(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-07
(54)【発明の名称】薬物を送達する神経ラップ
(51)【国際特許分類】
A61K 9/70 20060101AFI20220228BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20220228BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20220228BHJP
A61L 31/12 20060101ALI20220228BHJP
A61L 31/16 20060101ALI20220228BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220228BHJP
A61K 31/706 20060101ALI20220228BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220228BHJP
A61K 35/30 20150101ALI20220228BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20220228BHJP
A61L 27/18 20060101ALI20220228BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20220228BHJP
A61L 27/44 20060101ALI20220228BHJP
A61M 37/00 20060101ALI20220228BHJP
【FI】
A61K9/70
A61K47/34
A61L31/04
A61L31/12 100
A61L31/16
A61K45/00
A61K31/706
A61P25/00
A61K35/30
A61P37/06
A61L27/18
A61L27/54
A61L27/44
A61M37/00 550
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021541038
(86)(22)【出願日】2020-01-14
(85)【翻訳文提出日】2021-08-20
(86)【国際出願番号】 US2020013498
(87)【国際公開番号】W WO2020150226
(87)【国際公開日】2020-07-23
(32)【優先日】2019-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】399047002
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ユタ リサーチ ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(72)【発明者】
【氏名】デービス,ブレット
(72)【発明者】
【氏名】シア,ジル
(72)【発明者】
【氏名】サント,ヒマンシュ
(72)【発明者】
【氏名】ラブルー,プラティマ
(72)【発明者】
【氏名】ゲール,ブルース・ケイ
(72)【発明者】
【氏名】アガーワル,ジャヤント・ピー
【テーマコード(参考)】
4C076
4C081
4C084
4C086
4C087
4C267
【Fターム(参考)】
4C076AA71
4C076AA94
4C076BB32
4C076CC01
4C076EE17
4C076EE48
4C076FF31
4C076FF67
4C076FF68
4C081AB11
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4C086AA01
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4C086EA05
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA67
4C086NA06
4C086NA12
4C086NA13
4C086ZA01
4C086ZB08
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB45
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4C267AA74
4C267BB01
4C267BB13
4C267BB24
4C267CC27
4C267CC30
4C267GG02
4C267GG16
(57)【要約】
ポリマーフィルムに1種またはそれより多くの神経再生薬が取り込まれた医療用フィルム材料が記載される。ポリマーフィルムは、ラクチドとカプロラクトンのコポリマーを含む。神経再生薬は、マクロラクタム免疫抑制剤であるFK506を含む。フィルムは、生理学的条件下に置かれたとき、神経再生薬が少なくとも30日の期間にわたり、長期にわたる実質的に直線状の様式で放出されるように設計される。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクチドとカプロラクトンのコポリマーを含むポリマーフィルム;および
ポリマーフィルムに取り込まれた神経再生薬
を含む医療用フィルム材料であって、該ポリマーフィルムは、生理学的な環境に置かれたとき、少なくとも10日の期間にわたり神経再生薬の実質的に直線状の放出をもたらすように構成されている、医療用フィルム材料。
【請求項2】
前記神経再生薬が、FK506を含む、請求項1に記載の医療用フィルム材料。
【請求項3】
前記神経再生薬が、免疫抑制剤および/または抗炎症薬のマクロラクタム、マクロラクタム誘導体、コルチコステロイド、非ステロイド性抗炎症薬、またはそれらの組合せを含む、請求項1または2に記載の医療用フィルム材料。
【請求項4】
前記神経再生薬が、約2.0~約5.0、または約2.5~4.5、または約3.0~4.2の範囲内のlogPを有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の医療用フィルム材料。
【請求項5】
前記神経再生薬が、約10mg/L未満、約5mg/L未満、約1mg/L未満、約0.1mg/L未満、または約0.05mg/L未満の水溶性(25℃)を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の医療用フィルム材料。
【請求項6】
前記ポリマーフィルムが、ポリ乳酸を含まない、請求項1~5のいずれか一項に記載の医療用フィルム材料。
【請求項7】
前記ポリマーフィルムを形成するポリマーが、約0.75~2.0dL/g、または約1.0~約1.75dL/g、例えば約1.5dL/gの固有粘度を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の医療用フィルム材料。
【請求項8】
前記ラクチドが、L-ラクチドである、請求項1~7のいずれか一項に記載の医療用フィルム材料。
【請求項9】
前記コポリマーが、約10:90~約90:10の範囲、または約30:70~約85:15の範囲、または約50:50~約80:20の範囲、または約60:40~約75:25の範囲、例えば約70:30の共重合用単量体の比率(モルのパーセンテージに基づき、ラクチド対カプロラクトンの比率)を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の医療用フィルム材料。
【請求項10】
前記ポリマーフィルムが、約100μm~約600μmの範囲内、または約150μm~約500μmの範囲内、または約200μm~約400μmの範囲内の厚さを有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の医療用フィルム材料。
【請求項11】
前記神経再生薬が、約0.001%~約1%の濃度(w/v)、または約0.01%~約0.1%の濃度(w/v)、または約1%~約50%の濃度(w/v)、または約2%~約30%の濃度(w/v)、または約3%~約20%の濃度(w/v)、または約4%~約15%の濃度(w/v)で前記ポリマーフィルム中に取り込まれている、請求項1~10のいずれか一項に記載の医療用フィルム材料。
【請求項12】
前記ポリマーフィルムが、生理学的な環境に置かれたとき、少なくとも約20日、または少なくとも約30日、または少なくとも約40日、または少なくとも約50日、または少なくとも約60日の期間にわたり、神経再生薬の実質的に直線状の放出をもたらすように構成されている、請求項1~11のいずれか一項に記載の医療用フィルム材料。
【請求項13】
前記ポリマーフィルムが、表面の微細パターンをさらに含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の医療用フィルム。
【請求項14】
前記表面の微細パターンが、一連の隆起部および溝を含む、請求項13に記載の医療用フィルム。
【請求項15】
前記隆起部が、約1μm~約20μm、または約3μm~約10μmの幅を有し、前記溝が、約1μm~約20μm、または約3μm~約10μmの幅を有する、請求項14に記載の医療用フィルム。
【請求項16】
前記ポリマーフィルムが、外部層および内部層を含み、1種またはそれより多くの薬物は、該内部層に取り込まれ、該外部層は、該1種またはそれより多くの薬物の送達が一方向性になるように、該1種またはそれより多くの薬物の通過が制限されるように構成されている、請求項1~15のいずれか一項に記載の医療用フィルム。
【請求項17】
損傷を受けた神経を処置する方法であって、
請求項1~16のいずれか一項に記載の医療用フィルム材料を提供すること;および
該医療用フィルム材料を、神経損傷部位に設置すること
を含む、方法。
【請求項18】
前記神経損傷部位が、ギャップ損傷である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ギャップ損傷が、直接の末端と末端とをつなぐ修復で修復される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記ギャップ損傷が、自家移植片または同種移植片を使用して修復される、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記神経損傷部位が、挫傷した神経の損傷である、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
同種間移植方法であって、
請求項1~16のいずれか一項に記載の医療用フィルム材料を提供すること;および
該医療用フィルム材料を、移植のための同種組織に接触させて設置すること
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
[0001]本出願は、2019年1月15日付けで出願された、「薬物を送達する神経ラップ(Drug-Delivering Nerve Wrap)」というタイトルの米国仮特許出願第62/792,727号の優先権と利益を主張し、その全体は、この参照により本明細書に取り入れられる。
【背景技術】
【0002】
[0002]末梢神経損傷は、再生の成功が達成できない限り、運動および感覚機能の喪失、ならびに消耗性の慢性疼痛につながり得る。米国の医療システムにかかる末梢神経損傷の費用は、年間1500億ドルであり、米国では一年でおよそ900000件の神経損傷治療が実行されている(Taylorら、The incidence of peripheral nerve injury in extremity trauma. Am J Phys Med Rehabil. 2008;87(5):381~5)。正中神経および尺骨神経修復で十分な運動の回復を達成するのは52%のみであり、十分な感覚の回復を達成するのは43%のみである(Ruijsら、Median and ulnar nerve injuries: a meta-analysis of predictors of motor and sensory recovery after modern microsurgical nerve repair. Plast Reconstr Surg. 2005;116(2):484~94; discussion 95~6)。
【0003】
[0003]臨床的に、神経切断損傷について、著しいギャップを引き起こさない現在のゴールドスタンダードは、切断された神経末端を、束上の配列(fascicular alignment)で直接修復することである。直接の修復の場合、現在のところ、有意義な機能回復をみせるのは患者の50%未満である(Rujisら)。場合によって、癒着の形成を防止し、神経腫形成のリスクを低減するために、直接の神経修復と並行して、ポリエステルまたはコラーゲンから作製される神経ラップ(nerve wrap)が使用される。しかしながら、患者の転帰は理想的とは言えないままであり、現在の臨床的に利用可能な神経ラップは、いくつかの制限がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Taylorら、The incidence of peripheral nerve injury in extremity trauma. Am J Phys Med Rehabil. 2008;87(5):381~5
【非特許文献2】Ruijsら、Median and ulnar nerve injuries: a meta-analysis of predictors of motor and sensory recovery after modern microsurgical nerve repair. Plast Reconstr Surg. 2005;116(2):484~94; discussion 95~6
【発明の概要】
【0005】
[0004]より詳細な説明は、添付の図面で例示される実施態様によってなされる。これらの図面は、本開示の単に例示的な実施態様の描写に過ぎないことが理解され、したがってその範囲の限定とみなされないものとする。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1A】[0005]
図1Aは、多層を有する例示的な医療用フィルムを例示し、内部の層は、1種またはそれより多くの薬物を取り込んでおり、外部のフィルムは、1種またはそれより多くの薬物を含まない。
【
図1B】[0005]
図1Bは、多層を有する例示的な医療用フィルムを例示し、内部の層は、1種またはそれより多くの薬物を取り込んでおり、外部のフィルムは、1種またはそれより多くの薬物を含まない。
【
図1C】[0006]
図1Cは、1種またはそれより多くの薬物が、近位端から遠位端にわたり増加する濃度勾配でローディングされた医療用フィルムの実施態様を例示する。
【
図1D】[0007]
図1Dは、神経成長の方向で伸長するように配列された隆起部および溝の表面微細構造を有する医療用フィルムの実施態様を例示する。
【
図2】[0008]
図2は、FK506を含有するPLC神経ラップのインビトロにおけるFK506放出試験から得られた累積的な放出プロファイルを示すグラフであり、ラップは、0%非薬物ラップ(NDラップ)、10%低薬物ラップ(LDラップ)、および50%高薬物ラップ(HDラップ)として類別される。LDラップおよびHDラップの両方が、最初の31日にわたり直線状の放出を示した。線形回帰分析は、LDラップおよびHDラップの両方についてのR
2値は、R
2=0.991であった。(各グループにつきn=8)。
【
図3】[0009]
図3は、作製後および放出後のFK506の生物活性検証試験のために測定された平均DRG軸索突起の伸長(average DRG neurite extension)を示すチャートである。0ng/mlのFK506は、陰性対照グループであり、20ng/mlのFK506は、陽性対照グループである。4日目の薬物放出試験からのサンプルを使用し、ヒヨコのDRG全体を培養した。20ng/mlの対照、4日目のLDラップ、および4日目のHDラップグループは、0ng/mlの対照グループより顕著に大きいことが見出された。(
*0ng/mlに対してp<0.05)。
【
図4】[0010]
図4は、機能的な回復を評価するために測定された相対的な腓腹筋の筋肉量を示すチャートである。LDラップグループは、全ての他のグループと比較して、より顕著に大きく筋肉量が回復したことが見出された。(DSRのみおよびHDラップに対して、
*p<0.05のLDラップ、NDラップに対してp<0.01のLDラップ)。
【
図5】[0011]
図5A~5Cは、有髄軸索(myelinated axon)の総数(
図5A)、神経の断面積(
図5B)、および軸索密度(
図5C)を、神経の接合修復部位より遠位で測定したものを示す。LDラップは、DSRのみおよびNDラップグループより顕著に大きいことが見出された(
*p<0.01)。HDラップは、DSRのみおよびNDラップグループより顕著に大きいことが見出された(
*p<0.01)。神経束面積と軸索密度指標に関してグループ間の統計学的に有意な差は見出されなかった。
【
図6】[0012]
図6は、後肢筋肉の機能的な回復を評価するための電気生理学的な評価の結果を示すチャートである。LDラップグループは、全ての他のグループより顕著に大きい相対的な足EMG(Foot-EMG)を有していた。(全ての他のグループに対して
*p<0.05)。
【発明を実施するための形態】
【0007】
導入
[0013]埋め込み可能な医療用フィルムの機能性と局所的薬物送達とを効果的に組み合わせた医療用材料が本明細書に記載される。特に、1種またはそれより多くの神経再生薬(neuro-regenerative drug)の神経損傷部位への局所送達のために設計された神経ラップ(nerve wrap)が本明細書に記載される。本明細書に記載される実施態様は、神経再生薬の全身性使用に関連する有害な副作用を制限または回避しながら、機能的な神経再生の転帰を改善するために、神経損傷、特に、末梢神経損傷を処置するのに利用することができる。
【0008】
[0014]好ましい実施態様において、FK506がポリ(ラクチド-co-カプロラクトン)ポリマー(「PLC」)中に埋め込まれて薬物含有フィルム(drug-loaded film)を形成し、このフィルムは、標的化された神経損傷部位において神経の周りに巻き付ける(wrap)ことが可能となる力学的特性を有する。フィルムは、組織を取り囲むバリアとして効果的に作用し、それと同時にFK506の長期にわたる局所送達を提供することが可能である。このような実施態様は、少なくとも30日間にわたり、場合によってはそれより長く(例えば、潜在的には最大約45日または最大約60日まで)、生理学的な環境において、実質的に直線状の、ほぼゼロ次の薬物放出動態を提供する能力を示した。
【0009】
[0015]本明細書に記載される医療用フィルムはまた、時には「ラップ(wrap)」と称することもでき、これは、この用語が神経損傷部位を含む適用において一般的であるためであるが、実施態様は、必ずしも神経損傷への適用に限定されない。したがって用語「フィルム」および「ラップ」は、同意語として使用されるものであり、記載されたポリマー材料における構造的な差を意味することは意図していない。
【0010】
[0016]用語「生理学的な環境(physiological environment)」は、本明細書で使用される場合、典型的な対象に埋め込まれたときに、例えば神経損傷部位に置かれたときに、フィルムが曝露される条件をいう。例えば、生理学的なpHは、典型的には約6~8(より典型的には中性またはわずかに塩基性)であり、生理学的な温度は、典型的には約36℃~38℃であり、流体は、典型的には、等張(isotonic)の(例えば、約0.9%w/vの食塩水と同等の)張度(tonicity)を有する。
【0011】
神経再生薬
[0017]FK506は、同種移植器官拒絶反応(allograft organ rejection)を防止するために使用される、FDAによって承認された免疫抑制薬である。FK506は、その神経分化誘導性作用を介して、さらに瘢痕形成の低減を介して、末梢神経損傷後のインビボにおける機能的な転帰を改善することを示したため、FK506は神経再生適用での使用にとって魅力的な薬物候補である。しかしながら、FK506の長期の全身送達は、感染リスクの増加、腎臓毒性、および肝臓毒性を含む重度の副作用を伴う。例えば本明細書に記載される医療用フィルムの実施態様を使用するなどして、神経修復部位にFK506を局所送達することにより、全身性薬物の使用に関連する有害な副作用を起こさずに転帰を改善する可能性がある。
【0012】
[0018]FK506は、比較的疎水性/親油性である。したがって、FK506は、比較的疎水性のポリマーとよく一体化する。例えば、FK506は、ポリマーが相対的に疎水性になるように選択されているポリマー溶液に溶解されるとき、高い溶解性を示す。以下でより詳細に記載されるように、FK506を相対的に疎水性のポリマーと一体化させて、薬物含有フィルムを形成する場合、ボーラス投与の際の流出(flushing out)とは対照的に、疎水性における実質的な一致によって、ポリマーマトリックスからの受動拡散に高度に依存する薬物放出がもたらされる。したがってこれは、神経損傷部位における持続的で一貫した薬物送達のための、実質的に直線状の、ゼロ次の放出動態を可能にする。
【0013】
[0019]他の薬物を、FK506に加えて、またはFK506の代用として、本明細書に記載されるフィルム材料で利用してもよい。例えば、一部のフィルム材料は、1つまたはそれより多くの他の比較的高度に疎水性/親油性の免疫抑制剤および/または抗炎症薬、例えば、他のマクロラクタムまたはマクロラクタム誘導体(例えば、ラパマイシン、ピメクロリムス、シクロスポリン、アスコマイシン、FK506アナログ)、コルチコステロイド、および/または非ステロイド性抗炎症薬を含んでいてもよい。
【0014】
[0020]好ましくは、フィルムと一体化された薬物は、フィルム材料を形成するためのポリマーと組み合わせたときに、上述した直線状の放出プロファイルをもたらすのに十分な疎水性/親油性を有する。例えば、フィルムと一体化された薬物は、約1.5より大きい、より好ましくは約2.0~約5.0、もしくは約2.5~4.5、もしくは約3.0~4.2の範囲のlogP(例えば、logKow);または約10mg/L未満、約5mg/L未満、約1mg/L未満、約0.1mg/L未満、もしくは約0.05mg/L未満の水溶性(25℃で)の1つまたはそれより多くを有していてもよい。
【0015】
ポリマーフィルム
[0021]フィルム材料は、生体吸収性ポリマーから形成されてもよい。しかしながら、一定の一般的な生体吸収性ポリマーは、神経再生のための適用ではそれほど有効ではないことが見出されている。例えば、発明者らは、ポリマーフィルムとしてポリ乳酸(PLA)が利用される場合、神経再生の転帰は、試験された他のポリマーと比べて妨げられることを見出した。PLAの分解産物が、神経損傷部位における神経の再生を阻害することが考えられる。したがって、好ましい実施態様は、PLAフィルムとして形成されない。PLAの誘導体、例えば光学異性体のポリ-L-ラクチド(PLLA)ポリ-D-ラクチド(PDLA)もまた、フィルムを形成するためにはそれほど好ましくない。ポリ(乳酸-co-グリコール酸)もそれほど好ましくない。
【0016】
[0022]フィルムを形成するのに使用されるポリマーは、好ましくは、約0.75~2.0dL/gの固有粘度(クロロホルム溶媒、25℃、c=0.1g/dL)を有するか、または約1.0~約1.75dL/g、例えば約1.5dL/gの固有粘度を有する。
【0017】
[0023]一実施態様において、ポリマーフィルムは、ラクチドとカプロラクトンのコポリマーから形成される。このようなコポリマーは、神経ラップなどの医療用フィルムとしての有効な使用に役立つ力学的特性を示している。例えば、このようなポリマーは、神経損傷部位などの生理学的な環境に置かれたとき、実質的に膨潤しない。上述したように、親油性薬物は、ポリマーへの水の吸収を介した「流出(flashed out)」というよりは、主として受動拡散に基づき放出されると予想されるため、この能力は有効な薬物溶出動態を可能とする。またラクチドとカプロラクトンのコポリマーは、有効なフレキシビリティーおよび機械的強度を提供して、フィルムを引き裂きまたは穿孔に対して抵抗性にするように製剤化することもできる。
【0018】
[0024]ラクチドとカプロラクトンのコポリマーのラクチド部分は、L-ラクチド、D-ラクチド、またはDL-ラクチドであってもよいが、L-ラクチドが好ましい。共重合用単量体の比率(モルのパーセンテージに基づき、ラクチド対カプロラクトンの比率)は、約10:90~約90:10の範囲であってもよく、または約30:70~約85:15の範囲であってもよく、またはより好ましくは、約50:50~約80:20の範囲であってもよく、またはさらにより好ましくは、約60:40~約75:25の範囲であってもよく、例えば約70:30であってもよい。
【0019】
[0025]前述の範囲内に含まれるコポリマーは、神経ラップ適用にとって有効な力学的特性を有することが示されている。例えば、神経ラップは、好ましくは容易に処置部位で神経の周りにラップされる程度にフレキシブルであり、処置部位ではしばしば比較的きついラップが必要とされるが、同時にラップの設置中や設置後の処置期間中の引き裂きまたは破損を回避するような優れた機械的強度も維持する。これらの力学的特性は、好ましくは、設置中にフィルムが比較的薄くなったとしても維持される。例えば、神経ラップ適用に好適なフィルムの厚さは、約100μm~約600μm、または約150μm~約500μm、または約200μm~約400μmの範囲内であってもよい。
【0020】
[0026]前述の範囲内の特性を有するラクチドとカプロラクトンのコポリマーは、有利には、このような比較的薄いフィルムを、神経ラップ適用にとって有効な優れた力学的特性を維持しながら形成することが可能である。加えて、ラクチドとカプロラクトンのコポリマーは、有利には、実質的に直線状の薬物放出動態を可能にする方式で、FK506などの疎水性/親油性薬物を含有することが可能である。
【0021】
[0027]一部の実施態様において、ポリマーフィルムは、多層を含んでいてもよい。例えば、
図1Aおよび1Bで示されるように、フィルム100は、「外部」層102および「内部」層104を含んでいてもよい。内部層104には、1種またはそれより多くの神経再生薬が含有される。外部層102は、1種またはそれより多くの薬物を取り込んでいない薄層である。多層の使用は、一方向の薬物放出を提供する。例えば、
図1Bで示されるように、フィルム100がラップ/ロールされる場合、1種またはそれより多くの薬物を含有する内部層104が内腔106に向かって内側に向くように配向されていてもよい。この方式では、1種またはそれより多くの薬物が、内腔106に向かって内側に放出され、一方で外側への放出は最小化されるかまたは回避されると予想される。外部層102は、熱アニーリング、溶媒アニーリング、および/または当業界において公知の他の好適な製造プロセスによって、内部層104の上部に適用することができる。
【0022】
[0028]加えて、または代替として、フィルム100は、フィルム100の軸方向の長さに沿って濃度勾配をもたらす方式で、1種またはそれより多くの薬物が含有されていてもよい。例えば、
図1Cで示されるように、フィルム100がラップ/ロールされた立体配置にある場合、濃度勾配がラップの近位端108と遠位端110との間に存在するように、1種またはそれより多くの薬物がローディングされていてもよい。1種またはそれより多くの埋め込まれた薬物の濃度を遠位端110に向かって増加させることによって、ラップ100は、遠位方向での神経末端の連続的な伸長および成長を促進することができる。
【0023】
[0029]一部の実施態様において、ポリマーフィルムは、表面の微細パターン、例えば隆起部/溝の微細パターンを含んでいてもよい。微細パターンの包含は、神経突起の配向と伸長を有利に助けることが示されている。例えば、神経のギャップを架橋する(bridge a nerve gap)のに神経ラップが使用される場合、軸索は、ギャップに伸長して架橋する必要があると予想される。表面の微細パターンの使用は、神経細胞の配向を促進し、隆起部/溝に沿った細胞の成長をガイドすることができる。微細パターンは、例えば、フォトリソグラフィーおよび/またはマイクロ成形(micro-molding)を使用して、フィルムに適用することができる。
【0024】
[0030]
図1Dに、例示的な微細パターンを図式的に例示する。示した通り、一連の隆起部および溝は、軸方向に沿って近位端108から遠位端110に向かって伸長するように配列することができる。隆起部および溝は、フィルム100がラップ/ロールされる場合、隆起部および溝が実質的に軸方向に(すなわち、意図された神経成長と同じ方向に)伸長するように配置される。隆起部および溝は、フィルム100の単一の側に形成してもよい。例えば、微細パターンは、フィルム100の内側114に形成されていてもよいが、外側112は、いかなる微細パターンも省略されていてもよい。フィルム100がラップ/ロールされる場合、内側114が、内腔106の内部表面になる。
【0025】
[0031]表面の微細パターンを、例えばLiら、「Optimization of micropatterned poly(lactic-co-glycolic acid) films for enhancing dorsal root ganglion cell orientation and extension」、Neural Regen Regen Res. 2018年1月;13(1):105~111に記載されたように利用することができる。Liらは、PLCフィルムの使用またはフィルムへのFK506などの神経再生薬のローディングを記載していない。本明細書に記載される薬物含有PLCの実施態様は、表面の微細パターンを有利に取り込んで神経再生能をさらに増加させることができる。少なくとも一部の環境において、表面の微細パターンを本明細書に記載される医療用フィルムに取り込むことは、例えばLiらで記載されたようなローディングされていないPLGフィルムと比較して、優れた結果をもたらすことができると考えられる。
【0026】
[0032]表面の微細パターンが利用される場合、隆起部および/または溝の幅は、約1μm~約100μmの範囲内であってもよく、またはより好ましくは約1μm~約30μm、例えば、約2μm~約20μmもしくは約3μm~約10μmの範囲内であってもよい。隆起部:溝の幅の比率は、約10:1~約1:10の範囲であってもよいが、より好ましくは、約5:1~1:5、約2:1~1:2、または約1:1である。
【0027】
ポリマーフィルムへの神経再生薬の取り込み
[0033]好ましい実施態様において、ポリマーフィルムに取り込ませようとする1種またはそれより多くの神経再生薬、およびフィルムを形成するのに利用されるポリマーはそれぞれ、ポリマー中で薬物を容易に可溶性にする疎水性/親油性を有する。一実施態様において、1種またはそれより多くの薬物は、好適な有機溶媒中に溶解され、次いでこれは、硬化の前にポリマー溶液に添加される。次いで溶解した薬物を含有するポリマー溶液は、望ましいフィルム厚さに溶液キャスティングしてもよい。他のポリマー製造方法、例えば溶融押出しおよび/または当業界において公知の他の方法を利用して、フィルムを形成してもよい。硬化は、真空中で、および/または他の好適な硬化手順を使用して行うことができる。硬化後、フィルムは、すでに所定サイズにキャスティングされている場合を除き、望ましいサイズに切断してもよい。それゆえにフィルムは、特定の適用の必要性に従ってあらゆるサイズの神経またはギャップに適合するようなサイズにすることができる。
【0028】
[0034]加えて、または代替として、当業界において公知の他の取り込み手順を、ポリマーに1種またはそれより多くの薬物を取り込むために利用することができる。例えば、フィルム製造におけるあらゆる好適な工程で、1種またはそれより多くの薬物は、混合、噴霧、浸漬などによってポリマーと接触させてもよい。一部の実施態様において、結果得られるポリマーに薬物が取り込まれるように、単量体の重合の前および/またはその間に、薬物は、単量体のブレンド中に含まれていてもよい。
【0029】
[0035]1種またはそれより多くの薬物は、約0.001%~約1%の濃度(w/v)、または約0.01%~約0.1%の濃度(w/v)、例えば約0.05%の濃度(w/v)でローディングされていてもよい。1種またはそれより多くの薬物の濃度は、利用される薬物のタイプに依存し得る。例えば、前述の濃度範囲は、FK506が利用される場合、好適であり得る。しかしながら、本明細書に記載される他の薬物は、より高い濃度で含まれていてもよく、例えば約2%~約50%、またはより好ましくは約4%~約30%、または約6%~約20%、または約8%~約15%で含まれていてもよい。1種またはそれより多くの薬物が前述の範囲内の濃度でポリマーに取り込まれる場合、結果得られるフィルムは、本明細書に記載される有効な神経再生能および有益な溶出プロファイルを提供することができる。
【0030】
薬物溶出
[0036]上述したように、上述した特徴を有する神経再生薬が、上述した特徴を有するポリマーに取り込まれると、結果得られるポリマーフィルムは、神経損傷部位などの生理学的な環境において有効で持続的な薬物放出をもたらすことが可能である。
【0031】
[0037]少なくとも一部の適用において、薬物がローディングされたフィルムは、生理学的な環境に設置した場合、少なくとも約10日、または少なくとも約20日、または少なくとも約30日、または少なくとも約40日、または少なくとも約50日、または最大で少なくとも約60日もの期間にわたり、薬物の実質的に直線状の放出(すなわち、実質的にゼロ次の動態)を提供することが可能である。放出プロファイルは、それぞれの期間にわたる線形回帰が、少なくとも0.8、または少なくとも0.85、または少なくとも0.9、または少なくとも0.95、または少なくとも0.99のR2値を提供する場合、「実質的に直線状」とみなすことができる。
【0032】
[0038]実質的に直線状の薬物放出プロファイル、例えば1つまたはそれより多くの本発明の開示の実施態様によって提供されるものは、いくつかの利益を提供する。例えばこれは、薬物の大きいボーラス(bolus)の放出を回避し、したがって薬物の全身分布を制限または回避する。また長期にわたる実質的に直線状の薬物放出プロファイルは、比較的重度の神経損傷のシナリオ、例えば、大きい圧迫損傷および/または遠位端の標的から相対的にかなり離れて上流に位置する損傷(例えば、上肢損傷)において有益な場合もある。このような状況において、長期にわたる実質的に直線状の薬物放出プロファイルは、これらの損傷タイプにしばしば必要とされるより長い期間にわたり再生を継続的に促進することによって、神経の再生の転帰に特に有益である可能性がある。
【0033】
[0039]加えて、1種またはそれより多くの局所的に放出された薬物(例えばFK506)の抗炎症性作用は、局所的な瘢痕形成を有利に低減する可能性がある。これは、神経腫形成を低減させることに特に有益である。これはまた、神経減圧手術または神経減圧手術の回復のケースにおいても、例えば、減圧部位における瘢痕形成を防止するために有益である。
【0034】
使用方法
[0040]本明細書に記載される医療用フィルムの実施態様は、神経損傷を処置するための神経ラップ適用において特に有益である。神経ラップは、例えば、横切された神経(transected nerve)(ギャップ損傷(gap injury))、挫傷した神経(crushed nerve)、および/または慢性的な神経の損傷(chronic nerve injury)を処置することにおいて利用することができる。一部の実施態様において、例えばギャップ損傷(gap injury)を処置することにおいて、神経ラップは、直接の縫合修復(direct suture repair)(すなわち、直接の末端と末端とをつなぐ修復(direct end-to-end repair))手順と並行して利用することができる。例えば、神経は、神経上膜の縫合(epineural suture)と、それに続く神経ラップでのラッピングを使用して修復することができる。
【0035】
[0041]本明細書に記載される神経ラップはまた、自家移植片または同種移植片とも並行して利用することができる。例えば、自家移植片または同種移植片は、神経中のギャップを架橋するのに使用でき、神経ラップは、自家移植片または同種移植片の周りに(さらに、好ましくは、損傷を受けた神経末端を覆うようにも拡がって)配置されてもよい。神経の同種移植片が利用される場合、FK506などの免疫抑制薬が、免疫応答を有利に阻害し、したがって、ラップが薬物を含まない場合と比較して、免疫細胞の浸潤を低減する。
【0036】
[0042]本明細書に記載される医療用フィルムはまた、組織の区画化および/または長期にわたる薬物放出が求められる他の用途にも利用することができる。例えば、本明細書に記載される医療用フィルムは、腹骨盤腔手術後に、癒着防止バリアとして作用し、腹腔内の癒着形成を防止するために利用することができる。別の例において、本明細書に記載される医療用フィルムは、同種間移植後の臓器および/または組織の拒絶反応を防止するのに利用することができる。例えば、医療用フィルムは、免疫抑制剤FK506などの1種またはそれより多くの薬物の長期にわたる局所送達のために、移植された臓器および/または組織の周りに配置することができる。
【実施例】
【0037】
実施例1-神経ラップの作製
[0043]ジクロロメタン(アクロス・オーガニクス(Acros Organics)、ヘール、ベルギー)中にPLC(コービオン(Corbion)、アムステルダム、オランダ)を溶解させ、60rpmで一晩撹拌することによって、10%w/vのポリマー溶液を作製した。FK506(PROGRAF、アステラス製薬、東京、日本)を100%のエタノール中に溶解させ、PLC溶液に添加して、FK506の異なる濃度:0%、0.01%、および0.05%(FK506/PLCのw/w)の3種の溶液を作製した。この実施例の章では、これ以降、ラップは、0%非薬物ラップ(NDラップ)、0.01%低薬物ラップ(LDラップ)、および0.05%高薬物ラップ(HDラップ)として識別されることとする。13mlのPLC/FK506溶液をプラスチックのペトリ皿に溶媒キャスティングすることによって、ポリマーフィルムを形成した。フィルムを、ヒュームフード中でそのまま48時間、続いて真空中で追加の48時間硬化させた。フィルムを、はさみを使用して、それぞれ1×1cmおよび5×3.5mmのインビトロおよびインビボの試験のための異なるサイズに切断した。
【0038】
実施例2-神経ラップ材料の特徴付け
[0044]マイクロメーター(ファウラー(Fowler)、米国マサチューセッツ州ニュートン)を使用して、キャスティングおよび所定サイズへの切断の後に、フィルムの厚さを測定した。重量減少試験を実行して、PLCフィルムの分解を測定した。この試験には、キャスティングフィルムから切り出された24個の1×1cmの正方形(8つのNDラップ、8つのLDラップ、および8つのHDラップ)を使用した。フィルムを、ヒュームフード中で24時間、続いて真空で48時間乾燥させ、次いで試験の前に重さを量って初期重量を得た。個々のフィルムを3mlのPBSを含有する5mLのチューブに入れ、37℃および5%CO2で8週間維持した。PBSを72時間毎に交換した。8週間で、フィルムをPBSから取り出し、真空オーブン中で48時間乾燥させ、次いで重さを量った。
【0039】
[0045]インビトロの放出試験を開始する前に、デバイスを目視で検査した。全てのグループからの神経ラップは質的に類似しており、高度に透明なフィルムのようであった。加えて、簡単な物理的な操作で、ラップは、穿孔または引き裂きが起こりにくい、滑らかな、フレキシブルな、弾性のフィルムであった。次いで神経ラップの重量および厚さを測定した;これらの値は、表1に報告される。全てのラップの平均重量および厚さは、それぞれ23.6±2.32mgおよび280±29.5μmであった。個々のラップを、PBS中、37℃で8週間貯蔵した;PBSを72時間毎に交換した。8週間で、ラップを乾燥させ、重さを量り、初期重量と比較して、相対的な変化を決定した(表1)。
【0040】
【0041】
実施例3-FK506放出の特徴付け
[0046]インビトロの放出試験を実行して、PLCフィルムからのFK506の放出プロファイルを決定した。各PLC-FK506神経ラップグループの1×1cmの正方形(4つのNDラップ、8つのLDラップ、および8つのHDラップ)を、DMEM/F12+10%ウシ胎児血清(FBS)および1%ペニシリン-ストレプトマイシン(ギブコ(Gibco)、米国メリーランド州ゲイザースバーグ)からなる3mLの細胞培養培地を含有するコニカルチューブに入れた。神経ラップを、37℃および5%CO2で31日間貯蔵した。細胞培地を収集し、最初の24時間の後に、次いで、次の30日間は72時間毎に、3mLの新鮮な培地で交換した。酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)(アブノバ(Abnova)、台北、台湾)を使用して、放出プロファイル測定のために収集された溶液におけるFK506の濃度を決定した。
【0042】
[0047]この研究は、ラップがFK506を持続的な方式で少なくとも30日間送達できるかどうかを決定するために行われた。最初の31日を超えて極めて直線状の放出が起こり、線形回帰分析は、LDラップとHDラップの両方についてR
2=0.991のR
2値をもたらした。31日目に、累積的な放出のパーセントは、LDラップおよびHDラップについてそれぞれ50.1±1.69%および57.7±2.64%であることが見出された(
図2)。
【0043】
実施例4-生物活性検証アッセイ
[0048]受精させたニワトリ卵(Merrills Poultry、米国アイダホ州)を、約39℃で、100%の相対湿度下で12日間インキュベートした。後根神経節(DRG)を顕微鏡下で胎芽から切除した。24ウェルプレートをラミニン(1μg/ml)でコーティングし、次いで各培地サンプルからの500μLを3つのウェルに入れた。培養のために結合組織からDRGを慎重に分離し、単一のDRGを各ウェルに入れた。既知のFK506濃度につき、それぞれ0ng/mLおよび20ng/mLのFK506の陰性および陽性対照濃度でDRGも成長させた。試験されたグループ:0ng/mLのFK506(n=4)、20ng/mLのFK506対照(n=4)、LDラップの4日目の収集物(n=6)、およびHDラップの4日目の収集物(n=8)。サンプルを、DMEM/F12+10%FBSおよび1%ペニシリン-ストレプトマイシンで希釈した。HDラップおよびLDラップ薬物放出試験サンプルを、それぞれ10および2倍に希釈した。希釈後の薬物放出試験サンプルの平均濃度:4日目のLDラップ、18.5ng/mLのFK506;および4日目のHDラップ、23.1ng/mLのFK506。プレートを、37℃および5%CO2で72時間インキュベートして、放出された薬物の生物活性を評価した。培養の後、DRGをメタノールで固定し、脱イオン水で濯いだ。各DRGを、広視野位相差光学顕微鏡を4×の倍率で使用して画像化した。DRGの画像を使用して、軸索突起の伸長を分析した。これまでに記載された方法を使用して、軸索突起の伸長(neurite extension)の測定を行った。簡単に言えば、神経節体(ganglion body)の面積(ADRG)および成長している軸索(grown axon)を含むDRGの総面積(Atot)を、ImageJ(ImageJ 1.31v、国立衛生研究所、ベセスダ、米国)を使用して測定した。平均軸索突起長さ(average neurite length)(lavg)を、lavg=(Atot/π)1/2-(ADRG/π)1/2によって計算した。
【0044】
[0049]インビトロのDRG軸索突起の伸長の検証試験を実行して、神経ラップから放出されたFK506がその生物活性を維持したことを検証した。各グループの観察された平均の軸索突起の伸長値:0ng/mLのFK506、529±72.2μm;20ng/mLのFK506、720±72.2μm;4日目のLDラップ、677±45.2μm;および4日目のHDラップ、702±42.1μm。薬物放出試験から収集された培地中で成長したDRGは、0ng/mLのFK506対照グループより有意に(p<0.05)大きい平均の軸索突起の伸長を有し、陽性対照の20ng/mLのFK506グループと有意に異なっていなかった(
図3)。
【0045】
実施例5-インビボのモデルおよび外科的処置
[0050]インビボの研究プロトコールを、ユタ大学の動物実験倫理委員会によって承認された通りに実行した。この実験には、32匹の成体マウス(B6.Cg-Tg(Thy1-YFP)16Jrs/J、ジャクソン研究所(Jackson Laboratory))を使用した。マウスを、4つの実験グループ:NDラップ、LDラップ、およびHDラップ、ならびに対照のラップなしの直接縫合修復(DSRのみ)グループに分け、各グループ中、マウスは8匹であった。マウスをイソフルランで麻酔した。右後肢の外科処置する領域の毛を剃り、アルコールおよびベタダインで準備した。後肢の後遠位の大腿部(posterior distal thigh of hind limb)を縦方向に切開し、天然の筋肉面を分離した。坐骨神経を単離し、その分岐部のすぐ近位を横切して脛骨神経と腓骨神経とに分けた。次いで横切された神経末端を、2本の9-0ナイロンの神経上膜縫合を使用して修復した。次いで、実験グループの直接の縫合修復部位の周りに、神経ラップを設置した。次いで、ラッピング後に、3本の縫合糸を使用して、各末端に1本、ラップの中央にもう1本でそれぞれ縫合することによって、神経の周りのラップを閉じた。余った縫合糸を遠位端に使用して、ラップを神経に固定した。電気生理学的な評価のために6週間で動物を致死させ、組織を採った。
【0046】
実施例6-腓腹筋の筋肉量の評価
[0051]剖検で、両方の後肢の腓腹筋を、腱の始点と付着点で慎重に切開することによって採った。筋肉の重さを量り、実験用の脚の相対的な筋肉量を、重量を反対側と比較することによって計算した:腓腹筋の筋肉量の相対的な%=(MassExperimental/MassContralateral)×100。
【0047】
[0052]坐骨神経の切断および修復の6週間後、動物を致死させ、各動物からの両側の腓腹筋を外科的に除去し、重さを量った。実験側と損傷を受けていない側との間の相対的な質量を計算した:DSRのみ、59.8±4.48%;NDラップ、59.4±4.70%;LDラップ、67.2±5.44%;およびHDラップ、60.0±6.99%(
図4)。LDラップグループは、全ての他のグループと比較した場合、より顕著に大きい筋肉量を有していた:DSRのみ(p<0.05)、NDラップ(p<0.01)、およびHDラップ(p<0.05)。
【0048】
実施例7-パラフィン包埋(paraffin embedding)および軸索の定量化(axon quantification)
[0053]動物の致死のとき、無傷のままのラップを有する坐骨神経を採り、ホルマリン中で24時間固定し、次いで、オスミウム染色およびパラフィン包埋の前に、貯蔵のために2%グリシンに移した。包埋時に、神経を、四酸化オスミウム(2%)中で90分間後固定し、脱水し、パラフィン包埋した。マイクロトームを使用して3μmの厚さの切片を得て、次いでヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色した。ツァイス(ZEISS)のAxioスキャン.Z1(Axio Scan.Z1)(オーバーコッヘン、ドイツ)を使用して、切片を画像化した。ImageJを使用して分析を実行し、神経小束の面積(nerve fascicle area)、軸索密度(axon density)、および有髄軸索の総数(total number of myelinated axon)を決定した。立体解析学的な技術を使用して、断面図ごとに有髄軸索の総数の不偏の表示(unbiased representation)および軸索直径を得た。
【0049】
[0054]グループにわたり有髄軸索の数を比較することによって、損傷から遠位における神経の再生を評価した。グループ当たりの平均の有髄軸索の総数は、以下の通りである:DSRのみ=2870±578個の軸索、NDラップ=3050±382個の軸索、LDラップ=3910±502個の軸索、およびHDラップ=3720±635個の軸索(
図5A)。薬物を含有するラップグループの両方(LDラップおよびHDラップ)は、DSRのみグループとNDラップグループの両方より有意に大きい数の有髄軸索を有していた(p<0.01)。平均の坐骨神経の神経束面積は、以下の通りである:DSRのみ=0.201±0.0782mm
2、NDラップ=0.216±0.0358mm
2、LDラップ=0.233±0.0563mm
2、およびHDラップ=0.216±0.0444mm
2(
図5B)。平均軸索密度は、以下の通りである:DSRのみ=軸索15,400±3290個/mm
2、NDラップ=軸索14,300±2150個/mm
2、LDラップ=軸索17,400±3170個/mm
2、およびHDラップ=軸索17,600±2900個/mm
2(
図5C)。
【0050】
実施例8-電気生理学的な評価
[0055]動物を致死させる直前に電気生理学的な評価を実行して、運動神経末端標的(motor end-target)の機能的な回復を評価した。動物をイソフルランで麻酔し、毛を剃った。埋め込み手順と同様にして右坐骨神経を露出させ、損傷/修復の部位の位置を特定した。カスタムメイドの刺激フック電極の対を修復部位の近位に設置した。後肢を導電性ゲルでコーティングし、ステンレス鋼のリング表面電極(Natus Neurology、米国ウィスコンシン州ミドルトン)をアキレス腱の上に設置した。加えて、カップ電極(Natus Neurology、米国ウィスコンシン州ミドルトン)を足の中心上にクリップ留めした。過最大の0.1msの持続時間のパルスで神経を刺激し、表面筋電図(EMG)を記録した。アキレス腱のリング電極と足のカップ電極との間の差次的なシグナルを増幅し、フィルタリングし、記録し、分析して、各シグナルにつきピークからピークへの振幅(amplitude)を決定した。次いでこのプロセスを左後肢に繰り返して、反対側の対照として役立てた。
【0051】
[0056]足底筋の神経再支配の電気生理学的な評価を、後肢領域(足EMG)からの表面EMGシグナルを記録することによって実行した。平均足EMG値を反対側の脚に対して正規化した:DSRのみ、4.99±2.84%;NDラップ、3.84±1.89%;LDラップ、11.1±6.65%軸索;およびHDラップ、5.17±2.69%(
図6)。LDラップグループは、全ての他のグループより有意に(p<0.05)大きい足EMG応答(Foot-EMG response)を有していた。
【0052】
統計的分析
[0057]インビトロの薬物放出試験からのデータを、線形回帰の傾向線分析で分析した。DRG軸索突起の伸長アッセイを、スチューデントのt検定で分析した。インビボの研究からのデータを異常値に関してスクリーニングし、正規性に関して試験し、スチューデントのt検定の事後分析を用いた一元配置ANOVAで分析した。異常値を、Q1/Q3±1.5×四分位数間範囲の外側であることと定義し、これを平均で置き換えた。データを、正規性に関して、アンダーソン-ダーリング、ジャック-ベラ、およびリリーフォース検定を使用して検証した。ノンパラメトリックであるグループは見出されなかった。p<0.05のデータグループを有意とみなした。
【国際調査報告】