(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-07
(54)【発明の名称】組換え抗ヒトPD-1抗体およびその用途
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220228BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220228BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220228BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220228BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220228BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220228BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20220228BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20220228BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220228BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220228BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20220228BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220228BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220228BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220228BHJP
A61K 47/46 20060101ALI20220228BHJP
A61K 35/768 20150101ALI20220228BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20220228BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20220228BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K16/28
C07K16/46
A61P35/00
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61K39/395 G
A61K39/395 U
A61K47/68
A61K48/00
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K47/46
A61K35/768
A61K39/00 H
C12N15/62 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021540076
(86)(22)【出願日】2020-01-10
(85)【翻訳文提出日】2021-09-06
(86)【国際出願番号】 CN2020071353
(87)【国際公開番号】W WO2020143749
(87)【国際公開日】2020-07-16
(31)【優先権主張番号】201910022548.9
(32)【優先日】2019-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】519187241
【氏名又は名称】マブウェル (シャンハイ) バイオサイエンス カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】チャン ジンチャオ
(72)【発明者】
【氏名】ワン ロンジュアン
(72)【発明者】
【氏名】チャオ シャシャ
(72)【発明者】
【氏名】ワン シュアン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA87X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE57
4C076EE59
4C076FF02
4C084AA13
4C084AA19
4C084MA02
4C084NA14
4C084ZB092
4C084ZB261
4C084ZC751
4C085AA03
4C085AA06
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA15
4C085AA16
4C085BB12
4C085BB31
4C085BB33
4C085BB34
4C085BB35
4C085BB36
4C085BB37
4C085BB41
4C085BB43
4C085CC02
4C085CC05
4C085CC33
4C085DD62
4C085DD63
4C085DD88
4C085EE01
4C085EE03
4C085GG06
4C087AA01
4C087BC83
4C087MA02
4C087NA05
4C087ZB26
4C087ZC75
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA41
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)に結合する抗体またはその断片、および腫瘍またはがんを予防または治療する際の本抗体またはその断片の使用を提供する。本発明の抗体またはその断片は、PD-1/PD-L1およびPD-1/PD-L2の相互作用を効果的に遮断することができ、特有の抗原結合エピトープを有し、かつ、有効性および安全性という点で特有の特性を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)に結合することが可能な抗体またはその断片であって、
軽鎖可変領域および/または重鎖可変領域を含み、
軽鎖可変領域が、それぞれ以下の配列に示されているような、軽鎖CDR1(LCDR1)、CDR2(LCDR2)、CDR3(LCDR3)を含み、かつ/または、重鎖可変領域が、それぞれ以下の配列に示されているような、重鎖CDR1(HCDR1)、CDR2(HCDR2)およびCDR3(HCDR3)を含む:
、抗体またはその断片。
【請求項2】
軽鎖可変領域および/または重鎖可変領域が、それぞれ以下の配列に示されているような、LCDR1、LCDR2、LCDR3および/またはHCDR1、HCDR2、HCDR3を含む:
、請求項1記載の抗体またはその断片。
【請求項3】
軽鎖可変領域および/または重鎖可変領域が、それぞれ以下の配列に示されているような、LCDR1、LCDR2、LCDR3および/またはHCDR1、HCDR2、HCDR3を含む、請求項1または2記載の抗体またはその断片:
SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:10およびSEQ ID NO:11からなる群より選択されるLCDR1;
SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、SEQ ID NO:15、SEQ ID NO:16およびSEQ ID NO:17からなる群より選択されるLCDR2;
SEQ ID NO:18、SEQ ID NO:19、SEQ ID NO:20、SEQ ID NO:21、SEQ ID NO:22、SEQ ID NO:23、SEQ ID NO:24、SEQ ID NO:25、SEQ ID NO:26およびSEQ ID NO:27からなる群より選択されるLCDR3;ならびに/または
SEQ ID NO:28、SEQ ID NO:29、SEQ ID NO:30、SEQ ID NO:31、SEQ ID NO:32およびSEQ ID NO:33からなる群より選択されるHCDR1;
SEQ ID NO:34、SEQ ID NO:35、SEQ ID NO:36、SEQ ID NO:37、SEQ ID NO:38、SEQ ID NO:39、SEQ ID NO:40、SEQ ID NO:41、SEQ ID NO:42、SEQ ID NO:43、SEQ ID NO:44、SEQ ID NO:45およびSEQ ID NO:46からなる群より選択されるHCDR2;
SEQ ID NO:47、SEQ ID NO:48、SEQ ID NO:49、SEQ ID NO:50、およびSEQ ID NO:51からなる群より選択されるHCDR3。
【請求項4】
軽鎖可変領域が、以下のような配列組み合わせからなる群より選択されるLCDR1、LCDR2、LCDR3を含み:
、かつ/または、重鎖可変領域が、以下のような配列組み合わせからなる群より選択されるHCDR1、HCDR2、HCDR3を含む:
;好ましくは、軽鎖可変領域および重鎖可変領域が、以下のような配列組み合わせからなる群より選択されるLCDR1、LCDR2、LCDR3およびHCDR1、HCDR2、HCDR3を含む:
、請求項1~3のいずれか一項記載の抗体またはその断片。
【請求項5】
(1)PD-1がそのリガンドPD-L1またはPD-L2に結合するのを遮断する;
(2)霊長類PD-1に特異的に結合し、非霊長類PD-1と交差反応性を示さない;
(3)PD-1以外のCD28ファミリーのメンバーへの結合を示さない;
(4)CD4+ T細胞においてIL-2および/またはIFN-γの産生を誘導する;ならびに
(5)ADCCエフェクター機能を有さない
からなる群より選択される1つまたは複数の活性を有する、請求項1~4のいずれか一項記載の抗体またはその断片であって、
好ましくは、抗体またはその断片が、ヒトPD-1のN58にある糖鎖に結合し;
好ましくは、抗体またはその断片の重鎖可変領域が、SEQ ID NO:47に示されるようなアミノ酸配列を含み;
好ましくは、軽鎖可変領域が、SEQ ID NO:52もしくはSEQ ID NO:60に示されるようなアミノ酸配列、またはSEQ ID NO:52もしくはSEQ ID NO:60に示されるようなアミノ酸配列に対して少なくとも75%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み;かつ/または、重鎖可変領域が、SEQ ID NO:54もしくはSEQ ID NO:62に示されるようなアミノ酸配列、またはSEQ ID NO:54もしくはSEQ ID NO:62に示されるようなアミノ酸配列に対して少なくとも75%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み;
好ましくは、「少なくとも75%の配列同一性」が、75%以上の任意の同一性パーセント、例えば、少なくとも80%、好ましくは、少なくとも85%、より好ましくは、少なくとも90%、さらにより好ましくは、少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%またはさらには99%の同一性のことを指す、
抗体またはその断片。
【請求項6】
軽鎖可変領域が、SEQ ID NO:60に示されるようなアミノ酸配列、またはそのバリアントを含み;
SEQ ID NO:60に示されるような配列のアミノ酸残基の番号付けおよび組成を基準にして、該バリアントが、SEQ ID NO:60と比較して、K24R、E30S、V32A、V32Y、W50A、W50G、H55A、H55Q、T56S、Y91A、Y91F、S92D、S92N、R93N、R93S、Y94F、W96GおよびW96Yからなる群より選択される1つまたは複数の、好ましくは1~3個のアミノ酸置換を有し;
好ましくは、該バリアントが、SEQ ID NO:60と比較して、K24R、V32A、V32Y、T56S、S92D、S92N、R93SおよびY94Fからなる群より選択される1つまたは複数の、好ましくは1~3個のアミノ酸置換を有する、
請求項1~5のいずれか一項記載の抗体またはその断片。
【請求項7】
重鎖可変領域が、SEQ ID NO:62に示されるようなアミノ酸配列、またはそのバリアントを含み;
SEQ ID NO:62に示されるような配列のアミノ酸残基の番号付けおよび組成を基準にして、該バリアントが、SEQ ID NO:62と比較して、S31D、Y32A、Y32N、D33S、D33Y、S52K、S52W、G53S、G53Y、G54D、G54S、G55S、S56G、Y57T、Y59A、Y59T、D100E、D100Y、S101AおよびY106Tからなる群より選択される1つまたは複数の、好ましくは1~3個のアミノ酸置換を有し;
好ましくは、該バリアントが、SEQ ID NO:62と比較して、S31D、Y32A、D33S、G53S、G54S、G55S、Y59AおよびD100Yからなる群より選択される1つまたは複数の、好ましくは1~3個のアミノ酸置換を有する、
請求項1~6のいずれか一項記載の抗体またはその断片。
【請求項8】
抗体が、モノクローナル抗体、単鎖抗体、二機能性抗体、単一ドメイン抗体、ナノボディ、完全もしくは部分的ヒト化抗体またはキメラ抗体などのいずれかであることができ;好ましくは、抗体が、IgA、IgD、IgE、IgG、またはIgM抗体であり、より好ましくはIgGlまたはIgG4抗体であり;
好ましくは、断片が、PD-1またはその任意の部分に特異的に結合することが可能な抗体の任意の断片であり;より好ましくは、断片が、抗体の断片scFv、BsFv、dsFv、(dsFv)2、Fab、Fab'、F(ab')2またはFvであり;
より好ましくは、抗体の重鎖定常領域が、IgG1またはIgG4サブタイプのものであり、軽鎖定常領域が、κタイプのものであり;
さらに好ましくは、抗体の軽鎖定常領域が、SEQ ID NO:56もしくはSEQ ID NO:64に示されるようなアミノ酸配列、またはSEQ ID NO:56もしくはSEQ ID NO:64に示されるようなアミノ酸配列に対して少なくとも75%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み;かつ/または、重鎖定常領域が、SEQ ID NO:58もしくはSEQ ID NO:66に示されるようなアミノ酸配列、またはSEQ ID NO:58もしくはSEQ ID NO:66に示されるようなアミノ酸配列に対して少なくとも75%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み;
好ましくは、「少なくとも75%の配列同一性」が、75%以上の任意の同一性パーセント、例えば、少なくとも80%、好ましくは、少なくとも85%、より好ましくは、少なくとも90%、さらにより好ましくは、少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%またはさらには99%の同一性のことを指す、
請求項1~7のいずれか一項記載の抗体またはその断片。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項記載の抗体またはその断片を含む、コンジュゲートまたは融合タンパク質。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項記載の抗体またはその断片中の重鎖CDR、軽鎖CDR、重鎖可変領域、軽鎖可変領域、重鎖または軽鎖をコードするヌクレオチド配列を含む、核酸分子であって、好ましくは、SEQ ID NO:53、SEQ ID NO:55、SEQ ID NO:57、SEQ ID NO:59、SEQ ID NO:61、SEQ ID NO:63、SEQ ID NO:65またはSEQ ID NO:67に示されるようなヌクレオチド配列を含む、核酸分子。
【請求項11】
請求項10記載の核酸分子を含む、ベクター。
【請求項12】
請求項10記載の核酸分子および/もしくは請求項11記載のベクターを含む、または請求項10記載の核酸分子および/もしくは請求項11記載のベクターで形質転換もしくはトランスフェクトされた、宿主細胞。
【請求項13】
請求項1~8のいずれか一項記載の抗体もしくはその断片、請求項9記載のコンジュゲートもしくは融合タンパク質、請求項10記載の核酸分子、請求項11記載のベクターおよび/または請求項12記載の宿主細胞と、任意で、薬学的に許容される賦形剤とを含む、薬学的組成物。
【請求項14】
腫瘍またはがんの予防または治療のための医薬を製造するための、請求項1~8のいずれか一項記載の抗体もしくはその断片、請求項9記載のコンジュゲートもしくは融合タンパク質、請求項10記載の核酸分子、請求項11記載のベクター、請求項12記載の宿主細胞および/または請求項13記載の薬学的組成物の、使用。
【請求項15】
以下を含む、薬学的組み合わせ:
(1)請求項1~8のいずれか一項記載の抗体もしくはその断片、請求項9記載のコンジュゲートもしくは融合タンパク質、請求項10記載の核酸分子、請求項11記載のベクター、請求項12記載の宿主細胞および/または請求項13記載の薬学的組成物;
(2)他の免疫増強剤または免疫増強手段、例えば、低分子化学薬品、標的化剤、抗体などの組換えタンパク質薬、ワクチン、ADC、腫瘍溶解性ウイルス、遺伝子療法および核酸療法のための薬物、ならびに放射線療法。
【請求項16】
請求項1~8のいずれか一項記載の抗体もしくはその断片、請求項9記載のコンジュゲートもしくは融合タンパク質、請求項10記載の核酸分子、請求項11記載のベクター、請求項12記載の宿主細胞および/または請求項13記載の薬学的組成物を含む、キット。
【請求項17】
腫瘍またはがんを予防または治療する方法であって、その必要性のある対象に、請求項1~8のいずれか一項記載の抗体もしくは断片、請求項9記載のコンジュゲートもしくは融合タンパク質、請求項10記載の核酸分子、請求項11記載のベクター、請求項12記載の宿主細胞および/または請求項13記載の薬学的組成物と、任意で、他の薬物または手段とを投与することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2019年1月10日に出願された中国特許出願第201910022548.9号の優先権の恩典を主張するものであり、該特許出願は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0002】
技術分野
本発明は、抗体ベースの薬物の分野に関する。特に、本発明は、ヒトPD-1に対する抗体、および医薬を製造するための該抗体の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
プログラム細胞死タンパク質1、またはPD-1(CD279としても公知)は、T細胞受容体のCD28ファミリーのメンバーであり、T細胞、B細胞、単球などの様々な免疫細胞の表面に発現される。PD-1は、腫瘍微小環境内のCD4+およびCD8+ T細胞の機能を抑制する重要な免疫チェックポイント分子である。PD-L1(B7-H1)およびPD-L2(B7-DC)を含む、PD-1に対する主要なリガンドは、免疫細胞によって発現され、また様々な組織上で誘導され得る。PD-L1またはPD-L2がT細胞上のPD-1に結合すると、T細胞は抑制シグナルを受け取り、次いで、T細胞の増殖およびT細胞によるサイトカインの産生が抑制され、T細胞が関与する免疫応答が効果的に低減される。加えて、多くのヒト腫瘍細胞は、腫瘍細胞上でのPD-L1およびPD-L2の高発現レベルに因り、T細胞免疫監視機構を回避することができる(Pardoll DM. The blockade of immune checkpoints in cancer immunotherapy. Nat. Rev. Cancer12(4), 252-264 (2012)(非特許文献1))。
【0004】
現在、3つの抗ヒトPD-1モノクローナル抗体が世界で承認されている。1つ目は、ニボルマブであり、これは、PD-1がPD-L1およびPD-L2に結合するのを抑制する活性を示し、進行性黒色腫、非小細胞肺がん、腎細胞がん、ホジキンリンパ腫、頭頸部扁平上皮がん、尿路上皮がん、結腸直腸がんおよび肝細胞がんの処置において臨床的に使用される、ヒトPD-1に対する完全ヒト抗体である;2つ目は、ペムブロリズマブであり、これは、PD-1がPD-L1およびPD-L2に結合するのを抑制する活性を示し、悪性黒色腫、非小細胞肺がん、古典的ホジキンリンパ腫、頭頸部扁平上皮がん、d-mmr変異を伴う悪性腫瘍またはMSI-H悪性腫瘍の処置において臨床的に使用される、ヒトPD-1に対するヒト化抗体である(Alsaab et al. PD-1 and PD-L1 Checkpoint Signaling Inhibition for Cancer Immunotherapy: Mechanism, Combinations, and Clinical Outcome. Front. Pharmacol. 8:561(非特許文献2))。3つ目は、セミプリマブ(Libtayo)であり、これは、PD-1に結合してPD-1とPD-L1およびPD-L2との相互作用を遮断し、PD-1経路によって媒介される免疫応答(抗腫瘍免疫応答を含む)の抑制を解除する、抗ヒトPD-1モノクローナル抗体である。セミプリマブは、転移性皮膚扁平上皮細胞がん(CSCC)または局所進行性皮膚扁平上皮細胞がんの患者の処置に臨床的に使用される(Markham, A. & Duggan, S. Drugs. 2018. doi: 10.1007/s40265 -018-1012-5(非特許文献3))。中国では、10を超えるヒトPD-1に対するモノクローナル抗体が臨床段階にあり、適応は、再発・難治性悪性リンパ腫、ホジキンリンパ腫、B細胞非ホジキンリンパ腫、胞巣状軟部肉腫、進行性もしくは再発性悪性腫瘍、食道がん、胃がんおよび胃食道接合部腺がん、鼻咽頭がん、頭頸部扁平上皮がん、肺がん、転移性結腸直腸がん、限局性腎細胞がん、尿路上皮がん、肝細胞がん、黒色腫、進行トリプルネガティブ乳癌、胸膜中皮腫、進行性神経内分泌腫瘍、切除不能もしくはd-mmr変異を伴う充実性腫瘍またはMSI-H充実性腫瘍に及ぶ。モノクローナル抗体の中でも、Hengrui Medicineによって開発されたSHR-1210、Beigeneによって開発されたチスレリズマブ、およびInnovent Biologicsによって開発されたIBI-308について販売申請が提出されている;そして、Teriprolizumab Injection(商品名:Tuoyi)という名称のJunshi Biosciencesによって開発されたJS001は、2018年12月17日に条件付きで販売承認されている。
【0005】
国際的に、抗PD-1抗体の市販品が3つあり、多数の製品が臨床研究中である。関連する特許または特許出願は、WO2004004771、WO2006121168、WO2008156712、WO2010029435、WO2012145493、WO2015085847、US20170044260、CN104250302、CN105330740、CN105531288(特許文献1~10)などを含む。これらの特許または特許出願の分析から、抗PD-1抗体は、ハイブリドーマスクリーニングおよびヒト化、またはファージディスプレイもしくは酵母表面ディスプレイ技術を通じて、またはトランスジェニックマウス技術を通じて得ることができることが見いだされた。WO2015085847(特許文献6)に開示されている抗ヒトPD-1抗体を得るためのプロセスは、ハイブリドーマ技術の使用によるマウス抗体の作製、および抗体活性分析(ELISA(結合、および遮断)、親和性/反応速度)を通じたマウス抗体候補の取得;マウス抗体候補の軽鎖および重鎖可変領域配列をヒト抗体の軽鎖および重鎖定常領域配列の上流にクローニングすることによって得られた配列を哺乳動物細胞中で発現させることによる、キメラ抗体の調製;次いで、抗体活性分析、PD-1のそのリガンドへの結合の遮断アッセイ、抗PD-1抗体のCD28ファミリーの他のメンバーへの結合アッセイ、抗PD-1抗体の細胞表面上のPD-1への結合アッセイ、およびインビトロ細胞結合アッセイを通じたリード抗体の決定;Germlineデータベースにおけるヒト化テンプレートの選択、および抗体配列のヒト化設計の実施;得られたヒト化抗体に対する抗体活性分析、PD-1のそのリガンドへの結合の遮断アッセイ、抗PD-1抗体のCD28ファミリーの他のメンバーへの結合アッセイ、抗PD-1抗体の細胞表面上のPD-1への結合アッセイ、およびインビトロ細胞結合アッセイの再実施;インビトロまたはインビボ腫瘍細胞成長抑制実験を通じたヒト化抗体の薬剤としての有効性の評価、最後に、親和性および特異性に変化のないヒト化抗PD-1抗体の取得である。
【0006】
抗体が認識する抗原のエピトープが何であるかは、抗体の重要な特徴の1つである。抗PD-1抗体は、PD-1がそのリガンドPD-L1/PD-L2に結合するのを遮断することによって、T細胞を活性化する役割を果たす。報告されている抗体はすべて、PD-1とそのリガンドとの間の相互作用を遮断できるが、それらが標的とするエピトープは全く同じというわけではない(Tan S, Zhang H, Chai Y, et al. An unexpected N-terminal loop in PD-1 dominates binding by nivolumab. Nat Commun. 2017;8:14369(非特許文献4))。実際に、異なるエピトープにより、薬学的効果および安全性において特有の特徴が抗体にもたらされ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2004004771
【特許文献2】WO2006121168
【特許文献3】WO2008156712
【特許文献4】WO2010029435
【特許文献5】WO2012145493
【特許文献6】WO2015085847
【特許文献7】US20170044260
【特許文献8】CN104250302
【特許文献9】CN105330740
【特許文献10】CN105531288
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Pardoll DM. The blockade of immune checkpoints in cancer immunotherapy. Nat. Rev. Cancer12(4), 252-264 (2012)
【非特許文献2】Alsaab et al. PD-1 and PD-L1 Checkpoint Signaling Inhibition for Cancer Immunotherapy: Mechanism, Combinations, and Clinical Outcome. Front. Pharmacol. 8:561
【非特許文献3】Markham, A. & Duggan, S. Drugs. 2018. doi: 10.1007/s40265 -018-1012-5
【非特許文献4】Tan S, Zhang H, Chai Y, et al. An unexpected N-terminal loop in PD-1 dominates binding by nivolumab. Nat Commun. 2017;8:14369
【発明の概要】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、ハイブリドーマスクリーニングおよびヒト化を通じて、ヒトPD-1に高親和性で特異的に結合することが可能な抗体を得ることである。本発明の抗体は、PD-1/PD-L1またはPD-1/PD-L2の相互作用を効果的に遮断できるだけでなく、特有の抗原結合エピトープも有し、ひいては、薬学的効果および安全性において特有の特性を有する。
【0010】
上記の技術的課題に関して、本発明の目的の1つは、ヒトPD-1に特異的な抗体またはその機能的断片、およびその使用を提供することである。
【0011】
本発明によって提供される技術的解決策は、以下のとおりである。
【0012】
一局面では、本発明は、プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)に結合することが可能な抗体またはその断片であって、軽鎖可変領域および/または重鎖可変領域を含み、軽鎖可変領域が、それぞれ以下の配列に示されているような、軽鎖CDR1(LCDR1)、CDR2(LCDR2)、CDR3(LCDR3)を含み、かつ/または、重鎖可変領域が、それぞれ以下の配列に示されているような、重鎖CDR1(HCDR1)、CDR2(HCDR2)およびCDR3(HCDR3)を含む、抗体またはその断片を提供する:
。
【0013】
本発明によって提供される抗体またはその断片において、好ましくは、軽鎖可変領域および/または重鎖可変領域は、それぞれ以下の配列に示されているような、LCDR1、LCDR2、LCDR3および/またはHCDR1、HCDR2、HCDR3を含む:
。
【0014】
本発明によって提供される抗体またはその断片において、好ましくは、軽鎖可変領域および/または重鎖可変領域は、それぞれ以下の配列に示されているような、LCDR1、LCDR2、LCDR3および/またはHCDR1、HCDR2、HCDR3を含む:
SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:10およびSEQ ID NO:11からなる群より選択されるLCDR1;
SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、SEQ ID NO:15、SEQ ID NO:16およびSEQ ID NO:17からなる群より選択されるLCDR2;
SEQ ID NO:18、SEQ ID NO:19、SEQ ID NO:20、SEQ ID NO:21、SEQ ID NO:22、SEQ ID NO:23、SEQ ID NO:24、SEQ ID NO:25、SEQ ID NO:26およびSEQ ID NO:27からなる群より選択されるLCDR3;ならびに/または
SEQ ID NO:28、SEQ ID NO:29、SEQ ID NO:30、SEQ ID NO:31、SEQ ID NO:32およびSEQ ID NO:33からなる群より選択されるHCDR1;
SEQ ID NO:34、SEQ ID NO:35、SEQ ID NO:36、SEQ ID NO:37、SEQ ID NO:38、SEQ ID NO:39、SEQ ID NO:40、SEQ ID NO:41、SEQ ID NO:42、SEQ ID NO:43、SEQ ID NO:44、SEQ ID NO:45およびSEQ ID NO:46からなる群より選択されるHCDR2;
SEQ ID NO:47、SEQ ID NO:48、SEQ ID NO:49、SEQ ID NO:50、およびSEQ ID NO:51からなる群より選択されるHCDR3。
【0015】
本発明によって提供される抗体またはその断片において、好ましくは、軽鎖可変領域は、以下のような配列組み合わせからなる群より選択されるLCDR1、LCDR2、LCDR3を含み:
かつ/または、重鎖可変領域は、以下のような配列組み合わせからなる群より選択されるHCDR1、HCDR2、HCDR3を含む:
。
【0016】
好ましくは、軽鎖可変領域および重鎖可変領域は、以下のような配列組み合わせからなる群より選択されるLCDR1、LCDR2、LCDR3およびHCDR1、HCDR2、HCDR3を含む:
。
【0017】
本発明によって提供される抗体またはその断片は、以下からなる群より選択される1つまたは複数の活性を有する:
(1)PD-1がそのリガンドPD-L1またはPD-L2に結合するのを遮断する;
(2)霊長類PD-1に特異的に結合し、非霊長類PD-1と交差反応性を示さない;
(3)PD-1以外のCD28ファミリーのメンバーへの結合を示さない;
(4)CD4+ T細胞においてIL-2および/またはIFN-γの産生を誘導する;ならびに
(5)ADCCエフェクター機能を有さない。
【0018】
好ましくは、抗体またはその断片は、ヒトPD-1のN58にある糖鎖に結合する;好ましくは、抗体またはその断片の重鎖可変領域は、SEQ ID NO:47に示されるようなアミノ酸配列を含む。
【0019】
好ましくは、軽鎖可変領域は、SEQ ID NO:52もしくはSEQ ID NO:60に示されるようなアミノ酸配列、またはSEQ ID NO:52もしくはSEQ ID NO:60に示されるようなアミノ酸配列に対して少なくとも75%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み;かつ/または、重鎖可変領域は、SEQ ID NO:54もしくはSEQ ID NO:62に示されるようなアミノ酸配列、またはSEQ ID NO:54もしくはSEQ ID NO:62に示されるようなアミノ酸配列に対して少なくとも75%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0020】
好ましくは、「少なくとも75%の配列同一性」という用語は、75%以上の任意の同一性パーセント、例えば、少なくとも80%、好ましくは、少なくとも85%、より好ましくは、少なくとも90%、さらにより好ましくは、少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%またはさらには99%の同一性のことを指す。
【0021】
本発明の具体的な態様によれば、本発明によって提供される抗体またはその断片において、軽鎖可変領域は、SEQ ID NO:52に示されるようなアミノ酸配列を含み、重鎖可変領域は、SEQ ID NO:54に示されるようなアミノ酸配列を含む;または、軽鎖可変領域は、SEQ ID NO:60に示されるようなアミノ酸配列を含み、重鎖可変領域は、SEQ ID NO:62に示されるようなアミノ酸配列を含む。
【0022】
本発明によって提供される抗体またはその断片において、好ましくは、軽鎖可変領域は、SEQ ID NO:60に示されるようなアミノ酸配列またはそのバリアントを含み;SEQ ID NO:60に示されるような配列のアミノ酸残基の番号付けおよび組成を基準にして、バリアントは、SEQ ID NO:60と比較して、K24R、E30S、V32A、V32Y、W50A、W50G、H55A、H55Q、T56S、Y91A、Y91F、S92D、S92N、R93N、R93S、Y94F、W96GおよびW96Yからなる群より選択される1つまたは複数の、好ましくは1~3個のアミノ酸置換を有し;好ましくは、バリアントは、SEQ ID NO:60と比較して、K24R、V32A、V32Y、T56S、S92D、S92N、R93SおよびY94Fからなる群より選択される1つまたは複数の、好ましくは1~3個のアミノ酸置換を有する;かつ/または、重鎖可変領域は、SEQ ID NO:62に示されるようなアミノ酸配列またはそのバリアントを含み;SEQ ID NO:62に示されるような配列のアミノ酸残基の番号付けおよび組成を基準にして、バリアントは、SEQ ID NO:62と比較して、S31D、Y32A、Y32N、D33S、D33Y、S52K、S52W、G53S、G53Y、G54D、G54S、G55S、S56G、Y57T、Y59A、Y59T、D100E、D100Y、S101AおよびY106Tからなる群より選択される1つまたは複数の、好ましくは1~3個のアミノ酸置換を有し;好ましくは、バリアントは、SEQ ID NO:62と比較して、S31D、Y32A、D33S、G53S、G54S、G55S、Y59AおよびD100Yからなる群より選択される1つまたは複数の、好ましくは1~3個のアミノ酸置換を有する。
【0023】
本発明の具体的な態様によれば、本発明は、バリアント抗体またはその断片を提供し、ここで、バリアント抗体またはその断片の重鎖可変領域は、SEQ ID NO:62に示されるようなアミノ酸配列を含み;一方、SEQ ID NO:60に示されるような配列のアミノ酸残基の番号付けおよび組成を基準にして、バリアント抗体またはその断片の軽鎖可変領域は、以下のアミノ酸置換のみ含む:1)K24R;2)E30S;3)V32A;4)V32Y;5)W50A;6)W50G;7)H55A;8)H55Q;9)T56S;10)Y91A;11)Y91F;12)S92D;13)S92N;14)R93N;15)R93S;16)Y94F;17)W96G;18)W96Y;19)K24RおよびT56S;20)K24RおよびS92N;21)K24RおよびY94F;22)T56SおよびS92N;または、23)K24R、T56SおよびS92N。
【0024】
本発明の具体的な態様によれば、本発明は、バリアント抗体またはその断片を提供し、ここで、バリアント抗体またはその断片の軽鎖可変領域は、SEQ ID NO:60に示されるようなアミノ酸配列を含み;一方、SEQ ID NO:62に示されるような配列のアミノ酸残基の番号付けおよび組成を基準にして、バリアント抗体またはその断片の重鎖可変領域は、以下のアミノ酸置換のみ含む:1)S31D;2)Y32A;3)Y32N;4)D33S;5)D33Y;6)S52K;7)S52W;8)G53S;9)G53Y;10)G54D;11)G54S;12)G55S;13)S56G;14)Y57T;15)Y59A;16)Y59T;18)D100E;19)D100Y;20)S101A;21)Y106T;22)D33SおよびG54S;23)D33SおよびY59A;または、24)G54SおよびY59A。
【0025】
本発明の具体的な態様によれば、本発明は、バリアント抗体またはその断片を提供し、ここで、SEQ ID NO:60に示されるような配列のアミノ酸残基の番号付けおよび組成を基準にして、バリアント抗体またはその断片の軽鎖可変領域は、アミノ酸置換K24R、T56SおよびS92Nのみ含み、SEQ ID NO:62に示されるような配列のアミノ酸残基の番号付けおよび組成を基準にして、バリアント抗体またはその断片の重鎖可変領域は、アミノ酸置換D33SおよびG54S、またはアミノ酸置換G54SおよびY59Aのみ含む。
【0026】
本発明によって提供される抗体は、モノクローナル抗体、単鎖抗体、二機能性抗体、単一ドメイン抗体、ナノボディ、完全もしくは部分的ヒト化抗体またはキメラ抗体などのいずれかであることができる;好ましくは、抗体は、IgA、IgD、IgE、IgG、またはIgM抗体であり、より好ましくは、IgG1またはIgG4抗体である。
【0027】
本発明によって提供される断片は、PD-1またはその任意の部分に結合することが可能な抗体の任意の断片である;好ましくは、断片は、抗体の断片scFv、BsFv、dsFv、(dsFv)2、Fab、Fab'、F(ab')2またはFvである。
【0028】
好ましくは、本発明によって提供される抗体の重鎖定常領域は、IgG1またはIgG4サブタイプのものであり、軽鎖定常領域は、κタイプのものである。
【0029】
より好ましくは、抗体の軽鎖定常領域は、SEQ ID NO:56もしくはSEQ ID NO:64に示されるようなアミノ酸配列、またはSEQ ID NO:56もしくはSEQ ID NO:64に示されるようなアミノ酸配列に対して少なくとも75%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み;かつ/または、抗体の重鎖定常領域は、SEQ ID NO:58もしくはSEQ ID NO:66に示されるようなアミノ酸配列、またはSEQ ID NO:58もしくはSEQ ID NO:66に示されるようなアミノ酸配列に対して少なくとも75%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む;ここで、「少なくとも75%の配列同一性」という用語は、75%以上の任意の同一性パーセント、例えば、少なくとも80%、好ましくは、少なくとも85%、より好ましくは、少なくとも90%、さらにより好ましくは、少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%またはさらには99%の同一性のことを指す。
【0030】
本発明の具体的な態様によれば、本発明によって提供される抗体において、軽鎖可変領域は、SEQ ID NO:52に示されるようなアミノ酸配列を含み、軽鎖定常領域は、SEQ ID NO:56に示されるようなアミノ酸配列を含み、重鎖可変領域は、SEQ ID NO:54に示されるようなアミノ酸配列を含み、かつ、重鎖定常領域は、SEQ ID NO:58に示されるようなアミノ酸配列を含む;あるいは、軽鎖可変領域は、SEQ ID NO:60に示されるようなアミノ酸配列を含み、軽鎖定常領域は、SEQ ID NO:62に示されるようなアミノ酸配列を含み、重鎖可変領域は、SEQ ID NO:64に示されるようなアミノ酸配列を含み、かつ、重鎖定常領域は、SEQ ID NO:66に示されるようなアミノ酸配列を含む。
【0031】
本発明によって提供される抗体またはその断片に基づいて、本発明はまた、本発明の抗体またはその断片を含むコンジュゲートまたは融合タンパク質も提供する。コンジュゲートまたは融合タンパク質は、本発明の抗体またはその断片に物理的または化学的に関連する追加の部分を含み得、前記追加の部分は、例えば、細胞表面受容体、アミノ酸および炭水化物などの低分子化合物、低分子ポリマーまたは本発明の抗体を修飾する任意の他の部分であることも、さらには活性なタンパク質またはポリペプチドであることもできる。例えば、コンジュゲートまたは融合タンパク質は、本発明の抗体またはその断片を含む二重特異性抗体であることができる。
【0032】
別の局面では、本発明は、本発明の任意の抗体またはその断片の重鎖CDR、軽鎖CDR、重鎖可変領域、軽鎖可変領域、重鎖または軽鎖をコードするヌクレオチド配列を含む、核酸分子を提供する。
【0033】
好ましくは、核酸分子は、SEQ ID NO:53、SEQ ID NO:55、SEQ ID NO:57、SEQ ID NO:59、SEQ ID NO:61、SEQ ID NO:63、SEQ ID NO:65またはSEQ ID NO:67に示されるようなヌクレオチド配列を含む。
【0034】
さらに別の局面では、本発明は、本発明の核酸分子を含むベクターを提供する。ベクターは、真核生物発現ベクター、原核生物発現ベクター、人工染色体およびファージベクターなどであることができる。
【0035】
本発明のベクターまたは核酸分子は、宿主細胞の形質転換もしくはトランスフェクトに使用することができ、または、保存もしくは抗体を発現させるなどのため、任意の手段によって宿主細胞に導入することができる。
【0036】
それゆえ、なお別の局面では、本発明は、本発明の核酸分子および/もしくはベクターを含む、または本発明の核酸分子および/もしくはベクターで形質転換もしくはトランスフェクトされた、宿主細胞を提供する。宿主細胞は、任意の原核生物または真核生物の細胞、例えば、細菌または昆虫、真菌、植物または動物の細胞であることができる。
【0037】
本発明の開示によれば、本発明によって提供される抗体もしくはその断片、ならびに対応するコンジュゲートもしくは融合タンパク質、核酸分子、ベクターおよび/または宿主細胞は、当技術分野において公知の従来の技術的手段を通じて得ることができる。抗体もしくはその断片、コンジュゲートもしくは融合タンパク質、核酸分子、ベクターおよび/または宿主細胞は、実際の必要性に応じて様々な目的のために、薬学的組成物中に、または、特に医薬製剤中に含めることができる。
【0038】
それゆえ、さらになお別の局面では、本発明はまた、本発明によって提供される抗体もしくはその断片、コンジュゲートもしくは融合タンパク質、核酸分子、ベクターおよび/または宿主細胞と、任意で、薬学的に許容される賦形剤とを含む、薬学的組成物も提供する。
【0039】
ヒトPD-1またはその任意の部分に特異的に結合する抗体またはその断片に基づいて、本発明はまた、上述した主題の関連用途も提供する。
【0040】
具体的には、さらになお別の局面では、本発明は、腫瘍またはがんの予防または治療のための医薬を製造するための、抗体もしくはその断片、コンジュゲートもしくは融合タンパク質、核酸分子、ベクター、宿主細胞および/または薬学的組成物の使用を提供する。好ましくは、腫瘍またはがんは、非小細胞肺がん、古典的ホジキンリンパ腫、胃がん、(原発性)肝臓がん、黒色腫、d-mmr変異を伴う悪性腫瘍またはMSI-H悪性腫瘍、子宮頚部がん、頭頸部扁平上皮がん、膀胱がん、原発性縦隔B細胞リンパ腫、腎細胞がん、結腸直腸がんおよび尿路上皮がんからなる群より選択される;より好ましくは、腫瘍またはがんは、非小細胞肺がん、黒色腫、結腸直腸がん、肝臓がん、頭頸部扁平上皮がん、古典的ホジキンリンパ腫または尿路上皮がんである。
【0041】
また別の局面では、本発明は、以下を含む、薬学的組み合わせを提供する:
(1)本発明によって提供される抗体もしくはその断片、コンジュゲートもしくは融合タンパク質、核酸分子、ベクター、宿主細胞および/または薬学的組成物;(2)他の免疫増強剤または免疫増強手段、例えば、低分子化学薬品、標的化剤、抗体などの組換えタンパク質薬、ワクチン、ADC、腫瘍溶解性ウイルス、遺伝子療法および核酸療法のための薬物、ならびに放射線療法。
【0042】
加えて、本発明は、腫瘍またはがんを予防または治療する方法であって、その必要性のある対象に、抗体もしくはその断片、コンジュゲートもしくは融合タンパク質、核酸分子、ベクター、宿主細胞および/または薬学的組成物と、任意で、他の薬物または手段とを投与することを含む方法を提供する。好ましくは、腫瘍またはがんは、非小細胞肺がん、古典的ホジキンリンパ腫、胃がん、(原発性)肝臓がん、黒色腫、d-mmr変異を伴う悪性腫瘍またはMSI-H悪性腫瘍、子宮頚部がん、頭頸部扁平上皮がん、膀胱がん、原発性縦隔B細胞リンパ腫、腎細胞がん、結腸直腸がんおよび尿路上皮がんからなる群より選択される;より好ましくは、腫瘍またはがんは、非小細胞肺がん、黒色腫、結腸直腸がん、肝臓がん、頭頸部扁平上皮がん、古典的ホジキンリンパ腫または尿路上皮がんである。「任意の他の薬物または手段」という用語は、本発明の抗体もしくはその断片、コンジュゲートもしくは融合タンパク質、核酸分子、ベクター、宿主細胞および/または薬学的組成物と組み合わせて投与することができる他の免疫増強剤または免疫増強手段、例えば、低分子化学薬品、標的化剤、抗体などの組換えタンパク質薬、ワクチン、ADC、腫瘍溶解性ウイルス、遺伝子療法および核酸療法のための薬物、ならびに放射線療法のことを指す。その2つの組み合わせ投与は、任意の順序で実行することができ、例えば、これらを、同時に、連続的に、またはある特定の時間間隔で、投与することができる。対象は、哺乳動物、好ましくは、ヒトである。
【0043】
さらにまた別の局面では、本発明は、本発明によって提供される抗体もしくはその断片、コンジュゲートもしくは融合タンパク質、核酸分子、ベクター、宿主細胞および/または薬学的組成物を含む、キットを提供する。
【0044】
本発明において、マウスを組換えヒトPD-1細胞外ドメインタンパク質(NCBI登録番号:NP_005009.2, 21aa-167aa)で免疫化し、次いで、マウスの脾臓細胞を採取し、ハイブリドーマ技術を用いたスクリーニングを通じて抗体を得た。得られた抗体(本発明において「317」と命名)は、組換えヒトPD-1細胞外ドメインタンパク質および細胞表面上のヒトPD-1の両方に対して高い結合親和性を有し、また、PD-1/PD-L1およびPD-1/PD-L2の受容体とリガンドの間の結合を特異的に遮断することもできる。さらに、ヒト化技術を通じて親和性および特異性に変化のないヒト化抗体(本発明において「h317」と命名)を得て、その後、IgG4であるその全抗体の活性について、結合、遮断、T細胞活性化の促進およびインビボ抗腫瘍有効性に関するアッセイにより総合評価を実施した。さらには、得られた抗体のFabとPD-1-ECDの結晶複合体を構築し、そして、抗体の抗原結合エピトープを結晶回折によって確認して、追加の変異体について検証した。
【0045】
実験は、本発明によって提供される抗体が、PD-1とPD-L1/PD-L2との間の結合を効果的に遮断でき、抗原結合に関してニボルマブおよびペムブロリズマブ(キイトルーダ)と競合できることを証明している。しかしながら、抗原-抗体複合体の結晶構造の解析結果によれば、本発明によって提供される抗体の抗原結合エピトープは、ニボルマブまたはキイトルーダのものと異なることが分かる。これに関して、本発明の抗体は、PD-1の58位でのGluのN-グリコシル化部位に関係する抗原エピトープを認識すると特定された最初の抗体である。
【0046】
具体的には、本発明は、先行技術と比較して以下の利点を有する。
【0047】
第一に、本発明の抗体は、高親和性を有する抗PD1ヒト化抗体である。
【0048】
本発明のヒト化抗PD-1抗体であるh317は、ヒトPD-1タンパク質に6.16E-09Mの親和性(KD)で特異的に結合することが示された一方で、対照抗体ニボルマブの親和性(KD)は8.06E-09Mであった。さらに、同じ条件下で、h317の解離定数(kd(1/s) 9.50E-04)は、ニボルマブの解離定数(kd(1/s):1.69E-03)よりも低かったが、このことは、h317がヒトPD-1に対して高親和性を有することを示しており、このことは、PD-1/PD-L1シグナル伝達経路に対するh317の抑制効果の根拠を提供する。
【0049】
第二に、本発明の抗体は、良好な生物活性を示す。
【0050】
実験結果は、本発明のh317が、組換えヒトPD-1とそのリガンドPD-L1およびPD-L2との間の結合を共に1.4nMのIC50値で効果的に遮断できることを示し、これは、対照抗体ニボルマブの遮断活性(IC50:1.3nM)と類似していた。加えて、インビトロ実験で実証されるように、h317は、ヒト混合リンパ球によるキラーサイトカインIL-2およびIFN-γの分泌を促進することができ、すなわち、h317は、Th1型細胞によって媒介される免疫応答を誘導することができる。
【0051】
第三に、本発明の抗体は、特別な抗原エピトープを認識する。
【0052】
本発明の抗体は、ヒトPD-1に特異的に結合し、それが結合する抗原エピトープは特有である。
【0053】
PD-1-h317-Fab複合体の全体の構造解析は、PD-1抗原(細胞外領域1~167aa)が、単量体として存在し、抗PD-1抗体のh317-Fab断片と1:1の比で複合体を形成することを示した。抗体が結合したPD-1の部位は主に、BCループ、C’DループおよびFGループを含むPD-1のループに位置していた。加えて、PD-1抗原の構造内に部位N49、N58およびN116でのグリコシル化を観察することができた一方で、部位N74でのグリコシル化は不明確であった。さらに、h317-Fabに結合する際のN58での糖鎖の関与も観察することができた。対照的に、PD-1抗原とその抗体との間で形成される任意の他の報告されている複合体の構造内のこの部位の糖鎖は、PD-1抗原と抗体との間の相互作用に関与しない。PD-1上の4つのグリコシル化部位を、結晶複合体によって提供される情報に従って部位特異的変異によりそれぞれアラニン(A)に変異させ、得られた変異PD-1(PD-1-mut)を担持するプラスミドを293細胞に一過性にトランスフェクトし、h317とPD-1-mutとの間の結合をFACSによって検出した。その結果、PD-1のN58位でのAへのアミノ酸変異によって、その位置がグリコシル化できなくなり、このことが、PD-1へのh317の結合能を喪失させたことが示された。これに関して、h317は、N58糖鎖に関係する抗原エピトープを認識すると特定された最初の抗体である。
【0054】
第四に、本発明の抗体は、PD-1トランスジェニックマウス異種移植腫瘍モデルにおいて明らかな抗腫瘍効果を有する。
【0055】
PD-1トランスジェニックマウス異種移植腫瘍モデルにおいて、h317は、高用量(10mg/kg)および中用量(2mg/kg)でPD-1トランスジェニックマウスにおける皮下異種移植腫瘍の成長を有意に抑制することが示され、高用量および中用量のh317で対照抗体ニボルマブと同等の腫瘍抑制効果が観察された。
【図面の簡単な説明】
【0056】
本発明の諸態様は、以降、添付の図面と組み合わせて詳細に説明される。
【0057】
【
図1A】
図1は、ELISAによって検出された、陽性ハイブリドーマの上清の、組換えヒトPD-1細胞外ドメインタンパク質への結合を示す
図1A~1Cを含み、
図1A、1Bおよび1Cは、それぞれ、第一、第二および第三のスクリーニングから得られた結果を示す。
【
図2】ELISAによって検出された陽性ハイブリドーマの上清と、異なる種由来の組換えPD-1との交差反応性を示し、図中のNivoは、ニボルマブを表す。
【
図3】クローン317の抗体サブタイプの特定を示し、結果は、重鎖がIgG1サブタイプであり、軽鎖がカッパ鎖であることを示す。
【
図4A】組換えヒトPD-1細胞外ドメインタンパク質に対するキメラ抗体317の親和性が検出された親和性アッセイの結果を示す。
【
図4B】組換えヒトPD-1細胞外ドメインタンパク質に対するニボルマブの親和性が検出された親和性アッセイの結果を示す。
【
図5A】組換えヒトPD-1細胞外ドメインタンパク質に対するh317の親和性が検出された親和性アッセイの結果を示す。
【
図5B】組換えヒトPD-1細胞外ドメインタンパク質に対するニボルマブの親和性が検出された親和性アッセイの結果を示す。
【
図6A】ELISAによって検出されたPD-1のPD-L1への結合の抑制に関するh317とニボルマブの競合を示す。
【
図6B】ELISAによって検出されたPD-1のPD-L2への結合の抑制に関するh317とニボルマブの競合を示す。
【
図7】異なる種由来の組換えPD-1へのh317の結合を分析するための曲線を示す。
【
図8】CD28ファミリーのメンバーへのh317の結合を分析するための曲線を示す。
【
図9A】MLRにおけるh317によって刺激されたIL-2の産生の検出結果を示す。
【
図9B】MLRにおけるh317によって刺激されたIFN-γの産生の検出結果を示す。
【
図10】h317によって媒介される、293T/hPD-1細胞に対するヒトPBMCのADCC効果の結果を示す。
【
図11】h317によってその成長が抑制された、PD-1トランスジェニックマウスにおける皮下移植腫瘍の体積の統計結果を示す。
【
図12】PD-1によって媒介されるh317のエンドサイトーシスを示す。
【
図13】PD-1-h317-Fab複合体の全体の構造を示す。
【
図14】PD-1-h317-Fab複合体を形成する分子間の相互作用を示すパネルA~Dを含み、パネルAは、PD-1とh317-Fabの結合領域を示し、パネルBは、BCループとh317-Fabとの間の相互作用を示し、パネルCは、C' Dループとh317-Fabとの間の相互作用を示し、パネルDは、FGループとh317-Fabとの間の相互作用を示す。
【
図15】PD-1のN58にある糖鎖とh317-Fabとの間の相互作用を示す。
【
図16】組換えヒトPD-1-mutタンパク質へのh317の結合を示す。
【
図17】PD-1への結合に関してh317-FabがPD-L1と競合することを示すパネルA~Bを含み、パネルAは、PD-1-h317-Fab複合体とPD-1-PD-L1との間の構造比較を示し、PD-1は灰色で示され、PD-L1は赤れんが色で示され、h317-Fabの重鎖および軽鎖はそれぞれ青色および緑色で示される;パネルBは、相互作用表面の比較を示し、PD-1の表面は灰色で示され、緑色で示される部分は、317-Fabと相互作用する部分であり、赤れんが色で示される部分は、PD-L1と相互作用する部分であり、黄色で示される部分は、317-FabとPD-L1の両方と相互作用する部分である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
好ましい態様の詳細な説明
本発明は、以降、特定の態様と組み合わせてさらに詳細に説明される。提供される態様は、決して本発明の範囲を限定するものではなく、本発明を例示するためだけに使用されることが当業者に理解されよう。
【0059】
以下の実施例の実験方法は、特に言及のない限り、すべて従来法である。以下の実施例において使用される原料および試薬は、特に言及のない限り、すべて市販されている製品である。
【実施例】
【0060】
実施例1:抗ヒトPD-1抗体を産生するハイブリドーマ細胞系統のスクリーニングおよび特定ならびに抗体配列の解析
免疫化:フロイントアジュバントおよび水溶性アジュバントをそれぞれ採用する2つの免疫化法をマウスの免疫化に使用した。フロイントアジュバントを採用する免疫化法では、0日目および14日目の2回のフロイントアジュバントの腹腔内注射によってマウスを免疫化し、水溶性アジュバントを採用する免疫化法では、0日目および21日目の2回の水溶性アジュバントの筋肉内注射によって8~10週齢のBalb/cマウスを免疫化した。免疫化に使用した抗原は、HEK293細胞において組換え発現され、Beijing Kohnoor Science & Technology Co., Ltdによって提供されている組換えヒトPD-1/mFcタンパク質(NCBI登録番号:NP_005009.2, 21aa-167aa, Lot: 2016.3.16)である。1回目の免疫化の用量は50μgであり、2回目の免疫化の用量は25μgであった。免疫化の前に採取したマウスの血清は、試験の陰性対照としての役割を果たした。フロイントアジュバントによる一次免疫化後の28日目と水溶性アジュバントによる一次免疫化後の35日目に、マウスの尾静脈から血液試料を採取し、次いで、組換えヒトPD-1タンパク質でコートされた96ウェルプレートを使用したELISAによって血清力価を測定した。血清力価が融合の要件を満たしたマウスを、抗原25μgのD-PBS希釈物500μlの腹腔内注射によって追加免疫した。一次免疫化後の38日目に、高血清力価を有するマウス由来の脾臓細胞をさらなる細胞融合のために収集した。
【0061】
細胞融合およびハイブリドーマの調製:一次免疫化後の38日目に、血清力価が融合の要件を満たしたマウスの眼球摘出によって血液を収集し、次いで、単離した血清を抗体検出用の陽性対照血清として使用した。さらに、マウスの脾臓を無菌採取し、Bリンパ球懸濁液を調製し、FO骨髄腫細胞と5:1の比で混合し、その2種類の細胞をPEG4000の作用下で融合させた。融合した細胞をHAT培地に再懸濁し、マクロファージを含有する96ウェルプレート中に分割した。プレートを37℃および5% CO2のインキュベーター内に2週間入れ、次いで、その中のHAT培地をHT培地と交換し、細胞をさらに2週間培養した後、HT培地をR1640完全培地と交換した。
【0062】
陽性ハイブリドーマのためのスクリーニング:融合の10~14日後、プレートを組換えヒトPD-1/Hisタンパク質(NCBI登録番号:NP_005009.2, 21aa-167aa, Lot: 2016.2.22)(10μg/ml、pH 9.6、0.1M NaHCO
3)にて4℃で一晩コートした。プレートを4%スキムミルク粉末-PBSにより37℃で2時間ブロッキングし、PBST(0.05% Tween 20-PBS)で3回洗浄した。その後、培養したハイブリドーマクローンの上清をプレートに加え、37℃で1時間インキュベートした。以下の対照を設定した:(1)陽性対照:免疫化後に分離したマウスの血清(PBSにて1:1000の希釈度で希釈);(2)陰性対照:免疫化前に分離したマウスの血清(PBSにて1:1000の希釈度で希釈);(3)ブランク対照:PBS。再度、プレートをPBST(0.05% Tween 20-PBS)で3回洗浄し、希釈度1:20000のHRPヤギ抗マウスIgG(Fcγ)を加え、37℃で1時間インキュベートした。もう一度、プレートをPBST(0.05% Tween 20-PBS)で5回洗浄し、発色のために発色試薬OPDを暗所で10~15分間加え、次いで、2M H
2SO
4を加えることによって反応を停止した。490nmでの吸光度(A490)をマイクロプレートリーダーで読み取った。陰性対照ウェルのものよりも2.1倍大きいA490を有するウェル中のクローンを陽性クローンとみなした。陽性クローンの信頼性を判定するために、先のスクリーニングにおいて使用した培地を交換した後1日おきに別のスクリーニングを実施し、合計3ラウンドのスクリーニングを実施した。検出および特定の後、抗体を分泌する複数の陽性細胞系統を得て、クローン:6、317、500、763、795、および904と命名した(
図1)。
【0063】
プレートを1μg/mLの濃度の組換えヒトPD-1/Hisタンパク質(NCBI登録番号:NP_005009.2, 21aa-167aa, Lot: 2016.2.22)、カニクイザルPD-1(Cat: 90311-C08H, Sino Biological Inc.)、ラットPD-1(Cat: 80448-R08H, Sino Biological Inc.)およびマウスPD-1(Cat: 50124-M08H, Sino Biological Inc.)にて4℃で一晩コートし、PBSで3回洗浄した後、5% BSA-PBSを加えて37℃で60分間ブロッキングした。プレートをPBSTで3回洗浄し、その後、100倍希釈したハイブリドーマの上清を加え、37℃で60分間インキュベートした。再度、プレートをPBSTで4回洗浄し、希釈度1:5000のHRPヤギ抗マウスIgG(Fcγ)(Cat: 115-035-071, Jackson Immuno Research)を加えて37℃で30分間のインキュベーションを行った。もう一度、プレートをPBSTで4回洗浄し、TMB基質を加えて37℃で10分間インキュベートすることにより発色させ、次いで、2M HClを加えることによって反応を停止した。630nmを参照波長として用いて、プレート内の各ウェルの450nmでの吸光度(A450nm-630nm)を読み取り、記録した。5つのハイブリドーマ細胞の上清(クローン317、500、763、795、および904に対応する)を、異なる種の組換えPD-1との交差反応性の検出に使用した。ELISAから得られた結果は、5つの上清中のすべての抗体が組換えヒトPD-1およびカニクイザルPD-1に特異的に結合することができるが、組換えラットPD-1およびマウスPD-1には結合しないことを示し、このことは、これらの抗体が交差反応性を有さないことを示している(
図2)。以下の配列特定のためにクローン317を選択した。
【0064】
抗ヒトPD-1抗体を分泌するクローン317のハイブリドーマ細胞を増殖させ、Mouse Monoclonal Antibody IgG Subclass Test Card(Cat: A12403)およびMouse Monoclonal Antibody Light/Heavy Chain Test Card(Cat: A12401)を試薬のプロトコルに従って使用して、抗体のサブタイプを検出した。サブタイプは、以下のとおり特定された:抗体は、重鎖がIgG1、軽鎖がカッパだった(
図3)。結果は、抗体317の遺伝子のクローニングの根拠を提供する。
【0065】
TRIzol(Cat: 15596026, Invitrogen)を説明書に記載の工程に従って使用して、クローン317のハイブリドーマ細胞からトータルRNAを抽出した。M-MuLV逆転写酵素(CAT: M0253S, NEB)を使用して、ハイブリドーマ細胞のトータルRNAをcDNAへと逆転写させた。縮重プライマー(表1および2を参照のこと)およびPhusion kit(Cat: E0553L, NEB)を使用して、抗体の軽鎖可変領域IgVL(κ)および重鎖可変領域VHの配列を増幅させた。ゲル抽出キット(Cat: AP-GX-250, Axygen)でPCR産物を精製し、精製したPCR産物をTベクタークローニングキット(Cat: ZC205, ZOMANBIO)の説明書に従ってTベクターにライゲーションし、次いで、ベクターを増幅のために大腸菌(E. coli)のコンピテントセルに形質転換した。次いで、DNA配列決定のためにプラスミドを抽出し、モノクローナル抗体の可変領域配列を得た。配列決定結果は、抗体317の軽鎖可変領域がSEQ ID NO:53に示されるようなヌクレオチド配列を有し、DNA配列から推定された抗体317の軽鎖可変領域のアミノ酸配列がSEQ ID NO:52に示されること;そして、抗体317の重鎖可変領域がSEQ ID NO:55に示されるようなヌクレオチド配列を有し、DNA配列から推定された抗体317の重鎖可変領域のアミノ酸配列がSEQ ID NO:54に示されることを示す。
【0066】
【0067】
【0068】
実施例2:抗ヒトPD-1キメラ抗体の調製
以下のプライマー(表3)を使用して制限酵素の切断部位をPCRによって導入したクローニングを通じて得られたモノクローナル抗体の軽鎖可変領域遺伝子および重鎖可変領域遺伝子を、それぞれ、真核生物発現ベクター中に担持されるヒト-カッパ軽鎖定常領域をコードする遺伝子の上流およびヒトIgG4重鎖定常領域をコードする遺伝子の上流にクローニングした。次いで、得られたヒト-マウスキメラ軽鎖発現プラスミド(pKN019-317L)およびヒト-マウスキメラ重鎖発現プラスミド(pKN034-317H)を増幅のために大腸菌に形質転換した。ヒト-マウスキメラ軽鎖および重鎖を担持する多数のプラスミドを単離し、293fectinと混合し、HEK293細胞に共トランスフェクトした。トランスフェクションの5~6日後に培養した上清を収集し、ProAアフィニティークロマトグラフィーカラムで精製して、キメラ抗体317を得た。Fortebio(BLITZ pro1.1.0.28)の抗ヒト抗体捕捉アッセイによって抗体の親和性を判定した。判定のために、抗ヒトIgG Fc Capture(AHC)バイオセンサーをPBS中に10分間浸した。希釈した抗体試料(キメラ抗体317、ニボルマブ;20μg/mL)4μlを2つのAHCバイオセンサー上にそれぞれロードし、次いで、PBS中で30秒間平衡化した。その後、AHCバイオセンサーを、異なる濃度(1μM、0.6μMおよび0nM)の希釈した組換えヒトPD-1-Hisタンパク質(NCBI登録番号:NP_005009.2, 21aa-167aa, Lot: 2016.2.22)と結合のために45秒間反応させ、次いで、溶解のためにPBS中に120秒間移した。実験が終了したら、ブランク対照の応答値を差し引いたデータを、1:1ラングミュア結合モデルを使用してソフトウェアによってフィッティングさせ、次いで、抗原-抗体結合に関する反応速度定数を計算した。
【0069】
図4は、組換えヒトPD-1と結合するキメラ抗体317(
図4、4A)および対照抗体ニボルマブ(
図4、4B)の反応速度曲線を示す。この曲線をフィッティングさせることによって親和性を計算したところ、結果は、キメラ抗体317の親和性(KD)が1.02E-09Mであり、ニボルマブの親和性(KD)が1.01E-09Mであることを示した。反応速度論パラメーターについて詳細は表4を参照されたい。結果は、キメラ抗体317がヒトPD-1に対して高親和性を有しており、同じ条件下で、キメラ抗体317の解離定数がニボルマブのものと類似していることを示した。結果は、抗体317のヒト化およびPD-1/PD-L1シグナル伝達経路に対する317の抑制効果の理論的根拠を提供する。
【0070】
(表3)抗体317の軽鎖および重鎖可変領域のクローニング用プライマー
【0071】
(表4)組換えヒトPD-1細胞外ドメインタンパク質に対するキメラ抗体の親和性の検出結果
【0072】
実施例3:抗ヒトPD-1モノクローナル抗体のヒト化および安定な細胞系統の構築
最初に、抗原と結合する抗体中の抗原相補性決定領域(CDR)および抗体の保存された3次元構造を支持するフレームワーク領域を決定するために、マウス抗体の重鎖配列に対して総合分析を行った。ヒト抗体生殖細胞系ライブラリー(http://www2.mrc-lmb.cam.ac.uk/vbase/alignments2.php#VHEX)内で相同性比較の結果に従って最も近いヒト抗体マッチを探した。VH3(3-21)を基本テンプレートとして最終的に選択し、完全配列のblast結果と組み合わせて、再配置された抗体中のFR領域の特定位置(A49)のアミノ酸頻度を考慮してCDRグラフティングを実施した。さらには、マウス抗体のFR3中のS98は、CDR3領域に近かったために置換されなかった。その一方で、CDR3の配列(Pdssgvay)に従ってJ領域のための配列としてJH4(wgqgtlvtvss)を選択した。結果として、H1中のフレーム領域の高度なヒト化が達成された。加えて、ヒト抗体生殖細胞系ライブラリー(http://www2.mrc-lmb.cam.ac.uk/vbase/alignments2.php#VHEX)内で相同性比較の結果に従って最も近いヒト抗体マッチを探した。VK II(A19)を基本テンプレートとして最終的に選択し、完全配列のblast結果と組み合わせて、再配置された抗体中のFR領域の特定位置(R45)のアミノ酸頻度を考慮してCDRグラフティングを実施した。その一方で、CDR3の配列(Qqysrypw)に従ってJK領域のための配列としてJK1(fgqgtkveik)を選択した。したがって、軽鎖フレーム領域の完全ヒト化が達成された。
【0073】
完全ヒト化設計は、マウス起源抗体317の配列に対して行い、得られたヒト化配列を完全合成し、抗体317のヒト化によって得られた抗体をh317と命名した。さらに、真核生物発現ベクターpKN034中に保持されたヒトIgG4の重鎖定常領域をコードする遺伝子の上流に酵素消化を通じてヒト化h317-VH1をクローニングし、かつ、真核生物発現ベクターpKN019中に担持されたヒト軽鎖のCκをコードする遺伝子の上流に酵素消化を通じてヒト化h317-VL2をクローニングすることによって、h317の軽鎖および重鎖を発現する発現ベクターを構築した。その後、酵素消化を通じて、得られたh317の重鎖(h317-H)およびh317の軽鎖(h317-L)を真核生物発現ベクターpKN002にクローニングした。次いで、組換えベクターをPvu Iで線形化し、h317の遺伝子をCHO細胞のDNAにNucleofector 2B(300452, Lonza)を使用して組み込んだ。CHO細胞をMSX(Cat: M5379-500MG, Sigma)によってスクリーニングし、サブクローニングした後、最後に、h317を高度に発現する安定な細胞系統を得た。h317の軽鎖可変領域のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:61に示されるとおりであり、そのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:60に示されるとおりである;h317の重鎖可変領域のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:63に示されるとおりであり、そのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:62に示されるとおりである。
【0074】
実施例4:ヒトPD-1タンパク質へのh317の結合に関する反応速度論研究
h317およびニボルマブのビオチン化:5mg/mlのEZ-LinkNHS-LC-LC-Biotin(Cat: 21343, Thermo)200μLをRT下に5分間置き、次いで、1mg/mLのh317(Lot: DP201805002, Jiangsu T-mab BioPharma)またはニボルマブ(Lot: AAW4553, BMS)1mlと混合した。得られた混合物をRT下に30分間置き、次いで、限外ろ過によって0.5mLまで濃縮した。その中のタンパク質含有量を280nmで判定した後、タンパク質濃縮物を分割し、-80℃で保存し、一度だけ凍結融解した。
【0075】
結合反応速度の判定:Fortebio社のOctet QKeシステムでビオチン標識抗体をストレプトアビジンで捕捉するアッセイを使用して抗体の親和性を判定した。具体的には、ビオチン標識抗体(h317-ビオチンおよびニボルマブ-ビオチン)をPBSで5μg/mLに希釈し、ストレプトアビジンプレコートバイオセンサー(Cat: 1612101, PALL)の表面を120秒間通過させた。移動相としての組換えヒトPD-1タンパク質(NCBI登録番号:NP_005009.2, 21aa-167aa)をPBS中で段階希釈して、100nM~12.5nMの濃度範囲に及ぶ2倍段階希釈物を得た。結合および解離の両方を300秒間行った。実験が終了したら、ブランク対照の応答値を差し引いたデータを、1:1ラングミュア結合モデルを使用してソフトウェアによってフィッティングさせ、次いで、抗原-抗体結合に関する反応速度定数を計算した。
【0076】
図5は、組換えヒトPD-1タンパク質と結合するh317(
図5、5A)および対照抗体ニボルマブ(
図5、5B)の反応速度曲線を示す。この曲線をフィッティングさせることによって親和性を計算したところ、結果は、h317の親和性(KD)が6.16E-09Mであり、ニボルマブの親和性(KD)が8.06E-09Mであることを示した。反応速度論パラメーターについて詳細は表5を参照されたい。結果は、h317がヒトPD-1に対して高親和性を有しており、同じ条件下で、h317の解離定数がニボルマブの解離定数よりも低いことを示した。結果は、PD-1/PD-L1シグナル伝達経路に対するh317の抑制効果の根拠を提供する。
【0077】
(表5)組換えヒトPD-1細胞外ドメインタンパク質へのh317の親和性の検出結果
【0078】
実施例5:PD-1のそのリガンドPD-L1およびPD-L2への結合に対するh317の抑制効果のELISA検出
PD-1のPD-L1への結合に対するh317の抑制効果のELISA検出:プレートを0.5μg/mLの希釈濃度を有するヒトPD-1-hFc(NCBI登録番号:NP_005009.2, 21aa-167aa, Lot: 20180329)にて4℃で一晩コートし、次いで、37℃の恒温インキュベーター内にて5% BSAで60分間ブロッキングした。h317(Lot: DP201805002, Jiangsu T-mab BioPharma)またはニボルマブ(Lot: AAW4553, BMS)(初期濃度3μg/mL、1.5倍段階希釈物)をその後加え、37℃の恒温インキュベーター内にて120分間反応させた。1μg/mLのPD-L1-mFc(NCBI登録番号:NP_054862.1, 19aa-238aa, Lot: 20180412)をプレートに加え、37℃の恒温インキュベーター内にて抗体と60分間インキュベートした。その後、1:5000の希釈度で希釈したHRP-抗マウスFc(Cat: 115-035-071, Jackson Immuno Research)をプレートに加えて45分間反応させた。その後、TMB基質(Cat: ME142, Beijing Taitianhe Biotech Co., Ltd.)を加えて15分間発色させ、これに続いて、2M HClを加えて反応を停止させ、次いで、マイクロプレートリーダーによってプレートを検出した。630nmを参照波長として用いて、プレート内の各ウェルの450nmでの吸光度(A450nm-630nm)を読み取り、記録した。
【0079】
PD-1のPD-L2への結合に対するh317の抑制効果のELISA検出:プレートを0.5μg/mLの希釈濃度を有するPD-1-hFc(NCBI登録番号:NP_005009.2, 21aa-167aa, Lot: 20180329)にて4℃で一晩コートし、次いで、37℃の恒温インキュベーター内にて5% BSAで60分間ブロッキングした。その後、h317(Lot: DP201805002, Jiangsu T-mab BioPharma)またはニボルマブ(Lot: AAW4553, BMS)(初期濃度3μg/mL、1.5倍段階希釈物)を加え、37℃の恒温インキュベーター内にて120分間反応させた。2μg/mLのPD-L2-hFc-Biotin(NCBI登録番号:NP_079515.2, 20aa-220aa, Lot: 2016.12.05)をプレートに加え、37℃の恒温インキュベーター内にて抗体と60分間インキュベートした。その後、1:2000の希釈度で希釈したHRP-ストレプトアビジン(Cat: S2438, Sigma)をプレートに加えて30分間反応させた後、TMB基質を加えて15分間発色させ、これに続いて、2M HClを加えて反応を停止させ、次いで、マイクロプレートリーダーによってプレートを検出した。630nmを参照波長として用いて、プレート内の各ウェルの450nmでの吸光度(A450nm-630nm)を読み取り、記録した。
【0080】
結果は、h317が、組換えヒトPD-1とそのリガンドPD-L1およびPD-L2との間の結合を効果的に遮断することができることを示した。PD-1のそのリガンドPD-L1への結合に対するh317およびニボルマブの競合的抑制効果をELISAによって判定したところ、得られた半数阻害濃度(IC50)は、それぞれ1.4nMおよび1.3nMであった(
図6、6A)。その一方で、PD-1のそのリガンドPD-L2への結合に対するh317およびニボルマブの競合的抑制効果をELISAによって判定したところ、得られた半数阻害濃度(IC50)は、それぞれ1.2nMおよび1.0nMであった(
図6、6A)。h317がニボルマブと類似の遮断活性を有することが実験から明らかである。
【0081】
実施例6:PD-1へのh317の結合の種特異性に関するELISA研究
ELISAプレートを、それぞれ1μg/mLの濃度の組換えヒトPD-1(NCBI登録番号:NP_005009.2, 21aa-167aa, Lot: 20180423)、カニクイザルPD-1(Cat: 90311-C08H, Sino Biological Inc.)、ラットPD-1(Cat: 80448-R08H, Sino Biological Inc.)およびマウスPD-1(Cat: 50124-M08H, Sino Biological Inc.)タンパク質にて4℃で一晩コートした。プレートをPBSで3回洗浄した後、5% BSA-PBSを加えて37℃で60分間ブロッキングした。次いで、プレートをPBSTで3回洗浄し、異なる希釈度(初期濃度1μg/mL、3倍勾配希釈で段階希釈することによって11種の濃度を得た)のビオチン化h317(実施例4で使用したものと同じ)を加え、37℃で60分間インキュベートした。再度、プレートをPBSTで4回洗浄し、次いで、希釈度1:100のHRP-ストレプトアビジン(Cat: 019-035-098, Jackson Immuno Research)を加えて37℃で30分間のインキュベーションを行った。もう一度、プレートをPBSTで4回洗浄し、TMB基質を加えて37℃で10分間インキュベートすることにより発色させ、次いで、2M HClを加えることによって反応を停止した。630nmを参照波長として用いて、プレート内の各ウェルの450nmの波長での吸光度(A450nm-630nm)を読み取り、記録した。
【0082】
結果は、h317が、組換えヒトPD-1およびカニクイザルPD-1にそれぞれ半数効果濃度(EC50)0.004703nMおよび0.01823nMで特異的に結合することができる一方で、ラットPD-1およびマウスPD-1には結合親和性を有さないことを示したが、このことは、h317が交差反応性を有さないことを示している(
図7)。結果は、h317のインビボおよびインビトロ薬力学実験の根拠を提供する。
【0083】
実施例7:CD28ファミリーのメンバーへのh317の結合の特異性に関する研究
ELISAプレートを、それぞれ1μg/mLの濃度の組換えヒトPD-1(NCBI登録番号:NP_005009.2, 21aa-167aa, Lot: 20180423)、CD28(Cat: 11524-HCCH, Sino Biological Inc.)、CTLA4(Cat: 11159-H08H, Sino Biological Inc.)およびICOS(NCBI登録番号:NP_036224.1, 1aa-199aa)タンパク質にて4℃で一晩コートした。プレートをPBSで3回洗浄した後、5% BSA-PBSを加えて37℃で60分間ブロッキングした。次いで、プレートをPBSTで3回洗浄し、異なる希釈度(初期濃度1μg/mL、3倍勾配希釈で希釈することによって11種の濃度を得た)のビオチン化h317(実施例4で使用したものと同じ)を加え、37℃で60分間インキュベートした。再度、プレートをPBSTで4回洗浄し、次いで、希釈度1:100のHRP-ストレプトアビジン(Cat: 019-035-098, Jackson Immuno Research)を加えて37℃で30分間のインキュベーションを行った。もう一度、プレートをPBSTで4回洗浄し、TMB基質を加えて37℃で10分間インキュベートすることにより発色させ、次いで、2M HClを加えることによって反応を停止した。630nmを参照波長として用いて、プレート内の各ウェルの450nmの波長での吸光度(A450nm-630nm)を読み取り、記録した。
【0084】
結果は、h317が、組換えヒトPD-1に特異的に結合することができる一方で、CD28ファミリーの他のメンバーには結合親和性を有さないことを示したが、このことは、h317が交差反応性を有さないことを示している(
図8)。結果は、h317のインビボおよびインビトロ薬力学実験の根拠を提供する。
【0085】
実施例8:ヒトT細胞(PBMC)をインビトロ刺激する際のh317の活性に関する研究
A. CD14+単球の単離および樹状細胞の分化
Ficoll-Paque PLUS(Cat: 17-1440-03, Lot: 10246684, GE Healthcare)を製造業者の説明書に従って使用してPBMCを抽出し、次いで、CD14 MicroBeads(Cat: 130-050-201, Lot: 5170814438, Miltenyi)で製造業者の説明書に従ってCD14+単球を陽性選択した。得られた細胞をImmunoCult(商標)DC Differentiation Medium(Cat: 10988, Lot: 17G83035, STEMCELL)により5×105個の細胞/mlに再懸濁し、次いで、懸濁液5mlを取り、T-25フラスコに播種し、37℃で5% CO2のインキュベーター内で3日間培養した。培養物を遠心分離し、新たな培地を加えて、37℃で5% CO2のインキュベーター内で2日間培養した。次いで、ImmunoCult(商標)Dendritic Cell Maturation Supplement(Cat: 10989, Lot: 17B77271, STEMCELL)50μlを加え、混合し、細胞を37℃で5% CO2のインキュベーター内で2日間培養した。得られた細胞を以下のMLRアッセイに使用した。
【0086】
B. CD4+ T細胞の抽出および単離
Ficoll-Paque PLUS(Cat: 17-1440-03, Lot: 10246684, GE Healthcare)を製造業者の説明書に従って使用してPBMCを抽出し、次いで、CD4+ T細胞単離キット(Cat: 130-096-533, Lot: 5171016623, Miltenyi)をキット内の説明書に従って使用してPBMCからCD4+ T細胞を単離した。得られた細胞を以下のMLRアッセイに使用した。
【0087】
C. MLRアッセイ
被験抗体(h317(Lot: DP201805002, Jiangsu T-mab BioPharma))、ニボルマブ(Lot: AAW4553, BMS)、およびヒトNC-IgG4対照(Lot: AB170090)の8μg/mLの溶液をそれぞれ完全培地で調製し、次いで、10倍勾配希釈で段階希釈し、合計6種の濃度を調製した。その後、抗体を含有する溶液の各々50μLを、実験に使用したプレートの設定に従い96ウェルプレートの対応するウェルに加えた。その後、1×106個の細胞/mLの濃度に調整したCD4+ T細胞の懸濁液100μLを対応するウェルに加えた(1×105個の細胞/ウェル)。DCを2mM EDTAで消化し、1500rpmで5分間遠心分離し、2×105個の細胞/mLの濃度に調整したDCの懸濁液50μLを対応するウェルに加えた(1×104個の細胞/ウェル)。次いで、1つのウェル中の混合物の総体積を200μLとし、CD4+ T細胞とDCの比は10:1とした。次いで、96ウェルプレートをインキュベーター内に入れ、37℃で5日間培養した。それによって得られた細胞上清を収集し、その中のIFN-γおよびIL-2の濃度をIFN-γ ELISAキット(Cat: 430106, Lot: B247782, Biolegend)およびIL-2 ELISAキット(Cat: DY202, Lot: P155804, R&D)を使用して検出した。
【0088】
検出結果は、h317が、ヒト混合リンパ球を刺激し、細胞によるキラーサイトカインIL-2(
図9、9A)およびIFN-γ(
図9、9B)のインビトロ分泌を促進することができることを示し、このことは、h317が、Th1型細胞によって媒介される免疫応答を誘導することができることを示唆している。
【0089】
実施例9:293T/hPD-1細胞に対するh317のADCC活性に関する研究
Ficoll-Paque PLUS(Cat: 17-1440-03, Lot: 10246684, GE Healthcare)を製造業者の説明書に従って使用してPBMCを抽出し、次いで、ADCCアッセイ用培地(2% FBS(Cat: SH30084.03, Lot: GAE0138, Hyclone)を含有するフェノールレッド不含RPMI 1640培地(Cat: 11835-030, Lot: 1860152, Gibco))に再懸濁した。得られたPBMCを計数し、NK細胞(その後、ADCCの分析に使用)をNK細胞単離キット(Cat: 130-092-657, Lot: 5170911524, Miltenyi)の説明書に従って単離した。対数期のヒトPD-1を発現する293T細胞を採取し、次いで、CytoTox 96(登録商標)Non-Radioactive Cytotoxicity Assay(Cat: G1781, Lot: 0000265175, Promega)に従って、293T細胞をADCC用培地で希釈し、標的細胞を50×104個の細胞/mLの濃度で含有する細胞懸濁液を得た。96ウェル丸底プレート内のウェルごとに、細胞懸濁液40μLおよび被験抗体の溶液10μL(被験抗体の各濃度は3連でアッセイした)を加え、次いで、室温で30分間インキュベートした。被験抗体(h317(Lot: DP201805002, Jiangsu T-mab BioPharma)、h317-hIgG1(Lot: 20180528)、およびヒトNC-IgG4(Lot: 20180521))の終濃度は、10000ng/mL、1000ng/mL、100ng/mL、10ng/mL、1ng/mL、0.1ng/mLおよび0.01ng/mLであった。さらに、各ウェルに異なる濃度のNK細胞懸濁液50μLを加えることによって、10:1および5:1の2種のE:T比を設定した。その後、96ウェルプレートを250gで4分間遠心分離して、エフェクター細胞と標的細胞とを十分に接触させた後、37℃、5% CO2/95%空気下で細胞を4時間インキュベートした。溶解緩衝液10μL(100μl当たり10μl)を最大溶解対照ウェルに45分間加えた後、プレートを250gで5分間遠心分離し、上清を移した。ウェルからの上清50μLを清潔な96ウェルプレートに移し、各ウェルに反応基質50μlを加え、30秒間混合し、プレートを室温で30分間インキュベートした。続いて、停止溶液50μLをプレートに加え、30秒間混合した。吸光度(OD490nm)を読み取った。
【0090】
試験ウェルの平均値、標的細胞を含有する対照ウェルの平均値、およびNK細胞と標的細胞を含有するウェルの平均値から、培養培地を含有する対照ウェルの平均値を減算した。得られた値を使用して、以下の式に従って細胞毒性%を計算した。
【0091】
実験結果は、ヒトPBMC(末梢血単核細胞)中のNK細胞の標的細胞に対する殺傷効果が、293T細胞上のhPD-1へのh317の結合によって開始されないことを示した(
図10)。抗hPD-1抗体のない対照群と比較して、h317は、高いhPD-1発現の293T細胞に対してADCC活性を示さなかったが、このことは、h317がADCCエフェクター機能を有さないことを示している。
【0092】
実施例10:PD-1トランスジェニックマウス異種移植腫瘍モデルにおけるh317の抗腫瘍有効性の評価
合計65匹のHuGEMMPD-1マウス(6~8週齢、Shanghai Model organisms)を選択し、その右側にMC38-hPD-L1腫瘍細胞(1×106個の細胞/マウス、1×106個の細胞をPBS 100μLに再懸濁)を皮下接種した。腫瘍保持マウスの平均腫瘍体積が約60~100mm3に達したら、各マウスを計量し、腫瘍体積をノギスで測定した。投与の前に、StudyDirector(商標)(version 3.1.399.19, Studylog System, Inc., S. San Francisco, CA, USAによって供給される)を使用してマウスを無作為に6群に分けた。投与を0日目(D0)に開始し、表6は、各群の動物の数、ならびに投与の経路、用量およびプロトコルに関する詳細な情報を示す。投与、腫瘍体積の測定、計量などはすべて、安全キャビネットまたはクリーンベンチ内で実施した。実験の間、ソフトウェアStudyDirector(商標)(version 3.1.399.19, Studylog System, Inc.によって供給される)で腫瘍の長径および短径の測定ならびにマウスの計量を含めた実験データを収集し、天秤およびノギスを使用して測定することによって得た後に初期データをソフトウェアに直接インポートした。対照群の腫瘍の平均体積が2000mm3を超えるか最終投与の1週間後に実験を終了した。腫瘍を収集して、計量し、撮像した。実験終了日に各群の4匹のマウス(このマウスは、以下の血液が採取されたマウスの数に対応する数を有した)から採取した腫瘍を使用してFACSアッセイを実施し、マーカーは、CD3、CD4、CD8およびCD45、Live/Deadであった。実験終了日に各群の4匹のマウス(このマウスは、腫瘍が採取されたマウスの数に対応する数を有した)から採取した全血液を使用して別のFACSアッセイを実施し、マーカーは、CD3、CD4、CD8およびCD45であった。
【0093】
(表6)薬力学実験の設計
注記:投与量は10μL/gであった;hIgG対照(Lot: 20180521)、h317(Lot: DP201805002, Jiangsu T-mab BioPharma)、ニボルマブ(Lot: AAW4553, BMS)
【0094】
遺伝子操作されたマウスの一種であるHuGEMMPD-1マウスモデルは、C57BL/6J遺伝子バックグラウンドのマウスPD-1のATG位置にヒトPD-1タンパク質のコード領域を挿入することによって確立され、その結果として、このマウスは、マウスPD-1の代わりにヒトPD-1を発現する。MC38は、C57BL/6マウスにおいて誘導されたマウス腸がん細胞株である。MC38-hPD-L1細胞株と命名されたヒトPD-L1を発現するMC38細胞株は、遺伝子操作を使用してMC38のマウスPD-L1をノックアウトし、ヒトPD-L1をノックインすることによって得られる。PD-1トランスジェニックマウス異種移植腫瘍モデルを用いて、h317および対照抗体ニボルマブの腫瘍成長に対する抑制効果を評価し、比較した。結果(
図11および表7を参照のこと)から、h317は、PD-1トランスジェニックマウスにおいて高用量および中用量で皮下異種移植腫瘍の成長を有意に抑制できることが示され、高用量および中用量のh317で対照抗体ニボルマブと同等の腫瘍抑制効果が観察された。
【0095】
(表7)各群のPD-1トランスジェニックマウスにおける皮下異種移植腫瘍の腫瘍体積およびその統計分析
注記:a. データは「平均±標準誤差」として示された;n=8
b. P値は、腫瘍体積の1元配置ANOVAを使用することによって得られ、ダネットのT3によって分析されたF値は有意差があった(P<0.05)。
【0096】
実施例11:PD-1受容体への結合およびh317の内在化
ヒトPD-1を一過性発現する293細胞株の構築:HEK293細胞懸濁液10mlを振盪フラスコに6*105個の細胞/mLの密度で播種し、37℃、5% CO2で振盪インキュベーター内にて130rpmで24時間振盪および培養した。それぞれ1:1.2の比の完全長ヒトPD-1(NP_005009.2, 21aa-288aa)をコードする発現プラスミドおよび293fectin(Cat:12347019, Gibco)をOpti-MEM(Cat: 11058021, Gibco)0.5mL中に5分間静置し、次いで、混合し、室温で15分間静置した後、HEK293細胞に加えた。37℃で5% CO2の振盪インキュベーター内にて130rpmで48時間振盪培養した後、得られた293/hPD-1細胞をFACSを介した検出に使用した。
【0097】
PD-1によって媒介されるh317のエンドサイトーシス:h317(Lot: DP201805002, Jiangsu T-mab BioPharma)およびニボルマブ(Lot: AAW4553, BMS)をMix-n-Stain(商標)CF(商標)488A(Cat: MX488AS100, Sigma)で標識した;標識した抗体(h317-CF488Aおよびニボルマブ-CF488A)を5% BSAで10μg/mLに希釈した。293/hPD-1細胞をPBSで1回洗浄し、次いで、希釈したh317-CF488Aおよびニボルマブ-CF488Aをそれぞれそこに加えた。各混合物を2つの群に分け、一方は、37℃の電気加熱定温カルチベーター内に入れ、もう一方は、陰性対照として4℃の冷蔵庫に入れた。1時間のインキュベーション後に細胞をPBSで3回洗浄し、37℃または4℃のインキュベーションに戻した。3時間のインキュベーションおよび6時間のインキュベーションの後、細胞を蛍光顕微鏡で観察して撮像した。
【0098】
PD-1によって媒介されるh317のエンドサイトーシスが蛍光顕微鏡で観察され、結果(
図12)は、37℃で、h317とニボルマブが共に、PD-1による媒介を通じてエンドサイトーシスされ得ることを示した。
【0099】
実施例12:317によって認識されるエピトープに関する研究
PD-1-h317-Fab複合体の調製:組換えヒトPD-1細胞外ドメインタンパク質(NCBI登録番号:NP_005009.2, 21aa-167aa, Lot: 20170626)の分子量は16.4Kdであり、h317-Fab(Lot: 20170626)の分子量は約46.5Kdである。PD1とh317-Fabを20mM Tris 150mM NaCl中で1:1.5のモル比で混合することによって混合物を得て、次いで、氷上に30分間置いて、複合体を形成させた。結晶化分析のために、複合体を限外ろ過によって12mg/mlの濃度まで濃縮した。
【0100】
PD-1-h317-Fab複合体の結晶化ならびに得られた結晶の回折データ収集および構造解析:この実験は、自動結晶化スクリーニングシステムを使用したシッティングドロップ法によって達成された。システムに内蔵された結晶化プレートの各ウェルにタンパク質試料0.2μlを加え、添加完了時に、結晶化プレートを密閉し、培養用の恒温室に入れた。結晶成長の温度は16℃または4℃であり、加えたタンパク質濃度は8mg/mlまたは12mg/mlであった。スクリーニングに使用したキットは、以下を含む:HAMPTONによって供給されるCrystalscreen(1-98)、Index(1-96)、PEGRX(1-96)、SaltRx(1-96)、Nartrix(1-96)、およびPEG/ion(1-96);QIAGENによって供給されるProtein Complex Suite(1-96);Emerald Biosystemsによって供給されるWIZARD I/II(1-96)、およびWIZARD III/IV(1-96)。結晶成長を15日間観察し、予備スクリーニングにおいてより良好な結晶が形成される成長条件を最適化した。回折実験の前に、最適化した条件下で得られた結晶を、10%エチレングリコールを補充した結晶化溶液に数秒間浸漬させ、次いで、急速凍結のために液体窒素に浸漬させた。回折実験は、上海シンクロトロン放射施設(SSRF)でのBL17UでX線波長0.9792Åおよび結晶回折温度100Kを使用して実施した。ADSCによって供給されるQ315r検出器を使用して回折データを収集し、次いで、HKL2000ソフトウェアを使用して処理した。結晶は、P2空間群に属すると判定され、2.90Åの分解能に回折した。PHASERソフトウェアを使用した分子置換法を通じて結晶構造を解析し、分子置換に使用したモデルは、PD-1単一タンパク質構造(PDB ID 3RRQ)およびPD-1 Fab(PDB ID 5WT9)構造であった。その後、COOTソフトウェアを使用してモデルを再構築し、Refmac5およびPhenixソフトウェアを構造精密化に使用した。
【0101】
脱グリコシル化された組換えヒトPD-1タンパク質とh317との結合:ヒトPD-1抗原(NP_005009.2)の構造内に観察することができる4つのグリコシル化部位N49、N58、N116およびN74を、部位特異的変異によってアラニン(A)に変異させた。得られた変異体を、EGFPを担持する発現ベクターに挿入して、完全長ヒトPD-1を発現する5つのプラスミド(WT、N49A、N58A、N116A、N74A)を構築した。その後、プラスミドを293fectinと混合し、HEK293細胞に共トランスフェクトした。トランスフェクションの2日後、96ウェルプレートに細胞を収集し、1500rpmで2分間遠心分離し、ウェル中の上清を廃棄した。PBS 200μlを加えることによって細胞を再懸濁し、次いで、得られた懸濁液を1500rpmで2分間遠心分離し、次いで、上清を廃棄した。5% BSAで希釈した各一次抗体(h317(Lot: 2017.05.24)またはニボルマブ(Lot: 2017.04.26))200μlを細胞に加え、室温で1時間インキュベートした。一次抗体の作用濃度は2μg/mlであり、一次抗体を加えていない細胞を陰性対照として使用した。得られた混合物を1500rpmで2分間遠心分離し、上清を廃棄した。PBS 200μlを加えることによって各ウェル中の細胞を再懸濁し、次いで、得られた懸濁液を1500rpmで2分間遠心分離し、次いで、上清を廃棄した。その後、得られた細胞を、各ウェルに加えた5% BSAで希釈したヤギ抗ヒトIgG(Fc)-Cy5(Cat: 12136, Lot: 017M4800V, Sigma)200μlと4℃で1時間インキュベートし、次いで、1500rpmで2分間遠心分離し、上清を廃棄した。PBS 200μlを加えることによって細胞を再懸濁し、次いで、得られた懸濁液を1500rpmで2分間遠心分離し、次いで、上清を廃棄した。そこにPBS 200μlを加えることによって細胞を再び再懸濁し、フローサイトメトリー(B49007AD, SNAW31211)によって検出した。
【0102】
PD-1-h317-Fab複合体の全体の構造解析は、PD-1抗原(細胞外領域1-167aa)が単量体として存在し、抗PD-1抗体のh317-Fab断片と1:1の比で複合体を形成したことを示した(
図13)。抗体が結合したPD-1の部位は主に、BCループ、C’DループおよびFGループを含むPD-1のループに位置していた(
図14)。PD-1とFab317との間の相互作用は、水素結合、塩橋、ファンデルワールス相互作用および疎水性相互作用を含む。表8は、相互作用に関与するアミノ酸およびその対応する相互作用を示す。
【0103】
(表8)PD-1とFab317との間の相互作用に関与するアミノ酸
【0104】
加えて、PD-1抗原の構造内に部位N49、N58およびN116でのグリコシル化を観察することができた一方で、部位N74でのグリコシル化は不明確であった。さらに、h317-Fabに結合する際のN58での糖鎖の関与も観察することができた(
図15)。対照的に、PD-1抗原とその抗体との間で形成される任意の他の報告されている複合体の構造内のこの部位の糖鎖は、PD-1抗原と抗体との間の相互作用に関与しない。これに関して、h317-FabとN58にある糖鎖との間の相互作用は、認識およびその間の結合の特異性を向上させ得る。PD-1上のグリコシル化部位を変異させ、得られた変異PD-1(PD-1-mut)を担持するプラスミドを293細胞に一過性にトランスフェクトし、次いで、h317とPD-1-mutとの間の結合をFACSによって検出した。FACSの結果は、PD-1のN58にある糖鎖がh317とPD-1の結合に関与することを示した。具体的には、PD-1のアミノ酸N58のアラニン(A)への変異は、PD-1発現細胞へのh317の結合能を喪失させ(
図16)、このことは、PD-1のN58にある糖鎖がh317とPD-1の結合に関与することを示している。加えて、PD-1-h317-Fab複合体とPD-1/PD-L1複合体との間の構造比較から、h317-FabとPD-1の相互作用界面と、PD-L1とPD-1の相互作用界面との間に大きな重複があること(
図17A)、および重複の大部分がPD-1のFGループ中に存在していることも見いだされ(
図17B)、このことは、PD-1への結合に関してh317-FabがPD-L1と競合し、PD-1とPD-L1との間の相互作用を遮断することができることを示している。
【0105】
実施例13:h317の軽鎖CDRおよび重鎖CDRにおける部位特異的変異
1. 軽鎖CDRおよび重鎖CDRの変異体をPD-1-h317Fab複合体の構造解析に従って構築した。部位特異的変異法を使用して発現ベクターを構築した。詳細については、Ronghao Wang, Runchuan Chen, and Runzhong Liu, Journal of Xiamen University(Natural Science) 2008, Vol 47, sup 2, 282-285を参照されたい。バリアント抗体の発現および精製の方法は上記と同じであった。
【0106】
2. バリアント抗体の相対親和性の比較
バリアント抗体と親抗体との間の親和性の比較を、Fortebioによって供給されるOctet QKeシステムを使用して実施した。使用した方法は、相対親和性を評価するためにすべてのバリアント抗体に対してただ1つの抗原濃度結合を介して親和性を測定した以外は、実施例4で使用したものと同様であった。最初に、同じ目標値の被験抗体をコートし、100nMの組換えヒトPD-1タンパク質(NCBI登録番号:NP_005009.2, 21aa-167aa)を移動相として使用して相対親和性を判定した。
【0107】
バリアント抗体の親和性の検出結果は、様々な変異を有するバリアント抗体の親和性が有意に変化することを示した。表9は変異を示し、表10はある特定の親和性変化を示す。
【0108】
(表9)h317バリアント抗体のCDRのアミノ酸配列
【0109】
(表10)CDRが変異したh317バリアント抗体(可変領域中の他のアミノ酸は、示されている変異を除きh317と同じである)の親和性の変化
【0110】
表のデータは、ある特定の位置のアミノ酸が変異した場合に、親和性が大きく影響を受けた、例えば、10倍超低下したことを示した。一方で、ある特定の位置のアミノ酸が変異した場合に、抗体の親和性は向上し、例えば、軽鎖の24位のKをRに、軽鎖の56位のTをSに、軽鎖の92位のSをNに、重鎖の33位のDをSに、重鎖の54位のGをSに、および/または重鎖の59位のYをAに変異させることによって、親和性はある程度向上した。さらには、上記位置での変異のいくつかを組み合わせると、親和性は未変化のままであったかまたはさらに向上した。その一方で、HCDR3が抗体の結合に必須であり、HCDR3に変異を有するほとんどのバリアント抗体が低下した親和性を示したことも見いだされた。
【0111】
本発明の諸態様についての上記説明は、本発明を限定することを意図するものではなく、本発明に従って当業者は様々な変更および変形を加えることができ、それらは、本発明の精神から逸脱することなく本発明の特許請求の範囲の保護範囲に入る。
【国際調査報告】