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特表2022-517258伸縮性電池用の動的結合された超分子ポリマー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-07
(54)【発明の名称】伸縮性電池用の動的結合された超分子ポリマー
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0565 20100101AFI20220228BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220228BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20220228BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220228BHJP
   H01M 8/1018 20160101ALI20220228BHJP
   H01G 11/56 20130101ALI20220228BHJP
   H01G 11/48 20130101ALI20220228BHJP
【FI】
H01M10/0565
H01M10/052
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M8/1018
H01G11/56
H01G11/48
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021540833
(86)(22)【出願日】2020-01-17
(85)【翻訳文提出日】2021-09-02
(86)【国際出願番号】 US2020014071
(87)【国際公開番号】W WO2020167412
(87)【国際公開日】2020-08-20
(31)【優先権主張番号】62/794,481
(32)【優先日】2019-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
(71)【出願人】
【識別番号】503115205
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】マカニック, デイビッド ジョージ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン, シュージョウ
(72)【発明者】
【氏名】ツイ, イー
(72)【発明者】
【氏名】バオ, ゼナン
【テーマコード(参考)】
5E078
5H029
5H050
5H126
【Fターム(参考)】
5E078AA06
5E078BA26
5E078BA29
5E078DA06
5E078DA12
5E078DA19
5H029AJ05
5H029AJ11
5H029AJ12
5H029AK01
5H029AL03
5H029AL12
5H029AM16
5H029HJ00
5H029HJ14
5H029HJ20
5H050AA07
5H050AA14
5H050AA15
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CB03
5H050CB12
5H050EA23
5H050HA00
5H050HA14
5H050HA17
5H126AA03
(57)【要約】
電池は、1)アノード;2)カソード;および3)アノードとカソードとの間に配置された固体またはゲル電解質を含み、電解質は、動的結合を通じて架橋された分子で形成されたまたはこの分子を含む超分子ポリマーを含み、分子のそれぞれは、イオン伝導性ドメインを含む。本開示の一部の実施形態の利点は、1)機械的性質がイオン伝導性と切り離されることであり、やはり優れたイオン伝導性を有する高弾性リチウムイオン電池電解質が可能になること;2)優れた機械的性質が、非常に低いコストでより高い質量負荷を実現することのできる本質的に伸縮性の電極の創出を可能にすること;および3)動的結合が、連続インターフェースの形成を可能にすることであり、したがって液体電解質を省略できることを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード、
カソード、および
前記アノードと前記カソードとの間に配置された電解質
を含み、前記電解質が、動的結合を通じて架橋された分子を含む超分子ポリマーを含み、前記分子のそれぞれがイオン伝導性ドメインを含む、電池。
【請求項2】
前記動的結合が、水素結合、配位結合、または静電的相互作用を含む、請求項1に記載の電池。
【請求項3】
前記分子のそれぞれが、水素結合ドメインを含む、請求項1に記載の電池。
【請求項4】
前記水素結合ドメインが、酸素含有官能基、窒素含有官能基、または両方を含む、請求項3に記載の電池。
【請求項5】
前記水素結合ドメインが、2-ウレイド-4-ピリミドン部分を含む、請求項3に記載の電池。
【請求項6】
前記イオン伝導性ドメインが、ポリアルキレンオキシド鎖を含む、請求項1に記載の電池。
【請求項7】
前記電解質が、前記超分子ポリマー中に分散されたリチウムカチオンをさらに含む、請求項1に記載の電池。
【請求項8】
前記電解質が、前記超分子ポリマー中に分散された充填材をさらに含む、請求項1に記載の電池。
【請求項9】
前記充填材が、セラミック充填材を含む、請求項8に記載の電池。
【請求項10】
前記超分子ポリマーが、25℃以下のガラス転移温度を有する、請求項1に記載の電池。
【請求項11】
前記電解質が、少なくとも10-6S/cmのイオン伝導度を有する、請求項1に記載の電池。
【請求項12】
前記電解質が、少なくとも0.1MPaの極限引張り応力を有する、請求項1に記載の電池。
【請求項13】
前記電解質が、少なくとも30%の伸長性を有する、請求項1に記載の電池。
【請求項14】
前記アノードまたは前記カソードのうち少なくとも1つが、動的結合を通じて架橋された分子を含む超分子ポリマーを含み、前記分子のそれぞれがイオン伝導性ドメインを含む、請求項1に記載の電池。
【請求項15】
電極活物質、
導電性充填材、および
動的結合を通じて架橋された分子を含む超分子ポリマー
を含み、前記分子のそれぞれがイオン伝導性ドメインを含み、前記電極活物質および前記導電性充填材が、前記超分子ポリマー中に分散されている、電極。
【請求項16】
前記動的結合が、水素結合、配位結合、または静電的相互作用を含む、請求項15に記載の電極。
【請求項17】
前記分子のそれぞれが、水素結合ドメインを含む、請求項15に記載の電極。
【請求項18】
前記水素結合ドメインが、酸素含有官能基、窒素含有官能基、または両方を含む、請求項17に記載の電極。
【請求項19】
前記イオン伝導性ドメインが、ポリアルキレンオキシド鎖を含む、請求項15に記載の電極。
【請求項20】
請求項15から19のいずれかに記載の電極を含む電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、参照によりその内容全体が本明細書に組み込まれる2019年1月18日に出願された米国仮出願第62/794,481号の利益を主張する。
【0002】
技術分野
本開示は一般に、伸縮性電池に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
最近の技術的進歩および電子機器の継続的な小型化は、人と技術との間の隔たりを減じてきた。人は益々、パーソナルコンピューター、ポータブルスマートフォン、およびウェアラブルエレクトロニクスの形をとる電子デバイスと、密接な関係にある。これらの電子機器は典型的には硬質であり、人体に順応しない。将来に目を向けると、より人体に密接な電子機器の開発にかなりの関心が持たれている。そのような適用例は、人に向き合うソフトロボティクス、人の皮膚に順応するセンサー、および人の組織内に直接埋め込むことができる電子デバイスを含む。伸縮性電子機器における最近の進歩によってこれらの適用例が容易になっており、歪み工学による剛直なアイランド構造から、本質的に伸縮性の半導体ポリマーおよび回路へと、軟質電子機器が急速に現実になりつつある。しかしながら、軟質および伸縮性の電子機器の開発には、適切なポータブル電源の不足に起因して、かなりの制約がある。いくつかのフレキシブル電池材料が提示されてきたが、人体に密接に連結する電子機器を製作する伸縮性電池材料を製作する能力に、依然としてかなりのギャップがある。
【0004】
伸縮性電池に対する需要に対処するため、いくつかの手法が提示されてきた。伸縮性電池に関する戦略は、相互接続された剛直なアイランド、座屈電極構造の形成、または伸縮性円筒ロッドの周りを活物質で包むことのいずれかによって、加えられた歪みに順応するための、歪み工学剛直電極を含む。これらの戦略は、エネルギー貯蔵の伸縮性形態に関する将来性を示すが、それらの集約的製作プロセスは、商用の電池材料を形成するのに使用される低コストスラリープロセスと、経済的にかなり相容れないものである。伸縮性電池を製作するその他の手法は、本質的に伸縮性の電池材料を創出するのに、活物質とエラストマー分子との複合体混合物を使用することを含む。この手法は、経済的観点から将来性を示すが、本質的に伸縮性の電池材料を作製するのに使用されるエラストマーは一般にイオン伝導性ではなく、これはこれらの伸縮性電池がその動作において液体電解質を使用することを明示するものである。
【0005】
リチウムイオン電池で液体電解質を使用することに関連した、安全上の危険がある。人体と密接に接触する伸縮性電池の適用例では、電解質漏洩および可燃性に関連した安全上の危険が募る。望ましくは、伸縮性電池材料は、固体ポリマー電解質を利用すると考えられる。しかしながら、電池の動作に十分なイオン伝導性を持つ伸縮性ポリマー電解質は、報告されていない。ゲル電解質の使用は、十分なイオン伝導性を持つ伸縮性電池に関する、望ましい妥協案である。伸縮性ゲル電解質が報告されているが、これらのゲル電解質は、典型的には不十分な機械的性質を有し、したがって伸縮性電池で使用した場合に短絡をもたらす可能性がある。
【0006】
本開示の実施形態を開発する必要性が生じたのには、このような背景がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
要旨
伸縮性電池は、軟質電子機器が人体と直接インターフェースをとる適用例に、望まれる。しかしながら、伸縮性電池に関するその他の手法は、費用のかかる歪み工学手法に依拠する。本明細書では、一部の実施形態は、伸縮性リチウムイオン伝導体(SLIC)を製作するための超分子ポリマー設計を対象とする。SLICは、イオン伝導度が高い超弾性ポリマー電解質を創出するのに、直交性機能的水素結合ドメインとイオン伝導性ドメインとを利用する。バインダ材料としてのSLICの実現は、スラリープロセスを介した伸縮性Liイオン電池電極の形成を可能にする。SLICベースの電解質と電極との組合せは、その当初の長さの約70%まで変形しまたは伸縮した場合であっても、優れた性能の全伸縮性電池の製作を可能にする。
【0008】
本開示の一部の実施形態の利点は、1)機械的性質がイオン伝導性と切り離されることであり、やはり優れたイオン伝導性を有する高弾性リチウムイオン電池電解質が可能になること;2)優れた機械的性質が、非常に低いコストでより高い質量負荷を実現することのできる本質的に伸縮性の電極の創出を可能にすること;および3)動的結合が、連続インターフェースの形成を可能にすることであり、したがって液体電解質を省略できることを含む。
【0009】
伸縮性リチウムイオン伝導体は、伸縮性電池、スーパーキャパシター、燃料電池、およびその他の電気化学的エネルギー貯蔵デバイスにおいて、適用例を有する。伸縮性電池の適用例には、ソフトロボティクス、ウェアラブルエレクトロニクス、および埋込み型電子デバイスの使用が含まれる。
【0010】
一部の実施形態では、電池は、1)アノード;2)カソード;および3)アノードとカソードとの間に配置された固体またはゲル電解質を含み、電解質は、動的結合を通じて架橋された分子で形成されたまたはこの分子を含む超分子ポリマーを含み、これらの分子のそれぞれは、イオン伝導性ドメインを含む。
【0011】
追加の実施形態では、電極は、1)電極活物質;2)導電性充填材;および3)動的結合を通じて架橋された分子で形成されたまたはこの分子を含む超分子ポリマーを含み、分子のそれぞれはイオン伝導性ドメインを含み、電極活物質および導電性充填材は、超分子ポリマー中に分散されている。
【0012】
さらなる実施形態では、電池は、前述の実施形態のいずれかの電極を含む。
【0013】
本開示のその他の態様および実施形態も企図される。前述の概要および以下の詳細な説明は、任意の特定の実施形態に本開示を制限するものではなく、本開示の一部の実施形態について単に記述するものである。
【0014】
本開示の一部の実施形態の性質および目的をより良く理解するために、添付図面と併せて解釈される以下の詳細な説明を参照すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、伸縮性リチウムイオン伝導体(SLIC)高分子の概略図である。(A)SLICの化学構造、ならびにSLIC 0~3の組成および分子量。(B)SLICベースのポリマー電解質の動作原理を示す図。(C)シームレスインターフェースを備えた全統合型伸縮性電池を創出するための、SLICベースの電解質および電極の使用の図。
【0016】
図2図2は、SLIC高分子の特性決定である。(A)約50mm/分の伸長率にある、SLIC 0~3の応力-歪み曲線。(D)SLIC 0~3の、時間-温度の重ね合わせのレオロジー。(E)SLICの、示差走査熱力測定(DSC)のトレース。約-49℃で実質的に一定のTが示される。(C)SLICの小角X線散乱(SAXS)。(B)約30mm/分の速度での、SLIC-3の歪みサイクル。SLIC-3は、約300%まで伸縮し、次いで再び即座に伸縮する。約1時間緩和した後、3回目の伸縮が行われる。
【0017】
図3図3は、ポリマー電解質としてのSLICの特性決定である。全ての試料は、他に指示されない限り、約20%のリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)を含む。(A)主鎖における2-ウレイド-4-ピリミドン(UPy)の量の関数としての、可塑化されたおよび未処理のSLIC電解質のイオン伝導度。(B)非可塑化SLIC電解質に関する、電気化学的インピーダンス分光法(EIS)のトレース。(C)可塑化SLIC電解質に関する、イオン伝導度対Tシフト温度。破線は、視線を誘導する働きをする。(D)0および約20%のLiTFSIを持つSLIC-3ポリマーの、SAXSスペクトル。(E)約2%のSiOを含むおよび含まないSLIC電解質の、サイクル式応力-歪み曲線。(F)約2%のSiOを含むおよび含まない可塑化SLIC-3電解質の、応力-歪み曲線。(G)種々の添加剤を含むSLIC-3電解質の、温度依存性イオン伝導度。(H)SLIC電解質に関する歪みの関数としての、正規化イオン伝導度。(I)SLIC電解質の弾性係数(U)およびイオン伝導度の、その他の報告された電解質との比較。
【0018】
図4図4は、伸縮性電極材料を形成するための、SLICの使用である。(A)種々の量のカーボンブラックおよびリン酸鉄リチウム(LFP)を持つ、SLIC-1ベースの電極の混合物の、応力-歪み曲線。(B)種々のポリマー成分を持つ複合電極の伸縮性の比較。(C)SLIC-3電解質と様々な複合電極との間の接着エネルギー。(D)SLIC-3電解質と7:2:1のSLIC-1ベースの電極との間のインターフェースのSEM画像。(E)リチウムアノード、SLIC-3電解質、およびSLIC-1複合カソードを含む電池の、様々な速度での充放電トレース。(F)Eの電池に関する容量対サイクル数。(G)(E)における場合と同じ構成要素を持つ電池の長期サイクル。(H)(G)の電池に関する、種々のサイクル数での充放電曲線。
【0019】
図5図5は、SLICをベースにした伸縮性電池である。(A)全SLIC伸縮性電池の概略図である。(B)歪みの関数としての、Au@SLIC集電体の抵抗の変化。(C)SLIC-1電極コーティングを持つおよび持たない、Au@SLIC集電体の応力-歪み曲線。(D)伸縮性SLIC構成要素をベースにした完全セルに関する、容量対サイクル数。活物質負荷は、約1.1mAh cm-2である。(E)サイクル1および40での、(D)における電池の充放電曲線。レートはC/10である。(F)0および約60%の歪みの下での、全SLIC伸縮性電池の性能。(G)歪みのない、約70%伸縮された、折り畳まれた、およびその当初の位置に戻された赤色発光ダイオード(LED)に電力を提供する伸縮性SLIC電池の実証。
【0020】
図6図6は、SLIC-1ベースの電解質の機械的性質に対する、塩負荷の影響を示す図である。最初は、LiTFSIを添加すると、イオン性架橋が支配的なため機械的性質が増大する。これは、LiTFSIが主に機械的性質の低下を引き起こす、SLIC-3で観察されたものとは異なる。この相違は、そもそもSLIC-1が実質的な数の架橋を持たないからであり、したがってLiTFSIの添加は、強度を高める追加の架橋を創出する。
【0021】
図7図7は、イオン伝導度に対する、ジ(エチレングリコール)ジメチルエーテル(DEGDME)含量の影響を示す。約30%のDEGDMEは、約20%のDEGDMEよりも著しい改善をもたらさない。
【0022】
図8図8(A)は、約20%のDEGDME可塑剤を含むおよび含まない、LiTFSI濃度の関数としての、SLIC-3ベースの電解質のイオン伝導度である。図8(B)は、約20%のDEGDME可塑剤を含むおよび含まない、LiTFSI濃度の関数としての、SLIC-3ベースの電解質のガラス転移温度である。両方の試料に関し、測定されたイオン伝導度は、ガラス転移温度の変化に相関する。最初は、塩を増加させると、約40%のLiTFSIまではイオン性架橋が増大し、Tが上昇し、イオン伝導度が低下する。約40%よりも高いLiTFSIでは、TFSIアニオンの可塑化作用が支配的になり、Tが低下しイオン伝導度が高くなる。これは、約40重量%よりも高いLiTFSIで観察された機械的性質の急激な降下に十分相関する。可塑化試料の場合、これらの作用は、イオン伝導度に関する主なメカニズムが部分的に溶媒和したLiによるので、それほど目立たない。
【0023】
図9図9は、約20%のLiTFSIおよび可塑剤を含む種々のSLICフィルムのTである。約20%のLiTFSIを添加すると、Tは大幅な上昇し、次いでDEGDME可塑剤を添加すると低下する。UPy濃度が増加するにつれ、可塑化試料のTは、漸進的に低下する。これはおそらく、UPy基とDEGDMEとの相互作用によって引き起こされる。
【0024】
図10図10は、約20%のLiTFSIを含むSLIC 0~3の、応力-歪み測定である。
【0025】
図11図11(A)は、約20%のLiTFSIを含むSLIC-3のサイクル応力-歪み曲線である。弾性は、LiTFSIの存在下で保持される。図11(B)は、約2%のSiOを含むことで、より良好なサイクル性ももたらしていた。
【0026】
図12図12は、約20%のLiTFSIおよび約20%のDEGDMEおよび約2%のSiOを含むSLIC-3のサイクル性応力-歪み曲線である。5サイクルで、それぞれ約30%、約60%、および約1%、速度は約30mm/分である。
【0027】
図13図13は、様々なSLIC試料およびポリエチレンオキシド(PEO)参照に関する、Li NMRシフトである。全ての試料は、約20重量%のLiTFSIを含む。可塑化試料は、追加の約20重量%のDEGDMEを含む。全ての実験は、LiTFSIを溶媒和しない、したがって配位環境に影響を及ぼすべきではない、重水素化クロロホルム中で実施される。リチウム配位環境は、SLIC試料のいずれかに関して大幅に変化しない。
【0028】
図14図14は、約20重量%のLiTFSIおよび約20重量%のDEGDMEを含むSLIC試料の温度依存性イオン伝導度を示す。温度依存性イオン伝導度は、各ポリマーのTに対して正規化される。伝導度は、ほぼマスター曲線に沿って正確に降下することがわかる。破線は、視線を誘導する役割をする。
【0029】
図15図15は、約20%のLiTFSI+約20%のDEGDME+約2%のSiOを含むSLIC-3ベースの電解質の、電気化学的安定性および輸率の測定値を示す。測定は、約37℃で実施し、測定された輸率は約0.43である。
【0030】
図16図16は、非歪み試料の抵抗に対して正規化された、SLIC-3ベースの電解質に関する歪みの関数としての、EISトレースである。観察された伝導度の僅かな減少は、伸縮が増大するにつれてより薄くなる試料の厚さに起因する。
【0031】
図17図17は、SLIC-3およびその他のポリマーの接着エネルギーを示す。
【0032】
図18図18は、約0.25mV/秒の速度での、Li|SLIC|LFP/SLIC/カーボンブラック(CB)電極のサイクリックボルタンメトリー曲線である。サイクルの進行中、劣化はほとんど観察されない。
【0033】
図19図19は、全ての伸縮性電池構成要素を備えるSLICベースのLFP||チタン酸リチウム(LTO)完全セルの、充放電曲線を示す。質量負荷は、約1.1mAh cm-2である。
【0034】
図20図20は、高レート-能力および良好なサイクル安定性を示す、液体電解質の存在下での、SLICベースの電極の電池性能を示す。
【0035】
図21図21は、一部の実施形態による電池を示す。
【0036】
図22図22は、一部の実施形態による電極を示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
説明
図21は、一部の実施形態による電池100を示す。図示されるように、電池100は、1)アノード102;2)カソード104;および3)アノード102とカソード104との間に配置された固体またはゲル電解質106を含み、電解質106は、動的結合を通じて架橋された分子で形成されたまたはこの分子を含む、超分子ポリマー116を含み、分子のそれぞれは、イオン伝導性ドメイン120を含む。
【0038】
電池100の一部の実施形態では、動的結合が水素結合を含む。その他のタイプの可逆性(または動的)の、比較的弱い結合、例えば配位結合(例えば、金属-配位子結合)または静電的相互作用を、水素結合に加えてまたは水素結合の代わりに含めることができる。一部の実施形態では、分子のそれぞれは、水素結合ドメイン122を含む。一部の実施形態では、水素結合ドメイン122は、酸素含有官能基、窒素含有官能基、または両方を含む。一部の実施形態では、水素結合ドメイン122は、ヒドロキシル、アミン、およびカルボニル含有官能基の1つまたは複数を含む。一部の実施形態では、水素結合ドメイン122は、カルボニル含有官能基を含むことができる。カルボニル含有官能基は、C=O部分を含む。カルボニル含有官能基の例には、アミド、エステル、尿素、2-ウレイド-4-ピリミドン、およびカルボン酸官能基が含まれる。一部の実施形態では、水素結合ドメイン122は、アミン、アミド、尿素、および2-ウレイド-4-ピリミドンから選択されるような窒素含有官能基を含むことができる。アミン、アミド、尿素、および2-ウレイド-4-ピリミドンは、-NHR部分を含み、式中、Rは水素または水素とは異なる部分とすることができる。ある特定の官能基、例えばアミド、尿素、およびウレイドピリミドンは、C=O部分ならびに-NHR部分の両方を含む。
【0039】
電池100の一部の実施形態では、イオン伝導性ドメイン120がポリアルキレンオキシド鎖を含む。一部の実施形態では、ポリアルキレンオキシド鎖は(-O-A)-の形をとり、式中、nは2またはそれよりも大きい整数であり、Aはアルキレン、例えばエチレンまたはプロピレンである。一部の実施形態では、ポリアルキレンオキシド鎖は、(-O-A1)n1(-O-A2)n2-の形をとり、式中、n1は1またはそれよりも大きい整数であり、n2は1またはそれよりも大きい整数であり、A1およびA2は、エチレンおよびプロピレンから選択されるような異なるアルキレンである。一部の実施形態では、ポリアルキレンオキシド鎖は、(-O-A1)n1(-O-A2)n2(-O-A1)n3-の形をとり、式中、n1は1またはそれよりも大きい整数であり、n2は1またはそれよりも大きい整数であり、n3は1またはそれよりも大きい整数であり、A1およびA2は、エチレンおよびプロピレンから選択されるような異なるアルキレンである。その他のイオン伝導性ドメイン、例えばポリエチレンイミン鎖、ポリアクリロニトリル鎖、ポリエチレンカーボネート鎖、またはパーフルオロポリエーテル鎖は、ポリアルキレンオキシド鎖に加えてまたは代わりに含めることができる。
【0040】
電池100の一部の実施形態では、電解質106がさらに、超分子ポリマー116中に分散されたリチウムカチオン118を含む。その他のタイプの金属カチオン、例えばナトリウムカチオンを、リチウムカチオンに加えてまたは代わりに含めることができる。一部の実施形態では、金属イオン(例えば、リチウムイオン118)の濃度は、電解質106の全重量に対して少なくとも約0.01重量%とすることができ、例えば少なくとも約0.03重量%、少なくとも約0.05重量%、少なくとも約0.08重量%、少なくとも約0.1重量%、少なくとも約0.2重量%、少なくとも約0.3重量%、または少なくとも約0.4重量%、かつ最大で約0.5重量%もしくはそれよりも多く、最大で約0.7重量%もしくはそれよりも多く、最大で約1重量%もしくはそれよりも多く、または最大で約1.5重量%もしくはそれよりも多くすることができる。
【0041】
電池100の一部の実施形態では、電解質106はさらに、超分子ポリマー116中に分散された充填材114を含む。一部の実施形態では、充填材114はセラミック充填材を含む。一部の実施形態では、充填材114の濃度は、電解質106の全重量に対して少なくとも約0.1重量%、例えば少なくとも約0.3重量%、少なくとも約0.5重量%、少なくとも約0.8重量%、少なくとも約1重量%、または少なくとも約2重量%、かつ最大で約3重量%もしくはそれよりも多く、または最大で約4重量%もしくはそれよりも多くすることができる。
【0042】
電池100の一部の実施形態では、超分子ポリマーは、約25℃以下、例えば約-100℃から約25℃、約-100℃から約0℃、約-100℃から約-25℃、約-50℃から約25℃、約-50℃から約0℃、または約0℃から約25℃のガラス転移温度を有する。
【0043】
電池100の一部の実施形態では、電解質106は、室温(25℃)で少なくとも約10-6S/cmのイオン伝導度、例えば少なくとも約3×10-6S/cm、少なくとも約5×10-6S/cm、少なくとも約8×10-6S/cm、少なくとも約10-5S/cm、少なくとも約3×10-5S/cm、少なくとも約5×10-5S/cm、少なくとも約8×10-5S/cm、または少なくとも約10-4S/cm、かつ最大で約10-3S/cmまたはそれよりも大きいイオン伝導度を有する。
【0044】
電池100の一部の実施形態では、電解質106は、少なくとも約0.1MPaの極限引張り応力を有し、例えば少なくとも約0.5MPa、少なくとも約1MPa、少なくとも約1.5MPa、少なくとも約2MPa、または少なくとも約2.5MPa、かつ最大で約3MPaもしくはそれよりも大きい、または最大で約4MPaもしくはそれよりも大きい。一部の実施形態では、電解質106は、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約100%、少なくとも約200%、少なくとも約300%、少なくとも約400%、少なくとも約500%、少なくとも約1,000%、少なくとも約1,500%、または少なくとも約2,000%、かつ最大で約2,500%またはそれよりも大きい伸長性(または破断点伸びのパーセンテージ)を有する。
【0045】
電池100の一部の実施形態では、アノード102またはカソード104の少なくとも1つが、電解質106に関して指定された前述の特徴を有する超分子ポリマーを含む。一部の実施形態では、アノード102は、超分子ポリマーを、アノード活物質および超分子ポリマー中に分散された導電性充填材と一緒に含む。一部の実施形態では、カソード104は、超分子ポリマーを、カソード活物質および超分子ポリマー中に分散された導電性充填材と一緒に含む。一部の実施形態では、導電性充填材は、炭素質充填材を含む。
【0046】
図22は、追加の実施形態による電極200を示す。図示されるように、電極200は、1)電極活物質202;2)導電性充填材204;および3)動的結合を通じて架橋された分子で形成されたまたはこの分子を含む超分子ポリマー206を含み、分子のそれぞれはイオン伝導性ドメイン210を含み、電極活物質202および導電性充填材204は、超分子ポリマー206中に分散されている。
【0047】
電極200の一部の実施形態では、動的結合は水素結合を含む。その他のタイプの可逆性(または動的)の、比較的弱い結合、例えば配位結合(例えば、金属-配位子結合)または静電的相互作用を、水素結合に加えてまたは水素結合の代わりに含んでもよい。一部の実施形態では、分子のそれぞれは、水素結合ドメイン212を含む。一部の実施形態では、水素結合ドメイン212は、酸素含有官能基、窒素含有官能基、または両方を含む。一部の実施形態では、水素結合ドメイン212は、ヒドロキシル、アミン、およびカルボニル含有官能基の1つまたは複数を含む。一部の実施形態では、水素結合ドメイン212は、カルボニル含有官能基を含むことができる。カルボニル含有官能基は、C=O部分を含む。カルボニル含有官能基の例には、アミド、エステル、尿素、2-ウレイド-4-ピリミドン、およびカルボン酸官能基が含まれる。一部の実施形態では、水素結合ドメイン212は、アミン、アミド、尿素、および2-ウレイド-4-ピリミドンから選択されるような窒素含有官能基を含むことができる。アミン、アミド、尿素、および2-ウレイド-4-ピリミドンは、-NHR部分を含み、式中、Rは水素または水素とは異なる部分とすることができる。ある特定の官能基、例えばアミド、尿素、およびウレイドピリミドンは、C=O部分ならびに-NHR部分の両方を含む。
【0048】
電極200の一部の実施形態では、イオン伝導性ドメイン210がポリアルキレンオキシド鎖を含む。一部の実施形態では、ポリアルキレンオキシド鎖が(-O-A)-の形をとり、式中、nは2またはそれよりも大きい整数であり、Aはアルキレン、例えばエチレンまたはプロピレンである。一部の実施形態では、ポリアルキレンオキシド鎖は、(-O-A1)n1(-O-A2)n2-の形をとり、式中、n1は1またはそれよりも大きい整数であり、n2は1またはそれよりも大きい整数であり、A1およびA2は、エチレンおよびプロピレンから選択されるような異なるアルキレンである。一部の実施形態では、ポリアルキレンオキシド鎖は、(-O-A1)n1(-O-A2)n2(-O-A1)n3-の形をとり、式中、n1は1またはそれよりも大きい整数であり、n2は1またはそれよりも大きい整数であり、n3は1またはそれよりも大きい整数であり、A1およびA2は、エチレンおよびプロピレンから選択されるような異なるアルキレンである。その他のイオン伝導性ドメイン、例えばポリエチレンイミン鎖、ポリアクリロニトリル鎖、ポリエチレンカーボネート鎖、またはパーフルオロポリエーテル鎖は、ポリアルキレンオキシド鎖に加えてまたは代わりに含めることができる。
【0049】
電極200の一部の実施形態では、電極200がさらに、超分子ポリマー206中に分散されたリチウムカチオン208を含む。その他のタイプの金属カチオン、例えばナトリウムカチオンを、リチウムカチオンに加えてまたは代わりに含めることができる。一部の実施形態では、金属カチオン(例えば、リチウムイオン208)の濃度は、電極200の全重量に対して少なくとも約0.01重量%とすることができ、例えば少なくとも約0.03重量%、少なくとも約0.05重量%、少なくとも約0.08重量%、少なくとも約0.1重量%、少なくとも約0.2重量%、少なくとも約0.3重量%、または少なくとも約0.4重量%、かつ最大で約0.5重量%もしくはそれよりも多く、または最大で約0.7重量%もしくはそれよりも多くすることができる。
【0050】
電極200の一部の実施形態では、電極200は、室温(25℃)で少なくとも約10-6S/cmのイオン伝導度、例えば少なくとも約3×10-6S/cm、少なくとも約5×10-6S/cm、少なくとも約8×10-6S/cm、少なくとも約10-5S/cm、少なくとも約3×10-5S/cm、少なくとも約5×10-5S/cm、少なくとも約8×10-5S/cm、または少なくとも約10-4S/cm、かつ最大で約10-3S/cmまたはそれよりも大きいイオン伝導度を有する。
【0051】
電極200の一部の実施形態では、電極200は、少なくとも約0.1MPaの極限引張り応力を有し、例えば少なくとも約0.5MPa、少なくとも約1MPa、少なくとも約1.5MPa、少なくとも約2MPa、または少なくとも約2.5MPa、かつ最大で約3MPaもしくはそれよりも大きい、または最大で約4MPaもしくはそれよりも大きい。一部の実施形態では、電極200は、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約100%、少なくとも約200%、少なくとも約300%、少なくとも約400%、少なくとも約500%、または少なくとも約900%、かつ最大で約1,500%またはそれよりも大きい伸長性(または破断点伸びのパーセンテージ)を有する。
【0052】
さらなる実施形態では、電池は、前述の実施形態のいずれかの電極200を含む。
【実施例
【0053】
下記の実施例は、当業者に記述を例示し提供するために、本開示の一部の実施形態の特定の態様について記載する。実施例は、本開示の一部の実施形態を理解し実施するのに有用な特定の方法論を提供するだけであるので、本開示を限定するものと解釈されるべきではない。
【0054】
概要
【0055】
この実施例では、超分子ポリマー工学が、優れた機械的性質を持つゲルポリマー電解質を形成するのに導入される。水素結合する2-ウレイド-4-ピリミドン(UPy)部分をイオン伝導性ポリマー主鎖に埋め込むことにより、イオン伝導度から切り離された機械的性質を有する超弾性ポリマー電解質が形成される。伸縮性リチウムイオン伝導体(SLIC)と呼ばれるこのポリマーは、弾性ポリマー電解質として使用することができ、適度な量(例えば、約20重量%)の可塑剤でゲル化されたときに2×10-4S cm-1のイオン伝導度を有する。このポリマー電解質の極端な弾性は、歪み工学または液体電解質に関わらない本質的に伸縮性の電池材料の製作を可能にする。さらに、このポリマーの動的水素結合は、電極と電解質成分との間の優れた界面の形成を可能にする。これらの界面は、様々な成分間での連続イオン輸送による伸縮性リチウムイオン電池の形成を可能にする。伸縮性イオン伝導体を形成するのに超分子動的結合を使用する本明細書に報告される戦略は、伸縮性リチウムイオン電池用の強力な弾性材料を製作するための、新たな経路を開く。
【0056】
結果
【0057】
超分子SLICポリマーの特性決定
【0058】
図1Aは、合成されたSLIC高分子の概略図を示す。SLIC分子は、ヒドロキシル末端高分子およびジイソシアネートリンカーの縮合を介して合成した。SLIC高分子は、3つの主な構成単位から構成される。第1は、イオン伝導ポリマー ポリプロピレングリコール-ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール(PPG-PEG-PPG)をベースにする軟質セグメントである。軟質セグメントの分子量は、約2900kDaである。水素結合モチーフ 2-ウレイド-4-ピリミドン(UPy)は、ポリマーに機械的強度を与えるために主鎖に含まれる。最後に、水素結合セグメントが含まれない場合、脂肪族延長剤またはスペーサーが代わりに含まれる。高分子の機械的性質およびイオン輸送特性に対する水素結合UPy部分の影響を系統的に調査するために、SLIC-0、SLIC-1、SLIC-2、およびSLIC-3と称される一連のポリマーを合成した。SLIC-0は、0%の水素結合単位を主鎖中に含有し、それに対してSLIC-3は、100%のUPyを含有しかつ脂肪族延長剤を含まない。合成されたSLICの分子量は、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)によって決定されたときに約100kDaである。H NMRは、首尾良くなされたSLIC分子の合成を確認する。UPyの延長剤に対する比を系統的に変えることにより、軟質セグメントの総量は全てのSLICに関して同じであることに留意されたい。図1Bは、SLIC高分子の動作原理の概略図を示す。SLICでは、リチウムイオンが、ポリマーの大部分を構成するPPG-PEG-PPG軟質セグメントを経て輸送される。ポリマー主鎖中のUPy部分は、軟質セグメントとは独立して互いに相互作用し、高い機械強度を有する領域を創出する。ポリマーの主鎖中に水素結合部分を含むことは、伸縮性電極などの完全に伸縮性の電池構成要素を製作するのにも有利である。例えば図1Cでは、SLICベースの電極とSLICベースの電解質との間の強力な相互作用が示され、ポリマー主鎖のセグメント緩和により、動的水素結合を電極-電解質界面に引き起こすことが可能になり、継ぎ目なく一体化された伸縮性電池が創出される。
【0059】
合成されたままのSLIC分子の機械的性質は、堅牢な伸縮性電解質として使用されるポリマーの実現可能性を評価するときに、重要なものである。図2Aは、SLIC-0から3までの応力-歪み曲線を示す。SLIC-0の場合、試料における引張り応力は極めて低く、ポリマーは低い歪みで降伏する。主鎖中のUPyの量が増加するにつれ、エラストマーを伸ばす引張り応力は系統的に増加する。UPyの量の増加もポリマーの弾性挙動を高めるが、全体的な伸長性は低下する。SLIC-3の場合、約2,400%の目覚ましい伸長性と、約14MPaの極限応力とが得られる。SLIC-3の弾性挙動を、図2Bに示す。水素結合架橋の動的性質はポリマーに粘弾挙動を与えるが、SLIC-3ポリマーは、首尾良くなされるサイクル後、低い歪みで優れた応力回復を示す。約1時間の休止後、ポリマーは完全にその当初の機械的性質を回復する。SLIC-0、1、2に関するサイクル応力-歪み曲線を、補足情報に示す。これらのポリマーは粘弾性でもあるが、SLIC-3よりも低い応力の回復を実証する。観察されるように、歪みから回復する能力は、網状構造内の水素結合の量が増大するにつれ、増大する。SLICポリマーの微細構造を調査するために、小角X線散乱(SAXS)測定を行った(図2C)。ポリマーのUPy含量が、SLIC-0からSLIC-3まで増加するにつれ、約6nmのd間隔を持つブロードピークは、より顕著になる。このピークは、優れた機械的性質をポリマーに与える、相分離した水素結合ドメインの存在を示す。このピークの幅広さは、SLICの分子構造に基づいて予測されるように、UPyドメインの集団が低いことを示す。
【0060】
図2Dは、SLIC 0~3のレオロジー特性を示す。時間-温度の重ね合わせレオメトリーを使用して、10-5から10rad秒-1のSLIC分子の剪断弾性率のデータを得る。レオロジーから、ゴム状平坦域に関する弾性率が、SLICの全てに関して類似することを、観察することができる。損失および貯蔵弾性率の間の交差点は、ポリマーが「液体状」から「固体状」への遷移を受ける場所である。この遷移点は、試料中の架橋密度の指標も提供する。より高い頻度で生ずる遷移は、鎖同士の間の架橋密度がより低く、したがって分子がより素早く緩和することを示す。図2Dは、ポリマー主鎖中のUPyの量がSLIC 0~3で増加し、ポリマー緩和時間がより遅くなり、UPy水素結合から予測される架橋密度の増大と一致することを示す。これは短時間規模で、SLIC-0がSLIC-3よりもさらに緩和し流動することも意味する。図2Eは、SLIC 0~3に関する示差走査熱量測定(DSC)トレースを示す。SLICの全ては、約-49℃のガラス転移温度(T)を示す。このTは、ポリマー主鎖中の軟質PPG-PEG-PPGセグメントの緩和から生ずる。実質的に一定のTが、種々のSLICの全てに関して観察されることは、ポリマー電解質としての適用例を考える場合に重要である。全体として、SLIC系の超分子設計は、ポリマー系の機械的性質の優れた制御を与える。
【0061】
ポリマー電解質としてのSLIC
【0062】
ポリマー電解質として使用されるSLIC系の主な利点の1つは、直交性機能的水素結合およびイオン伝導ドメインの使用によって、ポリマーの機械的性質からTを切り離すことである。Vogel-Tamman-Fulcher(VTF)方程式は、ポリマー電解質のTが低いとイオン伝導度が高くなることを示す。したがってポリマー電解質に関する試みは、イオン伝導度を改善するために、ポリマー電解質のTを低下させることに焦点を当てている。しかしながら、ポリマーのTを低下させることは、ポリマーの強度に有害になる可能性があり、したがって低いTを有するポリマー電解質は、外部穿刺を介してまたは樹状突起形成から、短絡などの危険をもたらす可能性がある。伸縮性電池では、軟質および弱いポリマー電解質に起因する短絡の危険性が、電池が伸びたときに悪化する。これらの危険性により、ポリマー工学戦略は、ポリマー電解質のTと機械的強度との間の二律背反を克服するよう開発されてきた。1つの戦略は、ポリスチレン(PS)-ポリエチレンオキシド(PEO)ブロックコポリマーに基づき、PSブロックは機械的強度を提供し、PEOブロックはイオン伝導度を提供する。その他の戦略は、ナノ規模の相分離、毛様ナノ粒子との架橋、およびセラミック充填材の添加を含む。しかしながら、これらの戦略は剛直な電解質をもたらし、したがって伸縮性ポリマー電解質のような適用例には適していない。本明細書では、SLIC系は、イオン伝導度をポリマー電解質の機械的強度から切り離すために、超分子工学に基づく戦略を提供する。
【0063】
この仮説を確認するために、ポリマー電解質は、リチウム塩(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI))をポリマー中に溶解し、フィルムを流延することによって創出した。イオン輸送特性は、可塑剤としてのジ(エチレングリコール)ジメチルエーテル(DEGDME)の存在下でまたは存在させずに調査した。実験によれば、約20重量%のLiTFSIおよび約20重量%のDEGDMEを、ポリマー電解質フィルムの形成で選択して、試料のイオン伝導度および機械的性質を高めた。図3Aは、水素結合の量、したがって機械的性質がSLIC-0からSLIC-3まで増大するとき、SLICポリマー電解質に関するイオン伝導度が比較的一定のままであることを示す。この観察は、可塑化試料および非可塑化試料の両方で真実である。特に、約20%のLiTFSIおよび約20%のDEGDMEを含むSLIC試料は、室温で約1×10-4S cm-1の高いイオン伝導度の値を有する。SLIC試料のイオン伝導度同士の類似性は、軟質PPG-PEG-PPGセグメントがイオン伝導度を示しかつ伝導度が水素結合UPy部分に直交することを示す。これを裏付けるため、図3は、非可塑化SLIC試料に関する電気化学インピーダンス分光法(EIS)トレースが全てほぼ同一に見えることを示す。さらに、可塑化SLICポリマー電解質の場合、T正規化温度依存性イオン伝導度は、単一マスター曲線に沿って降下し、イオン輸送メカニズムが類似することを示している(図3C)。さらに、全てのSLIC試料のVTF活性化エネルギーは、互いに約1kJ mol-1以内にある。軟質セグメントがSLIC試料の伝導度を示す最終的な1つの証拠は、Li NMRから得られる。Li NMRは、SLIC-LiTFSI-DEGDME複合体の全てにおけるリチウム溶媒和環境は比較的一定であることを示し、UPy部分がリチウム伝導度に干渉しないことが確認される。これらのデータにより、SLIC-3は、その極端な堅牢性および高いイオン伝導度により、ポリマー電解質として選択される。
【0064】
SLICベースのポリマー電解質の機械的性質は、固体電解質としてのそれらの性能を決定することができる。LiTSFI塩の添加は、SLICベースの電解質の機械的性質の低下を引き起こす。これはおそらく、軟質セグメントのLi推進型イオン架橋またはUPyドメインの形成の可塑化TFSIアニオン干渉に起因する。事実、図3Dは、UPyドメインに起因する6nm SAXSピークの低下を示す。しかしながら、図3Dは、全体的なモルホロジーが実質的に一定のままであることを示す。電解質の機械的性質に対するLiTFSI添加の悪影響を撲滅するために、約2重量%のシリカ(SiO)をポリマー電解質に添加した。少量のセラミック添加剤は、機械的性質の増大およびリチウム輸率の強化を含むいくつかの利益を有することができる。図3Eは、約20%のLiTFSIを含むSLIC-3ベースの電解質が良好な機械的性質を有するが、約2%のSiOの添加はその性質をさらに増大させかつ試料の弾性を改善できることも示す。最後に、可塑剤の影響を考える。約20%のDEGDME可塑剤が添加された場合、電解質の機械的性質は顕著に降下する。しかしながら図3Fに示されるように、約2%のSiOの添加は、当初の機械的性質のいくらかを回復させ、ポリマーは弾性のままである。LiTFIおよびDEGDMEを添加しても、SLIC-3ベースのポリマー電解質は、約2.5MPaの高い極限応力と約2000%の伸長性とを保持する。SLIC-3ベースの電解質のイオン伝導度に対する、LiTFSI、DEGDME、およびSiOの添加の影響を、図3Gに示す。約20%のDEGDMEの添加は、イオン伝導度に顕著な増大をもたらし、一方、約2%のSiOの添加は、イオン伝導度に適度な減少を引き起こす。高性能ポリマー電解質に関する最終選択は、約20%のLiTFSI、約20%のDEGDME、および約2%のSiOを含むSLIC-3である。この電解質は、Li||SS電気化学セルにおいて有害な副反応がなく、約0.43の見事なリチウム輸率を有することが確認される。下記のセクションは、SLIC電解質としてこの電解質を指すことになる。
【0065】
最後に、伸縮性電池用のSLIC電解質の性能を評価するとき、歪みの下での電解質の性能が考慮される。図3Hは、SLIC電解質が、イオン伝導度の変化がほとんどない状態で0から約200%の間で可逆的に伸縮できることを示す。全体として、電解質成分の賢明な選択肢と合わせたSLIC電解質の超分子設計手法は、このポリマー電解質を、伸縮性電池で使用せざるを得なくする。このポリマーの望ましさを確認するために、SLICと様々なその他の電解質との比較を行う。応力歪み曲線の可逆的部分の下の面積と指定される弾性係数(U)を、ポリマー電解質の機械的性質を指定するメトリックとして選択した。図3Iから、SLIC電解質が、その他ほとんどの堅牢な電解質よりも一桁程度高い弾性係数を有することがわかる。さらに、約1.2×10-4S cm-1の高いイオン伝導度の値は、最も高い報告されたイオン伝導度と競合し、リチウムイオン電池の適用例で使用するのに許容できる程度に高い。
【0066】
伸縮性電極材料としてのSLIC
【0067】
伸縮性電極材料の開発は、伸縮性リチウムイオン電池を可能にすることができる。伸縮性電極材料を形成するその他の手法は、コストがかかるミクロ/ナノ規模工学を利用するか、または弾性支持体上への少量の活物質のコーティングを含む。本質的に伸縮性の電極は、電極材料中のバインダを伸縮性のものに置き換えることによって製作することができる。SLICは、優れた機械的性質ならびにイオン伝導度を持つポリマーであるので、伸縮性複合電極材料を作製するための候補である。スラリープロセスを使用することによって、大規模な自立型電極が、リン酸鉄リチウム(LFP)、カーボンブラック、およびSLIC電解質の混合物をベースにして形成される。図4Aは、組成の関数としての、これら伸縮性複合電極の応力-歪み曲線を示す。他に指定しない限り、電極組成は、ポリマー:LFP:CBの重量比として与えられる。一般に、活物質の組成が増大するにつれ、複合電極材料の硬質性は増大し、伸長性が減少する。同様の傾向は、SLIC-3ポリマーで形成された電極に関して観察される。特に、SLICベースの電極は、2:7:1の比で約100%近くの伸長性を実現することができる。2:1:7の比で、約900%の伸長性が得られる。図4Bは、様々なポリマーに関して7:2:1の比で調製された種々の電極の応力-歪み曲線を示す。SLIC-3電極は、より高い弾性率および強度を有するが、その伸長性は約450%であることがわかる。SLIC-1ベースの電極の伸長性がより高いのは、より軟質のポリマーが、剛直な活物質の添加によってより硬質になるのに順応できることに起因する。SLICベースの電極の機械的性質が、典型的なバインダ材料(ポリ二フッ化ビニリデン(PVDF))またはポリマー電解質材料(PEO)と比較してどれぐらい大きく改善されたのかも注目に値する。これらの材料をベースにする複合電極は、約20%の歪みよりも大きく伸縮できない。この結果は、超弾性SLICポリマーが伸縮性電極材料を形成できる能力を強調する。
【0068】
固体またはゲル電解質を持つ電池に関する1つの問題は、電極および電解質層の間で良好な界面接触およびイオン伝導度を実現することである。UPy結合の動的な性質により、SLIC電極は、先のセクションで開発したSLIC電解質と強力な界面を形成することができると予測される。図4Cは、SLIC電解質と、SLIC-1、SLIC-3、PEO、およびPVDFを含む複合電極(7:2:1)との間の界面接着の試験の結果を示す。接着試験に関する生のデータは、補足情報で示される。SLIC電極とSLIC電解質との間の接着エネルギーは、その他のポリマーから作製された電極に関するよりも非常に大きいことがわかる。SLIC-1を持つ電極は、図1Dのレオメトリーにより明らかなように、SLIC-3ポリマーよりも流動性の高いSLIC-1ポリマーに起因する可能性のある、特に高い接着エネルギーを有する。この流動可能性により、SLIC-1ポリマーは、電極と電解質との間で、より接着性の高い水素結合を形成することが可能になる。図4Dにおける走査型電子顕微鏡法(SEM)画像は、SLIC-1ベースの電極とSLIC-電解質との間の界面には確かに継ぎ目がなく連続していることを示す。
【0069】
これらの伸縮性電極および電解質材料に関する電池試験は、リチウムイオン電池でのそれらの性能を決定するために、最初にコインセルで実施した。図4Eは、SLIC-1複合電極(7:2:1)およびリチウム対電極と対にした、SLIC電解質をベースにした電池の充放電曲線を示す。図4Fは、容量およびクーロン効率(CE)対サイクル数に対応するグラフを示す。SLICをベースにした構成要素を持つ電池は、室温で、約1Cまでのレートで機能し、その他のポリマー材料で製作されたLFP||Li電池間に、識別可能な相違は示されない。補足情報に示される2.5から3.8Vの電池のサイクリックボルタンモグラムは、目的の電圧範囲にわたり、これらの電池材料において副反応または劣化が生じないことを示す。さらに、図4Gおよび4Hは、電池が、400サイクルにわたってC/5のレートでサイクル動作し、その平均クーロン効率は約99.45%であり容量保持は約86.8%であることを示す。全体として、SLICベースの電池構成要素は、リチウムイオン電池の優れた性能で機能することができ、顕著な有害な影響はない。
【0070】
伸縮性電池
【0071】
前述の内容は、互いにうまく界面を形成しかつ半電池電池構成で動作することができる、高性能伸縮性電解質および電極材料を製作するための材料として、SLICを使用する能力を実証する。最終的な実証として、SLICは、全伸縮性電池を製作するのに使用できることが示される。図5Aは、SLICポリマーをベースにした、伸縮性電極、電解質、および集電体を含むそのような電池のレンダリングを実証する。次いで積層体全体は、エラストマー(ポリジメチルシロキサン(PDMS))に包封される。SLICベースの伸縮性集電体が開発される。この集電体を開発するために、マイクロクラック金の方法を利用した。金の薄層(約100nm)を、SLIC基板上に蒸着した。次いでSLIC電極スラリーを、金の集電体上に直接流延した。Au@SLIC集電体は、図5Bに示されるような歪みの関数として劇的に変化しない約20Ωm-1の低抵抗を有する。図5Cは、SLIC-1電極(7:2:1)コーティングがあるまたはない、Au@SLIC集電体の機械的性質を示す。電極コーティングがあっても、Au@SLIC集電体は、その初期の長さの約300%まで弾性的に伸縮することができる。
【0072】
伸縮性SLIC電極および電解質構成要素をベースにした完全セルを製作する能力を実証するため、チタン酸リチウム(LTO)アノードを、LFP電極と同じ手法で製作した。図5Dは、LFP||SLIC-3||LTOを含有する完全セルのレート能力を示す。完全セルに関し、2:7:1の比を持つSLIC-1電極が使用され、その結果、約1.1mAh g-1の高い質量負荷をもたらすことに留意されたい。伸縮性SLIC構成要素をベースにした完全セル電池は、クーロン効率が約99%を超えて到達する、約120mAh g-1近くの目覚ましい容量を得ることができる。図5Eは、サイクル1およびサイクル40で、C/10のレートで完全セルの充放電トレースを示し、これらの伸縮性材料は、完全セル構成において多数のサイクルにわたり継続することが示される。
【0073】
全SLIC構成要素をベースにした電池の伸縮性を実証するため、PDMS包封型完全セルを、非伸縮状態でおよび約60%の歪みを加えて動作させた(図5F)。約60%の加えられた歪みに応答して、キャパシタンスの僅かな減少および過電位の増加があることを、観察することができ;しかしながらその影響は小さい。観察される容量の僅かな減少は、伸縮の際のAu@SLIC集電体の抵抗の増加に起因するようである。最後に、実証されるように、伸縮性SLICベースの電池は、赤色LEDに電力が供給されるように、充電され使用された。赤色LEDは、SLIC電池が約70%歪みまで伸長され、半分に折り畳まれたときであっても、点灯したままである(図5G)。SLICベースの電池の性能は、ポリマー系が、リチウムイオン電池として機能する全伸縮性電池構成要素を創出する能力を強調する。
【0074】
結論
【0075】
結論すると、伸縮性リチウムイオン伝導体、SLICは、伸縮性リチウムイオン電池用の高性能材料の製作を可能にする、合理的に設計された超分子ポリマーである。SLICの設計は、高いイオン伝導度および優れた弾性の両方を提供する直交性機能的構成要素を組み込む。イオン伝導度と機械的堅牢性との間の特徴の二律背反を克服するのにこの設計を使用して、弾性ポリマー電解質の製作を行う。さらに、SLICポリマーの超堅牢性およびイオン伝導性により、このポリマーは、スラリー流延プロセスを使用して伸縮性複合電極が創出されるような優れたバインダ材料になる。これらの伸縮性材料の組合せにより、SLIC材料をベースにした、完全に伸縮性のリチウムイオン電池の創出が可能になる。
【0076】
材料および方法
【0077】
SLIC材料の合成
【0078】
全ての試薬をSigma Aldrichから購入し、他に指示されない限り精製なしで使用した。NMR分光法を、Li NMRに関してInova 300MHz分光計を使用して実施した。ポリマー/塩/添加剤混合物を、重水素化クロロホルム(CDCl)中に約5重量%の濃度まで溶解し、5mmのホウケイ酸塩NMR管に入れた。CDClは、未処理のLiTFSI-CDCl混合物におけるLiピークの欠如によって示されるように、LiTFSIの溶媒和を妨げる。全ての場合において、試料は、窒素環境において、NMR管内で調製され耐密に封止された。
【0079】
SLIC材料の物理的特性決定(DSC、SAXS、SEM、界面特性)
【0080】
SLIC電解質の製作
【0081】
SLICポリマーを、適切な量の真空乾燥LiTFSIおよび約14nmのヒュームドSiOと共に、テトラヒドロフラン(THF)に溶解した。粘性溶液をTeflon型に流延し、約24時間、室温(RT)で乾燥した。RTで乾燥後、フィルムを真空炉内でさらに約60℃で約24時間乾燥し、窒素充填されたグローブボックス内で約24時間乾燥した。得られたフィルムは約75~200μmの厚さであった。使用するために、フィルムを剥がし、穿孔し、窒素グローブボックスの範囲内で可塑化した。
【0082】
SLIC電極の製作
【0083】
SLICポリマーおよびLiTFSIを、N-メチル-2-ピロリドンに溶解して、粘性液体を作製した。次いで活物質(LFP/LTO、MTI)およびカーボンブラック(Timcal SuperP)を、適切な比で添加し、二重非対称遠心分離混合器(FlackTek)を使用して混合した。得られたスラリーを、Teflonブロックまたは集電体のいずれかにドクターブレード処理し、次いでRTで約12時間乾燥し、真空下で約70℃で約24時間乾燥した。フィルムを素早く窒素充填グローブボックス内に移し、剥がし、次いで適切なサイズにカットした。
【0084】
電気化学的特性決定
【0085】
全ての電気化学的測定は、Biologic VSP-300ポテンショスタットを使用して行った。温度制御された実験は、Espec環境チャンバーを利用した。電気化学的インピーダンス測定は、ポリマーフィルムを対称ステンレス鋼(SS||SS)コインセルに挟むことによって実施した。約150μmのTeflonスペーサーを使用して、測定中に厚さの変化がないことを確実にした。分極振幅が約50mVである、約7MHzから約100mHzの周波数範囲を使用した。温度依存的イオン伝導度を、0から約70℃まで測定し、その平衡時間は各温度で約1時間であった。歪み依存的イオン伝導度は、ポテンショスタットをグローブボックス内に接続し、伸縮したポリマーフィルム上に固定量の圧力でクランプ留めされた、2つのステンレス鋼ディスク間のインピーダンスを測定することによって、実施した。その他の電気化学試験では、試料を気密状態でアルゴン充填グローブボックスに移した。電気化学的安定性を、約40℃で0から約4Vの範囲にわたり、約0.25mV/秒のスキャン速度で、Li||SSセルを使用してプローブした。リチウム輸率を、分極が約50mVの状態で、約40℃でLi||Li対称セルを使用して計算した。
【0086】
非伸縮性電池試験を、2032コインセルで、Arbin電池サイクラーを使用して実施した。可塑化電解質の約2cmのディスクを、新たにスクレープ処理した約1cmのLiディスクの最上部に配置した。アルミニウム集電体上にコーティングされた約1cmの複合電極を、電解質の最上部に配置し、積層体をコインセル内に封止した。
【0087】
伸縮性電池の製作
【0088】
伸縮性集電体を、SLIC-3の薄い(約20μm)フィルム上に金を蒸着することによって製作した。蒸着速度は約8Ås-1であった。電子抵抗の歪み依存性を、カスタムメードの伸縮ステーションを備えたKeithly LCRメーターを使用して測定した。伸縮性電池を作製するために、複合電極スラリーを、Au@SLICフィルム上に直接、ドクターブレード処理した。乾燥後、Au@SLIC+電極スラリーを、窒素充填グローブボックス内に移した。グローブボックス内では、SLIC電解質を可塑化し、構成要素を以下の順序で組み立てた:Au@SLIC+LTO||SLIC電解質||Au@SLIC+LFP。アルミニウムのタブを、Au@SLIC集電体の縁部にテープで貼り、積層体全体をPDMS(EcoFlex DragonSkin 10 Medium)の2つのスラブ間に挟み、液体PDMSのコーティングで封止した。一晩、硬化した後、電池をグローブボックスの外に移し、電気化学的にプローブ処理した。長期サイクル測定では、伸縮性電池構成要素をコインセル内に封止して、水分透過率を低減させた。典型的な伸縮性電池は、約1cmの活物質面積を有していた。LED実証では、活物質面積が約1cmである2つの伸縮性電池を、PDMSで封止した後に並列に接続した。
【0089】
補足情報
【0090】
図6は、SLIC-1ベースの電解質の機械的性質に対する、塩負荷の影響を示す。最初は、LiTFSIを添加すると、イオン性架橋が支配的なため機械的性質が増大する。これは、LiTFSIが主に機械的性質の低下を引き起こす、SLIC-3で観察されたものとは異なる。この相違は、そもそもSLIC-1が実質的な数の架橋を持たないからであり、したがってLiTFSIの添加は、強度を高める追加の架橋を創出する。
【0091】
図7は、イオン伝導度に対するDEGDME含量の影響を示す。約30%のDEGDMEは、約20%のDEGDMEよりも著しい改善をもたらさない。
【0092】
図8Aは、約20%のDEGDME可塑剤を含むおよび含まない状態での、LiTFSI濃度の関数として、SLIC-3ベースの電解質のイオン伝導度を示す。図8Bは、約20%のDEGDME可塑剤を含むおよび含まない状態での、LiTFSI濃度の関数として、SLIC-3ベースの電解質のガラス転移温度を示す。両方の試料に関し、測定されたイオン伝導度は、ガラス転移温度の変化に相関する。最初は、塩を増加させると、約40%のLiTFSIまではイオン性架橋が増大し、Tが上昇し、イオン伝導度が低下する。約40%よりも高いLiTFSIでは、TFSIアニオンの可塑剤の影響が支配的になり、Tが低下しイオン伝導度が高くなる。これは、約40重量%よりも高いLiTFSIで観察された機械的性質の急激な降下に十分相関する。可塑化試料の場合、これらの影響は、イオン伝導度の主要なメカニズムが部分的に溶媒和されたLiを経るので、それほど顕著ではない。
【0093】
図9は、約20%のLiTFSIおよび可塑剤を含む、種々のSLICフィルムのTを示す。約20%のLiTFSIを添加すると、Tは大幅な上昇し、次いでDEGDME可塑剤を添加すると低下する。UPy濃度が増大するにつれ、可塑化試料のTは、漸進的に低下する。これはおそらく、UPy基とDEGDMEとの相互作用によって引き起こされる。
【0094】
図10は、約20%のLiTFSIを持つ、SLIC 0~3の応力-歪み測定を示す。
【0095】
図11Aは、約20%のLiTFSIを含むSLIC-3のサイクル応力-歪み曲線を示す。弾性は、LiTFSIの存在下で保持される。図11Bは、約2%のSiOを含むことで、より良好なサイクル性ももたらすことを示す。
【0096】
図12は、約20%のLiTFSIおよび約20%のDEGDMEおよび約2%のSiOを含む、SLIC-3のサイクル応力-歪み曲線を示す。サイクル動作は、5サイクルで行われ、それぞれ約30mm/分の速度で約30%、約60%、および約1%である。
【0097】
図13は、様々なSLIC試料およびPEO参照に関するLi NMRシフトを示す。全ての試料は、約20重量%のLiTFSIを含む。可塑化試料は、追加の約20重量%のDEGDMEを含む。全ての実験は、LiTFSIと溶媒和しない、したがって配位環境に影響を及ぼさない重水素化クロロホルムで実施される。リチウム配位環境は、SLIC試料のいずれに関しても劇的に変化しない。
【0098】
図14は、約20重量%のLiTFSIおよび約20重量%のDEGDMEを含むSLIC試料の温度依存性イオン伝導度を示す。温度依存性イオン伝導度は、各ポリマーのTに対して正規化される。伝導度は、マスター曲線に正確に沿ってほぼ降下することがわかる。破線は、視線を誘導する働きをする。
【0099】
図15は、約20%のLiTFSI+約20%のDEGDME+約2%のSiOを含むSLIC-3ベースの電解質の、電気化学的安定性および輸率測定を示す。測定は、約37℃で実施し、測定された輸率は約0.43である。
【0100】
図16は、非歪み試料の抵抗に対して正規化された、SLIC-3ベースの電解質に関する、歪みの関数としてのEISトレースを示す。観察された伝導度の僅かな減少は、伸縮が増大するにつれてより薄くなる試料の厚さに起因する。
【0101】
図17は、SLIC-3およびその他のポリマーの接着エネルギーを示す。
【0102】
図18は、約0.25mV/秒の速度での、Li|SLIC|LFP/SLIC/CB電極のサイクリックボルタンメトリー曲線を示す。サイクルの進行中、劣化はほとんど観察されない。
【0103】
図19は、全ての伸縮性電池構成要素を備えるSLICベースのLFP||LTO完全セルの、充放電曲線を示す。質量負荷は、約1.1mAh cm-2である。
【0104】
図20は、高レート能力および良好なサイクル安定性を示す、液体電解質の存在下での、SLICベースの電極の電池性能を示す。
【0105】
本明細書で使用される場合、単数形の用語「a」、「an」、および「the」は、他に文脈が明示しない限り、複数の指示対象を含んでいてもよい。したがって、例えば1つの対象への言及は、文脈が他に明示しない限り多数の対象を含んでいてもよい。
【0106】
本明細書で使用される場合、「実質的に」、「実質的な」、および「約」という用語は、小さい変動を記述し説明するのに使用される。ある事象または状況と併せて使用されるとき、その用語は、事象または状況が厳密に生ずる場合ならびに事象または状況が近似付近で生じる場合を指すことができる。数値と併せて使用されるとき、その用語は、その数値の±10%未満またはそれに等しい変動範囲、例えば±5%未満もしくはそれに等しい、±4%未満もしくはそれに等しい、±3%未満もしくはそれに等しい、±2%未満もしくはそれに等しい、±1%未満もしくはそれに等しい、±0.5%未満もしくはそれに等しい、±0.1%未満もしくはそれに等しい、または±0.05%未満もしくはそれに等しい範囲を指す。
【0107】
本明細書で使用される場合、「サイズ」という用語は、物体の特徴的寸法を指す。したがって例えば、球状である物体のサイズは、物体の直径を指すことができる。非球状の物体場合、非球状物体のサイズは、対応する球状物体の直径を指すことができ、対応する球状物体は、非球状物体の場合と実質的に同じである誘導可能なまたは測定可能な特徴の特定の集合を示しまたは有する。特定のサイズを有するとして物体の集合を指す場合、物体は、特定のサイズ付近のサイズ分布を有することができることが企図される。したがって、本明細書で使用される場合、物体の集合のサイズは、平均サイズ、メジアンサイズ、またはピークサイズなど、サイズの分布の典型的なサイズを指すことができる。
【0108】
さらに、量、比、およびその他の数値は時々、範囲フォーマットで本明細書に提示される。そのような範囲フォーマットは、便宜上および簡素化のために使用されることを理解されたく、範囲の限度として明示的に指定された数値を含むようにしかし各数値および部分範囲が明示的に指定されるかのごとくその範囲内に包含される全ての個々の数値または部分範囲も含むように、柔軟に理解すべきである。例えば、約1から約200の範囲内の比は、約1および約200の明示的に列挙された限度を含むが、約2、約3、および約4などの個々の比、ならびに約10から約50、約20から約100、および同様のものなどの部分範囲も含むと理解すべきである。
【0109】
本開示について、その特定の実施形態を参照しながら記述してきたが、添付される特許請求の範囲により定義される本開示の真の精神および範囲から逸脱することなく、様々な変更を行ってもよくかつ均等物で置換してもよいことが、当業者に理解されるべきである。さらに、特定の状況、材料、組成物、方法、1つまたは複数の操作を、本開示の対象、精神、および範囲に適合させるように、多くの修正を行ってもよい。全てのそのような修正は、本明細書に添付される特許請求の範囲内にあるものとする。特に、ある特定の方法について、特定の順序で行われた特定の操作を参照しつつ記述してきたかもしれないが、これらの操作は、本開示の教示から逸脱することなく均等な方法が形成されるように、組み合わせても、細分化しても、または順序を変えてもよいことが理解されよう。したがって、他に本明細書に指示されない限り、操作の順序およびグループ分けは、本開示に限定するものではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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【国際調査報告】