することができる。
【0058】
ある種の標識剤では、標識基100は、それぞれが
図1に示した同じ構造骨格102及び他の特徴を有しており、したがって、そのような標識剤の分散度指数は1である。あるいは、ある種の標識剤では、異なる標識基が、長さ及び/又は組成が異なる構造骨格102を有することができる。そのような標識剤の場合、分散性指数は1.01以上(例えば、1.05以上、1.10以上、1.20以上、1.30以上、1.50以上、1.70以上、2.0以上、3.0以上、又はそれ以上)とすることができる。
【0059】
図2B-2Eに示す構造骨格102では、モノマー単位が規則的に共役して、構造骨格内の反復ブロックを形成している。しかしながら、いくつかの実施形態では、構造骨格102の少なくとも一部又は構造骨格全体は、不規則に共役された2つ以上の異なる種類のモノマー単位から形成して、構造骨格が反復ブロックから形成されない(又は完全には形成されない)ようにすることができる。そのような構造骨格102の一例を
図2Fに示す。
【0060】
構造骨格102は、多種多様な異なる共役モノマーから形成することができる。個々のモノマーの例については、以下で説明する。しかし、上述したように、任意の2つ以上の異なる種類のモノマーの組み合わせが構造骨格102を形成できること(異なる種類のモノマーの共役化への合成ルートが利用可能であることを条件に)を理解すべきである。
【0061】
いくつかの実施形態では、共役して構造骨格102を形成するモノマー単位は、1つ以上のアミノ酸を含む。適切なアミノ酸としては、例えば、リジン、セリン、アルギニン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、ヒスチジン、スレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン、アラニン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、バリン、プロリン、グリシン、及びこれらのアミノ酸の構造的誘導体が含まれる。前述のアミノ酸及び誘導体(鏡像異性体を持たないグリシンを除く)のL及びDフォームの両方を使用することができる。構造骨格102が1つ以上のアミノ酸の組み合わせから形成される場合、構造骨格102はペプチドに対応することができる。
【0062】
特定の実施形態では、共役して構造骨格102を形成するモノマー単位は、1つ以上の核酸断片を含む。適切な核酸断片には、一本鎖DNA断片、及びpRNA-3WJ及びボックスC/D RNA構成単位(building blocks)などの様々な異なる種類のRNA断片が含まれるが、これらに限定されるものではない。適切な核酸断片は、例えば、Liら、「RNA as a stable polymer to build controllable and defined nanostructures for material and biomedical applications」、Nano Today 10(5): 631-655 (2015)に開示されており、その内容全体は参照により本明細書に援用する。構造骨格102が核酸断片の組み合わせから形成される場合、構造骨格102は、ポリ核酸部分に対応することができる。
【0063】
いくつかの実施形態では、共役して構造骨格102を形成するモノマー単位は、1つ以上の単糖類を含む。適切な単糖類としては、例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、リボース、及びデオキシリボース、並びに単糖類の構造的誘導体が含まれる。前述の単糖類及び誘導体のL及びDフォームの両方を使用することができる。代替的に又は付加的に、共役して構造骨格102を形成するモノマー単位は、1つ以上の二糖類を含むことができる。適切な二糖類には、例えば、スクロース、ラクトース、マルトース、及びそれらの誘導体が含まれる。構造骨格102が単糖類及び/又は二糖類の組み合わせから形成される場合、構造骨格102は、多糖又は、より一般的には、炭水化物部分に対応できる。
【0064】
いくつかの実施形態では、共役して構造骨格102を形成するモノマー単位は、1つ以上の有機モノマーを含む。一般に、多種多様な異なるモノマーを使用することができる。適切なモノマーの例としては、メタクリレート(例えば、メタクリル酸メチル)及びその誘導体、ビニール(例えば、塩化ビニール)及びその誘導体、エチレン及びその誘導体、ポリ(トリメチレン-1,1-ジカルボキシレート)などのプロピレン及びその誘導体、スルホン及びその誘導体、並びにウレタン及びその誘導体が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0065】
いくつかの実施形態では、構造骨格102は、共役モノマーから形成されていない部分を含むことができる。例えば、構造骨格102は、脂質とすることができる。好適な脂質の例としては、グリセロール及びスフィンゴシン脂質誘導体が含まれるが、これらに限定されない。共役モノマーから形成されていない適切な構造骨格102の他の例としては、炭水化物ベースの骨格及びアミノ酸ベースの骨格が含まれるが、これらに限定されない。
【0066】
特定の実施形態では、構造骨格102は、ナノ粒子とすることができる。構造骨格102として使用可能なナノ粒子の側面及び特徴は、例えば、Liuら、「Metal chelators coupled with nanoparticles as potential therapeutic agents for Alzheimer's disease」、J. Nanoneurosci. 1(1): 42-55 (2009)、及びBonvinら、"Chelating agents as coating molecules for iron oxide nanoparticles," RSC Adv. 7: 55598-55609 (2017)に記載されている。これら参照文献それぞれの開示全体は、引用して本明細書に援用する。
【0067】
図2A-2Fに示す構造骨格102の例は、線形である。すなわち、これらの図のそれぞれにおいて、構造骨格102は、共役して線形構造部分を形成する複数のモノマー単位から形成されている。一般に、分岐した線形構造部分と分岐していない線形構造部分の両方を含む、多種多様な異なる線形構造骨格102を使用することができる。
【0068】
あるいは、特定の実施形態では、構造骨格102は、デンドリマー構造部分とすることができる。適切なデンドリマー構造部分には、デンドリマー、デンドロン、並びに超分枝構造、デンドリグラフト、及び樹状-線形ハイブリッド構造部分などの様々な多分散デンドリマーハイブリッド構造が含まれるが、これらに限定されない。
【0069】
図1に戻ると、様々な異なる共役基104を遊離標識基100で使用することができる。一般に、共役基104は、構造骨格102の生物学的分子への付着を促進し、すると、その生物学的分子は、試料内の分子実体(生体分子又は構造部分など)に結合する。よって、構造骨格102に共有結合される生物学的分子の性質に応じて、様々な異なる共役基104を使用することができる。適切な共役基には、スクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート)基及びその誘導体、N-ヒドロキシスクシンイミド基及びその誘導体、マレイミド基及びその誘導体、イソチオシアネート基及びその誘導体、並びにN-ヒドロキシスクシンイミドエステル及びイミドエステルなどのアミン反応性化学基が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0070】
特定の実施形態では、共役基104は、「クリックケミストリー」反応を介して生物学的分子上の標的基と反応する官能基又は構造部分である。一般論として、実施に適したクリックケミストリー反応には、エポキシド及びアジリジンの求核的開環反応、非アルドール型カルボニル反応(例えば、ヒドラゾン及び複素環の形成)、炭素-炭素多重結合への付加(例えば、エポキシドの酸化的形成及びマイケル付加)、及び付加環化反応を含む、熱力学的に好ましい様々な反応が含まれる。銅錯体やルテニウム錯体などの金属を触媒とするアジド-アルキン付加環化反応は、適切なクリックケミストリー反応の一例である。クリックケミストリー反応及び関連する共役基のその他の例は、米国特許第6,800,728号に記載されており、また、Horisawa, "Specific and quantitative labeling of biomolecules using click chemistry," Front. Physiol.5: 457 (2014)に記載されている。前述の参照文献それぞれの開示全体は、引用して本明細書に援用する。
【0071】
より一般的には、共役基104は、生物学的分子上の標的基と反応して、生物学的分子と遊離標識基100との間に共有結合をもたらす任意の官能基又は構造部分でよい。したがって、適切な共役基104には、生物学的分子のアミン基と反応する部分(moieties)、生物学的分子のスルフヒドリル基と反応する部分、生物学的分子のカルボン酸基と反応する部分、アセチレンと反応する部分、及びアジド基又はイオンと反応する部分が含まれるが、これらに限定されない。
【0072】
図1では、遊離標識基100は、単一の共役基104を含む。しかし、より一般的には、遊離標識基は、1つ以上(例えば、2つ以上、3つ以上、4つ以上、5つ以上、又はそれ以上)の共役基104を含むことができる。遊離標識基100が複数の共役基104を含む場合、共役基104のそれぞれは同じであってもよいし、共役基のいくつかは互いに異なっていてもよい。複数の同じ共役基104を使用すると、生物学的分子の付着に複数の共有結合位置が利用できるため、遊離標識基の生物学的分子への結合が容易になることがある。
【0073】
あるいは、異なる共役基104を用いることで、異なる生物学的分子を遊離標識基100に結合させることができる。例えば、異なる共役基により、異なる抗体、又は異なる核酸、又は抗体と核酸の組み合わせを、遊離標識基100に結合させることができる。この柔軟性により、試料内の2種類以上の分子実体に結合することができる遊離標識基100を合成することができ、異なる種類の分析物を標的とするために異なる標識組成物で遊離標識基を使用できるようになる。
【0074】
再び
図1を参照すると、遊離標識基100は、一般に、1つ以上(例えば、2つ以上、3つ以上、4つ以上、5つ以上、6つ以上、8つ以上、10個以上、又はさらに多く)の金属キレート化基106を含むことができる。いくつかの実施形態では、遊離標識基100の金属キレート化基のそれぞれは同じである。代替的には、一定の実施形態では、金属キレート化基106の少なくとも一部は互いに異なる。異なる金属キレート化基を使用することで、異なる種類の金属原子又はイオンを同じ遊離標識基100に結合させることが可能になる。さらに、遊離標識基100において、異なる種類のキレート化基に同じ種類の金属原子又はイオンを結合することにより、異なる種類のキレート化基と、結合した金属原子又はイオンとの間の配位の相対的な強さに応じて、異なる一次イオンエネルギーで二次イオンを選択的に生成することができる。
【0075】
一般に、多種多様な異なるキレート化基106を、遊離標識基100に使用することができる。そのような基の例としては、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸基及びその誘導体、ジエチレントリアミン五酢酸基及びその誘導体、エチレンジアミン四酢酸基及びその誘導体、並びに1,4,7-トリカルボキシメチル-1,4,7-トリアザシクロノナン基及びその誘導体が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0076】
いくつかの実施形態では、金属キレート化基106の1つ又は複数は、2つ以上のキレート化部分を含む。典型的には、複数のキレート化部分を有する金属キレート化基を使用して、複数の正電荷(例えば、+2、+3、+4)を有する金属イオンをキレート化することができる。したがって、いくつかの実施形態では、遊離標識基100は、2つ以上(例えば、3つ以上、4つ以上、5つ以上、又はさらに多く)の金属キレート化部分を有する少なくとも1つの金属キレート化基106を含む。
【0077】
特定の実施形態では、遊離標識基100が異なる金属キレート化基106を含む場合、これら異なる金属キレート化基は、同じ数の又は異なる数のキレート化部分を有することができる。例えば、遊離標識基100は、キレート化基ごとにg個のキレート化部分を有する第1種類の少なくとも1つのキレート化基106と、キレート化基ごとにh個のキレート化部分を有する第2種類の少なくとも1つのキレート化基106とを含むことができ、g及びhは同じであっても異なっていてもよい。
【0078】
また、遊離標識基100は、金属キレート化基106の少なくとも1つ以上に結合した1つ以上の金属原子又はイオン108を含む。
図1では、それぞれの金属キレート化基106が、対応する金属原子又はイオン108に結合しているが、より一般的には、金属キレート化基106のいくつかは、遊離標識基100において対応する金属原子又はイオンに結合していないことがある。典型的には、遊離標識基100は、最大で、金属キレート化基106と同数の金属原子又はイオン108を含むことができる。したがって、個々の遊離標識基100は、1つ以上(例えば、2つ以上、3つ以上、4つ以上、5つ以上、6つ以上、8つ以上、10個以上、15個以上、20個以上、又はさらに多く)の金属原子又はイオン108を含むことができる。
【0079】
金属原子又はイオン108は、一般的に、定量的に検出されると共に試料中の特定の分析物の存在と相関させることができる二次イオンを発生させるために、所望に応じて選択された様々な金属を含むことができる。いくつかの実施形態では、金属原子又はイオン108は、ランタノイド金属イオン(例えば、ランタン、ネオジム、サマリウム、ガドリニウム、エルビウム、イッテルビウム、及び/又はジスプロシウムイオン)を含む。代替的に又は付加的に、特定の実施形態では、金属原子又はイオン108は、ビスマス、イットリウム、インジウム、ガリウム、ジルコニウム、ルテニウム、及びクロムなどの他の重金属を含む。このような金属は、様々な典型的な調製溶液に比較的不溶性である可能性があるが、それにもかかわらず、従来の試料調製方法と比較して、溶液からのこのような金属の塩の沈殿を低減する調製スキームに従って試料を標識するために使用できるので、遊離標識基100に含めるのに特に適している。
【0080】
特定の実施形態では、遊離標識基100は、多数の異なる種類の金属原子又はイオン108を含むことができる。例えば、個々の遊離標識基100は、2つ以上(例えば、3つ以上、4つ以上、5つ以上、又はそれ以上)の異なる種類の金属原子又はイオンを含むことができる。いくつかの実施形態では、これら異なる種類の金属原子又はイオンは、異なる原子番号を有し、したがって、異なる金属元素に対応する。
【0081】
代替的には、特定の実施形態では、これら異なる種類の金属原子又はイオンは、同じ原子番号を有するが、異なる原子質量を有し、したがって、同じ金属元素の異なる同位体に対応する。遊離標識基100が2つの異なる同位体に対応する原子又はイオン108を含む場合、例えば、複数の遊離標識基100を含む組成物における第1の同位体と第2の同位体の濃度比は、95:5以上(例えば、97:3以上、98:2以上、99:1以上、99.5:0.5以上)とすることが可能である。
【0082】
上述したように、遊離標識剤100は、一般に、多種多様な異なる構造骨格102、共役基104、金属キレート化基106、及び金属原子又はイオン108を含むことができる。その結果、ここで説明した異なる種類の遊離標識剤を調製するために、非常に広範な異なる合成スキームを使用することができる。
【0083】
直鎖構造骨格及び分岐した直鎖構造骨格に基づく遊離標識剤100の例が次に開示されている。Louら、「Polymer-based elemental tags for sensitive bioassays」、Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 46(32): 6111-6114 (2007); Majonisら、「Synthesis of a functional metal-chelating polymer and steps toward quantitative mass cytometry bioassays」、Anal. Chem. 82(21): 8961-8969 (2010); Majonisら、「Curious results with palladium- and platinum-carrying polymers in mass cytometry bioassays and an unexpected application as a dead cell stain」、Biomacromolecules 12(11): 3997-4010 (2011);及びIllyら、「Metal-chelating polymers by anionic ring-opening polymerization and their use in quantitative mass cytometry」、Biomacromolecules 13: 2359-2369 (2012)。分岐及び/又は樹状構造骨格102に基づく遊離標識剤100の例は、以下に開示されている。Xuら、「Preparation and preliminary evaluation of a biotin-targeted, lectin-targeted, dendrimer-based probe for dual-modality magnetic resonance and fluorescence imaging」、Bioconjug. Chem. 18(5): 1474-1482 (2007); Rahmaniaら、「Synthesis and stability test of radiogadolinium(III)-DOTA-PAMAM G3.0-trastuzumab as SPECT-MRI molecular imaging agent for diagnosis of HER-2 positive breast cancer」、J. Rad. Research Appl.Sciences 8(1): 91-99 (2015); Nweら、「Preparation of cystamine core dendrimer and antibody-dendrimer conjugates for MRI angiography」、Mol. Pharm. 9(3): 374-381 (2012);PCT特許出願公開第WO 95/24221号、発明の名称「Bioactive and/or targeted dendrimer conjugates」;及びEP特許第0271180号、発明の名称「Starburst Conjugates」。前述の参照文献それぞれの開示全体は、引用して本明細書に援用する。
【0084】
(iii)標識剤の組成物
構造骨格102が、1つ以上の共役基104及び1つ以上の金属キレート化基106を備えるよう調製された後、金属キレート化基106の少なくとも1つに金属原子又はイオン108を結合させることにより、遊離標識剤100の調製が完了する。一般に、金属キレート化基106への金属原子又はイオン108の結合は、金属キレート化基106を溶液中の金属原子又はイオン108に暴露することによって行われる。
【0085】
図3は、金属イオン108を金属キレート化基106に結合するための一連の例示的な段階を示すフローチャート300である。フローチャート300に示した段階は単なる例であり、一般に、金属原子又はイオン108を金属キレート化基106に結合させるために、多種多様な異なる調製スキームを使用できることを理解すべきである。
【0086】
第1の任意の段階302では、金属イオン108を導入する前に、例えば、保護基を添加することによって、1つ以上の共役基104を保護することができる。適切な保護基の例及びそのような基を導入するための合成スキームは、Elduqueら、「Protected Maleimide Building Blocks for the Decoration of Peptides, Peptoids, and Peptide Nucleic Acids」、Bioconjugate Chem. 24(5): 832-839 (2013)、及び、Sanchezら、「マレイミド-ジメチルフランエキソ付加物: オリゴヌクレオチド共役物の合成における効率的なマレイミド保護(Maleimide-Dimethylfuran exo Adducts: Effective Maleimide Protection in the Synthesis of Oligonucleotide Conjugates)」、Org. Lett. 13(16): 4364-4367 (2011)に開示されている。前述の参照文献それぞれの開示全体は、引用して本明細書に援用する。
【0087】
次に、段階304では、金属キレート基106を金属イオン108に暴露する。一般に、暴露は溶液中で行われる。いくつかの実施形態では、溶液は、DMSO又はDMFなどの極性有機溶媒で形成される。特定の実施形態では、溶液は、1.0から7.0の間のpHに緩衝された蒸留水で形成される。いずれのタイプの溶液においても、金属化されていない標識基は、0.1 mg/mLから10 mg/mLの間の濃度で存在する。
【0088】
金属イオン108を導入するために、金属のイオン塩(金属イオン108と、塩化物イオン、フッ化物イオン、ヨウ化物イオン、臭化物イオン、硝酸イオン、酢酸イオン、酸化物イオンなどの1つ以上のアニオンとから形成される)を、金属イオンと金属キレート化基とのモル比が約1:1(例えば、0.85:1から1:0.85の間)になり得るような量で、上記溶液に導入する。一例として、金属イオン108がLa3+イオンに対応する場合、適切なイオン塩は、LaCl3、LaF3、LaI3、LaBr3、La(NO3)3、La(CH3CO2)3、及びLa2O3を含むことができるが、これらに限定されない。
【0089】
曝露は、典型的には、約5分から約120分の間(例えば、10分から90分の間、10分から60分の間)行われる。曝露中、1つ以上の金属イオン108が、1つ以上のキレート化基106にキレート化される。
【0090】
次いで、段階306において、この時点で金属化されている遊離標識基100を、極性有機溶媒又は緩衝蒸留水の追加アリコートのいずれかで洗浄し、キレート化されていない金属イオンを除去する。最後に、オプションの段階308において、1つ以上の共役基104を、例えば、段階302で導入された保護基を除去することによって、脱保護することができる。保護基を除去するための適切な方法は、例えば、Parisら、「Exploiting protected maleimides to modify oligonucleotides, peptides and peptide nucleic acids」、Molecules 20(4): 6389-6408 (2015)に開示されており、その内容全体は参照により本明細書に援用する。手順は段階310で終了し、溶液中に遊離標識基100が得られる。
【0091】
標識剤組成物を調製するには、遊離標識基100の溶液を濃縮すればよい。一般的に、遊離標識基の溶液の濃縮には、溶液中に存在する溶媒の体積を減らすことが含まれる。典型的には、溶媒の体積が減少しても、金属塩が導入されるときに添加されたアニオン性対イオンは、組成物中に残り、遊離標識基100と塩を形成することができる。
【0092】
いくつかの実施形態では、遊離標識基100を含む組成物は、水を除去するために処理される。水を除去するために、真空遠心分離及び/又は凍結乾燥を介した脱水を含む、様々な処理を施すことができる。そのような処理の結果、組成物中の水の重量パーセントは、10%以下(例えば、9%以下、8%以下、7%以下、6%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下)とすることができる。
【0093】
水分を除去して比較的低い含水率の組成物を得ることは、本明細書に記載の組成物の重要な特徴となり得る。いくつかの実施形態では、特定の共役基104(マレイミド系化学基など)が水の存在下で分解するため、遊離標識基100の長期安定性は、組成物中の水分量に依存する。組成物中の水分含有量を低減することにより、組成物の長期安定性を達成することができ、これらの使用に先立つ長期間の保存が可能になる。
【0094】
特定の実施形態では、組成物は、有機溶媒を含むことができる。溶媒は、金属キレート化工程(
図3)の間に、又はその後に導入することができる。いくつかの実施形態では、組成物から水を除去した後に、溶媒を導入することができる。DMF、DMSO、並びにメタノール、エタノール、様々なプロパノール、及び様々なブタノールなどの無水アルコールを含むが、これらに限定されない、様々な異なる極性及び非極性溶媒を使用することができる。
【0095】
いくつかの実施形態では、組成物は水性溶媒を含み、組成物のpHは5.0以下(例えば、4.8以下、4.6以下、4.4以下、4.2以下、4.0以下、3.5以下、3.0以下、2.5以下、2.0以下、又はさらに小さい値)である。組成物を酸性のpHに維持することで、キレート化された金属イオンが溶液から沈殿するのを防ぐことができ、それによって、試料の標識化で使用する前に、遊離標識基100が化学的に修飾されないようにすることができる。
【0096】
特定の組成物における水の重量パーセントを確実に10%未満にすることにより、組成物の貯蔵寿命は、より高い重量パーセントの水を含む組成物と比較して、大幅に増加させることができる。例えば、そのような組成物の保存寿命(例えば、組成物の劣化が測定可能になるまでの時間の長さ)は、組成物を室温で保存した場合、2週間以上(例えば、3週間以上、4週間以上、2ヶ月以上、4ヶ月以上、6ヶ月以上、8ヶ月以上、10ヶ月以上、12ヶ月以上)となりうる。一般的には、組成物が劣化する速度を抑えるために、30℃以上-80℃以下(例えば、-20℃以下)の温度で保存されることが多い。
【0097】
特定の実施形態では、組成物の保存寿命を長くするために、組成物に保存剤を加えることができる。様々な炭水化物及びポリマーを含む、様々な異なる保存剤を使用することができ、複数の保存剤を使用することもできる。そのような作用物質の例としては、トレハロース、マルトース、スクロース、ポリエチレングリコール、及びゼラチンなどが含まれるが、これらに限定されるものではない。保存剤が組成物に添加される場合、組成物中の保存剤と遊離標識基の合計質量に対する保存剤の重量パーセントは、0.5%以上で50%以下(例えば、1%以上50%以下、5%以上50%以下、10%以上50%以下、20%以上50%以下、30%以上50%以下)とすることができる。組成物が溶媒を含む場合、溶媒中の保存剤の濃度は、50ミリモル/L以上500ミリモル/L以下(例えば、50ミリモル/L以上250ミリモル/L以下、50ミリモル/L以上200ミリモル/L以下、75ミリモル/L以上150ミリモル/L以下、100ミリモル/L以上200ミリモル/L以下)とすることができる。
【0098】
いくつかの実施形態では、組成物中の遊離標識剤100の少なくとも1つの共役基104を、保護基などの保護剤で保護することができる。保護基は、金属キレート化工程(すなわち、フローチャート300の段階302)中に適用するか、又は金属キレート化工程が完了した後で、遊離標識組成物の調製中に付加することができる。段階302に関連して上述したものと類似の方法を使用して、標識組成物の調製中に1つ又は複数の共役基104を保護することができる。
【0099】
以上の段階を経て得られた標識剤組成物は、その後の試料の標識化工程に使用するために、分離してパッケージ化することができる。このような工程を容易にするために、分離されパッケージ化された組成物は、試料調製用の試薬キットに含めることができる。試薬キットには、標識剤組成物に加えて、標識剤組成物を保存するための取扱指示と、組成物の遊離標識基を生物学的分子に結合させるための取扱指示と、後続の試料及び/又は試薬の調製段階で使用するための1つ以上のパッケージ化された緩衝液と、組成物の遊離標識基と生物学的分子との共役生成物を精製するための1つ以上の精製装置(例えば、MWCOカラム及び/又はゲル透過クロマトグラフィーカラム)と、組成物の遊離標識基と生物学的分子との共役生成物を保存するための安定化溶媒など、標識剤組成物の使用者のための様々なものを任意に含むことができる。
【0100】
(iv) 共役標識試薬
上述のように標識剤組成物を製造した後、遊離標識基100の共役基104を生物学的分子に共役させて、共役標識試薬を製造することができる。
図4は、共役基104を抗体に共有結合させて共役標識試薬を製造するための例示的な段階を含むフローチャート400である。一般に、様々な異なる手順の段階を使用することができ、フローチャート400の各段階は、好適な段階の例を示すに過ぎないことを理解すべきである。さらに、標識組成物の遊離標識基100は、一般に、核酸などの抗体以外の生物学的分子に共役することができることを理解すべきである。抗体への共役は、単に、試料の標識化のための調製段階をさらに説明するための一例として役目を果たしているにすぎない。
【0101】
フローチャート400の第1の段階402では、上述の標識組成物が抗体共役のために調製される。調製には、典型的には、(必要に応じて)標識組成物をオプションで室温に平衡化し、次いで、短時間の遠心分離動作を行って、遠心管の底部に遊離標識基100を集めることが含まれる。
【0102】
次に、段階404では、抗体を調製し、還元する。約100マイクログラムの抗体を50 kDaのフィルター装置に加え、総体積を400マイクロリットルにする。抗体の体積が400マイクロリットルに満たない場合は、pH 7-8とした0-10 mM EDTAを含む0.01-0.5 Mのリン酸緩衝液を十分な量加えて、その差を埋める。その後、抗体溶液を12,000 xgで10分間、室温で遠心分離し、通過液を廃棄する。次に、抗体に、0-10mMのEDTA、pH7-8緩衝液を加えた0.01-0.5Mのリン酸緩衝液を400マイクロリットル加えて、遠心分離を繰り返す。次に、8マイクロリットルのトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)を、0-10 mMのEDTA、pH 7-8の緩衝液を含む992マイクロリットルの0.01-0.5 Mのリン酸緩衝液に混合して、4 mmol/Lの濃度のTCEP溶液を得る。次に、4 mmol/LのTCEP溶液100マイクロリットルを、50 kDaフィルター装置内の濃縮抗体に加え、このときTCEPをゆっくりとピペッティングして混合する。混合後、この抗体-TCEP溶液を37℃で30分間インキュベートする。
【0103】
次に、段階406において、段階404からの部分的に還元された抗体を洗浄する。pH 7-8とした0-10mMのEDTAを含む300マイクロリットルのトリス緩衝塩を、50 kDaフィルター装置内の部分的に還元された抗体に加え、混合物を短時間ボルテックスする。その後、混合物を12,000 xgで10分間遠心分離し、通過液を廃棄する。次に、分離した抗体に、pH 7-8とした0-10 mMのEDTAを含むトリス緩衝塩を400マイクロリットル加え、混合物を同じ条件で再度遠心分離する。
【0104】
段階408では、部分的に還元された抗体を標識組成物に(より具体的には、共役基104を介して標識組成物の遊離標識基に)共役させる。段階402で調製した標識組成物を、pH 7-8とした0-10 mMのEDTAを含む200マイクロリットルのトリス緩衝塩に懸濁し、部分的に還元され洗浄された抗体を含む50 kDaのフィルター装置に移す。標識組成物と抗体をピペッティングで十分に混合する。その後、この混合物を37℃で60分から90分間インキュベートし、共役を完了させる。
【0105】
次に、段階410で、共役生成物を洗浄する。200マイクロリットルのpH 7-8とした0.01-0.5 Mのトリス緩衝塩溶液を、50 kDaフィルター装置内で共役生成物に添加し、得られた懸濁液を12,000 xgで10分間、室温で遠心分離する。通過液を廃棄した後、0.01-0.5 Mのトリス緩衝塩溶液の新しい400マイクロリットルのアリコートを用いて、洗浄段階をさらに2回繰り返す。
【0106】
共役生成物の洗浄に続いて、段階412で抗体を定量する。定量化を行うためには、0.01-0.5 Mのトリス緩衝塩溶液100マイクロリットルを50 kDaのフィルター装置に加え、ピペッティングで十分に混合して共役生成物溶液を得る。次に、2マイクロリットルの共役生成物溶液をサンプリングし、0.01-0.5 Mのトリス緩衝塩溶液をバックグラウンド基準として、280 nmで溶液試料中のそのIgGの吸光度を測定することにより、共役生成物中の抗体濃度を特定する。その後、共役生成物を12,000 xgで10分間、室温で遠心分離し、0.01-0.5 Mのトリス緩衝塩溶液を除去する。
【0107】
次に、段階414では、共役生成物内の抗体濃度を調節する。0.1-5%の牛血清アルブミン又はゼラチンと、0.01-0.1%のアジ化ナトリウム又はチメロサールとを含む0.01-0.5 Mのリン酸緩衝塩溶液を、pH7-8で、カラム壁を十分に洗浄した50 kDaフィルター装置に適量添加し、抗体濃度が約0.5 mg/mLの共役標識試薬を得る。その後、フィルター装置を新しい収集管内に反転させ、1,000 xgで2分間、室温で遠心分離する。オプションで、0.1 μMのフィルターを100マイクロリットルの0.01-0.5 Mリン酸緩衝塩溶液でプレウェットし、12,000 xgで2分間遠心分離して通過液を捨てた後、フィルターに共役標識試薬をロードし、12,000 xgで2分間遠心分離し、通過液を濾過された共役標識試薬として回収することで、共役標識試薬を濾過してもよい。
【0108】
その後、段階414からの共役標識試薬は、試料の標識化を行うまで保存(例えば、約4℃の温度で)することができ、段階416でこの手順が終了する。
【0109】
(v) 試料の標識化
一般的に、上述のように調製された共役標識試薬は、多種多様な生物学的試料に適合する。一般的に、画像化される試料は、ヒトや動物の患者から抽出された組織試料である。この試料は、生検の際に切除された腫瘍組織の試料や、別の侵襲的な外科手術や非侵襲的な処置で採取された別の種類の組織試料に対応することができる。
【0110】
いくつかの実施形態では、試料は、ホルマリン固定されたパラフィン包埋の組織試料に対応する。このような試料は、がん腫瘍やその他の解剖学的部位から生検された組織の組織学的精密検査の際に一般的に作製される。
【0111】
ある実施形態では、試料は、支持体上の単一細胞の配列に対応する。この配列は、自然に発生したものでよく、組織試料中の細胞の規則的で秩序ある配列に対応できる。あるいは、この細胞配列は、試料調製の産物であってもよい。すなわち、個々の細胞を支持体上に(例えば、支持体に形成された一連のウェル又は窪みに)手動又は自動で配置して細胞の配列を形成することにより、試料を調製することができる。
【0112】
図5は、支持体552上の試料550の断面模式図である。
図5の支持体552と試料550との間にはオプションのコーティング554が施されている。コーティング554は、それが施されている場合、電極を介して電圧源に電気的に接続させることができる。
【0113】
支持体552は、典型的には、顕微鏡スライド又は他の平面支持構造体として実装され、様々な種類のガラス、プラスチック、シリコン、及び金属を含む様々な材料から形成することができる。
【0114】
コーティング554が存在する場合、典型的には、1つ以上の金属元素、又は導電性が比較的高い1つ以上の非金属化合物で形成される。コーティング554を形成するために使用される金属元素の例としては、金、タンタル、チタン、クロム、スズ、及びインジウムが含まれるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、コーティング554は、複数の異なるコーティング層として実装することができ、その各々は、金属元素からなる別個の層又は導電性が比較的高い非金属化合物からなる別個の層として形成することができる。
【0115】
図5に示すように、試料550は、概ね平面状であり、x座標及び/又はy座標方向に延びており、z座標方向に測定された厚さdを有する。試料550の調製方法に応じて、試料は、x-y座標平面に平行な試料の平面範囲にわたって概ね一定の厚さdを有することができる。代替的には、切除組織に対応する多くの実試料は、x-y座標平面に平行な試料の平面範囲にわたって一定でない厚さdを有している。
図5では、試料550は断面図を示すが、z座標方向に測定された一定でない厚さdを有している。
【0116】
幾つかの実施形態では、支持体552は、試料550の支持体552への接着を促進する1つ以上の付加的なコーティング材料を含むこともできる。コーティング554が存在しない場合は、こうした1つ以上の付加的なコーティング材料を支持体550に直接施すことができ、これら付加的なコーティング材料が、試料550と支持体552との間に配置された層を形成する。コーティング554が存在する場合は、こうした1つ以上の付加的なコーティング材料をコーティング554上に施すことができ、例えば、これら付加的なコーティング材料が、コーティング554と試料550との間に配置された層を形成する。試料550の接着を促進する適切な付加的なコーティング材料には、ポリ-L-リジンが含まれるがそれには限定されない。
【0117】
図6は、支持体552上に配置された別の試料550の断面略図を示す。支持体552は、オプションで、上述のように1つ以上の等角被覆層554を含む。さらに、支持体552は、支持体552の表面に形成された凹部に対応したウェル556の配列を含む。各ウェル556は、試料550の一部分550a-550cを収容する。概して、支持体552は、
図6の試料550の3つの別個の部分550a-550cを収容する3つのウェル556を含む一方で、より一般的には、支持体552は任意の数のウェル556を含むことができ、試料550は、任意の1つ以上のウェル556の間で配分できる。
【0118】
ウェル556(及びウェル556内に分配された試料550の部分)は、概して支持体552において様々なパターンで配置できる。例えば、ウェル556は、支持体552に直線状の(すなわち、一次元の)配列を形成できる。代替的に、ウェル556は、支持体552の平面に一次元に分散して、ウェルの一部又は全部の離間は不規則とすることができる。
【0119】
別の例として、ウェル556は支持体552に二次元配列を形成し、支持体552の平面でx及びy座標方向の両方に平行な方向の隣接ウェル間の離間は規則的とすることができる。代替的に、支持体552の平面にx及びy座標方向に平行な方向の一方又は両方で、少なくと幾つかのウェル556は不規則に離間させることができる。
【0120】
ウェル556が支持体552で二次元配列を形成する場合は、この配列は様々な形状を形成することができる。幾つかの実施形態では、ウェル556の配列は、正方形又は長方形配列とすることができる。特定の実施形態では、この配列は、支持体552の平面に六角形配列、放射形対称を備えた極性配置、又は幾何学的対称形状を備えた別の種類の配列とすることができる。
【0121】
上述のように、試料550の各部分550a-550cは、1つ以上の細胞を含むことができる。試料調製時に、各部分550a-550cは、支持体552の対応するウェル556に計量分配又は配置して、試料550を形成できる。例えば、試料550の各部分550a-550cを、対応するウェル556内に、液体媒体中の細胞懸濁液として計量分配し、次に、液体媒体を除去すると(例えば、洗浄又は加熱によって)各ウェル556内に細胞が後に残される。
【0122】
上述したように、タンパク質発現のような試料550の様々な生化学的構造分析を容易にするため、試料550は複数の質量タグで標識化される。試料550が一次イオンビームに暴露されると、質量タグはイオン化され、試料550から遊離する。イオン化された質量タグは、試料550から発生する二次イオンに対応する。二次イオンを試料550上のイオンビームの入射位置の関数として分析すると、各入射位置における試料550の生化学的構造に関する多くの情報が得られる。
【0123】
質量タグを試料550に付加するために、試料は上述のように調製された共役標識試薬に暴露される。特定の抗体を含む共役標識試薬は、試料550の相補的な抗原受容体に選択的に結合する。実際には、各共役標識試薬の溶液を調製し、次いで、共役標識試薬の溶液それぞれに試料550を曝すことにより、試料550を標識する。試料550は、典型的には、複数の共役標識試薬に順次及び/又は並行して暴露されるので、試料550を複数の異なる質量タグで標識することができる。
【0124】
細胞の配列からなる試料の標識化のため、懸濁液中の細胞は、表面マーカー抗体で増強され、概ね30分にわたり室温でインキュベートされる。インキュベートに続き、細胞は、共役標識試薬で2回洗浄して細胞を標識できる。PBSで希釈して単位量当たりの所望の細胞濃度とした(例えば、概ね107個の細胞/mL)標識化細胞の個別アリコートが、次にウェル556内に配置され、概ね20分にわたり接着できるようにする。接着した細胞は次にPBSで穏やかに濯ぎ、2%のグルタルアルデヒドを含むPBSで概ね5分間固定され、脱イオン水で2回濯げばよい。試料は濃度勾配をつけたアルコール系列(graded ethanol series)を介して脱水し、室温で乾燥させ、分析に先だって少なくとも24時間は真空デシケーターで保管すればよい。
【0125】
生検から得られた試料のようなインタクトな組織試料を調製するには、組織試料を支持体552にマウントすればよい。マウントに続いて、試料は概ね65℃で15分間焼成し、キシレンで脱パラフィンし(FFPE組織ブロックから得た場合は)、濃度勾配をつけたアルコール系列を介して再水和できる。次いで、試料をエピトープ回収緩衝液(pH 9.0とした10 mM EDTAを含む100 mMトリス緩衝塩溶液)中に浸し、圧力鍋(ペンシルバニア州ハットフィールド所在のElectron Microscopy Sciencesから入手可能)内に概ね30分間載置する。続いて、試料を脱イオン水で2回濯ぎ、洗浄緩衝液(TBS、0.1% Tween、 pH 7.2)で1回濯ぐ。試料をリントフリーティッシュに穏やかに接触させることで残存洗浄緩衝液を除去できる。次に、試料は、ブロッキング緩衝液で概ね30分間(TBS、0.1% Tween、0-3% BSA、1-10%ロバ血清、pH 7.2)インキュベートする。
【0126】
次に、ブロッキング緩衝液を除去し、試料を加湿チャンバ中で4℃にて一晩共役標識試薬で標識化できる。標識化に続いて、試料を洗浄緩衝液中で2回濯ぎ、概ね5分間(PBS、2%グルタルアルデヒド)後固定した後、脱イオン水で濯ぎ、オプションだがHarrisヘマトキシリンで10秒間染色される。 試料は濃度勾配をつけたアルコール系列(graded ethanol series)を介して脱水し、室温で乾燥させ、分析に先だって少なくとも24時間は真空デシケーターで保管される。
【0127】
上述の調製工程は試料標識化の方法の例としてのみ記載されたものであって、上記の工程の順序を変更しても質量タグで適切に標識化され、MIBI分析用に調製された試料が得られることは理解すべきである。具体的には、上述の調製工程の順序を変更する場合は試料の性質(試料が対応する組織の種類)に基づいて行えばよい。
【0128】
(vi) 多重化イオンビームイメージングシステム
図7は、上述したように標識化された試料を多重化イオンビームイメージングするための例示的なシステム700を示す概略図である。システム700は、イオンビーム源702と、イオンビーム光学素子704と、ステージ706と、電圧源708と、イオン収集光学素子710と、検出装置712とを含む。これらの構成要素それぞれは、信号線720a-720fを介してコントローラ714に接続されている。システム700の動作時には、コントローラ714は、イオンビーム源702と、イオンビーム光学素子704と、ステージ706と、電圧源708と、イオン収集光学素子710と、検出装置712とのそれぞれの動作パラメータを調整できる。さらに、コントローラ714は、信号線720a-720fを介してシステム700の上述の構成要素それぞれと情報を交換できる。
【0129】
動作時には、イオンビーム源702は、複数の一次イオン716aを含むイオンビーム716を発生する。イオンビーム716は、ステージ706上に位置決めされた試料550に入射する。オプションで、特定の実施形態では、電圧源708が、試料550を支持する支持体552に電位を印加する。イオンビーム716内の一次イオン716aは試料550と相互作用して、二次イオン718aを二次イオンビーム718として発生する。二次イオンビーム718は、イオン収集光学素子710によって集められ、検出装置712内に向けて誘導される。検出装置712は、二次イオンビーム718内の二次イオン718aに対応する1つ以上のイオンカウントを測定し、測定されたイオンカウントに対応する電気信号を発生する。コントローラ714は、検出装置712から測定電気信号を受信し、二次イオン718a及び試料550に関する情報を特定するためこの電気信号を分析する。
【0130】
コントローラ714は、システム700の種々の構成要素のさまざまな動作パラメータを調整でき、情報(例えば、制御信号)を送信し、システム100の構成要素から情報(例えば、測定値及び/又は状態情報に対応した電気信号)を受信できる。例えば、幾つかの実施形態では、コントローラ714は、イオンビーム源702を作動させ、イオンビーム716のイオン電流、イオンビーム716のビームウェスト、及びイオンビーム源702の中心軸722に対するイオンビーム716の伝播方向などのイオンビーム源702の動作パラメータを調節できる。概して、コントローラ714は、信号線720aを介してイオンビーム源702に適切な制御信号を送信することによって、イオンビーム源702の動作パラメータを調整する。さらに、コントローラ714は、イオンビーム源702から信号線720aを介して情報(イオンビーム716のイオン電流、イオンビーム716のビームウェスト、イオンビーム716の伝播方向、及びイオンビーム源702の構成要素に印加される様々な電位を含む情報)を受信できる。
【0131】
イオンビーム光学素子704は、一般的に、電界及び/又は磁界を使ってイオンビーム716の属性を制御する様々な素子を含む。例えば、幾つかの実施形態では、イオンビーム光学素子704は、試料550上でイオンビーム716の入射724位置におけるイオンビーム716のスポットサイズを調節する1つ以上のビーム集束素子を含む。幾つかの実施形態では、イオンビーム光学素子704は、軸722に対してイオンビーム716を偏向させる1つ以上のビーム偏向素子を含み、試料上でイオンビーム716の入射724位置を調節する。イオンビーム光学素子704は、1つ以上のアパーチャ、抽出電極、ビーム遮断素子、及び試料550に入射するイオンビーム716を方向付ける助けとなる他の素子を含む多様な他の素子も含むことができる。
【0132】
コントローラ714は、概して、信号線720bを介して送信される適切な制御信号を介して上述の任意素子の特性を調節できる。例えば、コントローラ714は、信号線720bを介してビーム集束素子に印加される電位を調節することで、イオンビーム光学素子704の1つ以上のビーム集束素子の集束特性を調節できる。同様に、コントローラ714は、信号線720bを介してビーム偏向素子に印加される電位を調節することで、イオンビーム716の伝播方向(及び試料550に入射するイオンビーム716の入射724位置)を調節できる。さらに、コントローラ714は、信号線720bで送信される適切な制御信号を介して、イオンビーム光学素子704内の1つ以上のアパーチャ及び/又はビーム遮断素子の位置を調節し、且つイオンビーム光学素子704内の抽出電極に印加される電位を調節できる。イオンビーム光学素子704の特性を調節することに加え、コントローラ714は、イオンビーム光学素子704の構成要素に印加される電位に関する情報及び/又はイオンビーム光学素子704の構成要素の位置に関する情報を含む、イオンビーム光学素子704の様々な構成要素から情報を受信できる。
【0133】
ステージ706は、試料550(及び支持体552)を支持するための表面を含む。概して、ステージ706は、x、y、z座標方向のそれぞれに並進させることができる。コントローラ714は、信号線720dで制御信号を送信することによって、ステージ706を上述の方向の何れかに並進させることができる。試料550上でのイオンビーム716の入射724位置を並進させるには、コントローラ714は、イオンビーム光学素子704の偏向素子に印加される1つ以上の電位を調節し(例えば、軸722に対してイオンビーム716を偏向させるため)、信号線720dで送信される制御信号を介してステージ706の位置を調節し、且つ/又はイオンビーム光学素子704の偏向素子及びステージ106の位置の両方を調節すればよい。さらに、コントローラ714は、信号線720dに沿って送信されるステージ706の位置に関する情報を受信する。
【0134】
幾つかの実施形態では、システム700は、電極708a及び708bを介して支持体552に接続された電圧源708を含んでいる。電圧源708は、コントローラ714によって(信号線720cで送信される適切な制御信号を介して)作動されると、電位を支持体552に印加する。印加された電位は、この電位が二次イオン718aと反発するので、試料550からの二次イオンビーム718を捕捉する助けとなり、二次イオンが、収集光学素子710にむけて試料550から離れることになる。
【0135】
複数の二次イオン718aからなる二次イオンビーム718は、イオン収集光学素子710によって捕捉される。概して、イオン収集光学素子710は、二次イオンビーム718を偏向させ且つ集束するための様々な電界及び磁界発生素子を含むことができる。さらに、イオン収集光学素子710は、1つ以上のアパーチャと、ビーム遮断素子と、電極とを含むことができる。イオンビーム光学素子704に関連して上述したように、コントローラ714は、信号線720eで送信される適切な制御信号を介してイオン収集光学素子710の各構成要素に印加される電位を調節できる。コントローラ714は、信号線720eで制御信号を送信することで、アパーチャ、ビーム遮断素子、及びイオン収集光学素子710の他の可動要素の位置を調節できる。さらに、コントローラ714は、信号線720eでイオン収集光学素子710の様々な構成要素の動作パラメータ(例えば、電圧、位置)に関する情報を受信できる。
【0136】
イオン収集光学素子710は、二次イオンビーム718を検出装置712内に向ける。検出装置712は、二次イオンビーム718内の様々な種類の二次イオン718aに対応するイオンカウント又は電流を測定し、測定されたイオンカウント又は電流に関する情報を含む出力信号を発生する。コントローラ714は、適切な制御信号を信号線720fを介して送信することで、最大及び最小イオンカウント検出閾値、信号積算時間、イオンカウントが測定される質量電荷比(m/z)値の範囲、イオンカウントが測定されるダイナミックレンジ、及び検出装置712の様々な構成要素に印加される電位を含む検出装置712の様々な動作パラメータを調節できる。
【0137】
コントローラ714は、信号線720fで、測定されたイオンカウント又は電流に関する情報を含む出力信号を検出装置から受信する。さらに、コントローラ714は、上述した様々な動作パラメータの値を含む、検出装置712の様々な構成要素の動作パラメータ情報を、信号線720fを介して受信できる。
【0138】
検出装置712は、二次イオンビーム718に対応するイオンカウント/電流を測定するための様々な構成要素を含むことができる。幾つかの実施形態では、検出装置712は飛行時間(TOF)検出器に対応できる。特定の実施形態では、検出装置712は、イオンがその作用表面に入射する際に電気信号を発生するファラデーカップなどの1つ以上イオン検出器を含むことができる。幾つかの実施形態では、検出装置712は、入射イオンが電子増倍管に入ってそこで対応する電子バーストを発生する増倍検出器(multiplying detector)として実装できる。この電子バーストは電気信号として直接的に検出でき、又は、入射電子に応答して光子(すなわち光学信号)を発生するコンバータに入射できる。これら光子は、出力電気信号を発生する光学検出器で検出される。
【0139】
上述のように、コントローラ714は、システム700の多種多様な動作パラメータを調節し、これら動作パラメータの値を受信且つ監視し、試料550から発生された二次イオン718a(及び他の種)に関する情報を含む電気信号を受信できる。コントローラ714はこれら電気信号を分析して、二次イオン718a及び他の種に関する情報を抽出する。抽出された情報に基づいて、コントローラ714は、システム700の動作パラメータを調節してシステム動作(例えば、m/z解像度、検出感度)を改善し、システム700によって測定されるデータ(例えば、イオンカウント)の精度及び再現性を改善できる。さらに、コントローラ714は、表示処理を実行してシステムのユーザーに、試料550内の様々な質量タグの分布を示す試料550の画像を示し、これら分布に関する情報を不揮発性記憶媒体に記憶する記憶処理を実行できる。
【0140】
イオン源702により発生される様々な一次イオンビーム716を用いて試料550を曝すことができる。幾つかの実施形態では、例えば、一次イオンビーム716は、複数の酸素イオン(O-)からなる。例えば、イオン源702は、一次イオンビーム716を発生する酸素デュオプラズマトロン源として実装できる。
【0141】
試料550からの空間分解情報を得るために、一次イオンビーム716は、試料550上で多数の異なる入射724位置に並進される。これら多数の異なる入射位置は、試料550の平面で(すなわちx-y平面に平行な面で)一次イオンビーム716の二次元暴露パターンを形成する。
【0142】
それぞれの入射724位置で、一次イオンビーム716は、その位置で試料550に結合した抗体共役質量タグに対応する二次イオン718aを発生する。二次イオン718aは二次イオンビーム718を形成し、二次イオンビーム718内の異なる種類の二次イオン718aに対応するイオンカウントとして検出装置712によって測定される。検出装置712は、測定されたイオンカウントに対応する電気信号を発生する。コントローラ714は、検出装置712から測定された電気信号を受信し、試料550上の入射724位置それぞれにおける二次イオン718aの種類及び存在度に基づいて、試料550の生化学的構造に関する空間分解情報を求めるためこの電気信号を分析する。
【0143】
付加的な試料調製工程およびイオンビームイメージングシステムの特徴は、米国仮特許出願第62/608,564号、第62/621,687号、及び第62/636,220号に記載されており、それぞれの内容全体はここに引用して援用する。
【0144】
(vii) システムハードウェア及びソフトウェア実装
上述のように、本明細書に記載したいずれの工程及び機能もコントローラ714によって実行できる。概して、コントローラ714は、単一の電子プロセッサ、複数の電子プロセッサ、1つ以上の集積回路(例えば、特定用途向けIC)、及び上述の素子の任意組合せを含むことができる。ソフトウェア及び/又はハードウェアに基づいた命令は、コントローラ714によって実行されて本明細書に記載された段階及び機能を実行する。コントローラ712は、データ記憶システム(メモリ及び/又は記憶素子)、少なくとも1つの入力装置、及び表示装置のような少なくとも1つの出力装置を含むことができる。各組のソフトウェアに基づいた命令は、有形の非一時的記憶媒体(例えば、CD-ROM若しくはDVDなどの光学記憶媒体、ハードディスクなどの磁気記憶媒体、又は持続性ソリッドステート記憶媒体)又は装置として実現され、ハイレベル手続き若しくはオブジェクト指向プログラミング言語、又はアセンブリ若しくは機械言語で実装できる。
【0145】
実例
ここで開示した標識組成物および共役標識試薬の有効性を実証するために、一連の実験を行い、様々なイオンビームイメージング動作時のこれら組成物および試薬の性能を評価した。
【0146】
図8は、共役標識試薬を形成するため遊離標識基を共役した後に回収された抗体の量を示すグラフである。グラフに示すように、1種類以上の安定剤を標識組成物に添加すると、回収される抗体の量が増加する。標識組成物に添加されたトレハロースとマンニトールの組み合わせでは、共役後に元々の抗体の約90%が回収される結果となった。
【0147】
図9は、調製されたばかりの(インサイチュー)標識組成物に共役した抗体に対する、予め調製して-20℃で安定化して保存した(0か月経過)標識組成物と、標識組成物の経時変化を促進するために異なる期間(6か月、12か月経過)にわたって37℃で保存した標識組成物とに共役した抗体に関する、誘導結合プラズマ質量分析法を用いて抗体1分子あたりの質量タグの存在量を定量化するための実験の結果を示すグラフである。予め調製した標識組成物と共役した抗体は、質量タグの存在度がより大きくなり、経時変化の影響を受けていないようであった。
【0148】
図10および
図11は、結腸組織(
図10)および胎盤組織(
図11)のMIBI画像を示す。各図には、試料組織を、調製されたばかりのケラチン共役金属キレート化ポリマーで標識した第1の画像(左側)と、試料組織を、あらかじめ調製して12か月間保存したケラチン共役標識組成物で標識した第2の画像(右側)が含まれている。いずれの組織タイプにおいても、測定された信号やバックグラウンドの二次イオンの存在度に違いは見られなかった。
【0149】
図12は、標識試薬の組成物中のポリマー分子1個あたりの様々な金属タグの相対的なローディング(loading)を、誘導結合プラズマ質量分析法を用いて定量化するための実験の結果を示すグラフである。本明細書に記載された方法にしたがって39種類の異なる金属タグをロードしたポリマーを調製して凍結乾燥し,各ポリマー中の金属タグの相対的な濃度レベルを質量分析によって定量化した。測定された相対濃度レベルは,共役金属タグの原子質量の関数としてグラフに示されている。
【0150】
濃度レベルは、「1」の値(破線で示されている)に対する相対値で表されており、「1」の値は実験的に求められた濃度レベルであって、理想的な抗体の生体共役反応と金属タグレポーターの生物検定の成功につながる、金属タグ取り込みが増強した濃度レベルである。
図12に示すように、39種類の標識試薬はすべて、多種多様な生物検定に適した金属タグの取り込みレベルで合成することに成功した。
【0151】
他の実施形態
幾つかの実施形態を説明してきた。しかしながら、本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく多くの修正が可能なことは理解されるであろう。従って、これ以外の実施形態も次の特許請求の範囲に入る。
【国際調査報告】